(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126154
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】パラジウム-銅-銀合金
(51)【国際特許分類】
G01R 1/06 20060101AFI20230831BHJP
G01R 1/073 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G01R1/06 B
G01R1/073 E
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023206
(22)【出願日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】22159089
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】フェッヒャー、ヨナス
(72)【発明者】
【氏名】ウェグナー、マティアス
【テーマコード(参考)】
2G011
【Fターム(参考)】
2G011AA02
2G011AA03
2G011AA04
2G011AC21
2G011AC31
2G011AE03
2G011AF07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形体、ワイヤ、ストリップ、又はプローブ針、及び電気的コンタクトを試験するための、又は電気的に接触させるための、又は摺動コンタクトの製造のためのパラジウム-銅-銀合金、その使用、また、製造方法にも関する。
【解決手段】40~58重量%のパラジウム、25~42重量%の銅、6~20重量%の銀、任意選択的にルテニウム、最大6重量%のロジウム、及びレニウムの群からの少なくとも1種の元素、並びに最大1重量%の不純物からなるパラジウム-銅-銀合金であって、パラジウム-銅-銀合金は、B2結晶構造を有する結晶相を含有し、0体積%~10体積%の銀、パラジウム及び銀-パラジウム二元化合物の析出物を有する、パラジウム-銅-銀合金。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム-銅-銀合金であって、
(a)40~58重量%のパラジウム、
(b)25~42重量%の銅、
(c)6~20重量%の銀、
(d)任意選択的に、最大6重量%の、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素、並びに
(e)最大1重量%の不純物
からなり、
前記パラジウム-銅-銀合金は、B2結晶構造を有する結晶相を含有し、
前記パラジウム-銅-銀合金は、0体積%~10体積%の銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物を有する、パラジウム-銅-銀合金。
【請求項2】
前記パラジウム-銅-銀合金が、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅、及び
(c)7~19重量%の銀、
好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅、及び
(c)8~18重量%の銀、
より好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅、及び
(c)9~18重量%の銀、
更により好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅、及び
(c)10~18重量%の銀を含有することを特徴とする、請求項1に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項3】
前記パラジウム-銅-銀合金が、少なくとも1.05、最大1.6の銅に対するパラジウムの重量比を有し、少なくとも3、最大6の銀に対するパラジウムの重量比を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項4】
前記パラジウム-銅-銀合金が、少なくとも0.1重量%のルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項5】
前記パラジウム-銅-銀合金が、ルテニウム、ロジウム、レニウム、又はルテニウム、ロジウム、及びレニウムから選択される元素の2つの混合物、又はルテニウム、ロジウム、及びレニウムの混合物の析出物を含有し、好ましくは、前記析出物の少なくとも90体積%が、前記パラジウム-銅-銀合金の粒界に配置され、特に好ましくは、前記析出物の少なくとも99体積%が、前記パラジウム-銅-銀合金の粒界に配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項6】
前記パラジウム-銅-銀合金が、ルテニウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を最大6重量%、好ましくはルテニウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1重量%~6重量%、特に好ましくはルテニウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を1重量%~6重量%含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項7】
前記B2結晶構造を有する前記結晶相が、少なくとも6重量%の銀含有量を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項8】
前記B2結晶構造を有する前記結晶相が、前記パラジウム-銅-銀合金を熱処理後、特に焼き戻し後、又は焼鈍後に急冷することによって得られ、及び/又は
前記パラジウム-銅-銀合金が、複数回の熱処理及び複数回の圧延によって成形及び硬化され、前記熱処理は、好ましくは700℃~950℃の温度で行われ、前記熱処理後に急冷が行われ、前記熱処理中に前記パラジウム-銅-銀合金の溶融は行われず、及び/又は
前記パラジウム-銅-銀合金は、溶融冶金によって製造され、その後、圧延及び焼き戻しによって硬化され、前記パラジウム-銅-銀合金は、好ましくは少なくとも380HV0.05の硬度を有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項9】
前記パラジウム-銅-銀合金が、最大2μmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項10】
前記パラジウム-銅-銀合金が、0体積%~5体積%の銀、パラジウム、及び/又は銀-パラジウム二元化合物の析出物、好ましくは0体積%~2体積%の銀、パラジウム、及び/又は銀-パラジウム二元化合物の析出物、特に好ましくは0体積%~1体積%の銀、パラジウム、及び/又は銀-パラジウム二元化合物の析出物を有し、より特に好ましくは銀、パラジウム、及び/又は銀-パラジウム二元化合物の析出物を有しないことを特徴とする、請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金からなる成形体であって、好ましくは、任意の底面を有する略円筒の形状、又は任意の底面を有するコイル様の略円筒の形状を有し、特に好ましくは、前記略円筒の高さは、前記略円筒の前記底面のすべての寸法よりも大きく、より特に好ましくは、前記底面の最小断面は、最大500μmであり、前記底面の最大断面は、最大10mmである、成形体。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金からなるプローブ針又は摺動コンタクトワイヤであって、好ましくは、少なくとも部分的に、任意の底面を有する略円筒の形状、又は任意の底面を有する湾曲した略円筒の形状を有し、特に好ましくは、前記底面の最小断面は最大500μmであり、前記底面の最大断面は最大10mmであり、及び/又は前記プローブ針がカードに取り付けられ、一端で電気的に接触され、他端が自由に浮動するように取り付けられ、又は前記摺動コンタクトワイヤが電気的コンタクトに取り付けられ、一端で電気的に接触され、他端が自由に浮動するように取り付けられる、プローブ針又は摺動コンタクトワイヤ。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のパラジウム-銅-銀合金、又は請求項11に記載の成形体、又は請求項11に記載の成形体の一部の使用であって、電気的コンタクトを試験するため、又は電気的に接触させるための、又は摺動コンタクトを製造するための使用。
【請求項14】
パラジウム-銅-銀合金の製造方法であって、
A)任意選択的に、パラジウムを、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムのリストから選択される少なくとも1種の元素と、パラジウムのルテニウム、ロジウム、及びレニウムのリストから選択される少なくとも1種の元素に対するモル比が少なくとも3:1になるように溶融することによってプレアロイ化して、パラジウムプレアロイを生成するステップ;
B)真空中及び/又は保護ガス下での溶融及び凝固によって、パラジウム又は前記パラジウムプレアロイを銅及び銀と合金化するステップであって、少なくとも40重量%、最大58重量%のパラジウム又は少なくとも40重量%、最大64重量%のパラジウムプレアロイ、少なくとも25重量%、最大42重量%の銅、及び少なくとも6重量%、最大20重量%の銀を秤量するステップ;
C)750℃超の温度で少なくとも10分間焼鈍し、続いて急冷し、続いて圧延することによって処理を繰り返すステップ;
D)最大100μmの最終的な厚さを達成するために圧延するステップ;
E)250℃~600℃の温度で少なくとも1分間の最終的な焼鈍を行うステップ
の経時的なステップを特徴とする、パラジウム-銅-銀合金の製造方法。
【請求項15】
ステップB)において、少なくとも1.05、最大1.6の、銅に対するパラジウムの重量比及び、少なくとも3、最大6の銀に対するパラジウムの重量比が秤量され、及び/又は
ステップB)において、前記溶融が、誘導溶融によって、又は真空誘導溶融によって行われ、及び/又は
ステップB)において、保護ガスとして希ガス、特にアルゴンが、好ましくは10mbar~100mbarの分圧で使用され、及び/又は
ステップB)において、前記凝固が、銅製永久鋳型、特に冷却されていない銅製永久鋳型における鋳造によって行われ、鋳造前の溶融物の温度が、好ましくは前記パラジウム-銅-銀合金の溶融温度よりも100℃未満高い
ことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップC)において、前記急冷が水中で行われ、及び/又は
ステップC)において、前記焼鈍が、850℃~950℃の温度で、好ましくは900℃の温度で行われ、及び/又は
ステップE)において、前記最終的な焼鈍が、300℃~450℃の温度で、好ましくは360℃~400℃の温度で行われる
ことを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム-銅-銀合金(PdCuAg合金)及びそのようなパラジウム-銅-銀合金でできた成形体、特にそのようなパラジウム-銅-銀合金でできたワイヤ、ストリップ又はプローブ針、電気的コンタクトを試験するための、又は電気的に接触させるための、又は摺動コンタクトの製造のためのそのようなパラジウム-銅-銀合金の使用、並びにパラジウム-銅-銀合金の製造方法に関する。
【0002】
チップ製造中、処理後、ウェハは、切断されていない状態で集積回路(IC)の機能を試験するためにプローブ針と直接接触される。個々のチップの構造化の後、プローブ針のアレイで半導体ウェハの機能性について試験される。プローブ針は、ウェハの設計に適合したプローブカードに固定される。試験プロセスでは、ウェハがプローブ針に押し付けられ、プローブ針とICのパッドとが、アルミニウムパッドの場合にはパッシベーション層を介して接触する。次に、接触、高電流密度での電気特性、及び温度変化中の電気的挙動などの様々なパラメータが試験される。
【0003】
したがって、プローブ針は、パワーエレクトロニクスの製造、電気的コンタクトの品質を試験するためのチップ及び他の電気回路の接触において使用される(例えば、米国特許出願公開第2014/0266278(A1)号及び米国特許出願公開第2010/0194415(A1)号を参照)。
【0004】
良好なプローブ針の重要なパラメータは、高い電流が伝送されなければならないので導電性が高く、メンテナンス間隔を短く保つために硬度が高いことである。したがって、現在、高い導電性及び熱伝導性を有するが、高い硬度及び引張強度も有する金属又は合金が、いわゆるプローブ針に使用されている。純銅の導電率(100% IACS=58.1×106S/m)が基準として使用される。しかしながら、銅(Cu)や銀(Ag)は延性が大きく、使用中にプローブ針が変形してしまうため、これらの用途には使用できない。
【0005】
しかしながら、プローブ針の他に、特に摺動コンタクト用のワイヤなどの他の用途もまた、高い導電性及び熱伝導性、並びに同時に高い硬度及び引張強度などの良好な機械的特性を有する材料から利益を得る。摺動コンタクトの場合、一方では、表面が低い遷移抵抗を引き起こし、他方では、材料があまりに急速に摩耗しない、すなわち摩食又は浸食されないことが重要である。
【0006】
パワーエレクトロニクスにおけるプローブ針又はスライドワイヤなどの用途はまた、高い導電性に加えて高い機械的強度及び硬度を必要とする。この点に関して、温度耐性又は耐熱性も非常に重要である。
【0007】
プローブ針のための典型的な材料は、10%の金及び10%のプラチナを含有することができる析出硬化パラジウム-銀合金であり、例えば、Paliney(登録商標)7、Hera 6321、及びHera 648の製品名で販売されている。これらの合金は、400~500HVの高い硬度を有する。しかしながら、9~12% IACSでは、導電率はかなり低い。プローブ針の場合、高い導電性が重要な要素である。アルミニウムパッド上での試験に、タングステン、炭化タングステン、パラジウム-銅-銀合金、及びタングステンレニウムの材料でできたプローブ針が広く使用されている。後者は特に硬く、アルミニウムパッドは金パッドよりも頑強であり、金パッドよりも硬い針での試験に良好に耐えることができる。これらのプローブ針はまた、非常に高い導電性を有していない。CuAg7などのより高い導電率を有する合金は、パラジウム-銀合金又はパラジウム-銅-銀合金よりも硬度が低く(約320HV0.05)、耐熱性が低い。
【0008】
金パッド上での使用に関して、Deringer Ney社のPaliney(登録商標)H3C又はAdvanced Probing社のNewTec(登録商標)などのパラジウム合金(Pd合金)が知られている。原則として、適切なパラジウム-銅-銀合金は、米国特許第1913423(A)号及び英国特許出願公開第354216(A)号から既に知られている。パラジウム-銅-銀合金は、超格子を有する構造を形成することができ、これは、合金の導電性及び機械的安定性の改善につながる。このとき、格子内の原子は、もはやランダムに分布しておらず、周期的な構造、すなわち超格子内に配列されている。結果として、350HV1を超える硬度(9.81N(1キロポンド)の試験荷重でのDIN EN ISO 6507-1:2018~-4:2018によるビッカース硬度試験)、19.5% IACSを超える導電率、及び最大1500MPaの破壊強度が可能である。
【0009】
米国特許出願公開第2014/377129(A1)号及び米国特許第5833774(A)号並びに欧州特許出願番号第20193903号の未公開欧州特許出願は、電気用途のための硬化Ag-Pd-Cu合金を開示している。そのようなパラジウム-銅-銀合金は、約9%~12%IACSの導電率及び400~500HV1の硬度を有する。より高い導電率が望ましい。米国特許第10385424(B2)号は、最大5重量%のレニウムを追加的に含有するパラジウム-銅-銀合金を開示している。このパラジウム-銅-銀合金は、商品名Paliney(登録商標)25で販売されている。このようにして、導電率を著しく増加させることができ、19.5%IACSを超える値に達する。レニウムは、3180℃という非常に高い融点を有し、したがって、他の金属との合金化には大いに手間がかかる。表面の酸化物は、プローブ針及び摺動コンタクトの機能を制限する可能性がある。更に、プローブ針の材料として使用するためには、合金の導電率及び/又は硬度を更に高めることも常に望ましい。
【0010】
Journal of Phys.Chem.Ref.Data,Vol.6,No.3,1977,第647頁~第650頁は、三元相
図Cu-Ag-Pdに関する知見を要約している。そこでは、三元系Cu-Ag-Pd中に三元相が見出されなかったと述べられている。しかしながら、β’相と呼ばれ、体心立方B2結晶構造を有する二元Cu-Pd相が言及されている。相図は、β’相が、常圧下、400℃で、最大4重量%の銀含有量まで熱力学的に安定であることを示しており、より高い銀含有量では、PdCuAg合金は、銀-パラジウム析出物を有する不均一相混合物を形成する。最大硬度は、Cu 25重量%、Ag 25重量%、Pd 50重量%の組成、又はCu 30重量%、Ag 30重量%、Pd 40重量%の組成で想定される。
【0011】
したがって、本発明の目的は、先行技術の欠点を克服することである。特に、高い導電性と同時に高い硬度を有するが、同時に製造が簡単であり、表面に可能な限り高い耐酸化性を有する、合金及び成形体、ワイヤ、ストリップ、又はプローブ針が提供される。可能であれば、成形体は、同等の合金よりも費用効果的に製造可能であるべきである。この合金及び製品は、電気的コンタクトを試験するためのプローブ針として使用可能であるべきである。
【0012】
したがって、本発明の目的は、公知のパラジウム-銅-銀合金の機械的特性(硬度、降伏強度、バネ特性)をより高い導電性と組み合わせる、公知のパラジウム-銅-銀合金などの合金を見出すことである。そのようなパラジウム-銅-銀合金は、特にプローブ針用の材料として使用される場合に、重要な技術的利点を有する。
【0013】
本発明の更なる目的は、上述の特性を満たす成形体、特にワイヤ、ストリップ、又はプローブ針を提供することである。更に、更なる目的は、そのような合金でできた複数のワイヤを有する摺動コンタクト用のワイヤの開発である。
【0014】
本発明の目的は、
(a)40~58重量%のパラジウム、
(b)25~42重量%の銅、
(c)6~20重量%の銀、
(d)任意選択的に、最大6重量%の、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素、並びに
(e)最大1重量%の不純物からなるパラジウム-銅-銀合金によって達成され、
パラジウム-銅-銀合金は、B2結晶構造を有する結晶相を含有し、
パラジウム-銅-銀合金は、0体積%~10体積%の銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物を有する。
【0015】
ルテニウム、ロジウム、及びレニウムの元素の合計は、パラジウム-銅-銀合金中で6重量%の重量割合を超えてはならない。
【0016】
パラジウム、銅及び銀の割合、並びにルテニウム、ロジウム及び/若しくはレニウム並びに/又は不純物の任意選択的な割合は、合計で100重量%になる。
【0017】
ルテニウム、ロジウム、及びレニウムのリストから選択される元素のいずれもパラジウム-銅-銀合金に含有されないことも可能である。パラジウム-銅-銀合金は、特定の割合のパラジウム、銅、銀、及び最大1重量%の不純物からなる。
【0018】
析出物の割合を体積%で指定するとは、銀の析出物とパラジウムの析出物と銀-パラジウム二元化合物の析出物との合計が、最大10体積%の所定の体積割合であることを意味する。本発明によれば、銀、パラジウム、又は銀-パラジウム二元化合物の析出物がパラジウム-銅-銀合金中に含有されないことも可能である。これらの析出物全体の10体積%超の割合のみが除外される。析出物は、銀若しくはパラジウム又は銀-パラジウム二元化合物からなることができるが、これらの析出物(銀、パラジウム及び銀-パラジウム二元化合物)のすべての合計は、10体積%の割合を超えてはならない。析出物の銀、パラジウム及び銀-パラジウム二元化合物は、5重量%以下の銅及び1重量%以下の他の金属、好ましくは2重量%以下の銅を含有しなければならない。パラジウム-銅-銀合金中の銀、パラジウム、又は銀-パラジウム二元化合物の割合は、十分に研磨された横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像の面積割合の定量分析によって位相差(二次電子の測定)でSEMを使用して実験的に決定することができる。そのような方法は当業者に公知である。割合は、EDXマッピングによって(同様に、測定された断面の面積割合の評価によって)決定することもできる。更なる測定の方法が利用可能であり、適用可能である。
【0019】
本発明によれば、最大1重量%のレニウムがパラジウム-銅-銀合金中に含有されることが好ましく、特に好ましくは最大0.8重量%のレニウムがパラジウム-銅-銀合金中に含有される。
【0020】
B2結晶構造を有する結晶相を含有するパラジウム-銅-銀合金とは、パラジウム-銅-銀合金中のB2結晶構造を有する結晶相が、X線回折法又は電子回折像によって少なくとも局所的に検出可能でなければならないことを意味する。検出に使用されるのは、特に、パラジウム-銅-銀合金の電子回折像であり、これは、B2結晶構造に典型的な反射及び回折パターンを示し、パラジウム-銅-銀合金中に生じる他の結晶構造の電子回折像と明確に区別することができる。B2結晶構造の割合が大きい場合(1体積%超)、B2結晶構造は、パラジウム-銅-銀合金の適切に調製された表面及び粉末のX線回折法によるXRDによっても検出することができる。パラジウム-銅-銀合金中のB2結晶構造を検出する他の方法も考えられる。
【0021】
不純物とは、合金の金属中に通常の不純物として存在する化学元素であって、製造上の理由から除去することができないか、又は多大な労力をかけなくては除去することができない化学元素を意味すると理解される。通常の不純物は、製造業者及び抽出に応じて異なり得る。
【0022】
記号B2はStrukturbericht記号による空間群を示す。B2結晶構造(又は略してB2構造)は、CsCl型の金属間構造であり、体心立方(bcc)格子構造である。B2結晶構造は空間群Pmを有し、
【数1】
をヘルマン・モーガン記号で表す。Pd-Cu二元系では、この結晶相はβ’相とも呼ばれる。1つのタイプの原子(例えば、Pd)は、角に位置し(単位格子当たり8×1/8原子)、(少なくとも)別のタイプの原子(例えば、銅及び銀)は、中心に位置し(単位格子当たり1×1原子)、1:1の原子比をもたらす。正確な混合物からわずかなずれがあってもよい。そのようなB2結晶構造は、CsClで生じるが、NiAlでも生じ、規則的な二元PdCuであっても生じる。
【0023】
B2結晶構造は、TEM試験(例えば、FIB(集束イオンビーム)による)のために適切に調製された試料の適切な顕微鏡試験若しくはTEM試験によって、又はパラジウム-銅-銀合金の体積体若しくはパラジウム-銅-銀合金の粉末の定量的X線回折試験(XRD試験)によって少なくとも大まかに決定することができる。そのような方法は当業者に公知である。Bragg-Brentano回折計をXRD測定に使用し、10~115の測定範囲(2θ)を、96秒/ステップの測定時間で0.050のステップサイズで記録し、40kV及び40mAの銅X線源をX線源として使用した。驚くべきことに、B2結晶構造を有する結晶相はまた、既知の試験に基づいて予想されるよりも高い銀含有量で生じる。同時に、B2結晶構造を有するこの結晶相を有するパラジウム-銅-銀合金もまた、本発明による用途に特に有利な物理的特性を有する。
【0024】
パラジウム-銅-銀合金は、好ましくは、プローブ針及び/又は摺動コンタクトを製造するのに適している。
【0025】
また、パラジウム-銅-銀合金は、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)7~19重量%の銀、
好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)8~18重量%の銀、
より好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)9~18重量%の銀、
更により好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)10~18重量%の銀
を含むことが規定され得る。
【0026】
驚くべきことに、従来技術から知られている試験に基づいて予想されるよりも、より高い最小銀割合では、より大きな割合のB2結晶構造が見出され、銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物は全く見出されないか、又は驚くほど小さな割合(最大10体積%)しか見出されなかった。更に、有利な物理的特性の組み合わせが得られる。
【0027】
更に、パラジウム-銅-銀合金は、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)6~18重量%の銀、
好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)6~16重量%の銀
より好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)6~14重量%の銀
を含むことが規定され得る。
【0028】
パラジウム-銅-銀合金は、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)7~18重量%の銀、
好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)8~17重量%の銀、
より好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)9~16重量%の銀、
更により好ましくは、
(a)41~56重量%のパラジウム、
(b)26~42重量%の銅及び
(c)10~15重量%の銀
を含むことが規定され得る。
【0029】
本発明によれば、パラジウム-銅-銀合金は、銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.05、最大1.6であり、銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも3、最大6であることが更に規定され得る。
【0030】
パラジウムの銅に対する重量比が少なくとも1.05、最大1.6であることは、パラジウムが、パラジウム-銅-銀合金に含有される銅の重量の少なくとも105%、最大160%の重量でパラジウム-銅-銀合金に含有されることを意味する。
【0031】
したがって、銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも3、最大6であることは、パラジウム-銅-銀合金に含まれる銀の重量の少なくとも3倍、最大6倍の重量でパラジウムがパラジウム-銅-銀合金に含有されることを意味する。
【0032】
パラジウム-銅-銀合金は、銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.2、最大1.55であり、好ましくは銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.3、最大1.5であり、特に好ましくは銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.35、最大1.45であり、より特に好ましくは銅に対するパラジウムの重量比が1.41であることが規定され得る。
【0033】
これらの重量比により、特に高い導電性を有するパラジウム-銅-銀合金が提供される。
【0034】
パラジウム-銅-銀合金は、銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも3.5、最大5.5であり、好ましくは銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも4、最大5.5であり、特に好ましくは銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも4.6、最大5.2であり、より特に好ましくは銀に対するパラジウムの重量比が4.9であることが規定され得る。
【0035】
また、これらの重量比により、特に高い導電性を有するパラジウム-銅-銀合金が提供される。
【0036】
パラジウム-銅-銀合金は、銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.2、最大1.55であり、銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも3.5、最大5.5であり、好ましくは銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.3、最大1.5であり、銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも4、最大5.5であり、特に好ましくは銅に対するパラジウムの重量比が少なくとも1.35、最大1.45であり、銀に対するパラジウムの重量比が少なくとも4.6、最大5.2であり、より特に好ましくは銅に対するパラジウムの重量比が1.41であり、銀に対するパラジウムの重量比が4.9であることが規定され得る。
【0037】
また、これらの重量比により、特に高い導電性を有するパラジウム-銅-銀合金が提供される。
【0038】
更に、パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を少なくとも0.1重量%含有することが規定され得る。
【0039】
パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を少なくとも1重量%含有することが規定され得る。
【0040】
パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を少なくとも1.5重量%含有することが規定され得る。
【0041】
また、パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を最大5重量%、好ましくはルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を最大4重量%、特に好ましくはルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を最大3重量%含有することが規定され得る。
【0042】
ルテニウム、ロジウム、及びレニウムの元素の合計は、パラジウム-銅-銀合金中で5重量%の重量割合、好ましくはパラジウム-銅-銀合金中で4重量%の重量割合、特に好ましくはパラジウム-銅-銀合金中で3重量%の重量割合を超えてはならない。
【0043】
パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を少なくとも0.1重量%、最大5重量%、好ましくはルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を少なくとも1重量%、最大4重量%、特に好ましくはルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を少なくとも1重量%、最大3重量%含有することが規定され得る。
【0044】
ルテニウム、ロジウム、及びレニウムの元素の合計は、パラジウム-銅-銀合金中で5重量%の重量割合、好ましくはパラジウム-銅-銀合金中で4重量%の重量割合、特に好ましくはパラジウム-銅-銀合金中で3重量%の重量割合を超えてはならない。
【0045】
ルテニウム、ロジウム、及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1重量%超、最大5重量%含有する合金とは、当該群から選択される少なくとも1種の元素の重量割合の合計が、合金全体の重量の0.1重量%超、最大5重量%を構成することを意味する。一般にレニウム、ルテニウム、及び/又はロジウムをおおよそ、又は正確にX重量%含有する合金とは、レニウム、ルテニウム、及び/又はロジウムの重量割合の合計が、合金全体の重量のX重量%の対応するパーセンテージを構成することを意味する。
【0046】
更に、パラジウム-銅-銀合金は、最大1重量%のレニウムを含有し、パラジウム-銅-銀合金は、好ましくは0.1重量%未満のロジウムを含有し、特に好ましくは、1重量%超、最大2重量%のルテニウム及び0.1重量%~1重量%のレニウム、より特に好ましくは少なくとも1.1重量%、最大1.5重量%のルテニウム及び0.2重量%~0.8重量%のレニウム、特に好ましくは1.1重量%のルテニウム及び0.4重量%のレニウムを含有することが規定され得る。
【0047】
ここで、パラジウム-銅-銀合金は、好ましくは、1重量%超、最大6重量%のルテニウムを含有する。
【0048】
これらのパラジウム-銅-銀合金は、驚くべきことに、少なくとも25% IACS(14.5×106S/m)の特に高い実験導電率と、同時に365HV1の高い硬度とを有する。パラジウム-銅-銀合金の粒界におけるルテニウム-レニウム析出物がこの原因であると考えられる。
【0049】
更に、パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム、ロジウム、レニウム、又はルテニウム、ロジウム、及びレニウムから選択される元素の2つの混合物、又はルテニウム、ロジウム、及びレニウムの混合物の析出物を含有し、好ましくは析出物の少なくとも90体積%がパラジウム-銅-銀合金の粒界に配置され、特に好ましくは析出物の少なくとも99体積%がパラジウム-銅-銀合金の粒界に配置されることが規定され得る。
【0050】
これにより、破壊強度及び変形抵抗などの機械的特性が向上する。その結果、パラジウム-銅-銀合金をプローブ針としてより良好に使用することができる。
【0051】
また、不純物は、合計でパラジウム-銅-銀合金中に最大0.9重量%の割合、好ましくはパラジウム-銅-銀合金中に最大0.1重量%の割合を有することが規定され得る。
【0052】
これは、パラジウム-銅-銀合金の物理的特性が不純物によって影響を受けないか、又は可能な限り影響を受けないことを確実にする。
【0053】
複数の元素の混合物は、好ましくは、これらの元素すべての少なくとも0.1重量%がパラジウム-銅-銀合金中に含有される混合物を意味すると理解される。
【0054】
また、パラジウム-銅-銀合金は、ルテニウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を最大6重量%、好ましくはルテニウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1重量%~6重量%、特に好ましくはルテニウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を1重量%~6重量%含有することが規定され得る。
【0055】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも1体積%のB2結晶構造を有する結晶相、好ましくは少なくとも2体積%のB2結晶構造を有する結晶相、特に好ましくは少なくとも5体積%のB2結晶構造を有する結晶相を含有することが規定され得る。
【0056】
更に、B2結晶構造を有する結晶相は、少なくとも6重量%の銀含有量を有することが規定され得る。
【0057】
これらの銀含有量を有するB2結晶構造を有する結晶相の形成は、特に、最大500℃又は更に400℃未満の温度での温度処理の場合に驚くべきことである。
【0058】
B2結晶構造を有する結晶相は、少なくとも7重量%の銀含有量、好ましくは少なくとも8重量%の銀含有量、特に好ましくは少なくとも9重量%の銀含有量、より特に好ましくは少なくとも10重量%の銀含有量を有することが規定され得る。
【0059】
B2結晶構造を有する結晶相は少なくとも40重量%、最大58重量%のパラジウム及び少なくとも25重量%、最大42重量%の銅、好ましくは少なくとも41重量%、最大56重量%のパラジウム及び少なくとも26重量%、最大42重量%の銅を有することが規定され得る。
【0060】
B2結晶構造を有する結晶相は、温度処理によって、好ましくは250℃~500℃の温度で少なくとも1分間焼き戻しすることによって生成されてもよく、特に好ましくは、焼き戻し後、パラジウム-銅-銀合金は、500℃超の温度で更なる温度処理を受けないことが規定され得る。
【0061】
B2結晶構造を有する結晶相は、300℃~450℃の温度で少なくとも2分間焼鈍することによって生成され、好ましくは300℃~450℃の温度で少なくとも2分間焼鈍することによって生成され、特に好ましくは300℃~450℃の温度で少なくとも2分間焼鈍することによって生成され、より特に好ましくは350℃~400℃の温度で少なくとも3分間焼鈍することによって生成されることが規定され得る。
【0062】
B2結晶構造を有する結晶相は、好ましくは375℃~385℃で1時間~2時間の温度処理によって生成されず、特に好ましくは380℃で1.5時間の温度処理によって生成されない。
【0063】
また、B2結晶構造を有する結晶相は、温度処理後、特に焼き戻し後、又は焼鈍後にパラジウム-銅-銀合金を急冷することによって得られることも規定され得る。
【0064】
急冷は、好ましくは、少なくとも10℃/秒の冷却速度で少なくとも250℃の温度範囲にわたって行われる。
【0065】
更に、パラジウム-銅-銀合金は、複数回の熱処理及び複数回の圧延によって成形及び硬化されてもよく、熱処理は好ましくは700℃~950℃の温度で行われ、急冷は熱処理後に行われ、熱処理中にパラジウム-銅-銀合金の溶融は行われないことが規定され得る。
【0066】
急冷は、好ましくは、少なくとも10℃/秒の冷却速度で少なくとも400℃の温度範囲にわたって行われる。
【0067】
更に、パラジウム-銅-銀合金は、溶融冶金によって製造され、その後、圧延及び焼き戻しによって硬化されてもよく、好ましくは、少なくとも380HV0.05の硬度を有することが規定され得る。
【0068】
その結果、パラジウム-銅-銀合金の硬度を向上させることができる。
【0069】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも380HV0.05の硬度を有することが規定され得る。
【0070】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも22% IACS(12.8*106S/m)の導電率、好ましくは少なくとも25% IACS(14.5*106S/m)の導電率、特に好ましくは少なくとも26% IACS(15.1*106S/m)の導電率を有することが規定され得る。
【0071】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも1300MPaの引張強度を有することが規定され得る。
【0072】
これらの物理的特性を有するパラジウム-銅-銀合金は、本発明によるルテニウム及びロジウムの添加によって可能であり、プローブ針の製造に特に適している。
【0073】
また、好ましくは、パラジウム-銅-銀合金は、最大2μmの平均粒径を有することも規定され得る。
【0074】
好ましくは、パラジウム-銅-銀合金は、最大1.5μmの平均粒径、好ましくは最大1μmの平均粒径を有することが規定され得る。
【0075】
特に好ましくは、パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも0.01μmの平均粒径、好ましくは少なくとも0.05μmの平均粒径、特に好ましくは少なくとも0.1μmの平均粒径を有することが規定され得る。
【0076】
平均粒径は、DIN EN ISO 643:2019,修正版2020-03ドイツ版ISO 643:2020 from June 2020に従って又は類似して決定され、ここで、横断面のラインカットセグメントの平均値が決定される。この場合、パラジウム-銅-銀合金は鋼ではないが、試料調製は規格に記載されているように行われる。エッチング方法は、パラジウム-銅-銀合金の粒子の粒界が可能な限り良好に見えるように、パラジウム-銅-銀合金の耐薬品性に適合させることができる。パラジウム-銅-銀合金が製造中に圧延された場合、試験される横断面は、ローラによって加えられる力に平行に切断され、研削及び研磨される。
【0077】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも0.01μm、最大2μmの平均粒径、好ましくは少なくとも0.05μm、最大1.5μmの平均粒径、特に好ましくは少なくとも0.1μm、最大1μmの平均粒径を有することが規定され得る。
【0078】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも0.01μm、最大2μmの平均粒径、好ましくは少なくとも0.05μm、最大2μmの平均粒径、特に好ましくは少なくとも0.1μm、最大2μmの平均粒径を有することが規定され得る。
【0079】
パラジウム-銅-銀合金は、少なくとも0.1μm、最大2μmの平均粒径、好ましくは少なくとも0.1μm、最大1.5μmの平均粒径、特に好ましくは少なくとも0.1μm、最大1μmの平均粒径を有することが規定され得る。
【0080】
好ましい発展形態によれば、パラジウム-銅-銀合金は、5体積%未満の銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物、好ましくは2体積%未満の銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物、特に好ましくは1体積%未満の銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物を有し、より特に好ましくは銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物の析出物を有しないことが規定され得る。割合を体積%で指定するとは、銀の析出物及びパラジウムの析出物及び銀-パラジウム二元化合物の析出物の合計が、指定された体積割合未満であることを意味する。
【0081】
これにより、パラジウム-銅-銀合金の高い導電率と同時に高い破壊強度が達成される。
【0082】
また、パラジウム-銅-銀合金は、5体積%未満の銀析出物、好ましくは2体積%未満の銀析出物、特に好ましくは1体積%未満の銀析出物を有することも規定され得る。
【0083】
銀析出物とは、この場合、少なくとも95重量%の銀、好ましくは少なくとも99重量%の銀からなる析出物を意味すると理解される。
【0084】
また、パラジウム-銅-銀合金は、5体積%未満のパラジウム析出物、好ましくは2体積%未満のパラジウム析出物、特に好ましくは1体積%未満のパラジウム析出物を有することも規定され得る。
【0085】
パラジウム析出物とは、この場合、少なくとも95重量%のパラジウム、好ましくは少なくとも99重量%のパラジウムからなる析出物を意味すると理解される。
【0086】
また、パラジウム-銅-銀合金は、5体積%未満の銀-パラジウム析出物、好ましくは2体積%未満の銀-パラジウム析出物、特に好ましくは1体積%未満の銀-パラジウム析出物を有することも規定され得る。
【0087】
銀-パラジウム析出物とは、この場合、少なくとも95重量%の銀及びパラジウム、好ましくは少なくとも99重量%の銀及びパラジウムからなる析出物を意味すると理解される。
【0088】
本発明の根底にある目的は、前述のパラジウム-銅-銀合金からなる成形体によっても達成され、当該成形体は、好ましくは、任意の底面を有する略円筒の形状、又は任意の底面を有するコイル様の略円筒の形状を有し、特に好ましくは、略円筒の高さは、略円筒の底面のすべての寸法よりも大きく、より特に好ましくは、底面の最小断面は、最大500μmであり、底面の最大断面は、最大10mmである。
【0089】
成形体は、その表面上の少なくとも領域においてコーティングされ得る。
【0090】
したがって、成形体は、円筒形状(適用可能な場合、製造の結果としてのいくつかを除いて、略円筒の形状)を有する。略円筒の形状は、ワイヤ片又はストリップ片として更に加工するのに特によく適している。幾何学的には、略円筒の形状は、任意の底面を有する円筒を意味すると理解され、すなわち、円形の底面を有する円筒だけではない。したがって、成形体の半径方向側面は、任意の底面、特に異なる形状の底面、すなわち非円形及び丸みを帯びていない底面、例えば長方形又は楕円形の底面を有するシリンダのシリンダジャケットによって実現することができる。しかしながら、本発明によれば、丸みを帯びた若しくは円形の断面を有するワイヤ又は長方形の断面を有する平坦なストリップが更に加工するのに最も簡単であるので、成形体のための回転対称で特に円形の底面又は幅の広い長方形の底面を有する円筒形状が好ましい。ストリップとしての実施形態において、略円筒の底面は、略円筒の底面の厚さよりも少なくとも5倍大きい幅を有することが好ましく、略円筒の底面は、略円筒の底面の厚さよりも少なくとも20倍大きい幅を有することが特に好ましく、略円筒の底面は、略円筒の底面の厚さよりも少なくとも50倍大きい幅を有することがより特に好ましい。
【0091】
最小断面は、表面(ここでは略円筒の底面の縁部)の2つの平行な接線間の距離として定義され、可能な限り最小の距離を有する接線が選択される。最大断面は、表面(ここでは略円筒の底面の縁部)の2つの平行な接線間の距離として定義され、可能な最大距離を有する接線が選択される。丸みを帯びた底面の場合、この定義は測定スライドの測定原理に対応するが、狭窄部の場合には測定スライドの測定原理から逸脱する。
【0092】
そのようなパラジウム-銅-銀合金でできたワイヤ、ストリップ、及びプローブ針は、それらの高い硬度、弾性、及び導電性のため、電気的コンタクト測定に特によく適している。
【0093】
成形体はワイヤ又はストリップであってもよく、ワイヤ又はストリップは好ましくはコイルとして巻かれていることが規定され得る。厳密に言えば、成形体はもはや正確には円筒形ではなく、円筒から得られた成形体である。しかしながら、本発明の意味において、そのような幾何形状は、たとえそのような逸脱があっても、依然として円筒として理解されるべきである。したがって、幾何学的仕様は、数学的に正確であると理解されるべきではない。
【0094】
本発明の根底にある目的は、前述のパラジウム-銅-銀合金からなるプローブ針又は摺動コンタクトワイヤによっても達成され、当該プローブ針又は摺動コンタクトワイヤは、好ましくは、少なくとも部分的に、任意の底面を有する略円筒の形状、又は任意の底面を有する湾曲した略円筒の形状を有し、特に好ましくは、底面の最小断面は最大500μmであり、底面の最大断面は最大10mmであり、及び/又はプローブ針がカードに取り付けられ、一端で電気的に接触され、他端が自由に浮動するように取り付けられ、又は摺動コンタクトワイヤが電気的コンタクトに取り付けられ、一端で電気的に接触され、他端が自由に浮動するように取り付けられる。
【0095】
本発明の根底にある目的はまた、そのようなパラジウム-銅-銀合金、そのような成形体、又はそのような成形体の一部を、電気的コンタクトを試験するために、又は電気的に接触させるために、又は摺動コンタクトを製造するために使用することによって達成される。
【0096】
これらの用途のために、本発明によるパラジウム-銅-銀合金、並びにそれらから製造される成形体、ワイヤ、ストリップ、及びプローブ針が特によく適している。
【0097】
本発明の根底にある目的は、パラジウム-銅-銀合金の製造方法によっても達成され、この方法は、以下の経時的なステップを特徴とする:
A)任意選択的に、パラジウムを、ルテニウム、ロジウム、及びレニウムのリストから選択される少なくとも1種の元素と、パラジウムのルテニウム、ロジウム、及びレニウムのリストから選択される少なくとも1種の元素に対するモル比が少なくとも3:1になるように溶融することによってプレアロイ化(予備合金化)して、パラジウムプレアロイ(予備合金)を生成するステップ;
B)真空中及び/又は保護ガス下での溶融及び凝固によって、パラジウム又はパラジウムプレアロイを銅及び銀と合金化するステップであって、少なくとも40重量%、最大58重量%のパラジウム又は少なくとも40重量%、最大64重量%のパラジウムプレアロイ、少なくとも25重量%、最大42重量%の銅、及び少なくとも6重量%、最大20重量%の銀を秤量するステップ;
C)750℃超の温度で少なくとも10分間焼鈍し、続いて急冷し、続いて圧延することによって処理を繰り返すステップ;
D)最大100μmの最終的な厚さを達成するために圧延するステップ;
E)250℃~600℃の温度で少なくとも1分間の最終的な焼鈍を行うステップ。
【0098】
溶融及び凝固が真空中及び保護ガス下で行われる場合、金属の加熱の少なくとも一部は、好ましくは真空下で行われ、溶融及び凝固は保護ガス下で行われる。
【0099】
ステップC)における焼鈍は、パラジウム-銅-銀合金の溶融温度未満の温度で行われなければならない。
【0100】
パラジウムプレアロイを秤量する場合、パラジウムの秤量部分の決定において、パラジウムプレアロイ中のパラジウム含量が100重量%未満であることに注意しなければならない。したがって、パラジウムの所望の秤量割合を達成するために、パラジウムプレアロイのより大きな重量割合を秤量しなければならない。ルテニウム、ロジウム、及びレニウムのリストから選択される少なくとも1種の元素の割合は、自動的に生じ、したがって、ステップA)におけるパラジウムプレアロイの製造中に既に設定されていなければならない。
【0101】
ステップB)において、少なくとも1.05、最大1.6の、銅に対するパラジウムの重量比及び、少なくとも3、最大6の、銀に対するパラジウムの重量比が秤量されることが規定され得る。
【0102】
更に、ステップB)における溶融は、誘導溶融又は真空誘導溶融によって行われることが規定され得る。
【0103】
更に、ステップB)において、希ガス、特にアルゴンが、好ましくは10mbar~100mbarの分圧で保護ガスとして使用されることが規定され得る。
【0104】
また、ステップB)において、凝固は、銅製永久鋳型、特に冷却されていない銅製永久鋳型において鋳造することによって行われて、鋳造前の溶融物の温度は、好ましくはパラジウム-銅-銀合金の溶融温度より100℃未満高いことが規定され得る。
【0105】
更に、ステップC)における急冷を水中で行うことが規定され得る。
【0106】
また、ステップC)における焼鈍は、850℃~950℃の温度、好ましくは900℃の温度で実行されることが規定され得る。
【0107】
更に、ステップE)における最終的な焼鈍は、300℃~450℃の温度で、好ましくは360℃~400℃の温度で行われることが規定され得る。
【0108】
ステップC)において、焼鈍が0.5時間~2時間にわたって行われること、及び/又は焼鈍が還元性雰囲気中で、特に一酸化炭素下で行われることが規定され得る。
【0109】
ステップC)における圧延中に、10%~80%の再成形、好ましくは40%~60%の再成形が行われることが規定され得る。
【0110】
X%の再成形とは、圧延中に、パラジウム-銅-銀合金の断面積が、断面積の少なくともX%に減少することを意味する。
【0111】
ステップE)において、最終的な焼鈍は、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも2分間、特に好ましくは少なくとも5分間行われることが規定され得る。
【0112】
ステップE)における最終的な焼鈍は、好ましくは、375℃~385℃で1時間~2時間の温度処理によってではなく、特に好ましくは380℃で1.5時間の温度処理によって行われる。
【0113】
ステップA)において、プレアロイ化は、還元性雰囲気中、好ましくはCO雰囲気中で行われることが規定され得る。
【0114】
本発明は、B2結晶構造を有する本発明によるパラジウム-銅-銀合金が、より多量(10体積%超)の銀、パラジウム、及び銀-パラジウム二元化合物が析出物として生成されることなく、驚くほど高い銀含有量でも形成されるという驚くべき知見に基づく。そのようなパラジウム-銅-銀合金では、高い導電性を高い硬度と組み合わせることができる。同時に、パラジウム-銅-銀合金は製造が簡単である。本発明による合金から製造された成形体、ワイヤ、ストリップ、摺動コンタクト及びプローブ針は、対応する有利な特性を有する。従来技術及び三元Cu-Ag-Pd相図に関する試験からは、B2結晶構造を有し、銀、パラジウム及び銀-パラジウム二元化合物の析出物を有しない合金が、高い銀含有量でも得られることは予想できず、この合金は、プローブ針及び摺動コンタクトに対して有利なそのような方法で、驚くべき有利な物理的特性の組み合わせをもたらす。
【0115】
ルテニウムを有するパラジウム-銅-銀合金が製造され、測定される場合、27%及び28% IACSの導電率を達成することさえ可能であった。驚くほど高い硬度を達成することができた。
【0116】
本発明によれば、27% IACS以上の導電率が可能である。100% IACSは58m/(ohm mm2)に相当する。
【0117】
パラジウム-銅-銀合金の合金成分としてのルテニウム又はロジウムの使用は、レニウムの使用と比較して、これらの元素の化学的性質の違いから驚くべきことである。レニウムと比較して、ロジウム及びルテニウムは、周期表の異なる主族及び異なる周期の両方に位置し、これは、第一近似において、非常に異なる特性及び異なる合金化挙動を意味する。ロジウム及びルテニウムは白金族金属であるが、レニウムはマンガン族に属し、これが特性の類似性が期待されない理由である。レニウムは六方晶構造を有し、ロジウムは面心立方晶である。
【0118】
ルテニウムは、レニウムよりも銀への溶解度が低い(レニウムの1.44×10-3と比較して、ルテニウムの場合2.65×10-4である)。これは、本発明によるパラジウム-銅-銀合金の導電性にプラスの影響を及ぼすはずである。更に、1.1重量%~1.5重量%のルテニウムを有するパラジウム-銅-銀合金の電子顕微鏡試験において、結晶粒界におけるルテニウム析出物が見出された。それらは、析出硬化によってパラジウム-銅-銀合金のより高い硬度をもたらすことができる。
【0119】
本発明によるB2結晶構造を有するパラジウム-銅-銀合金は、高い硬度、良好なバネ特性、及び同時に良好な導電性を特徴とする。したがって、プローブ針の製造用材料としての使用が予定されている。B2結晶構造の超構造へのより大きな割合の銀の組み込みは、パラジウム-銅-銀合金の導電性を改善したようであり、そのような銀含有量では、B2結晶構造の割合が全く又はごくわずかしか期待できなかった。特に、パラジウム-銅-銀合金において実際に予想されていた銀-パラジウム析出物は、驚くべきことに消失しており、その結果、対応するパラジウム-銅-銀合金の硬度及びバネ特性は、三元Cu-Ag-Pd相図に関する先行技術からの知見に基づいて実際に予想されていたものよりも良好である。
【0120】
パラジウムと銅の重量比(1.05~1.6)の場合、小さい平均粒径を有するB2結晶構造を有するパラジウム-銅-銀合金は、対応する熱処理及び圧延によって薄く設定することができる。パラジウム原子及び銅原子の規則的なB2結晶構造は、小さな平均粒径と共に、パラジウム-銅-銀合金の硬度及び導電性の両方を増加させる。パラジウム対銀の比で銀を添加することにより、析出硬化による強度の更なる増加が可能になる。ルテニウム、ロジウム、レニウム、又はそれらの混合物を1重量%~6重量%の順に添加し、圧延して薄層を形成することは、驚くべきことに、B2結晶構造を有するパラジウム-銅-銀合金の特に低い平均粒径の形成に寄与し、これは、パラジウム-銅-銀合金の硬度及び再成形性にプラスの影響を与える。更に、おそらく好ましくは粒界に配置されるルテニウム、ロジウム、レニウム又はそれらの混合物は、動作温度での粒成長及びクリープを防止する。これは、それから製造されるプローブ針のより長い耐久性をもたらす。400HVを超える硬度を有する27%~30% IACSにおいて、達成される導電率は、プローブ針としての使用に特に適している。したがって、ルテニウムを含む本発明によるパラジウム-銅-銀合金の物理的特性はまた、導電性及び硬度に関して、Deringer Ney社製のPaliney(登録商標)25のものよりも良好である。
【0121】
本発明の例示的な実施形態が以下に説明されるが、本発明を限定するものではない。
【0122】
以下に記載するパラジウム-銅-銀合金は、最初に誘導溶融によってプレアロイを製造することによって製造した。製造されたプレアロイは、パラジウム-ルテニウム、パラジウム-レニウム、及びパラジウム-ロジウムプレアロイであった。元素パラジウム、ルテニウム及びロジウムが、互いにあまり大きく異ならない溶融温度及び密度を有することにより、プレアロイの製造は、いかなる問題もなく、多大な労力を要することなく、費用効果的に可能である。
【0123】
続いて、これらのプレアロイを真空誘導溶融によって銅及び銀と合金化した。溶融るつぼを低温で装入し、真空チャンバを閉じ、露点が-55℃未満になるまでポンプダウンする。一方、材料は予熱されるが、まだ溶融されていない。露点に達したら(約30分後)、50mbarのアルゴン分圧を真空チャンバに適用し、材料を溶融する。分圧は、銀が蒸発して合金組成が変化するのを防止するために必要である。鋳造は、比較的低温(合金の融点より約50K高い)で、冷却されていないCu製永久鋳型内で行われる。インゴットの鋳肌は、フライス加工又は他の方法によって除去することができる。
【0124】
その後、このようにして溶融されたインゴットは、熱処理及び圧延によって成形及び硬化される。この目的のために、インゴットを、CO雰囲気中900℃で60分間2回、45分間1回焼き戻しし、水中で急冷した。その間に、圧延による60%及び更に50%の再成形が行われた。更に、そのような焼鈍及び圧延ステップが続いて行われる。ここで、最後のステップとして、材料は20μm~100μmで圧延され、続いて380℃で少なくとも4分間保管され、その結果、硬化効果が生じ、良好な導電性が達成される。
【0125】
続いて、導電率を4点測定で決定した。4点測定法(4点測定又は4チップ測定とも呼ばれる)は、シート抵抗、すなわち表面又は薄層の電気抵抗を決定する方法である。この方法では、4つの測定チップが一列になって箔の表面上に運ばれ、既知の電流が2つの外側測定チップ上を流れ、電位差、すなわち2つの内側測定チップ間の電圧がこれらの2つの内側測定チップで測定される。この方法は4導体測定の原理に基づいているので、測定チップと表面との間の境界抵抗とはほとんど無関係である(トムソンブリッジ原理)。隣接する測定チップは、それぞれ同じ距離を有する。シート抵抗Rは、測定された電圧U及び電流Iから次式に従って得られる:
【数2】
【0126】
シート抵抗Rから層材料の比抵抗ρを計算するために、シート抵抗に箔の厚さd(層厚さ)を乗算する:
ρ=dR
【0127】
導電率は、比抵抗の逆数から得られる。
【0128】
硬度は、HV0.05、DIN EN ISO 6507-1:2018~-4:2018によるビッカース硬度試験に従って、0.490N(0.05キロポンド)の試験荷重で実施する。強度は引張試験によって調べ、微細構造は金属組織断面によって調べた。
【0129】
平均粒径は、DIN EN ISO 643:2019,修正版2020-03ドイツ版ISO 643:2020 from June 2020に従って又は類似して決定され、ここで、横断面のラインカットセグメントの平均値が決定される。この場合、パラジウム-銅-銀合金は鋼ではないが、試料調製は規格に記載されているように行われる。エッチング方法は、パラジウム-銅-銀合金の粒子の粒界が可能な限り良好に見えるように、パラジウム-銅-銀合金の耐薬品性に適合させることができる。パラジウム-銅-銀合金が製造中に圧延された場合、試験される横断面は、ローラによって加えられる力に平行に切断され、研削及び研磨される。
【0130】
透過型電子顕微鏡試験(TEM試験)のための試料の調製のために、Zeiss Crossbeam 540 XB(Zeiss GmbH社、ドイツ国オーバーコッヘン)を、Gemini2電子カラム及びGa+イオンを有するCapella集束イオンビーム(FIB)と組み合わせて使用した。試験のために、最初に2μm厚のPt保護層を表面に適用することによって試料を調製した。次いで、その場で、圧延方向に垂直な1μmの厚さ(長さ15μm及び最大10μmの高さ)を有するラメラのリフトアウト及びMo TEMグリッド(モリブデンTEM格子)への転写を行った。これに続いて、TEMラメラが電子に対して完全に半透明になるまで、FIBで薄化する。この目的のために、FIB電流の加速電圧及びアンペア数の両方を連続的に減少させる(30kVから10kV及び5kVへ;300pAから段階的に10pAへ)。次いで、最終的な厚さを100nm未満に設定したが、これは、そうでなければ箔が半透明ではなくなるからである。回折画像は、Philips CM200 TEMを用いて200kV加速電圧で記録した。
【0131】
二重収差補正FEI Titan3 Themis 80-300について、加速電圧300kVで透過型電子顕微鏡試験を行った。試料を、FEI製の薄型ダブルチルトホルダに取り付け、これは、とりわけ、散乱放射線を最小限に抑えたエネルギー分散型X線分光法(EDXS)測定を可能にする。STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy:走査透過型電子顕微鏡)モードでは、撮像のために固体検出器(シリコン半導体検出器)が使用され、これらの固体検出器は、互いに対して環状且つ同心円状に配置され、特定の散乱角度範囲で散乱電子の信号を積分測定する。
【0132】
ナノ回折モードでは、回折像は平行照明条件下で生成されず、むしろ試料に衝突する電子ビームは収束するように設定される(小さい収束角、ここでは収束角の半分に対して0.36mrad)。使用されるTEM(FEI Titan)は、ローレンス・バークレー国立研究所(米国カリフォルニア州バークレー市)のMolecular Foundry nanoscience user facilityからの特別なコンデンサー絞りを備えており、このコンデンサー絞りをこれらの測定に使用した。試料の一点に収束する電子ビームの結果として、回折画像は、正確にこの試料位置から記録することができる。収束ビームに起因して、回析点の代わりに、対応する角直径を有するディスクが回析画像において見られ得る。回折画像を、Cetaカメラ(4096×4096ピクセルCMOSセンサー;物理ピクセルサイズ14×14pm2;露光時間12.5~1000ms;選択された解像度512×512~2048×2048ピクセル)で記録した。
【0133】
定義された試料領域がSTEMモードにおいてこれらの条件下で走査される場合、STEM検出器及びカメラ長の選択を使用して、これらの反射のうちのどれが(それらの回折角に基づいて)画像に寄与するかを正確に設定することができる。この場合、115mm又は145mmのカメラ長で、DF2検出器(暗視野検出器、DF4検出器によって遮蔽される)を使用して、基本反射ではなく、専ら上部構造反射である反射の内側リングを分離することが可能であった。したがって、この回折反射を伴う上部構造を有する領域のみが、これらのSTEM画像に現れる。
【0134】
STEMモードでエネルギー分散型X線分光(EDXS)を追加的に実行するために、4つの検出器セグメントからなるX線検出器システムSuperXG2を使用し、これらの検出器セグメントは、関連する象限において試料の上方の全周に配置されている。STEMとの組み合わせは、各走査されたピクセルについて別個のX線スペクトルを記録し、ひいては元素分布マップを作成することを可能にする。4つすべての検出器セグメントをこの記録のために作動させ、検出のエネルギー範囲を5eVの分散で20keVに設定した。合計約125分の記録期間中に、145フレーム(解像度780×642ピクセル)が記録され、100psのピクセル当たりの滞留時間に対して、フレーム当たりの記録持続時間は51.4秒であった。データセットは、超構造(DF2において明るい)を有する領域との相関を可能にするために、ナノ回折条件下で記録された。
【0135】
原子パーセント(at%)での元素濃度は、モデル化された元素ピーク及びバックグラウンド信号が測定されたスペクトルに適合される自動スペクトル適合によって定量化された。この場合、各要素のデフォルト設定(ライン/ファミリー)を使用し、経験的バックグラウンド補正を選択した;データは、定量化の前に4ピクセル平均フィルタで空間的にプレフィルタリングし、定量化の後に同様に4ピクセル平均フィルタでポストフィルタリングした。他のすべての設定はデフォルト値のままとした。
【0136】
試料組成の定量化のために、合金中で予想される元素(Cu、Ru、Pd、Ag)を選択した。測定されたスペクトルをデコンボリュートするために、これらの元素に加えて、スペクトルにおいてアーチファクトを潜在的に引き起こすが、合金自体に由来しない更なる元素を考慮に入れた:有機汚染/酸化(C、O);試料ホルダに使用されるスペーサリング(Al);半導体検出器の材料(Si);TEMカラム中の成分(Fe);FIBラメラ調製中のイオン注入/材料堆積(Ga、Pt);ラメラ(Mo)を保持するTEMグリッド。したがって、これらの元素は、スペクトル適合において考慮されるが、それらの濃度が0であると仮定される試料組成の計算においては考慮されない。
【0137】
すべてのTEMデータを、Veloxソフトウェア(バージョン3.3.0.885-810c504366)を使用して評価した。これは、画像領域の選択、画像における距離の測定、輝度/コントラストの調整、元素濃度の定量化、及び適用可能な場合にはデータバーを有する8/16ビットTIFFファイルとしてのエクスポートを含む。
【0138】
更に、ソフトウェアJEMS(Java Electron Microscopy Software,version 4.8330U2019b20)を使用して、B2結晶構造及びリングパターンの予想される回折像をシミュレートした。この目的のために、まず、原子位置をCu又はPdで満たし、格子定数をa=0.2977nmに設定するB2結晶構造に基づいて単位格子を最初に生成した。その回折画像を、「Draw diffraction pattern」機能を用いて異なるゾーン軸において生成し、実験のものと比較した。実験回折像における2つの回折点とシミュレーションにおける対応する点とに基づいて、各事例で商法に基づく定量的な比較を行った。ゼロビームに対する二点間の角度(常に90°)とゼロビームまでの距離の商とが十分に一致する場合、これはゾーン軸が一致することを示す。
【0139】
前述の方法に従って、51.5重量%のパラジウム、36.5重量%の銅、10.5重量%の銀、及び1.5重量%のルテニウムの組成を有するパラジウム-銅-銀合金(Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5合金)を製造し、20μm~100μmまで圧延した。更に、合金は、0.1重量%未満の濃度の通常の不純物を含有する。その後、合金を380℃で4分間保管するか(SHT、短熱処理)、3時間保管するか(LHT、長熱処理)、又は溶体化焼鈍し、380℃で保管しなかった(SA、溶体化焼鈍)。3つの異なるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5合金(SHT、LHT、SA)を試験したが、これらは、380℃での焼き戻しの持続時間が異なり、すなわち、380℃ではなく4分間、3時間焼き戻した。したがって、380℃で焼き戻しされていないPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SA合金では、750℃を超える温度(本事例では900℃)を最後の温度処理として使用した。
【0140】
このようにして製造されたPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SHT及びLHT合金は、27%IACS(15.7×106S/m)の導電率及び380HV0.05の硬度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0141】
Pd-Cu-Ag合金について得られた測定結果を12の図を参照して以下に説明する。図は以下を示す。
【
図1】最終的に380℃で4分間保管されたPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SHT合金の265mmカメラ長での電子回折画像であり、対応する角度で予想されるB2結晶構造(CuPd)及びfcc構造(Cu)の回折反射がリングとして描かれている。
【
図2】最終的に380℃で3時間保管されたPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の265mmの電子回折像であり、対応する角度で予想されるB2結晶構造(CuPd)及びfcc構造(Cu)の回折反射がリングとして描かれている。
【
図3】最終的に焼鈍されておらず、したがって最終的に溶体化焼鈍されており、B2結晶構造を有していないPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SA合金の1680mmカメラ長の電子回折像であり、対応する角度で予想されるfcc構造(Cu)の回折反射が描かれている。
【
図4】
図2及び3によるLHT及びSA合金のXRD分析である。
【
図5】
図3によるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の粒子の収束電子ビームによる203ゾーン軸の方向のナノ回折像であり、そこから格子パラメータが決定されている。
【
図6】
図3によるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の粒子の収束電子ビームによる102ゾーン軸の方向のナノ回折画像であり、そこから格子パラメータが決定されている。
【
図7】
図3によるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の銀(Ag)のEDXマッピングによって得られた元素分布図である。
【
図8】
図7と同じ画像部分におけるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金のルテニウム(Ru)のEDXマッピングによって得られた元素分布図である。
【
図9】
図7と同じ画像部分におけるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金のパラジウム(Pd)のEDXマッピングによって得られた元素分布図である。
【
図10】
図7と同じ画像部分におけるPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の銅(Cu)のEDXマッピングによって得られた元素分布図である。
【
図11】
図7~
図10で走査されたPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の領域上の電子顕微鏡STEM画像である。
【
図12】B2構造の反射特性を有する
図2によるLHT合金のXRD分析である。
【0142】
STEM試験の電子回折像の反射又はリングは、2つのPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SHT及びLHT合金においてB2結晶構造が形成されることを示している(
図1及び
図2を参照)。B2結晶構造(CuPd)でモデル化されたB2結晶構造のリングは、左を指す白い矢印でマークされている。fcc構造(Cu)と仮定されモデル化された別の構造のリングは、右を指す白い矢印でマークされている。B2構造はCsCl構造に対応し、この理由のためだけに、CuPdに加えてこの一般名称(CsCl)を
図1及び2で使用した。もちろん、LHT及びSHT合金中にCsClは予想されない。更に、EDXSマッピング(
図7~10を参照)によって後で確認することができたように、銅及びパラジウムに加えて銀及び少量のルテニウムも更に含有するB2結晶構造であるにもかかわらず、CuPdという名称のみをモデリングに使用した。fcc構造も銅の構造のみでモデル化されており、純銅ではない。一方、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SA合金では、B2結晶構造は見ることができない(
図3を参照)。fcc構造(Cu)と仮定され、それに従ってモデル化された他の構造のみがそこに見出された。fcc構造のリングは、
図3において右を指す白い矢印でマークされている。SHT及びLHT試料の発見されたリングは、B2結晶構造によって計算されたリングによって主に識別することができ(左を指す白い矢印を参照)、これは、長時間焼き戻しされたPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5合金(LHT)において最も明確に見ることができる(
図2を参照)。
【0143】
Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金では、実験的に観察されたリングの一部がB2結晶構造によって覆われていないので、B2結晶構造に加えて、1つ以上の他の相、特にfcc構造と想定される相も見ることができる。外因性相は面心立方構造(fcc)を有することができる。B2結晶構造に帰することができないリングはすべて非常に弱いので、他の相(場合によってはfcc)の小さな割合のみが測定された部分に存在する。
【0144】
Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金におけるB2結晶構造は、
図4及び
図12によるXRD試験においても見ることができる(対応する反射は矢印でマークされている)が、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SA合金はB2結晶構造を示さない(反射はそこでは完全に欠落している、
図4を参照)。
図4は、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 SA合金(
図4では、わずかに高い角度2θで右に変位)及びLHT合金(
図4では、わずかに低い角度2θで右に変位)のX線回折図を示す。LHT合金において、面心立方結晶構造を有する外因性相の割合は、主成分として見ることができる。SA合金は、専らこの面心立方結晶構造を示す。
図12は、分離されたPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金のXRD画像を示し、B2結晶構造に典型的な反射と共に示され、B2結晶構造に典型的な反射は、
図12において矢印によってマークされている。
図12に見られるB2結晶構造の反射は、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金中のB2結晶構造の割合が1体積%よりも著しく大きく、5体積%よりも大きいという結論を可能にする。
【0145】
TEMによって、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金中のB2結晶構造の粒子を、収束電子ビームを用いて測定した(B2結晶構造の結晶格子の異なるゾーン軸を示す
図5及び6を参照)。回折パターンは、B2結晶構造が予想されるSTEM画像の明るい領域における異なるゾーン軸(ZA)において記録された。
図5及び6に描かれているすべての電子回折像及び計算された格子間隔は、B2結晶構造と一致する。これは、実験パターンを商法に基づく関連シミュレーションと比較することによって理解することができる。この種の方法は、文献から当業者に知られている(例えば、「Werkstoffkunde Grundlagen Forschung Entwicklung」[「Materials Science,Basics,Research,Development」by Prof.Dr.Eckard Macherauch and Prof.Dr.Volkmar Gerold(Vieweg Verlag)-Vol.1:「Einfuhrung in die Elektronenmikroskopie Verfahren zur Untersuchung von Werkstoffen und anderen Festkorpern」[「Introduction to electron microscopy methods for examining materials and other solids」]by Manfred von Hemendahl(1970),Chapter 3.5.「Methode der Quotienten von R
n」[「Method of quotients of R
n」](page 91 et seqq.)及び「Cu-Pd(Copper-Palladium)P.R.Subramanian,D.E.Laughlin,Phase Diagram Evaluations:Section II,page 236,Table 7「Lattice Parameters of Ordered CsCl-Type CuPd」by[39Jon]-->50.0%=0.2977,Journal of Phase Equilibria Vol.12,No.2,1991)。カソードルミネッセンス(CL)の正確な較正は、ここでは重要ではない。なぜなら、ここでは、2つの測定された相互距離の比のみが重量だからである。測定されたすべての距離対の間の角度は90°である。シミュレーションのカメラ長(すなわち「倍率」)は1:1に較正されなかったので、格子パラメータの絶対値はここでは関連せず、画像の2つの格子パラメータ間の比のみが関連する。更に、いくつかのリングはわずかに広がって見えるので、すべての反射が関連するリング上に正確に位置するわけではない。これは、局所的な内部応力又は組成の変動によって引き起こされる可能性がある。
【0146】
B2結晶構造の複数の異なるゾーン軸を検出することによって、試料中のこのB2結晶構造の存在を検出し、ひいては証明することができた。更に、XRD測定との一致が明らかである。記録されたリングパターンにおける異なる回析リングの起源を明確にするために、「結晶>構造因子」下のJEMSにおける「Draw ring diffraction pattern」関数を使用し、したがって、予想される個々のリングの半径は、TEMにおいて記録されたリングパターン上に概略的に配置される(
図2を参照)。B2結晶構造の予想されるリング(a=0.2977nm)に加えて、可能なfccマトリックスのリング(Cuについてa=0.365nm)をここで考慮に入れた。
【0147】
更に、EDXSマッピングによって、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の切断面における銀(
図7)、ルテニウム(
図8)、パラジウム(
図9)、及び銅(
図10)の分布を決定した。関連する画像部分を
図11に示す。画像から、少量のルテニウム析出物が存在し、その他の点では元素がほぼ同一に分布していることが分かり得る。特に、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5合金中の銀は均一に分布しており、このことは、三元相図に関する従来技術から公知の試験から出発した場合に驚くべきことである。その結果、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5合金の高い導電率及び高い破壊強度を達成することができる。
【0148】
EDXSマッピングの測定において、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金中の銅はルテニウム介在物を除いて広い領域にわたって検出することができ(
図10参照)、ルテニウム析出物の外側のPd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金中のパラジウム及び銀の分布は非常に均質であるように見える(
図7及び9を参照)ので、銀、パラジウム、又は銀-パラジウム二元化合物の析出物を検出することはできなかった。これは、10体積%を超える銀、パラジウム、又は銀-パラジウム二元化合物の有意な割合を予想することを示唆する従来技術における相図に関する試験から出発した場合に驚くべきことである。
【0149】
図7~10の測定のために、SuperXG2 X線検出器が使用され、4つのセグメントすべてが、5eVの分散を有する20kVのエネルギー範囲で使用された。記録持続時間は、約125分(145フレーム、780×642ピクセル、滞留時間100μs、フレーム当たりの記録持続時間51.4s)である。データセットは、超構造(DF2において明るい)を有する領域との相関を可能にするために、ナノ回折条件下で記録された。検出器DF2は、2.3mmの最小直径及び24mmの最大直径を有する。
【0150】
定量化設定:各要素のデフォルト設定(ライン/ファミリー);経験的バックグラウンド補正;%での定量化;4画素平均フィルタによるプレフィルタリング;4画素平均フィルタによるポストフィルタリング;他のすべての設定はデフォルト値のままとした。
【0151】
(最大測定)Ag濃度は、他の元素よりもAgマップ(
図7)において低いため、グレースケールは17原子%で終わる。したがって、バックグラウンドノイズは、
図8、
図9、及び
図10による他のマップよりも
図7でよく見られる。
【0152】
これらの試験は、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金中のB2結晶構造が、試験されたLHT組成物中に含有され、Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5合金中に銀析出物、パラジウム析出物、又は銀-パラジウム二元析出物が全く形成されないか、又は非常に少量(<1体積%)しか形成されないことを示している。B2結晶構造の割合は、XRDにおけるB2結晶構造によって引き起こされる反射の強度によって、全Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金の少なくとも5体積%まで推定することができる。Pd51.5Cu36.5Ag10.5Ru1.5 LHT合金中に少なくとも銀析出物、パラジウム析出物、又は二元パラジウム-銀析出物を見ることはできない。
【0153】
上記の説明、並びに特許請求の範囲、図面、及び例示的な実施形態に開示されている本発明の特徴は、個別及び任意の所望の組み合わせの両方で、その様々な実施形態で本発明を実装するために不可欠であり得る。