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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126095
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】鉄源の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/00 20060101AFI20230831BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20230831BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C21B13/00
C22B1/02
C22B5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151515
(22)【出願日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022030108
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構戦略的省エネルギー技術革新プログラムテーマ設定型事業者連携スキーム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】足立 毅郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】對馬 卓
(72)【発明者】
【氏名】村上 太一
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001CA16
4K001DA05
4K001GA07
4K001GA13
4K001HA09
4K001KA02
4K001KA06
4K012DA02
4K012DA05
(57)【要約】
【課題】鉄鉱石中に存在するリンが鉄と結合している場合であっても、リンを十分に除去できる、鉄源の製造方法を提供する。
【解決手段】リンを含有する鉄鉱石とフラックスを含む原料を混合して、焙焼用混合物を準備する準備工程と、前記焙焼用混合物を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含む雰囲気で還元して、還元鉄相とスラグ相を含む還元物を得る還元工程と、前記還元物を粉砕して、還元物を構成するスラグ相の少なくとも一部が分離した還元鉄相含有物を含む粉砕物を得る粉砕工程と、前記粉砕物から前記還元鉄相含有物を選別回収する選別回収工程と、を含み、前記フラックスは、所定の化合物を含み、かつ、前記フラックスの平均粒径は鉄鉱石の平均粒径よりも大きい、鉄源の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含有する鉄鉱石とフラックスを含む原料を混合して、焙焼用混合物を準備する準備工程と、
前記焙焼用混合物を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含む雰囲気で還元して、還元鉄相とスラグ相を含む還元物を得る還元工程と、
前記還元物を粉砕して、還元物を構成するスラグ相の少なくとも一部が分離した還元鉄相含有物を含む粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物から前記還元鉄相含有物を選別回収する選別回収工程と、を含み、
前記フラックスは、アルカリ金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物、ならびにアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物よりなる群から選択される1以上を含み、かつ、
前記フラックスの平均粒径は鉄鉱石の平均粒径よりも大きい、鉄源の製造方法。
【請求項2】
前記フラックスはCaO、CaCOおよびCa(OH)よりなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の鉄源の製造方法。
【請求項3】
前記選別回収工程で、選別回収する方法として磁力選別を行う、請求項1または2に記載の鉄源の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程で、前記焙焼用混合物の塩基度CaO/SiOが1.0~5.0の範囲となるように、前記鉄鉱石とフラックスを混合する、請求項1または2に記載の鉄源の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は鉄源の製造方法に関する。特には、原料の鉄鉱石よりもリン量の抑えられた鉄源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、良質鉄源の枯渇に伴い、鉄鋼製品の原料として、脈石等の不純物の少ない鉄鉱石を入手することは困難となりつつあり、鉄鉱石の不純物は今後上昇することが見込まれる。脈石を多く含む低品位の鉄鉱石を、直接製鉄法に供するための高品位の鉄鉱石に改質するための事前処理方法として、例えば特許文献1には、還元炉内に投入される鉄鉱石を、炭化水素を含む燃料から発生する還元ガスで還元し銑鉄製造工程を経ずに直接に製鉄原料を得る直接製鉄法において、前記還元炉から排出される高温の炉ガスを還元焙焼炉に導入しこの炉ガス内に残存する還元成分で貯鉱場から供給されるヘマタイト鉱石を還元焙焼してマグネタイト鉱石にする工程と、このマグネタイト鉱石を磁力選別に適する粒径にまで粉砕し磁力選別機で磁力選別する工程と、磁力選別で得られたマグネタイト精鉱を塊状化して焼成しペレットにしてから前記還元炉に供給する工程とから成る方法が記載されている。
【0003】
鉄鉱石の品位を低下させる成分として特にリンが挙げられる。既存の高炉-転炉法では、鉄鉱石中のリンは高炉でほぼ全量が溶銑に移行し、その後の溶銑予備処理工程と転炉工程での除去が一般的である。しかし原料である鉄鉱石中のリン量が増加すると、これらの工程でのリン除去のコストが増加し、生産性が低下する。よって、製鉄に供する鉄鉱石のリン除去技術の開発が望まれている。
【0004】
例えば特許文献2には、湿式処理により鉄鉱石のリンを除去する方法が示されている。詳細には、燐分の高い鉄鉱石を0.5mm以下に粉砕しこれに水を加えてパルプ濃度35%前後とし、溶剤にHSO又はHCIを添加しpH2.0以下で反応させ含有している燐鉱物(主として燐灰石)を分解溶出させ、次いで磁力選別により磁鉄鉱等の磁着物を採取し非磁着物たるSiO、又はAl等をスライムとして沈降分離すると共に液中に溶出したPは消石灰又は生石灰を添加しpH5.0~10.0の範囲中で中和し燐酸カルシウムとして分離回収することを特徴とするP含有鉄鉱石の処理方法が記載されている。しかし特許文献2による方法では、湿式処理であるが故に、生産性を確保することが難しいという問題がある。
【0005】
一方、乾式プロセスにより、鉄鉱石中のリンを除去する方法も提案されている。例えば、非特許文献1には、鉄鉱石中のPをダイカルシウムシリケート(CS)相に濃化することで、分離するプロセスが提案されている。詳細には、鉄鉱石の塩基度および炭材の配合比を調整、特に前記塩基度について、粉鉱石に含まれるSiOを基準に、塩基度(C/S)が2.0になる量のCaOを添加し、高温で加熱することで、溶融スラグ中にダイカルシウムシリケート相(2CaO-SiO,CS)が固相として共存し,リン酸カルシウム相(3CaO-P,CP)との固溶体(CS-CP固溶体)としてPが濃化することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53-103915号公報
【特許文献2】特開昭60-261501号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】丸岡 伸洋ら,「部分還元処理による鉄鉱石中りんのダイカルシウムシリケート相への濃化」,鉄と鋼,Vol.107(2021),No.6,pp.527-533
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法ではリンが鉄以外の元素等と結びついている場合は有効であるが、リンが鉄と結びついている場合は除去し得ないという問題がある。また非特許文献1の方法では、炭材の使用等により酸素分圧の調整が困難となり、それ故に鉄相にリンが混入しやすく、リンの除去が困難となりうること、また炭材の使用に起因して、硫黄分の混入、温室効果ガスの排出といった問題が挙げられる。
【0009】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、鉄鉱石中に存在するリンが鉄と結合している場合であっても、リンを十分に除去できる、製鉄等に供する鉄源の製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1は、
リンを含有する鉄鉱石とフラックスを含む原料を混合して、焙焼用混合物を準備する準備工程と、
前記焙焼用混合物を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含む雰囲気で還元して、還元鉄相とスラグ相を含む還元物を得る還元工程と、
前記還元物を粉砕して、還元物を構成するスラグ相の少なくとも一部が分離した還元鉄相含有物を含む粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物から前記還元鉄相含有物を選別回収する選別回収工程と、を含み、
前記フラックスは、アルカリ金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物、ならびにアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物よりなる群から選択される1以上を含み、かつ、
前記フラックスの平均粒径は鉄鉱石の平均粒径よりも大きい、鉄源の製造方法である。
【0011】
本発明の態様2は、
前記フラックスはCaO、CaCOおよびCa(OH)よりなる群から選択される1以上である、態様1に記載の鉄源の製造方法である。
【0012】
本発明の態様3は、
前記選別回収工程で、選別回収する方法として磁力選別を行う、態様1または2に記載の鉄源の製造方法である。
【0013】
本発明の態様4は、
前記準備工程で、前記焙焼用混合物の塩基度CaO/SiOが1.0~5.0の範囲となるように、前記鉄鉱石とフラックスを混合する、態様1~3のいずれかに記載の鉄源の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、鉄鉱石中に存在するリンが鉄と結合している場合であっても、リンを十分に除去できる、製鉄等に供する鉄源の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の工程を模式的に示したイメージ図である。
図2A図2Aは、比較例1の走査型電子顕微鏡像である。
図2B図2Bは、実施例5の走査型電子顕微鏡像である。
図3A図3Aは、前記図2Aの符号1~3の分析点のEDX分析値を示す図である。
図3B図3Bは、前記図2Bの符号1~3の分析点のEDX分析値を示す図である。
図4図4は、フラックスと鉄鉱石の平均粒径とリン除去率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る鉄源の製造方法は、
リンを含有する鉄鉱石とフラックスを含む原料を混合して、焙焼用混合物を準備する準備工程と、
前記焙焼用混合物を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含む雰囲気で還元して、還元鉄相とスラグ相を含む還元物を得る還元工程と、
前記還元物を粉砕して、還元物を構成するスラグ相の少なくとも一部が分離した還元鉄相含有物を含む粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物から前記還元鉄相含有物を選別回収する選別回収工程と、を含み、
前記フラックスは、アルカリ金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物、ならびにアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物よりなる群から選択される1以上を含み、かつ、
前記フラックスの平均粒径は鉄鉱石の平均粒径よりも大きい。
【0017】
本実施形態の製造方法によれば、フラックスと鉄鉱石を含む焙焼用混合物の酸化焙焼を行う焙焼工程と、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含む雰囲気に制御して還元を行う還元工程とを分けている。その結果、鉄鉱石中の鉄と結びついたリンを、フラックスの焙焼(酸化焙焼)により形成されたスラグ相(鉄以外の成分、不純物相)側に移行させてスラグ成分と結合させ、かつ上記還元工程を経ることで、リンをスラグ成分に固定したまま酸化鉄の還元が行われ、リンと鉄相との化学的な分離を実現でき、その後の粉砕と選別回収により、鉄源として還元鉄相含有物が得られることを見出した。本実施形態では、リンとスラグ成分が結合し、リンと酸化カルシウムの複合酸化物(該複合酸化物は、Caに近い結合状態であると考えられる)として、リンが捕捉されることで、鉄鉱石中のリンを十分に除去できると考えられる。
【0018】
以下、本実施形態に係る製造方法の各工程について詳述する。図1は、本実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に示したイメージ図である。以下の各工程の説明では、図1に基づいて説明する場合があるが、図1は、あくまでもイメージ図であって本開示を限定するものではない。例えば、焙焼によりリンがスラグ相側に完全に移行しない場合や、粉砕により、スラグ相と還元鉄相とが完全に分離せず、還元鉄相にスラグ相の一部が結合したままの場合がありうるが、この様な態様は当然に許容され、本実施形態に係る製造方法はこれらの態様についても含みうる。
【0019】
[準備工程]
リンを含有する鉄鉱石とフラックスを含む原料を混合して、焙焼用混合物を準備する。本実施形態では、前記フラックスの平均粒径を鉄鉱石の平均粒径よりも大きくする。鉄鉱石の平均粒径に対し、フラックスの平均粒径を大きくすることで、焙焼時にリン成分を不純物相に固定する際に、融液領域が拡大し不純物相のサイズを大きくすることができ、晶出物であるリン濃化相も粗大化し、焙焼後にリンを容易に分離しやすくなる。フラックスの平均粒径は、鉄鉱石の平均粒径よりも大きければよい。例えばフラックスの平均粒径を、鉄鉱石の平均粒径の好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上とすることができ、更には3.0倍以上であってもよい。上限は特に限定されないが、原料の混合性を高める観点からは、30倍以下、更には20倍以下でありうる。
【0020】
本開示では、フラックス、鉄鉱石のそれぞれを構成する粒子の最小粒径と最大粒径の平均値を、フラックス、鉄鉱石のそれぞれの平均粒径とした。前記最小粒径と最大粒径は、後述する実施例に示す通り、ふるいにより求めることができる。前記鉄鉱石、フラックスは、上記関係を満たすように混合前に粉砕、分級する等してサイズを調整できる。
【0021】
前記フラックスは、アルカリ金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物、ならびにアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物よりなる群から選択される1以上の化合物を含む。これらアルカリ土類金属の酸化物等は、リンと結びつきやすい化合物である。アルカリ金属の上記化合物として、NaO、KO、LiCO、NaCO、KCO、NaOH、KOHなどが挙げられる。また、アルカリ土類金属の上記化合物として、CaO(生石灰)、CaCO(石灰石)およびCa(OH)(消石灰)などが挙げられる。前記フラックスはCaO、CaCOおよびCa(OH)よりなる群から選択される1以上であることが好ましい。CaO、CaCOおよびCa(OH)はリンと結合しやすく、工業的に利用し易いため好ましい。また、鉄鉱石中のSiOを併せて利用することで、先述のリンと酸化カルシウムの複合酸化物を容易に形成でき、リンを容易に固定できる。より好ましくは、工業的に汎用されているCaCOである。フラックスは、上述したアルカリ金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物、ならびにアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、および水和物よりなる群から選択される1以上と、それ以外のフラックスとの混合物であってもよい。それ以外のフラックスとして、例えばソーダ系フラックス、CaF、CaCl、LiCO系フラックス、BaCO系フラックスなどが挙げられる。
【0022】
前記焙焼用混合物の塩基度CaO/SiOが1.0~5.0の範囲となるように、前記鉄鉱石とフラックスを混合することが好ましい。例えば、鉄鉱石に含まれるSiO量に応じて、フラックスとして、好ましくはCaO、CaCOおよびCa(OH)よりなる群から選択される1以上、より好ましくはCaOとCaCOのうちの1以上を、上記塩基度の範囲内となるように混合することが挙げられる。または、鉄鉱石に含まれるSiO量に応じて、フラックスとして、好ましくはCaO、CaCOおよびCa(OH)よりなる群から選択される1以上、より好ましくはCaOとCaCOのうちの1以上と、それ以外の上述したフラックスとを、上記塩基度の範囲内となるように混合することが挙げられる。焙焼用混合物の塩基度を上記範囲とすることで、Caに近いリンと酸化カルシウムの複合酸化物を容易に形成できる。CaO/SiOはより好ましくは3.0以下である。上記塩基度CaO/SiOを計算する場合、CaO以外のCa含有化合物はCaOに換算して求める。フラックスに含まれる、例えばCaO以外のCaCOやCa(OH)などのCa含有化合物も加熱により分解してCaOとなるためである。
【0023】
上記鉄鉱石とフラックスは、工業的に用いられている方法で混合すればよい。これらの混合により、図1のAに示す通り、鉄鉱石11とフラックス12を含む焙焼用混合物が得られる。焙焼用混合物として、必要に応じて例えば、上記鉄鉱石とフラックスに更に水等の媒体を加え、造粒物を形成してもよい。
【0024】
前記リンを含有する鉄鉱石は、リンを例えば0.05質量%以上含みうる。本実施形態によれば、鉄鉱石中のリン量が更には0.10質量%以上、より更には0.15質量%以上と多い場合であってもリンを十分に低減できる。
【0025】
[焙焼工程]
焙焼工程では、前記焙焼用混合物を焙焼して、図1のBに示す焙焼物を得る。図1のAからBへの矢印aで表される焙焼工程で、鉄と結びついたリンを含む鉄鉱石11をフラックス12とともに焙焼(酸化焙焼)することによって、リンの移行15、詳細には鉄鉱石11中のリンが、フラックスの焙焼により形成されたスラグ相(鉄以外の成分を主成分とする不純物相、以下「焙焼スラグ相」という)14へ移行し、焙焼スラグ相14と結合すると考えられる。該作用効果を発揮させるには、焙焼の温度を、混合物の少なくとも一部が溶融しうる1150℃以上とすることが好ましい。前記温度は更には1200℃以上であってもよい。焙焼の温度の上限は、リンを鉄鉱石からスラグ相側に移行させる観点からは特に限定されない。例えば設備の劣化抑制等の観点から、温度の上限を1500℃程度としてもよい。なお、上記焙焼の温度とは、鉄鉱石とフラックスの混合物の充填層における温度をいい、該温度として、後述する実施例では使用する炉の雰囲気温度で制御した。
【0026】
焙焼の雰囲気は、酸素含有雰囲気であればよい。例えば大気雰囲気とすることができる。焙焼工程では、例えば熱源として炭材を用いることも可能であり、この炭材を用いた場合、大気雰囲気よりもやや還元雰囲気となりうるが、その様な雰囲気も許容される。焙焼のための設備として、例えば電気抵抗炉(外部加熱)、バーナー式加熱炉、ドワイトロイド式焼結機、ポット型焼結機等を用いることができる。
【0027】
[還元工程]
還元工程では、前記焙焼物を、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含む雰囲気で還元し、図1のCに示される還元物、すなわち還元鉄相とスラグ相を含む還元物を得る。図1のBからCへの矢印bで表される還元工程を経ることで、酸化鉄含有相13が還元されて、還元鉄相16と、リンが固定されたままである還元スラグ相17(前記焙焼スラグ相14がこの還元工程を経た後のスラグ相)とで形成された、還元物が得られる。本実施形態において、焙焼工程と還元工程を分け、還元工程にて上記雰囲気で還元を行うことでリンを化学的に容易に分離できる理由について、以下に詳述する。
【0028】
還元時に酸素分圧が低くなると、スラグ中のPの酸素が乖離してリンが発生し、これがFeと結びつきやすく、鉄鉱石からのリンの除去が困難となる。よって還元時の酸素分圧は変動を抑える必要がある。しかし、非特許文献1の方法では還元時の酸素分圧が変動しやすいと考えられる。非特許文献1の方法では炭材を用いているが、この様に炭材を用いると、還元時に炭材の周囲で酸素分圧が局所的に低下することや、炭材が加熱されることで、COガス、COガスが生じるなど、予測できない酸素の消費が生じるためである。一方、本実施形態によれば、COガス、水素ガスといったガス状態の還元剤を還元に使用するため、還元時の酸素分圧の変動を抑制でき、酸素分圧の低減によるリンの鉄との再結合を防止でき、その結果、リンが化学的に分離した状態を維持できると考えられる。
【0029】
還元工程における雰囲気を構成するガスは、COガスと水素ガスの少なくとも1つを含んでいればよく、残りのガス成分は特に限定されない。還元を目的としていることから、残りのガス成分は酸化作用を有しないガスであることが好ましい。残りのガス成分として、例えばCOガス、Nガスなどが挙げられる。後述する実施例では還元ガスとして、COガス単独、またはCOガスと水素ガスの混合ガスを用いているが、還元ガスが水素ガスのみであってもよく、例えば、水素ガスが10%で残りがNガスであってもよい。本実施形態によれば、還元ガスとして水素を使用する場合、非特許文献1のように還元剤として炭材を使用する場合と比較して温室効果ガスの削減に寄与する。
【0030】
上記条件で還元を行うことにより、SiOやAlの還元スラグ相17への移行が進み、かつ、多くのリンは還元スラグ相17に固定された状態で、酸化鉄含有相13の還元が進み、例えばM.Fe(金属鉄)またはFe主体の還元鉄相16が得られる。すなわち、上記酸化焙焼と上記還元の工程により、還元スラグ相17に固定されたリンと還元鉄相16に化学的に十分分離された還元物を得ることができる。
【0031】
本実施形態において、還元鉄相には、M.Fe(金属鉄)のみならず、Feの還元により得られた上記Feの他、FeOも含みうる。また還元鉄相には、不純物として例えば、鉄以外の元素の酸化物等を含みうる。
【0032】
還元工程の雰囲気温度は、例えば600℃以上、900℃以下の範囲とすることができる。該還元工程の雰囲気温度は、還元のための炉における雰囲気温度をいう。還元工程の雰囲気温度は、好ましくは650℃以上であり、好ましくは850℃以下である。
【0033】
還元の時間は、処理量に応じて適宜決定することができる。上記雰囲気温度での還元が終了した後、室温までの冷却時は、非酸化雰囲気であればよく、還元ガス雰囲気に限定されない。例えば、Nガス、Ar等の不活性ガスの雰囲気であってもよい。
【0034】
[粉砕工程]
粉砕工程では、前記還元物を粉砕して、還元物を構成するスラグ相の少なくとも一部が分離した還元鉄相含有物を含む粉砕物を得る。図1のCからDへの矢印cで表される粉砕工程により、図1のDに示す通り、還元スラグ相17と還元鉄相16とが粉砕の衝撃により分離される。この粉砕と下記の選別回収により、リンは物理的に分離される。還元物は、金属と酸化物といった異なる粉砕特性を有する物質で構成され、異相界面が形成されうる。還元ままでは、図1のCの通り還元鉄相とスラグ相が結合したままであるが、粉砕を行うことで、還元スラグ相17と還元鉄相16の界面で効率的に分離しやすくなり、分離後は、下記の選別回収工程で還元鉄相16を回収しやすくなる。なお、上述の通り図1はイメージ図であり、図1の通り還元スラグ相17と還元鉄相16が完全に分離されることに加え、還元鉄相16に還元スラグ相17の一部が残存する場合も含みうる。本実施形態では、還元スラグ相17と完全に分離した還元鉄相16と、還元鉄相16に還元スラグ相17の一部が残存するものとを総称して「還元鉄相含有物」という。粉砕は、ケージミル、ボールミル、ロータリーミル、ジェットミルなどの粉砕設備を用いて行われる。
【0035】
[選別回収工程]
選別回収工程では、前記粉砕物から還元鉄相含有物を選別回収する。図1のDからEへの矢印dで表される選別回収工程により、還元鉄相含有物(図1のEでは、例として還元鉄相16のみ表示)を得る。金属鉄は磁性を有するため、選別回収する方法として磁力選別(磁選)を用いることができる。前段の還元によって鉄相が磁性を帯びることで、磁力選別が可能となる。磁力選別は、比重選鉱などと比較し分離効率が高いことが知られている。なお、前記還元工程での還元を十分に行わずに、例えば還元鉄相がFe主体である場合、異相界面形成による粉砕促進効果は十分ではないが、Feも金属鉄と同様に磁性を有するため、磁力選別を用いることができ、そのような態様も本実施形態に含まれうる。また、還元鉄相含有物に更なる工程を施して鉄源としてもよい。
【0036】
磁力選別の方法として、還元鉄相と還元スラグ相との分離が可能であれば特に限定されず、例えば、ハンド磁選でも問題ないが、大量処理が伴う場合、ドラム式磁選機、ロータリー式磁選機などの大型磁選機を使用してもよい。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明する。本開示は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本開示の技術的範囲に包含される。
【0038】
以下の実施例では、鉄鉱石からリンを除去し、還元鉄相含有物を得るラボ試験を行った。
【0039】
[準備工程]
リン除去対象物である鉄鉱石として、表1に示す化学成分を有する銘柄A、Bの2種類の鉄鉱石を用いた。いずれの銘柄も豪州産である。またフラックスとして、富士フイルム和光純薬株式会社製CaCO試薬または工業用石灰石を用意した。本実施例では、鉄鉱石およびフラックスのサイズは、ふるいを使用して調整した。表2の「篩い」の欄における「-××mm」との表記(「××」は数字)は、目開きが××mmの篩で振るって得られた、篩下××mm未満のものをいう。また「○○-××mm」との表記(「○○」と「××」は数字)は、目開きが××mmの篩で振るって得られた、篩下××mm未満のものであって、目開きが○○mmの篩でふるって篩上に残ったものをいう。表2の鉄鉱石およびフラックスのそれぞれの平均粒径は、鉄鉱石およびフラックスのそれぞれの構成粒子の最小粒径と最大粒径を、ふるいを用いて求め、その最小粒径と最大粒径を平均して求めたものである。
【0040】
表2に示す通り、種々の平均粒径の鉄鉱石とフラックスを、焙焼用混合物のCaO/SiOが2.0となるように配合し、混合して焙焼用混合物を得た。本実施例では、銘柄A、Bの鉄鉱石のそれぞれについて、表2および表3を含むNo.1~5の条件で、鉄鉱石とフラックスの混合から磁選までを行って還元鉄相含有物を得て、リン除去率を求めた。そして、No.1~5の同条件で実施した銘柄Aと銘柄Bのリン除去率の平均値を、No.1~5の各条件でのリン除去率とした。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
[焙焼工程]
焙焼には、抵抗式電気加熱炉を用いた。No.1~5のいずれの焙焼用混合物も、株式会社ニッカトー製の緻密質MgO容器に入れ、大気雰囲気中にて、昇温速度10℃/minで1300℃(炉内の雰囲気温度)まで昇温してから1300℃で30分間保持し、焙焼を行った。その後、室温まで冷却して焙焼サンプルを得た。
【0044】
[還元工程]
前記焙焼サンプルを、事前に手粉砕またはケージミルを用いて塊砕し、篩にかけて篩下2mm未満の還元用サンプルを得た。還元は、内径130mmで長さ200mmのドラム型回転加熱炉を用いて実施した。還元条件は、表3に示す通りとした。還元ガスは室温で表3に示すガス組成の通り混合後、炉内に導入した。また、昇温開始直後から還元ガスを導入した。表3に示す温度まで、昇温速度:450℃/hで昇温した。表3に示す温度で表3に示す時間の保持を行った後、N雰囲気で室温まで冷却して、還元サンプルを得た。還元工程におけるその他の条件は以下の通りとした。尚、上記温度は炉内の雰囲気温度である。
・ドラム型回転加熱炉の回転数:12rpm
・還元用サンプル量:500g
・還元ガスの流量:10NL/min
【0045】
【表3】
【0046】
[粉砕工程]
還元サンプルの粉砕を、株式会社増野製作所製ケージミルを用い、回転数2850rpmで行った。ケージミルへの一回の供給量は200gとし、ケージミルで粉砕後のサンプルを再びケージミルに供給し、全量のサンプルが合計3回ケージミルを通過するよう処理し、粉砕サンプルを得た。
【0047】
[選別回収(磁選)工程]
選別回収方法として磁選を行い、還元鉄相含有物を得た。磁選は、乾式ドラム磁選機に粉砕サンプルを装入して行った。乾式ドラム磁選機の回転数は80rpmとした。1銘柄の鉄鉱石につき、乾式ドラム磁選機への粉砕物の供給量は50g/回とし、2回磁選を行った。すなわち、表2,3の各No.につき、銘柄Aと銘柄Bで合計4回の磁選を行った。
[評価]
銘柄Aと銘柄Bのそれぞれにおいて、磁選で得られた還元鉄相含有物のリン量(P量)を、JIS M8216(吸光光度法)に準じて求めた。そして、評価指標としてリン除去率を下記式から求めた。銘柄Aと銘柄Bのそれぞれで求めたリン除去率の平均値を求めた。その結果を表4に示す。
【0048】
【数1】
【0049】
【表4】
【0050】
上記方法で実施した、鉄鉱石からのリン除去のラボ試験の結果から、本実施形態で規定の通り焙焼と還元を経た後に、選別回収を行うことによって、28.0%以上のリン除去率を達成できた。上記表2、表4の結果から求めた、フラックスと鉄鉱石の平均粒径とリン除去率との関係を示すグラフを図4に示す。図4から、平均粒径の大きいフラックスを鉄鉱石との混合に用いることによって、リン除去率が高まる傾向にあることがわかる。また、篩下2mm未満の鉄鉱石を用いた場合、フラックスの平均粒径が1mm未満の場合よりも1mm以上の場合の方が、リン除去率は高くなった。また、フラックスの平均粒径が同じである場合、篩下2mm未満の鉄鉱石よりも粒径のより小さい、篩下0.5mm未満の鉄鉱石を用いた場合の方が、リン除去率は更に高くなった。
【0051】
[顕微鏡観察およびEDX分析]
上記図1のような結果が得られた要因として、リン濃縮相の粗大化が考えられる。以下ではこのことを検証するため、焙焼後のサンプルを用いて顕微鏡観察およびEDX分析を行った。すなわち、銘柄Bの鉄鉱石を用いたラボ試験における比較例1(表2~4のNo.1)と実施例5(表2~4のNo.5)の、焙焼後であって還元前のサンプルを樹脂に埋めて断面研磨を行ってから、元素分析機能付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)で観察した。
【0052】
比較例1と実施例5のぞれぞれの走査型電子顕微鏡像を図2A図2Bに示す。また、図2A図2Bのそれぞれにおける符号1~3の各分析点の成分を、EDX(エネルギー分散X線分光法、energy dispersive X-ray spectroscopy)で分析した。その結果を、比較例1と実施例5のぞれぞれについて図3A図3Bに示す。なお、図3A図3BのEDX半定量分析値は、各元素が図3A図3Bの凡例に示す酸化物を形成していると仮定し、酸素以外の各元素量から算出した。
【0053】
図2A図2Bにおける薄いグレー相は、FeとCaOが融液を形成し、SiOやAlを少量溶かしこんだ「カルシウムフェライト」と呼ばれる相であり、還元時にCaO、SiO、Alは鉄と分離されることが知られている。このため、このような相が形成された場合も鉄の回収には不都合は生じない。また図2A図2B図3Aおよび図3Bの結果から、図2A図2Bにおける濃いグレー相はリン濃化相であることがわかる。
【0054】
図2A図2Bの対比から、図2Bでは、原料におけるフラックスの平均粒径を鉄鉱石の平均粒径よりも大きくすることによって、濃いグレー領域で示されるリン濃化相が粗大化していることが分かる。その理由として次の通り考えられる。すなわち、フラックスとしてCaOを含む化合物を添加した場合、鉄鉱石中のSiOと反応して2CaO・SiO化合物を形成し、ここにリンが3CaO・P-2CaO・SiO固溶体(上述のリン濃化相に相当)を形成する形でトラップされることが知られている。本開示によれば、添加するフラックスの平均粒径を大きく、かつ鉄鉱石の平均粒径を相対的に小さくすることによって、焙焼時に形成される融液の領域が拡大し、この融液領域が拡大することによって、融液からの晶出物であるリン濃化相が多くなり粗大化して、リン除去率が高まったと考えられる。
【符号の説明】
【0055】
11 鉄鉱石
12 フラックス
13 酸化鉄含有相
14 焙焼スラグ相
15 リン移行
16 還元鉄相
17 還元スラグ相
a 焙焼
b 還元
c 粉砕
d 選別回収
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4