(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126471
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】導電性合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20230831BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20230831BHJP
D06N 3/06 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
D06N3/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115746
(22)【出願日】2023-07-14
(62)【分割の表示】P 2018182444の分割
【原出願日】2018-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】立川 剛之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】沖野 真也
(57)【要約】
【課題】
従来の帯電防止性合成皮革に比べて実質的に帯電し難く、人体への感電を防止することのできる合成皮革を提供する。
【解決手段】
導電性合成皮革(100)は、導電性の表皮層(10)および導電性の繊維基材(20)を有し、繊維基材(20)は織布または編布であり、表皮層(10)の表面抵抗値が1.0×10
6Ω以上1.0×10
12Ω以下であり、繊維基材(20)の表面抵抗値が表皮層(10)の表面抵抗値よりも低く、かつ接地間抵抗値が1.0×10
6Ω以上1.0×10
11Ω以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の表皮層および導電性の繊維基材を有し、
前記繊維基材は織布または編布であり、
前記表皮層の表面抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1012Ω以下であり、
前記繊維基材の表面抵抗値が前記表皮層の表面抵抗値よりも低く、かつ
接地間抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1011Ω以下であることを特徴とする導電性合成皮革。
【請求項2】
前記繊維基材の表面抵抗値と前記表皮層の表面抵抗値との差が1.0×102Ω以上である請求項1に記載の導電性合成皮革。
【請求項3】
前記表皮層を構成する樹脂が、ポリウレタン系樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂である請求項1または2に記載の導電性合成皮革。
【請求項4】
前記表皮層と前記繊維基材との間に発泡樹脂層を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に椅子や車両用シートに使用される合成皮革は絶縁体であるため、人が立ったり座ったりするときに発生した静電気が人体へと蓄積し、冬場など乾燥した雰囲気でその人体がドアノブなどの金属に触れるようとすると放電が起こり、感電して人を不快にさせる虞がある。
【0003】
このような課題を解決するために、下記特許文献1には、帯電防止性合成皮革が提案されている。上記帯電防止性合成皮革は、塩化ビニル系樹脂、分子中に脂肪族エーテル構造を有するエステル、所定の式で表されるアンモニウム塩、および難燃剤を所定範囲で配合して構成される単層のシートである。特許文献1には、かかる帯電防止性合成皮革に関し、塩化ビニル系樹脂の配合量、エステルの配合量、アンモニウム塩に含まれるアルキル基の炭素数などを調整することによって良好な帯電防止性が示されるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来の帯電防止性合成皮革は、帯電防止性があるとはいえ、発生した静電気をコントロールし得るものではない。即ち、帯電防止性合成皮革の表面抵抗値が低すぎると、例えば人が立ったり座ったりするときに発生した静電気が人体へと蓄積し、その人体が当該合成皮革からなる椅子や車両用シートに触れようとすると放電が起こり易く、人体への感電の虞があった。また表面抵抗値が高すぎると、同じように発生した静電気が人体へと蓄積し易く(即ち、帯電し易く)、人体への感電の虞が高まるという問題があった。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、従来の帯電防止性合成皮革に比べて実質的に静電気が帯電し難く、人体への感電を防止することのできる合成皮革を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の導電性合成皮革は、導電性の表皮層および導電性の繊維基材を有し、上記繊維基材は織布または編布であり、上記表皮層の表面抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1012Ω以下であり、上記繊維基材の表面抵抗値が上記表皮層の表面抵抗値よりも低く、かつ接地間抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1011Ω以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成を有する本発明の導電性合成皮革は、表皮層から繊維基材に向かう方向に静電気を導電することができる。したがって、発生した静電気が人体へ蓄積することが抑制され、人体への感電を防止することができる。即ち、本発明の導電性合成皮革は、上記方向に静電気を導電することができるため、少なくとも表皮層における帯電が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一実施形態にかかる導電性合成皮革の断面模式図である。
【
図2】接地間抵抗値の測定方法を説明する説明図である。
【
図3】本発明の第二実施形態にかかる導電性合成皮革の断面模式図である。
【
図4】本発明の第三実施形態にかかる導電性合成皮革の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。
本発明または本明細書において導電性とは、静電気などの電荷が流れる現象を意味する。本発明における表皮層および繊維基材が導電性であるとは、表皮層および繊維基材それぞれに導電剤が含まれることによりこれらの層に静電気などの電荷が流れる性能が付与されていることを意味する。また表皮層および繊維基材それぞれに導電剤が含まれるとは、これらの層を構成する材料と混合して導電剤が含有されている場合、これらの層を構成する材料自体に導電性が付与されている場合、これらの層の外表面において導電剤が付与されている場合、またこの組み合わせのいずれの態様も含む。
本発明に関していう導電剤とは、表皮材および繊維基材に対し導電性を付与する材料を広く包含し、例えば帯電防止剤と呼ばれるものも含む。
尚、下記の説明において、表皮層の繊維基材とは反対側の面を表側面と呼ぶ場合があり、繊維基材の表皮層とは反対側の面を裏側面と呼ぶ場合がある。
【0011】
<第一実施形態>
以下に、
図1および
図2を用いて本発明の第一実施形態の導電性合成皮革100について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる導電性合成皮革100の断面模式図である。
図2は、導電性合成皮革100の接地間抵抗値の測定方法を説明する説明図である。
図1に示すとおり、導電性合成皮革100は、表皮層10および繊維基材20を有する。表皮層10は、繊維基材20の一方面側に直接または間接に積層されている。本実施形態では、表皮層10と繊維基材20との間には接着層30が設けられている。
表皮層10および繊維基材20は、いずれも導電性を示し、表面抵抗値が調整されている。具体的には、表皮層10の表面抵抗値は、1.0×10
6Ω以上1.0×10
12Ω以下であり、適度な電気抵抗を示す。一方、繊維基材20の表面抵抗値は、表皮層10の表面抵抗値よりも低くなるよう調整されている。そのため、導電性合成皮革100は、静電気などの電荷が表皮層10から繊維基材20に向かって導電されるよう導電方向がコントロールされている。この結果、表皮層10と人体とが接触し、摩擦などによって静電気が発生しても、当該静電気は表皮層10に帯電し難く繊維基材20に導電されるため、人体への感電が防止される。
【0012】
上述する繊維基材20の表面抵抗値と表皮層10の表面抵抗値との差は、特に限定されないが、導電性合成皮革100における導電性の方向を良好にコントロールできるという観点からは、1.0×102Ω以上であることが好ましく、1.0×103Ω以上であることがより好ましい。一方、繊維基材20の表面抵抗値と表皮層10の表面抵抗値との差の上限は、特に限定されないが、実質的に1.0×109Ω以下程度に調整するとよい。
【0013】
また導電性合成皮革100は、接地間抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1011Ω以下となるよう調整されている。本発明者らの検討によれば、表皮層10の表面抵抗値よりも繊維基材に20の表面抵抗値が低くなるよう調整し導電方向をコントロールした場合であっても、表皮層10に一時的に帯電した電荷が減衰する時間(電荷減衰時間)が短すぎる場合には、人体に対し感電する虞があり、また長すぎる場合には、表皮層10に電荷が帯電する虞があることがわかった。表皮層10における帯電量が多くなれば、静電気が人体へと蓄積し易くなり、何かのきっかけにより人体が感電する虞がある。これに対し、導電性合成皮革100の接地間抵抗値を1.0×106Ω以上1.0×1011Ω以下の範囲に調整することで、電荷減衰時間を調整可能となり、表皮層10における帯電を良好に回避可能であり、結果、人体への感電が防止される。
【0014】
かかる導電性合成皮革100によれば、合成皮革の風合いを備えた表皮層10と、人体との接触による摩擦で発生した表皮層10における静電気が、表皮層10から繊維基材20に導電される、すなわち人体への感電が良好に防止される。したがって、導電性合成皮革100は、例えば椅子や車両用シートなどの人体と接触の多い用途に用いられた場合に、人体に対する静電気による不快感が低減される。
また表皮層10から繊維基材20に向かう方向に導電された電荷は、繊維基材20の裏側面に直接または間接に接する金属部材に適宜導電され得る。ここで繊維基材20が間接に金属部材に接するとは、繊維基材20と金属部材との間に任意の部材または空間等が存在しつつ、繊維基材20から当該金属部材に対し導電可能な程度に、両者が近接していることを意味する。
例えば、導電性合成皮革100を車両用シートとして用いた場合、繊維基材20に任意の車両用金属部材が直接または間接に接していれば、表皮層10の表側面で発生した静電気は、繊維基材20を介して当該車両用金属部材に導電される。この結果、導電性合成皮革100自体の帯電が良好に回避される。
【0015】
上述する表皮層10および繊維基材20の表面抵抗値は、いずれもIEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、測定環境23±2℃、60±5%RHの条件で測定される。表皮層10の表面抵抗値は、表皮層10に含まれる導電剤の量や種類などにより適宜調整することができる。また繊維基材20の表面抵抗値は、繊維基材20に含まれる導電剤の量や種類などにより適宜調整することができる。
【0016】
また導電性合成皮革100の接地間抵抗値は、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、測定環境23±2℃、60±5%RHの条件で測定される。
より具体的には、導電性合成皮革100の接地間抵抗値は、
図2に示すとおり、導電性合成皮革100(サンプル寸法;150mm×150mm)を、表皮層10を上側にして図示省略する絶縁性基板の上に配置する。そして、配置された導電性合成皮革100の任意の角寄りに円柱電極210(φ63mm、重さ2.3kg)を配置するとともに、上記角の対角側であって繊維基材層20側に接地用金属220(50mm×50mmのアルミニウムテープ)を配置する。円柱電極210と接地用金属220との距離dは60mmとする。繊維基材20と接地用金属220とが確実に接触するよう、図示省略する1kgの錘を、導電性合成皮革100の上側から接地用金属220の上方に置く。そして、円柱電極210および測定器230、並びに接地用金属220および測定器230をそれぞれ導電線240で電気的に接続し、電気抵抗を測定する。
導電性合成皮革100の接地間抵抗値は、表皮層10および繊維基材20の表面抵抗値、これらの層厚み、導電性合成皮革100に任意で設けられる他の層の材質や厚みなどの組合せにより適宜調整することができる。
【0017】
ところで一般的に、合成皮革(表皮層10)に導電剤を多量に含有させると、導電剤を含有しない合成皮革に比して風合いが低下する場合がある。かかる事情を鑑み、本実施形態において、表皮層10の表面抵抗値を1.0×109Ω以上1.0×1012Ω以下とすることは、より好ましい態様の一つといえる。何故ならば、かかる範囲では、表皮層10に含有させる導電剤の量を抑え、合成皮革の風合いを高いレベルで維持しつつ、表皮層10における帯電を抑制することが可能だからである。
特に、表皮材の表面抵抗値を1.0×109Ω以上1.0×1012Ω以下とするとともに、繊維基材20の表面抵抗値と表皮層10の表面抵抗値との差を1.0×102Ω以上に調整することによって、合成皮革の風合いを高いレベルで維持しつつ、導電性合成皮革100における導電性の方向を所望の方向に確実にコントロールできる。
【0018】
また本発明者らの検討によれば、上述に示される範囲で表皮層10の表面抵抗値を低く設定した場合、人体と表皮層10との摩擦などにより生じる静電気を確実に表皮層10側に一時的に帯電させることで人体への感電を回避することができることがわかった。加えて、相対的に低い表面抵抗値の表皮層10を備える場合には、繊維基材20の表面抵抗値と表皮層10の表面抵抗値との差をそれほど大きくしなくても、充分に導電性合成皮革100の導電性を表皮層10から繊維基材20に向けてコントロールできることがわかった。
具体的には、経済的な不利益なく、より高い電気的性能を安定して提供するという観点からは、表皮層10の表面抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×109Ω未満であるとともに、繊維基材20の表面抵抗値と表皮層10の表面抵抗値との差が1.0×105Ω以下である態様は好ましい一例である。
【0019】
以下に、導電性合成皮革100の各構成についてさらに詳細に説明する。
(表皮層)
表皮層10は、導電性を示し、合成皮革の風合いを備える樹脂層である。表皮層10は、
図1に示すとおり単層構造を有してよいし、図示省略する複数層から構成されてもよい。表皮層10の厚みは特に限定されないが、10μm以上60μm以下の厚みに形成することが好ましく、20μm以上50μm以下の厚みに形成することがより好ましい。表皮層10の表面には、適宜、絞模様等が付与されていても良い。
表皮層10を構成する樹脂は、合成皮革の表皮層に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できる。例えば、上記樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、または塩化ビニル系樹脂が挙げられる。
【0020】
上記ポリウレタン系樹脂としては、合成皮革の表皮層に用いられ得るものであればいずれも使用できるが、具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、合成皮革としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記のポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。
【0021】
ポリウレタン系樹脂で構成される表皮層10の製造方法は特に限定されない。一般的には、ポリオール、ポリイソシアネート、架橋剤を、メチルエチルケトン、トルエン、ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒や水等の溶媒に溶解させ、必要に応じて、導電剤、着色剤、充填剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、架橋剤等の各種添加剤を添加したポリウレタン系樹脂溶液を調製する。そして、ポリウレタン系樹脂溶液を離型紙等に塗布して乾燥させ架橋させて表皮層10を製造することができる。尚、ポリウレタン樹脂溶液は、1液型または2液型のどちらでも採用することができる。
【0022】
上記塩化ビニル系樹脂としては、合成皮革の表皮層に用いられ得るものであればいずれも使用できるが、具体的には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等が使用できる。
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。
【0023】
表皮層10を塩化ビニル系樹脂で構成する場合、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮させるために、塩化ビニル系樹脂と併せて可塑剤が配合される。上記可塑剤としては、数平均分子量が800以上4000以下の有機化合物である高分子可塑剤が好ましく選択される。より具体的には、高分子可塑剤として、高分子ポリエステル系可塑剤が例示される。高分子ポリエステル系可塑剤としては、アジピン酸系ポリエステル可塑剤が例示される。塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含む合成皮革の技術に関しては、例えば、中国特許出願201810173137.5を参照することができる。
また可塑剤として、上記高分子可塑剤に加え、高分子可塑剤以外の可塑剤が含まれてよい。高分子可塑剤と共に配合可能な高分子可塑剤以外の可塑剤としては、トリメリット酸系可塑剤、フタル酸系可塑剤、直鎖状二塩基酸系可塑剤、リン酸系可塑剤などをあげることができる。汎用性という観点からは、フタル酸系可塑剤が好ましい。
【0024】
塩化ビニル系樹脂で構成される表皮層10の製造方法は特に限定されない。一般的には、選択された塩化ビニル系樹脂および可塑剤を、有機溶媒や水等の溶媒に溶解させ、必要に応じて、導電剤、着色剤、充填剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、架橋剤等の各種添加剤を添加した塩化ビニル系樹脂溶液を調製する。そして、塩化ビニル系樹脂溶液を離型紙等に塗布して乾燥させ架橋させて表皮層10を製造することができる。
【0025】
表皮層10は導電性を示す。表皮層10に導電性を付与する手段は、表皮層10の表面抵抗値を1.0×106Ω以上1.0×1012Ω以下に調整できる範囲において、特に限定されない。
具体的には、例えば、上述するポリウレタン系樹脂溶液または塩化ビニル系樹脂溶液に導電剤を配合し、上述する製造方法で表皮層10を形成してよい。
また別の手段としては、製造された表皮層10の表面に導電性塗料を塗布して表皮層10の表面に導電層を形成することで表皮層10に導電性を付与することもできる。
もちろん、上述する導電性を付与する2つ手段を組合せて実施してもよいし、異なる手段を適宜採用してもよい。
【0026】
上記導電剤としては、樹脂層に導電性を付与可能な材料であればよく、例えば、カーボンブラックなどのカーボン系導電性材料、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)、若しくはアンチモン錫酸化物(ATO)などの金属系導電性材料、界面活性剤、またはこれらの組合せを挙げることができる。
上記界面活性剤としては、例えばアニオン系帯電防止剤(リン酸エステル誘導体など)、カチオン系帯電防止剤(アミン系第4級アンモニウム塩誘導体など)、非イオン系帯電防止剤(多価アルコールエステル、脂肪酸酸化エチレン付加体など)、両性帯電防止剤(ベンタイン型、イミダゾリン型など)などが挙げられる。
また表皮層10を構成する樹脂が塩化ビニル系樹脂の場合には、フタル酸ジオクチル(DOP)などのフタル酸エステル系や、アジピン酸ジオクチル(DOA)などのアジピン酸エステル系などの導電性可塑剤を導電剤として添加してもよい。
【0027】
導電性塗料としては、上述する導電剤が1または2以上含有された塗料が挙げられる。
【0028】
(繊維基材)
繊維基材20は、導電性を示し、表皮層10を支持する基材である。繊維基材20の厚みは特に限定されないが、合成皮革を天然皮革の柔軟性と同様の柔軟性を持たせることを実現することを考慮すれば、当該厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、300μm以上1000μm以下であることがより好ましい。繊維基材20の坪量についても特に限定されないが、上記厚みに関して説明したように、合成皮革が天然皮革の柔軟性と同様の柔軟性を有するようにすることを考慮すれば、10g/m2以上500g/m2以下であることが好ましく、20g/m2以上300g/m2以下であることがより好ましい。
【0029】
繊維基材20は、特に限定されず、編布、織布、不織布など、繊維を利用した布材であればいずれのものであってもよい。繊維基材20を形成する繊維は、特に限定されず、合成繊維、天然繊維などをあげることができる。合成繊維の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどを例示することができるがこれに限定されない。天然繊維の材質としては、綿、麻、レーヨンなどを例示することができる。
【0030】
繊維基材20に導電性を付与する手段は特に限定されず、公知の導電性繊維を適宜選択し、あるいは公知の導電性繊維の製造方法により適宜製造することができる。例えば、導電性材料を含有する導電糸を用いて製造された布材を繊維基材20として用いることができる。この場合、布材を構成する全ての繊維が導電糸であってもよいし、一部に導電糸が用いられてもよい。例えば編布または織布である布材の場合に、縦糸および横糸の少なくとも一方が導電糸であれば導電性の繊維基材20とすることができる。また、布材に導電性塗料を塗布し、または布材を液状の導電性材料に浸漬させ乾燥させることによって、導電性の繊維基材20を製造することもできる。
【0031】
例えば導電性の繊維基材20としては、π電子共役系導電性ポリマーなどのポリマー系導電物質またはカーボングラファイトなどのカーボン系導電性物質を使用して導電化したものが好ましい。
具体的には、化学的酸化重合法により布材の表面に直接にポリマー系導電物質を析出させて製造された繊維基材20、あるいはポリマー系導電物質またはカーボン系導電物質を含有する導電性塗料に布材を浸漬させて塗布乾燥することで製造された導電性の繊維基材20を挙げることができる。
またポリマー系導電物質を用い化学的酸化重合法により導電糸を得て、その導電糸を繊維基材に編み込んで製造された布材を導電性の繊維基材20として用いてもよい。
【0032】
尚、繊維基材20に含まれる導電剤は、表皮層10に含まれる導電剤と同じ部材であってもよいし異なる部材であってもよい。
【0033】
(接着層)
次に接着層30について説明する。導電性合成皮革100は、繊維基材20に表皮層10が直接に積層されていてもよいが、
図1に示すように、繊維基材20と表皮層10との間に接着層30を介在させて、繊維基材20と表皮層10とを互いに固定させてもよい。
本実施形態において、接着層30は、表皮層10と繊維基材20とを接着する層である。接着層30は、導電性を備えていてもよいし、備えていなくてもよい。接着層30は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で表皮層10と繊維基材20とを接着できるものであればよい。
【0034】
例えば、接着層30は、接着剤を用いて構成することができる。接着剤としては、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ゴム系樹脂などが例示される。
接着剤である上記ポリウレタン系樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエステル/ポリエーテル系ポリウレタン、ラクトン系ポリウレタン等の公知の2液型ウレタン樹脂系接着剤が例示される。
【0035】
上記接着剤は、表皮層10の繊維基材20に対面する側の面に対し塗布される。表皮層10に対する接着剤の塗布量は、特に限定されないが、例えば乾燥後の厚みが40μm以上120μm以下程度とすればよい。
【0036】
上記接着剤以外で構成される接着層30として、発泡接着剤が挙げられる。発泡接着剤で第一層(表皮層10)とこれに対向する第二層(繊維基材20)とを接着させる技術は、例えばWO2014/192283に開示されている。
具体的には、発泡接着剤で製造される接着層30は、末端イソシアネート基をブロック化剤でブロックされたウレタンプレポリマーと、アミン系架橋剤及び熱膨張性微粒子を含むウレタン系接着剤とを加熱し、熱膨張性微粒子を発泡させるとともに、ウレタンプレポリマーとアミン系架橋剤とを架橋反応させてなる、発泡した熱膨張性微粒子を含むポリウレタン樹脂により形成することができる。
上記末端イソシアネート基をブロック化剤でブロックされたウレタンプレポリマーとしては、例えば特開2006-70059号公報に記載されているような、脂肪族ジオールとホスゲン、ジアリルカーボネートもしくは環式カーボネートとの反応物である25℃で液状のポリカーボネートジオールと、有機ジイソシアネートとから得られるウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基をブロック化剤でブロックしたものが挙げられる。
上記アミン系架橋剤としては脂肪族ポリアミンが用いられ、例えばエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロピレンジアミンなどが挙げられる。
上記熱膨張性微粒子としては、加熱により気化する液状の低沸点炭化水素を、アクリロニトリル系樹脂等の熱可塑性樹脂膜で包んだマイクロカプセル等が挙げられる。
【0037】
発泡接着剤より形成される接着層30は、表皮層10の繊維基材20に対面する側の面に発泡した熱膨張性微粒子を含むポリウレタン樹脂をコーティングして形成される。当該ポリウレタン樹脂が完全に硬化する前に、接着層30に対し繊維基材20を積層することによって、繊維基材20と表皮層10とは互いに固定される。
発泡接着剤より形成される接着層30の厚みは、特に限定されないが、例えば硬化後の厚みが、50μm以上1000μm以下程度とすればよい。
【0038】
(製造方法)
導電性合成皮革100の製造方法は、特に限定されないが、一般には、離型紙等の離型性担体上に表皮層10を構成するための樹脂溶液を塗布し、塗布した樹脂溶液中の溶媒を蒸発乾燥させるとともに、樹脂の架橋反応を生じさせて表皮層10を形成する。樹脂溶液の塗布には、ナイフコーター、コンマドクター、ロールコーター、リバースロールコーター、ロータリースクリーンコーター、グラビアコーター、その他適宜の手段が採用される。離型紙等の離型性担体は、樹脂溶液が塗布される側の表面が平滑なものであっても、絞模様等が付されたものであっても良い。
次いで、上述のとおり接着層30を表皮層10の表面に塗布し、続いて繊維基材20を接着層30に積層した後、離型性担体を剥離することで、導電性合成皮革100が製造される。接着剤が発泡性接着剤の場合には、繊維基材20を接着層30積層した後、加熱して接着層30に含有される熱膨張性微粒子を発泡させるとともに、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマーの脱ブロック化を生じさせてウレタンプレポリマーとアミン系架橋剤とを架橋させ、接着層30を完成させるとよい。
【0039】
必要に応じて、表皮層10の表面に表面処理層(図示省略)などの任意の層を形成してもよい。表面処理層は、表皮層10の表面艶出し等の目的で必要に応じて表皮層10の表面に設けられる。表面処理層は、例えばポリウレタン樹脂、シリコン、有機系フィラー等を有機溶媒や水に分散させた塗工液を表皮層10の表面にコーティングすることにより設けることができる。表皮層10の表側面に表面処理層などの任意の層が設けられている場合、表皮層10の表面抵抗値は、当該表面処理層の表皮層10とは反対側の面(即ち露出面)において測定することができる。
【0040】
導電性合成皮革100は、さらに下記試験法において測定された電荷減衰時間が0.3秒以上60秒以下であることが好ましく、0.3秒以上30秒以下であることがより好ましく、0.3秒以上20秒以下であることが特に好ましい。電荷減衰時間が0.3秒以上であれば、表皮層10から人体側に向けての放電が起き難く、人体への感電が顕著に抑制される。電荷減衰時間が60秒を超えると表皮層10に静電気が帯電し易く、人体への蓄電もし易くなり、人体への感電の虞が高まる。
【0041】
電荷減衰時間を測定する試験法とは、IEC61340-2-1(2002年)に準拠し、23±2℃、60±5%RHの測定環境下において、2000Vに帯電させた試験台(電極)に表皮層10を下面側にして導電性合成皮革100を配置して電圧を印加し、次いでアース線を繊維基材20に接触させ、導電性合成皮革100の電圧が200Vになるまでの時間を測定し、これを電荷減衰時間とする方法である。上記測定に用いる測定器は、サンプルに対し所望の電圧を印加し、かつアース時に所定の電圧まで降下する時間を計測できる装置であればよく、例えば、チャージドプレートモニター(ヒューグルエレクトロニクス社製)を使用することができる。
【0042】
導電性合成皮革100の厚みは、特に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱せず、接地間抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1011Ω以下になるような厚みであればよい。
【0043】
<第二実施形態>
以下に本発明の第二実施形態について、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の第二実施形態にかかる導電性合成皮革110の断面模式図である。
本実施形態にかかる導電性合成皮革110は、表皮層10と繊維基材20との間に発泡樹脂層40を備えること以外は、上述にて説明する導電性合成皮革100と同様に構成される。したがって、導電性合成皮革110に関し、発泡樹脂層40以外の構成については、適宜導電性合成皮革100の説明を参照することができる。
【0044】
導電性合成皮革110は、表皮層10の一方面側に発泡樹脂層40が積層されており、発泡樹脂層40と繊維基材20とは接着層30を介して互いに固定されている。発泡樹脂層40を備える導電性合成皮革110は、適度な弾力性と柔軟性を有する。そのため、例えば椅子や車両用シートの表面部材として導電性合成皮革110を用いた場合に、座り心地に優れ、また手触りも良い。発泡樹脂層40の厚みは、特に限定されないが、100μm以上500μm以下程度が好ましい。
【0045】
発泡樹脂層40と表面層10とは、互いに直接的に接着されてもよいし、図示省略する接着層により接着されていてもよい。上記接着層としては、上述する接着層30と同様に形成することができる。発泡樹脂層40は、表面層10と異なり発泡状態となっており、気泡壁を有する気泡構造を備える。気泡構造は、合成皮革に折り目や皺が形成されても、容易に復元されるという観点からは、独立気泡による層であることが好ましい。
【0046】
発泡樹脂層40は、導電性を有する態様または導電性を有しない態様のいずれであってもよい。導電性を有する発泡樹脂層40を形成したい場合には、上述導電剤を、発泡樹脂層40に含有させてよい。本実施形態において、発泡樹脂層40が導電性を有しない場合であっても、表皮層10から繊維基材20に向けて電荷の導電方向をコントロールすることができる。
【0047】
発泡樹脂層40は、予め形成された薄いシート状の発泡樹脂を表皮層10に積層させて形成してもよいが、表皮層10の一方側面に基材樹脂と可塑剤と発泡剤を有する発泡樹脂層形成用樹脂組成物を塗布して加熱発泡状態を促し、これによって発泡樹脂層40を形成することもできる。
【0048】
発泡樹脂層40を構成するために用いられる基材樹脂としては、ポリウレタン系樹脂または塩化ビニル系樹脂を挙げることができる。
【0049】
発泡樹脂層40の形成方法は特に限定されない。
一例として、ポリウレタン系樹脂から構成される発泡樹脂層40を形成する場合、例えば2液タイプのポリウレタン系樹脂、脂肪族ジアミンなどのアミン系架橋剤、および発泡剤を含有する発泡樹脂層形成用樹脂組成物を調製する。そして、上記発泡接着剤より形成される接着層30と同様の方法で、発泡樹脂層40を形成することができる。
【0050】
また別の例として、塩化ビニル系樹脂から構成される発泡樹脂層40を形成する場合、例えば塩化ビニルに由来する構造単位を含む塩化ビニル系樹脂、可塑剤、および発泡剤を含有する発泡樹脂層形成用樹脂組成物を調製する。そして、上記発泡接着剤より形成される接着層30と同様の方法で、発泡樹脂層40を形成することができる。
上記塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体等を挙げることができるが、これに限定されない。
また上記可塑剤としては、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリテート系可塑剤、直鎖状二塩基酸エステル系可塑剤を挙げることができるが、これに限定されない。
【0051】
上記発泡剤は、アゾジカルボンアミド(ADCA)、4,4´-オキシビス[ベンゼン
スルホニルヒドラジド](OBSH)、N,N´-ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、熱膨張性マイクロカプセルなどをあげることができる。
【0052】
発泡樹脂層40の露出面に上述する接着層30を形成し、さらに繊維基材20を積層することによって、導電性合成皮革110を製造することができる。
【0053】
<第三実施形態>
以下に本発明の第三実施形態について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の第三実施形態にかかる導電性合成皮革120の断面模式図である。本実施形態にかかる導電性合成皮革120は、繊維基材20の一方側の面に金属層50を備えること以外は、上述にて説明する導電性合成皮革100と同様に構成される。したがって、導電性合成皮革120に関し、金属層50以外の構成については、適宜、導電性合成皮革100の説明を参照することができる。
【0054】
図4に示すとおり、導線性合成皮革120は、繊維基材20の、表皮層10側とは反対側の面の少なくとも一部にアース線52が接続された金属層50が積層されている。アース線52の金属層50とは反対側の端部は、任意の導体に接続することができる。これにより、表皮層10から繊維基材20に向けて導電された静電気などの電荷が、金属層50からアース線52に流れる。したがって、導電性合成皮革120は、繊維基材20の裏側面に金属などの導体が直接または間接に接していない場合であっても、良好に帯電が抑制される。
【0055】
金属層50を構成する金属は特に限定されず、例えばアルミニウムなどが挙げられる。本実施形態における金属層50は、薄厚のシート状であり、繊維基材20の裏面側の一部に積層された状態で、表皮層10の表面側から人が座った場合であって金属層50の存在をわかり難くしている。金属層50が裏側面に積層されたことによる物理的な違和感をさらに良好に防止するためには、例えば、導電性合成皮革110のように、表皮層10と繊維基材20との間に発泡樹脂層40を設けることが好ましい。
【0056】
以上に本発明の第一実施形態から第三実施形態までを説明した。本発明は合成皮革として種々の用途に用いることができるが、特に人体との摩擦によって静電気が発生し得る用途に好ましく用いられる。例えば、本発明の導電性合成皮革は、自動車座席シート用の合成皮革として好ましく用いられる。人体と座席面との間で発生した静電気が人体側に帯電し難く、車の使用者がこれまで感じていた感電や帯電の不快感を顕著に低減することができる。また、本発明の導電性合成皮革は、半導体製造装置等の精密機器が設置されたクリーンルームの床材としても好ましく用いることができる。
【実施例0057】
以下に本発明の実施例を示す。
尚、各実施例及び各比較例に用いた導電性の繊維基材1~4は以下のとおり製造した。
(繊維基材1)
π電子共役系高分子モノマーとしてピロール(広栄化学工業株式会社製)1質量%、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄(テイカ株式会社製) 10質量%、精製水89質量%を含む導電剤液を調製した。
上記導電剤液に、布材(丸編みのポリエステルニット:厚さ0.75mm(目付293g/m2)、ポリエステル糸(単糸繊度4.2デニール))を浸漬させてピロールモノマーを重合(化学的酸化重合法)させて、その繊維基材の繊維1本1本の表面にポリピロールを直接析出させた導電性の繊維基材1を得た。
(繊維基材2)
繊維基材1の製造に用いたものと同様の導電性液にポリエステル糸(単糸繊度4.2デニール)を浸漬させて、繊維基材1と同様の条件でピロールモノマーを直接糸に重合(化学的酸化重合法)させて導電糸を得た。上記導電糸を5%、および導電性の付与されていないポリエステル糸(単糸繊度4.2デニール)95%を用いて導電性のポリエステルニット(丸編みのポリエステルニット:厚さ0.75mm(目付293g/m2)を作成し、これを繊維基材2とした。
(繊維基材3)
導電糸として、市販の導電糸である硫化銅繊維(日本蚕毛染色株式会社、商品名「サンダーロン」)を20%、および導電性の付与されていないポリエステル糸(単糸繊度4.2デニール)80%を用いて導電性のポリエステルニット(丸編みのポリエステルニット:厚さ0.75mm(目付293g/m2)を作成し、これを繊維基材3とした。
【0058】
(繊維基材4)
導電糸として、市販の導電糸である硫化銅繊維(日本蚕毛染色株式会社、商品名「サンダーロン」)を2%、および導電性の付与されていないポリエステル糸(単糸繊度4.2デニール)98%を用いて導電性のポリエステルニット(丸編みのポリエステルニット:厚さ0.75mm(目付293g/m2)を作成し、これを繊維基材4とした。
【0059】
(実施例1)
1液タイプのポリエステル系ポリウレタン樹脂(大日精化工業株式会社製、商品名「レザミンME-44LP」)100質量部に対し、溶剤としてジメチルホルムアミドとメチルエチルケトンを各20質量部、導電剤として酸化亜鉛5質量部を添加した後、混合撹拌してポリウレタン系樹脂溶液を調製した。上記ポリウレタン系樹脂溶液を、離型紙の凹凸紋面に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、100℃のオーブンで2分間乾燥し、表皮層を得た。
尚、上記で用いた材料の詳細は以下のとおりである。
・酸化亜鉛(ハクスイテック会社製、商品名「23-K」)
・離型紙(大日本印刷株式会社製、商品名「DE-73」)
【0060】
次いで、上述のとおり得た表皮層の露出側面に、下記接着剤を乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、100℃のオーブンで2分間乾燥し、半乾燥の接着層を得た。この半乾燥の接着層上に、導電性の繊維基材1を貼り合わせ、50℃で48時間、接着剤に含まれる合成樹脂の架橋反応を進めた後、離型紙を剥離して導電性合成皮革を得た。
【0061】
上記接着剤は、ポリエステル系ポリウレタン樹脂100質量部に対し、溶剤としてジメチルホルムアミド20質量部、架橋剤としてトルエンジイソシアネート(TDI)のトリメチロールプロパン付加生成物12質量部、およびアミン系触媒3質量部を添加したものを混合撹拌して調製した。
尚、上記組成の詳細は以下のとおりである。
・ポリエステル系ポリウレタン樹脂(DIC株式会社製、商品名「クリスボンC4070」)
・TDIのトリメチロールプロパン付加生成物(日本ポリウレタン工業株式会社製、商品名「コロネートL」)
・アミン系触媒(DIC株式会社製、商品名「アクセルS」)
【0062】
(実施例2~4)
導電剤の種類および配合量を表1に示す内容にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性合成皮革を得た。
尚、表1に示す帯電防止剤としてのカーボンブラックは、トーヨカラー会社製、商品名「CAB」を用いた。
【0063】
(実施例5)
繊維基材2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性合成皮革を得た。
【0064】
(実施例6)
繊維基材3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性合成皮革を得た。
【0065】
(実施例7)
実施例1における表皮層と接着層との間に、下記のとおり発泡樹脂層を積層したこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性合成皮革を得た。
発泡樹脂層は以下のとおり形成した。
2液タイプのポリウレタン樹脂100質量部に対し、架橋剤として脂肪族ジアミン5質量部、熱膨張性微粒子1質量部、および溶剤としてジメチルホルムアミド15質量部を添加し、混合撹拌して発泡樹脂層形成用樹脂組成物を調製し、これを表皮層の露出側面に、乾燥後の厚みが275μmとなるように塗布し、180℃のオーブンで2分間加熱して発泡樹脂層を得た。
尚、上記組成の詳細は以下のとおりである。
・2液タイプのポリウレタン樹脂(DIC株式会社製、商品名「ウレハイパーSU-009」)
・脂肪族ジアミン(BASFジャパン株式会社製、商品名「ラロミンC260」)
・熱膨張性微粒子(最大膨張温度160~180℃、平均粒径30μm、膨張率約7倍の熱膨張性マイクロカプセル、松本油脂製薬株式会社製、商品名「マツモトマイクロスフィアーFN-100MD」)
【0066】
(比較例1)
導電剤を使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で合成皮革を得た。
【0067】
(比較例2)
導電剤の種類および配合量を表1に示す内容にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性合成皮革を得た。
【0068】
(比較例3)
導電剤の種類および配合量を表1にしたこと、および繊維基材4を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性合成皮革を得た。
【0069】
上述のとおり得られた各実施例および各比較例について、以下のとおり電気的性能を測定した。測定結果は、表1に示す。
【0070】
(表面抵抗値の測定)
表皮層および繊維基材それぞれの表面抵抗値を、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、測定環境23±2℃、60±5%RHの条件で測定した。
測定装置は、プロスタット会社製、商品名「PRS-801」を用い、電極間距離は60mmとした。
【0071】
(接地間抵抗値の測定)
各実施例および各比較例の接地間抵抗値を、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、測定環境23±2℃、60±5%RHの条件において、第一実施態様に関する
図2を用いた説明と同様の方法で測定した。測定装置は、株式会社三菱ケミカルアナリテック製、ハイレスタ-UP(MCP-HT450)を用い、測定プローブは、UAプローブ(2ピンタイプ:ピン間20mm、ピン先φ2mm)、印加電圧は100Vとした。
【0072】
(摩擦帯電圧の測定)
JIS L0803(2011年)に規定する摩擦布(毛1-1号)を用い、測定環境23±2℃、60±5%RHの条件で、下記の方法で各実施例および各比較例の摩擦帯電圧を測定した。測定装置は、Trec社製、商品名「MODEL520」を用いた。
50mm×50mmのアルミニウムテープを半分に折り曲げて、合成皮革の任意の外縁において表皮層と繊維層とに亘って貼りつけ、表皮層および繊維基材それぞれに対しアルミニウムテープを約25mm×50mm程度接触させた。上記アルミニウムテープにはアース線を接続した。そして、表皮層の表側面を70mm幅に折り畳んだ摩擦布で1~2kg程度の荷重をかけて3秒間、5往復擦った。擦った直後の表皮層における帯電量を上記測定装置で測定した。
【0073】
(電荷減衰時間)
各実施例および各比較例の電荷減衰時間を、IEC規格61340-2-1(2002年)に記載の方法に準拠し、測定環境23±2℃、60±5%RHの条件において、2000Vに帯電させた試験台(電極)に上記表皮層を下面側にして導電性合成皮革を配置して電圧を印加し、次いで繊維基材の裏面側にアース線を接触させ、電圧が200Vになるまでの時間を測定した。試験装置は、チャージドプレートモニター(ヒューグルエレクトロニス社製)を用いた。
【0074】
(総合評価)
上述のとおり測定された摩擦帯電圧および電荷減衰時間の値から、各実施例および各比較例を以下の基準で評価した。評価結果は、表1に示す。
摩擦帯電圧が1000V以下、かつ電荷減衰時間が0.3秒以上60秒以下・・・○
摩擦帯電圧が1000V超、および/または電荷減衰時間が0.3秒未満・・・×
摩擦帯電圧が1000V超、および/または電荷減衰時間が60秒超・・・×
【0075】