(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126485
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】演算装置
(51)【国際特許分類】
G01S 3/802 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
G01S3/802
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116007
(22)【出願日】2023-07-14
(62)【分割の表示】P 2021207330の分割
【原出願日】2014-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】菊池 慎一
(72)【発明者】
【氏名】今西 快友
(57)【要約】
【課題】音響空間内に放射された音の流れを好適に検出する。
【解決手段】演算装置(1)は、音源(300)からの音を少なくとも2箇所(210,220)で検出する音検出手段(110)と、少なくとも2箇所の各々で音を検出した時間(T0,T1)に基づいて、音が音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算手段(120)とを備える。このような演算装置によれば、音響空間内に放射された音の流れを、直感的且つ簡易的に知ることが可能となる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出手段と、
前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算手段と
を備える演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば音響空間内に放射された音の流れを視覚的に把握するための演算を行う演算装置及び演算方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
音の定位方向を知る手段として、音響空間内に放射された音の流れを視覚的に把握するという技術が知られている。例えば特許文献1及び2では、複数の検出点における音圧や粒子速度から放射エネルギー方向を演算するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-236636号公報
【特許文献2】特許第5181865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1及び2に記載された技術では、音を検出するマイクロフォン等の装置に高い感度が要求されてしまう。このため、音の流れを検出するためには、例えば専用のツールを用いることが前提となってしまい、例えばコストの増大等の技術的問題点が生ずる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題には上記のようなものが一例として挙げられる。本発明は、音響空間内に放射された音の流れを好適に検出することが可能な演算装置及び演算方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する演算装置は、音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出手段と、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算手段とを備える。
【0007】
上記課題を解決する演算方法は、音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出工程と、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算工程とを備える。
【0008】
上記課題を解決するコンピュータプログラムは、音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出工程と、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算工程とをコンピュータに実行させる。
【0009】
上記課題を解決する記録媒体は、上述したコンピュータプログラムが記録されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施例に係る演算装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】第1実施例に係る音源と基準マイク及び周辺マイクの位置関係を示す概念図(その1)である。
【
図3】第1実施例に係る基準マイク及び周辺マイクで検出された信号を示すグラフ(その1)である。
【
図4】第1実施例に係る音源と基準マイク及び周辺マイクの位置関係を示す概念図(その2)である。
【
図5】第1実施例に係る基準マイク及び周辺マイクで検出された信号を示すグラフ(その2)である。
【
図6】第2実施例に係る音源と基準マイク及び周辺マイクの位置関係を示す概念図である。
【
図7】第2実施例に係る基準マイク及び周辺マイクで検出された信号を示すグラフである。
【
図8】各周辺マイクに対応して演算される時間差ベクトルを示す概念図である。
【
図9】各周辺マイクに対応して演算される時間差ベクトルの合成を示す概念図である。
【
図10】表示部における表示例を示す平面図である。
【
図11】第3実施例に係る畳み込み演算を示す概念図である。
【
図12】第4実施例に係る平均値の演算方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>
本実施形態に係る演算装置は、音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出手段と、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算手段とを備える。
【0012】
本実施形態の演算装置によれば、その動作時には、例えばスピーカ等の音源から放射される音が、音検出手段において検出される。本実施形態に係る音検出手段は、少なくとも2箇所において音を検出することが可能に構成されている。具体的には、例えば異なる位置に配置された2つ以上の音検出器(例えば、マイクロフォン等)から得られた音を示す信号を夫々取得可能に構成されている。
【0013】
音検出手段で検出された音は、演算手段における演算に用いられる。本実施形態に係る演算手段は、少なくとも2箇所で音を検出した時間に基づいて、音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する。なお、ここでの「伝播方向に関連する演算」とは、音の伝播方向を直接的に示すデータの演算を意味するだけでなく、音の伝播方向を含むデータや検出位置における音圧や位相等の演算を含む趣旨である。演算手段は、例えば一の箇所で音が検出された時間と、他の箇所で音が検出された時間との差分に基づいて、音源から放射された音がどのような方向に伝播しているのかを演算する。
【0014】
上述した構成によれば、相異なる箇所で音が検出された時間を利用して伝播方向を演算できる(言い換えれば、音が各箇所で検出された時間さえ正確に知ることができれば伝播方向を演算できる)ため、例えば音圧や粒子速度を利用して伝播方向を検出する場合と比べて、音検出器に高い感度が求められない。よって、高価な音検出器を利用せずとも、簡単な処理で精度良く音の伝播方向を知ることができる。
【0015】
以上説明したように、本実施形態に係る演算装置によれば、音響空間内に放射された音の流れを好適に検出することが可能である。
【0016】
<2>
本実施形態に係る演算装置の一態様では、前記音検出手段は、基準位置と、該基準位置の周辺に位置する少なくとも1箇所の周辺位置とで夫々前記音を検出し、前記演算手段は、前記基準位置と前記周辺位置とで前記音を検出した時間差に基づいて、前記基準位置における前記伝播方向に関連する演算を実行する。
【0017】
この態様によれば、音検出手段により、基準位置と少なくとも1箇所の周辺位置とで音が検出される。基準位置及び周辺位置で音が検出されると、演算手段では、基準位置で音が検出された時間と、周辺位置で音が検出された時間との時間差が演算される。そして、演算手段では更に、演算された時間差に基づいて、基準位置における音の伝播方向に関連する演算が実行される。
【0018】
上述した構成によれば、基準位置と周辺位置との検出時間の差分に基づいて、基準位置における音の伝播方向を検出することができる。なお、周辺位置が2箇所以上設定されている場合には、基準位置で音が検出された時間との時間差は、周辺位置毎に演算されることになる。この場合には、例えば周辺位置毎の時間差ベクトルを合成して用いればよい。周辺位置の数を増加させることで、伝播方向をより正確に検出することが可能となる。
【0019】
<3>
上述の如く基準位置と周辺位置とで音を検出する態様では前記音検出手段は、前記基準位置と、該基準位置と同一平面上の周辺位置である第1周辺位置及び第2周辺位置と、前記同一平面上でない周辺位置である第3周辺位置とで夫々音を検出し、前記演算手段は、前記基準位置と、前記第1周辺位置、前記第2周辺位置及び前記第3周辺位置とで前記音を検出した時間差に基づいて、前記基準位置における3次元の前記伝播方向に関連する演算を実行してもよい。
【0020】
この場合、音検出手段により、基準位置と、第1、第2及び第3周辺位置とで音が検出される。第1周辺位置及び第2周辺位置は、基準位置と同一平面上に位置する周辺位置である。一方、第3周辺位置は、第1及び第2周辺位置が位置する平面と同一平面上に位置しない周辺位置である。なお、周辺位置は、第1、第2及び第3周辺位置以外に設定されていてもよく、他の周辺位置で音が検出された時間を後述の演算に利用することもできる。
【0021】
基準位置、第1、第2及び第3周辺位置で音が検出されると、演算手段では、基準位置で音が検出された時間と、第1、第2及び第3周辺位置で音が検出された時間との時間差が演算される。そして、演算手段では更に、演算された時間差に基づいて、基準位置における音の伝播方向に関連する演算が実行される。ここで本態様では特に、上述したように、第1及び第2周辺位置は、基準位置と同一平面上に位置する周辺位置として、第3周辺位置は、第1及び第2周辺位置が位置する平面と同一平面上に位置しない周辺位置として設定されている。このため、演算手段は少なくとも相異なる3方向に関する時間差を演算でき、その結果として3次元での音の伝播方向に関する演算を実行することができる。
【0022】
<4>
上述の如く基準位置と周辺位置とで音を検出する態様では、前記演算手段は、前記基準位置及び前記周辺位置の各々で検出した前記音を示す信号の第1ピーク又は最大値の時間差に基づいて、前記基準位置における前記伝播方向に関連する演算を実行してもよい。
【0023】
この場合、第1ピーク(即ち、検出を開始してから最初に検出されるピーク)又は最大値によって基準位置と周辺位置とでの音の検出時間が比較される。従って、検出された音を示す信号に複数のピークが存在するような場合であっても、正確に検出時間の差分を演算できる。
【0024】
<5>
上述の如く基準位置と周辺位置とで音を検出する態様では、前記演算手段は、前記基準位置及び前記周辺位置の各々で検出した前記音を示す信号に、所望の周波数に対応する正弦波を畳み込み演算し、前記基準位置における前記所望の周波数を有する音の前記伝播方向に関連する演算を実行してもよい。
【0025】
この場合、予め所望の周波数に対応する正弦波を畳み込み演算しておくことにより、所望の周波数を有する音についての伝播方向に関連する演算が容易となる。具体的には、畳み込み演算により、音検出手段で検出された音のうち、所望の周波数を有する音に対応する信号のピークが顕著に現れる。よって、例えばピーク位置の差分を利用した伝播方向の算出が容易となる。
【0026】
<6>
上述の如く所望の周波数に対応する正弦波の畳み込み演算を実行する態様では、前記演算手段は、前記基準位置及び前記周辺位置で前記音を検出した時間差の所定期間の平均値に基づいて、前記基準位置における前記伝播方向に関連する演算を実行してもよい。
【0027】
この場合、音を検出した時間差は、所定期間に(即ち、複数のピークを利用して)複数回演算される。そして、複数の時間差の平均値に基づいて、伝播方向に関連する演算が実行される。このようにすれば、時間差について1つの第1ピーク又は最大値を用いる場合、空間に放射された音の過渡的な伝搬方向を演算することができるのに対し、空間に放射された音の定常的な音の伝搬方向を演算することができる。
【0028】
<7>
本実施形態に係る演算装置の他の態様では、前記演算手段は、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に加えて、前記少なくとも2箇所の各々で検出した前記音の音圧に基づいて、前記伝播方向に関連する演算を実行する。
【0029】
この態様によれば、音が検出される時間差に加えて、検出された音の音圧(振幅)が演算に利用される。よって、音の伝播方向に加えて音の大きさを知ることが可能となり、伝播方向に関する情報を、伝播方向及び音の大きさを含む情報として算出することができる。このため、例えば伝播方向に関する情報を視覚化する場合等において、より適切な表示が可能となる。
【0030】
<8>
本実施形態に係る演算装置の他の態様では、前記演算手段による演算結果に応じて、前記伝播方向を表示する表示手段を更に備える。
【0031】
この態様によれば、演算手段によって演算された伝播方向を視覚的に把握することが可能となる。
【0032】
<9>
上述の如く表示手段を更に備える態様では、前記表示手段は、前記伝播方向をベクトル表示してもよい。
【0033】
この場合、伝播方向がベクトル表示されるため、より直感的に音の流れを把握することが可能となる。
【0034】
<10>
本実施形態に係る演算方法は、音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出工程と、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算工程とを備える。
【0035】
本実施形態に係る演算方法によれば、上述した演算装置と同様に、音響空間内に放射された音の流れを好適に検出することが可能である。
【0036】
なお、本実施形態に係る演算方法においても、上述した本実施形態に係る演算装置における各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0037】
<11>
本実施形態に係るコンピュータプログラムは、音源からの音を少なくとも2箇所で検出する音検出工程と、前記少なくとも2箇所の各々で前記音を検出した時間に基づいて、前記音が前記音源から伝播する伝播方向に関連する演算を実行する演算工程とをコンピュータに実行させる。
【0038】
本実施形態に係るコンピュータプログラムによれば、上述した演算装置及び演算方法と同様に、音響空間内に放射された音の流れを好適に検出することが可能である。
【0039】
なお、本実施形態に係るコンピュータプログラムにおいても、上述した本実施形態に係る演算装置における各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0040】
<12>
本実施形態に係る記録媒体は、上述した本実施形態に係るコンピュータプログラムが記録されている。
【0041】
本実施形態に係る記録媒体によれば、記録されたコンピュータプログラムを実行することにより、音響空間内に放射された音の流れを好適に検出することが可能である。
【実施例0042】
以下では、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【0043】
<第1実施例>
初めに、
図1を参照しながら、第1実施例に係る演算装置100の構成について説明する。ここに
図1は、第1実施例に係る演算装置の全体構成を示す概略図である。
【0044】
図1において、第1実施例に係る演算装置100は、主な構成要素として、音検出部110及び演算部120を備えて構成されている。
【0045】
音検出部110は、本発明の「音検出手段」の一例であり、接続された基準マイク210及び周辺マイク220において検出された音を示す信号を入力とする。なお、基準マイク210及び周辺マイク220は、例えば一般的なマイクロフォン等として構成されており、音源300から放射された音を検出する。音検出部110は、入力された信号(即ち、基準マイク210で検出された音を示す信号(以下、適宜「基準マイク信号」と称する)及び周辺マイク220で検出された音を示す信号(以下、適宜「周辺マイク信号」と称する))を直接、或いは各種処理を施して、演算部120に出力可能に構成されている。
【0046】
演算部120は、本発明の「演算手段」の一例であり、時間差算出部121及び伝播方向算出部122を備えている。時間差算出部121は、音検出部110から入力された基準マイク信号及び周辺マイク信号を比較して、基準マイク210及び周辺マイク220において音が検出された時間差を算出し、伝播方向算出部122に出力する。伝播方向算出部122は、時間差算出部121で算出された時間差に基づいて、音源300から放射された音の伝播方向を算出する。演算部120は、算出した音の伝播方向を示すデータを、表示部400に出力可能に構成されている。
【0047】
表示部400は、本発明の「表示手段」の一例であり、例えば液晶モニタ等のディスプレイとして構成されている。表示部400は、演算部120で算出された音の伝播方向を視覚的に把握可能な態様で表示可能とされている。
【0048】
次に、第1実施例に係る演算装置100の動作について、
図2から
図5を参照して説明する。ここに
図2及び
図4は夫々、第1実施例に係る音源と基準マイク及び周辺マイクの位置関係を示す概念図である。また
図3及び
図5は夫々、第1実施例に係る基準マイク及び周辺マイクで検出された信号を示すグラフである。
【0049】
図2に示すように、原点を基準にしてX方向で見た場合に、基準マイク210が周辺マイク220より原点に近い位置に配置されており、原点より後方に配置された音源300からの音がX方向の正方向に放射されている場合を考える。この場合、音源300から放射された音は、先ず基準マイク210において検出され、その後に周辺マイク220に検出されることになると考えられる。
【0050】
ここで
図3に示すように、音検出部110において、基準マイク信号及び周辺マイク信号が図に示すようなものとして検出されたとする。この場合、時間差算出部121は、原点に対して遠方に配置されたマイクから近傍に配置されたマイクの時間差を算出する。具体的には、原点に対して遠方に配置された周辺マイク信号の最大値が検出された時刻T1から、原点に対して近傍に配置された基準マイク信号の最大値が検出された時刻T0の時間差を算出する。なお、時間差算出部121は、最大値に代えて第1ピーク等の他のピークを比較することで時間差を算出してもよい。
【0051】
図3の信号から算出された時間差は、T1-T0>0となる。この結果、基準マイク210が配置されている基準位置での音の伝播方向は、伝播方向算出部122により、
図2に示す伝播方向ベクトルD1として算出される。即ち、音の伝播方向は、X方向で見た場合の正方向として算出される。
【0052】
他方、
図4に示すように、原点を基準にしてX方向で見た場合に、基準マイク210が周辺マイク220より原点に近い位置に配置されており、周辺マイク220より原点から離れて配置された音源300からの音がX方向の負方向に放射されている場合を考える。この場合、音源300から放射された音は、先ず周辺マイク220において検出され、その後に基準マイク210に検出されることになると考えられる。
【0053】
ここで
図5に示すように、音検出部110において、基準マイク信号及び周辺マイク信号が図に示すようなものとして検出されたとする。この場合、時間差算出部121は、原点に対して遠方に配置された周辺マイク信号の最大値が検出された時刻T1から、原点に対して近傍に配置された基準マイク信号の最大値が検出された時刻T0の時間差を算出する。すると算出された時間差は、T1-T0<0となる。この結果、基準マイク210が配置されている基準位置での音の伝播方向は、伝播方向算出部122により、
図4に示す伝播方向ベクトルD2として算出される。即ち、音の伝播方向は、X方向で見た場合の負方向として算出される。
【0054】
以上説明したように、第1実施例に係る演算装置100によれば、基準マイク210で音が検出される時間と、周辺マイク220で音が検出される時間との差分を利用して、音の伝播方向を算出することができる。第1実施例に係る演算装置では特に、音が検出されたタイミングさえ正確に検出できればよいため、例えば高感度のマイクロフォン等を使用せずとも好適に伝播方向を知ることができる。
【0055】
<第2実施例>
次に、
図6から
図10を参照しながら、第2実施例に係る演算装置について説明する。ここに
図6は、第2実施例に係る音源と基準マイク及び周辺マイクの位置関係を示す概念図である。また
図7は、第2実施例に係る基準マイク及び周辺マイクで検出された信号を示すグラフであり、
図8は各周辺マイクに対応して演算される時間差ベクトルを示す概念図である。更に
図9は、各周辺マイクに対応して演算される時間差ベクトルの合成を示す概念図であり、
図10は、表示部における表示例を示す平面図である。
【0056】
なお、第2実施例は、上述した第1実施例と比べて一部の構成が異なるのみであり、その他の点については概ね同様である。このため、以下では既に説明した第1実施例と異なる部分について詳細に説明し、他の重複する部分については適宜説明を省略するものとする。
【0057】
図6に示すように、第2実施例に係る演算装置100では、1つの基準マイク210に対し、複数の周辺マイク220が配置されている。具体的には、基準マイク210を囲うように、第1周辺マイク221、第2周辺マイク222、第3周辺マイク223、第4周辺マイク224が配置されている。この場合、音源300から放射された音は、先ず第1周辺マイク221において検出され、その後に基準マイク210に検出され、更にその後に第2周辺マイク222及び第3周辺マイク223に検出され、最後に第4周辺マイク224に検出されることになると考えられる。
【0058】
ここで
図7に示すように、音検出部110において、基準マイク信号及び各周辺マイク信号(具体的には、第1周辺マイク221で検出された音を示す第1周辺マイク信号、第2周辺マイク222で検出された音を示す第2周辺マイク信号、第3周辺マイク223で検出された音を示す第3周辺マイク信号、及び第4周辺マイク224で検出された音を示す第4周辺マイク信号)が図に示すようなものとして検出されたとする。なお、第2周辺マイク信号及び第3周辺マイク信号はほぼ同時刻に同様の信号として検出されるものであるため併せて図示している。
【0059】
図8に示すように、時間差算出部121は、まず、各軸方向に対して基準マイク信号及び各周辺マイク信号の対応するピークが検出された時間差を算出する。具体的には、基準マイクに対しX方向に配置された第1周辺マイクと第4周辺マイクの時間差を算出する。基準マイク信号と第1周辺マイク信号との時間差は、X方向に対し遠方に配置された基準マイク信号から近傍に配置された第1周辺マイク信号の差分を算出する。すなわち、T0-T1>0となる。この結果、基準マイク210と第1周辺マイク221との関係での時間差ベクトルx1は、X方向での正方向のベクトルとして算出される。基準マイク信号と第4周辺マイク信号の場合、X方向に対して遠方に配置された第4周辺マイク信号から近傍に配置された基準マイク信号の差分を算出する。すなわち、T0-T4<0となる。この結果、基準マイク210と第4周辺マイク224との関係での時間差ベクトルx2は、X方向での正方向のベクトルとして算出される。次に、基準マイクに対しY方向に配置された第2周辺マイクと第3周辺マイクの時間差を算出する。基準マイク信号と第2周辺マイク信号との時間差は、Y方向に対して遠方に配置された基準マイク信号から近傍に配置された第2周辺マイク信号の差分を算出する。すなわち、T0-T2<0となる。この結果、基準マイク210と第2周辺マイク222との関係での時間差ベクトルy1は、Y方向での負方向のベクトルとして算出される。基準マイク信号と第3周辺マイク信号との時間差は、Y方向に対して遠方に配置された第3周辺マイク信号から近傍に配置された基準マイク信号の差分が算出される。すなわち、T3-T1>0となる。この結果、基準マイク210と第3周辺マイク223との関係での時間差ベクトルy2は、Y方向での正方向のベクトルとして算出される。
【0060】
図9に示すように、伝播方向算出部122は、上記周辺マイク220毎に算出された時間差ベクトルx1、x2、y1及びy2を夫々合成して、基準位置での音の伝播方向ベクトルD3を算出する。具体的には、伝播方向ベクトルD3は、以下の数式(1)を用いて算出される。
【0061】
D3=(x1+x2)+j(y1+y2) ・・・(1)
合成の結果、伝播方向ベクトルD3は、Y方向の成分が相殺され、X方向の正方向のベクトルとして算出される。
【0062】
図10に示すように、このような伝播方向ベクトルの算出は、例えば複数箇所を基準位置として行われ、各基準位置において算出される。このようにして算出された複数の伝播方向ベクトルは、表示部400において、対応する基準位置に合わせて表示される。図に示す例では、ユーザ500の右前方にある音源300から放射される音の伝播方向が表示されている。また、各ベクトルの濃淡により音圧の強弱も表されている。具体的には、色が濃いほど音圧が強いことを示しており、音源300から遠くなるほど、音圧が弱くなっているのが分かる。このように、音の伝播方向に加えて音圧等の他のデータも併せて表示してもよい。
【0063】
以上説明したように、第2実施例に係る演算装置によれば、複数の周辺マイク220を配置することにより、2次元平面上での伝播方向を知ることが可能である。ちなみに、第2実施例では、周辺マイクを同一平面上に配置したため、2次元での伝播方向が算出されている。これに対し、例えば、同一平面上ではない位置に他の周辺マイクを配置すれば、3次元での伝播方向も算出することが可能である。なお、3次元での伝播方向の算出についても、上述した方法と同様に算出できる(即ち、各周辺マイク信号との時間差ベクトルを算出し、それらを合成することで算出できる)ため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0064】
<第3実施例>
次に、
図11を参照しながら、第3実施例に係る演算装置について説明する。ここに
図11は、第3実施例に係る畳み込み演算を示す概念図である。
【0065】
なお、第3実施例は、上述した第1実施例と比べて伝播方向の算出方法が異なるのみであり、その他の点については概ね同様である。このため、以下では既に説明した第1実施例と異なる部分について詳細に説明し、他の重複する部分については適宜説明を省略するものとする。第3実施例では、基準マイク210及び周辺マイク220の配置は、
図2で示す場合と同様であるとする。
【0066】
図11に示すように、第3実施例に係る演算装置100では、演算部120において、基準マイク信号及び周辺マイク信号の各々に対し、所望の周波数に対応する正弦波の畳み込み演算が行われる。このような畳み込み演算を行うことで、基準マイク信号及び周辺マイク信号の各々において、所望の周波数に対応する音のピークが顕著に現れる。よって、畳み込み演算後の基準マイク信号及び周辺マイク信号を用いて伝播方向を算出すれば、所望の周波数を有する音の伝播方向を知ることができる。具体的には、畳み込み演算後の基準マイク信号のピークが検出される時刻T0及び周辺マイク信号のピークが検出される時刻T1の時間差を利用して伝播方向ベクトルが算出される。
【0067】
<第4実施例>
次に、
図12を参照しながら、第4実施例に係る演算装置について説明する。ここに
図12は、第4実施例に係る平均値の演算方法を示す概念図である。
【0068】
なお、第4実施例は、上述した第4実施例と比べて伝播方向の算出方法が異なるのみであり、その他の点については概ね同様である。このため、以下では既に説明した第4実施例と異なる部分について詳細に説明し、他の重複する部分については適宜説明を省略するものとする。第4実施例でも、基準マイク210及び周辺マイク220の配置は、
図2で示す場合と同様であるとする。
【0069】
図12に示すように、第4実施例に係る演算装置100では、先ず第3実施例と同様に、基準マイク信号及び周辺マイク信号の各々に対し、所望の周波数に対応する正弦波の畳み込み演算が行われる。これにより、基準マイク信号及び周辺マイク信号の各々において、所望の周波数に対応する音のピークが顕著に現れることになる。
【0070】
続いて、畳み込み演算後の基準マイク信号及び周辺マイク信号を用いて、所定期間における時間差の平均値が算出される。具体的には、先ず各ピークに対応する期間Δt毎に複数の時間差が算出される。即ち、第1ピーク同士の時間差T1は、基準マイク信号の第1ピークの検出時間T01及び周辺マイクの第1ピークの検出時間T11を用いて以下の数式(2)で算出される。
【0071】
T1=T11-T01 ・・・(2)
同様に、第2ピーク同士の時間差T2は、基準マイク信号の第2ピークの検出時間T02及び周辺マイクの第1ピークの検出時間T12を用いて以下の数式(3)で算出される。
【0072】
T2=T12-T02 ・・・(3)
そして、第nピーク同士の時間差Tnは、基準マイク信号の第nピークの検出時間T0n及び周辺マイクの第1ピークの検出時間T1nを用いて以下の数式(4)で算出される。
【0073】
Tn=T1n-T0n ・・・(4)
これらn個の時間差T1~Tn算出されると、n個の時間差T1~Tnの平均値Taが以下の数式(5)を用いて算出される。
【0074】
Ta=(T1+T2+・・・Tn-1+Tn)/n ・・・(5)
このようにして算出された時間差の平均値Taを用いれば、1つのピークの時間差のみを用いる場合と比べて、空間に放射された音の定常的な音の伝搬方向を演算することができる。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う演算装置及び演算方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。