(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125986
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】物質導入装置及び物質導入方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230831BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230831BHJP
C12M 1/42 20060101ALN20230831BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/02
C12M1/42
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030392
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100211395
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】北村 晃大
(72)【発明者】
【氏名】樋口 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中野 優
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA24
4B029BB01
4B029CC01
4B029DG10
4B029GB10
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR74
4B063QS38
4B063QS40
(57)【要約】
【課題】エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させる、物質導入装置及び物質導入方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る物質導入装置は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置であって、前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容するように構成された収容器と、前記収容器の内部空間に露出する電極面を有し前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加するように構成された電極対と、を有する、物質導入ユニットと、前記電極面を洗浄するように構成された、洗浄部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置であって、
前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容するように構成された収容器と、前記収容器の内部空間に露出する電極面を有し前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加するように構成された電極対と、を有する、物質導入ユニットと、
前記電極面を洗浄するように構成された、洗浄部と、
を備える、物質導入装置。
【請求項2】
前記洗浄部は、前記収容器の前記内部空間に挿入されるブラシを備える、請求項1に記載の物質導入装置。
【請求項3】
前記洗浄部は、前記収容器の前記内部空間に挿入される超音波振動子を備える、請求項1に記載の物質導入装置。
【請求項4】
前記洗浄部は、前記超音波振動子により、前記収容器の前記内部空間においてマイクロバブルを発生させるように構成されている、請求項3に記載の物質導入装置。
【請求項5】
前記電極面は、ポリマーコーティングが施されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の物質導入装置。
【請求項6】
エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入方法であって、
前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容するように構成された収容器と、前記収容器の内部空間に露出する電極面を有し前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加するように構成された電極対と、を有する、物質導入ユニットを用意することと、
電圧印加前の前記細胞懸濁液を前記収容器に充填することと、
前記電極対により、前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加することと、
電圧印加後の前記細胞懸濁液を前記収容器から排出することと、
前記収容器に洗浄液を充填して、前記電極面を洗浄することと、
を含む、物質導入方法。
【請求項7】
前記電極面を洗浄することは、前記収容器の前記内部空間にブラシを挿入することを含む、請求項6に記載の物質導入方法。
【請求項8】
前記電極面を洗浄することは、前記収容器の前記内部空間に超音波振動子を挿入することを含む、請求項6に記載の物質導入方法。
【請求項9】
前記電極面は、ポリマーコーティングが施されている、請求項6から8のいずれか一項に記載の物質導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物質導入装置及び物質導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術が知られている。例えば、特許文献1には、同一の容器においてエレクトロポレーションを繰り返し実施可能なエレクトロポレーション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/177185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、エレクトロポレーションでは、処理対象とする細胞懸濁液の量、処理が行われる容器の容積、電圧を印加する電極対の距離等の環境要因によって、印加する電圧の電圧値又は印加する時間等、最適なエレクトロポレーションの実施条件が異なる。そのため、例えば、ある容器で小量の細胞を対象にしたエレクトロポレーションの実施条件が確立された場合であっても、処理対象とする細胞懸濁液の量を増やすために異なる容器でエレクトロポレーションを行う際には、異なる容器において、再度、実施条件を設定しなおす必要があった。
【0005】
これに対して、特許文献1に開示された装置では、エレクトロポレーションを実施するための容器を大きくするのではなく、同一の容器にてエレクトロポレーションを繰り返し実施可能とすることで、エレクトロポレーションの実施条件を変えずに、処理対象とする細胞懸濁液の総量を増やすことができる。
【0006】
しかしながら、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の更なる有用性の向上が求められている。例えば、同一の容器にて繰り返しエレクトロポレーションを実施する際に、エレクトロポレーションにおける物質導入効率を低下させないことが求められている。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させる、物質導入装置及び物質導入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置であって、前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容するように構成された収容器と、前記収容器の内部空間に露出する電極面を有し前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加するように構成された電極対と、を有する、物質導入ユニットと、前記電極面を洗浄するように構成された、洗浄部と、を備える。
【0009】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記洗浄部は、前記収容器の前記内部空間に挿入されるブラシを備えることが好ましい。
【0010】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記洗浄部は、前記収容器の前記内部空間に挿入される超音波振動子を備えることが好ましい。
【0011】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記洗浄部は、前記超音波振動子により、前記収容器の前記内部空間においてマイクロバブルを発生させるように構成されていることが好ましい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置では、前記電極面は、ポリマーコーティングが施されていることが好ましい。
【0013】
本開示の一実施形態に係る物質導入方法は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入方法であって、前記細胞及び前記物質を含む細胞懸濁液を収容するように構成された収容器と、前記収容器の内部空間に露出する電極面を有し前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加するように構成された電極対と、を有する、物質導入ユニットを用意することと、電圧印加前の前記細胞懸濁液を前記収容器に充填することと、前記電極対により、前記収容器に収容された前記細胞懸濁液に電圧を印加することと、電圧印加後の前記細胞懸濁液を前記収容器から排出することと、前記収容器に洗浄液を充填して、前記電極面を洗浄することと、を含む。
【0014】
本開示の一実施形態に係る物質導入方法では、前記電極面を洗浄することは、前記収容器の前記内部空間にブラシを挿入することを含むことが好ましい。
【0015】
本開示の一実施形態に係る物質導入方法では、前記電極面を洗浄することは、前記収容器の前記内部空間に超音波振動子を挿入することを含むことが好ましい。
【0016】
本開示の一実施形態に係る物質導入方法では、前記電極面は、ポリマーコーティングが施されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る物質導入装置及び物質導入方法によれば、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一実施形態に係る物質導入装置の概略構成を、一部断面図を用いて概略的に示す、概略図である。
【
図2】
図1に示される物質導入ユニット及び洗浄部を概略的に示す、概略図である。
【
図3】
図1に示される物質導入装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の一実施形態に係る物質導入装置1について、図面を参照して説明する。
【0020】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0021】
本開示の一実施形態に係る物質導入装置1は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する。エレクトロポレーションは、細胞及び細胞に導入する物質を含む細胞懸濁液に電気パルス等を印加することにより、細胞の細胞膜に穴をあけ、物質を細胞内に導入する方法である。エレクトロポレーションは、電気穿孔法とも呼ばれる。本実施形態では、細胞懸濁液は、例えば、動物細胞又は大腸菌等の細胞と、遺伝子、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、核酸、タンパク質、低分子化合物、脂質分子、又はリポソーム等の物質とを、緩衝液(バッファ)に懸濁させたものである。
【0022】
図1及び
図2を参照して、本開示の一実施形態に係る物質導入装置1について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る物質導入装置1の概略構成を、一部断面図を用いて概略的に示す、概略図である。
図2は、
図1に示される物質導入ユニット2及び洗浄部8を概略的に示す、概略図である。
図1及び
図2において、物質導入ユニット2は、断面図で示されている。
図1に示されるように、物質導入装置1は、物質導入ユニット2と、電圧印加部3と、送液部4と、細胞カウント部5と、フィルタリング部6と、バルブ部7と、洗浄部8と、制御部9と、を備えている。
【0023】
物質導入装置1には、後述するように、送液チューブ等の送液路10を介して、複数のバッグ11が取り付けられている。本実施形態では、
図1に示されるように、物質導入装置1には、細胞バッグ11A、導入物質バッグ11B、導入前バッグ11C、導入済バッグ11D、洗浄前バッグ11E、及び洗浄済バッグ11Fが取り付けられている。細胞バッグ11Aには、細胞が緩衝液と共に収容される。導入物質バッグ11Bには、細胞に導入する物質が緩衝液と共に収容される。導入前バッグ11Cには、エレクトロポレーションによる物質導入前の細胞懸濁液が収容される。導入済バッグ11Dには、エレクトロポレーションによる物質導入済の細胞懸濁液が収容される。洗浄前バッグ11Eは、物質導入ユニット2の洗浄に用いられる洗浄液が収容される。洗浄済バッグ11Fは、物質導入ユニット2の洗浄後の洗浄液が収容される。
【0024】
図1に示されるように、物質導入装置1において、細胞バッグ11A及び導入物質バッグ11Bは、送液路10Aにより、導入前バッグ11Cに接続されている。導入前バッグ11C及び洗浄済バッグ11Fは、送液路10Bにより、物質導入ユニット2の第1開口21Bに接続されている。導入済バッグ11D及び洗浄前バッグ11Eは、送液路10Cにより、物質導入ユニット2の第2開口21Cに接続されている。
【0025】
本実施形態では、エレクトロポレーションの実施後に、洗浄液による物質導入ユニット2内部の洗浄が行われる。これは、物質導入ユニット2内部、特に、電極対22の電極面22Sに付着した細胞残渣物又は気泡等の汚れを取り除くためである。細胞残渣物には、例えば、死滅した細胞、破損した細胞(フラクチャー)、タンパク質、又は核酸等が含まれる。このように、エレクトロポレーションの実施後に、物質導入ユニット2内部の洗浄を行うことで、同一の容器にて繰り返しエレクトロポレーションを実施する際に、エレクトロポレーションにおける物質導入効率が低下しにくくなる。洗浄液は、例えば、緩衝液であるが、これに限られない。
【0026】
物質導入ユニット2は、エレクトロポレーションによる細胞への物質の導入に用いられる器具である。
図2に示されるように、物質導入ユニット2は、収容器21と、電極対22と、開閉部23と、を備えている。
【0027】
収容器21は、細胞と細胞に導入する物質とを含む細胞懸濁液を収容するように構成されている。収容器21は、例えば、キュベットである。収容器21は、例えば、ガラス、プラスチック、シリコン、又はクォーツ等により形成されていてもよい。収容器21は、細胞懸濁系を収容可能な細長い内部空間21Aを内部に区画している。内部空間21Aの大きさは、1回のエレクトロポレーションで処理される細胞懸濁液の量に応じて任意に定められるが、例えば、10マイクロリットルから10ミリリットルであり、望ましくは40マイクロリットルから400マイクロリットルである。
【0028】
収容器21は、第1開口21B及び第2開口21Cを有する、筒状の容器である。収容器21の内部に区画された内部空間21Aは、それぞれ第1開口21B及び第2開口21Cを介して収容器21の外部に連通している。第1開口21Bは、収容器21の長手方向における一端側に設けられ、第2開口21Cは、収容器21の長手方向における第1開口21Bとは他端側に設けられている。これにより、収容器21は、第1開口21B及び第2開口21Cの一方から内部空間21Aに充填された液体が、第1開口21B及び第2開口21Cの他方から外部に排出可能とされている。
【0029】
電極対22は、収容器21に収容された細胞懸濁液に電圧を印加するように構成されている。本実施形態では、電極対22は第1電極22A及び第2電極22Bで構成されている。第1電極22A及び第2電極22Bは、いずれも板状の電極であり、例えば、金属又は導電性ポリマー等、通電可能な材料で形成されている。本実施形態では、第1電極22Aが陽極とされ、第2電極22Bが陰極とされるものとする。第1電極22A及び第2電極22Bは、収容器21の内部空間21Aを挟んで対向するように収容器21に取り付けられている。電極対22は、収容器21に細胞懸濁液が収容された状態で、電圧印加部3から電力が印加されることで、電極対22に挟まれた収容器21の内部空間21Aに電気パルスを発生させる。これにより、収容器21内で、エレクトロポレーションが実施され、細胞懸濁液に含まれる細胞に物質が導入される。電極対22を構成する電極間の距離は、エレクトロポレーションを行うために適当な距離とされ、例えば0.1ミリメートルから1センチメートルであるが、望ましくは1ミリメートルから5ミリメートルの範囲とされる。
【0030】
電極対22は、収容器21の長手方向において、第1開口21Bと第2開口21Cとの間に挟まれた収容器21の側面に設けられている。そして、電極対22は、収容器21の内部空間21Aに露出する電極面22Sを有する。具体的には、第1電極22Aは、電極面22SAが収容器21の内部空間21Aに露出するように、収容器21に取り付けられている。そして、第2電極22Bは、電極面22SBが収容器21の内部空間21Aに露出するように、収容器21に取り付けられている。本開示において、第1電極22Aの電極面22SAと第2電極22Bの電極面22SBとを特に区別しない場合、単に「電極面22S」と総称する。
【0031】
本実施形態では、収容器21の内部空間21Aに露出する電極対22の電極面22Sには、ポリマーコーティングが施されている。ポリマーコーティングは、例えば、PEG(ポリエチレングリコール)コーティングである。ただし、コーティングは、PEGコーティングに限られず、細胞非接着性ポリマーコーティング、超親水性ポリマーコーティング、或いは、細胞非接着性又は超親水性を有する任意のコーティングであってもよい。これにより、収容器21の内部空間21Aに露出する電極対22の電極面22Sに細胞残渣物又は気泡等の汚れが付着しにくくなり、エレクトロポレーションにおける物質導入効率が低下しにくくなる。
【0032】
電極対22は、収容器21から取り外し可能に構成されていてもよい。或いは、収容器21及び電極対22は、キュベット電極として、一体に構成されていてもよい。
【0033】
開閉部23は、収容器21の開口を開閉可能に構成されている。本実施形態では、開閉部23は、収容器21の第2開口21C側の端部を覆うように収容器21に取り付けられている。これにより、開閉部23は、収容器21の第2開口21Cを開閉可能に構成されている。例えば、開閉部23は、
図2に示されるように、貫通孔23Aを有し、収容器21に対して開閉方向にスライド可能な、板状の部材である。開閉部23の貫通孔23Aに、送液路10Cが嵌め込み等により取り付けられていてもよい。開閉部23をスライドさせて、貫通孔23Aの位置を収容器21の第2開口21Cの位置に合わせることにより、開閉部23が、収容器21の第2開口21Cを開く。一方で、開閉部23をスライドさせて、貫通孔23Aの位置を収容器21の第2開口21Cの位置から外すことにより、開閉部23が、収容器21の第2開口21Cを閉じる。
【0034】
物質導入ユニット2の収容器21において、第1開口21Bは、鉛直方向において、第2開口21Cよりも上方に位置するように構成されていてもよい。これにより、細胞懸濁液が重力により移動することを利用して、第2開口21Cの開閉によって、細胞懸濁液を収容器21の内部空間21Aに収容し、或いは、内部空間21Aから排出することができる。
【0035】
本実施形態では、開閉部23は、制御部9の制御により自動で収容器21の開口を開閉可能に構成されている。例えば、開閉部23は、開閉部23自身を収容器21に対してスライドさせるためのモーターを備えていてもよい。ただし、開閉部23は、手動により収容器21の開口を開閉可能に構成されていてもよい。また、開閉部23は、上述した構成に限られず、開閉式のバルブ、蓋、又は扉等、収容器21の開口を自動又は手動により開閉可能な任意の器具であってよい。また、物質導入ユニット2は、収容器21の第2開口21Cを開閉可能に構成された開閉部23に加え、第1開口21Bを開閉可能に構成された開閉部23を備えていてもよい。
【0036】
物質導入ユニット2は、物質導入装置1から取り外し可能とされている。これにより、物質導入ユニット2が破損又は劣化した場合等に、新しい物質導入ユニット2と交換することができる。或いは、1回のエレクトロポレーションで処理される細胞懸濁液の量に応じて、異なる容量の収容器21を有する物質導入ユニット2を物質導入装置1に取り付けることができる。ただし、物質導入ユニット2は、物質導入装置1と一体として形成されていてもよく、物質導入装置1から取り外し可能でなくてもよい。
【0037】
再び
図1を参照して、電圧印加部3は、電極対22の間に電圧を印加する器具である。電圧印加部3は、電極対22の間に電圧を印加可能であれば特に限定されない。電圧印加部3は、例えば、蓄電池又は乾電池等を備えていてもよい。また例えば、電圧印加部3は、外部電源より電力供給を受けるためのアダプタ等を備え、外部電源から電力供給を受け付ける構成であってよい。
図1に実線で示されるように、電圧印加部3は、電極対22のそれぞれと、導線等により電力供給可能に接続されている。これにより、電圧印加部3が電極対22の間に所定の電圧を印加することで、収容器21内でエレクトロポレーションが実施され、細胞懸濁液に含まれる細胞に物質が導入される。本実施形態では、電圧印加部3によって電圧が印加されることにより、第1電極22Aが陽極とされ、第2電極22Bが陰極とされるものとする。
【0038】
電圧印加部3は、1つ以上のセンサを備えていてもよい。センサは、例えば、抵抗計、電圧計、又は電流計等である。これにより、電圧印加部3は、センサにより電極対22の間の抵抗値、電圧値、又は電流値を計測し、電極対22の間に印加する電圧を調節することができる。
【0039】
送液部4は、1つ以上の送液ポンプを備える。送液ポンプは、例えば、シリンジ式、吸引式、又は蠕動式のポンプであるが、これらに限られない。送液部4は、制御部9の制御により自動で動作可能に構成されているが、手動により動作可能に構成されていてもよい。本実施形態では、送液部4は、物質導入ユニット2の収容器21の第1開口21Bに接続された送液路10Bに設けられている。これにより、送液部4は、収容器21の内部空間21Aに細胞懸濁液又は洗浄液等の液体を送液することができる。ただし、送液部4は、物質導入装置1に含まれる送液路10の任意の位置に設けられていてもよい。
【0040】
送液部4は、収容器21の第1開口21Bを介して電圧印加前の細胞懸濁液を収容器21に充填し、第2開口21Cを介して電圧印加後の細胞懸濁液を収容器21から排出する。また、送液部4は、収容器21の第2開口21Cを介して洗浄液を収容器21に充填し、第1開口21Bを介して洗浄液を収容器21から排出する。このように、洗浄液が物質導入ユニット2の収容器21内を流れる方向を、細胞懸濁液が物質導入ユニット2の収容器21内を流れる方向と逆方向とすることによって、細胞残渣物又は気泡等の汚れが収容器21及び電極対22から剥がれやすく、収容器21及び電極対22の洗浄効果を向上させることができる。特に、第1開口21Bが第2開口21Cよりも高くなるように物質導入ユニット2が配置されている場合において、重力によって、収容器21の下側(すなわち、本実施形態では、第2開口21C側)に細胞残渣等が付着しやすくなるため、第2開口21C側から洗浄液を流すことは有効である。
【0041】
細胞カウント部5は、生細胞をカウントするように構成されている。生細胞は、死滅又は破損していない細胞であって、エレクトロポレーションにより物質を導入することが可能な細胞である。細胞カウント部5は、例えば、フローサイトメーター、粒度分布計及びマイクロポアデバイス等の機器を備えている。本実施形態では、物質導入装置1は、送液路10Aに設けられた細胞カウント部5Aと、送液路10Cに設けられた細胞カウント部5Bとを備えている。ただし、細胞カウント部5は、物質導入装置1に含まれる送液路10の任意の位置に設けられていてもよい。
【0042】
細胞カウント部5Aは、収容器21に充填される電圧印加前の細胞懸濁液中の生細胞をカウントするように構成されている。これにより、生細胞の数に応じて、細胞懸濁液に混入させる物質の数を調節することで、細胞懸濁液に含まれる細胞と細胞に導入する物質とを適切な数量又は割合とすることができ、エレクトロポレーションにおける物質導入効率を向上させることができる。
【0043】
細胞カウント部5Bは、収容器21から排出された電圧印加後の細胞懸濁液中の生細胞をカウントするように構成されている。これにより、エレクトロポレーションにより死滅又は破損等せずに物質が導入された生細胞の数を把握することができる。さらに、生細胞の数に基づいて、物質導入ユニット2の収容器21に残留している細胞残渣物の数を推定することができる。
【0044】
フィルタリング部6は、細胞残渣物を除去するように構成されている。細胞残渣物は、上述のとおり、死滅又は破損した細胞、タンパク質、又は核酸等が含まれる。フィルタリング部6は、例えば、磁気ビーズ、不織布、又はエレクトレットフィルター(静電ろ材)等を備えている。本実施形態では、物質導入装置1は、送液路10Aに設けられたフィルタリング部6Aと、送液路10Cに設けられたフィルタリング部6Bとを備えている。ただし、フィルタリング部6は、物質導入装置1に含まれる送液路10の任意の位置に設けられていてもよい。
【0045】
フィルタリング部6Aは、収容器21に充填される電圧印加前の細胞懸濁液から細胞残渣物を除去するように構成されている。これにより、細胞懸濁液に含まれる細胞残渣物が少なくなり、エレクトロポレーションにおける物質導入効率を向上させることができる。また、物質導入ユニット2の収容器21に充填される細胞懸濁液から細胞残渣物が予め除去されることにより、収容器21及び電極対22が汚れにくくなり、エレクトロポレーションにおける物質導入効率を更に向上させることができる。
【0046】
フィルタリング部6Bは、収容器21から排出された電圧印加後の細胞懸濁液から細胞残渣物を除去するように構成されている。これにより、エレクトロポレーションにより物質が導入された生細胞を回収しやすくなる。
【0047】
バルブ部7は、送液路10を開閉可能に、或いは、送液路10の流路を切替可能に構成されている。バルブ部7は、例えば、電磁弁等を含み、制御部9の制御により自動で動作可能に構成されている。ただし、バルブ部7は、手動により動作可能に構成されていてもよい。
【0048】
洗浄部8は、収容器21の内部空間21Aに露出する電極対22の電極面22Sを洗浄するように構成されている。
図2に示されるように、本実施形態では、洗浄部8は、収容器21の内部空間21Aに挿入される洗浄具8Aと、洗浄具8Aを支持する本体8Bとを備える。本体8Bは、伸縮可能及び/又は回転可能なアーム部8Cにより洗浄具8Aを支持可能に構成されていてもよい。洗浄部8は、洗浄具8Aを収容器21の内部空間21Aへ挿入し、アーム部8Cを延ばして、電極対22の電極面22Sに挟まれる位置まで洗浄具8Aを移動させる。そして、洗浄部8は、収容器21の内部空間21Aにおいて洗浄具8Aを駆動させることで電極対22の電極面22Sを洗浄する。洗浄部8は、制御部9の制御により自動で電極対22の電極面22Sを洗浄可能に構成されていてもよい。かかる場合、洗浄部8は、洗浄具8Aを収容器21の内部空間21Aへ出し入れし、洗浄具8Aを駆動させるためのモーターを例えば本体8Bに備えていてもよい。このように、洗浄部8により電極対22の電極面22Sを洗浄することで、電極対22の電極面22Sに付着した細胞残渣物を除去することができる。このため、同一の容器にて繰り返しエレクトロポレーションを実施する際に、エレクトロポレーションにおける物質導入効率が低下しにくくなる。ただし、洗浄部8は、手動により電極対22の電極面22Sを洗浄可能に構成されていてもよい。
【0049】
洗浄部8は、洗浄具8Aとして、収容器21の内部空間21Aに挿入されるブラシを備えていてもよい。かかる場合、洗浄部8は、収容器21の内部空間21Aにブラシを挿入し、ブラシにより電極対22の電極面22Sを擦ることで、電極対22の電極面22Sに付着した細胞残渣物又は気泡等の汚れを取り除くことができる。これにより、洗浄部8を、比較的簡易な構造で実現することができ、物質導入装置1の製造コストの増加を抑制することが可能になる。
【0050】
洗浄部8は、洗浄具8Aとして、収容器21の内部空間21Aに挿入される超音波振動子を備えていてもよい。かかる場合、洗浄部8は、超音波振動子により電極対22の電極面22Sに付着した細胞残渣物又は気泡等の汚れを振動させることにより、これらの汚れを電極面22Sから剥がすことができる。洗浄部8は、超音波振動子により、収容器21の内部空間21Aにマイクロバブルを発生させるように構成されていてもよい。洗浄具8Aは、収容器21の内部空間21Aにおいてマイクロバブルを効率的に発生させるために、収容器21の内部空間21Aに外部から空気等の気体を充填させるための通気路を備えていてもよい。これにより、洗浄部8による電極対22の電極面22Sの洗浄能力を向上させることができる。超音波振動子が発生させる超音波の周波数は、高周波とされてもよく、例えば20kHz~100kHzとされてもよい。ただし、超音波振動子が発生させる超音波の周波数は、超音波洗浄に適した任意の周波数とされてもよい。
【0051】
ただし、洗浄部8は、上述した構成に限られない。例えば、洗浄部8は、洗浄具8Aとしての超音波振動を収容器21の内部空間21Aに挿入せずに駆動させ、収容器21の外部から超音波を電極対22の電極面22Sに向けて放射することにより、電極対22の電極面22Sを洗浄可能に構成されていてもよい。
【0052】
再び
図1を参照して、制御部9は、メモリ91及びプロセッサ92を備える。制御部9として、例えば、エレクトロポレータ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、又はタブレット端末等のコンピュータが使用されてもよい。
【0053】
メモリ91は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等である。メモリ91は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。メモリ91は、物質導入装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、メモリ91は、システムプログラム、アプリケーションプログラム、又は組み込みソフトウェア等を記憶する。
【0054】
プロセッサ92は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサ等であってもよい。プロセッサ92は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用回路を含んでもよい。
【0055】
制御部9は、
図1に破線で示されるように、物質導入ユニット2の開閉部23、電圧印加部3、送液部4、細胞カウント部5、バルブ部7及び洗浄部8等の、物質導入装置1の構成要素のそれぞれと、有線又は無線により通信可能に接続されている。これによって、制御部9は、物質導入装置1の機能を実現させるために、これらの構成要素を制御する。
【0056】
図3を参照して、本開示の一実施形態に係る物質導入装置1の動作を説明する。
図3は、
図1に示される物質導入装置1の動作を示すフローチャートである。この動作は、本実施形態に係る物質導入装置1が実行する物質導入方法に相当する。本動作の実施にあたり、予め、上述した物質導入ユニット2が用意される。
【0057】
ステップS101~ステップS102において、制御部9は、エレクトロポレーションによる物質導入前の細胞懸濁液を用意する。
【0058】
ステップS101:制御部9は、細胞バッグ11Aから導入前バッグ11Cに細胞入りの緩衝液を充填する。
【0059】
本実施形態では、制御部9は、バルブ部7Aを制御して、送液路10Aを介して、細胞バッグ11Aから導入前バッグ11Cに所定量の細胞入りの緩衝液を充填する。このとき、送液路10Aにフィルタリング部6Aが設けられていることにより、フィルタリング部6Aが、電圧印加前の細胞懸濁液から細胞残渣物を除去する。また、制御部9は、導入前バッグ11Cに細胞入りの緩衝液を充填する際に、細胞カウント部5Aを制御して、細胞入りの緩衝液の中に存在する生細胞の数をカウントする。制御部9は、細胞カウント部5Aによりカウントされた生細胞の数に応じて、細胞バッグ11Aから導入前バッグ11Cに充填する細胞入りの緩衝液の量を調節してもよい。
【0060】
ステップS102:制御部9は、導入物質バッグ11Bから導入前バッグ11Cに物質入りの緩衝液を充填する。
【0061】
本実施形態では、制御部9は、バルブ部7Aを制御して、送液路10Aを介して、導入物質バッグ11Bから導入前バッグ11Cに物質入りの緩衝液を充填する。このとき、制御部9は、ステップS101にてカウントされた生細胞の数に応じて、導入物質バッグ11Bから導入前バッグ11Cに充填する物質入りの緩衝液の量を調節する。ただし、制御部9は、導入物質バッグ11Bから導入前バッグ11Cに所定量の物質入りの緩衝液を充填してもよい。
【0062】
ステップS101~ステップS102により、導入前バッグ11C内にて細胞入り緩衝液と物質入り緩衝液との懸濁が実施され、エレクトロポレーションによる物質導入前の細胞懸濁液が用意される。ただし、予めエレクトロポレーションによる物質導入前の細胞懸濁液が収容された導入前バッグ11Cが用意されることで、ステップS101~ステップS102の処理が省略されてもよい。
【0063】
ステップS103~ステップS105において、制御部9は、エレクトロポレーションによる細胞への物質の導入を行う。
【0064】
ステップS103:制御部9は、物質導入ユニット2に電圧印加前の細胞懸濁液を充填する。
【0065】
具体的には、制御部9は、バルブ部7Bを制御して、送液路10Bにより、導入前バッグ11Cと収容器21の第1開口21Bとを接続する。そして、制御部9は、物質導入ユニット2の開閉部23を制御して、収容器21の第2開口21Cを閉じられた状態にする。その後、制御部9は、送液部4を制御して、収容器21の第1開口21Bを介して、電圧印加前の細胞懸濁液を、導入前バッグ11から収容器21に充填する。このとき、制御部9は、所定量の細胞懸濁液を収容器21に充填するように、送液部4を制御してもよい。
【0066】
ステップS104:制御部9は、エレクトロポレーションを実行する。
【0067】
具体的には、制御部9は、電圧印加部3を制御して、電極対22に電力を印加して、収容器21の内部空間21Aに電気パルスを発生させる。これにより、制御部9は、電極対22により、収容器21に収容された細胞懸濁液に電圧を印加する。
【0068】
ステップS105:制御部9は、物質導入ユニット2から電圧印加後の細胞懸濁液を排出する。
【0069】
具体的には、制御部9は、バルブ部7Cを制御して、送液路10Cにより、収容器21の第2開口21Cと導入済バッグ11Dとを接続する。そして、制御部9は、物質導入ユニット2の開閉部23を制御して、収容器21の第2開口21Cを開かれた状態にする。その後、制御部9は、送液部4を制御して、収容器21の第2開口21Cを介して、電圧印加後の細胞懸濁液を、収容器21から導入済バッグ11Dに排出する。ただし、制御部9は、省エネルギーの観点から、送液部4を制御せずに、細胞懸濁液の自重により、収容器21の第2開口21Cを介して、電圧印加後の細胞懸濁液を、収容器21から導入済バッグ11Dに排出してもよい。
【0070】
このとき、送液路10Cにフィルタリング部6Bが設けられていることにより、フィルタリング部6Bが、電圧印加後の細胞懸濁液から細胞残渣物を除去する。また、制御部9は、導入済バッグ11Dに電圧印加後の細胞懸濁液を排出する際に、細胞カウント部5Bを制御して、電圧印加後の細胞懸濁液の中に存在する生細胞の数をカウントする。
【0071】
ステップS106:制御部9は、物質導入ユニット2の洗浄を行う。
【0072】
具体的には、制御部9は、バルブ部7Bを制御して、送液路10Bにより、洗浄済バッグ11Fと収容器21の第1開口21Bとを接続する。そして、制御部9は、バルブ部7Cを制御して、送液路10Cにより、洗浄前バッグ11Eと収容器21の第2開口21Cとを接続する。さらに、制御部9は、物質導入ユニット2の開閉部23を制御して、収容器21の第2開口21Cを開かれた状態にする。
【0073】
その後、制御部9は、送液部4を制御して、収容器21の第2開口21Cを介して、洗浄液を、洗浄前バッグ11Eから収容器21に充填する。このとき、制御部9は、所定量の洗浄液を収容器21に充填するように、送液部4を制御してもよい。
【0074】
そして、制御部9は、洗浄部8を制御して、収容器21の内部空間21Aに露出した電極対22の電極面22Sを洗浄する。例えば、制御部9は、洗浄部8を制御して、洗浄具8Aとしてのブラシを収容器21の内部空間21Aへ挿入し、収容器21の内部空間21Aにおいてブラシを駆動させることで電極対22の電極面22Sを洗浄してもよい。また例えば、制御部9は、洗浄部8を制御して、洗浄具8Aとしての超音波振動子を収容器21の内部空間21Aへ挿入し、収容器21の内部空間21Aにおいて超音波振動子を駆動させることで電極対22の電極面22Sを洗浄してもよい。洗浄後、制御部9は、送液部4を制御して、第1開口21Bを介して、洗浄液を、収容器21から洗浄済バッグ11Fに排出する。
【0075】
ステップS107:制御部9は、本処理を終了するか否かを判定する。
【0076】
具体的には、制御部9は、所定の回数だけ本処理が繰り返されたか否かを判定する。所定の回数は、予め、メモリ91に記憶されていてもよい。制御部9は、所定の回数だけ本処理が繰り返されていないと判定した場合(S107-No)、ステップS103からの処理を繰り返し実行する。一方で、制御部9は、所定の回数だけ本処理が繰り返されたと判定した場合(ステップS107-Yes)、本処理を終了する。制御部9は、所定の回数だけ本処理が繰り返されたか否かの判定に代えて、本処理が実施された細胞懸濁液の総量が所定量に達したか否かの判定を行ってもよい。
【0077】
以上述べたように、本開示に係る物質導入装置1は、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する物質導入装置1であって、細胞及び物質を含む細胞懸濁液を収容するように構成された収容器21と、収容器21の内部空間21Aに露出する電極面22Sを有し収容器21に収容された細胞懸濁液に電圧を印加するように構成された電極対22と、を有する、物質導入ユニット2と、電極面22Sを洗浄するように構成された、洗浄部8と、を備える。
【0078】
かかる構成を有する物質導入装置1によれば、エレクトロポレーションを実施するための容器を大きくするのではなく、同一の容器にてエレクトロポレーションを繰り返し実施可能とすることで、エレクトロポレーションの実施条件を変えずに、処理対象とする細胞懸濁液の総量を増やすことができる。そして、洗浄部8により電極対22の電極面22Sを洗浄することで、電極対22の電極面22Sに付着した細胞残渣物を除去することができる。したがって、本開示に係る物質導入装置1によれば、同一の容器にて繰り返しエレクトロポレーションを実施する際に、エレクトロポレーションにおける物質導入効率が低下しにくくなり、エレクトロポレーションにより細胞に物質を導入する技術の有用性を向上させることができる。
【0079】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが可能であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0080】
例えば、上述した実施形態において、細胞入り緩衝液と物質入り緩衝液との懸濁は、導入前バッグ11C内にて実施されるものとして説明した。しかしながら、細胞入り緩衝液と物質入り緩衝液との懸濁は、送液路10A内で、導入前バッグ11Cへ流し込む際に実施されてもよい。これにより、細胞入り緩衝液と物質入り緩衝液との懸濁を効率的に実施することができる。
【0081】
また例えば、上述した実施形態において、エレクトロポレーションと物質導入ユニット2の洗浄は交互に同じ回数だけ実施されるものとして説明した。しかしながら、エレクトロポレーションと洗浄の回数は異なっていてもよい。例えば、エレクトロポレーションにおける細胞残渣物の発生しやすさに応じて、複数回のエレクトロポレーションが繰り返されるたびに、1回の洗浄が行われてもよい。これにより、エレクトロポレーションにおける物質導入効率と、エレクトロポレーションの処理速度との最適化を図ることができる。
【0082】
また例えば、上述した実施形態において、物質導入装置1の動作(物質導入方法)の全てが、制御部9の制御により自動で実施されるものとして説明した。しかしながら、物質導入装置1の動作の一部又は全部が手動により実施されてもよい。例えば、物質導入ユニット2の開閉部23の開閉、電圧印加部3による電極対22への電極の印加、送液部4による送液、細胞カウント部5による生細胞のカウント、バルブ部7による送液路10の流路の切替、又は洗浄部8による電極対22の電極面22Sの洗浄等の一部又は全部が手動により実施されてもよい。これにより、物質導入装置1の構造を簡素化することができ、物質導入装置1の製造コストの増加を抑制することが可能になる。
【0083】
また例えば、汎用のコンピュータを、上述した実施形態に係る制御部9として機能させる実施形態も可能である。具体的には、上述した実施形態に係る制御部9の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを、汎用のコンピュータのメモリに格納し、プロセッサによって当該プログラムを読み出して実行させる。したがって、本開示は、プロセッサが実行可能なプログラム、又は当該プログラムを記憶する非一時的なコンピュータ読取可能な媒体としても実現可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示は、物質導入装置及び物質導入方法に関する。
【符号の説明】
【0085】
1 物質導入装置
2 物質導入ユニット
21 収容器
21A 内部空間
21B 第1開口
21C 第2開口
22 電極対
22A 第1電極
22B 第2電極
22S(22SA、22SB) 電極面
23 開閉部
23A 貫通孔
3 電圧印加部
4 送液部
5(5A、5B) 細胞カウント部
6(6A、6B) フィルタリング部
7(7A、7B、7C) バルブ部
8 洗浄部
8A 洗浄具
8B 本体
8C アーム
9 制御部
91 メモリ
92 プロセッサ
10(10A、10B、10C、10D、10E、10F) 送液路
11 バッグ
11A 細胞バッグ
11B 導入物質バッグ
11C 導入前バッグ
11D 導入済バッグ
11E 洗浄前バッグ
11F 洗浄済バッグ