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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126752
(43)【公開日】2023-09-12
(54)【発明の名称】水溶性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20230905BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20230905BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20230905BHJP
   C08L 29/02 20060101ALI20230905BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20230905BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230905BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230905BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20230905BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20230905BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B29C64/40
C08L101/14
C08L5/00
C08L29/02
B29C64/118
B33Y80/00
B33Y70/00
B29C64/314
C08L1/00
C08L3/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090592
(22)【出願日】2023-06-01
(62)【分割の表示】P 2020515832の分割
【原出願日】2018-05-25
(31)【優先権主張番号】62/511,585
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519419706
【氏名又は名称】インフィニット・マテリアル・ソリューションズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】ブルナー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】デプレンジャー-ゴットフリード,ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】オックウィグ,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】サーノハウス,ジェフリー・ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】サーノハウス,ブランドン・ジェイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中性のpHにて室温水に溶解し、親水性ポリマーと疎水性ポリマーの両方に対して親和性があり、例えば高温の熱可塑性樹脂をプリントする際に望ましい温度である140℃以上の構築チャンバー温度に対する支持材料として使用することができる、3次元プリンティング用の水溶性ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】本発明の水溶性ポリマー組成物は、水溶性ポリマーと糖類が混和性の水溶性ポリマー組成物を形成し、水溶性ポリマー組成物が乾燥している、上記組成物であって、付加製造プロセスにおける支持材として使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマーと糖類を含む3次元プリンティング用の水溶性ポリマー組成物であって、
水溶性ポリマーと糖類が混和性の水溶性ポリマー組成物を形成し、水溶性ポリマー組成物が乾燥している、上記水溶性ポリマー組成物。
【請求項2】
水溶性ポリマー組成物が、少なくとも140℃の構築チャンバー温度にて安定である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項3】
水溶性ポリマー組成物が、少なくとも150℃の構築チャンバー温度にて安定である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項4】
水溶性ポリマー組成物が、少なくとも170℃の構築チャンバー温度にて安定である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項5】
水溶性ポリマー組成物が、少なくとも190℃の構築チャンバー温度にて安定である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項6】
水溶性ポリマー組成物が、少なくとも210℃の構築チャンバー温度にて安定である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項7】
水溶性ポリマーがブテンジオールビニルアルコールコポリマーを含む、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項8】
糖類がトレハロースを含む、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項9】
1種以上の添加剤もしくはポリマーをさらに含む、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項10】
水溶性ポリマー組成物が半結晶性である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項11】
水溶性ポリマー組成物が、溶解試験法2に従って400mg/分の溶解速度を有する、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項12】
水溶性ポリマー組成物が、溶解試験法2による測定にて少なくとも400mg/分の溶解速度を有する、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項13】
水平な構築プレート上に大まかに配置された3次元プリントオブジェクト;及び3次元プリントオブジェクトのまわりに配置され、3次元プリントオブジェクトの1つ以上の部分を支持する1つ以上の可溶性支持体、該可溶性支持体が水溶性ポリマー組成物を含む;を含む3次元プリント物品。
【請求項14】
水溶性ポリマーがブテンジオールビニルアルコールコポリマーを含む、請求項13に記載の3次元プリント物品。
【請求項15】
前記水溶性ポリマー組成物が、請求項1~12のいずれかに記載の水溶性ポリマー組成物を含む、請求項13に記載の3次元プリント物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
[0001] 本出願は、2017年5月26日付けで出願された米国仮特許出願第62/511,585号に
係る優先権を主張し、当該特許出願の全開示内容を参照により本明細書に含める。
【技術分野】
【0002】
[0002] 本発明は、水溶性ポリマー組成物、及び水溶性ポリマー組成物の製造方法と使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 付加製造プロセス〔一般には三次元(3D)プリンティングと呼ばれている〕を使用して、多くの産業(例えば、航空宇宙産業、自動車産業、および医療産業等)において応用可能性のある所望のオブジェクトを造り上げることができる。典型的なプロセスとしては、電子ビーム溶解法(EBM)、熱溶解積層法(FDM)、インク噴射法、積層物製造法(LOM)
、選択的レーザー焼結法(SLS)、及びステレオリソグラフィー(SL)などがあるが、これら
に限定されない。こうしたプロセスを使用すると、所望のオブジェクトをコンピュータ支援設計(CAD)パッケージにてモデル化することができ、そして選定された構築材料を使用
してプリントすることができる。蒸着をベースとする方法(例えばFDM)では通常、選定さ
れた構築材料を、コンピュータ命令に従って、層状にする仕方で加熱プリンターを介して押出す。市販の付加製造装置〔例えばARBURG(商標)Freeformerシステム〕でのプリンティングは、選定された構築材料に基づいて所望の加熱制御と温度制御をもたらすことができる構築チャンバーにて行われることが多い。
【0004】
[0004] 付加製造技術の多くは、所望のオブジェクトを構築するのに支持層もしくは支持構造物を使用する。しかしながら、適切な支持方法、支持材料、及び支持構造物の利用可能性が限られているために、ある特定の設計タイプに対するプリンティングが制限されている。最も基本的な支持方法は、プリントされるオブジェクトのために支持体が支持するときに、支持体に対して同じ材料を使用する(例えば、米国特許第6,228,923号、第6,790,403号、及び第8,404,171号に記載)。この技術では、任意の急角度の突出部や範囲を有
する構築物や「支柱」(props up)に足場を設ける場合と同様に、支持体を組み立てる。このタイプの支持体は、「易破壊性」支持体または「ラフト」支持体と呼ばれていて、効率的な場合もあるが、煩雑で時間がかかり、機械的な破壊もしくは調整によって除去するのが困難である。レーザーブレード、スカルペル、サンドペーパー、そしてさらには動力工具を使用して、3Dプリントオブジェクトから支持材料を取り除くか又は切除する時間を費やすことはよくあることである。異なる支持材料やプリント材料を使用する方法も問題がある。例えば、ある特定の疎水性ポリマー(例えばポリプロピレン)は、支持材料と3Dプリントベース樹脂との間の不適合性のために、プリントするのがほぼ不可能である。
【0005】
[0005] 内部の支持材料が取り除けないので、オブジェクトの設計タイプがさらに制限されることがある。外的な形状によっては、内部支持材料を取り除くのが、不可能ではないにせよ困難となる。何年もの間、多くの人が、かなり高温の温水、強酸性もしくは強塩基性条件、有機溶媒、または他の種々の化学薬品に溶解すると思われる支持構造物を使用してこの問題を解決しようと努力してきた。こうして得られる生成物は汚い場合が多く、さらには危険でさえあり、一般には良好なものが得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,228,923号
【特許文献2】米国特許第6,790,403号
【特許文献3】米国特許第8,404,171号
【発明の概要】
【0007】
[0006] 驚くべきことに、水溶性ポリマー〔例えば、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)や糖類(例えばトレハロース)〕を含む水溶性ポリマー組成物を使用すると、幾つかの付加製造上の問題が解決できる。このような組成物は、中性のpHにて室温水に溶解し、親水性ポリマーと疎水性ポリマーの両方に対して親和性があり、例えば高温の熱可塑性樹脂をプリントする際に望ましい温度である140℃以上の構築チャンバー温度に
対する支持材料として使用することができる。
【0008】
[0007] 水溶性ポリマー組成物のメリットは予想外と言えよう。水溶性ポリマーは脆弱である場合が多く、したがって従来のフィラメントタイプの付加製造技術において使用するのに適していない。可塑剤を使用することによってこの問題に対処しようとする人もいたが、水溶性ポリマーの耐熱性が著しく低下することがあり、これにより水溶性ポリマーの支持材料としての利用可能性が著しく制限され、従ってプリントできる構築材料の種類が制限される。同様に、糖類は、高水溶性であることが多いが、室温で脆弱となりがちであり、溶融粘度が低い。現行の装置とやり方では、糖類を押出して有用なフィラメントにすることはできない。さらに、ほとんどの糖類は熱に弱く、融解温度以上でカラメル化もしくは分解し、持続的な押出ができなくなる。
【0009】
[0008] 本発明から、水溶性ポリマーと糖類が実質的に相溶性であるということがわかる。水溶性ポリマーと糖類とを含んだ水溶性ポリマー組成物は、改良されたレオロジー特性及びより高温での改良された剛性を示すことがある。水溶性ポリマーに糖類を加えると、粘着性向上効果がもたらされることがあり、これにより種々の支持体(例えば構築プレ
ート)に対する該組成物の粘着性が向上する。特定の理論で拘束されるつもりはないが、Dahlquist Criterionに記載のように、糖類は、感圧特性を付与することで、プリント温度での付着性向上を容易にしているものと思われる。
【0010】
[0009] 従って、一実施態様では、水溶性ポリマー組成物は水溶性ポリマーと糖類を含む。他の実施態様では、水溶性ポリマー組成物は、連続的水溶性ポリマー相と、該連続的水溶性ポリマー相全体にわたって分散された糖類とを含む。幾つかの実施態様では、水溶性ポリマー組成物は、1種以上のポリマーまたは添加剤をさらに含んでよい。別の実施態
様では、本発明の物品(an article)は、水溶性ポリマー組成物を含んだ連続的ポリマー相を含み、ここで該水溶性ポリマー組成物がさらに、該連続的ポリマー相全体にわたって分散された水溶性ポリマー、糖類、及び添加剤を含む。
【0011】
[0010] 別の実施態様では、本発明の方法は、水溶性ポリマーと糖類を供給すること、水溶性ポリマーと糖類を混合すること、および水溶性ポリマーと糖類との混合物を溶融処理することを含む。別の実施態様では、水溶性ポリマー組成物の使用法は、上記水溶性ポリマー組成物を供給すること、水溶性ポリマー組成物を溶融処理すること、および水溶性ポリマー組成物を所望のオブジェクトにプリントすることを含む。別の実施態様では、水溶性ポリマー組成物フィラメントの製造法は、水溶性ポリマーと糖類を溶融処理して水溶性ポリマー組成物を得ること、水溶性ポリマー組成物を冷却すること、及び水溶性ポリマー組成物を延伸すること(drawing down)を含む。別の実施態様では、水溶性ポリマーと糖類をフィラメントとして含む水溶性ポリマー組成物を熱溶解積層法にて使用する方法は、上記水溶性ポリマー組成物を含有するフィラメントを作製することを含む。
【0012】
[0011] 他の実施態様では、水溶性ポリマー組成物支持体システムは、構築チャンバーを有する付加製造装置、ここで構築チャンバーはある構築チャンバー温度を有する;所望
の形状を有するプリントオブジェクト、ここでプリントオブジェクトは高温の熱可塑性構築材料を含む;及びプリントオブジェクトのまわりに配置された1つ以上の支持体、ここで1つ以上の支持体は水溶性ポリマー組成物を含む;を含み、構築チャンバー温度が少なくとも約140℃に達してよい。
【0013】
[0012] 他の実施態様では、3次元プリント物品は、実質的に水平な構築プレート上に大まかに配置された3次元プリントオブジェクト;及び、3次元プリントオブジェクトの
まわりに配置され、3次元プリントオブジェクトの1つ以上の部分を支持する1つ以上の可溶性支持体;を含み、ここで可溶性支持体が水溶性ポリマー組成物を含む。
【0014】
[0013] 上記の概要は、開示した個々の実施態様または全ての実施を説明することを意図していない。下記の詳細な説明により、実施態様をより具体的に例証する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】[0014] 図1は、標準的なアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)/ナイロン構築プレート上に3次元プリントされたブタンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)/水溶性ポリマー/トレハロース組成物を示す。
図2】[0015] 図2は、超高分子量ポリエチレン構築プレート上に3次元プリントされたBVOH/トレハロース組成物を示す。
図3】[0016] 図3は、BVOH/トレハロース配合物に対するレオロジー曲線を示す。
図4】[0017] 図4Aは、延伸前の50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物フィラメントを示す。図4Bは、図4のフィラメントの延伸後のフィラメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[0019] 特に明記しない限り、下記の用語は下記の意味を有し、単数形にも複数形にも適用できるものとする。
[0020] 「ある」(a、an)、「その」(the)、「少なくとも1つの」(at least one)、お
よび「1つ以上の」(one or more)という用語は、区別なく使用されている。
従って、例えば、「ある」(a)水溶性ポリマーを含有する水溶性ポリマー組成物は、水溶
性ポリマー組成物が「1種以上の」水溶性ポリマーを含んでよいということを意味する。
【0017】
[0021] 「付加製造」、「3次元プリンティング」、または「3Dプリンティング」という用語は、連続した材料層がコンピュータ制御〔例えば、電子ビーム溶解法(EBM)、熱
溶解積層法(FDM)、インク噴射法、積層物製造法(LOM)、選択的レーザー焼結法(SLS)、及
びステレオリソグラフィー(SL)〕の下で形成される、3次元オブジェクトを作製するのに使用されるあらゆるプロセスを表す。
【0018】
[0022] 「構築チャンバー」という用語は、所望の成分をプリントすることができる付加製造装置中にしばしば取り囲まれているか、あるいは該付加製造装置によって使用されるボリュームを表す。構築チャンバーの例としては、ARBURG(商標)Freeformer(ドイツ、LossburgのArburg GmbHから市販)があるが、これに限定されない。
【0019】
[0023] 「構築チャンバー温度」という用語は、付加製造時に構築チャンバーにおいてもたらされる温度を表す。
[0024] 「構築材料」という用語は、所望のオブジェクトを得るために、付加製造プロセスを使用して3次元でプリントされる材料を表す。
【0020】
[0025] 「構築プレート」という用語は、構築材料や可溶性支持体をプリントすることができる基材、しばしば取り外し可能なフィルムもしくはシートを表す。
[0026] 「二糖類」(disaccharide)、「二糖類」(double sugar)、または「二糖類」(biose)という用語は、グリコシド結合によって連結した2つの単糖類残基を分子が含有する、あらゆる種類の糖類を意味する。
【0021】
[0027] 「延伸する」(draw)、「延伸する」(draw down)、「延伸される」(drawn)、「延伸」(drawing)または「延伸」(stretching)という用語は、溶融処理された供給原料を
ポリマー組成物のガラス転移温度付近(約50℃以内)の温度で伸長するプロセスを表す。
【0022】
[0028] 「延伸比」という用語は、〔延伸前の材料厚さ(例えばフィラメント直径)〕対〔延伸後の材料厚さ〕の比を表す。
[0029] 「供給原料」という用語は、付加製造プロセスにおいて(例えば、構築材料や
可溶性支持体として)使用することができる材料の形態を表す。供給原料の例としては、
ペレット、粉末、フィラメント、ビレット、液体、シート、及び造形材等があるが、これらに限定されない。
【0023】
[0030] 「高温熱可塑性樹脂」という用語は、一般には約220℃以上で溶融処理される
ポリマーもしくはポリマー組成物を表す。高温熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、およびポリエーテルイミド(PEI)等があるが、これらに限定されない。
【0024】
[0031] 「溶融処理法」という用語は、ポリマーもしくはポリマー組成物を再形成する、ブレンドする、混合する、あるいは改善するために熱エネルギーと機械的エネルギーを加えるための技法(例えば、配合法、押出法、射出成形法、ブロー成形法、回転成形法、
またはバッチ混合法)を意味する。
【0025】
[0032] 「混合」という用語は、混ぜ合わせるか又は一緒にして単一物質、単一質量、または単一相を形成させることを意味する。混合としては、あらゆる物理的ブレンディング法、押出法、または溶解法などがあるが、これらに限定されない。
【0026】
[0033] 「単糖類」という用語は、複数のヒドロキシル基を有するあらゆる単糖を意味する。炭素の数(例えば、3、4、5、または6)に基づいて、単糖類は、トリオース、テトロース、ペントース、またはヘキソース等であってよい。
【0027】
[0034] 「オリゴ糖」という用語は、小さい数(例えば、2~6または2~4)の共有結合した単糖類残基を意味する。
[0035] 「ポリマー」(polymer)および「ポリマーの」(polymeric)という用語は、相対分子質量の大きな分子を意味し、その構造は、低い相対分子質量の分子から(実際に又は
概念的に)誘導された構造単位の複数の繰り返しを本質的に含有する。
【0028】
[0036] 「ポリマー組成物」という用語は、水溶性ポリマーと糖類との混合物を意味する。
[0037] 「多糖類」という用語は、単糖構造単位と二糖構造単位の鎖を含有する炭水化物ポリマー(例えば、澱粉、セルロース、グリコーゲン等)を意味する。
【0029】
[0038] 「好ましい」(preferred)及び「好ましくは」(preferably)という用語は、あ
る特定の状況下である特定のメリットをもたらすことのある実施態様を表す。しかしながら、他の実施態様も、同じ又は他の状況下にて好ましいことがある。さらに、1つ以上の
好ましい実施態様を列挙するとしても、これが他の実施態様が有用ではないということを意味しているわけではなく、特許請求の範囲から他の実施態様を除外するよう意図してはいない。
【0030】
[0039] 「半結晶性」という用語は、示差走査熱量法(DSC)による測定にて、5%超で90%未満の結晶化度を有するポリマー組成物を表す。
[0040] 「可溶性支持体」または「可溶性支持材料」という用語は、付加製造プロセスを使用して3次元でプリントされてプリンティング時に構築材料を物理的に支持または固定し、そして付加製造プロセス時でもプロセス後でも必要に応じてケミカルサルベーション(chemical salvation)または溶解によって除去することができる材料を表す。
【0031】
[0041] 「実質的に乾燥した」という用語は、該物質が、水溶性ポリマー組成物の重量を基準として、標準条件にて約15重量%以下(好ましくは約10重量%以下)の揮発性物質を含有する、ということを意味する。
【0032】
[0042] 「実質的に混和性の」または「実質的な混和性」という用語は、配合物が単一相として考えられるような挙動を示すように、配合物中の材料が相溶性を有することを表し、しばしば単一のガラス転移温度及び/又は融解温度を有する(例えば、示差走査熱量
法を使用して試験するとき)配合物によって示される。
【0033】
[0043] 「実質的に安定な」または「実質的な安定性」という用語は、処理温度(例え
ば構築チャンバー温度)にて材料が高い寸法安定性(例えば、フローがほとんどなく融解や変形を起こしにくい)を有することを表す。
【0034】
[0044] 「水溶性の」という用語は、材料が、水の存在下にて、水を吸収する、膨潤する、溶解する、あるいは変質する、ということを表す。
[0045] 「水溶性ポリマー組成物」という用語は、水溶性ポリマーと糖類を含む組成物を表す。
【0035】
[0046] 端点を使用している数値範囲の記載は、当該範囲内に包含される全ての数を含む(例えば1~5は、1、1.5、3、3.95、4.2、5等を含む)。
[0047] 本発明は、水溶性ポリマー組成物および水溶性ポリマー組成物の製造法と使用法に関する。このような水溶性ポリマー組成物は、従来の付加製造における幾つかの問題を解決することができる。図1図2に示すように、水溶性ポリマー組成物を標準的な構築プレート上にプリントすることができる。図1は、標準的なアクリロニトリルブタジエン
スチレン(ABS)/ナイロン構築プレート10上にプリントされたブテンジオールビニルアル
コールコポリマー(BVOH)/トレハロース組成物12を示す。図2は、超高分子量ポリエチレ
ン構築プレート20上にプリントされたBVOH/トレハロース組成物22を示す。図2に示すBVOH/トレハロース組成物は、プリンティング時に構築プレートによく付着した。
【0036】
[0048] 図3は、210℃の温度における、剪断速度(1/s)の関数としての見掛け粘度(Pa
・s)を比較したレオロジー曲線プロットである。図3のプロットは、100重量%トレハロースに対する曲線24、100重量%BVOHに対する曲線26、50/50重量%のBVOH/トレハロース
に対する曲線28A、及び85/15重量%のBVOH/トレハロースに対する曲線28Bを含む。図3
からわかるように、BVOH/トレハロース配合物は、トレハロースのみを凌ぐ向上したレオロジー特性を示す。BVOHは特に、トレハロースの溶融粘度を高め、処理や印刷適性の温度範囲を広げ、そして混合物の延性を高めることができる。
【0037】
[0049] 図4A図4Bは、50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物フィラメント30、延伸前の50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物フィラメント、及び延伸後の50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物フィラメントを示す。図4A図4Bは、例えば、本発明の水溶性ポリマー組成物がFDMに対する供給原料(ここではフィラメント)として適しているこ
とを示している。図4Aから、BVOH/トレハロース組成物30Aが脆弱で、ブレンドしようと
すると崩壊することがある、ということがわかる。しかしながら、図4Bから、延伸によりBVOH鎖が整列し、材料の脆性が向上しつつ靭性と可撓性が大幅に向上した、ということがわかる。FDMプリンティングの場合、可撓性を有することは、FDM3Dプリンティングプロセス時における均一な材料供給(最終的により良好なプリント物が得られる)を確実に行う上で重要なことである。BVOH/トレハロース組成物の延伸も、BVOHポリマーにおける結晶化を引き起こすことがある。
【0038】
[0050] 種々の水溶性ポリマーを水溶性ポリマー組成物中に使用することができる。水溶性ポリマーの例としては、第四ポリアミン、ポリジアリルアンモニウムクロライド(ポ
リDADMAC)、及びジシアンジアミド樹脂等の凝固剤;ノニオン性材料、アニオン性材料、及びカチオン性材料等の凝集剤;両性ポリマー;ポリエチレンイミン;ポリアミド-アミン;ポ
リアミンベースポリマー;ポリエチレンオキシド;スルホン化化合物:ポリビニルピロリド
ン;ポリ乳酸;ポリラクトン;ポリアクリレートタイプ分散剤;ポリアルコール;セルロース
誘導体;またはこれらの組み合わせ:等があるが、これらに限定されない。市販の水溶性ポリマーの例としては、BVOH〔Nippon Goshei社からNICHIGO G-POLYMER(商標)として市販〕、ポリ-2-エチルオキサゾリン〔Polymer Chemistry Innovations社からAQUAZOL(商標)と
して市販〕、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース〔Dow Chemical社からAFFINISOL(商標)として市販〕等があるが、これらに限定されない。
【0039】
[0051] 種々の糖類を本発明の水溶性ポリマー組成物中に使用することができる。このような糖類は、疎水性ポリマーに対する溶解性と付着性を高めることができる。糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、またはこれらの誘導体等があるが、これらに限定されない。有用な糖類の例としてはトレハロース〔Cargill社から市販のTREHA(商標)〕があるが、これに限定されない。他の代表的な糖類としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、キトビオースオクタアセテート、コージビオース、ニゲロースオクタアセテート、イソマルトース、イソマルツロース、β,
β-トレハロース、α,α-トレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオ
ース、ツラノース、マルツロース、β,β-トレハロース、α,α-トレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ラクチノース、ラクチムロース(ructinulose)、メレチトース、またはキシロビオース等があるが、これ
らに限定されない。他の代表的な糖類とそれらの個々の融点を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[0052] 水溶性ポリマー組成物は他の種々のポリマーを使用することができ、これらのポリマーは、水溶性ポリマー組成物に対して混和性であっても非混和性であってもよい。このような物品を作製するのに使用できるポリマーの例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、架橋ポリエチレン
、加硫ゴム、ポリオレフィンベースのアイオノマーを含めた機能性ポリオレフィンコポリマー、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィンコポリマー(例えば、エチレン-ブテン、エ
チレン-オクテン、エチレンビニルアルコール)、ポリスチレン、ポリスチレンコポリマー(例えば、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル(PVC)、フルオロ
ポリマー、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー(例えば、SIS、SEBS、SBS)、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ケイ素樹脂、またはこれらの組み合わせ等があるが、これらに限定されない。
【0042】
[0053] 水溶性ポリマー組成物はさらに、種々の添加剤を使用することができ、これらの添加剤は、水溶性ポリマー組成物に対して混和性であっても非混和性であってもよい。適切な添加剤の例としては、酸化防止剤、光安定剤、繊維、発泡剤、発泡性添加剤(foaming additive)、ブロッキング防止剤、熱反射材料、熱安定剤、耐衝撃性改良剤、殺生物剤、抗菌剤、相容化剤、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤、滑剤、カップリング剤、熱伝導体、電気伝導体、触媒、難燃剤、脱酸素剤、蛍光タグ、不活性フィラー、無機質、および着色剤等があるが、これらに限定されない。添加剤は、水溶性ポリマー組成物中に、粉末、液体、ペレット、グラニュール、または他の任意の押出可能形態物として組み込むことができる。水溶性ポリマー組成物中の従来の添加物の量と種類は、ポリマーマトリックス及び最終的な組成物の所望の特性に応じて変わってよい。当業者であれば、本開示内容を考慮して、最終的な材料において所望の特性を達成するために添加剤の書類と量を選定することができる。典型的な添加剤組み込みレベルは、例えば、組成物の約0.01~5重量%で
ある。
【0043】
[0054] 水溶性ポリマー組成物においては、任意の追加ポリマーや追加添加剤を含め
て、種々の水溶性ポリマー/糖類組成物を使用することができる。本発明の水溶性ポリマー組成物は、例えば、少なくとも約10重量%の水溶性ポリマー、少なくとも約20重量%の水溶性ポリマー、少なくとも約40重量%の水溶性ポリマー、最大で約50重量%の水溶性ポリマー、最大で約85重量%の水溶性ポリマー、または最大で約90重量%の水溶性ポリマーを含んでよい。別の例では、最終組成物は、少なくとも約0.1重量%の糖類、少なくとも
約1重量%の糖類、少なくとも約2重量%の糖類、少なくとも約5重量%の糖類、少なくと
も約20重量%の糖類、最大で約50重量%の糖類、最大で約75重量%の糖類、最大で約90重量%の糖類、最大で約95重量%の糖類、または最大で約99.9重量%の糖類を含んでよい。
【0044】
[0055] 好ましい実施態様では、水溶性ポリマー組成物は、BVOHとトレハロースを含んでよい。BVOHは通常、その融点より高い温度にて水溶性で且つ安定である。さらに、トレハロースは通常、熱力学的・動力学的に安定で非還元性の天然二糖類である。これらを組み合わせると多くのメリットがもたらされることがある。図3に示すように、BVOH/トレ
ハロースは、トレハロース単独を凌ぐ良好なレオロジー特性を示すことがある。トレハロースはさらに、組成物の水溶性を高めることができ、疎水性ポリマー(例えばポリオレフ
ィン)に対する付着性を高めることができ、より高温での剛性を高めることができ、一般
的/典型的な構築プレート材料に対する付着性を向上させることができ、そしてより高い組み込みレベルにて脆性を高めることができ、これにより3Dプリント部品の、あるいは3Dプリント部品からの分離がより容易になる。
【0045】
[0056] こうした好ましい実施態様では、本発明の水溶性ポリマー組成物は、例えば、少なくとも約10重量%のBVOH、少なくとも約20重量%のBVOH、少なくとも約40重量%のBVOH、最大で約50重量%のBVOH、最大で約85重量%のBVOH、または最大で約90重量%のBVOHを含んでよい。別の実施態様では、最終組成物は、少なくとも約0.1重量%のトレハロー
ス、少なくとも約1重量%のトレハロース、少なくとも約2重量%のトレハロース、少なくとも約5重量%のトレハロース、少なくとも約20重量%のトレハロース、最大で約50重量
%のトレハロース、最大で約75重量%のトレハロース、最大で約90重量%のトレハロース、最大で約95重量%のトレハロース、または最大で約99.9重量%のトレハロースを含んでよい。
【0046】
[0057] 任意のポリマーや添加剤を含む水溶性ポリマー組成物は、ミキシングによって製造することができる。ミキシングは、選択されるポリマーマトリックスに応じて、当業者に公知の種々のミキシング法を使用して行うことができる。水溶性ポリマー、糖類、及び任意の添加剤は、プラスチック業界で通常使用されている混合法(例えば、配合ロール
機、バンバリーミキサー、または混合押出機を使用する方法)のいずれによっても混ぜ合
わせることができる。別の好ましい実施態様では、ベント式二軸スクリュー押出機が使用される。材料は、例えば、粉末、ペレット、または粒状物の形態で使用することができる。ミキシング操作は、水溶性ポリマー、糖類、または水溶性ポリマーと糖類の両方の融点または軟化点より高い温度で行うのが最も適切である。こうして得られる溶融処理した水溶性ポリマー組成物は、最終生成物の形状に直接押し出すこともできるし、ペレット化することもできるし、あるいは溶融処理装置から第2の操作へと進めて、その後の使用のた
めに組成物をペレット化〔例えば、ペレットミルやデンシファイアー(densifier)を使用
して〕することもできる。別の実施態様では、水溶性ポリマー組成物と任意の添加剤との配合物を3Dプリンティングすることができる。
【0047】
[0058] 水溶性ポリマー組成物は多くの利点をもたらす。1つの重要な利点は、溶解速
度(例えば、溶解試験法2に従って算出されるmg/分)を大幅に増大させることができると
いうことである。幾つかの実施態様では、水溶性ポリマー成分と比較したときに溶解速度を20%超ほど増大させることができ、別の実施態様では、水溶性ポリマー成分と比較したときに溶解速度を50%超ほど増大させることができ、そして別の実施態様では、水溶性ポ
リマー成分と比較したときに溶解速度を75%超ほど増大させることができる。他の実施態様では、水溶性ポリマー組成物の溶解速度は少なくとも400mg/分であり、好ましい実施
態様では、溶解速度は少なくとも600mg/分であり、最も好ましい実施態様では、溶解速
度は少なくとも800mg/分である。水溶性ポリマー組成物はさらに、少なくとも約140℃の、少なくとも約150℃の、少なくとも約170℃の、少なくとも約190℃の、少なくとも約210℃の、そして最高で約300℃の構築チャンバー温度で実質的に安定である。
【0048】
[0059] 本発明の水溶性ポリマー組成物は、所望の最終用途のためのさらなる処理にかけることができる。
[0060] 水溶性ポリマー組成物は、熱溶解積層法(FDM)における供給原料として使用す
ることができる。幾つかの実施態様では、供給原料はフィラメントであってよいが、他の供給原料(例えば、フィルム、シート、造形材、粉末、ペレット等)も使用することができる。糖類の組み込み量がより多い水溶性ポリマー組成物は、幾つかの付加製造プロセスにおいて水溶性支持体として使用するのによく適しているけれども、このような組成物は幾つかのFDMプロセスでの使用に対しては脆弱すぎるかもしれない。特に、このような組成
物を含む供給原料は、巻き路を通して引っ張って、加熱ノズル中に押し込むと崩壊することがある。靭性を高めるために、組成物を冷却しながら組成物をドローダウンまたは延伸するする必要があるかもしれない。組成物をドローダウンまたは延伸することによって、水溶性ポリマー鎖と糖類とが引っ張り方向に整列し、このことが結局は組成物を強靭にし、従ってFDMの3Dプリンティングプロセス時に崩壊しないか、又は崩壊しにくい供給原
料に変えることが可能となる。
【0049】
[0061] 特定の理論で拘束されるつもりはないが、ドローイングを行うと、応力配列現象によって押出供給原料の結晶化度が高まると考えられる。付加製造においては、半結晶性ポリマーや結晶性ポリマーをプリントするのは困難であることがよく知られている。半結晶性ポリマーや結晶性ポリマーは、緩められると構築チャンバー中で収縮を起こす傾向があるからである。この結果、部分的な反りやカールが生じることがある。驚くべきことに、水溶性ポリマー組成物を使用すると、半結晶性であるにもかかわらず、反りの少ないプリント部品が得られる。これは、一つには、種々の構築材料に対する、そして構築プレートに対する水溶性組成物の付着性が優れていることによるものであろう。本発明の水溶性ポリマー組成物はさらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレン(UMHWD)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6.6、ナイロン12)、ポリイミド(例えばカプトン)、ポリエーテル-イミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリリック(例えばPMMA)、及びポリカーボネート(PC)等を含めた広範囲の構築プレートと構築材料に対して優れた付着特性を示す。
【0050】
[0062] 幾つかの実施態様では、ドローイングは、水溶性ポリマーのガラス転移温度付近の温度で行うことができる。一実施態様では、供給原料プロセスの延伸比は、少なくとも1.5~10:1であり、好ましい実施態様では、供給原料プロセスの延伸比は1.5~5:1であ
り、最も好ましい実施態様では、延伸比は1.5~3:1である。こうして整列させることにより、押出供給原料の結晶化度が増大して、ある特定の機械的特性(例えば、引張強度と延
性)が著しく向上し、従ってプリンターにおいて機能できるようになる。ドローイングは
多くの方法によって達成することができる。幾つかの実施態様では、供給原料を従来の仕方で押し出すことができ、そしてこの押出供給原料を、フィラメントを適切な温度で加熱・延伸することができるゴデット操作(a godet operation)を使用して処理することがで
きる。この操作は、インラインでも、オフラインでも行うことができる。これとは別に、水溶性ポリマー組成物を押出・冷却し、いろいろな引張速度で作動してフィラメントを延伸する2つ以上の引取装置間で再加熱することができる。さらに、押出組成物を正確に冷
却し、下流の適切な押出設計を使用してインラインで延伸することもできる。この開示内
容を考慮すれば、当業者は、本発明の水溶性ポリマー組成物の供給原料(例えばフィラメ
ント)を得るための望ましい延伸比と鎖整列を実現する他の方法がわかるであろう。
【0051】
[0063] 別の実施態様では、供給原料は、糖類を含有しない水溶性ポリマーを含んでよい。この例では、水溶性ポリマーは、半結晶性であり、140℃以上の温度で実質的に安定
であり、少なくとも100mg/分(溶解試験法2による)の水溶性を有する。靭性を高めるために、この組成物の水溶性ポリマーの供給原料を必要に応じて延伸する。好ましい実施態様では、水溶性ポリマーを含有する組成物に対して、延伸比は少なくとも1.5:1である。好
ましい水溶性ポリマーはBVOH〔Nippon GosheiからNICHIGO G-POLYMER(商標)として市販〕を含む。好ましいグレードとしては、Nichigo G8049とNichigo G1028がある。
【0052】
[0064] 別の実施態様では、本発明の水溶性ポリマー組成物は、従来の溶融処理法(例
えば、配合法、成形法、注型法、または付加製造法)を使用して種々の物品に変えること
ができる。付加製造法において使用すべく、水溶性ポリマー組成物を、種々の付加製造装置において、例えば支持体材料または構築材料として使用することができる。このような付加製造装置の例としては、Dremel DigiLab 3D45プリンター、LulzBot Mini 3Dプリンター、MakerBot Replicator+、XYZプリンティングda Vinci Mini、Formlabs Form 2、Ultimaker 3、Flashforge Finder 3Dプリンター、Robo 3D R1+Plus、及びUltimaker
2+等があるが、これらに限定されない。水溶性ポリマー組成物は、手作業により(例え
ば、溶解させるか又は機械的に)、自動的に(例えばコンピュータ制御による溶解によって)、あるいはこれらの組み合わせによって、構築材料または支持材料として選択的に除去
することができる。
【0053】
[0065] 種々のポリマーと添加剤(例えば前述したもの)を本発明の水溶性ポリマー組成物に加えて、ある物品を作製することができる。
[0066] 本発明の組成物と物品は、付加製造(これに限定されない)を含めたさまざまな工業において広い有用性を有する。これらの組成物と物品は、プラスチックの配合業者と加工業者に大きな有用性をもたらすことができる。本発明の組成物と物品は、疎水性ポリマーに対する増大した溶解性と付着性、調節可能なレオロジー特性、及びより高温での増大した剛性をもたらす。
【0054】
[0067] 下記の実施例において、部とパーセント値は、特に明記しない限り重量部と重量%である。
【実施例0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
サンプルの作製:配合物1~17
[0068] 配合物1~17のそれぞれを、表3に記載の重量比に従って作成し(配合物3~17は、最初にプラスチック袋中でブレンドした)、重量測定法で27mmの二軸スクリュー押出機
〔52:1のL:D、オレゴン州レバノンのENTEK(商標))Extruders社から市販〕に供給した。配合は、ゾーン1~13での下記の温度プロフィールを使用して行った:100、350、400、400、400、400、400、400、400、400、400、400、及び400°F(それぞれ約38、177、204、204、204、204、204、204、204、204、204、204、及び204℃)。押出機のスクリュー速度は約300rpm、押出量は10kg/時であった。次いで混合物を空冷ベルトコンベヤー上に押し出し、約2.5mm×2.5mmの円筒状ペレットにペレット化し、プラスチック袋中に捕集した。
【0058】
実施例1:配合物1~2、4、6~7のプリンティング
[0069] 配合物1~2、4、及び6~7のそれぞれからのサンプルを、ARBURG(商標)Freeformer(ドイツ、ロスブルクのArburg GmbHから市販)を使用して8cm3立方体にプリンティングした。配合物1~2、4、及び6~7は、プリンティングの前に90℃で8時間乾燥した。乾燥後、配合物のそれぞれを個別にFreeformer中に装入し、下記のパラメーターを使用して2cm
×2cm×2cmの立方体にプリンティングした: ノズルサイズ0.2mm、層厚さ0.2mm、部分濃度(a part density)約35%、放出率(a discharge)80%、液滴アスペクト比2.2。各配合物に
対し、ノズル温度は207℃、200℃、207℃、190℃、及び207℃であり、背圧は80バールで
あり、プリント速度は40mm/秒であった。配合物1~2、4、及び7をプリンティングする際には、120℃の構築チャンバー温度を使用し、配合物6をプリンティングする際には、80℃の構築チャンバー温度を使用した。
【0059】
実施例2:PEIと配合物6のプリンティング
[0070] ARBURG(商標)Freeformer(ドイツ、ロスブルクのArburg GmbHから市販)を使用
してPEIと配合物6をプリンティングした。PEIは100℃で8時間乾燥し、水溶性ポリマー配
合物6は90℃で8時間乾燥した。乾燥後、材料をFreeformer中に装入し、25mm2、0.4mm厚さであって、11.50mmの突出部(0.4mm厚さ)が1mm厚さのアームによってスクエアベース(square base)に付着した状態のPEI部分を、下記のパラメーターを使用してプリンティングし
た:ノズルサイズ0.20mm、層厚さ0.2mm、部分材料と支持体材料の両方に対して約90%の部分濃度(a part density)、放出率90%、及び液滴アスペクト比1.5。PEIは、305℃のノズ
ル温度と50バールの投与背圧(a dosing back pressure)を使用してプリンティングした。配合物6は、207℃のノズル温度と80バールの投与背圧を使用してプリンティングした。インフィル(infill)に関しては、145℃の構築チャンバーの温度と20mm/秒のプリンティン
グ速度を使用した。
【0060】
実施例3:PEIと配合物2のプリンティング
[0071] 実施例2の場合と同様に、ARBURG(商標)Freeformer(ドイツ、ロスブルクのArburg GmbHから市販)を使用してPEIと配合物2をプリンティングした。PEIは100℃で8時間乾
燥し、水溶性ポリマー配合物2は90℃で8時間乾燥した。乾燥後、材料をFreeformer中に装入し、25mm2、0.4mm厚さであって、11.50mmの突出部(0.4mm厚さ)が1mm厚さのアームによ
ってスクエアベースに付着した状態のPEI部分を、下記のパラメーターを使用してプリン
ティングした:ノズルサイズ0.20mm、層厚さ0.2mm、部分材料と支持体材料の両方に対して約90%の部分濃度、放出率90%、及び液滴アスペクト比1.5。PEIは、305℃のノズル温度
と50バールの投与背圧を使用してプリンティングした。配合物2は、207℃のノズル温度と80バールの投与背圧を使用してプリンティングした。インフィルに関しては、145℃の構
築チャンバーの温度と20mm/秒のプリンティング速度を使用した。
【0061】
実施例4:配合物4と配合物6~7のフィラメント作製
[0072] 配合物6~7に対するフィラメント作製は、2つの方法(方法Aと方法B)に従って
行った。方法Aにおいては、配合物6~7からのペレットを4時間乾燥し、そして20rpmのス
クリュー速度、全ての押出機ゾーンに対して180℃の温度プロフィール、及び5kg/時の押出量にて押し出した。こうして得られたフィラメントを、90℃にて加熱マルチロールゴデット下流ユニット(multi-roll godet downstream unit)上に送った。配合物6のゴデット
加熱フィラメントを、初期延伸比から2:1の最終延伸比まで延伸した。配合物のゴデット
加熱フィラメントを、初期延伸比から1.5:1の最終延伸比まで延伸した。
【0062】
[0073] 方法Bにおいては、配合物4と7からのペレットを、1.50”の一軸スクリュー押
出機(フロリダ州ウエストパームビーチのAutomated Manufacturing Systems社から市販)
を20rpmのスクリュー速度及び5kg/時の押出量にて使用して押し出した。供給口の後の温度ゾーンを全て200℃に加熱した。押し出されたフィラメントを空気で約90~120℃に冷却し、次いで約2:1の最終延伸比を得るべく下流の引取装置と巻き取り装置を使用して延伸
した。こうして得られたフィラメントは、厚さが約1.75mmであった。
【0063】
実施例5:配合物4のMakerbotフィラメント
[0074] 方法Bに従って作製した配合物4の1.75mm厚さフィラメントを、下記の条件を使用してMAKERBOT REPLICATOR(商標)2X(LLCのMakerBot Industries社から市販)上にプリン
ティングした。フィラメントをMakerbot押出機中に直接供給した。押出機温度は190℃で
あった。Makerbotソフトウェア(shark)に付属するストックファイルをプリンティングす
るための条件を使用した。
【0064】
溶解試験法1:配合物1及び3~5
[0075] 配合物1及び3~5のそれぞれに関して、2.5gのペレットサンプルを、約70℃
にて約50mlの脱イオン水中に配置した。視認できるペレットがないような、サンプルが完全に溶解した時点にて溶解時間を記録した。得られた結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
溶解試験法2:配合物1~2、4、6~7
[0076] 配合物1~2、4、及び6~7のそれぞれに対するプリント立方体サンプル(実施例1に記載)を、以下に記載するように溶解試験法2に付した。約8cm3の体積を有する立方体
を、70℃の脱イオン水100mlが入った250mlのビーカー中に置いた。約15分ごとに2mlのア
リコートをサンプリングし、24時間乾燥し、溶解した材料の量を重量測定法で測定した。溶解速度は下記の式を使用して算出した。
【0067】
【数1】
【0068】
実験モデルによる算出(Weibull)
【0069】
【数2】
【0070】
上記式中、Mtは、時間Tにおいて溶解した質量であり;Miは、立方体の初期質量であり;aは、プロセスのスケールパラメーターであり;bは、溶解曲線の形状を定め;Tiは、溶解が
始まる前の遅延時間である(通常この値はゼロである)。この実験モデルから、立方体の約
63.2%を溶解するのに必要な時間間隔(Td)の推定値は、下記の関係式によって算出することができる。
【0071】
【数3】
【0072】
これは実験モデルであるけれども、立方体の初期質量(Mi)及びサンプルの約63.2%を溶解するのにかかる時間間隔に基づいたおおよその溶解速度が得られる。
【0073】
【数4】
【0074】
[0077] 得られた結果を表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
配合物4と6のマンドレル結節試験
[0078] 配合物4と6を使用して作製したフィラメントを、マンドレル結節試験(mandrel
knot testing)に付した。12インチ長さのフィラメント片を、いろいろな直径(3インチ、2インチ、及び1インチ)の幾つかのHDPE円筒状マンドレル上で単一の結節に結び付け、手
で引っ張った。この試験時に破壊しないフィラメントを合格とした。得られた結果を表6
に示す。
【0077】
【表6】
【0078】
DSCによる分析
[0079] 延伸を行った場合とそうでない場合の配合物6のフィラメントに関して、示差
走査熱量法(DSC)による実験を行った。表7から、フィラメントを約3:1の延伸比で延伸す
ると、配合物6に対する溶融エンタルピーが1.7J/gから8.7J/gに増大する、ということ
がわかる。しかしながら、熱履歴を除去すると(これは、延伸フィラメントを融解温度よ
り高い温度に加熱し、室温に冷却し、次いで融解温度より高い温度に再加熱することによって行った)、溶融エンタルピーが、延伸されていないサンプルに対して観察された値に
減少した。こうした応力誘起結晶化挙動はDSCによって明らかであり、このことは、この
材料が事実上半結晶性である、ということが当業者にはわかるであろう。
【0079】
【表7】
【0080】
[0080] さらに、表8に示すように、糖類1及び配合物1~2と6~7に対してDSCを行った
。表8の結果から、配合物6と7は混和性の配合物であることがわかる。具体的に言えば、
唯一つのガラス転移温度と融解温度が観察される。
【0081】
【表8】
【0082】
[0081] 特定の実施態様について説明してきたが、本明細書に記載の開示内容は、添付の特許請求の範囲内のさらに他の実施態様にも適用可能であることは、当業者には容易にわかるであろう。
[1] 水溶性ポリマーと糖類を含む水溶性ポリマー組成物であって、水溶性ポリマーと糖類が実質的に混和性の水溶性ポリマー組成物を形成し、水溶性ポリマー組成物が実質的に乾燥している、上記水溶性ポリマー組成物。
[2] 水溶性ポリマー組成物が、少なくとも約140℃の構築チャンバー温度にて実質的に安定である、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[3] 水溶性ポリマー組成物が、少なくとも約150℃の構築チャンバー温度にて実質的に安定である、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[4] 水溶性ポリマー組成物が、少なくとも約170℃の構築チャンバー温度にて実質的に安定である、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[5] 水溶性ポリマー組成物が、少なくとも約190℃の構築チャンバー温度にて実質的に安定である、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[6] 水溶性ポリマー組成物が、少なくとも約210℃の構築チャンバー温度にて実質的に安定である、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[7] 水溶性ポリマーがブテンジオールビニルアルコールコポリマーを含む、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[8] 糖類がトレハロースを含む、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[9] 1種以上の添加剤もしくはポリマーをさらに含む、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[10] 水溶性ポリマー組成物が半結晶性である、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[11] 水溶性ポリマー組成物が、溶解試験法2に従って400mg/分の溶解速度を有する、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[12] 水溶性ポリマー組成物が、溶解試験法2による測定にて少なくとも約400mg/分の溶解速度を有する、[1]に記載の水溶性ポリマー組成物。
[13] 水溶性ポリマーと糖類との混合物を処理して、得られる水溶性ポリマー組成物が実質的に混和性で且つ実質的に乾燥しているように水溶性ポリマー組成物を形成させること;水溶性ポリマー組成物から供給原料を形成させること;及び供給原料がある延伸比を有するように供給原料を延伸すること;を含む方法。
[14] 延伸比が少なくとも約5:1である、[13]に記載の方法。
[15] 延伸比が少なくとも約3:1である、[13]に記載の方法。
[16] 延伸比が少なくとも約1.5:1である、[13]に記載の方法。
[17] 溶解試験法2に従って少なくとも100mg/分の溶解速度を有していて、少なくとも140℃の構築チャンバー温度にて実質的に安定である半結晶性水溶性ポリマー、を含む水溶性支持材組成物。
[18] 処理時にドローダウンする、[17]に記載の水溶性支持材組成物。
[19] 実質的に水平な構築プレート上に大まかに配置された3次元プリントオブジェクト;及び3次元プリントオブジェクトのまわりに配置され、3次元プリントオブジェクトの1つ以上の部分を支持する1つ以上の可溶性支持体、該可溶性支持体が水溶性ポリマー組成物を含む;を含む3次元プリント物品。
[20] 水溶性ポリマーがブテンジオールビニルアルコールコポリマーを含む、[19]に記載の3次元プリント物品。
【符号の説明】
【0083】
10 アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)/ナイロン構築プレート
12 ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)/トレハロース組成物
22 BVOH/トレハロース組成物
20 超高分子量ポリエチレン構築プレート
24 100重量%のトレハロースに対する曲線
26 100重量%のBVOHに対する曲線
28A 50/50重量%のBVOH/トレハロースに対するレオロジー曲線
28B 85/15重量%のBVOH/トレハロースに対するレオロジー曲線
30 50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物のフィラメント
30A 延伸前の50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物のフィラメント
30B 延伸後の50/50重量%のBVOH/トレハロース組成物のフィラメント
図1
図2
図3
図4