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特開2023-1265長期間の安定性を有する脱細胞化ヒト羊水調製物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001265
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】長期間の安定性を有する脱細胞化ヒト羊水調製物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/50 20150101AFI20221222BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/27 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/30 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61K35/50
A61P29/00
A61P17/02
A61P19/02
A61P27/02
A61K9/107
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/127
A61K38/22
A61K38/18
A61K38/20
A61K38/17
A61K38/27
A61K38/36
A61K38/48
A61K38/30
A61K38/19
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022178938
(22)【出願日】2022-11-08
(62)【分割の表示】P 2018545294の分割
【原出願日】2017-02-27
(31)【優先権主張番号】15/053,497
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518301349
【氏名又は名称】マム ホールディングス オブ ウエスト フロリダ, リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カール ランドール ハレル
(57)【要約】
【課題】長期間の安定性を有する脱細胞化ヒト羊水調製物の提供。
【解決手段】生物学的機能の喪失なしに長期貯蔵に適している滅菌脱細胞化ヒト羊水を調製するための方法が、開発された。特に、上記方法は、有効な治療適用のために、新鮮な羊水中に存在する重要な増殖因子および他の分子の大部分を保持しながら、貯蔵寿命を最大化する冷蔵工程を含む。その組成物の使用は、治療目的が意図され、任意の障害または疾患、特に、眼および関節が関わるもの、または線維症性の障害(例えば、COPD)と関連する疼痛または不快感を軽減する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2016年2月25日に出願されたU.S.S.N.15/053,497(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益およびそれに対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、非処理羊水中に天然に存在する分子の生物学的機能の喪失が最小限であるないし存在しない、長期間の貯蔵の間に安定である滅菌脱細胞化ヒト羊水を調製するための方法、その投与単位および新たな使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
羊水(AF)は、妊娠が進行するにつれて変化する、複雑かつダイナミックな環境である。AFは、胎児の成長を促進する栄養素および増殖因子を含み、機械的緩衝作用および胎児を保護する抗微生物エフェクターを提供し、そして胎児の成熟および疾患の評価を可能にする。
【0004】
AFは、多数の因子(炭水化物、タンパク質およびペプチド、脂質、ラクテート、ピルベート、電解質、酵素およびホルモンが挙げられる)を含む。AFは、多くの重要な増殖因子(上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子ベータ-1、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、およびエリスロポエチン(EPO)が挙げられる)を含む。
【0005】
ヒトAFは、瘢痕化を最小限にするようである因子を含む(Ozgenel GYら,
J Neurosurg 2003; 98: 371-377)。創傷治癒プロセスに潜在的に寄与する羊水性因子(amniotic factor)としては、ヒアルロン酸が挙げられ、これは、AF中において高レベルで見出され、コラーゲン合成を阻害する。このヒアルロン酸リッチな環境は、AF中にヒアルロニダーゼが相対的に欠如していることおよびAF中にヒアルロン酸刺激因子が存在することに起因する。創傷治癒にとって重要なプロテアーゼに対するAFの効果を考察する1つの研究において、ヒトAFは、コラゲナーゼ活性を増強するが、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、およびカテプシンの活性を阻害することが示された(Gao Xら, Ann Plastic Surg 1994;33:128~134)。さらに、TGF-βはまた、瘢痕形成において主要な役割を果たし得る(Adzick NSら, Ann Surg 1994;220:10~18)。
【0006】
さらに、ヒトAFは、幹細胞の供給源として評価されてきた(In ’t Anker
PSら, Blood 2003; 102: 1548~1549)。
【0007】
重要な羊水性因子が、遠心分離、濾過、冷蔵、凍結、および長期貯蔵のようなプロセスを生き延び得るか否かは、不明確である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ozgenel GYら、J Neurosurg(2003)98:371~377
【非特許文献2】Gao Xら、Ann Plastic Surg(1994)33:128~134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、凍結を上回る温度で長期貯蔵のための羊水の安定性を増強するための方法を提供することである。
【0010】
本発明の目的はまた、治療適用のために、非処理羊水中に存在する極めて重要な羊水性因子の安定性を最大化する羊水の精製のための方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、臨床医および患者の両方にとって容易にアクセスできかつ使用しやすい投与単位および製剤、ならびにその新たな使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
長期間にわたる貯蔵に適した脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)の調製のための方法が提供される。一般に、上記方法は、帝王切開直前に妊婦から羊水を収集する工程、続いて、遠心分離および一連の濾過工程を介して、滅菌容器の中で貯蔵する前に上記羊水を脱細胞化する工程を包含する。D-HAFは、バルク状態で、または少量のアリコートで(例えば、適用する準備のできた個々のシリンジまたはバイアルの中で)貯蔵される。D-HAFは、約1℃~約10℃において冷蔵条件下で液体として、または約-20℃~約-85℃において凍結条件下で貯蔵される。あるいは、D-HAFは、約-85℃~約25℃において乾燥散剤として貯蔵されるように凍結乾燥される。
【0013】
羊水調製物は、薬学的組成物へと製剤化され得る。一般に、D-HAF組成物は、温度制御条件下で、液体としてまたは凍結乾燥散剤としてのいずれかで短期または長期の貯蔵の後に、大部分の羊水性因子を保持する。貯蔵後のD-HAFは、新鮮なD-HAFのものと比較して、総タンパク質含有量のうちの少なくとも50%、好ましくは80%より多くを保持する。好ましい実施形態において、D-HAFの冷蔵は、エオタキシン-2、IL-6、PARC/CCL18、全GRO、ENA-78/CXCL-5、6Ckine、およびMIP-3αのような1種またはこれより多くの炎症性分子のレベルを低下させるために使用される。
【0014】
D-HAFは、増殖因子の濃度、ならびに低い毒性および炎症に基づいて種々の使用を有する。一実施形態において、上記製剤は、皺、薄い皮膚、または不十分な治癒を有する領域へと注射される。別の実施形態において、上記製剤は、加齢または長期のコンタクトレンズ使用に起因するドライアイを処置するために、眼に直接投与される。別の実施形態において、上記製剤は、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)の1またはこれより多くの症状を軽減するためにエアロゾルとして投与される。別の好ましい実施形態において、上記D-HAFは、疼痛を軽減するかまたは治癒を増強するために、関節の中へと投与される。
【0015】
上記D-HAFは、主治医による使用のために貯蔵および流通され得る滅菌投与単位へとパッケージされる。これらの凍結乾燥製剤または流体製剤は、注射用の無菌パッケージされたシリンジ、滴剤ボトル(dropper bottle)(代表的には、眼に1日1回または2回適用するための30日間供給)、エアロゾル、またはクリーム剤もしくはローション剤のチューブもしくはジャーの形態にあり得る。注射剤(injectable)の投与量は、0.25cc/0.5ccおよび1.0ccである。その注射剤は、皮下に(「sc」)、筋肉内に(「im」)、または関節の中に投与され得る。その効能は、医師の評価、患者の自己評価、画像化研究およびクオリティーオブライフの評価によって決定される。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
炎症を低下させるか、創傷治癒を改善するか、組織修復を補助するか、またはこれらの組み合わせを行うのに有効な量で、非処理羊水に由来する増殖因子、炎症促進性因子、および抗炎症性因子の組み合わせを含む滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)を含む、組成物。
(項目2)
前記D-HAFは、前記非処理羊水を脱細胞化して、細胞および粒子状物質を除去する工程を包含するプロセスによって調製される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記プロセスは、前記脱細胞化した羊水を、約1℃~約20℃の間の温度で、前記非処理羊水と比べて1種またはこれより多くの炎症性因子の量を低下させるために有効な期間にわたって、インキュベートする工程をさらに包含する、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記温度は、約2℃~約8℃の間である、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記脱細胞化した羊水をインキュベートする期間は、約1日もしくはこれより多くの日数、週数、月数、または1年までである、項目3~4のいずれか1項に記載の組成物。
(項目6)
前記脱細胞化した羊水をインキュベートする期間は、約1日~約2週間の間である、項目3~5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目7)
前記炎症促進性因子のうちの1種またはこれより多くは、前記非処理羊水中の前記炎症促進性因子のうちの1種またはこれより多くと比較して、約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%減少する、項目3~6のいずれか1項に記載の組成物。
(項目8)
前記炎症促進性因子のうちの1種またはこれより多くは、前記非処理羊水中の前記炎症促進性因子のうちの1種またはこれより多くと比較して、少なくとも10%減少する、項目7に記載の組成物。
(項目9)
前記増殖因子は、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、血管内皮増殖因子A(VEGF-α)、腫瘍壊死因子A(TNF-α)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、マトリクスメタロペプチダーゼ(MMP-9)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、マトリクスメタロプロテイナーゼ-7(MMP-7)、マトリクスメタロプロテイナーゼ-7(MMP-13)、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、線維芽細胞増殖因子4(FGF-4)、内分泌腺由来血管内皮増殖因子(EG-VEGF)、インターロイキン8(IL-8)、線維芽細胞増殖因子21(FGF-21)、アンジオポエチン-2(ANG2)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、線維芽細胞増殖因子19(FGF-19)、TIMPメタロペプチダーゼインヒビター2(TIMP-2)、アンジオポエチン-1(ANG-1)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGFβ1)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、アンギオテンシノゲン、血小板由来増殖因子-AA(PDGF-AA)、幹細胞因子(SCF)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目1~8のいずれか1項に記載の組成物。
(項目10)
前記炎症促進性因子は、エオタキシン-2(CCL24)、インターロイキン6(IL-6)、肺および活性化調節ケモカインPARCまたはケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド18(CCL18)、3つのサブユニットGROα/CXCL1、GROβ/CXCL2、およびGROγ/CXCL3からなる全GRO、好中球活性化発現CXCケモカイン(ENA-78/CXCL-5)、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(CCL21または6Ckine)、マクロファージ炎症性タンパク質3アルファ(MIP-3αまたはCCL20)、γ誘導性モノカイン(MIGまたはCXCL-9)、MIP-1α、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド5(CCL-5)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、マクロファージ炎症性タンパク質-1β(MIP-1βまたはCCL4)、腫瘍壊死因子(TNFα)、単球走化性タンパク質2(MCP-2またはCCL8)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目1~9のいずれか1項に記載の組成物。
(項目11)
前記抗炎症性因子は、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン27(IL-27)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、血管内皮増殖因子D(VEGF-D)、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGFβ1)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン21(IL-21)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目1~10のいずれか1項に記載の組成物。
(項目12)
前記D-HAFは、前記非処理羊水と比較して、全羊水タンパク質のうちの約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含む、項目1~11のいずれか1項に記載の組成物。
(項目13)
前記D-HAFは、前記非処理羊水と比較して、前記羊水タンパク質のうちの少なくとも50%を含む、項目12に記載の組成物。
(項目14)
非処理羊水を脱細胞化して、細胞または粒子状物質を除去する工程を包含するプロセスによって調製される滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)を含む組成物であって、ここで前記D-HAFは、炎症を低下させるか、創傷治癒を促進するか、組織修復を補助するか、またはこれらの組み合わせを行うのに有効な量で、増殖因子、炎症促進性因子、および抗炎症性因子の組み合わせを含む、組成物。
(項目15)
薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含む、項目14に記載の組成物。
(項目16)
前記薬学的に受容可能な賦形剤は、眼への投与のために製剤化される、項目15に記載の組成物。
(項目17)
関節の中への注射のために製剤化される、項目15に記載の組成物。
(項目18)
滅菌水、生理食塩水または緩衝液で希釈される、項目15に記載の組成物。
(項目19)
ゲル、クリーム剤または軟膏剤の形態にある、項目15に記載の組成物。
(項目20)
少なくとも30日間、眼への滴剤の投与のために滅菌滴剤ボトルへとパッケージされる、項目16に記載の組成物。
(項目21)
エアロゾルまたはネブライザを使用して投与するための噴霧液剤と混合される、項目14~15のいずれか1項に記載の組成物。
(項目22)
注射に適した滅菌水、生理食塩水または緩衝液での再構成のためのボトル中に凍結乾燥される、項目14~15のいずれか1項に記載の組成物。
(項目23)
リポソーム、ポリマー粒子、またはポリマー移植物とともに製剤化される、項目14~15のいずれか1項に記載の組成物。
(項目24)
1種またはこれより多くのさらなる治療剤、予防剤または診断剤をさらに含む、項目14~23のいずれか1項に記載の組成物。
(項目25)
項目1~24のいずれか1項に記載の滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)を含む医療用移植物。
(項目26)
項目1~24のいずれか1項に記載の滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)を含む、キット。
(項目27)
炎症を低下させるか、創傷治癒を促進するか、組織修復を補助するか、および/または組織再生を促進するための方法であって、それを必要とする被験体に、項目1~24のいずれか1項に記載の滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)を投与することを包含する、方法。
(項目28)
前記被験体は、眼の障害、関節の障害、および肺の障害からなる群より選択される障害を有する、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記組成物は、眼にまたは眼の中へと適用される、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記組成物は、関節、靱帯、もしくは腱、または補綴物の中へとまたはそれらに隣接して注射される、項目27に記載の方法。
(項目31)
前記組成物は、肺系または鼻系へと投与される、項目27に記載の方法。
(項目32)
前記組成物は、皺または老化した皮膚の部位の組織へと注射される、項目27に記載の方法。
(項目33)
滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)の組成物を調製するための方法であって、前記方法は、
(a)羊水を無菌条件下で被験体から収集して、非処理羊水のサンプルを生成する工程;
(b)前記非処理羊水を脱細胞化して、細胞および粒子状物質のみを一連の遠心分離工程および濾過工程によって除去し、前記非処理羊水の出発タンパク質値の少なくとも50%を含む脱細胞化羊水を生成する工程;ならびに
(c)前記脱細胞化羊水を滅菌容器の中に、約1℃~約20℃の温度で1日もしくはこれより長い日数、週数、月数、または1年まで、または1年より長く入れる工程、
を包含し、ここで前記脱細胞化羊水は、前記非処理羊水に対して濃縮も、希釈も、分画も、熱処理も、アルコール処理もされない、方法。
(項目34)
滅菌D-HAFを調製するための前記方法は、前記脱細胞化羊水を、約1℃~約20℃の温度で、前記非処理羊水と比べて1種もしくはこれより多い炎症性因子の量を減少させるために有効な期間にわたってインキュベートする工程をさらに包含する、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記温度は、約2℃~約8℃である、項目33~34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記温度は、約4℃である、項目33~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
前記羊水は、1種またはこれより多い保存剤をさらに含む、項目33~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
前記脱細胞化羊水は、前記非処理羊水と比較して前記羊水タンパク質のうちの80%より多くを保持する、項目33~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
前記1種またはこれより多くの炎症性分子は、エオタキシン-2、IL-6、PARC/CCL18、全GRO、ENA-78/CXCL-5、6CkineおよびMIP-3αからなる群より選択される、項目33~35のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、それぞれ、非処理羊水;および-85℃で貯蔵した滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF);および2~8℃で貯蔵した滅菌D-HAFを含むサンプルの総タンパク質含有量を示す棒グラフである。
【0017】
図2図2は、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々のタンパク質の相対量を示すグローバルヒートマップである。
【0018】
図3A図3A~3Dは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の羊水性因子の相対量を示すヒートマップである。図3Aは、VEGF-α、TNF-αおよびHGFを含む非処理羊水において減少した注目に値する羊水性因子を示す。
図3B図3A~3Dは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の羊水性因子の相対量を示すヒートマップである。図3Bは、2~8℃において貯蔵したD-HAFサンプル中で減少した注目に値する羊水性因子(FGF7、MMP-9、GCSF、MMP-7、MMP-13、TGF-β、FGF-4、EG-VEGFおよびIL-8が挙げられる)を示す。
図3C図3A~3Dは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の羊水性因子の相対量を示すヒートマップである。図3Cは、-85℃で貯蔵したD-HAFサンプル中で減少した注目に値する羊水性因子(FGF-21、ANG2、GDNF、FGF-19、TIMP-2、ANG-1、TGFβ1およびM-CSFが挙げられる)を示す。
図3D図3A~3Dは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の羊水性因子の相対量を示すヒートマップである。図3Dは、羊水性因子(アンギオテンシノゲン、PDGF-AA、TGF-α、EGFおよびSCFが挙げられる)の変動しやすい変化を示す。
【0019】
図4A図4A~4Cは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の炎症性因子の相対量を示すヒートマップである。図4Aは、MIP-1β、TNFαおよびMCP-2を含む非処理羊水において減少した注目に値する炎症性因子を示す。サンプル中で検出されなかった(ND)いくつかの炎症性因子としては、IFN-γ、IL-1βおよびIL-12p40が挙げられる。
図4B図4A~4Cは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の炎症性因子の相対量を示すヒートマップである。図4Bは、2~8℃において貯蔵したD-HAFサンプル中で減少した注目に値する炎症性因子(エオタキシン-2、IL-6、PARC/CCL18、全GRO、ENA-78/CXCL-5、6CkineおよびMIP-3αが挙げられる)を示す。
図4C図4A~4Cは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の炎症性因子の相対量を示すヒートマップである。図4Cは、-85℃で貯蔵したD-HAFサンプル中で減少した注目に値する炎症性因子(MIG/CXCL-9、MIP-1α、RANTES/CCL-5およびIL-1αが挙げられる)を示す。
【0020】
図5A図5A~5Cは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の抗炎症性因子の相対量を示すヒートマップである。図5Aは、IL-5、VEHF-A、IL-21およびVEGF-Dを含む非処理羊水において減少した注目に値する抗炎症性因子を示す。
図5B図5A~5Cは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の抗炎症性因子の相対量を示すヒートマップである。図5Bは、2~8℃において貯蔵したD-HAFサンプル中で減少した注目に値する抗炎症性因子(IL-8、IL-13、IL-27およびCTLA-4が挙げられる)を示す。
図5C図5A~5Cは、非処理羊水、D-HAFの-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中の個々の抗炎症性因子の相対量を示すヒートマップである。図5Cは、-85℃で貯蔵したD-HAFサンプル中で減少した注目に値する抗炎症性因子(IL-1RaおよびTGFβ1が挙げられる)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
I.定義
用語「活性薬剤(Active Agent)」とは、身体において局所的におよび/または全身に作用する、生理学的にまたは薬理学的に活性な物質をいう。活性薬剤は、疾患または障害の処置(例えば、治療剤)、防止(例えば、予防剤)、または診断(例えば、診断剤)のために個体に投与される物質である。例えば、用語「眼用活性薬剤(Ophthalmic Active Agent)」または「眼用薬物(Ophthalmic Drug)」とは、本明細書で使用される場合、眼もしくはその構成要素の疾患もしくは障害の1もしくはこれより多くの症状を軽減するか、その発生を遅らせるか、または防止するために、患者に投与される薬剤をいう。活性薬剤は、皺を軽減するか、かさ(bulk)もしくは筋もしくは組織の緊張(tone)を修復する物質、または他の使用される化粧品をも含み得る。
【0022】
用語「有効量(effective amount)」または「治療上有効な量(therapeutically effective amount)」とは、疾患または障害の1またはこれより多くの症状を軽減させるか、その発生を遅らせるか、または防止するために有効な量をいう。
【0023】
用語「増殖因子(growth factor)」とは、細胞増殖を刺激するタンパク質またはホルモンの群をいう。増殖因子は、細胞分化および細胞分裂を促進するにあたって重要な役割を果たし、それらは、広い範囲の生物において存在する。
【0024】
用語「羊水性因子(amniotic factor)」とは、一般に、羊水中に天然に存在する分子をいう。これらとしては、炭水化物、タンパク質およびペプチド(例えば、酵素およびホルモン)、脂質、代謝基質および代謝生成物(例えば、ラクテートおよびピルベート)、ならびに電解質が挙げられる。
【0025】
用語「生体適合性(biocompatible)」または「生物学的に適合性の(biologically compatible)」とは、一般に、任意の代謝産物またはその分解生成物とともに、レシピエントに対して概して非毒性であり、レシピエントに対して何ら有意な有害効果を引き起こさない物質に言及する。概して、生体適合性物質は、患者に投与される場合に、有意な炎症応答または免疫応答を誘起しない物質である。
【0026】
用語「薬学的に受容可能な(pharmaceutically acceptable)」とは、妥当な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題も合併症もなしに、ヒトおよび動物の組織と接触した状態で使用されるのに適しており、合理的な利益/リスク比につりあった化合物、キャリア、賦形剤、組成物、および/または投与形態に言及する。
【0027】
用語「分子量(molecular weight)」とは、一般に、別段特定されなければ、バルクポリマーの相対的平均鎖長に言及する。実施において、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)または毛細管ビスコメトリーを含む種々の方法を使用して、概算または特徴づけられ得る。GPC分子量は、数平均分子量(Mn)とは対照的に、重量平均分子量(Mw)として報告される。毛細管ビスコメトリーは、濃度、温度、および溶媒条件の特定のセットを使用して、希ポリマー溶液から決定される固有粘度として、分子量の概算を提供する。
【0028】
II.組成物
脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)組成物は、細胞および粒子状物質を除去するために処理される。D-HAFは、代表的には、非処理羊水に対して濃縮も、希釈も、分画も、熱処理も、アルコール処理もされない。好ましい実施形態において、D-HAFは、照射の非存在下での処理後に無菌である。
【0029】
D-HAFは、代表的には、230種を超える天然に存在する増殖因子、抗炎症性分子、およびサイトカインを含む。例示的な分子としては、VEGF、TGFβ1、TGFβ3、EGF、HC-HA/PTX-C.PTX-3(ペントラキシン3)、IL-1Ra、PDGF、ST2、bFGF、KGF、コラーゲンタイプI、III、IV、V、およびGDF11が挙げられる。D-HAFは、タンパク質、核酸、およびヒト羊水に天然に由来する他の分子を含む。いくつかの実施形態において、好ましい合成分子は、所望の特性のためにD-HAFに添加される。
【0030】
いくつかの実施形態において、D-HAFは、組織修復、再生、および/または保護に有益な栄養素(例えば、デキストロース、アミノ酸、および脂質)を含む。D-HAFは、概して常習性ではなく、ステロイドを含まず、天然に由来する。D-HAFの適用は、瘢痕化を最小化しながら、組織修復、再生、および/または保護を増強する環境を作り出し得る。
【0031】
A.羊水性の増殖因子、サイトカインおよび他の分子
羊水(「AF」)は、胎児成長を促進し、機械的緩衝作用および胎児を保護する抗微生物エフェクターを提供し、かつ胎児成熟および疾患の評価を可能にする栄養素および増殖因子を含む。AFは、代表的には、増殖因子、炎症促進性サイトカイン、および抗炎症性サイトカイン、ならびに種々の高分子(炭水化物、タンパク質およびペプチド、脂質、ラクテート、ピルベート、電解質、酵素、およびホルモンを含む)の混合物を含む。
【0032】
増殖因子およびそれらのレセプターは、広い範囲の生物学的機能を制御し、細胞増殖、生存、移動および分化を調節する。AF中で見出される増殖因子は、胎児成長および発生において極めて重要な役割を果たす。
【0033】
AFにおいて同定された増殖因子の非限定的リストとして、例えば、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、血管内皮増殖因子A(VEGF-α)、腫瘍壊死因子A(TNF-α)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、マトリクスメタロペプチダーゼ(MMP-9)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、マトリクスメタロプロテイナーゼ-7(MMP-7)、マトリクスメタロプロテイナーゼ-7(MMP-13)、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、線維芽細胞増殖因子4(FGF-4)、内分泌腺由来血管内皮増殖因子(EG-VEGF)、インターロイキン8(IL-8)、線維芽細胞増殖因子21(FGF-21)、アンジオポエチン-2(ANG2)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、線維芽細胞増殖因子19(FGF-19)、TIMPメタロペプチダーゼインヒビター2(TIMP-2)、アンジオポエチン-1(ANG-1)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGFβ1)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、アンギオテンシノゲン、血小板由来増殖因子-AA(PDGF-AA)、および幹細胞因子(SCF)が挙げられる。
【0034】
上皮増殖因子(EGF)は、インビボおよびインビトロで有糸分裂特性を有する小さなポリペプチドホルモンである。EGFは、細胞質プロテインチロシンキナーゼを含む膜貫通糖タンパク質である細胞表面レセプターに結合することによって、生物学的応答を誘起する。EGF応答は、この本質的なプロテインキナーゼのリガンド結合および活性化によって媒介される。そのレセプターは、他のプロテインキナーゼによってリン酸化され得、これは、レセプター機能を調節し得る。リガンド結合によるレセプターチロシンキナーゼ活性の刺激は、核への有糸分裂シグナルの伝達を担う未だ定義されていない分子の活性を調節し得る(Todderud G,ら, Biofactors. 1989, 2(1):11-5)。
【0035】
血管内皮増殖因子(VEGF)(血管透過性因子(VPF)としても公知)は、内皮細胞特異的マイトジェンとして元々記載された。VEGFは、腫瘍細胞、マクロファージ、血小板、ケラチノサイト、および腎メサンギウム細胞を含む多くの細胞タイプによって生成される。VEGFの活性は、血管系に限定されない;VEGFは、骨形成、造血、創傷治癒、および発生のような正常な生理学的機能において役割を果たす(Duffy AMら, In: Madame Curie Bioscience Database [Internet]. Austin (TX): Landes Bioscience (2000))。
【0036】
TGF-αは、EGFに類似する構造を有し、同じレセプターに結合する。臍帯の羊膜細胞は、EGF、TGF-α、および機能的EGF/TGF-αレセプターを発現する。これは、胎児成長および発生において羊膜の調節性の役割の可能性を示唆する。EGFおよびTGF-αはまた、サーファクタント構成成分の生成を刺激することが示された。TGFβ1は、腸上皮細胞の最終分化を誘導し、細胞移動を刺激することによって腸創傷の治癒の速度を加速すると考えられる。TGFβ1はまた、IgA生成を刺激し得る。VEGF-Aは、血管形成および血管新生を刺激するシグナルペプチドである(Hoeben
Am,ら, Pharmacol Rev 2004, 56:549-580)。
【0037】
トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)は、多くの細胞タイプにおいて増殖、分化、および他の機能を制御する多機能ペプチドである。多くの細胞は、TGF-ベータを合成し、それらのうちの本質的に全てが、このペプチドに対する特異的レセプターを有する。TGF-ベータは、多くの他のペプチド増殖因子の作用を調節し、それらの効果の正の方向または負の方向を決定する(Sporn MB,ら,Science 1986, 233(4763) 532-534)。
【0038】
肝細胞増殖因子(HGF)は、c-Metがん原遺伝子によってコードされるレセプターチロシンキナーゼのリガンドであり、プロ酵素プラスミノゲンに構造的に関連し、発生、組織再生およびがんにおいて主要な役割を有するマルチドメインタンパク質である。近年の研究は、羊水幹細胞のその免疫調節の可能性を示した。Maraldi T,ら Stem Cells Transl Med, 4(6):539-47 (2015))。
【0039】
FGFレセプター(FGFR)を通じてシグナル伝達する線維芽細胞増殖因子(FGF)は、広い範囲の生物学的機能(細胞増殖、生存、移動、および分化を含む)を調節する。FGFシグナル経路は、RAS/MAPキナーゼ経路、PI3キナーゼ/AKT経路、およびPLCγ経路である。その中でも、RAS/MAPキナーゼ経路は、優勢であることが公知である。いくつかの研究は近年、組織再生に関してFGFのインビトロでの生物学的機能を関連付けた。FGFの多くの現在の適用は、組織(皮膚、血管、筋肉、脂肪、腱/靱帯、軟骨、骨、歯、および神経組織を含む)の再生にある(Yun YR,ら, J Tissue Eng 2010: 1(1))。
【0040】
マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)(マトリキシン(matrixin)ともいわれる)は、細胞の細胞外環境において機能し、マトリクスおよび非マトリクスタンパク質の両方を分解する。それらは、傷害に応じて、例えば、心筋梗塞後に、ならびにアテローム、関節炎、がんおよび慢性組織潰瘍のような疾患の進行の中で、形態形成、創傷治癒、組織修復およびリモデリングにおいて中心的な役割を果たす。それらは、マルチドメインタンパク質であり、それらの活性は、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター(TIMP)によって調節される(Nagase H,ら, Cardiovascular
Research, European Society of Cardiology, 562-573)。
【0041】
羊水はまた、多くの炎症促進性および抗炎症性サイトカインを含む。炎症促進性および抗炎症性サイトカインは、重要な免疫調節性の役割を果たす。炎症は、炎症促進性サイトカインと抗炎症性サイトカインとの間の相互作用によって特徴づけられる。サイトカインは、1または他のカテゴリーにおいて一般に分類される:インターロイキン-1(IL-1)、腫瘍壊死因子(TNF)、ガンマ-インターフェロン(IFN-ガンマ)、IL-12、IL-18および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子は、炎症促進性サイトカインとして十分に特徴づけられるのに対して、IL4、IL-10、IL-13、IFN-アルファ、およびトランスフォーミング増殖因子-ベータは、抗炎症性サイトカインと認識される。
【0042】
例示的な炎症促進性サイトカインとして、エオタキシン-2(CCL24)、インターロイキン6(IL-6)、肺および活性化調節ケモカイン(pulmonary and
activation-regulated chemokine)PARCまたはケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド18(CCL18)、3つのサブユニットGROα/CXCL1、GROβ/CXCL2、およびGROγ/CXCL3からなる全GRO、好中球活性化発現(expression of the neutrophil-activating)CXCケモカイン(ENA-78/CXCL-5)、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(CCL21または6Ckine)、マクロファージ炎症性タンパク質3アルファ(MIP-3αまたはCCL20)、γ誘導性モノカイン(monokine induced by gamma)(MIGまたはCXCL-9)、MIP-1α、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド5(CCL-5)、(RANTES(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)としても公知)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、マクロファージ炎症性タンパク質-1β(MIP-1βまたはCCL4)、腫瘍壊死因子(TNFα)、および単球走化性タンパク質2(MCP-2またはCCL8)が挙げられる。
【0043】
例示的な抗炎症性因子として、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン27(IL-27)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、血管内皮増殖因子D(VEGF-D)、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGFβ1)、インターロイキン5(IL-5)、およびインターロイキン21(IL-21)を含む抗炎症性因子が挙げられる。
【0044】
インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)は、IL-1αおよび/またはIL-1βの炎症促進活性を遮断し、それによって、炎症を低下させる。いくつかの実施形態において、D-HAFは、新鮮な(未加工の)羊水のものと比較して、約30%より高く、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または90%より高く、炎症を低下させるか、組織修復、再生、および/または保護を促進するために、有効量のインターロイキン-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)を保持する。D-HAFは代表的には、200pg/ml~約5000pg IL-1Ra/ml(両端の値を含む)の間;好ましくは、約700pg/ml~約4000pg/ml(両端の値を含む)の間を含む。研究は、女児の妊娠が、より高いレベルのIL-1Raを生じることを示す(Burns Cら,6 Front. Immunol., 16 June
2015)。従って、いくつかの実施形態において、D-HAFは、女児を妊娠している女性から収集した非処理羊水から調製される。
【0045】
滅菌羊水組成物中に存在する他の分子は、ヒアルロン酸を含む。いくつかの実施形態において、ヒアルロン酸は、瘢痕化を最小限にするか、D-HAFに対して、創傷を受けた組織を滑らかにしかつ保護するために、D-HAF中に有効量で存在する。いくつかの実施形態において、D-HAF中のヒアルロン酸濃度は、約0.1マイクログラム/ml~約50マイクログラム/ml(両端の値を含む)の間、好ましくは、約1マイクログラム/ml~約20マイクログラム/ml(両端の値を含む)の間である。
【0046】
D-HAFは、抗微生物因子(例えば、β2-ミクログロブリン、アルファディフェンシン[HNP1-3]、ラクトフェリン、リゾチーム、殺菌性/透過性増大タンパク質、カルプロテクチン、分泌型白血球プロテアーゼインヒビター、ソリアシン[S100A7]、およびカテリシジン[LL-37]を含む抗微生物ペプチド)を含む。いくつかの実施形態において、D-HAF中の抗微生物因子は、細菌、真菌、原生動物、およびウイルスに対して広い範囲の活性を有し、組織保護、再生、および/または修復に有益な量で存在する。
【0047】
いくつかの実施形態において、D-HAFは、瘢痕形成を最小限にし、そして組織修復および/または再生を促進することにおいて有効である。いくつかの実施形態において、D-HAFは、コラゲナーゼ活性を増強し、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、およびカテプシンを阻害する因子を含む。他の実施形態において、D-HAFは、コラーゲン合成を阻害する高レベルのヒアルロン酸を含む。
【0048】
B.希釈羊水製剤
精製羊水の製剤が提供される。代表的には、その製剤は、流体形態または凍結乾燥状態のいずれかで、単独でまたは適切な賦形剤との組み合わせにおいて、希釈した滅菌脱細胞化ヒト羊水(D-HAF)を含む。他の活性薬剤が含まれてもよい。D-HAFは、300種を超えるヒト増殖因子を含む。D-HAFは、羊膜性幹細胞および微粒子化した膜または絨毛膜粒子(chorion particle)の要素を欠く。精製羊水は、過酷な最終照射、eビームまたはエチレンオキシド(EO)の使用なしに滅菌される。好ましい実施形態において、そのプロセスは、上記細胞をAFから、遠心分離を使用しておよび一連の濾過デバイスを使用して分離して、全ての残りの細胞および生物汚染度を除去する工程からなる。各ロットは、生物汚染度に関して試験され、<1 有害生物を含むように滅菌されていることが証明される。
【0049】
調製法
上記製剤は、妊婦から得られた滅菌ヒト羊水から調製される。その製剤は、羊膜粒子状物質、すなわち、細胞を含まず、大きな粒子および他の不溶性物質は、好ましくは高速遠心分離によって除去されて、清澄化した羊水を得る。その清澄化した羊水は、次いで、約5μ~約10μの孔サイズを有するフィルタを通じて濾過されて、ミクロン濾液(micron filtrate)を得、続いて、そのミクロン濾液を、約1.0μの孔サイズを有するフィルタを通じて濾過して、第2の濾液を得、続いて、その濾液を、0.45μまたは/および0.2μの孔サイズを有するミクロン未満のフィルタを通じて濾過して、滅菌濾過された羊水を得る。
【0050】
当業者は、AFのサンプルを安全かつ人道的に得るための方法、およびこのような手順の間にAFの無菌性を維持する必要性について十分に知っている。例えば、ヒトAFの適切な供給源としては、羊水穿刺を受けている患者、帝王切開による出産を受けている患者、および羊膜が破れた後に羊水を収集するために特別に設計された容器を使用して、通常分娩を受けている患者から得られるAFが挙げられる。
【0051】
一実施形態において、その収集手順は、選択的帝王切開の間に無菌手術室環境において行われる。代表的には、女性は、帝王切開前手術法(pre-caesarian surgical method)を受けており、滅菌ヒト羊水を得るための工程は、超音波デバイスのスイッチを入れて、ヒト羊水をその女性から得るプロセスのためのガイダンスを提供する工程、その女性の羊膜の中へと鈍な先端の針を挿入する工程、その鈍な先端の針を三方活栓に取り付ける工程、ルアーロックシリンジをその三方活栓に接続する工程、ある長さの滅菌管状材料の第1の末端をその三方活栓に接続する工程、ならびにその鈍な先端の針および滅菌管状材料を通じて、収集容器の中へと羊水を無菌的に収集する工程を包含する。
【0052】
この実施形態において、滅菌収集容器は、吸引デバイスを備えたポンプを含む。その吸引デバイスは、低吸引デバイスまたはバネ付勢式低吸引デバイス(spring loaded low suction device)である。その吸引デバイスは、内部バルーンに流動するように接続される。この実施形態は、低吸引デバイスを使用して、滅菌収集容器の中の内部バルーンを手動で、ポンプで吸い上げて、羊水の低レベル吸引および収集を可能にすることをさらに包含する。
【0053】
一実施形態において、その収集したAFは貯蔵され、2~8℃で輸送される。輸送は、氷のパックを詰めた保温クーラーボックスの中に入れて一晩で行われる。
【0054】
全ての処理は、無菌条件下で、クリーンルームの中のクラス100層流フードで行われる。可能な限り多くのAFが、任意の固体デブリから分離される。AFは、滅菌の500~2,000mL容器に移される(サイズは、最初の容積に依存する)。処理は、そのプロセスの間に25℃より下で行われる。
【0055】
細胞、大きな粒子および他の固体をヒト羊水から除去する工程は、ヒト羊水を遠心分離またはデプスフィルターを通すこと(depth filtering)という第1の工程を包含する。いくつかの実施形態において、ヒト羊水は、約5,000rpm~約10,000rpmにおいて、約30分間~約60分間遠心分離される。蠕動ポンプは、ボトルを一杯にし過ぎることなく、AFをきれいな滅菌250mL遠心分離ボトルへと移すために使用される。各ボトルの重量は、ローターの中に入れた場合に、2.0グラムより大きく変動するべきではない。ボトルに対して滅菌ロータースリーブを使用して、ボトルをきれいに保持する。10,000rpmで60分間、Sorvall冷蔵遠心分離機の中でボトルを回転させる。上清を滅菌容器へと注意深くデカントするかまたはポンプで吸い上げ、ペレット物質をとっておく。最初の遠心分離後に、AFからデブリが除かれていない場合に、任意選択の第2の遠心分離を使用する。一実施形態において、第1の遠心分離からのAF上清を滅菌50mL遠心分離チューブに移し、これを、5,000rpmで60分間回転させる。AF上清は、滅菌容器へとデカントし、いかなる顕著なペレット容積をもとっておく。
【0056】
AF上清は、一連の濾過工程へとその後供される。一実施形態において、第1の濾過(予備濾過)のために使用される約5μ~約10μフィルタは、セルロースエステルフィルタ、ガラス繊維フィルタ、ナイロンカプセルフィルタまたはナイロンカートリッジフィルタである。いくつかの実施形態において、その濾過した溶液の清澄性に依存して、複数のプレフィルタが使用される。1.0μの孔サイズを有するフィルタ(濾過1.0μ)は、カプセルフィルタまたはカートリッジフィルタである。1.0μの孔サイズを有するフィルタは、ポリエーテルスルホン、ポロビニリデンフルオリドまたはセルロースアセテート膜フィルタである。最終濾過は、0.45μまたは0.2μの孔サイズを有するフィルタを使用して行われ、これらフィルタは、カプセルフィルタまたはカートリッジフィルタである。その0.45μまたは0.2μの孔サイズを有するフィルタは、ポリエーテルスルホン膜フィルタ、ポロビニリデンフルオリドまたはセルロースアセテート膜フィルタである。
【0057】
滅菌濾過したヒト羊水は、ヒト成長ホルモン、トランスフォーミング増殖因子ベータ1、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子ベータ3、および増殖分化因子11またはこれらの組み合わせを含む増殖因子を含む。
【0058】
滅菌羊水は、充填およびパッケージングの工程をさらに包含する。例えば、滅菌D-HAFは、適用準備のできたシリンジの中に充填される。各注射(shot)は、0.90~1.10グラムの重量であるべきである。必要であれば、ポンプ設定を再度較正する。100 Schott TopPac1mLシリンジの入れ子(nest)を使用して充填操作を開始する。Improストッパー装着システム(stoppering system)から空気を3回パージする。ストッパーは各々、0.2μ濾過空気に接続されたImpro真空ストッパー装着システムを使用して充填した直後にはめ込まれる。少なくとも(3)回の微粒子物計数を無菌的に行い、その作動の過程に媒体コントロールを開く。
【0059】
さらなる実施形態において、その充填したシリンジを、滅菌プランジャーでキャップする。そのシリンジを、予めラベルを付けたMangarマイラーパウチの中に、プランジャーロッドをパウチの山側(chevron side)に向けて入れる。そのパウチを、270°Fに設定したヒートシーラーで2.4秒保持、170°F冷却温度においてシールする。シール後に、そのシールを視覚的に検査する。無傷なシリンジは、AF製品の主要な滅菌バリアを構成することに注意のこと。
【0060】
さらに別の実施形態において、そのAF流体は、バリアとしてストッパーおよび13mmクリンプキャップ付きの滅菌2ccバイアルの中に充填される。
【0061】
いくつかの実施形態において、滅菌羊水は、その滅菌羊水を凍結乾燥して、その凍結乾燥物を得る工程をさらに包含する。上記方法は、その凍結乾燥物をeビーム照射またはγ線照射によって照射して、その無菌性を強化する工程をさらに包含する。
【0062】
いくつかの実施形態において、最終濾過からの羊水は、シリンジまたはバイアルへと無菌的に移され、約-80℃~約-20℃のディープフリーザーの中で長期貯蔵のために保持される。その滅菌羊水は、作り付けの滅菌環境における凍結乾燥を介してバイアルの中で乾燥される。その羊水に由来する凍結乾燥物は、注射または局所投与の前に滅菌水で再構成される。その凍結乾燥物は、+4℃~約+25℃(室温)において貯蔵され得る。
【0063】
必要であれば、凍結乾燥を経て羊水から得られる凍結乾燥物は、eビーム照射またはγ線照射によって照射されて、その散剤の最終的な無菌性に関する別の保証を追加し得る。凍結乾燥物の照射は、水性溶液を照射するよりタンパク質およびペプチドに関する変性が遙かに少ない。なぜなら水が存在しないことで、照射の間の反応性スーパーオキシドアニオンの生成およびそれらの拡散がかなり低下するからである。このようなスーパーオキシドアニオンは、ペプチド結合をバラバラにし、タンパク質およびペプチドのアミノ酸を化学改変する主要な原因である。凍結乾燥後に、その羊水は、最初の容積の水を添加することによって再構成される。穏やかにホモジナイズした後、その散剤は、約1分で迅速に溶解する。
【0064】
その再構成した羊水は透明であり、創傷治癒、美容、整形外科、または眼科適用のために、特に、ドライアイの処置のために使用され得る。
【0065】
女性から滅菌濾過したヒト羊水を得るためのツールは、三方活栓、その三方活栓に無菌的に取り付けられた滅菌した鈍な先端の針、その三方活栓に無菌的に接続されたルアーロックシリンジ、その三方活栓に無菌的に接続された滅菌管状材料、収集容器もしくはその滅菌管状材料と接続された吸引デバイス付きのポンプを含む収集容器、約5μ~約10μの孔サイズを有するフィルタのセット、約1μの孔サイズを有するカプセルフィルタもしくはカートリッジフィルタのセット、約0.45μもしくは0.2μの孔サイズを有するカプセルフィルタもしくはカートリッジフィルタのセット、滅菌濾過した羊水を貯蔵する滅菌シリンジもしくはバイアルのセットおよび滅菌濾過したヒト羊水を得るためのキットを使用することについての操作指示を含む。約5μ~約10μの孔サイズを有するフィルタおよびカプセルフィルタまたはカートリッジフィルタは、セルロースエステル、ガラス繊維またはナイロンから作製される。
【0066】
滅菌収集容器は、吸引デバイス付きのポンプを含み得る。この実施形態の一局面において、吸引デバイスは、低吸引デバイスまたはバネ付勢式低吸引デバイスであり得る。別の局面において、その吸引デバイスは、内部バルーンへと流動するように接続され得る。この局面に対してさらに、上記方法は、滅菌収集容器の中の内部バルーンを、低吸引デバイスを使用して手動で、ポンプで吸い上げて、羊水の低レベル吸引および収集を可能にする工程を包含する。さらに別の局面において、滅菌収集容器は、入り口を含み得る。この特定の局面に対してさらに、上記方法は、上記管状材料の第2の末端を滅菌収集容器の入り口へと接続する工程を包含する。滅菌収集容器は、キャップを有する通気口を含み得る。
【0067】
帝王切開を行う直前に、胎児および母親を保護するために超音波ガイダンスを用いて、切開部位を利用することは、収集のためにリスクが最小限または全くない環境を提供する。収集は、収集容器内に確立された低レベル吸引を介して、および/または重力を介して達成される。代表的には、5~10μフィルタ(低タンパク質結合フィルタ)での高速遠心分離濾過は、細胞および大きな粒子の除去を完了するために使用される。次いで、ミクロン未満の濾過は、一連の接続において2回、1μならびに0.45μフィルタまたは/および0.2μフィルタ(低タンパク質結合フィルタ)で行われて、粗大な夾雑物を除去する。この条件下では、可溶性増殖因子は、このフィルタを通過して、半滅菌状態の非常に低い生物汚染度数を達成する。厳密な無菌操作条件下であれば、10-3 無菌性保証水準が達成される。10-6 無菌性保証水準は、滅菌生成物を達成するために、0.22μフィルタ(低タンパク質結合フィルタ)でのミクロン未満の濾過によって、最終かつ滅菌のパッケージで達成され得る。どの構成成分が除去されるかを決定し、次いで、どのプロセスを使用して所望の生成物を達成するかを決定するために、各濾過工程の後に濾液がモニターされ得る。
【0068】
タンパク質溶液を濾過するために、親水性ポリエーテルスルホン(PES)を含むかまたがこれから作製される膜フィルタが使用され得る。小容積のためのフィルタディスクおよび1リットルおよびこれより多くのようなより大きな容積のための種々のサイズのカートリッジ。タンパク質を欠く液体のために設計されたPTFEのような疎水性膜は、使用されるべきではない。5000~8000rpmにおいて少なくとも30分間の遠心分離で開始する。次に、その上清を、プレフィルタで濾過して、上清中の残りのタンパク質凝集物および沈殿物を除去する(AP20が使用され得る)。0.6/0.2μmフィルタが直接使用される場合、予備濾過後に、ゆっくりとした濾過速度を経験し、その流れは、あまりにも早く停止する可能性がある。1.2μおよび0.8μ膜を使用して、中間濾過工程を設けることは、望ましいことであり得る。代表的には、0.2μを通過する最終濾過は、最良の無菌性保証水準を得、注射用の滅菌羊水を生成するために必要である。
【0069】
いくつかの実施形態において、非処理羊水は、胎便が最小限または全くないようにスクリーニングされかつ選択される。前期破水を伴う妊娠は、上昇したレベルの炎症性サイトカイン(例えば、IL-1、IL-6、TNF-アルファ、およびインターフェロンγ)を含む羊水と関連付けられる。従って、いくつかの実施形態において、非処理羊水は、前期破水のない妊婦から収集される。
【0070】
貯蔵方法
最終濾液は、凍結状態で、約-20℃~約-80℃において、長期貯蔵のために貯蔵され得る。さらに、滅菌濾過した羊水は、滅菌凍結乾燥のために特別なゴム製ストッパーを備えたバイアルで流通され得る。
【0071】
その凍結乾燥は、無菌環境で行われる。次いで、上記バイアル上のゴム製ストッパーは、凍結乾燥機の中で自動的に押し下げられ、バイアルを最終的に閉じる。次いで、アルミニウムキャップは、その滅菌内容物を保護するために各バイアル上でシールされる。このような凍結乾燥状態では、羊水は、+4℃または室温において、少なくとも1年間、その生物学的活性の低下なしに貯蔵され得る。その医療的使用のために、滅菌羊水は、透明で均質な生理学的液体を回復するために、最初の容積の滅菌水をその散剤へと添加することによって再構成され得る。
【0072】
脱細胞化(decellularization)および精製プロセスは、増殖因子および羊水の他の生物学的構成成分を、化学的および酵素分解から保護する。羊水内に含まれる分子は、化学的または物理的改変の必要性を回避して、分解に対して安定化され、長期間にわたるその分子の生物学的安定性を維持する。従って、記載される方法に従って調製されるD-HAFは、長期間にわたって貯蔵され得、広い範囲の適用法(エアロゾル、液剤、散剤などとしての流通および貯蔵が挙げられる)を可能にする。
【0073】
いくつかの実施形態において、滅菌D-HAFは、約1℃~約10℃において長期貯蔵のために冷蔵される。さらなる実施形態において、滅菌D-HAFは、4℃において12ヶ月間までおよびこれより長く、冷蔵される。例えば、記載される方法に従って精製される羊水は、理想的には凍結/解凍の必要なく、長期貯蔵にわたって、構成成分分子の生物学的特性を保持する。
【0074】
好ましくは、長期貯蔵は、D-HAF中に存在する全可溶性タンパク質または因子の量を低下させない。いくつかの実施形態に関して、冷蔵状態での長期貯蔵後に保持される全可溶性タンパク質は、新鮮なD-HAFのうちの約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%である。
【0075】
ある期間の貯蔵後にD-HAF中で可溶性のままであるタンパク質量は、ビシンコニン酸(BCA)アッセイ、Bradfordアッセイ、Lowryアッセイ、および紫外線吸収(280nmにおいて)のような一般的なタンパク質定量法によって評価される。個々のタンパク質を定量するために、ハイスループット法(例えば、高密度スクリーニングアレイ(RayBiotech, Norcross GA))が使用される。
【0076】
さらに、貯蔵は、DHAFの羊水性因子のうちのいずれか1種またはこれより多くの生物学的活性を低下させないか、防止しないか、またはさもなければ変化させない。例えば、いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くの羊水性因子の生物学的活性は、長期間にわたる貯蔵の間を通して保持される。その貯蔵された生成物の羊水性増殖因子のうちのいずれか1種またはこれより多くの活性は、その新鮮な(未加工の)生成物のものと比較した、または貯蔵前のD-HAFと比較した%として評価され得る。従って、いくつかの実施形態において、1日まで、2日、3日、4日、5日、6日、1週間まで、2週間まで、3週間まで、4週間まで、1ヶ月まで、2ヶ月まで、3ヶ月まで、4ヶ月まで、5ヶ月まで、6ヶ月まで、または6ヶ月より長く、4℃において貯蔵したD-HAFを使用する場合に、その羊水性因子の生物学的活性における統計的に有意な変化は、ほとんどまたは全く観察されない。他の実施形態において、羊水中のタンパク質のうちのいずれか1種の活性は、脱細胞化プロセス前の非処理羊水に対して、50%、40%、30%、20%、10%、5%、または5%未満、低下する。
【0077】
いくつかの実施形態において、増殖因子のうちの1種またはこれより多くは、貯蔵後に減少する。例えば、このような増殖因子としては、FGF7、MMP-9、GCSF、MMP-7、MMP-13、TGF-β、FGF-4、EG-VEGFおよびIL-8が挙げられる。他の実施形態において、上記増殖因子のうちの1種またはこれより多くは、凍結/解凍後に減少する。例えば、このような増殖因子としては、FGF-21、ANG2、GDNF、FGF-19、TIMP-2、ANG-1、TGFβ1およびM-CSFが挙げられる。好ましい実施形態において、上記増殖因子のうちの1種またはこれより多くは、新鮮なD-HAFと比較して、これらの貯蔵条件での増強された安定性におそらく起因して、増大する。いくつかの例示的な増殖因子としては、VEGF-α、TNF-α、およびHGFが挙げられる。さらなる実施形態において、増殖因子(例えば、アンギオテンシノゲン、PDGF-AA、TGF-α、EGFおよびSCF)における変化は、変動しやすい。いくつかの実施形態において、上記増殖因子のうちの1種またはこれより多くは、新鮮なヒト羊水のものと比較して、貯蔵後に、約5%未満、10%、20%、30%、40%、50%減少する。従って、その新鮮な(未加工の)生成物のものと比較して、上記増殖因子のうちの1種またはこれより多くのうちの50%より多く、60%、70%、80%、90%、または90%より多くが、保持される。
【0078】
いくつかの実施形態において、炎症性マーカーは、1週間、2週間、3週間、または4週間にわたって、2~8℃での冷蔵後に減少する。例えば、冷蔵サンプル中に存在する炎症性タンパク質のうちの1種またはこれより多くの量は、その新鮮な(未加工の)生成物のものと比較して、約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%減少する。いくつかの例示的な炎症性マーカーとしては、エオタキシン-2、IL-6、CCL18、全GRO、CXCL5、6Ckine、およびMIP-3αが挙げられる。
【0079】
いくつかの実施形態において、炎症性タンパク質は、凍結後に減少する。例えば、凍結状態で約-20℃~約-80℃において貯蔵されたサンプル中に存在する炎症性タンパク質のうちの1種またはこれより多くの量は、その新鮮な(未加工の)生成物のものと比較して、約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%減少する。いくつかの例示的な炎症性マーカーとしては、IL-1α、CXCL9、MIP-1α、およびCCL5が挙げられる。
【0080】
他の実施形態において、炎症性マーカーは、冷蔵状態または凍結状態のいずれかにおいて長期貯蔵された後に増大する。いくつかの例示的な炎症性マーカーとしては、TNF-α、MIP-1β、およびMCP-2が挙げられる。
【0081】
好ましい実施形態において、抗炎症性分子は、1日またはこれより長い日数、週数または月数にわたって冷蔵または凍結して貯蔵された後に、有意に減少する。別の実施形態において、上記抗炎症性分子のうちの1種またはこれより多くは、ある期間の冷蔵後にD-HAFにおいて減少する。いくつかの例示的な抗炎症性分子としては、IL-8、IL-13、IL-27、CTLA-4、およびIL-21が挙げられる。別の実施形態において、上記抗炎症性分子のうちの1種またはこれより多くは、凍結状態で貯蔵されたD-HAFにおいて減少する。いくつかの例示的な抗炎症性分子としては、IL-1RaおよびTGFβ1が挙げられる。
【0082】
C.製剤
上記D-HAFは、主治医による使用のために貯蔵および流通され得る滅菌投与単位へとパッケージされ得る。これらの凍結乾燥または流体の製剤は、注射のための滅菌のパッケージされたシリンジ、滴剤ボトル(代表的には、眼に1日1回または2回適用するための30日間供給)、エアロゾル、またはクリーム剤もしくはローション剤のためのチューブもしくはジャーの形態にあり得る。注射剤のための投与量は、0.25cc/0.5ccおよび1.0ccである。その注射剤は、皮下に(「sc」)、筋肉内に(「im」)、または関節の中に投与され得る。その効能は、医師の評価、患者の自己評価、画像化研究およびクオリティーオブライフ評価によって決定される。
【0083】
滅菌羊水製剤は、濃縮形態で投与され得、滅菌水もしくは緩衝液で希釈され得、ゲル、軟膏剤もしくはローション剤、液剤、懸濁物またはエアロゾルとして製剤化され得る。それは、液剤、ゲル、軟膏剤もしくは懸濁物において、または粒子(ナノ粒子、リポソーム、微粒子)もしくは移植物としてのいずれかで、さらなる治療剤、予防剤または診断剤を含み得る。
【0084】
代表的な賦形剤としては、溶媒、希釈剤、pH改変剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁化剤、湿潤剤、粘性改変剤、張度剤(tonicity agent)、安定化剤、およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な薬学的に受容可能な賦形剤は、好ましくは、一般に安全と認められる(GRAS)物質から選択され、望ましくない生物学的副作用または不要な相互作用を引き起こすことなく、個体に投与され得る。D-HAFは、流体または固体(すなわち、散剤)として貯蔵のために製剤化され得る。好ましい実施形態において、DHAFは、液体としての貯蔵のために製剤化される(すなわち、凍結温度を上回る)。
【0085】
液剤、ゲル、軟膏剤および懸濁物
多くの製剤は、公知であり、利用可能である。液剤は、濃縮されるか、または水、緩衝化生理食塩水、もしくは等価物で希釈されるか、ポリサッカリド(例えば、アルギネートまたはヒアルロン酸)、ポロビニルピロール、もしくは軟膏剤(例えば、ワセリンまたは鉱油)でゲルへと形成されるか、あるいは脂質もしくは油で乳化される、滅菌濾過された羊水であり得る。エマルジョンは、一般に、水相の中の油性の液滴の分散物である。壊れているかまたは合体しているという証拠は存在するべきではない。懸濁物は、液体ビヒクル中に分散した固体粒子を含む;それらは、穏やかに振盪した場合に均質でなければならず、正確な用量が容器から除去されることを可能にするために十分分散したままでなければならない。沈渣が生じ得るが、これは、容器が振盪される場合に容易に分散するべきであり、分散した粒子のサイズは、制御されるべきである。活性成分および任意の他の懸濁された物質は、角膜への刺激および損傷を防止するために十分小さい粒度へと低下されなければならない。それらは、抗微生物剤、抗酸化剤、および安定化剤のような適切な添加剤を含み得る。
【0086】
上記溶液が24時間より長い期間にわたって使用されるべき複数用量容器中に分配される場合、使用期間にわたって生物学的安全性を担保するために保存剤が添加されなければならない。
【0087】
製剤は、DC-HAFの意図された使用に依存して調製されるべきであり、当業者に周知である。いくつかの実施形態において、眼用軟膏剤は、結膜または瞼への適用が意図された、無菌で均質な半固体調製物である。それらは、通常、非水性基剤(例えば、軟質パラフィン(ワセリン)、流動パラフィン、および羊毛脂)から調製される。それらは、適切な添加剤(例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、および安定化剤)を含み得る。
【0088】
例えば、眼用適用のために、製剤のpHは、涙液のもの(これは、7.4である)に理想的には等価であるべきである。しかし、緩衝化剤を添加する決定は、安定性の考慮事項に基づくべきである。選択されるpHは、活性な薬学的成分の安定性および生理学的耐性の両方に最適であるべきである。緩衝液系が使用される場合、それは、その活性成分の沈殿または劣化を引き起こしてはならない。涙液の流れに対する影響はまた、考慮に入れられるべきである。
【0089】
涙液と同じpH(7.4)を有する液剤は、理想的であるが、眼の外表面は、より大きな範囲、3.5~8.5に耐える。角膜損傷を防止する通常有用な範囲は、6.5~8.5である。その液剤の最終pHは、しばしば、折衷物である。なぜなら多くの眼用薬物は、7.4という所望のpHでは、制限された溶解度および安定性を有するからである。緩衝液またはpH調節剤またはビヒクルは、所望のレベルでpHを調節しかつ安定化するために添加され得る。眼用液剤は、この液剤が含む薬物の最大の安定性のpHにおいて通常は緩衝化される。緩衝液は、薬物の貯蔵寿命の間にpHのいかなる変化をも最小限にするように含まれる;これは、空気から吸収された二酸化炭素から、またはガラス容器に由来するヒドロキシルイオンから生じ得る。pHの変化は、薬物の溶解度および安定性に影響を及ぼし得る;結論として、pHの変動を最小限にすることは、重要である。緩衝液系は、上記眼用液剤が眼に点眼される場合に、涙液の緩衝液系が、その液剤のpHを涙液のpHへと迅速に戻すように、生成物の予測される貯蔵寿命の間中、pHを維持するために十分設計されているべきである(しかし低緩衝能で)。低濃度の緩衝塩が、低緩衝能の緩衝液を調節するために使用される。
【0090】
水性眼用滴剤の調製は、等張性、特定の緩衝能、所望のpH、抗微生物剤および/または抗酸化剤の添加、粘性増大薬剤の使用、ならびに適切なパッケージングの選択についての必要性の注意深い考慮を要する。眼用滴剤は、張度が塩化ナトリウムの0.9%溶液の張度に等しい場合に、等張性と見做される。眼は通常、0.5~1.8%の塩化ナトリウムに等価な溶液に耐え得る。
【0091】
涙液と等張性の液剤は、好ましい。0.9% NaClに等価な量は、快適さのためには理想的であり、可能である場合には使用されるべきである。眼は、0.6~2% NaClの等価な範囲内の張度に不快感なしに耐え得る。高張性眼用液剤が治療上必要な場合、または安定性が理由で必要とされる補助剤の添加が等張性の必要性に取って代わる場合もある。低張性眼用液剤は、適切な張度範囲を得るために、物質(張度調節剤)の添加を必要とする。
【0092】
最も広く使用される眼用緩衝溶液は、ホウ酸ビヒクルおよびSorensen改変リン酸緩衝液である。ホウ酸ビヒクルは、精製水または好ましくは滅菌水中のホウ酸の1.9%溶液である。それは、涙液と等張性である。それは、およそ5のpHを有し、酸性pHにおいて最も安定である薬物の眼用液剤を即座に配合する場合に有用である。このビヒクルは、大きな緩衝能を有しないが、配合溶液に使用される短い有効期間の間に、涙液中の天然の緩衝液を圧倒することなくpHを安定化させるには十分である。第2に最も一般に使用される緩衝溶液は、Sorensen改変リン酸緩衝液であり、6.5~8.0の範囲内のpH値を必要とする薬物に使用される。この緩衝液は、2種のストック溶液を使用し、一方は、NaHPOを含んで酸性であり、一方は、NaHPOを含んで塩基性である。ストック溶液の処方およびそれらそれぞれの割合が、特定のpH範囲を得るために使用される。
【0093】
場合によっては、その製剤は、液体形態で流通またはパッケージされる。あるいは、投与のための製剤は、固体として包装され得、例えば、適切な液体製剤の凍結乾燥によって得られ得る。その固体は、投与前に、適切なキャリアまたは希釈剤で再構成され得る。
【0094】
眼の投与のための液剤、懸濁物、またはエマルジョンは、眼への投与に適したpHを維持するために必要な有効量の緩衝液で緩衝化され得る。適切な緩衝液は、当業者によって周知であり、有用な緩衝液のいくつかの例は、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液およびリン酸緩衝液である。
【0095】
眼への投与のための液剤、懸濁物、またはエマルジョンはまた、製剤の等張性の範囲を調節するために1種またはこれより多くの張度剤を含み得る。適切な張度剤は、当該分野で周知であり、いくつかの例としては、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、および他の電解質が挙げられる。
【0096】
投与のための液剤、懸濁物、またはエマルジョンはまた、細菌汚染を防止するために1種またはこれより多くの保存剤を含み得る。適切な保存剤は、当該分野で公知であり、ポリヘキサメチレンビグアニジン(PHMB)、塩化ベンザルコニウム(BAK)、安定化されたオキシクロロ錯体(別名PURITE(登録商標))、酢酸フェニル水銀、クロロブタノール、ソルビン酸、クロルヘキシジン、ベンジルアルコール、パラベン、チメロサール、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0097】
投与のための液剤、懸濁物、またはエマルジョンはまた、当該分野で公知の1種またはこれより多くの賦形剤(例えば、分散剤、湿潤剤、および懸濁化剤)を含み得る。
【0098】
好ましい実施形態において、D-HAF製剤は、いかなる添加剤をも含まないが、滅菌形態でパッケージされる。
【0099】
羊水性因子を含むD-HAF製剤は、適切な容器の中に、4℃での貯蔵のために、または-20℃での、もしくは-80℃での貯蔵のために、透明な1部分液剤として供給され得る。例えば、事前に充填されたアリコートにある液体製剤は、1~5℃での貯蔵に、または-20℃での、もしくは-80℃での貯蔵に適切であり得る。液体製剤は、点眼、注射または局所適用に適切であり得る。他の実施形態において、流体は、必要とされるまで4℃において、-20℃において、または-80℃において貯蔵され得るキットとして供給され得る。好ましい実施形態において、D-HAF製剤は、6ヶ月もしくはこれ未満にわたって貯蔵される場合に、-20℃においてまたはこれ未満で貯蔵され、移植前に完全に解凍される。さらなる実施形態において、D-HAF製剤は、6ヶ月もしくはこれより長く貯蔵される場合に、-80℃においてまたはこれ未満で貯蔵される。
【0100】
さらなる治療剤、予防剤または診断剤
1種またはこれより多くの治療剤、予防剤または診断剤に加えて、上記製剤は、1種またはこれより多くのさらなる治療剤、診断剤、および/または予防剤を含み得る。活性薬剤は、低分子活性薬剤または生体分子(例えば、酵素もしくはタンパク質、ポリペプチド、または核酸)であり得る。適切な低分子活性薬剤は、有機化合物および有機金属化合物を含む。場合によっては、その低分子活性薬剤は、約2000g/mol未満、より好ましくは約1500g/mol未満、最も好ましくは約1200g/mol未満の分子量を有する。その低分子活性薬剤は、親水性、疎水性、または両親媒性の化合物であり得る。
【0101】
いくつかの場合には、1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤は、製剤中に被包され得るか、分散され得るか、または別の方法で粒子と会合され得る。ある種の実施形態において、1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤はまた、薬学的に受容可能なキャリア中に溶解または懸濁され得る。
【0102】
眼の疾患の処置のための薬学的組成物の場合に、その製剤は、眼の疾患または障害を処置、防止または診断するために1種またはこれより多くの眼用薬物を含み得る。眼用薬物の非限定的例としては、抗緑内障薬剤、抗血管新生薬剤、抗感染薬剤、抗炎症性薬剤、増殖因子、免疫抑制剤、抗アレルギー剤、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0103】
代表的な抗緑内障薬剤としては、プロスタグランジンアナログ(例えば、トラボプロスト、ビマトプロスト、およびラタノプロスト)、ベータ-アドレナリン作動性レセプターアンタゴニスト(たとえば、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、およびカルテオロール)、アルファ-2アドレナリン作動性レセプターアゴニスト(例えば、ブリモニジンおよびアプラクロニジン)、炭酸脱水酵素インヒビター(例えば、ブリンゾラミド、アセタゾラミド(acetazolamine)、およびドルゾラミド)、縮瞳薬(すなわち、副交感神経刺激薬(例えば、ピロカルピンおよびエコチオパート))、セロトニン作動薬(seretonergic)、ムスカリン作動薬、ドパミン作動性アゴニスト、およびアドレナリン作動性アゴニスト(例えば、アプラクロニジンおよびブリモニジン)が挙げられる。
【0104】
代表的な抗血管新生薬剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体(例えば、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびrhuFAb V2(ラニビズマブ、LUCENTIS(登録商標)))、および他の抗VEGF化合物(アフリベルセプト(EYLEA(登録商標)));MACUGEN(登録商標)(ペガプタニブナトリウム(pegaptanim sodium)、抗VEGFアプタマーまたはEYE001)(Eyetech Pharmaceuticals);色素上皮由来因子(PEDF);COX-2インヒビター(例えば、セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))およびロフェコキシブ(VIOXX(登録商標)));インターフェロンアルファ;インターロイキン-12(IL-12);サリドマイド(THALOMID(登録商標))およびこれらの誘導体(例えば、レナリドミド(REVLIMID(登録商標));スクアラミン;エンドスタチン;アンギオスタチン;リボザイムインヒビター(例えば、ANGIOZYME(登録商標)(Sirna
Therapeutics));多機能性抗血管新生薬剤(例えば、NEOVASTAT(登録商標)(AE-941)(Aeterna Laboratories, Quebec City, Canada));レセプターチロシンキナーゼ(RTK)インヒビター(例えば、スニチニブ(SUTENT(登録商標)));チロシンキナーゼインヒビター(例えば、ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))およびエルロチニブ(Tarceva(登録商標)));上皮増殖因子レセプターに対する抗体(例えば、パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))およびセツキシマブ(ERBITUX(登録商標)))、ならびに当該分野で公知の他の抗血管新生薬剤。
【0105】
抗感染薬剤としては、抗ウイルス剤、抗細菌剤、抗寄生生物薬剤、および抗真菌剤が挙げられる。代表的な抗ウイルス剤としては、ガンシクロビルおよびアシクロビルが挙げられる。代表的な抗生剤としては、以下が挙げられる:アミノグリコシド(例えば、ストレプトマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、およびトブラマイシン)、アンサマイシン(たとえば、ゲルダナマイシンおよびハービマイシン)、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、糖ペプチド(例えば、バンコマイシン、テイコプラニン、およびテラバンシン)、リンコサミド、リポペプチド(例えば、ダプトマイシン)、マクロライド(例えば、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、およびエリスロマイシン)、モノバクタム、ニトロフラン、ペニシリン、ポリペプチド(例えば、バシトラシン、コリスチンおよびポリミキシンB)、キノロン、スルホンアミド、およびテトラサイクリン。
【0106】
いくつかの場合には、活性薬剤は、抗アレルギー薬剤(例えば、オロパタジンおよびエピナスチン)である。
【0107】
抗炎症性薬剤は、非ステロイド系およびステロイド系両方の抗炎症性薬剤を含む。適切なステロイド系活性薬剤としては、グルココルチコイド、プロゲスチン、ミネラルコルチコイド、およびコルチコステロイドが挙げられる。
【0108】
眼用薬物は、その中性の形態で、または薬学的に受容可能な塩の形態で存在し得る。いくつかの場合には、活性薬剤の塩を含む製剤を調製することは、その塩の有利な物理的特性(例えば、増強された安定性または望ましい溶解度もしくは溶解プロフィール)のうちの1またはこれより多くに起因して、望ましいことであり得る。
【0109】
一般に、薬学的に受容可能な塩は、活性薬剤の遊離酸形態または遊離塩基形態と水もしくは有機溶媒中の、またはその2種の混合物中の化学量論的量の適切な塩基または酸との反応によって調製され得る;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。薬学的に受容可能な塩は、無機酸、有機酸、アルカリ金属塩、およびアルカリ土類金属塩から得られる活性薬剤の塩、ならびに薬物と適切な有機リガンドとの反応によって形成される塩(例えば、四級アンモニウム塩)が挙げられる。適切な塩のリストは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第20版, Lippincott
Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2000, p. 704に見出される。薬学的に受容可能な塩の形態でときおり投与される眼用薬物の例としては、チモロールマレイン酸塩、ブリモニジン酒石酸塩、およびジクロフェナクナトリウムが挙げられる。
【0110】
いくつかの場合には、上記活性薬剤は、眼を画像化するかまたは別の方法で評価する診断剤である。例示的な診断剤としては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、および放射性核種、x線画像化剤、および造影剤が挙げられる。
【0111】
ある種の実施形態において、薬学的組成物は、1種またはこれより多くの局所麻酔薬を含む。代表的な局所麻酔薬としては、テトラカイン、リドカイン、アメソカイン(amethocaine)、プロパラカイン、リグノカイン、およびブピバカインが挙げられる。いくつかの場合には、1種またはこれより多くのさらなる薬剤(例えば、ヒアルロニダーゼ酵素)はまた、その局所麻酔薬の分散を加速および改善するために、製剤に添加される。
【0112】
ポリマーマトリクス中に分散される1種またはこれより多くの治療剤、予防剤または診断剤を含む粒子および移植物
ポリマーマトリクス中に分散または被包された1種またはこれより多くの治療剤、予防剤または診断剤を含む粒子がまた、形成され得る。上記マトリクスは、非生分解性または生分解性のマトリクスから形成され得るが、生分解性マトリクスが好ましい。ポリマーは、インビトロ安定性に必要とされる時間、すなわち、送達が所望される部位への分布に必要とされる時間、および送達に望ましい時間に基づいて選択される。
【0113】
代表的な合成ポリマーは、以下である:ポリ(ヒドロキシ酸)(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびポリ(乳酸-co-グリコール酸))、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン)、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリ(エチレングリコール)(ポリ(エチレンオキシド)ともいわれる)、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド(例えば、ポリ(ビニルクロリド))、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリスチレン、ポリウレタンおよびこれらのコポリマー、セルロース(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシエチルセルロース、セルローストリアセテート、およびセルローススルフェートナトリウム塩(本明細書中でまとめて「合成セルロース」といわれる)、アクリル酸、メタクリル酸のポリマー、またはこれらのコポリマーもしくは誘導体(エステルを含む)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(オクタデシルアクリレート)(本明細書中でまとめて「ポリアクリル酸」といわれる)、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、およびポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、これらのコポリマーおよびブレンド。本明細書で使用される場合、「誘導体(derivative)」とは、化学基の置換、付加(例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化、および当業者によって慣用的に行われる他の改変)を有するポリマーを含む。
【0114】
好ましい生分解性ポリマーの例としては、以下が挙げられる:ヒドロキシ酸(例えば、乳酸およびグリコール酸)のポリマー、およびPEGとのコポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、これらのブレンドおよびコポリマー。
【0115】
上記マトリクスのインビボ安定性は、ポリエチレングリコール(PEG)とコポリマー化したポリラクチド-co-グリコリドのようなポリマーを使用することによって、生成の間に調節され得る。PEGは、外表面に曝される場合、親水性であるので、これらの物質が循環する時間を長くし得る。
【0116】
10nm~1000ミクロンの間の平均粒度を有する粒子は、本明細書で記載される組成物において有用である。好ましい実施形態において、上記粒子は、10nm~100ミクロン、より好ましくは約100nm~約50ミクロン、より好ましくは約200nm~約50ミクロンの間の平均粒度を有する。ある種の実施形態において、上記粒子は、500~700nmの間の直径を有するナノ粒子である。上記粒子は、任意の形状を有し得るが、形状が概して球状である。
【0117】
微粒子およびナノ粒子は、当該分野で公知のポリマー微粒子またはナノ粒子の形成のための任意の適切な方法を使用して形成され得る。粒子形成のために使用される方法は、種々の要因(ポリマー-薬物結合体またはポリマーマトリクス中に存在するポリマーの特徴、ならびに所望の粒度およびサイズ分布が挙げられる)に依存する。粒子の中に組み込まれる治療剤、予防剤または診断剤のタイプはまた、いくつかの治療剤、予防剤または診断剤がある種の溶媒の存在下で、ある種の温度範囲および/またはある種のpH範囲においては不安定であるので、1つの要因であり得る。
【0118】
粒子の単分散性集団が望ましい状況では、上記粒子は、ナノ粒子の単分散性集団を生じる方法を使用して形成され得る。あるいは、多分散性ナノ粒子分布を生じる方法が、使用され得、上記粒子は、粒子形成後に当該分野で公知の方法(例えば、ふるい分け(sieving))を使用して分離されて、所望の平均粒度および粒度分布を有する粒子の集団を提供し得る。
【0119】
微粒子およびナノ粒子を調製するための一般的技術としては、溶媒エバポレーション、ホットメルト粒子形成、溶媒除去、噴霧乾燥、相反転、コアセルベーション、および低温キャスティングが挙げられるが、これらに限定されない。粒子製剤化の適切な方法は、以下に簡潔に記載される。薬学的に受容可能な賦形剤(pH改変剤、崩壊剤、保存剤、および抗酸化剤が挙げられる)は、粒子形成の間に、粒子へと必要に応じて組みこまれ得る。
【0120】
移植物は、1種またはこれより多くのポリマーから形成され得る。好ましい実施形態において、上記移植物は、眼内移植物である。適切な移植物としては、ロッド、ディスク、ウェハなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
移植物はまた、その中に分散または被包された1種またはこれより多くの治療剤、予防剤または診断剤を有するポリマーマトリクスから形成され得る。上記マトリクスは、上記の非生分解性または生分解性のポリマーのうちのいずれかから形成され得るが、生分解性ポリマーが好ましい。ポリマーマトリクスの組成は、インビトロ安定性に必要とされる時間、すなわち、送達が所望される部位への分布に必要とされる時間、および送達に所望される時間に基づいて選択される。
【0122】
移植物は、任意の幾何形状(例えば、繊維、シート、フィルム、マイクロスフェア、スフェア、円形ディスク、ロッド、または小板(plaque))のものであり得る。移植物サイズは、移植物に対する寛容性(toleration)、移植物の位置、移植物挿入の提唱される方法に鑑みたサイズ制限、取り扱いの容易さなどのような要因によって決定される。
【0123】
シートまたはフィルムが使用される場合、そのシートまたはフィルムは、少なくとも約0.5mm×0.5mm、通常は約3~10mm×5~10mmの範囲にあり、厚みは、取り扱いの容易さのために約0.1~1.0mmである。繊維が使用される場合、その繊維直径は、一般に、約0.05~3mmの範囲にあり、その繊維の長さは、一般に、約0.5~10mmの範囲にある。
【0124】
移植物のサイズおよび形状は、放出速度、処置期間、および移植部位での薬物濃度を制御するために使用され得る。より大きな移植物は、比例してより大きな用量を送達するが、表面 対 質量比に依存して、よりゆっくりとした放出速度を有し得る。移植物の特定のサイズおよび幾何形状は、移植部位に合うように選択される。
【0125】
眼内移植物は、形状が球状または非球状であり得る。球状移植物の場合、その移植物は、針での投与のために約5μm~約2mmの間、または約10μm~約1mmの間、手術による移植によって投与するために1mmより大きい、または2mmより大きい(例えば、3mmまたは10mmまで)の最大寸法(例えば、直径)を有し得る。移植物が非球状である場合、その移植物は、針での投与のために約5μm~約2mm、または約10μm~約1mmの間の、手術による移植によって投与するために1mmより大きい、または2mmより大きい(例えば、3mmまたは10mmまで)の最大寸法または最小寸法を有し得る。
【0126】
ヒトの硝子体腔は、例えば、1~10mmの長さを有する種々の幾何形状の比較的大きな移植物を収容し得る。その移植物は、約2mm×0.75mm直径の寸法を有する円筒形のペレット(例えば、ロッド)であり得る。その移植物は、約7mm~約10mmの長さ、および約0.75mm~約1.5mmの直径を有する円筒形のペレットであり得る。ある種の実施形態において、その移植物は、約0.5mmの直径、約6mmの長さおよびおよそ1mgの重量を有する押し出しフィラメントの形態にある。いくつかの実施形態において、その寸法は、針を介する眼内注射に関して既に承認された移植物:460ミクロンの直径と6mmの長さおよび370ミクロンの直径と3.5mmの長さであるかまたはそれに類似している。
【0127】
眼内移植物はまた、眼(例えば、硝子体)における移植物の挿入、およびその後その移植物の収容の両方を促進するために、少なくとも幾分可撓性であるように設計され得る。その移植物の総重量は、通常、約250~5000μg、より好ましくは約500~1000μgである。ある種の実施形態において、上記眼内移植物は、約500μg、750μg、または1000μgの質量を有する。
【0128】
移植物は、当該分野で公知の任意の適切な技術を使用して製造され得る。移植物の調製のための適切な技術の例としては、溶媒エバポレーション法、相分離法、界面法、成形法、射出成形法、押出法、共押出法、カーバープレス法(carver press method)、ダイカット法、加熱圧縮、およびこれらの組み合わせが挙げられる。移植物の製造のための適切な方法は、多くの要因(移植物中に存在するポリマー/ポリマーセグメントの特性、移植物中に存在する1種またはこれより多くの治療剤、予防剤または診断剤の特性、ならびに移植物の所望の形状およびサイズが挙げられる)に鑑みて選択され得る。移植物の調製のための適切な方法は、例えば、米国特許第4,997,652号および米国特許出願公開US 2010/0124565に記載される。
【0129】
ある種の場合において、押出法は、移植物製造の間に溶媒の必要性を回避するために使用され得る。押出法を使用する場合、上記ポリマー/ポリマーセグメントおよび治療剤、予防剤または診断剤は、製造に必要とされる温度、通常は、少なくとも約85℃において安定であるように選択される。しかし、ポリマー構成成分および1種またはこれより多くの治療剤、予防剤または診断剤の性質に依存して、押出法は、約25℃~約150℃、より好ましくは約65℃~約130℃の温度を使用し得る。
【0130】
移植物は、移植物の表面の全てまたは一部を覆うコーティングを提供するために、共押し出しされ得る。このようなコーティングは、侵食性であっても非侵食性であってもよいし、治療剤、予防剤もしくは診断剤、水、またはこれらの組み合わせに対して非透過性であっても、半透性であっても、透過性であってもよい。このようなコーティングは、移植物からの上記治療剤、予防剤または診断剤の放出をさらに制御するために使用され得る。
【0131】
圧縮法は、移植物を作製するために使用され得る。圧縮法は頻繁に、押出法より迅速な放出速度を有する移植物を生じる。圧縮法は、約50~150psi、より好ましくは約70~80psi、さらにより好ましくは約76psiの圧力を使用し得、約0℃~約115℃、より好ましくは約25℃の温度を使用し得る。
【0132】
III.投与方法
A.処置されるべき障害および疾患
上記D-HAFは、増殖因子の濃度、ならびに低い毒性および炎症に基づく種々の使用を有する。その製剤は、疼痛、炎症、組織傷害または変性を軽減することが意図される。一実施形態において、上記製剤は、皺、薄い皮膚、または不十分な治癒を伴う領域へと注射される。別の実施形態において、上記製剤は、加齢または長期のコンタクトレンズの使用に起因するドライアイを処置するために眼へと直接投与される。別の実施形態において、上記製剤は、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)の1またはこれより多くの症状を軽減するためにエアロゾルとして投与される。別の好ましい実施形態において、D-HAFは、疼痛を軽減するかまたは治癒を増強するために、関節の中へと投与される。
【0133】
処置されるべき眼の障害
本明細書で開示される組成物および方法に従って処置され得る眼の障害の例としては、加齢に起因する障害、外傷または感染からの損傷、自己免疫疾患および手術(例えば、白内障手術)が挙げられる。これらとしては、角膜炎、結膜炎、角膜ジストロフィー疾患(corneal dystrophic disease)、フックス内皮ジストロフィー、シェーグレン症候群に起因するドライアイ、スティーブンジョンソン症候群、および他の自己免疫ドライアイ疾患、ならびに環境的ドライアイ疾患、角膜血管新生疾患、角膜移植後拒絶の予防および処置、いくつかのタイプのぶどう膜炎、浮腫、変性、網膜症が挙げられる。処置され得る他の障害としては、角膜の傷害、熱傷、または上皮剥離、白内障および長期のコンタクレンズの使用が挙げられる。
【0134】
症例研究は、軽度から中程度および重度のドライアイ症候群、緑内障、シェーグレン症候群、考えられる強直性脊椎炎および加齢性の視力低下を有する患者に関して即座の肯定的な疾患改変を示した。D-HAFの粘性に起因して、眼に直接適用される滴剤は、一般的な処方箋なしで買える(「OTC」)人工涙液製剤より長く眼の表面に付着する。眼の表面に付着する能力は、傷害および疾患(例えば、シェーグレン症候群および化学熱傷)を処置する場合に最も重要である。研究において報告されたいくつかに予測外の結果は、数名の患者において低下した視覚の明瞭性に対する知覚可能な改善であった。種々のレベルの眼の不快感または疼痛からの軽減が観察された。9名の患者に、D-HAF治療の最初の30日間の研究の開始および終了時に、スネレン視力検査表試験を施した。9名のうちの5名は、視力の強化を示し、視覚の明瞭性、距離および読字能力の改善を一貫して伝えた。その試験表での1列~数列の改善が記録された。わずか2名の患者が検出不能な改善レベルで試験された。視力は、レシピエントの角膜完全性のレベルに相関するようであった。これは、D-HAF治療および処置からの別の予測外の利益であった。他の予測外の利益は、数年で初めて夜間に読書することができ、車を運転するために必要とされる視力を再度獲得できた。大部分の参加者は、人工涙液(「AT」)滴剤および・または代わりの治療法のさらなる適用を中止するか、またはその使用の量および頻度を大きく低下させることができた。軽度のドライアイと診断された1名の参加者は、最初の30日間の治験の最後に疾患の徴候を全く示さなかった。
【0135】
処置されるべき関節障害
多くの関節状態が処置され得る(疼痛、関節炎、変性、軟骨の摩耗または断裂(tear)、および損傷した関節(例えば、骨折)が挙げられる)。製剤はまた、治癒および修復を促進する、および炎症を低下させるために、補綴移植物、ピン、ネジまたはプレートが骨へと取り付けられるかまたは中へと移植されたその骨へと投与され得る。注射は、リサーフェシング(resurfacing)および軟骨の修復または再生を補助するために投与され得る。製剤はまた、軟組織修復を補助するために投与され得る(例えば、断裂または引っ張られた靱帯または腱の修復)。
【0136】
一実施形態において、製剤は、傷害部位に投与される。別の実施形態において、製剤は、移植物または補綴物上に噴霧されるか、その中へと浸漬されるか、または散剤が分散される。これは、マトリクス、移植物および縫合糸を含み得る。
【0137】
肺疾患の処置
製剤は、線維症または瘢痕化と関連するいくつかの障害の処置のために投与され得る。製剤は、慢性閉塞性肺障害(COPD)、喘息、肺気腫、気管支拡張症、慢性気管支炎、間質性肺疾患、アルファ-1アンチトリプシン肺気腫(arpha-1 antitrypsin emphysema)、およびこれらの組み合わせの1またはこれより多くの症状を処置および/または軽減するにあたって有効である。製剤はまた、化学刺激物質、窒息剤、熱傷、煙、化学兵器、暴徒鎮圧薬剤(riot control agent)、毒性金属、爆風損傷、またはこれらの組み合わせへの曝露によって引き起こされる急性吸入傷害の処置のために使用され得る。一実施形態において、製剤は、軍の熱傷犠牲者である軍人の1またはこれより多くの症状(軽度労作時の息切れ、粘液分泌過多、長期および過剰な咳、胸のうっ滞(chest congestion)、喘鳴、および完全な呼吸をするにあたっての困難が挙げられる)を処置および/または軽減するにあたって有効である。軍人は、狭窄性細気管支炎と診断され得る。
【0138】
いくつかの実施形態において、上記製剤は、FEV1(一秒間の努力呼気量(forced expiratory volume-one second))スコア、PEF(最大呼気流量)スコア、運動持続時間、および/またはCCQ(臨床COPD質問票)スコアにおける増大を生じる。一般に、運動耐性の改善は、最初の処置後の数日、数週間、または数ヶ月内に観察され、運動持続時間は、10%まで、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%、500%または500%より大きく延びる。運動持続時間は、運動の持続時間、および/または歩行距離によって測定され得る。FEV1スコアおよび/またはPEVスコアにおける増大は、約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%であるか、または100%より大きい。
【0139】
好ましい実施形態において、D-HAF製剤は、各処置から1週間空けて、1回、2回、3回、または3回より多く投与される。投与の正確な投与量は、状態の重症度に依存し、FEV1、PEFスコア、および彼らの運動耐性、罹患した領域における炎症の低下、および/または彼らのベースライン酸素飽和度のような臨床スコアに基づいて、主治医によって決定される。
【0140】
一実施形態において、製剤は、慢性閉塞性肺障害の処置のためにエアロゾルまたはネブライザを介して適用される。
【0141】
臨床試験プロトコルは、臨床上の効能を示すように設計された。用量範囲研究は、0.5ml/3ml、1.0ml/3mlまたは5ml/3ml 噴霧溶液を投与する工程を包含する。
【0142】
B.投与量および投与レジメン
投与量および投与レジメンは、製剤の意図される使用に依存し、当業者に公知である。
【0143】
いくつかの実施形態において、凍結乾燥したD-HAFは、最初の容積の水を添加することによって再構成される。他の実施形態において、製剤は、再構成されたD-HAFの約1%~約99%へとさらに希釈される。冷蔵された製剤は、適用のための所望の濃度へと元のD-HAFの約1%~約99%へと容易に希釈される。他の実施形態において、最終製剤は、適用の必要性および経路に依存して、遙かに濃縮された液剤として調製される。一実施形態において、その凍結乾燥D-HAFは、最初の容積の半分の水を添加することによって再構成され、全ての羊水性因子の2倍濃縮溶液を達成する。さらなる実施形態において凍結乾燥D-HAFは、最初の容積の10%の水を添加することによって再構成され、適用のために羊水性因子の10倍濃縮溶液を達成する。いくつかの実施形態において、冷蔵D-HAFは、より濃縮された溶液を得るために、凍結乾燥D-HAFを再構成するために使用され得る。
【0144】
眼への徐放性または放出制御製剤、軟膏剤、移植物または注射の場合には、その投与量は、治療上等価な量を送達するために改変される。
【0145】
眼の障害の処置のための投与量および投与
いくつかの実施形態において、ヒト羊水製剤およびその使用法は、眼への局所適用のために開発された。その方法は、一般的な液体点眼剤、潤滑剤またはゲルのような、眼へと直接適用される、特異的に製剤化された希釈滅菌脱細胞化ヒト羊水(好ましくは液体眼用液剤として)の管理を含む。眼の表面へと送達される製剤は、 多くの眼の傷害および疾患(慢性ドライアイ疾患に加えて、シェーグレン症候群、および熱傷もしくは傷害、角膜新生血管障害、角膜の混濁(角膜の濁りを含む)、眼の長期の発赤および炎症が挙げられる)の少なくとも1つの症状を軽減または防止し得る。
【0146】
D-HAFを試験したところ、幹細胞の増殖を刺激し得る300種を超えるヒト増殖因子を含むことが示され、それによって、治癒を促進し、疾患の進行の改変に寄与した。D-HAFの粘性に起因して、眼に直接適用される滴剤は、一般のOTC人工涙液製剤より長く眼の表面に付着する。眼の表面に付着する能力は、シェーグレン症候群および化学熱傷のような傷害および疾患を処置する場合に特に重要である。
【0147】
ヒト羊膜処置とは異なり、好ましい実施形態において、D-HAFは、患者による家庭内での使用のために有資格の眼科専門家によって提供される1日に1回または1日に2回の適用である。眼の状態が改善するにつれて、経時的に投与量および/または投与頻度を減少させることが可能であり得ることは、理解されるべきである。例えば、最初は毎日投与されるが、維持用量として2日に1回、1週間あたり2回、1週間に1回、2週間に1回またはさらに1ヶ月に1回へと頻度が低下し得る。従って、手術をしない眼科医(nonsurgical ophthalmologist)および検眼士は、治療を分与および監督し得、患者により多くの選択肢および処置へのアクセスを与える。さらに、HAMの手術適用とは異なり、D-HAFの毎日の適用は、有益な増殖因子の持続可能なレベルを送達する。さらに、D-HAFは、処理の間にはるかに少ない操作しか必要とせず、HAMに必要とされる過酷な最終照射またはeビームなしに、滅菌される。
【0148】
濃度および投与量(ある期間にわたる製剤量の1日あたりの回数)は、処置されるべき状態、その状態の重症度、および他の治療剤、予防剤または診断剤の包含に依存して変動する。適切な量は、実施例の中で示されるように、個体に基づき、経時的な処置への応答を測定して決定される。
【0149】
D-HAFの希釈率は、障害または傷害の重症度に依存する;例えば、初期から中程度のドライアイまたは慢性発赤、表面の炎症、および眼内の炎症は、低濃度で最もよく処置され得るのに対して、シェーグレン症候群、重度のドライアイ、角膜新生血管障害、または角膜混濁は、より高い濃度のD-HAFを要求し得る。
【0150】
関節の処置のための投与量および投与
類似の考慮事項は、関節の傷害の処置にもあてはまり、ここで変数としては、例えば、関節のサイズ、処置されるべき傷害の重症度、目的が挙げられ、加齢性の損傷の処置のためにより長期の低い投与量と比較して、手術後の治癒を増強するには、より短期間のより高い用量を必要とし得る。
【0151】
標準プロトコルは、適応症および傷害または炎症の重症度に依存して、1日に1回、2日に1回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回、またはより長い間隔で行われ得る、一連の3回の注射である。投与頻度または投与量は、経時的に減少し得る。
【0152】
いくつかの実施形態において、製剤は、有痛性の関節のような罹患領域への注射のために調製される。好ましい実施形態において、より大きな股関節および肩関節は、1.9ccのPDAヒト羊水を得、より小さな関節は、0.5ccを得、指および足は、0.25ccを得る。
【0153】
上記製剤と関連することが公知の毒性は存在しないので、低頻度でしか注射できないステロイド(代表的には1年に2~3回)とは異なり、医師が選択するのと同程度に頻繁に注射され得る。
【0154】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照することによってさらに理解される。
【実施例0155】
実施例1:ヒト羊水製剤の調製
材料および方法
ヒト羊水を、できるかぎりきれいな条件において羊水の吸引を行う選択された帝王切開から収集する。次いで、羊水を、清澄化および濾過プロセスの前に、2℃~6℃において冷蔵状態で貯蔵する。羊水を、5,000~10,000rpmにおいて30分~1時間にわたって、50mL~250mLのスイング型バスケット(swing out bucket)で遠心分離する。その上清を集める。その上清を収集する場合、ペレットまたは脂肪の被覆層(fatty overlayer)におそらく由来する不溶性の構成成分が離れるまたは吸引することを回避することは、重要である。その上清がなお残余の不溶性構成成分を含む場合、それをTRITON(登録商標)界面活性剤なしで5~10μセルロースエステルカプセルプレフィルタで予備濾過して、濾過プロセスにおける汚染を回避し得る。その液相を収集し、ポリエーテルスルホン1.0μカプセルフィルタで濾過し、液体を収集する。次いで、液体を、ポリエーテルスルホン0.2μカプセルフィルタで濾過する。その濾液をバイアルに移し、ストッパーで無菌的にシールする。最終濾液からの4種のサンプルを採取して、滅菌濾過ヒト羊水が増殖因子(例えば、ヒト成長ホルモン、トランスフォーミング増殖因子ベータ1、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子ベータ3)を保持するか否かを試験する。
【0156】
結果
その結果は、増殖因子の保持を示す。滅菌濾過羊水中の増殖因子の濃度は、約30pg/mL~約2500pg/mLである。サンプル2中の血管内皮増殖因子を除いて、上記4種のサンプル中の全ての因子の濃度は、30~150pg/mLの範囲にある。増殖分化因子11の一部は、遠心分離および濾過で失われるが、最終滅菌濾過羊水は、非処理ヒト羊水からの増殖分化因子のうちの約17%~29%をなお保持する。
【0157】
実施例2:滅菌濾過羊水の長期貯蔵
材料および方法
貯蔵のためのアリコートの調製
実施例1に従って調製した滅菌D-HAFを、タンパク質アレイ分析の前に2週間にわたり、-85℃で凍結するかまたは2~8℃において冷蔵した。いかなる遠心分離工程も濾過工程もなしに女性から直接採取した非処理羊水を、コントロールとして使用した。
【0158】
タンパク質アレイ分析
個々のタンパク質を定量するために、高密度スクリーニングアレイ(RayBiotech, Norcross GA)を使用した。
【0159】
結果
非処理羊水としてのD-HAF、すなわち、新鮮に収集しかつ滅菌濾過した羊水を、-85℃または2~8℃のいずれかにおいて貯蔵したD-HAFに対して分析した。-85℃サンプルおよび2~8℃サンプル中に残っているタンパク質の総量は、それぞれ、非処理羊水のうちの約82.3%および89.8%であった(図1)。
【0160】
タンパク質アレイを使用して比較した場合、上記非処理羊水は、最も変化が少なく、タンパク質標的の大部分が最も濃縮された(図2)。階層的クラスター分析は、2~8℃で貯蔵したサンプルが、非処理羊水に最も近いことを明らかにした。冷蔵(すなわち、2~8℃で貯蔵)は、非処理羊水と同じかまたはより高いレベルでタンパク質の大部分を保持した。-85℃で貯蔵したサンプルは、3群の中で最も異なっていたが、標的のうちのさらに50%超が、非処理羊水サンプルに類似しているかまたはより高いレベルで残った。
【0161】
具体的には、いくつかのクラスのタンパク質標的を、種々の貯蔵法の実現可能性を評価するために試験した。これらのタンパク質は、羊水性因子、炎症性タンパク質および抗炎症性タンパク質を含む。
【0162】
3群において変化した注目に値する羊水性増殖因子の中で、VEGF-α、TNF-αおよびHGFは、非処理羊水中で比較的減少した。冷蔵サンプルにおいて比較的減少したいくつかの羊水性増殖因子としては、FGF7、MMP-9、GCSF、MMP-7、MMP-13、TGF-β、FGF-4、EG-VEGFおよびIL-8が挙げられる。-85℃サンプルにおいて減少した注目に値する羊水性増殖因子としては、FGF-21、ANG2、GDNF、FGF-19、TIMP-2、ANG-1、TGFβ1およびM-CSFが挙げられる。3群の中で注記された他の変動しやすい変化は、アンギオテンシノゲン、PDGF-AA、TGF-α、EGFおよびSCFであった。
【0163】
2~8℃群において観察される最も劇的な減少は、多くの炎症性因子に伴うものであり、このような標的としては、冷蔵後に有意に減少しているエオタキシン-2、IL-6、PARC/CCL18、全GRO、ENA-78/CXCL-5、6CkineおよびMIP-3αが挙げられる。より少ない種類の炎症性因子が、-85℃サンプルにおいて減少し、それらとしては、MIG/CXCL-9、MIP-1α、RANTES/CCL-5およびIL-1αが挙げられる。非処理羊水中で減少した注目に値する炎症性因子としては、MIP-1β、TNFαおよびMCP-2が挙げられる。これらのサンプルのうちのいずれでも検出しなかったいくつかの炎症性因子としては、IFN-γ、IL-1βおよびIL-12p40が挙げられる。
【0164】
一般的な抗炎症性マーカーの変化は、全群にわたってかなり等しく拡がった。IL-8およびIL-13は、2~8℃サンプルにおいて減少した一方で、それらは、非処理羊水中で僅かに上昇した。CTLA-4は、冷蔵サンプル中に有意に減少した。IL-27およびCTLA-4は、他の2群と比較して、冷蔵サンプル中で両方とも減少した。VEGF-Dは、冷蔵サンプル中で上昇した。IL-1RaおよびTGFβ1は、-85℃群において減少した。IL-5、IL-21、およびVEGF-Dは、非処理羊水中で全て減少した。IL-10、IL-13、VEGFαは、検出限界を下回った。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
【外国語明細書】