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特開2023-126030重合性組成物、重合性組成物の硬化体又は制振材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126030
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】重合性組成物、重合性組成物の硬化体又は制振材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
C08F2/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030464
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】須田 裕美
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011PA69
4J011PA76
4J011PA79
4J011PB40
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA03
4J011QA45
4J011QA46
4J011QC07
4J011RA03
4J011RA10
4J011SA02
4J011SA03
4J011SA05
4J011SA14
4J011SA15
4J011SA16
4J011SA20
4J011SA61
4J011SA77
4J011SA84
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA10
(57)【要約】
【課題】強度とともに柔軟性も高く、そして接着させる対象物に対する接着性と、制振性に優れた重合性組成物の硬化体及びこれを用いた制振材料、そしてこの硬化体となる重合性組成物を提供すること。
【解決手段】ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAを10~70重量部と、ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBを10~50重量部と、熱可塑性エラストマーCを5~40重量部と、重合開始剤と、を含む重合性組成物とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAを10~70重量部と、
ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBを10~50重量部と、
熱可塑性エラストマーCを5~40重量部と、
重合開始剤と、を含む重合性組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーAが、脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーであり、
(メタ)アクリル酸エステルモノマーBがC2~C12の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーである請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーBが、C2~C9の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーである請求項1又は請求項2記載の重合性組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーBが、C2~C7の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーである請求項1~請求項3何れか1項記載の重合性組成物。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーCが、スチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1~請求項4何れか1項記載の重合性組成物。
【請求項6】
23℃における損失係数tanδが0.6以上である請求項1~請求項5何れか1項記載の重合性組成物の硬化体。
【請求項7】
-10℃~60℃の範囲に損失係数tanδの変曲点がある請求項6記載の硬化体。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の硬化体からなる制振材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器で発生する振動、又は電子機器、車両用部品、若しくは建築用部品等に伝わる振動を抑制又は減衰させることができる制振材料に関し、その制振材料として用いることができる重合性組成物の硬化体、及びその硬化前の重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器、車両、又は建築用構造材等には振動の伝達を和らげ、又は防ぐために部品間や部材間に制振材料が用いられる。制振材料の形成工程として重合性モノマー組成物を部品又は部材に塗工し、紫外線等で硬化させることが知られており、部品や部材等の制振対象へ形成した密着性の高い制振塗膜を制振材料として機能させる技術が例えば特開平11-124925号公報(特許文献1)に記載されている。ところがモノマーのみからなる重合性組成物を急速に重合させると、分子鎖が短化、又は不均一化し易いという性質がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-124925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、制振材料とする重合性組成物の硬化体には、強度とともに柔軟性も高く、そして接着させる対象物に対して接着性に優れた性質を有することが市場から要請されており、こうした硬化体となる重合性組成物が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAを10~70重量部と、ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBを10~50重量部と、熱可塑性エラストマーCを5~40重量部と、重合開始剤と、を含む重合性組成物である。
【0006】
ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAを10~70重量部含む。ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAを含むため、接着対象物に対する接着性の高い硬化体を得ることができる。そのモノマーAを10~70重量部含むため、ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBと熱可塑性エラストマーが所定の含有量を有することと相俟って、所望の粘度、タック性と、熱可塑性エラストマーの溶解性とを得ることができる。
【0007】
ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBを10~50重量部含む。ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBを含むため、柔軟性の高い硬化体を得ることができ、そのモノマーBを10~50重量部含むため、ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAと熱可塑性エラストマーが所定の含有量を有することと相俟って、所望の粘度、タック性と、熱可塑性エラストマーの溶解性とを得ることができる。
【0008】
熱可塑性エラストマーCを5~40重量部含む。熱可塑性エラストマーCを含むため、硬化体の脆さを和らげ強度を高めることができる。その熱可塑性エラストマーCを5~40重量部含むため、5重量部以上であることから硬化体の強度を高めることができ、40重量部以下であることから、塗工に適した粘度とすることができる。そして、所定量の前記モノマーAとモノマーBを有することと相俟って、これらのモノマーA及びモノマーBに溶解させることができ、得られる重合性組成物に所望の粘度、得られる硬化体の表面に低いタック性をもたらすことができる。そして重合開始剤を含む。重合開始剤を含むため、モノマーA及びモノマーBを重合させることができる。
【0009】
本開示の一態様は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーAが、脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーであり、(メタ)アクリル酸エステルモノマーBがC2~C12の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーである重合性組成物である。
【0010】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーAが、脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーである。そのため、硬化体としたときの接着性及び防湿性を高めることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーBがC2~C12の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーである。そのため、強度が高く、制振性に優れた硬化体とすることができる。
【0011】
本開示の一態様は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーBが、C2~C9の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーである重合性組成物である。
(メタ)アクリル酸エステルモノマーBが、C2~C9の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーである。そのため、硬化体の強度が高く、制振性に優れることに加え、接着強度が高い。
【0012】
本開示の一態様は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーBが、C2~C7の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーである重合性組成物である。
(メタ)アクリル酸エステルモノマーBが、C2~C7の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーである。そのため、得られる硬化体は強度が高く、制振性に優れ、接着強度が高いことに加え、硬化体表面のタックが少ない。
【0013】
本開示の一態様は、熱可塑性エラストマーCが、スチレン系熱可塑性エラストマーである重合性組成物である。
熱可塑性エラストマーCが、スチレン系熱可塑性エラストマーである。そのため、前記モノマーA及びモノマーBへの溶解が容易であり、硬化体の防湿性を高めることができる。
【0014】
本開示の一態様は、23℃における損失係数tanδが0.6以上である重合性組成物の硬化体である。
23℃におけるtanδが0.6以上である重合性組成物の硬化体であるため、弾性的な性質を有しながら変形からの回復速度が遅く、制振性に優れた硬化体である。
【0015】
本開示の一態様は、-10℃~60℃の範囲に損失係数tanδの変曲点がある重合性組成物の硬化体である。
-10℃~60℃の範囲にtanδの変曲点がある重合性組成物の硬化体であるため、弾性的な性質を有しながら変形からの回復速度が遅く、制振性に優れた硬化体である。
【0016】
本開示の一態様は、前記硬化体からなる制振材料である。
前記硬化体からなる制振材料としたため、制振性に優れた制振材料である。
【発明の効果】
【0017】
本開示の一態様によれば、強度と柔軟性が高く、接着対象物に対する接着性に優れた硬化体となる重合性組成物を提供できる。
本開示の一態様によれば、強度と柔軟性が高く、接着対象物に対する接着性に優れた硬化体、及び制振材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の一態様による実施形態について説明する。以下に説明する一態様は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本態様で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また、各例で共通する構成で同一の効果を奏するものについては重複説明を省略する。
【0019】
実施の一態様として説明する重合性組成物は、電子部品や構造材料等に塗布した後に光を照射することで硬化し制振材料として利用できるものである。
そしてその成分として、ホモポリマーのガラス転移点Tgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーAと、ホモポリマーのガラス転移点Tgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBと、熱可塑性エラストマーCと、重合開始剤とを含んでいる。以下に重合性組成物を構成する成分について説明する。
【0020】
モノマーA:
ホモポリマーのTgが50℃以上である(メタ)アクリル酸エステルモノマーA(単に「モノマーA」ともいう)は液状組成物であり、後述のホモポリマーのTgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーBとともに熱可塑性エラストマーを溶解する成分である。また、モノマーAは、ホモポリマーのTgが50℃以上であるモノマーであるため、これを配合することで固化させた際の固着対象物との接着力を高めつつ、固着対象物から剥す必要があるときに糊残りを少なくして剥がすことができる。また、固化物を強靭にして引張強さを高める効果がある。加えて、この成分の割合を多くすると防湿性と透明性を高めることができる。なおここで「ホモポリマーのTg」とは、当該モノマーのみを重合させてホモポリマーとしたときのTgを意味する。
【0021】
モノマーAとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、イソボルニルアクリレート(IBXA)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、フェノールエトキシレーティドアクリレート(フェノール(EO)アクリレート、アクリル酸2-フェノキシエチル、フェノキシエチルアクリレート)、等の単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーを挙げることができる。
【0022】
モノマーB:
ホモポリマーのTgが0℃以下である(メタ)アクリル酸エステルモノマーB(単に「モノマーB」ともいう)もまた液状組成物であり、前記モノマーAとともに熱可塑性エラストマーを溶解するための成分である。モノマーBを配合することで、硬化物の柔軟性を高め切断時伸びを大きく向上させることができる。ホモポリマーのTgが0℃以下であることから、ホモポリマーのTgが50℃以上であるポリマーAと混合することで得られる硬化体の23℃におけるtanδ(損失係数)を高くすることができる。あるいは-10℃~60℃の範囲にtanδの変曲点を有するものとすることができる。
【0023】
モノマーBとして具体的には、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、へキシルアクリレート、n-ヘプチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、i-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、i-ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ウンデシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート、i-ステアリルアクリレート等の単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーを挙げることができる。ポリマーBのアルキル基の骨格は直鎖状や分岐鎖状のものが挙げられる。
【0024】
モノマーBの中でもアルキル基の炭素数は、C2~C9であることが好ましい。C2よりも少ないと硬化体の接着強度が低くなり23℃のtanδも低くなる。一方、C9よりも多いと硬化体の接着強度が低くなり易い。更には、モノマーBはC2~C7の直鎖アルキル基を有するものであることがより好ましい。こうしたモノマーBであると、硬化体の表面のタックが少なくなり取扱いやすくなる。そして、アルキル基の炭素数がC2~C8、C4~C7とすることは好ましい一態様である。また、重合性組成物の塗布性を考慮せず、また接着強度を多少弱くても良いとするならば、アルキル基の炭素数はC2~C12とすることができる。
【0025】
熱可塑性エラストマーC:
熱可塑性エラストマーは、制振材料の機械的強度を向上させる高分子成分であり、制振材料を接着した対象物から剥がす要請がある場合に、ちぎれ難くすることができる。また、熱可塑性エラストマー単独では固体のため重合性組成物を塗布できないため、主成分であるモノマーAとモノマーBとの合計量に対して可溶である必要がある。
【0026】
熱可塑性エラストマーの配合量は、熱可塑性エラストマーと、モノマーAと、モノマーBとの合計100重量部に対して5~40重量部とすることができる。熱可塑性エラストマーの配合量が、40重量部よりも多くなると重合性組成物の粘度が高くなり塗布が困難になる。また、熱可塑性エラストマーは接着対象物への接着性は高くないため40重量部よりも多くなると接着不十分となるおそれがある。一方、5重量部未満になると、重合性組成物の硬化体の引張強さが弱くなり機械的強度が不十分になるおそれがある。
【0027】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、アクリル系熱可塑性エラストマーとスチレン系熱可塑性エラストマーの単独又は混合物を挙げることができる。これらの熱可塑性エラストマーであればアクリル酸エステルモノマーに溶解することができ、所定の引張り強さ、接着強さを発現させることができる。
【0028】
アクリル系熱可塑性エラストマーは、特に透明性に優れた硬化体とすることができる。このことは、アクリル系熱可塑性エラストマーを構成するハードセグメント及びソフトセグメントと、アクリル系熱可塑性エラストマーを溶解するアクリル酸エステルモノマーの屈折率の値が近いことが理由であると考えられる。こうしたアクリル系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いることができ、例えばハードセグメントとしてはメチルメタクリレート、ソフトセグメントとしてはブチルアクリレートの構造を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体を例示することができる。
【0029】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、透湿性の低い重合性組成物の硬化体とすることができる。そのため、特に湿気に弱い部材の保護や、高湿度の環境で用いる電子機器に適用する際に適している。
スチレン系熱可塑性エラストマーの中でもスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン共重合体等を用いることが好ましい。これらのブロック共重合体は、イソブチレン骨格を有していることから、耐候性、耐熱性に優れるとともに、特に透湿度を低くすることができる。
【0030】
光重合開始剤:
光重合開始剤は、モノマーAとモノマーBとを重合させるための開始剤である。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、アセトフェノン系、アシルフォスフィン系等の光重合開始剤を用いることができ、例えば、IGM RESINS社製「Omnirad184」、「Omnirad907」、「Omnirad369」、「Omnirad1173」、「Omnirad127」、「Omnirad TPO」、「Omnirad819」、「Omnirad754」、「Omnirad MBF」(以上商品名)、BASF社製「Irgacure OXE01」、「Irgacure OXE02」、「Irgacure OXE03」、「Irgacure OXE04」(以上商品名)等を挙げることができる。光重合開始剤の使用量は、モノマーA、モノマーB及び熱可塑性エラストマーの合計100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、1~8重量部がより好ましい。
【0031】
その他の成分:
本発明の趣旨を逸脱しない範囲で添加剤を適宜配合することができる。例えばモノマーA又はモノマーB以外のアクリル酸エステルモノマーや、シランカップリング剤、重合禁止剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤及び充填剤等を配合する例を挙げることができる。
【0032】
重合性組成物とその硬化体:
上記成分からなる重合性組成物の硬化体は、熱可塑性エラストマーをモノマーA及びモノマーBに溶解させるとともにその他の上記成分を混合することで液状の重合性組成物として得られる。この重合性組成物は、所定の電子素子又は車両用部品、構造材料上に塗布してこれらの接着対象物に付着させ紫外線等を照射して硬化する。
【0033】
塗布の観点から重合性組成物の粘度は、25℃で5~200000mPa・sとすることが好ましく、10~100000mPa・sとすることがより好ましく、20~50000mPa・sとすることがさらに好ましい。5mPa・s未満の場合には、ディスペンサで塗布する際に液だれが生じ易い。一方、200000mPa・sを超えると、流動性が極めて悪く、常温での塗布が困難となる恐れがある。また、光硬化性組成物の粘度が5~1000mPa・sの範囲であれば、多くのジェット式ディスペンサ装置に適合して、非接触の精細なディスペンスが可能となる。また、1000~100000mPa・sの範囲であれば、多くのディスペンサ装置に適合して、生産効率を高めることができる。また、20000mPa・s以上とするとことで塗布してから硬化するまでの間の形状保持性が高まり、200000mPa・s以下とすることで、より細いニードルを用いた精細なディスペンスが可能となる。また、20~50000mPa・sの範囲であれば、スクリーン印刷やダイコーターなどの塗布方法にも適合し、打面積塗布の効率を高めることができる。なお、上記粘度はB型回転粘度計を用い、回転速度10rpm、測定温度25℃で測定した値とすることができる。
【0034】
また、得られた硬化体の23℃におけるtanδは0.6以上であることが好ましい。制振性能をtanδで代替して評価することができ、所望の制振性能を23℃におけるtanδに置き換えると0.6以上となるからである。
また、得られた硬化体のtanδの変曲点は-10℃~60℃の範囲にあることが好ましい。制振性能をtanδの変曲点の温度で代替して評価することもでき、所望の制振性能を奏する場合は、tanδの変曲点が-10℃~60℃の範囲にあるからである。tanδの変曲点は0℃~60℃の範囲にあるとさらに好ましい。
【0035】
こうした硬化体は、電子機器若しくは自動車部品用部材、又は構造部材としての利用価値を有する。例えば、電子機器の防水用緩衝材や封止材、ベゼル又はシフトパネル周りで用いられる自動車部品用緩衝材、さらには防水、封止又は制震用の建築用部材とすることができる。
【実施例0036】
(A)試料の作製:
以下の表1で示す試料1~試料15の重合性組成物及びその硬化体を作製した。まず、熱可塑性エラストマーとしてスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を25重量部、モノマーAを37.5重量部、モノマーBを37.5重量部混合して、熱可塑性エラストマーがモノマーA及びモノマーBに均一に溶解するまで攪拌し液状混合物を得た。そしてこの液状混合物に光重合開始剤としてOmnirad1173を3.75重量部混合し、重合性組成物を液状混合物の状態で得た。その後、紫外線を照射して重合性組成物を硬化させた硬化体を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1において、モノマーA及びモノマーBの「種類」として示す各モノマーは以下のとおりである。
A1:イソボルニルアクリレート(IBXA)
B1:メチルアクリレート(MA)
B2:エチルアクリレート(EA)
B3:n-ブチルアクリレート(BA)
B4:t-ブチルアクリレート(TBA)
B5:n-ヘキシルアクリレート
B6:n-ヘプチルアクリレート
B7:n-オクチルアクリレート(NOOA)
B8:イソノニルアクリレート(INAA)
B9:分岐ノニルアクリレート
B10:n-ドデシルアクリレート(LA)
B11:テトラデシルアクリレート
B12:ヘキサデシルアクリレート
B13:ステアリルアクリレート(STA)
B14:イソステアリルアクリレート
【0040】
表1には、モノマーAのホモポリマーのガラス転移点Tg、モノマーBのアルキル基の炭素数、モノマーBのホモポリマーのガラス転移点Tg、A硬度、E硬度をそれぞれ示した。なお、アルキルアクリレートのホモポリマーのTgは、例えばPOLYMER HANDBOOK(Wiley-Interscience)などの文献値を参照できる。また表1には、この重合性組成物を硬化して得られた硬化体の表面の性質を「タック」に示した。さらに表1にはこの重合性組成物を硬化して得られた硬化体の性質も示した。即ち、表1の「ピール」には、硬化体の接着強さ試験の結果を、「tanδ(23℃)」には硬化体の23℃におけるtanδの値を、「Tg(℃)」には硬化体のガラス転移点Tgを、それぞれ示した。
【0041】
(B)試験及び評価方法:
各試料の重合性組成物の硬化体表面のタック、接着強さ、tanδについて、試験した試験方法について説明する。
【0042】
a.A硬度及びE硬度:
モノマーBについては、そのホモポリマーの硬度をA硬度及びE硬度で示した。表1の「A硬度」欄にはJIS K 6253のタイプAの硬度計によって測定された値を示し、「E硬度」欄には、JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定された値をそれぞれ示した。
【0043】
b.Tg及び損失係数tanδ:
モノマーA又はモノマーBについては、それらのホモポリマーについてガラス転移点Tgを示した。そして重合性組成物の硬化体について、動的粘弾性測定器(セイコーインスツル社製、DMS6100)を用いて温度23℃、周波数28Hzのときのtanδの値を引張正弦波モードで測定した。硬化体の制振性は、常温付近の温度での制振性が求められるため、23℃におけるtanδによって評価することとした。
【0044】
Tg及びtanδの値を得るための試験片は、重合性組成物を基材上に塗布し硬化して1mm厚のシートを得て、これを10mm×40mmの大きさに打ち抜き基材から剥がしたものを使用した。こうして測定したtanδに関し、23℃における値を表1の「tanδ(23℃)」欄に、ガラス転移温度を表1の「Tg(℃)」欄にそれぞれ示した。硬化体のtanδの変曲点はガラス転移温度Tgなので、表1の「Tg」が、硬化体のtanδの変曲点の温度を示す。
【0045】
c.タック性:
各試料の重合性組成物の硬化体について、その性状をタックの有無の観点から試験した。硬化体表面のタックがありすぎると硬化体の取扱い性が困難になるからである。タックの程度は指触により、べたつきが全くない場合を“なし”、べたつきが全くないとはいえないがほとんど感じられない場合を“弱”、べたつきがあると感じられる場合を“中”、そしてべたつきが激しい場合を“強”と官能評価した。これらの結果は表1の「タック」欄に示した。
【0046】
d.剥離試験[接着強さ(N/cm)]:
各試料の硬化体の接着強さはJIS K6854-2規定の180度剥離試験方法を一部変更して測定した。接着性が低いと接着対象物から容易に剥離し制振性を発揮し得ないからである。まず、幅25mm、厚さ1.5mm、長さ200mmのポリイミドフィルムを準備し、その片面について端から120mmまで厚さ10μmの微粘着性保護フィルムを貼り付けた。次にポリイミドフィルムの外形と同じ大きさの掘り込みを有する治具に保護フィルム面を上にしてポリイミドフィルムを装着し、ポリイミドフィルムの上に各試料の重合性組成物を塗布した。そして、紫外線を照射して各試料を硬化することで試験片を作成した。このとき、硬化後の厚みが1mmになるように重合性組成物の塗布厚みを調製した。
【0047】
微粘着性保護フィルムを設けた端から重合性組成物の硬化体を引き剥がし、硬化体を引き剥がした方のポリイミドフィルムをつかみに取り付ける一方で、引き剥がした硬化体をもう一方のつかみに取り付けて引張試験機(東洋精機製作所社製「ストログラフVE5D」)を用いて200mm/minの速度で引っ張る180度剥離試験を行った。そしてその結果を表1の「ピール」欄に示した。
【0048】
(C)試験結果と考察:
試料1~試料15の各試験の結果から、試料2、3、5~11のモノマーBを用いたものは、制振性の指標とした23℃におけるtanδが0.60以上であった。これらのことから、単官能脂肪族アクリルモノマーとしては、Tgが0℃以下、アルキル基の炭素数が2~12にあるモノマーBを用いると制振性に優れた硬化体が得られることがわかった。
【0049】
また、試料2、3、5~10のモノマーBを用いたものは、上記に加えて接着強度の指標としたピール剥離強度が20.0N/25mm以上となった。これらのことから、単官能脂肪族アクリルモノマーとしては、Tgが0℃以下、アルキル基の炭素数が2~9にあるモノマーBを用いると制振性に加え、接着強度に優れた重合性組成物の硬化体が得られることがわかった。
【0050】
さらに、試料2、3、5、6のモノマーBを用いたものは、上記に加えて取扱い性能の指標としたタック性が弱以下となった。これらのことから、単官能脂肪族アクリルモノマーとしては、Tgが0℃以下、C2~C7の直鎖状アルキル基を有するモノマーBを用いると制振性、接着強度に加え、取扱い性に優れた重合性組成物の硬化体が得られることがわかった。