IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)の特許一覧

<>
  • 特開-複合材料 図1
  • 特開-複合材料 図2
  • 特開-複合材料 図3
  • 特開-複合材料 図4
  • 特開-複合材料 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126705
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
C08J5/04
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120354
(22)【出願日】2023-07-25
(62)【分割の表示】P 2021510179の分割
【原出願日】2019-09-06
(31)【優先権主張番号】102018121811.7
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】512022631
【氏名又は名称】エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
(74)【代理人】
【識別番号】100180482
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 将隆
(72)【発明者】
【氏名】コハデス,アマエル
(72)【発明者】
【氏名】ミシャウド,ベロニケ
(57)【要約】
【課題】複合材料
【解決手段】複合材料(6)は、強化繊維(3)と、高分子母材(14)を備える。この高分子母材(14)は、熱硬化相と、これに連続する熱可塑相の、2つの相互浸透した相を含んでなる。熱硬化相と熱可塑相は、母材微細構造(7)を形成する。母材微細構造(7)は、熱可塑相によって形成された熱可塑性母材を含むとともに、熱硬化相によって形成された多数の熱硬化性粒子(13)を有している。熱硬化性粒子(13)は、0.1μm~10μmの範囲の粒径を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料(6)であって、
強化繊維(3)と、
高分子母材(14)と、
を備え、

前記高分子母材(14)は、熱硬化相としてのエポキシ樹脂と、これに連続する熱可塑相の、2つの相互浸透した相を含んでなり、
当該熱硬化相と当該熱可塑相の容積比が70:30~90:10の範囲内であって、
前記熱硬化相ならびに前記熱可塑相は、母材微細構造(7)を形成し、
当該母材微細構造(7)は、前記熱可塑相によって形成された熱可塑性母材を含むとともに、
同母材微細構造(7)は、熱硬化相によって形成された多数の熱硬化性粒子(13)を有しており、

前記熱硬化性粒子(13)は、0.1μm~10μmの範囲の粒径を有する
ことを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料(6)であって、

前記強化繊維(3)は、20%~75%の範囲の繊維体積分率を有し、好ましくは30%~65%、さらに好適には38%~55%の範囲の繊維体積分率を有する
ことを特徴とする、複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合材料(6)であって、

前記熱硬化相は、エポキシ樹脂を有してなり、

前記熱可塑相は、200℃以下の融点を有し、好ましくは190℃以下、さらに好適には180℃以下の融点を有してなり、

当該熱可塑相は、適切な熱処理がされたときに、同熱可塑相それ自体の熱膨張で生じる圧力によって流れる程度に充分低い粘性を有している
ことを特徴とする、複合材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合材料(6)であって、
前記母材微細構造(7)は、熱硬化性粒子(13)が、その周囲の熱可塑性母材と相互連結されてなる相互浸透した網状組織を有している
ことを特徴とする、複合材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合材料(6)であって、
熱可塑相の大きさは、厚さその他の少なくとも一方向に対して、0.1μm~10μmの範囲であり、好ましくは1μm~10μmの範囲である
ことを特徴とする、複合材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複合材料(6)であって、
当該複合材料(6)は、0.5mm~30mmの範囲の厚さを有してなり、好ましくは0.8mm~25mmの範囲であり、より好適には1mm~20mmの範囲の厚さを有する
ことを特徴とする、複合材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載した複合材料(6)の製造方法であって、

前記複合材料(6)を製造するために、
熱可塑開始材料は、熱可塑性物質ペレット(2)、熱可塑性物質薄層フィルム(8)、熱可塑性物質紡糸繊維(11)の形で使用される
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の複合材料の製造方法であって、

熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物(4)を生成するために、液状熱硬化性物質(1)と多数の熱可塑性物質ペレット(2)を混合する工程と、

プリプレグ材料(5)を生成するために、前記熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物(4)を、前記強化繊維(3)の上に塗る工程と、

前記母材微細構造(7)を含む複合材料(6)を生成するために、プリプレグ材料(5)を処置する工程と、
を有する
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の複合材料の製造方法であって、

強化繊維(3)の各層の間に、内部層として熱可塑性薄膜フィルム(8)を加えることにより、熱可塑性薄膜フィルム(8)と強化繊維(3)の層から、強化フィルム積層(9)を生成する工程と、

前記強化フィルム積層(9)の中に、純粋な熱硬化性母材として液状熱硬化性物質(1)を注入することで、注入積層(10.1)を生成する工程と、

前記熱硬化性母材中における熱可塑相である前記熱可塑性薄膜フィルム(8)の一部もしくは全部を溶解する工程と、

前記母材微細構造(7)を含む複合材料(6)を生成するために、前記注入積層(10.1)を処置する工程と、
を有する
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の複合材料の製造方法であって、

熱可塑性薄膜フィルム(8)にはそれぞれ孔が空けてあり、
前記熱可塑性薄膜フィルム(8)は各々20μm~1000μmの範囲の厚さを有しており、好ましくは20μm~100μmの範囲、さらに好適にはおよそ40μmの厚さを有している
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の複合材料の製造方法であって、

熱可塑性物質紡糸繊維(11)と強化繊維(3)を含んでなる強化繊維積層(12)を生成する工程と、

前記強化繊維積層(12)の中に、純粋な熱硬化性母材として液状熱硬化性物質(1)を注入することで、注入積層(10.2)を生成する工程と、

前記熱硬化性母材中における熱可塑相である前記熱可塑性物質紡糸繊維(11)の一部もしくは全部を溶解する工程と、

前記母材微細構造(7)を含む複合材料(6)を生成するために、前記注入積層(10.2)を処置する工程と、
を有する
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の複合材料の製造方法であって、

前記熱可塑性物質紡糸繊維(11)は、その直径が20μm~1000μmの範囲であり、好ましくは20μm~100μmの範囲であり、好適にはおよそ40μmである
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の複合材料の製造方法であって、

前記強化繊維積層(12)は、
前記強化繊維(3)の上に前記熱可塑性物質紡糸繊維(11)を積重ねることにより生成するか、
もしくは、
前記熱可塑性物質紡糸繊維(11)を前記強化繊維(3)と編合わせることにより生成される
ことを特徴とする、複合材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合材料(6)を含んでなる産業機器であって、

当該産業機器は、好ましくは、風力タービン回転翼などの風力タービン部材の構造材料として前記複合材料を含んでいる
ことを特徴とする、産業機器。
【請求項15】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合材料(6)および/または請求項14に記載の産業機器における、微小な亀裂その他の傷の再生方法は、以下の工程を有し、

前記複合材料(6)および/または前記産業機器を再生温度に加熱する工程であって、当該再生温度は80℃~180℃の範囲であり、好ましくは140℃~160℃の範囲であり、より好適には145℃~155℃である加熱工程と、

前記再生温度を再生時間のあいだ一定に保温する工程であって、当該再生時間が1分間~50分間の範囲であり、好ましくは20分間~40分間の範囲であり、より好適には25分間~35分間である保温工程と、
を有する
ことを特徴とする、傷の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の序文のように、複合材料に関する。
さらに、本発明は、同格の請求項群のように、複合材料における欠点を治癒する方法のみならず、複合材料の製造方法、産業機器の製造方法の3つの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、専門技術において広く知られている。
特に、いわゆる自己再生可能(self-healable)複合材料もしくは再生可能複合材料が知られている。
これらは、例えば、少なくとも一部を自律的に再生したり、または、微小な亀裂や傷(defects)が複合材料中に生じたときに加熱により再生することができるものである。
【0003】
既知の再生可能複合材料にかかる1つの問題としては、複合材料の再生と、複合材料の初期特性(たとえば、強度や靱性)の維持との間にトレードオフ(trade-off)が常時存在することが挙げられる。
仮に、高レベルの再生(例として、最大95%の再生効率)が達成されるとした場合、複合材料の靱性および/または強度については激減するような事態が起こったとしても(例えば、30%もしくはそれ以下)、これは全くもっておかしなことではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した不利益を解決もしくは軽減することを目的とする。
特に、本発明は、微小な亀裂を再生でき、元の機械的特性に近い特性を持ち、再生後には許容範囲内の初期特性を保持する複合材料について説明する。
本発明のその他の目的は、大規模な産業過程においても、そのような特性を持つ複合材料を、できるだけ簡易な方法で製造可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、「強化繊維」(fibrous reinforcement)と「高分子母材」(polymer matrix)を有する複合材料により解決を図ることができる。
この高分子母材は、「熱硬化相」(thermoset phase)と、これに連続する「熱可塑相」(thermoplastic phase)の2つの相互浸透(interpenetrating)相を有している。
熱硬化相と熱可塑相は、「母材微細構造」(matrix microstructure)を形成する。
この母材微細構造は、熱可塑相により形成される熱可塑性母材(thermoplastic matrix)を有している。
さらに、母材微細構造は、熱硬化相により形成された多数の「熱硬化性粒子」を含んでいる。
当該熱硬化性粒子の粒径は、0.1μm~10μmの範囲である。
代表的な実施例では、熱硬化性粒子は、1μm~10μmの範囲の粒径を有している。
【0006】
本願発明者は、そのような粒径範囲の熱硬化性粒子が、適度の熱を加えることで、微小亀裂のような傷を再生できることを見出した。
また、本願発明者は、複合材料の強度や靱性などの初期特性については、上記の加熱工程後においても、良好に維持されていることを見出した。
さらに、本願発明者は、このような複合材料を、従来とは異なる効果的な手法で製造できることも見出した。
【0007】
代表的な実施例では、熱硬化性粒子は、その一部が相互連結されている。
「その一部が相互連結されている」とは、実現可能な例として、以下のようなものが挙げられる。
「いくつかの熱硬化性粒子については相互連結されており、いくらかの熱硬化性粒子については相互連結されていない」こと、「熱硬化性粒子がクラスタを形成し、それぞれの熱硬化性粒子については相互連結されているものの、しかしながら必ずしも全てのクラスタが相互連結されているわけではない」ことである。
好適な実施例においては、熱硬化性粒子は相互連結されている。
【0008】
好適な実施例においては、複合材料は、固体材料である。
【0009】
代表的な実施例では、強化繊維の「繊維体積分率」(volume fraction)は20%~75%の範囲であり、好ましくは30%~65%、さらに好適には38%~55%である。
本願発明者は、上記範囲の強化繊維の体積分率が非常に優位であることを見出した。
なぜなら、当該範囲内の強化繊維の体積分率は、複合材料の再生能力(healing capacities)と、複合材料の初期特性(initial properties)の維持との間におけるトレードオフ(trade-off)を良好にできるからである。
しかしながら、強化繊維については、例えば20%以下といったような上記とは異なる体積分率を採ることも許容される。
【0010】
代表的な実施例では、熱硬化相は「エポキシ樹脂」(epoxy resin)を有している。
熱可塑相は、融点が200℃以下(好ましくは190℃以下、さらに好適には180℃以下)である。
熱可塑相は、適切な熱処理がされたときに、当該熱可塑相それ自体の熱膨張で生じる圧力によって流れる程度に充分低い「粘性」(viscosity)を有している。
本願発明者は、そのような熱硬化相や熱可塑相の能力が顕著に優位であり、良好な再生能力が得られるとともに、一方で、熱処理前の複合材料が有する初期特性を非常に良好に維持することを見出した。
しかしながら、エポキシ樹脂に代えて、それ以外の材料を熱硬化相として使用することも可能であり、また、上記とは異なる融点を有する熱可塑相を用いることも可能である。
【0011】
代表的な実施例では、母材微細構造は「相互浸透した網状組織」(熱硬化性粒子が、その周囲の熱可塑性母材と相互連結されてなる網状組織)を有している。
こうした母材微細構造は、熱硬化性物質の処置(cure)の最中に生じる重合誘起相分離(polymerization induced phase separation)処理により生成される。
このような母材微細構造配列は、良好な再生能力と、複合材料が有する初期特性を良好な維持に優位に適している。
これに加え、このような母材微細構造は、大規模な産業的工程によって製造が可能なものである。
【0012】
代表的な実施例では、熱可塑相の大きさは、少なくともある一方向(例えば、厚さ)において、0.1μm~10μmの範囲であり、好ましくは1μm~10μmの範囲である。
すなわち、熱可塑相は、ある一方向のサイズがその他の方向のサイズに比べてずっと大きな、0.1μm~10μmの範囲(好ましくは1μm~10μmの範囲)の厚さを持つ固体材料によって形成可能である。
【0013】
代表的な実施例では、熱硬化相と熱可塑相の容積比(volumetric ratio)は、60:40~95:5の範囲内であり、好ましくは70:30~90:10の範囲内である。
本願発明者は、このような容積比により、複合材料の加熱中において、適度の粘性と適度な流速が得られる一方、当該複合材料の初期特性の低下を回避できることを見出した。
【0014】
代表的な実施例では、複合材料は、0.5mm~30mmの範囲の厚さを有してなり、好ましくは0.8mm~25mmの範囲であり、より好適には1mm~20mmの範囲の厚さを有する。
このような複合材料のサイズは、優位である。なぜなら、製造が容易であり、このような複合材料のサイズは適切だからである。
しかしながら、理論的には、複合材料は、上述したよりも少ない厚みを持つことや(例えば、0.2mm)、上述したよりも大きい厚みを持つこと(例えば、40mm~50mmの範囲や、センチメートルレベルまで)も可能である。
【0015】
本発明による複合材料の製造方法においては、複合材料を製造するために、製造開始時の熱可塑材料は、「熱可塑性物質ペレット」(thermoplastic pellets)、「熱可塑性物質薄層フィルム」(thermoplastic thin films)、「熱可塑性物質紡糸繊維」(thermoplastic spun fibres)の形で使用される。
【0016】
代表的な実施例では、本発明による複合材料の製造方法は、以下の工程を含んでいる。

「熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物」(liquid thermoset-thermoplastic blend)を生成するために、液状熱硬化性物質と多数の熱可塑性物質ペレットを混合する工程

プリプレグ(prepreg)材料を生成するために、「熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物」を強化繊維の上に塗る工程

「母材微細構造」を含む複合材料を生成するために、プリプレグ材料を処置する工程
【0017】
本明細書では、「製造された母材微細構造を含む複合材料」と呼ぶ代わりに、「母材微細構造を呈する高分子母材を含む複合材料」とも称する。
【0018】
代表的な実施例では、本発明による複合材料の製造方法は、以下の工程を含んでいる。

強化繊維の各層の間に、内部層として「熱可塑性薄膜フィルム」(thermoplastic thin films)を加えることにより、熱可塑性薄膜フィルムと強化繊維層から「強化フィルム積層」(film-reinforcement stack)を生成する工程

この強化フィルム積層の中に、純粋な熱硬化性母材(thermoset matrix)として「液状熱硬化性物質」(liquid thermoset)を注入することで、注入積層(infused stack)を生成する工程

上記の熱硬化性母材中における熱可塑相である「熱可塑性薄膜フィルム」の一部もしくは全部を溶解する工程

「母材微細構造」を含む複合材料を生成するために、注入積層(infused stack)を処置(curing)する工程
【0019】
代表的な実施例では、熱可塑性薄膜フィルムにはそれぞれ孔が空けてあり(perforated)、各熱可塑性薄膜フィルムは20μm~1000μmの範囲の厚さを有しており、好ましくは20μm~100μmの範囲、さらに好適にはおよそ40μmの厚さを有している。
本明細書では、「およそ」という用語は「±20%」を意味する。
孔を空けた熱可塑性薄膜フィルムを使用することで、「強化フィルム積層」中への液状熱硬化性物質の注入が容易になるという効果がある。
【0020】
代表的な実施例では、本発明による複合材料の製造方法は、以下の工程を含んでいる。

熱可塑性物質紡糸繊維(thermoplastic spun fibres)と強化繊維を含んでなる「強化繊維積層」(fibre-reinforcement-stack)を生成する工程

「強化繊維積層」の中に、純粋な熱硬化性母材として「液状熱硬化性物質」を注入することで、注入積層を生成する工程

上記の熱硬化性母材中における熱可塑相である熱可塑性物質紡糸繊維の一部もしくは全部を溶解する工程

「母材微細構造」を含む複合材料を生成するために、注入積層を処置(curing)する工程
【0021】
代表的な実施例では、上述した液状熱硬化性物質の注入は、常温(好ましくは、およそ20℃)で行われる。
ここでいう「およそ」とは、「±5℃」の許容誤差を指し、さらには「±2℃」が好ましい。
また、代表的な実施例では、注入積層の処置(curing)は、50℃~70℃の範囲の処置温度で行われ、代表的なものとしては55℃~65℃の範囲であり、好適にはおよそ60℃である。
ここでいう「およそ」とは、「±5℃」の許容誤差のことをいい、さらには「±2℃」が好ましい。
代表的な実施例では、第1の事後処置(postcuring)工程は、70℃~90℃の範囲の処置温度(curing temperature)で行われ、代表的なものとしては75℃~85℃の範囲であり、好適には事後処置温度はおよそ80℃である。
ここでいう「およそ」とは、「±5℃」の許容誤差のことをいい、さらには「±2℃」が好ましい。
この処置時間(すなわち、処置工程の継続時間)は、6時間~24時間である。
上述した第1の事後処置時間(すなわち、第1の事後処置工程の継続時間)は、4時間~15時間である。
代表的な実施例では、第1の事後処置工程に続いて、第2の事後処置工程が行われる。
この第2の事後処置工程は、第1の事後処置工程がなされる温度よりも高温下で行われる。
代表的な実施例では、第2の事後処置工程は、90℃~110℃の範囲の処置温度で行われ、代表的なものとしては95℃~105℃の範囲であり、好適には事後処置温度はおよそ100℃である。
ここでいう「およそ」とは、「±5℃」の許容誤差のことをいい、さらには「±2℃」が好ましい。
代表的な実施例では、第1の事後処置工程は、3回~5回よりも多く行われ、好適には第2の事後処置工程の実施回数よりも多いおよそ4回である。
代表的な実施例では、第1の事後処置工程はおよそ80℃にておよそ4時間行われ、第2の事後処置工程はおよそ100℃にておよそ1時間行われる。
総じて、「およそ」とは、例として、対応する数値に対する20%の許容誤差、好ましくは10%、より好適には5%の許容誤差のことを指す。
【0022】
代表的な実施例では、「熱可塑性物質紡糸繊維」(thermoplastic spun fibres)は、その直径が20μm~1000μmの範囲であり、好ましくは20μm~100μmの範囲であり、好適にはおよそ40μmである。
【0023】
代表的な実施例では、上記の強化繊維積層(fibre-reinforcement-stack)は、強化繊維の上に熱可塑性物質紡糸繊維(thermoplastic spun fibres)を積重ねることにより生成するか、もしくは、熱可塑性物質紡糸繊維を強化繊維と編合わせることにより生成される。
【0024】
代表的な実施例では、上述した処置は、複合材料の製造に使用される熱硬化性物質の種類に合わせた処置温度で行われる。
そのため、当該処置温度は、熱可塑相が溶解する程度の充分な高温であることが好ましい。
【0025】
本発明による産業機器は、好ましくは構造材料(例えば、風力タービン回転翼などの風力タービン部材)として複合材料を含んでいる。
代表的な実施例では、当該産業機器は、風力タービン以外の他の装置(エネルギー分野・産業分野・化学分野における機器、)の部品である。
代表的な実施例では、当該産業機器は、構造部材の一部を構成する。
また、産業機器において本願の複合材料は、理論上、スキー・スノーボード・サーフボード・ヨット等の運動器具の部品にも使用することが可能である。
代表的な実施例では、本願の複合材料は、高速列車などの列車や、陸上用乗物・航空機などのその他の移動手段にも用いられる。
【0026】
本発明による複合材料および/または本発明による産業機器における、微小な亀裂その他の傷の再生方法は、以下の工程を有する。

上記の複合材料および/または上記の産業機器を再生温度(repair temperature)に加熱する工程であって、当該再生温度は80℃~180℃の範囲であり、好ましくは140℃~160℃の範囲であり、より好適には145℃~155℃である加熱工程

上記再生温度を再生時間のあいだ一定に保温する工程であって、当該再生時間が1分間~50分間の範囲であり、好ましくは20分間~40分間の範囲であり、より好適には25分間~35分間である保温工程
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明は、以下に記載の図により、詳細に表される。
図1】本発明に従った複合材料と、当該複合材料における傷の再生方法の模式図である。
図2】本発明に従った複合材料の第1の製造方法の模式図である。
図3】本発明に従った複合材料の第2の製造方法の模式図である。
図4】本発明に従った複合材料の第3の製造方法の模式図である。
図5】本発明に従った複合材料における、再生された衝撃の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明による複合材料6と、当該複合材料6における傷の再生方法の模式図である。
とりわけ、図1(a)は、複合材料6の切断面を表している。
図1(a)の複合材料6は、複数の強化繊維3を有している。
これらの強化繊維3は、図1(a)中において黒色の要素で示している。
また、複合材料6は、図1(a)中に白色の要素で示す高分子母材14を有している。
【0029】
図1(b)は、図1(a)に示した複合材料6の一部を拡大したものである。
当該の拡大図においては、ある特定の強化繊維3の束を、部分的に示している。
理解を容易にするために、これらの強化繊維3の束には、同一の参照符号を付してある。
さらに、図1(b)では、高分子母材14について、より詳細に示してある。
特に、この高分子母材14が、多数の熱硬化性粒子13を含んでいることが看取できる。
これらの熱硬化性粒子13は、小さな黒点で表してある。
熱硬化性粒子13についても、理解を容易にするために同一の参照符号を付している。
高分子母材14中においては、上記の熱硬化性粒子13は、連続的な熱可塑相により囲まれている。
この熱硬化性粒子13と熱可塑性母材(thermoplastic matrix)は、共同で、高分子母材14中にて、特殊な構造の母材微細構造を形成する。
図1(b)の拡大図中には、さらに亀裂(傷)15が示してある。
図1(b)中の亀裂15は、必ずしも、実際の縮尺とは一致していない。なぜなら、図1は、模式図だからである。
【0030】
図1(C)は、図1(b)に示した拡大図において発生した亀裂15を、再生した後の図である。
したがって、図1(C)は、亀裂15に代えて、再生後の亀裂16になっている点を除けば、図1(b)と同一である。
図1(C)においては、亀裂部分が、高分子母材14(とりわけ、連続的な熱可塑相)によって充たされている。
図1は模式図であるため、実際の縮尺には対応していない。
【0031】
図2は、本発明による複合材料6の第1の製造方法を示す模式図である。
特に、図2には、製造開始時の材料(starting materials)として「液状熱硬化性物質1」と、多数の「熱可塑性物質ペレット2」と、「シート形状の強化繊維3」が表されている。
第1工程S1.1においては、液状熱硬化性物質1と熱可塑性物質ペレット2から、熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物4が生成される。
第2工程S2.1においては、複数のプリプレグ5の層を生成するために、上記の熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物4が強化繊維3の上に塗られ、それによりプリプレグ材料が互いにくっつき合う。
処置工程S3.1からなる第3工程においては、プリプレグ5の層は、処置温度で特定時間だけさらされ、それにより処置された複合材料6が生成される。
この処置された複合材料6は、固体材料である。
この複合材料は、図2中の拡大図に示すように、母材微細構造7を呈する。
【0032】
図2に示した上記方法の特定の実施例では、液状熱硬化性物質1と熱可塑性物質ペレット2は、当該熱可塑性物質ペレット2の融点よりも高温下にて混合される。
液状熱硬化性物質1を混ぜる前に溶媒中に熱可塑性物質ペレット2を溶かす場合、液状熱硬化性物質1と熱可塑性物質ペレット2の混合処理は、熱可塑性物質ペレット2の融点よりも高い温度ではなく熱可塑性物質ペレット2の融点以下で行ってもよい。
これら1・2を混合した後、当該溶媒は蒸発する。
【0033】
代表的な実施例では、液状熱硬化性物質1と熱可塑性物質ペレット2を混ぜることによって得られた「熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物4」は、さらに、適切な温度下で、強化繊維3の中に含浸される。
この事前含浸(preimpregnation)工程の実施温度は、必ずしも熱可塑性物質の融点よりも高くなくてもよく、事前含浸工程の実施温度は、熱可塑性物質ペレット2の融点より低温でもよい。なぜなら、構成要素1・2は、すでに混ぜられているからである。
事前含浸工程の後に行われる処置(curing)ならびに事後処置(postcuring)は、使用する熱硬化性物質の種類に合った温度と継続時間にて行われる。
これらの処置と事後処置における温度は、熱可塑性物質の融点より高くても低くてもよい。
【0034】
図3は、本発明による複合材料6の上記に代わる製造方法であって、第2実施形態である。
図3には、製造開始時の材料として「液状熱硬化性物質1」と、多数の「熱可塑性薄膜フィルム8」と、多数の「シート形状の強化繊維3」が表されている。
第1工程S1.2においては、熱可塑性薄膜フィルム8とシート形状の強化繊維3から、強化フィルム積層9が作られる。
2枚以上のシート形状の強化繊維3の間には、1枚の熱可塑性薄膜フィルム8が挿入される。
このようにして、図3に示したようなサンドイッチ構造を持つ強化フィルム積層9が生成される。
図3のサンドイッチ構造は模式図であるため、実際上は、強化フィルム積層9の中には、もっと多くの強化繊維3、たとえば16枚もしくは何百枚(例えば、300枚)の強化繊維3のシートが挿入される。
第2工程S2.2においては、注入積層10.1を生成するために、強化フィルム積層9の中に液状熱硬化性物質1を注入する。
その後、処置された複合材料6を生成すべく、上記の注入積層10.1は、適切な処置温度の下で、処置(curing)にさらされる。
当該の処置された複合材料6は、図2に既述した処置された複合材料6と全く同一の母材微細構造7を呈する。
【0035】
図4は、本発明の第3実施形態であり、本発明による複合材料6のさらなる製造方法である。
図4には、製造開始時の材料として「液状熱硬化性物質1」と、複数の「熱可塑性物質紡糸繊維11」と、多数の「シート形状の強化繊維3」が表されている。
第1工程S1.3においては、熱可塑性物質紡糸繊維11とシート形状の強化繊維3から、強化繊維積層12が生成される。
第2工程S2.3においては、注入積層10.2を生成するために、強化繊維積層12の中に液状熱硬化性物質1を注入する。
処置工程S3.3においては、処置された複合材料6を生成すべく、当該注入積層10.2は、ある特定時間のあいだ、適切な処置温度の下にさらされる。
図2図3に示したように、この処置された複合材料6は、母材微細構造7を呈する。
この母材微細構造7は、先に述べたような再生能力を有しており、図1に示したような亀裂を再生できる。
【0036】
図3図4に示した製造方法においては、それぞれの第2工程S2.2・S2.3において行われる注入は、熱可塑性物質の融点(すなわち、熱可塑性薄膜フィルム8または熱可塑性物質紡糸繊維11の各融点)より低温で行われる。これは、強化積層8・9において、熱可塑性物質が移動したり置換するのを回避するためである。
注入後に行われる処置と事後処置は、使用する熱硬化性物質の種類に合った温度と継続時間で行う。
これらの処置と事後処置における温度は、熱可塑性物質の融点より高くても低くてもよい。
【0037】
ある特定の例(例えば、図3の製造方法や図4の製造方法に適用できる)では、液状熱硬化性物質の注入は、常温で行われる。
そのあと、相分離が得られるように、処置が60℃で24時間にわたって行われる。
そして最後に、樹脂に対して構造的な機械的特性を与えるべく、事後処置が80℃で15時間にわたって行われる。
このような工程は、変更が可能である。
例えば、処置を60℃で6時間おこない、事後処置を80℃で4時間おこない、2回目の事後処置を100℃で1時間おこなったとしても、同じような結果が得られる。
このような処置・事後処置の実施温度・継続時間は、原理上、図2の製造方法にも適用可能である。
【0038】
図5は、本発明による複合材料への衝撃と、この衝撃を再生したときの模式図である。
上述したように、本発明の複合材料に損傷(例えば、微小な亀裂)が発生した後、この損傷は、適切な加熱処理により再生可能である。
このことは、図5にて図解される。
図5には、本発明の複合材料における2つの衝撃が示してあり、一方の傷は20Jの衝撃(図5における左図)により形成されたものであり、他方の傷は10Jの衝撃(図5における右図)により形成されたものである。
20Jの衝撃により作られた傷は、10Jの衝撃により作られた傷よりも大きくなっている。
それぞれの衝突エネルギ(20Jと10J)について、図5は、複合材料を適切に加熱処理した後の個々の傷も示している。
いずれの衝撃についても、生じた損傷が物理的に再生されていることが看取できる。
【0039】
本願発明の特定の実施例では、複合材料は、ガラス繊維不織布(体積分率38%~55%)と、厚さ40μmのポリカプロラクトン(PCL,Perstorp社製のCapa6500)の中間層と、エポキシ樹脂(Momentive社製のRIM135)とを用いて、真空補助樹脂注入型入れによって作られる。
この複合材料の靱性は、エポキシ樹脂だけからなる参考標本と比べ、22%(約1200J/mから1500J/mへと)増加した。
この複合材料の構造特性は、非常に高く維持されたままであった(エポキシ樹脂だけからなる上記参考標本が圧縮強度260MPaであったのに比べ、この複合材料の圧縮強度は210MPaであった。すなわち、20%減少した)。
150℃で30分間加熱処理した後は、靱性は、平均して38%回復した。
さらに、入射エネルギが10ジュールおよび20ジュールの衝撃による損傷後に、150℃で30分間加熱処理した場合、当該の複合材料は、10ジュールについては97%、20ジュールについては53%だけ、それぞれ損傷箇所が回復した(図5の例よりも良好である)。
また、この再生は、最大20ジュールの入射エネルギの衝撃後の圧縮を完全再生できることに相当する。
したがって、構造的な強化繊維高分子複合体において損傷を再生する、上記系の能力を実証できた。
【0040】
代表的な実施例では、靱性と亀裂再生は、熱硬化相中への熱可塑相の溶解により生じる、固有の母材微細構造に依存する。
例として、エポキシ単体と、後発的に相分離によって誘発される重合(polymerization)は、すべて工程のさなかに起こる。
結果的に生成された母材微細構造は、相互浸透した網状組織(熱硬化性粒子が、その周囲の熱可塑性母材と相互連結されてなる網状組織)から成る。
加熱処理においては、上記の熱可塑性母材が溶けて流れ、損傷事象の間に形成された微小な亀裂を再生する。
母材微細構造は、代表的には、熱硬化性粒子の粒径が1μm~10μmの範囲であり、熱可塑相のサイズも、熱硬化性粒子と同一の範囲である。
また、母材微細構造は、熱硬化性粒子の粒径が0.1μm~10μmの範囲にあり、熱可塑相のサイズも熱硬化性粒子と同一の範囲であってもよい。
熱可塑相の粘性は、複合材料の構造的な強度が損なわれない程度の適切な熱処理がされたときに、熱可塑相それ自体の熱膨張で生じる圧力によって流れる程度に充分低いものである。
熱硬化相と熱可塑相の容積比は、代表的なものとしては70:30~90:10の範囲内である。
構造的に再生可能な複合材料(例として、1mm~20mmの厚さを有するもの)は、3つの工程によって製造できる。
(i)プリプレグ材料を生成するべく母材を強化繊維上に塗ってしまう前に、液体の状態で熱硬化性物質と熱可塑性物質を混合する。
さらに、熱硬化性プリプレグを処理する(圧力釜の内部または外部にて、もしくは、圧縮機の内部にて)。
(ii)純粋な熱硬化性母材を注入する前に、強化繊維層同士の間に、中間層として熱可塑性薄膜フィルム(厚さが20μm~100μmの範囲のもの)を加える。
そして、熱可塑相(の一部もしくは全部)を溶解し、注入積層を処置する。
(iii)熱硬化性母材の注入と処置を行う前に、強化繊維層の上に熱可塑性物質紡糸繊維を積み重ねる。
【0041】
本願発明は、ここに記載された好適な実施形態のみに限定されるものではない。
その保護範囲は、請求項によって、画定されるものである。
【0042】
さらに、以下の請求項は、「発明を実施するための形態」に組入れられるべきものである。
各請求項は、それぞれが別々の実施形態を表すものである。
各請求項は、それぞれ別々の実施形態を表す一方、(従属項は、1つ以上の他の請求項との特定の組合せを指すものではあるが)、他の実施形態としては、従属項を、他の従属項または独立項の趣旨と組合わせることも含まれることに留意する。
このような組合せは、ある特定の組合せを意図したものではないことに言及されていない限り、推奨されるものである。
さらに、たとえ、この請求項が直接的には独立項に従属するものではなかったとしても、任意の独立項に対して、請求項の特徴が包含されることを意図している。
【0043】
さらに、明細書や特許請求の範囲に開示した方法は、これらの各方法を行うための手段を持つ装置によって実行される。
【符号の説明】
【0044】
1 液状熱硬化性物質
2 熱可塑性物質ペレット
3 強化繊維
4 熱硬化性物質・熱可塑性物質の液状混合物
5 プリプレグ層
6 処置された複合材料
7 母材微細構造
8 熱可塑性薄膜フィルム
9 強化フィルム積層
10.1、10.2 注入積層
11 熱可塑性物質紡糸繊維
12 強化繊維積層
13 熱硬化性粒子
14 高分子母材
15 亀裂
16 再生された亀裂

S1.1~S1.3 第1工程
S2.1~S2.3 第2工程
S3.1~S3.3 処置工程
図1
図2
図3
図4
図5