(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126039
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びゴム製品
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20230831BHJP
C08K 5/3432 20060101ALI20230831BHJP
C08K 5/3462 20060101ALI20230831BHJP
C08K 5/3477 20060101ALI20230831BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20230831BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20230831BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230831BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230831BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230831BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K5/3432
C08K5/3462
C08K5/3477
C08K3/16
C08K5/14
C08K3/22
C08K3/04
C08K3/36
C08L15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030479
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小谷 享平
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 慎太
(72)【発明者】
【氏名】幸村 憲明
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC081
4J002AC091
4J002AC111
4J002DA039
4J002DD077
4J002DD087
4J002DE109
4J002DJ019
4J002EK038
4J002EU006
4J002EU046
4J002EU136
4J002EU146
4J002EU186
4J002FD019
4J002FD070
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD148
4J002GL00
4J002GN00
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】耐熱劣化性と耐破壊性とを両立したゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム(A)と、六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)と、ハロゲン化金属塩(C)と、有機過酸化物(D)と、を含むことを特徴とする、ゴム組成物である。前記有機過酸化物(D)と前記ハロゲン化金属塩(C)との質量比(D/C)は、0.1~10であることが好ましく、前記複素環式化合物(B)は、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、及びテトラジン環からなる群から選択される少なくとも一つの複素環を有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム(A)と、
六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)と、
ハロゲン化金属塩(C)と、
有機過酸化物(D)と、
を含むことを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
前記有機過酸化物(D)と前記ハロゲン化金属塩(C)との質量比(D/C)が、0.1~10である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記複素環式化合物(B)が、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、及びテトラジン環からなる群から選択される少なくとも一つの複素環を有する、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記複素環式化合物(B)が、トリアジン環又はテトラジン環を有する、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記複素環式化合物(B)が、下記一般式(1):
【化1】
[式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立してピリジル基又はピリミジニル基であり、Y
1及びY
2は、それぞれ独立して単結合又は二価の炭化水素基である。]で表される、請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ハロゲン化金属塩(C)が、遷移金属及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
更に、酸化亜鉛(E)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
更に、カーボンブラック(F)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
更に、シリカ(G)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記ジエン系ゴム(A)が、前記複素環式化合物(B)で変性されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記ジエン系ゴム(A)は、重量平均分子量(Mw)が10,000~3,000,000である、請求項1~10のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記ハロゲン化金属塩(C)と前記複素環式化合物(B)との間の結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項13】
タイヤ、ゴムクローラ、及び免震ゴムからなる群から選択されるゴム製品であって、
請求項1~12のいずれか一項に記載のゴム組成物を含むことを特徴とする、ゴム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びゴム製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤ、ゴムクローラ、免震ゴム等のゴム製品には、耐破壊性(強度)に優れたゴム組成物が用いられている。該ゴム組成物には、通常、ジエン系ゴムと、硫黄とが配合されており、硫黄によりジエン系ゴムを架橋させて、耐破壊性(強度)を確保している。ここで、硫黄架橋は、ジエン系ゴムの間を、モノスルフィド結合(-S-)、ジスルフィド結合(-S-S-)、ポリスルフィド結合(-S-Sx-S-、xは1以上)で架橋するものであり、一般に高い強度を有する。しかしながら、硫黄架橋の中でも、ポリスルフィド結合は、結合解離エネルギーが小さいため、硫黄によりジエン系ゴムを架橋した場合、熱によりポリスルフィド結合が開裂し、組み変わる過程で、架橋の網目密度が増加して、架橋ゴムが硬化し、破断強度、伸び等が低下してしまう。
【0003】
これに対して、架橋剤として、硫黄の代わりに有機過酸化物を使用する技術が知られている(下記特許文献1参照)。ここで、架橋剤として、有機過酸化物を使用した場合、ジエン系ゴムの間を、-C-C-結合等で架橋でき、該-C-C-結合は、結合解離エネルギーが大きいため、熱を加えても開裂し難く、耐熱劣化性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機過酸化物による架橋は、耐熱劣化性に優れるものの、硫黄架橋に比べて耐破壊性(強度)が低く、耐破壊性に改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立したゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立したゴム製品を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0008】
本発明のゴム組成物は、
ジエン系ゴム(A)と、
六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)と、
ハロゲン化金属塩(C)と、
有機過酸化物(D)と、
を含むことを特徴とする。
かかる本発明のゴム組成物は、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立することができる。
【0009】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記有機過酸化物(D)と前記ハロゲン化金属塩(C)との質量比(D/C)が、0.1~10である。この場合、ゴム組成物の耐熱劣化性と耐破壊性とのバランスがより良好となる。
【0010】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記複素環式化合物(B)が、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、及びテトラジン環からなる群から選択される少なくとも一つの複素環を有する。ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、又はテトラジン環を有する複素環式化合物は、ジエン系ゴム(A)との反応性が高く、ハロゲン化金属塩(C)と組み合わさって、配位結合による架橋を形成し易い。
【0011】
ここで、前記複素環式化合物(B)が、トリアジン環又はテトラジン環を有することが好ましい。トリアジン環又はテトラジン環を有する複素環式化合物は、ジエン系ゴム(A)との反応性が更に高く、ハロゲン化金属塩(C)と組み合わさって、配位結合による架橋を更に形成し易い。
【0012】
また、前記複素環式化合物(B)が、下記一般式(1):
【化1】
[式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立してピリジル基又はピリミジニル基であり、Y
1及びY
2は、それぞれ独立して単結合又は二価の炭化水素基である。]で表されることが更に好ましい。一般式(1)で表される化合物は、ジエン系ゴム(A)とのディールス・アルダー反応が進行し易く、ハロゲン化金属塩(C)と組み合わさって、配位結合による架橋をより一層形成し易い。
【0013】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ハロゲン化金属塩(C)が、遷移金属及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む。遷移金属及び/又は亜鉛を含むハロゲン化金属塩は、前記複素環式化合物(B)と錯化し易い。
【0014】
本発明のゴム組成物は、更に、酸化亜鉛(E)を含むことが好ましい。この場合、ゴム組成物の機械特性及び導電性が向上し、また、ゴム組成物が密着し難くなる。
【0015】
本発明のゴム組成物は、更に、カーボンブラック(F)を含むことが好ましい。この場合、ゴム組成物の補強性が向上して、耐破壊性が更に向上する。
【0016】
本発明のゴム組成物は、更に、シリカ(G)を含むことが好ましい。この場合、ゴム組成物の補強性が向上して、耐破壊性が更に向上する。
【0017】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ジエン系ゴム(A)が、前記複素環式化合物(B)で変性されている。この場合、複数の複素環式化合物(B)部分がハロゲン化金属塩(C)と錯化して配位結合を形成するだけで、複数のジエン系ゴム(A)の主鎖間を架橋することができる。
【0018】
本発明のゴム組成物において、前記ジエン系ゴム(A)は、重量平均分子量(Mw)が10,000~3,000,000であることが好ましい。この場合、ゴム組成物の耐破壊性と混練における作業性が向上する。
【0019】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ハロゲン化金属塩(C)と前記複素環式化合物(B)との間の結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上である。この場合、低歪み領域において、配位結合による架橋が十分な強度を有することとなる。
【0020】
また、本発明のゴム製品は、タイヤ、ゴムクローラ、及び免震ゴムからなる群から選択されるゴム製品であって、上記のゴム組成物を含むことを特徴とする。
かかる本発明のゴム製品は、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立したゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立したゴム製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明のゴム組成物及びゴム製品を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0023】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム(A)と、六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)と、ハロゲン化金属塩(C)と、有機過酸化物(D)と、を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明のゴム組成物においては、ジエン系ゴム(A)の主鎖に複素環式化合物(B)が付加する。ここで、ハロゲン化金属塩(C)は、複素環式化合物(B)と錯化し易い。そのため、ジエン系ゴム(A)の主鎖に付加した複素環式化合物(B)部分に、ハロゲン化金属塩(C)が配位結合して、錯体を形成する。そして、ハロゲン化金属塩(C)が、複数の配位結合を形成することで、複数のジエン系ゴム(A)が架橋されることとなる。また、本発明のゴム組成物は、ハロゲン化金属塩(C)と共に有機過酸化物(D)を含むため、架橋後のゴム組成物中に、ハロゲン化金属塩(C)による配位結合による架橋と、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)とが存在することとなる(Dual Cross Link :DCL)。ここで、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)は、熱を加えても開裂し難く、熱に対して形態変化し難い架橋である。一方、配位結合による架橋は、結合(架橋)と解離(開裂)が可逆的な可逆架橋である。
そして、本発明のゴム組成物は、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)により、耐熱劣化性を向上させることができる。一方、本発明のゴム組成物は、歪みを受けた際には(特には、高歪み領域において)、配位結合による架橋が開裂して、高ヒステリシスロス化し、また、架橋の開裂(即ち、配位結合による架橋の犠牲破壊)によるエネルギー散逸により、耐破壊性を向上させることができ、従来の硫黄架橋と同等以上の耐破壊性(強度)を実現できる。
従って、本発明のゴム組成物は、従来の硫黄のみの架橋でも、有機過酸化物に起因する架橋構造のみでも成し得ない、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立することが可能となる。
【0025】
--ジエン系ゴム(A)--
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム(A)を含む。ゴム組成物が、ジエン系ゴム(A)を含むことで、複素環式化合物(B)及びハロゲン化金属塩(C)と共に、架橋構造を形成することが可能となる。
【0026】
前記ジエン系ゴム(A)は、ジエン系モノマー由来の単位(ジエン系単位)を含むゴムであり、更に、共重合可能なコモノマー由来の単位を含んでもよい。
前記ジエン系モノマー由来の単位は、ジエン系ゴムの架橋(加硫)を可能とし、また、ゴムの様な伸びや強度を発現することができる。なお、架橋ゴム中においてジエン系ゴムは、通常は架橋された状態で存在するが、一部が架橋されていなくてもよい。ジエン系モノマー(ジエン系化合物)として、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。
一方、前記共重合可能なコモノマーとしては、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。該芳香族ビニル化合物として、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン等が挙げられる。
また、前記ジエン系ゴム(A)としては、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらジエン系ゴム(A)は、一種単独で使用してもよいし、二種以上のブレンドとして使用してもよい。
【0027】
本発明のゴム組成物において、前記ジエン系ゴム(A)は、重量平均分子量(Mw)が10,000~3,000,000であることが好ましい。ジエン系ゴム(A)の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であると、ゴム組成物の耐破壊性が向上し、また、3,000,000以下であると、ゴム組成物の混練における作業性が向上する。ジエン系ゴム(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゴム組成物の耐破壊性の観点から、100,000以上が更に好ましく、120,000以上がより一層好ましく、また、ゴム組成物の混練における作業性の観点から、2,000,000以下が更に好ましく、1,800,000以下がより一層好ましい。
なお、本明細書において、ジエン系ゴム(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として求める。
【0028】
--六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)--
本発明のゴム組成物は、六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)を含む。六員環の芳香族複素環は、環中にヘテロ原子を有し、ハロゲン化金属塩(C)と配位結合できる。また、六員環の芳香族複素環を有する複素環式化合物(B)は、ハロゲン化金属塩(C)と共に、複数のジエン系ゴム(A)を架橋することができる。ここで、六員環の芳香族複素環中のヘテロ原子としては、窒素原子、リン原子等が挙げられる。
【0029】
前記六員環の芳香族複素環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、及びテトラジン環等の含窒素芳香族複素環や、該含窒素芳香族複素環中の窒素をリンに置き換えた芳香族複素環等が挙げられる。これらの中でも、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、及びテトラジン環が好ましい。ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、又はテトラジン環を有する複素環式化合物は、ジエン系ゴム(A)との反応性が高く、ハロゲン化金属塩(C)と組み合わさって、配位結合による架橋を形成し易い。
【0030】
ここで、前記複素環式化合物(B)は、トリアジン環又はテトラジン環を有することが好ましい。トリアジン環又はテトラジン環を有する複素環式化合物は、ジエン系ゴム(A)との反応性が更に高く、ハロゲン化金属塩(C)と組み合わさって、配位結合による架橋を更に形成し易い。
【0031】
また、前記トリアジン環又はテトラジン環を有する化合物のトリアジン環又はテトラジン環には、ピリジル基又はピリミジニル基が結合していることが好ましく、ピリジル基又はピリミジニル基が2つ結合していることが更に好ましい。トリアジン環又はテトラジン環に、ピリジル基又はピリミジニル基が結合している場合、複素環式化合物(B)とハロゲン化金属塩(C)とが更に錯化し易くなり、結合解離エネルギーが高くなり易く、より強度の高い架橋構造を形成できる。また、トリアジン環又はテトラジン環に、ピリジル基又はピリミジニル基が2つ結合している場合、複素環式化合物(B)とハロゲン化金属塩(C)とがより一層錯化し易くなり、結合解離エネルギーが更に高くなり易く、より一層強度の高い架橋構造を形成できる。
なお、前記ピリジル基は、2-ピリジル基でも、3-ピリジル基でも、4-ピリジル基でもよいが、2-ピリジル基が好ましい。また、前記ピリミジニル基は、2-ピリミジニル基でも、4-ピリミジニル基でも、5-ピリミジニル基でもよい。
【0032】
前記複素環式化合物(B)は、下記一般式(1):
【化2】
[式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立してピリジル基又はピリミジニル基であり、Y
1及びY
2は、それぞれ独立して単結合又は二価の炭化水素基である。]で表されることが更に好ましい。一般式(1)で表される化合物は、ジエン系ゴム(A)とのディールス・アルダー反応が進行し易く、ハロゲン化金属塩(C)と組み合わさって、配位結合による架橋を更に形成し易い。また、一般式(1)で表される化合物とハロゲン化金属塩(C)とは、特に錯化し易く、結合解離エネルギーが特に高くなり易く、より一層強度の高い架橋構造を形成できる。
【0033】
上記一般式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立してピリジル基又はピリミジニル基である。合成容易性の観点から、X1及びX2は、ピリジル基であることが好ましい。前記ピリジル基は、2-ピリジル基でも、3-ピリジル基でも、4-ピリジル基でもよいが、2-ピリジル基が好ましい。また、前記ピリミジニル基は、2-ピリミジニル基でも、4-ピリミジニル基でも、5-ピリミジニル基でもよい。
【0034】
上記一般式(1)中、Y1及びY2は、それぞれ独立して単結合又は二価の炭化水素基である。ここで、二価の炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等が挙げられる。より具体的には、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられ、アルケニレン基としては、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基等が挙げられ、アリーレン基としては、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基等が挙げられる。合成容易性の観点から、Y1及びY2は、単結合であることが好ましい(即ち、テトラジン環にX1及びX2が直接結合していることが好ましい)。
【0035】
ここで、上記一般式(1)中のX1及びX2が、ピリジル基であり、Y1及びY2が、単結合であることが好ましい。この場合、式(1)の化合物の入手が容易であり、また、ハロゲン化金属塩(C)と特に錯化し易く、結合解離エネルギーが特に高くなり易く、より一層強度の高い架橋構造を形成できる。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物としては、3,6-ジ(2-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(3-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(4-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(2-ピリジルメチル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(2-ピリジルエチル)-1,2,4,5-テトラジン、3-(2-ピリジルメチル)-6-(2-ピリジルエチル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(2-ピリミジニル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(4-ピリミジニル)-1,2,4,5-テトラジン、3,6-ジ(5-ピリミジニル)-1,2,4,5-テトラジン等が挙げられ、これらの中でも、3,6-ジ(2-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジンが好ましい。
【0037】
前記ゴム組成物中の前記複素環式化合物(B)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上が更に好ましく、また、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下が更に好ましい。複素環式化合物(B)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であると、配位結合による架橋が多くなり、高歪み領域において、配位結合による架橋が開裂し、犠牲破壊によるエネルギー散逸により、ゴム組成物の耐破壊性が更に向上する。また、複素環式化合物(B)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、10質量部以下であると、十分なエラストマー性を有する架橋ゴムが得られ易い。
【0038】
前記ジエン系ゴム(A)は、前記複素環式化合物(B)で変性されていることが好ましい。ジエン系ゴム(A)が複素環式化合物(B)で変性されている場合、複数の複素環式化合物(B)部分が後述するハロゲン化金属塩(C)と錯化して配位結合を形成するだけで、複数のジエン系ゴム(A)の主鎖間を架橋することができる。ここで、複素環式化合物(B)によるジエン系ゴム(A)の変性は、ゴム組成物の配合段階でもよい。また、ゴム組成物の配合に先立ち、予め、複素環式化合物(B)によってジエン系ゴム(A)を変性しておき、複素環式化合物(B)で変性されたジエン系ゴム(A)を、ゴム組成物の配合段階で、ハロゲン化金属塩(C)等と配合して、複数のジエン系ゴム(A)の主鎖間を架橋してもよい。
【0039】
前記ジエン系ゴム(A)が前記複素環式化合物(B)で変性されている場合、前記複素環式化合物(B)は、前記ジエン系ゴム(A)中のモノマー単位に対して0.01~10mol%の量で結合していることが好ましく、0.02~8mol%であることがより好ましく、0.03~5mol%であることがより一層好ましく、0.03~3mol%であることが特に好ましい。複素環式化合物(B)が、ジエン系ゴム(A)中のモノマー単位に対して0.01mol%以上の量で結合している場合、配位結合による架橋が多くなり、高歪み領域において、配位結合による架橋が開裂し、犠牲破壊によるエネルギー散逸により、ゴム組成物の耐破壊性が更に向上する。また、複素環式化合物(B)が、ジエン系ゴム(A)中のモノマー単位に対して10mol%以下の量で結合している場合、十分なエラストマー性を有する架橋ゴムが得られ易い。
【0040】
--ハロゲン化金属塩(C)--
本発明のゴム組成物は、ハロゲン化金属塩(C)を含む。該ハロゲン化金属塩(C)は、取り扱い易く、また、前記複素環式化合物(B)と結合を形成し易い。ハロゲン化金属塩(C)が、複数の複素環式化合物(B)と配位結合を形成することで、複数のジエン系ゴム(A)が架橋されることとなる。ここで、配位結合による架橋は、結合(架橋)と解離(開裂)が可逆的な可逆架橋であり、結合解離エネルギーが比較的低い架橋であり、外部刺激により切れても可逆的に再生可能である。
【0041】
前記ハロゲン化金属塩(C)は、遷移金属及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。遷移金属及び/又は亜鉛を含むハロゲン化金属塩は、前記複素環式化合物(B)と錯化し易い。
遷移金属としては、例えば、周期表7~11族の元素が挙げられる。
具体的には、周期表7族の元素としては、マンガン、レニウム等が挙げられる。
また、周期表8族の元素としては、鉄、ルテニルム、オスミウム等が挙げられる。
また、周期表9族の元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。
また、周期表10族の元素としては、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。
また、周期表11族の元素としては、銅等が挙げられる。
周期表7~11族の元素及び亜鉛は、複素環式化合物(B)との結合が強くなり易い。また、ハロゲン化金属塩(C)が、周期表8族又は11族の元素、或いは亜鉛を含む場合、複素環式化合物(B)との結合が更に強くなり易い。
なお、ハロゲン化金属塩(C)中の金属イオンに関して、イオンの価数は特に限定されず、各元素の取り得る任意の価数をとることができるが、好ましくは2価以上である。
【0042】
前記ハロゲン化金属塩(C)は、鉄、亜鉛又は銅を含むことが特に好ましい。鉄イオン、亜鉛イオン及び銅イオンは、複素環式化合物(B)との結合が特に強くなり易く、より強度の高い架橋構造を形成できる。なお、鉄イオンの価数は、2価(Fe2+)又は3価(Fe3+)であることが好ましい。
【0043】
また、前記ハロゲン化金属塩(C)としては、フッ化金属塩、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等が挙げられ、これらの中でも、塩化金属塩が好ましい。塩化金属塩は、取り扱い易く、また、複素環式化合物(B)と結合を更に形成し易い。なお、前記ハロゲン化金属塩(C)の形態は、特に限定されず、例えば、水和物等であってもよい。
【0044】
前記ハロゲン化金属塩(C)として、具体的には、FeCl2、FeCl2・4H2O、FeCl3、FeCl3・6H2O、ZnCl2、CuCl、CuCl2、CuBr等が挙げられる。また、ハロゲン化金属塩(C)は、1種のみでも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0045】
前記ハロゲン化金属塩(C)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1~30質量部の範囲が好ましく、0.1~15質量部の範囲がより好ましく、0.1~10質量部の範囲がより一層好ましく、0.1~5質量部の範囲が特に好ましい。ハロゲン化金属塩(C)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であると、配位結合による架橋が多くなり、高歪み領域において、配位結合による架橋が開裂し、犠牲破壊によるエネルギー散逸により、ゴム組成物の耐破壊性が更に向上する。また、ハロゲン化金属塩(C)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、30質量部以下であると、十分なエラストマー性を有する架橋ゴムが得られ易い。
【0046】
本発明のゴム組成物においては、前記ハロゲン化金属塩(C)と前記複素環式化合物(B)との間の結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上であることが好ましく、200kJ/mol以上であることが更に好ましく、240kJ/mol以上であることがより一層好ましく、また、500kJ/mol以下であることが好ましい。該結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上であることで、低歪み領域において、配位結合による架橋が十分な強度を有することとなる。また、該結合解離エネルギーが、500kJ/mol以下であると、高歪み領域において、ハロゲン化金属塩(C)と複素環式化合物(B)との間の配位結合による架橋が開裂し易くなり、架橋の開裂によるエネルギー散逸により、ゴム組成物の耐破壊性を更に向上させることができる。
【0047】
ここで、本発明において、ハロゲン化金属塩(C)と複素環式化合物(B)との間の結合解離エネルギーは、M06/6-31G(d,p)//B3PW91-D3/6-31G(d,p) レベルまたはM06/6-31G(d,p)レベル, 真空中で計算された値であり、複素環式化合物(B)がジエン系ゴム(A)と結合した構造における計算値である。なお、ハロゲン化金属塩(C)と複素環式化合物(B)とは、イオン性の凝集体を形成しているものと考えられる。該結合解離エネルギーの計算には、Gaussian09やGRRM14を使用できる。
【0048】
例えば、前記ジエン系ゴム(A)と、前記複素環式化合物(B)と、前記ハロゲン化金属塩(C)とを混合(混練)することで、配位結合による架橋を形成できる。ここで、混練において、温度、時間等の条件は、使用するジエン系ゴム(A)、複素環式化合物(B)、ハロゲン化金属塩(C)の種類、反応性に応じて、適宜選択することが好ましい。
【0049】
一例として、複素環式化合物(B)として、3,6-ジ(2-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジンを使用し、ハロゲン化金属塩(C)として、塩化亜鉛(ZnCl
2)を使用した場合の、ジエン系ゴム(A)の変性と、変性ジエン系ゴムの配位結合架橋(錯化)と、の反応スキームを以下に示す。なお、ここに示す変性ジエン系ゴムの構造は、想定される一つの例であり、これに限られるものではなく、例えば、互変異性による異性体や、酸化した形態等であってもよい。
【化3】
【0050】
上記反応スキームの上段に記載のように、本発明の一実施態様においては、ジエン系ゴム(A)と、複素環式化合物(B)と、のディールス・アルダー反応により、変性ジエン系ゴムを生成させる。なお、本実施形態では、ディールス・アルダー反応の際に、窒素が脱離するが、変性反応には、その他の任意の反応を利用してもよい。
【0051】
また、上記反応スキームの下段に記載のように、本発明の一実施態様においては、変性ジエン系ゴムと、ハロゲン化金属塩(C)と、が錯化することで、配位結合により架橋されたジエン系ゴム(錯化ジエン系ゴム)が生成する。なお、上記反応スキームにおいては、テトラジン残基中の窒素原子と、テトラジン残基に結合するピリジル基の窒素原子と、亜鉛イオンと、が錯化する態様を示したが、配位結合により架橋されたジエン系ゴムは、種々の架橋態様を取ることができる。
【0052】
--有機過酸化物(D)--
本発明のゴム組成物は、有機過酸化物(D)を含む。ゴム組成物が前記ハロゲン化金属塩(C)と共に有機過酸化物(D)を含むことで、架橋後のゴム組成物中に、ハロゲン化金属塩(C)による配位結合による架橋と、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)とが存在することとなる(Dual Cross Link :DCL)。そして、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)は、熱を加えても開裂し難く、熱に対して形態変化し難い架橋であるため、ゴム組成物の耐熱劣化性の向上に寄与する。一方、歪みを受けた際には(特には、高歪み領域において)、配位結合による架橋の開裂によるエネルギー散逸により、耐破壊性が向上する。
【0053】
前記有機過酸化物(D)としては、特に限定されるものではないが、tert-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジ-tert-ヘキシルペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、ジ(2-tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、過安息香酸、過酸化ベンゾイル、1,1-ビス(1,1-ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、n-ブチル-4,4-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、tert-ブチルペルオキシラウレート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシアセテート、シクロヘキサノンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、有機過酸化物(D)としては、ジクミルペルオキシド(DCP)が好ましい。これら有機過酸化物(D)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
前記ゴム組成物中の前記有機過酸化物(D)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上が更に好ましく、0.5質量部以上がより一層好ましく、また、30質量部以下が好ましく、20質量部以下が更に好ましく、10質量部以下がより一層好ましい。有機過酸化物(D)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であると、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造の網目密度が向上し、耐熱劣化性が更に向上する。また、有機過酸化物(D)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、30質量部以下であると、十分なエラストマー性を有する架橋ゴムが得られ易い。
【0055】
ここで、前記有機過酸化物(D)と前記ハロゲン化金属塩(C)との質量比(D/C)が、0.1~10である。有機過酸化物(D)とハロゲン化金属塩(C)との質量比(D/C)が0.1~10の範囲内の場合、ゴム組成物の耐熱劣化性と耐破壊性とのバランスがより良好となる。ゴム組成物の耐熱劣化性と耐破壊性とのバランスの観点から、有機過酸化物(D)とハロゲン化金属塩(C)との質量比(D/C)は、0.1~8の範囲が更に好ましく、0.1~6の範囲がより一層好ましい。
【0056】
--酸化亜鉛(E)--
本発明のゴム組成物は、更に、酸化亜鉛(E)を含むことが好ましい。ゴム組成物が酸化亜鉛(E)を含むことで、ゴム組成物の機械特性が向上する。また、ゴム組成物が酸化亜鉛(E)を含むことで、ゴム組成物の導電性が向上し、ゴム組成物の製造工程において、静電気が蓄積し難くなる。また、ゴム組成物が酸化亜鉛(E)を含むことで、ゴム組成物が密着し難くなる。
【0057】
前記ゴム組成物中の前記酸化亜鉛(E)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上が更に好ましく、また、30質量部以下が好ましく、10質量部以下が更に好ましい。酸化亜鉛(E)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下の範囲であると、ゴム組成物の機械特性及び導電性がより向上し、また、ゴム組成物が更に密着し難くなる。
なお、酸化亜鉛(E)とハロゲン化金属塩(C)との質量比(E/C)は、0.1~50の範囲が好ましく、1~20の範囲が更に好ましい。
【0058】
--カーボンブラック(F)--
本発明のゴム組成物は、更に、カーボンブラック(F)を含むことが好ましい。ゴム組成物がカーボンブラック(F)を含むことで、ゴム組成物の補強性が向上して、耐破壊性が更に向上する。
【0059】
前記カーボンブラック(F)としては、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラック(F)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記ゴム組成物中の前記カーボンブラック(F)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、5質量部以上が更に好ましく、また、100質量部以下が好ましく、90質量部以下が更に好ましい。カーボンブラック(F)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、2質量部以上であると、ゴム組成物の補強性が更に向上して、耐破壊性がより一層向上する。また、カーボンブラック(F)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、100質量部以下であると、ゴム組成物の混錬における作業性が更に向上する。
【0061】
--シリカ(G)--
本発明のゴム組成物は、更に、シリカ(G)を含むことが好ましい。ゴム組成物がシリカ(G)を含むことで、ゴム組成物の補強性が向上して、耐破壊性が更に向上する。
【0062】
前記シリカ(G)としては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらシリカ(G)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
前記ゴム組成物中の前記シリカ(G)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、5質量部以上が更に好ましく、また、100質量部以下が好ましく、90質量部以下が更に好ましい。シリカ(G)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、2質量部以上であると、ゴム組成物の補強性が更に向上して、耐破壊性がより一層向上する。また、シリカ(G)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、100質量部以下であると、ゴム組成物の混錬における作業性が更に向上する。
なお、カーボンブラック(F)とシリカ(G)との質量比(F/G)は、0.02~50の範囲が好ましく、0.05~20の範囲が更に好ましい。
【0064】
--その他--
本発明のゴム組成物には、上述したジエン系ゴム(A)、複素環式化合物(B)、ハロゲン化金属塩(C)、有機過酸化物(D)、酸化亜鉛(E)、カーボンブラック(F)、シリカ(G)の他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、シランカップリング剤、加硫促進剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0065】
前記老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AW)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)等が挙げられる。該老化防止剤の含有量は、特に制限はなく、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.5~4質量部がより好ましい。
【0066】
前記ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。該ワックスの含有量は、特に制限はなく、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、1~4質量部がより好ましい。
【0067】
--ゴム組成物の製造方法--
前記ゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、既述のジエン系ゴム(A)、複素環式化合物(B)、ハロゲン化金属塩(C)及び有機過酸化物(D)に、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0068】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置の投入体積やローターの回転速度、ラム圧等、及び混練り温度や混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。混練り装置としては、通常、ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサーやインターミックス、ニーダー、ロール等が挙げられる。
【0069】
前記熱入れの条件についても、特に制限はなく、熱入れ温度や熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。該熱入れ装置としては、通常、ゴム組成物の熱入れに用いる熱入れロール機等が挙げられる。
【0070】
前記押出の条件についても、特に制限はなく、押出時間や押出速度、押出装置、押出温度等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。押出装置としては、通常、ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。押出温度は、適宜に決定することができる。
【0071】
例えば、混練の第一段階において、ジエン系ゴム(A)と、複素環式化合物(B)と、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練することで、ジエン系ゴム(A)に複素環式化合物(B)が結合した変性ジエン系ゴムを含む混合物を形成し、混練の第二段階以降において、ハロゲン化金属塩(C)及び有機過酸化物(D)と、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練することで、複素環式化合物(B)で変性されたジエン系ゴム(A)を錯化して、配位結合による架橋構造を形成しつつ、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)も形成することができる。かかるゴム組成物の製造方法は、ゴム組成物の製造(ゴム組成物の混練)中に配位結合による架橋構造と有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)を形成できるため、生産性に優れる。
【0072】
また、例えば、ジエン系ゴム(A)に複素環式化合物(B)が結合した変性ジエン系ゴムを予め調製し、混練の第一段階において、予め調製しておいた該変性ジエン系ゴムと、任意の配合剤と、を混練し、混練の第二段階以降において、ハロゲン化金属塩(C)及び有機過酸化物(D)と、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練することで、複素環式化合物(B)で変性されたジエン系ゴム(A)を錯化して、配位結合による架橋構造を形成しつつ、有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)も形成してもよい。かかるゴム組成物の製造方法によっても、配位結合による架橋構造と有機過酸化物(D)に起因する架橋構造(C-C結合等)を簡便に形成でき、また、生産性にも優れる。
【0073】
<ゴム製品>
本発明のゴム製品は、タイヤ、ゴムクローラ、及び免震ゴムからなる群から選択されるゴム製品であって、上記のゴム組成物を含むことを特徴とする。
本発明のゴム製品は、上述のゴム組成物を含むため、耐熱劣化性と耐破壊性とに優れる。
【0074】
--タイヤ--
本発明のゴム製品がタイヤである場合、タイヤにおける本発明のゴム組成物の適用部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トレッド、ベーストレッド、サイドウォール、サイド補強ゴム及びビードフィラー等が挙げられる。
前記タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。例えば、タイヤ成形用ドラム上に未加硫ゴム組成物及び/又はコードからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常タイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望のタイヤ(例えば、空気入りタイヤ)を製造することができる。
【0075】
--ゴムクローラ--
本発明ゴム製品がゴムクローラである場合、一実施形態において、該ゴムクローラは、スチールコードと、該スチールコードを被覆する中間ゴム層と、該中間ゴム層の上に配置された芯金と、前記中間ゴム層と芯金とを囲む本体ゴム層とを具え、更に、本体ゴム層の接地面側に複数のラグを有している。ここで、本発明のゴム組成物は、該ゴムクローラのどの部位に用いてもよいが、耐亀裂進展性に優れるため、本体ゴム層、特には、ラグに用いることが好ましい。
【0076】
--免震ゴム--
本発明ゴム製品が免震ゴムである場合、一実施形態において、該免震ゴムは、軟質層と硬質層とが交互に積層された積層体、及び、当該積層体の中心に形成された中空部に圧入されるプラグを具える。そして、一実施形態においては、上述した本発明のゴム組成物を、軟質層及びプラグの少なくともいずれかに用いることができる。
【実施例0077】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
<ジエン系ゴムの分析>
ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、以下の方法で測定する。
【0079】
(1)重量平均分子量(Mw)の測定方法
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー社製HLC-8321GPC/HT、カラム:昭和電工社製HT-806M×2本、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、ジエン系ゴムのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求める。なお、測定温度は40℃である。
【0080】
<ゴム組成物の製造及び評価>
表1及び表2に示す配合処方で、通常のバンバリーミキサーを用いて、ゴム組成物を製造した。得られたゴム組成物に対し、下記の方法で耐熱劣化性と耐破壊性を評価した。
また、配合したハロゲン化金属塩(C)と複素環式化合物(B)との間の結合解離エネルギーは、下記の方法で測定した。
【0081】
--カーボンブラック未配合ゴム組成物(実施例1~3及び比較例1~4)--
(2)耐熱劣化性(熱劣化後モジュラス変化率)の評価方法
実施例1~3及び比較例1~4について、ゴム組成物からリング状試験片を作製し、作製直後の試験片と、大気下、100℃で48時間熱劣化させた試験片に対して、引張試験(テンシロン社製、万能引張機を使用して、引張速度300mm/minの条件で測定)を行った。作製直後の試験片の歪100%でのモジュラスの値と、熱劣化させた試験片の歪100%でのモジュラスの値から、熱劣化前後の変化率を絶対値として算出した。
熱劣化前後の変化率が小さい程、耐熱劣化性に優れることを示す。
【0082】
(3)耐破壊性(強度)の評価方法
実施例1~3及び比較例1~4に対する引張試験から得られる破壊エネルギー(テンシロン社製、万能引張機を使用して、引張速度300mm/minの条件で測定)について、比較例4の配合データをコントロール(指数値100)として、各例の配合データを規格化した。指数値が大きい程、破壊エネルギーが大きく、耐破壊性に優れることを示す。
【0083】
--カーボンブラック配合ゴム組成物(実施例4及び比較例5~8)--
(4)耐熱劣化性(熱劣化後モジュラス変化率)の評価方法
実施例4については、ゴム組成物からリング状試験片を作製し、作製直後の試験片と、大気下、100℃で48時間熱劣化させた試験片に対して、引張試験(テンシロン社製、万能引張機を使用して、引張速度300mm/minの条件で測定)を行った。作製直後の試験片の歪300%でのモジュラスの値と、熱劣化させた試験片の歪300%でのモジュラスの値から、熱劣化前後の変化率を絶対値として算出した。
比較例5~8については、ゴム組成物からJIS 7号試験片を作製し、作製直後の試験片と、大気下、100℃で48時間熱劣化させた試験片に対して、引張試験(instron社製、万能引張試験機を使用して、引張速度200mm/minの条件で測定)を行った。作製直後の試験片の歪300%でのモジュラスの値と、熱劣化させた試験片の歪300%でのモジュラスの値から、熱劣化前後の変化率を絶対値として算出した。
なお、実施例と比較例とで、試験機、試験片の形状、測定条件の一部が異なるものの、熱劣化前後のモジュラス変化率については、再現性のある結果となっている。
熱劣化前後の変化率が小さい程、耐熱劣化性に優れることを示す。
【0084】
(5)耐破壊性(耐亀裂性)の評価方法
ゴム組成物から、中央に穴をあけた短冊形試験片を作製し、該試験片を用いたdc/dn試験(島津社製「サーボパルサ」を使用して、周波数5Hz、40℃において、定応力試験により、各配合において応力2水準以上で測定)において、繰り返し回数2000回時の引き裂きエネルギー[J/m2]の常用対数を取った値が4.0となるときの亀裂進展速度を算出した。上記処理で得られる亀裂進展速度において、比較例6の配合データをコントロール(指数値100)として、各例の配合データの逆数で規格化した。指数値が大きい程、亀裂進展速度が低く、耐破壊性に優れることを示す。
【0085】
(6)結合解離エネルギーの計算方法
ハロゲン化金属塩(C)(具体的には、ハロゲン化金属塩(C)の金属イオン)と複素環式化合物(B)(具体的には、複素環式化合物(B)の官能基)との結合解離エネルギーは、M06/6-31G(d,p)//B3PW91-D3/6-31G(d,p)レベルまたはM06/6-31G(d,p)レベル,真空中で計算された値であり、複素環式化合物(B)がジエン系ゴム(A)と結合した構造における計算値である。なお、金属イオンと官能基とは、イオン性の凝集体を形成しているものと考えられる。該結合解離エネルギーの計算には、Gaussian09やGRRM14を使用できる。ここでは、M06/6-31G(d,p) level of theory, gas phase条件のもと、中心金属とテトラジン誘導体との配位結合の解離エネルギーを求めた。
【0086】
実施例1~4で製造したゴム組成物に関して、ハロゲン化金属塩(C)[塩化亜鉛]と複素環式化合物(B)[3,6-ジ(2-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン]との間の結合解離エネルギーは、172.0kJ/molである。
【0087】
【0088】
【0089】
*1 SBR: スチレン-ブタジエンゴム、旭化成社製、商品名「タフデン2000R」、重量平均分子量(Mw)=363,046
*2 複素環式化合物: 3,6-ジ(2-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、東京化成工業社製
*3 ステアリン酸: 新日本理化社製、商品名「Stearic Acid 50s」
*4 老化防止剤: 老化防止剤6PPD、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、住友化学社製、商品名「アンチゲン6C」
*5 ワックス: 精工化学社製、商品名「サンタイト」
*6 硫黄: 細井化学工業社製、商品名「HK200-5」
*7 有機過酸化物: ジクミルペルオキシド(DCP)、日油株式会社製、商品名「パークミルD
*8 亜鉛華: 酸化亜鉛、ハクスイテック社製、「酸化亜鉛2種」
*9 加硫促進剤1: 三新化学工業社製、商品名「サンセラーCM-G」
*10 塩化亜鉛: ZnCl2、東京化成工業社製
*11 カーボンブラック: ISAF級、旭カーボン社製、商品名「旭#78」
*12 加硫促進剤2: 大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーTOT-N」
【0090】
表1及び表2から、本発明に従う実施例のゴム組成物は、耐熱劣化性と耐破壊性とを両立できていることが分かる。