(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125973
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】測定試料の調製方法および試料調製装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230831BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/543 541A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030373
(22)【出願日】2022-02-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度~令和5年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(患者層別化マーカー探索技術の開発)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】新 和之
(72)【発明者】
【氏名】マルリザ マドゥン
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠人
(72)【発明者】
【氏名】正見 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 美悠
(57)【要約】
【課題】自動化が容易であるとともに、測定対象細胞のシグナルへの影響の少ない、血液検体から試料を調製する測定試料の調製方法を提供する。
【解決手段】この測定試料の調製方法は、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去することと、赤血球が除去された血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させることと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去することと、
赤血球が除去された前記血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させることと、を備える、測定試料の調製方法。
【請求項2】
前記血液検体から赤血球を除去することは、赤血球と前記固相とを含む複合体を形成し、形成した前記複合体と前記血液検体の上清とを分離することを含む、請求項1に記載の測定試料の調製方法。
【請求項3】
前記複合体は、赤血球と前記固相とが、赤血球および前記固相に対して結合能を有する結合物質を介して結合している、請求項2に記載の測定試料の調製方法。
【請求項4】
赤血球と前記固相とを含む前記複合体を形成することは、前記血液検体と、前記結合物質と、前記固相とを接触させることにより、前記複合体を形成することを含む、請求項3に記載の測定試料の調製方法。
【請求項5】
前記結合物質は、前記赤血球に結合可能な抗体を含む、請求項3または4に記載の測定試料の調製方法。
【請求項6】
前記固相は磁性粒子を有し、
前記血液検体から赤血球を除去することは、前記複合体を磁石により集磁しながら前記血液検体の上清を吸引することを含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の測定試料の調製方法。
【請求項7】
前記血液検体から赤血球を除去することは、形成した前記複合体をフィルターにより濾別することにより前記血液検体の上清を分離することを含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の測定試料の調製方法。
【請求項8】
前記血液検体から赤血球を除去することは、形成した前記複合体を遠心分離により沈降させて前記血液検体の上清を分離することを含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の測定試料の調製方法。
【請求項9】
赤血球が除去された前記血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させることは、前記血液検体を遠心分離することを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の測定試料の調製方法。
【請求項10】
血液検体と試薬とを反応させて測定試料を調製する試料調製装置であって、
赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去する第1処理部と、
赤血球が除去された前記血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させる第2処理部と、を備える、試料調製装置。
【請求項11】
前記第1処理部は、赤血球と前記固相とを含む複合体を形成し、形成した前記複合体と前記血液検体の上清とを分離する分離部を含む、請求項10に記載の試料調製装置。
【請求項12】
前記複合体は、赤血球と前記固相とが、赤血球および前記固相に対して結合能を有する結合物質を介して結合している、請求項11に記載の試料調製装置。
【請求項13】
前記第1処理部は、前記血液検体と、前記結合物質と、前記固相とを接触させることにより、前記複合体を形成する、請求項12に記載の試料調製装置。
【請求項14】
前記結合物質は、前記赤血球に結合可能な抗体を含む、請求項12または13に記載の試料調製装置。
【請求項15】
前記固相は磁性粒子を有し、
前記第1処理部は、前記複合体を集磁する磁石を含み、前記複合体を前記磁石により集磁しながら前記血液検体の上清を吸引して前記複合体と前記血液検体の上清とを分離する、請求項11~14のいずれか1項に記載の試料調製装置。
【請求項16】
前記第1処理部は、形成した前記複合体を濾別して前記血液検体の上清を分離するフィルターを含む、請求項11~14のいずれか1項に記載の試料調製装置。
【請求項17】
前記第1処理部は、形成した前記複合体を遠心分離により沈降させて前記血液検体の上清を分離する第2遠心分離部を含む、請求項11~14のいずれか1項に記載の試料調製装置。
【請求項18】
前記第2処理部は、前記血液検体を遠心分離する第1遠心分離部を含む、請求項10~17のいずれか1項に記載の試料調製装置。
【請求項19】
前記血液検体が収容された検体容器が載置される検体セット部と、
前記第2処理部において反応させる前記血液検体が収容される反応容器が載置される反応容器供給部と、
前記反応容器供給部と前記第2処理部との間で前記反応容器を移送するための容器移送部と、
前記第1処理部において処理される前記血液検体が収容される処理容器に前記検体容器から前記血液検体を分注するための第1分注部と、
試薬設置部に設置される試薬を、前記第1処理部の前記処理容器、または、前記第2処理部内の前記反応容器に分注するための第2分注部と、をさらに備える、請求項10~18のいずれか1項に記載の試料調製装置。
【請求項20】
前記第2分注部は、前記処理容器から上清を吸引し、前記第2処理部内の前記反応容器に分注する、請求項19に記載の試料調製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体から試料を調製する測定試料の調製方法および試料調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液に含まれる白血球を分析するために、フローサイトメータを用いた分析が広く用いられている。例えば、血液に含まれる測定対象の細胞の細胞表面抗原や細胞内抗原が標識抗体によって免疫染色され、フローサイトメータによる光学的な測定によって免疫染色された細胞が検出される。このようなフローサイトメータ分析用の試料を血液検体から調製する場合、血液中の赤血球を除去する必要がある。特許文献1には、血液から密度勾配遠心分離によってPBMC(末梢血単核細胞)を回収し、回収されたPBMCの細胞表面抗原と細胞内抗原とを染色し、染色された試料をフローサイトメータによって測定して調節性T細胞を同定することが開示されている。特許文献2には、フローサイトメータによる分析のための試料を調製する方法が開示されている。特許文献2には、血液細胞を染色する工程、赤血球を溶解剤により溶解する工程および染色された血液細胞を固定化する工程が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-528697号公報
【特許文献2】特許第6170511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるように遠心分離によってPBMCを回収する方法は、赤血球を除去する方法として一般的に用いられているが、遠心分離後に遠心管の中間にできるPBMCの層だけを取り出す操作は、ピペットの先端をPBMCの層まで挿入し、PBMC以外の層を吸わないようにPBMCだけをピペットで吸引する手技が必要であり、自動化が難しい。また、特許文献2の溶解剤を用いる方法は、自動化が容易である一方、溶解剤が直接的または間接的にタンパク発現量に影響し、細胞から得られるシグナルが変化するおそれがある。そのため、たとえば、特許文献1に開示される調節性T細胞のような希少細胞においては検出性能が低下するおそれがある。このため、自動化が容易であるとともに、シグナルへの影響(測定結果の変動)の少ない、血液検体から試料を調製する測定試料の調製方法および試料調製装置が望まれている。
【0005】
この発明は、自動化が容易であるとともに、測定対象細胞のシグナルへの影響の少ない、血液検体から試料を調製する測定試料の調製方法および試料調製装置を実現することに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明による測定試料の調製方法は、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去することと、赤血球が除去された血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させることと、を備える。
【0007】
第1の発明による測定試料の調製方法は、上記のように、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去する。これにより、赤血球に結合した固相とともに赤血球を除去することができるので、赤血球を除去する処理の自動化が容易である。また、溶解剤により赤血球を溶解して除去する場合と異なり、測定対象細胞のシグナルへの影響(測定結果の変動)を低減することができる。
【0008】
第2の発明による試料調製装置は、
図2に示すように、血液検体と試薬とを反応させて測定試料を調製する試料調製装置(100)であって、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去する第1処理部(20)と、赤血球が除去された血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させる第2処理部(30)と、を備える。
【0009】
第2の発明による試料調製装置は、上記のように、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去する第1処理部(20)を備える。これにより、赤血球に結合した固相とともに赤血球を除去することができるので、赤血球を除去する処理の自動化が容易である。また、溶解剤により赤血球を溶解して除去する場合と異なり、測定対象細胞のシグナルへの影響(測定結果の変動)を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動化が容易であるとともに、測定対象細胞のシグナルへの影響の少ない、測定試料の調製方法および試料調製装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試料調製装置による血液検体から赤血球を除去する第1例~第3例の概略を示した図である。
【
図2】試料調製装置の構成例の概要を示した模式図である。
【
図3】試料調製装置による処理フローの概略を示した図である。
【
図4】試料調製処理の具体例を説明するための図である。
【
図5】試料調製装置による反応容器を移送する際のラックの移動を示した図である。
【
図6】試料調製装置による検体を分注する際のラックの移動を示した図である。
【
図7】試料調製装置による第1処理部により処理する際のラックの移動を示した図である。
【
図8】試料調製装置による第1処理部により処理した後のラックの移動を示した図である。
【
図9】実施例および比較例のTeff細胞の検出結果を示した図である。
【
図10】実施例および比較例のTreg細胞の検出結果を示した図である。
【
図11】実施例のリンパ球に分画された細胞のうちCD4の発現量の大きいT細胞を分画したスキャッタグラムである。
【
図12】比較例のリンパ球に分画された細胞のうちCD4の発現量の大きいT細胞を分画したスキャッタグラムである。
【
図13】実施例のCD4+T細胞のうちCD62Lの発現量の低い細胞(CD4+/CD62L
Low T細胞)を分画したヒストグラムである。
【
図14】比較例のCD4+T細胞のうちCD62Lの発現量の低い細胞(CD4+/CD62L
Low T細胞)を分画したヒストグラムである。
【
図15】実施例のCD4+T細胞のうちCD25およびFOXP3の発現量の高いT細胞(CD4+/CD25+/FOXP3+T細胞)を分画したスキャッタグラムである。
【
図16】比較例のCD4+T細胞のうちCD25およびFOXP3の発現量の高いT細胞(CD4+/CD25+/FOXP3+T細胞)を分画したスキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の測定試料の調製方法(以下、「本実施形態の調製方法」ともいう)は、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去することと、赤血球が除去された前記血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させることと、を含む。本実施形態の調製方法によれば、赤血球が除去され、かつ特定の細胞が免疫染色された測定試料が調製される。
【0013】
本実施形態の方法によって調製される測定試料は、血液検体に含まれる細胞が免疫染色された測定試料であり、特にフローサイトメータによる測定に適した測定試料である。血液検体は、例えば、生体由来の検体であり、たとえば、被検体から採取された全血である。被検体は、主としてヒトであるが、ヒト以外の他の動物であってもよい。
【0014】
血液検体は、少なくとも測定対象の細胞と赤血球とを含む。測定対象の細胞とは、例えば白血球であり、より具体的には、リンパ球である。さらに具体的にはT細胞である。さらに具体的には、測定対象の細胞は、T細胞のうちの制御性T細胞(以下、Treg細胞ともいう)およびエフェクターT細胞 (以下、Teff細胞ともいう)である。これらTreg細胞およびTeff細胞は、後述するようにTreg細胞およびTeff細胞に特異的に発現する細胞表面抗原および細胞内抗原を免疫染色し、フローサイトメトリー法によって得られる蛍光シグナルを取得することにより、互いに区別されて計数される。
【0015】
Treg細胞およびTeff細胞以外の細胞から発せられるシグナルは、正確な分類計数を阻害するノイズとなる。特に、血液検体に大量に含まれる赤血球のノイズは大きいため、フローサイトメトリー法による測定前に赤血球を除去する必要がある。
【0016】
従来、血液検体に含まれる赤血球を除去するために、溶解剤が広く用いられている。溶解剤としては、例えば、塩化アンモニウムや界面活性剤が一般的である。これらの溶解剤は安価であり、血液検体と混合するだけで赤血球を除去できる点で調製が容易であることから、CD4やCD25のような一般的な抗原マーカーを測定するための測定試料の調製においても広く用いられている。しかしながら、発明者らが検討したところ、特定の細胞表面抗原および細胞内抗原の測定にあたって、従来の溶解剤を用いた赤血球除去の方法では、測定対象とする細胞、特に後述の実施例で述べるTreg細胞およびTeff細胞の測定にあたって、蛍光シグナルに影響があることがわかった。また、発明者らがさらに研究を進めたところ、溶解剤による赤血球除去に代えて、赤血球に結合可能な固相を用いて赤血球を除去することにより、蛍光シグナルへの影響を低減できることがわかった。以下、本実施形態による測定試料の調製方法について、詳述する。
【0017】
<赤血球除去>
赤血球に結合可能な固相は、例えば、血液検体と接触することで、血液検体中に浮遊する赤血球を捕捉、吸着することが可能な固相である。赤血球に結合可能な固相は、赤血球に特異的に結合し、測定対象とする細胞、例えば白血球、には結合しない。赤血球に特異的に結合するために、固相の表面には赤血球と結合可能な抗体が固定化されていることが好ましい。赤血球に結合可能な抗体は、例えば、赤血球の表面抗原に抗原抗体反応によって結合可能な抗体(以下、赤血球捕捉抗体ともいう)であることが好ましく、例えば、CD235a抗体、CD55抗体などが挙げられる。赤血球に特異的に結合可能な抗体としてはCD235a抗体が特に好ましい。また、マウス由来の血液に含まれる赤血球を除去する場合であれば、TER―119抗体を用いてもよい。
【0018】
赤血球捕捉抗体を固相の表面に固定化する方法としては、例えば、アビジン又はストレプトアビジンとビオチンの相互作用を用いることが好ましい。例えば、ビオチン化した赤血球捕捉抗体と、ストレプトアビジンが結合した固相とを反応させることで、固相の表面に赤血球捕捉抗体を固定化することができる。赤血球捕捉抗体は予め固相に固定化された状態で血液検体と混合されてもよいし、赤血球捕捉抗体と固相がそれぞれ別に血液検体と混合され、血液検体中で赤血球捕捉抗体が固相に固定化されてもよい。
【0019】
固相は、粒子であることが好ましい。固相として粒子を用いることで、粒子を血液検体に添加することで、粒子の表面に赤血球を吸着することができる。粒子は血液検体中に分散するため、効率的に赤血球を吸着することができる点で有利である。以下、固相としての粒子を固相粒子という。
【0020】
固相粒子を用いる場合の赤血球除去の例について、
図1を参照して説明する。固相粒子を用いる場合の赤血球除去方法の例としては、(A)BF(Bound Free)分離法、(B)濾過法および(C)凝集法が挙げられる。
【0021】
BF分離法について説明する。BF分離法では、固相粒子として磁性粒子が用いられる。
図1に示すように、第1の工程において、赤血球捕捉抗体が表面に固定化された磁性粒子が血液検体に添加される。血液検体と磁性粒子の混合物は、好ましくは撹拌され、血液検体中に磁性粒子が分散する。第2の工程において、血液検体中の赤血球が磁性粒子の表面に吸着される。第3の工程において、磁性粒子が磁石によって集磁される。例えば、
図1に示すよう、血液検体と磁性粒子の混合物を収容した容器の近傍(
図1の例では側面)に磁石Mを配置し、容器内に分散していた磁性粒子を容器の内側面に局在化する。これにより容器内で赤血球を分離する。第4の工程において、磁性粒子を集磁した状態の容器内の液体のうち赤血球を含まない部分、例えば上清を分取する。これにより、血液検体から赤血球が分離される。
【0022】
磁性粒子を集磁するために磁石Mを容器の側面に配置する時間は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以上である。磁石Mを配置する位置は、容器の近傍であって、容器内の磁性粒子を局在化させるのに十分な磁力を与えつつ、局在化された磁性粒子を含む複合体を避けてピペッティングにより上清を吸引できる位置であればよく、例えば容器側面又は底面である。磁石Mを容器近傍に配置する第3工程は、磁石Mと容器を相対的に移動することによって実現できる。例えば、磁性粒子を含む容器を磁石Mに近づけてもよいし、容器に対して磁石Mを近づけてもよい。
【0023】
BF分離法では、磁性粒子を容器の側面に集磁することで液相内で赤血球を分離することができるため、操作が容易である利点がある。
【0024】
次に濾過法について説明する。濾過法では、BF分離法の第1および第2工程と同様に、固相粒子が血液検体に添加され、赤血球が固相粒子の表面に吸着される。第3工程において、赤血球を吸着した固相粒子を含む血液検体が、フィルタFを備えるカラムに分注される。フィルタFは、対象細胞、例えば白血球が通過することを許容するが、固相粒子は通過できない大きさのポアサイズを有する多孔質部材からなる。血液検体がフィルタの上面に分注されると、血液検体がフィルタFによって濾過され、対象細胞がフィルタFを通過し、赤血球を吸着した固相粒子がフィルタFにトラップされる。これにより、対象細胞を含む血液検体から赤血球が分離される。
【0025】
なお、濾過法では、フィルタFを用いた例を図示ししているが、フィルタに代えてビーズカラムを用いてもよい。ビーズカラムを用いる場合、赤血球捕捉抗体を表面に固定化した固相粒子をカラムに充填し、カラムに血液検体が注入される。固相粒子の間の間隙を血液検体が通過するときに、血液検体に含まれる赤血球が固相粒子表面に吸着される。
【0026】
次に凝集法について説明する。凝集法では、BF分離法の第1および第2工程と同様に、固相粒子が血液検体に添加される。赤血球が固相粒子の表面に吸着されることで、赤血球と固相粒子とが凝集塊を形成する。第3工程において、赤血球を吸着した固相粒子を含む血液検体が所定時間静置される。赤血球と固相粒子とにより形成される凝集塊は、自重によって容器の底部に沈降する。この状態で、対象細胞を含む上清を分取することで、血液検体から赤血球が分離される。
【0027】
凝集法では、赤血球と凝集塊を形成しやすい固相粒子を選択することが好ましく、例えばラテックス粒子を用いることが好ましい。
【0028】
<免疫染色>
上記のようにして赤血球が除去された血液検体に含まれる細胞が免疫染色される。免疫染色では、例えば、対象細胞の目的となる抗原に結合可能な標識抗体を含む抗体試薬と、血液検体とが混合されることにより、目的となる抗原が標識される。
【0029】
標識抗体は、例えば、特定の中心波長を有する励起光が照射されたことに応じて、特定の波長の蛍光シグナルを生じる標識分子によって修飾された抗体である。
【0030】
免疫染色によって標識される抗原の数は特に限定されず、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。複数種類の抗原を同時に染色する場合は、互いに異なる蛍光シグナルを発するように標識された複数の標識抗体を含むカクテル試薬と血液検体とを混合することで、複数の目的とする抗原を染色することができる。
【0031】
抗原の種類は、細胞表面に発現する抗原であってもよいし、細胞内に発現する抗原であってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。組み合わせる抗原の種類は、目的とする抗原に応じて変更することができる。例えば、後述する実施例では、Treg細胞およびTeff細胞を目的の細胞としている。Teff細胞は、CD4抗原陽性のT細胞(CD4+T細胞)のうち、CD62L抗原が低発現の細胞として同定できる。また、Treg細胞は、CD4+T細胞のうち、CD25抗原陽性かつFOXP3抗原陽性の細胞として同定できる。この例では、細胞表面抗原としてCD4、CD62L、CD25を免疫染色し、かつ、細胞内抗原としてFOXP3を免疫染色することができる。
【0032】
発明者らが検討した結果、上記で例示した抗原のうち、CD62L、CD25、FOXP3は、血液検体に含まれる赤血球を除去するために溶解剤によって処理した場合に、蛍光シグナルが低下することを見出した。これは、溶解剤が細胞に影響を与えることにより、細胞表面および細胞内の抗原が刺激を受け、又はダメージを受けることによるものと考えられる。これに対して、溶解剤に代えて、赤血球に結合可能な固相を用いて赤血球を除去する方法を採用したところ、上述の抗原のシグナルに及ぼす影響を低減できることが確認できた。
【0033】
免疫染色によって細胞表面抗原(例えばCD4、CD62L、CD25)と、細胞内抗原(例えばFOXP3)とを染色する場合、細胞表面抗原に特異的に結合する標識抗体を含む第1抗体試薬と、細胞内抗原に特異的に結合する標識抗体を含む第2抗体試薬とを、血液検体と混合する工程を含むことが好ましい。さらに、血液検体と混合する順序は、第1抗体試薬、第2抗体試薬の順であることが好ましい。血液検体は、第1抗体試薬によって細胞表面抗原が染色されたのち、第2抗体試薬の添加前に、固定化剤および膜透過剤と混合されることが好ましい。標識抗体のような大きな分子は細胞膜を通過して細胞内部に入ることができないため、膜透過剤は、標識抗体が細胞膜を通って細胞内に進入することを許容する。固定化剤は、膜透過剤によって処理された細胞膜を通じて、細胞内抗原、つまりタンパク質が拡散しないように固定化する。
【0034】
<フローサイトメータによる測定>
免疫染色された測定試料は、フローサイトメータによる測定に供される。フローサイトメータは、フローサイトメトリー法により、免疫染色された細胞から光学的なシグナル、例えば蛍光シグナルを取得し、蛍光シグナルに基づいて細胞を分析する。
【0035】
上記の方法によって赤血球が除去され、かつ細胞が免疫染色された測定試料をフローサイトメータによって測定した場合のTreg細胞およびTeff細胞の分類計数の方法について、以下に説明する。
【0036】
まず、血液検体に含まれる白血球からリンパ球が分類される。リンパ球は、例えば前方散乱光強度および側方散乱光強度に基づくパラメータに基づいて分類される。
【0037】
次に、リンパ球のうち、所定値以上のCD4+シグナルをもつ細胞が分類される。具体的には、CD4抗原に結合する標識抗体から発せられる蛍光シグナルが所定値以上である細胞を特定される。分類性能を高めるために、CD4に対応する蛍光シグナルに加えて、例えば散乱光強度、より好ましくは側方散乱光強度をパラメータとして組み合わせてもよい。
【0038】
CD4+細胞のうち、CD62Lが低発現である細胞(CD62Llow)が分類される。具体的には、CD62L抗原に結合する標識抗体から発せられる蛍光シグナルが所定値以下である細胞が特定される。CD62L抗原に結合する標識抗体から発せられる蛍光シグナルの強度を横軸、強度に対応する細胞のカウント数を縦軸とするヒストグラムを作成すると、蛍光シグナルの高値側にCD62L高発現の細胞のピークが現れ、低値側にCD62L低発現の細胞のピークが現れる、いわゆる二峰性のヒストグラムが描かれる。これら2つのピークの間の谷にあたる部分より蛍光シグナルの低値側にプロットされる細胞がCD62Llowとして特定される。
【0039】
CD4+細胞のうち、FOXP3+かつCD25+の細胞が分類される。具体的には、FOXP3抗原に結合する標識抗体から発せられる蛍光シグナル(FOXP3シグナル)が所定値以上であり、かつ、CD25抗原に結合する標識抗体から発せられる蛍光シグナル(CD25シグナル)が所定値以上である細胞が特定される。FOXP3シグナルの強度を第1軸とし、CD25シグナルの強度を第2軸とする二次元分布図を作成した場合、2つのシグナルのそれぞれについて所定値以上の領域と所定値未満の領域とが分けられた4つの象限が得られる。このうち、FOXP3シグナルが所定値以上であり、かつCD25シグナルが所定値以上である象限にプロットされる細胞がFOXP3+かつCD25+の細胞として特定される。これにより血液中のTreg細胞及びTeff細胞の数および割合が求められる。血液中のTreg細胞の割合及びTeff細胞の割合は、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)の薬効予測に有効であることがわかっている。
【0040】
具体的に、CD4+かつCD62Llowの細胞のリンパ球に対する割合を%Teff、CD4+かつFOXP3+かつCD25+の細胞のリンパ球に対する割合を%Tregとして求め、以下の式(1)に代入することにより、薬効予測の指標を求めることができる。
指標=[%Teff]2/[%Treg] ・・・(1)
例えば、この指標を経験的に設定したカットオフと比較することにより、患者をニボルマブの奏功群と非奏功群とに層別化することが可能である。本発明による試料調製方法によれば、Treg細胞及びTeff細胞からの蛍光シグナルを精度よく検出でき、正確な計数結果を得ることが可能となる。
【0041】
<前処理装置による自動化>
本実施形態の測定試料の調製方法は、対象細胞に対する蛍光シグナルの影響を低減できる利点を有し、かつ、自動化が容易である利点をさらに有する。以下、赤血球に結合可能な固相として磁性粒子を用いた場合の測定試料の調製の自動化の例について説明する。
【0042】
[試料調製装置の概要]
図2を参照して、一実施形態による試料調製装置100の概要について説明する。
【0043】
図2に示すように、試料調製装置100は、第1処理部20と、第2処理部30とを備える。第1処理部20は、赤血球に結合可能な固相を用いて血液検体から赤血球を除去する処理を行う。第2処理部30は、赤血球が除去された血液検体と細胞を免疫染色する試薬とを反応させる処理を行う。
【0044】
第1処理部20は、処理容器11を保持するラック10aと、反応容器12を保持するラック10bと、血液検体が収容された検体容器13を保持するラック10cと、を備える。第1処理部20は、ラック10a、10b、10cをそれぞれ横方向(X1及びX2方向)に移動させる第1移動部15、第2移動部16、及び第3移動部17を備える。
【0045】
試料調製装置100は、第1分注部41と、容器移送部42とを備える。第1分注部41および容器移送部42は、共通の移送軸43にY方向に移動可能に支持されている。第1分注部41は、ピペット41aを備える。第1分注部41は、ピペット41aを用いて、検体容器13に収容された血液検体を処理容器11に分注する。容器移送部42は、互いに近接及び離間可能な一対のハンド部42aを備える。容器移送部42は、ハンド部42aによって反応容器12を把持し、ラック10bと第2処理部30との間で反応容器12を移送する。
【0046】
試料調製装置100は、血液検体を撹拌する撹拌部50を備える。撹拌部50は、検体容器13をラック10cから取り出して転倒攪拌することにより、検体容器13内の血液検体を撹拌する。
【0047】
試料調製装置100は、第2分注部60を備える。第2分注部60は、移送軸61に横方向(X1及びX2方向)に移動可能に支持されている。移送軸61は、移送軸62にY方向に移動可能に支持されている。これにより、第2分注部60は、装置内において水平方向に移動可能である。第2分注部60は、ピペット60aを備える。第2分注部60は、ピペット60aを用いて、処理容器11から上清を吸引し、反応容器12に分注する。また、第2分注部60は、後述する試薬設置部70aおよび70bに設置される試薬を、第1処理部20の処理容器11または第2処理部30内の反応容器12に分注する。
【0048】
試料調製装置100は、試薬設置部70aおよび試薬設置部70bを備える。試薬設置部70aは、保冷庫を含み、試薬を冷却保持する。試薬設置部70bは、試薬を常温の状態で保持する。
【0049】
試料調製装置100は、ノズル洗浄部80を備える。ノズル洗浄部80は、第2分注部60のノズルを洗浄する。
【0050】
試料調製装置100は、装置の各部を制御する制御部90を備える。制御部90は、プロセッサおよび記憶部を備える。プロセッサは、たとえばCPUにより構成される。記憶部は、メモリおよびストレージを含みうる。プロセッサは、記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより試料調製装置100の制御部90として機能する。
【0051】
第1処理部20は、第1移動部15に隣接する位置に磁石21を備える。より具体的には、磁石21は、第1移動部15によって、処理容器11を保持したラック10aが原点(最も右側(X2側))に移動されたときに、ラック10aに保持された処理容器11の側面に隣接する位置に設けられている。
図2の例では磁石21は永久磁石であるが、電磁石であってもよい。
【0052】
第2処理部30は、遠心管である反応容器12を周方向に複数保持可能であり、軸を中心に高速回転することで、保持された反応容器12内の試料の遠心分離を行うことが可能な遠心分離部である。第2処理部30は、高速で回転するロータ31と、ロータ31の外周部に複数設けられたホルダ部32とを含む。ホルダ部32は、たとえば筒状形状を有し、内部に反応容器12を受け容れ可能である。また、ホルダ部32は、ロータ31の停止時に、反応容器12を、その開口が上方に向いた姿勢で保持する。
【0053】
[測定試料の調製方法の概略]
図3を参照して、試料調製装置100による測定試料の調製方法の概略について説明する。
【0054】
第1分注部41が、ラック10cに保持された検体容器13に収容された血液検体の一部を、ラック10aに保持された処理容器11に分注する。第2分注部60が、血液検体が分注された処理容器11に、ビオチン化された抗赤血球抗体を含む試薬を分注する。また、ラック10bは、反応容器12を容器移送部42により第2処理部30に移送する。
【0055】
第2分注部60は、血液検体が分注された処理容器11に、固相としてのストレプトアビジン結合磁性粒子を含む試薬を分注する。ストレプトアビジン結合磁性粒子とビオチン化された抗赤血球抗体とが反応し、結合することにより、赤血球と固相とを含む複合体が処理容器11内に形成される。第1移動部15が処理容器11を磁石21の側方に位置付けることにより、複合体が処理容器11の側方に集められる。
【0056】
第2分注部60が、複合体が側方に集められた処理容器11から上清を吸引し、第2処理部30の反応容器12に分注する。これにより複合体に含まれる赤血球から、測定対象となる細胞を含む上清が分離される。
【0057】
第2分注部60は、血液検体が分注された反応容器12に、抗体試薬を分注する。抗体試薬は、白血球の細胞表面抗原に結合する標識抗体(例えば、CD4、CD25、CD62Lに結合する標識抗体)を含む抗体カクテル試薬である。試料中の白血球と抗体試薬との反応後に、第2処理部30は、反応容器12内の試料に対して遠心分離を行う。遠心分離によって、白血球が反応容器12の底部に沈降する。第2分注部60は、遠心分離後の試料の上清を吸引して除去する。これにより、標識抗体と反応した白血球が反応容器12内に残り、未反応の抗体成分を含む上清が除去される。
【0058】
第2分注部60は、反応容器12内に固定・透過剤を分注する。固定・透過剤により、細胞膜内のタンパク質が固定化され、かつ細胞膜内への標識抗体の進入を許容するように膜が透過される。固定・透過剤との反応後に、第2処理部30は、反応容器12内の試料の遠心分離を行う。遠心分離によって、白血球が反応容器12の底部に沈降する。第2分注部60は、遠心分離後の試料の上清を吸引して除去する。これにより、固定・透過剤によって処理された白血球が反応容器12内に残り、固定・透過剤を含む上清が除去される。
【0059】
第2分注部60は、反応容器12内に抗体試薬を第2分注部60により分注する。抗体試薬は、細胞内抗原に結合する標識抗体(例えばFOXP3に結合する標識抗体)を含む試薬である。試料中の白血球と抗体試薬との反応後に、第2処理部30は、反応容器12内の試料に対して遠心分離を行う。遠心分離によって、白血球が反応容器12の底部に沈降する。第2分注部60は、遠心分離後の試料の上清を吸引して除去する。これにより、標識抗体と反応した白血球が反応容器12内に残り、未反応の抗体成分を含む上清が除去される。
【0060】
第2分注部60は、反応容器12内にバッファ(例えばリン酸緩衝液)を分注する。これにより、測定試料が調製される。容器移送部42は、測定試料が収容された反応容器12をラック10bに移送する。
【0061】
[試料調製装置の動作]
図4を参照して、試料調製装置100による測定試料の動作について説明する。以下では、第1移動部15、第2移動部16および第3移動部17によるラック10a~10cの移動について、さらに
図5~
図8も参照する。
【0062】
図5に示すように、ラック10a、10b、10cは、それぞれ、複数(たとえば、6つ)の容器を保持可能である。ラック10a、10b、10cは、第1移動部15、第2移動部16および第3移動部17によって、X1方向及びX2方向に搬送される。なお、本実施形態では、第1移動部15、第2移動部16および第3移動部17が一体的にX1方向及びX2方向にラックを移動する形態を説明するが、第1移動部15、第2移動部16および第3移動部17がそれぞれ独立してラックを移動する形態であってもよい。第1移動部15、第2移動部16および第3移動部17は、ラックに保持された容器の間隔に対応した距離ずつ、ラック10a、10b、10cをX1方向及びX2方向に搬送することが可能である。
図5~
図8では、それぞれの容器の位置をわかりやすく図示するため、容器の間隔に対応する大きさのマス目を図示している。
【0063】
〈検体分注処理〉
検体分注処理に先立って、
図5(A)に示すように、作業者により、ラック10aに、空の処理容器11がセットされる。また、作業者により、ラック10bに、空の反応容器12がセットされる。また、作業者により、ラック10cに血液検体が収容された検体容器13がセットされる。
【0064】
図4のステップS201において、反応容器12としての遠心管がラック10bから第2処理部30に搬送される。
図5(B)に示すように、位置P1に、最も左側の反応容器12が位置するように、ラックがX1方向に移動される。位置P1は、最も右側の位置から12マス目の位置である。位置P1において、反応容器12が容器移送部42により取り出され、第2処理部30に移送される。
図5(C)に示すように、位置P1に次の反応容器12が位置するように、ラックがX1方向に移動される。そして、反応容器12が、容器移送部42により取り出され、第2処理部30に順次移送される。最後の反応容器12が位置P1に移動されて、容器移送部42により第2処理部30に移送されるまで、この処理が繰り返される。
【0065】
ステップS202において、検体容器13内の血液検体が撹拌される。
図6(A)に示すように、位置P2に、最も左側の検体容器13が位置するように、第3移動部17によりラックがX2方向に移動される。位置P2は、最も右側の位置から8マス目の位置である。位置P2において、ラック10cの検体容器13が撹拌部50により取り出され、転倒撹拌される。
【0066】
ステップS203において、検体容器13から血液検体が吸引されて、ラック10aの処理容器11に吐出されて、血液検体が分注される。
図6(B)に示すように、ステップS202において撹拌された検体容器13が位置P1に位置するように、ラックがX1方向に移動される。位置P1において、第1分注部41が検体容器13内の血液検体の一部を吸引し、ラック10aに保持された処理容器11に吸引した血液検体を分注する。
図6(C)に示すように、位置P2に次の検体容器13が位置するように、ラックがX2方向に移動される。位置P2において検体容器13が撹拌部50により撹拌される。この位置P2における検体容器13の撹拌と、それに続く位置P1における血液検体の分注が、すべての検体容器13に対して行われるまで繰り返される。
図6(D)は、すべての検体容器13に対する撹拌と分注が完了した状態の図である。
【0067】
〈BF分離処理〉
ステップS204において、血液検体が吐出された処理容器11に抗体が分注される。
図7(A)に示すように、位置P3に最も左側の処理容器11が位置するように、ラックがX2方向に移動される。位置P3において、第2分注部60が、ビオチン化された抗赤血球抗体を処理容器11に分注する。
図7(B)に示すように、位置P3に次の処理容器11が位置するように、ラックがX1方向に移動される。そして、位置P3において、処理容器11に第2分注部60により抗赤血球抗体が分注される処理が繰り返される。
【0068】
すべての処理容器11に分注が完了すると、ステップS205において、処理容器11内の血液検体の撹拌が行われる。第1移動部15により、ラックがX1方向およびX2方向に繰り返し往復移動されて、処理容器11内の血液検体が撹拌される。処理容器11を保持するラック10aは、その後、所定時間(例えば20分)静置される。
【0069】
ステップS206において、処理容器11に緩衝液が分注される。第1移動部15がラック10aを移動させて、位置P3において、各処理容器11内に第2分注部60によりバッファが分注される。第1移動部15によりラック10aが高速移動されて、処理容器11内の血液検体が撹拌される。その後、静置される。たとえば、緩衝液として、BSA溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が分注される。また、緩衝液が分注された血液検体が撹拌される。
【0070】
ステップS207において、処理容器11に磁性粒子が分注される。たとえば、磁性粒子として、ストレプトアビジン結合磁性粒子が分注される。
図7(C)に示すように、位置P3に最も左側の処理容器11が位置するように、ラックがX1方向に移動される。位置P3において、処理容器11に第2分注部60により、固相としてのストレプトアビジン結合磁性粒子が分注される。
図7(D)に示すように、位置P3に次の処理容器11が位置するように、ラックがX1方向に移動される。そして、位置P3において、処理容器11に第2分注部60により磁性粒子を含む固相が分注される処理が繰り返される。
【0071】
ステップS208において、処理容器11内の血液検体を撹拌して反応が行われる。所要時間はたとえば5分間である。移動部15によりラックが高速移動されて、処理容器11内の血液検体が撹拌される。その後、静置される。これにより、赤血球と固相とを含む複合体が処理容器11内に形成される。
【0072】
ステップS209において、集磁が行われる。
図7(E)に示すように、位置P4に各処理容器11が位置するように、ラックがX2方向に移動される。位置P4は、最も右側のマスから6つ分のマスに対応する位置である。位置P4に隣接する位置に磁石21が設けられている。磁石21により、赤血球と固相とを含む複合体が処理容器11の内側面に集磁される。所要時間はたとえば10分間である。
【0073】
ステップS210において、集磁が行われている処理容器11内の血液検体の上清(例えば700μL)が吸引され、第2処理部30の反応容器12に吐出されて分注される。
図8(A)に示すように、位置P4において各処理容器11から第2分注部60により上清が吸引されて、第2処理部30に移送された各反応容器12に分注される。
【0074】
ステップS212において、反応容器12内の試料が遠心分離される。第2処理部30は、ロータ31を高速回転することにより、反応容器12の底部に白血球を沈降させる。
【0075】
ステップS213において、反応容器12内の上清が除去される。第2分注部60は、遠心分離によって白血球が沈降した反応容器12の上清(例えば600μL)を吸引して除去する。
【0076】
ステップS214において、反応容器12内の試料が撹拌される。ステップS212およびS213により、反応容器12の底部に白血球が沈降している。この沈降した白血球を分散させるため、反応容器12が撹拌される。第2処理部30は、ロータ31を一方向に加減速を繰り返しながら回転させることにより、反応容器12内の試料を撹拌する。
【0077】
〈第1の染色処理〉
ステップS215において、反応容器12に、抗体試薬が分注される。第2分注部60が、抗体試薬として、CD25標識抗体、CD4標識抗体、CD62L標識抗体を含むカクテル試薬を、第2処理部30に保持された反応容器12に分注する。
【0078】
ステップS216において、第2処理部30は、ロータ31を一方向に加減速を繰り返しながら回転させることにより、反応容器12内の試料を撹拌する。所定時間はたとえば30分間である。
【0079】
ステップS217において、反応容器12に固定前検体用の洗浄液が分注される。第2分注部60は、洗浄液としてのPBSを反応容器12内に分注する。
【0080】
ステップS218において、第2処理部30は、ロータ31を一方向に加減速を繰り返しながら回転させることにより、反応容器12内の試料を撹拌する。
【0081】
ステップS219において、第2処理部30は、ロータ31を一方向に高速回転させることにより、反応容器12内の試料を遠心分離する。これにより、抗体試薬と反応した白血球が沈降する。
【0082】
ステップS220において、第2分注部60が、反応容器12から上清を吸引して除去する。以上により、表面抗原CD25、CD4、CD62Lが、それぞれ対応する標識物質により染色される。
【0083】
〈細胞の固定および透過処理〉
ステップS221において、第2分注部60が、反応容器12に固定・透過剤を分注する。
【0084】
ステップS222において、第2処理部30は、ロータ31を一方向に加減速を繰り返しながら回転させることにより、反応容器12内の試料を撹拌し、反応が行われる。所定時間はたとえば30分間である。
【0085】
ステップS223において、第2分注部60が、反応容器12に固定後検体用の洗浄液を分注する。
【0086】
ステップS224において、第2処理部30は、ロータ31を一方向に加減速を繰り返しながら回転させることにより、反応容器12内の試料を撹拌する。
【0087】
ステップS224において、第2処理部30は、ロータ31を高速回転させることにより、反応容器12内の試料を遠心分離する。
【0088】
ステップS226において、第2分注部60が、反応容器12から上清を吸引して除去する。
【0089】
ステップS227~S230において、洗浄液の分注、撹拌、遠心分離および上清の除去が行われる。つまり、検体の洗浄処理が繰り返される。検体の洗浄処理は、1回、2回、3回以上でもよい。以上により、反応容器12中の細胞に対する固定化処理および透過処理が行われる。
【0090】
〈第2の染色処理〉
ステップS231において、第2分注部60が、反応容器12に抗体試薬を分注する。たとえば、抗体試薬として、抗FOXP3標識抗体を含む試薬が分注される。
【0091】
ステップS232において、第2処理部30は、ロータ31を一方向に加減速を繰り返しながら回転させることにより、反応容器12内の試料を撹拌して反応が行われる。所定時間はたとえば30分間である。
【0092】
ステップS233において、第2分注部60が、反応容器12に固定後検体用の洗浄液を分注する。ステップS234~236において、上述と同様にして、撹拌、遠心分離、上清の除去が行われ、ステップS237~S240において、洗浄液の分注、撹拌、遠心分離および上清の除去を含む検体の洗浄処理が繰り返される。検体の洗浄処理は、1回、2回、3回以上でもよい。以上により、反応容器12中のFOXP3が、対応する標識物質により染色される。
【0093】
〈容器返却〉
ステップS241において、第2分注部60が反応容器12に緩衝液を分注する。分注により、測定装置への供給に適した所定の液量、所定のpHになるように反応容器12内の試料が調整される。たとえば、緩衝液として、BSA溶液およびPBSが分注される。
【0094】
ステップS242において、第2処理部30は、上述と同様によりロータを回転して撹拌が行われる。
【0095】
ステップS243において、容器移送部42が、第2処理部30に保持された反応容器12をロータ31から取り出して、第2移動部16に保持されたラック10bにセットする。全ての反応容器12がラック10bに移送されると、
図8(D)に示すように、移動部15~17によりラックがX2方向に移動されて、初期位置に戻る。これにより、作業者が反応容器12を取り出すことが可能になる。
【0096】
以上により、試料調製装置100による試料調製が完了する。
【0097】
<分離法および溶血法の比較データ>
以下の実験により、本願発明による分離法と、比較例による溶血法とで、Treg細胞及びTeff細胞の検出性能に及ぼす影響を比較した。
【0098】
(実施例(分離法による試料調製))
ヘパリン採血管に採取した全血検体を試験管に分注した。試験管に50μLのビオチン化したCD235a抗体を加えて撹拌し、室温で20分間静置した。0.6mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を試験管に加えた。200μLのストレプトアビジン結合磁性粒子の含有液(Mojosort(登録商標))を試験管に加えて撹拌し、室温で5分間静置した。永久磁石を試験管の側面に接するように配置し、室温で10分間静置することで、赤血球-ビオチン化CD235a抗体-ストレプトアビジン結合磁性粒子の複合体を試験管の内壁に集めた。試験管内の溶液の上清0.7mLをピペットで採取し、遠心管に分注した。遠心管を室温で5分間、300Gで遠心分離し、上清600μLを除去することにより、実施例の試料を得た。
【0099】
(細胞表面抗原の染色)
試料に、CD4/CD25/CD62Lの抗体カクテル試薬を50μL添加し、撹拌したのち室温で30分間静置した。抗体カクテル試薬は、FITC標識したCD4抗体と、PE-Cy7標識したCD25抗体と、APC標識したCD62L抗体を含んでいた。抗体カクテル試薬と反応済みの試料に1mLのPBSを添加し、撹拌した。試料を室温で5分間、300Gで遠心分離し、上清を除去して撹拌した。
【0100】
(固定・膜透過)
遠心分離後の試料に0.5mLの固定/膜透過剤(eBioscience Foxp3 / Transcription Factor Fixation/Permeabilization Concentrate and Diluent、インビトロジェン社製)を加えて撹拌し、室温で30分間静置した。試料に1mLの洗浄液(eBioscience Permeabilization Buffer (10X)、インビトロジェン社製)を加えて撹拌した。試料を室温で5分間、400Gで遠心分離し、上清を除去した。遠心分離後の試料に1mLの洗浄液(同上)を加えて撹拌し、室温で5分間、400Gで遠心分離し、上清を除去して撹拌した。
【0101】
(細胞内抗原の染色)
得られた試料に、PE標識されたFOXP3抗体を含む抗体試薬を50μL添加し、室温で30分間静置した。試料に1mLの洗浄液(eBioscience Permeabilization Buffer (10X)、インビトロジェン社製)を加えて撹拌した。試料を室温で5分間、400Gで遠心分離し、上清を除去した。遠心分離後の試料に1mLの洗浄液(同上)を加えて撹拌し、室温で5分間、400Gで遠心分離し、上清を除去して撹拌した。
【0102】
(フローサイトメータによる測定)
0.5%BSAを含む0.3mLのPBSを試料に添加し、撹拌した。得られた試料を市販のフローサイトメータ FACS Canto II(ベクトンディッキンソン社製)で測定し、Teff細胞(CD62LlowかつCD4+のT細胞)と、Treg細胞(CD25+、Foxp3+、かつCD4+のT細胞)をそれぞれ計数した。
【0103】
(比較例(溶血法による試料調製))
ヘパリン採血管に採取した全血検体を遠心管に分注した。遠心管に2mLの溶血剤(CyLyse;シスメックス株式会社製)を加えて室温で10分間静置することにより、血液中の赤血球を溶血した。遠心管をボルテクスミキサーで攪拌したのち、2mLのPBSを遠心管に加えた。遠心管を室温で5分間、300Gで遠心分離し、上清を除去した。遠心管に2mLのPBSを加え、再び遠心管を室温で5分間、300Gで遠心分離して、上清を除去し、比較例の試料を得た。比較例の試料について、実施例と同様の操作を行い、フローサイトメータによる測定を実施した。
【0104】
(対照実験)
ヘパリン採血管に採取した5mlの全血検体を、5mLの液体培地(10mM HEPES/PRMI-1640)で希釈した。10mLのリンパ球分離用媒体(Ficoll-Paque Plus、Cytiva社製)を50mLチューブに入れた。このチューブに、希釈された全血検体を入れて重層した。Ficoll Paque Plusの添付文書に記載のインストラクションにしたがってチューブ内でPBMCの分離を行い、CELLBANKER2(日本全薬工業社製)を用いてPBMCを1x10^6 cells/mLとなるように懸濁し、ディープフリーザーで凍結した。凍結処理後、PBMCを24時間以降1週間以内に液体窒素(液相下)へ移管した。解凍した細胞を、10% FBS/RPMI1640で洗浄後、10% FBS/RPMI1640を1x10^6 cells/mLとなるように添加した。2mLの細胞懸濁液を24穴プレート(コーニング社製) に入れ、48時間培養した。培養後、細胞培養液を15mL チューブに移し、400Gで5分間遠心分離して、対照例の試料を得た。対照例の試料について、実施例と同様の操作を行い、フローサイトメータによる測定を実施した。
【0105】
(測定結果)
測定した結果を
図9および
図10に示す。
【0106】
図9に示すように、Teff細胞の検出性能においては、実施例の分離法によって調製した測定用試料は、対照実験の凍結PBMCを用いた試料と良好な相関を示した(相関係数=0.9419)。さらに、実施例は、比較例(相関係数=0.7064)に比べて相関係数において優位に高い値を示した。
【0107】
図10に示すように、Treg細胞の検出性能においては、実施例の分離法によって調製した測定用試料は、対照実験の凍結PBMCを用いた場合の結果と良好な相関を示した(相関係数=0.8679)。さらに、実施例は、比較例(相関係数=0.0065)に比べて相関係数において優位に高い値を示した。
【0108】
これらの結果から、本発明による分離法は、Teff細胞およびTreg細胞の両者に対して溶血法に比べて高い測定精度を示すことがわかった。また、分離法は、凍結PBMCを用いて試料調製する場合と同等の測定精度であることがわかった。
【0109】
(標識からのシグナルに関する考察)
図11および
図12は、リンパ球に分画された細胞のうちCD4の発現量の大きいT細胞(CD4+T細胞)を分画したスキャッタグラムである。
図11は、実施例(分離法)のスキャッタグラムであり、
図12は、比較例(溶血法)のスキャッタグラムである。CD4+T細胞の計数結果は、実施例(分離法)が44.4%に対して比較例(溶血法)が43.0%であり、有意な差はなかった。
【0110】
図13および
図14は、CD4+T細胞のうちCD62Lの発現量の低い細胞(CD4+、CD62L
LowのT細胞)を分画した、同一の検体から得られたヒストグラムである。
図13は、実施例(分離法)のヒストグラムであり、
図14は、比較例(溶血法)のヒストグラムである。このヒストグラムでは、CD62Lの蛍光シグナルが所定のカットオフ範囲内に入るものをCD4+、CD62L
Low T細胞、つまりTeff細胞として計数した。実施例(分離法)では、Teff細胞が8.48%であるのに対して、比較例(溶血法)では、Teff細胞が15.6%であった。実施例(分離法)のヒストグラムでは、CD62L
Low T細胞のピークと、CD62Lの発現量が高いT細胞(CD62L
High T細胞)のピークが明瞭に分かれており、ピーク間の谷間にプロットされる細胞が少ない。一方、比較例(溶血法)のヒストグラムは、実施例(分離法)のヒストグラムに比べるとCD62L
High T細胞のピークが下がっており、2つピークの谷間にプロットされた細胞の数が多くなっている。これは、溶血法ではCD62Lの染色が不十分となり、全体的に蛍光シグナル強度が低下した結果、CD62Lの発現量の高い細胞(CD62L
High T細胞)が低値側にスライドしたためと考えられる。このデータから、溶血法では、CD62Lのシグナルが全体的に低下していることが示唆された。
【0111】
図15および
図16は、CD4+T細胞のうちCD25およびFOXP3の発現量の高いT細胞(CD4+/CD25+/FOXP3+T細胞)を分画した、同一の検体から得られたスキャッタグラムである。
図15は、実施例(分離法)のスキャッタグラムであり、
図16は、比較例(溶血法)のスキャッタグラムである。CD25に対応する蛍光シグナル強度(横軸)およびFOXP3に対応する蛍光シグナル強度(縦軸)のそれぞれについて、所定のカットオフ値より高い値を示した細胞をCD25+/FOXP3+T細胞、つまりTreg細胞として同定した(Q2のゾーンに入った細胞)。実施例(分離法)では、Q2に分画されたTreg細胞は3.88%であるのに対して、比較例(溶血法)では1.94%であった。比較例(溶血法)のスキャッタグラムは、実施例(分離法)のスキャッタグラムと比べてQ3に含まれる細胞数が増加している。すなわち、溶血法では、縦軸方向に細胞のプロットが下がっていることから、FOXP3のシグナルが全体的に低下していることが示唆された。
【0112】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0113】
10a:処理容器移送部、10b:反応容器供給部、10c検体セット部、11:処理容器、12:反応容器、13:検体容器、20:第1処理部、30:第2処理部、41:第1分注部、42:容器移送部、60:第2分注部、100:試料調製装置