(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126767
(43)【公開日】2023-09-12
(54)【発明の名称】安定度を高めた天然生物由来油を含む誘電流体
(51)【国際特許分類】
H01B 3/20 20060101AFI20230905BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230905BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20230905BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20230905BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230905BHJP
C08K 5/3475 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
H01B3/20 R
C08L91/00
C08K5/103
C08K5/524
C08K5/13
C08K5/3475
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023093991
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2020549672の分割
【原出願日】2019-03-20
(31)【優先権主張番号】62/646,121
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】397058666
【氏名又は名称】カーギル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】クース、トッド、エル.
(72)【発明者】
【氏名】リッツ、ケビン、アール.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】変圧器、スイッチングギヤ及び電気ケーブルを含む、電気分配及び電力機器で使用するための絶縁油を含む誘電流体組成物を提供する。
【解決手段】天然生物由来油と、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物と、を含む誘電流体であって、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を、油を含む誘電流体に添加することで、通常の使用中に、誘電流体中の漂遊ガスの形成を低減させるか、阻害するか又は防止する安定効果を付与する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然生物由来油と、1種以上のホスファイト化合物を含むホスファイト成分と、を含む、誘電流体。
【請求項2】
前記ホスファイト成分が、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、少なくとも60%、又はホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、少なくとも70%、又はホスファイト成分を含有しない同様の電流体組成物と比較して、少なくとも80%、前記誘電流体のH2ガス発生を低減させるのに十分な量で存在する、請求項1に記載の誘電流体。
【請求項3】
前記ホスファイト成分が、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、少なくとも60%、前記誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在するか、又は、前記ホスファイト成分が、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、少なくとも70%、前記誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在するか、又は、前記ホスファイト成分が、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、少なくとも80%、前記誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する、請求項1又は2に記載の誘電流体。
【請求項4】
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体中に0.05~溶解限度の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、前記誘電流体中に0.1~溶解限度の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.05~4重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.05~3重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.05~2重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.05~1.5重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.05~1重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.05~0.5重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.1~4重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.1~3重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.1~2重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.1~1.5重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.1~1重量%の量で存在するか、又は前記ホスファイト成分が、0.1~0.5重量%の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項5】
前記ホスファイト成分が、水安定であるホスファイト化合物から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項6】
前記ホスファイト成分が、ホスファイトエステル、トリアリールホスファイト、トリアルキルホスファイト、環状ホスファイト、ビスアリールホスファイトペンタエリトリトール環状エステルから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項7】
前記ホスファイト成分が、1~3個のアリールオキシ基を有するホスファイト化合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項8】
前記ホスファイト成分が、トリアリールホスファイト化合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項9】
前記ホスファイト成分が、環状アリールホスファイト、環状アルキルアリールホスファイト、アリール環状フェノキシホスファイト、ビスアリールホスファイト、アルキルアリールホスファイト、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項10】
前記ホスファイト成分が、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニルペンタエリトリトールジホスファイト、トリス-ノニルフェニルホスファイト、1,3,7,9-テトラtert-ブチル-11-(2-エチルヘキソキシ)-5H-ベンゾ[d][1,3,2]ベンゾジオキサホスホシン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)ペンタエリトリトールジホスファイト、4,4’-イソプロピリイデンジフェノールC12~15アルコールホスファイト、3,9-ジフェノキシ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリフェニルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、5,5-ジメチ(dimethy)-2-フェノキシ-1,3,2-ジオキサホスホリナン、メチルジフェニルホスファイト、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項11】
前記誘電流体が、1種以上の非ホスファイト抗酸化剤化合物から選択される非ホスファイト抗酸化成分を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項12】
前記非ホスファイト抗酸化成分が、フェノール系抗酸化剤からなる群から選択される、請求項11に記載の誘電流体。
【請求項13】
前記非ホスファイト抗酸化成分が、ブチル化ヒドロアニソール、ブチル化ヒドロトルエン、tert-ブチルヒドロキノン、テトラヒドロブトロフェノン(butrophenone)、アスコルビン酸パルミテート、プロピルガレート、アルファ-、ベータ-、又はデルタ-トコフェロール、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の誘電流体。
【請求項14】
前記非ホスファイト抗酸化成分が、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,4’-メチレン-ビス-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、及び2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールからなる群から選択される、請求項11に記載の誘電流体。
【請求項15】
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であるような量で存在し、
又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.2重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であるような量で存在し、又は
前記ホスファイト成分が、約0.2重量%~約1重量%の量で存在し、前記非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であるような量で存在し、又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.4重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であるような量で存在し、又は
前記ホスファイト成分が、約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、前記非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であるような量で存在し、又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.2重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、約0.2重量%~約1重量%の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.4重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.05重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.4重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.2重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.2重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.4重量%~前記ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.3重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分であり、又は
前記ホスファイト成分が、約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、前記ホスファイト成分が、前記誘電流体組成物中に約0.3重量%~前記非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である、請求項11~14のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項16】
前記誘電流体が、金属不動態化剤を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項17】
前記金属不動態化剤が、ベンゾトリアゾール又はその誘導体から選択される、請求項16に記載の誘電流体。
【請求項18】
前記金属不動態化剤が、IEC 61125の方法Cに従って評価される48時間の酸化安定度試験において、0.50(50%)以下の、又は0.60(60%)以下の、又は0.90(90%)以下の、又は1.0(100%)以下の、IEC 60247(120℃)で決定される、前記誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する、請求項16又は17に記載の誘電流体。
【請求項19】
前記金属不動態化剤が、0.005~1.0重量%の量で存在する、請求項16又は17に記載の誘電流体。
【請求項20】
前記金属不動態化剤が、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-ar-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-メタンアミン、1H-ベンゾトリアゾール、メチル-1H-ベンゾトリアゾール、及び2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビス-エタノールからなる群から選択される、請求項16~19のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項21】
前記誘電流体が、植物油からなる群から選択される天然生物由来油を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項22】
前記誘電流体が、少なくとも75重量%の天然生物由来油の含み、前記誘電流体が、少なくとも85重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体が、少なくとも90重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体が、少なくとも95重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体が、少なくとも98重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体中の唯一の油が、天然生物由来油である、請求項1~21のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項23】
前記誘電流体が、ひまし油、ひまし油、ココナッツ油、トウモロコシ油、綿実油、ハマナ油、フラックスシード油、ホホバ油、ククイナッツ油、レスケレラ油、亜麻仁油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、パインナッツ油、ナタネ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、大豆油、及び、ベロニカ油、並びにそれらの混合物からなる群から選択される天然植物油を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項24】
前記誘電流体が、動物由来の油からなる群から選択される天然生物由来油を含む、請求項1~20、及び22のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項25】
前記誘電流体が、合成エステル、鉱油、及びこれらの混合物から選択される油を追加的に含む、請求項21~24のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項26】
前記誘電流体が、ハロゲン化合物、シリコーン化合物、又はイオウ化合物を含まない、請求項1~25のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項27】
前記誘電流体が、50~200のIVを有する天然生物由来油、又は80~200のIVを有する天然生物由来油、又は100~200のIVを有する天然生物由来油、又は110~200のIVを有する天然生物由来油を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項28】
前記誘電流体が、5未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、3未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、2未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、1未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、約0.01~5の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、約0.01~3の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、約0.01~2の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、約0.01~1の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、約0.1~1の過酸化物値を有する、請求項1~27のいずれか一項に記載の誘電流体。
【請求項29】
電気分配又は動力装置で使用するように配合された誘電流体であって、前記誘電流体が、油と、1種以上のホスファイト化合物を含むホスファイト成分と、を含む、誘電流体。
【請求項30】
電気分配又は動力装置における請求項1~29のいずれか一項に記載の誘電流体の使用。
【請求項31】
電気分配又は動力装置を絶縁する方法であって、請求項1~29のいずれか一項に記載の誘電流体を前記電気分配又は動力装置に組み込むことを含む、方法。
【請求項32】
請求項1~29のいずれか一項に記載の誘電流体を含む、電気分配又は動力装置。
【請求項33】
前記装置が、コンデンサ及び変圧器から選択される、請求項32に記載の電気分配又は動力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一態様では、本発明は、変圧器、スイッチングギヤ、及び電気ケーブルを含む、電気分配及び電力機器で使用するための、絶縁油を含む、誘電流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分配及び電力機器(変圧器、スイッチングギヤ、及び電気ケーブルを含む)で使用される誘電(又は絶縁)流体は、2つの重要な機能を行う。これらの流体は、電気絶縁媒体として作用し、即ち、誘電強度を呈し、またそれらは、発生した熱を機器から遠くへ運搬し、即ち、冷却媒体として作用する。変圧器で使用する場合、例えば、誘電流体は、変圧器の巻線及びコア又は接続された回路から冷却面まで熱を運搬する。誘電強度及び冷却能力を有することとは別に、電気機器のための理想的な誘電流体はまた、環境に対して殆ど又は全く悪影響を呈さず、機器を構築するために使用される材料と互換性があり、また、比較的不燃性である。
【0003】
誘電油には、特徴的ないくつかの特定の機能特性がある。油の誘電破壊又は誘電強度は、電気破壊に抵抗するその能力の指標を提供し、また、油中に浸漬された指定の間隙での2つの電極間にアークを生じさせるために必要な最小電圧として測定される。衝撃誘電破壊電圧は、光及び電力サージなどの過渡電圧応力の下で電気破壊に抵抗する油の能力の指標を提供する。油の散逸係数は、油の誘電損失の尺度であり、低い散逸係数は、低い誘電損失、及び低濃度の可溶性極性汚染物質を示す。油のガス発生傾向は、部分的な放電が存在する条件の下でガスを発生又は吸収する油の傾向を測定する。同様に、漂遊ガス発生は、誘電油(変圧器油など)の熱応力の結果として生じ、水素、メタン、エタン、エチレンなどの放出をもたらし得る。
【0004】
誘電流体の1つの機能は、熱を搬送し、散逸させることであるので、誘電冷却剤として機能する流体の相対的能力に大きな影響を及ぼす要因としては、粘度、比熱、熱伝導率、及び膨張係数が挙げられる。これらの特性の値は、特にフル定格における機器の動作温度の範囲では、特定の用途に対して好適な誘電流体を選択する際に熟考しなければならない。
【0005】
熱伝達に影響を及ぼす上述の特性に加えて、誘電流体は、比較的高い誘電強度、低い散逸係数、固体誘電体と互換性がある誘電定数、低いガス発生傾向を有するべきであり、また、露出する電気機器材料と互換性がなければならない。漂遊ガス発生の制御は、電気機器のヘッドスペース内の爆発性ガスの蓄積を防止する。
【0006】
植物油又は植物油ブレンドを含み、また、1種以上の抗酸化剤化合物を含む電気機器で使用するための誘電流体は、Corkranらに対する米国特許第7,651,641号に記載されている。
【発明の概要】
【0007】
酸化分解の影響を低減させるために、誘電流体を調製する際に典型的に実践することは、ジ-tert-ブチルフェノール系の抗酸化剤を加えることである。これらの抗酸化剤は、酸化中に形成された過酸化物から水素ラジカルを抽出し、ラジカルを隔離することによって作用する。得られるキノンメチド及びスチルベンキノンは、高度に着色されており、これは、特定の誘電流体用途において、又は色が油の品質の視覚化を妨げる状況において有害であるとみなされる。加えて、溶解金属及び金属表面による酸化分解の触媒作用を低減させ、したがって、抗酸化剤の寿命を延ばすために、アリールトリアジンなどの不動態化剤が誘電流体に加えられてきた。
【0008】
誘電流体として使用される油、例えば、鉱油、合成エステル、特に生物由来の油は、誘電流体として使用される場合に、安定度の制限を有する。熱分解は、水素、メタン、エタン、及びエチレンから選択される漂遊ガスの発生によって明示される。漂遊ガス発生は、ASTM D3612-02、方法Cに従って測定される。酸化分解は、特に熱分解の水素及びエタン濃度を上昇させ、しばしば、有機酸、アルコール、及び過酸化物の生成を伴う。部分放電(電子の漏出)によるイオン化分解は、水素及びメタンによって明示され、アーク及び静電放電は、水素及びアセチレンガスの発生を伴う。
【0009】
1種以上のホスファイト化合物を含むホスファイト成分を、油を含む誘電流体に添加することで、通常の使用中に、誘電流体中の漂遊ガスの形成を低減させる、阻害する、又は防止する、安定効果を付与することが発見されている。理論に束縛されるものではないが、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を誘電流体に添加することで、過酸化物の形成前に安定効果を付与し、それによって、ガスの形成を好都合に防止すると考えられる。
【0010】
一態様では、油と、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物と、を含む、誘電流体を提供する。一態様では、油と、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物と、を含み、更に、1種以上の非ホスファイト抗酸化剤化合物から選択される非ホスファイト抗酸化成分を含む、誘電流体を提供する。
【0011】
一態様では、電気分配又は動力装置で使用するように配合された誘電流体が提供され、この誘電流体は、油と、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物と、を含む。
【0012】
一態様では、本明細書に記載される誘電流体を電気分配又は動力装置に組み込むことを含む、電気分配又は動力装置を絶縁する方法を提供する。
【0013】
一態様では、本明細書に記載される誘電流体を含む、電気分配又は動力装置を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
下で説明される本発明の実施形態は、網羅的であることを意図したものではなく、本発明を以下の詳細な説明の中で開示するその寸分違わぬ形態に限定することを意図したものでもない。むしろ、選択及び説明される態様の目的は、本発明の一般的原理及び実践についての他の当業者による認識及び理解を容易にすることができるように説明又は例示することである。
【0015】
一態様では、誘電流体は、生物由来油、合成エステル油、鉱油、及びこれらの混合物からなる群から選択される油を含む。
【0016】
一態様では、誘電流体は、生物由来油を含む。本開示の目的で、生物由来油は、植物源又は動物源から誘導された油である。一態様では、生物由来油は、精製、漂白、及び脱臭された(refined, bleached and deodorized、「RBD」)油である。一態様では、誘電流体は、少なくとも75重量%の生物由来油を含む。一態様では、誘電流体は、少なくとも85重量%の生物由来油を含む。一態様では、誘電流体は、少なくとも90重量%の生物由来油を含む。一態様では、誘電流体は、少なくとも95重量%の生物由来油を含む。一態様では、誘電流体は、少なくとも98重量%の生物由来油を含む。一態様では、誘電流体中の唯一の油は、生物由来油である。
【0017】
生物由来油は、再生可能資源から誘導され、かつ一般に容易に生物分解可能であるので、特に、本誘電流体での使用に望ましい。一態様では、生物由来油は、変圧器用途における紙の安定度を高める更なる特性を有する。生物由来油は、鉱油とは異なり、高い引火点及び燃焼点特性、低い着火性、並びに低い火炎伝播の利益をもたらす。合成エステルの引火点、燃焼点、及び発火性は、組成物に高く依存する。一定の条件の下で、鉱油は、爆発及び火炎伝播を起こしやすく、発火源の周囲でガソリンのような働きをする。不飽和を含む生物由来油は、有益な流動特性を提供し、不飽和の増加と相関する油の粘度の減少を伴う。
【0018】
一態様では、誘電流体中の油は、天然生物由来油であり、これは、例えばエステル交換又は油誘導体生成物の形成によって、反応性化学物質によって改質されていない植物源又は動物源から得られることを意味する。明確にするために、エステル交換(すなわち、トリグリセリド油中に存在する脂肪酸部分のそのグリセロール部分への再分配)によって改質される植物油又は動物油は、天然生物由来油であるとみなされることが理解される。追加的に、抽出によって得られる植物油又は動物油は、天然生物由来油であるとみなされることが理解される。
【0019】
一態様では、誘電流体は、植物油を含む。一態様では、誘電流体は、ひまし油、ココナッツ油、トウモロコシ油、綿実油、ハマナ油、フラックスシード油、ホホバ油、ククイナッツ油、レスケレラ油、亜麻仁油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、パインナッツ油、ナタネ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、大豆油、及び、ベロニカ油、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、植物油を含む。一態様では、誘電流体中の唯一の油は、植物油である。一態様では、誘電流体中の唯一の油は、ひまし油、ココナッツ油、トウモロコシ油、綿実油、ハマナ油、フラックスシード油、ホホバ油、ククイナッツ油、レスケレラ油、亜麻仁油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、パインナッツ油、ナタネ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、大豆油、及び、ベロニカ油、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、植物油である。一態様では、誘電流体中の唯一の油は、植物油である。一態様では、植物油を含む誘電流体は、ホスファイト化合物の添加によって更に改質される、市販の油組成物が提供され得る。例えば、Envirotemp FR3は、ダイズ油及び添加物(ジ-tert-ブチルフェノールクラスの抗酸化剤、流動点添加物、染料)から作製された、天然エステル流体である。再生可能源から誘導され得る他の類似する流体としては、Midel eN(ナタネ系)が挙げられる。これらの材料は、漂遊ガス発生を減少させるために、ホスファイト化合物の添加によって改質され得る。
【0020】
一態様では、誘電流体は、微生物、海草、及び同様の有機源から得られる天然油を含む。
【0021】
一態様では、誘電流体は、動物油を含む。一態様では、誘電流体中の唯一の油は、動物油である。動物油の代表例としては、獣脂、ラード、魚油、又は鶏脂が挙げられる。
【0022】
一態様では、誘電流体は、合成油を含む。一態様では、合成油は、ポリオールを飽和又は不飽和の直鎖及び分岐鎖カルボン酸と反応させることによるエステルの形成を伴う化学反応の生成物である油、アリールエステル、C5~C12飽和又は不飽和の直鎖及び分岐鎖エステル、及びこれらの混合物であり、又は反応性化学物質によって、例えばエステル交換又は油誘導体生成物の形成によって源油の化学改質を行う。したがって、エステル交換による化学改質によって植物源又は動物源から得られた油は、本考察の目的である合成油である。一態様では、誘電流体は、植物又は動物生物由来油のみから誘導される反応物から調製される合成油を含む。
【0023】
一態様では、合成エステル油は、グリセロール、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン(trimethylolpropane、TMP)、水酸化脂肪酸、及びポリグリセリンから選択される、ポリオールの合成エステルを含む。一態様では、合成エステルは、C5~C25飽和又は不飽和の直鎖及び分岐鎖カルボン酸、C5~C12飽和又は不飽和の直鎖及び分岐鎖カルボン酸、アリールエステル、C5~C12飽和又は不飽和の直鎖及び分岐鎖エステル、C5~C25飽和又は不飽和の直鎖及び分岐鎖エステル、及びこれらの混合物、から選択される化合物と、ポリオールとを反応させることによって形成される。
【0024】
一態様では、誘電流体は、C5~C24分岐鎖及び直鎖脂肪族カルボン酸と、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、2,2-ジメチルプロパンジオール、2,2-ジメチル-3-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ネオペンチルグリクソール、2,2-ジメチロールブタン、トリメチロールエタン、ソルビトール、(C2~C12ジオール)エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、及び2-メチルプロパンジオール、並びにこれらの混合物とのエステルからなる群から選択される合成エステルを含む。
【0025】
一態様では、誘電流体は、C5~C24分岐鎖及び直鎖脂肪族アルコールのエステル、及びアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、シュウ酸、グリコール酸、フマル酸、からなる群から選択される酸、並びにこれらの混合物からなる群から選択される合成エステルを含む。
【0026】
一態様では、誘電流体中の唯一の油は、合成油である。
【0027】
一態様では、誘電流体は、鉱油を含む。一態様では、誘電流体は、約220~約700、又は約500~約700の分子量を有する、直鎖及び分岐鎖脂肪族パラフィン炭化水素からなる群から選択される鉱油を含む。一態様では、誘電流体は、約120℃~約250℃の燃焼点を有する、又は約140℃~約200℃の燃焼点を有する鉱油を含む。一態様では、誘電流体は、200℃を超える燃焼点を有する鉱油を含む。一態様では、誘電流体は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,082,866号に記載されているような、類似する特性を有するナフテン炭化水素油、並びに上述したパラフィン及びナフテン炭化水素の混合物からなる群から選択される鉱油を含む。一態様では、誘電流体中の唯一の油は、鉱油である。
【0028】
一態様では、誘電流体は、生物由来油及び鉱油の混合物を含む。一態様では、誘電流体は、植物油及び鉱油の混合物を含む。一態様では、誘電流体は、合成エステル油及び鉱油の混合物を含む。一態様では、誘電流体は、合成エステル油及び生物由来油の混合物を含む。一態様では、誘電流体は、合成エステル油及び植物油の混合物を含む。一態様では、誘電流体は、合成エステル油、生物由来油、及び鉱油の混合物を含む。一態様では、誘電流体は、合成エステル油、植物油、及び鉱油の混合物を含む。
【0029】
油中の不飽和及び分岐の増加が、漂遊ガス発生の増加と関係していることが分かっている。相当な量の不飽和及び分岐を含む油では、漂遊ガス発生を減少させるために、ホスファイト化合物を添加することがより重要になる。不飽和の量が比較的少ない、又は不飽和を含まない油(例えば、50未満のヨウ素価を有する)、本明細書で説明するようなホスファイト化合物の組み込みによってかなりの利益を得ることに留意されたい。しかしながら、不飽和の量が比較的多い油は、漂遊ガス発生を減少させるためにホスファイト化合物を添加することによって、更に大きな利益を得る。一態様では、誘電流体は、50~200のIVを有する油を含む。一態様では、誘電流体は、80~200のIVを有する油を含む。一態様では、誘電流体は、100~200のIVを有する油を含む。一態様では、誘電流体は、110~200のIVを有する油を含む。
【0030】
本開示の目的で、「ヨウ素価」(Iodine Value、IV)は、測定されている100グラムの材料と反応するヨウ素のグラム数として定義される。ヨウ素価は、材料中に存在する不飽和(炭素-炭素二重結合及び炭素-炭素三重結合)の尺度である。ヨウ素価は、100グラムの材料当たりのヨウ素(I2)をグラム単位で報告し、また、AOCS Cd Id-92の手順を使用して決定される。
【0031】
一態様では、誘電流体は、シリコーン化合物を含まない、又はリン脂質を含まない、又は色素を含まない、又はレシチンを含まない、又は脂肪酸を含まない、又はモノグリセリド及びジグリセリドを含まない、又は酸を含まない、又はアルコールを含まない、又は有色の不純物を含まない、又はイオウ化合物を含まない、又はクレゾールを含まない、又は多環芳香族炭化水素を含まない、又は酸を含まない、又はハロゲン化合物を含まない、又はアミンを含まない。一態様では、誘電流体は、天然生物由来油を含み、リン脂質を含まない、又は色素を含まない、又はレシチンを含まない、又は脂肪酸を含まない、又はモノ及びジグリセリドを含まない。一態様では、誘電流体は、合成エステル油を含み、また、酸を含まない、又はアルコールを含まない、又は有色の不純物を含まない。一態様では、誘電流体は、鉱油を含み、また、イオウ化合物であり、又はクレゾールを含まない、又は多環芳香族炭化水素を含まない、又は酸を含まない、又はハロゲン化合物を含まない、又はアミンを含まない。
【0032】
一態様では、誘電流体は、高度に浄化された油を含む。本開示の目的で、油は、油が粘土媒体(例えばケイ酸塩、アルミン酸塩、など)で処理されて、極性化合物及び不純物を除去し、続いて、1ミクロンフィルタによって保持される粒子を実質的に除去するようにフィルタ処理する場合に、「高度に浄化される」。一態様では、誘電流体は、高度に浄化された生物由来油を含む。
【0033】
誘電流体に使用する油を選択するときに、望ましくない副反応及びガス発生が最初から回避され得るように油が低い初期過酸化物値を有することが有利であることが発見されている。使用中に添加物が対象の油のメンテナンスに費やされ、それらの用途への導入前に生じる油の状態の修正に費やされないように、ヘッドスペースからガスを除去し、不活性(窒素ブランケット化)に維持することによって、変圧器油中の過酸化物値が低く保たれることが好ましい。気圧又は酸化条件に対する誘電流体の露出の時間を通じて、誘電流体中の油の過酸化物値は、例えば、約1未満の超低初期過酸化物値から約8の、又は10の、又は更に高い、高い過酸化物値へと増加し得る。油が5未満の初期過酸化物値を有する場合、又は油が3未満の初期過酸化物値を有する場合、又は油が2未満の初期過酸化物値を有する場合、又は油が1未満の初期過酸化物値を有する場合、誘電流体中のガスの生成を阻害する際に、ホスファイト化合物が特に効果的であるということが発見されている。一態様では、誘電流体に使用される油は、約0.01~5の初期過酸化物値を有し、又は約0.01~3の初期過酸化物値を有し、又は約0.01~2の初期過酸化物値を有し、又は約0.01~1の初期過酸化物値を有し、又は約0.1~1の初期過酸化物値を有する。本開示の目的で、「過酸化物値」は、AOCS法のCd 8b-90によって決定される。しかしながら、高い初期過酸化物値を有する誘電流体は、本明細書で説明するホスファイト化合物を添加することによって、漂遊ガス発生の低減を呈することに留意されたい。
【0034】
一態様では、誘電流体は、ホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
【0035】
一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析(ASTM D3612-02、方法C)で決定して、少なくとも60%、誘電流体の水素(H2)ガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも70%、誘電流体のH2ガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも80%、誘電流体のH2ガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。
【0036】
一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析(ASTM D3612-02、方法C)で決定して、少なくとも60%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも70%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも80%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。
【0037】
一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析(ASTM D3612-02、方法C)で決定して、少なくとも60%、誘電流体のメタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも70%、誘電流体のメタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも80%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。
【0038】
一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析(ASTM D3612-02、方法C)で決定して、少なくとも60%、誘電流体のエチレンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも70%、誘電流体のエチレンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも80%、誘電流体のエチレンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。
【0039】
一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析(ASTM D3612-02、方法C)で決定して、少なくとも60%、誘電流体の水素ガス発生を低減させるのに、及び追加的に、溶解ガス分析(ASTM D3612-02、方法C)で決定して、少なくとも60%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも70%、誘電流体の水素ガス発生を低減させるのに、及び追加的に、溶解ガス分析で決定して、少なくとも70%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、ホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体組成物と比較して、溶解ガス分析で決定して、少なくとも80%、誘電流体の水素ガス発生を低減させるのに、及び追加的に、溶解ガス分析で決定して、少なくとも80%、誘電流体のエタンガス発生を低減させるのに十分な量で存在する。
【0040】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体中に0.05~溶解限度の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体中に0.1~溶解限度の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.05~4重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.05~3重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.05~2重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.05~1.5重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.05~1重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.05~0.5重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.1~4重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.1~3重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.1~2重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.1~1.5重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.1~1重量%の量で存在する。一態様では、ホスファイト成分は、0.1~0.5重量%の量で存在する。
【0041】
一態様では、誘電流体は、水安定であるホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む。本開示の目的で、ホスファイト化合物は、ホスファイト化合物の固体サンプルを60℃で85%の相対湿度のチャンバ内に配置して、時間の関数として%加水分解を決定するためにサンプリングしたときに、サンプルが、80分での加水分解が30%以下である場合に、水安定であると定義される。
【0042】
一態様では、誘電流体は、ホスファイトエステル、トリアリールホスファイト、トリアルキルホスファイト、環状ホスファイト、ビスアリールホスファイトペンタエリトリトール環状エステル、などからなる群から選択されるホスファイト化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
【0043】
一態様では、ホスファイト成分は、1~3個のアリールオキシ基を有するホスファイト化合物からなる群から選択される。一態様では、ホスファイト成分は、アリールホスファイト化合物から選択される。一態様では、ホスファイト成分は、トリアリールホスファイト化合物から選択される。一態様では、ホスファイト成分は、環状エステル及びビスアリールホスファイトペンタエリトリトール環状エステルであるホスファイト化合物からからなる群から選択される。一態様では、ホスファイト成分は、環状アリールホスファイト、環状アルキルアリールホスファイト、アリール環状フェノキシホスファイト、ビスアリールホスファイト、アルキルアリールホスファイト、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0044】
一態様では、ホスファイト成分は、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(例えば、Irgafos168のような市販品)、ビス(2,4-ジクミルフェニルペンタエリトリトールジホスファイト(例えば、Doverphos S-9228のような市販品)、トリス-ノニルフェニルホスファイト(例えば、Adela ADKスタビライザ1178又はDoverphos4のような市販品)、1,3,7,9-テトラtert-ブチル-11-(2-エチルヘキソキシ)-5H-ベンゾ[d][1,3,2]ベンゾジオキサホスホシン(例えば、AmfineHP-10のような市販品)、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(例えば、AmfinePEP-36Aのような市販品)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)ペンタエリトリトールジホスファイト(Irgafos126のような市販品)、4,4’-イソプロピリイデンジフェノールC12~15アルコールホスファイト(例えば、Amfine1500のような市販品)、3,9-ジフェノキシ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(例えば、AmfinePEP-8のような市販品)、トリフェニルホスファイト(例えば、AmfineTPP又はDoverphos10のような市販品)、イソデシルジフェニルホスファイト(例えば、AdelaADKスタビライザ135A又はDoverphos8のような市販品)、フェニルジイソデシルホスファイト(例えば、Doverphos7のような市販品)、ジイソデシルペンタエリトリトールジホスファイト(例えば、Doverphos1220のような市販品)、ジステアリルペンタエリトリトールジホスファイト(例えば、DoverphosS-680のような市販品)、トリラウリルホスファイト(例えば、Doverphos53のような市販品)、アルキル(C12~C15)ビスフェノールAホスファイト(例えば、Doverphos613のような市販品)、アルキル(C10)ビスフェノールAホスファイト(例えば、Doverphos675のような市販品)、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト(例えば、AmfineCのような市販品)、5,5-ジメチル-2-フェノキシ-1,3,2-ジオキサホスホリナン、メチルジフェニルホスファイト、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0045】
一態様では、ホスファイト化合物を含む誘電流体は、1種以上の非ホスファイト抗酸化剤化合物を含む非ホスファイト抗酸化成分を更に含む。ホスファイト化合物を含む誘電流体中に1種以上の非ホスファイト抗酸化剤化合物を組み込むことで、酸化分解反応からの誘電流体の保護を補完し、更に増強することが分かった。追加的に、一態様では、ホスファイト化合物を含む誘電流体中に1種以上の非ホスファイト抗酸化剤化合物を組み込むことで、非ホスファイト抗酸化成分を含有しない同様の組成物と比較して、粘度の経時的な増加を阻害することが分かった。一態様では、非ホスファイト抗酸化成分及び特にフェノール系抗酸化剤化合物の存在が、酸素に露出される組成物の酸化安定度を提供するのに有利であることが分かった。したがって、一態様では、組成物中にホスファイト成分及び非ホスファイト抗酸化成分の両方を含有する組成物は、所定の温度でASTM D6186~98の下で測定して、酸化誘導時間(Oxidation Induction Time、「OIT」)の測定で決定して、良好な漂遊ガス抑制特性及び酸化安定度を呈する。OIT試験は、500±25psigの空気圧力及び100±10ml/分の気流速度で実行される。
【0046】
従来の抗酸化剤(非ホスファイト抗酸化剤化合物、特にフェノール系抗酸化剤)の存在は、過酸化物の形成を防止しないが、代わりに、過酸化物が形成された後に過酸化物を分解させるように作用することに留意されたい。更に、ヘッドスペース内に空気を有する生物由来油は、過酸化物値が経時的に増加する。酸化は、酸素雰囲気を窒素又はアルゴン不活性ガスと置き換えることによって、及び流体からガスを除去することによって減少させることができる。しかしながら、しばしば、従来の抗酸化剤は、周囲温度において過酸化物の蓄積を効果的に低減させない。高い温度は、従来の抗酸化剤と過酸化物との相互作用を増加させるのに効果的であるだけでなく、油の熱分解の速度も増加させる。約120℃で、過酸化物分解の速度は、過酸化物形成の速度を超えて増加する。従来の抗酸化剤の存在下では、アルコールが、過酸化物分解の副生成物である。抗酸化剤の非存在下では、過酸化物種が分解して、酸を形成する。
【0047】
過酸化物含有量の増加はまた、漂遊ガス発生の増加にも関与することが観察された。しかしながら、過酸化物の形成を通した分解及びこの分解の形態から生じる漂遊ガス発生は、本明細書で説明するようなホスファイト化合物の使用によって大幅に低減される。
【0048】
使用される油が鉱油である場合、鉱油誘電組成物の過酸化物形成及び分解が約120℃で加速する傾向があることが分かった。このために、組成物中の従来の抗酸化剤との相互作用によって過酸化物を制御する目的で鉱油系の誘電組成物を加熱することは、好ましい方法でない。
【0049】
一態様では、追加的な非ホスファイト抗酸化成分は、フェノール系抗酸化剤から選択され、一態様では、ジtert-ブチルフェノールの類似体である。一態様では、非ホスファイト抗酸化成分は、ブチル化ヒドロアニソール(butylated hydroanisole、BHA)、ブチル化ヒドロトルエン(butylated hydrotoluene、BHT)、tert-ブチルヒドロキノン(tertiary butylhydroquinone、TBHQ)、テトラヒドロブトロフェノン(tetrahydrobutrophenone、THBP)、アスコルビン酸パルミテート(ローズマリー油)、プロピルガレート、及びアルファ-、ベータ-、又はデルタ-トコフェロール(ビタミンE)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0050】
一態様では、追加的な非ホスファイト抗酸化成分は、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(例えば、IganoxL101、Irganox1010、BNX1010のような市販品)、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えば、IrganoxL109のような市販品)、オクタデシル-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えば、Irganox1076のような市販品)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)(例えば、Irganox245のような市販品)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール(例えば、Irganox565のような市販品)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)(例えば、Irganox1098のような市販品)、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール(例えば、Irganox1520のような市販品)、4,4’-メチレン-ビス-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(例えば、Ethanox 4702のような市販品)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)からなる群から選択される。
【0051】
一態様では、組成物中のホスファイト成分の量、組成物中の非ホスファイト抗酸化成分の量、及びホスファイト成分と特定の範囲内の非ホスファイト抗酸化成分との相対比は、漂遊ガスの発生の抑制及び酸化低減の制御において特に優れた特性を呈することが分かった。一態様では、ホスファイト成分の量に対する非ホスファイト抗酸化成分の組み込みが多すぎると、漂遊ガス発生の抑制に悪影響を与え得ることが分かった。
【0052】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.05重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分あるような量で存在する。
【0053】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.2重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分あるような量で存在する。
【0054】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.2重量%~約1重量%の量で存在し、非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分あるような量で存在する。
【0055】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分あるような量で存在する。
【0056】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、非ホスファイト抗酸化成分は、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分あるような量で存在する。
【0057】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.05重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.05重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0058】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.2重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.05重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0059】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.2重量%~約1重量%の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.05重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0060】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.05重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0061】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.05重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0062】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.2重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0063】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.2重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0064】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~ホスファイト成分の溶解限度の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.3重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0065】
一態様では、ホスファイト成分は、誘電流体組成物中に約0.4重量%~約0.6重量%の量で存在し、ホスファイト成分が、誘電流体組成物中に約0.3重量%~非ホスファイト抗酸化成分の溶解限度の量で存在するが、ただし、更に、ホスファイト成分と非ホスファイト抗酸化成分との比が、1部のホスファイト成分に対して0~1.2部の非ホスファイト抗酸化成分である。
【0066】
一態様では、誘電流体は、金属不動態化剤を更に含む。金属不動態化剤の組み込みは、誘電流体に、特に合成エステル油を含むものに有用であることが分かった。理論に束縛されるものではないが、金属不動態化剤は、誘電流体の使用環境において、溶解金属及び金属表面による酸化分解の触媒作用を低減させるように作用する。追加的に、金属不動態化剤を追加的に含む本明細書で説明するような誘電流体組成物は、長期間の酸化ストレス状態の下であっても、低い流体散逸係数値(したがって、低減した静電帯電傾向)を呈することが分かった。
【0067】
一態様では、金属不動態化剤は、ベンゾトリアゾール又はその誘導体から選択される。一態様では、金属不動態化剤は、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-ar-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン(例えば、Irgamet39のような市販品)、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-メタンアミン(例えば、Irgamet30のような市販品)、1H-ベンゾトリアゾール(例えば、IrgametBTZのような市販品)、メチル-1H-ベンゾトリアゾール(例えば、IrgametTTZのような市販品)、ブチル-1H-ベンゾトリアゾール、及び2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビス-エタノール(例えば、Irgamet42のような市販品)から選択される。
【0068】
一態様では、金属不動態化剤は、誘電流体の約0.001~2重量%の量で存在する。一態様では、金属不動態化剤は、誘電流体の約0.005~1重量%の量で存在する。一態様では、金属不動態化剤は、誘電流体の約0.005~0.4重量%(即ち、50~4000ppm)の量で存在する。
【0069】
一態様では、誘電流体の油が合成エステルである場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価して、IEC60247(120℃)で決定して、164時間の酸化安定度試験において0.10(10%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。一態様では、誘電流体の油が合成エステル油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価して、IEC60247(120℃)で決定して、164時間の酸化安定度試験において0.30(30%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。一態様では、誘電流体の油が合成エステル油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価してIEC60247(120℃)で決定して、164時間の酸化安定度試験において0.50(50%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0070】
一態様では、誘電流体の油が合成エステルである場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価して、IEC60247(120℃)で決定して、800時間の酸化安定度試験において0.30(30%)以下、又は0.60(60%)以下、又は0.90(90%)以下、又は1.0(100%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0071】
一態様では、誘電流体の油が合成エステル油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価してIEC60247(120℃)で決定して、164時間の酸化安定度試験において0.60(60%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0072】
一態様では、誘電流体の油が合成エステル油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価してIEC60247(120℃)で決定して、164時間の酸化安定度試験において0.90(90%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0073】
一態様では、誘電流体の油が合成エステル油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価してIEC60247(120℃)で決定して、164時間の酸化安定度試験において1.0(100%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0074】
一態様では、誘電流体の油が生物由来油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価してIEC601125(120℃)で決定して、48時間の酸化安定度試験において0.50(50%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0075】
一態様では、誘電流体の油が鉱油である場合、金属不動態化剤は、IEC61125の方法Cに従って評価してIEC60247(120℃)で決定して、500時間の酸化安定度試験において0.50(50%)以下に、誘電流体の誘電正接値を制御するのに十分な量で存在する。
【0076】
一態様では、油の選択の誘電流体成分、ホスファイト化合物、任意の非ホスファイト抗酸化成分、及び任意の金属不動態化剤は、以下のような特定の物理的特性を提供するように選択される。
【0077】
一態様では、誘電流体の油が生物由来油又は合成エステル油である場合、誘電流体は、ISO2719で決定して、250℃を超える発火点を有する。一態様では、誘電流体の油が生物由来油又は合成エステル油である場合、誘電流体は、ISO2719で決定して、270℃を超える発火点を有する。一態様では、誘電流体の油が鉱油である場合、誘電流体は、ISO2719で決定して、135℃を超える発火点を有する。
【0078】
一態様では、誘電流体は、ISO2592で決定して、300℃を超える燃焼点を有する。一態様では、誘電流体は、ISO2592で決定して、310℃を超える燃焼点を有する。
【0079】
一態様では、誘電流体は、ISO3016で決定して、-5℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体は、ISO3016で決定して、-10℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体は、
ISO3016で決定して、-20℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体は、ISO3016で決定して、-25℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体は、ISO3016で決定して、-30℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体は、ISO3016で決定して、-45℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体の油が生物由来油又は合成エステル油である場合、誘電流体は、ISO3016で決定して、-10℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体の油が大豆系の油を含む場合、誘電流体は、ISO3016で決定して、-15℃未満の流動点を有するか、又はISO3016で決定して、-20℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体の油がナタネ系の油を含む場合、誘電流体は、ISO3016で決定して、-30℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体の油が合成エステル油である場合、誘電流体は、ISO3016で決定して、-45℃未満の流動点を有する。一態様では、誘電流体の油が鉱油である場合、誘電流体は、ISO3016で決定して、-40℃未満の流動点を有するか、又はISO3016で決定して、-60℃未満の流動点を有する。
【0080】
一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、750mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、200mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、100mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、60mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、50mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、30mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、25mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、20mg/kg未満の含水量を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60814で決定して、約5~25mg/kgの含水量を有する。
【0081】
一態様では、誘電流体は、ISO2211で決定して、200Hazen未満のHazenの色を有する。
【0082】
一態様では、誘電流体は、3675、ISO12185で決定して、20℃で1000kg未満/dm3の密度を有する。
【0083】
一態様では、誘電流体は、ISO3104で決定して、100℃で約1~15mm2/秒まで動粘度を有するか、又は40℃で約1~35mm2/秒の動粘度を有するか、又は40℃で約20~35mm2/秒の動粘度を有するか、又は-20℃で約100~3000mm2/秒の動粘度を有する。一態様では、誘電流体は、鉱油を含み、40℃で約3~12mm2/秒の動粘度を有する。一態様では、誘電流体は、生物由来油を含み、40℃で約9~50mm2/秒の動粘度を有する。一態様では、誘電流体は、植物油を含み、40℃で約9~50mm2/秒の動粘度を有する。一態様では、誘電流体は、合成油を含み、40℃で約7~40mm2/秒の動粘度を有する。
【0084】
一態様では、誘電流体は、AOCSの方法Cd-63で決定して、0.06mgKOH/g未満の酸性度を有する。一態様では、誘電流体は、AOCSの方法Cd-63で決定して、0.03mgKOH/g未満の酸性度を有する。一態様では、誘電流体は、AOCSの方法Cd-63で決定して、0.02mgKOH/g未満の酸性度を有する。一態様では、誘電流体の油が鉱油である場合、誘電流体は、AOCSの方法Cd-63で決定して、0.01mg未満のKOH/gの酸性度を有する。
【0085】
一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、35kV以上の破壊電圧を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、45kVを超える破壊電圧を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、55kVを超える破壊電圧を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、65kVを超える破壊電圧を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、75kVを超える破壊電圧を有する。一態様では、誘電流体の油が鉱油である場合、誘電流体は、IEC60156で決定して、30kVを超える破壊電圧を有する。一態様では、誘電流体の油が鉱油である場合、誘電流体は、IEC60156で決定して、70kVを超える破壊電圧を有する。
【0086】
一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、90℃で2GΩmを超えるDC抵抗力を有する。一態様では、誘電流体は、IEC60156で決定して、90℃で20GΩmを超えるDC抵抗力を有する。
【0087】
一態様では、誘電流体は、電気絶縁及び冷却を必要とする電気システムである装置で使用される。一態様では、誘電流体は、生成地点からの熱の伝達、及び隣接する導電素子からのワイヤコイルなどの導電素子の絶縁の両方を行うように作用する。一態様では、誘電流体は、コンピューティング、電気分配、電力の生成、又は電力の変換などの、電気的構成要素の相互接続を提供する電気ネットワークである装置で使用される。一態様では、誘電流体は、コンデンサ、電圧調整器、電圧補償器、及び位相シフタから選択される構成要素を備える装置で使用される。一態様では、誘電流体は、電子回路、液体絶縁された電気基板、及びパネルなどの、液体絶縁された電気装置から選択される装置で使用される。一態様では、誘電流体は、スイッチギヤである装置で使用される。一態様では、誘電流体は、データセンタのコンピュータモジュールである装置で使用される。一態様では、誘電流体は、ハウジング、ハウジング内のコア/コイルアセンブリを備える変圧器から選択される装置で使用され、誘電流体は、コア/コイルアセンブリを少なくとも部分的に取り囲む。一態様では、誘電流体は、変圧器(例えば単巻変圧器、発生器の降圧及び昇圧変圧器、相互接続変圧器、フレキシブルAC変圧器、分配変圧器(電柱装着型、パッド装着型、貯蔵庫/地下ユニット、水中型、変電所)、位相シフト変圧器、静的電圧補償器、HVDC変圧器、炉及び他の産業用変圧器、主変圧器、及び接地変圧器から選択される装置で使用される。一態様では、誘電流体は、反応器、電池バンク、及び電池システムから選択される装置で使用される。
【0088】
一態様では、電気絶縁及び冷却を必要とする電気システムである装置を絶縁する方法は、本明細書で説明する誘電流体のいずれかを(本明細書で説明するような特に識別された材料又は成分又はその量を含有する誘電流体を含む)電気絶縁及び冷却を必要とする電気システムに組み込むことを含む。一態様では、装置を絶縁する方法は、コンピューティング、電気分配、電力の生成、又は電力の変換などの、電気的構成要素の相互接続を提供する電気ネットワークである装置で実行される。一態様では、装置を絶縁する方法は、コンデンサ、電圧調整器、電圧補償器、及び位相シフタから選択される構成要素を備える装置で実行される。一態様では、装置を絶縁する方法は、電子回路、液体絶縁された電気基板、及びパネルなどの、液体絶縁された電気装置から選択される装置で実行される。一態様では、装置を絶縁する方法は、データセンタのコンピュータモジュールである装置で実行される。一態様では、装置を絶縁する方法は、ハウジング、ハウジング内のコア/コイルアセンブリを備える変圧器から選択される装置に実行され、誘電流体は、コア/コイルアセンブリを少なくとも部分的に取り囲む。一態様では、装置を絶縁する方法は、変圧器(例えば単巻変圧器、発生器の降圧及び昇圧変圧器、相互接続変圧器、フレキシブルAC変圧器、分配変圧器(電柱装着型、パッド装着型、貯蔵庫/地下ユニット、水中型、変電所)、位相シフト変圧器、静的電圧補償器、HVDC変圧器、炉及び他の産業用変圧器、主変圧器、及び接地変圧器から選択される装置で実行される。一態様では、装置を絶縁する方法は、反応器、電池バンク、及び電池システムから選択される装置で実行される。
【0089】
一態様では、電気絶縁及び冷却を必要とする電気システムである装置は、本明細書で説明する誘電流体のいずれか(本明細書で説明するような特に識別された材料又は成分又はその量を含有する誘電流体を含む)を備えるように提供される。
【0090】
一態様では、装置は、コンデンサ、電圧調整器、電圧補償器、及び位相シフタから選択される構成要素を備える装置から選択される。
【0091】
一態様では、装置は、電子回路、液体絶縁された電気基板、及びパネルなどの、液体絶縁された電気装置から選択される。一態様では、装置は、データセンタのコンピュータモジュールである。一態様では、装置は、ハウジング、ハウジング内のコア/コイルアセンブリを備える変圧器から選択され、誘電流体は、コア/コイルアセンブリを少なくとも部分的に取り囲む。一態様では、装置は、変圧器(例えば単巻変圧器、発生器の降圧及び昇圧変圧器、相互接続変圧器、フレキシブルAC変圧器、分配変圧器(電柱装着型、パッド装着型、貯蔵庫/地下ユニット、水中型、変電所)、位相シフト変圧器、静的電圧補償器、HVDC変圧器、炉及び他の産業用変圧器、主変圧器、及び接地変圧器から選択される。一態様では、装置は、反応器、電池バンク、及び電池システムから選択される。
【0092】
【実施例0093】
手順:本実施例で使用される試験流体は、別途指示されない限り、漂遊ガス発生試験の評価に対して0.5重量%の試薬で処理される、未処理の精製、漂白、脱臭された(「RBD」)ダイズ油(soybean oil、「SBO」)である。必要な場合、試薬を溶解させるために、流体は、窒素下で加温される。処理された流体は、流体損失及び空気の導入を防止するためにキャップを付けた50mLの注射器の中へ吸い込まれ、80℃又は120℃で48時間にわたってオーブン内に配置される。注射器をオーブンから取り出し、冷却する。次いで、流体は、ASTM方法D-3612に従って溶解ガスの試験を行い、漂遊ガス発生のレベルを決定する。
【0094】
実施例1:0.5%のホスファイトエステル(Irgafos168)を含むRBD-SBO流体と、対照サンプルとの比較。
【0095】
ガス発生のレベルを決定するための試験の結果を、以下の表1に示す:
【表1】
Irgafos168=トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト
【0096】
結果の考察:
【0097】
80℃で、熱的に誘発された漂遊ガスの分解を示す2種のガスは、水素及びエタンである。対照と比較して、ホスファイトエステルを含むRBD-SBO流体において、どちらのガスも漂遊ガス放出の相当な低減が観察された。
【0098】
実施例2:RBD-SBO誘電流体、ホスファイト化合物を含むRBD-SBO誘電流体、及び非ホスファイト化合物抗酸化剤を含むRBD-SBO誘電流体の比較。
【0099】
非対照組成物はすべて、0.5重量%の識別された添加剤(ホスファイト化合物又は非ホスファイト抗酸化剤のいずれか)を含有した。この実施例のRBD-SBO誘電流体は、10の過酸化物値を有した。
【0100】
ガス発生レベルを測定するための試験の結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0101】
結果の考察:
【0102】
ホスファイト化合物(サンプルB)を含む誘電流体は、非ホスファイト抗酸化剤を含む誘電流体と比較して、水素及びエタンのガス発生を大幅に低減させた。金属不動態化剤を含むフェノール系抗酸化剤(即ち、追加的な金属表面抑制機能を有するジ-tert-ブチルフェノールベンゾトリアゾール-サンプルD、E、F、I、L、M、及びN)は、金属不動態化剤を含まない同様の組成物と比較して、漂遊ガス発生の増加を実際に呈することに留意されたい。
【0103】
一般に、ホスファイトエステルは、ジ-tert-ブチルフェノール系抗酸化剤に対して大幅に低い抗酸化剤強度を有する二次抗酸化剤であると考えられる。他のクラスの抗酸化剤との比較は、ホスファイトエステルの効果が単なる抗酸化効果のみではないことを示している。酸化安定度の結果における違いと共に、これは、漂遊ガス発生を阻害する作用の機構が、抗酸化特性以外である可能性が高いことを示す。理論に束縛されるものではないが、漂遊ガス発生は、熱的に誘発されたラジカル分解の結果であると考えられる。したがって、ホスファイトエステルは、漂遊ガス発生機構を有効な様態で阻害している。ある程度の漂遊ガスの低減は、過酸化物の除去によって予想される。非ホスファイトエステル材料がどちらのガスも効果的に低減させず、いくつかの材料は、油のガス発生傾向を増加させる。
【0104】
実施例3:RBD-SBO低過酸化物値誘電流体、ホスファイト化合物を含むRBD-SBO低過酸化物値誘電流体、及び非ホスファイト化合物抗酸化剤を含むRBD-SBO低過酸化物値誘電流体の比較。
【0105】
非対照組成物はすべて、0.5重量%の識別された添加剤(ホスファイト化合物、非ホスファイト抗酸化剤、又は他の添加剤の種類)を含有した。この実施例のRBD-SBO誘電流体は、0.6の過酸化物値を有した。
【0106】
ガス発生のレベルを測定するための試験の結果を以下の表3に示す。
【表3-1】
【表3-2】
1 0.5重量%未満である溶解限度まで組み込んだ。
【0107】
結果の考察:
【0108】
ホスファイト化合物を含む誘電流体(サンプルB~J)は、非ホスファイト抗酸化剤を含む誘電流体と比較して、水素及びエタンのガス発生を大幅に低減させた。サンプルKは、水素ガス発生の増加を呈したが、エタンガス発生の減少を呈した。しかしながら、このデータは、単一の実験のみに基づいており、ホスファイトサンプルの完全性が危殆化され得ることが考えられる。
【0109】
対照的に、ジ-tert-ブチルフェノール系抗酸化剤又は他の種類の添加剤を含む低い過酸化物値の誘電流体は、水素及びエタンガス発生を増加させた。この試験は、他の添加剤がホスファイト成分を含有しない同様の誘電流体におけるガス発生を防止しない場合に、ホスファイト化合物を組み込むことで、誘電流体におけるガス発生を防止することを証明している。
【0110】
後続のすべての実施例では、RBD(精製、漂白、脱臭された)植物油又は合成エステル油は、誘電グレードの流体を得るために、使用前に粘土処理によって浄化する。注記したように、漂遊ガス発生試験は、オーブン内の空気飽和油を48時間又は168時間のいずれかにわたって80℃又は120℃のいずれかに保持することによって行う。
【0111】
実施例4:他の安定剤、抗酸化剤、不動態化剤と比較した、80℃(48時間試験)において漂遊ガス発生を制御する際のホスファイトの有効性
【0112】
表4は、48時間にわたって80℃まで加熱したRBDダイズ油が様々な添加剤によってどのような影響を受けるかを示す。一次インジケータは、水素及びエタンである。他のガスのレベルは、これらの実施例では重要でない。サンプル4-1は、溶解ガス分析(dissolved gas analysis、DGA)によって分析した、漂遊ガスのベースレベルを比較するために、添加剤及び熱処理を伴わないRBD-SBOである。サンプル4-2は、熱処理後の添加剤を含まないRBD-SBOである。試験を行うすべての抗酸化剤クラスの中で、ホスファイト化合物は、漂遊ガスの両方の大幅な低減を示す。他の実施例は、いずれか又は両方の漂遊ガスにおいて、大幅な変化を示さないか、又は増加を示すかのいずれかである。
【表4】
【0113】
このデータから、ブチル化フェノール抗酸化剤は、漂遊ガス発生を制御しないが、生物由来油中の漂遊ガス発生の大幅な増加に関与し得ることは明らかである。一般にベンゾトリアゾール化合物(実施例4-10、4-12、及び4-15)である不動態化剤化合物もまた、生物由来油の漂遊ガス発生を大幅に増加させる。
【0114】
実施例5:ブチル化フェノール、IrganoxL101、及び不動態化剤の負の相互作用
【0115】
表5では、変圧器油、IrganoxL101(ブチル化フェノールクラス)、及び最も一般的な不動態化剤Irgamet39で使用した最も一般的な抗酸化剤のうちの1つの相互作用を、ホスファイト化合物Irgaphos168と対照的に、又は併せて示す。
【0116】
【0117】
サンプル5-16及び5-17の比較は、従来のブチル化フェノールを組み込むことで、水素の放出が370%増加することによって、浄化されたダイズ油の漂遊ガス発生を超えて漂遊ガス発生が増加することを示す。対照的に、サンプル5-16及び5-18の比較は、ホスファイト化合物を使用することによる漂遊ガス発生の大幅な低減を示し、更には、浄化された未処理の油よりも低いレベルに低減させることを示す。サンプル5-19及び5-20は、ホスファイト化合物が、更にはブチル化フェノールの漂遊ガス発生効果を逆転させることを示す。サンプル5-20、5-21、及び5-22は、油に対する不動態化剤の悪影響を示し、少量の不動態化剤が、油の漂遊ガス発生に対して著しい悪影響を及ぼす。サンプル5-24~5-28は、Irgaphos168ホスファイト化合物が、ブチル化フェノール抗酸化剤及びベンゾトリアゾール不動態化剤の組み合わせの漂遊ガス発生効果にどのように打ち勝つかを示す。
【0118】
実施例6:漂遊ガスを増加させる際の典型的な抗酸化剤の効果
【0119】
漂遊ガスを増加させる際の典型的な抗酸化剤の一般的な振る舞いを表6に示す。これらの化合物は、ブチル化フェノール、ジ-t-ブチルフェノールチオトリアジン、ジ-t-ブチルフェノールメルカプタン、ジ-t-ブチルフェノールベンゾトリアジン、アミノトリアゾール、ベンザミン、メルカプタンジエステル、ピペリジニルエステル-N-アルコキシドピペリジニルエステルに分類される。
【0120】
【0121】
実施例7:ホスファイト化合物による油中の漂遊ガス発生の低減
【0122】
ホスファイト化合物のスクリーニングにより、油中の漂遊ガス発生を低減させるためのこれらの化合物の能力の一般性を示す。
【0123】
表7は、浄化、精製、漂白、脱臭されたダイズ油を、列挙した0.5%のホスファイトで処理し、次いで、密封容器中において80℃で48時間にわたって加熱し、次いで、溶解したガスについて油を試験することの利点を示す。
【表7】
【0124】
実施例8:80℃及び120℃で18時間にわたる、高度に浄化されたRBD-SBOにおけるブチル化フェノールとホスファイト化合物との比較
【0125】
油を80℃又は120℃で18時間にわたって保持したときの、ブチル化フェノール、IrganoxL101、又はホスファイト化合物、Irgaphos168のいずれかを含有する高度に浄化されたRBD-SBOの漂遊ガス発生を比較した。結果を表8に示す。
【0126】
【0127】
実施例9:様々なレベルでベンゾトリアゾール不動態化剤及びホスファイトを含む、脂肪族合成エステル組成物の漂遊ガス発生の評価。
【0128】
120℃という温度は、天然及び合成エステルの分解を加速することが知られている。これは、オーブン試験において80℃での未処置の鉱油及び合成エステルによって検証し、漂遊ガス発生がない状態で、脂肪族化合物系油がより高い安定性を示した。脂肪族化合物の増加した安定性は、漂遊ガス発生の速度を増加させるために100℃を超える温度を必要とする。サンプルは、120℃で48時間及び168時間にわたって試験した。表9Aは、120℃で48時間熱処理した後の結果を示す。
【0129】
【0130】
IrganoxL101及び不動態化剤を未決定のレベルで有することが知られている市販の合成エステルのサンプルMidel7131は、この研究で使用する合成エステル流体よりも短い期間内で高レベルの漂遊ガス発生を示す。ブチル化フェノールが、過酸化物によって誘発された漂游ガス発生に向かってより迅速に作用することが知られている高い温度で(サンプル9-29及び9-30を比較する)、ベンゾトリアゾール不動態化剤の効果は、ブチル化フェノールの任意の効果に打ち勝って、水素漂遊ガスを大幅に増加させることを示す(サンプル9-31)。ホスファイト化合物(Irgaphos168)は、サンプル9-32及び9-33の合成エステルの水素漂遊ガス発生を大幅に低減させる。
【0131】
120℃で168時間まで時間を延長することによって露出の過酷さ増加させることで(表9B)、他の添加剤で問題となる漂遊ガス発生を制御する際のホスファイト化合物の優位性を示す。
【0132】
表9B:120℃で168時間にわたる脂肪族合成エステルの漂遊ガス発生、及びIrgaphos168ホスファイトの安定効果。
【0133】
【0134】
実施例10:Irgaphos168ホスファイト化合物の鉱油における漂遊ガス発生の防止の証明。
【0135】
120℃という温度は、鉱油を分解させることが知られている。表10は、添加剤を伴わない鉱油流体における高い率漂遊ガス発生、及びホスファイト化合物が漂遊ガス発生を防止する能力を示す。
【0136】
【0137】
実施例11:ホスファイト及び不動態化剤を伴う場合及び伴わない場合のRBD-SBOの酸化安定度試験の結果
【0138】
ダイズ油配合物の酸化安定度試験(表11)は、Irgaphos168を、総酸性度(仕様は、全体で<0.3)を向上させながら、配合物で使用することができることを示す。しかしながら、生物由来油を伴う不動態化剤の使用は、流体の粘度及び酸性度を大幅に増加させることが分かった。表12に示すように、脂肪族合成エステルの場合、不動態化剤は、粘度に影響を及ぼさないが、流体の酸性度及び散逸係数(タンジェントδ)に悪影響を及ぼす。
【表12】
【0139】
実施例12:脂肪族合成エステルの酸化安定度試験の結果
【0140】
Irgaphos168ホスファイト化合物を配合した脂肪族合成エステル流体は、酸化安定度試験において優れた特性を示す。Irgaphos168を使用したときに、粘度は、不変のままであり、2.50mL/分の気流でIEC61125の方法Cに従って、120℃で800時間の酸化安定度試験後の試験結果は、164時間の試験に必要とされる仕様を上回る。結果を表12にまとめる。
【0141】
【0142】
注記:すべての場合における粘度の変化は、1.0%未満であり、スラッジは、0.01重量%未満である。
【0143】
実施例13:高い過酸化物値を有する天然油における漂遊ガス発生の低減
【0144】
表13に示すように、高い初期過酸化物含有量を有する油はまた、漂遊ガス発生の増加も呈する。しかしながら、この漂遊ガス発生は、Irgaphos168ホスファイト化合物の使用によって大幅に低減される。従来の抗酸化剤(非ホスファイト抗酸化成分)の存在は、過酸化物の形成を防止しないが、代わりに、過酸化物が形成された後に過酸化物を分解させるように作用することに留意されたい。しかしながら、従来の抗酸化剤は、周囲温度において過酸化物の蓄積を効果的に低減させない。高い温度は、従来の抗酸化剤と過酸化物との相互作用を増加させるのに効果的であるだけでなく、油の熱分解の速度も増加させる。
【0145】
【0146】
実施例14:低い過酸化物含有量を有する天然油における漂遊ガス発生の低減
【0147】
高い過酸化物含有量を有しない天然油における漂遊ガス発生の低減を示す実験を行った。試験結果を表14-1及び14-2に提供する。
【0148】
【0149】
【0150】
実施例15:油中のホスファイトが変圧器の試験に干渉しないことの確認
【0151】
ホスファイト化合物は、変圧器の診断試験に干渉しないことが重要であり、アセチレンレベルを使用して、アーク又は放電状況が生じるかどうかを決定する。この試験を行うために、350mLの油中で2mmの間隙を通して送られる65kV超で50回の放電を油に受けさせて、アセチレン及びDGAのレベルに差が存在しなかったことを実証した。この油は、熱処理されておらず、よって、油を通過するスパーク以外のいずれかからも追加の漂遊ガスが予想されなかったことに留意されたい。
【0152】
【0153】
本明細書で使用される場合、用語「約」又は「おおよそ」は、当業者によって決定されるような、指定された特定のパラメータについての許容され得る範囲内を意味し、この範囲は、一部は、値の測定又は判定の仕方、例えば、サンプル調製及び測定システムの制限に依存することになる。そのような制限の例は、湿潤対乾燥環境でのサンプルの調製、異なる計器、サンプルの高さのばらつき、及び信号対雑音比が挙げられる。例えば、「約」は、述べられている値又は値範囲より、その述べられている値の1/10まで大きい又は小さいという意味をもつことができるが、いずれかの値又は値範囲をより広いこの定義に限定することを意図したものではない。例えば、約30%の濃度値は、27%~33%の間の濃度を意味する。用語「約」が先行する各値又は値範囲は、述べられている絶対値又は値範囲の実施形態を包含することを意図したものでもある。あるいは、特に生物系又はプロセスに見られるような対数関数的スケール上の測定値に関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。
【0154】
本明細書及び特許請求の範囲をとおして、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」並びに語尾変化形、例えば「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」は、述べられている整数若しくは工程又は整数若しくは工程群の包含を含意するが、いかなる他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程群を排除することを含意しない。本願において使用する場合、「からなる」は、特許請求項構成要素に明記されていない一切の要素、工程又は成分を除外する。本願において使用する場合、「から本質的になる」は、特許請求項の基本及び新規特徴に大きな影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。様々な実施形態の本開示では、実施形態の説明に使用する用語「含む」、「から本質的になる」及び「から成る」を、他の2つの用語のいずれかと置き換えてもよい。
【0155】
本明細書に引用するすべての特許、特許出願(仮出願を含む)及び刊行物は、あらゆる目的で個々に組み込まれているかのごとく参照により組み込まれる。別段の指示がない限り、すべての部及び百分率は、重量部及び重量百分率であり、すべての分子量は、重量平均分子量である。上述の発明を実施するための形態は、理解を明確にするためにのみ提示してきた。本明細書から無用の限定を解するべきではない。本発明は示し、記載した厳密な細部に限定されるものではなく、当業者にとって明らかな変形形態は、特許請求の範囲によって規定される本発明の中に含まれるものとする。
前記金属不動態化剤が、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-ar-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-メタンアミン、1H-ベンゾトリアゾール、メチル-1H-ベンゾトリアゾール、及び2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビス-エタノールからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の誘電流体。
前記誘電流体が、少なくとも75重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体が、少なくとも85重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体が、少なくとも90重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体が、少なくとも95重量%の天然生物由来油を含み、または、前記誘電流体が、少なくとも98重量%の天然生物由来油を含み、前記誘電流体中の唯一の油が、天然生物由来油である、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電流体。
前記誘電流体が、ひまし油、ひまし油、ココナッツ油、トウモロコシ油、綿実油、ハマナ油、フラックスシード油、ホホバ油、ククイナッツ油、レスケレラ油、亜麻仁油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、パインナッツ油、ナタネ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、大豆油、及び、ベロニカ油、並びにそれらの混合物からなる群から選択される天然植物油を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の誘電流体。
前記誘電流体が、50~200のIVを有する天然生物由来油、又は80~200のIVを有する天然生物由来油、又は100~200のIVを有する天然生物由来油、又は110~200のIVを有する天然生物由来油を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の誘電流体。
前記誘電流体が、5未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、3未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、2未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、1未満の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、0.01~5の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、0.01~3の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、0.01~2の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、0.01~1の過酸化物値を有し、又は前記誘電流体が、0.1~1の過酸化物値を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の誘電流体。