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  • -金属管の補強方法及び補強材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126314
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】金属管の補強方法及び補強材
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/673 20160101AFI20230831BHJP
【FI】
E01F9/673
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111266
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2018080177の分割
【原出願日】2018-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000204620
【氏名又は名称】大嘉産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恵
(57)【要約】
【課題】簡単に施工できる金属管の補強方法を提案する。
【解決手段】本発明に係る金属管の補強方法は、金属管Pの中に筒形の補強材100を挿入し、該挿入した補強材100の内側に流動性固化材を注入して当該補強材100を金属管Pの内壁に押し付ける工程を含み、補強材100として、それぞれが多数の化学繊維を束ねた繊維束からなる経糸10と、この経糸10をなす繊維束を相互に連結する緯糸20とからなる平織の繊維束織物を、経糸10を軸方向にして筒形とし、該筒形の外表面に接着剤層を形成した補強材100を使用する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管の補強方法であって、
金属管の中に筒形の補強材を挿入し、該挿入した補強材の内側に流動性固化材を注入して当該補強材を前記金属管の内壁に押し付ける工程を含み、
前記補強材として、それぞれが多数の化学繊維を束ねた繊維束からなる経糸と、この経糸をなす繊維束を相互に連結する緯糸とからなる平織の繊維束織物を、前記経糸を軸方向にして筒形とし、該筒形の外表面に接着剤層を形成した補強材を使用する、補強方法。
【請求項2】
前記補強材における前記緯糸が、前記経糸の複数本おきに前記経糸の間を通過して表裏へ移行し浮き沈みするように織り込んであり、当該経糸の複数本おきにある緯糸の経糸間通過部分を関節として前記経糸がヒンジ接続されている、請求項1に記載の補強方法。
【請求項3】
金属管の補強に使用する補強材であって、
それぞれが多数の化学繊維を束ねた繊維束からなる経糸と、この経糸をなす繊維束を相互に連結する緯糸とからなる平織の繊維束織物を、前記経糸を軸方向にして筒形とすることで作製され、そして、接着剤層が外表面に形成されている、補強材。
【請求項4】
前記緯糸が、前記経糸の複数本おきに前記経糸の間を通過して表裏へ移行し浮き沈みするように織り込まれており、当該経糸の複数本おきにある緯糸の経糸間通過部分を関節として前記経糸がヒンジ接続されている、請求項3に記載の補強材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路照明ポールなどの金属管の補強(改修)に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下端部を地中に植設して立てられた道路照明ポールは、その地際から下の部位に腐蝕が発生する懸念があるので、特許文献1に開示されるような補強技術で補強を行う場合がある。特許文献1に開示されているのは、中空柱の地際から下の部分において、内部にアラミドロッドを多数、スペーサを使用して規則正しく配置し、そして、モルタル等の流動性固化材を注入する補強方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-225019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の上記補強方法には、アラミドロッドの配置に手間がかかるという改善点がある。また、道路照明ポールの場合はその内部に電気配線が配されているので、このような内部部品のある金属管であっても支障なく補強できるような補強技術も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
金属管を補強するために提案する本発明に係る補強方法は、金属管の中に筒形の補強材を挿入し、該挿入した補強材の内側に流動性固化材を注入して当該補強材を金属管の内壁に押し付ける工程を含み、その補強材として、それぞれが多数の化学繊維を束ねた繊維束からなる経糸と、この経糸をなす繊維束を相互に連結する緯糸とからなる平織の繊維束織物を、前記経糸を軸方向にして筒形とし、その外表面に接着剤層を形成した補強材を使用することを特徴とする。この補強材は、平織をなす前記緯糸の経糸間通過部分(すなわち、前記緯糸が前記経糸の間を表裏へ通過する部分)が関節となって、前記経糸がヒンジ接続されるので、当該関節部分で屈曲可能である。一態様として、前記緯糸は、前記経糸の複数本おきに前記経糸の間を通過して表裏へ移行し浮き沈みするように織り込む態様とすることが可能で、この態様によると、当該経糸の複数本おきにある緯糸の経糸間通過部分を関節として前記経糸がヒンジ接続される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る補強方法と補強材は、例えば経糸をなす繊維束をアラミド繊維を束ねて作った繊維束織物とすれば、筒形の補強材を金属管に挿入するという簡単な手法で管内壁に沿ってアラミドロッドを配筋することができる。また、補強材が経糸間で屈曲可能であることから、金属管内に電気配線などがあってもこれに沿って補強材が変形し、支障なく補強を行える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(A)補強材をなす繊維束織物(シート状)の平面図、(B)緯糸の織り込み方を説明する端面図、(C)経糸をなす繊維束の断面図。
図2】筒形にした図1の繊維束織物を示す図。
図3】金属管の開口から管内へ補強材を挿入する様子を示した図。
図4】金属管内に挿入して内壁に押し付けた補強材を示す図。
図5】筒形にした図1の繊維束織物が変形する状態を説明した図。
図6】金属管内に挿入して内壁に押し付けた補強材の別の例を示す図。
図7図6の例の補強材について金属管の開口から管内へ挿入する様子を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(A)に、本発明に係る補強材を作製するための繊維束織物について、平面図で例示してある。補強材をなす繊維束織物1は、経糸10と緯糸20とからなる平織の織物である。経糸10は、それぞれが多数の化学繊維を束ねた繊維束からなり、この経糸をなす繊維束10がその延伸方向Yを互いに平行にして横1列に並べられ、緯糸20によって相互に連結されている。緯糸20は、図1(B)に示すとおり、経糸をなす繊維束10の複数本おき(本実施形態では3本おき)に経糸10の間を通過して表から裏へまた裏から表へ移行し浮き沈みするように織り込まれていて、当該緯糸の経糸間通過部分21を関節として、経糸の繊維束10が3本おきにヒンジ接続される構造となっている。経糸の繊維束10は、この場合、3本ずつ互いに接着することもできる。
【0009】
図1(A)及び図1(B)から分かるように、経糸の繊維束10は、上記の織り方で張力をかけた緯糸20により、本実施形態において3本ずつひとまとまりに束ねられて、この3本は互いに密着して固定される。一方、経糸3本おきに緯糸20が表裏へ移行するので、この経糸3本おきに現れる緯糸20の経糸間通過部分21に該当する繊維束10の間は、例えば0.1mm~1mm程度の、緯糸20の材質(又は太さ)に従う隙間が存在し、離れている。したがって、経糸間通過部分21を関節として経糸の繊維束10がヒンジ接続され、図1(B)に示すように、繊維束織物1は、経糸間通過部分21を関節にして屈曲する。なお、この緯糸20の経糸間通過部分21は、経糸間の隙間にカッターなどの刃を入れて切断することが可能であり、経糸10の切り離し部としての機能ももつ。このような緯糸20は、ポリエチレン製やポリプロピレン製のものを使用できる。
【0010】
経糸をなす繊維束10は、図1(C)の断面図(繊維束の1本を示している)に示すように、1本1本が延伸方向Yに延伸する長繊維の高強度繊維(例えばアラミド繊維)11を多数束ね、フェノール系、ポリエステル系、エポキシ系又はアクリル系の樹脂を含浸して固めることで形成される。アラミド繊維11を束ねた1本の繊維束10の太さは、一例として500デシテックス(dtex)とし、0.5mm以上で5mm以下の直径にするのが配筋用強度を考えると好ましい。また、含浸した樹脂の硬度は、繊維束織物1を加工するうえで、80以下(ロックウェル硬さ)にするのがよい。
【0011】
以上の形態の繊維束織物1は、経糸10の延伸方向Yが筒形の軸方向となるようにして丸め、つまり、図2に示すように経糸10を軸方向にして筒形とし、補強材として使用する。経糸10が経糸間通過部分21でヒンジ接続されているのでこの部分の屈曲により、繊維束織物1を筒形にすることは簡単にできる。図1(A)の繊維束織物1を筒形にしたときの突き合わせ端部は(図1(A)の左右の側縁)、緯糸20と同じ素材の結束材で結束して連結すればよい。あるいは、筒形に丸めるだけで端部は連結せずフリーにしておくことも可能である。
【0012】
筒形に丸めた図2に示す繊維束織物1は、その外表面に、接着剤層が形成される。接着剤層は、例えば、エポキシ樹脂などの硬化性樹脂を外表面に塗布することで形成可能である。接着剤層は、緯糸20の径よりも厚く形成しておくのがよい。この接着剤層を形成するにあたって、経糸10が本例では3本ずつまとめてあって該3本が1枚の板をなす形態になっているので、接着剤を厚く塗布して層を形成しやすくなっており、さらには接着剤層の表面積をより広くとることも可能となっている。
【0013】
図3図4に、図2の筒形にした繊維束織物1に接着剤層を形成した後の補強材100を使用する金属管の補強工程に関し、簡単に図示して説明する。
【0014】
金属管Pは、例えば道路に立設された道路照明ポールで、その下端部が周りをコンクリートで固められて地中に植設されている。この金属管Pには、内部点検等のために開口Oが地面より上の所定の位置に設けられていて、普段は図示せぬ蓋で閉じられている。本例の金属管Pは、地際から下の部分に腐蝕が発生している。
【0015】
補強材100は、経糸間通過部分21で折り曲げて畳むことができるので、折り畳んですぼめた状態にして開口Oから金属管Pの中へ挿入する。図3図4に図示した補強材100は、外表面に接着剤層が形成されていることを示すべく灰色で示してある。図3及び図4において緯糸20を描写してあるが、これは説明のためであり、緯糸20は実際には接着剤層で覆われている。
【0016】
金属管Pの中に挿入された補強材100は、折り畳まれた状態から広がって(又は広げられて)図2に示す筒形に戻り、金属管Pの中で屹立する。そして、屹立した補強材100の内側に、ホース等を使用して流動性固化材をポンプから注入し、補強材100を内側から押し広げるようにして金属管Pの内壁へ押し付ける(図4)。流動性固化材は例えばモルタルで、養生後に固化する。この流動性固化材注入時、経糸10が複数本を一組として束ねられていることから、流動性固化材が補強材100の外へ漏れ出す隙間が少なく、漏れにくい構造となっている。
【0017】
補強材100の外表面には接着剤層が形成されているので、金属管Pの内壁に押し付けられた補強材100は、接着剤の硬化に伴って金属管Pに固着し、繊維束からなる経糸10が配筋材として作用する。さらに、外表面に形成された接着剤層の接着剤が、腐蝕により管壁に開いた孔を通って腐蝕中に染み出し、その腐蝕凹凸を充填する。したがって、腐蝕の部分については、金属管Pの内側と外側の両方から補強、改修がなされる。
【0018】
道路照明などの電気器具を設置する金属管の場合、地中埋設部分(図3及び図4におけるコンクリート内部分)に電源線用の孔があって、ここを通して金属管内に電源線が引き込まれ、金属管先端に搭載された電気器具まで金属管内を導かれている。このような電気配線など内部部品が金属管内にある場合、繊維束織物1が経糸間通過部分21を関節として屈曲するから、この補強材100は、図5に示すように、内部部品に沿って変形することができる。すなわち、図5に示す繊維束織物1からなる補強材100は、配線管などの内部部品に沿って一部が内方へ凹んでいる。
【0019】
図6には、補強材100を挿入するための開口Oを、金属管Pに新たに形成する場合の補強例を示す。開口Oは、補強材100を挿入するために現場で新たに開けられた開口で、補強材施工後には別途作製した蓋などで閉じられる。補強材100は上述のものと同じであるが、その軸方向の長さが、開口Oよりも上に達するように作製されている。すなわち、補強材100が金属管P内に挿入されて屹立すると、開口Oは補強材100により内側から塞がれる。補強材100には、開口Oに相当する部位に流動性固化材を注入するためにホース等を接続する注入口もしくは注入チューブ30が設けられており、ここから流動性固化材が圧入される。固化材注入後、この注入口もしくは注入チューブ30は密閉される。あるいは、別の手法として、金属管Pのさらに上方から固化材注入のホースを管内に取り入れ、流動性固化材を上から補強材100の中に注入することも可能である。
【0020】
開口Oは金属管Pの欠損部となってそのままにしておけば強度低下を招き得るが、当該欠損部は補強材100により覆われて補強されることになるので、強度が損なわれることはなく、むしろ増強される。従来技術で金属管補強に使用される薄いシート状の内張材などでは、本例と同様に施工した場合、固化材注入の圧力で内張材が開口Oからせり出し支障を来すが、本発明に係る補強材100は上述のとおり経糸10が化学繊維の繊維束であって高強度であるから、固化材注入圧に十分に対抗することができ、湾曲して開口Oからせり出すことがない。
【0021】
この例の開口Oよりも背の高い補強材100を挿入するには、図7に示すように、まず、補強材100を開口Oから上方へ金属管P内に挿入する。そして、補強材100の全体が管内に入ったところで補強材100を下降させれば、図6の屹立状態とすることができる。この挿入手順以外は、図3及び図4の例に関して述べたとおりである。
【符号の説明】
【0022】
1 繊維束織物
10 経糸
11 化学繊維
20 緯糸
21 経糸間通過部分
100 補強材
P 金属管
O 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7