(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126424
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】蛍光体ガラス薄板及びその個片の製造方法並びに蛍光体ガラス薄板及びその個片
(51)【国際特許分類】
C03C 19/00 20060101AFI20230831BHJP
C03B 33/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C03C19/00 Z
C03B33/02
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114876
(22)【出願日】2023-07-13
(62)【分割の表示】P 2018102191の分割
【原出願日】2018-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2018017997
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】國本 知道
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
(57)【要約】
【課題】蛍光体ガラス薄板をより確実に製造することができる、蛍光体ガラス薄板の製造方法を提供する。
【解決手段】対向する第1の主面21a及び第2の主面21bを有する蛍光体ガラス母材21を用意する工程と、蛍光体ガラス母材21をステージ22上に載置し、第2の主面21bをステージ22上に固定する工程と、砥材層24を有する研磨部材23により、蛍光体ガラス母材21の第1の主面21aを研磨する工程とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1の主面及び第2の主面を有する蛍光体ガラス母材を用意する工程と、
前記蛍光体ガラス母材をステージ上に載置し、前記第2の主面を前記ステージ上に固定する工程と、
砥材層を有する研磨部材により、前記蛍光体ガラス母材の前記第1の主面を研磨する工程とを備える、蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体ガラス母材の前記第1の主面を前記ステージ上に固定する工程と、
前記研磨部材により、前記蛍光体ガラス母材の前記第2の主面を研磨する工程とをさらに備える、請求項1に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項3】
前記蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、前記研磨部材を、前記蛍光体ガラス母材の厚み方向に延びる回転軸を中心に回転させる、請求項1または2に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、前記ステージを、前記蛍光体ガラス母材の厚み方向に延びる回転軸を中心に回転させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項5】
前記蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、前記研磨部材及び前記ステージを、前記蛍光体ガラス母材の厚み方向に延びる回転軸を中心に、互いに反対方向に回転させる、請求項3または4に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項6】
前記蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、厚みが0.15mm以下となるように研磨する、請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項7】
前記蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、前記第1の主面及び前記第2の主面のうち研磨される面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1μm未満となるように研磨する、請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項8】
前記蛍光体ガラス母材を、吸引により前記ステージ上に固定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項9】
前記蛍光体ガラス母材を研磨する工程の後に、前記蛍光体ガラス母材に前記ステージ側から液体を噴射することにより、前記蛍光体ガラス母材を前記ステージから剥離する、請求項1~8のいずれか一項に記載の蛍光体ガラス薄板の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法により製造された蛍光体ガラス薄板の主面に分割溝を形成する工程と、
前記分割溝に沿い前記蛍光体ガラス薄板を割断する工程とを備える、蛍光体ガラス薄板の個片の製造方法。
【請求項11】
対向し合う第1の主面及び第2の主面を有し、
前記第1の主面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μm未満であり、
厚みが0.15mm以下である、蛍光体ガラス薄板。
【請求項12】
請求項11に記載された蛍光体ガラス薄板が分割された蛍光体ガラス薄板の個片であって、
平面視において外周端縁に位置する部分の厚みが、平面視において中央に位置する部分の厚みよりも薄い、蛍光体ガラス薄板の個片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体ガラス薄板及びその個片の製造方法並びに蛍光体ガラス薄板及びその個片に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の光源として、LEDやLDを用いた発光デバイス等に対する注目が高まってきている。そのような次世代光源の一例として、青色光を出射するLEDと、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する蛍光体層を含む波長変換部材とを組み合わせた発光デバイスが開示されている。この発光デバイスは、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。特許文献1には、ガラスマトリクス中に蛍光体粉末を分散させた蛍光体ガラス板としての波長変換部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光体ガラス板は、厚みが薄いほど光束値を高めることができ、かつ小型化も容易となる。しかしながら、蛍光体ガラス板を薄くするほど、製造時に蛍光体ガラス板が割れ易く、歩留まりが低下するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、蛍光体ガラス薄板をより確実に製造することができる、蛍光体ガラス薄板の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、より確実に蛍光体ガラス薄板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体ガラス薄板の製造方法は、対向する第1の主面及び第2の主面を有する蛍光体ガラス母材を用意する工程と、蛍光体ガラス母材をステージ上に載置し、第2の主面をステージ上に固定する工程と、砥材層を有する研磨部材により、蛍光体ガラス母材の第1の主面を研磨する工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
蛍光体ガラス母材の第1の主面をステージ上に固定する工程と、研磨部材により、蛍光体ガラス母材の第2の主面を研磨する工程とをさらに備えることが好ましい。
【0009】
蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、研磨部材を、蛍光体ガラス母材の厚み方向に延びる回転軸を中心に回転させることが好ましい。
【0010】
蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、ステージを、蛍光体ガラス母材の厚み方向に延びる回転軸を中心に回転させることが好ましい。
【0011】
蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、研磨部材及びステージを、蛍光体ガラス母材の厚み方向に延びる回転軸を中心に、互いに反対方向に回転させることがより好ましい。
【0012】
蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、厚みが0.15mm以下となるように研磨することが好ましい。
【0013】
蛍光体ガラス母材を研磨する工程において、第1の主面及び第2の主面のうち研磨される面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1μm未満となるように研磨することが好ましい。
【0014】
蛍光体ガラス母材を、吸引によりステージ上に固定することが好ましい。
【0015】
蛍光体ガラス母材を研磨する工程の後に、蛍光体ガラス母材にステージ側から液体を噴射することにより、蛍光体ガラス母材をステージから剥離することが好ましい。
【0016】
本発明の蛍光体ガラス薄板の個片の製造方法は、上記製造方法により製造された蛍光体ガラス薄板の主面に分割溝を形成する工程と、分割溝に沿い蛍光体ガラス薄板を割断する工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の蛍光体ガラス薄板は、対向し合う第1の主面及び第2の主面を有し、第1の主面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μm未満であり、厚みが0.15mm以下である。
【0018】
本発明の蛍光体ガラス薄板の個片は、上記蛍光体ガラス薄板が分割された蛍光体ガラス薄板の個片であって、平面視において外周端縁に位置する部分の厚みが、平面視において中央に位置する部分の厚みよりも薄いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蛍光体ガラス薄板及びその個片をより確実に製造することができる、蛍光体ガラス薄板の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、より確実に蛍光体ガラス薄板及びその個片を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板を示す模式的拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片を示す模式的断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的平面図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法において用いられる研磨部材を、蛍光体ガラス母材を研磨する側から見た図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的斜視図である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片を用いた発光デバイスの一例を示す模式的断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片を用いた発光デバイスの一例を示す模式的平面図である。
【
図12】比較例の発光デバイスの模式的断面図である。
【
図13】比較例の発光デバイスの模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0022】
(蛍光体ガラス薄板及びその個片)
図1は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板を示す模式的断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板を示す模式的拡大断面図である。
図1に示す蛍光体ガラス薄板1は、例えば、波長変換部材等に用いられる。
図2に示すように、本実施形態においては、蛍光体ガラス薄板1は、蛍光体2及び蛍光体2が分散されたガラスマトリクス3とを有する。
【0023】
例えば、LED等の光源から励起光が出射され、励起光は蛍光体ガラス薄板1に入射する。励起光の一部が、蛍光体2により波長変換されて蛍光が出射される。蛍光及び励起光の合成光は、蛍光体ガラス薄板1から出射する。
【0024】
蛍光体2は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。蛍光体2の具体例としては、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体及びガーネット系化合物蛍光体から選ばれた1種以上等が挙げられる。励起光として青色光を用いる場合、例えば、緑色光、黄色光または赤色光を蛍光として出射する蛍光体を用いることができる。
【0025】
ガラスマトリクス3としては、蛍光体2の分散媒として用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、ホウ珪酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、スズリン酸塩系ガラス、ビスマス酸塩系ガラス等を用いることができる。ホウ珪酸塩系ガラスとしては、質量%で、SiO2 30%~85%、Al2O3 0%~30%、B2O3 0%~50%、Li2O+Na2O+K2O 0%~10%、及びMgO+CaO+SrO+BaO 0%~50%を含有するものが挙げられる。スズリン酸塩系ガラスとしては、モル%で、SnO 30%~90%、P2O5 1%~70%を含有するものが挙げられる。
【0026】
図1に示すように、蛍光体ガラス薄板1は、対向し合う第1の主面1a及び第2の主面1bを有する。第1の主面1a及び第2の主面1bの算術平均粗さ(Ra)は0.1μm未満である。これにより、蛍光体ガラス薄板1に励起光が入射する際に光の散乱が生じ難い。同様に、蛍光体ガラス薄板1から励起光及び蛍光の合成光が出射する際に光の散乱が生じ難い。よって、発光効率を高めることができる。なお、少なくとも第1の主面1aの算術平均粗さ(Ra)が0.1μm未満であればよい。ここで、本明細書における算術平均粗さ(Ra)とは、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さ(Ra)である。
【0027】
第1の主面1a及び第2の主面1bの算術平均粗さ(Ra)は、0.05μm以下であることが好ましい。それによって、発光効率をより一層高めることができる。
【0028】
蛍光体ガラス薄板1の厚みは、0.03mm~0.3mm未満、0.05mm~0.15mm、特に0.08mm~0.12mmであることが好ましい。それによって、光束値を効果的に高めることができる。また、後述するような輝度コントラストの向上の効果を得ることができる。
【0029】
本実施形態の蛍光体ガラス薄板1の平面視における形状は矩形である。なお、蛍光体ガラス薄板1の平面視における形状は上記に限定されず、例えば、略円形または矩形以外の多角形等であってもよい。
【0030】
図3は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片を示す模式的断面図である。
図3に示すように、蛍光体ガラス薄板の個片11は、対向し合う第1の主面11a及び第2の主面11bを有する。蛍光体ガラス薄板の個片11は、蛍光体ガラス薄板1を分割することにより形成される。より具体的には、蛍光体ガラス薄板1は、第1の主面1aをスクライブすること等により形成された分割溝に沿い割断されている。そのため、平面視において蛍光体ガラス薄板の個片11の外周端縁11cに位置する部分の厚みをT
1とし、平面視において蛍光体ガラス薄板の個片11の中央に位置する部分の厚みをT
2としたときに、厚みT
1は厚みT
2よりも薄い。
【0031】
蛍光体ガラス薄板の個片11を発光デバイスに用いることにより、発光部と非発光部との輝度コントラストを効果的に高めることができる。この詳細を、上記発光デバイスの一例を示すと共に説明する。
【0032】
図10は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片を用いた発光デバイスの一例を示す模式的断面図である。
図11は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片を用いた発光デバイスの一例を示す模式的平面図である。
【0033】
図10に示すように、発光デバイス30は、蛍光体ガラス薄板の個片11と、蛍光体ガラス薄板の個片11に励起光を入射させる光源34と、蛍光体ガラス薄板の個片11及び光源34を囲むように設けられた反射部材35とを備える。発光デバイス30における発光部は、
図11に示すように、平面視において蛍光体ガラス薄板の個片11が配置されている部分である。非発光部は、平面視において反射部材35が配置されている部分である。
【0034】
光源34には、例えば、LEDチップ等を用いることができる。反射部材35の材料には、例えば、反射率が高いフィラーを含有した樹脂等が用いられる。
【0035】
図12は、比較例の発光デバイスの模式的断面図である。
図13は、比較例の発光デバイスの模式的平面図である。
【0036】
図12に示す比較例の発光デバイス100においては、厚い蛍光体ガラス板の個片101が用いられている。ここで、反射部材35は励起光及び蛍光の全てを反射するわけではない。励起光及び蛍光は、蛍光体ガラス板の個片101と反射部材35とが接している接触部を通り、破線の矢印で示すように、発光部の周辺における非発光部から漏洩するおそれがある。特に、エネルギーが高い領域においては上記漏洩が生じ易い。比較例においては、蛍光体ガラス板の個片101が厚いため、上記接触部も厚く、非発光部からの光の漏洩を十分に抑制することができない。従って、発光部と非発光部との境界近傍のコントラストは低くなる。
図13に示すように、上記漏洩により、非発光領域において輝度が比較的高くなる領域Eが広くなるおそれもある。
【0037】
これに対して、
図10に示す発光デバイス30においては、蛍光体ガラス薄板の個片11は薄いため、反射部材35との接触部を効果的に薄くすることができる。よって、励起光及び蛍光の非発光部からの漏洩を効果的に抑制することができ、発光部と非発光部との境界近傍のコントラストを効果的に高めることができる。
図11に示すように、上記漏洩により、非発光領域において輝度が比較的高くなる領域Eが広くなることを抑制することもできるため、レンズやミラーといった光学部品を組み合わせた光学系を設計する場合、発光デバイス30においては迷光が生じ難く、光学設計に即した配光特性が得られ易くなる。
【0038】
蛍光体ガラス薄板の個片11を搭載した発光デバイス30は、例えば、高い指向性、及び、照射部と非照射部との境界近傍の高いコントラストを要するADB(配向可変ビーム)ヘッドライト等に好適に用いることができる。
【0039】
なお、蛍光体ガラス薄板の個片11の第1の主面11a(光出射面)に反射防止膜を設けても構わない。このようにすれば、蛍光や励起光が第1の主面11aから出射する際、蛍光体ガラス薄板の個片11と空気との屈折率差に起因する光取り出し効率の低下を抑制することができる。反射防止膜としては、SiO2、Al2O3、TiO2、Nb2O5、Ta2O5等から構成される単層または多層の誘電体膜が挙げられる。なお、蛍光体ガラス薄板の個片11の第2の主面11b(光入射面)に反射防止膜を設けても構わない。このようにすれば、励起光が蛍光体ガラス薄板の個片11に入射する際、蛍光体ガラス薄板の個片11と図示しない接着剤層(蛍光体ガラス薄板の個片11と光源34の間に設けられた接着剤層)との屈折率差に起因する励起光入射効率の低下を抑制することができる。
【0040】
ところで、通常、蛍光体ガラス薄板の個片11におけるガラスマトリクス3の屈折率を考慮して反射防止膜の設計を行う。ここで、蛍光体ガラス薄板の個片11の第1の主面11aに蛍光体が露呈していると、蛍光体は屈折率が比較的高いため、蛍光体部分に形成された反射防止膜は適切な膜設計とはならず、十分な反射防止機能が得られないおそれがある。そこで、蛍光体ガラス薄板の個片11の第1の主面11aに、露出した蛍光体が被覆されるようにガラス層(蛍光体を含まないガラス層)を設けることが好ましい。このようにすれば、蛍光体ガラス薄板の個片11の第1の主面11aの屈折率が一様となり、反射防止膜による効果を高めることができる。なお、蛍光体ガラス薄板の個片11の第2の主面11bにも、上述のように反射防止効果を高める目的のためガラス層を設けることが好ましい。
【0041】
ガラス層を構成するガラスは、蛍光体ガラス薄板の個片11におけるガラスマトリクス3を構成するガラスと同じであることが好ましい。このようにすれば、蛍光体ガラス薄板の個片11におけるガラスマトリクス3とガラス層との屈折率差が極めて小さくなり、両界面での光反射ロスを抑制することができる。ガラス層の厚みは0.003mm~0.1mm、0.005mm~0.03mm、特に0.01mm~0.02mmであることが好ましい。ガラス層が薄すぎると、露出した蛍光体を十分に被覆できないおそれがある。一方、ガラス層が厚すぎると、励起光や蛍光が吸収されて発光効率が低下するおそれがある。
【0042】
ここで、一般的に、得ようとする蛍光体ガラス薄板の厚みが薄くなるほど、製造時において、蛍光体ガラス薄板の割れが生じ易くなる。特に、厚みが0.3mm未満の蛍光体ガラス薄板を得ようとする場合には、製造工程において、蛍光体ガラス薄板の割れはより生じ易くなる。これに対して、本発明に係る蛍光体ガラス薄板1及び蛍光体ガラス薄板の個片11は、以下に示す製造方法によって、より確実に製造することができる。もっとも、以下に示す製造方法は、本発明に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法の一例である。
【0043】
(製造方法)
図4は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的平面図である。
図5(a)及び
図5(b)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図6は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法において用いられる研磨部材を、蛍光体ガラス母材を研磨する側から見た図である。
図7は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的斜視図である。
図8(a)及び
図8(b)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の製造方法を説明するための模式的断面図である。なお、
図5(a)及び
図5(b)並びに
図8(a)及び
図8(b)は、
図7中のI-I線に沿う部分に相当する断面を示す。
【0044】
図4に示すように、複数の蛍光体ガラス母材21を用意する。蛍光体ガラス母材21は、
図2に示した蛍光体2及び蛍光体2が分散されたガラスマトリクス3とを有する母材である。蛍光体ガラス母材21は、対向し合う第1の主面21a及び第2の主面21bを有する。なお、蛍光体ガラス母材21は、少なくとも1つ用意すればよい。
【0045】
次に、ステージ22上に蛍光体ガラス母材21を載置し、第2の主面21bをステージ22上に固定する。ここで、
図5(a)に示すように、ステージ22は、複数の第1の孔22a及び複数の第2の孔22bを有する。本実施形態では、蛍光体ガラス母材21を、矢印Aで示すように、複数の第1の孔22aから吸引することによりステージ22上に固定する。なお、蛍光体ガラス母材21の固定の方法は上記に限定されない。また、第1の孔22a及び第2の孔22bは互いに繋がっていてもよい。
【0046】
次に、
図5(b)に示すように、研磨部材23により、蛍光体ガラス母材21の第1の主面21aを研磨する。ここで、
図6に示すように、研磨部材23は砥材層24を有する。砥材層24は円環の形状を有する。なお、砥材層24は円環状に配置された複数の砥材層片から構成されていてもよい。この場合、隣接する各砥材層片の間には、平面視において、例えば5°以上、15°以下の間隔で隙間を設けてあることが好ましい。このようにすれば、蛍光体ガラス母材21を研磨する工程において発生する研磨スラッジを、各砥材層片の間の隙間から効率よく外部に排出することができる。砥材層24は、本実施形態においては、ダイヤモンド粒子を含むガラス焼結体である。研磨部材23は、略円筒形の形状を有し、開口部23aを有する。もっとも、砥材層24の形状及び材料並びに研磨部材23の形状は上記に限定されない。
【0047】
図7に示すように、蛍光体ガラス母材21を研磨する工程においては、平面視において、研磨部材23の中心と、ステージ22の中心とが異なる位置となるように、研磨部材23及びステージ22を配置する。本実施形態においては、平面視において、砥材層24の外周縁がステージ22の中心に至るように、研磨部材23を配置する。次に、
図7中の矢印Bに示すように、研磨部材23を、蛍光体ガラス母材21の厚み方向に延びる回転軸を中心に反時計回りに回転させる。さらに、矢印Cに示すように、ステージ22を、上記厚み方向に延びる回転軸を中心に時計回りに回転させる。つまり、研磨部材23及びステージ22を、上記厚み方向に延びる回転軸を中心に、互いに反対方向に回転させる。それによって、蛍光体ガラス母材21を効率的に研磨することができる。もっとも、蛍光体ガラス母材21を時計回りに回転させ、ステージ22を反時計回りに回転させてもよい。
【0048】
研磨部材23とステージ22との平面視における位置関係は特に限定されないが、本実施形態のように、砥材層24の外周縁がステージ22の中心に至っていることが好ましい。それによって、上記のように研磨部材23及びステージ22を互いに反対方向に回転させることにより、ステージ22上の全ての蛍光体ガラス母材21を確実に、かつ効率的に研磨することができる。
【0049】
なお、蛍光体ガラス母材21を研磨する方法は上記に限定されない。例えば、研磨部材23及びステージ22のうち一方だけを回転させて蛍光体ガラス母材21を研磨してもよい。あるいは、研磨部材23及びステージ22のうち少なくとも一方を平行移動させて蛍光体ガラス母材21を研磨してもよい。
【0050】
従来においては、蛍光体ガラス薄板の製造に際し、蛍光体ガラス母材は、ステージ上に載置した、開口部を有する板状治具(キャリア)の当該開口部に嵌め込むことにより固定されていた。そのため、蛍光体ガラス母材の主面を研磨するためには、上記治具の厚みを蛍光体ガラス母材の厚みよりも薄くする必要があった。蛍光体ガラス薄板を薄くしようとするほど、治具も薄くする必要があり、治具の強度は低くなる。よって、蛍光体ガラス母材の研磨中に治具が破損することにより、蛍光体ガラス母材が破損することがあった。特に、厚みが0.3mm未満の蛍光体ガラス薄板を製造する場合には、蛍光体ガラス母材がより破損し易かった。
【0051】
本実施形態においては、蛍光体ガラス母材21の第2の主面21bをステージ22上に直接固定する。よって、上述したような治具を使用することなく、蛍光体ガラス母材21を研磨することができる。従って、蛍光体ガラス母材21が破損し難くなり、蛍光体ガラス薄板1をより確実に製造することができる。
【0052】
蛍光体ガラス母材21を研磨する工程において、水等の液体を、蛍光体ガラス母材21上に噴射することが好ましい。例えば、研磨部材23の開口部23aから蛍光体ガラス母材21上に液体を噴射してもよく、あるいは、研磨部材23及びステージ22の外側から蛍光体ガラス母材21上に液体を噴射してもよい。それによって、蛍光体ガラス母材21の研磨に際し、蛍光体ガラス母材21を効果的に冷却することができる。これにより、研磨中に蛍光体ガラス母材21の温度が不当に上昇して軟化変形することや、その結果、軟化変形したガラスが砥材層24に焼き付くこと、あるいは研磨レートが温度上昇によって変化してしまうことなどを抑制することができる。また、水等の液体を蛍光体ガラス母材21上に噴射することにより、研磨スラッジを効率よく外部に排出できるため、余分な研磨スラッジにより蛍光体ガラス母材21表面に不当な傷が発生することを抑制できる。
【0053】
砥材層24の蛍光体ガラス母材21を研磨する側の面には、開口部23aから外周端縁に至る溝部が少なくとも1つ設けられていてもよい。この場合には、開口部23aから液体を噴射しつつ蛍光体ガラス母材21を研磨する際に、溝部から研磨スラッジを好適に排出することができる。よって、蛍光体ガラス母材21をより一層効率的に研磨することができる。
【0054】
次に、
図8(a)に示すように、第1の孔22aからの吸引を解除して、蛍光体ガラス母材21をステージ22から剥離する。このとき、さらに、矢印Dに示すように、ステージ22の第2の孔22bから、蛍光体ガラス母材21の第2の主面21bに水等の液体を噴射し、蛍光体ガラス母材21をステージ22から剥離する。それによって、蛍光体ガラス母材21をより一層確実にステージ22から剥離することができる。本実施形態では、第1の孔22aから吸引を行い、第2の孔22bから液体の噴射を行うが、ステージ22は、吸引及び液体の噴射の両方を行う孔を有していてもよい。例えば、ステージ22が多孔体で構成されており、当該多孔体に形成された各細孔を通じて吸引及び液体の噴射を行ってもよい。なお、上記剥離に際しての液体の噴射は、必ずしも行わなくともよい。また、液体に代えて、第2の孔22bから気体を噴射して、蛍光体ガラス母材21をステージ22から剥離してもよい。
【0055】
次に、
図8(b)に示すように、蛍光体ガラス母材21を裏返して、研磨が終了した第1の主面21aをステージ22上に固定する。次に、研磨部材23により、蛍光体ガラス母材21の第2の主面21bを研磨する。このとき、
図5(a)、
図5(b)及び
図7に示した工程と同様に、固定及び研磨を行う。これにより、
図1に示した蛍光体ガラス薄板1を得ることができる。
【0056】
ここで、第1の主面21aを研磨する工程及び第2の主面21bを研磨する工程においては、研磨される面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1μm未満、特に0.05μm以下となるように研磨することが好ましい。それによって、励起光が入射するとき、並びに励起光及び蛍光の合成光が出射するときに光の散乱が生じ難く、発光効率を高めることができる。
【0057】
第1の主面21aを研磨する工程及び第2の主面21bを研磨する工程において、厚みが0.03mm~0.3mm(0.3mmを除く)、0.05mm~0.15mm、特に0.08mm~0.12mmとなるように研磨することが好ましい。それによって、光束値を効果的に高めることができるとともに、破損なく蛍光体ガラス薄板が得られ、また蛍光体ガラス薄板の個片をLED等に実装し易くなる。
【0058】
次に、
図8(a)に示した工程と同様にして、蛍光体ガラス薄板1をステージ22から剥離する。なお、蛍光体ガラス母材21の第2の主面21bは必ずしも研磨しなくともよく、第1の主面21aのみを研磨することにより、蛍光体ガラス薄板1を得てもよい。この場合には、第1の主面21aを研磨する工程において、上記厚みの範囲内となるように研磨することが好ましい。
【0059】
以下において、
図3に示した蛍光体ガラス薄板の個片11の製造方法の一例を説明する。
【0060】
図9(a)及び
図9(b)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体ガラス薄板の個片の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【0061】
上記の製造方法等により、蛍光体ガラス薄板1を用意する。次に、
図9(a)に示すように、蛍光体ガラス薄板1の第2の主面1bを支持シート25上に貼り付ける。支持シート25は、本実施形態では、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等のUV硬化樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂または塩ビ樹脂等からなるシート上に塗布されたものであり、UV硬化樹脂側を蛍光体ガラス薄板1の第2の主面1bに貼り付ける。なお、支持シート25の材料は上記に限定されない。
【0062】
次に、蛍光体ガラス薄板1の第1の主面1aに分割溝1cを形成する。本実施形態においては、分割溝1cは、格子状となるように形成する。分割溝1cは、特に限定されないが、例えば、蛍光体ガラス薄板1の第1の主面1a上をスクライブすることにより形成することができる。なお、分割溝1cは、蛍光体ガラス薄板1を支持シート25上に貼り付ける前に形成してもよい。支持シート25に貼り付ける蛍光体ガラス薄板1の面は、第1の主面1aであってもよい。分割溝1cは、第2の主面1b上に形成してもよい。
【0063】
次に、
図9(b)に示すように、分割溝1cを形成した第1の主面1aに、フィルム26を貼り付ける。フィルム26は、本実施形態では、ポリエチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂または塩ビ樹脂等からなる。なお、フィルム26の材料は上記に限定されない。
【0064】
一方で、蛍光体ガラス薄板1を載置するための、複数の受け刃27を用意する。次に、蛍光体ガラス薄板1を裏返して、フィルム26が複数の受け刃27に接するように、蛍光体ガラス薄板1を複数の受け刃27上に載置する。本実施形態においては、蛍光体ガラス薄板1は、フィルム26を介して受け刃27により支持される。よって、蛍光体ガラス薄板1に傷が発生し難い。なお、フィルム26は、蛍光体ガラス薄板の個片の製造方法において、必ずしも用いられなくともよい。
【0065】
次に、分割溝1cと対向する位置に、押圧部材28を配置する。押圧部材28は、ブレード29を有している。分割溝1cが形成された領域をブレード29で支持シート25側から押圧する。これにより、蛍光体ガラス薄板1は、支持シート25上に貼り付いたまま、分割溝1cに沿って厚み方向に割断され、複数の部分に分割される。他の分割溝1cが形成された領域においても、同様に割断を行う。次に、蛍光体ガラス薄板1が分割された蛍光体ガラス薄板の個片11の集合体から、フィルム26を剥離する。次に、支持シート25側からUVを照射し、支持シート25におけるUV硬化樹脂を硬化させる。次に、蛍光体ガラス薄板の個片11を、支持シート25から剥離する。以上のように蛍光体ガラス薄板1を分割することにより複数の蛍光体ガラス薄板の個片11を得ることができる。
【0066】
本実施形態においては、分割前の蛍光体ガラス薄板1の厚みは研磨により薄くなっている。よって、より小さい応力で割断できるため、上記割断に際し蛍光体ガラス薄板1が破損し難く、蛍光体ガラス薄板の個片11をより一層確実に製造することができる。加えて、蛍光体ガラス薄板1の厚みが薄く、分割溝1cを形成するピッチが狭い場合においても容易に割断することができるため、小型の蛍光体ガラス薄板の個片11をより一層容易に、かつより一層確実に製造することができる。よって、より一層小型の発光デバイスを容易に製造することができる。
【0067】
蛍光体ガラス薄板1の分割は、ダイシングにより行ってもよい。もっとも、蛍光体ガラス薄板1の分割は、上記割断により行うことが好ましい。それによって、分割に際し、厚みが薄い蛍光体ガラス薄板1の割れがより一層生じ難い。
【符号の説明】
【0068】
1…蛍光体ガラス薄板
1a…第1の主面
1b…第2の主面
1c…分割溝
2…蛍光体
3…ガラスマトリクス
11…蛍光体ガラス薄板の個片
11a…第1の主面
11b…第2の主面
11c…外周端縁
21…蛍光体ガラス母材
21a…第1の主面
21b…第2の主面
22…ステージ
22a…第1の孔
22b…第2の孔
23…研磨部材
23a…開口部
24…砥材層
25…支持シート
26…フィルム
27…受け刃
28…押圧部材
29…ブレード
30…発光デバイス
34…光源
35…反射部材
100…発光デバイス
101…蛍光体ガラス板の個片