(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126600
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具の摩擦体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/44 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
B29C45/44
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118001
(22)【出願日】2023-07-20
(62)【分割の表示】P 2018236971の分割
【原出願日】2018-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大川 彰一
(57)【要約】
【課題】 樹脂成形品とエジェクタ部材とが互いに付着して分離しないという問題を解消する筆記具の部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 樹脂成形品の一方側を金型の一方空洞から抜き出す一方側抜き出し工程と、エジェクタ部材を移動させることによって樹脂成形品の他方側を金型の他方空洞から抜き出す他方側抜き出し工程と、を備える。樹脂成形品の他方側の輪郭上には、他方空洞の一部に対してより他方側の位置に、他方空洞の前記一部とエジェクタの移動方向において干渉する係止部が設けられている。係止部は、エジェクタの移動方向に見て、他方空洞の前記一部の輪郭からはみ出している。他方側抜き出し工程は、係止部を弾性変形させて潰れた形状としながら他方空洞内を通過させる工程を含んでいる。係止部が他方空洞から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、樹脂成型品とエジェクタ部材とが分離する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品を製造するために、
前記樹脂成形品の一方側の輪郭に対応する一方空洞を有する一方側キャビティと、
前記樹脂成形品の他方側の一部に設けられた被押圧部の形状に対応する先端形状を有するエジェクタ部材と、
前記一方側キャビティの前記一方空洞に隣接すると共に前記樹脂成形品の他方側の前記被押圧部を除いた輪郭に対応する他方空洞を有する他方側キャビティと、
を用いて、
前記一方側キャビティの前記一方空洞と、前記他方側キャビティの前記他方空洞と、前記エジェクタ部材の前記先端形状と、によって区画される成形空間内に樹脂材料を射出して前記樹脂成形品を成形する工程と、
前記一方側キャビティと前記他方側キャビティとを互いから離隔して、前記一方空洞と前記他方空洞とを互いから離隔することによって、前記樹脂成形品の一方側を前記一方空洞から抜き出す一方側抜き出し工程と、
前記他方側キャビティに対して前記エジェクタ部材を一方側に移動させて前記樹脂成形品の前記被押圧部を一方側に押圧することによって、前記樹脂成形品の他方側を前記他方空洞から抜き出す他方側抜き出し工程と、
を備えた樹脂成形品の製造方法であって、
前記樹脂成形品の他方側の輪郭上には、前記他方側キャビティの前記他方空洞の一部に対してより他方側の位置に、前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部と前記エジェクタの移動方向において干渉する係止部が設けられており、
前記係止部は、前記エジェクタの移動方向に見て、前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部の輪郭からはみ出しており、
前記他方側抜き出し工程は、前記係止部を弾性変形させて潰れた形状としながら前記他方側キャビティの前記他方空洞内を通過させる工程を含んでいる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記他方側抜き出し工程は、前記係止部が前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、前記樹脂成型品と前記エジェクタ部材とを分離させる工程を含んでいる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記他方側抜き出し工程の後に、前記他方側キャビティに対して前記エジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を更に備え、
前記エジェクタ戻し工程は、元の形状に復帰した前記係止部によって前記樹脂成形品が前記他方空洞内に戻ることが妨げられることによって、前記樹脂成型品と前記エジェクタ部材とを分離させる工程を含んでいる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記係止部は、ドーム状である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部は、内方側へ突出する突部であり、
前記係止部は、前記突部によって形成される凹部に隣接する部分からなる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記被押圧部は、複数の被押圧要素を有していて、
前記エジェクタ部材は、各々が対応する被押圧要素の形状に対応する先端形状を有する複数のエジェクタ要素を有する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂成形品は、熱変色性筆記具の摩擦体である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
筆記体と、
前記筆記体を収容する筒部と、
前記筒部に保持された樹脂製の摩擦体と、
を備え、
前記筆記体は、少なくともペン先と、前記ペン先が固着されたインク収容管と、前記インク収容管に充填される熱変色性インクと、からなり、
前記摩擦体の側面に、ドーム状の隆起部が設けられている
ことを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項9】
筆記体と、
前記筆記体を収容する筒部と、
前記筒部に保持された樹脂製の摩擦体と、
を備え、
前記筆記体は、少なくともペン先と、前記ペン先が固着されたインク収容管と、前記インク収容管に充填される熱変色性インクと、からなり、
前記摩擦体の側面に、軸方向に延びる溝が設けられており、
前記溝の断面は、少なくとも片側が傾斜または湾曲している
ことを特徴とする熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性筆記具の摩擦体の製造方法に関する。広くは、樹脂成形品の製造方法に関する。また、当該製造方法によって製造された部品を含む筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
ペン先とインクとインク収容管とを備えた筆記具として、従来より様々なタイプの構成を有する商品が開発され販売されている。
【0003】
近年では、筆記後の筆跡を摩擦体によって擦過することによって消色させることが可能な熱変色性インクを用いる熱変色性筆記具が、非常に好調な売れ行きを維持している(商品名「フリクション」(登録商標))。
【0004】
本件出願人は、熱変色性筆記具専用の摩擦体を当該筆記具の後部又はキャップの頂部に装着する点を特徴とした特許を取得している(特許第4312987号)。
【0005】
図1に、熱変色性筆記具専用の摩擦体が後部に装着された熱変色性筆記具の一例を示す。
図1に示すように、当該熱変色性筆記具100は、筆記体102と、該筆記体102を収容する筒部103と、筒部に摺動可能に保持されたクリップ104と、筒部103に保持された摩擦体105と、を備えている。筆記体102は、ペン先101と、該ペン先101が前端開口部に圧入固着されたインク収容管と、該インク収容管内に充填される熱変色性インクと、該熱変色性インクの後端に充填され且つ該熱変色性インクの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。ペン先101は、クリップ104の摺動を利用して出没可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4312987号公報
【特許文献2】特開平11-277545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件出願人は、熱変色性筆記具専用の摩擦体の製造に関して、以下のような問題点を把握するに至った。
【0008】
熱変色性筆記具専用の摩擦体105は、射出成形法によって樹脂材料から製造される。その製造装置は、
図2に示すように、樹脂成形品である摩擦体105の一方側(
図2の上側)の輪郭に(相補的に)対応する一方空洞501cを有する一方側キャビティ501と、摩擦体105の他方側(
図2の下側)の一部に設けられた2つの被押圧要素53、54(総称して被押圧部)の各々の形状にそれぞれ対応する先端形状を有する2つのエジェクタ要素503、504(総称してエジェクタ部)と、一方側キャビティ501の一方空洞501cに隣接すると共に摩擦体105の他方側の被押圧要素53、54を除いた輪郭に(相補的に)対応する他方空洞502cを有する他方側キャビティ502と、を備えている。
【0009】
図2の例では、一方側キャビティ501が固定側キャビティであり、他方側キャビティ502が可動側キャビティである(一方側キャビティ501に対してエジェクタ要素503、504の軸方向に移動する)。
【0010】
そして、一方側キャビティ501の一方空洞501cと、他方側キャビティ502の他方空洞502cと、2つのエジェクタ要素503、504の先端形状と、によって区画される成形空間内に樹脂材料が射出されることで、摩擦体105が成形される(
図2参照)。
【0011】
その後、成形された摩擦体105は、当該製造装置から取り出されなければならない。まず、一方側キャビティ501と他方側キャビティ502とが互いから離隔されて、一方空洞501cと他方空洞502cとが互いから離隔されることによって、摩擦体105の前方部が一方空洞501cから抜き出される。この際、摩擦体105には、他方側キャビティ502と連結されているコアピン(図示せず)が、摩擦体105の軸方向に挿入されている。これにより、摩擦体105は、一方側キャビティ501と他方側キャビティ502が離隔する際に、他方空洞502c内に残留する。その後、コアピンが抜かれる。
【0012】
続いて、2つのエジェクタ要素503、504が、他方側キャビティ502に対して一方側に移動されることによって、摩擦体105の他方側が他方空洞502cから抜き出される(
図3参照)。
【0013】
ここで、摩擦体105の他方側が他方空洞502cから抜き出された後、摩擦体105とエジェクタ要素503、504とが分離すれば、摩擦体105は製造装置の下方に落下して、すなわち、摩擦体105を取り出すことができる。しかしながら、成形された摩擦体105とエジェクタ要素503、504とが互いに付着してしまって、摩擦体105が所望のように落下しない場合がある。
【0014】
このようにエジェクタ要素503、504に付着してしまった樹脂成形品を取り出すための機構として、特許文献2は、エジェクタ部材を他方側に戻す際に抜き出された後の樹脂成形品を係止することで樹脂成形品とエジェクタ要素とを分離させるストリッパーブッシュという追加部材の採用を提案している。しかしながら、そのような追加部材の採用は、製造装置のコストを増大させてしまう。
【0015】
本発明は、以上のような知見に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コストの増大を抑えつつ、樹脂成形品とエジェクタ部材とが互いに付着して分離しないという問題を解消することができる筆記具の部品の製造方法、広くは樹脂成形品の製造方法、を提供することである。また、当該製造方法によって製造された部品を含む筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、樹脂成形品を製造するために、前記樹脂成形品の一方側の輪郭に対応する一方空洞を有する一方側キャビティと、前記樹脂成形品の他方側の一部に設けられた被押圧部の形状に対応する先端形状を有するエジェクタ部材と、前記一方側キャビティの前記一方空洞に隣接すると共に前記樹脂成形品の他方側の前記被押圧部を除いた輪郭に対応する他方空洞を有する他方側キャビティと、を用いて、前記一方側キャビティの前記一方空洞と、前記他方側キャビティの前記他方空洞と、前記エジェクタ部材の前記先端形状と、によって区画される成形空間内に樹脂材料を射出して前記樹脂成形品を成形する工程と、前記一方側キャビティと前記他方側キャビティとを互いから離隔して、前記一方空洞と前記他方空洞とを互いから離隔することによって、前記樹脂成形品の一方側を前記一方空洞から抜き出す一方側抜き出し工程と、前記他方側キャビティに対して前記エジェクタ部材を一方側に移動させて前記樹脂成形品の前記被押圧部を一方側に押圧することによって、前記樹脂成形品の他方側を前記他方空洞から抜き出す他方側抜き出し工程と、を備えた樹脂成形品の製造方法であって、前記樹脂成形品の他方側の輪郭上には、前記他方側キャビティの前記他方空洞の一部に対してより他方側の位置に、前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部と前記エジェクタの移動方向において干渉する係止部が設けられており、前記係止部は、前記エジェクタの移動方向に見て、前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部の輪郭からはみ出しており、前記他方側抜き出し工程は、前記係止部を弾性変形させて潰れた形状としながら前記他方側キャビティの前記他方空洞内を通過させる工程を含んでいることを特徴とする方法である。
【0017】
本発明方法によれば、樹脂成形品の他方側の輪郭上において、他方側キャビティの他方空洞の一部に対してより他方側の位置に、当該他方空洞の一部とエジェクタの移動方向に干渉する係止部を設けておいて、他方側抜き出し工程において、当該係止部を弾性変形させて潰れた形状としながら他方側キャビティの他方空洞内を通過させることができる。
【0018】
これにより、係止部が他方空洞の前記一部から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、樹脂成型品とエジェクタ部材とを分離させることができる。すなわち、前記他方側抜き出し工程は、前記係止部が前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、前記樹脂成型品と前記エジェクタ部材とを分離させる工程を含むことができる。
【0019】
あるいは、そのような反動の力によって樹脂成型品とエジェクタ部材とを分離させることができなかった場合でも、他方側抜き出し工程の後に、他方側キャビティに対してエジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を実施することで、樹脂成型品とエジェクタ部材とを分離させることができる。当該エジェクタ戻し工程において、元の形状に復帰した係止部が、樹脂成形品が他方空洞内に戻ることを効果的に妨げるからである。すなわち、前記他方側抜き出し工程の後に、前記他方側キャビティに対して前記エジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を更に備えることができ、前記エジェクタ戻し工程は、元の形状に復帰した前記係止部によって前記樹脂成形品が前記他方空洞内に戻ることが妨げられることによって、前記樹脂成型品と前記エジェクタ部材とを分離させる工程を含むことができる。
【0020】
係止部は、例えばドーム状に形成されていることが好ましい。この場合、他方側抜き出し工程において係止部を弾性変形させて潰れた形状とすることが容易化される。また、樹脂成形品製造のために追加で必要となる樹脂量も少なくて済むし、局所的な応力集中の発生に起因する樹脂成形品の破損等が抑制されるという効果も得られる。
【0021】
あるいは、他方側キャビティの他方空洞の前記一部は、内方側へ突出する突部であって、係止部は、前記突部によって形成される凹部に隣接する部分からなっていてもよい。この場合、樹脂成形品製造のために必要となる樹脂量はより少なくて済む。前記突部によって形成される樹脂成形品の凹部は、例えば溝状であり得る。この場合、係止部を弾性変形させて潰れた形状とすることを容易化するため、当該溝状の凹部の係止部側の面(相補的に他方空洞の突部の係止部側の面)が、エジェクタの移動方向に対して傾斜または湾曲していることが更に好ましい。
【0022】
また、被押圧部は、複数の被押圧要素を有していて、エジェクタ部材は、各々が対応する被押圧要素の形状に対応する先端形状を有する複数のエジェクタ要素を有することが好ましい。この場合、他方側抜き出し工程を、より安定的に行うことができる。
【0023】
以上の本発明方法が製造対象とする樹脂成形品は、特には熱変色性筆記具の摩擦体が意図されているが、少なくとも本件出願の時点においては、筆記具の部品に限定されない。
【0024】
また、本発明は、本発明方法によって製造された摩擦体を有する熱変色性筆記具である。特に、本発明は、筆記体と、前記筆記体を収容する筒部と、前記筒部に保持された樹脂製の摩擦体と、を備え、前記筆記体は、少なくともペン先と、前記ペン先が固着されたインク収容管と、前記インク収容管に充填される熱変色性インクと、からなり、前記摩擦体の側面に、ドーム状の隆起部が設けられていることを特徴とする熱変色性筆記具である。
【0025】
本発明方法によれば、摩擦体の側面にドーム状の隆起部が設けられており、当該隆起部は弾性変形によって一時的に潰れた形状となることが可能であるため、当該摩擦体を射出成形法によって製造する際、エジェクタ部材を用いて射出成形金型である他方側キャビティの他方空洞から摩擦体の他方側を抜き出す工程において、ドーム状の隆起部を弾性変形させて潰れた形状としながら当該後方空洞内を通過させることができる。
【0026】
これにより、隆起部が他方空洞から解放された直後において潰れた形状から隆起形状に弾性的に復帰する反動の力によって、摩擦体とエジェクタ部材とを分離させることができる。あるいは、そのような反動の力によって摩擦体とエジェクタ部材とを分離させることができなかった場合でも、摩擦体の他方側を抜き出す工程の後に、他方側キャビティに対してエジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を実施することで、摩擦体とエジェクタ部材とを分離させることができる。当該エジェクタ戻し工程において、隆起形状に復帰した隆起部が、摩擦体が他方空洞内に戻ることを効果的に妨げるからである。
【0027】
あるいは、本発明は、筆記体と、前記筆記体を収容する筒部と、前記筒部に保持された樹脂製の摩擦体と、を備え、前記筆記体は、少なくともペン先と、前記ペン先が固着されたインク収容管と、前記インク収容管に充填される熱変色性インクと、からなり、前記摩擦体の側面に、軸方向に延びる溝が設けられており、前記溝の断面は、少なくとも片側が傾斜または湾曲していることを特徴とする熱変色性筆記具である。
【0028】
本発明方法によれば、摩擦体の側面に軸方向に延びる溝が設けられており、当該溝に隣接する部分が当該溝を成型するための他方側キャビティの他方空洞の突部に対する係止部となって弾性変形によって一時的に潰れた形状となることが可能であるため、当該摩擦体を射出成形法によって製造する際、エジェクタ部材を用いて射出成形金型である他方側キャビティの他方空洞から摩擦体の他方側を抜き出す工程において、他方側キャビティの他方空洞の突部によって前記係止部を弾性変形させて潰れた形状としながら当該後方空洞内を通過させることができる。特に、溝の係止部側の面(相補的に他方空洞の突部の係止部側の面)がエジェクタの移動方向に対して傾斜または湾曲していれば、係止部を弾性変形させて潰れた形状とすることが容易化されて好適である。
【0029】
これにより、係止部が他方空洞の突部から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、摩擦体とエジェクタ部材とを分離させることができる。あるいは、そのような反動の力によって摩擦体とエジェクタ部材とを分離させることができなかった場合でも、摩擦体の他方側を抜き出す工程の後に、他方側キャビティに対してエジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を実施することで、摩擦体とエジェクタ部材とを分離させることができる。当該エジェクタ戻し工程において、元の形状に復帰した係止部が、摩擦体が他方空洞内に戻ることを効果的に妨げるからである。
【発明の効果】
【0030】
本発明方法によれば、樹脂成形品の他方側の輪郭上において、他方側キャビティの他方空洞の一部に対してより他方側の位置に、当該他方空洞の一部とエジェクタの移動方向に干渉する係止部を設けておいて、他方側抜き出し工程において、当該係止部を弾性変形させて潰れた形状としながら他方側キャビティの他方空洞内を通過させることができる。
【0031】
これにより、係止部が他方空洞の前記一部から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、樹脂成型品とエジェクタ部材とを分離させることができる。すなわち、前記他方側抜き出し工程は、前記係止部が前記他方側キャビティの前記他方空洞の前記一部から解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、前記樹脂成型品と前記エジェクタ部材とを分離させる工程を含むことができる。
【0032】
あるいは、そのような反動の力によって樹脂成型品とエジェクタ部材とを分離させることができなかった場合でも、他方側抜き出し工程の後に、他方側キャビティに対してエジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を実施することで、樹脂成型品とエジェクタ部材とを分離させることができる。当該エジェクタ戻し工程において、元の形状に復帰した係止部が、樹脂成形品が他方空洞内に戻ることを効果的に妨げるからである。すなわち、前記他方側抜き出し工程の後に、前記他方側キャビティに対して前記エジェクタ部材を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を更に備えることができ、前記エジェクタ戻し工程は、元の形状に復帰した前記係止部によって前記樹脂成形品が前記他方空洞内に戻ることが妨げられることによって、前記樹脂成型品と前記エジェクタ部材とを分離させる工程を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】
図1の摩擦体を製造する製造装置の概略図である。
【
図3】
図2の摩擦体を製造する製造方法の他方側抜き出し工程を説明するため概略図である。
【
図4】本発明の第1実施形態における熱変色性筆記具の概略図である。
【
図5】本発明の第1実施形態における摩擦体の正面図である。
【
図9】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造装置について、摩擦体に対応する空洞を軸方向に見た概略図である。
【
図10】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法の射出成形工程を説明するための概略図である。
【
図11】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法の前方部抜き出し工程を説明するため概略図である。
【
図12】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法の後方部抜き出し工程を説明するため概略図である。
【
図13】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ戻し工程を説明するため概略図である。
【
図14】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ戻し工程を説明するため概略図である。
【
図15】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ再押し出し工程を説明するため概略図である。
【
図16】
図5乃至
図8の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ再戻し工程を説明するため概略図である。
【
図17】本発明の第2実施形態における熱変色性筆記具の概略図である。
【
図18】本発明の第2実施形態における摩擦体の正面図である。
【
図22】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造装置について、摩擦体に対応する空洞を軸方向に見た概略図である。
【
図23】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法の射出成形工程を説明するための概略図である。
【
図24】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法の前方部抜き出し工程を説明するため概略図である。
【
図25】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法の後方部抜き出し工程を説明するため概略図である。
【
図26】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ戻し工程を説明するため概略図である。
【
図27】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ戻し工程を説明するため概略図である。
【
図28】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ再押し出し工程を説明するため概略図である。
【
図29】
図18乃至
図21の摩擦体を製造する製造方法のエジェクタ再戻し工程を説明するため概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(熱変色性筆記具の第1実施形態の構成)
まず、本発明方法によって製造される摩擦体を有する熱変色性筆記具の第1実施形態を説明する。
図4は、本実施形態における熱変色性筆記具10の概略図である。
図4に示すように、当該熱変色性筆記具10は、筆記体12と、該筆記体12を収容する筒部13と、筒部に摺動可能に保持されたクリップ14と、筒部13に保持された摩擦体15と、を備えている。筆記体12は、ペン先11と、該ペン先11が前端開口部に圧入固着されたインク収容管と、該インク収容管内に充填される熱変色性インクと、該熱変色性インクの後端に充填され且つ該熱変色性インクの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。ペン先11は、クリップ14の摺動を利用して出没可能に構成されている。
【0035】
図5は、本実施形態における摩擦体15の正面図であり、
図6は、
図5の摩擦体15のA-A線断面図であり、
図7は、
図6の摩擦体15のB部拡大図であり、
図8は、
図5乃至
図7の摩擦体15の斜視図である。
【0036】
図5乃至
図8に示すように、摩擦体15は、上端側から、ドーム状部15a、緩やかに下方側に広がる第1切頭円錐部15b、円筒状の第1接続部15c、下方側に狭まる第2切頭円錐部15d、円筒状の第2接続部15e、下方側に狭まる第3切頭円錐部15f、円筒状の小径部15g、を有しており、第1切頭円錐部15bと第1接続部15cとの間には段差S1が形成されており、第2接続部15eと第3切頭円錐部15fとの間には段差S2が形成されているが、その他の隣接する要素同士は滑らかに(連続的に)推移している。
【0037】
好適な寸法を例示すれば、軸方向の長さについて、ドーム状部15aは2.3mmであり、第1切頭円錐部15bは4.5mmであり、第1接続部15cは0.8mmであり、第2切頭円錐部15dは0.4mmであり、第2接続部15eは0.8mmであり、第3切頭円錐部15fは2.2mmであり、小径部15gは2.8mmであり、直径について、ドーム状部15aの下端及び第1切頭円錐部15bの上端では5.4mmであり、第1切頭円錐部15bの下端では6.0mmであり、第1接続部15cでは5.2mmであり、第2接続部15eでは4.6mmであり、第3切頭円錐部15fの上端では5.6mmであり、第3切頭円錐部15fの下端及び小径部15gでは、4.4mmである。
【0038】
また、小径部15gの側面には、第1被押圧要素として、後述する第1エジェクタ要素303の平坦な先端形状に対応する平坦部153が形成されている。平坦部153は、例えば、小径部15gの下端から軸方向長さ2.5mmまでの範囲に、摩擦体15の軸心Cからの距離d3=1.9mmの平面を形成するように構成されている。
【0039】
また、第1接続部15cの側面及び第2切頭円錐部15dの側面には、第2被押圧要素として、後述する第2エジェクタ要素304の平坦な先端形状に対応する平坦部154が形成されている。平坦部154は、例えば、摩擦体15の軸心Cからの距離d4=2.4mmの平面を形成するように構成されている。
【0040】
そして、小径部15gの側面に、ドーム状の隆起部151が形成されている。本実施形態の隆起部151は、半径0.7mmの球面の一部形状として構成されており、最大隆起部(頂点)の摩擦体15の軸心Cからの距離が2.6mmであり、当該最大隆起部と平坦部153の延長平面との間の距離は0.9mmであり、当該最大隆起部の小径部15gの下端からの軸方向距離は1.5mmである。
【0041】
もっとも、ドーム状の隆起部151の配置及び形状は、後述するエジェクタ要素303、304の移動方向(本実施形態では平坦部153、154に垂直な方向)に対して、被押圧要素(平坦部153、154)から遠い側の端部151fがより浅い角度で傾斜ないし湾曲していて、被押圧要素(平坦部153、154)に近い側の端部151nがより深い角度で傾斜(直角をも含む)ないし湾曲していれば、任意の配置及び形状が採用され得る。
【0042】
(摩擦体15の製造方法)
本発明は、ストリッパーブッシュ等の構成を追加することなく(すなわちコストの増大を抑えつつ)樹脂成形品とエジェクタ部材とが互いに付着して分離しないという問題を解消する樹脂成形品の製造方法である。当該発明の一実施形態として、樹脂成形品として前述の熱変色性筆記具10の摩擦体15を製造する方法について説明する。
【0043】
摩擦体15は、射出成形法によって樹脂材料(例えば熱可塑性エラストマー等)から製造される。前記摩擦体15を構成する樹脂材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又は2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物等が挙げられる。前記摩擦体15を構成する弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料である。その製造装置は、
図9に示すように、樹脂成形品である摩擦体15の一方側(
図9の上側)の輪郭に(相補的に)対応する一方空洞301cを有する一方側キャビティ301と、摩擦体15の他方側(
図9の下側)の一部に設けられた2つの被押圧要素153、154(総称して被押圧部)の各々の形状にそれぞれ対応する先端形状を有する2つのエジェクタ要素303、304(総称してエジェクタ部)と、一方側キャビティ301の一方空洞301cに隣接すると共に摩擦体15の他方側の被押圧要素153、154を除いた輪郭に(相補的に)対応する他方空洞302c(隆起部151に対応する凹部302rを含む)を有する他方側キャビティ302と、を備えている。
【0044】
図9の例では、一方側キャビティ301が固定側キャビティであり、他方側キャビティ302が可動側キャビティである(一方側キャビティ301に対してエジェクタ要素303、304の軸方向に移動する)。
【0045】
そして、一方側キャビティ301の一方空洞301cと、他方側キャビティ302の他方空洞302cと、2つのエジェクタ要素303、304の先端形状と、によって区画される成形空間内に樹脂材料が射出されることで、摩擦体15が成形される(射出成形工程:
図10参照)。
【0046】
その後、成形された摩擦体15は、当該製造装置から取り出されなければならない。まず、一方側キャビティ301と他方側キャビティ302とが互いから離隔されて、一方空洞301cと他方空洞302cとが互いから離隔されることによって、摩擦体15の一方側が一方空洞301cから抜き出される(一方側抜き出し工程:
図11参照)。この際、摩擦体15には、他方側キャビティ302と連結されているコアピン(図示せず)が、摩擦体15の軸方向に挿入されている。これにより、摩擦体15は、一方側キャビティ301と他方側キャビティ302が離隔する際に、他方空洞302c内に残留する。その後、コアピンが抜かれる。
【0047】
続いて、2つのエジェクタ要素303、304が、他方側キャビティ302に対して一方側に移動されることによって、摩擦体15の他方側が他方空洞302cから抜き出される(他方側抜き出し工程)。
【0048】
前述したように、摩擦体15の小径部15gの側面には、ドーム状の隆起部151が形成されている。当該隆起部151は、エジェクタ要素303、304による他方側抜き出し工程時において、射出成形金型である他方側キャビティ302の他方空洞302cを規定する壁面(他方空洞302cの隆起部151よりも一方側の一部)によって弾性変形されて(僅かな塑性変形を伴ってもよい)、一時的に(当該壁面を通過する間)潰れた形状となる。これにより、隆起部151の存在にも拘わらず、エジェクタ要素303、304による他方側抜き出し工程を実施することができる。
【0049】
そして、本実施形態では、隆起部151が他方空洞302cから解放された直後において潰れた形状から隆起形状に弾性的に復帰する際に生じる反動の力によって、摩擦体15とエジェクタ要素303、304とを分離させることができる。これにより、多くの成形後の摩擦体15は、当該他方側抜き出し工程の途中で、エジェクタ要素303、304から分離して落下する。
【0050】
もっとも、5~10%程度の摩擦体15は、前述の反動の力によってもエジェクタ要素303、304から分離しない(
図12参照)。そのような場合には、エジェクタ要素303、304が、他方側キャビティ302に対して他方側に戻される(エジェクタ戻し工程)。
【0051】
この時、隆起形状に復帰した隆起部151が、摩擦体15が他方空洞302c内に戻ることを効果的に妨げ(
図13参照)、摩擦体15とエジェクタ要素303、304とは分離される。これにより、前述の反動の力によってもエジェクタ要素303、304から分離しなかった摩擦体15の多くは、当該エジェクタ戻し工程の途中で、エジェクタ要素303、304から分離して落下する。
【0052】
ここで更に、他方空洞302cに摩擦体15のいずれかの部位が引っ掛かる等して、摩擦体15が依然として落下しない場合がある(
図14参照)。そのような場合には、エジェクタ要素303、304が、他方側キャビティ302に対して再び一方側に移動される(エジェクタ再押し出し工程:
図15参照)。これにより、他方空洞302cに引っ掛かって落下しなかった摩擦体15は、当該エジェクタ再押し出し工程によって、エジェクタ要素303、304に押されて落下する。
【0053】
その後、エジェクタ要素303、304は、他方側キャビティ302に対して他方側に再度戻される(エジェクタ再戻し工程:
図16参照)。
【0054】
(摩擦体15の製造方法の利点)
以上のような製造方法によれば、摩擦体15を射出成形法によって製造する際、エジェクタ要素303、304を用いて射出成形金型である他方側キャビティ302の他方空洞302cから摩擦体15の他方側を抜き出す工程において、隆起部151を弾性変形させて潰れた形状とすることによって当該他方空洞302c内を通過させることができる。
【0055】
そして、隆起部151が他方空洞302cから解放された直後において潰れた形状から隆起形状に弾性的に復帰する反動の力によって、摩擦体15とエジェクタ要素303、304とを分離させることができる。
【0056】
あるいは、そのような反動の力によって摩擦体15とエジェクタ要素303、304とを分離させることができなかった場合でも、摩擦体15の他方側を抜き出す工程の後に、他方側キャビティ302に対してエジェクタ要素303、304を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を実施することで、摩擦体15とエジェクタ要素303、304とを分離させることができる。当該エジェクタ戻し工程において、隆起形状に復帰した隆起部151が、摩擦体15が他方空洞302c内に戻ることを効果的に妨げるからである。
【0057】
更に、エジェクタ戻し工程においてエジェクタ要素303、304から分離した摩擦体15が他方空洞302cに引っ掛かる等して落下しなかった場合でも、当該摩擦体15は、その後のエジェクタ再押し出し工程においてエジェクタ要素303、304に押されて落下することができる。
【0058】
また、本実施形態では、エジェクタ要素303、304に押される摩擦体15の被押圧要素(平坦部153、154)から遠い側の隆起部151の端部151fが、エジェクタ要素303、304の移動方向に対してより浅い角度で傾斜ないし湾曲しているため、他方側抜き出し工程において隆起部151を弾性変形させて潰れた形状とすることが容易化されている。
【0059】
一方、エジェクタ要素303、304に押される摩擦体15の被押圧要素(平坦部153、154)に近い側の隆起部151の端部151nが、エジェクタ要素303、304の移動方向に対してより深い角度で傾斜ないし湾曲しているため、隆起形状に復帰した隆起部151がエジェクタ戻し工程時に他方側キャビティ302の端面と干渉し易くなっており、すなわち、摩擦体15が他方空洞302c内に戻ることを妨げる効果が高められている。
【0060】
また、本実施形態では、被押圧要素としての2つの平坦部153、154にそれぞれ対応する先端形状を有する2つのエジェクタ要素303、304を用いることにより、他方側抜き出し工程を、より安定的に行うことができる。
【0061】
(熱変色性筆記具の第2実施形態の構成)
まず、本発明方法によって製造される摩擦体を有する熱変色性筆記具の第2実施形態を説明する。
図17は、本実施形態における熱変色性筆記具20の概略図である。
図17に示すように、当該熱変色性筆記具20も、前述の熱変色性筆記具10と略同様、筆記体22と、該筆記体22を収容する筒部23と、筒部に摺動可能に保持されたクリップ24と、筒部23に保持された摩擦体25と、を備えている。筆記体22は、ペン先21と、該ペン先21が前端開口部に圧入固着されたインク収容管と、該インク収容管内に充填される熱変色性インクと、該熱変色性インクの後端に充填され且つ該熱変色性インクの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。ペン先21は、クリップ24の摺動を利用して出没可能に構成されている。
【0062】
【0063】
図18乃至
図21に示すように、摩擦体25も、上端側から、ドーム状部25a、緩やかに下方側に広がる第1切頭円錐部25b、円筒状の第1接続部25c、下方側に狭まる第2切頭円錐部25d、円筒状の第2接続部25e、下方側に狭まる第3切頭円錐部25f、円筒状の小径部25g、を有しており、第1切頭円錐部25bと第1接続部25cとの間には段差S1が形成されており、第2接続部25eと第3切頭円錐部25fとの間には段差S2が形成されているが、その他の隣接する要素同士は滑らかに(連続的に)推移している。
【0064】
好適な寸法を例示すれば、軸方向の長さについて、ドーム状部25aは2.3mmであり、第1切頭円錐部25bは4.5mmであり、第1接続部25cは0.8mmであり、第2切頭円錐部25dは0.4mmであり、第2接続部25eは0.8mmであり、第3切頭円錐部25fは2.2mmであり、小径部25gは2.8mmであり、直径について、ドーム状部25aの下端及び第1切頭円錐部25bの上端では5.4mmであり、第1切頭円錐部25bの下端では6.0mmであり、第1接続部25cでは5.2mmであり、第2接続部25eでは4.6mmであり、第3切頭円錐部25fの上端では5.6mmであり、第3切頭円錐部25fの下端及び小径部25gでは、4.4mmである。
【0065】
また、小径部25gの側面には、第1被押圧要素として、後述する第1エジェクタ要素403の平坦な先端形状に対応する平坦部253が形成されている。平坦部253は、例えば、小径部25gの下端から軸方向長さ2.5mmまでの範囲に、摩擦体25の軸心Cからの距離d3=1.9mmの平面を形成するように構成されている。
【0066】
また、第1接続部25cの側面及び第2切頭円錐部25dの側面には、第2被押圧要素として、後述する第2エジェクタ要素404の平坦な先端形状に対応する平坦部254が形成されている。平坦部254は、例えば、摩擦体25の軸心Cからの距離d4=2.4mmの平面を形成するように構成されている。
【0067】
そして、小径部25gの側面に、溝状の凹部252が形成されている。特に
図19及び
図20を参照して、溝状の凹部252は、平坦部253から遠い側に位置する当該平坦部253と平行な平坦な壁面252a(深さ0.5mm)と、曲率半径0.5mmの円筒面252bと、によって構成されている。摩擦体25の円筒面252bに隣接する部分が、係止部251を構成している。
【0068】
溝状の凹部252の配置及び形状は、後述するエジェクタ要素403、404の移動方向(本実施形態では平坦部253、254に垂直な方向)に対して、当該凹部252の被押圧要素(平坦部253、254)側に隣接する係止部251が傾斜ないし湾曲していれば、任意の配置及び形状が採用され得る。
【0069】
(摩擦体25の製造方法)
本発明は、ストリッパーブッシュ等の構成を追加することなく(すなわちコストの増大を抑えつつ)樹脂成形品とエジェクタ部材とが互いに付着して分離しないという問題を解消する樹脂成形品の製造方法である。当該発明の一実施形態として、樹脂成形品として前述の熱変色性筆記具20の摩擦体25を製造する方法について説明する。
【0070】
摩擦体25は、射出成形法によって樹脂材料(例えば熱可塑性エラストマー等)から製造される。前記摩擦体25を構成する樹脂材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又は2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物等が挙げられる。前記摩擦体25を構成する弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料である。その製造装置は、
図22に示すように、樹脂成形品である摩擦体25の一方側(
図22の上側)の輪郭に(相補的に)対応する一方空洞401cを有する一方側キャビティ401と、摩擦体25の他方側(
図22の下側)の一部に設けられた2つの被押圧要素253、254(総称して被押圧部)の各々の形状にそれぞれ対応する先端形状を有する2つのエジェクタ要素403、404(総称してエジェクタ部)と、一方側キャビティ401の一方空洞401cに隣接すると共に摩擦体25の他方側の被押圧要素253、254を除いた輪郭に(相補的に)対応する他方空洞402cを有する他方側キャビティ402と、を備えている。
【0071】
図22の例では、一方側キャビティ401が固定側キャビティであり、他方側キャビティ402が可動側キャビティである(一方側キャビティ401に対してエジェクタ要素403、404の軸方向に移動する)。
【0072】
そして、一方側キャビティ401の一方空洞401cと、他方側キャビティ402の他方空洞402cと、2つのエジェクタ要素403、404の先端形状と、によって区画される成形空間内に樹脂材料が射出されることで、摩擦体25が成形される(射出成形工程:
図23参照)。
【0073】
その後、成形された摩擦体25は、当該製造装置から取り出されなければならない。まず、一方側キャビティ401と他方側キャビティ402とが互いから離隔されて、一方空洞401cと他方空洞402cとが互いから離隔されることによって、摩擦体25の一方側が一方空洞401cから抜き出される(一方側抜き出し工程:
図24参照)。この際、摩擦体25には、他方側キャビティ402と連結されているコアピン(図示せず)が、摩擦体25の軸方向に挿入されている。これにより、摩擦体25は、一方側キャビティ401と他方側キャビティ402が離隔する際に、他方空洞402c内に残留する。その後、コアピンが抜かれる。
【0074】
続いて、2つのエジェクタ要素403、404が、他方側キャビティ402に対して一方側に移動されることによって、摩擦体25の他方側が他方空洞402cから抜き出される(他方側抜き出し工程)。
【0075】
前述したように、摩擦体25の小径部25gの側面には、溝状の凹部252が形成されており、当該凹部252に対応して、他方空洞402cには突部402pが設けられている。そして、溝状の凹部252に隣接する係止部251が、エジェクタ要素403、404による他方側抜き出し工程時において、射出成形金型である他方側キャビティ402の他方空洞402cを規定する壁面(他方空洞402cの突部402p)によって弾性変形されて(僅かな塑性変形を伴ってもよい)、一時的に(当該壁面を通過する間)潰れた形状となる。これにより、摩擦体25の係止部251と他方空洞402cの突部402pとがエジェクタ要素403、404の移動方向に干渉するにも拘わらず、エジェクタ要素403、404による他方側抜き出し工程を実施することができる。
【0076】
そして、本実施形態では、係止部251が他方空洞402cの突部402pから解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する際に生じる反動の力によって、摩擦体25とエジェクタ要素403、404とを分離させることができる。これにより、多くの成形後の摩擦体25は、当該他方側抜き出し工程の途中で、エジェクタ要素403、404から分離して落下する。
【0077】
もっとも、5~10%程度の摩擦体25は、前述の反動の力によってもエジェクタ要素403、404から分離しない(
図25参照)。そのような場合には、エジェクタ要素403、404が、他方側キャビティ402に対して他方側に戻される(エジェクタ戻し工程)。
【0078】
この時、元の形状に復帰した係止部251が、摩擦体25が他方空洞402c内に戻ることを効果的に妨げ(
図26参照)、摩擦体25とエジェクタ要素403、404とは分離される。これにより、前述の反動の力によってもエジェクタ要素403、404から分離しなかった摩擦体25の多くは、当該エジェクタ戻し工程の途中で、エジェクタ要素403、404から分離して落下する。
【0079】
ここで更に、他方空洞402cに摩擦体25のいずれかの部位が引っ掛かる等して、摩擦体25が依然として落下しない場合がある(
図27参照)。そのような場合には、エジェクタ要素403、404が、他方側キャビティ402に対して再び一方側に移動される(エジェクタ再押し出し工程:
図28参照)。これにより、他方空洞402cに引っ掛かって落下しなかった摩擦体25は、当該エジェクタ再押し出し工程によって、エジェクタ要素403、404に押されて落下する。
【0080】
その後、エジェクタ要素403、404は、他方側キャビティ402に対して他方側に再度戻される(エジェクタ再戻し工程:
図29参照)。
【0081】
(摩擦体25の製造方法の利点)
以上のような製造方法によれば、摩擦体25を射出成形法によって製造する際、エジェクタ要素403、404を用いて射出成形金型である他方側キャビティ402の他方空洞402cから摩擦体25の他方側を抜き出す工程において、係止部251を弾性変形させて潰れた形状とすることによって当該他方空洞402c内を通過させることができる。
【0082】
そして、係止部251が他方空洞402cの突部402pから解放された直後において潰れた形状から元の形状に弾性的に復帰する反動の力によって、摩擦体25とエジェクタ要素403、404とを分離させることができる。
【0083】
あるいは、そのような反動の力によって摩擦体25とエジェクタ要素403、404とを分離させることができなかった場合でも、摩擦体25の他方側を抜き出す工程の後に、他方側キャビティ402に対してエジェクタ要素403、404を他方側に移動させるエジェクタ戻し工程を実施することで、摩擦体25とエジェクタ要素403、404とを分離させることができる。当該エジェクタ戻し工程において、元の形状に復帰した係止部251が、摩擦体25が他方空洞402c内に戻ることを効果的に妨げるからである。
【0084】
更に、エジェクタ戻し工程においてエジェクタ要素403、404から分離した摩擦体25が他方空洞402cに引っ掛かる等して落下しなかった場合でも、当該摩擦体25は、その後のエジェクタ再押し出し工程においてエジェクタ要素403、404に押されて落下することができる。
【0085】
また、本実施形態では、溝状の凹部252の被押圧要素(平坦部253、254)側の面(すなわち当該面によって規定される係止部251の面)がエジェクタ要素303、304の移動方向に対して傾斜ないし湾曲しているため、他方側抜き出し工程において係止部251を弾性変形させて潰れた形状とすることが容易化されている。
【0086】
また、本実施形態でも、被押圧要素としての2つの平坦部253、254にそれぞれ対応する先端形状を有する2つのエジェクタ要素403、404を用いることにより、他方側抜き出し工程を、より安定的に行うことができる。
【符号の説明】
【0087】
10、20、100 熱変色性筆記具
11、21、101 ペン先
12、22、102 筆記体
13、23、103 筒部
14、24、104 クリップ
15、25、105 摩擦体
15a、25a ドーム状部
15b、25b 第1切頭円錐部
15c、25c 第1接続部
15d、25d 第2切頭円錐部
15e、25e 第2接続部
15f、25f 第3切頭円錐部
15g、25g 小径部
53、54 被押圧要素
151 隆起部
151f 被押圧要素から遠い方の端部
151n 被押圧要素に近い方の端部
153 平坦部(被押圧要素)
154 平坦部(被押圧要素)
251 係止部
252 凹部(溝状)
252a 平坦な壁面
252b 円筒面
253 平坦部(被押圧要素)
254 平坦部(被押圧要素)
301、401 一方側キャビティ
301c、401c 一方空洞
302、402 他方側キャビティ
302c、402c 他方空洞
302r 凹部
402p 突部
303、403 第1エジェクタ要素
304、404 第2エジェクタ要素
501 一方側キャビティ
501c 一方空洞
502 他方側キャビティ
502c 他方空洞
503 エジェクタ要素
504 エジェクタ要素
C 軸心
S1 段差
S2 段差
【手続補正書】
【提出日】2023-08-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記体と、
前記筆記体を収容する筒部と、
前記筒部に保持された樹脂製の摩擦体と、
を備え、
前記筆記体は、少なくともペン先と、前記ペン先が固着されたインク収容管と、前記インク収容管に充填される熱変色性インクと、からなり、
前記摩擦体の側面に、ドーム状の隆起部が設けられている
ことを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
前記隆起部は、潰れた形状に弾性変形可能である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱変色性筆記具。
【請求項3】
筆記体と、
前記筆記体を収容する筒部と、
前記筒部に保持された樹脂製の摩擦体と、
を備え、
前記筆記体は、少なくともペン先と、前記ペン先が固着されたインク収容管と、前記インク収容管に充填される熱変色性インクと、からなり、
前記摩擦体の側面に、軸方向に延びる溝が設けられており、
前記溝の断面は、少なくとも片側が傾斜または湾曲している
ことを特徴とする熱変色性筆記具。