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特開2023-126246血管オルガノイド、オルガノイドの製造及び使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126246
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】血管オルガノイド、オルガノイドの製造及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230831BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023101696
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2019569213の分割
【原出願日】2018-06-15
(31)【優先権主張番号】17176335.2
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】513048519
【氏名又は名称】イーエムベーアー-インスティテュート フュール モレクラレ バイオテクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ペニンガー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ビンマー
(72)【発明者】
【氏名】ドンチョ カーヤシュキ
(57)【要約】
【課題】本発明は、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックス内に埋め込み、前記コラーゲン3Dマトリックス内の前記凝集体の血管分化を刺激することを含む、人工血管オルガノイドを生成する方法と;前記方法から得られるオルガノイドと;試験される操作及びスクリーニングにおける前記方法及びオルガノイドの使用と;前記方法を実施するためのキットと、に関する。
【解決手段】人工血管オルガノイドを生成する方法であって、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込み、そして前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記凝集体の血管分化を刺激することを含む、上記方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工血管オルガノイドを生成する方法であって、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込み、そして前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記凝集体の血管分化を刺激することを含む、上記方法。
【請求項2】
コラーゲンマトリックス内に埋め込まれた前記細胞凝集体が少なくとも30個の細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中胚葉分化が、前記幹細胞を、Wntアゴニスト又はGSK阻害剤、好ましくはCHIR99021で処理することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記幹細胞における血管分化が、前記幹細胞を、VEGF、好ましくはVEGF-A、及び/又はFGF、好ましくはFGF-2、及び/又BMP、好ましくはBMP4、及び/又は12%(v/v)以下の大気酸素の低酸素条件で処理することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記凝集体の血管分化が、前記凝集体の細胞を、VEGF、好ましくはVEGF-A、及び/又はFGF、好ましくはFGF-2で処理することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コラーゲン3Dマトリックスが、少なくとも50質量%のコラーゲンを含み、及び/又は前記コラーゲン3Dマトリックスが、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含み、好ましくは、さらに0.5%~10%のニドゲン、0.5%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び/又は0.5%~10%のエンタクチン(全て質量%)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記3Dマトリックスが、好ましくは10~30の粘弾性貯蔵弾性率G’を有するヒドロゲルである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
毛細血管が内皮及び血管周囲の周皮細胞を有する基底膜を含む、毛細血管の相互接続ネットワークを含む人工血管オルガノイド培養物。
【請求項9】
前記オルガノイドが、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって産生される、請求項8に記載の人工血管オルガノイド培養物。
【請求項10】
前記毛細血管が、コラーゲンを有するヒドロゲルを含む人工3Dマトリックス内に埋め込まれている、請求項8又は9に記載の人工血管オルガノイド培養物。
【請求項11】
前記オルガノイド培養物が、個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数すると40~1000個の血管を含む、請求項8、9、又は10の人工血管オルガノイド培養物。
【請求項12】
前記毛細血管が1μm~30μmの平均直径を有し、及び/又は内皮細胞と血管周囲の周皮細胞の比率が100:1~1:5であり、及び/又は前記毛細血管が成熟内皮細胞及び/又は成熟周皮細胞を含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の人工血管オルガノイド培養物。
【請求項13】
非ヒト動物モデルにヒト毛細血管を提供する方法であって、前記ヒト毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含み、請求項8~12のいずれか1項に記載のヒト血管オルガノイドを非ヒト動物に導入する工程と、前記オルガノイドにその毛細血管を増殖させる工程とを含み、好ましくは、前記ヒトオルガノイドは前記非ヒト動物の腎臓の上又は中に導入される、上記方法。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか1項に記載の挿入された人工血管オルガノイド培養物を含む非ヒト動物モデル、又はヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデルであって、前記ヒト毛細血管が、内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含み、好ましくは、前記人工血管オルガノイド培養物の毛細血管又は前記ヒト毛細血管が、前記非ヒト動物の血液循環系によって灌流される、上記モデル。
【請求項15】
前記血管又は毛細血管が病因に曝され、前記オルガノイド又はヒト動物モデルが病態のモデルであり、好ましくは、病因が高血糖症及び/又は炎症を含み、及び/又は前記病態が糖尿病であり、好ましくは前記炎症が1つ以上の炎症性サイトカイン、好ましくはTNF-アルファ及び/又はIL-6への曝露を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法又は培養物又は非ヒト動物モデル。
【請求項16】
病因または病態に影響を及ぼす候補化合物をスクリーニングする方法であって、請求項1~15のいずれか1項に記載の培養物若しくは非ヒト動物モデルに、又は前記培養物若しくは非ヒト動物モデルの生成中に、前記候補化合物を投与し、候補化合物を投与していない前記培養物又は動物モデルと比較して、前記培養物又は動物モデルの生理学的差異をモニターすることを含む上記方法。
【請求項17】
組織置換療法、特に好ましくは前記人工血管オルガノイドを創傷内に配置し、前記人工血管オルガノイド培養物を創傷内に組み込むことを含む治療法におけるインプラントとしての、請求項8~12のいずれか1項に記載の人工血管オルガノイドの使用。
【請求項18】
糖尿病性血管障害、閉塞性血管障害、血管透過性の変化、組織低酸素症、心臓病、脳卒中、腎疾患、失明、創傷治癒障害、又は慢性皮膚潰瘍などにおける、肥厚した毛細血管基底膜の治療又は予防における、Notch3活性化経路阻害剤の使用。
【請求項19】
前記Notch3活性化経路阻害剤が、ガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤、又はこれらの組み合わせである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項1~7のいずれか1項に記載の人工血管オルガノイドの生成に適したキットであって、(i)Wntアゴニスト又はGSK阻害剤、(ii)VEGF、好ましくはVEGF-A、FGF、好ましくはFGF-2、BMP、好ましくはBMP4から選択される血管分化因子、(iii)好ましくは10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIV(全て質量%)を含むコラーゲン3Dマトリックス、を含む上記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工血管オルガノイドの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
血管は、血管疾患と呼ばれるさまざまな疾患にかかりやすい。血管のネットワークに障害があるとさまざまな健康上の問題が発生する可能性があり、これらは深刻な場合や致命的な場合がある。このような疾患は、環境的な病因により引き起こされるか、又は発生障害に起因する可能性がある。
【0003】
Goodwin (Microvasc Res. 2007; 74(2-3): 172-183)は、多くの疾患の病因における血管新生に影響を与える薬剤の活性を評価するために、インビトロの血管新生アッセイについて説明している。
【0004】
Duffy et al. (European Cells and Materials 21, 2011: 15-30)は、表面接着2D培養におけるコラーゲン-グリコサミノグリカン足場のインビトロ血管新生について説明している。
【0005】
Nakagami et al. (Hypertension 2006; 48:112-119) は、胚性幹細胞を内皮細胞及び血管平滑筋細胞を含む発芽血管に強制的に発生させるマトリゲルを使用する、細胞-マトリックス相互作用による血管新生の方法を提供する。
【0006】
Kusuma et al. (PNAS 110(31), 2013: 12601-12606)、 Gerecht-Nir et al. (Laboratory Investigation 83(12), 2003: 1811-1820)、国際公開第2007/140340A2号、国際公開第2014/145871A1号、US2014/273220A1、及び国際公開第2017/015415A1号は、工学作成されたマトリックスにおける分離された初期血管細胞からの血管構造の形成について記載している。マトリックスに導入する前に、細胞は、初期血管細胞に分化し、次に個別化(トリプシン処理及び/又は40μmメッシュによるろ過により)されたヒト多能性(pluripotent)幹細胞から得られる。個々の細胞はマトリックス内で増殖し、そこで集合して血管ネットワークを形成する。これらの論文の目標は、再生医療に役立つ自己集合性細胞を提供することであった。
【0007】
国際公開第2011/115974A1号は、表面に2D培養血管ネットワークを形成するための装置に関する。
【0008】
Shen et al. (Cell Research 13 (5) (2003): 335-341) は、成体ウサギの平滑筋細胞からの、及びマウスの分化内皮細胞からの工学作成血管の形成を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし以前の血管モデルは、インビボで形成された自然の血管ネットワークとの十分な類似性に欠けており、従って、改善された、より実物に近い血管モデルが必要である。
【0010】
従って、本発明の目的は、疾患モデル及びスクリーニング手順での試験などのより幅広い用途を可能にするモデルに加えて、改善された血管モデルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込み、そして前記コラーゲン3Dマトリックスにおける凝集体の血管分化を刺激することを含む、人工血管オルガノイドを生成する方法を提供する。
【0012】
密接に関連する態様において本発明は、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含むコラーゲン3Dマトリックス内に血管幹細胞を埋め込むことと、前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記幹細胞の血管分化を刺激することとを含む、人工血管オルガノイドを生成する方法を提供する。
【0013】
このような方法を使用して、本発明のさらなる態様を形成する血管オルガノイドを提供することができる。特に本発明は、毛細血管の相互接続ネットワークを含む人工血管オルガノイド培養物を提供し、ここで前記毛細血管は、内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを含み、(i)前記オルガノイドは本発明の方法により産生され、及び/又は(ii)前記毛細血管は、コラーゲンを有するヒドロゲルを含む人工3Dマトリックス内に埋め込まれており、及び/又は(iii)前記オルガノイド培養物は、個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数すると40~1000個の血管を含む。3つの全ての特徴(i)、(ii)、(iii)は本発明の代表的特徴であり、これらは本発明の人工血管オルガノイド培養物によって個々に又は組み合わせで必要とされ得る。
【0014】
本発明はさらに、非ヒト動物モデルにヒト毛細血管を提供する方法を提供し、ここで前記ヒト毛細血管は、内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含み、前記方法は、本発明のヒト血管オルガノイドを非ヒト動物に導入する工程と、上記オルガノイドに毛細血管を増殖させる工程とを含む。
【0015】
本発明はまた、このような人工血管オルガノイド培養物、例えば挿入体を含む非ヒト動物モデルにも関する。さらに、ヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデルが提供され、ここで前記ヒト毛細血管は、内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含む。
【0016】
本発明はさらに、本発明の培養物又は非ヒト動物モデルの使用、又は例えば糖尿病などの病態のモデルとしてそれらを生成する方法に関し、ここで、オルガノイド又は非ヒト動物モデルにおけるオルガノイドは、病因に曝されて、前記病態、例えば糖尿病における高血糖症又は膵臓ベータ細胞の破壊を発症しやすい。
【0017】
本発明はさらに、病因または病態に影響を及ぼす候補化合物(candidate chemical compound)をスクリーニングする方法であって、前記候補化合物を、本発明の任意の態様による培養物又は非ヒト動物モデルに、又は前記培養物又は非ヒト動物モデルの生成中に投与し、前記候補化合物を投与していない培養物又は動物モデルと比較して、前記培養物又は動物モデルにおける生理学的差異をモニターすることを含む、上記方法を提供する。
【0018】
本発明は、糖尿病の新しい治療モデルを提供している。すなわち本発明は、例えば糖尿病性血管障害、閉塞性血管障害、血管透過性の変化、組織低酸素症、心臓病、脳卒中、腎疾患、失明、創傷治癒障害、又は慢性皮膚潰瘍における厚膜毛細血管基底膜の治療又は予防における、Notch3活性化経路阻害剤(例えば、ガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤、又はこれらの組み合わせ)の使用を提供する。厚膜毛細血管基底膜は、を含む。また、このような治療又は予防で使用するためのNotch3活性化経路阻害剤(例えば、ガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤)、又はこのような治療又は予防のための医薬品若しくは医薬組成物の製造に使用するためのNotch3活性化経路阻害剤(例えば、ガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤)の使用も提供される。
【0019】
最後に、本発明は、(i)Wntアゴニスト又はGSK阻害剤、(ii)VEGF、FGF、BMPから選択される血管分化因子、(iii)コラーゲン3Dマトリックスを含む、本発明の任意の方法による人工血管オルガノイドの生成に適したキットを提供する。
【0020】
本発明の全ての実施態様は、以下の詳細な説明で一緒に説明され、全ての好適な実施態様は、同様に、全ての実施態様、態様、方法、オルガノイド、動物モデル、用途、及びキットに関連する。例えばキット又はこれらの構成要素は、本発明の方法で使用されるか、又は本発明の方法に適している。記載された方法で使用されるいかなる構成要素も全てキットに含まれ得る。本発明のオルガノイドは本発明の方法の結果であるか、又は本発明の方法及び用途に使用することができる。本発明の方法の好適な詳細な説明は、本発明の得られた又は使用されたオルガノイド又は動物モデルの適合性について、同様に理解される。特に他に明記されない限り、全ての実施態様は互いに組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒト幹細胞からのヒト血管ネットワークの生成。a、ヒト胚性幹細胞(ESC)とヒトiPSCとを、血管ネットワークと自由浮遊性血管オルガノイドに分化させるためのプロトコールの概略図。下のパネルは、示された分化段階で観察された代表的な形態を示す。b、c、CD31発現内皮細胞の免疫蛍光は、コラーゲンI/マトリゲルマトリックスにおける複雑な相互接続された血管ネットワークの確立を示す。d、共焦点画像解析に基づくCD31+血管ネットワークの3D再構成。再構成のスケールは3つの軸で示される。e、ICAM-1発現の誘導により明らかにされた3D内皮ネットワークのTNFα媒介活性化。f~h、CD31+内皮及び周皮細胞特異的マーカーCNN1、PDGFRβ、及びSMAによって決定される血管ネットワークの内皮(緑)及び周皮細胞(赤)の範囲。基底膜の形成はIV型コラーゲン(ColIV)の発現によって示される。i、内皮管を覆う基底膜の沈着を視覚化するためのIV型コラーゲン(ColIV)の免疫蛍光法により示される自己組織化ヒト毛細血管オルガノイド。注目ことに、b~i中のデータは、ヒト胚性幹細胞に由来する血管オルガノイドからのものである。DAPI染色は核を画像化することが示されている。倍率は各パネルに示される。
図2】成熟した連続的なヒト毛細血管の生成。a、自由浮遊性オルガノイドは、PDGFRβの発現によって決定されるように、周皮細胞によってしっかりと覆われた高密度内皮ネットワーク(CD31+)を示す。自由浮遊性オルガンオイド全体について3D再構成が示される(左上のパネル)。b、CD31+内皮の免疫蛍光法及びH&E染色により示される、自由浮遊性血管オルガノイドにおける内皮管腔形成。c、自由浮遊性血管オルガノイドの代表的な電子顕微鏡写真。密着結合(白い矢じり)と基底膜(黒い矢印)の外観を有する管腔化された連続的な毛細血管様の構造の生成に注目されたい。L、管腔;E、内皮細胞。d、CD31+端細胞(矢じり)は新しく形成されている細胞を示す。血管新生の部位にColIV+基底膜が存在しないことに注目されたい。倍率は各パネルに示されている。
図3】マウスにおける機能的ヒト血管樹の確立。a、NOD/SCIDマウスの腎被膜へのヒト血管オルガノイドの移植。左上のパネルは移植部位を示す(矢印)。ヒトオルガノイド由来の血管系は、マウス腎臓の染色(挿入図)に例示されるマウス内皮と交差反応しないヒト特異的CD31抗体によって視覚化される。b~c、FITC-デキストラン灌流(緑)により明らかにされたマウスにおける機能的ヒト血管系(ヒト特異的抗CD31免疫染色により検出、hCD31、赤)。d、灌流されたヒト血管を標識するためのヒト特異的抗CD31抗体の注入。マウス血管は、マウス特異的抗CD31抗体によって視覚化される(mCD31、緑色)。e、H&E染色された組織切片で示されるヒト血管オルガノイド移植物内に出現する代表的な細動脈(A)及び細静脈(V)。f、ヒトの移植された血管オルガノイドにおけるヒト細動脈(A)及び細静脈(V)の生成。細動脈は、SMA、カルポニン、及びMYH11免疫染色によって検出される血管平滑筋細胞(vSMC)でしっかりと覆われた、ヒトCD31+内皮細胞(赤色)の染色によって示される。細静脈は、典型的な平らな内皮表現型とまばらなvSMC範囲を示す。マウス細動脈の内皮細胞は、腎血管で示されるように、ヒト特異的CD31抗体と交差反応しない(右下のパネル)。倍率は各パネルに示されている。g、MRIで測定された代表的な軸方向T2強調画像、血流(灌流)、相対血液量(rBV)、平均通過時間(MTT)及び漏れ(K2)。軸面は、腎臓(白で縁取られた)とインプラント(赤で縁取られた)の両方が見えるように選択された。筋肉組織は緑色で縁取られている。灌流、rBV、MTT、及びK2の定量値(±SD)を以下の表に示される。n=3匹のマウスが分析された。
図4】ヒトの血管オルガノイドにおける糖尿病性微小血管障害のモデル化。a、PAS染色(左)及び基底膜を検出するためのCD31+内皮細胞とColVの染色により示される、後期2型糖尿病患者の皮膚生検における皮膚毛細血管の基底膜肥厚。非糖尿病患者の皮膚血管が対照として示される。b、後期2型糖尿病患者及び非糖尿病患者の皮膚毛細血管の代表的な電子顕微鏡写真は、非糖尿病対照(矢じり)の基底膜と比較して、糖尿病患者(両側の矢印)の異常に厚い基底膜の形成を示す。L、管腔;E、内皮細胞;P、周皮細胞。棒グラフは、基底膜の肥厚の定量を示す(平均値±SD)。n=6。***p<0.001(対応のない両側t検定)。c~d、ヒト血管オルガノイドは、高血糖[75mMグルコース]時のIV型コラーゲンの沈着の増加を示し、これは、炎症誘発性サイトカインIL6[1ng/mL]及びTNFα[1ng/ml]と組合せた高グルコース(「糖尿病カクテル」)による処理により、さらに顕著に増加している。c、基底膜の肥厚の代表的な画像。挿入図は管腔血管の共焦点断面を示す。d、共焦点断面を使用して、IV型コラーゲンの肥厚を定量した。個別に測定された血管は点で示される。3つの独立した生物学的複製物から、実験条件ごとに130を超える血管内腔を分析した。***p<0.001(スチューデントt検定)。e、高グルコース/IL6/TNFα処理は、ヒト毛細血管の内側を覆うColIV陽性基底膜の顕著な拡張をもたらす。右のパネルは、CD31+内皮管を直接被覆する基底膜の肥厚の3D再構築を示す。カプロニン免疫染色は周皮細胞をマークする。f、「糖尿病」及び非糖尿病条件下で培養された血管オルガノイドの代表的な電子顕微鏡画像は、糖尿病治療時の顕著な基底膜肥厚を確認している。糖尿病条件における基底膜の複数の層(両側矢印)に注目されたい。これは、対照オルガノイド(矢じり)では観察することができない。L、管腔;E、内皮細胞;P、周皮細胞。全ての倍率が示されている。
図5】γ-セクレターゼの阻害は、糖尿病性血管オルガノイドの血管基底膜の肥厚を抑止する。a、糖尿病条件(高グルコース/IL6/TNFα)及び非糖尿病条件下で培養した血管オルガノイドから選別したCD31+内皮細胞FACSのトランスクリプトーム分析。示差的に発現された遺伝子及び上位5つのアップレギュレートされた遺伝子(p値でランク付け)とアップレギュレートされた遺伝子のGO:生物学的プロセスのヒートマップが、糖尿病と非糖尿病の状態を比較して示されている。「糖尿病」血管オルガノイドとII型患者由来の皮膚内皮CD31+細胞からのアップレギュレートされた遺伝子を比較する一般的なGO:分子機能項は、それぞれのp値でプロットされる。患者のアップレギュレートされた遺伝子は、非糖尿病の個体からの選別されたCD31+内皮細胞と比較して、II型糖尿病患者から選別されたCD31+内皮細胞から得られた。b、c、一般的に処方されている糖尿病薬は、糖尿病カクテル(高グルコース/IL6/TNFα)によるヒト血管オルガノイドの処理時の基底膜肥厚に影響しない。b、コラーゲンIV(ColIV)染色を使用した基底膜肥厚の代表的な画像。挿入図は、コラーゲンIVで覆われた内腔血管の共焦点断面を示す(緑)。c、基底膜の肥厚を定量するために光学断面を使用した。各管腔化された血管は点として表示される。3つの独立した生物学的複製物から各実験条件について、130を超える管腔を分析した。***p<0.001(ビヒクルと薬物処理されたオルガノイドを、オルガノイドが非糖尿病条件下で並行して培養されたオルガノイドを比較するスチューデントのt検定)。示された比較に加えて、他の全ての薬物処理は、非糖尿病条件と比較してp<0.001であり、それぞれのビヒクル糖尿病条件対照と比較して有意ではなかった。薬剤の投与量と培養条件は、方法に記載されている。d、e、DAPTによるγ-セクレターゼの阻害は、ColIVによって視覚化された、「糖尿病」条件下で培養された血管オルガノイドの血管基底膜の肥厚を抑止する。d、さまざまなシグナル伝達経路の小分子阻害剤で処理された糖尿病血管における基底肥厚の代表的な画像。挿入図は、コラーゲンIVに包まれた内腔血管の共焦点断面を示す(ColIV、緑)。e、共焦点断面を使用して、基底膜の肥厚を定量した。130を超える管腔化された血管(各血管は個々の点として表示される)は、3つの独立した生物学的複製物から各実験条件で分析された。**p<0.01;***p<0.001(スチューデントt検定)。注目すべきことに、示された比較に加えて、他の全ての薬物処理は非糖尿病条件と比較してp<0.001であり、ビヒクル糖尿病条件対照と比較して有意ではなかった。薬物の投与量及び培養条件は、方法に記載されている。f、g、γ-セクレターゼ阻害剤DAPTによる基底膜肥厚の防止は用量依存的である。定量により、示された条件に曝露された少なくとも異なるオルガノイドからの130を超える管腔の管腔化構造(点)のColIV厚さが示される。***p<0.001(スチューデントt検定)。
図6】ヒトES細胞の血管オルガノイドへの分化。a、3D内皮管における内皮マーカーCD31及びVE-カドヘリンの共発現。コラーゲンIマトリックス中で増殖されたESC由来のオルガノイドの代表的なデータを示す。b、c、ヒトiPS細胞は、CD31+陽性管中で効率的に分化する。b、20回を超えて繰り返した実験の代表的な画像を示す。c、共焦点画像解析に基づくiPS細胞に由来するCD31+血管ネットワークの3D再構築。再構成のスケールは3つの軸で示される。b及びcのデータ、及びコラーゲンマトリックス内で増殖されたオルガノイドのデータ。d、iPS細胞由来の自由浮遊性オルガノイド全体の3D再構築を示す。データは、抗CD31抗体で画像化されたオルガノイド全体の共焦点画像解析を使用して得られた。再構成のスケールは3つの軸で示される。全ての倍率はパネルに示される。
図7】血管オルガノイドの分子特性解析。a、示された組織からの遺伝子型-組織発現(GTEx)RNASeqデータと比較した、血管オルガノイドからのFACS選別したCD31+内皮細胞のトランスクリプトームのヒートマップ(RNAseq)。インビトロで生成された内皮管の遺伝子発現プロフィールは、ヒトの血管組織(GTEX_Artery_Coronary、GTEX_Artery_Aorta GTEX_Artery_Tibial)と最も密接にクラスター形成する。b、多能性、血管周囲細胞、及び内皮細胞のマーカー遺伝子のヒートマップ。血管オルガノイドからのFACSで選別されたCD31+内皮細胞を、既に公開された2D培養条件のiPS細胞由来の初代及び分化内皮細胞と比較した(Patsch et al. Nat. Cell Biol. 17, 994-1003 (2015))。c、血管オルガノイド中のCD31+内皮管(緑)を取り囲む基底膜を画像化するラミニン発現(青)。コラーゲンIマトリックス中で増殖したヒトESC由来の血管オルガノイドの代表的な画像を示す。倍率はパネルに示される。
図8】一般的な糖尿病のげっ歯類モデルは、皮膚の微小血管系に基底膜肥厚を示さない。a、非糖尿病対照コホートと比較した、示された糖尿病のラット及びマウスモデルにおける皮膚の毛細血管の基底膜の厚さの定量。詳細については、補足表2を参照されたい。データは、分析された血管の平均値±SDとして示される。コホートあたり5匹を超える動物。年齢を合わせたC57BL/KsJ及びC57BL/KsWTマウスを対照として使用した。ZDFラットモデルについて、ヘテロ接合性ラット(fa/+)を対照として使用した。基底膜の肥厚は、コラーゲンIV免疫染色の形態計測分析に基づいて決定された。b、CD31+(赤)陽性血管を覆うColIV(緑)沈着を証明するためのさまざまなマウスモデルの皮膚切片の代表的な画像。
図9】ヒトESC由来血管オルガノイドの基底膜肥厚。a、ES細胞由来の血管を糖尿病培地(高グルコース/IL6/TNFα)又は通常の条件下(非糖尿病)で処理した。基底膜の肥厚は、CD31陽性(赤)内皮管の周りのColIV特異抗体(緑)を用いて視覚化された。挿入図は共焦点断面を示す。CNN1は周皮細胞を示す。b、糖尿病性血管オルガノイドにおけるColIV発現の増強。Col4a1及びCol4a2の発現は、糖尿病培地(高グルコース/IL6/TNFα)で2週間処理された血管オルガノイド中でqPCRにより決定され、未処理の対照オルガノイドと比較した。値は平均±SDとして示される。*p<0.05(スチューデントt検定)。15を超える血管オルガノイドのプールを2つの独立した実験で使用した。
図10】血管オルガノイドにおける内皮細胞及び周皮細胞への多能性幹細胞の効率的な分化。a、18日目の確立された血管ネットワークと30日目の後期血管オルガノイドを、FACSによって内皮細胞と細胞周囲の含有量について分析した。いずれの場合も、分化後の細胞集団の80%超が内皮細胞(CD31+)及び周皮細胞(CD140b+)である。P、周皮細胞;EC、内皮細胞。b、造血細胞(CD45+)はほとんど生成されず(約1%)、分化後に見られた細胞の約10%は間葉系幹細胞様の細胞(CD73+、CD90+)である。
図11】血管オルガノイド中の成熟内皮細胞。a、血管オルガノイド中の内皮細胞は、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)を発現し、ワイベルパラード体の形成を示す(右のパネル)。b、血管オルガノイド中の毛細血管構造へのUlex Europaeus アグルチニン1(UEA-1)の結合は、成熟内皮細胞の存在を示す。c、自由浮遊性血管オルガノイド中の成熟内皮細胞は、アセチル化LDL(ac-LDL)を効率的に取り込む。
図12】糖尿病マウス中の移植されたヒト血管の基底膜肥厚。血管オルガノイドを免疫不全NOD/SCID/ガンマ(NSG)マウスに移植し、その後(1か月後)マウスをストレプトゾトシン(STZ)で処理して重度の高血糖症を誘発した。3ヶ月後、ヒト移植物を採取し、糖尿病性基底膜肥厚について分析した。移植されたオルガノイド由来の血管は、ヒト特異的CD31(hCD31)抗体を使用して同定された。IV型コラーゲン染色(上のパネル)及び電子顕微鏡(中央のパネル;矢印は沈着したコラーゲンフィブリルを示す)により、正常血糖マウス(Ctrl)と比較して、糖尿病マウス(STZ)由来のヒト血管オルガノイド中の重度の基底膜肥厚が証明された。対照的に、マウス腎臓の内因性血管は、その段階で基底膜の変化を示さない(下のパネル;A、細動脈、C、毛細血管)。腎臓にCD31シグナルが存在しないことは、抗体のヒト特異性を証明する。
図13】糖尿病性血管退縮は、ヒト血管オルガノイド移植物で再現される。ヒト血管オルガノイドは、糖尿病を誘発するためにSTZで1ヶ月処理されたNSGマウスに移植された。糖尿病誘発の3か月後に内皮(CD31)及び周皮細胞(SMA)染色(上のパネル)で示されるように、正常血糖マウス(Ctrl)と比較して、糖尿病マウス(STZ)からの移植物は血管密度の全体的な低下を示す。糖尿病マウス(STZ)のヒト血管は、丸くなった細胞(塗りつぶされた矢じり)で示される内皮アポトーシスやSMA陽性血管壁での内皮細胞の欠如(空の矢じり)などの血管退行の兆候を示す。
図14】Notch3受容体又はリガンドDll4をブロックすると、糖尿病性基底膜肥厚が阻害される。血管オルガノイドを糖尿病培地(高血糖+IL-6+TNF-α)を用いてインビトロで2週間処理すると、IV型コラーゲン染色(ColIV)で示されるように、対照培地(Ctrl)と比較して、毛細血管の大きな基底膜肥厚を引き起こした。糖尿病性血管基底膜肥厚を防ぐことが可能な、以前同定されたγ-セクレターゼ阻害剤DAPTの直接の標的を解明するために、機能的ブロッキング抗体(α-Notch1、α-Notch3、α-Jagged1)及び非架橋組換えタンパク質(Dll1、Dll4)を糖尿病条件下で使用して、Notch経路の特定のメンバーを阻害した。Notch-1、Jagged-1、又はDll1のブロッキングは、血管基底膜の糖尿病媒介肥厚に影響を与えなかったが、Notch-3又はDll4のブロッキングは、基底膜肥厚を完全にブロックした。血管系では、Notch3受容体は周皮細胞上に特異的に発現され、NotchリガンドDll4は内皮に発現され、これは、Notch3/Dll4を介したこれら2つの細胞タイプ間のクロストークが糖尿病性血管基底膜肥厚を媒介することを示唆している。
図15】血管オルガノイドの細胞的及び機能的特性解析。a、最初に生成された血管ネットワークと後期血管オルガノイド(NC8)中に存在するさまざまな細胞集団を決定するためのFACS分析。CD31+内皮細胞、PDGFR-β+周皮細胞、CD45+造血細胞、及びCD90+CD73+間葉系幹細胞(MSC)様細胞の割合。右のパネルの棒グラフは、血管ネットワークと血管オルガノイドにおける内皮細胞(EC)と周皮細胞(P)との相対的な集団を示す。グラフは、実験ごとに50を超える血管ネットワーク/オルガノイドを有するn=2の独立した実験からの平均±S.E.Mを示す。b、多能性、周皮細胞、及び内皮細胞のプロトタイプマーカー遺伝子のヒートマップ。血管ネットワーク又は血管オルガノイドからのFACSで選別したCD31+内皮細胞(EC)とPDGFR-β+周皮細胞(P)をRNAseqによって分析し、親のiPSC系統(NC8)と比較した。c、ICAM-1発現の誘導により明らかにされた血管オルガノイド(NC8)のTNFα媒介活性化。TNFα(用量)の添加の24時間後に、ICAM-1誘導を測定した。DAPIは核の対比染色に使用された。d、血管オルガノイド(NC8)からの内皮細胞(CD31+)におけるフォンビルブラント因子(vWF)の発現。ColIV染色はまた、基底膜の輪郭を示す。右のパネルは電子顕微鏡写真を示し、バイベルパラーデ小体の外観を明らかにしている。e、血管オルガノイド(NC8)の内皮ネットワーク(CD31+)はアセチル化低密度リポタンパク質(ac-LDL)を取り込む。f、レクチンであるUlex europaeus アグルチニン1(UEA-1)染色が陽性である血管オルガノイド(NC8)。スケール棒:d=50μm、500nm(EM上部パネル)、100nm(EM下部パネル)、e、f=100μm、又は画像に示されているとおり。
図16】糖尿病性血管オルガノイドの分析。a、b、非糖尿病培地及び糖尿病(高グルコース/IL6/TNFα)培地中で培養された、(a)CD31+内皮細胞画分、及び(b)PDGFR-β+周皮細胞、の割合を決定するための、血管オルガノイド(H9)のFACS分析。
図17】γ-セクレターゼの阻害は、ヒト血管オルガノイドの糖尿病性微小血管障害を抑止にする。a、FITCデキストランを静脈内注射しhCD31で共染色してヒトの血管を可視化することにより、血管透過性を評価した。血管漏出を示す糖尿病性STZマウスにおける拡散FITCシグナルに注目されたい。DAPT処理により、糖尿病性血管透過性が正常化された。b、FITC-デキストランの血管外遊出により測定される血管漏出の定量。n=(対照=3、STZ=7、STZ+DAPT=5)マウス。**p<0.01、*p<0.05(一元配置分散分析)。c、d、DAPT処理は、糖尿病性STZマウスのヒト血管密度を回復する。ヒト血管移植物の毛細血管密度は、ヒト特異的抗CD31抗体(黒)で染色することにより測定された。c、移植された血管オルガノイドにおけるヒト血管密度の定量。n=(対照=3、STZ=5、STZ+DAPT=4)マウス。***p<0.001(一元配置分散分析)。d、対照、STZ、及びSTZ+DAPT処理マウスにおけるヒトCD31+血管密度の代表的な画像。スケール棒、a、d=50μm、又は画像に示されているとおり。
図18】糖尿病性血管基底膜肥厚の候補経路としてのDll4-Notch3の同定。a、高グルコース/IL6/TNFα(糖尿病)に曝露され、Jagged-1、Notch1、Notch3、又は組換えDll1及びDll4に対する抗体で処理された血管オルガノイド(NC8 iPSC由来)におけるColIVについて染色された基底膜の代表的な画像。挿入図は、IV型コラーゲン(ColIV、緑色)で囲まれた個々の血管の共焦点断面を示す。ColIVで連続的に囲まれた内腔の厚さを光学断面で測定した。定量(右のパネル)のために、等しい試料サイズの3つの独立した生物学的複製物から、各実験条件について合計130を超える管腔を分析した。管腔化された血管からの個々の測定値は点として示される。非糖尿病のオルガノイドの代表的な画像と定量値が対照として示されている。***p<0.001(一元配置分散分析)。b、高グルコース/IL6/TNFα(糖尿病)に曝露されたか、又は標準的な培養条件(非糖尿病)下で維持された、対照、Dll4 KO、及びNotch3 KO血管眼オルガノイド(NC8 iPSC)からのColIVについて染色された基底膜の代表的な画像。ColIVで連続的に囲まれた内腔の厚さを光学断面で測定した。管腔化された血管からの個々の測定値は、右のパネルに点として表示される。等しい試料サイズの3つの独立した生物学的複製物から、各実験条件について合計180を超える管腔を分析した。***p<0.001(一元配置分散分析)。c、ヒト血管オルガノイド(H9 ESC)を移植したSTZマウスをNotch3ブロッキング抗体で処理し、移植物を基底膜マーカーColIV及びヒト特異的CD31で染色して、ヒト血管を可視化した。個々のヒト血管の基底膜の厚さ(hCD31+)は、ColIV染色に基づいて決定された。n>140の血管。***p<0.001(一元配置分散分析)。n=(対照=3、STZ=3、STZ+αNotch3=2)マウス。スケール棒、a、b、c=50μm、c 挿入体=10μm。
図19】Dll4及びNotch3ノックアウトiPSCの作成と内皮細胞及び周皮細胞におけるNotch受容体/リガンドの発現。a、b、CRISPR/Cas9ゲノム編集を使用して、Dll4及びNotch3ノックアウトiPSC(NC8)を生成した。シングルガイドRNA(sgRNA)は、Notch3/Dll4配列及び生成されたインデル(挿入欠失)で示される。c、ウェスタンブロットは、標的iPSC中のNotch3発現の除去を示す。クローン#4(赤)を機能アッセイに使用した。FL、完全長Notch3;TTM、膜貫通Notch3サブユニット。d、血管オルガノイドの免疫染色は、内皮細胞(CD31+)中のDll4の発現を示すが、CRISPR/Cas9ゲノム編集iPSCでは発現されない。スケール棒:e=50μm。e、FACSソーティングにより血管オルガノイドから分離された内皮細胞(EC)及び周皮細胞中で発現されたNotch受容体/リガンドのヒートマップ。スケールはログを示す(標準化されたFKPM)。
図20】血管オルガノイドの表現型の特性解析。a、コラーゲン1/マトリゲルマトリックスにおける分化した(NC8)内皮細胞と周皮細胞の同時培養。形成された内皮ネットワーク(CD31+)は、周皮細胞(PDGFR-β+)との弱い相互作用のみを示し、ColIV+基底膜で覆われていなかった。b、胚性幹細胞(H9)及び2つの独立したiPS細胞株からの血管ネットワークの生成の成功。PDGFR-β+周皮細胞が内皮管(CD31+)に近接しており、ColIV+基底膜が形成されていることに注目されたい。
図21】いくつかのα-セクレターゼ阻害剤は、ヒト血管オルガノイドにおける糖尿病誘発性血管基底膜肥厚を防止する。血管オルガノイドを、糖尿病培地(75mMのグルコース、1ng/mLのIL-6、1ng/mLのTNF-α)中で、γ-セクレターゼ阻害剤(10μMのRO4929097、1μMのデヒドロキシ-LY411575、1μMのLY411575)の存在下又は非存在下で培養した。続いてオルガノイドを固定し、内皮細胞(CD31)、周皮細胞(PDGFR)、及び血管基底膜タンパク質ColIVについて染色した。代表的な画像が示される。糖尿病条件は、ColIV+基底膜(ビヒクル)の量を増加させる。3つの独立したγ-セクレターゼ阻害剤による処理は、糖尿病条件下の基底膜(ColIV)の肥厚を防ぐ。スケール棒50μm。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、人工血管オルガノイドを生成する方法を提供する。このような人工オルガノイドはインビトロで増殖されるが、インビボの毛細血管構造によく似ている。オルガノイドは、生体外で3次元で産生された、臓器の小型化物及び簡略化物であり、実物のような微小解剖学的構造を示す。これらは、組織、胚性幹細胞、又は人工多能性幹細胞からの1つ又は少数の細胞に由来し、その自己再生能力と分化能力とにより3次元培養で自己組織化することができる。
【0023】
ヒト幹細胞に由来する本発明のオルガノイドは、ヒト血管の構造と機能を再現する。胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞からの3D血管オルガノイドが提供される。これらの血管オルガノイドは、内皮、血管周囲の周皮細胞、及び基底膜を含み、自己集合して相互接続された内腔毛細血管ネットワークを形成する。マウスに移植されたヒトの血管オルガノイドは、ヒトの細動脈及び細静脈を含む灌流されたヒトの血管樹を形成する。興味深いことに、インビトロでの血管オルガノイドの高血糖及び炎症性サイトカインへの曝露は、基底膜の肥厚及び内皮細胞の転写変化を引き起こし、糖尿病患者における微小血管の変化を模倣していた。薬物スクリーニングにより、γ-セクレターゼ阻害剤が、血管オルガノイドにおけるこの「糖尿病」血管障害を軽減することが明らかになった。数億人の患者に影響を与える糖尿病性血管障害の治療標的候補としてγ-セクレターゼを特定することで我々が示したように、血管オルガノイドを使用して創薬の疾患モデルを生成することができる。
【0024】
このようなオルガノイドを生成する方法は、血管分化が可能な幹細胞を提供する工程と、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激する工程と、前記幹細胞における血管分化を刺激する工程と、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させる工程と、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込む工程と、前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記凝集体の血管分化を刺激する工程とを含む。
【0025】
血管分化が可能な幹細胞は、例えば多能性幹細胞(pluripotent stem cell)である。多能性幹細胞は胚性幹細胞に由来するか、又は人工多能性幹細胞(pluripotent stem cell:iPS)であり得る。iPSが好ましい。
【0026】
幹細胞は中胚葉血管経路に分化する。分化は、細胞に組織(中胚葉/血管)特異的増殖因子又は分化因子を接触させることにより達成され得る。次に、細胞を所望の組織に発生させることができる。このような組織特異的増殖因子又は分化因子は、好ましくは本発明の方法の異なる段階で使用される中胚葉及び/又は血管分化因子であり得る。これにより、後の発生におけるそれぞれのタイプの細胞組織への発生が決定される。これにより、細胞は多能性(pluripotent)細胞から複能性(multipotent)細胞に移行する。その場合、他のタイプの組織は多能性状態になり得ないか、又は復帰によってのみ多能性状態が再び可能になる。通常、全ての細胞が選択した組織タイプに分化するわけではない。通常、細胞の約50%以上、又は少なくとも55%、又は少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%が、選択されたタイプの組織(特に中胚葉)への分化を開始し、形質転換して、最初のそれぞれの組織の運命を有する複能性細胞(細胞量の割合としての%値)による分化能を低下させるなら、充分である。もちろん、この分化の運命は、人工的な増殖と脱分化の刺激を使用により未分化状態又は低分化状態に戻らない細胞にのみ適用される。明らかに体細胞でさえも多能性細胞に戻すことができるが、これは本明細書で分化状態を定義する場合には当てはまらない。好ましくは、いったん中胚葉又は血管分化が開始されると、細胞を多能性細胞に戻す因子は細胞に導入されない。
【0027】
本発明のオルガノイドは、多能性幹細胞を培養することから得ることができる。原則として、倫理的な理由が許せば、細胞はまた全能性(totipotent)でもあり得る。
【0028】
「全能性」細胞は、発生中に通常生じるような刺激への曝露後に、体内のあらゆる細胞型(生殖細胞系を含む)に分化することができる。従って全能性細胞は、生物全体に成長する、すなわち発生することができる細胞として定義され得る。
【0029】
本発明の方法で使用される細胞は、好ましくは全能性ではなく、(厳密に)多能性である。
【0030】
特定の好適な実施態様において、本発明の細胞(それに関連する全てのさらなる実施態様を含む)は多能性である。
【0031】
「多能性」幹細胞は、全生物に成長することはできないが、3つの胚葉全て、つまり中胚葉、内胚葉、外胚葉に由来する細胞タイプを生じさせることができ、生物の全てのタイプの細胞を生じさせることができる。多能性は、例えば特定の幹細胞における細胞自体の特徴であり得るか、又は人工的に誘導することができる。例えば。本発明の好適な実施態様において、多能性幹細胞は、多能性が誘導される体細胞、複能性細胞、単能性細胞、又は前駆体細胞から得られる。このような細胞は、本明細書では人工多能性幹細胞と呼ばれる。体細胞、複能性、単能性、又は前駆細胞は、例えば本発明の方法の対象である多能性細胞に変換される患者由来のものが使用される。このような細胞又は得られたオルガノイド培養物は、例えば、本発明の方法によるオルガノイド培養物の発生中に、異常について試験することができる。患者は例えば血管障害に苦しんでいる場合がある。前記障害の特徴は、本発明のオルガノイドで再現し、研究することができる。
【0032】
「複能性」細胞は、生物の2つ以上の異なる器官又は組織のそれぞれから少なくとも1つの細胞型を生じさせることができ、ここで、前記細胞型は同じ又は異なる胚葉に由来し得るが、生物の全ての細胞型を生じさせることはできない。
【0033】
対照的に、「単能性」細胞は、たった1つの細胞系統の細胞に分化することができる。
【0034】
「前駆細胞」とは、幹細胞のように、特定のタイプの細胞に分化する能力を有する細胞であるが、分化する選択肢が限られており、通常は1つの標的細胞のみである。前駆細胞は通常単能性細胞であるが、多能性細胞でもある。
【0035】
分化能力が低下すると、幹細胞は次の順序で分化する:全能性、多能性、複能性、単能性。本発明のオルガノイドの発生中、幹細胞は多能性(全能性細胞も可能)から複能性中胚葉、血管又は内皮幹細胞、さらに内皮細胞及び周皮細胞の単能性幹細胞に分化する。
【0036】
好ましくは、幹細胞は、哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、又は魚類などの脊椎動物に由来する。特に好ましいのは陸生脊椎動物である。可能なのは、非ヒト動物と人間である。特に好ましいのは、マウス、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、非ヒト霊長類などの哺乳動物であり、ヒト細胞が最も好ましい。オルガノイドを含む非ヒト動物モデルは、同じ動物から選択されてもよい。幹細胞と動物モデルは同じ生物でなくてもよい。
【0037】
幹細胞の分化は、当技術分野における標準的な技術となっている。例えば、血管移植物を形成する分化及び成長因子は、国際公開第2016/094166A1号に開示されている。このような増殖因子も、本発明に従って分化因子として使用することができる。
【0038】
本発明の方法は、中胚葉分化を誘導する工程を含む。分化刺激を特異的に1方向(例えば中胚葉)に進める分化刺激と、他のいくつかの分化経路に中胚葉が含まれる非特異的な分化を進める刺激がある。このような非特異的な分化は、Gerecht-Nir et al.で使用されているFBS(胎児牛血清)などの血清によって実現できる(背景欄を参照)。非特異的分化は、外胚葉、神経外胚葉、及び内胚葉を含む、さまざまな胚葉の存在につながる可能性がある。
【0039】
本発明の好適な実施態様によれば、中胚葉特異的分化因子などによって、特定の中胚葉分化が行われる。あるいは、あまり好ましくないが、分化した細胞から中胚葉を選択することができる。選択は、特定の分化刺激と組み合わせることができる。細胞の選択は、細胞の単離と個別化を必要とするため、好ましくない。本発明によれば、細胞はこの段階で凝集体を形成するか凝集体を形成し始めるため、そのような個別化は不利である。好ましくは中胚葉刺激後の細胞は、中胚葉分化におけるその細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、又は少なくとも80%を有する。好ましくは、中胚葉分化は、幹細胞をWntアゴニスト又はGSK阻害剤、好ましくはCHIR99021で処理することを含む。Wntアゴニスト又はGSK阻害剤は、高率の中胚葉分化を達成する。Wntアゴニストは、CHIR99021のようなWnt刺激物質でもよい。
【0040】
幹細胞は血管分化によっても処理される。本発明の方法において血管分化は、特に3Dマトリックス内で連続して又は繰り返して刺激されるが、細胞が凝集体を形成している場合は、細胞の凝集体が3Dマトリックスに導入される前にも刺激される。
【0041】
血管分化は内皮分化を含む場合があり、小さな毛細血管又は毛細血管前駆体形成をもたらす。本方法の初期段階で、例えば3Dマトリックス処理の前に、このような内皮/血管の分化は、3Dマトリックス内の形状を変化させる、充分に規定された実物そっくりの同じ毛細血管はもたらさないかもしれない。
【0042】
中胚葉分化と同様に、好ましくは血管分化は特定の血管分化であり、その細胞の好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、又は少なくとも80%が血管分化している。好ましくは前記幹細胞における血管分化は、幹細胞をVEGF及び/又はFGF及び/又はBMP及び/又は12%(v/v)以下の低酸素条件で処理することを含む。VEGF、FGF、BMP、及び低酸素は組み合わせてもよい。好ましいVEGFはVEGF-Aである。好ましいFGFはFGF-2である。好ましいBMPはBMP4である。低酸素状態とは、12%(v/v)以下の大気酸素、つまり細胞に供給される気相中の酸素である。気相は大気圧であることが好ましい。好ましくは、酸素含有量はさらに少なく、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、例えば6%以下(全てv/vの%)である。酸素含有量は、好ましくは2%以上、例えば2%~12%(全てv/vの%)である。好ましくは細胞は、10ng/ml~50ng/ml、好ましくは約30ng/mlの濃度のVEGFを含む培地で培養される。好ましくは細胞は、10ng/ml~50ng/ml、好ましくは約30ng/mlの濃度のFGFを含む培地で培養される。好ましくは、細胞は、10ng/ml~50ng/ml、好ましくは約30ng/mlの濃度のBMPを含む培地で培養される。
【0043】
3Dマトリックスに導入される前の幹細胞は、細胞の集合体を形成している。好ましくは、これらの細胞は、そのような凝集を可能にする懸濁培養にある。これは、中胚葉及び/又は血管分化のために処理される幹細胞がすでに小さな凝集体であることを意味する。このような凝集体は、通常、安定した3Dマトリックスなしで、液体培地の懸濁培養物に懸濁できるほど小さい。
【0044】
分化後、凝集体中にある分化した幹細胞を3Dマトリックスに埋め込む前に、通常、凝集体の細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、例えば約50%は内皮細胞である。好ましくは凝集体の細胞の少なくとも20%、例えば30%は周皮細胞である。一緒にすると、好ましくは細胞の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、例えば約80%は血管細胞である。
【0045】
いったん凝集体が3Dマトリックス内に埋め込まれると、本発明の方法はまた、前記3Dマトリックスにおける凝集体の血管分化も含む。好ましくは、この血管分化も、特定の血管分化を含む。凝集体の特に好ましい血管分化は、凝集体の細胞をVEGF及び/又はFGFで処理することを含む。好ましいVEGFはVEGF-Aである。好ましいFGFはFGF-2である。好ましくは、マトリックス中の凝集体は、60ng/ml~150ng/ml、好ましくは約100ng/mlの濃度のVEGFを含む培地で培養される。好ましくは、マトリックス中の凝集体は、60ng/ml~150ng/ml、好ましくは約100ng/mlの濃度のFGFを含む培地で培養される。
【0046】
培養後、特に中胚葉及び/又は血管分化中に、幹細胞から形成された細胞凝集体は、3Dマトリックス内に埋め込まれる。3Dマトリックス内に埋め込まれたこの凝集体は、好ましくは少なくとも30個の細胞、又は少なくとも50個の細胞、好ましくは少なくとも100個の細胞、特に好ましくは少なくとも300個の細胞、例えば約1000個の細胞のサイズを有する。好ましくはサイズは、100,000細胞未満、例えば30,000細胞未満である。細胞凝集体は確立されたサイズを有する必要があるが、大きすぎると液体懸濁培養での低い安定性に悩まされる。凝集体とは、細胞間結合と細胞間連結によって互いに結合した細胞の集積である。
【0047】
好ましくは、前記凝集体は、凝集体形成の開始から7~15日目にコラーゲン3Dマトリックス内に埋め込まれる。この時点では、集合体は通常、適切なサイズと分化状態を持っている。望ましいタイムラインを図1aに示す。好ましくは、中胚葉分化刺激(中胚葉誘導)は2~6日目であり、好ましくは血管分化刺激(血管系統の促進)は4~14日目である。
【0048】
細胞を3Dマトリックス内に埋め込むことは、当技術分野で公知である任意の方法によって実行することができる。好ましい方法は、3Dマトリックス材料を流動化し、細胞の凝集体の周りで3Dマトリックスを固化又はゲル化することである。
【0049】
3Dマトリックスはコラーゲンマトリックスであり、これは好ましくは少なくとも50質量%のコラーゲンを有する。コラーゲンには、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、及びコラーゲンIVが含まれる。コラーゲンI及びコラーゲンIVが最も好ましい。好ましくは、前記少なくとも50%は、コラーゲンI又はコラーゲンIVからなり、最も好ましくはコラーゲンIとコラーゲンIVの混合物からなる。
【0050】
凝集体は、3次元(3D)マトリックス中で培養される。3Dマトリックスは、平らな面上の皿の中の2D培養物などの2D培養物とは異なる。「3D培養」とは、培養が片側の壁(皿の底板など)に遮られずに3次元全ての方向に拡張できることを意味する。好ましくは3Dマトリックスを含むこのような培養物は、好ましくは懸濁状態にある。3Dマトリックスはゲル、特に堅く安定したゲルであり、これは、増殖する細胞培養物/組織のさらなる拡張と分化をもたらす。ゲルはヒドロゲルであってもよい。本発明による適切な3Dマトリックスはコラーゲンを含む。より好ましくは3Dマトリックスは、細胞外マトリックス(ECM)、又はコラーゲン、ラミニン、エンタクチン(entactin)、及びヘパリン硫酸化プロテオグリカン、又はこれらの任意の組み合わせから選択される、細胞外マトリックスの任意の成分を含む。細胞外マトリックスは、Engelbreth-Holm-Swarm腫瘍その任意の成分、例えばラミニン、コラーゲン、好ましくは4型コラーゲン、エンタクチン、及び任意選択的にさらなるヘパラン硫酸化プロテオグリカン、又はこれらの任意の組み合わせに由来し得る。このようなマトリックスはマトリゲルである。マトリゲルは、当技術分野で公知であり(米国特許第4,829,000号)、すでに3D心臓組織(国際公開第01/55297A2号)又は神経組織(国際公開第2014/090993号)をモデル化するために使用されている。好ましくはマトリックスは、ラミニン、コラーゲン、及びエンタクチンを含み、好ましくは20%~85%のラミニン、3%~50%のコラーゲン、及びマトリックスがゲルを形成するのに充分なエンタクチン、通常0.5%~10%のエンタクチンを含む。コラーゲンの量がゲル形成に不十分な場合、ラミニンはゲルを形成するためにエンタクチンの存在を必要とする場合がある。マトリゲルが豊富なマトリックスは、質量部で約50%~85%のラミニン、5%~40%のコラーゲンIV、任意選択的に1%~10%のニドゲン(nidogen)、任意選択的に1%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び1%~10%のエンタクチンを含む少なくとも3.7mg/mlの濃度を含んでもよい。本発明によれば、コラーゲン含有量は好ましくは増加し、特にコラーゲンIが特に好ましい。全ての実施態様において本発明の特に好ましいマトリックスは、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含み、好ましくは、さらに0.5%~10%のニドゲン、0.5%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び/又は0.5%~10%のエンタクチン(全て質量%)を含む。これらの割合は、固体のタンパク質成分のみに関連し、すなわち水(これはヒドロゲルの主要成分である)などの液体成分ではない。マトリゲルの固形成分は通常、約60%のラミニン、30%のコラーゲンIV、及び8%のエンタクチンを含む。3Dマトリックスは、マトリゲルとコラーゲンの混合物、例えば2:1~1:3、好ましくは約1:1のマットリゲル:コラーゲンIの混合物でもよい。マトリックス成分に与えられた全ての%値は質量%である。これらの値は供給源に応じて、例えば±30%異なる場合がある。エンタクチンは、ラミニン及びコラーゲンと相互作用する架橋分子である。このようなマトリックス成分は、工程r)で追加することができる。これらの構成要素はまた、本発明のキットの好ましい部品でもある。3Dマトリックスは、EGF(表皮増殖因子)、FGF(線維芽細胞増殖因子)、NGF、PDGF、IGF(インスリン様増殖因子)、特にIGF-1、TGF-β、組織プラスミノーゲンアクチベーターのなどの増殖因子をさらに含むことができる。3Dマトリックスはまた、これらの成長因子のいずれも含まない場合もある。
【0051】
一般に、3Dマトリックスは生体適合性マトリックスの3次元構造物である。これは好ましくは、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、ヒアルロナン、メチル細胞ロース、ラミニン、及び/又はアルギン酸塩を含む。マトリックスは、ゲル、特にヒドロゲルでもよい。有機化学ヒドロゲルは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸ポリマー、及び豊富な親水性基を有するコポリマーを含んでもよい。ヒドロゲルは、親水性のポリマー鎖のネットワークを含み、時々、水が分散媒体であるコロイドゲルとして見られる。ヒドロゲルは、吸収性が非常に高い(99質量%を超える水を含む)天然又は合成ポリマーである。また、ヒドロゲルはと水分量が多いため、天然組織に非常に近い柔軟性を備えている。3次元マトリックス、又はその成分、特にECM又はコラーゲンが、生成された組織培養物中にまだ残っている可能性がある。好ましくは、3Dマトリックスはコラーゲンマトリックスであり、これは好ましくはI型及び/又はIV型コラーゲンを含む。
【0052】
好ましくは、3Dマトリックスはヒドロゲルである。マトリックス、特にヒドロゲルは10~30の粘弾性貯蔵弾性率G’を有する。粘弾性材料の貯蔵弾性率は、弾性部分を表す貯蔵エネルギーと、粘性部分を表す熱として放散されるエネルギーを測定する。本発明に従って使用することができる貯蔵弾性率を、例えばレオメーターにより測定する方法は、Anguiano et al. PLoS ONE 2017, 12(2): e0171417に記載されている。
【0053】
好ましくはコラーゲン3Dマトリックスは、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含み、好ましくは、さらに0.5%~10%のニドゲン、0.5%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び/又は0.5%~10%のエンタクチン(全て質量%)を含む。マトリゲルは通常、50%~85%のラミニン、5%~40%のコラーゲンIV、1%~10%のニドゲン、1%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び1%~10%のエンタクチン(固体のタンパク質成分のみ)を含む。
【0054】
本発明はまた、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%を含むコラーゲン3Dマトリックス内に血管幹細胞を埋め込み、前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記幹細胞の血管分化を刺激することとを含む、人工血管オルガノイドを生成する方法を提供する。これまで説明した全ての態様及び好適な実施態様はこの方法にも適用され、これも本発明の独立した態様を形成する。本明細書では、このような3Dマトリックスは、インビボの血管ネットワークを連想させる非常に好適な血管ネットワークをもたらすことが示される。特に、このようなネットワークは大きな管腔を有し、モデル動物の循環系に接続してモデル動物に組み込むことができる。好ましくは、血管幹細胞は、中胚葉幹細胞を血管幹細胞に分化させることにより生成され、中胚葉幹細胞は好ましくは、前述のように、特に多能性幹細胞における中胚葉分化を刺激することにより得られる。これらの全ての態様は、上記の説明と組み合わせることができる。
【0055】
本発明の全ての実施態様及び態様において、好ましくは凝集体の細胞は、前記3Dマトリックス中で少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日間培養される。3Dマトリックス中での培養は、5~60日間以上、好ましくは少なくとも10日間であり得る。
【0056】
3Dマトリックス自体は、懸濁培養で懸濁してもよい。
【0057】
3Dマトリックス内では、集合体は血管ネットワークを形成し、基底膜を形成する血管周囲の周皮細胞に囲まれた内皮細胞によって形成される内皮を含む血管ネットワークを形成し、これはさらに後で説明される。血管ネットワークの自己集合は、通常、マトリックスへの血管の発芽による発芽する血管新生を通じて生じる。
【0058】
本発明はさらに、毛細血管の相互接続ネットワークを含む人工血管オルガノイド培養物を提供し、前記毛細血管は内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを含み、(i)前記オルガノイドは本発明の方法により産生され、及び/又は(ii)前記毛細血管は、コラーゲンを有するヒドロゲルを含む人工3Dマトリックス内に埋め込まれており、及び/又は(iii)前記オルガノイド培養物は、個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数すると40~1000個の血管を含む。3つの全ての特徴(i)、(ii)、及び(iii)は、本発明の代表的特徴であり、本発明の人工血管オルガノイド培養物によって個々に又は組み合わせで必要とされ得る。オルガノイドは、依然として3Dマトリックス又はその一部を含んでもよい(ii)。この方法における3Dマトリックスについて前述したものと同じことが、オルガノイドに適用される。
【0059】
オルガノイドは人工組織と見なされる。「人工」とは、インビトロで増殖され、人工培養の特定の特徴、例えば同様のサイズ、粘度、形状、細胞組織を有することを意味する。形状は不規則であり、天然に存在する組織とは異なる場合があり、細胞組織化はサイズのひずみのために異なる場合がある。特に「人工」は、自然に発生する組織及び器官とその部分、例えば天然の組織切片を除外する。3Dマトリックスはまだ培養物中にあってもよく、及び/又はオルガノイドは、そのようなマトリックス中での増殖により決定される形状を有し得る。例えば。オルガノイドは、3Dマトリックス、特に上記のようなマトリックスで増殖させることで得ルことができる。人工オルガノイド培養物は、特に、インビボで発生させた血管系の培養物又はその組織試料ではない。
【0060】
オルガノイド内の血管の数は驚くほど多く、これまで人工培養物では達成されていない(iii)。好ましくはオルガノイド培養物は、個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数すると、少なくとも40、さらにより好ましくは少なくとも60、少なくとも100、少なくとも200、又は少なくとも300以上の血管を含む。上限値である1000の毛細血管は、例えば細胞培養ウェルプレートでのスクリーニングのために、まだ扱いやすいサイズを有する通常のオルガノイドの結果であるが、もちろん、オルガノイド培養を継続することにより、さらに大きなサイズと毛細血管数が可能である。毛細血管の数は、この分野で一般的に行われているように、すなわち個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数することにより計数される。この数は、オルガノイドのごく一部を数えて、その数をオルガノイド全体に外挿することから推測することができる。
【0061】
好ましくは人工血管オルガノイド培養物の毛細血管は、1μm~30μm、好ましくは5μm~20μmの平均直径を有する。毛細血管のこのように大きな直径と体積は、循環動物モデルでの灌流を可能にする。好ましくは毛細血管の平均直径は少なくとも1μm、より好ましくは少なくとも2μm、さらにより好ましくは少なくとも3μm、少なくとも4μm、少なくとも5μm、少なくとも6μm以上である。
【0062】
人工血管オルガノイドは、好ましくはその最長寸法が100μm~10mmのサイズを有する。250μm~10mm又は500μm~5mmのサイズが好ましい。このサイズはオルガノイド自体であり、すなわち血管ネットワーク全体を含む培養物であり、好ましくはオルガノイドはまだ3Dマトリックス内にある。
【0063】
特に約1~2mmのこのようなサイズにより、96ウェルプレートなどの細胞培養ウェルプレートでオルガノイドを管理しやすくなり、大規模な試験目的に使用することができる。オルガノイドは安定であり、物理的ストレスに耐え、例えばピペットによる移動を可能にすることができ、日常の実験室での取り扱いやスクリーニングロボットでの自動処理に適している。
【0064】
人工血管オルガノイドは、球状体の形態で提供されてもよく、例えば、特に最短寸法が最長寸法の20%以上、特に最長寸法の30%以上、又は40%以上である。好ましくは人工血管オルガノイドの体積は、少なくとも1×106μm3、特に好ましくは少なくとも2×106μm3、少なくとも4×106μm3、少なくとも6×106μm3、少なくとも8×106μm3、少なくとも10×106μm3、少なくとも15×106μm3であり、及び/又は少なくとも250μm、特に少なくとも350μmのサイズである。
【0065】
オルガノイドはディスクで提供することもでき、これは取り扱いを簡単にするために、自由な浮遊環境に懸濁することができる。
【0066】
本発明の人工オルガノイド内の十分な血管周囲の周皮細胞の存在は特に驚くべきものであり、オルガノイドにおける本発明の血管ネットワークがインビボ特性を達成したことを示す。血管周囲の周皮細胞は内皮細胞を支持する。内皮細胞と血管周囲の周皮細胞の比率は、オルガノイドの培養時間によって異なる。好ましくは人工血管オルガノイド培養物中の内皮細胞と血管周囲の周皮細胞との比率は、100:1~1:10である。好ましくは比率は、50:1~1:5、又は25:1~1:4、又は10:1~1:3、又は5:1~1:2である。通常、若いオルガノイドでは内皮細胞が過剰であり、古いオルガノイドでは比率は約1:1のこともあり、又は内皮細胞に対して周皮細胞が過剰になることさえある。
【0067】
好ましくは、人工血管オルガノイド培養物の毛細血管は成熟内皮細胞を含む。成熟内皮細胞は、ICAM-1発現で応答することにより、TNF-アルファに反応する可能性がある。好ましくは、人工血管オルガノイド培養物の毛細血管は成熟周皮細胞を含む。周皮細胞の成熟度は、成熟周皮細胞の発現マーカーを測定することで検出することができる。
【0068】
内皮細胞は基底膜(basal membraneであり、basement membraneとも呼ばれる)で囲まれている場合がある。基底膜は、コラーゲンIV、フィブロネクチン、及び/又はラミニンを含んでもよい。コラーゲンIVが豊富でもよい。基底膜の厚さは毛細血管の健康状態のマーカーであり得、スクリーニング又は他の検査方法で指標として測定される。人工血管オルガノイド培養物の毛細血管の基底膜は、毛細血管のサイズに応じて0.1μm~3μm、好ましくは0.3μm~2.5μmの範囲の厚さを有し得る。好ましくは人工血管オルガノイドの毛細血管の基底膜の平均厚さは、0.3μm~2.5μm、好ましくは0.6μm~2.1μm、特に好ましくは0.8μm~1.8μm、最も好ましくは約1.2μmである。「約」とは、この場合は±30%を意味する。
【0069】
本発明のさらなる代表的特徴は、オルガノイドが、インビボ血管樹に見られるように細静脈及び小動脈を発生させることである。
【0070】
本発明はさらに、ヒト毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを含む、ヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデルを提供する方法であって、前記方法は、特に前述した本発明のヒト血管オルガノイドを非ヒト動物に導入する工程と、前記オルガノイドに毛細血管を増殖させる工程とを含む。好ましくは、前記ヒトオルガノイドは、非ヒト動物の腎臓上又は腎臓内に導入される。本発明はまた、本発明の挿入された人工血管オルガノイド培養物を含む非ヒト動物モデルを提供する。前述のように本発明のオルガノイドの利点は、毛細血管の汎用性と生体様構造である。これらの毛細血管を非ヒト動物に導入することにより、その挙動をインビボで研究することが可能である。
【0071】
糖尿病などの血管疾患を研究及び調査するための動物モデルは、当技術分野で公知である(例えば、国際公開第2015/044339A1号)。これらのモデルは通常、疾患状態を引き起こす遺伝的改変を有する動物に基づいている。ただし、このような変異は研究の前提も変化させ、潜在的には病気の発生だけでなく、試験済みの治療選択肢に対する反応も変える。従って実物のような状況を調べる必要がある。特に好ましいのは、ヒトの血管系のモデルである。本発明は、試験動物への移植に適したオルガノイドを提供することにより、その目標を達成する。しかし上記のように、インビトロで増殖される本発明のオルガノイドは、人工的で制御可能な環境(例えば、結合組織ではなく3Dマトリックス内)で、インビボで形成される血管ネットワークと非常によく似ている。非ヒト動物に導入可能な本発明の血管系の特性の中には、内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを有する毛細管がある。従って本発明はまた、ヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデルを提供し、ここで前記ヒト毛細血管は内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含む。これらの種類の動物モデルの全てはまとめて説明されており、それぞれの好ましい又はさらなる実施態様は、全ての本発明の動物モデルについて適用される。
【0072】
本発明は、非ヒト動物におけるヒト毛細血管の研究を可能にする。従ってオルガノイドは好ましくは、ヒト細胞由来であり、すなわち非ヒト動物中にヒト毛細血管を有する。非ヒト動物は、好ましくは脊椎動物、例えば哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、又は魚類である。特に好ましいのは陸生脊椎動物である。本発明の全ての態様及び実施態様において特に好ましいのは、マウス、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、非ヒト霊長類である。もちろん、あらゆる脊椎動物を、オルガノイドの供給源として、従って毛細血管の供給源として使用することもできる。しかしもちろん、驚くべき利点は、オルガノイドを使用する必要なしで、非ヒト動物をモデル生物として作成することも可能にするヒトのオルガノイドと関連している。好ましくは非ヒト動物は、オルガノイド拒絶を回避するために、免疫不全状態である。
【0073】
背景技術欄で要約したヒト内皮細胞を含む以前の非ヒト動物とは対照的に、本発明は、ヒト細胞を非ヒト動物に導入するだけでなく、ヒトの完全に発生した毛細血管系を非ヒト動物に導入する。すなわちヒトの内皮は、ヒト毛細血管を、特に細静脈と小動脈を含む毛細血管系を連想させる構造中で、ヒト基底膜及び周皮細胞の周囲で研究される。
【0074】
好ましくは、動物モデルにおける人工血管オルガノイド培養物の毛細血管又はヒト毛細血管は、非ヒト動物の血液循環系によって灌流される。前述のように、オルガノイドの毛細血管が非ヒト動物モデルの血管系に接続できることは、本発明の利点の1つである。このような接続は、動物の適切な場所に埋め込まれると形成される。非常に反応性の高い場所は腎臓膜であるが、組織移植及び移植技術の研究のために当技術分野で公知である他の位置も同様に適切である。腹腔内の又は皮下移植による臓器などの他の臓器を使用することもできる。ある場合には、特定の場所では、例えばヒドロゲルやスポンジのような適切なマトリックス中に増殖因子を供給するなどして、毛細血管の増殖をさらに刺激する必要かも知れない。
【0075】
本発明の人工血管オルガノイド培養物はまた、オルガノイド内の細胞の増殖及び活性に対する外部的(例えば、薬物又は他の刺激)又は内部的(突然変異)影響を調べるための研究ツールとして使用することができる。すなわち追加の態様において本発明は、発生中の血管組織の作用、例えば欠陥、特に発生の欠陥を研究する方法を提供し、この方法は、(i)本発明の方法のいずれかの段階で、又は発生した(完成した)オルガノイド又は動物モデルに対して、細胞内の目的の遺伝子の発現を減少又は増加させること、又は(ii)本発明の方法のいずれかの段階で、又は発生した(完成した)オルガノイド又は動物モデルに対して、細胞に目的の候補化合物を投与することを含む。目的の遺伝子は、健康な血管組織の発生中に活性である場合に、必須又は有害であると疑われる遺伝子であり得る。好ましい遺伝子は、疾患に関連する遺伝子、例えば遺伝性疾患の原因物質である遺伝子である。遺伝子の発現を減少又は増加させる方法は、当技術分野で公知であり、それぞれノックアウト、ノックダウン方法、又は突然変異誘発(特にRNA干渉、アンチセンス阻害、shRNAサイレンシング、CRISPR-Casによる突然変異誘発など)、又はトランス遺伝子の導入(例えばノックイン)を含む。このような減少又は増加は、条件付きであり得、例えば、誘導性プロモーター及び/又は条件付きノックアウト又はノックダウン又はノックインを備えた遺伝子構築物の導入による。必須遺伝子の条件付き突然変異の導入又は致死遺伝子の導入は、例えば可逆的遺伝子トラップを含む適切な条件付き突然変異ベクターを使用することにより可能である。条件付き突然変異は、好ましくは可逆的突然変異を促進し、これは、例えばダブルフレックスシステム(国際公開第2006/056615A1号;国際公開第2006/056617A1号; 国際公開第2002/88353A2号;国際公開第2001/29208A1号)のように、刺激により、それぞれ遺伝子活性又は不活性状態に逆転させることができる。突然変異は、特定の遺伝子でランダム又は部位特異的突然変異のいずれかである。従って、本発明の好適な実施態様において、ランダム(順方向)又は部位特異的(逆方向)突然変異誘発のいずれかにより、可逆的突然変異が多能性幹細胞に導入される。適切なベクターは、可逆的変異を伴う挿入カセットを含む。突然変異は、本発明の方法の任意の段階でオン又はオフに切り替えることができる。ベクター又は他の核酸は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば電気穿孔法により、細胞中に導入することができる。もちろん、所定の突然変異を有する細胞を提供することも可能である。このような細胞は患者から単離することができ、次に多能性幹細胞状態を誘導し、上記の方法で細胞を本発明の組織に発生させることができる。患者は、目的の特定の疾患、特に血管の欠陥又は毛細血管の変形を有する場合がある。候補化合物は、治療薬候補の可能性に関して、以下でさらに説明される。ただし、細胞、毛細血管、又はオルガノイド全体に対する望ましい効果について、任意の候補化合物をアッセイすることもできる。好ましい候補化合物は、小さな有機分子である。
【0076】
本発明の任意の方法又は培養物又は非ヒト動物モデルにおいて、好ましくは、血管又は毛細血管は病因に曝され、前記オルガノイド又はヒト動物モデルは病態のモデルである。
【0077】
本発明の毛細血管形成プロセスは障害を受けやすい可能性がある。あるいは、例えば培養物中の又は動物モデル中のインプラントとして、オルガノイド自体に病理学的状態が誘発される場合がある。
【0078】
研究目的での病態の誘発は当技術分野で公知であり、有害な化合物又は病原体、不利な食事、機械的ストレス、又は傷害、又はこれらの組み合わせへの曝露である可能性がある(例えば、US2010/124533A1に開示されているように)。病原体には、微生物、特に細菌又は真菌及びウイルスが含まれる。病態は、遺伝的障害又は機能不全の結果である場合もある。
【0079】
病因には、高血糖症及び/又は炎症が含まれる場合がある。いずれも、例えば糖尿病中に見いだされ得る。特に好ましくは、病態は糖尿病である。炎症は、1つ以上の炎症性サイトカイン、好ましくはTNF-アルファ及び/又はIL-6への曝露又は誘導を含むことができる。高血糖症とは、2型糖尿病を思わせるグルコースレベルの増加を意味する。そのようなグルコースレベルは、例えば少なくとも50mM、好ましくは少なくとも70mMである。糖尿病を誘発する条件の例は、75mMのD-グルコース+1ng/mLのTNF-α+1ng/mLのIL-6を1~2.5週間である。オルガノイドの血管の糖尿病性変化には、基底膜の肥厚(IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、パールカンの増加)、血管増殖の減少、内皮/周皮細胞の死が含まれる。動物モデルでは、膵臓ベータ細胞の欠乏など、糖尿病の器質的な原因を有する動物を選択することにより、又は膵臓ベータ細胞の不足を引き起こすことによって、糖尿病を誘発することもある。ベータ細胞の不足は、1型糖尿病などの自己免疫破壊により、又は例えばストレプトゾトシンにより誘発される化学毒性によって引き起こされる場合がある。
【0080】
自己免疫1型、特に2型真性糖尿病(T2D)の罹患率は増加し続けており、すでに患者が4億2,000万人を超える世界的な流行になっている。T2Dには、さまざまな集団において遺伝的素因に加えて、肥満、老化、栄養状態、身体的不活動などのさまざまな危険因子がある。高血糖の結果には、血管の損傷が含まれ、動脈硬化症と慢性糖尿病性微小血管障害を引き起こす。糖尿病性微小血管障害の構造的特徴は、特にIV型コラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質の発現及び沈着の増加による毛細血管基底膜の肥厚である。これらの変化は、閉塞性血管障害、血管透過性の変化、又は組織低酸素症を引き起こし、心臓病、脳卒中、腎臓病、失明、創傷治癒障害、慢性皮膚潰瘍、又は手足切断などの合併症をもたらす。このような症状は、本発明のオルガノイドにおいて研究することができ、必ずしも動物モデルでの研究ではない。
【0081】
糖尿病の微小血管の変化はイヌ、ハムスター、又はサルで発生する可能性があるが、ヒトの患者に見られる血管の変化の全ての臨床的特徴を示す単一の実験動物モデルはない。さらに、これらの血管の変化は、以前のヒトのインビトロ細胞培養モデルでは十分に再現されていない。従って、生命にかかわる病的状態及び増加し続ける死亡率を引き起こしている、何億人もの糖尿病患者に影響を及ぼす血管の変化についての包括的な理解は、まだ不足している。本発明の3Dヒト血管オルガノイドは、真正のヒト微小血管構造の形態学的特徴及び分子的特徴を示す。これらのヒト3D血管は、マウスなどの非ヒト動物でインビボで血管樹を発生させることができる。重要なことに、これらのオルガノイドは、糖尿病性微小血管障害のモデル化や、「糖尿病」誘発性の血管損傷からの防御を目的とする経路のスクリーニングに使用することができる。
【0082】
本発明はさらに、病因又は病態に影響を及ぼす候補化合物をスクリーニングする方法に関し、この方法は、前記候補化合物を、本発明の任意の態様及び実施態様による培養物又は非ヒト動物モデルに、又は前記培養物又は非ヒト動物の生成中に投与し、前記候補化合物を投与していない前記培養物又は動物モデルと比較して、前記培養物又は動物モデルの生理学的差異をモニターすることを含む。本方法で使用される幹細胞、スクリーニングに使用されるオルガノイド又は非ヒト動物モデルは、上記のように病態を有するか又は発症しつつあるか、又は病因に曝露されている。毛細血管及びこれらのネットワークの特性、修飾、及び発生への影響について候補化合物を試験又はスクリーニングする方法が提供され、この方法は、本発明のいずれか1つの方法で細胞又はオルガノイド又は動物に候補化合物を接触させるか、又は本発明のオルガノイドに候補化合物を接触させ、接触したオルガノイドを培養物中で又はインビボで維持し、オルガノイドの毛細血管における発生的変化などの任意の変化[オルガノイドの発生した又は発生している毛細血管中の変化(生理学的変化又は遺伝子発現変化など)を含む]を、前記候補化合物が接触していない前記オルガノイドと比較して観察することを含む。
【0083】
接触工程は、本発明のオルガノイドに発生すべき細胞の、又はオルガノイド又はその前駆細胞凝集体の、処理工程である。候補化合物は、例えば100Da~5000Daの質量を有する分子などの小さな有機分子であってもよい。他の候補化合物は、タンパク質、核酸、又は炭水化物などの生体分子であり得る。さらなる候補化合物は、エタノールなどの溶媒(もちろん、一般的に細胞に有効な濃度で使用される)又はポリマーなどのバルク化学物質である。処理は、化合物の特定の効果が期待できる濃度でなければならない。さまざまな濃度を並行して試験することができる。通常、候補化合物の濃度は1ng/ml~100mg/ml、例えば100ng/ml~1mg/mlまでである。
【0084】
また、目的のオルガノイドの病態を治療するのに適した候補治療薬をスクリーニング又は試験する方法が提供され、この方法は、例えば、本発明の分化方法を実施することにより本発明のオルガノイドを提供し、本方法(上記)中の任意の段階、好ましくは全ての段階で前記細胞に、又は病態に影響を受けたオルガノイドに、候補物質を投与することを含む。上記のように、オルガノイドの血管ネットワークの変化は、このような候補薬剤がない場合と比較して観察される。このような変化は、例えば糖尿病の場合に観察されるように、例えば基底膜の厚さでもよい。
【0085】
この方法は、上記の糖尿病モデルで使用されている。すなわちNotch3活性化経路、特にガンマセクレターゼとその経路は、糖尿病の治療に適した改善剤として同定された。すなわち本発明はまた、例えば糖尿病性血管障害における肥厚した毛細血管基底膜、閉塞性血管障害、血管透過性の変化、組織低酸素症、心臓病、脳卒中、腎疾患、失明、創傷治癒障害、又は慢性皮膚潰瘍の治療又は予防における、Notch3活性化経路阻害剤(例えばガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤、又はこれらの組み合わせ)の使用を提供する。
【0086】
Notch3活性化経路阻害剤の例、特にガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4の阻害剤は、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4の阻害抗体及び結合パートナーである。抗体には、これらの任意の機能的同等物及び誘導体が含まれ、Fab、F(ab)2、Fv、単一鎖抗体(scAb)、ナノボディ又は同様のラクダ科抗体、又は抗体抗原結合ドメインなどの抗体断片を含む。ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4に特異的に結合する抗体は、本発明に包含される。抗体は、完全長タンパク質、タンパク質の可溶性形態、又はその断片を用いる免疫化により産生され得る。本発明の抗体は、ポリクローナル又はモノクローナルであってもよく、又は組換え抗体、例えば軽鎖及び重鎖上のマウス定常領域がヒト配列によって置換されたキメラ抗体、又は相補性決定領域のみがマウス起源であるCDR移植抗体であってもよい。本発明の抗体はまた、例えばヒト抗体を産生することができるトランスジェニック動物の免疫化により調製されたヒト抗体であってもよい(国際公開第93/12227号)。抗体は、生物学的試料中のガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4を検出するのに有用であり、それにより、タンパク質をさらに産生する細胞又は組織、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4に結合する(及び他の結合化合物との相互作用をブロックする)抗体の同定を可能にし、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4阻害剤として治療用途がある。抗ガンマセクレターゼ抗体が特に好ましい。好ましい抗Notch3-抗体は、タレクツマブ(tarextumab)である。アブカム(Abcam)抗DLL4抗体は、例えばab7280、ab176876、ab183532である。
【0087】
これらの成分のさらなる阻害剤は、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4を隔離し、こうして生物学的活性を低下させる、任意の(生理学的)結合パートナー、例えば、受容体又はリガンドであり得る。結合パートナーは、結合タンパク質であることが好ましい。Notch3のリガンドの例は、組換え可溶性DLL4タンパク質である。このような結合パートナー(好ましくは基質又は膜に架橋していない、例えばプレート上に架橋していない)は、活性化することなく対応するNotch受容体に結合する。従って、組換えDLL4タンパク質は、内皮細胞表面などの細胞表面に提示されないため、阻害剤として作用し得る(Scehnet et al. Blood 2007 109(11): 4753-4760; Noguera-Troise et al. Nature 2006 444(7122): 1032-1037)。好ましくはこのような結合タンパク質は、固体の表面又は細胞膜に固定化されることなく、特に別のタンパク質と複合体を形成することなく、可溶化形態で提供される。そのような可溶化形態は、それぞれの標的(例えばガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4)に結合するが、シグナル伝達カスケードを活性化することはできず、その代わり標的をブロックすることで阻害する。結合タンパク質はまた隔離剤又はマスキング剤として提供され得、これは、標的に結合し、活性化シグナル伝達分子の結合を妨げる複合体形成によりその作用をブロックする。
【0088】
さらなるNotch3活性化経路阻害剤、特にガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4阻害剤は、低分子阻害剤である。小分子は通常、5000ダルトン以下、2500ダルトン以下、さらには1000ダルトン以下のサイズを有する小さな有機化合物である。本明細書に開示される方法により容易に試験することができるように、小分子阻害剤は、糖尿病性オルガノイドに対するガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4の活性を阻害する。ガンマセクレターゼ阻害剤の例は、セマガセスタット(Semagacestat)、アバガセスタット(Avagacestat)、RO4929097、DAPT、LY3039478(クレニガスタット(Crenigacestat))、LY411575、デヒドロキシLY411575、LY450139、MK-0752、IMR-1、ジベンザゼピン(Dibenzazepine)、PF-03084014(ニロガセスタット(Nirogacestat))、L-685,458、FLI-06、NGP555、フルルビプロフェン(Flurbiprofen)、及びスリンダク(Sulindac)である。
【0089】
さらなる阻害剤は、siRNA、shRNA、又はsgRNA(CRISPR-Casと組み合わせて)などの阻害性核酸である。RNA干渉(RNAi)は、配列特異的な方法で遺伝子発現を抑制するメカニズムである。RNA干渉(RNAi)は、真核細胞の特定の遺伝子機能を抑制するための非常に効果的な方法である。RNAiは細胞や生物に適用すると、低分子干渉RNA(siRNA)オリゴ又は低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードするベクターのトランスフェクション時に、標的mRNAの分解を伴う。RNAiの様々な方法が記載されており、例えばUS2002/0162126及びUS2002/0173478に記載されているように、植物細胞、ショウジョウバエ、及びヒトメラノーマ細胞における遺伝子発現を変化させることが一般的に知られている。本発明の方法及び組成物で使用されるsiRNAは、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4シグナル伝達経路の所望の分子、又はこのような分子の組み合わせを標的とするように選択される。このようにして、これらは標的遺伝子に対応するさまざまなRNAを標的にする。本明細書に記載のsiRNAはまた、ハイブリッドDNA/RNA構築物又はその任意の同等物である変更されたsiRNA、二本鎖RNA、マイクロRNA(miRNA)、ならびにsiRNA形態、例えばウイルス及び非ウイルスベクター中のsiRNA複製物、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、及びキャリア中のsiRNA又はshRNAを含み得ることを当業者は理解している。
【0090】
例えば国際公開第02/055692号、国際公開第02/055693号、EP1 144623B1、及び国際公開第03/074654号に記載されているようなRNAiを使用して、遺伝子発現を阻害するいくつかの方法が当技術分野に存在する。siRNA治療法を使用することにより、本発明のガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4拮抗及び阻害治療法のために、任意の細胞因子を標的化及び阻害することができる。従って、このような化合物は、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4阻害剤として使用することができる。
【0091】
核酸をコードする形態の阻害剤も提供される。阻害性の核酸、抗体、又は結合パートナー(例えば、受容体又はリガンド)は、細胞内で前記阻害剤を発現する核酸上にコードされ、それにより阻害作用を示すことができる。
【0092】
阻害剤は通常、治療有効量で投与され、この量は、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4の活性を低下させて、糖尿病の形態を著しく低下させる。好ましくは、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4活性は、治療なしの量と比較して(ただし、その他は同様の条件)、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%低下する。好適な実施態様において、この低下は、ガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4の細胞内レベルに等しい。
【0093】
阻害剤は、医薬組成物で提供されてもよい。治療的又は予防的使用のための医薬組成物又は製剤は、医薬的に許容し得る希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、防腐剤、及び/又は補助剤を含んでもよい。本発明はまた、治療有効量のガンマセクレターゼ、Notch3、又はDLL4阻害剤を含む医薬組成物を提供する。「治療有効量」という用語は、特定の条件及び投与経路に対して治療効果を提供する量を意味する。組成物は液体又は凍結乾燥形態であってもよく、さまざまなpH値及びイオン強度を有する希釈剤(トリス、酢酸、はリン酸緩衝液)、ツイーン又はポリソルベートなどの可溶化剤、ヒト血清アルブミン又はゼラチンなどの担体、チメロサール又はベンジルアルコールなどの防腐剤、及びアスコルビン酸又はメタ重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤を含む。特定の組成物の選択は、所望の治療される状態、投与経路、及び薬物動態パラメーターを含む多くの要因に依存する。siRNA製剤は、リポソーム製剤中で投与することが好ましい。
【0094】
本発明はさらに、組織置換療法におけるインプラントとしての、好ましくはコラーゲンを含むヒドロゲルを用いた本発明の培養物から得られるような、本発明による人工血管オルガノイドの使用を提供する。本発明のオルガノイドを使用する治療は、人工血管オルガノイドを創傷に配置し、前記人工血管オルガノイド培養物を創傷に組み込ませることを含み得る。インプラントとしての使用は、特に結合組織の再増殖を必要とする位置で、治療すべき対象にオルガノイドを配置することを含むことができる。このような再増殖は、例えば糖尿病のような再増殖を損なう疾患、又は薬物療法、又は他の療法、例えば化学療法や放射線事故におけるような化学療法又は放射線などにより、停止する可能性がある。創傷は治療されることが好ましい。そのような創傷は、慢性創傷、特に30日又は60日又は90日でも閉じることができない創傷であり得る。慢性創傷は、上記の状況、疾患、薬物療法、又は治療法が原因である可能性がある。特に、創傷は、糖尿病性足部潰瘍などの糖尿病性創傷、又は第3度熱傷などの熱傷である。創傷は皮膚創傷を含み得る。皮膚創傷には、表皮層と真皮層の両方の損傷が含まれる場合がある。皮膚の創傷を含む創傷は、下にある筋肉、骨、腱の外傷を含むことがある。治療法は、創傷の洗浄、特に再生を容易にするために死んだ組織の除去を含む場合がある。
【0095】
このような治療法では、その数が創傷のサイズに依存する1つ以上のオルガノイドが、創傷などの治療対象の体積に入れられ、オルガノイドは体積を取り巻く組織と一体化することができる。前記体積は、好ましくは前記1つ以上のオルガノイドの外側に面する1つ以上のオルガノイド表面積の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%において、患者の組織に囲まれている(他のオルガノイドに面する複数のオルガノイドの場合、内部の表面積を数えない)。これは、体積がほとんど内部にあり、対象内に組み込むことができることを意味する。創傷は、内部創又は開放創であり得る。開放創でさえ、皮膚の創傷などの開いた表面に面したこのような体積を有する場合がある。
【0096】
オルガノイドを創傷に組み込むことは、通常、本発明のオルガノイドの血管の存在によって改善される再生プロセスを含む。前記血管は、患者の循環系と接続することができ、損傷した組織の酸素化を改善し、その結果、その再生を改善する。
【0097】
オルガノイド及びその細胞に対する免疫反応を回避するために、オルガノイドの細胞は、好ましくは患者と同じ生物であり(好ましくは両方がヒト、又は両方が同じ非ヒト動物、好ましくは哺乳動物)、患者とMHCが一致する。このようなぴったりのオルガノイドを迅速に提供するために、記録されたさまざまなMHCタイプを有するオルガノイドライブラリを作成することができる。そのオルガノイドは、患者に迅速に提供できる。
【0098】
さらに、化合物と物質のキットが提供される。キットは、本発明のいかなる方法も実行する手段を含み得る。もちろん、一部の物質は標準化学物質であるか通常入手可能なものであるため、全ての物質を含める必要はない。それにもかかわらず、好ましくはコア物質が提供される。他のキットでは、より希少な物質が提供される。本発明のキット又はこれらの物質は組み合わせることができる。キットの構成要素は、通常、バイアルやフラスコなどの別々の容器で提供される。容器はまとめて梱包することができる。好ましくはキットは、本発明の方法又はこれらの工程を実行するためのマニュアル又は使用説明書を含む。
【0099】
本発明の方法による人工血管オルガノイドの生成に適したキットが提供される。キットは、(i)Wntアゴニスト又はGSK阻害剤;(ii)VEGF、好ましくはVEGF-A、FGF、好ましくはFGF-2、BMP、好ましくはBMP4から選択される血管分化因子;(iii)好ましくは10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIV(全て質量%)を含むコラーゲン3Dマトリックスを含み得る。
【0100】
好ましくは、キットは、上記の3Dマトリックス、又はこのような3Dマトリックスを生成するためのそれらの構成要素を含む。マトリックス成分は、例えば水和によって、マトリックスに復元される凍結乾燥状態などの固体状態で提供されてもよい。上記の任意のマトリックス又はそれらの成分を、キット内に含めることができる。好ましくはマトリックスはヒドロゲル、特に上記のコラーゲンヒドロゲルである。キットは、このような復元可能な(好ましくはコラーゲン性の)成分を含んでもよい。さらに好ましいマトリックス成分は、特にポリマー形態の炭水化物(多糖類)である。好ましい多糖はアガロースである。
【0101】
いかなるキットも、細胞増殖栄養物質、好ましくはDMEM/F12、ノックアウト血清代替(KOSR)培地、グルタマックス(Glutamax)、又は必須アミノ酸、及び/又は非必須アミノ酸(NEAA)、又はこれらの任意の組み合わせをさらに含むことができる。実施例で言及されている任意の化合物をキットに含めることができる。
【0102】
本明細書に記載された任意の方法又は製品は、本明細書に記載された他の任意の方法又は製品に関して実施することができ、異なる実施態様を組み合わせることができることが企図される。
【0103】
キットはさらに、本発明の方法を実施するための使用説明書を含み得る。このような使用説明書は、印刷された形式で、又は適切なデータ担体上のコンピュータ可読形式であり得る。
【0104】
最初に出願された特許請求の範囲は、任意の出願された特許請求の範囲又は出願された特許請求の範囲の組み合わせに多重に依存する特許請求の範囲をカバーすることが企図される。本明細書で説明するいかなる実施態様も、本発明の方法又は製品に関して実施することができ、逆もまた真であることが企図される。特定の条件に関して検討された任意の実施態様は、異なる条件に関して適用又は実施することができる。さらに本発明の組成物及びキットを、本発明の方法を達成するため使用することができる。
【0105】
「含む(comprising)」は、開いた用語、すなわち物質の追加の成分又は工程を可能にすると理解される。「からなる(consisting of)」とは、物質の追加の成分又は工程を含まない閉じた用語として理解される。
【0106】
本出願全体を通して、「約」という用語は、ある値がその値の決定に使用される装置又は方法の誤差の標準偏差を含むことを示すために使用することができ、あるセットにおいて、値は±10%をさす場合がある。
【0107】
本発明は、以下の好適な実施態様及び定義においてさらに定義され、これらは全て上記の詳細な説明と組み合わせ可能である。
【0108】
1.人工血管オルガノイドを生成する方法であって、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込み、前記コラーゲン3Dマトリックスにおける凝集体の血管分化を刺激することを含む、上記方法。
【0109】
2.前記コラーゲン3Dマトリックスが少なくとも50質量%のコラーゲンを含む1に記載の方法。
【0110】
3.前記コラーゲン3Dマトリックスが、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含み、好ましくは、さらに0.5%~10%のニドゲン、0.5%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び/又は0.5%~10%のエンタクチン(全て質量%)を含む、1又は2に記載の方法。
【0111】
4.10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含むコラーゲン3Dマトリックス内に血管幹細胞を埋め込み、前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記幹細胞の血管分化を刺激することを含む、人工血管オルガノイドを生成する方法。
【0112】
5.中胚葉幹細胞を血管幹細胞に分化させることにより血管幹細胞が生成され、好ましくは、前記中胚葉幹細胞が、多能性幹細胞における中胚葉分化を刺激することにより得られたものである、4に記載の方法。
【0113】
6.血管分化が可能な前記幹細胞が多能性幹細胞、好ましくは人工多能性幹細胞である、1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0114】
7.コラーゲンマトリックス内に埋め込まれた前記細胞凝集体が少なくとも50個の細胞を含む、1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
8.中胚葉分化が、前記幹細胞をWntアゴニスト又はGSK阻害剤、好ましくはCHIR99021で処理することを含む、1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
9.前記幹細胞における血管分化が、幹細胞をVEGF、好ましくはVEGF-A、及び/又はFGF、好ましくはFGF-2、及び/又はBMP、好ましくはBMP4、及び/又は大気酸素が12%(v/v)以下の低酸素条件で処理することを含む、1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
10.前記凝集体の血管分化が、前記凝集体の細胞をVEGF、好ましくはVEGF-A、及び/又はFGF、好ましくはFGF-2で処理することを含む、1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
11.前記凝集体が、凝集体形成の開始から7~15日目にコラーゲン3Dマトリックス内に埋め込まれる、1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
12.前記凝集体の細胞が前記3Dマトリックス中で少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日間培養される、1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
13.前記3Dマトリックスが、好ましくは10~30の粘弾性貯蔵弾性率G’を有するヒドロゲルである、1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
14.毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを含む、前記毛細血管の相互連結ネットワークを含む人工血管オルガノイド培養物であって、前記オルガノイドが1~13のいずれか1つの方法によって生成され、及び/又は前記毛細血管が、コラーゲンを有するヒドロゲルを含む人工3Dマトリックス内に埋め込まれ、及び/又は前記オルガノイド培養物が、個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数すると40~1000個の血管を含む、上記培養物。
【0122】
15.前記毛細血管が1μm~30μmの平均直径を有する、14に記載の人工血管オルガノイド培養物。
【0123】
16.内皮細胞と血管周囲の周皮細胞の比率が100:1~1:5である、14又は15に記載の人工血管オルガノイド培養物。
【0124】
17.前記毛細血管が成熟内皮細胞及び/又は成熟周皮細胞を含む、14~16のいずれか1つに記載の人工血管オルガノイド培養物。
【0125】
18.前記ヒト毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを含む、ヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデルを提供する方法であって、14~17のいずれか1つに記載のヒト血管オルガノイドを非ヒト動物に導入する工程と、前記オルガノイドをその毛細血管に増殖させる工程とを含み、好ましくは、前記ヒトオルガノイドが、非ヒト動物の腎臓上又は腎臓内に導入される、上記方法。
【0126】
19.14~18のいずれか1つに記載の、挿入された人工血管オルガノイド培養物を含む非ヒト動物モデル。
【0127】
20.前記ヒト毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含む、ヒト毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を有する基底膜とを含む、ヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデル。
【0128】
21.前記人工血管オルガノイド培養物の毛細血管又は前記ヒト毛細血管が、非ヒト動物の血液循環系によって灌流される、19又は20に記載の非ヒト動物モデル。
【0129】
22.前記血管又は毛細血管が病因に曝され、前記オルガノイド又はヒト動物モデルが病態のモデルである、1~21のいずれか1つに記載の方法又は培養物又は非ヒト動物モデル。
【0130】
23.病因が高血糖症及び/又は炎症を含み、及び/又は上記病態が糖尿病であり、好ましくは前記炎症が、1つ以上の炎症性サイトカイン、好ましくはTNF-アルファ及び/又はIL-6への曝露を含む、22に記載の方法又は培養物又は非ヒト動物モデル。
【0131】
24.病因または病態に影響を及ぼす候補化合物をスクリーニングする方法であって、前記候補化合物を、1~23のいずれか1つに記載の前記培養物若しくは非ヒト動物モデルに、又は前記培養物若しくは非ヒト動物モデルの生成中に投与し、候補化合物を投与していない前記培養物又は動物モデルと比較して前記培養物又は動物モデルの生理学的差異をモニターすることを含む、上記方法。
【0132】
25.発生中の血管組織の作用、例えば欠陥、特に発生の欠陥を研究する方法であって、(i)本発明の方法のいずれかの段階で、又は1~21のいずれか1つに記載のオルガノイド若しくは動物に対して、細胞内の目的の遺伝子の発現を減少又は増加させ、又は(ii)1~21のいずれか1つに記載のオルガノイド若しくは動物の任意の段階でオルガノイドの発生中に、細胞に目的の候補化合物を投与することを含む、上記方法。
【0133】
26.組織置換療法、特に好適には前記人工血管オルガノイドを創傷内に配置し、前記人工血管オルガノイド培養物を創傷内に組み込む治療法におけるインプラントとしての、14~17のいずれか1つに記載の人工血管オルガノイドの使用。
【0134】
27.糖尿病性血管障害、閉塞性血管障害、血管透過性の変化、組織低酸素症、心臓病、脳卒中、腎疾患、失明、創傷治癒障害、又は慢性皮膚潰瘍などにおける、肥厚した毛細血管基底膜の治療又は予防における、Notch3活性化経路阻害剤(例えば、ガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤、又はこれらの組み合わせ)の使用。
【0135】
28.1~13のいずれか1つに記載の方法による人工血官オルガノイドの生成に適したキットであって、(i)Wntアゴニスト又はGSK阻害剤、(ii)VEGF、好ましくはVEGF-A、FGF、好ましくはFGF-2、BMP、好ましくはBMP4から選択される血管分化因子、(iii)好ましくは10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIV(全て質量%)を含むコラーゲン3Dマトリックスを含む、上記キット。
【0136】
本発明は以下の図面及び実施例によってさらに例示されるが、本発明は、本発明のこれらの具体的な実施態様に限定されるものではない。
【実施例0137】
実施例1
材料と方法
ヒト幹細胞と血管オルガノイドへの分化。提示された全ての実験は、ヒトiPS細胞株NC8(Pripuzova et al. Stem Cell Res. 14, 323-338 (2015))又はヒト胚性幹細胞(ESC)株H9(Thomson et al. Science 282, 1145-1147 (1998))で行った。全ての幹細胞は、既に記載されている化学的に定義されたフィーダー細胞を含まない条件下で培養された(Chen et al. Nat. Methods 8, 424-9 (2011))。分化のために、H9 ESC又はNC8 iPS細胞を0.5mM EDTAを使用して2分間脱凝集させ、その後0.1% ステムプロアキュターゼ(Stempro Accutase)(Life Technologies)とともに3分間インキュベートした。2×105個の細胞を50μM Y-27632(Calbiochem)を含む分化培地(DMEM:F12培地、20% KOSR、グルタマックス、NEAA、全てGibcoから)に再懸濁し、細胞凝集用に、超低付着表面の6ウェルプレートの1つのウェルに播種した(Corning)。細胞凝集体を3日目に12μM CHIR99021(Tocris)で処理し、5、7、及び9日目に、BMP4(30ng/mL、Stemcell Tech.)、VEGF-A(30ng/mL、Peprotech)、及びFGF-2(30ng/mL、Miltenyi)を添加した。11日目に、細胞を、VEGF-A(30ng/mL)、FGF-2(30ng/mL)、及びSB43152(10μM)を含む培地に切り替えて、内皮細胞/周皮細胞比のバランスを取った。得られた細胞凝集体を、13日目にマトリゲル:コラーゲンI(1:1)ゲルに埋め込み、100ng/mL VEGF-A及び100ng/ml FGF-2を含む分化培地で覆った。この分化培地は2~3日ごとに交換した。約18日後に血管ネットワークが確立され、直接分析するか、個々の細胞凝集体のネットワークをゲルから切り出し、さらに96ウェルの低付着プレート(Sumilon、PrimeSurface 96U)中で、自由浮遊血管オルガノイドとして最大3か月間培養した。
【0138】
ヒトiPSCの再プログラミングと特性解析。ヒト皮膚線維芽細胞(ATCC)及び血液試料を、既に記載されているように再プログラムした(Agu et al. Stem cell reports 5, 660-71 (2015)。染色体の完全性を確認するために、多重蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(M-FISH)を、Agu et al.に記載のように行った。遺伝子型判定については、Illumina Inc.が推奨するInfinium HTSプロトコールガイドに従って試料調製を行った。遺伝子型判定は、製造業者の説明書に従ってIllumina iScanシステムでスキャンしたIllumina Infinium PsychArray-24 BeadChipを使用して行った。遺伝子型判定ソフトウェア(モジュール2.0.1)とともにIllumina GenomeStudio(Illumina, San Diego, CA, USA)を使用して、遺伝子型を呼び出し、コールレート<0.995の試料を除いた。分析のために、Illuminaによるデフォルト設定、InfiniumPsychArray-24v1-1_A1マニフェスト、及びInfinium PsychArray-24v1-1_A1_ClusterFileクラスターファイルを適用した。CNV分析とプロットは、bcftools cnvを使用して実施した。
【0139】
免疫細胞化学。コラーゲンI:マトリゲルゲル中の血管ネットワークを20分間固定し、自由浮遊性の血管オルガノイドを4%PFA、室温(RT)で1時間固定し、3%FBS、1%BSA、0.5%トリトン、0.5%ツイーンを用いてシェーカー上、室温で2時間ブロックした。注目すべきことに、血管オルガノイドは、3Dゲル中で最初に形成された血管ネットワークよりも安定しているため、標準的な免疫組織化学手順に使用することができた。1次抗体をブロッキング緩衝液で1:100~1:200に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。これらの研究では以下の抗体を使用した:抗CD31(DAKO, M082329)、抗VE-カドヘリン(Santa Cruz, sc-9989)、抗ICAM-1(Sigma, HPA002126)、抗PDGFR-β(CST, 3169S)、抗SMA(Sigma, A2547)、抗カルポニン(Abcam、AB46794)、抗IV型コラーゲン(Merck, AB769)、抗ラミニン(Merck, 19012)、抗MYH11(Sigma, HPA014539)。PBS-T(0.05%ツイーン)で10分間洗浄を3回繰り返した後、試料をLife Technologiesの対応する2次抗体[Alexa Fluor 555 ロバ抗マウス(A31570)、Alexa Fluor 647 ロバ抗ウサギ(A31573)、Alexa Fluor 488 ロバ抗ヤギ(A11055)、Alexa Fluor 488 ロバ抗ヒツジ(A11015)]でブロッキング緩衝液中1:250で室温で2時間インキュベートした。TBSTで20分間洗浄を3回行った後、試料をDAPIで対比染色した。試料をマウントし(DAKO S302380)、一晩乾燥させ、続いてZeiss 780 レーザー走査顕微鏡で画像化した。
【0140】
血管オルガノイド移植。血管オルガノイドを、12~15週齢のNSGマウスの腎臓被膜下に移植した。全ての外科的処置は、オーストリアの法律及び倫理的承認に従って行われた。MRIを使用してマウスを画像化し、移植を経時的にモニターした。ヒト血管移植物の灌流を試験するために、マウスにFITC-デキストラン(1.25mg/マウス、Invitrogen D1822)又は抗ヒトCD31-Alexa 647(2μg/マウス、BD 558094)のいずれかを静脈内注射した。切除した移植物を4%PFAで室温で2時間固定し、上記の血管オルガノイドについて説明したように全体を染色するか、又は免疫組織染色又は標準H&E組織染色で処理した。内因性マウス血管と移植されたヒト血管を区別するために、特異的抗ヒトCD31抗体(DAKO、M082329)を使用し、マウスの血管を視覚化するために特異的抗マウスCD31抗体(Abcam、AB56299)を使用した。交差反応の可能性を排除するために、これらの抗体をヒト及びマウスの両方の対照切片で試験して特異性を検証した。試料は、Zeiss 780 レーザー走査顕微鏡で画像化した。
【0141】
MRI画像化。MRIは、35mm直交バードケージコイルを備えた15.2 T Brukerシステム(Bruker BioSpec, Ettlingen Germany)で行った。画像化の前に、造影剤の送達用のテールラインを挿入した(シリコンチューブ付きの30ゲージ針)。全ての動物(N=3)をイソフルランで麻酔した(4%で誘導、1.5%で維持)。画像化中、呼吸をモニターし、呼吸が毎分50未満又は80超の場合、イソフルランのレベルを調整した。マウスは、水ポンプを用いて循環して37℃に加熱した水で保温した。インプラントの解剖学的位置確認と視覚化のために、マルチスライスマルチエコー(MSME)スピンエコーシーケンスを使用した(繰り返し時間(TR)/エコー時間(TE)=3000/5.8~81.18ms、14エコー、117μm2面内解像度、0.5mm切片厚、実験数[NEX]=1)。造影剤の漏出を補正するために、0.01mol/lガドリニウムベースの造影剤(Magnevist, Berlex)0.05mlのボーラス前注射を行った。動的感受性造影剤(DSC)灌流MRIは、0.25mol/LのMagnevistの0.05mLを尾静脈注入後に、500.6msの時間分解(1切片;TR/TE=500/1.7ms;フリップ角=5度;468X468μm2の面内解像度;1mm切片厚;NEX=2;360回の繰り返し)の定常状態歳差運動(FISP)による高速画像化を使用して採取した。DSCデータを使用して、灌流、相対血液量(rBV)、平均通過時間(MTT)、及び漏出(K2)を計算した。処理は、ImageJ(National Institutes of Health; rsbweb.nih.gov/ij/)及びDSCoMANプラグイン(Duke University, dblab.duhs.duke.edu/wysiwyg/downloads/DSCoMAN_1.0.pdf)を使用してオフラインで行った。分析では、DSC-MRI時系列の最初の5つの時点を切り捨てて、定常状態の磁化を確保し、プレボーラス信号強度
【数1】
をピクセル単位で計算し、切り捨てられたDSC-MRI時系列を緩和時間曲線
【数2】
に変換し、前述のようにガドリニウム漏出(K2)について補正する(Boxerman et al. Am. J. Neuroradiol. 27, 859-867 (2006))。
【0142】
ヒト血管オルガノイドにおける糖尿病性血管障害のモデル化。血管オルガノイドで確立された内皮ネットワークを、非糖尿病対照培地(17mMグルコース)又は糖尿病培地[75mMグルコース、ヒトTNFα(1ng/mL、Invitrogen PHC3011)及び/又はIL-6(1ng/mL、Peprotech 200-06)の存在下]で最大3週間培養した後、基底膜をIV型コラーゲン免疫染色及び電子顕微鏡で調べた。高浸透圧効果の対照とするために、非糖尿病培地中でD-マンニトールを使用した。基底膜の定量のために、取得したZスタックを分析し、ImageJソフトウェアを使用して、管腔構造の周りのColIVコートの厚さを測定した。薬物処理については、オルガノイドを以下の薬物の存在下又は非存在下で糖尿病培地(75mMグルコース、1ng/mLヒトTNFα、及び1ng/mL IL-6)に曝露した:2,4-チアゾリジンジオン(5mM、Abcam ab144811)、メトホルミン(5mM、Abcam ab120847)、アカルボース(80μg/mL、Sigma A8980)、ナテグリンジン(100μM、Sigma N3538)、ジフェニレンヨードニウム(10μM)、グリメピリド(30nM、Sigma G2295)、ピオグリタゾン(10μM、Sigma E6910)。以下の小分子阻害剤を使用した:N-アセチル-L-システイン(500μM、Sigma、A7250)、CHIR99021(10μM、Tocris 4423)、Goe6976(100nM、Merck US1365250)、MK2206(10μM、EubioS1078)、QNZ(10μM、Eubio S4902)、SB203580(10μM、Eubio S1076)、SCH772984(500nM、Eubio S7101)、SP600125(10μM、Eubio S1460)、Y-27632(10μM、Calbiochem 688000)、DAPT(25μM、Sigma D5942)、SB431542(10μM)、Abcam ab120163)。
【0143】
血管オルガノイドのFACS分析。非糖尿病及び糖尿病性血管オルガノイドは、PBS中で25μg/mLヒアルロニダーゼ(Worthington)、3U/mLディスパーゼ(Gibco)、2U/mLリベラーゼ(Roche)、及び100U DNAse(Stemcell Tech)を使用して、37℃で45~60分間脱凝集させた。次に、単一細胞を以下の抗体で染色した:抗CD31(BD、558094)、抗PDGFR-β(BD、558821)、抗CD90(Biolegend、328117)、抗CD45(ebioscience、11-0459-41)、及び抗CD73(BD 742633)。DAPI染色を使用して、死細胞を除外した。BD FACS Aria IIIは細胞選別に、BD FACS LSR Fortessa IIは細胞分析に使用した。
【0144】
CRISPR/Cas9を使用するゲノム編集。2A-Puroカセット13(Addgene Plasmid:#62988;)を有する化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)からCas9を発現する哺乳類発現ベクターを、U6プロモーターの少し後でBbSI(Thermo Fisher ER1011)で切断した。続いてプラスミドを再連結して、神経原性遺伝子座ノッチ相同タンパク質3(Notch3)又はデルタ様タンパク質4(Dll4)のいずれのためにsgRNAを導入した。sgRNAアニーリングには以下のプライマーを使用した。Notch3:前進プライマー、caccgGCCACTATGTGAGAACCCCG(配列番号7);逆進プライマー、aaacCGGGGTTCTCACATAGTGGCc(配列番号8);Dll4:前進プライマー、caccgCAGGAGTTCATCAACGAGCG(配列番号:9);逆進プライマー、aaacCGCTCGTTGATGAACTCCTGc(配列番号10)。sgRNAプラスミドは、サンガー配列決定法によって検証され、4D-Nucleofector System(Lonza)を用いるiPSC(NC8)の電気穿孔法に使用された。P3 Primary Cell 4D-Nucleofector キットを使用して、2μgのプラスミドDNAをトランスフェクトした。トランスフェクトされたNC8細胞を、マトリゲル被覆6ウェルプレート上で50μM Y27632(Calbiochem)を含むEssential 8 培地(Gibco)に播種し、24時間培養した後、48時間ピューロマイシン処理(0.2μg/ml)をした。残りの細胞をコロニー形成が観察されるまで培養し、サンガー配列決定法による遺伝子型判定のために単一コロニーをさらに拡張した。ノックアウト細胞株は、ウェスタンブロット又は免疫蛍光染色によって検証された。
【0145】
インビボでのヒト血管オルガノイドにおける糖尿病性血管障害のモデル化。ヒト血管オルガノイド移植物を有する免疫不全NSGマウスに、40mg/kgのストレプトゾトシン(STZ)(Merck、572201)を5日間連続して毎日腹腔内注射した。毎日STZをクエン酸緩衝液(pH4.6)に新たに溶解し、すぐに使用した。OneTouch UltraEasy システム(Lifetouch、AW06637502C)を使用して非空腹時グルコースを測定することにより、糖尿病を確認した(血糖>300mg/dL)。DAPT(Selleckchem S2215)をエタノールに溶かし、90%コーンオイルを用いて5mg/kgで5日間連続して注入し、1週間に2日は処理をしなかった。抗Notch3ブロッキング抗体(R&D AF1559)を1mg/kgで週3回注射した。血管漏出を定量するために、FITC-Dextran+面積を測定し、FIJIソフトウェアを使用して、灌流したヒト血管(hCD31+)の面積に標準化した。次に、この比をさらに対照非糖尿病マウスに標準化した。血管透過性に対するDAPTの急性作用の測定を避けるために、2日間の治療停止後に、長期DAPT治療血管の透過性を測定した。
【0146】
次世代配列決定法及びqRT-PCR分析。非糖尿病性及び糖尿病性血管オルガノイドの血管ネットワークを、PBS中の25μg/mLのヒアルロニダーゼ(Worthington)、3U/mLのディスパーゼ(Gibco)、2U/mLのリベラーゼ(Roche)、及び100UのDNAse(Stemcell Tech)を使用して、37℃で45~60分間脱凝集させた。次に、単一細胞をCD31発現について染色し(BD 558094)、DAPI陰性(=生存細胞)をFACS Aria IIIマシンを使用してFACS選別した。CD31陽性、DAPI陰性内皮細胞を直接トリゾールLS緩衝液(Invitrogen)に選別し、さらに処理してRNA分離した。RNA Seqについて、mRNAをポリA濃縮(NEB)により濃縮し、Il-lumnia HiSeq2500で配列決定した。qRT-PCR分析では、トリゾール(Invitrogen)を使用して全RNAを全血管オルガノイドから抽出し、Biorad CFX リアルタイムPCR機でSYBR Greenマスターミックス(Thermo)を使用して行ったiscript cDNA合成キット(Biorad)を使用して、cDNAを合成した。全てのデータは最初にGAPDHに標準化され、次に非糖尿病性対照試料と比較した。次のプライマーを使用した。
Col4a1-FWD:TGCTGTTGAAAGGTGAAAGAG(配列番号1)
Col4a1-REV:CTTGGTGGCGAAGTCTCC(配列番号2)
Col4a2-FWD:ACAGCAAGGCAACAGAGG(配列番号3)
Col4a2-REV:GAGTAGGCAGGTAGTCCAG(配列番号4)
GAPDH-FWD:TCTTCTTTTGCGTCGCCAG(配列番号5)
GAPDH-REV:AGCCCCAGCCTTCTCCA(配列番号6)
FN1-FWD:ACACAAGGAAATAAGCAAATG(配列番号11)
FN1-REV:TGGTCGGCATCATAGTTC(配列番号12)
TUBB-FWD:CCAGATCGGTGCCAAGTTCT(配列番号13)
TUBB-REV:GTTACCTGCCCCAGACTGAC(配列番号14)
【0147】
バイオインフォマティクス分析。RNA-seqリードを、Tophat v2.0.10及びbowtie2/2.1.0を使用してヒトゲノム(GRCh38/hg38)に整列させ、TPM、FPKMでの遺伝子及び転写産物レベルの存在量の推定及びカウント予測は、RSEM v1.2.25を用いて行い、整列されたリードはHTSeq v0.6.1p1で計数し、示差的発現分析はDESeq2 v1.10.1を使用し、FDR閾値は0.05を用いて行った。Enrichr(Kuleshov et al. Nucleic Acids Res. 44, W90-7 (2016))を使用して、アップレギュレートされた遺伝子のGO項を特定した。発現プロフィール類似性検索サーバーCellMontage v2(cellmontage2.cira.kyoto-u.ac.jp; Fujibuchi et al. Bioinformatics 23, 3103-3104 (2007))を使用して、通常の細胞タイプに関する細胞に対してiPS.EC細胞の発現プロフィールを分類した。TPM中の平均iPS.EC細胞転写物の相対存在量を、2919の前処理されたヒト遺伝子発現データセットと比較した。得られた結果に基づいて、iPS.ECは内皮細胞に最も類似している-最も相関の高い75のデータセットは全て内皮細胞に由来し-55は静脈内皮細胞に由来し、13は微小血管内皮細胞に由来し、5は動脈内皮細胞に由来し、2はリンパ管内皮細胞に由来し、相関係数は0.69~0.64の範囲であり、p値5.38e-2212~6.39e-1828の範囲である。iPS.EC発現プロフィールを公開されたヒト組織RNA-seqデータ(Lonsdale et al. Nat. Genet. 45, 580-5 (2013))と比較するために、2338の組織特異的遺伝子(Cavalli et al. Genome Biol. 12, R101 (2011))の対数変換F/RPKM値を使用して、我々のプロフィールを既に説明されている(Danielsson et al. Brief. Bioinform. 16, 941-949 (2015))入手できる発現プロフィールと組合せ、ComBatを使用して配列決定試験バッチ作用を除去し、相関ヒートマップ中の試料クラスター形成を検査した。iPS.ECの発現プロフィールは、GTEx動脈試料の発現プロフィールとクラスターを形成することがわかる。
【0148】
II型糖尿病患者及び正常血糖対照患者の皮膚試料。ヒト皮膚の手術試料をT2D及び非糖尿病患者から採取した。非壊死性の健康な皮膚は、下肢切断物から採取した。T2D患者の下肢切断は、糖尿病性足症候群のために必要であった。非糖尿病患者の足切断は、事故、静脈潰瘍、又はT2Dに関連しないその他の血管疾患の結果として実施された。本研究は地元の倫理委員会によって承認され、含まれる全ての患者はインフォームドコンセントを提出した(番号449/2001;81/2008)。注目すべきことに、我々は、潰瘍又は下肢切断部の壊死の可能な最大距離で分離した皮膚を含めた。患者集団の詳細を次の表1に示す。
【表1】
【0149】
患者の皮膚の免疫組織化学。ヒトの皮膚材料をゲルトール(Geltol)で凍結固定し、-80℃で保存するか、又は4%パラホルムアルデヒド固定後、パラフィン包埋した。2~5μmの切片を切り取り、その後の免疫蛍光染色又は免疫組織化学染色に使用した。パラフィン切片を脱蝋し、水和させ、熱誘導抗原回復を実施した。抗原性は、マイクロ波処理(3×5分、620W)又は10mMクエン酸緩衝液(pH 6.0)中でオートクレーブで切片を加熱(60分)することで回復した。凍結切片を-20℃で保存し、使用時に解凍して乾燥させ、氷冷アセトンで20分間固定した。続いて、示された1次抗体とインキュベートし、ビオチン-ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ法、又は蛍光標識2次抗体を使用して可視化した。
【0150】
ヒト患者由来の内皮細胞調製物。4人のT2D患者と6人の非糖尿病患者を分析した。BECsのエクスビボ調製物(スペルアウト)用に、既に記載されているように11、ディスペースI(Roche Inc., #210455)の使用を含む、機械的及び酵素的微量調製プロトコールを使用した。得られた単一細胞懸濁液を1×PBS-1%FCSでブロックし、洗浄工程を介在させた3工程手順を用いて抗CD31抗体、抗CD45抗体、及び抗ポドプラニン抗体とインキュベートした。抗体については、上記のセクションを参照されたい。次に、FACStar Plus(Becton Dickinson)を使用して細胞選別にかけた。総CD31+ポドプラニン-内皮細胞を分離し、再分析し、2回ペレット化し(200g)、RLT緩衝液(Qiagen;#74104)に溶解し、さらにRNAseq用に処理した。
【0151】
電子顕微鏡法。血管オルガノイドを、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.2中の2.5%グルタルアルデヒドを使用して室温で1時間固定した。糖尿病及び非糖尿病患者の足切断物からの皮膚の血管の電子顕微鏡検査用に、ヒトの皮膚を4%PFA及び0.1%グルタルアルデヒドで固定し、Lowicryl-K4Mに包埋した。次に、試料を同じ緩衝液で洗浄し、ddH2O中の1%四酸化オスミウムで後固定し、一連の段階的なアセトンで脱水し、Agar100樹脂に包埋した。糖尿病及び非糖尿病患者の足切断物からの皮膚の血管の電子顕微鏡検査用めに、ヒトの皮膚を4%PFA及び0.1%グルタルアルデヒドで固定し、Lowicryl-K4Mに包埋した。70nmの切片をカットし、2%酢酸ウラニル及びレイノルズクエン酸鉛で後染色した。切片を、80kVで運転したFEI Morgagni 268D(FEI, Eindhoven, The Netherlands)で検査した。11メガピクセルのMorada CCDカメラ(Olympus-SIS)を使用して画像を取得した。
【0152】
糖尿病のげっ歯類モデル。この研究で使用したげっ歯類モデルと参考文献を表2に示す。対照は、表に示すように、年齢が一致したWT動物又は未処理系統のいずれかであった。全てのげっ歯類モデルのパラフィン包埋皮膚試料の切片をHE及びPASで染色して、血管形態を視覚化した。
【表2】
【0153】
統計学。特に明記しない限り、全ての値は平均値±SEMとして示されている。GraphPad Prismを使用して統計分析を実施した。使用された全ての統計的検定は、図の凡例で説明されている。P<0.05は統計的に有意であると認められた。
【0154】
実施例2
ヒト3D血管オルガノイドの確立
毛細血管は、壁の内層を形成する内皮細胞と、周囲の基底膜に埋め込まれた周皮細胞で構成されている。ヒト内皮細胞は 既にヒト胚性幹細胞(hESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)から得られている(James et al. Nat Biotechnol 28, 161-6 (2010); Patsch et al. Nat. Cell Biol. 17, 994-1003 (2015))。さらに、血管平滑筋細胞などの血管周囲細胞は、ヒトESC及びiPSCから生成することができる(Cheung et al. Nat. Biotechnol. 30, 165-73 (2012))。しかし、複雑な血管疾患のメカニズムを調べるには、内腔化内皮、内皮細胞-周皮細胞相互作用、一般的な基底膜の形成などのヒトの微小血管構造の全ての特徴に類似しており、ハイスループット薬物スクリーニングに適用できる、高度に洗練されたモデルが必要である。従って我々は、hESC及びiPS細胞から3Dヒト血管オルガノイドを確立することに着手した。
【0155】
これを達成するために、我々は中胚葉の発生と血管の特定に関与するシグナル伝達経路を調節する多段階プロトコールを開発した(図1)。最初に我々は、低酸素条件下でヒトES細胞凝集体を培養し、これらの細胞凝集体をGSK阻害剤CHIR99021に曝露してWnt経路を活性化することにより、中胚葉分化を誘導した(Pasch et al., supra; Sumi et al. Development 135, 2969-2979 (2008))。続いて、細胞凝集塊をBMP4、VEGF-A、及びFGF-2(Bai et al. J. Cell. Biochem. 109, 363-374 (2010); Goldman et al. Stem Cells 27, 1750-1759 (2009))で処理し、次にVEGF-A、FGF-2、及びSB431542(TGFβシグナル伝達をブロックするため)(James et al., supra; Watabe et al. J. Cell Biol. 163, 1303-11 (2003))で処理して、血管分化を促進した。次に、これらの細胞凝集体を3Dマトリックス内に埋め込み、さらにVEGF-A及びFGF-2で刺激して血管分化を促進した。定義された実験条件を複数のパイロットにより試験した後、3Dマトリゲル/コラーゲンIマトリックスを開発し、こうして血管樹に似た構造の再現性の高い伸長を可能にした(図1a)。血管マーカーCD31の免疫染色により、これらの伸長物が内皮管を高率に含有していることが確認された(図1b、c)。また我々は、内皮細胞の追加のプロトタイプマーカーであるVE-カドヘリンの染色も観察した(図6a)。共焦点画像解析により、CD31+内皮構造の複雑な相互接続ネットワークの形成が示された(図1d)。また我々は、このアプローチを使用してヒトiPSCからCD31+血管オルガノイドを開発することができた(図6b~d)。
【0156】
次に我々は、CD31+血管オルガノイドがインビボでヒト血管の特徴を再現することを確認した。遺伝子発現をプロフィール化するために、オルガノイドを脱凝集させ、CD31+内皮細胞用について選別し、RNAseqを実行した。3D培養物からのCD31+内皮細胞の遺伝子発現プロフィールは、実際、ヒト血管の遺伝子発現プロフィール(GTEx)と最も密接にクラスター生成をした(図7a)。SHOGoin Cellmontage2分析はさらに、我々のオルガノイド内皮細胞がヒト内皮細胞と排他的に一致することを示した(図示せず)。さらに、オルガノイドから分離された内皮細胞は、プロトタイプのhESCマーカーであるSOX2とNanogを発現せず、平滑筋マーカーであるジストロフィン、デスミン、ミオグエニンも発現しなかった。しかし重要なことは、これらが、初代ヒト内皮細胞又は既に報告された2Dインビトロヒト内皮培養物のバイオマーカー、例えばCD34、CDH5、vWF、PECAM1、NOS3、又はRAMP2を発現したことである(図7b)。オルガノイドから単離された内皮細胞はまた、細胞接着分子ICAM1を誘導することによりTNFα刺激に応答し(図1e)、これらの機能的能力を示していた。最も重要なことは、これらの3D血管オルガノイドが自己組織化性であり、我々は、分子マーカーCNN1、SMA、及びPDGFRβによって定義される周皮細胞の形成と適切な局在化を観察したことである(図1f-h)。プロトタイプの血管基底膜マーカーであるコラーゲンIV(図1h、i)及びラミニン(図7c)の免疫染色によって決定されるように、3D構造体も基底層に囲まれていた。注目すべきは、同じ条件下で精製され分化した内皮細胞と周皮細胞の同時培養は、周皮細胞の相互作用をほとんど示さずコラーゲンIVで覆われない弱々しい内皮細胞ネットワークを生じさせたことである(図20a)。重要なことは、我々は、試験したヒト胚性幹細胞株H9と2つの追加のiPSC株を使用して、同様の3D血管ネットワークを再現可能に生成できたことである(図20b)。
【0157】
薬物スクリーニングアプローチのために、これらのインビトロ微小血管構造をさらに改善し標準化するために、我々は96マイクロウェル形式で自由浮遊性3Dオルガノイド培養物を開発した(図1a)。これらの1~2mmの自由浮遊性オルガノイドは、CD31+内皮細胞と密接に結合した周皮細胞とからなる複雑な分岐3D毛細血管ネットワークを形成した(図2a)。ヒトESC及びiPSCからの自由浮遊性オルガノイドの生成は、堅牢で再現性があった。重要なことに、自由浮遊性オルガノイド培養物は、免疫組織学及び電子顕微鏡(EM)観察による処理のための単一のオルガノイドのウェルへの分離を可能にした。免疫組織学とEM画像化は、内皮細胞、周皮細胞、基底膜との典型的な毛細血管の形成と、内皮細胞間の典型的な密着結合の形成を実際に示した(図2b、c)。また我々は、増殖している血管の縁にCD31+端細胞を観察し、これは新たに血管が形成されていることを示す(図2d)。予想どおり、これらの端細胞は、成熟した毛細血管でのみ形成される基底膜に囲まれていない(図2d)。自由浮遊性血管オルガノイドは約3~4週間の培養で拡張され、その後成長が停止し、以後少なくとも2か月間維持された。
【0158】
次に我々は、FACSを使用して、血管ネットワークと自由浮遊性オルガノイドの細胞組成を評価した。両方とも、PDGFR-β+周皮細胞とCD31+内皮をさまざまな程度で含んでいた。残りの細胞は、主にCD90+CD73+間葉系幹細胞様細胞、及びCD90-CD45+造血細胞の少数集団であった(図15a)。我々の血管ネットワーク及び自由浮遊性オルガノイドから分離されたCD31+内皮細胞の遺伝子発現プロフィールは、これらの細胞がフォンビルブラント因子(vWF)などの成熟内皮マーカーを発現し、親iPSC多能性マーカーを効率的にダウンレギュレートすることを確認した(図15b)。3D培養物からのPDGFR-β+単離細胞は、NG2(GSPG4)、SMA(Acta2)、又はカルポニン-1(CNN1)の発現などの典型的な周皮細胞の特徴に向かって血管オルガノイドで変化させた初期血管ネットワーク段階で、内皮/周皮細胞マーカーの混合発現を示した(図15b)。この段階で我々は、血管オルガノイドにまだ存在している可能性のある初期PDGFR-β+周皮細胞前駆体から生じ得るOct-4及びNanogの発現も見つけた。重要なことに、我々の自由浮遊性オルガノイド中の内皮細胞は、細胞接着分子ICAM1(図15c)を誘導することによりTNF-α刺激に応答し、機能的能力を反映していた。さらに我々は、フォンビルブラント因子(vWF)の免疫染色、ワイベルパラード体の生成、アセチル化LDLの取り込み、並びにレクチンUEA-1による染色(図15d~f)を観察し、これらは全て成熟内皮細胞を示している。
【0159】
従って我々は、真正のヒト微小血管系の形態学的特徴と分子的特徴とを示すhESC及びiPSCからの自己組織化性3Dヒト血管オルガノイドを確立した。
【0160】
実施例3
血管オルガノイドはマウスにおいて機能的なヒト血管を確立する
血管オルガノイドがインビボで機能的な血管を形成できるかどうかを試験するために、我々はインビトロでhiPSCとhESCを血管オルガノイドに分化させ、これらを免疫不全宿主マウスの腎被膜下に移植した。ヒトのオルガノイドは、そのコンパクトな構造のため再現性よく移植でき、実際にマウス環境で増殖し、場合によっては6ヶ月以上生存した。オルガノイド及び腎臓組織をヒト特異的抗CD31で染色すると、内因性マウス血管の横にヒト血管構造が確立されることが示された(図3a)。我々はまた、端細胞の形成と隣接組織へのヒト血管の増殖によって決定されるように、ヒト血管の発芽を観察した。血液循環を評価するために、我々は受容体マウスをITC-デキストランで灌流した。我々は、ヒトの血管が内因性のマウス血管にアクセスできることを発見した(図3b、c)。同様に我々は、マウスにヒト特異的抗CD31抗体を灌流すると、マウス特異的抗CD31染色によって決定されるように、内因性マウス血管とは異なる血管の灌流と染色を観察した(図3d)。
【0161】
重要なことに、組織学的切片法は、これらのヒト血管が細動脈、毛細血管、及び細静脈に特定されることを示した(図3e)。この特定は、ヒトCD31+内皮、及び内皮を取り囲む平滑筋細胞のマーカーとしての平滑筋アクチン(SMA)若しくはカルポニンの免疫組織染色を使用して、さらに確認された(図3f)。我々はまた、ヒトミオシン重鎖11(MYH11)に特異的な抗体を用いて平滑筋細胞を検出した(図3f)。さらに、移植されたヒト血管オルガノイドの灌流はMRI画像化で確認され、これは移植されたヒト血管オルガノイドへの流れと、重要なことに血管樹からの血液の排出も検出した(図3g)。灌流速度と血液量の定量的MRI測定は、十分に血管形成され灌流された移植物を示した。さらに、平均通過時間(MTT)と少ない血管漏出(K2)により、隣接する内因性マウスの腎臓と筋肉中の血流パラメーターと比較して、ヒトの血管の明らかに正常な組織と機能が確認された(図3g)。これらのデータは、我々のヒト3D毛細血管オルガノイドがインビボで細動脈と細静脈に特定され、受容体マウスにおいて灌流された機能的なヒト血管を形成することができることを示す。
【0162】
実施例4
ヒト血管オルガノイドにおける糖尿病性血管障害
糖尿病は、失明、腎不全、心臓発作、脳卒中、又は下肢切断の主要な原因である。血管の顕著な変化のために、大部分は基底膜の拡張によって定義される。糖尿病性微小血管障害によるこのような構造変化は、人間の腎臓又は筋肉生検で観察されている。ヒトの糖尿病性微小血管の変化を確認するために、我々は、正常血糖個体と2型糖尿病(T2D)患者の手術標本で皮膚の微小血管を調べた。年齢、性別、体格指数(BMI)、血清クレアチニンレベル、及び罹病年数を含む臨床特性を表1に示す。正常血糖対照の皮膚の血管では、コラーゲンIV及びPAS染色(図4a)及び電子顕微鏡(図4b)によって決定されるように、CD31+毛細血管内皮は薄い基底膜に囲まれていた。我々の研究に含まれた全ての2型糖尿病患者の皮膚の微小血管は、細胞外細胞マトリックスタンパク質の沈着の顕著な変化と、基底膜層の大幅に厚くなったタマネギの皮膚のような積層と典型的な分裂を明らかにした(図。4a、b)。従って、予想通り、T2D患者の皮膚毛細血管の大きな基底膜の肥厚が観察される。
【0163】
糖尿病性微小血管障害は、糖尿病患者の皮膚では明らかであるが、糖尿病のさまざまなげっ歯類モデルではまだ観察されていない。従って我々は、複数の遺伝的及び環境誘発性糖尿病のマウスモデルとラットモデルの皮膚微小血管系の包括的な評価を実施した。しかし、レプチン及びレプチン受容体変異体ob/ob及びdb/dbマウス、ストレプトゾトシン処理マウス、マウスにおけるインシュリンのドキシサイクリン誘発ノックアウト、LDLR変異マウスの高脂肪食、高脂肪とグルコース、又はレプチン受容体変異を有するZucker糖尿病脂肪ラット、及びストレプトゾトシン処理ラットを含む、これらのモデルのいずれにおいても、皮膚の血管病態を示す基底膜の肥厚を検出できなかった(図9a、b、及び表2)。従って、1型及び2型糖尿病のこれらの非常に重度の長期げっ歯類モデルはいずれも、毛細血管基底膜の肥厚というヒト糖尿病性血管障害の代表的な特徴を示さなかった。
【0164】
糖尿病のげっ歯類モデルが、糖尿病患者に存在する皮膚の血管障害を再現しないことから、我々は、我々のヒト血管オルガノイドでこの重要な表現型をモデル化できるかどうかを試験したいと考えた。これを達成するために我々は、高グルコース濃度の培地で3D血管オルガノイドを培養し、ヒトの皮膚試料と同様に、コラーゲンIVで検出される基底膜の拡張をモニターした。興味深いことに、高血糖症は、ヒト血管オルガノイドにおいてコラーゲンIVの顕著な増加をもたらした(図4c、d)。糖尿病はTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの血清レベルの上昇を含む炎症状態を伴うため、我々はまた、正常血糖又は高血糖状態でTNFα及びIL6有り又は無しで血管オルガノイドを培養した。正常血糖条件下では、血管オルガノイドにおけるコラーゲンIV発現は、TNFαとIL6の単独又は組み合わせへの曝露によって大きくに変化しなかった。しかし、高濃度グルコースとTNF-αとIL-6の両方に曝露された血管オルガノイドでは、コラーゲンIVの沈着が著しく増加した(図4c、d)。これらのオルガノイドの共焦点断面により、TNFα、IL6、及び高グルコースの「糖尿病カクテル」による処理に応答してコラーゲンIVの顕著な拡張と基底膜の肥厚が確認された(図4e)。さらに我々は、ヒトT2D患者に関する我々の知見(図4b)と一致して、EMによる基底膜層の大きな肥厚と分裂が観察した(図4f)。糖尿病カクテルに応答した血管基底膜のこの肥厚は、ヒトiPSC(図4c~f)及びヒトESCに由来する血管オルガノイドで観察された。
【0165】
次に我々は、遺伝子発現に基づいて、高グルコース/TNFα/IL6に曝露された「糖尿病性オルガノイド」を特性解析した。TNF-α、IL6、及び高グルコースに曝露された血管オルガノイドにおいて内皮細胞の顕著な減少並びに周皮細胞の消失が観察された(図16a、b)。我々は、対照及び糖尿病性ヒト血管オルガノイドから選別されたCD31+内皮細胞に対してRNAseqを実施した。アンギオポエチン2、アペリン、ESM1、及びTNFRSF11Bなどを含むヒトの糖尿病のマーカーとして既に関係が示唆されていた遺伝子は、対照オルガノイドと比較して糖尿病性オルガノイド中の最もアップレギュレートされた遺伝子の上位5位に含まれていた(図5a)。実際、糖尿病オルガノイド対対照のオルガノイド、及びT2D患者対正常血糖の個体の皮膚の血管から生成された示差的遺伝子発現プロフィールは、糖尿病性オルガノイドとT2D患者の間に、細胞外マトリックス、細胞接着、成長因子の活性/結合に関連する顕著な重複が証明された(図5a)。我々はまた、対照と比較して糖尿病性オルガノイドにおいてコラーゲンIVのmRNAレベルが増加していることを発見し(図9b)、対照と糖尿病性オルガノイドからのCD31+内皮間の示差的発現遺伝子の上位5つの遺伝子のオントロジー(GO)経路項が全て、コラーゲン生合成と細胞外マトリックスの再編成に関連していることを発見した(図5a)。血管オルガノイドとは対照的に、TNFα/IL6の有無にかかわらず高グルコースに曝露されたさまざまな内皮細胞は、細胞外マトリックス及びコラーゲン生合成成分(HUVECを含む)、不死化ヒト微小血管内皮細胞株HMEC1、及び初代又はTERT不死化ヒト血管内皮細胞(BEC)をアップレギュレートしなかった。従って、高グルコースと炎症環境へのヒト血管オルガノイドの曝露は、基底血管膜の大きな肥厚と、遺伝子発現プロフィールの変化をもたらし、ヒト糖尿病性微小血管障害をモデル化している。
【0166】
実施例5
γ-セクレターゼ活性の阻害は血管オルガノイドにおける「糖尿病性」変化を消失させる
ヒト糖尿病性血管障害のインビトロのオルガノイドモデルを作成したため、次に我々は、高グルコース/TNFα/IL6で処理したヒト血管オルガノイドの基底膜の肥厚と拡張をブロックできる薬剤を特定したいと考えた。この目的のために我々はまず、現在糖尿病の治療にクリニックで使用されている複数の承認薬を試験した。しかし、我々が試験した薬、すなわちメトホルミン、ピオグリタゾン、グリメピリド、アカルボース、ナテグリジン、チアゾリジンジオン、及びジフェニレンヨードニウムのいずれも、血管オルガノイドにおける基底血管膜の高グルコース/TNFα/IL6誘発性肥厚に影響を及ぼさなかった(図5b、c)。
【0167】
次に我々は、さまざまな一般的なシグナル伝達及び下流経路の小分子阻害剤、すなわちGSK3、PKC、AKT、NFkB、ROS、p38-MAPK、JNK、ROCK、ERKを使用して、糖尿病血管オルガノイドをスクリーニングした。これらの阻害剤はいずれも、コラーゲンIVの拡張と毛細血管基底膜の肥厚に大きな影響を及ぼさないことがわかった(図5d、e)。注目すべきことに、NFkBをブロックすると、基底膜の肥厚が実際に著しく増加した。次に我々は、異なる受容体を切断して、Notchを含む明確なシグナル伝達経路を活性化する酵素であるγ-セクレターゼの阻害剤を評価した。γ-セクレターゼ阻害剤であるDAPTは、「糖尿病カクテル」に曝露されたヒト血管オルガノイドにおけるコラーゲンIVの拡張と基底膜の肥厚を完全に抑止することがわかった(図5c、d)。さらに、γ-セクレターゼ阻害剤の作用は用量依存的であり(図5e)、その特異性と有効性がさらに確認された。重要なことに、我々はヒトの血管が糖尿病マウスにおいて漏れやすくなることも観察し、これは、我々が観察した形態変化が血管機能の障害にも関連しており、過剰な血管漏出(leakiness)がDAPT治療によりレスキューされたことの直接的な証拠を提供している(図17a、b)。さらに、インビボでのDAPT処理は、糖尿病マウスにおけるCD31+ヒト血管の消失をレスキューした(図17c、d)。これらのデータは、γ-セクレターゼ活性の阻害が、インビトロ及びインビボでの糖尿病性血管の構造的及び機能的変化を阻害することを示す。
【0168】
実施例6
糖尿病性基底膜肥厚の候補経路としてのDll4-Notch3の同定
γ-セクレターゼは、複数の異なる受容体を切断して、Notchを含む明確なシグナル伝達経路を活性化できる酵素である。我々の実験的な糖尿病血管の変化からの防御に関与する分子的DAPT標的を同定するために、我々は、NotchリガンドであるJagged1、Dll1、Dll4、及びNotch1とNotch3(これらは全て、血管で顕著に発現されている)をブロックした。Jagged1、Dll1、及びNotch1の阻害は、我々の自由浮遊性オルガノイドの「糖尿病性」変化に明らかな影響は与えなかった。しかし、Dll4とNotch3のブロックは、基底膜肥厚を有意にレスキューした(図18a)。これらの知見を確認するために、我々はCRISPR/Cas9を使用して、Dll4及びNotch3変異体ヒトiPS細胞を生成した(図19a~d)。これらの変異体iPS細胞から、我々は血管ネットワークと自由浮遊性の血管オルガノイドを容易に得ることができた(図18b)。重要なことに、Dll4及びNotch3変異体血管の両方とも、高グルコース、IL6、及びTNFaに曝露された対照オルガノイドと比較して、基底膜拡張の著しい低下を示した(図18b)。最後に、抗Notch3抗体によるヒト血管樹を保持するSTZ処理マウスのインビボ処理は、Notch3のブロックが、糖尿病環境に曝露されたヒト血管の基底膜の変化を軽減することを示した(図18c)。従って他の経路を除外せずに、我々は、Dll4-Notch3を、糖尿病性血管障害における基底膜肥厚を媒介できる重要なリガンド-受容体対であることを明らかにした。
【0169】
結論
血管は、本質的に全ての器官系の発生に寄与し、脳卒中から心臓発作又は癌に至るまでの複数の疾患において重要な役割を担っている。これらの重要性のため、HUVEC細胞などの古典的な内皮細胞株の使用を含む、発生及び疾患中の血管生物学を研究するための複数の細胞システムが開発された。さらに、内皮細胞及び周皮細胞は、それぞれヒト幹細胞から開発されている。
【0170】
私たちは、hESC及びiPSCから真正のヒト毛細血管を発生させるための堅牢で再現可能なシステムを開発した。これらの血液オルガノイドは、既に定義されたヒトオルガノイドの全ての基準を満たしている。興味深いことに、免疫不全マウスに移植された血管オルガノイドは、デキストランの灌流、抗体注入、及び内因性マウス器官に匹敵する潅流と漏れ速度を明らかにしている血流のMRIによって示されるように、ヒトの血管とマウスの循環系との接続をもたらした。ヒトの血管系をマウス循環系に接続すると、明確な血管樹が示される。最も重要なことは、移植されたヒトオルガノイドは、インビボで細動脈と細静脈にさらに発生し、こうして真の血管樹を形成することであり、これはこれまで証明されなかった。従って、これらのオルガノイドを使用して、より複雑な多系統のオルガノイドを開発することもでき、例えば心筋細胞を含む血管を形成したり、脳又は肝臓のオルガノイドの血管を発生させることを試みることができるであろう。またこれらは、患者由来のiPSCを用いて、まれな血管疾患を研究するのに使用できるであろう。
【0171】
糖尿病の世界的な有病率は過去30年間でほぼ2倍になり、現在の推定では約4億2000万人の糖尿病患者と、さらに多くの前糖尿病患者がおり、多くの場合長期間の病的状態と死亡率の上昇をもたらしている。糖尿病は、多くの場合、不十分な組織酸素化、細胞輸送の障害、又は血管の破裂をもたらす基底膜の大きな肥厚などの血管病変の結果として、失明、腎不全、心臓発作、脳卒中、及び下肢切断の主要な原因となっている。げっ歯類の網膜及び腎臓における糖尿病性血管の変化の特定の態様をモデル化することはできるが、これまで、ヒトで見られる糖尿病性の血管の変化の全ての臨床的特徴を示す単一のモデルはなかった。さらに、我々が試験した糖尿病のげっ歯類モデルのいずれにも皮膚の微小血管の変化は起こらないため、これらの微小血管の変化で機能する経路や潜在的な薬物標的を同定するための新しいシステムを開発することが不可欠である。我々の血管オルガノイドの有用性を証明するために、これらを高グルコース、IL6、及びTNFαを含む「糖尿病カクテル」に曝露した結果、T2D患者の皮膚毛細血管で観察される微小血管の変化に似た、コラーゲンの基底膜の著しい拡張と遺伝子発現プロフィールが得られた。
【0172】
我々は、多くの現在の抗糖尿病薬、及び複数の一般的なシグナル伝達経路の小分子阻害剤を試験したが、糖尿病性オルガノイドの基底膜の拡張に影響を与えたのはごくわずかであった。興味深いことに、我々は、γ-セクレターゼ阻害剤DAPTが我々のオルガノイド培養物の基底膜の肥厚をほぼ完全に防止することを見つけた。γ-セクレターゼ阻害剤はすでにアルツハイマー病の臨床試験を受けており、現在癌治療薬として試験中である。これらの薬物は、ヒトの糖尿病性血管障害の治療に再利用できる。重要なことに、これらのデータが、糖尿病性微小血管障害のヒト血管オルガノイドモデルが、微小血管の変化を緩和する新薬を発見するための有用なスクリーニングツールであるという原理の証拠を提供している。
【0173】
γ-セクレターゼ阻害剤はすでにアルツハイマー病について臨床試験を受けており、γ-セクレターゼ阻害剤とNotch2/3ブロッカーは現在癌治療薬として試験されている。さらに、γ-セクレターゼ阻害剤によるNotch経路の阻害は、糖尿病ラットにおけるアポトーシスにより、糖尿病に誘発された糸球体硬化症と糸球体上皮細胞の消失を減少させた。従って、これらの薬物は、ヒトの糖尿病性血管障害の治療に再利用できる。重要なことに、これらのデータは、ヒトの血管オルガノイドと我々のインビボの糖尿病性微小血管障害モデルが、糖尿病の微小血管変化を緩和する新薬を開発するための有用なスクリーニングツールとなり得るという原理の証明を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
2023126246000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0173
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0173】
γ-セクレターゼ阻害剤はすでにアルツハイマー病について臨床試験を受けており、γ-セクレターゼ阻害剤とNotch2/3ブロッカーは現在癌治療薬として試験されている。さらに、γ-セクレターゼ阻害剤によるNotch経路の阻害は、糖尿病ラットにおけるアポトーシスにより、糖尿病に誘発された糸球体硬化症と糸球体上皮細胞の消失を減少させた。従って、これらの薬物は、ヒトの糖尿病性血管障害の治療に再利用できる。重要なことに、これらのデータは、ヒトの血管オルガノイドと我々のインビボの糖尿病性微小血管障害モデルが、糖尿病の微小血管変化を緩和する新薬を開発するための有用なスクリーニングツールとなり得るという原理の証明を提供する。
本発明の態様の一部を以下に記載する。
1.人工血管オルガノイドを生成する方法であって、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込み、そして前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記凝集体の血管分化を刺激することを含む、上記方法。
2.コラーゲンマトリックス内に埋め込まれた前記細胞凝集体が少なくとも30個の細胞を含む、項目1に記載の方法。
3.前記中胚葉分化が、前記幹細胞を、Wntアゴニスト又はGSK阻害剤、好ましくはCHIR99021で処理することを含む、項目1又は2に記載の方法。
4.前記幹細胞における血管分化が、前記幹細胞を、VEGF、好ましくはVEGF-A、及び/又はFGF、好ましくはFGF-2、及び/又BMP、好ましくはBMP4、及び/又は12%(v/v)以下の大気酸素の低酸素条件で処理することを含む、項目1~3のいずれかに記載の方法。
5.前記凝集体の血管分化が、前記凝集体の細胞を、VEGF、好ましくはVEGF-A、及び/又はFGF、好ましくはFGF-2で処理することを含む、項目1~4のいずれかに記載の方法。
6.前記コラーゲン3Dマトリックスが、少なくとも50質量%のコラーゲンを含み、及び/又は前記コラーゲン3Dマトリックスが、10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIVを含み、好ましくは、さらに0.5%~10%のニドゲン、0.5%~10%のヘパラン硫酸プロテオグリカン、及び/又は0.5%~10%のエンタクチン(全て質量%)を含む、項目1~5のいずれかに記載の方法。
7.前記3Dマトリックスが、好ましくは10~30の粘弾性貯蔵弾性率G’を有するヒドロゲルである、項目1~6のいずれかに記載の方法。
8.毛細血管が内皮及び血管周囲の周皮細胞を有する基底膜を含む、毛細血管の相互接続ネットワークを含む人工血管オルガノイド培養物。
9.前記オルガノイドが、項目1~7のいずれかに記載の方法によって産生される、項目8に記載の人工血管オルガノイド培養物。
10.前記毛細血管が、コラーゲンを有するヒドロゲルを含む人工3Dマトリックス内に埋め込まれている、項目8又は9に記載の人工血管オルガノイド培養物。
11.前記オルガノイド培養物が、個々の血管及び毛細血管の交点間の血管を計数すると40~1000個の血管を含む、項目8、9、又は10の人工血管オルガノイド培養物。
12.前記毛細血管が1μm~30μmの平均直径を有し、及び/又は内皮細胞と血管周囲の周皮細胞の比率が100:1~1:5であり、及び/又は前記毛細血管が成熟内皮細胞及び/又は成熟周皮細胞を含む、項目8~11のいずれかに記載の人工血管オルガノイド培養物。
13.非ヒト動物モデルにヒト毛細血管を提供する方法であって、前記ヒト毛細血管が内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含み、項目8~12のいずれかに記載のヒト血管オルガノイドを非ヒト動物に導入する工程と、前記オルガノイドにその毛細血管を増殖させる工程とを含み、好ましくは、前記ヒトオルガノイドは前記非ヒト動物の腎臓の上又は中に導入される、上記方法。
14.項目8~13のいずれかに記載の挿入された人工血管オルガノイド培養物を含む非ヒト動物モデル、又はヒト毛細血管を有する非ヒト動物モデルであって、前記ヒト毛細血管が、内皮と血管周囲の周皮細胞を含む基底膜とを含み、好ましくは、前記人工血管オルガノイド培養物の毛細血管又は前記ヒト毛細血管が、前記非ヒト動物の血液循環系によって灌流される、上記モデル。
15.前記血管又は毛細血管が病因に曝され、前記オルガノイド又はヒト動物モデルが病態のモデルであり、好ましくは、病因が高血糖症及び/又は炎症を含み、及び/又は前記病態が糖尿病であり、好ましくは前記炎症が1つ以上の炎症性サイトカイン、好ましくはTNF-アルファ及び/又はIL-6への曝露を含む、項目1~14のいずれかに記載の方法又は培養物又は非ヒト動物モデル。
16.病因または病態に影響を及ぼす候補化合物をスクリーニングする方法であって、項目1~15のいずれかに記載の培養物若しくは非ヒト動物モデルに、又は前記培養物若しくは非ヒト動物モデルの生成中に、前記候補化合物を投与し、候補化合物を投与していない前記培養物又は動物モデルと比較して、前記培養物又は動物モデルの生理学的差異をモニターすることを含む上記方法。
17.組織置換療法、特に好ましくは前記人工血管オルガノイドを創傷内に配置し、前記人工血管オルガノイド培養物を創傷内に組み込むことを含む治療法におけるインプラントとしての、項目8~12のいずれかに記載の人工血管オルガノイドの使用。
18.糖尿病性血管障害、閉塞性血管障害、血管透過性の変化、組織低酸素症、心臓病、脳卒中、腎疾患、失明、創傷治癒障害、又は慢性皮膚潰瘍などにおける、肥厚した毛細血管基底膜の治療又は予防における、Notch3活性化経路阻害剤の使用。
19.前記Notch3活性化経路阻害剤が、ガンマセクレターゼ阻害剤、Notch3阻害剤、DLL4阻害剤、又はこれらの組み合わせである、項目18に記載の使用。
20.項目1~7のいずれかに記載の人工血管オルガノイドの生成に適したキットであって、(i)Wntアゴニスト又はGSK阻害剤、(ii)VEGF、好ましくはVEGF-A、FGF、好ましくはFGF-2、BMP、好ましくはBMP4から選択される血管分化因子、(iii)好ましくは10%~50%のラミニン、20%~70%のコラーゲンI、及び/又は2%~30%のコラーゲンIV(全て質量%)を含むコラーゲン3Dマトリックス、を含む上記キット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023126246000001.xml
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工血管オルガノイドを生成する方法であって、血管分化が可能な幹細胞を提供し、前記幹細胞における中胚葉分化を刺激し、前記幹細胞における血管分化を刺激し、前記幹細胞から細胞凝集体を発生させ、前記細胞凝集体をコラーゲン3Dマトリックスに埋め込み、そして前記コラーゲン3Dマトリックスにおける前記凝集体の血管分化を刺激することを含む、上記方法。
【外国語明細書】