(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126081
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】移動式排泄支援装置
(51)【国際特許分類】
A61G 7/12 20060101AFI20230831BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20230831BHJP
A61G 5/10 20060101ALI20230831BHJP
A47K 17/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61G7/12
A61G5/14 711
A61G5/10 704
A47K17/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111137
(22)【出願日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2022030435
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000138244
【氏名又は名称】株式会社モルテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 隆司
(72)【発明者】
【氏名】天野 惠太
(72)【発明者】
【氏名】安原 修平
(72)【発明者】
【氏名】ズン キエン ヒュン
【テーマコード(参考)】
2D037
4C040
【Fターム(参考)】
2D037BA12
2D037BA13
2D037BA14
2D037BA16
4C040AA11
4C040JJ03
4C040JJ08
(57)【要約】
【課題】一人の介助者でトイレにおいて被介護者の排泄介助が容易に行える移動式排泄支援装置を提供する。
【解決手段】 便器を受け入れる開放部16を備え、車輪13,14を備えた移動体部2と、移動体部2上に設けられた支持基体部3と、支持基体部3に上下方向に回動自在に支持される人体支持部4を有し、人体支持部4は座面部38と、足置き部39と、上体支持部8とを備えており、人体支持部4を水平状態と前傾状態とに駆動するアクチュエータ部5を有し、上体支持部8は、人体支持部4が前方下方に傾いた時に前方寄り位置で被介護者の上体を支える位置に配設してある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に前後動を可能にする車輪を備えるとともに便器を受け入れる開放部を備えた移動体部と、
前記便器を受け入れる開放部を備えるとともに前記移動体部上に設けられた支持基体部と、
前記支持基体部に上下方向に回動自在に支持されるとともに、少なくとも座面部と、足置き部と、上体支持部とを備えた人体支持部と、
前記人体支持部を水平状態と前傾状態とに駆動する傾斜駆動部と、
を有し、
前記人体支持部が回動すると、前記座面部、前記足置き部、前記上体支持部も共に回動し、
前記上体支持部は、前記座面部に座る被介護者に対向する前方側位置に配設され、
前記前方側位置は、前記人体支持部が前記前傾状態の時に、前記被介護者の上体を支える位置である、ことを特徴とする移動式排泄支援装置。
【請求項2】
前記人体支持部が、前記前傾状態の時に前記被介護者の膝を支持する膝支持部を有し、前記膝支持部が、前記座面部よりも前方側に配設されるとともに車体幅方向に広がるパッド部を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項3】
前記上体支持部を、前記被介護者の腕を置ける領域を備えた腕置き部で構成した、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項4】
前記腕置き部は、水平壁面を有する第1腕受部と、垂直壁面を有する第2腕受部とを有する、ことを特徴とする請求項3に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項5】
前記上体支持部の後方側に、前記被介護者の身体との干渉を防ぐ切欠部を設けた、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項6】
前記上体支持部が、高さ調整部を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項7】
前記上体支持部と前記人体支持部の間に、前記上体支持部を前記人体支持部から取り外しを可能にする着脱自在部が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項8】
前記上体支持部の下方に延びる複数の棒部と、
前記人体支持部に設けられた、前記複数の棒部を出し入れできる複数の筒体受部とを有し、
前記複数の棒部と前記複数の筒体受部とによって前記着脱自在部が構成されている、ことを特徴とする請求項7に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項9】
前記上体支持部の下方に延びる複数の棒部と、
前記人体支持部に設けられた、前記複数の棒部を出し入れできる複数の筒体受部とを有し、
前記複数の棒部と前記複数の筒体受部とによって前記着脱自在部が構成されており、
前記複数の棒部間に架け渡すように膝当て部を設けることで、前記前傾状態の時に前記被介護者の膝を支持する膝支持部を構成した、ことを特徴とする請求項7に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項10】
前記人体支持部がヒンジ構造部を有し、前記ヒンジ構造部によって前記座面部に対して前記上体支持部を前後方向に回動させて開閉自在な構成にした、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項11】
前記上体支持部が、前記被介護者の胸部を支持する胸部支持部を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項12】
形状の異なる複数の前記上体支持部を有している、ことを特徴とする請求項7に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項13】
前記傾斜駆動部をガスシリンダーで構成した、ことを特徴とする請求項1に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項14】
前記上体支持部の前記棒部に上下移動棒部を設け、
前記筒体受部に前記上下移動棒部を嵌合させることで、前記棒部を前記筒体受部に固定した、ことを特徴とする請求項8に記載の移動式排泄支援装置。
【請求項15】
前記筒体受部と前記上下移動棒部の嵌合位置に対応する所定位置に、前記上下移動棒部の前記嵌合位置を超えた回動動作を防止するストッパー部を設けた、ことを特徴とする請求項14に記載の移動式排泄支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレまで移動でき、介助者の負担を減らし、被介護者の排泄動作を支援することができる移動式排泄支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被介護者の排泄に関する技術として、特許文献1に示すように被介護者用の車椅子に便器を設けた構成がある。
また、既存のトイレを利用するために、特許文献2に示すようにトイレ用車椅子補助具も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-606号公報
【特許文献2】実用新案登録第3221335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、既存のトイレを使用する場合には、一人の介助者が被介護者を抱えた状態で、もう一人の介助者がズボンや下着を脱がせ、また、再び着させるという作業を行わねばならず、被介護者の排泄に二人の介助者が必要で、介護に人手がかかるという課題があった。
この課題に対して、車椅子補助具の座面から被介護者を上方に持ち上げる昇降装置を設けて、車椅子の座面に平行な隙間を作り、その隙間を利用してズボンや下着を脱がせるという構成も考えることができる。
【0005】
しかし、このような構成では体重の重い被介護者を持ち上げる場合も想定しなければならないことから強力な昇降装置が必要になり、装置の重量が増大するとともに製造コストも高くなる課題があった。
【0006】
本発明は、上記各課題を解決するためになされたものである。
本発明の目的は、一人の介助者でトイレにおいて被介護者の排泄介助が容易に行える移動式排泄支援装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、比較的、簡単な構成かつ安価に構成できるとともに、一人の介助者でトイレにおいて被介護者の排泄介助が容易に行える移動式排泄支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記各課題に対して、座面部に座る被介護者を支持する人体支持部を設け、その人体支持部に対して傾斜動作を行う機構を設けるとともに、前傾状態になる被介護者を被介護者の前方側で受け止める上体支持手段を設けることで課題を解決できることを見出し、本発明を完成したものである。
本発明の第1態様に係る移動式排泄支援装置は、
下部に前後動を可能にする車輪を備えるとともに便器を受け入れる開放部を備えた移動体部と、
前記便器を受け入れる開放部を備えるとともに前記移動体部上に設けられた支持基体部と、
前記支持基体部に上下方向に回動自在に支持されるとともに、少なくとも座面部と、足置き部と、上体支持部とを備えた人体支持部と、
前記人体支持部を水平状態と前傾状態とに駆動する傾斜駆動部と、
を有し、
前記人体支持部が回動すると、前記座面部、前記足置き部、前記上体支持部も共に回動し、
前記上体支持部は、前記座面部に座る被介護者に対向する前方側位置に配設され、
前記前方側位置は、前記人体支持部が前記前傾状態の時に、前記被介護者の上体を支える位置である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2態様は、前記第1態様に記載の移動式排泄支援装置であって、前記人体支持部が、前記前傾状態の時に前記被介護者の膝を支持する膝支持部を有し、前記膝支持部が、前記座面部よりも前方側に配設されるとともに車体幅方向に広がるパッド部を有している、ことを特徴とする。
本発明の第3態様は、前記第1態様又は前記第2態様に記載の移動式排泄支援装置であって、前記上体支持部を、前記被介護者の腕を置ける領域を備えた腕置き部で構成した、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第4態様は、前記第3態様に記載の移動式排泄支援装置であって、前記腕置き部は、水平壁面を有する第1腕受部と、垂直壁面を有する第2腕受部とを有する、ことを特徴とする。
本発明の第5態様は、前記第1態様から前記第4態様のいずれかに記載の移動式排泄支援装置であって、前記上体支持部の後方側に、前記被介護者の身体との干渉を防ぐ切欠部を設けた、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第6態様は、前記第1態様から前記第5態様のいずれかに記載の移動式排泄支援装置であって、前記上体支持部が、高さ調整部を有している、ことを特徴とする。
本発明の第7態様は、前記第1態様から前記第6態様のいずれかに記載の移動式排泄支援装置であって、前記上体支持部と前記人体支持部の間に、前記上体支持部を前記人体支持部から取り外しを可能にする着脱自在部が設けられている、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第8態様は、前記第7態様に記載の移動式排泄支援装置であって、
前記上体支持部の下方に延びる複数の棒部と、
前記人体支持部に設けられた、前記複数の棒部を出し入れできる複数の筒体受部とを有し、
前記複数の棒部と前記複数の筒体受部とによって前記着脱自在部が構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第9態様は、前記第7態様に記載の移動式排泄支援装置であって、
前記上体支持部の下方に延びる複数の棒部と、
前記人体支持部に設けられた、前記複数の棒部を出し入れできる複数の筒体受部とを有し、
前記複数の棒部と前記複数の筒体受部とによって前記着脱自在部が構成されており、
前記複数の棒部間に架け渡すように膝当て部を設けることで、前記前傾状態の時に前記被介護者の膝を支持する膝支持部を構成した、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第10態様は、前記第1態様から前記第9態様のいずれかに記載の移動式排泄支援装置であって、前記人体支持部がヒンジ構造部を有し、前記ヒンジ構造部によって前記座面部に対して前記上体支持部を前後方向に回動させて開閉自在な構成にした、ことを特徴とする。
本発明の第11態様は、前記第1態様から前記第10態様のいずれかに記載の移動式排泄支援装置であって、前記上体支持部が、前記被介護者の胸部を支持する胸部支持部を有している、ことを特徴とする。
本発明の第12態様は、前記第7態様に記載の移動式排泄支援装置であって、形状の異なる複数の前記上体支持部を有している、ことを特徴とする。
本発明の第13態様は、前記第1態様から前記第12態様のいずれかに記載の移動式排泄支援装置であって、前記傾斜駆動部をガスシリンダーで構成した、ことを特徴とする。
本発明の第14態様は、前記第8態様に記載の移動式排泄支援装置であって、
前記上体支持部の前記棒部に上下移動棒部を設け、
前記筒体受部に前記上下移動棒部を嵌合させることで、前記棒部を前記筒体受部に固定した、ことを特徴とする。
本発明の第15態様は、前記第14態様に記載の移動式排泄支援装置であって、
前記筒体受部と前記上下移動棒部の嵌合位置に対応する所定位置に、前記上下移動棒部の前記嵌合位置を超えた回動動作を防止するストッパー部を設けた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明であれば、一人の介助者でトイレにおいて被介護者の排泄介助が容易に行える移動式排泄支援装置を提供できる。
また、比較的、簡単な構成かつ安価に構成できるとともに、一人の介助者でトイレにおいて被介護者の排泄介助が容易に行える移動式排泄支援装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る移動式排泄支援装置を右上方から見た斜視図である。
【
図2】ヒンジ構造部を有する本実施形態に係る移動式排泄支援装置を左上方から見た斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る上体支持部の一例を側方から見た斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る移動式排泄支援装置において、人体支持部が水平状態の時に被介護者が座面部に座った様子を示す斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る移動式排泄支援装置において、人体支持部が前傾状態の時に被介護者の様子を示す側面図である。
【
図6】本実施形態に係る移動式排泄支援装置において、人体支持部が前傾状態の時に被介護者がさらに上体支持部に寄りかかり、
図5の状態からさらに尻を上げた様子を示す側面図である。
【
図7】本実施形態に係る移動式排泄支援装置において、支軸を足置き部支え部寄り位置に設けた構成を示す側面図である。
【
図8】(a)(b)(c)はそれぞれ本実施形態に係る移動式排泄支援装置において、変形例を説明するための本装置の部分的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る一実施形態である移動式排泄支援装置について説明する。
まず、本実施形態に係る移動式排泄支援装置は、略車椅子形に構成され、車輪などの手段によって移動可能に構成された装置である。
【0017】
本明細書において、
図1に示すように、例えば介助者によって押されることにより、本装置が進む方向を前方向、その反対の方向を後方向、その前後方向(
図1においてX方向で示す)に直交する幅方向を横方向(
図1においてY方向で示す)、前後方向と横方向の両方に直交する方向を本装置の高さ方向又は縦方向(
図1においてZ方向で示す)と称する。また、右方向、左方向は後方から押す介助者から見た方向を基準にする。
【0018】
本実施形態に係る移動式排泄支援装置1は、大別すると、装置全体を人力又は動力で移動可能に構成する移動体部2と、移動体部2上に設けられた支持基体部3と、その支持基体部3上に配設され、上下方向に回動自在に支持される人体支持部4と、人体支持部4を回動させる傾斜駆動部としてのアクチュエータ部5を有している。
【0019】
<移動体部>
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、移動体部2は、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11とを含んで構成してある。右側下部フレーム10と左側下部フレーム11は前後方向に延びるように平行に設けられ、全体で平面視において、前方及び後方が開いた一対の下部フレーム部を構成している。
車体後部側は、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の間が開放されていることによって、便器83(
図4参照)が入る開放部16の一部を構成している。
右側下部フレーム10及び左側下部フレーム11の後方端部位置にはそれぞれ後輪13,13が固定され、前側下部フレーム12と右側下部フレーム10の前方端部位置にはそれぞれ前輪14,14が固定されている。前輪14,14の上部位置には、車輪ロック部86,86が設けられている。
【0020】
移動体部2の移動形態は、電動モータによる移動、介助者による手押し移動などその移動形態は問わないが、通常は手押し移動が採用される。
本実施形態に係る移動体部2の車輪13,14は前後左右に移動できる自在輪が好ましい。また、少なくとも1cm程度の小さい段差を乗り越えられる車輪を採用することが好ましい。
なお、稀な実施形態として、移動体部2の車輪13,14は、予め決定されたレール上や溝などの路線上を移動するローラなどで構成する場合も含めることができる。
【0021】
<支持基体部>
支持基体部3は移動体部2上に設けられた部材であり、人体支持部4を移動体部2上で支軸26回りに回動させるための基体部である。支軸26は人体支持部4内において幅方向に延びるように配設される。
支持基体部3はアルミ等の金属材で構成されることが多く、フレーム構造物で構成されることが好ましい。
但し、支持基体部3は人体支持部4を上下方向に回動自在に支持するものであれば、形状や構成は限定されない。
以下の構成は支持基体部3の一構成例である。
右側下部フレーム10,左側下部フレーム11の前方寄り位置にパイプ等で構成された前側縦フレーム20,20を立設し、その前側縦フレーム20,20の先端側を後方側に曲げて上部支持フレーム23,23と接続してある。
【0022】
上部支持フレーム23,23は、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の上方に配設された前後方向に延びるフレームである。上部支持フレーム23,23は、右側下部フレーム10,左側下部フレーム11の前後方向中間位置から上方に立設された中側縦フレーム21,21と、右側下部フレーム10,左側下部フレーム11の後方位置から上方に立設された後側縦フレーム22,22によって右側下部フレーム10,左側下部フレーム11の上方空間に支持される。
【0023】
中側縦フレーム21,21が設けられた右側下部フレーム10,左側下部フレーム11の下側位置には、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の間に架け渡すように横架杆25が設けてある。
中側縦フレーム21,21と上部支持フレーム23,23の接続部には上部支持フレーム23,23間を架け渡すように下体支持部7を回動自在に支持する支軸26が設けてある。
支軸26が設けられる前後方向の位置は、座面部38の前端部位置付近に設定することが好ましい。
支軸26が設けられる前後方向の位置は、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の下側に横架杆25が設けられている位置なので、人体支持部4が回動する場合の安定性を向上できる。
なお、
図7に示すように、支軸26を設ける位置を足置き部支え部42寄り位置に設定した構成も採用することができる。この構成では、足置き部支え部42寄り位置において、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の間に架け渡すように支軸26が設けられることになる。この構成であると、地面からの支軸26の高さH2を低くすることができる。
【0024】
また、上部支持フレーム23,23の後端部を上方側に折り曲げて、上方側に延出させて背もたれ縦フレーム27,27を設けている。背もたれ縦フレーム27,27の横方向の間には背もたれ板部28が設けられている。背もたれ板部28は清掃がしやすいように、凹凸のない平板でシンプルな構成のものを採用している。なお、図示していないが、背もたれ板部28の後面側には小物等を入れる袋部が設けられている。
背もたれ縦フレーム27,27の上端部を後方側に約90゜折り曲げて、左右を繋いで後手押しフレーム29を形成してある。なお、後手押しフレーム29は左右一対のハンドグリップで構成してもよい。モータ等による補助移動を使用する場合にはハンドグリップに介助者用ブレーキを設ける。
【0025】
背もたれ縦フレーム27,27の上下方向中間部には、跳ね上げ型のアームサポート30,30を回動自在に支持するアームブラケット31,31が設けてある。回動退避型のアームサポート30,30を設けることで、アームサポート30,30を使用しない時に横外方向の邪魔物をなくせるので、横方向から被介護者78(
図4参照)が座面部38に移動することを可能にできる。
【0026】
ここで、上部支持フレーム23,23の後端部に連結するように背もたれ縦フレーム27,27、背もたれ板部28、後手押しフレーム29、アームサポート30,30等の付属部材を設けることで、支持基体部3に前記付属部材を設けることができる。
この構成であれば、回動動作する下体支持部7に前記付属部材を設ける構成に比べて、下体支持部7の重量を減らすことができ、支軸26やアクチュエータ部5の負担を小さくできる。
支持基体部3の後方側に後手押しフレーム29を設けたことで、支軸26回りに回動する上体支持部8に力をかけずに移動式排泄支援装置1を後方側から手押しすることができる。
【0027】
また、前側縦フレーム20,20、中側縦フレーム21,21、後側縦フレーム22,22の合計6個の柱によって上部支持フレーム23,23を,移動体部2上に支持することができるので、下体支持部7を回動させても被介護者78の重量を安定して支えることができる。
この支持基体部3においても便器83(
図4参照)を収容するための開放部16を設けている。具体的には、便器83を収容する空間には横杆等を設けず、座面部38の高さは便器83の便座84よりも高くなるように、上部支持フレーム23,23の地面からの高さを設定してある。
【0028】
図5,
図6に示すように、アクチュエータ部5の回動操作によって、足置き部39は、平行状態から前方下方に移動することになるので、地面からの支軸26の高さHは、足置き部39が最大限に下方に移動した場合でも足置き部39の先端が地面に当たらない高さHに設定される。そのために、車輪13,14の下面から右側下部フレーム10,左側下部フレーム11まで高さも通常の車椅子に比べて高く設定されている。
支軸26の地面からの高さHは、400mm以上に設定することが好ましい。その理由は、400mmよりも低い位置に設定すると、足置き部39の先端下面が地面についてしまう可能性が高いからである。
なお、支持基体部3の強度を上げるために、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の間、又は上部支持フレーム23,23間などの支持基体部3の各フレームに適宜、横架杆、傾斜杆を追加することができる。
【0029】
<人体支持部>
図5に示すように、人体支持部4は、下体支持部7と上体支持部8とを有している。また、下体支持部7は少なくとも座面部38と足置き部39を有している。
したがって、人体支持部4は、少なくとも座面部38と、足置き部39と、上体支持部8とを含んで構成されることになる。なお、下体支持部7には膝支持部63を含めることが好ましい。
【0030】
(下体支持部)
本実施形態に係る下体支持部7は、下体支持フレーム37と、座面部38と、足置き部39と、着脱自在部47(
図1参照)と、を有している。着脱自在部47は上体支持部8の支え手段として機能する。
なお、下体とはほぼ下半身を意味し、尻、膝、足などを含んでいる。
下体支持フレーム37は座面支え部40と、垂下部41と、足置き部支え部42とを有している。
【0031】
図5に示すように、下体支持フレーム37は座面部38、足置き部39、着脱自在部47を支持するフレームであり、平面視において矩形に形成された枠体で構成される。また、下体支持フレーム37は、右側下部フレーム10,左側下部フレーム11間の横幅及び上部支持フレーム23,23間の横幅よりも小さい横幅を有しており、支持基体部3内に備え付けられた構成としてある。
【0032】
図5に示すように、座面支え部40,40は水平状態で前後方向に延びる一対の杆材で構成され、座面部38を支える部材である。垂下部41,41は座面支え部40の前側端部から略垂直方向に垂れ下がる一対の垂下杆で構成される。足置き部支え部42,42は前記垂下部41,41に接続された、前後方向に延びる一対の杆材で構成され、それらの上面に足置き部39が取り付けられる。
【0033】
(座面部)
図1及び
図2に示すように、座面部38は、移動式排泄支援装置1の便座に相当する部材であり、排泄できるように遮蔽物のない排泄領域部49を有している。本実施形態では、排泄領域部49は座面部38の後端側で幅方向の中心域に座面切欠部45を設けることで構成してある。この場合、座面部38は平面視で後方に開いた略U字形になる。
排泄領域部49は略楕円形の開口でも形成できるが、清掃性を考慮すると略U字形が好ましいと言える。
座面部38の上側面にクッション部を設ける構成と、クッション性のない素材、例えば、合成樹脂製等の構成でも採用できる。
【0034】
(足置き部)
足置き部39は足置き部支え部42,42間に架け渡すように設けられる板部であり、被介護者の足を乗せる部材である。
図1に示すように、足置き部39は足を置く底板部39aと、前方は開放され、側方と後方を囲む側壁部39bとを有している。側壁部39bを設けることで、被介護者が底板部39aに沿って足を動かしても足置き部39から足が出ることはない。また、スリッパ等が脱げても側壁部39b内にとどめることができる。
【0035】
(着脱自在部)
図1及び
図2に示すように、着脱自在部47は、上体支持部8を下体支持部7に対して着脱自在に取り付ける部材である。本実施形態では、上体支持部8の下方に延びる複数の棒部61,61(
図3参照)と、人体支持部4に設けられた、複数の棒部61,61の先端部61a,61aを出し入れできる複数の筒体受部44,44を設け、それらの複数の棒部61,61と複数の筒体受部44,44とによって着脱自在部47を構成した例が示されている。
但し、着脱自在部47の着脱の形態は、簡単に上体支持部8を着脱自在にできるとともに、上体支持部8によって安定して被介護者78の上体の一部を支持できる構成ならば、特に限定されない。
【0036】
(上体支持部)
上体支持部8は、人体支持部4の一部を構成しており、下体支持部7に付設されて下体支持部7の回動と共に回動する部材である。
また、上体支持部8は下体支持部7が支軸26回りに回動した時に、前方下方に倒れそうになる被介護者78の上体を支えるための手段である。
また、「上体」とは身体において腰より上の部分を言う。上体支持部8において、支持される身体部分として、腕(肘、手も含む)の他、必要であれば胸、頭、腹などを含めることができる。
図1~
図3に示すように、本実施形態では、上体支持部8を腕置き部51で構成した例が示してある。
【0037】
図3は、本実施形態に係る上体支持部の一例を側方から見た斜視図である。
図3に示すように、腕置き部51は、回動しない状態で、クッション面である水平壁面を有する第1腕受部52と、第1腕受部52の前側端縁から上方に立設されたクッション面である垂直壁面を有する第2腕受部53と、を有している。なお、本明細書において、「水平壁面」「垂直壁面」の水平、垂直の意味は、それぞれ水平線に対して0゜、90゜の角度ではなく、被介護者78が使用した場合に違和感のない程度の略水平、略垂直の壁面であればよい。
第1腕受部52と第2腕受部53を備えることによって、横方向から見た時にL字形の腕置き部51を構成する。水平壁面と垂直壁面を有することで肘保持機能と座面部38を上げた場合の安定性を維持できる。
クッション面を有することで座面部38を上げた時に、上体の重量がかかったときに肘等が痛くならないようにすることができる。
【0038】
第1腕受部52の後方側中央域には切欠部54が設けられ、左右両側に後方突出部55,55が形成されている。切欠部54を設けることで被介護者78の身体との干渉を防ぐとともに腹部前方側に余裕のある空間を形成できる。また、被介護者78の近い位置に後方突出部55,55を配置することができる。
回動操作が行われない状態で、被介護者78が座面部38に座った状態では、
図4に示すように、腕置き部51に手や肘を置いた状態とすることもできる。
前方に傾いた回動操作が行われた状態では
図5に示すように、例えば、第1腕受部52上に肘を置くとともに、第2腕受部53の上壁を手で握ることにより、被介護者78は自分の上体をしっかりと支えることができる。
【0039】
図3に示すように、第1腕受部52の下側には、一対の水平杆57,57が設けられ、水平杆57,57は第1腕受部52の下面に固定されている。
水平杆57,57の前方側は、斜め上前方、例えば約45゜に傾いて延びる一対の傾斜杆58,58が接続されており、その傾斜杆58,58は前方端で前手押しフレーム59と接続してある。
水平杆57,57の下方には一対の棒部61,61が垂下するように固定され、棒部61,61の先端部61a,61aは筒体受部44,44に挿入できる形状としてある。
棒部61,61と筒体受部44,44とで前記した着脱自在部47を構成する。
棒部61,61を筒体受部44,44に挿入、差し込み型の構成とすることで、着脱操作を行うときに操作性が容易であり、確実に上体支持部8を下体支持部7に固定することができる利点がある。
【0040】
上体支持部8は、筒体受部44,44に対する棒部61,61の挿入深さや、固定位置等を変えることで、使用時の腕置き部51の高さ位置を変える高さ調整部62(
図1参照)を備えることができる。
高さ調整部62を設けることで被介護者の背丈に合わせた調整を行うことができる。高さ調整幅は3cm以上15cm以下にすることが好ましい。通常は3cmから8cm程度、変化できれば、被介護者78の背丈に応じた高さ調整を行える。
【0041】
また、水平杆57,57の下方で棒部61,61間に帯形クッションパッド部64を幅方向に架け渡すように設け、止め具65等の固定手段で固定することで膝支持部63を構成している。この実施形態では帯形クッションパッド部64を上下方向に2段に設けることで、膝支持部63がカバーできる面積を大きくしている例が示してある。帯形クッションパッド部64は前記膝当て部の一例である。
【0042】
(膝支持部)
膝支持部63は、移動式排泄支援装置1において、回動して前傾状態になった時に、座面部38に座っている被介護者が、座面部38から前方にずれ落ちるように移動することを膝部で受け止める手段として機能するものである。
膝支持部63の前後方向の配設位置は、人体の膝部の厚みを考慮して、座面部38の前端位置から、接近した位置に設定される。
前後方向における上体支持部8の上体支持位置と、膝支持部63の支持位置は同じ前後方向位置でも、異なる位置であってもよい。上体支持部8の構成によって、適宜、好ましい前後方向位置に設定する。
【0043】
膝支持部63は、被介護者78の体の大きさ、足の長さなどに対応して、少なくとも上下方向に可動で、前記した止め具65で固定できるようになっている。前後方向にも可動にする構成も必要により採用できる。
止め具65はボルト、ナット等の固定手段でも構成できる。
また、膝支持部63に設けられる各種形状のクッションパッド部(弾力性のある各種部材)は座面部38が傾斜した時に、膝が痛くならない程度のクッション性を備えたものであればよい。
【0044】
なお、膝支持部63は、ホールド感を向上でき、座面部38を傾けたときに体が前方にずり落ちないように膝部を動かさないように支持できる構成であれば、特に限定されない。
例えば、膝部のホールド感を向上させるために、一対の棒部61,61が筒体受部44に挿入される領域を除いた、上体支持部8の下側のほぼ全域をクッションパッド部で覆った構成も採用できる。
膝支持部63を棒部61,61間に設けることで、膝支持部63を座面部38の前方位置に設ける立設手段を省略できる。また、上体支持部8の一部が膝支持部63を兼用することになるので、構成をコンパクトにできる。
また、一方で、膝支持部63は、本実施形態では上体支持部8の一部と兼用されて構成されているが、上体支持部8とは別に設ける実施形態を採用することも可能である。
以上、上体支持部8と膝支持部63の上下2つの箇所で人体の支持を行うことによって、被介護者に負担をかけることなく、前傾時に座面部38からずれ落ちることを防止することができる。
【0045】
<アクチュエータ部>
アクチュエータ部5としては、移動式排泄支援装置1に搭載でき、人体支持部4を水平状態と前傾状態とに安全に駆動できる手段ならば特に限定されない。例えば、モータ等の動力源を用いた傾斜駆動部や、ガスシリンダー、エアスプリング等の動力源を用いない自立駆動型の傾斜駆動部を採用することも可能である。
本実施形態では、傾斜駆動部の一例として、ガスシリンダーを用いたアクチュエータ部5を採用した場合を例に取り、図示している。ガスシリンダーを用いることで、モータのような動力源が不要になるので、構成が簡単になり、製造コストと維持コストを低減できる利点がある。
アクチュエータ部5は、車体下部の所定位置と下体支持部7の所定位置との間に設けられ、ガスシリンダーによって支軸26回りに下体支持部7を回動させることのできる位置に配設される。
【0046】
図5に示すように本実施形態では、垂下部41の上下方向の中間部域にガスシリンダーのシリンダ部69の基端を回動自在に取り付けるとともに、可動部としてのロッド部70を後側縦フレーム22の基端部に回動自在に取り付けている。
図4に示すように、被介護者78が座面部38に座っている状態で、ガスシリンダーのガスシリンダー操作部(図示せず)を介助者が操作すると、
図4に示すロッド部70が延出した状態から
図5に示すようにロッド部70がシリンダ部69内に戻って、ロッド部70の突出長さが短くなるように動作するので、人体支持部4を前傾状態にすることができる。
このガスシリンダーを用いた構成であれば、被介護者78が座面部38に座っていない状態ではガスシリンダー操作部を操作しても、座面部38が前傾姿勢にはならないようにガスシリンダーの状態を初期設定できるので安全性も向上する。
また、座面部38を傾いた状態から水平状態に戻す際に、ガスシリンダー操作部を適宜、所定方向に操作すれば、ガスシリンダーの特性で自然に戻るので力の関係において楽になる。
【0047】
図5,6に示すように、ガスシリンダーを用いたアクチュエータ部5によって傾斜回動させる角度θは、介助者又は被介護者78の操作によって、0゜以上35゜以下など適宜、変化できる。最大の傾斜角度θを例えば、20゜以上30゜以下に設定すると、ほとんどの場合、ズボン・下着等を下げることが容易にできる。なお、本発明はこれらの角度範囲に限定されるものではない。
また、モータ等を用いて回動させる場合は、回動させる角度θは例えば、5゜から35゜まで連続的に変化させる構成や、予め決まった複数角度を選択できるように構成することもできる。例えば、10゜、15゜、20゜、25゜、30゜、……、というように被介護者の状態に合わせた傾斜を操作部82によって選択できるようにしてもよい。
モータ等を用いたアクチュエータ部5を採用する場合は、
図5,6に示すようにリモコン等の操作部82により介助者によって操作される。操作部82は車体に設けてもよい。
【0048】
なお、ガスシリンダーを用いたアクチュエータ部5を設ける、車体下部の所定位置と下体支持部7の箇所は、図面に示した構成に限られるものではない。
例えば、シリンダ部69の基端部を後側縦フレーム22,22の基端部に回動自在に取り付けるとともに、ロッド部70の先端部を座面部38の下部位置に回動自在に取り付ける構成も必要により採用できる。
【0049】
(車輪ロック部)
本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11のそれぞれの前側先端部に設けられた前輪14,14に車輪ロック部86,86が設けられる。
車輪ロック部86,86が前輪14,14側(前方側)に設けられるのは、トイレの便器を移動式排泄支援装置1内に収容するように移動する場合に、介助者が容易に操作できるのは前輪14,14側であることによる。
車輪ロック部86,86は、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の先端部に設けられた円筒形の固定部材87,87と、固定部材87,87の半径方向に延出された操作軸88,88と、操作軸88,88回りに揺動する長板形の操作片89,89とを有している。
【0050】
そして、操作片89,89を介助者の足でシーソーのように揺動させることで、前輪14,14のロック状態とロック解除状態を選択できるように構成してある。
このような構成であれば、移動式排泄支援装置1の前に介助者が立った状態で前輪のロック操作を行う場合に右側の前輪14のロック操作を右足で行い、左側の前輪14のロック操作を左足で行うことができ、中央部にロック機構の操作部がある場合に比べて、ロック操作に伴う足の移動を小さくできて、便利である。
【0051】
また、このような構成の移動式排泄支援装置1であれば、右側下部フレーム10と左側下部フレーム11の前方に各フレーム10,11を横方向に繋ぐフレームや板材が存在しないので、介助者が被介護者を移動式排泄支援装置1に前方から乗せる場合や、本装置に乗っている被介護者をベット等に移動させるときに被介護者の近くに介助者の足を位置させることができるので、介助作業を行いやすくなる。足置き部39から地面までの高さは通常の車椅子に比べて高いので、足置き部39の下に介助者の足を入れることがきるので、被介護者を抱えて移動させる場合に腰の負担が小さくなる利点がある。
【0052】
さらに、移動式排泄支援装置1の前方に足置き部39しかないので、介助者が前側から前手押しフレーム59を持って移動式排泄支援装置1を後方に移動させる場合にも、介助者の足を振り出すスペースを大きくできるので、移動式排泄支援装置1を前方から押す場合に無理なく移動させることができる利点がある。
【0053】
<移動式排泄支援装置の動作の一例>
本実施形態に係る移動式排泄支援装置1の動作の一例について説明する。
まず、被介護者78が乗った移動式排泄支援装置1を一人の介助者が後手押しフレーム29を持って押してトイレ室に移動する。トイレ室の前まで来たら移動式排泄支援装置1を反転させて、開放部16のある方を前方にする。
そして、前手押しフレーム59を持って移動式排泄支援装置1を押して、トイレ室に入る。トイレの便器83を開放部16中に収めるように前進して、便器83の便座84上方に座面部38を位置させる。この状態が
図4に示す状態である。
【0054】
その後、
図4に示すように、被介護者78は例えば、第1腕受部52上に肘を乗せた状態で腕置き部51の第2腕受部53を手で掴む等の動作を行って人体支持部4の回動動作による変動に準備をしてもらう。この場合、膝支持部63によって膝が支持されるので、前かがみになる恐怖が薄らぐとともに、腕と膝で無理なく上体を支えることができる。
【0055】
そして、ガスシリンダーの場合は、例えば介助者がガスシリンダー操作部を操作して下体支持部7を支軸26回りに回動させた
図5の状態にする。
この
図5の状態から、被介護者78に力を入れてもらって、尻を少し上げた状態にしてもらう。
【0056】
図5に示す例では、被介護者78の尻と座面部38の上面の間には隙間は生じていないが、少し尻をあげようとするだけで、座面部38の上面に被介護者78の体重はほとんどかからないようになるので、介助者がズボン・下着等は座面部38の上面を滑るように移動させることが可能で、ズボン・下着等を下げることが容易にできる。また、被介護者78が尻を上げた状態に努力してもらわなくても、前傾姿勢だけによってズボン・下着等を引き下げることができる場合も多い。
【0057】
一方、被介護者78の体重や、ズボン・下着等の種類によっては被介護者78の尻と座面部38の上面の間に、ある程度の隙間を生じさせないと、引き下げることが難しい場合もある。この場合は、
図6に示すように、介助者から被介護者78にその旨を伝えて、被介護者78が上体支持部8に重心を移す度合いを高めて、隙間76を大きくしてもらうようにすることで、ズボン・下着等を引き下げることができる。なお、
図6においては、被介護者78の前傾姿勢と隙間76を共に分かりやすいように大きく描いているが、実際の移動はズボン・下着等を引き下げることができるような僅かな隙間76が形成できる程度の移動で十分足りる。
【0058】
このように、上体支持部8が被介護者78の上体の体重を支えるとともに、膝支持部63が被介護者78の膝部を支持する構成になっているので、ズボン・下着等の種類や、被介護者78の体重や、被介護者78の状態(例えば、腕の力でどの程度、上体を支えられるかの程度)の違いに関わらず、確実にズボン・下着等を引き下げることができる。
ズボン・下着等を下げたら、再び、座面部38に尻を着いた状態で、アクチュエータ部5を操作して
図4に示す水平状態にして、被介護者78に排泄動作を行ってもらう。
【0059】
なお、被介護者78の好みにより、
図5,6に示す前傾状態で排泄処理を行ってもらうこともできる。
排泄動作が終わったら、必要により、介助者が座面部38回りを掃除した後、再び
図5のように前方に傾斜した状態にして、被介護者78にズボン・下着等を上げた状態にした後、
図4に示す水平状態にして、トイレ室から退出する。
【0060】
このように処理すれば、一人の介助者でもトイレでの排泄動作を行うことができる。
本実施形態の構成であれば、水平状態と傾斜状態において座面部38と、足置き部39と、腕置き部51の各部材の成す角度(配設角度)は変わらず一定であり、被介護者の足などに余計な負担をかけることがない。
【0061】
また、回動させる角度が小さい角度であったとしても、人体支持部4が前方に傾斜することで被介護者78は前方向に重心が移動するので、少ない労力で尻を浮かせやすくなり、ズボンや下着を脱がせやすくなる。
逆に、回動させる角度が比較的大きな角度であったとしても、上体支持部8は、座面部38に座る被介護者78に対向する前方側位置に配設されるとともに、人体支持部4が前傾状態の時に、被介護者78の上体を支える前方側位置にあるので、被介護者78の上体を確実に支えることが可能となり、前傾することの不安を大幅に低減することができる。
【0062】
また、上体支持部8は下体支持部7から取り外し可能なので、取り外した状態では、座面部38の前方が開放され、被介護者78が前方方向から装置に乗りやすくなる。
アクチュエータ部5は支軸26に支持された人体支持部4を回動させるだけでよいので、被介護者78を単純に上下動させる昇降装置を備えた装置に比べて簡単かつ軽量化できる。
上体支持部8の前方側に前手押しフレーム59を設けたことによって、前記動作で説明したように、前側から介助者が移動式排泄支援装置1を手押しすることが可能になるので、移動式排泄支援装置1の開放部16にトイレの便器を位置させることが簡単に行える利点がある。
【0063】
<変形例>
以下、本発明の変形例を説明する。
前記実施形態では、棒部61,61と筒体受部44,44を設けることによって、上体支持部8を下体支持部7から着脱自在に構成したが、着脱自在構成に加えて又は替えて、開閉自在構成部を設けることも可能である。
【0064】
具体的には、
図2の右側の筒体受部44(
図2において奥側の筒体受部44)内に棒部61を入れ、筒体受部44内でヒンジのように回転自在に構成し、
図2の左側の筒体受部44の前面44aを開閉式にして、前方側から矢印50のように回動してくる左側の棒部61を受け入れ可能に構成している。
この構成では、
図2の右側の筒体受部44は上体支持部8のヒンジ構造部48として機能することになる。
【0065】
図2に示すように、上体支持部8を大きく右外側に回動させて、座面部38の前方を開放させて、被介護者78を座面部38に座らせた後、矢印50のように扉を閉じるようにして上体支持部8を固定できる。また、上体支持部8を上方に引き抜けば、上体支持部8の交換も容易である。
前記した筒体受部44の前面44aを開閉式にする構成としては、左右の筒体受部44・44の左右両外側端部にそれぞれ設けられた上下方向に延びる回動軸44b・44b(一点鎖線で示す)回りに、それぞれの前面44a・44aを開閉自在に取り付ける構成が例示できる。
【0066】
この構成であれば、矢印50のように回動してくる上体支持部8(人体支持部4)の棒部61を前面44a・44aを開け、左右の筒体受部44・44内に受け入れた後、前面44a・44aを固定して閉じることで、上体支持部8を固定することができる。
なお、上記構成のヒンジ構造部48・48であれば、ヒンジ構造部48は、左右一方側だけに固定的に設けられるものではなく、右側の筒体受部44、左側の筒体受部44の任意の一方をヒンジ構造部48として使用できる。つまり、補助者がいる側の右位置、左位置のどちら側からでも上体支持部8を回動させて、開けることができる構成にできる。
【0067】
次に、
図8を参照しつつ、前記ヒンジ構造部48の変形例を説明する。
図8(a)は他方側の上体支持部8の棒部61(図示せず)が他方側の下部筒体94(図示せず)に軸支された状態で、一方側の下部筒体94に向けて一方側の上体支持部8の棒部61が回動している状態を示す図、
図8(b)は上体支持部8の上下移動棒部92が一方側のストッパー部96に当接することで、上下移動棒部92と下部筒体94の筒開口96とが位置決めされた状態を示す図、
図8(c)は操作部93を掴んで
図8(b)の矢印98に示すように上下移動棒部92を下方に移動させることによって下部筒体94に嵌合させて、上下移動棒部92を下部筒体94に固定した状態を示す図である。
ストッパー部96は上下移動棒部92が筒開口96の位置を超えて回動してしまうことを防止する部材である。このストッパー部96は、上下移動棒部92を正しい挿入位置に位置決めできるように、下部筒体94の後方位置に設けられた、上方に突出した円弧形突片で構成してある。
【0068】
図8に示すように、この変形例では、上体支持部8の棒部61に上下移動棒部92を設ける一構成例として、上体支持部8の棒部61は、上下移動棒部92を収容した上部筒体91で構成してある。即ち、上下方向に延びる上部筒体91内に上下移動棒部92を収容し、その上下移動棒部92を操作部93によって上下動させることによって、
図8(a)(b)に示すように、上下移動棒部92が筒体受部44としての下部筒体94に嵌合しないフリー位置と、
図8(c)に示すように、上下移動棒部92が下部筒体94に嵌合(挿入)された固定位置とを、操作部93を手で掴んで選択できるように構成してある。
【0069】
この変形例であれば、上体支持部8の棒部の一部としての上下移動棒部92が下部筒体94に嵌合(挿入)された状態になるので、意図しない力がかかった場合でも、上体支持部8の棒部が下部筒体94から外れることを防止できる利点がある。また、上体支持部8の開閉動作を介護者が行う場合において、高い位置で開閉の操作が可能になり、大きくかがまなくても操作可能になる利点がある。このため、介護者の負担軽減になり、また、腰痛の発生を抑制できる。
また、上下移動棒部92が下部筒体94に嵌合(挿入)されたか否かは、操作部93の位置や上下移動棒部92が下部筒体94に嵌合しているか否かを確認することで、一見して判断可能である利点がある。さらに、本変形例の構成であれば、構成が簡単であり、製造コストを低減できる。
【0070】
また、前記したヒンジ構造部48の構成例としては、上体支持部8の棒部61を外嵌する外嵌摺動体としての上下動可能な上部筒体(図示せず)を設け、筒体受部44の位置にその上部筒体(図示せず)に内嵌される下部棒部(図示せず)を設ける構成も、適宜、必要に応じて採用できる。但し、
図8において説明したような、上体支持部8の棒部61を上部筒体91に構成し、その上部筒体91内に上下移動棒部92を収容して上下動させる構成の方が操作も行いやすく、安定性において好ましい。
図2の回動軸44b・44bを参照して説明したように、
図8に示す本変形例に係るヒンジ構造部48においても、そのヒンジ構造部48は、左右一方側だけに固定的に設けられる構成に限定されるものではなく、右側の筒体受部44、左側の筒体受部44の任意の一方を本変形例に係るヒンジ構造部48として使用できる構成にもできる。その場合は、上体支持部8の左右の棒部61にそれぞれ上下移動棒部92を設けることになる。
なお、
図8に示す変形例では、膝支持部63は足の大部分をカバーする大きさに設定してある。
【0071】
次の変形例について説明する。
上体支持部8は下体支持部7に対して簡単に着脱可能な構成になっているので、必要に応じて、上体支持部8は被介護者78の体の大きさ、手足・腕・上体を動かせる程度に応じて、複数種類の構成を用意することも可能である。
例えば、上体支持部8に対して腕の力で被介護者78の体重の一部を支えることができない被介護者78に対しては、前記した腕置き部とともに胸部支持部などを有する上体支持部8を選択して筒体受部44に差し込むことによって、各被介護者78の身体状態に応じた移動式排泄支援装置1を提供できる。
【0072】
そのような構成としては、さらに腕部支持部に加えて又は替えて、胸部支持部又は/及び腹部支持部を設けることも可能である。胸部支持部、腹部支持部で体を支える場合は、腕部支持部に比べて、車体の重心が前方向に寄るので、胸部支持部、腹部支持部に傾きを設けることや、切欠部の深さを大きくしてより支軸側で支えるなどの方法を採用することもできる。
【0073】
以上、実施形態を例示して本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の構成には限定されない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて判断されるべきであり、その範囲内であれば、多様な変形や構成の追加、又は改良が行えることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1:移動式排泄支援装置
2:移動体部
3:支持基体部
4:人体支持部
5:アクチュエータ部(傾斜駆動部の一例)
8:上体支持部
13:後輪
14:前輪
16:開放部
38:座面部
39:足置き部
44:筒体受部
47:着脱自在部
48:ヒンジ構造部
51:腕置き部
52:第1腕受部
53:第2腕受部
54:切欠部
61:棒部
62:高さ調整部
63:膝支持部
64:帯形クッションパッド部
78:被介護者
83:便器
92:上下移動棒部
95:ストッパー部
X:前後方向
Y:縦方向
Z:高さ方向