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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126149
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ノイズ対策用環状磁性体
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/25 20060101AFI20230831BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20230831BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230831BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
H01F27/25
H01F1/153 108
H01F1/153 133
C22C38/00 303S
C21D6/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017910
(22)【出願日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022030469
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】石原 大資
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BC05
5E041BD03
5E041CA01
5E041NN05
5E041NN06
5E041NN12
5E041NN13
5E041NN14
5E041NN15
(57)【要約】
【課題】大振幅のノイズ電流を効果的に抑制できるノイズ対策用環状磁性体を提供する。
【解決手段】軟磁性材料を含み、飽和磁束密度が1.40T以上で、磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mかつ周波数10kHzにおいて、比透磁率が1500以上かつコアロスが100W/kg以下である、ノイズ対策用環状磁性体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料を含み、
飽和磁束密度が1.40T以上で、
磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mかつ周波数10kHzにおいて、比透磁率が1500以上かつコアロスが100W/kg以下である、ノイズ対策用環状磁性体。
【請求項2】
保磁力が30A/m以下である、請求項1に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【請求項3】
前記軟磁性材料が、Fe基ナノ結晶軟磁性合金である、請求項1又は2に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【請求項4】
前記軟磁性材料が、Fe基アモルファス合金である、請求項1又は2に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【請求項5】
前記軟磁性材料は、前記ノイズ対策用環状磁性体の径方向に沿って積層された金属薄帯を含む、請求項1又は2に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【請求項6】
前記金属薄帯の厚さが60μm以下である、請求項5に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【請求項7】
前記金属薄帯の層間に厚さ50nm以上の絶縁層を有する、請求項5に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【請求項8】
前記金属薄帯の層間に厚さ50nm以上の絶縁層を有する、請求項6に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノイズ対策用環状磁性体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器に繋がるケーブルに伝播するノイズ電流を低減させるために、ケーブルを挿通させて使用される環状磁性体を備えるノイズ対策コアが知られている。近年では、インバータやモーターなどの電子機器が高出力化し、発生するノイズ電流も大きくなっている。
【0003】
特許文献1では、Fe基ナノ結晶薄帯を環状に巻き付けた環状磁性体をノイズ対策用コアとして使用している。
【0004】
特許文献2では、Fe濃度を高めて飽和磁束密度を高めたFeナノ結晶の環状磁性体をトランスやモーターコア向けに使用し、高い飽和磁束密度により、小型化と低損失とを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-190528号公報
【特許文献2】特開2014-240516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において、ノイズ電流は微小電流での測定であり、大振幅のノイズ電流に対する使用は想定されていない。
【0007】
特許文献2に記載の技術も、磁気飽和しない領域での使用を前提としており、大振幅のノイズ電流に対する使用は想定されていない。
【0008】
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたもので、大振幅のノイズ電流を効果的に抑制できるノイズ対策用環状磁性体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の要旨構成は以下のとおりである。
【0010】
[1]軟磁性材料を含み、
飽和磁束密度が1.40T以上で、
磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mかつ周波数10kHzにおいて、比透磁率が1500以上かつコアロスが100W/kg以下である、ノイズ対策用環状磁性体。
【0011】
[2]保磁力が30A/m以下である、前記[1]に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【0012】
[3]前記軟磁性材料が、Fe基ナノ結晶軟磁性合金である、前記[1]又は[2]に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【0013】
[4]前記軟磁性材料が、Fe基アモルファス合金である、前記[1]又は[2]に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【0014】
[5]前記軟磁性材料は、前記ノイズ対策用環状磁性体の径方向に沿って積層された金属薄帯を含む、前記[1]から[4]のいずれか1に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【0015】
[6]前記金属薄帯の厚さが60μm以下である、前記[5]に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【0016】
[7]前記金属薄帯の層間に厚さ50nm以上の絶縁層を有する、前記[5]又は[6]に記載のノイズ対策用環状磁性体。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、大振幅のノイズ電流を効果的に抑制できるノイズ対策用環状磁性体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されない。なお、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
[ノイズ対策用環状磁性体]
本開示のノイズ対策用環状磁性体は、
軟磁性材料を含み、
飽和磁束密度が1.40T以上で、
磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mかつ周波数10kHzにおいて、比透磁率が1500以上かつコアロスが100W/kg以下である、ノイズ対策用環状磁性体である。
【0020】
本開示は、高い飽和磁束密度と低い損失とを両立するノイズ対策用環状磁性体に関する。従来のノイズ対策用環状磁性体においては、大振幅のノイズ電流が流れると磁気飽和することがあり、このとき比透磁率が大きく減少し、ノイズ抑制効果が低下する。そのため、磁気飽和させないように環状磁性体を大型化する必要があり、体積と重量とが増加してしまう。また、ノイズ対策用環状磁性体のインピーダンスは平均磁路長に反比例するため、大型化により平均磁路長が増加することでインピーダンスが低下する。さらに、大振幅ノイズ電流によって環状磁性体が発熱し、熱による比透磁率の低下と周辺機器への熱影響が出る虞がある。
【0021】
ノイズ抑制効果の指標として使われるインピーダンスは、比透磁率が高いほど高くなり、ノイズ抑制効果が優れる。この比透磁率の値は、ノイズ電流によって発生する磁界の大きさに依存することが知られている。本発明者は、独自の鋭意検討により、環状磁性体が磁気飽和する領域では、比透磁率は環状磁性体の飽和磁束密度に比例することを新たに見出した。そのため、飽和磁束密度が高い環状磁性体を用いることで、磁気飽和する領域において高い比透磁率を有することが可能となることを本発明者は知見した。また、磁気飽和する領域では環状磁性体の発熱量が大きくなることから、損失を低減するために低い保磁力が必要となる。そのため、高い飽和磁束密度と低い保磁力とを有するノイズ対策用環状磁性体を使用することで、磁気飽和する領域、例えば磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅が700A/m以上の領域でも高い比透磁率と低い損失とを両立でき、ノイズ抑制効果を発揮することが可能となる。ここで、本明細書において、磁路方向と平行な印加磁界とは、ノイズ対策用環状磁性体の磁路に印加される磁界と同義である。
【0022】
ノイズ対策用環状磁性体が、磁気飽和する大振幅の領域でも高い比透磁率を有することで、大振幅のノイズ電流を効果的に抑制することができる。また、磁気飽和する領域でも比透磁率が高いため、磁気飽和させないようにノイズ対策用環状磁性体を大型化する必要がなく、体積と重量を低減できるとともに、平均磁路長を減少させることができ、ノイズ対策用環状磁性体のインピーダンスを高めることができる。さらに、磁気飽和する領域でも損失が低いため、コアの発熱を抑制でき、性能安定性の向上と周辺機器への熱影響の抑制が期待できる。
【0023】
本ノイズ対策用環状磁性体は、飽和磁束密度が高く、保磁力が小さい軟磁性材料を含むことが好ましい。軟磁性材料としては、例えば、Fe基ナノ結晶合金、Fe基アモルファス合金等を用いることができる。軟磁性材料として、例えば、一般式:(Fe1-a100-α-(x+y)-β-γ-δSiαβCuγδ(原子%)(式中、MはCo及びNiの少なくとも一方であり、XはNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、a,α,β,γ,δ,x及びyはそれぞれ0≦a≦0.5,0.5≦α≦10,0≦β≦8,0≦γ≦2,0≦δ≦3,0≦x≦13,0≦y≦13,10≦x+y≦14,及び75≦100‐α‐(x+y)‐β‐γ‐δ≦85を満たす。)により表される一般式を有する合金を使用することができる。ただし、本開示の特性を満足する軟磁性材料であれば、この限りではない。軟磁性材料は、非晶質母相中に平均結晶粒径60nm以下の微細結晶粒が体積分率で30%以上分散した組織を有するFe基ナノ結晶合金であることが好ましい。
【0024】
ノイズ対策用環状磁性体の飽和磁束密度は1.40T以上とする。ノイズ対策用環状磁性体の飽和磁束密度が高いほど比透磁率が高くなるためである。ノイズ対策用環状磁性体の飽和磁束密度が1.40Tよりも小さくなると比透磁率が低くなり、必要なノイズ抑制効果を得るために、ノイズ対策用環状磁性体の寸法を大きくする必要があり、スペース拡大、重量増加およびコスト増大の問題が生じる。ノイズ対策用環状磁性体の飽和磁束密度は、好ましくは1.70T以上、より好ましくは1.75T以上である。ノイズ対策用環状磁性体の飽和磁束密度の上限は特に限定されないが、磁性体の素材の観点から2.45T以下とすることが望ましい。
【0025】
飽和磁束密度は以下のとおり測定する。ノイズ対策用環状磁性体に対して、交直流磁化特性解析装置(メトロン技研製MTR-3487)により直流B-H曲線を求め、印加磁界800A/mにおける磁束密度を測定し、試料の磁性体占有率を100%に換算したときの磁束密度を飽和磁束密度とする。測定時の印加磁界の方向は、試料の磁路方向と平行方向である。
【0026】
ノイズ対策用環状磁性体の比透磁率は、磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mで、かつ周波数10kHzの条件において、1500以上とする。ノイズ対策用環状磁性体の比透磁率がこれより小さくなると、必要なノイズ抑制効果を得るためにコア寸法を大きくする必要があり、スペース拡大と重量増加およびコスト増大の問題が生じる。ノイズ対策用環状磁性体の比透磁率は、好ましくは1800以上、より好ましくは1900以上である。ノイズ対策用環状磁性体の比透磁率の上限は特に限定されないが、交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/m、周波数10kHzにおいて3000以下が好ましい。
【0027】
比透磁率は以下のとおり測定する。ノイズ対策用環状磁性体に対して、交直流磁化特性解析装置(メトロン技研製MTR-3487)により交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/m、周波数10kHzにおける交流B-H曲線を求め、このときの振幅比透磁率を比透磁率とする。
【0028】
ノイズ対策用環状磁性体のコアロスは、磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mで、かつ周波数10kHzの条件において、100W/kg以下である。ノイズ対策用環状磁性体のコアロスがこれより大きいと、コアの発熱量が大きくなり、性能安定性の低下と周辺機器への熱影響が問題となる。ノイズ対策用環状磁性体のコアロスは、磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mで、かつ周波数10kHzの条件において、80W/kg以下であることが好ましく、50W/kg以下であることがより好ましい。ノイズ対策用環状磁性体のコアロスの下限は特に限定されないが、磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/mかつ周波数10kHzにおいて、0.1W/kg以上が好ましい。
【0029】
コアロスは以下のとおり測定する。ノイズ対策用環状磁性体に対して、交直流磁化特性解析装置(メトロン技研製MTR-3487)により交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/m、周波数10kHzにおける交流B-H曲線を求め、このときのコアロスを測定する。
【0030】
ノイズ対策用環状磁性体の保磁力は、30A/m以下が好ましい。ノイズ対策用環状磁性体の保磁力が30A/m以下であれば、損失がより低減でき、コアの発熱をより抑えることができる。ノイズ対策用環状磁性体の保磁力は、より好ましくは20A/m以下、さらに好ましくは10A/m以下である。保磁力の下限は特に限定されないが、磁性体の素材の観点から、0.1A/m以上が好ましい。
【0031】
保磁力は以下のとおり測定する。ノイズ対策用環状磁性体に対して、自動計測保磁力計(東京特殊鋼製K-HC1000)により保磁力を測定する。印加磁界の方向は、ノイズ対策用環状磁性体の径方向とし、120°ずつ回転させて3回測定し、平均値を採用する。また、外径が45mm以上のノイズ対策用環状磁性体については自動計測保磁力計にて測定できないため、飽和磁束密度を求めたときの直流B-H曲線から求めた保磁力を採用する。
【0032】
ノイズ対策用環状磁性体は、全体形状が環状である。ノイズ対策用環状磁性体を構成する軟磁性材料は、ノイズ対策用環状磁性体の径方向に沿って積層された金属薄帯を含むことが好ましい。ノイズ対策用環状磁性体を構成する金属薄帯の厚さは60μm以下とすることが好ましい。金属薄帯の厚さが60μm以下であれば、非晶質状態をより安定的に得ることができ、比透磁率をより向上することができる。また、金属薄帯の厚さが60μm以下であれば、渦電流の発生をより低減して、損失をより低減することができる。金属薄帯の厚さは30μm以下とすることがより好ましい。金属薄帯の厚さの下限値については特に限定されないが、9μm以上とすることで、金属薄帯の厚さがより安定し、空孔の発生をより防ぎ、金属薄帯の機械的強度もより向上して破断をより防ぐことができる。そのため、金属薄帯は好ましくは9μm以上の厚さとする。金属薄帯の厚さは、ノイズ対策用環状磁性体を顕微鏡観察することで決定する。
【0033】
ノイズ対策用環状磁性体を構成する金属薄帯の層間抵抗を高めることで、層間に渡る渦電流を抑制し、損失の低減に効果的である。層間抵抗を高めるために、ノイズ対策用環状磁性体は、金属薄帯の層間に厚さ50nm以上の絶縁層を有することが好ましい。絶縁層を形成するために、ノイズ対策用環状磁性体に樹脂を含浸させることが好ましい。樹脂としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂及びシリコーン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1つの熱硬化性樹脂を単独であるいは組み合わせて使用し得る。また、金属薄帯の表面に予め絶縁被膜を形成することもできる。予め形成する絶縁被膜としては、シリカ系被膜、リン酸系被膜及びアルミナ系被膜からなる群から選ばれる少なくとも1種並びにこれらの組合せなどが使用される。樹脂含浸及び金属薄帯表面への絶縁被膜の形成は、それぞれ単体で行ってもよいし、組み合わせてもよい。樹脂含浸及び金属薄帯表面への絶縁被膜の形成を組み合わせる場合、ノイズ対策用環状磁性体の金属薄帯の層間の絶縁層の厚さは、これらの処理により最終的に得られた絶縁層の厚さとする。また、ノイズ対策用環状磁性体を大気などの雰囲気下で熱処理することで酸化層を付与し、該酸化層を絶縁被膜としてもよい。ただし、コアロスが本開示の要件を満足すれば、絶縁層を形成しなくてもよい。
【0034】
なお、金属薄帯の層間の絶縁層の厚さは、ノイズ対策用環状磁性体の側面(金属薄帯の幅方向に垂直な面)を電子顕微鏡で観察して求める。側面の平面が出ていない場合は、適宜研磨してから観察する。
【0035】
ノイズ対策用環状磁性体は、樹脂またはエラストマーによって構成されたコアケースに入れたり、ノイズ対策用環状磁性体の周囲を樹脂によってコーティング(樹脂コーティング)したり、ノイズ対策用環状磁性体の周囲に絶縁テープを巻いたりしてもよい。コアケースに使用される樹脂またはエラストマーは、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、シリコーン樹脂、シリコーン系エラストマーなどを用いることができる。また、前記樹脂またはエラストマーに、グラスファイバー(GF)、カーボンファイバー(CF)、グラファイト(GP)等を含有させて強度や耐熱性を向上した材料を用いることもできる。上述した樹脂またはエラストマーは、単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0036】
ノイズ対策用環状磁性体をコアケースに入れる場合は、ノイズ対策用環状磁性体を固定するために、コアケースとの隙間に接着剤を充填することがある。接着剤としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系エラストマー及びウレタン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。塗布量は特に限定されないが、環状磁性体がコアケース内で動かず、コアケースからはみ出ない塗布量とすることが好ましい。
【0037】
なお、上述したように、ノイズ対策用環状磁性体を、コアケースに入れたり、樹脂コーティングしたり、絶縁テープを巻いたりした場合、コアケース、樹脂コーティング、及び絶縁テープの少なくとも一つと、ノイズ対策用環状磁性体とをまとめて「ノイズ対策用部材」とも称する。
【0038】
ノイズ対策用環状磁性体はケーブルを挿通させて使用される。このとき、ケーブルに流れるノイズ電流により発生した磁界がノイズ対策用環状磁性体に入るが、磁界の大きさはノイズ電流の大きさに比例し、ノイズ対策用環状磁性体の平均磁路長に反比例する。想定されるノイズ電流は、例えば、ノイズ対策用環状磁性体の外径が30mm、内径が15mmの場合、電流振幅は50Aとなる。このとき、ノイズ対策用環状磁性体に印加される磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅は700A/mとなる。従来、大振幅のノイズ電流を効果的に抑制することは困難であったが、本ノイズ対策用環状磁性体によれば、磁路方向と平行な交流印加磁界の振幅が700A/mとなるような大振幅のノイズ電流であっても効果的にノイズを抑制し得る。
【0039】
ノイズ対策用環状磁性体はケーブルを挿通させて使用されるため、コアケースや樹脂コーティングを含めたノイズ対策用部材の内径寸法は、ケーブルを挿通できるサイズにする。ノイズ対策用環状磁性体は、自動車や充電設備、発電・電源設備の電源ケーブルに使用することができるが、これらのケーブルの太さは、5mm以上150mm以下であり得る。よって、ノイズ対策用部材の内径寸法は、6mm以上であることが好ましく、また155mm以下であることが好ましい。ノイズ対策用環状部材の外径寸法は、十分なノイズ抑制効果を得るためには15mm以上であることが好ましく、また250mm以下であることが好ましい。ノイズ対策用環状磁性体の中心軸方向における寸法(高さ寸法)は特に限定されないが、所定のノイズ抑制効果を得るために調整することができ、例えば5mm以上とすることができ、また50mm以下とすることができる。
【0040】
ノイズ対策用環状磁性体は、単独でケーブルを挿通して使用してもよいし、複数個を並列に設置して使用してもよい。
【0041】
ノイズ対策用環状磁性体は、全体形状が環状である。ノイズ対策用環状磁性体の全体形状は、ドーナツ状のトロイダル形状の他、矩形形状、オーバル形状、レーストラック形状、三角形や多角形にすることができる。
【0042】
ノイズ対策用環状磁性体は、中心軸方向に平行に複数に分割された複数のパーツからなっていてもよい。中心軸方向とは、径方向に対して垂直に伸ばした直線上の方向を指す。環状磁性体を構成するパーツの数および大きさは特に限定されない。中心軸方向と平行であればどのように分割されていてもよい。例えば、各パーツは、ノイズ対策用環状磁性体を径方向に沿って分割した形状であり得る。環状磁性体が複数パーツからなっている場合は、コアケースもノイズ対策用環状磁性体に合わせて複数に分割されていることが好ましい。このような構成にすることで、ケーブルが電子機器および電子部品等に配線された状態であってもノイズ対策用コアにケーブルを挿通させることができるので、ケーブルへの取り付けをより容易にすることができる。
【0043】
[製造方法]
本開示に係るノイズ対策用環状磁性体の製造方法は、特に限定されない。例えば、合金溶湯から単ロール法等によって、厚さ9~30μmの薄帯状のアモルファス合金(金属薄帯)を得、該薄帯状のアモルファス合金を円筒状に巻回して、300℃以上600℃以下の温度にて、30分~10時間の熱処理を施して、軟磁性材料からなるノイズ対策用環状磁性体を得ることができる。作製したノイズ対策用環状磁性体には、樹脂含侵によって金属薄帯の層間に絶縁被膜を形成してもよい。薄帯状のアモルファス合金を巻回する前に、金属薄帯表面に絶縁被膜を形成してもよい。
【0044】
以下、本開示を実施例に従って説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【実施例0045】
(実施例1~11)
環状磁性体に使用される金属薄帯は以下のように作製した。原子%で表1に示す成分組成になるような合金溶湯を単ロール法により急冷し、得られた幅50mm厚さ17~23μmのFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を、幅15mmになるようにスリット刃により切断した。得られたFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を外径50mm、内径30mmに巻回した後、アルゴン雰囲気下で350℃に保った熱処理炉に挿入し、3時間熱処理を施して、ノイズ対策用環状磁性体を作製した。ノイズ対策用環状磁性体中の微結晶粒の平均粒径と体積分率とを測定すると、各非晶質母相中に平均結晶粒径60nm以下の微細結晶粒が体積分率で30%以上分散した組織を有することが確認された。
【0046】
得られたノイズ対策用環状磁性体に樹脂含浸を行って、金属薄帯間に絶縁被膜を付与させた。まず、ノイズ対策用環状磁性体とエポキシ樹脂を真空雰囲気下に保持し、金属層間や樹脂内の空気を抜いた。その後、ノイズ対策用環状磁性体をエポキシ樹脂に浸漬して保持し、エポキシ樹脂を含浸させた。その後、ノイズ対策用環状磁性体を完全にエポキシ樹脂に浸漬させてから大気圧に戻すことで、樹脂含浸が完了した。ノイズ対策用環状磁性体を取り出して表面を乾燥した後、大気雰囲気で120℃で1時間保持して硬化処理をした。ノイズ対策用環状磁性体が入る所定寸法のコアケースに挿入し、隙間をシリコーン系エラストマーで固定して、ノイズ対策用部材とした。得られたノイズ対策用部材の特性を表1に示す。なお、ノイズ対策用環状磁性体の側面の観察に基づき金属薄帯の層間の絶縁層の厚さを算出したところ、3~5μmであった。
【0047】
(比較例1)
原子%で、Si:13.5%、B:9%、Nb:3%、Cu:1%であり、残部が実質的にFeからなる合金溶湯を単ロール法により急冷し、得られた幅50mm、厚さ17~23μmのFe基ナノ結晶薄帯を、幅15mmになるようにスリット刃により切断した。得られたFe基ナノ結晶薄帯を外径50mm、内径30mmに巻回した後、アルゴン雰囲気下で550℃に保った熱処理炉に挿入し、30分熱処理を施して、ノイズ対策用環状磁性体を作製した。以降は実施例1~11と同様にして、ノイズ対策用部材を作製した。得られたノイズ対策用部材の特性を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
原子%で、Si:13.5%、B:8%、Nb:3%、Cu:1%であり、残部が実質的にFeからなる合金溶湯を単ロール法により急冷し、得られた幅50mm、厚さ17~23μmのFe基ナノ結晶薄帯を、幅15mmになるようにスリット刃により切断した。得られたFe基ナノ結晶薄帯を外径50mm、内径30mmに巻回した後、アルゴン雰囲気下で550℃に保った熱処理炉に挿入し、30分熱処理を施して、ノイズ対策用環状磁性体を作製した。このとき、ノイズ対策用環状磁性体の高さ方向(薄帯の幅方向)に280kA/mの磁界を印加した。以降は実施例1~11と同様にして、ノイズ対策用部材を作製した。得られたノイズ対策用部材の特性を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
原子%で、Si:3.0%を含むケイ素鋼板で、厚さ0.25mm、幅15mmの鋼板を外径50mm、内径30mmに巻回した後、アルゴン雰囲気下で700℃に保った熱処理炉に挿入し、1時間熱処理を施して、ノイズ対策用環状磁性体を作製した。以降は実施例1~11と同様にして、ノイズ対策用部材を作製した。得られたノイズ対策用部材の特性を表1に示す。
【0050】
実施例1~11は、飽和磁束密度が1.40T以上で、交流印加磁界の振幅と周波数が、振幅700A/m、周波数10kHzにおける比透磁率は1500以上が得られている。また、コアロスは100W/kg以下となり、高透磁率と低損失とを両立している。一方、比較例1や2は飽和磁束密度が低いため、比透磁率は1500未満と低く、ノイズ抑制効果が低い。比較例3は飽和磁束密度が高く比透磁率も高いが、コアロスが5000W/kgと非常に高く、発熱による性能低下や周辺機器への影響が懸念される。
【0051】
(実施例12~33)
原子%で所定の組成になるような合金溶湯を単ロール法により急冷し、得られた幅50mm、厚さ17~23μmのFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を、幅15mmになるようにスリット刃により切断した。得られたFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を巻回する前に、薄帯表面にシリコーン系樹脂を塗布して絶縁被膜を形成した。絶縁被膜の厚さは100~300nmであった。得られたFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を外径50mm、内径30mmに巻回した後、アルゴン雰囲気下で350℃に保った熱処理炉に挿入し、3時間熱処理を施して、ノイズ対策用環状磁性体を作製した。ノイズ対策用環状磁性体中の微結晶粒の平均粒径と体積分率とを測定すると、各非晶質母相中に平均結晶粒径60nm以下の微細結晶粒が体積分率で30%以上分散した組織を有することが確認された。
【0052】
得られたノイズ対策用環状磁性体の一部は、実施例1~11と同様に真空雰囲気にてエポキシ樹脂に浸漬し、大気圧に戻すことで樹脂含浸を行なった。表面を乾燥した後、大気雰囲気で120℃で1時間保持して硬化処理をした。また、一部の環状磁性体は樹脂含浸を行なっていない。得られた環状磁性体は、環状磁性体が入る所定寸法のコアケースに挿入し、隙間をシリコーン系エラストマーで固定して、ノイズ対策用部材とした。得られたノイズ対策用部材の特性を表2に示す。なお、薄帯表面に塗布した絶縁被膜を薄帯断面方向から電子顕微鏡にて観察したところ、被膜の厚さは100~300nmであった。また、ノイズ対策用環状磁性体の側面の観察に基づき、含浸樹脂による金属薄簿の層間の絶縁層の厚さを算出したところ、3~5μmであった。なお、表2において、樹脂含浸の項目が「〇」の例は樹脂含浸を行なっており、「×」の例は樹脂含浸を行なっていないことを意味する。
【0053】
(比較例4~14)
原子%で所定の組成になるような合金溶湯を単ロール法により急冷し、得られた幅50mm厚さ17~23μmのFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を、幅15mmになるようにスリット刃により切断した。得られたFe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶薄帯を外径50mm、内径30mmに巻回した後、アルゴン雰囲気下で350℃に保った熱処理炉に挿入し、3時間熱処理を施して、ノイズ対策用環状磁性体を作製した。得られたノイズ対策用環状磁性体は、樹脂含浸せずに、ノイズ対策用環状磁性体が入る所定寸法のコアケースに挿入し、隙間をシリコーン系エラストマーで固定して、ノイズ対策用部材とした。得られたノイズ対策用部材の特性を表2に示す。なお、表2において、絶縁被膜の項目が「○」の例は絶縁被膜の形成を行なっており、「×」の例は絶縁被膜の形成を行なっていないことを意味する。
【0054】
実施例12~33はノイズ対策用環状磁性体の層間抵抗を絶縁被膜や含浸樹脂で高めているため、高い比透磁率を保ちながら低いコアロスを有している。一方、比較例4~14においては層間が導通してしまうため、渦電流による損失が大きくなり、コアロスが増大しており、発熱の影響が懸念される。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本ノイズ対策用環状磁性体は、自動車に備えられた電子部品、充電関連設備、建設機械関連の電子部品、発電装置、電源装置、通信機器等のケーブルに装着され、これらの電子部品や電子機器内部で発生し、または外部で発生してケーブル内を伝播するノイズを抑制するノイズ対策用環状磁性体として特に有効である。