IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人神奈川大学の特許一覧

特開2023-126174ポリマー化合物、その柔軟性を変化させる方法、それを用いた樹脂の成型方法及び可溶化方法、モノマー化合物、並びにそれを含む重合性組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126174
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ポリマー化合物、その柔軟性を変化させる方法、それを用いた樹脂の成型方法及び可溶化方法、モノマー化合物、並びにそれを含む重合性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/10 20060101AFI20230831BHJP
   C08G 59/00 20060101ALI20230831BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20230831BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08F20/10
C08G59/00
C08F8/00
C07F5/02 D CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027492
(22)【出願日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2022029727
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敦
【テーマコード(参考)】
4H048
4J036
4J100
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB46
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA75
4H048VB10
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB07
4J036AB17
4J036AC02
4J036AC05
4J036AD08
4J036AF06
4J036AH07
4J036CC05
4J036DC12
4J036JA00
4J100AB02Q
4J100AL08P
4J100AL10P
4J100BA03H
4J100BA03P
4J100BA31H
4J100BA31P
4J100BC51H
4J100BC51P
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA31
4J100HA55
4J100HC00
4J100HC47
4J100JA00
(57)【要約】
【課題】簡便な化学処理により、ガラス転移点や水への親和性を変化させることのできるポリマー化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)及び/又は(2)で表す構造を備えたポリマー化合物を用いる。これは、周囲のホウ素化合物濃度に応じて構造を(1)及び(2)の間で変化させ、ガラス転移点や水への親和性を変化させる。(1)及び(2)において、各Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマー主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、m、n、pは、それぞれ独立に1~5の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物。
【化1】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【請求項2】
前記一般式(2)で表す構造が、下記一般式のいずれかである請求項1記載のポリマー化合物。
【化2】
(上記各一般式中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~4の整数であり、m1、n1及びp1は、それぞれ独立に0~3の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【請求項3】
下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた請求項1又は2記載のポリマー化合物。
【化3】
【請求項4】
少なくとも下記一般式(1b)及び/若しくは(2b)で表す繰り返し単位、又は少なくとも下記一般式(1d)及び/若しくは(2d)で表す繰り返し単位を構造中に備えた請求項1又は2記載のポリマー化合物。
【化4】
(上記一般式(1b)及び(2b)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
【請求項5】
下記一般式(3)で表す構造を含む請求項1又は2記載のポリマー化合物。
【化5】
(上記一般式(3)中、斜体のrで表す符号はランダムコポリマーであることを表し、各Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、各Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン化メチル基、ヒドロキシメチル基、アルコキシメチル基、シリルオキシメチル基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基であり、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1~16のアルキル基、アリール基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、-NR、-(C=O)NR-R、-NR(C=O)-R、-N((C=O)R10)((C=O)R11)、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、ボリル基、ビニル基又はアルキニル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rは1価の有機基であり、R10及びR11はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基であり、s、t及びuは上記一般式(3)中の各構成単位の存在比率を示す数であり、s+t+u=1、かつt+uが0を超える数であることを条件に、sは0以上の数であり、tは0以上の数であり、uは0以上の数である。)
【請求項6】
下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物について、当該ポリマー化合物の存在する環境中におけるホウ酸化合物の濃度を変化させる、又は当該ポリマー化合物の存在する環境中にホウ素原子と相互作用するイオン種を含む化合物を添加することにより、前記ポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させる方法。
【化6】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【請求項7】
前記ポリマー化合物が、下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた請求項6記載の方法。
【化7】
【請求項8】
下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物を用い、当該ポリマー化合物中における下記一般式(1)で表す構造と、下記一般式(2)で表す構造との比率を、下記一般式(1)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、前記ポリマー化合物の水系溶媒に対する溶解性が低下することを利用した樹脂の成形方法。
【化8】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【請求項9】
前記ポリマー化合物が、下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた請求項8記載の方法。
【化9】
【請求項10】
下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物を用い、当該ポリマー化合物中における下記一般式(1)で表す構造と、下記一般式(2)で表す構造との比率を、下記一般式(2)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、前記ポリマー化合物の水系溶媒に対する溶解性が向上することを利用した樹脂の可溶化方法。
【化10】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【請求項11】
前記ポリマー化合物が、下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた請求項10記載の方法。
【化11】
【請求項12】
下記一般式(7)又は(8)で表すモノマー化合物。
【化12】
(一般式(7)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。一般式(8)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
【請求項13】
前記エチレン性不飽和結合を有する1価の基が、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基又はスチリル基である請求項12記載のモノマー化合物。
【請求項14】
下記一般式(8a)で表す請求項12又は13記載のモノマー化合物。
【化13】
(一般式(8a)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
【請求項15】
下記一般式(8)で表すモノマー化合物を含むことを特徴とする重合性組成物。
【化14】
(一般式(8)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
【請求項16】
下記一般式(8a)で表すモノマー化合物を含むことを特徴とする請求項15記載のモノマー化合物。
【化15】
(一般式(8a)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー化合物、その柔軟性を変化させる方法、それを用いた樹脂の成型方法及び可溶化方法、モノマー化合物、並びにそれを含む重合性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー化合物がプラスチック等の樹脂材料として広く用いられているのは周知の通りである。こうした樹脂材料は、加熱されることで軟化し、その状態で必要な形状に成形される。そして、成形された樹脂材料は、それが用いられる温度範囲ではその形状を維持し続ける。このようなことが可能なのは、ポリマー化合物が、低温、すなわち樹脂として常用される温度では剛性が大きく、流動性のない性状を示す一方で、ガラス転移点よりも高い温度になると、急速に剛性と粘度が低下して流動性を増加させる性質を備えるためである。
【0003】
ポリマー化合物のガラス転移点は、それを構成するモノマー化合物の化学種や、ポリマー化合物の分子量等の要素によって決定され、通常、それが樹脂材料として使用されている間に変化することはない。多くの場合、ポリマー化合物のそうした安定性が有利に作用し、そうした安定性のおかげで、成形されたプラスチック製品を安心して用いることができるといえる。
【0004】
ところで、ホウ素化合物は、ホウ素上の空軌道に基づく様々な特性を示し、ポリマー化合物を機能化させるための有用な分子群であることが知られている(例えば、非特許文献1及び2を参照)。こうしたホウ素化合物によるポリマー化合物の機能化研究では、ボロン酸誘導体、トリアリールボラン、ホウ素キレート錯体等が、機能化のための機能団として多用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Tanaka,Y.Chujo,Macromol.Rapid Commun.2012,33,1235-1255
【非特許文献2】William L.A.Brooks,Brent,Sumerlin,Chem.Rev.2016,116,1375-1397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ポリマー化合物のガラス転移点が、通常、それが樹脂材料として使用されている間に変化しないという安定性は有利なものだが、一方で、ポリマー化合物が合成された後に、そのガラス転移点を化学的に変化させることが可能であれば、新たな用途を開拓することに繋がる可能性がある。
【0007】
また、樹脂材料の多くは耐水性が求められるため、一般的に非水溶性のポリマー化合物で構成される。そのため、これを成形するには一旦高温で融解するか、溶剤を用いて溶解する必要がある。一方、ポリマー化合物の中にはポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等のように水溶性を示すものもある。そうしたポリマー化合物の水に対する親和性を、ポリマー化合物が合成された後に任意に変化させることができれば、一旦樹脂を水に可溶化した後、水溶液の状態で成形を行い、再度水へ不溶化することで耐水性の成形樹脂を得る等、やはりポリマー化合物の新たな用途を開拓することに繋がり得る。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、簡便な化学処理により、容易にそのガラス転移点や水への親和性を変化させることのできるポリマー化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、かご形構造をもつボレートを側鎖や主鎖等に備えたポリマー分子が、かご型構造の形成前後において、そのガラス転移温度や水に対する親和性を変化させることを見出した。このようなボレートは、ホウ素化合物の有無により、下記化学式のようにホウ素原子を中心としたかご形構造を形成したり、そのかご形構造を解除したりする。なお、下記化学式のように、窒素原子の渡環相互作用により形成された3つの5員環を持つ化学種はボラトランと呼ばれる。ここでは、理解のために5員環を有するボラトランを挙げて説明したが、本発明では、5員環構造を持つものに限定されず、4員環構造や6員環以上の構造を持つものであってもよい。なお、このように5員環でない構造を持つものであっても、本明細書ではこれらをまとめてボラトランと呼称する。また、下記化学式において、波線を付した結合は、ポリマー主鎖への結合を表す。下記化学式において、上段はポリマー側鎖にボラトランが形成される例であり、下段がポリマー主鎖にボラトランが形成される例となる。
【0010】
【化1】
【0011】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)本発明は、下記一般式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物である。
【化2】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【0013】
(2)また本発明は、上記一般式(2)で表す構造が下記一般式のいずれかである(1)項記載のポリマー化合物である。
【化3】
(上記各一般式中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~4の整数であり、m1、n1及びp1は、それぞれ独立に0~3の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【0014】
(3)また本発明は、下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた(1)項又は(2)項記載のポリマー化合物である。
【化4】
【0015】
(4)また本発明は、少なくとも下記一般式(1b)及び/若しくは(2b)で表す繰り返し単位、又は少なくとも下記一般式(1d)及び/若しくは(2d)で表す繰り返し単位を構造中に備えた(1)項~(3)項のいずれか1項記載のポリマー化合物である。
【化5】
(上記一般式(1b)及び(2b)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
【0016】
(5)また本発明は、下記一般式(3)で表す構造を含む(1)項又は(2)項記載のポリマー化合物である。
【化6】
(上記一般式(3)中、斜体のrで表す符号はランダムコポリマーであることを表し、各Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、各Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン化メチル基、ヒドロキシメチル基、アルコキシメチル基、シリルオキシメチル基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基であり、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1~16のアルキル基、アリール基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、-NR、-(C=O)NR-R、-NR(C=O)-R、-N((C=O)R10)((C=O)R11)、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、ボリル基、ビニル基又はアルキニル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rは1価の有機基であり、R10及びR11はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基であり、s、t及びuは上記一般式(3)中の各構成単位の存在比率を示す数であり、s+t+u=1、かつt+uが0を超える数であることを条件に、sは0以上の数であり、tは0以上の数であり、uは0以上の数である。)
【0017】
(6)本発明は、下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物について、当該ポリマー化合物の存在する環境中におけるホウ酸化合物の濃度を変化させる、又は当該ポリマー化合物の存在する環境中にホウ素原子と相互作用するイオン種を含む化合物を添加することにより、前記ポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させる方法でもある。
【化7】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【0018】
(7)また本発明は、上記ポリマー化合物が、下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた(6)項記載の方法である。
【化8】
【0019】
(8)本発明は、下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物を用い、当該ポリマー化合物中における下記一般式(1)で表す構造と、下記一般式(2)で表す構造との比率を、下記一般式(1)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、前記ポリマー化合物の水系溶媒に対する溶解性が低下することを利用した樹脂の成形方法でもある。
【化9】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【0020】
(9)また本発明は、上記ポリマー化合物が下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた(8)項記載の方法である。
【化10】
【0021】
(10)本発明は、下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物を用い、当該ポリマー化合物中における下記一般式(1)で表す構造と、下記一般式(2)で表す構造との比率を、下記一般式(2)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、前記ポリマー化合物の水系溶媒に対する溶解性が向上することを利用した樹脂の可溶化方法でもある。
【化11】
(一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。)
【0022】
(11)また本発明は、上記ポリマー化合物が下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えた、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えた10)項記載の方法である。
【化12】
【0023】
(12)また本発明は、下記一般式(7)又は(8)で表すモノマー化合物でもある。
【化13】
(一般式(7)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。一般式(8)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
【0024】
(13)本発明は、上記エチレン性不飽和結合を有する1価の基が、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基又はスチリル基である(12)項記載のモノマー化合物である。
【0025】
(14)本発明は、下記一般式(8a)で表す(12)項又は(13)項記載のモノマー化合物である。
【化14】
(一般式(8a)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
【0026】
(15)また本発明は、下記一般式(8)で表すモノマー化合物を含むことを特徴とする重合性組成物でもある。
【化15】
(一般式(8)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
【0027】
(16)本発明は、下記一般式(8a)で表すモノマー化合物を含むことを特徴とする(15)項記載の重合性組成物でもある。
【化16】
(一般式(8a)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡便な化学処理により、容易にそのガラス転移点や水への親和性を変化させることのできるポリマー化合物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のポリマー化合物の第一実施形態及び第二実施形態、ポリマー化合物の柔軟性を変化させる方法の一実施態様、樹脂の成形方法の一実施態様、樹脂の可溶化方法の一実施態様、モノマー化合物の一実施形態、並びに重合性組成物の一実施形態のそれぞれについて説明するが、本発明は以下の実施形態又は実施態様に限定されるものでなく、本発明の範囲において変更を加えて実施することができる。
【0030】
<ポリマー化合物の第一実施形態>
まずは、本発明のポリマー化合物の第一実施形態について説明する。本発明のポリマー化合物は、下記一般式(1)及び/又は(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物である。なお、第一実施形態では、下記一般式(1)及び/又は(2)で表す構造を側鎖に備えた形態について述べ、後述の第二実施形態において、ポリマー化合物の主鎖若しくは分岐鎖に当該構造を備えた形態について述べる。
【0031】
【化17】
【0032】
上記一般式(1)で表す構造は、末端に水酸基を備えた1価の鎖状基が窒素原子に3本結合した3級アミンを示しており、いずれかのRがポリマーの主鎖へ結合する2価の基を形成する。このような3級アミンにホウ素化合物を作用させると、ボラトランと呼ばれる、ホウ素原子を中心としたかご形構造を形成することは既に述べた通りである。このかご形構造を形成した状態が上記一般式(2)で表す構造となる。上記一般式(2)では、窒素原子の渡環相互作用により形成された3つの環構造が存在する。例えば、p個の繰り返し単位を備えた環構造に注目すると、その環構造は、間に含まれるホウ素原子、窒素原子、酸素原子も含めて(p+3)員環となる。このような環構造が3つ組み合わされることでかご形構造となる。なお、上記一般式(2)においても、いずれかのRがポリマーの主鎖へ結合する2価の基を形成する。したがって、本実施形態のポリマー化合物は、上記一般式(1)及び/又は(2)で表す構造を側鎖に備えることになる。
【0033】
なお、上記一般式(2)で表すかご形構造は、ホウ素原子を失うとかご形構造が壊れ、上記一般式(1)で表す構造へと変化する。ホウ素原子を失う要因としては、例えばフッ化物イオンや水酸化物イオン等のような、ホウ素原子と相互作用するイオン種の存在や、透析などの手段によりホウ素原子が周囲環境から除去されること等を挙げることができる。
【0034】
本実施形態のポリマー化合物は、側鎖が上記一般式(1)で表す構造となったり、上記一般式(2)で表す構造となったりするが、これらの変化は、上記のように化学的な刺激によりコントロールすることができる。そして、5員環構造をとるボラトラン構造を例とすれば、側鎖の構造が一般式(1)で示す構造から一般式(2)で表す構造に変化することに伴い、ガラス転移点が100℃以上上昇する。それに伴い、このポリマー化合物からなる樹脂は、ゴム状や液状の性状をとったり(一般式(1))、ガラス状の性状をとったり(一般式(2))することになる。
【0035】
また、一般式(1)で表す構造と一般式(2)で表す構造との変換は、上記のような性状の変化のみならず、ポリマー化合物の水溶性にも影響を与える。一般式(2)で表す構造は、B-N間における大きな双極子モーメントの存在により、大きな極性を持つ。そして、この極性は、3つの水酸基を備えた一般式(1)の構造をとる場合よりも著しく大きくなる。その結果、側鎖が一般式(2)の構造をとるポリマーの水溶性は、同じく一般式(1)の構造をとるポリマーよりも遙かに大きなものとなる。こうした性質を利用し、例えば、側鎖が一般式(2)の構造をとり水溶性を示す状態のポリマー化合物の水溶液を所望の形状の容器に収容し、透析などの手段でその水溶液からホウ素原子を除去するなどして側鎖を一般式(1)の構造に変換すれは、ポリマー化合物が容器の形状で析出し、成形されることになる。また、所望のパターンに沿ってポリマー化合物の水溶液を基材に塗布し、その上から例えばフッ化物イオンや水酸化物イオン等のような、ホウ素原子と相互作用するイオン種を含む水溶液を噴霧すると、そのパターン通りにポリマーを析出させることもできる。このような態様は、本発明のポリマー化合物のレジストとしての応用となる。なお、これらのことは、後述の第二実施形態でも同様である。第二実施形態では、一般式(1)で表す構造と一般式(2)で表す構造との交換が、側鎖ではなく、ポリマーの主鎖や分岐鎖にて生じる点で異なるのみであり、作用及び効果については第一実施形態におけるものと同様である。
【0036】
上記一般式(1)及び(2)について、まずは一般式(1)について説明する。
【0037】
上記一般式(1)において、各Rは、それぞれ独立に、(A)水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、(B)同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、(C)隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、(D)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又は(E)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合である。「各Rは、それぞれ独立に」とは、それぞれのRが独立して決定されるとの意味である。このように、「各~は、それぞれ独立に」の文言は、本明細書において、それぞれの~が独立して決定されるという意味と解釈される。各Rは、上記(A)~(E)のいずれかの態様をとることになる。なお、(E)の場合は、上記一般式(1)で表す構造がポリマーの主鎖又は分岐鎖に含まれることになるので、第二実施形態におけるものとなる。また、各Rは、(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、及び(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する、の二つの条件のうちの少なくとも一つを満足する。(a)は、主として第一実施形態に該当するものであり、(b)は、主として第二実施形態に該当するものである。
【0038】
Rが(A)の態様をとるとき、そのRは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基となる。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【0039】
Rが(B)の態様をとるとき、そのRは、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成することになる。すなわち、下記に示すように、1つの炭素原子に共通して結合した2つのRが、互いに組み合わさり、カルボニル基を形成する。
【0040】
【化18】
【0041】
Rが(C)の態様をとるとき、そのRは、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する。すなわち、下記に表すように、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する4個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間に不飽和結合を備えた環構造となるし、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間が飽和された環構造となる。なお、下記はあくまでも例示であり、このような環構造は6員環に限定されるものではない。
【0042】
【化19】
【0043】
また、これら環構造は置換基を備えてもよい。この置換基としては、任意のものが選択される。さらには、この環構造にポリマー主鎖へ結合する2価の基が結合してもよい。この場合、一般式(1)で表す構造は、この環構造を介してポリマー主鎖に結合されることになる。なお、この2価の基は、単結合であってもよいし、複数の原子からなる基であってもよい。
【0044】
Rが(D)の態様をとるとき、そのRは、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基となる。すなわち、一般式(1)で表す構造は、このRを介してポリマー主鎖に結合されることになる。なお、この2価の基は、単結合であってもよいし、複数の原子からなる基であってもよい。
【0045】
なお、一般式(1)で表す一般式には、上記(a)で述べたように、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する。これは、複数存在するRのうちのいずれかでもよいし、上記のように2~4個のRから形成された環構造が備えたものでもよい。
【0046】
Rが(E)の態様をとるとき、そのRは、ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合となり、上記(b)で述べたように、これが少なくとも二つ存在する。これにより、一般式(1)で表す構造がポリマーの主鎖又は分岐鎖に含まれることになる。このような例は、後述の第二実施形態で述べる。
【0047】
上記一般式(1)中、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。これらの整数のうち、2が好ましく挙げられ、m、n及びpの全てが2であることをさらに好ましく挙げられる。この場合、かご形構造をとったときに、窒素原子の渡環相互作用により形成された環構造が5員環となり、本来の意味でのボラトラン構造となる。
【0048】
次に、一般式(2)について説明する。
【0049】
上記一般式(2)において、各Rは、それぞれ独立に、(A)水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、(B)同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、(C)隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又は(D)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又は(E)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合である。各Rは、上記(A)~(E)のいずれかの態様をとることになる。なお、(E)の場合は、上記一般式(2)で表す構造がポリマーの主鎖又は分岐鎖に含まれることになるので、第二実施形態におけるものとなる。また、各Rは、(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、及び(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する、の二つの条件のうちの少なくとも一つを満足する。(a)は、主として第一実施形態に該当するものであり、(b)は、主として第二実施形態に該当するものである。
【0050】
Rが(A)の態様をとるとき、そのRは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基となる。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【0051】
Rが(B)の態様をとるとき、そのRは、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成することになる。すなわち、下記に示すように、1つの炭素原子に共通して結合した2つのRが、互いに組み合わさり、カルボニル基を形成する。
【0052】
【化20】
【0053】
Rが(C)の態様をとるとき、そのRは、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する。すなわち、下記に表すように、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する4個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間に不飽和結合を備えた環構造となるし、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間が飽和された環構造となる。なお、下記はあくまでも例示であり、このような環構造は6員環に限定されるものではない。
【0054】
【化21】
【0055】
また、これら環構造は置換基を備えてもよい。この置換基としては、任意のものが選択される。さらには、この環構造にポリマー主鎖へ結合する2価の基が結合してもよい。この場合、一般式(2)で表す構造は、この環構造を介してポリマー主鎖に結合されることになる。なお、この2価の基は、単結合であってもよいし、複数の原子からなる基であってもよい。
【0056】
Rが(D)の態様をとるとき、そのRは、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基となる。すなわち、一般式(2)で表す構造は、このRを介してポリマー主鎖に結合されることになる。なお、この2価の基は、単結合であってもよいし、複数の原子からなる基であってもよい。
【0057】
なお、一般式(2)で表す一般式には、上記(a)で述べたように、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する。これは、複数存在するRのうちのいずれかでもよいし、上記のように2~4個のRから形成された環構造が備えたものでもよい。
【0058】
Rが(E)の態様をとるとき、そのRは、ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合となり、上記(b)で述べたように、これが少なくとも二つ存在する。これにより、一般式(2)で表す構造がポリマーの主鎖又は分岐鎖に含まれることになる。このような例は、後述の第二実施形態で述べる。
【0059】
上記一般式(2)中、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。これらの整数のうち、2が好ましく挙げられ、m、n及びpの全てが2であることをさらに好ましく挙げられる。この場合、窒素原子の渡環相互作用により形成された環構造が5員環となり、本来の意味でのボラトラン構造となる。
【0060】
なお、上記一般式(2)で表す構造として、下記の各一般式で表すものを例示することができる。下記の各一般式では、ホウ素原子を中心としたかご形構造を構成する1つの環構造に注目して表しており、2つの円弧で示した部分には残り2つの環構造とその環構造に結合したポリマー主鎖へ結合する2価の基が含まれる。下記の各一般式において、各Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、nは0~4の整数であり、mは0~3の整数である。これらについては、後述の第二実施形態でも同様に当てはまる。
【0061】
【化22】
【0062】
上記一般式(2)で表す構造として、下記一般式のいずれかであることを好ましく例示できる。
【0063】
【化23】
【0064】
これら3つの一般式において、各Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合である。なお、「ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合」の場合は、上記の構造がポリマーの主鎖又は分岐鎖に含まれることになるので、第二実施形態におけるものとなる。また、各Rは、(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、及び(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する、の二つの条件のうちの少なくとも一つを満足する。(a)は、主として第一実施形態に該当するものであり、(b)は、主として第二実施形態に該当するものである。この点は、すでに説明した通りである。
【0065】
これら3つの一般式のうち一番左側と中央のものにおいて、m、n及びpは、それぞれ独立に1~4の整数である。また、これら3つの一般式のうち一番右側のものにおいて、m1、n1及びp1は、それぞれ独立に0~3の整数である。すなわち、これら3つの一般式において、窒素原子の渡環相互作用により形成された環構造が5~8員環であることを表す。
【0066】
上記一般式(1)及び(2)で表す構造として、さらに具体的には、それぞれ下記式(1a)、(2a)、(1c)及び(2c)で表すものを好ましく例示できる。下記式のうち、(1a)及び(2a)が第一実施形態におけるものとなり、(1c)及び(2c)は第二実施形態におけるものとなる。なお、本発明がこれらの例示に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0067】
【化24】
【0068】
化学式(1a)及び/又は(2a)で表す側鎖を備えたポリマー化合物として、下記一般式(1b)及び/又は(2b)で表す繰り返し単位を構造中に備えたものを好ましく例示できる。なお、本発明がこれらの例示に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0069】
【化25】
【0070】
上記一般式(1b)及び(2b)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。上記一般式(1b)及び(2b)のうち、Rが水素原子のものはアクリル酸エステルモノマー単位となり、Rがメチル基のものはメタクリル酸モノマーとなる。なお、本発明において、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の用語を(メタ)アクリル酸と省略して用いることがあり、アクリレート及び/又はメタクリレートの用語を(メタ)アクリレートと省略して用いることがある。
【0071】
こうしたポリマー化合物のさらなる具体例として、下記一般式(3)で表す構造を含むものを好ましく挙げることができる。なお、本発明がこうした例示に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0072】
【化26】
【0073】
上記一般式(3)中、斜体のrで表す符号はランダムコポリマーであることを表し、各Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、各Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン化メチル基、ヒドロキシメチル基、アルコキシメチル基、シリルオキシメチル基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基である。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【0074】
上記一般式(3)中、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1~16のアルキル基、アリール基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、-NR、-(C=O)NR-R、-NR(C=O)-R、-N((C=O)R10)((C=O)R11)、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、ボリル基、ビニル基又はアルキニル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rは1価の有機基であり、R10及びR11はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。また、s、t及びuは上記一般式(3)中の各構成単位の存在比率を示す数であり、s+t+u=1、かつt+uが0を超える数であることを条件に、sは0以上の数であり、tは0以上の数であり、uは0以上の数である。すなわち、このポリマーは、上記一般式(1a)で表す構造を持つ(メタ)アクリレートと、一般式(2a)で表す構造を持つ(メタ)アクリレートと、その他の(メタ)アクリレートとのランダムコポリマーであり、上記一般式(1a)及び/又は(2a)で表す構造を持つ(メタ)アクリレート部分を必ず備える。
【0075】
次に、本発明のポリマー化合物の合成経路の一例を示す。この合成経路は上記一般式(1a)及び/又は(2a)を備えたポリマー化合物についてのものを例示しているが、本発明はこのポリマー化合物に限定されるものではない。ポリマー化合物の合成経路としては2種類例示でき、一方は、グリシジル基を側鎖に備えたポリマー化合物を合成した後に、このグリシジル基に対してジエタノールアミンを作用させるものであり、他方は、上記一般式(2b)に対応するメタクリレートを得た後に、これをラジカル重合やRAFT重合によりポリマー化合物とするものである。なお、RAFT重合とは、可逆的付加開裂連鎖移動(Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer)重合を意味し、リビングラジカル重合の一種である。この重合法は、ラジカル重合でありながら、連鎖移動剤の添加量に応じて分子量をコントロールできる特徴を備える。連鎖移動剤としては、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカルバメート、キサンタート等のチオカルボニルチオ化合物が用いられる。
【0076】
【化27】
【0077】
【化28】
【0078】
<ポリマー化合物の第二実施形態>
次に、本発明のポリマー化合物の第二実施形態について説明する。第二実施形態では、ポリマー化合物が、主鎖又は分岐鎖に上記一般式(1)及び/又は(2)で表す構造を備えるものとなる。なお、第二実施形態についての説明では、上記第一実施形態と重複する点を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0079】
上述のように、第二実施形態のポリマー化合物において、一般式(1)及び(2)で表す構造の具体例として、上記一般式(1c)及び(2c)で表すものを挙げることができる。このような構造を備えたポリマー化合物として、下記化学式(1d)及び/又は(2d)で表す繰り返し単位を備えたポリマー化合物を好ましく挙げることができる。
【0080】
【化29】
【0081】
上記(1d)及び(2d)で表す繰り返し単位を備えたポリマー化合物は、例えば、下記の合成手順で、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)と2-アミノエタノールとを反応させて得ることができる。
【0082】
【化30】
【0083】
なお、上記に示すものは一例であり、市販されている2官能のエポキシ樹脂を用いて、同様に、様々な置換基を備えたポリマー化合物を得ることができる。その一例を次に示す。なお、ここでいう「2官能」とは、エポキシ基を2個含んだ化合物を意味する。また、下記の化学式では、酸素原子を含んだ5員環の一つを楕円で表している。
【0084】
【化31】
【0085】
さらに、市販されているエポキシ樹脂には、脂環基を備えたものや、3官能以上のものもある。このようなものを用いて、下記のように、脂環基を備えたポリマー化合物や分岐鎖により架橋されたポリマー化合物を得ることもできる。なお、ここでいう「3官能以上」とは、エポキシ基を3個以上含んだ化合物を意味する。また、下記の化学式において、酸素原子を含んだ5員環の一つを楕円で表している。
【0086】
【化32】
【0087】
<ポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させる方法>
次に、本発明のポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させる方法について説明する。本発明のポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させる方法は、下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物について、当該ポリマー化合物の存在する環境中におけるホウ酸化合物の濃度を変化させる、又は当該化合物の存在する環境中にホウ素原子と相互作用するイオンを含む化合物を添加することを特徴とする。なお、下記化学式(1)及び/又は(2)で表す構造を側鎖に備えたポリマー化合物は、上記説明した本発明のポリマー化合物と同一のものである。
【0088】
【化33】
【0089】
一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。これらのことについては、上記本発明のポリマー化合物における一般式(1)にて説明したものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0090】
一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。これらのことについても、上記本発明のポリマー化合物における一般式(2)にて説明したものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0091】
既に説明した通り、上記本発明のポリマー化合物は、側鎖や主鎖等に含まれる構造が上記一般式(1)で表す構造となったり、上記一般式(2)で表す構造となったりするが、これらの変化は、例えばポリマー化合物周囲のホウ酸化合物濃度等のような化学的な刺激によりコントロールすることができる。また、上記一般式(2)で表すボラトラン構造は、周囲にホウ素と相互作用するイオン種が存在すると、ボラトラン構造中に含まれるフッ素原子がそのようなイオン種と結合して取り去られることでその構造が壊れて上記一般式(1)で表す構造となる。このことを下記化学式で図示する。なお、説明を容易にするために、下記化学式では一般式(1)及び(2)で表す構造を、5員環構造を有するボラトラン骨格やトリエタノールアミン骨格として表しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0092】
【化34】
【0093】
上段の化学式では、波線で示すポリマー主鎖に、一般式(1)又は(2)で表す側鎖が結合している。この側鎖は、周囲環境が条件Aや条件Bを満たすと、左辺で表すボラトラン構造と右辺で表す開環構造との間を行き来する。また、下段の化学式では、一般式(1)又は(2)で表す構造が主鎖に含まれているが、これも同様に、周囲環境が条件Aや条件Bを満たすと、左辺で表すボラトラン構造と右辺で表す開環構造との間を行き来する。これも既に述べたように、左辺で表すボラトラン構造は、右辺で表す開環構造よりもガラス転移点が100℃以上も高い。そのため、本発明のポリマーは、条件Aや条件Bに応じて、ゴム状や液状の性状をとったり、ガラス状の性状をとったりしてその柔軟性や流動性を変化させる。本発明の方法は、このような性質を利用してポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させるものである。
【0094】
条件Aとしては、ポリマー化合物周囲のホウ素化合物の濃度を減少させることや、ホウ素原子と相互作用するイオン種を含む化合物の添加を挙げることができる。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸トリアルキル等のホウ酸エステル等を挙げることができる。ホウ素化合物の濃度を減少させるには、ポリマー化合物の存在する溶液に溶媒を添加して希釈をしたり、透析膜を用いて、ポリマー化合物の存在する溶液からホウ素化合物を除去したりすることを挙げることができる。また、ホウ素原子と相互作用するイオン種を含む化合物は、溶液中でそのようなイオン種を供給してボラトラン骨格中に含まれるホウ素原子を奪い取る作用をする化合物であり、そのような化合物としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム等のような水溶液中で水酸化物イオンを生成するような化合物や、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化テトラアルキルアンモニウム等のような溶液中でフッ化物イオンを生成するような化合物等を挙げることができる。
【0095】
条件Bとしては、ポリマー化合物周囲のホウ素化合物の濃度を増加させることを挙げることができる。この場合も、ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸トリアルキル等のホウ酸エステル等を挙げることができる。ポリマー化合物周囲のホウ素化合物の濃度を増加させる方法としては、ポリマー化合物の存在する溶液にホウ素化合物を添加したり、ポリマー化合物にホウ素化合物の溶液を付着させたりすることを挙げることができる。
【0096】
より好ましい例として、上記ポリマー化合物が、下記化学式(1a)及び/若しくは(2a)で表す構造を側鎖に備えたものとなる、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えたものとなることを挙げることができる。これについても、上記本発明のポリマー化合物の説明で既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0097】
【化35】
【0098】
本発明のポリマー化合物の柔軟性や流動性を変化させる方法によれば、例えば、上記一般式(1)で表す構造の比率が高く、ゴムのような柔軟性を示す本発明のポリマー化合物を、ホウ素化合物含有溶液に浸漬することにより、そのポリマー化合物をガラス状に固めることが可能になる。このような性質を利用して、例えば、手で任意の形状に成形して成形体を作製し、その成形体をホウ素化合物含有溶液に浸漬させて固めるような製品への展開が考えられる。その他、本発明のポリマー化合物とホウ酸化合物とを含有する水溶液を加熱して水分を蒸発させ、この水溶液中のホウ酸化合物濃度を高めることにより、ポリマー化合物を固化させるような用途も考えられる。
【0099】
<樹脂の成形方法>
次に、本発明の樹脂の成形方法について説明する。本発明の樹脂の成形方法は、下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物を用い、下記一般式(1)で表す構造と、下記一般式(2)で表す構造との比率を、下記一般式(1)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、前記ポリマー化合物の水系溶媒に対する溶解性が低下することを利用するのを特徴とする。なお、下記化学式(1)及び/又は(2)で表す構造を備えたポリマー化合物は、上記説明した本発明のポリマー化合物と同一のものである。
【0100】
【化36】
【0101】
一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。これらのことについては、上記本発明のポリマー化合物における一般式(1)にて説明したものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0102】
一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。これらのことについても、上記本発明のポリマー化合物における一般式(2)にて説明したものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0103】
これも既に説明したように、上記本発明のポリマー化合物は、その側鎖や主鎖等に含まれる構造が一般式(1)で表す構造をとる場合と一般式(2)で表す構造をとる場合とで、その水溶性が大きく異なるものになる。すなわち、一般式(2)で表す構造は、B-N間における大きな双極子モーメントの存在により、大きな極性を持つ。そして、この極性は、3つの水酸基を備えた一般式(1)の構造をとる場合よりも著しく大きなものとなる。その結果、側鎖や主鎖等に含まれる構造が一般式(2)の構造をとるポリマーの水溶性は、同じく一般式(1)の構造をとるポリマーよりも遙かに大きなものとなる。本発明の樹脂の成形方法は、このような構造変換に伴う水溶性の変化を利用したものである。
【0104】
このような成形方法の一例としては、上記本発明のポリマー化合物を水中でホウ素化合物と反応させ、上記本発明のポリマー化合物が水溶性を示す程度まで一般式(2)で表す構造の比率を高めてポリマー化合物の水溶液を調製し、その後、所望の形に成型した透析膜の容器にその水溶液を収容し、容器ごと水に浸漬させることを挙げることができる。こうすることにより、透析膜からなる容器内から容器外の水中へホウ素化合物が移動し、容器内水溶液のホウ素化合物濃度が低下する。その結果、本発明のポリマー化合物において一般式(1)で表す側鎖の比率が高まり、容器の形状に応じた形状でポリマー化合物が析出して樹脂の成形体となる。
【0105】
また、これとは異なる一例として、所望のパターンに沿ってポリマー化合物の水溶液を基材に塗布し、その上からホウ素原子と相互作用するイオン種を含む水溶液を噴霧する、又は水を噴霧して水溶液中のホウ素化合物の濃度を低下させると、そのパターン通りにポリマー化合物が析出する。このような成形方法は、レジストとして有用である。なお、ホウ素原子と相互作用するイオン種については既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0106】
より好ましい例として、上記ポリマー化合物が、下記化学式(1a)及び/又は(2a)で表す側鎖を備える、又は下記一般式(1c)及び/若しくは(2c)で表す構造を主鎖若しくは分岐鎖に備えることを挙げることができる。これについても、上記本発明のポリマー化合物の説明で既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0107】
【化37】
【0108】
<樹脂の可溶化方法>
次に、本発明の樹脂の可溶化方法について説明する。本発明の樹脂の可溶化方法は、下記化学式(1)及び/若しくは(2)で表す構造を側鎖、又は主鎖若しくは分岐鎖に備えたポリマー化合物を用い、当該ポリマー化合物中における下記一般式(1)で表す構造と、下記一般式(2)で表す構造との比率を、下記一般式(2)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、そのポリマー化合物の水系溶媒に対する溶解性が向上することを利用するのを特徴とする。なお、下記化学式(1)及び/又は(2)で表す構造を側鎖に備えたポリマー化合物は、上記説明した本発明のポリマー化合物と同一のものである。
【0109】
【化38】
【0110】
一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。これらのことについては、上記本発明のポリマー化合物における一般式(1)にて説明したものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0111】
一般式(2)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、ポリマーの主鎖へ結合する2価の基である、又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からポリマーの主鎖へ結合する2価の基又はポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を生じてもよく、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数であり、次の条件(a)及び(b)の少なくとも1つを満足する:(a)ポリマーの主鎖へ結合する2価の基が少なくとも1つ存在する、(b)ポリマーの主鎖若しくは分岐鎖を構成する元素への結合を示す単結合が少なくとも2つ存在する。これらのことについても、上記本発明のポリマー化合物における一般式(2)にて説明したものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0112】
本発明の樹脂の可溶化方法は、上記本発明の樹脂の成型方法とは反対に、本発明のポリマー化合物について上記一般式(2)で表す構造が増加する方向に変化させることにより、水溶性を高めるものである。このような手段として、例えば、本発明のポリマー化合物からなる樹脂の成形体を、ホウ素化合物含有水溶液に浸漬することで可溶化させることを挙げることができる。
【0113】
<モノマー化合物>
次に、本発明のモノマー化合物について説明する。本発明のモノマー化合物は、上記本発明のポリマー化合物を調製するために用いられ、下記一般式(7)又は(8)で表すものである。
【0114】
【化39】
【0115】
本発明のモノマー化合物は、それ単独で、又は他のエチレン性不飽和結合を備えたモノマー化合物とともにラジカル重合することで、上記本発明のポリマー化合物を与える。このため、上記一般式(7)又は(8)で表す構造に含まれる複数のRのうちのいずれかがエチレン性不飽和結合を備えた1価の基を備えることになる。
【0116】
上記一般式(7)及び(8)について、まずは一般式(7)について説明する。
【0117】
上記一般式(7)において、各Rは、それぞれ独立に、(F)水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、(G)同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、(H)同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、(I)隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又は(J)エチレン性不飽和結合を有する1価の基である。各Rは、上記(F)~(J)のいずれかの態様をとることになる。
【0118】
Rが(F)の態様をとるとき、そのRは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基となる。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【0119】
Rが(G)の態様をとるとき、そのRは、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成することになる。すなわち、下記に示すように、1つの炭素原子に共通して結合した2つのRが、互いに組み合わさり、カルボニル基を形成する。
【0120】
【化40】
【0121】
Rが(H)の態様をとるとき、そのRは、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する。すなわち、下記に示すように、1つの炭素原子に共通して結合した2つのRが、互いに組み合わさり、1,1-エテニレン基を形成する。この1,1-エテニレン基は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基となる。
【0122】
【化41】
【0123】
Rが(I)の態様をとるとき、そのRは、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する。
【0124】
すなわち、下記に表すように、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する4個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間に不飽和結合を備えた環構造となるし、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間が飽和された環構造となる。なお、下記はあくまでも例示であり、このような環構造は6員環に限定されるものではない。
【0125】
【化42】
【0126】
また、これら環構造は置換基を備えてもよい。この置換基としては、任意のものが選択される。さらには、この環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよい。この場合、この1価の基は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基となる。
【0127】
Rが(J)の態様をとるとき、そのRは、エチレン性不飽和結合を有する1価の基となる。この場合、この1価の基は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基となる。
【0128】
なお、一般式(7)において、(H)で述べた1,1-エテニレン基、及び(I)や(J)で述べたエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1となる。これにより、一般式(7)で表すモノマー化合物は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基を少なくとも1つ持つことになる。なお、一般式(7)で表すモノマー化合物には、このようなエチレン性不飽和結合を備えた基が2以上含まれてもよい。この場合、一般式(7)で表すモノマー化合物は、多官能モノマー化合物となる。
【0129】
上記一般式(7)中、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。これらの整数のうち、2が好ましく挙げられ、m、n及びpの全てが2であることをさらに好ましく挙げられる。この場合、一般式(7)で表すモノマーがポリマー化合物に組み込まれた際に、そのモノマーを由来とする側鎖がかご形構造をとったときに、窒素原子の渡環相互作用により形成された環構造が5員環となり、本来の意味でのボラトラン構造となる。
【0130】
次に、一般式(8)について説明する。
【0131】
上記一般式(8)において、各Rは、それぞれ独立に、(F)水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、(G)同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、(H)同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、(I)隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又は(J)エチレン性不飽和結合を有する1価の基である。各Rは、上記(F)~(J)のいずれかの態様をとることになる。
【0132】
Rが(F)の態様をとるとき、そのRは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基となる。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【0133】
Rが(G)の態様をとるとき、そのRは、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成することになる。すなわち、下記に示すように、1つの炭素原子に共通して結合した2つのRが、互いに組み合わさり、カルボニル基を形成する。
【0134】
【化43】
【0135】
Rが(H)の態様をとるとき、そのRは、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する。すなわち、下記に示すように、1つの炭素原子に共通して結合した2つのRが、互いに組み合わさり、1,1-エテニレン基を形成する。この1,1-エテニレン基は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基となる。
【0136】
【化44】
【0137】
Rが(I)の態様をとるとき、そのRは、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する。
【0138】
すなわち、下記に表すように、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する4個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間に不飽和結合を備えた環構造となるし、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2個のRが環構造を形成すれば炭素-炭素間が飽和された環構造となる。なお、下記はあくまでも例示であり、このような環構造は6員環に限定されるものではない。
【0139】
【化45】
【0140】
また、これら環構造は置換基を備えてもよい。この置換基としては、任意のものが選択される。さらには、この環構造環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよい。この場合、この1価の基は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基となる。
【0141】
Rが(J)の態様をとるとき、そのRは、エチレン性不飽和結合を有する1価の基となる。この場合、この1価の基は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基となる。
【0142】
なお、一般式(8)において、(H)で述べた1,1-エテニレン基、及び(I)や(J)で述べたエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1となる。これにより、一般式(8)で表すモノマー化合物は、ラジカル重合のためのエチレン性不飽和結合を備えた基を少なくとも1つ持つことになる。なお、一般式(8)で表すモノマー化合物には、このようなエチレン性不飽和結合を備えた基が2以上含まれてもよい。この場合、一般式(8)で表すモノマー化合物は、多官能モノマー化合物となる。
【0143】
上記一般式(8)中、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。これらの整数のうち、2が好ましく挙げられ、m、n及びpの全てが2であることをさらに好ましく挙げられる。この場合、一般式(8)で表すモノマーは、窒素原子の渡環相互作用により形成された環構造が5員環となるかご形構造を備え、本来の意味でのボラトラン構造となる。
【0144】
上記一般式(7)及び(8)において、エチレン性不飽和結合を有する1価の基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基又はスチリル基を好ましく例示できる。
【0145】
なお、上記一般式(8)で表すモノマー化合物として、下記の各一般式で表すものを例示することができる。下記の各一般式では、ホウ素原子を中心としたかご形構造を構成する1つの環構造に注目して表しており、2つの円弧で示した部分には残り2つの環構造が含まれる。下記の各一般式において、各Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、nは0~4の整数であり、mは0~3の整数である。
【0146】
【化46】
【0147】
また、上記一般式(8)で表すモノマー化合物として、下記の各一般式で表すような多官能のものを例示することもできる。下記の各一般式では、ホウ素原子を中心としたかご形構造を構成する2つの環構造に注目して表しており、楕円弧で示した部分には残り1つの環構造が含まれる。下記の各一般式において、各Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。
【0148】
【化47】
【0149】
上記一般式(8)で表す構造として、下記一般式のいずれかであることを好ましく例示できる。
【0150】
【化48】
【0151】
これら3つの一般式において、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、エチレン性不飽和結合を有する1価の基は少なくとも1つ存在する。この点は、すでに説明した通りである。
【0152】
これら3つの一般式のうち一番左側と中央のものにおいて、m、n及びpは、それぞれ独立に1~4の整数である。また、これら3つの一般式のうち一番右側のものにおいて、m1、n1及びp1は、それぞれ独立に0~3の整数である。すなわち、これら3つの一般式において、窒素原子の渡環相互作用により形成された環構造が5~8員環であることを表す。
【0153】
上記一般式(8)で表すモノマー化合物として、さらに具体的には、下記一般式(8a)で表すものを好ましく例示できる。なお、本発明がこの例示に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0154】
【化49】
【0155】
上記一般式(8a)において、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【0156】
次に、本発明のモノマー化合物の合成経路の一例を表す。この合成経路は一般式(8a)で表すモノマー化合物についてのものを例示しているが、本発明はこのモノマー化合物に限定されるものではない。また、この合成経路にて中間体に相当する、トリエタノールアミン構造を有するモノマー化合物は、上記一般式(7)で表すモノマー化合物の一例となる。
【0157】
【化50】
【0158】
<重合性組成物>
次に、本発明の重合性組成物について説明する。本発明の重合性組成物は、下記一般式(8)で表すモノマー化合物を含むことを特徴とする。なお、以下の説明の便宜のため、ここでは一般式(8)に加えて、一般式(7)も提示している。以下に示す一般式(7)及び(8)は、上記本発明のモノマー化合物で述べた一般式(7)及び(8)と同じものである。
【0159】
【化51】
【0160】
上記一般式(8)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子若しくは炭素数1~5のアルキル基である、同じ炭素原子に結合する2つのR同士でカルボニル基を形成する、同じ炭素原子に結合する2つのR同士で1,1-エテニレン基を形成する、隣り合った炭素原子にそれぞれ結合する2~4個のR同士で環構造を形成する、又はエチレン性不飽和結合を有する1価の基であり、前記環構造を形成する場合には当該環構造からエチレン性不飽和結合を有する1価の基を生じてもよく、前記1,1-エテニレン基及びエチレン性不飽和結合を有する1価の基の合計が少なくとも1であり、m、n及びpは、それぞれ独立に1~5の整数である。このことは、上記本発明のモノマー化合物における一般式(8)の説明で述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0161】
上記本発明のポリマー化合物で述べたのと同様に、本発明のモノマー化合物もまた、ホウ酸化合物濃度に応じて、一般式(7)で表す構造をとったり、一般式(8)で表す構造をとったりすることになる。そして、一般式(8)で表す構造は、一般式(7)で表す構造よりも融点が高い。そのため、一般式(8)で表すモノマー化合物が粉末状を示す温度において、一般式(7)で表すモノマー化合物は融解して液状を示すことになる。ところで、一般式(8)で表すモノマーに水を接触させると、ホウ素原子がかご型構造から抜けて、一般式(7)で表すモノマーに転換される。したがって、一般式(8)で表すモノマーは、水と接触した際に、一般式(7)で表すモノマーに転換されることに伴う融点の低下により融解することになる。
【0162】
このような性質は、重合性組成物の潜在化に有用である。一般に、モノマー化合物は、固体である粉末状態では重合せず、溶融するなどして液体状態となったときに重合反応を生じる。したがって、一般式(8)で表すモノマー化合物は、固体状態で重合不能な状態であったものが、水に接触させることにより一般式(7)で表す構造に転換されて融点が下がり、融解状態になって重合性を示すようになる。
【0163】
一般式(7)の構造に転換されたモノマー化合物は、それ自体が重合性を示すので、本発明の重合性組成物は、必ずしもラジカル重合開始剤を含む必要はない。しかし、本発明の重合性組成物は、公知のラジカル重合開始剤を任意に含んでもよい。
【0164】
上記一般式(8)で表すモノマー化合物として、さらに具体的には、下記一般式(8a)で表すものを好ましく例示できる。なお、本発明がこの例示に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0165】
【化52】
【0166】
上記一般式(8a)において、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましく挙げられる。
【実施例0167】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0168】
・スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(P-1a、P-1c)の合成
【化53】
【0169】
200mLナスフラスコに、トルエン55.6mL、スチレン26.1g(St、250mmol)及びグリシジルメタクリレート4.03g(GMA、27.8mmol)をアルミナカラムに通したもの、並びにアゾビスイソブチロニトリル0.92g(AIBN、5.56mol)を加え、アルゴンバブリングを30分間行った後、60℃に加温し24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液にヘキサン2Lを加えて再沈殿させ、析出した白色固体を吸引濾過にて回収し、これを減圧乾燥することで白色固体のP-1aを得た。収量は24.1g(収率80%)だった。各種測定手段による同定の結果、P-1aにおける上記化学式のmは0.843、nは0.157だった。また、P-1aの各種物性は次の通りだった。
Mn=7210、Mw/Mn=2.69、Tg=89℃
【0170】
また、用いたStを12.68g(121.8mmol)とし、GMAを17.31g(121.8mmol)とし、AIBNを0.40g(2.43mmol)とし、トルエンを48.7mLとし、さらに、再沈殿に用いた溶媒をエタノール2Lとしたこと以外は上記P-1aと同様の手順により、P-1cを得た。P-1cの収量は27.0g(収率90.0%)だった。各種測定手段による同定の結果、P-1cにおける上記化学式のmは0.491、nは0.509だった。また、P-1cの各種物性は次の通りだった。
Mn=25000、Mw/Mn=3.56、Tg=75℃
【0171】
・P-2a、P-2cの合成
【化54】
【0172】
200mLナスフラスコに、ジエタノールアミン22.5g(DEA、213.7mmol)、P-1aを15g(GMAとして21.4mmol)及びジメチルアセトアミド45mL(DMAc)を加え、60℃に加温し24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に水2Lを加えて再沈殿させ、析出した白色固体を吸引濾過にて回収し、これを減圧乾燥することで白色固体のP-2aを得た。収量は16.1g(収率93.3%)だった。各種測定手段による同定の結果、P-2aにおける上記化学式のmは0.843、nは0.157だった。また、P-2aの各種物性は次の通りだった。
Mn=4070、Mw/Mn=2.28、Tg=90℃
【0173】
また、P-1aに代えてP-1cを10g(GMAとして41.2mmol)用い、DEAを8.67g(82.4mmol)とし、DMAcを30mLとしたこと以外は上記P-2aと同様の手順により、P-2cを得た。P-2cの収量は11.8g(収率82.3%)だった。各種測定手段による同定の結果、P-2cにおける上記化学式のmは0.491、nは0.482だった。なお、(m+n)にて1に満たない差分の0.027は未反応のGMAである。また、P-2cの各種物性は次の通りだった。
Tg=73℃
【0174】
・P-3a、P-3cの合成
【化55】
【0175】
20mLナスフラスコに、P-2aを2.00g(0.964mmol)、乾燥クロロホルム8mL及びホウ酸トリイソプロピル544mg(2.90mmol)を加え、室温で5時間撹拌しながら反応させた。反応溶液にヘキサン500mLを加えて再沈殿させ、析出した白色固体を吸引濾過にて回収し、これを減圧乾燥することで白色固体のP-3aを得た。収量は1.61g(収率73.9%)だった。各種測定手段による同定の結果、P-3aにおける上記化学式のmは0.843、nは0.119、pは0.038だった。また、P-3aの各種物性は次の通りだった。
Mn=8630、Mw/Mn=2.06、Tg=123℃
【0176】
また、P-2aに代えてP-2cを0.500g(1.36mmol)用い、反応溶媒を乾燥ジメチルホルムアミドとしたこと以外は上記P-3aと同様の手順により、P-3cを得た。P-3cの収量は0.478g(収率59.8%)だった。各種測定手段による同定の結果、P-3cにおける上記化学式のmは0.461、nは0.222、pは0.0.246だった。なお、(m+n+p)にて1に満たない差分の0.071は未反応のGMAである。また、P-3cの各種物性は次の通りだった。
Mn=1580、Mw/Mn=2.80、Tg=195℃
【0177】
トリエタノールアミン側鎖を有するP-2a及びP-2cと、ボラトラン骨格の導入されたP-3a及びP-3cとを対比すると、ガラス転移温度が33℃(P-2a→P-3a)、122℃(P-2c→P-3c)それぞれ上昇するのが確認できた。
【0178】
・TEAMAの合成
【化56】
【0179】
200mLナスフラスコに、ジエタノールアミン6.38g(DEA、60.7mmol)、水24.3mL及びグリシジルメタクリレート8.62g(GMA、60.7mmol)を加え、室温にて24時間撹拌を行った。反応混合物にクロロホルム450mLを3回に分けて加えて抽出を行い、有機相に4-メトキシフェノール75.29mg(MEHQ、1mol%)を加え、減圧濃縮してから減圧乾燥を行うことで、粘性液体のTEAMAを得た。粗収量は10.2g(粗収率68.2%)だった。
【0180】
・TEABMAの合成
【化57】
【0181】
1Lナスフラスコに、TEAMA10g(40.4mmol)、トルエン404.4mL及びホウ酸トリイソプロピル7.61g(40.4mmol)を加え、室温にて2時間撹拌を行った。反応溶液中に白色固体が析出し、これを濾別にて回収した。回収した固体を熱アセトン25mLに溶解させ、これを冷凍庫で冷やし、析出した白色固体を濾別することでTEABMAを得た。収量は1.73g(収率16.7%)だった。
【0182】
・TEABMAのホモポリマー(P-4)の合成
【化58】
【0183】
20mLナスフラスコに、TEABMA500mg(2.07mmol)、乾燥ジメチルスルホキシド(dry DMSO)2.0mL及びアゾビスイソブチロニトリル3.45mg(AIBN、0.02mmol)を加え、アルゴンバブリングを20分間行った後、60℃に加温して8時間撹拌を行った。反応溶液にクロロホルム300mLを加えて再沈殿を行って固体を回収し、これを減圧乾燥することで白色固体のP-4を得た。収量は0.557g(収率111.5%)だった。
【0184】
・TEABMAとスチレンとのコポリマー(P-5a~P-5c)の合成
【化59】
【0185】
10mLナスフラスコに、dry DMSOを2.8mL、スチレン795mg(St、7.64mmol)及びTEABMA205mg(0.847mmol)をアルミナカラムに通したもの、並びにアゾビスイソブチロニトリル13.9g(AIBN、0.084mmol)を加え、アルゴンバブリングを30分間行った後、60℃に加温し8時間撹拌した。反応溶液にジエチルエーテル500mLを加えて再沈殿を行って固体を回収し、これを減圧乾燥することで白色固体のP-5aを得た。収量は0.312g(収率31.2%)だった。
【0186】
また、用いたStを502mg(4.82mmol)とし、TEABMAを498mg(2.07mmol)とし、AIBNを11.3mg(0.069mmol)、dry DMSOを2.3mLとしたこと以外は上記P-5aと同様の手順により、P-5bを得た。P-5bの収量は0.672g(収率67.1%)だった。
【0187】
また、用いたStを502mg(4.82mmol)とし、TEABMAを498mg(2.07mmol)とし、AIBNを11.3mg(0.069mmol)、dry DMSOを2.3mLとしたこと以外は上記P-5aと同様の手順により、P-5bを得た。P-5bの収量は0.672g(収率67.1%)だった。
【0188】
また、用いたStを302mg(2.90mmol)とし、TEABMAを698mg(2.90mmol)とし、AIBNを9.51mg(0.058mmol)、dry DMSOを1.9mLとしたこと以外は上記P-5aと同様の手順により、P-5cを得た。P-5cの収量は0.856g(収率85.6%)だった。
【0189】
P-4、及びP-5a~P-5cのそれぞれについて、各種測定手段による同定によりポリマー中のTEABMAとStの組成比を求め、併せて数平均分子量(Mn)及びガラス転移点(Tg)の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0190】
【表1】
【0191】
表1に示すように、側鎖ボラトラン骨格の比率が高まるとともに、Tgは高くなる傾向を示した。
【0192】
・RAFT重合によるTEABMAのホモポリマー(P-6)の合成
【化60】
【0193】
10mLナスフラスコに、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボネート21.5mg(CPDT、1mol%)、DMSO3.1mL、TEABMA1.5g(5.88mmol)及びAIBN10.2mg(1mol%)を加え、アルゴンバブリングを30分間行った後、60℃に加温し4時間撹拌しながら反応させた。反応溶液にアセトン300mLを加えて再沈殿を行って固体を回収し、これを減圧乾燥することで白色固体のP-6を得た。収量は1.4597g(収率97.3%)だった。P-6のTgは、177℃だった。
【0194】
・透析膜を用いたP-6の側鎖開環反応
【化61】
【0195】
P-6の45mgをサンプル瓶に加え、これに純水5mLを加えて溶解させ、水溶液とした。得られた水溶液を透析膜の袋に入れ、この袋を純水750mL(250mL×3回)中で48時間撹拌した。袋の中の液体を10mLナスフラスコに移し、内容物を凍結乾燥させ、白色固体のHD-P-6を得た。収量は、40.6mg(収率90.2%)だった。得られたHD-P-6を各種測定手段により分析したところ、ボラトラン骨格由来の構造が消失し、トリエタノールアミン形構造に加水分解されたことがわかった。このHD-P-6のTgは37℃であり、P-6のTgである177℃と比べて著しく低かった。
【0196】
・ビスフェノールAジグリシジルエーテルと2-アミノエタノールとを用いたポリマーの合成(P-7)
【化62】
【0197】
10mLナスフラスコに、2-アミノエタノール(0.469g、7.67mmol)及びビスフェノールAグリシジルエーテル(2.47g、7.27mmol)を加え、80℃で4.5時間撹拌した。末端封止剤としてフェニルグリシジルエーテル(0.120g、8.02mmol)を加え、さらに80℃で2時間攪拌した。反応溶液をメタノール/水(190mL/10mL)の混合溶媒に注ぎ、生じた固体をさらにメタノールで3回洗浄した後、減圧下、100℃にて乾燥を行い、P-7を得た。収量は、1.63g(収率53%)だった。P-7のMnは、14700だった。Tgは、74℃だった。
【0198】
・P-8の合成
【化63】
【0199】
5mLガラス管にP-7(98.6mg、アミン部分:0.246mmol)、ホウ酸トリイソプロピル(47.1mg、0.250mmol)、ジメチルスルホキシド(1.2mL)を加えた。反応溶液を室温で2時間攪拌した後、60℃で1時間攪拌し、さらに室温で2.5時間攪拌した。反応溶液をジエチルエーテル(40mL)に加え、生じた固体を残したまま上澄みを除去し、さらにジエチルエーテルを加えた。この洗浄操作を2回行った後、減圧下、130℃にて乾燥を行い、P-8を得た。収量は、99.9mg(収率99%)だった。P-8のTgは、195℃だった。
【0200】
P-7とP-8とを対比すると、開環状態のP-7ではTgが74℃だったのが、ボラトラン骨格を形成したP-8ではTgが195℃と、約120℃上昇していることがわかった。