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特開2023-126137良好な焼入れ性を有し、高靱性及び高強度のアルミニウム合金押出材の製造方法
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  • 特開-良好な焼入れ性を有し、高靱性及び高強度のアルミニウム合金押出材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126137
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】良好な焼入れ性を有し、高靱性及び高強度のアルミニウム合金押出材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/05 20060101AFI20230831BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20230831BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20230831BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C22F1/05
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 683
C22F1/00 612
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 604
C22F1/00 694B
C22F1/00 602
C22F1/00 692B
C22F1/00 630K
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001561
(22)【出願日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2022029782
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】濱高 祐樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】押出加工時に良好な焼入れ性を有するとともに、高強度、優れた靭性を有するアルミニウム合金押出材の製造方法の提供。
【解決手段】質量%でMg:0.50~1.0%,Si:0.80~1.30%,MgSi:0.85~1.75%及び過剰Si:0.10~0.85%に制限し、Mn:0.10~0.60%,Fe:0.05~0.35%,Mn+Fe:0.15~0.95%,Cu:0.35%以下,Cr:0.10%未満,Zr:0.10%未満,Zn:0.10%未満,Ti:0.10%以下及び残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いて鋳造速度60mm/min以上でビレットを鋳造し、560~590℃,2~8時間の均質化処理後に50℃/hr以上の速度で冷却し、400~550℃の余熱後に押出加工を行い、460~550℃から平均冷却速度350℃/min以上で冷却し、その後に人工時効処理を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下質量%にて、Mg:0.50~1.0%,Si:0.80~1.30%,化学量論組成MgSi:0.85~1.75%及び過剰Si:0.10~0.85%に制限してあり、
Mn:0.10~0.60%,Fe:0.05~0.35%,Mn+Fe:0.15~0.95%,Cu:0.35%以下,Cr:0.10%未満,Zr:0.10%未満,Zn:0.10%未満,Ti:0.10%以下及び残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いて鋳造速度60mm/min以上にてビレットを鋳造し、
前記ビレットを560~590℃,2~8時間の均質化処理後に50℃/hr以上の速度で冷却し、
前記ビレットを400~550℃にて余熱後に押出加工を行い、前記押出加工直後の押出材の温度が460~550℃の状態から平均冷却速度350℃/min以上にて冷却し、
その後に人工時効処理を行うことを特徴とする良好な焼入れ性を有し高靱性及び高強度のアルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム押出材の押出方向と直交する方向の断面において、平均結晶粒径が50μm以下であることを特徴とする請求項1記載の良好な焼入れ性を有し高靱性及び高強度のアルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項3】
前記人工時効処理は160~220℃で2~12時間であり、0.2%耐力240MPa以上、シャルピー衝撃値20J/cm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の良好な焼入れ性を有し高靱性及び高強度のアルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al-Mg-Si系のアルミニウム合金からなる押出材の製造方法に関し、特に押出加工直後の空冷にて良好な焼入れ性を有するとともに靭性に優れ、高強度の押出材を得るのに適した製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
車両等の軽量化を目的にアルミニウム合金の押出材が広く検討されている。
車両の構造部材や部品には軽量化のみならず、高強度でありながら生産時には曲げ加工等の機械加工性に優れるとともに、使用時には耐衝撃性を確保する観点から高い靭性等が要求される。
【0003】
例えば特許文献1には、高強度かつ高靱性を有するアルミニウム合金を開示するが、板材の製造方法であって押出材にはそのまま適用できない。
特許文献2には、曲げ圧壊性と耐食性に優れたアルミニウム合金押出材を開示するが、押出加工直後の冷却に水冷を用いているので、良好な焼入れ性を有するとは言えず、また、水冷時に押出材に冷却ひずみや変形が生じやすく、生産性や品質に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-20527号公報
【特許文献2】特開2011-208251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、押出加工時に良好な焼入れ性を有するとともに、高強度でありながら優れた靭性を有するアルミニウム合金押出材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム合金押出材の製造方法は、以下質量%にて、Mg:0.50~1.0%,Si:0.80~1.30%,化学量論組成MgSi:0.85~1.75%及び過剰Si:0.10~0.85%に制限してあり、Mn:0.10~0.60%,Fe:0.05~0.35%,Mn+Fe:0.15~0.95%,Cu:0.35%以下,Cr:0.10%未満,Zr:0.10%未満,Zn:0.10%未満,Ti:0.10%以下及び残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いて鋳造速度60mm/min以上にてビレットを鋳造し、前記ビレットを560~590℃,2~8時間の均質化処理後に50℃/hr以上の速度で冷却し、前記ビレットを400~550℃にて余熱後に押出加工を行い、前記押出加工直後の押出材の温度が460~550℃の状態から平均冷却速度350℃/min以上にて冷却し、その後に人工時効処理を行うことを特徴とする。
【0007】
押出加工にてアルミニウム合金の押出材を製造するには、直接押出機や間接押出機のコンテナに円柱ビレットを充填し、コンテナにダイをセットし、後方からステムにて加圧押出することから、所定の合金組成に溶湯を調整し、鋳造した円柱ビレットを用いる。
したがって、押出材の特性は、合金組成のみならず、その製造条件も重要となる。
合金組成の選定理由は後述するが、まずはビレットの製造及び押出条件等について説明する。
【0008】
アルミニウム合金の円柱ビレットの鋳造には、フロート式鋳造法,ホットトップ鋳造法及び断熱鋳型式鋳造法等が採用されているが、いずれの場合も加熱溶融させた溶湯を鋳型の上方から注湯し、側部から冷却しながら下方に向けて連続鋳造される。
この際に、鋳造速度が60mm/min以上になるように冷却しながら鋳造すると、ビレット断面の中心部及び周側部の平均結晶粒径が250μm以下になり、押出加工後の結晶粒の微細化を維持することができる。
【0009】
上記のように鋳造されたビレットは、合金の凝固時に不均一なミクロ偏析物が生じることから、均質化処理(HOMO処理)が行われる。
本発明においては、560~590℃,2~8時間加熱することで偏析物を再固溶化し、その後に50℃/hr以上の速度で冷却することで、析出物の均一化と微細化を図った。
【0010】
合金組成の選定理由は、次のとおりである。
<Mg,Si>
本発明に係るアルミニウム合金は、Al-Mg-Si系の熱処理合金である。
Mg及びSiは、MgSiの中間相の析出により高強度が得られる。
この際に、化学量論的なMgSi組成よりも過剰Si組成にすると、より高強度が得られる。
その一方で、MgSiの析出量が多くなり過ぎると、MgSiの析出物が起点となり、靭性が低下したり押出性が低下する。
そのような観点から本発明においては、以下全て質量%にて、Mg:0.50~1.0%,Si:0.80~1.30%に設定しつつ、過剰Si(exSi):0.10~0.85%,MgSi:0.85~1.75%の範囲にした。
<Mn,Fe,Cr,Zr>
Mnを少量添加すると析出Mn化合物は、MgSi中間析出相の優先析出サイトになる効果があり、押出加工直後の冷却(ダイス端焼入れ)を空冷レベルの冷却速度にて、充分に焼入れ効果がでる。
この際に、押出加工直後の冷却が始まる際の押出材の温度(冷却開始温度)も重要であり、本発明は460~550℃の範囲になるように制御し、押出材の温度が少なくとも200℃以下になるまでは平均冷却速度が350℃/min以上で空冷にて冷却できる冷却速度が好ましい。
また、Mnは押出材の結晶粒の微細化にも効果がある。
ここで、Fe,Cr,ZrもMnと同様に遷移金属に属し、押出加工直後の焼入れにおける析出物の析出速度に大きな影響を与える。
特にCrは、焼入れ感受性が強く、水冷レベルの高速冷却でないと充分に焼入れ効果を得ることができない。
Feは、空冷レベルの冷却速度で焼入れに効果があるとともに、再結晶を抑制し、押出方向に伸長した繊維状組織が得られ易いことから、焼入れ性及び靭性の向上に効果がある。
従来Feは他の成分とともに、いろいろな化合物を形成し、偏析の原因となることから、不純物として取り扱い、極力抑えるようにしていた。
これに対して本発明は、Mn:0.10~0.60%,Fe:0.05~0.35%及びMn+Feの合計が0.15~0.95%の範囲に入るようにすることで、良好な焼入れ性,高靭性及び高強度になる。
従来は、高強度にすると割れやすい問題があったが、本発明では両立させることができる。
本発明においてCr,Zrは、不純物として取り扱い、少ないほどよく、それぞれ0.10%未満とした。
<Cu>
Cuは、少量添加されると固溶により高強度に貢献するが、多くなると押出性の低下,耐食性の低下につながるので、添加する場合でもCu:0.35%以下が好ましい。
<Zn>
Znは、押出性にあまり影響を与えないが、MgZnの析出により靭性が低下し、耐応力腐食割れ性が低下することから、不純物として取り扱い、0.10%未満が好ましい。
<Ti>
Tiは、アルミニウム合金のビレットの鋳造の際に、結晶粒の微細化に効果があるので、0.10%以下の範囲で添加されているのが好ましい。
【0011】
本発明においては、上記のように合金組成を選定し、アルミニウム合金のビレットを上記のように鋳造及び均質化処理をしたことにより、ビレットを400~550℃の範囲に余熱した後に押出機のコンテナに充填し、押出加工を行い、押出加工直後に冷却する。
その際に、押出加工直後の押出材の温度が460~550℃の状態から冷却を開始するのが重要であり、その冷却速度は平均冷却速度350℃/min以上が好ましい。
アルミニウム押出材の押出方向と直交する方向の断面において、平均結晶粒径が50μm以下である押出材が得られる。
これにより、人工時効処理160~220℃で2~12時間の条件で、0.2%耐力240MPa以上、引張強さ260MPa以上の高強度でありながら、シャルピー衝撃値20J/cm以上有するようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る押出材の製造方法にあっては、0.2%耐力240MPa以上,引張強さ260MPa以上の高強度でかつ、シャルピー衝撃値20J/cm以上の高い靭性を有する。
これにより、産業機械や車両の構造部材に広く適用できる。
構造部材としては、例えばサイドメンバ等のメンバ類,バッテリーフレーム等の重量物の搭載フレーム構造部材,サスペンション部材等が例として挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】評価に用いたアルミニウム合金組成を示す。
図2】評価に用いた製造条件を示す。
図3】押出材の評価結果を示す。
図4】DSC(mW)の評価例を示す。
図5】押出材の押出方向と直交する断面の中央部のミクロ組織の写真例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の表に示した各合金組成の溶湯を調整し、図2の表に示した鋳造速度で8インチビレットを鋳造し、所定の長さに切断した。
なお、下記の均質化処理後に切断してもよい。
次に、図2に示したHOMO温度,HOMO時間,ホモ後冷却速度にてビレットの均質化処理を行った。
次に、表に示したBLT温度に余熱し、押出速度で押出加工し、直後に空冷(ダイス端焼入れ)を行った後に、表に示した熱処理温度及び熱処理時間の人工時効処理を行った。
ここで、押出加工直後の冷却は、押出材の温度が460~550℃の状態から冷却し始めるのが好ましく、押出材の温度が200℃以下になるまでは平均冷却速度350℃/min以上が好ましい。
また、図2の表には、好ましい各条件範囲を示す。
上記で得られた押出材の評価結果を図3の表に示す。
【0015】
評価方法は、次のとおりである。
<機械的特性>
押出材の押出方向に沿ってJIS-Z2241に基づいて、JIS-5号試験片を切り出し、JIS規格に準拠した引張試験機で試験を実施し、T5引張強さ(MPa),0.2%T5耐力(MPa),T5伸び(%)を測定した。
<結晶粒径>
押出材の押出方向と直交する方向の断面であって、中央部からサンプルを切り出し、鏡面研磨仕上げ後に3%NaOH水溶液にてエッチング処理した。
光学顕微鏡観察により金属組織を観察し、500倍画像により平均結晶粒径を測定した。
その写真例を図5に示す。
実施例1は、平均結晶粒径が30μmと、比較例1の平均結晶粒径150μmよりも微細になっている。
<耐衝撃試験>
JIS-Z2242に基づいて、押出材の押出方向に沿ってJISVノッチ4号試験片を作製し、JIS規格に準拠したシャルピー衝撃試験機でシャルピー衝撃試験を行った。
<DSC分析>
リガク製Thermo plus evo2の示差熱分析計を用いて、示差熱分析を行い、図4に示したチャートの斜線を引いた吸熱ピークの面積(積分値)(mW/g)を析出量とした。
図4に示したチャートは、100mgの試験片を用いた結果であり、吸熱ピークの面積の実測値は20~30mWとなったが、(mW/g)単位に換算すると、DSC分析における析出量の目標を200mW/g以上とし、好ましくは200~300mW/gの範囲である。
【0016】
図3の評価結果に示すように実施例1~35は、全ての品質が目標をクリアーしていた。
これらに対して比較例1~5は、Si含有量が0.80%よりも少なく、exSiも0.10%以下であったので、強度が不充分であったり、靭性が不充分であった。
比較例6~7は、Mg,Feの含有量が少なく、強度が目標未達であった。
比較例8,9はSiが少なく、Mgが多い例で、比較例10~17は押出加工直後の冷却条件が目標の条件から外れている例を示す。
特に、比較例10~13は、押出材強度が550℃を超えていたので、表面にムシレ欠陥も発生していた。
比較例18~22は、ビレットの均質化処理後の冷却が遅い例である。
より詳細に検討すると、実施例1~19は、Si:0.95%,Fe:0.15%,Mn:0.51%,Mg:0.77%,MgSi:1.35%,exSi:0.33%,Mn+Fe:0.66%と同じであり、Cu及びCrを含有していない例である。
製造条件として押出加工直後の冷却速度の影響をみると、空冷のファンの強弱により冷却速度が速い方が、また押出速度が速い方が、耐力,引張強さが大きい傾向を示すが、シャルピー衝撃値にあまり大きな変化は見られなかった。
実施例20~23は、Cu:0.30%含有する例である。
伸びやシャルピー衝撃値を低下させることがなく、若干強度が高い傾向がみられることから、Cuは0.35%以内の範囲で添加されているのが好ましい。
例えば、Cu:0.15~0.35%、さらにはCu:0.20~0.35%が好ましい。
実施例24~29はSi:1.00%,実施例30~35はSi:0.85%の例を示すが、Siは多い方が相対的に強度,耐力が向上している。
また、比較例5,6,7は、DSC分析,吸熱ピーク面積が200mW/g未満であり、T5引張強さ,T5耐力が相対的に低くなっている。
これは、MgSi,exSiが条件範囲から外れているためと推定される。
図1
図2
図3
図4
図5