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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126099
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】接点ランニング装置
(51)【国際特許分類】
   H01H 49/00 20060101AFI20230831BHJP
   H01H 1/04 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
H01H49/00 A
H01H1/04 D
H01H1/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160370
(22)【出願日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2022029629
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390001812
【氏名又は名称】株式会社デンソーエレクトロニクス
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 康博
(72)【発明者】
【氏名】関川 純哉
【テーマコード(参考)】
5G050
【Fターム(参考)】
5G050AA01
5G050AA13
(57)【要約】
【課題】ガス相アークを抑制し、接点の接触抵抗の上昇を抑制することができる接点ランニング装置を提供する。
【解決手段】接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下、または接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下となるようにする。これにより、接点ランニング時に接点間に電圧が掛かっている状態において両接点が離れた状態になったときに、接点間に空気が侵入してもアークがガス相アークへ変化することが抑制される。したがって、接点の接触抵抗の上昇を抑制することが可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動接点(2)と固定接点(3)とを有して構成される接点部および該接点部のオンオフを制御する磁気吸引力を発生させる励磁コイル(4)を有するメカニカルリレー(1)の前記接点部をオンオフさせると共に、該メカニカルリレーをオンさせた際に前記接点部に電流を流すことで接点ランニングを行う接点ランニング装置であって、
前記接点部に対して電圧を印加する第1電源(10)と、
前記励磁コイルに対して電流供給を行う第2電源(20)と、
前記第2電源から前記励磁コイルへの電流供給のオンオフを制御する駆動スイッチ(30)と、
前記接点部に接続されることで、前記接点部がオンさせられたときに前記接点部に流れる電流が供給される負荷(40)と、を備え、
前記接点部における接点間に印加される電圧が8V以下、または、前記接点部がオンされているときに前記接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下とされる接点ランニング装置。
【請求項2】
前記接点部における接点間に印加される電圧が8V以下であり、前記接点部がオンされているときに前記接点部に流れる電流の電流値が20A以下とされている、請求項1に記載の接点ランニング装置。
【請求項3】
前記接点部がオンされているときに前記接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下であり、前記接点部における接点間に印加される電圧が14V以下とされている、請求項1に記載の接点ランニング装置。
【請求項4】
前記接点部がオンされているときに前記接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下であり、前記接点部における接点間に印加される電圧が28V以下とされている、請求項1に記載の接点ランニング装置。
【請求項5】
前記接点部における少なくとも前記可動接点および前記固定接点の表面がAgで構成され、
前記接点部における接点間に印加される電圧が8V以下、かつ、前記接点部がオンされているときに前記接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下とされる請求項1に記載の接点ランニング装置。
【請求項6】
前記接点部における少なくとも前記可動接点および前記固定接点の表面がCuで構成され、
前記接点部における接点間に印加される電圧が8V以下、かつ、前記接点部がオンされているときに前記接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下とされる請求項1に記載の接点ランニング装置。
【請求項7】
前記接点部における少なくとも前記可動接点および前記固定接点の表面がAgまたはCuで構成されている、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の接点ランニング装置。
【請求項8】
前記負荷に対して並列接続され、接点ランニング時に前記可動接点と前記固定接点とが離れた状態になるときに、前記接点部に印加される電圧を8V以下に制限する電圧制限素子(70)を備えている、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の接点ランニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルリレーにおける接点ランニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、機械的に可動接点と固定接点とを接離させて電気回路を開閉するメカニカルリレーがある(例えば特許文献1参照)。メカニカルリレーでは、メカニカルリレーを接点ランニング装置に取り付け、接点のオンオフを所定のランニング回数繰り返し行うことで、接点ランニング、つまり慣らし運転による動作確認や品質確認を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-209056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接点ランニング装置による接点ランニングにおいてガス相アークが発生すると、接点を構成する金属の表面が酸化し、接点の接触抵抗が上昇してしまい、接点オン時における接点間電圧降下量が大きくなる。接点ランニングによって高くなった接点間電圧降下量を下げるためには、接点接触力を高くするという方法があるが、可動接点を移動させるためのコイル吸引力を上げる必要があり、コイルの体格が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、ガス相アークを抑制し、接点の接触抵抗の上昇を抑制することができる接点ランニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、可動接点(2)と固定接点(3)とを有して構成される接点部および該接点部のオンオフを制御する磁気吸引力を発生させる励磁コイル(4)を有するメカニカルリレー(1)の接点部をオンオフさせると共に、該メカニカルリレーをオンさせた際に接点部に電流を流すことで接点ランニングを行う接点ランニング装置であって、
接点部に対して電圧を印加する第1電源(10)と、
励磁コイルに対して電流供給を行う第2電源(20)と、
第2電源から励磁コイルへの電流供給のオンオフを制御する駆動スイッチ(30)と、
接点部に接続されることで、接点部がオンさせられたときに接点部に流れる電流が供給される負荷(40)と、を備え、
接点部における接点間に印加される電圧が8V以下、または、接点部がオンされているときに接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下とされる。
【0007】
このように、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下、または接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下となるようにしている。これにより、接点ランニング時に接点間に電圧が掛かっている状態において両接点が離れた状態になったときに、接点間に空気が侵入してもアークがガス相アークへ変化することが抑制される。したがって、接点の接触抵抗の上昇を抑制することが可能になる。
【0008】
少なくとも、請求項2に記載したように、接点部における接点間に印加される電圧が8V以下であり、接点部がオンされているときに接点部に流れる電流の電流値が20A以下とされていれば、ガス相アークへの変化を抑制できる。また、請求項3に記載したように、接点部がオンされているときに接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下であり、接点部における接点間に印加される電圧が14V以下とされていても、同様である。好ましくは、請求項5、6に記載したように、接点部における少なくとも可動接点および固定接点の表面がAgまたはCuで構成され、接点部における接点間に印加される電圧が8V以下、かつ、接点部がオンされているときに接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下とされると良い。
【0009】
請求項8に記載の発明では、負荷に対して並列接続され、接点ランニング時に可動接点と固定接点とが離れた状態になるときに、接点部に印加される電圧を8V以下に制限する電圧制限素子(70)を備えている。
【0010】
このように、電圧制限素子を負荷に対して並列接続した場合、接点ランニング時に両接点が離れた状態になるときに、接点部に印加される電圧を8V以下に制限できる。例えば、電圧制限素子をコンデンサによって構成する場合、接点ランニング時に接点間がオンしたときにコンデンサが充電される。このため、接点ランニング時に両接点が離れた状態になるときに、接点部に印加される電圧が低下する。したがって、接点部に印加される電圧を制限でき、ガス相アークへの変化を抑制することが可能となる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態にかかる接点ランニング装置の回路構成を示す図である。
図2】ガス相アークが発生するメカニズムと接点間電圧降下量が大きくなるメカニズムを示した断面説明図である。
図3】ガス相アークが発生するメカニズムと接点間電圧降下量が大きくなるメカニズムの状態説明図である。
図4】第2実施形態にかかる接点ランニング装置の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態では、メカニカルリレー1の接点ランニング装置の回路構成について説明する。図1に、本実施形態にかかる接点ランニング装置に対してメカニカルリレー1を取付けたときの回路構成を示し、接点ランニング装置の詳細について説明する。
【0015】
図1に示すように、接点ランニング装置は、メカニカルリレー1をオンオフ制御して接点ランニングを行うもので、第1電源10、第2電源20、コイル駆動スイッチ30および負荷40を備えた構成とされている。
【0016】
メカニカルリレー1は、可動接点2および固定接点3を有する接点部に加えて、通電に基づいて可動接点2を可動させる励磁コイル4などを有し、これらが図示しないケース内に収容されることで構成されている。具体的な構造については図示していないが、ケースからは、接点部と第1電源10などとを接続する端子5、6や、励磁コイル4に対して電流供給を行う端子7、8が引き出されている。そして、各端子が接点ランニング装置を構成する回路の所定箇所に電気的に接続されることで、接点ランニングが行われるようになっている。
【0017】
可動接点2は、可動子に取付けられており、励磁コイル4への通電が行われたときに磁気吸引される。固定接点3は、ケースに対して固定されており、励磁コイル4が発生させる磁気吸引力に基づいて可動接点2が移動させられると、可動接点2と接離する。これら可動接点2や固定接点3は、接点材料を構成する金属、例えばAg(銀)やCu(銅)などによって構成される。詳細に言うと、その可動接点2や固定接点3は、通電時のアークなどが原因でその表面が酸化される場合もあるが、少なくとも未使用時(言い換えると、新品である場合)において、例えばAgやCuなどによって構成される。可動接点2や固定接点3を構成する接点材料については任意であり、接点全体がその接点材料で構成されていても良いし、表面のみが接点材料で構成され、表面以外が他の金属で構成されていても良い。
【0018】
なお、図1では、メカニカルリレー1は、可動接点2と固定接点3を1つずつ備えた構成を示しているが、他の構造とされていても構わない。例えば、メカニカルリレー1は、励磁コイル4への通電に基づいて磁気吸引される可動子の両端に1つずつ可動接点2を備えると共に、可動子の両端それぞれと対応する位置に固定接点3を配置し、各固定接点3がケースから引き出される各端子に接続される構造であっても良い。可動接点2および固定接点3がCuで構成されるメカニカルリレー1としては、例えば、高電圧用密閉リレーを挙げることができる。
【0019】
第1電源10は、接点部がオンしたとき、つまり可動接点2が固定接点3に当接したときに、接点部を通じて負荷40に対して電流供給を行う。本実施形態の場合、第1電源10の電圧を8V以下に設定している。
【0020】
第2電源20は、励磁コイル4に対して電流供給を行うことで磁気吸引力を発生させる。この磁気吸引力により、可動接点2が備えられた可動子が移動させられ、可動接点2と固定接点3とが接離させられる。図1に示すように、メカニカルリレー1が常開型のものとされている場合、第2電源20からの電流供給に基づいて励磁コイル4が磁気吸引力を発生させることで、可動接点2が固定接点3側に移動させられて接点部がオンさせられる。
【0021】
コイル駆動スイッチ30は、図示しない制御装置から入力されるコイル駆動信号に基づいてオンオフされる。例えば、コイル駆動スイッチ30は、NPNトランジスタなどの半導体スイッチング素子によって構成されている。そして、コイル駆動スイッチ30は、所定のオンオフサイクルとされたコイル駆動信号がベース端子に入力されることで第2電源20から励磁コイル4への通電経路をオンする。コイル駆動スイッチ30がNPNトランジスタで構成される場合、例えばベースコレクタ間電圧VBCが14±0.2Vとされ、励磁コイル4に対して可動接点2を固定接点3と当接させられる磁気吸引力が発生させられる電流供給が行われる。
【0022】
このコイル駆動スイッチ30のオンオフの回数が接点ランニングの回数となるが、この回数については任意に設定可能であり、慣らし運転による所望の動作確認および品質確認が行える試行回数であれば良い。また、コイル駆動スイッチ30のオンオフサイクルについても任意に設定可能であるが、例えばオン時間を7.5ms、オフ時間を7.5msとしたオンオフサイクルとしている。
【0023】
負荷40は、メカニカルリレー1によってスイッチングが行われる装置などを想定して備えられており、例えばレジスタ負荷とされている。本実施形態の場合、接点ランニング時には、この負荷40の抵抗値に基づいて、接点部に流れる電流値が決まる。例えば、負荷40の抵抗値が0.7Ωとされ、接点部がオンされたときに流れる電流値が0.3A以下となるようにしている。
【0024】
なお、本実施形態の接点ランニング装置には、接点部に流れる電流を測定するための電流計50と接点部における接点間電圧を測定するための電圧計60が備えてある。これにより、接点ランニング時に接点部に流れる電流値や接点間電圧降下量を測定できるようになっている。
【0025】
以上のようにして、接点ランニング装置が構成されている。ここで、ガス相アークが発生するメカニズムと接点間電圧降下量が大きくなるメカニズムについて、図2および図3を参照して説明する。
【0026】
まず、コイル駆動信号に基づいてコイル駆動スイッチ30がオンされることで可動接点2が固定接点3に当接し、接点部を通じて第1電源10から負荷40への電流供給が行われた状態になる。この状態からコイル駆動スイッチ30がオフに切り替わると、図3のステップ1に示すように、接点間に電圧が掛かっている状態において両接点が離れた状態になる。これにより、図2および図3のステップ2に示すように接点間にアークが発生する。この状態では、アークが金属蒸気中で維持される金属相アークとなる。
【0027】
このとき、図2中に示したように、接点間に空気、具体的には酸素が侵入すると、図3のステップ3に示すようにアークが周囲気体の影響下で持続するガス相アークに変化する。これにより、図3のステップ4に示すように両接点の表面が酸化したり、両接点の表面の粗さが大きくなったりする。これらの原因により、図3のステップ5に示すように接点間接触抵抗が高くなり、接点部をオンさせたときの接点間電圧降下量が上昇する。
【0028】
このようなガス相アークが発生するのは、金属相アークから接点間に空気が侵入したときにガス相アークに変化するためである。したがって、ガス相アークへの変化を抑制することが接点間電圧降下量の低減を図るのに必要である。
【0029】
ここで、ガス相アークへの変化は、接点間電圧が高いこと、もしくは接点部に流れる電流値が高いことによって生じる。従来は、接点間の導通を的確に行えるように、接点ランニング時に接点部をオンさせる際に、接点に印加される電圧を14V、接点部に流れる電流値を20Aとしていた。しかしながら、これらの値を小さくしたとしても接点間の導通を的確に行えることを確認している。本発明者らが鋭意検討した結果、接点ランニング時に接点部をオンさせる際に、接点に印加される電圧が8V以下、または接点部に流れる電流値が0.3A以下にすれば、ガス相アークへの変化を抑制できることが確認された。
【0030】
そこで、本実施形態では、第1電源10の電圧を例えば8Vとし、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下となるようにしている。また、負荷40の抵抗値を調整するなどにより、このときに接点部に流れる電流が0.3A以下となるようにしている。
【0031】
ガス相アークへの変化を抑制するには、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下であることと、接点部に流れる電流が0.3A以下になることのいずれかを満たしていれば良い。これらは、接点部として用いられる様々な種類の接点材料について適用され得る上限値の中で最も低い値を示しているが、接点部の種類に応じて上限値は異なった値になる。
【0032】
なお、8V以下とされる上記の「接点ランニング時に接点部に印加される電圧」とは、ガス相アークへの変化抑制を目的とするので、好ましくは、接点ランニング時に可動接点2と固定接点3とが離れた状態になるときに接点部に印加される電圧を意味する。そして、その接点ランニング時に可動接点2と固定接点3とが離れた状態になるときに接点部に印加される電圧とは、詳細に言うと、接点ランニング時に両接点が離れた状態になり両接点間にアークが発生しているときの電圧である。その両接点間のアークとは、金属相アークからガス相アークへの変化が無ければ金属相アークを意味するが、ガス相アークへの変化が生じるのであれば金属相アークおよびガス相アークを意味する。また、接点ランニング時に両接点が離れた状態で両接点間に電流が流れていればアークが発生していると解することができ、両接点間に電流が流れていなければアークは発生していないと解することができる。本実施形態では、接点部に印加される電圧の最大値が8V以下であるので、当然、接点ランニング時に可動接点2と固定接点3とが離れた状態になるときに接点部に印加される電圧も8V以下になる。
【0033】
具体的には、接点材料としてAgを用いる場合には、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下であることと、接点部に流れる電流が0.3A以下になることのいずれかを満たしていればガス相アークへの変化を抑制できる。これに対して、接点材料としてCuを用いる場合には、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8Vよりも大きな電圧でも良く、接点部に流れる電流が0.3Aよりも大きな電流でも良い。具体的には、接点材料としてCuを用いる場合には、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が12V以下であることと、接点部に流れる電流が0.5A以下になることのいずれかを満たしていればガス相アークへの変化を抑制できる。
【0034】
ガス相アークへの変化については、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下であることと、接点部に流れる電流が0.3A以下になることとのいずれかを満たしていれば抑制できるが、他方の値が大きすぎるのは好ましくない。具体的に、本発明者らの鋭意検討によれば、次のような結果を得た。すなわち、例えば接点ランニング時に接点部に印加される電圧を14V、かつ接点部に流れる電流値を20Aとした場合と比較して、接点材料にかかわらず、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下である場合には、少なくとも接点部に流れる電流が20Aの場合まではガス相アークへの変化を抑制できた。また、接点ランニング時に接点部に流れる電流が0.3A以下である場合には、少なくとも接点部に印加される電圧が28Vの場合まではガス相アークへの変化を抑制することができ、その印加される電圧が14V以下であれば更に効果的にガス相アークへの変化を抑制することができた。
【0035】
また、接点ランニング時に接点部に印加される電圧や接点部に流れる電流については、接点ランニング時に接点間の導通を的確に行える値であれば良い。これらの値の下限値については、メカニカルリレー1の構造によって決まるが、少なくとも接点部に印加される電圧が0.02V以上、接点部に流れる電流が0.1A以上あれば良い。
【0036】
なお、接点部における酸化や表面荒れは、接点ランニングの回数が多くなるほど大きくなるが、回数にかかわらず上記条件を満たすことで、ガス相アークへの変化を抑制できる。勿論、様々なばらつき要因に基づいて、ガス相アークへの変化が生じ得るが、上記条件を満たす設定として接点ランニングを行うようにすれば、ガス相アークへの変化がほぼ抑制される。そして、接点ランニングを行った上で所望の品質のメカニカルリレー1を得ることができる。
【0037】
このような接点ランニング装置を用いて、次のようなランニング方法に基づいて接点ランニングを行う。
【0038】
まず、接点ランニング装置に対してメカニカルリレー1を取付ける。具体的には、可動接点2に接続された端子5が第1電源10側に接続されるようにすると共に、固定接点3に接続された端子6が負荷40側に接続されるようにする。また、励磁コイル4の両端の端子7、8がそれぞれ第2電源20側とコイル駆動スイッチ30側に接続されるようにする。そして、図示しない制御装置からコイル駆動信号、例えばオン時間を7.5ms、オフ時間を7.5msとしたオンオフサイクルの矩形波信号を入力することでコイル駆動スイッチ30をオンオフ制御する。
【0039】
これにより、コイル駆動スイッチ30がオンされたときには励磁コイル4から磁気吸引力が発生させられる。そして、可動接点2が固定接点3側に移動させられて当接し、接点部がオンされることで接点部を通じて第1電源10から負荷40に電流供給が行われる。また、コイル駆動スイッチ30がオンされている状態からオフに切り替えられると、励磁コイル4からの磁気吸引力が解除される。そして、可動接点2が固定接点3から離れ、接点部がオフされることで第1電源10から負荷40への電流供給が停止される。これを例えば100回のランニング回数繰り返す。これにより、メカニカルリレー1の動作確認および品質確認などを行うことができる。
【0040】
このとき、本実施形態の接点ランニング装置は、接点ランニング時に接点部に印加される電圧が8V以下、または接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下となるようにしている。これにより、接点ランニング時に接点間に電圧が掛かっている状態において両接点が離れた状態になったときに、接点間に空気が侵入してもアークがガス相アークへ変化することが抑制される。したがって、接点の接触抵抗の上昇を抑制することが可能になる。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して接点ランニング装置の回路構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態の接点ランニング装置は、負荷40に対して並列に電圧制限素子70を備えている。電圧制限素子70は、接点ランニング時に両接点が離れた状態になるときに、接点部に印加される電圧を、ガス相アークへの変化が生じる電圧未満の所定電圧値、具体的には8V以下に制限するためのものである。ここでは、電圧制限素子70をコンデンサによって構成している。ただし、電圧制限素子70は、接点部に印加される電圧を所定電圧値以下に制限できる素子であれば他のものでも良く、例えばカソード側が上流側に向けられると共にアノード側が下流側に向けられるように配置されたダイオードであっても良い。
【0043】
このように、電圧制限素子70を負荷40に対して並列接続した場合、接点ランニング時に両接点が離れた状態になるときに、接点部に印加される電圧を所定電圧値以下に制限できる。具体的には、電圧制限素子70をコンデンサによって構成する場合、接点ランニング時に接点間がオンしたときにコンデンサが充電される。本実施形態の場合、コンデンサが第1電源10の電圧に充電される。このため、接点部におけるローサイド側の電位がコンデンサの充電電圧まで上昇し、接点ランニング時に両接点が離れた状態になるときに、接点部に印加される電圧が低下する。つまり、接点部の接触抵抗と負荷40との分圧による電圧分が接点部に印加されるのではなく、それよりも低い電圧が接点部に印加されることになる。したがって、接点部に印加される電圧を制限でき、ガス相アークへの変化を抑制することが可能となる。
【0044】
また、このように接点部に印加される電圧を制限できる場合、第1電源10の電圧を第1実施形態の場合よりも高くできる。例えば、第1電源10の電圧を14±1Vに設定している。これにより、仮に電圧制限素子70が備えられていなかったとしたらガス相アークへの変化を抑制できない電圧が接点部に印加されるようにする場合であっても、電圧制限素子70を備えることでガス相アークへの変化を抑制できるようになる。具体的には、接点ランニング時に接点部の両接点が離れた状態になり両接点間にアークが発生しているときの両接点間の電圧が、電圧制限素子70の作用によって、第1実施形態と同様に8V以下に制限される。したがって、接点ランニング時により高い電圧を印加したり、それにより流れる電流の電流値がより高い値になったりしても、ガス相アークへの変化を抑制でき、接点の接触抵抗の上昇を抑制することが可能になる。
【0045】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0046】
例えば、上記各実施形態で説明した接点ランニング装置の回路構成は、一例であり、他の素子が備えられていても構わないし、電流計50や電圧計60のいずれか一方もしくは両方が備えられていない構成とされていても構わない。
【0047】
また、負荷40についても、ここではレジスタ負荷を例に挙げているが、レジスタ負荷に限らず、誘導負荷などであっても良いし、レジスタ負荷と誘導負荷の組み合わせなどであっても良い。
【0048】
また、上記各実施形態では、メカニカルリレー1の方が負荷40よりもハイサイド側に配置された回路構成とされている。これも一例であり、負荷40がメカニカルリレー1よりもハイサイド側に配置される構造、負荷40がメカニカルリレー1のハイサイド側とローサイド側に分けて配置される構造であっても構わない。
【0049】
また、上記各実施形態では、可動接点2と固定接点3は、例えばAgやCuによって構成されるが、パラジウムなど他の接点材料で構成されても差し支えない。例えば可動接点2と固定接点3がパラジウムで構成される場合であっても、接点ランニング時に、接点部における接点間に印加される電圧が8V以下、または、接点部がオンされているときに接点部に流れる電流の電流値が0.3A以下とされれば、ガス相アークへの変化を抑制できる。
【0050】
また、上記各実施形態において図1などに示すメカニカルリレー1は12V系リレーであるが、そのメカニカルリレー1は、12V系リレーであっても24V系リレーであっても構わない。
【0051】
なお、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
1…メカニカルリレー、2…可動接点、3…固定接点、4…励磁コイル、5~8…端子、10…第1電源、20…第2電源、30…コイル駆動スイッチ、40…負荷、50…電流計、60…電圧計、70…電圧制限素子
図1
図2
図3
図4