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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126695
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】高活性NK細胞の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20230831BHJP
【FI】
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120214
(22)【出願日】2023-07-24
(62)【分割の表示】P 2020035297の分割
【原出願日】2020-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】516061713
【氏名又は名称】株式会社ガイアバイオメディシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】原田 結
(72)【発明者】
【氏名】米満 吉和
(57)【要約】
【課題】高活性NK細胞に適用可能な、高い生存率と高い活性を維持したまま、凍結保存し、融解する方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を含む、細胞の処理方法:(1)体外で活性化した細胞を、細胞培養用の培地で回収し;(2)回収した細胞を凍結保存のための液に懸濁し;
(3)懸濁した細胞を、凍結する。工程(1)は、好ましくは、胆汁酸およびフェニル酪酸からなる群より選択されるいずれかを添加した培地による処理を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、凍結したNK細胞の製造方法:
(1)体外で活性化したNK細胞を、細胞培養用の培地で回収し;
(2)回収したNK細胞を凍結保存のための液に懸濁し;
(3)懸濁したNK細胞を、凍結し;
であって、凍結したNK細胞を融解したときのNK細胞(E)の細胞傷害活性が、標的細胞(T)をK562細胞とし、E:T=2:1で混合し、1~3時間共培養した場合、50%以上である、製造方法。
【請求項2】
凍結したNK細胞の融解に用いる溶媒が、以下を含む水溶液である、請求項1に記載の製造方法。
・塩化ナトリウム 9.00~108mM、
・グルコン酸ナトリウム 2.30~27.7mM、
・酢酸ナトリウム 2.70~32.5mM、
・塩化カリウム 0.496~5.96mM、および
・塩化マグネシウム 0.148~1.78mM
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い細胞傷害活性を有する細胞の凍結保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NK細胞は腫瘍細胞やウイルス感染細胞の拒絶において重要である。2017年8月には米国において、小児および若年成人の再発・難治性B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)を適応症として、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法が承認されたが、近年ではCAR-Tに代わりCAR-NKの臨床応用が拡大しつつある(非特許文献1)。
【0003】
患者に細胞を投与しようとするときには、拒絶反応が起こらないように、患者自身から採取した細胞を用いることがまず検討される。しかし、患者の状態によっては治療に必要な量の細胞の採取が難しいことがある。また体外で活性化し、増殖できる程度には個人差があり、増殖活性化が困難なケースが存在する。加えて、細胞の活性化・増殖には一定期間を要するため、直ちに治療が開始できないという問題がある。この点、前もって細胞を活性化しておき、投与に備えて保存しておくことができれば望ましい。
【0004】
細胞を保存する方法としては、短時間保存の場合は凍結を行わずに懸濁状態で保存する方法が知られており(例えば、特許文献1)、また長時間保存の場合は凍結を行う保存方法が知られている(例えば、特許文献2)。さらに細胞を凍結し、融解後においても高い生存率を維持した細胞が得られるとして、ナトリウム塩、カリウム塩、糖、凍害保護剤、ならびに炭酸水素塩および/または炭酸塩を含有する凍結のための溶液を用いることが検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-230396号公報
【特許文献2】特開2002-233356号公報
【特許文献3】WO2011/021618
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Liu E, et al. N Engl J Med. 2020;382:545-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のジメチルスルホキシドのような保護剤を用いる凍結方法では、T細胞系や初代NK細胞の保存は可能だが、細胞傷害活性の高いNK細胞には十分でなく、凍結融解操作によって、その活性と生存率が著しく低下する。これは、プログラムフリーザー、細胞密度調整、デキストラン、アルブミン、またはカルボキシル化ポリ-L-リジン等の添加等では解決不可能であった。そして一定量の細胞が死ぬことを前提に投与用細胞のパッケージングを行うと、解凍後には再活性化培養のための工程が必要となり、得られた細胞はさらに洗浄することが必須となる。そのため、凍結され、ストックされた高活性NK細胞は、臨床用の細胞を扱う細胞培養加工施設(CPC)の基準を満たす施設でなければ利用できない現状がある。
【0008】
本発明の課題は、高活性NK細胞に適用可能な、高い生存率と高い活性を維持したまま、凍結保存し、解凍する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
[1] 以下の工程を含む、細胞の処理方法:
(1)体外で活性化した細胞を、細胞培養用の培地で回収し;
(2)回収した細胞を凍結保存のための液に懸濁し;
(3)懸濁した細胞を、凍結する。
[2] 工程(1)が、胆汁酸およびフェニル酪酸 からなる群より選択されるいずれかを添加した培地による処理を含む、1に記載の方法。
[3] さらに以下の工程を含む、1または2に記載の方法:
(4)凍結保存した細胞を、解凍し、解凍溶媒Iに懸濁する。
[4] 解凍溶媒Iが、以下を含む水溶液である、1~3のいずれか1項に記載の方法:
・塩化ナトリウム 9.00 ~108mM、
・グルコン酸ナトリウム 2.30~27.7mM、
・酢酸ナトリウム 2.70~32.5mM、
・塩化カリウム 0.496~5.96mM、および
・塩化マグネシウム 0.148~1.78mM。
[5] 解凍溶媒Iが、以下の少なくとも1つを満たす、1~4のいずれか1項に記載の方法:
・カルシウムイオンを0.423mM以上の濃度で含まない、
・グルコースを5.55mM以上の濃度で含まない、および
・乳酸塩を27.7mM以上の濃度で含まない。
[6] 以下を含む、高活性NK細胞を懸濁するための液:
・塩化ナトリウム 9.00 ~108mM、
・グルコン酸ナトリウム 2.30~27.7mM、
・酢酸ナトリウム 2.70~32.5mM、
・塩化カリウム 0.496~5.96mM、および
・塩化マグネシウム 0.148~1.78mM。
[7] 凍結保存のための液に懸濁して凍結された高活性NK細胞を懸濁するためのものである、請求項6に記載の液。
[8] 高活性NK細胞、凍結保存のための液、および[6]に記載された液を含む、医薬組成物。
[9] 以下の工程を含む、細胞を含む医薬組成物の製造方法:
(1)体外で活性化した細胞を、細胞培養用の培地で回収し;
(2)回収した細胞を凍結保存のための液に懸濁し;
(3)懸濁した細胞を、凍結する。
[10] 工程(1)が、胆汁酸およびフェニル酪酸からなる群より選択されるいずれかを添加した培地による処理を含む、[9]に記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図A】Mito-FerroGreen反応後の各種細胞のフローサイトメーター解析結果。高活性NK細胞は鉄の含有量が多く、Ferroptosis誘導が起こる可能性が疑われる。
図B】高活性NK細胞の、凍結解凍時の光学顕微鏡写。MP:Methylprednisolone、Dex:Dexamethasone。高活性NK細胞な凍結融解でViabilityが顕著に低下することが確認された。
図1】高活性NK細胞の解凍時のViability。解凍時にPlasma-Lyte Aで希釈するとviabilityが改善した。ただし、KBM501培地にグルコン酸を添加した場合は、改善は見られなかった。Lacto=ラクトリンゲル
図2】高活性NK細胞の解凍時のViability。解凍時にPlasma-Lyte Aで希釈するとViabilityが改善するが、40% Serum(ヒトAB型血清)を含むPlasma-Lyte Aで希釈するとViabilityは悪化した。
図3】高活性NK細胞の一定時間静置後の生細胞数およびvianility(右)と細胞傷害活性(左)。Plasma=Plasma-Lyte A
図4】高活性NK細胞の凍結前処理の影響。凍結前に4-PBAを添加したKBM501で処理することにより、解凍時のViabilityが改善された。
図5】2時間前処理後、凍結、解凍した高活性NK細胞の回収率。凍結前に4-PBAまたはTUDCAを添加したKBM501培地で処理することにより、解凍時のViabilityが改善された。
図6】2時間前処理後、凍結、解凍した高活性NK細胞の細胞傷害活性。解凍後の細胞を懸濁する液をPlasma-Lyte Aとした場合、1時間および3時間の双方の時点でTUDCA濃度依存的に細胞傷害活性の改善がみられた。
図7-1】2時間前処理後、凍結、解凍した高活性NK細胞の細胞傷害活性。前処理時のTUDCAの濃度幅を広げて行った。TargetはK562細胞であり、E:T=2:1、2時間の条件で行った。NK細胞の細胞数は凍結前カウントに基づいて算出した。各グラフとも、1.解凍直後、2.Plasma-Lyte A 1時間、3.Plasma-Lyte A 3時間、4.Plasma-Lyte A 1時間 + KBM501 2時間
図7-2】解凍後の高活性NK細胞を用いた固形腫瘍モデルでの評価(3D killing assay)の結果。
図8-1】7-ADD染色後の細胞のフローサイトメーター解析。解凍後、所定の溶媒で10倍希釈し、室温で2時間(右)、または37℃で3時間(左)インキュベートした。
図8-2】7-ADD染色後の細胞のフローサイトメーター解析。回収時はPBSで洗浄するか(左)、またはKBM501培地で(右)で洗浄し、解凍後、所定の溶媒で10倍希釈し、37℃で3時間インキュベートした。
図8-3】7-ADD染色後の細胞のフローサイトメーター解析。解凍後、様々な溶媒で10倍希釈し、37℃で3時間インキュベートした。
図8-4】7-ADD染色後の細胞のフローサイトメーター解析。回収時はPBSで洗浄するか(左)、またはKBM501培地で(右)で洗浄し、解凍後、所定の溶媒で10倍希釈し、37℃で3時間インキュベートした。
図8-5】7-ADD染色後の細胞のフローサイトメーター解析。回収時はPBSで洗浄するか(左)、またはKBM501培地で(右)で洗浄し、解凍後、所定の溶媒で10倍希釈し、37℃で3時間インキュベートした。
図9-1】洗浄・凍結・融解後の高活性NK細胞を、投与形態にて室温で0~4時間静置した際のViability推移(A)、細胞傷害活性(B):Target=K562,E:T=1:2~4:1,2時間、細胞傷害活性(C):Target=K562,E:T=1:1,2~8時間。
図9-2】洗浄・凍結・融解後の高活性NK細胞の細胞傷害活性。投与形態にて各時間、室温で静置した。Target=K562、E:T=1:1、2時間
図10】Viability推移。KBM501培地またはPBS洗浄・凍結後の高活性NK細胞を、室温で解凍し、希釈操作を行わずに各時間室温で静置し、その後KBM501培地またはPlasma-Lyte Aで10倍希釈し、7-AADによる染色を行い、FlowJoソフトウェアで解析した(左)。KBM501培地またはPBS洗浄・凍結後の高活性NK細胞を、37℃で解凍後、希釈操作を行わずに各時間室温で静置し、その後KBM501培地またはPlasma-Lyte Aで10倍希釈し、7-AADによる染色を行い、FlowJoソフトウェアで解析した(右)。
図11】Viability推移。KBM501培地またはPBS洗浄・凍結後の高活性NK細胞を、37℃で解凍し、KBM501培地またはPlasma-Lyte Aで10倍希釈した後、室温で0~6時間静置し、その後7-AADによる染色を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
図12-1】Viability推移。滅菌蒸留水で段階希釈したPlasma-Lyte Aでの希釈、および37℃での静置による影響。各処理後の細胞を、7-AADによる染色を行い、FlowJoソフトウェアで解析した(以下の図において同じ)。
図12-2】Viability推移。生理食塩水で段階希釈したPlasma-Lyte Aでの希釈、および室温または37℃での静置による影響。
図12-3】Viability推移。生理食塩水で段階希釈したPlasma-Lyte A、または生理食塩水での希釈、および室温または37℃での静置による影響。
図12-4】Viability推移。各溶媒での希釈、および室温での静置による影響。
図12-5】Viability推移。各溶媒での希釈、および37℃での静置による影響。
図12-6】Viability推移。回収時にPBSで洗浄した場合の、各溶媒での希釈、および室温での静置による影響。
図12-7】Viability推移。回収時にPBSで洗浄した場合の、各溶媒での希釈、および37℃での静置による影響。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に関し、mMは、特に記載した場合を除き、mmol/Lと同じ意味で用いている。数値範囲をx~yで表すとき、その範囲は両端の値xおよびyを含む。
【0012】
本発明は、高い細胞傷害活性を有する細胞の凍結保存方法に関する。
[適用できる細胞]
本発明は、種々の細胞に適用することができる。本発明が好ましく適用できる細胞の一つは、体外で何らかのサイトカインを用いることによる活性化操作を経た細胞であり、このような細胞には、細胞傷害活性の高いNK細胞(高活性NK細胞)等が含まれる。活性化操作は、典型的にはインターロイキン(IL)-2を含む培地を用いて細胞をインキュベートすることに拠る。
【0013】
一般に、NK細胞とは、T細胞受容体(TCR)、T細胞普遍的マーカーであるCD3、および膜免疫グロブリンであるB細胞受容体を発現していない大型の顆粒性リンパ球であり、通常ヒトではCD16陽性であり、かつCD56陽性である。NK細胞であるか否かは、当業者であれば、細胞表面マーカーの発現パターン等に基づき容易に判断することができる。NK細胞は、細胞傷害活性を有し、この細胞傷害活性の有無や程度は、公知の種々の方法で測定することができる。NK細胞は、末梢血NK細胞、臍帯血NK細胞、初代NK細胞、培養NK細胞、高活性NK細胞を包含しうる。
【0014】
(原材料)
本発明が好ましく適用できる高活性NK細胞等の原材料は、末梢血、臍帯血、骨髄および/またはリンパ節、アフェレーシス法により採取された血液(アフェレーシス血液)であってよい。また原材料は、胚性幹細胞、成体幹細胞および人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞、臍帯血由来の造血幹細胞、末梢血由来の造血幹細胞、骨髄血由来の造血幹細胞、臍帯血単核球、末梢血単核球からなる群から選択される少なくとも1種類の細胞から調製されたものであってもよい。原材料のドナーは、高活性NK細胞等による免疫治療を受ける患者自身、該患者の近縁者、または患者とは血縁関係のない健常者である場合がある。ドナーは複数であってもよい。
【0015】
(培地)
高活性NK細胞等を培養するために用いる培地は、KBM501培地(コージンバイオ株式会社。IL-2を1,750JRU/mL含む。)、コスメディウム008(コスモバイオ。IL-2を1,750JRU/mL含む。)、FKCM101(フコク。IL-2不含、またはIL-2を175IU/mL含む。)、CellGro SCGM培地(セルジェニックス、岩井化学薬品株式会社)、X-VIVO15培地(ロンザ、タカラバイオ株式会社)、Gibco(登録商標) CTS(登録商標) AIM V(登録商標) Medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック。T細胞および樹状細胞を増殖・操作するための既知組成の無血清培地)、CTS OpTmizer T Cell Expansion Basal Medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック。ヒトTリンパ球の成長および増殖用)、IMDM、MEM、DMEM、RPMI-1640等を含むが、これらに限定されない。好ましい例は、KBM501培地、FKCM101またはコスメディウム008である。なお、本発明に関し、細胞について培養(する)というときは、特に記載した場合を除き、細胞の生存維持、細胞の増幅、および細胞の活性化からなる群より選択されるいずれかの目的のために細胞を一定時間、培地またはそれに準じた液の中で維持することをいう。処理を特定の温度で一定時間行う場合に、インキュベート(する)ということがある。
【0016】
培地には、IL-2が、本発明の目的を達成できる濃度で添加される場合がある。IL-2の濃度は、2500IU/mL~2813IU/mLの場合がある。IL-2は、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。IL-2の濃度は、国内標準単位(JRU)および国際単位(IU)で示される場合がある。1IUが約0.622JRUであるから、既存の培地の1750JRU/mLは、約2813IU/mLに相当する。
【0017】
上述したIL-2と同時にまたはIL-2に代えて、IL-12、IL-15、およびIL-18からなる群より選択されるいずれかが本発明の目的を達成できる濃度で添加される場合がある(非特許文献2:Leong JW et al. Biol Blood Marrow Transplant 20 (2014) 463-473)。各々の濃度は、他のサイトカインの有無や濃度に関わらず、1pg/mL~1μg/mLの場合がある。IL-2は、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。
【0018】
培地には、被験者の自家血清、BioWhittaker社その他から入手可能なヒトAB型血清や、日本赤十字社から入手可能な献血ヒト血清アルブミンが添加される場合がある。自家血清およびヒトAB型血清は1ないし10%の濃度で添加されることが好ましく、献血ヒト血清アルブミンは1ないし10%の濃度で添加されることが好ましい。血清とともに、または血清の代わりに、ヒト血小板溶解物(Human platelet lysate:HPL)を添加してもよい。HPLは市販されており、UltraGROTMシリーズ(AventaCell BioMedical社)等が販売されている。HPLを用いる場合には培地にはさらにヘパリンナトリウムを添加してもよい。
【0019】
培地には、NK細胞の培養効果を損なわないことを条件として、適切なタンパク質、サイトカイン、抗体、化合物その他の成分が含まれる場合がある。サイトカインは、上述したIL-2、IL-12、IL-15、およびIL-18のほか、IL-3、IL-7、IL-21、幹細胞因子(SCF)、および/または、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3L)の場合がある。これらはいずれも、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。
【0020】
培地は、無血清培地であることが好ましい。無血清培地は、血清アルブミン、トランスフェリン、およびインスリンを含んでいることが好ましい。リンパ球を培養するための無血清培地が開発、市販されており、本発明においてそれらを利用することができる。無血清培地の好ましい例の一つは、基礎培地に、ヒトT 細胞の増殖をサポートする組成として市販されているCTS Immune Cell SR(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を添加したものである。
【0021】
培地の交換または補充は、目的とする培養効果が得られることを条件として、培養開始後いつ行われてもかまわないが、3~5日毎が好ましい。
【0022】
培養の際に用いる培養容器は、商業的に入手可能なディッシュ、フラスコ、プレート、マルチウェルプレートを含むが、これらに限定されない。培養条件は、NK細胞の培養効果を損なわないことを条件として特に限定されないが、37°C、5%CO2および飽和水蒸気雰囲気下の培養条件が一般的である。培養期間は、目的とする培養効果が得られることを条件として、特に限定されない。
【0023】
本発明が好ましく適用できる高活性NK細胞等には、下記の[1]、[2]、[3]および[4]が含まれる。
【0024】
[1] 下記(1)および(2)の特徴を備えるNK細胞:
(1)CD16陽性、CD56高発現性、かつCD57陰性である。
(2)NKG2C陽性、NKG2A陰性~低発現性、およびCD94陽性である。
【0025】
[1]の高活性NK細胞は、CD16高発現性であってもよい。また[1]の高活性NK細胞は、CD16高発現性であるか否かにかかわらず、さらに下記の特徴を備えていてもよい。
(3)該NK細胞をエフェクター細胞(E)とし、K562細胞を標的細胞(T)として混合比(E:T)1:1で共培養した場合の細胞傷害活性が50%以上である。
【0026】
[1]の高活性NK細胞は、下記のように表すこともできる:
健常人由来末梢血単核球から、CD3ビーズ(例えば、CliniMACS CD3, ミルテニーバイオテク社, カタログ番号130-017-601)、LDカラム(例えば、ミルテニーバイオテク,カタログ番号130-042-901)および分離バッファー(例えば、0.5%ヒトAB型血清(非働化処理したもの)、2mM EDTAを含むPBS)を用いてCD3陽性細胞を除去した細胞集団を、適切な培地(例えば、5%ヒトAB型血清(非働化処理したもの)を添加したコスメディウム008)で14日間培養して得られ、下記(1)および(3)の特徴を備えるNK細胞:
(1)CD16陽性、CD56高発現性、かつCD57陰性である。
(3)該NK細胞をエフェクター細胞(E)とし、K562細胞を標的細胞(T)として混合比(E:T)1:1で共培養した場合の細胞傷害活性が50%以上である。
【0027】
[1]の高活性NK細胞の特徴の詳細や、より具体的な製造方法は、特開2018-193303を参照することができる。
【0028】
[2] 下記の細胞:
CCR5陽性、CCR6陽性およびCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞。
【0029】
[2]の細胞は、更にCD11c高発現性であってもよい。
【0030】
[2]の細胞は、下記のように表すこともできる:
CCR5陽性、CCR6陽性、CXCR3陽性、Integrin α1陽性、Integrin α3陽性およびIntegrin β3陰性であり且つCD3陰性である細胞。あるいは、CCR5陽性、CCR6陽性、CXCR3陽性、CD11a高発現性およびCD11c高発現性であり且つCD3陰性であり、高発現性は、末梢血から得た、実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団における発現との比較により判断される、細胞。
【0031】
[2]の細胞は、本発明者らの検討によると、腫瘍塊を形成した固形がんに対し、極めて高い細胞傷害活性を示す。[2]の細胞の特徴の詳細や、より具体的な製造方法は、特開2019-170176を参照することができる。
【0032】
[3] 下記の方法で得られうる、高活性NK細胞:
新鮮末梢血から、または凍結アフェレーシス血液から得た単核球にCD3 beads (例えば、CliniMACS CD3,ミルテニーバイオテク,130-017-601(1x107細胞あたり5μL))、および凍結アフェレーシス血液を使用した場合はさらにCD34 beads(例えば、CliniMACS CD34,ミルテニーバイオテク,130-017-501(1x107細胞あたり2.5μL))を添加・懸濁し、4℃,15分間インキュベート後、分離バッファー(例えば、0.5%ヒトAB型血清(56℃で30分の非働化処理したもの)、2mM EDTAを含むPBS)を加えてよく懸濁し、遠心する。上清を除去し、LDカラム(例えば、ミルテニーバイオテク,130-042-901)1カラムあたり最大1x108cellsまでの細胞数となるように0.5mLの分離バッファーに懸濁する。分離バッファー2mLをあらかじめ添加したのち、LDカラムに細胞懸濁液を添加して、LDカラムからの溶出液を回収した。さらに分離バッファー1mLをLDカラムに添加し、溶出液を回収する。回収した液の遠心分離を行い、上清を除去後、末梢血を使用した場合は5x105cells/mL、凍結アフェレーシス血液を使用した場合は1x106cells/mLとなるように適切な培地(例えば、5%ヒトAB型血清(56℃で30分の非働化処理したもの)あるいは5%UltraGRO(AventaCell、HPCPLCRL10)に2U/mLヘパリンナトリウムを添加したもの、のいずれか一方を含むKBM501培地)に細胞を懸濁し、適宜培地交換しながら、14日目まで培養する。
【0033】
[3]の高活性NK細胞の、具体的な製造方法は、本明細書の実施例の項を参照することができる。
【0034】
[4] [1]~[3]の細胞を得るに際し、IL-2と同時にまたはIL-2に代えて、IL-12、IL-15、およびIL-18からなる群より選択されるいずれかが本発明の目的を達成できる濃度で添加し、培養することにより得られる細胞。このような細胞の具体的な製造方法は、前掲非特許文献2を参照することができる。
【0035】
なお以下では、本発明を、高活性NK細胞を用いる場合を例に説明することがあるが、当業者であればその説明に準じて、本発明を、他の、体外で何らかのサイトカインを用いることによる活性化操作を経た細胞を用いる場合についても理解できる。
【0036】
(細胞傷害活性)
本発明に関し、高活性NK細胞等について、活性または細胞傷害活性というときは、特に記載した場合を除き、対象細胞(エフェクター細胞、E)の標的細胞(T)に対する溶解能を指す。細胞傷害活性は、エフェクター細胞により死に至った標的細胞の百分率(%)で表すことができ、次式により求められる。
【0037】
(エフェクター細胞と共培養した場合の細胞死-自然細胞死(陰性コントロール))/(最大細胞死(陽性コントロール)-自然細胞死(陰性コントロール))×100
【0038】
細胞傷害活性の測定に際しては、一般的には、エフェクター細胞の細胞傷害活性の程度等に応じ、エフェクター細胞と標的細胞の混合比(E:T)、エフェクター細胞と標的細胞の共培養の時間は、用いる細胞の種類や活性の強さに応じて適宜とすることができる。NK細胞をエフェクター細胞とするとき、標的細胞は、K562細胞、急性骨髄性白血病細胞、慢性骨髄性白血病細胞の場合があるが、これらに限定されない。エフェクター細胞と標的細胞、生細胞と死細胞は、放射性物質、蛍光色素等で標識した抗体等の試薬により、区別し、また定量することができる。NK細胞をエフェクター細胞とするときの細胞傷害活性は、例えばK562細胞を標的細胞とし、E:T=1:0.05~10、好ましくは1:0.1~5とし、インキュベート時間を0.5~18時間、好ましくは1~12時間の条件で測定することができる。
【0039】
本発明に関し、NK細胞等の活性が高いというときは、特に記載した場合を除き、標的細胞をK562細胞とし、E:T=2:1で混合し、1~3時間、より特定すると2時間、共培養した場合の細胞傷害活性が50%以上であることをいう。活性は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0040】
[回収]
本発明においては、後述する凍結工程に先立ち、凍結すべき高活性NK細胞等を培養系から回収する。回収は、遠心分離して培地と細胞を分離することにより行うことができる。必要に応じ、培養系に適切な濃度のEDTAを加え、接着した細胞を培養容器表面から剥離してもよい。また、培地をしたあとの培養容器表面を適切な溶液で洗浄して、残った細胞を得てもよい。得られた細胞は、必要に応じ、適切な溶液で洗浄し、適切な溶液に懸濁する。
【0041】
回収工程においては、細胞の剥離や洗浄のために、培地、等張液、緩衝液等の溶液を用いることができる。使用可能な培地の例として、KBM501培地、コスメディウム008、FKCM101、CellGro SCGM培地、X-VIVO15培地、Gibco(登録商標)CTS(登録商標)AIM V(登録商標)Medium、CTS OpTmizer T Cell Expansion Basal Medium、IMDM、MEM、DMEM、RPMI-1640が挙げられる。等張液とは、体液(血漿)の浸透圧(285±5mOsm/L)とほぼ等しい浸透圧をもつ液をいい、本発明に関しては、浸透圧が285±13mOsm/Lである液をいう。例えば、Plasma-Lyte Aの浸透圧は、294mOsm/Lであり、PBS(-)の浸透圧は、280±4mOsm/L(氷点降下法)である。使用可能な等張液の例として、Plasma-Lyte A(Baxter)、生理食塩水、リンゲル液(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等)、5%グルコース水溶液が挙げられる。使用可能な緩衝液の例として、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate-buffered saline:PBS)、Tris塩酸緩衝液、Tris酢酸緩衝液、HEPES緩衝液が挙げられる。
【0042】
回収工程において用いる溶液の好ましい例の一つは培地であり、より好ましくはヒトリンパ球培養用培地である。ヒトリンパ球培養用培地は、ヒト血清アルブミン、ヒトトランスフェリン、組換え型ヒトインスリン、および組換え型ヒトIL-2を含んでいてもよい。このような培地の好ましい例は、KBM501培地、FKCM101またはコスメディウム008である。KBM501培地は、ヒト血清アルブミン、ヒトトランスフェリン、組換え型ヒトインスリン、組換え型ヒトIL-2を含み、それ以外のタンパク質は含まない。また、KBM501培地は、抗生物質(カナマイシン)、NaHCO3、L-Glutamine、pH調整剤を含む。
【0043】
回収工程において、PBS(-)を用いると、解凍時の細胞の生存率が低下し、好ましくない場合がある。PBS(-)は、典型的には、塩化ナトリウム136.9mM、塩化カリウム2.68mM、リン酸水素二ナトリウム8.1mM、リン酸水素カリウム1.47mMを含む。
【0044】
[前処理]
本発明においては、後述する凍結工程に先立ち、凍結すべき高活性NK細胞等を前処理してもよい。前処理とは、回収した細胞を添加剤を含む溶液に懸濁することである。前処理は、添加剤を含む溶液で回収することを含む。
【0045】
前処理に用いる添加剤としては、胆汁酸およびフェニル酪酸からなる群より選択されるいずれかを用いることができる。胆汁酸の例は、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、ケノデオキシコール酸、コール酸、ヒオデオキシコール酸、デオキシコール酸、7-オキソリトコール酸、リトコール酸、ヨードデオキシコール酸、イオコール酸、タウロケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、グリコウルソデオキシコール酸、タウロコール酸、グリココール酸またはその類似体、誘導体である。フェニル酪酸の例は、4-フェニル酪酸(4-PBA)、グルセリル(トリ-4-PBA)、フェニル酢酸、2-POAA-OMe、2-POAA-NO2、2-NOAAまたはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグである。前処理に用いる添加剤の特に好ましい例は、TUDCAおよび4-PBAからなる群より選択されるいずれかである。
【0046】
前処理のための添加剤として胆汁酸を用いる場合は、濃度は適宜としうるが、好ましくは100~5000μMであり、より好ましくは200~2500μMであり、さらに好ましくは400~1000μMである。このような範囲は、TUDCAを用いる場合に特に適している。前処理のための添加剤としてフェニル酪酸を用いる場合、濃度は適宜としうるが、好ましくは1~1000μMであり、より好ましくは5~500μMであり、さらに好ましくは10~100μMである。このような範囲は4-PBAを用いる場合に特に適している。
【0047】
前処理のための添加剤の他の例は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。濃度は適宜としうるが、好ましくは0.5~15%であり、より好ましくは1~12.5%であり、さらに好ましくは2~10%である。
【0048】
前処理のための溶液は、回収の際に用いる溶液と同様、培地、等張液、緩衝液等の溶液であり得る。前処理において用いる溶液の好ましい例の一つは培地であり、より好ましくはヒトリンパ球培養用培地であり、さらに好ましくはKBM501培地、FKCM101またはコスメディウム008である。前処理に用いる培地はまた、ヒト血清アルブミン、ヒトトランスフェリン、組換え型ヒトインスリン、および組換え型ヒトIL-2を含んでいてもよく、抗生物質(カナマイシン)、NaHCO3、L-Glutamine、pH調整剤を含んでいてもよい。
【0049】
前処理のための時間は、特に限定されない。前処理のために細胞を懸濁した後数分~数時間、例えば5分~4時間、より好ましくは30分~3時間、懸濁液を静置してもよい。静置は環境温度(例えば1~30℃、典型的には15~25℃で行ってもよく、CO2インキュベーター中(例えば36~42℃、典型的には37℃)で行ってもよい。
【0050】
前処理の際の細胞密度は適宜とすることができるが、細胞の維持に適した細胞密度とするとよい。具体的には、1x105~1x107cells/mLであり、好ましくは2x105~5x106cells/mLであり、より好ましくは5x105~2x106cells/mLである。
【0051】
特に好ましい態様において、前処理は、TUDCAを400~1000μM、または4-PBAを10~100μM添加したKBM501培地、FKCM101またはコスメディウム008に、細胞密度が5x105~2x106cells/mLとなるように懸濁することである。このとき、37℃、5% CO2下で30分~3時間インキュベートするとよい。
【0052】
本発明において前処理は必須ではないが、高活性NK細胞等を凍結前に4-PBAまたはTUDCAを添加したKBM501培地で前処理することにより、前処理しなかった場合に比較して、細胞を解凍した際の生存率(回収率ということもできる)が改善され得る。
【0053】
[凍結]
本発明においては、回収され、好ましくは前処理された細胞は、通常の手順によって、凍結される。具体的には、必要に応じ細胞数や生存率を確認し、遠心分離して上清を除去した後、適切な細胞密度になるように凍結保存液に細胞を懸濁する。細胞懸濁液を凍結保存用の容器に分注した後、-80℃のディープフリーザーで凍結し、保存する。必要に応じ、液体窒素タンクで凍結保存する。
【0054】
本発明において用いることのできる凍結保存液は、ナトリウム塩、カリウム塩、糖類、炭酸水素塩、炭酸塩、および凍害保護剤を含有しうる。
【0055】
使用可能なナトリウム塩は、溶媒に溶解した際にナトリウムイオンを生じるものであれば特に限定はなく、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等であり得る。ナトリウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。本発明において、1種類としては塩化ナトリウムが、複数種類としては塩化ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムが好適に使用される。ナトリウム塩含有量は特に限定されないが、凍結保存液に含まれる全ナトリウムイオンの終濃度として、好ましくは0.01~5000mMであり、より好ましくは0.1~1000mMであり、さらに好ましくは1~300mMである。
【0056】
使用可能なカリウム塩は、溶媒に溶解した際にカリウムイオンを生じるものであれば特に限定はなく、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等であり得る。カリウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。本発明において、塩化カリウムが好適に使用される。カリウム塩含有量は特に限定されないが、凍結保存液に含まれる全カリウムイオンの終濃度として、好ましくは0.01~5000mMであり、より好ましくは0.1~1000mMであり、さらに好ましくは1~100mMである。
【0057】
使用可能な炭酸水素塩は、溶媒に溶解した際に炭酸水素イオンを生じるものであれば特に限定はなく、種々の陽イオンとの塩を用いることができる。例えば、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム等が挙げられる。使用可能な炭酸塩は、溶媒に溶解した際に炭酸イオンを生じるものであれば特に限定はなく、種々の陽イオンとの塩を用いることができる。例えば、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。これら炭酸水素塩および/または炭酸塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。本発明において、炭酸水素ナトリウムが好適に使用される。炭酸水素塩および/または炭酸塩の含有量は特に限定されないが、凍結保存液に含まれる炭酸水素イオンと炭酸イオンの合計の終濃度として、好ましくは0.01~1000mMであり、より好ましくは0.1~500mMであり、さらに好ましくは1~100mMである。
【0058】
凍結保存液におけるナトリウムイオンとカリウムイオンの濃度比(ナトリウムイオン/カリウムイオン)は、好ましくは1/1000~1000/1、より好ましくは1/100~100/1、さらに好ましくは1/10~100/1、さらに好ましくは1/1~100/1、さらに好ましくは10/1~50/1である。
【0059】
使用可能な糖類は、単糖、オリゴ糖または糖アルコールであり、例えば、単糖としてはグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、オリゴ糖としてはトレハロース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、糖アルコールとしてはキシリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの糖類は、1種類または複数種類を組み合わせてもよいが、本発明においては好ましくは、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、キシロース、およびアラビノースからなる群より選択される少なくとも1種類の糖類であり、より好ましくはグルコースである。糖類の含有量は、凍結保存液中、好ましくは0.01~100g/L、より好ましくは0.1~100g/L、さらに好ましくは0.25~50g/Lである。
【0060】
使用可能な凍害保護剤の例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ハイドロキシエチルスターチ(HES)、エチレングリコール、グリセロール等が挙げられる。凍害保護剤は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。本発明において、DMSOおよびハイドロキシエチルスターチからなる群より選択されるいずれかが好適に使用される。凍害保護剤としてDMSOおよびハイドロキシエチルスターチを併用する場合、総含有量は前記範囲内に含まれることが好ましく、かつそれぞれの濃度が、DMSO濃度は、好ましくは0.01~50%、より好ましくは1~30%、さらに好ましくは2~15%であり、ハイドロキシエチルスターチ濃度は、好ましくは0.01~50%、より好ましくは1~30%、さらに好ましくは2~15%である。
【0061】
本発明の好適な態様においては、上記の本発明の細胞の凍結保存方法に使用される溶液の必須の成分に加えて、タンパク質、マグネシウム塩およびカルシウム塩からなる群より選択される成分をさらに含有させてもよい。使用可能なタンパク質は、具体的には、血清アルブミン、血清グロブリン等が挙げられる。また血清アルブミンとしては、ヒト血清アルブミン、またはウシ血清アルブミンが挙げられる。本発明において、ヒト血清アルブミンが好適である。タンパク質の含有量は、凍結保存液中、好ましくは0.01~50%、より好ましくは1~30%、さらに好ましくは2~15%である。使用可能なマグネシウム塩は、溶媒に溶解した際にマグネシウムイオンを生じるものであれば特に限定はなく、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等を用いることができる。マグネシウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。本発明において、塩化マグネシウムが好適に使用される。マグネシウム塩含有量は特に限定されないが、凍結保存液に含まれる全マグネシウムイオンの終濃度として、好ましくは0.01~10mMであり、より好ましくは0.1~5mMである。使用可能なカルシウム塩は、溶媒に溶解した際にカルシウムイオンを生じるものであれば特に限定はなく、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等を用いることができる。カルシウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。本発明において、塩化カルシウムが好適に使用される。カルシウム塩含有量は特に限定されないが、凍結保存液に含まれる全カルシウムイオンの終濃度として、好ましくは0.01~10mMであり、より好ましくは0.1~5mMである。また、凍結保存液には、上記の成分以外に、細胞への傷害性のない物質、例えば、ビタミン類、アミノ酸類等をさらに含有させてもよい。また凍結保存液は、上記の成分以外に、pH調整や緩衝作用を発揮する観点から、リン酸イオンを含有してもよい。
【0062】
凍結保存液の浸透圧は凍結時に細胞に対して損傷を与えない範囲であることが望ましく、凍結時に細胞への成分の浸透性を高めること、および氷晶形成阻害の観点から、例えば500~8000mOsm/Lであり、1000~7500mOsm/Lであってもよく、1500~7000mOsm/Lであってもよく、1800~5000mOsm/Lであってもよい。凍結保存液のpHは、細胞に対して損傷を与えない範囲であることが望ましく、例えば、3.0~10.0であり、4.5~9.0であることがより好ましい。
【0063】
本発明においては、市販の凍結保存用液を用いてもよい。使用可能な製品の例として、細胞・組織用凍結保存液セルバンカーシリーズ(STEM-CELLBANKER(登録商標))、より特定するとSTEM-CELLBANKER(ZENOAQ、CB045)挙げることができる。
【0064】
凍結の際の細胞は、対数増殖期にあるものであることが好ましい。
【0065】
凍結の際の細胞密度は適宜とすることができるが、具体的には、1x106~2x108cells/mLであり、好ましくは2x106~1x108cells/mLであり、より好ましくは1x107~5x107cells/mLである。好ましい態様の一つにおいては、細胞は、5mLの容量の容器に、4x107cells/mLで保存される。高活性NK細胞の凍結出荷に際して高密度凍結が可能であることは、製品をよりコンパクトにし、輸送コストの低減に資する。
【0066】
[解凍]
本発明においては、凍結保存された細胞は、種々の手順によって解凍できる。例えば、細胞の入った凍結保存用の容器を37℃の温浴などで、必要に応じ振りながら迅速に解凍できる。あるいは、冷凍庫から取り出した後に積極的な加温をせず、室温に放置して自然解凍できる。解凍後の細胞は適切な解凍時溶媒Iに混和する。必要に応じ、遠心分離を行って上清を除去し、適量の解凍時溶媒IIに懸濁し、培養や活性化処理を行うことができる。
【0067】
(解凍時溶媒I)
本発明においては、凍結保存のための液に懸濁して凍結した細胞を、解凍し、凍結保存のための液とともに希釈する際に用いる溶液を、解凍時溶媒Iという。本発明により回収し、必要に応じ前処理を行って凍結保存された細胞に対しては、解凍時溶媒Iとして種々のものを用いうる。
【0068】
好ましい態様の一つにおいて、解凍時溶媒Iは、ナトリウム塩、カリウム塩、グルコン酸塩、および酢酸塩を含有しうる。さらにマグネシウム塩を含んでいてもよい。
【0069】
解凍時溶媒Iに使用可能なナトリウム塩は、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等であり得る。ナトリウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。解凍時溶媒Iは、好ましくは、塩化ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムからなる群より選択されるいずれかを含み、より好ましくは、塩化ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムを含む。解凍時溶媒Iのナトリウム塩の含有量は、全ナトリウムイオンの終濃度として、好ましくは14.0~200mMであり、より好ましくは28.0~182mMであり、さらに好ましくは70.0~168mMである。あるいは、塩化ナトリウムとして、9.00~108mM、グルコン酸ナトリウムとして2.30~27.7mM、酢酸ナトリウムとして、2.70~32.5mM含むことが好ましい。
【0070】
解凍時溶媒Iに使用可能なカリウム塩は、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等であり得る。カリウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。解凍時溶媒Iは、好ましくは、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、および酢酸カリウムからなる群より選択されるいずれかを含み、より好ましくは、塩化カリウムを含む。解凍時溶媒Iのカリウム塩の含有量は、全カリウムイオンの終濃度として、好ましくは0.50~8.0mMであり、より好ましくは1.0~7.0mMであり、さらに好ましくは2.5~6.0mMである。あるいは、塩化カリウムとして、0.496~5.96mM含むことが好ましい。
【0071】
解凍時溶媒Iに使用可能なグルコン酸塩は、溶媒に溶解した際にグルコン酸イオンを生じるものであれば特に限定はなく、種々の陽イオンとの塩を用いることができる。例えば、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム等が挙げられる。解凍時溶媒Iは、好ましくはグルコン酸ナトリウムを含む。解凍時溶媒Iのグルコン酸塩の含有量は、全グルコン酸イオンの終濃度として、好ましくは2.3~32.3mMであり、より好ましくは4.6~29.9mMであり、さらに好ましくは12.5~27.7mMである。
【0072】
解凍時溶媒Iに使用可能な酢酸塩は、溶媒に溶解した際に酢酸イオンを生じるものであれば特に限定はなく、種々の陽イオンとの塩を用いることができる。例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。解凍時溶媒Iは、好ましくは酢酸ナトリウムを含む。解凍時溶媒Iの酢酸塩の含有量は、全酢酸イオンの終濃度として、好ましくは2.7~37.8mMであり、より好ましくは5.4~35.1mMであり、さらに好ましくは13.5~32.5mMである。
【0073】
このような解凍時溶媒Iとして、市販の等張液を用いてもよい。使用可能な製品の例として、Plasma-Lyte A、およびそれを水で希釈した液を挙げることができる。具体的には以下を含む液である。
・塩化ナトリウム 9.00 ~108mM
・グルコン酸ナトリウム 2.30~27.7mM
・酢酸ナトリウム 2.70~32.5mM
・塩化カリウム 0.496~5.96mM
・塩化マグネシウム 0.148~1.78mM
【0074】
別の好ましい態様において、解凍時溶媒Iは、ナトリウム塩のみを含有しうる。このような解凍時溶媒Iに使用可能なナトリウム塩は、オキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩または有機酸塩等であり得る。ナトリウム塩は、1種類または複数種類を組み合わせてもよい。解凍時溶媒Iは、好ましくは、塩化ナトリウムのみを含む。解凍時溶媒Iのナトリウム塩の含有量は、全ナトリウムイオンの終濃度として、好ましくは15.4~216mMであり、より好ましくは30.8~200mMであり、さらに好ましくは70.0~185mMである。
【0075】
このような解凍時溶媒Iとして、生理食塩水またはそれを水で希釈した液を用いてもよい。
【0076】
凍結保存のための液とともに解凍時溶媒Iに懸濁された細胞は、そのまま投与に用いることができる。投与に用いるとの観点からは、凍結保存のための液と解凍時溶媒Iとを混合した後の、混合液が等張となる(体液とほぼ等しい浸透圧をもつ、具体的には285±13mOsm/Lである)ことが好ましい。凍結保存のための液は、好ましい態様においては高張液(例えば、1500~7000mOsm/L)であるため、解凍時溶媒Iは浸透圧の低い液であってもよい。当業者であれば、凍結保存のための液の解凍時溶媒Iによる希釈倍率を考慮し、解凍時溶媒Iの成分濃度を適宜決定できる。
【0077】
またここでの希釈倍率が高い(例えば15倍以上)場合は、凍結保存のための液の組成が混合液の浸透圧に与える影響が少ないといえるため、解凍時溶媒Iとしては、等張の液用いることが好ましい。このような観点からは、解凍時溶媒Iは、具体的には以下を含む液である。
・塩化ナトリウム 85.5 ~94.5mM
・グルコン酸ナトリウム 21.8~24.2mM
・酢酸ナトリウム 25.6~28.5mM
・塩化カリウム 4.71~5.21mM
・塩化マグネシウム 1.40~1.55mM
あるいは、解凍時溶媒Iは、具体的には以下を含む液である。
・塩化ナトリウム 146.3 ~161.7mM
【0078】
いずれの組成であっても、解凍時溶媒Iは、カルシウムイオンを0.423mM以上の濃度で含まないことが好ましい。またいずれの組成であっても、解凍時溶媒Iは、グルコースを5.55mM以上の濃度で含まないことが好ましい。さらにいずれの組成であっても、解凍時溶媒Iは、乳酸塩を27.7mM以上の濃度で含まないことが好ましい。解凍した細胞の生存率または細胞傷害活性が下がる場合があるからである。このような意味で、RPMI培地、Hanks’Balanced Salt Solution(HBSS)(+)、および乳酸リンゲル液は、解凍時溶媒Iとして用いるには適さない場合がある。
【0079】
いずれの組成であっても、解凍時溶媒Iは、40%以上の濃度では血清を含まないことが好ましく、血清を一切含まないことがより好ましい。血清を含むと、細胞の生存率が低下する場合があるからである。
【0080】
解凍時溶媒Iに懸濁する際の細胞密度は適宜とすることができるが、細胞の維持に適した細胞密度とするとするか、または投与に適した細胞密度とするとよい。具体的には、1x105~1x107cells/mLであり、好ましくは2x105~5x106cells/mLであり、より好ましくは5x105~2x106cells/mLである。
【0081】
解凍時溶媒I中で、細胞は比較的長時間維持できる。解凍時溶媒Iに細胞を懸濁した後数分~数時間、例えば5分~6時間、より好ましくは30分~4時間、懸濁液を静置してもよい。静置は環境温度(例えば1~30℃、典型的には15~25℃で行ってもよく、CO2インキュベーター中(例えば36~42℃、典型的には37℃)で行ってもよい。
【0082】
(解凍時溶媒II)
本発明においては、解凍時溶媒Iを用いて凍結した細胞を解凍した後、さらに解凍時溶媒IIを用いて、細胞を培養し、または活性化することができる。本発明においては、解凍時溶媒Iに懸濁した細胞を回収し、培養または活性化等のために再度懸濁するために用いる溶液を、解凍時溶媒IIという。解凍時溶媒IIとしては、目的に応じ、種々のものを用いることができる。
【0083】
[医薬組成物への利用]
本発明は、適切な方法で回収され、必要に応じ前処理され、凍結保存された高活性NK細胞等を含む、医薬組成物を提供する。
【0084】
本発明により提供される医薬組成物は、高活性NK細胞等に感受性を有するさまざまな疾患の治療および/または予防に適用することができる。このような疾患の例は、がん、または感染症であり、具体的には、皮膚がん、口腔がん、胆嚢がん、胆管がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、腎臓がん、卵巣がん、膀胱がん、前立腺がん、神経芽腫、白血病や、ウイルス、細菌等による感染症を含むが、これらに限定されない。なお、本発明者らは、本願の方法で凍結・解凍された細胞を用いて、無治療では30日以内に死滅する大腸がんモデル動物に対する効果を確認している。
【0085】
本発明の医薬組成物による細胞療法は、単独か、あるいは外科療法、化学療法、放射線療法、抗体医薬品等と組み合わせて実施される場合がある。
【0086】
本発明により提供される医薬組成物の一態様の特長を下記に示す。
【0087】
(剤形)
注射剤(細胞懸濁液)
【0088】
(成分・含量)
構成細胞:高活性NK細胞等
含量:6×106個~4.8×109cells/60kg
【0089】
(副成分)
複合電解質液 10~45%
塩化ナトリウム液 10~45%
20~30%ヒト血清アルブミン液 5~30%
ジメチルスルホキシド 2~15%
その他
あるいは、
医薬添加物としてとして許容できる凍結保存液 100%
【0090】
(調製法)
凍結された組成物が完全に解凍するまで、37℃の恒温水槽等で解凍する。解凍後速やかに無菌的に、別途準備した医薬添加物として許容できる等張液に懸濁する。
【0091】
(解凍後の安定性)
解凍後の有効期間は、室温で保存するとき、6時間、好ましくは4時間である。
【実施例0092】
[参考例および実施例で共通の方法]
A) 高活性NK細胞の培養方法
原材料1:末梢血利用の場合
健常人ボランティアより末梢血を採取し、Ficoll(GEヘルスケア、17144002)を用いた密度勾配遠心により末梢血単核球(PBMCs: Peripheral blood mononuclear cells)を単離した。
【0093】
原材料2: 凍結アフェレーシス血液の場合
凍結アフェレーシス血液(HemaCare, PB001CLP)を解凍し、Lovo Cell Processing System(FRESENIUS KABI)を使用して洗浄と濃縮を行い、PBMCsを得た。
【0094】
得られたPBMCsにCD3 beads※1、CD34 beads※2(凍結アフェレーシス血液を使用した場合)を添加・懸濁し、4℃, 15分間インキュベート後、分離バッファー※3を加えてよく懸濁し、300 x g、10分間、遠心分離を行った。上清を除去し、LDカラム(ミルテニーバイオテク, 130-042-901)1カラムあたり最大1x108 cellsまでの細胞数となるように0.5 mLの分離バッファーに懸濁した。分離バッファー 2 mLをあらかじめ添加したのち、LDカラムに細胞懸濁液を添加して、LDカラムからの溶出液を回収した。さらに分離バッファー 1 mLをLDカラムに添加し、溶出液を回収した。その後、分離バッファー1 mLでカラムをwashし、回収された液中の細胞数をカウントし、総細胞数を算出した。500 x g、5分間、遠心分離を行い、上清を除去後、原材料1: 末梢血を使用した場合は5x105 cells/mL、原材料2: 凍結アフェレーシス血液を使用した場合は1x106 cells/mLとなるようにKBM501培地※4に懸濁した。培養は、6ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック, 140675)、T-75フラスコ(サーモフィッシャーサイエンティフィック, 156499)または接着培養用バッグ(ニプロ)を使用し、CO2インキュベーターで行った(37℃, 5% CO2)。培養9日目に最終液量が、6ウェルプレートの場合は1ウェルあたり6 mL、T-75フラスコの場合は1フラスコあたり50 mL、バッグの場合は1バッグあたり500mlになるようにKBM501培地を添加し、14日目までインキュベートした。
以下では、PBMCsからこの培養工程を経ることにより得た細胞を、「高活性化NK細胞様CD3陰性細胞(Highly activated NK cell-like CD3-negative cells)」または単に「高活性NK細胞」と称する。
【0095】
※1:CliniMACS CD3, ミルテニーバイオテク, 130-017-601(1x107細胞あたり5μL)
※2:CliniMACS CD34, ミルテニーバイオテク, 130-017-501(1x107細胞あたり2.5μL)
※3: 0.5%ヒトAB型血清(コスモバイオ, 12181301, 56℃で30分の非働化処理したもの)、2 mM EDTA(サーモフィッシャーサイエンティフィック, 15575-020)を含むPBS(ナカライテスク、14249-24)
※4: 5%ヒトAB型血清(コスモバイオ, 12181301, 56℃で30分の非働化処理したもの)あるいは5%UltraGRO (AventaCell、HPCPLCRL10)に2U/mLヘパリンナトリウム(ニプロ)を添加したもの、のいずれか一方を含むKBM501(コージンバイオ,16025015)
【0096】
B) 高活性NK細胞の回収方法
回収方法1: 従来の方法
培養14日目に培養液を回収、さらに培養容器に1mM EDTAを加え接着した細胞を剥離し、剥離細胞を回収したあとの培養容器をPBS (ナカライテスク、14249-24)で洗浄した。すべての細胞回収液を遠心後、PBSで洗浄、再懸濁した。
【0097】
回収方法2: 本願の方法
培養14日目に培養液を回収、さらに培養容器に1mM EDTAを加え接着した細胞を剥離し、剥離細胞を回収したあとの培養容器をKBM501培地で洗浄した。すべての細胞回収液を遠心後、KBM501培地で洗浄、再懸濁した。
【0098】
C) 7-AADによる染色方法
各条件下で解凍した高活性NK細胞 1x105cells/wellを96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)にて遠心分離し、上清を除去後、PBSで希釈した7-Amino-Actinomycin D(7-AAD)溶液(Beckman Coulter, A07704)を添加、懸濁し、室温(15~25℃をいう。以下の実験において同じ。)で20分間インキュベートした。染色後の細胞をフローサイトメーター(BD LSR Fortessa、BDバイオサイエンス社)を用いて測定を行った。室温とは
[参考例]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞、PBMC、K562(ヒト慢性骨髄性白血病細胞株)、THP-1(ヒト急性単球性白血病細胞株)をMito-FerroGreen(同仁化学研究所、M489)にて反応させ、フローサイトメーター(BD LSR Fortessa、BDバイオサイエンス社)を用いて測定を行った。
【0099】
図Aに示したように高活性NK細胞は鉄の含有量が多い。形態学的な観察結果、および死ぬまでの時間から、凍結融解で高活性NK細胞のViabilityが顕著に低下するのは、Ferroptosis (酸化ストレス)、Apoptosis、Autophagy、NecrosisおよびNecroptosisの5形態を想定した。それぞれの形態に対する阻害剤を下記に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし、1x107cellsを1mLのSTEM-CELLBANKER (ZENOAQ、CB045)で懸濁し、-80℃で凍結した。48時間以上凍結させたNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍したのち、次に記載する溶媒にて10倍希釈し、各温度と時間で静置した後、光学顕微鏡にて観察、撮影した。
【0102】
<1> KBM501培地に希釈、37℃で3時間
<2> Z-Vadを含むKBM501培地に希釈、37℃で3時間
<3> Methylprednisoloneを含むKBM501培地に希釈、37℃で3時間
<4> Dexamethasoneを含むKBM501 培地に希釈、37℃で3時間
<5> KBM501培地に希釈、4℃で3時間
<6> Methylprednisoloneを含むKBM501培地に希釈、4℃で3時間静置後、37℃で3時間
<7> Dexamethasoneを含むKBM501培地に希釈、4℃で3時間静置後、37℃で3時間
【0103】
結果を図Bに示した。高活性NK細胞は凍結融解でViabilityが顕著に低下することが確認された。また、これは凍結融解後にMethylprednisolone、Dexamethasone、またはZ-Vadの添加によっても改善されなかった。
【0104】
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞について、回収後、表記のとおりの方法で凍結融解を行なった。
【0105】
凍結融解の条件とその結果を下記の表にまとめた。実験した条件では、PBSで洗浄した後に凍結した場合、あらゆるviability改善方法に不応答であった。一般に知られる細胞保護方法では目的の効果は得られ難いと考えられた。
【0106】
【表2】
【0107】
[実施例1]
(1-1) 健常人ボランティア2名それぞれから高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし、それぞれ1x107cells, 8x106cellsを1mLのSTEM-CELLBANKER (ZENOAQ、CB045)で懸濁し、-80℃で凍結した。48時間以上凍結させたNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍したのち、解凍直後として1x105cellsを96ウェルプレート(IWAKI)に分取した。また、KBM501培地、3500単位/mL IL-2(セロイク(登録商標)注射用40, 武田薬品工業)、139.9mMマルトースを含むラクトリンゲル(扶桑薬品工業)、3500単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte A(Baxter)、5.02mg/mL グルコン酸ナトリウム(ナカライ、16720-22)を含むKBM501培地で10倍希釈となるようにそれぞれ懸濁し、37℃、5% CO2下で3時間インキュベートした。解凍直後の細胞は分取後速やかに、そのほか4群は3時間インキュベート後に遠心分離し、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェア(FLOWJO, LLC)で解析し、生細胞率を算出した。
【0108】
(1-2) また、健常人ボランティア1名から、高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞5x106cellsについて同様に凍結、解凍を行い、同様に処理し、測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、生細胞率を算出した。
【0109】
結果を図1に示した。凍結した高活性NK細胞は、解凍時にPlasma-Lyte Aで希釈するとviabilityが改善した。解凍時、KBM501培地による希釈では、グルコン酸(グルコン酸ナトリウムは、Plasma-Lyte Aに含まれる成分の一つである。)を添加した場合にも改善は見られなかった。
【0110】
[実施例2]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞をカウントし5x106cells、1x107cellsを1mLのSTEM-CELLBANKERで懸濁し-80℃で凍結した。48時間以上凍結させたNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍したのち、解凍直後として1x105cellsを96ウェルプレートに分取した。また、KBM501培地、3500単位/mL IL-2を含むラクトリンゲル、3500単位/mLを含むPlasma-Lyte A、40% Serum(ヒトAB型血清)を含むPlasma-Lyte Aで10倍希釈となるようにそれぞれ懸濁し、37℃、5% CO2下で3時間インキュベートした。解凍直後の細胞は分取後速やかに、そのほか4群は3時間インキュベート後に遠心分離し、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、生細胞率を算出した。
【0111】
結果を図2に示した。凍結した高活性NK細胞は、解凍時にPlasma-Lyte Aで希釈するとViabilityが改善するが、40% Serum(ヒトAB型血清)を含むPlasma-Lyte Aで希釈するとViabilityは悪化した。
【0112】
[実施例3]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107cellsを1mLのSTEM-CELLBANKERで懸濁し-80℃で凍結した。48時間以上凍結させたNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍したのち、3500単位/mL IL-2 (イムネース、塩野義製薬株式会社)を含むPlasma-Lyte A(溶媒(1))、またはKBM501培地(溶媒(2))にて希釈し、次に記載する群ごとに希釈後の生細胞数および生細胞率、細胞傷害活性率(%Lysis)を算出した。
【0113】
<0> 解凍直後としてSTEM-CELLBANKERから分取
<1> 溶媒(1)にて10倍希釈、37℃で1時間静置後、等量のKBM501培地を添加し37℃で3時間インキュベート
<2> 溶媒(1)にて10倍希釈、37℃で1時間静置後、等量のIL-2を含むラクトリンゲルを添加し37℃で3時間インキュベート
<3> 溶媒(1)にて10倍希釈、37℃で1時間静置後、等量のKBM501培地を添加し37℃で一晩インキュベート
<4> 溶媒(1)にて10倍希釈、37℃で1時間静置後、等量のIL-2を含むラクトリンゲルを添加し37℃で一晩インキュベート
<5> 溶媒(1)にて10倍希釈、37℃で3時間静置
<6> 溶媒(2)にて10倍希釈、37℃で3時間静置
<7> 溶媒(2)にて10倍希釈、37℃で一晩静置
【0114】
(細胞傷害活性率の算出)
細胞傷害活性の測定には、NK細胞とK562細胞を反応させた群、陰性コントロールとしてK562細胞のみの群、陽性コントロールとしてK562細胞を10%ホルマリンで固定した群を用意した。
【0115】
《NK細胞》
各群記載した時間インキュベートしたあと、細胞を回収し、10%FBS/RPMI1640にて2x106cells/ mlの濃度に調製した。
【0116】
《K562細胞》
K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細胞株)を血清成分を含まないRPMI1640培地にて懸濁したK562細胞をPKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kit (Sigma, PKH26GL-1KT) を用いて染色し、最終的に10%FBS/RPMI1640にて2x106 cells/mLとなるように調製した。
【0117】
NK細胞とK562細胞は、細胞比で1:1となるように96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)に添加、混合し、37℃、5% CO2下で2時間反応させた。反応後、遠心分離(500 x g, 5分間)し、上清を除去後、PBSで希釈した7-AAD溶液を添加、懸濁し、室温で20分間インキュベートした。フローサイトメーターを用いて測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、細胞傷害活性率(%Lysis)を算出した※5
※5: 細胞傷害活性率=(SKOV3細胞死細胞率-陰性コントロール死細胞率)/(陽性コントロール死細胞率-陰性コントロール死細胞率)×100
【0118】
結果を図3に示した。高活性NK細胞を凍結・融解したものは、生細胞数とViabilityが相関した。また、生細胞数またはViabilityと細胞傷害活性活性は逆相関の傾向が見られた。さらに凍結・融解した細胞の処理液をPlasma-Lyte Aから他の溶液に切り替えるとViabilityが低下した。
【0119】
[実施例4]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x106 cells/mLとなるように以下に挙げる6種の溶媒で懸濁し、低吸着の6ウェルプレート(IWAKI、4810-800SP)に播種することにより凍結前処理を行った。前処理の溶媒には(1)10μM 4-フェニル酪酸(4-PBA、東京化成工業株式会社、P0643)を含むKBM501培地、(2)100μM 4-フェニル酪酸を含むKBM501培地、(3)Plasma-Lyte A、(4)3000単位/mL IL-2(イムネース、塩野義製薬株式会社)を含むPlasma-Lyte A、(5)10μM Salubrinal(TOCRIS、2347)を含むPlasma-Lyte A、(6)23mM グルコン酸ナトリウムを含むPBSを使用し、各溶媒で懸濁した細胞を(1)、(2)群は37℃、5% CO2下、(3)~(6)群は室温にて2時間インキュベートした。前処理後、処理時の細胞数をもとに1x107cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた前処理済みのNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、下記の通り希釈した。解凍後の希釈、インキュベートはすべて低吸着の6ウェルプレートにて行った。
【0120】
《前処理(1) 10μM 4-フェニル酪酸を含むKBM501培地》
1000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte Aまたは1000単位/mL IL-2および100μM 4-PBSを含むPlasma-Lyte Aにそれぞれ11倍希釈し、室温で1時間インキュベート後、KBM501培地に5倍希釈した。
【0121】
《前処理(2) 100μM 4-フェニル酪酸を含むKBM501培地》
Plasma-Lyte Aに11倍希釈し、室温で1時間インキュベート後、RPMI培地※6または2400単位/mL IL-2を含むRPMI培地にそれぞれ5倍希釈した。
【0122】
※6: 10%FBS(シグマ、172012-500ML、56℃で30分の非働化処理したもの)を添加したRPMI培地(ナカライテスク、30264-56)
【0123】
《前処理(3) Plasma-Lyte A》
1000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte Aまたは1000単位/mL IL-2および100μM 4-PBAを含むPlasma-Lyte Aにそれぞれ11倍希釈し、室温で1時間インキュベート後、KBM501培地に5倍希釈した。
【0124】
《前処理(4) 3000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte A》
Plasma-Lyte Aに11倍希釈し、室温あるいは37℃、5% CO2下で1時間インキュベート後、それぞれ RPMI培地、2400単位/mL IL-2を含むRPMI培地に5倍希釈した。
【0125】
《前処理(5) 10μM Salubrinal を含むPlasma-Lyte A》
1000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte A、1000単位/mL IL-2および100μM 4-PBAを含むPlasma-Lyte Aにそれぞれ11倍希釈し、室温で1時間インキュベート後、KBM501培地に5倍希釈した。
【0126】
《前処理(6) 23mM グルコン酸を含むPBS》
Plasma-Lyte Aに11倍希釈し、室温あるいは37℃、5% CO2下で1時間インキュベート後、それぞれRPMI培地、2400単位/mL IL-2を含むRPMI培地に5倍希釈した。
【0127】
培地に希釈した各群の細胞を37℃、5% CO2下で一晩インキュベートした後、生細胞数をカウントした。実験条件を下記にまとめた。
【0128】
【表3】
【0129】
結果を図4に示した。高活性NK細胞は、凍結前に4-PBAを添加したKBM501で処理すると解凍時のViabilityが改善された。
【0130】
[実施例5]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1と回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x106 cells/mLとなるように各種溶媒で懸濁し、低吸着の6ウェルプレートに播種することにより凍結前処理を行った。回収方法1で得られたNK細胞はPBSにて懸濁し、室温で1時間インキュベートした。回収方法2で得られたNK細胞は(1)KBM501培地、(2)30μM 4-フェニル酪酸を含むKBM501培地、(3)30μM Tauroursodeoxycholic Acid Dihydrate(TUDCA、東京化成工業株式会社、T1567)を含むKBM501培地、(4)30μM 4-フェニル酪酸および30μM TUDCAを含むKBM501培地で懸濁した細胞を37℃、5% CO2下で2時間インキュベートした。前処理後、処理時の細胞数をもとに1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた前処理済みの高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、各群それぞれPlasma-Lyte Aに11倍希釈、室温で1時間インキュベートした。1時間後、緩やかに懸濁し生細胞数をカウントした。さらにKBM501培地に5倍希釈し37℃、5% CO2下で2時間インキュベート後、生細胞数をカウントし凍結時の細胞数に対する回収率として算出した。
【0131】
結果を下表および図5に示した。高活性NK細胞を凍結前に4-PBAまたはTUDCAを添加したKBM501培地で前処理することにより、解凍時の回収率が改善された。
【0132】
【表4】
【0133】
[実施例6]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x106 cells/mLとなるようにKBM501培地のみ、或いはTUDCA(10μM, 30μM, 90μM, 270μM, 810μM)を含むKBM501培地で懸濁し、低吸着の6ウェルプレートに播種、37℃、5% CO2下で2時間インキュベートし凍結前処理を行った。前処理後、処理時の細胞数をもとに1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた前処理済みのNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、各群それぞれPlasma-Lyte Aを10倍量加え、室温で3時間までインキュベートした。1時間後と3時間後、緩やかに懸濁し生細胞数をカウントした。また、1時間後にはKBM501培地に5倍希釈し37℃、5% CO2下で2時間インキュベート後、生細胞数をカウントした。解凍後各ポイントでの生細胞数から凍結時の細胞数に対する回収率として算出した。また、各タイムポイントで高活性NK細胞の細胞傷害活性の測定を行った。
【0134】
(細胞傷害活性率の算出)
細胞傷害活性の測定には、NK細胞とK562細胞を反応させた群、陰性コントロールとしてK562細胞のみの群、陽性コントロールとしてK562細胞を10%ホルマリンで固定した群を用意した。
【0135】
《NK細胞》
記載の方法で解凍、希釈した細胞を凍結時の生細胞数をもとに必要量分取した後、10%FBS/RPMI1640にて2x106cells/mlの濃度に調製した。
【0136】
《K562細胞》
K562細胞を無血清RPMI1640培地にて懸濁し、PKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kitを用いて染色したのち、10%FBS/RPMI1640にて2x106 cells/mLとなるように調製した。
【0137】
NK細胞とK562細胞は、細胞比で2:1となるように96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)に添加、混合し、37℃、5% CO2下で2時間反応させた。反応後、遠心分離(500 x g, 5分間)し、上清を除去後、PBSで希釈した7-AAD溶液を添加、懸濁し、室温で20分間インキュベートした。フローサイトメーターを用いて測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、細胞傷害活性率(%Lysis)を算出した。
【0138】
前処理条件、および解凍条件とともに得られた回収率を下表に示した。高活性NK細胞を種々の濃度でTUDCAを添加したKBM501培地で前処理することにより、解凍後の回収率が改善された。
【0139】
【表5】
【0140】
細胞傷害活性の測定結果を図6に示した。前処理におけるTUDCA濃度依存的に細胞傷害活性改善がみられた。
【0141】
[実施例7]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x106 cells/mLとなるようにKBM501培地のみ、266μM, 810μM, 2400μM TUDCAを含むKBM501培地、2.4% DMSO(ナカライテスク、13445-74) を含むKBM501培地で懸濁、低吸着の6ウェルプレートに播種、37℃、5% CO2下で2時間インキュベートし凍結前処理を行った。前処理後、処理時の細胞数をもとに1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた前処理済みのNK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、各群それぞれPlasma-Lyte Aまたは3000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte Aに11倍希釈、室温で3時間までインキュベートした。1時間後と3時間後、緩やかに懸濁し生細胞数をカウントした。また、1時間後にはKBM501培地に5倍希釈し37℃、5% CO2下で2時間インキュベート後、生細胞数をカウントした。解凍後各ポイントでの生細胞数から凍結時の細胞数に対する回収率として算出した。
【0142】
また、解凍、希釈した各タイムポイントで高活性NK細胞のK562細胞に対する細胞傷害活性の測定を、実施例6に記載した方法で行った。
【0143】
さらに解凍後1時間目および3時間目の高活性NK細胞について、固形腫瘍モデルでの評価(3D killing assay)を行った。詳細には、凍結時の細胞数をもとに高活性NK細胞を1x106cells/mLとなるようにKBM501培地で調製した。384ウェルプレートにあらかじめ播種したSKOV3 sphere 1個に対し調製したNK細胞を50μL加え、37℃、5% CO2下で4日間反応させた。その後、細胞をAccutaseにて剥離回収し、24ウェルプレートでRPMI培地にて拡大培養した。37℃、5% CO2下で拡大培養した17日後の細胞を4% PFAで固定し、DAPIにて染色し蛍光顕微鏡(BZ-9000、KEYENCE)、BZ-II観察アプリケーションを使用してNKによる傷害を受けなかったSKOV3の面積定量を行った。
【0144】
《SKOV3 sphere》
SKOV3細胞(ヒト卵巣がん細胞株)を10%FBS/RPMI1640にて3x104 cells/mLとなるように調製し、96ウェルプレートの1ウェルあたり3x103/100μLを播種した。37℃、5% CO2下で3日間培養しsphereを作成した。
【0145】
前処理条件、および解凍条件とともに得られた回収率を下表に示した。高活性NK細胞を種々の濃度でTUDCAを添加したKBM501培地で前処理することにより、解凍後の回収率が改善された。
【0146】
【表6】
【0147】
また細胞傷害活性の測定結果を図7-1に、固形腫瘍モデルでの評価(3D killing assay) の結果を図7-2に示した。図7-1においてNK細胞を添加していないSKOV3 sphereはnegaと表記した。
【0148】
TUDCAの濃度幅を広げ、固形腫瘍モデルでの評価を追加したところ、凍結前に添加するTUDCAは2,400と267μMの間の濃度で用いることが好ましく、特に800μMで用いると回収率が高く、かつ固形腫瘍モデルに対する傷害活性が高かった。
【0149】
[実施例8]
(8-1) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、(1)Plasma-Lyte A、(2)1.48mM MgCl2・6H2O(ナカライテスク、20909-55)を含むPBS(-)、(3)PBS(-)、(4)KBM501培地、(5)62.2mg/L CaCl2・2H2O(ナカライテスク、08895-15)を含むPlasma-Lyte A、(6)0.1%グルコース(50%ブドウ糖、テルモ)を含むPlasma-Lyte A、(7)グルコース、(8)血清成分を含まないRPMI培地(ナカライテスク、09892-15)、(9)グルコースを含むRPMI培地(ナカライテスク、30264-85)に10倍希釈し、(1)~(4)は室温で2時間、(1)と(5)~(9)は37℃で3時間インキュベートした。その後7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0150】
(8-2) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法1または回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させたそれぞれの高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、(1)Plasma-Lyte A、(2)1.48mM MgCl2(ナカライテスク、95812-85)を含むPBS(-)、(3)PBS(-)、(4)KBM501培地、(5)ラクトリンゲル、(6)HBSS(+)(ナカライテスク、09735-75)に10倍希釈し、37℃で3時間インキュベートした。その後7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0151】
(8-3) (8-1)と同様に、ただし解凍後の細胞を希釈する溶媒としては(1)PBS、(2)Plasma-Lyte A、(3)27.7mEq/L 乳酸(ナカライテスク、20006-62)を含むPlasma-Lyte A、(4)48.84mg/L MgSO4・7H2O(ナカライテスク、21002-85)を含むPlasma-Lyte A、(5)ラクトリンゲル、(6)ヴィーンF (扶桑薬品工業)、(7)ソリタ-T1(エイワイファーマ)、(8)ソリタ-T3(エイワイファーマ)、(9) 5% ブドウ糖注射液(テルモ)、(10)RPMI培地を用い、37℃で3時間インキュベートした。なお、(3)に関し、乳酸はラクトリンゲル液の乳酸濃度に合わせて添加し、リトマス試験紙で中性であることを確認した。(4)に関し、MgSO4はHBSSのMgSO4濃度に合わせて添加した。その後7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0152】
(8-4) (8-2)と同様に、ただし解凍後の細胞を希釈する溶媒としては(1)PBS、(2)Plasma-Lyte A、(3)生理食塩液(大塚製薬)、(4)ビカネート(大塚製薬)、(5)ソルアセト-F(テルモ)を用いて、処理した。その後7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0153】
(8-5) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法1と回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスで解凍した。完全に溶けた直後に、(1)Plasma-Lyte A、(2)生理食塩液、(3)RPMI1640培地、(4)ラクトリンゲル、Plasma-Lyte Aにて調製した(5)0.423mM CaCl2、(6)1.36mM CaCl2で10倍希釈し、それぞれ37℃で3時間静置した。なお、(5)のCaCl2はRPMI1640培地に、(6)のCaCl2はラクトリンゲル液に合わせて添加したものである。その後7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0154】
(結果) FlowJoソフトウェアで解析した結果を、図8-1~8-5に示した。凍結前の溶媒を培地にすること、解凍後にはPlasma-Lyte Aを使うことでViabilityが改善できた。解凍し、希釈した後は、室温で維持できた(8-1)。
【0155】
[実施例9]
(9-1) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし4x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、3000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte Aに10倍希釈、室温で6時間まで静置した。解凍2時間後、5時間後、6時間後のポイントで細胞傷害活性についてそれぞれ解析を行った。細胞傷害活性は実施例9-1(b)に記載した方法にてNK細胞とK562細胞を細胞比で1:1となるように96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)に添加、混合したのち、37℃、5% CO2下で2時間反応させた。
【0156】
高活性NK細胞の培養方法、回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし4x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスにて解凍し、3000単位/mL IL-2を含むPlasma-Lyte Aに10倍希釈、室温で4時間まで静置した。解凍直後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後のポイントで、Viabilityの推移、細胞傷害活性(2時間反応固定、またはE:T=1:1固定)についてそれぞれ解析を行った。
【0157】
a) Viability推移
各ポイントで解凍細胞をよく混和し、1x105cellsを分取、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0158】
b) 細胞傷害活性(1)
細胞傷害活性の測定には、NK細胞とK562細胞を反応させた群、陰性コントロールとしてK562細胞のみの群、陽性コントロールとしてK562細胞を10%ホルマリンで固定した群を用意した。
【0159】
《NK細胞》
NK細胞を凍結時の生細胞数をもとに必要量分取した後、10%FBS/RPMI1640にて1x106cells/mLの濃度に調製した。
【0160】
《K562細胞》
K562細胞を無血清RPMI1640培地にて懸濁し、PKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kitを用いて染色したのち、10%FBS/RPMI1640にて2x106 cells/mLとなるように調製した。
【0161】
NK細胞とK562細胞は、細胞比で1:2、1:1、2:1、4:1となるように96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)に添加、混合し、37℃、5% CO2下で2時間反応させた。反応終了後、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、細胞傷害活性率(%Lysis)を算出した。
【0162】
c) 細胞傷害活性(2)
上記b). 細胞傷害活性(1)に記載した方法でNK細胞とK562細胞を調製し、NK細胞とK562細胞を細胞比で1:1となるように96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)に添加、混合したのち、37℃、5% CO2下で2時間、4時間、6時間、8時間反応させた。反応終了後、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、細胞傷害活性率(%Lysis)を算出した。
【0163】
(9-2) (9-1)と同様に、ただし解凍、希釈後は6時間まで静置し、2時間後、5時間後、6時間後のポイントで、上記 b)に記載した方法にて細胞傷害活性を測定した。詳細には、NK細胞とK562細胞を細胞比で1:1となるように96ウェルプレート(IWAKI, 4870-800SP)に添加、混合したのち、37℃、5% CO2下で2時間反応させた。反応終了後、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析し、細胞傷害活性率(%Lysis)を算出した。
【0164】
結果を図9-1および9-2に示した。適切な方法で高活性NK細胞を前処理し、凍結し、解凍し、希釈を行えば、投与形態で室温に静置しておいてもViabilityや活性は4時間維持可能であった。さらに活性は6時間まで維持可能なことを確認した。例えばCAR-T細胞製剤キムリアは投与形態(解凍後)で30分しかそのViability・活性を維持出来ないことが知られている。本発明は、免疫治療に用いる細胞のハンドリング性を大幅に向上するものである。
【0165】
[実施例10]
(10-1) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法1と回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mL(1.5ml tube。回収方法1、すなわち回収時にPBSで洗浄する場合)、4x107 cells/mL(5ml vial。回収方法2、すなわち回収時にKBM501培地で洗浄する場合)となるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を室温で解凍した。解凍した細胞を、完全に溶けた直後、5分、10分、15分、20分、25分、30分、60分、120分、180分のポイントでPlasma-Lyte AまたはKBM501培地に10倍希釈し、180分まで室温で静置した。180分まで希釈したあと7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0166】
(10-2) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法1と回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mL(1.5ml tube。回収方法1、すなわち回収時にPBSで洗浄する場合)、4x107 cells/mL(5ml vial。回収方法2、すなわち回収時にKBM501培地で洗浄する場合)となるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスで解凍した。解凍した細胞を、完全に溶けた直後、5分、10分、15分、20分、25分、30分、60分、120分、180分のポイントでPlasma-Lyte AまたはKBM501培地に10倍希釈し180分まで室温で静置した。180分まで希釈したあと7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0167】
結果を図10に示した。凍結前の回収時、PBSで洗浄した場合、容量が小さいため、室温での解凍に要する時間が短い(約15分)ものの、Viabilityは著しく低かった。一方KBM501培地で洗浄した場合は室温で自然解凍させた(約27分)後、2~3時間程度室温にそのまま静置しておいてもなお、そのviabilityが保たれていた。この方法は、解凍操作の許容範囲が極めて広く、製剤としてのハンドリング性が極めて良いといえる。
【0168】
また、解凍を37℃で行った場合も、回収時にKBM501培地で洗浄した場合に、解凍後2~3時間程度室温に静置しておいてもそのviabilityが保たれた。
【0169】
[実施例11]
高活性NK細胞の培養方法、回収方法1と回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mL(1.5ml tube)、4x107 cells/mL(5ml vial)となるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスで解凍した。完全に溶けた直後にPlasma-Lyte AまたはKBM501培地に10倍希釈し、室温で6時間まで静置した。希釈直後、1時間、2時間、3時間、6時間のポイントで1x105cellsを分取し、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0170】
回収時にKBM501培地で洗浄したものは、解凍後、Plasma-Lyte Aで希釈する場合がViabilityを高く保てる場合があることが分かった。加えて、凍結時の条件は、5ml vialであっても1.5ml tubeであっても良いが、5ml vial(4x107cells/ml)のほうがより良いことが分かった。高活性NK細胞の凍結出荷に際して高密度凍結が可能であることは、製品をよりコンパクトにし、輸送コストの低減に資する。
【0171】
[実施例12]
(12-1) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法2に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし4x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスで解凍した。完全に溶けた直後に、Plasma-Lyte AをUltraPure Distilled Water (invitrogen、10977-015)にて希釈した80% , 50%, 10% Plasma-Lyte Aで10倍希釈し、それぞれ室温と37℃で3時間まで静置した。希釈直後、1時間、2時間、3時間のポイントで1x105cellsを分取し、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0172】
(12-2) (12-1)と同様に細胞を処理し、解析した。ただしUltraPure Distilled Water (invitrogen、10977-015)の代わりに生理食塩液でPlasma-Lyte Aを希釈した80% , 50%, 10% Plasma-Lyte Aで10倍希釈し、それぞれ室温と37℃で3時間まで静置した。
【0173】
(12-3) (12-1)と同様に細胞を処理し、解析した。ただしUltraPure Distilled Water (invitrogen、10977-015)の代わりに生理食塩液でPlasma-Lyte Aを希釈したもの、または生理食塩液で10倍希釈し、それぞれ室温と37℃で3時間まで静置した。
【0174】
(12-4) (12-1)と同様に細胞を処理し、解析した。ただし細胞は完全に溶けた直後に、Plasma-Lyte A、生理食塩液、UltraPure Distilled Water にて調製した230mM NaCl2、150mM KCl、100mM MgCl2、11%トレハロース、10%スクロース、5%スクロース、Plasma-Lyte Aにて調製した10%、20% UltraGROで10倍希釈し、それぞれ室温で3時間まで静置した。
【0175】
(12-5) (12-4)と同様に細胞を処理し、解析した。ただし細胞をそれぞれの溶液で10倍希釈し、それぞれ37℃で3時間まで静置した。
【0176】
(12-6) 高活性NK細胞の培養方法、回収方法1に記載した手順にて得られた高活性NK細胞の生細胞数をカウントし1x107 cells/mLとなるようにSTEM-CELLBANKERで懸濁し、-80℃で凍結保存した。48時間以上凍結させた高活性NK細胞を37℃、ウォーターバスで解凍した。完全に溶けた直後に、Plasma-Lyte A、生理食塩液、UltraPure Distilled Water にて調製した230mM NaCl2、150mM KCl、100mM MgCl2、100mM CaCl2、11%トレハロース、10%スクロース、5%スクロース、Plasma-Lyte Aにて調製した10%、20% UltraGRO、10%、20%、30%、40% AB Serum(CELLect、2938249)で10倍希釈し、それぞれ室温で3時間まで静置した。希釈直後、1時間、2時間、3時間のポイントで1x105cellsを分取し、7-AADによる染色方法に記載した方法で測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0177】
(12-7) (12-6)と同様に細胞を処理し、解析した。ただし細胞をそれぞれの溶液で10倍希釈し、それぞれ37℃で3時間まで静置した。
【0178】
(結果) FlowJoソフトウェアで解析した結果を、図12-1~12-7に示した。
12-1~3の条件では、解凍時に用いるPlasma-Lyte Aの成分はその1/10まで希釈することができ、その希釈に用いる液は生理食塩水でも蒸留水でもよかった。すなわち、解凍時に用いる液は、低張液や生理食塩水であっても良いことが分かった。
【0179】
12-4および5の条件では、回収時にKBM501培地で洗浄すると、解凍時に用いる液が低張であるか高張であるかを問わず、NaCl溶液であればViabilityが維持できた。また、単糖類または多糖類を用いた等張液でも、室温であれば、あるいは短期間であれば、Viabilityが維持できた。一方、100mM MgCl2ではViabilityが劣った。
【0180】
12-6および7の条件では、回収時にPBSで洗浄した場合はViabilityを維持することが困難なことが分かった。
【0181】
[解凍時の溶液の組成一覧(単位は、mM)]
【表7】
[実施例1~12まとめ]
以上について、一覧表にまとめた。なお、下表中、時間に関し、「xx時間」と記載した場合を除き、単位は分である。また、温度に関し、「R.T.」は室温を表し、それ以外の場合は37℃である。Viabilityに関し、Aは70%以上、Bは50%以上70%未満、Cは50%未満を表し、-は評価していないことを表す。活性に関し、Aは70%以上、Bは50%以上70%未満、Cは50%未満を表し、-は評価していないことを表す。評価がAまたはBであれば目的が達成されたといえる。
【0182】
【表8】
図A
図B
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図8-5】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図12-4】
図12-5】
図12-6】
図12-7】