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特開2023-125941ロボット手術システムおよびロボット手術システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125941
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ロボット手術システムおよびロボット手術システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/35 20160101AFI20230831BHJP
   B25J 15/08 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J15/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030319
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 薫
(72)【発明者】
【氏名】小林 礼貴
(72)【発明者】
【氏名】谷 英紀
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS35
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET02
3C707EU05
3C707EU11
3C707HS17
3C707LV10
3C707LV20
(57)【要約】
【課題】手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ジョー部材の把持力の低下を抑制することが可能なロボット手術システムを提供すること。
【解決手段】このロボット手術システム100は、ケーブルA1、A2により開閉される一対のジョー部材43a、43bを含む手術器具40と、ケーブルA1、A2を駆動するモータ212aを含み、手術器具40が取り付けられるロボットアーム21aと、所定の電流値Iとなるときのモータ212aの回転角度に対応する値θを予め記憶する記憶部45と、所定の電流値Iとなるときのモータ212aの回転角度に対応する値θを取得し、値θと値θとに基づいてジョー部材43a、43bの閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行うコントローラ24と、を備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長要素により開閉される一対のジョー部材を含む手術器具と、
前記細長要素を駆動するモータを含み、前記手術器具が取り付けられるロボットアームと、
所定の電流値となるときの前記モータの回転角度に対応する第1の値を予め記憶する第1記憶部と、
前記所定の電流値となるときの前記モータの回転角度に対応する第2の値を取得し、取得した前記第2の値と前記第1記憶部に記憶された前記第1の値とに基づいて前記ジョー部材の閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行う制御部と、を備える、ロボット手術システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2の値と、前記第1の値とに基づいて、前記ジョー部材の閉じ方向への前記モータの回転角度に対応する第3の値を補正する、請求項1に記載のロボット手術システム。
【請求項3】
前記第1記憶部は、前記ジョー部材の閉じ方向への前記モータの最大回転角度に対応する前記第3の値を予め記憶しており、
前記制御部は、前記第2の値と、前記第1の値とに基づいて、前記第3の値を補正する、請求項2に記載のロボット手術システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2の値と前記第1の値との差分を、前記第3の値に加えることにより、前記第3の値を補正する、請求項3に記載のロボット手術システム。
【請求項5】
前記第1の値と、前記第2の値と、前記第3の値とは、前記ジョー部材の閉め込み角度を表す値である、請求項2~4のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項6】
前記第3の値は、前記ジョー部材の閉じ方向への前記モータの最大回転角度に対応する前記ジョー部材の最大閉め込み角度を表す値であり、
前記制御部は、前記第2の値と前記第1の値との閉め込み角度の差分を前記第3の値の閉め込み角度に加えた閉め込み角度まで、前記ジョー部材が閉め込み可能となるように、前記3の値を補正する、請求項5に記載のロボット手術システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2の値と前記第1の値との差分が正常範囲内であるか否かを、第1しきい値に基づいて判定し、前記第2の値と前記第1の値との差分が正常範囲内であると判定した場合、前記第3の値を補正し、前記第2の値と前記第1の値との差分が正常範囲外であると判定した場合、前記第2の値を取得し直す、請求項2~6のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記第2の値が前記第1の値に対して所定範囲内であるか否かを、第2しきい値に基づいて判定し、前記第2の値が前記第1の値に対して所定範囲内であると判定した場合、前記第3の値を補正せず、前記第2の値が前記第1の値に対して所定範囲外であると判定した場合、前記第3の値を補正する、請求項2~7のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項9】
前記第1記憶部は、前記手術器具に設けられている、請求項1~8のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項10】
前記ロボットアームが設けられるロボット本体と、
前記第2の値と前記第1の値とに基づく補正値を記憶する第2記憶部と、をさらに備え、
前記第2記憶部は、前記ロボット本体に設けられている、請求項1~9のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記ロボットアームに前記手術器具を取り付けたタイミング、および、前記キャリブレーションを実行する操作を受け付けるユーザインターフェースを操作したタイミング、のうちの少なくともいずれか一方のタイミングで、前記キャリブレーションを開始する、請求項1~10のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記手術器具の前記ロボットアームへの取り付けが、手術中において初回であるか否かを判定し、前記手術器具の前記ロボットアームへの取り付けが、手術中において初回であると判定した場合、前記キャリブレーションを開始し、前記手術器具の前記ロボットアームへの取り付けが、手術中において初回ではないと判定した場合、前記キャリブレーションを開始しない、請求項11に記載のロボット手術システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記第2の値と、前記第1の値と、前記手術器具の使用回数に応じて予め決められた前記モータの回転角度に対応する第4の値とに基づいて、前記第3の値を補正する、請求項2に記載のロボット手術システム。
【請求項14】
前記細長要素は、ケーブルである、請求項1~13のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項15】
前記第3の値の絶対値は、前記第1の値の絶対値よりも大きい、請求項2に記載のロボット手術システム。
【請求項16】
前記制御部は、前記ジョー部材が閉じた状態から、前記キャリブレーションを開始する、請求項1~15のいずれか1項に記載のロボット手術システム。
【請求項17】
前記制御部は、前記モータの回転角度に対応する値が前記第3の値になるように前記モータを回転させて前記ジョー部材を閉じている際中に、前記第2の値を取得する、請求項2に記載のロボット手術システム。
【請求項18】
細長要素により開閉される一対のジョー部材を含む手術器具と、前記細長要素を駆動するモータを含み、前記手術器具が取り付けられるロボットアームと、を備える、ロボット手術システムの制御方法であって、
予め記憶された所定の電流値となるときの前記モータの回転角度に対応する第1の値と対応する、前記所定の電流値となるときの前記モータの回転角度に対応する第2の値を取得するステップと、
取得した前記第2の値と予め記憶された前記第1の値とに基づいて前記ジョー部材の閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行うステップと、を備える、ロボット手術システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロボット手術システムおよびロボット手術システムの制御方法に関し、特に、一対のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御するロボット手術システムおよびロボット手術システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブルにより開閉される一対のジョー部材を含む手術器具を備えるロボット手術システムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ケーブルにより開閉される一対のジョー部材を含む手術器具を備えるロボット手術システムが開示されている。このロボット手術システムでは、手術器具を使用しているうちに一対のジョー部材を駆動するケーブルが伸び、一対のジョー部材により所望の把持力を発揮できなくなるため、ケーブルの伸びを補償している。具体的には、このロボット手術システムでは、上限トルクと下限トルクとの間の所定のトルク範囲でジョー部材を駆動するように、モータをトルクで制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9014856号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたロボット手術システムでは、ジョー部材を駆動するモータをトルクで制御しているが、ジョー部材を駆動するモータを回転角度で制御することが有効である場合もある。たとえば、モータをトルクで制御する場合、減速比の高い減速機を使用すると、手術器具の先端側の挙動がモータのトルクの変化として反映されにくくなる。この場合、モータのトルクの変化を検出することによって手術器具の先端側の挙動を検知することが困難になる。この問題を解決するためには、ジョー部材を駆動するモータを回転角度で制御することが有効である。しかしながら、ジョー部材を駆動するモータを回転角度で制御する場合には、上記特許文献1に記載された方法を使用することができない。このため、ジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ジョー部材の把持力の低下を抑制することが望まれている。
【0006】
この発明は、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ジョー部材の把持力の低下を抑制することが可能なロボット手術システムおよびロボット手術システムの制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面によるロボット手術システムは、細長要素により開閉される一対のジョー部材を含む手術器具と、細長要素を駆動するモータを含み、手術器具が取り付けられるロボットアームと、所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第1の値を予め記憶する第1記憶部と、所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第2の値を取得し、取得した第2の値と第1記憶部に記憶された第1の値とに基づいてジョー部材の閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行う制御部と、を備える。
【0008】
この発明の第1の局面によるロボット手術システムでは、上記のように、所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第2の値を取得し、取得した第2の値と第1記憶部に記憶された第1の値とに基づいてジョー部材の閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行う制御部を設ける。これにより、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、細長要素の伸びを補償するキャリブレーションを実施することができるので、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ジョー部材の把持力の低下を抑制することができる。
【0009】
この発明の第2の局面によるロボット手術システムの制御方法は、細長要素により開閉される一対のジョー部材を含む手術器具と、細長要素を駆動するモータを含み、手術器具が取り付けられるロボットアームと、を備える、ロボット手術システムの制御方法であって、予め記憶された所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第1の値と対応する、所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第2の値を取得するステップと、取得した第2の値と予め記憶された第1の値とに基づいてジョー部材の閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行うステップと、を備える。
【0010】
この発明の第2の局面によるロボット手術システムの制御方法では、上記のように、予め記憶された所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第1の値と対応する、所定の電流値となるときのモータの回転角度に対応する第2の値を取得するステップと、取得した第2の値と予め記憶された第1の値とに基づいてジョー部材の閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行うステップと、を設ける。これにより、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、細長要素の伸びを補償するキャリブレーションを実施することができるので、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ジョー部材の把持力の低下を抑制することが可能なロボット手術システムの制御方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ジョー部材の把持力の低下を抑制することが可能なロボット手術システムおよびロボット手術システムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態によるロボット手術システムの構成を示す図である。
図2】一実施形態によるロボット手術システムの制御的な構成を示したブロック図である。
図3】一実施形態による操作ハンドルの構成を示す図である。
図4】一実施形態によるロボットアームにアダプタを介して手術器具が取り付けられた状態を示した斜視図である。
図5】一実施形態によるロボットアームにアダプタを介して手術器具が取り付けられる状態を示した分解斜視図である。
図6】一実施形態による手術器具を下方から見た斜視図である。
図7】一実施形態による手術器具の基体からカバー部を取り外した状態を示した斜視図である。
図8】一実施形態による手術器具の基体からカバー部を取り外した状態を示した平面図である。
図9】一実施形態による手術器具のエンドエフェクタを示した斜視図である。
図10】一実施形態による一対のジョー部材、モータ、減速機、電流検出部、位置検出部およびコントローラを示した図である。
図11】一実施形態によるキャリブレーションを説明するためのグラフである。
図12】一実施形態による手術器具のロボットアームへの取付時の制御処理を説明するためのフローチャートである。
図13】一実施形態によるキャリブレーションモードの制御処理を説明するためのフローチャートである。
図14】変形例によるキャリブレーションを説明するためのグラフである。
図15図14に示す例の変形例によるキャリブレーションを説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
以下、本発明を具体化した本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(ロボット手術システムの構成)
図1および図2を参照して、一実施形態によるロボット手術システム100の構成について説明する。
【0016】
図1に示すように、ロボット手術システム100は、操作者側装置である遠隔操作装置10と、手術支援ロボットである患者側装置20と、を備えている。遠隔操作装置10は、患者側装置20に設けられた医療器具(medical equipment)を遠隔操作するために設けられている。患者側装置20によって実行されるべき動作態様指令が術者(surgeon)である操作者により遠隔操作装置10に入力されると、遠隔操作装置10は、動作態様指令をコントローラ24を介して患者側装置20に送信する。そして、患者側装置20は、遠隔操作装置10から送信された動作態様指令に応答して、ロボットアーム21aに取り付けられた手術器具(surgical instrument)40、および、ロボットアーム21bに取り付けられた内視鏡50等の医療器具を操作する。これにより、低侵襲手術が行われる。なお、コントローラ24は、制御部の一例である。
【0017】
患者側装置20は、患者Pに対して手術を行うインターフェイスを構成する。患者側装置20は、患者Pが横たわる手術台30の傍らに配置される。患者側装置20は、複数のロボットアーム21a、21bと、アームベース22と、ポジショナ23と、コントローラ24と、記憶部25と、一時記憶部26とを備えている。複数のロボットアーム21a、21bのうち、1つのロボットアーム21bに内視鏡50が取り付けられ、その他のロボットアーム21aに手術器具40が取り付けられる。各ロボットアーム21a、21bは、アームベース22に共通に支持されている。複数のロボットアーム21a、21bは複数の関節を有し、それぞれの関節には、サーボモータを含む駆動部と、エンコーダ等の位置検出器とが設けられている。ロボットアーム21a、21bは、コントローラ24を介して与えられた駆動信号によりロボットアーム21a、21bに取り付けられた医療器具が所望の動作を行うように制御されるように構成されている。
【0018】
アームベース22は、手術室の床の上に載置されたポジショナ23に支持されている。ポジショナ23は、垂直多関節ロボットを含んでいる。ポジショナ23は、アームベース22の位置を3次元的に移動させるように構成されている。コントローラ24は、CPU等の演算器と、ROMおよびRAM等のメモリとを有する制御回路である。記憶部25は、データストレージであり、後述するしきい値θS1と、後述するしきい値θS2とが記憶される。一時記憶部26は、後述する差分Δθが記憶される。記憶部25および一時記憶部26は、ロボットアーム21a、21bが設けられるロボット本体27に設けられている。なお、一時記憶部26は、第2記憶部の一例である。しきい値θS1は、第2しきい値の一例である。しきい値θS2は、第1しきい値の一例である。
【0019】
ロボットアーム21aには、先端部に医療器具としての手術器具40が着脱可能に取り付けられる。手術器具40は、ロボットアーム21aに取り付けられるハウジング41(図4参照)と、細長形状のシャフト42(図4参照)と、シャフト42の先端部(遠位端部)に設けられたエンドエフェクタ43(図4参照)とを備えている。エンドエフェクタ43として、たとえば、把持鉗子、シザーズ、フック、高周波ナイフ、スネアワイヤ、クランプ、ステイプラー、クリップアプライア、電気メス、ニードルが挙げられるがこれに限られるものではなく、各種の処置具を適用することができる。患者側装置20を用いた手術において、ロボットアーム21aは、患者Pの体表に留置したカニューラ(トロッカ)を介して患者Pの体内に手術器具40を導入する。そして、手術器具40のエンドエフェクタ43は、手術部位の近傍に配置される。
【0020】
ロボットアーム21bには、先端部に医療器具としての内視鏡50が着脱可能に取り付けられる。内視鏡50は、患者Pの体腔内を撮影するものであり、撮影した画像は、遠隔操作装置10に対して出力される。内視鏡50として、3次元画像を撮影することができる3D内視鏡または2D内視鏡が用いられる。患者側装置20を用いた手術において、ロボットアーム21bは、患者Pの体表に留置したトロッカを介して患者Pの体内に内視鏡50を導入する。そして、内視鏡50が手術部位の近傍に配置される。
【0021】
遠隔操作装置10は、操作者とのインターフェイスを構成する。遠隔操作装置10は、ロボットアーム21a、21bに取り付けられた医療器具を操作者が操作するための装置である。すなわち、遠隔操作装置10は、操作者によって入力された手術器具40および内視鏡50によって実行されるべき動作態様指令をコントローラ24を介して患者側装置20へ送信可能に構成されている。遠隔操作装置10は、たとえば、マスタの操作をしながらも患者Pの様子がよく見えるように手術台30の傍らに設置される。なお、遠隔操作装置10は、たとえば、動作態様指令を無線で送信するようにし、手術台30が設置された手術室とは別室に設置することも可能である。
【0022】
手術器具40によって実行されるべき動作態様とは、手術器具40の動作(一連の位置及び姿勢)及び手術器具40個別の機能によって実現される動作の態様である。たとえば、手術器具40が把持鉗子である場合には、手術器具40によって実行されるべき動作態様とは、エンドエフェクタ43の手首のロール回転位置及びピッチ回転位置と、ジョーの開閉を行う動作である。また、手術器具40が高周波ナイフである場合には、手術器具40によって実行されるべき動作態様とは、高周波ナイフの振動動作、具体的には高周波ナイフに対する電流の供給であり得る。また、手術器具40がスネアワイヤである場合には、手術器具40によって実行されるべき動作態様とは、束縛動作および束縛状態の解放動作であり得る。また、バイポーラやモノポーラに電流を供給することによって手術対象部位を焼き切る動作であり得る。
【0023】
内視鏡50によって実行されるべき動作態様とは、たとえば、内視鏡50先端の位置及び姿勢、又はズーム倍率の設定である。
【0024】
遠隔操作装置10は、図1および図2に示すように、操作ハンドル11と、操作ペダル部12と、表示部13と、タッチパネル14と、制御装置15と、を備えている。
【0025】
操作ハンドル11は、ロボットアーム21a、21bに取り付けられた医療器具を遠隔で操作するために設けられている。具体的には、操作ハンドル11は、医療器具(手術器具40、内視鏡50)を操作するための操作者による操作を受け付ける。操作ハンドル11は、水平方向に沿って2つ設けられている。つまり、2つの操作ハンドル11のうち一方の操作ハンドル11は、操作者の右手により操作され、2つの操作ハンドル11のうち他方の操作ハンドル11は、操作者の左手により操作される。
【0026】
また、操作ハンドル11は、遠隔操作装置10の後方側から、前方側に向かって延びるように配置されている。操作ハンドル11は、所定の3次元の操作領域内で動かすことができるように構成されている。すなわち、操作ハンドル11は、上下方向、左右方向、前後方向、および回転して動かすことができるように構成されている。
【0027】
図3に示すように、操作ハンドル11は、操作者が手で操作するハンドコントローラである。操作ハンドル11は、支持部材11aと、支持部材11aを挟んで支持部材11aの両側にそれぞれ設けられた一対のグリップ部材11bと、一対のグリップ部材11bの各々に設けられた指挿入部11cとを有する。操作者は、一対の指挿入部11cに指(親指および中指など)を挿入して操作ハンドル11を操作する。すなわち、一対のグリップ部材11bは、それぞれの基端が支持部材11aに対して回動可能に接続されており、一対のグリップ部材11bの開き角度を大きくしたり小さくしたりすることにより、後述する一対のジョー部材43a、43bの開き角度が変更される。操作ハンドル11には、一対のジョー部材43a、43bを開閉させる指令が入力される。一対のグリップ部材11bの開き角度は、例えばセンサにより検知される。例えば、操作ハンドル11は、支持部材11aにホールセンサを有するとともに一対のグリップ部材11bの一方又は両方に磁石を有することにより、一対のグリップ部材11bの開き角度が検知される。あるいは、操作ハンドル11は、一対のグリップ部材11bの一方にホールセンサを有するとともに一対のグリップ部材11bの他方に磁石を有することにより、一対のグリップ部材11bの開き角度が検知される。検知された一対のグリップ部材11bの開き角度に関する信号に基づいて、一対のジョー部材43a、43bが開閉される。
【0028】
図1に示すように、遠隔操作装置10と患者側装置20とは、ロボットアーム21aおよびロボットアーム21bの動作の制御においては、マスタスレーブ型のシステムを構成する。すなわち、操作ハンドル11は、マスタスレーブ型のシステムにおけるマスタ側の操作部を構成し、医療器具が取り付けられたロボットアーム21aおよびロボットアーム21bはスレーブ側の動作部を構成する。そして、操作ハンドル11を操作者が操作すると、操作ハンドル11の動きをロボットアーム21aの先端部(手術器具40のエンドエフェクタ43)またはロボットアーム21bの先端部(内視鏡50)がトレースして移動するようにロボットアーム21aまたはロボットアーム21bの動作が制御される。
【0029】
また、患者側装置20は、設定された動作倍率に応じてロボットアーム21aの動作を制御するよう構成されている。たとえば、動作倍率が1/2倍に設定されている場合、手術器具40のエンドエフェクタ43は、操作ハンドル11の移動距離の1/2の移動距離を移動するよう制御される。これによって、精細な手術を精確に行うことができる。
【0030】
操作ペダル部12は、医療器具に関する機能を実行するための複数のペダルを含んでいる。複数のペダルは、凝固ペダルと、切断ペダルと、カメラペダルと、クラッチペダルと、を含んでいる。また、複数のペダルは、操作者の足により操作される。
【0031】
凝固ペダルは、手術器具40を用いて手術部位を凝固させる操作を行うことができる。具体的には、凝固ペダルは、操作されることにより、手術器具40に凝固用の電圧が印加されて、手術部位の凝固が行われる。切断ペダルは、手術器具40を用いて手術部位を切断させる操作を行うことができる。具体的には、切断ペダルは、操作されることにより、手術器具40に切断用の電圧が印加されて、手術部位の切断が行われる。
【0032】
カメラペダルは、体腔内を撮像する内視鏡50の位置及び姿勢を操作するために用いられる。具体的には、カメラペダルは、内視鏡50の操作ハンドル11による操作を有効にする。つまり、カメラペダルが押されている間は、操作ハンドル11により内視鏡50の位置および姿勢を操作することが可能である。たとえば、内視鏡50は、左右の操作ハンドル11の両方を用いることにより操作される。具体的には、左右の操作ハンドル11の中間点を中心に左右の操作ハンドル11を回動させることにより、内視鏡50が回動される。また、左右の操作ハンドル11を共に押し込むことにより、内視鏡50が奥に進む。また、左右の操作ハンドル11を共に引っ張ることにより、内視鏡50が手前に戻る。また、左右の操作ハンドル11を共に上下左右に移動させることにより、内視鏡50が上下左右に移動する。
【0033】
クラッチペダルは、ロボットアーム21aと、操作ハンドル11との操作接続を一時切断し手術器具40の動作を停止させる場合に用いられる。具体的には、クラッチペダルが操作されている間は、操作ハンドル11を操作しても、患者側装置20のロボットアーム21aが動作しない。たとえば、操作により操作ハンドル11が移動可能な範囲の端部近傍に来た場合に、クラッチペダルが操作されることにより、操作接続を一時切断して、操作ハンドル11を中央位置付近に戻すことができる。そして、クラッチペダルの操作を中止するとロボットアーム21aと操作ハンドル11とが再び接続され、中央付近で操作ハンドル11の操作を再開することができる。
【0034】
表示部13は、内視鏡50が撮像した画像を表示することができるものである。表示部13は、スコープ型表示部または非スコープ型表示部からなる(図1では、スコープ型表示部を示す)。スコープ型表示部とは、たとえば、覗き込むタイプの表示部である。また、非スコープ型表示部とは、通常のパーソナルコンピュータのディスプレイのような覗き込むタイプではない平坦な画面を有する開放型の表示部を含む概念である。
【0035】
スコープ型表示部が取り付けられた場合、患者側装置20のロボットアーム21bに取り付けられた内視鏡50により撮像された3D画像が表示される。非スコープ型表示部が取り付けられた場合にも、患者側装置20に設けられた内視鏡50により撮像された3D画像が表示される。なお、非スコープ型表示部が取り付けられた場合、患者側装置20に設けられた内視鏡50により撮像された2D画像が表示されてもよい。
【0036】
タッチパネル14は、操作部兼表示部である。タッチパネル14は、遠隔操作装置10の設定の操作のための画面を表示したり、遠隔操作装置10の設定の操作を受け付けたりする。
【0037】
図2に示すように、制御装置15は、たとえば、CPU等の演算器を有する制御部151と、ROMおよびRAM等のメモリを有する記憶部152と、画像制御部153とを含んでいる。制御装置15は、集中制御する単独の制御装置により構成されていてもよく、互いに協働して分散制御する複数の制御装置により構成されてもよい。制御部151は、操作ハンドル11により入力された動作態様指令を、操作ペダル部12の切替状態に応じて、ロボットアーム21aによって実行されるべき動作態様指令であるか、または、内視鏡50によって実行されるべき動作態様指令であるかを判定する。そして、制御部151は、操作ハンドル11に入力された動作態様指令が手術器具40によって実行されるべき動作態様指令であると判断すると、コントローラ24を介してロボットアーム21aに対して動作態様指令を送信する。これによって、コントローラ24により、ロボットアーム21aが駆動され、この駆動によってロボットアーム21aに取り付けられた手術器具40の動作が制御される。
【0038】
また、制御部151は、操作ハンドル11に入力された動作態様指令が内視鏡50によって実行されるべき動作態様指令であると判定すると、コントローラ24を介してロボットアーム21bに対して動作態様指令を送信する。これによって、ロボットアーム21bが駆動され、この駆動によってロボットアーム21bに取り付けられた内視鏡50の動作が制御される。
【0039】
記憶部152には、たとえば、手術器具40の種類に応じた制御プログラムが記憶されていて、取り付けられた手術器具40の種類に応じて制御部151がこれらの制御プログラムを読み出すことにより、遠隔操作装置10の操作ハンドル11及び/又は操作ペダル部12の動作指令が個別の手術器具40に適合した動作をさせることができる。
【0040】
画像制御部153は、内視鏡50が取得した画像を表示部13に伝送する。画像制御部153は、必要に応じて画像の加工修正処理を行う。
【0041】
(手術器具、アダプタ、ドレープおよびロボットアームの構成)
次に、図4図6を参照して、手術器具40、アダプタ60、ドレープ70およびロボットアーム21aの構成について説明する。
【0042】
ここで、手術器具40の延びる方向(シャフト42の延びる方向)をY方向とし、Y方向のうち手術器具40の先端側方向(エンドエフェクタ43側方向)をY1方向とし、Y1方向の反対側をY2方向とする。手術器具40とアダプタ60とが隣接する方向をZ方向とし、Z方向のうち手術器具40側をZ1方向とし、Z1方向の反対側をZ2方向とする。また、Y方向およびZ方向に直交する方向をX方向とし、X方向のうち一方側をX1方向とし、X方向のうち他方側をX2方向とする。
【0043】
図4および図5に示すように、手術器具40は、ロボットアーム21aに取り外し可能に取り付けられる。具体的には、手術器具40は、ロボットアーム21aにアダプタ60を介して取り外し可能に取り付けられる。アダプタ60は、ロボットアーム21aを覆うための滅菌処理されたドレープ70をロボットアーム21aとの間に挟み込むためのドレープアダプタである。
【0044】
手術器具40は、アダプタ60のZ1方向側に取り付けられる。アダプタ60は、ロボットアーム21aのZ1方向側に取り付けられる。
【0045】
ロボットアーム21aは、清潔区域において使用されるため、ドレープ70により覆われる。ここで、手術室では、手術により切開した部分および医療機器が病原菌や異物などにより汚染されることを防ぐため、清潔操作が行われる。この清潔操作においては、清潔区域および清潔区域以外の区域である汚染区域が設定される。手術部位は、清潔区域に配置される。操作者を含む手術チームのメンバーは、手術中、清潔区域に殺菌されている物体のみが位置するよう配慮し、かつ、汚染区域に位置している物体を清潔区域に移動させるときは、この物体に滅菌処理を施す。同様に、操作者を含む手術チームの補助者がその手を汚染区域に位置させたときは、清潔区域に位置している物体に直接接触する前に、手の滅菌処理を行う。清潔区域において用いられる器具は、滅菌処理が行われる、または、滅菌処理されたドレープ70により覆われる。
【0046】
図5に示すように、ドレープ70は、ロボットアーム21aを覆う本体部71と、ロボットアーム21aとアダプタ60との間に挟み込まれる取付部72とを備えている。本体部71は、フィルム状に形成された可撓性フィルム部材により構成されている。可撓性フィルム部材は、熱可塑性ポリウレタンやポリエチレンなどの樹脂材料からなる。本体部71には、ロボットアーム21aとアダプタ60とが互いに係合可能なように、開口部が設けられている。本体部71の開口部には、取付部72が設けられている。取付部72は、樹脂成形部材により構成されている。樹脂成形部材は、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料からなる。取付部72は、本体部71に比べて硬く(撓みにくく)形成されている。取付部72は、ロボットアーム21aとアダプタ60とが互いに係合可能なように、開口部が設けられている。取付部72の開口部は、ロボットアーム21aとアダプタ60との係合する部分に対応するように設けられていてもよい。また、取付部72の開口部は、ロボットアーム21aとアダプタ60との複数の係合する部分に対応するように複数設けられていてもよい。
【0047】
図5および図6に示すように、手術器具40は、複数(4個)の被駆動部材44a、44b、44cおよび44dと、記憶部45とを有している。記憶部45は、ハウジング41内に設けられている。記憶部45には、手術器具40を表すシリアル番号、手術器具40の使用回数、後述する値θ、および、値θが記憶される。なお、本実施形態において、値θは、値θのほぼ1/2に設定されている。手術器具40がロボットアーム21aに取り付けられると、記憶部45は、コントローラ24に通信可能に接続される。なお、記憶部45は、第1記憶部の一例である。また、値θは、第1の値の一例である。また、値θは、第3の値の一例である。
【0048】
被駆動部材44a~44dは、ハウジング41内に設けられ、Z方向に延びる回転軸線を中心に回転可能に設けられている。複数の被駆動部材44a~44dは、エンドエフェクタ43を操作(駆動)するために設けられている。被駆動部材44b~44dは、シャフト42内に挿通された細長要素であるケーブルAにより、エンドエフェクタ43と接続されている。これにより、被駆動部材44b~44dの回転に応じてケーブルAが駆動されるとともに、ケーブルAの駆動に応じてエンドエフェクタ43が操作(駆動)される。また、被駆動部材44aは、ギア42a(図7参照)を介してシャフト42に接続されている。これにより、被駆動部材44aの回転に応じてシャフト42が回転されるとともに、シャフト42の回転に応じてエンドエフェクタ43も回転する。
【0049】
複数の被駆動部材44a~44dの各々は、ロボットアーム21aからの駆動力をエンドエフェクタ43に伝達させるために、アダプタ60の駆動伝達部材61と係合する突起441および442を含んでいる。突起441および442は、被駆動部材44a~44dのZ2方向側の表面からアダプタ60側(Z2方向側)に向かって突出している。また、突起441および442は、直線状に複数並んでいる。また、被駆動部材44aおよび44bに設けられた突起441と、被駆動部材44cおよび44dに設けられた突起442とは、互いに異なる形状を有している。
【0050】
図5に示すように、アダプタ60は、複数(4個)の駆動伝達部材61を有している。駆動伝達部材61は、ロボットアーム21aからの駆動力を手術器具40の被駆動部材44a~44dに伝達するように構成されている。つまり、駆動伝達部材61は、手術器具40の被駆動部材44a~44dに対応するように設けられている。駆動伝達部材61は、Z方向に延びる回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0051】
複数の駆動伝達部材61の各々は、手術器具40の被駆動部材44a~44dの突起441および442と係合する係合凹部611を含んでいる。係合凹部611は、駆動伝達部材61の手術器具40側(Z1方向側)に設けられているとともに、駆動伝達部材61のZ1方向側の表面から手術器具40側とは反対側(Z2方向側)に向かって窪んでいる。複数の駆動伝達部材61の各々は、Z2方向側の面に、ロボットアーム21aの係合凸部213と係合する係合凹部を含んでいる。
【0052】
ロボットアーム21aは、フレーム211と、複数(4個)の駆動部212と、複数の係合凸部213とを有している。複数の駆動部212は、手術器具40の複数(4個)の被駆動部材44a~44dおよびアダプタ60の複数(4個)の駆動伝達部材61にそれぞれ対応するように設けられている。駆動部212は、係合凸部213をZ方向に延びる回転軸線回りに回転駆動するように構成されている。係合凸部213は、駆動伝達部材61のZ2方向側の面の係合凹部と係合する。係合凸部213は、ロボットアーム21aのZ1方向側の表面からZ1方向側(アダプタ60側)に向かって突出している。駆動部212は、係合凸部213と係合したアダプタ60の駆動伝達部材61をZ方向に延びる回転軸線回りに回転駆動させるとともに、駆動伝達部材61と係合した手術器具40の被駆動部材44a~44dをZ方向に延びる回転軸線回りに回転駆動させるように構成されている。
【0053】
(手術器具の詳細な構成)
次に、図7図9を参照して、手術器具40の詳細な構成について説明する。ここでは、手術器具40のエンドエフェクタ43が一対のジョー部材43a、43bを有する把持鉗子である例について説明する。なお、本発明の手術器具は、一対のジョー部材を有していればよく、一対のジョー部材は例えばシザーズ等であってもよい。
【0054】
図7および図8に示すように、手術器具40の被駆動部材44b~44dには、ケーブルAが巻き止められている。すなわち、被駆動部材44b~44dには、ケーブルAが接続されている。
【0055】
被駆動部材44bには、ケーブルA3が巻き止められている。具体的には、被駆動部材44bの上部には、ケーブルA3の第1部分A3aが時計回りに巻き止められ、被駆動部材44bの下部には、ケーブルA3の第2部分A3bが反時計回りに巻き止められている。
【0056】
また、被駆動部材44cには、ケーブルA1が巻き止められている。具体的には、被駆動部材44cの上部には、ケーブルA1の第1部分A1aが時計回りに巻き止められ、被駆動部材44cの下部には、ケーブルA1の第2部分A1bが反時計回りに巻き止められている。
【0057】
また、被駆動部材44dには、ケーブルA2が巻き止められている。具体的には、被駆動部材44dの上部には、ケーブルA2の第1部分A2aが時計回りに巻き止められ、被駆動部材44dの下部には、ケーブルA2の第2部分A2bが反時計回りに巻き止められている。
【0058】
ケーブルAは、被駆動部材44b~44dの各々から、シャフト42を通り、エンドエフェクタ43に掛けられて、再びシャフト42を通り、被駆動部材44b~44dに到達している。また、ケーブルAは、プーリ46に掛けられている。プーリ46は、プーリ保持部461により保持されている。
【0059】
図8および図9に示すように、被駆動部材44cは、回転軸を中心に回転することにより、エンドエフェクタ43のジョー部材43a、43bのうちのジョー部材43aを操作する。具体的には、被駆動部材44cは、駆動部212によって回転されることにより、ケーブルA1を駆動させる。ケーブルA1は、シャフト42の内部を介してジョー部材43aと被駆動部材44cとを接続している。具体的には、ジョー部材43aの根元に設けられたプーリ43dに、ケーブルA1が巻き掛けられている。被駆動部材44cは、C1方向(図8参照)に回転することにより、ケーブルA1の第1部分A1aを引っ張り第2部分A1bを送り出してジョー部材43aをジョー部材43aが開く方向であるC1a方向(図9参照)に駆動する。また、被駆動部材44cは、C1方向とは反対方向であるC2方向(図8参照)に回転することにより、ケーブルA1の第2部分A1bを引っ張り第1部分A1aを送り出してジョー部材43aをジョー部材43aが閉じる方向であるC2a方向(図9参照)に駆動する。
【0060】
被駆動部材44dは、回転軸を中心に回転することにより、エンドエフェクタ43のジョー部材43a、43bのうちのジョー部材43bを操作する。具体的には、被駆動部材44dは、駆動部212によって回転されることにより、ケーブルA2を駆動させる。ケーブルA2は、シャフト42の内部を介してジョー部材43bと被駆動部材44dとを接続している。具体的には、ジョー部材43bの根元に設けられたプーリ43eに、ケーブルA2が巻き掛けられている。被駆動部材44dは、C3方向(図8参照)に回転することにより、ケーブルA2の第1部分A2aを引っ張り第2部分A2bを送り出してジョー部材43bをジョー部材43bが開く方向であるC3a方向(図9参照)に駆動する。また、被駆動部材44dは、C3方向とは反対方向であるC4方向(図8参照)に回転することにより、ケーブルA2の第2部分A2bを引っ張り第1部分A2aを送り出してジョー部材43bをジョー部材43bが閉じる方向であるC4a方向(図9参照)に駆動する。被駆動部材44b、44cのケーブルAの駆動によりジョー部材43a、43bが開閉される。なお、ケーブルA1、A2は、細長要素の一例である。
【0061】
被駆動部材44bは、回転軸を中心に回転することにより、エンドエフェクタ43の手首部43cを操作する。具体的には、被駆動部材44bは、駆動部212によって回転されることにより、ケーブルA3を駆動させる。ケーブルA3は、シャフト42の内部を介して手首部43cと被駆動部材44bとを接続している。被駆動部材44bは、C5方向(図8参照)に回転することにより、ケーブルA3の第1部分A3aを引っ張り第2部分A3bを送り出して手首部43cをC5a方向(図9参照)に駆動する。また、被駆動部材44bは、C5方向とは反対方向であるC6方向(図8参照)に回転することにより、ケーブルA3の第2部分A3bを引っ張り第1部分A3aを送り出して手首部43cをC5a方向とは反対方向であるC6a方向(図9参照)に駆動する。
【0062】
ギア443を有する被駆動部材44aは、シャフト42の近位端に接続されたギア42aとギア443が係合した状態で、駆動部212によって回転軸を中心に回転されることにより、シャフト42を操作して、エンドエフェクタ43を操作する。具体的には、被駆動部材44aは、C7方向(図8参照)に回転することにより、シャフト42をC7a方向(図9参照)に回転駆動して、エンドエフェクタ43をC7a方向に回転駆動する。また、被駆動部材44aは、C8方向(図8参照)に回転することにより、シャフト42をC7a方向とは反対方向であるC8a方向(図9参照)に回転駆動して、エンドエフェクタ43をC8a方向に回転駆動する。
【0063】
(ジョー部材の開閉に関する構成)
次に、図10および図11を参照して、ジョー部材43a、43bの開閉に関する構成について説明する。
【0064】
図10に示すように、駆動部212は、モータ212aと、減速機212bと、位置検出部212cとを含んでいる。モータ212aは、サーボモータからなり、ケーブルA1(A2)およびジョー部材43a(43b)を駆動する駆動源である。減速機212bは、モータ212aの回転を減速して出力する。位置検出部212cは、アブソリュートエンコーダからなり、モータ212aの回転角度を検出する。また、モータ212aに対して、電流検出部214が設けられている。電流検出部214は、モータ212aの電流値を検出する。
【0065】
コントローラ24は、操作ハンドル11からの信号に基づいて、モータ212aを駆動する。これにより、減速機212bと、係合凸部213と、駆動伝達部材61と、被駆動部材44c、44dとが回転されて、ケーブルA1、A2が駆動される。この結果、ジョー部材43a、43bが開閉される。コントローラ24は、ジョー部材43a、43bの開き角度が操作ハンドル11からの信号に応じた開き角度(目標開き角度)になるように、モータ212aを駆動する。コントローラ24は、位置検出部212cによるモータ212aの回転角度の検出結果に基づいて、目標開き角度に対応する回転角度になるように、モータ212aの回転角度を制御する。すなわち、コントローラ24は、ジョー部材43a、43bの駆動をモータ212aの回転角度で制御する。
【0066】
なお、たとえば、以下のような場合、ジョー部材43a、43bを駆動するモータ212aをトルクで制御するよりも、ジョー部材43a、43bを駆動するモータ212aを回転角度で制御することが有効である。すなわち、作業領域を確保できるように術野周辺のロボットアーム21aを小型化するためには、モータ212aを小型化することが有効である。モータ212aを小型化するためには、減速比の高い減速機212bを使用することが有効である。しかしながら、モータ212aをトルクで制御する場合、減速比の高い減速機212bを使用すると、手術器具40の先端側の挙動がモータ212aのトルクの変化として反映されにくくなる。このため、モータ212aのトルクの変化を検出することによって手術器具40の先端側の挙動を検知することが困難になる。この問題を解決するためには、ジョー部材43a、43bを駆動するモータ212aを回転角度で制御することが有効である。
【0067】
また、ジョー部材43a、43bが閉じた状態(すなわち、開き角度がゼロの状態)から、ジョー部材43a、43bの閉じ方向へモータ212aをさらに回転させることにより、ジョー部材43a、43bにより閉め込む力(把持力)を発生させることが可能である。以下では、ジョー部材43a、43bの開き角度がゼロの状態からさらに閉め込む場合の指令角度のことを、閉め込み角度と呼ぶ。なお、本実施形態では、閉め込み角度は負の値であるが、これに限られない。閉め込み角度は、モータ212aの回転角度に対応する値の一例であり、以下の式(1)で計算される。
θ=2×R×R×θ ・・・(1)
ここで、
θ:閉め込み角度
Rp:被駆動部材44c、44dとジョー部材43a、43bのプーリ43d、43eとの減速比
Rm:減速機212bの減速比
θ:モータ212aの回転角度
である。
【0068】
ここで、手術器具40は、手術後に洗浄、滅菌されて、複数回使用される。このため、手術器具40を使用しているうちにジョー部材43a、43bを駆動するケーブルA1、A2が伸びる場合がある。ケーブルA1、A2が伸びた場合、モータ212aを所定の回転角度に制御しても、ジョー部材43a、43bを十分に閉め込めず、ジョー部材43a、43bの把持力が低下する。
【0069】
そこで、本実施形態では、図11に示すように、コントローラ24は、ケーブルA1、A2の伸びを補償するキャリブレーションを実施する。具体的には、記憶部45は、所定の電流値Iとなるときの閉め込み角度θを予め記憶している。コントローラ24は、所定の電流値Iとなるときの閉め込み角度θを取得し、取得した値θと記憶部45に記憶された値θとに基づいてジョー部材43a、43bの閉め込み動作の指令角度を変更するキャリブレーションを行う。具体的には、コントローラ24は、閉め込み角度θと、閉め込み角度θとに基づいて、最大閉め込み角度θを補正する。最大閉め込み角度は、絶対値が最大となる閉め込み角度である。これにより、手術器具40のジョー部材43a、43bの駆動をモータ212aの回転角度で制御する構成において、ケーブルA1、A2の伸びを補償するキャリブレーションを実施することができるので、手術器具40のジョー部材43a、43bの駆動をモータ212aの回転角度で制御する構成において、ケーブルA1、A2の伸びが原因のジョー部材43a、43bの把持力の低下を抑制することができる。なお、図11のグラフでは、右側が負側となっている。
【0070】
また、本実施形態では、記憶部45は、最大閉め込み角度θを予め記憶している。最大閉め込み角度θは、ジョー部材43a、43bの閉じ方向へのモータ212aの最大回転角度に対応する値の一例である。コントローラ24は、値θと、値θとに基づいて、値θを補正する。これにより、ジョー部材43a、43bの最大閉め込み角度θを補正することができるので、ジョー部材43a、43bの閉じ方向へ回転可能なモータ212aの最大回転角度を大きくすることができる。その結果、ケーブルA1、A2の伸びが原因のジョー部材43a、43bの把持力の低下を確実に抑制することができる。
【0071】
具体的には、本実施形態では、コントローラ24は、値θと値θとの差分Δθを、値θに加えることにより、値θを補正する。これにより、値θと値θとの差分Δθを、値θに加えるだけで、値θを補正することができるので、キャリブレーションの補正処理を簡単な処理で行うことができる。コントローラ24は、指令角度としての値θを、値θ+Δθに変更するキャリブレーションを行う。
【0072】
より具体的には、本実施形態では、コントローラ24は、値θと値θとの閉め込み角度の差分Δθを値θの閉め込み角度に加えた閉め込み角度(θ+Δθ)まで、ジョー部材43a、43bが閉め込み可能となるように、値θを補正する。これにより、値θと値θとの閉め込み角度の差分Δθを値θの閉め込み角度に加えた閉め込み角度(すなわち、ケーブルA1、A2の伸びを考慮した最大閉め込み角度θ+Δθ)まで、ジョー部材43a、43bを閉め込み可能とすることができるので、ケーブルA1、A2の伸びが原因のジョー部材43a、43bの把持力の低下をより確実に抑制することができる。
【0073】
ここで、本実施形態における、ケーブルA1、A2の伸びを補償するキャリブレーションの原理について説明する。記憶部45には、所定の電流値Iとなるときの閉め込み角度の値θと、最大閉め込み角度θとが、初期値として予め記憶されている。値θと値θとは、手術器具40が製造元から出荷される前に、製造元の作業者により、記憶部45に予め記憶される。製造元では、ケーブルA1、A2の初期のたるみを考慮して、値θと値θとが取得される。値θは、ジョー部材43a、43bが所定の把持力を発揮可能となる値に設定される。なお、値θの絶対値は、値θの絶対値よりも大きい。
【0074】
コントローラ24は、ジョー部材43a、43bが閉じた状態(ジョー部材43a、43bの開き角度がゼロの状態)から、キャリブレーションを開始する。コントローラ24は、モータ212aを最大閉め込み角度θとなるように回転駆動する。また、コントローラ24は、モータ212aの回転角度に対応する値が値θになるように(値θを目標値として)モータ212aを回転させてジョー部材43a、43bを閉じている際中に、値θを取得する。ここで、ジョー部材43a、43bが閉じた状態でさらに閉じていくと、モータ212aの電流値が上昇する。モータ212aの電流値は、電流検出部214により検出(監視)されている。ケーブルA1、A2が伸びると、ジョー部材43a、43bの閉め込み角度が値θとなっても、モータ212aの電流値は、所定の電流値Iよりも小さい値となる。コントローラ24は、電流検出部214によるモータ212aの電流値の検出結果に基づいて、所定の電流値Iとなるときの閉め込み角度の値θを取得する。また、コントローラ24は、値θと値θとの差分Δθを計算する。値θと値θとの差分Δθは、ケーブルA1、A2の使用による伸びに対応している。また、コントローラ24は、値θと値θとの差分Δθを初期の最大閉め込み角度の値θに加えた閉め込み角度θ+Δθまで、ジョー部材43a、43bが閉め込み可能となるように、値θを補正する。これにより、モータ212aの初期の電流応答と、モータ212aのケーブルA1、A2が伸びたときの電流応答とを同等にすることができるので、ケーブルA1、A2の伸びが原因のジョー部材43a、43bの把持力の低下を抑制することができる。なお、値θの絶対値は、値θの絶対値よりも大きい。
【0075】
また、本実施形態では、コントローラ24は、値θが値θに対して所定範囲内であるか否かを、しきい値θS1に基づいて判定し、値θが値θに対して所定範囲内であると判定した場合、値θを補正せず、値θが値θに対して所定範囲外であると判定した場合、値θを補正する。これにより、値θが値θに対して所定範囲内であると判定した場合(すなわち、ケーブルA1、A2の伸びが小さく、補正が必要ない場合)、値θを不必要に補正しないようにすることができる。また、値θが値θに対して所定範囲外であると判定した場合(すなわち、ケーブルA1、A2の伸びが大きく、補正が必要な場合)、値θを適切に補正することができる。
【0076】
具体的には、コントローラ24は、値θが、値θ±θS1の範囲内であるか否かを判定する。しきい値θS1は、特に限られないが、ジョー部材43a、43bの設定把持力の範囲(X±Yニュートンなど)の上下限を決定する値(Yニュートンなど)を、変換係数により、閉め込み角度に変換した値とすることができる。なお、ジョー部材43a、43bの種類(すなわち、エンドエフェクタ43の種類)によって、設定把持力の範囲が異なる場合、エンドエフェクタ43の種類ごとに、しきい値θS1が異なっていてもよい。しきい値θS1は、本実施形態では正の値であり、ロボット本体27に設けられる記憶部25に設けられている。
【0077】
また、本実施形態では、コントローラ24は、値θと値θとの差分Δθが正常範囲内であるか否かを、しきい値θS2に基づいて判定し、値θと値θとの差分Δθが正常範囲内であると判定した場合、値θを補正し、値θと値θとの差分Δθが正常範囲外であると判定した場合、値θを取得し直す。これにより、値θと値θとの差分Δθが正常範囲内であると判定した場合、値θを補正するので、キャリブレーションを適切に実施することができる。また、値θと値θとの差分Δθが正常範囲外であると判定した場合、値θを取得し直すので、過大な値θ(および差分Δθ)が取得されることを回避することができる。その結果、過大なθ(および差分Δθ)に基づいて、値θが過大な値に補正されることを回避することができる。これにより、値θが過大な値に補正されることに起因してケーブルA1、A2に過大な負荷が掛かり、ケーブルA1、A2が破損することを回避することができる。
【0078】
具体的には、コントローラ24は、値θと値θとの差分Δθが、θS2<Δθ<0の範囲内であるか否かを判定する。また、しきい値θS2は、特に限られないが、エンドエフェクタ43の種類によらず、共通の値とすることができる。しきい値θS2は、本実施形態では負の値であり、実験などにより予め求められ、ロボット本体27に設けられる記憶部25に記憶されている。
【0079】
また、本実施形態では、値θを記憶する記憶部45は、手術器具40に設けられている。これにより、手術器具40ごとに異なる値θを、手術器具40に設けられた記憶部45に予め記憶させておくことができるので、手術器具40を使用する際、手術器具40ごとに適切な値θを容易に使用することができる。また、本実施形態では、記憶部45には、値θも記憶されている。これにより、値θと同様に手術器具40ごとに異なる値θを、手術器具40に設けられた記憶部45に予め記憶させておくことができるので、手術器具40を使用する際、手術器具40ごとに適切な値θを容易に使用することができる。
【0080】
また、本実施形態では、値θと値θとに基づく補正値(Δθ)を記憶する一時記憶部26は、ロボット本体27に設けられている。これにより、手術中において、手術器具40をロボットアーム21aから取り外して、ロボットアーム21aに再び取り付ける場合にも、ロボット本体27に設けられた一時記憶部26に補正値(Δθ)が記憶されているので、補正値(Δθ)を取得し直す必要がない。その結果、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けのたびに、補正値(Δθ)を取得し直す手間を省くことができる。一時記憶部26に記憶された補正値(Δθ)は、手術ごとに(例えば、ロボット本体27の電源を落としたり再起動したりするごとに)リセット(削除)される。このため、手術ごとに適切なΔθを取得することが可能である。
【0081】
また、本実施形態では、コントローラ24は、ロボットアーム21aに手術器具40を取り付けたタイミング、および、キャリブレーションを実行する操作を受け付けるユーザインターフェース(操作ハンドル11またはタッチパネル14など)を操作したタイミング、のうちの少なくともいずれか一方のタイミングで、キャリブレーションを開始する。これにより、ロボットアーム21aに手術器具40を取り付けたタイミングでキャリブレーションを開始する場合、ロボットアーム21aに手術器具40を取り付けるだけで、キャリブレーションを実施することができるので、ユーザの手間を省くことができる。また、キャリブレーションを実行する操作を受け付けるユーザインターフェースを操作したタイミングでキャリブレーションを開始する場合、ユーザの所望のタイミングでキャリブレーションを実施することができる。なお、操作ハンドル11またはタッチパネル14は、ユーザインターフェースの一例である。
【0082】
また、ロボットアーム21aに手術器具40を取り付けたタイミングでキャリブレーションを開始する場合、コントローラ24は、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であるか否かを判定する。コントローラ24は、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であると判定した場合、キャリブレーションを開始し、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回ではないと判定した場合、キャリブレーションを開始しない。これにより、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であると判定した場合(すなわち、キャリブレーションが未実施の場合)、キャリブレーションを適切に開始することができる。また、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回ではないと判定した場合(すなわち、キャリブレーションが実施済みの場合)、キャリブレーションを開始しないので、キャリブレーションが不必要に実施されることを回避することができる。
【0083】
コントローラ24は、ロボットアーム21aに手術器具40が取り付けられると、記憶部45から手術器具40のシリアル番号を取得し、取得した手術器具40のシリアル番号に基づいて、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ24は、取得した手術器具40のシリアル番号が、記憶部25または一時記憶部26に記憶されていない場合、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であると判定する。また、コントローラ24は、取得した手術器具40のシリアル番号を記憶部25または一時記憶部26に記憶させる。また、コントローラ24は、取得した手術器具40のシリアル番号が、記憶部25または一時記憶部26に記憶されている場合、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回ではない(2回目以降である)と判定する。コントローラ24は、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回ではないと判定した場合、キャリブレーションを開始せず、初回取付時の補正値(Δθ)によりθを補正する。
【0084】
また、本実施形態では、コントローラ24は、値θと、値θと、手術器具40の使用回数に応じて予め決められたモータ212aの回転角度に対応する値θとに基づいて、値θを補正する。これにより、値θと、値θとだけでなく、手術器具40の使用回数に応じて予め決められた閉め込み角度θにも基づいて、値θを補正することができるので、ケーブルA1、A2の伸びが原因のジョー部材43a、43bの把持力の低下をより確実に抑制することができる。値θは、手術器具40の使用回数に応じて決められた固定値であり、実験などにより予め求められている。なお、値θは、第4の値の一例である。
【0085】
(手術器具の取付時の制御処理)
次に、図12を参照して、手術器具40のロボットアーム21aへの取付時の制御処理をフローチャートに基づいて説明する。なお、ここでは、ロボットアーム21aに手術器具40を取り付けたタイミングで、キャリブレーションを開始する例について説明する。
【0086】
図12に示すように、まず、ステップS101において、アダプタ60を介した手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが行われる。そして、ステップS102において、嵌合動作モードが開始される。嵌合動作モードでは、ロボットアーム21aの係合凸部213と、アダプタ60の駆動伝達部材61の係合凹部とが嵌合され、アダプタ60の駆動伝達部材61の係合凹部611と、被駆動部材44a~44dの突起441および442とが嵌合される。
【0087】
そして、ステップS103において、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であるか否かが判定される。手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回であると判定された場合、ステップS104に進む。そして、ステップS104において、キャリブレーションが実施されるキャリブレーションモードが開始される。そして、ステップS104の処理が終了すると、ステップS106に進む。なお、キャリブレーションモードの処理の詳細については、後述する。
【0088】
また、ステップS103において、手術器具40のロボットアーム21aへの取り付けが、手術中において初回ではないと判定された場合、ステップS105に進む。そして、ステップS105において、閉め角補正が行われる。ステップS105では、後述する初回取付時のキャリブレーションモードにおいて、θ0c=θ+θ+Δθ(θ0cは補正後の最大閉め込み角度)の式により、閉め角補正が行われる。そして、ステップS106に進む。
【0089】
そして、ステップS106において、把持力チェックモードが開始される。把持力チェックモードでは、ジョー部材43a、43bによる把持力として、所定の把持力が出力可能であるか否かが判定される。そして、ジョー部材43a、43bによる把持力として、所定の把持力が出力可能である場合、制御処理が終了される。
【0090】
(キャリブレーションモードの制御処理)
次に、図13を参照して、キャリブレーションモードの制御処理をフローチャートに基づいて説明する。
【0091】
図13に示すように、ステップS201において、ジョー部材43a、43bの閉め込み動作が行われる。閉め込み動作では、ジョー部材43a、43bが、θ+θ+Δθ(ただし、Δθ=0)の閉め込み角度まで閉め込まれるように駆動される。
【0092】
そして、ステップS202において、所定の電流値Iとなるときのモータ212aの回転角度が取得される。この際、モータ212aの電流値は、モータ212aの摩擦および慣性を考慮して取得される。また、この際、位置検出部212cにより検出された所定の電流値Iとなるときのモータ212aの回転角度が、上記式(1)により、ジョー部材43a、43bの閉め込み角度に変換されることにより、閉め込み角度の値θが取得される。
【0093】
そして、1回目のステップS203において、値θが、値θに対して所定範囲内であるか否かが、しきい値θS1に基づいて判定される。具体的には、値θが、θ-θS1≦θ-Δθ≦θ+θS1(ただし、Δθ=0)の範囲内であるか否かが判定される。値θが、値θに対して所定範囲内であると判定された場合、ケーブルA1、A2の伸びが小さく、補正が必要ないと判定できるため、補正が行われずに、制御処理が終了される。この場合、記憶部45に予め記憶されているθが、最大閉め込み角度として使用される。
【0094】
また、1回目のステップS203において、値θが、値θに対して所定範囲内ではないと判定された場合、ケーブルA1、A2の伸びが大きく、補正が必要であると判定できるため、ステップS204に進む。
【0095】
そして、ステップS204において、値θと値θとの差分Δθが、補正値として取得される。
【0096】
そして、ステップS205において、差分Δθが、正常範囲内であるか否かが、しきい値θS2に基づいて判定される。具体的には、差分Δθが、θS2<Δθ<0の範囲内であるか否かが判定される。差分Δθが、正常範囲内であると判定された場合、ステップS207に進む。
【0097】
そして、ステップS207において、値θと、値θとに基づいて、値θを補正する閉め角補正が行われる。具体的には、値θと値θとの差分Δθを、値θに加えることにより、値θが補正される。より具体的には、θ0c=θ+θ+Δθ(θ0cは補正後の最大閉め込み角度)の式で表されるように、最大閉め込み角度が補正される。
【0098】
そして、ステップS208において、ジョー部材43a、43bの再閉め込み動作が行われる。再閉め込み動作では、ジョー部材43a、43bが、補正後の最大閉め込み角度θ0cまで閉め込まれるように駆動される。そして、ステップS202に進む。そして、ステップS202において、所定の電流値Iとなるときの閉め込み角度θが再び取得される。
【0099】
そして、ステップS208を経由した2回目のステップS203では、θ-Δθ(ただし、Δθ=θ-θ)が、θ-θS1≦θ-Δθ≦θ+θS1の範囲内であるか否かが判定される。ここで、θ-Δθは、θ-θ+θであり、θとなる。このため、ステップS203において、θ-Δθが、θ-θS1≦θ-Δθ≦θ+θS1の範囲内であると判定され、補正が行われた状態で、制御処理が終了される。
【0100】
また、ステップS205において、差分Δθが、正常範囲内ではないと判定された場合、ステップS209に進む。
【0101】
そして、ステップS209において、差分Δθが、2回連続で正常範囲内ではないと判定されたか否かが判定される。差分Δθが、2回連続で正常範囲内ではないと判定されていないと判定された場合、ステップS201に進む。そして、ステップS201~S205の処理が繰り返される。また、差分Δθが、2回連続で正常範囲内ではないと判定されていないと判定された場合、ステップS210に進む。そして、ステップS210において、エラー表示が行われて、制御処理が終了される。
【0102】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0103】
たとえば、上記実施形態では、モータの回転角度に対応する値(θ、θ、θなど)が、ジョー部材の閉め込み角度を表す値である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、モータの回転角度に対応する値が、ジョー部材の閉め込み角度以外を表す値であってもよい。たとえば、モータの回転角度に対応する値が、モータの回転角度であってもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、第3の値(θ)が、ジョー部材の閉じ方向へのモータの最大回転角度に対応する値である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第3の値が、値θよりも絶対値が大きい、ジョー部材の閉じ方向へのモータの最大回転角度以外の回転角度に対応する値であってもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、第2の値(θ)と第1の値(θ)の差分(Δθ)が、正常範囲内であるか否かを判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第2の値と第1の値の差分が、正常範囲内であるか否かを判定しなくてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、第2の値(θ)が第1の値(θ)に対して所定範囲であるか否かを判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第2の値が第1の値に対して所定範囲であるか否かを判定しなくてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、第1の値(θ)と第3の値(θ)とを記憶する第1記憶部(45)が手術器具に設けられ、第2の値(θ)と第1の値とに基づく補正値(Δθ)を記憶する第2記憶部(26)がロボット本体に設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1記憶部がロボット本体に設けられていてもよいし、第2記憶部が手術器具に設けられていてもよい。また、第2記憶部が、一時記憶部でなくてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、手術器具のロボットアームへの取り付けが、手術中において初回であるか否かを判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、手術器具のロボットアームへの取り付けるたびに、キャリブレーションが開始されてもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、第2の値(θ)と、第1の値(θ)と、第4の値(θ)とに基づいて、第3の値(θ)を補正する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第3の値(θ)の補正に、第4の値(θ)を使用しなくてもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、手術器具のジョー部材の駆動をモータの回転角度で制御する構成において、ケーブルの伸びが原因のジョー部材の把持力の低下を抑制する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、細長要素としてロッドを使用してもよく、また、被駆動部材として、ギア、プーリ、ベアリングを使用しても良く、手術器具のギア、プーリ、ベアリングおよびロッドの摩耗、焼き付き、かじり、欠けおよび錆等が原因のジョー部材の把持力の低下を補正しても良い。また、本発明では、ジョー部材の摩耗に伴う把持力の低下を補正しても良い。
【0111】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0112】
また、上記実施形態では、第2の値(θ)と、第1の値(θ)とに基づいて、指令角度としての第3の値(θ)を補正する例を示したが、図14に示す変形例のようにしてもよい。図14に示す変形例では、コントローラ24は、値θと、値θと値θとの差分Δθとに基づいて、値θを補正せずに、ジョー部材43a、43bの閉め込み動作の指令角度を変更する、キャリブレーションを行う。図14に示す変形例では、値θ、および、値θと値θとの差分Δθが、記憶部45に予め記憶されている。キャリブレーションにおいて、コントローラ24は、モータ212aの回転角度に対応する値が値θ+Δθになるように(値θ+Δθを目標値として)モータ212aを回転させてジョー部材43a、43bを閉じている際中に、値θを取得する。また、コントローラ24は、差分Δθを、値θに加える。これにより、コントローラ24は、指令角度としての値θ+Δθを、値θ+Δθに変更するキャリブレーションを行う。ジョー部材43a、43bは、差分Δθを値θに加えた閉め込み角度まで、閉め込み可能となる。
【0113】
また、図15は、差分Δθを用いた別の変形例を示す。この例では、値θ、および、値θと値θとの差分Δθが、記憶部45に予め記憶されている。キャリブレーションにおいて、コントローラ24は、モータ212aの回転角度に対応する値が値θになるように(値θを目標値として)モータ212aを回転させてジョー部材43a、43bを閉じている際中に、値θを取得する。また、コントローラ24は、差分Δθを、値θに加える。これにより、コントローラ24は、指令角度としての値θを、値θ+Δθに変更するキャリブレーションを行う。ジョー部材43a、43bは、差分Δθを値θに加えた閉め込み角度まで、閉め込み可能となる。
【符号の説明】
【0114】
21a:ロボットアーム、24:コントローラ(制御部)、26:一時記憶部(第2記憶部)、27:ロボット本体、40:手術器具、43a、43b:ジョー部材、45:記憶部(第1記憶部)、100:ロボット手術システム、212a:モータ、A1、A2:ケーブル(細長要素)、I:所定の電流値、θ:値(第3の値)、θ:値(第1の値)、θ2:値(第2の値)、θ:値(第4の値)、θS1:しきい値(第2しきい値)、θS2:しきい値(第1しきい値)、Δθ:差分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15