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特開2023-126778光学レンズ用2液型ウレタン成型材及びポリウレタン樹脂製光学レンズ
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  • 特開-光学レンズ用2液型ウレタン成型材及びポリウレタン樹脂製光学レンズ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126778
(43)【公開日】2023-09-12
(54)【発明の名称】光学レンズ用2液型ウレタン成型材及びポリウレタン樹脂製光学レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20230905BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20230905BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20230905BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20230905BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20230905BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G02B1/04
C08G18/32 003
C08G18/75
C08G18/38 057
B29C39/24
G02B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095388
(22)【出願日】2023-06-09
(62)【分割の表示】P 2021095204の分割
【原出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】513009336
【氏名又は名称】株式会社タレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 博男
(72)【発明者】
【氏名】和田 憲三
(57)【要約】
【課題】ポリウレタン樹脂を主成分とする光学レンズが、硬化剤の熱劣化による黄色や褐色の呈色がなく、製造後も透明性が高く安定したものであり、しかも可及的に低い温度での注型成形が可能である眼鏡用偏光レンズの製造方法とすることである。
【解決手段】脂環式ジイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とのポリウレタン生成反応の中間生成物であるイソシアネート末端プレポリマーを含む主剤と、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)もしくはジエチルトルエンジアミン(DETDA)またはこれらの混合物の芳香族ジアミンを含む硬化剤からなる光学レンズ用2液型ウレタン成型材を用いた眼鏡用偏光レンズの製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ジイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とのポリウレタン生成反応の中間生成物であるイソシアネート末端プレポリマーを含む液状の主剤と、前記イソシアネート末端プレポリマー100質量部に対し、常温で液体の芳香族ジアミンであるジエチルトルエンジアミン1~7質量部を含む硬化剤とからなる光学レンズ用2液型ウレタン成型材。
【請求項2】
前記脂環式ジイソシアネートが、4,4´-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)またはイソホロンジイソシアネートである請求項1に記載の光学レンズ用2液型ウレタン成型材。
【請求項3】
前記硬化剤が、前記イソシアネート末端プレポリマー100質量部に対し、ジメチルチオトルエンジアミン15~25質量部及びジエチルトルエンジアミン1~7質量部との混合物を含む硬化剤である請求項1に記載の光学レンズ用2液型ウレタン成型材。
【請求項4】
前記光学レンズが、偏光性を有する光学レンズである請求項1~3のいずれかに記載の光学レンズ用2液型ウレタン成型材。
【請求項5】
前記偏光性を有する光学レンズが、可視光域の透過率30~90%の眼鏡用レンズである請求項4に記載の光学レンズ用2液型ウレタン成型材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の光学レンズ用2液型ウレタン成型材の注型成形体からなるポリウレタン樹脂製光学レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、偏光性を有するレンズなどの光学レンズの成形材料である光学レンズ用2液型ウレタン成型材及びその成形体であるポリウレタン樹脂製光学レンズ、並びにポリウレタン樹脂製光学レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリウレタンエラストマーを光学レンズの成形材料として、脂環式ジイソシアネートとポリオールを反応して得たイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンを主成分とする硬化剤とを混合して反応させる2液混合型の光学レンズ用ポリウレタン樹脂成型材料が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記した硬化剤の芳香族ポリアミンは、4,4´-メチレンビス(2-クロロアニリン)[または3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン]からなり、MOCAと略称されるものが周知である。
【0004】
しかし、MOCAを硬化剤としてポリウレタン樹脂製光学レンズを製造する場合、成型時の加熱後に光学レンズが黄変する場合があることから、硬化剤を改良する余地があった。
すなわち、MOCAを硬化剤とする光学レンズ用ポリウレタン樹脂成型材料組成物は、溶融時に淡黄色を示し、その後も経時的に褐色に変化しやすいので、製造した光学レンズの透明性や色調を経時的に安定させることは困難であった。
【0005】
特に、透過率の高い光学レンズや鮮やかな色調の光学レンズにおいては、MOCAの変色が目立ちやすく、それによって光学レンズの透過率も低下し、本来の色調の鮮やかさも減じられてしまう。
【0006】
このような経時的な変色の程度を予想して色補正(ブルーイング)をするには、成型および硬化させる前の材料(プレポリマー)に対し、予め色補正用に適切な色素を選択し、その適量を添加しておくという色素や染色に関する高度な知識と経験が必要になるから、このような色補正作業が必要な場合には生産効率が低下する。
【0007】
光学レンズ用ポリウレタンの改良点について、淡色または無着色透明性の要求される光学レンズ用の硬化剤として、ガードナー色数を2以下に精製した4,4´-メチレンビス(2-クロロアニリン)を用い、さらに酸化防止剤を配合して黄変性を抑制する技術(硬化剤は白モカとも称される)が知られている(特許文献2)。
【0008】
上記した硬化剤(MOCA)は、塩素を含む化合物であり発がん性もある化合物であるが、分子鎖の延長反応に必要かつ充分な量を配合し、硬化反応を完全に行なえば製品中には残存しない。ただし、ポリウレタン樹脂製品の製造工程中において、労働安全衛生上の健康障害を起こさないようにする必要があるため、例えば一度に多量のポリウレタン樹脂を大気中で硬化反応させる必要がある場合には、作業工程中の安全を確保するための対応が求められる。
【0009】
光学レンズ以外の技術分野では、安全性に考慮してMOCAの代用となる2液型ウレタンの硬化剤が用いられ、例えばジエチルトルエンジアミン(以下、DETDAと略称する場合がある)が硬化剤として知られている。
【0010】
この硬化剤は、建築物の屋上などに施工される防水材料用途であるトリレンジイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤と硬化剤とからなる2液型ウレタン防水材組成物であり、前記硬化剤としてジエチルトルエンジアミン(以下、DETDAと略称する場合がある)を配合することが知られている(特許文献3)。
【0011】
また、競技場、グラウンド、レーストラック等の路面を弾性をもたせて舗装するための2液型ウレタン舗装材として、硬化剤にジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)を90質量%以上含むものが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-187931号公報
【特許文献2】特開2003-301025号公報
【特許文献3】特開2015-21021号公報
【特許文献4】特許第64422638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記した特許文献3または特許文献4に記載される2液型ウレタン舗装材や防水材は、透明性または色調などは殆ど考慮されず、すなわち光学的な特性を求められない用途で用いられており、または防水材や道路舗装材には、材料の溶融流動性を注型成形が可能な程度に高める必要はないので、注型成形可能な低粘度の状態で長いポットライフを備えた材料ではない。
【0014】
一方、眼鏡レンズを代表例とする光学レンズ用成型材は、注型成形可能な低粘度の状態で長いポットライフを有する必要があり、しかも可視光域またはそれ以外の赤外線域、紫外線域、またはコントラストを高める等の目的で、特定波長域の透過率を調整する色素が添加される場合があり、また偏光性を持たせる必要がある場合などには所要色素の添加またはそのような色素を含有するフィルム等との複合化も必要であり、色素の熱変性をできるだけ少なくする必要性があって、できるだけ低温で成型可能であるように低温での溶融流動性を備えることも求められる。
【0015】
そこで、この発明の課題は、ポリウレタン樹脂を主成分とし注型成形が可能な光学レンズ成形材料が、硬化剤の熱劣化によって黄色や褐色を呈することがないようにし、また光学レンズに添加される色素が熱変性を起こさないように、できるだけ低い温度で注型成形が可能な光学レンズ用2液型ウレタン成型材とすることであり、さらに偏光膜により偏光性を有するレンズや、透過率が高くて着色の影響を受けやすいレンズ、または鮮やかな色調のレンズであっても、成型材が混合、成型、硬化の各処理を経た状態で、それぞれの光学レンズの透明性や色調を変化させることなく、安定した品質の光学レンズが製造できる光学レンズ用2液型ウレタン成型材とすることである。
【0016】
またこのような光学レンズ用2液型ウレタン成型材を用いて、色調や透明性が経時的に変化せずに品質の安定した注型成形体からなるポリウレタン樹脂製光学レンズを創製し、このように良質のポリウレタン樹脂製光学レンズを効率よく製造することもこの発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、この発明は、脂環式ジイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とのポリウレタン生成反応の中間生成物であるイソシアネート末端プレポリマーを含む主剤と、常温で液体の芳香族ジアミンを含む硬化剤とからなり、前記芳香族ジアミンが、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)もしくはジエチルトルエンジアミン(DETDA)またはこれらの混合物である光学レンズ用2液型ウレタン成型材としたのである。
【0018】
上記したように構成されるこの発明の光学レンズ用2液型ウレタン成型材は、主剤のイソシアネート末端プレポリマーが、脂環式ジイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とのポリウレタン生成反応の中間生成物であって、硬化剤が常温で液体である所定の芳香族ジアミンであることにより、これらを100℃以下という比較的低温の混合条件で粘度差を少なくして均一に混合できるので、硬化剤の添加効率が良くて均一に硬化反応させることができ、未反応の硬化剤を含む異物を生じさせることがなく、注型成形体からなるポリウレタン樹脂製光学レンズは透明性が高い状態を経時的に安定して保つことができる。
【0019】
また、前記所定の主剤と硬化剤を採用することにより、光学レンズの注型成形に必要なポットライフが得られ、レンズを注型成形する作業性が良くなる。また偏光膜を備えた偏光性を有するレンズ、着色の影響を受けやすく透過率の高いレンズ、または鮮やかな色調のレンズは、色調が経時的に安定した品質の良い光学レンズになる。
【0020】
前記硬化剤の配合割合は、淡色または無着色透明性の要求されるレンズを作業性よく、所要の長さのポットライフで成形できるように、前記主剤100質量部に対し、4~37質量部であることが好ましい。
【0021】
また前記硬化剤が、前記主剤に含まれるイソシアネート末端プレポリマー100質量部に対し、ジメチルチオトルエンジアミン15~25質量部とジエチルトルエンジアミン1~10質量部との混合物を含む硬化剤であることにより、注型成形に要する可使時間(ポットライフ)の調整を行ないやすくなり、硬化時間をできるだけ速めることにより、適宜に配合される色素成分の熱劣化をより少なくすることができ、色調や色素による性能や品質を安定的に改善し、生産効率も改善される。
【0022】
上記の作用効果が顕著に現れる前記光学レンズは、偏光膜を一体に設けた偏光性を有するレンズであることが好ましく、さらには前記偏光性を有するレンズが、可視光域の透過率30~90%の高透過率の眼鏡用レンズであることも好ましい。
【0023】
上記の光学レンズ用2液型ウレタン成型材を用いると、色調が経時的に変化せず品質の安定した注型成形体からなるポリウレタン樹脂製光学レンズが得られる。
【0024】
上記した作用効果を奏する光学レンズを効率よく製造するには、例えば4,4´-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)またはイソホロンジイソシアネートからなる脂環式ジイソシアネート、およびポリヒドロキシ化合物をこれらの反応モル比(NCO/OH)が2.5~4.0であるように配合し、この配合によるポリウレタン生成反応で得られたNCO含量7.0~14.0%の中間生成物であるイソシアネート末端プレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンもしくはジエチルトルエンジアミンまたは両者で混成される芳香族ポリアミンとを反応モル比(NCO/NH)=1.10~0.90に配合し、この配合の液状混合物を注型成形する工程で製造する方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明は、脂環式ジイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とのポリウレタン生成反応の中間生成物であるイソシアネート末端プレポリマーを含む主剤と、ジメチルチオトルエンジアミンもしくはジエチルトルエンジアミンまたは両者で混成される常温で液体の芳香族ジアミンを含む硬化剤とから2液型ウレタン成型材を構成したので、光学ウレタンレンズが、硬化剤の熱劣化による黄色や褐色の呈色がなく、成型及び硬化後も透明性が高く安定したものになる利点がある。
【0026】
また、この発明の光学レンズ用2液型ウレタン成型材は、可及的に低い温度での注型成形が可能であるから、偏光膜を備えた偏光性を有するレンズ、着色の影響を受けやすく透過率の高いレンズ、または鮮やかな色調のレンズに成形された場合でも、それらのレンズの透明性や色調が混合、成型、硬化の各処理を経ても変化せず安定した品質の光学レンズが得られるという利点がある。
【0027】
さらにまた、この発明の光学レンズ用2液型ウレタン成型材を注型成形することにより、上記利点を備えた光学ウレタンレンズを効率よく製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例1、2、参考例1、2の眼鏡用透明レンズAの分光透過率を示す図表
図2】比較例1~3の眼鏡用透明レンズAの分光透過率を示す図表
図3】実施例1、2、参考例1、2眼鏡用レンズBの分光透過率を示す図表
図4】比較例1~3の眼鏡用レンズBの分光透過率を示す図表
図5】実施例1、参考例1、比較例3の眼鏡用レンズCの分光透過率を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施形態である光学レンズ用2液型ウレタン成型材は、脂環式ジイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とのポリウレタン生成反応の中間生成物であるイソシアネート末端プレポリマーを含む主剤と、ジメチルチオトルエンジアミンもしくはジエチルトルエンジアミンまたはこれらの混合物であって、常温で液体の芳香族ジアミンを含む硬化剤とからなる。
【0030】
2液型ウレタン成型材の注型成形体からなるポリウレタン樹脂製の光学レンズの代表例としては、透明レンズ、サングラス用レンズまたは偏光性を有するレンズなどの眼鏡レンズが挙げられる。
【0031】
この発明に用いられる脂環式ジイソシアネートは、4,4´-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)またはイソホロンジイソシアネート、2,5(6)-ジイソシアネートメチル- ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる一種以上の脂肪族環状ポリイソシアネートであることが好ましい。
【0032】
なお、上記例示した以外のジイソシアネートでは、この発明で所期した好ましい特性を得ることが難しくなり、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、水添XDl、ノルボルナンジイソシアネート等を使用すると、得られるウレタン樹脂のポットライフを充分に長くすることが難しい。
【0033】
この発明に使用するポリヒドロキシ化合物は、平均分子量700~1200のポリエーテルジオール又はポリエステルジオール及びその混合物である。
ポリエーテルジオールとしては、テトラヒドロフランを開環重合して得られるポリオキシテトラメチレングリコールや他のポリエーテルジオールが使用できる。またポリエステルジオールとしては、公知の各種ポリエステルが使用できるが、1,4-ブタンジオールアジペート、1,6-へキサンジオールアジペートが好ましい。
【0034】
ジイソシアネートと反応して得られるプレポリマーの粘度は、ポリエーテルジオールからのプレポリマーの方が低く注型作業に有利である。従ってこの発明に使用するポリヒドロキシ化合物としては、ポリエーテルジオールが特に好ましい。
【0035】
また、硬度や耐薬品性を向上させるために分子量300以下の脂肪族ポリオールを併用してもよい。脂肪族ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類を挙げることができる。
【0036】
この発明においてポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とを反応させて得られるプレポリマーを製造する場合、反応モル比(NCO/OH)は2.5~4.0であり、得られるプレポリマーのNCO含量は7.0~14.0%である。反応モル比とNCO含量がこの範囲より小さいと、プレポリマー粘度が高くなり過ぎて注型作業が困難となり、硬度も低くなる。また、上記範囲より大きいと硬化物性が悪くなって好ましくない。
【0037】
この発明に用いる芳香族ジアミンのうち、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)は、以下の化1の式に示され、融点4℃の常温で低粘度(20℃で690cps)の液体であり、3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミン(2,4異性体)、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン(2,6異性体)を含む異性体混合物であってよい。
【0038】
【化1】
【0039】
また、市販のDMTDA(液体ジアミン硬化用連鎖延長剤)には、95%以上のDMTDAと共に、4%以下のメチルチオトルエンジアミン、1%以下のトリメチルチオトルエンジアミンが含まれる場合がある。このようなDMTDAの市販品として、三井化学ファイン社などで市販されている「エタキュア300」を使用することができる。
【0040】
この発明に用いる硬化剤に含まれる芳香族ジアミンのうち、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)は、ポリウレタンエラストマーの鎖延長剤として周知の化学物質であり、化1に示されるジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)のメチルチオ基をエチル基に置換した化学構造である。この物質を主成分とする市販のポリウレタン用鎖延長剤としては、アルベマール社等で市販されているエタキュア100プラスなどが挙げられる。
【0041】
この発明では、硬化剤としてDETDAもしくはDMTDAをそれぞれ単独で用いることができるが、両者を併用して混成された芳香族ジアミンを用いることが、ポットライフの調整を容易にするために好ましい。
【0042】
このような硬化剤の配合割合は、前述のようにレンズを作業性のよいポットライフで成形できるように、前記イソシアネート末端プレポリマー100質量部に対し、4~37質量部であることが好ましい。より好ましい硬化剤の配合割合は、5~30質量部であり、さらに好ましくは10~25質量部である。
【0043】
また前記イソシアネート末端プレポリマー100質量部に対し、DMTDA15~25質量部とDETDA1~10質量部が混合されることにより、混成される芳香族ジアミンを用い、前記数値範囲内で混合割合を調整することにより、ポットライフの時間や色調を調整できる。
【0044】
イソシアネート末端プレポリマーに対する反応性は、DMTDAに比べてDETDAの方が高いので、DETDAを多く配合するほどポットライフは短くなり、硬化時間を適度に早めることにより、生産性を向上させることができる。
【0045】
このようにDETDAの配合割合が、10質量部を超えて多量に配合されると、ポットライフが短くなり、作業性が相当に低下するので好ましくない。このために、より好ましいDETDAの配合割合は、1~7質量部であり、さらに好ましくは4~6質量部であり、最適であると考えられる配合割合は5質量部である。
また、DETDAを、DMTDAやその他のアミンの10%以下だけ配合すると、色調が改善される。
【0046】
そして、この発明のプレポリマーと芳香族ポリアミンとの混合モル比(NCO/NH2)は、1.10~0.90である。
混合及び加熱による注型成形およびその後の硬化時の処理条件は、公知の処理条件もしくは、それより低温の処理条件を採用できる。すなわち、この発明に用いる所定の硬化剤が常温で液体であることにより、混合物を100℃以下という比較的低温の混合条件で処理し、粘度差を少なくして均一に混合でき、さらに注型成形に用いることができる。
【0047】
上記の注型用ポリウレタン樹脂材料組成物を注型して眼鏡レンズなどの透明レンズ、サングラス用レンズまたは偏光性を有するレンズなどに用いる耐衝撃性光学レンズを製造するには、周知のキャスト法を採用することができる。
【0048】
すなわち、キャスト法では、レンズを成形するために凹型と凸型をガスケットを介して液密に嵌めあわせて使用するモールド部材を設け、このモールド部材のキャビティー内にモノマーを注入し、重合および硬化させる。
【0049】
特に偏光性を有する光学レンズを製造する場合においては、リング状のガスケットを介して凹型と凸型のモールド部材を嵌め合わせる際に、前記ガスケット内に偏光素子(偏光フィルム)を予めセットする。そして、モールド部材またはガスケットに形成した注入孔から偏光素子の両面を沿って樹脂で覆われるように樹脂原料のモノマーを注入するという、いわゆるインサート成形により重合および硬化させることができる。
【実施例0050】
[実施例1、2、参考例1、2]
<プレポリマーの製造>
ポリオール成分としてポリテトラメチレンエーテルグリコール(保土ヶ谷化学工業社製PTG1000、平均分子量(MW)1000)200質量部と、ポリオール成分としてトリメチロールプロパン(TMP)質量4部を配合し、窒素気流中で攪拌しながら昇温し、100℃で5~10mmHgの減圧下で1時間脱水した。脱水後に冷却し80℃でイソシアネート成分H12MDIとして4,4’-メチレンビスシクロへキシルイソシアネート(住友バイエルウレタン社製:デスモジュールW)224質量部を添加し、100~110℃で8時間反応してイソシアネート末端プレポリマーを製造した。この時の反応モル比(NCO/OH)は、3.5であった。
【0051】
<透明レンズAの製造>(硬化剤との混合及び注型成形)
上記のように製造されたプレポリマーを80℃で減圧脱気した後、プレポリマー100質量部に対し、表1に示す配合割合(質量部)で硬化剤のジメチルチオトルエンジアミン[DMTDA(1)、DMTDA(2)]もしくはジエチルトルエンジアミン(DETDA)またはそれら両方を併用して配合した。
これら実施例1、2、参考例1、2の2液型ウレタン成型材を用い、それぞれ混合脱泡機で1分混合した後、95~100℃に加熱して予め予備加熱したガラス製モールドに注入して注型成形し、95~100℃で20時間硬化させた。この時の反応モル比(NCO/NH)は1.0とした。そして硬化後に冷却し、モールドから成型された眼鏡用の透明レンズAを離型した。
【0052】
<偏光性を有するレンズBの製造>
上記した硬化剤との混合及び注型成形工程において、2つのモールドの間に偏光膜を中央にセットしたガスケットを挟み、2液型ウレタン成型材の注型用混合物を前記偏光膜とガラスモールドの間に注入したこと以外は、上記同様にして色誤差の少ないグレー系色調であり、色彩を誤認することなく、裸眼で見た場合と同様に物体の色を確実に判別できる偏光性を有するレンズBを製造した。
【0053】
上記偏光膜は、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを4倍に一軸延伸した後、ヨウ素0.1重量%、直接染料のダイレクトファストオレンジ0.04重量%とシリアススカーレットB0.02重量%、反応性染料のミカロンイエローRS0.01重量%とダイアミラレッドB0.012重量%を含有する水溶液(染料液)に浸漬し、その後にホウ酸3重量%を含有する水溶液に浸漬し、液切りした後、70℃で5分間加熱処理して厚さ30μmの偏光フィルムを製造した。この偏光フィルムを球面ガラスに当てて球面に成形し、その両面にウレタン系接着剤を塗布し乾燥したものを、前述のようにガスケットの中央にセットした。
【0054】
<偏光性を有するレンズCの製造>
偏光性を有するレンズBの製造工程において、偏光膜の染色液を変更し、グレー系色調で透過率を72%以上に高め、これにより夜間の自動車運転可能な偏光眼鏡レンズとしたこと以外は同様に製造して偏光性を有するレンズCを製造した。
【0055】
[比較例1]
参考例1において、硬化剤としてジメチルチオトルエンジアミン[DMTDA(1)、DMTDA(2)]もしくはジエチルトルエンジアミン(DETDA)に代えて、4,4´-メチレンビス(2-クロロアニリン)[MOCA(無色の結晶、融点110℃)、白モカとも別称される]を37質量部用い、120℃で硬化反応させたこと以外は同様にして2液型ウレタン成型材の成型用混合物を作製し、これを用いて眼鏡用の透明レンズA、偏光性を有するレンズB、偏光性を有するレンズCを製造した。
【0056】
[比較例2]
参考例1において、硬化剤としてジメチルチオトルエンジアミン[DMTDA(1)、DMTDA(2)]もしくはジエチルトルエンジアミン(DETDA)に代えて、3,3´-ジクロロ-4,4´-ジアミノジフェニルメタン[MBOCA](キュアミン(登録商標)MT、融点98℃超)40質量部を用い、融点以上の100~110℃に加熱して混合及び硬化したこと以外は同様にして2液型ウレタン成型材の成型用混合物を作製し、これを用いて眼鏡用の透明レンズA、偏光性を有するレンズB、偏光性を有するレンズCを製造した。
【0057】
[比較例3]
参考例1において、硬化剤としてジメチルチオトルエンジアミン[DMTDA(1)、DMTDA(2)]もしくはジエチルトルエンジアミン(DETDA)に代えて、トリメチレンビス(4-アミノベンゾアート)(CUA-4)37質量部を用いたこと以外は同様にして2液型ウレタン成型材の成型用混合物を作製し、これを用いて眼鏡用の透明レンズA、偏光性を有するレンズB、偏光性を有するレンズCを製造した。
【0058】
得られた眼鏡用の透明レンズA、偏光性を有するレンズB、Cについて、UCS色空間における色の座標値L、a、bを日本電色工業社製のΣ90カラーメジャリングシステムとZ-IIオプティカルセンサーを組み合わせた装置で計測すると共に、波長410~750nmを含む範囲の分光透過率を日立製作所社製:U-2000スペクトロフォトメーターで測定し、これらの結果を表1及び図1~5に示した。
【0059】
因みに、色の座標値a及びbは、0に近いほど、眼鏡用光学レンズとして用いた場合に色の誤認が少ないグレー色になり、a値が+側で赤色系が強くなり、-側では緑色系が強くなる。またb値が+側で黄色系が強くなり、-側では青色系が強くなる。
【0060】
【表1】
【0061】
図1-5に示す結果からも明らかなように、実施例1、2、参考例1、2の成型材からなる透明レンズAおよび偏光性を有するレンズBにおける可視光域の透過率は、硬化剤としてMOCAを用いた比較例1の成型材からなる前記各レンズと同程度の透過率を示した。
【0062】
また、実施例1、2、参考例1、2の成型材からなる透明レンズAおよび偏光性を有するレンズB、Cにおける可視光域の透過率は、比較例2または比較例3に比べて高く、特に短波長域400~600nmでは、実施例1、2、参考例1、2の透過率は比較例2、3よりかなり高かった。
【0063】
表1に示される各レンズの色調(色の座標値a,b)をみると、比較例1の成型材から得られた透明レンズA、偏光性レンズB、Cは、色の座標値bがそれぞれ6.25、2.95、5.67という黄色系の呈色が認められた。
しかしながら実施例1、2、参考例1、2の成型材を用いた各レンズは、いずれもそのb値が、前記した各b値よりも低く、黄変性が抑制されていた。
【0064】
なお、比較例1の成型材に用いられたMOCA(白モカ)は、成型時に120℃以上に加熱する必要があり、加熱時に滞留するデッドポイントで所要時間以上に加熱されたときに、熱劣化して褐色の異物を生じやすい傾向があった。
【0065】
また、比較例2の成型材からなる透明レンズAおよび偏光性を有するレンズBは、a値及びb値が比較例1の同じ座標値より高く、これらの座標値を0に近づけて所期したグレー色に調整することが困難であった。比較例2の成型材に用いられた硬化剤のMOCA類似MT[MBOCA:キュアミン(登録商標)MT]は、塩素原子を含む化合物を主成分とするから、作業環境の安全性の確保に適したものではなかった。
【0066】
また、硬化剤としてMOCA類似CUA-4[トリメチレンビス(4-アミノベンゾアート)(CUA-4)]を用いた比較例3からなる透明レンズAの色調は、b値(11.11)がかなり高くなり、黄変性を示した。
【0067】
比較例3の成型材に認められる色調は、色の誤認が少ないグレー系の偏光レンズBおよび可視光透過率の高いグレー系の偏光レンズCでも同様に認められ、特に偏光レンズCにおいては偏光レンズBよりも顕著にb値が高くなり、かなり黄色系が強く現れた。
また比較例3の成型材からなる透明レンズAは、ガラス製モールドに対する離型性が悪く、光学レンズの製造効率についても改善が難しかった。
【0068】
これに対して、硬化剤としてDMTDAもしくはDETDAまたは両者の混合物を用いた実施例1、2、参考例1、2は、透明レンズA、偏光性を有するレンズB、Cのいずれにおいても比較例1よりも低い温度で混合でき、かつ100℃以下の低温で注型成形および硬化処理が可能であった。
【0069】
また、DMTDAもしくはDETDAの単独使用である参考例1、2のb値に比べて、DMTDA及びDETDAを混合使用した実施例2の方が、いずれのレンズでもb値が低く、黄変性は低く抑えられた。また、ほぼ同じ透過率のレンズであっても、黄変性の少ないレンズの方が、透明性は良好に感じられた。
【0070】
実施例1、2、参考例1、2の成型材を用いた透明レンズA、偏光性を有するレンズB及び着色の影響を受けやすく透過率の高い偏光性を有するレンズCは、色調を示すa値及びb値が、いずれも比較例2、3のa値及びb値より低かった。また実施例1、2、参考例1、2は、離型性もよいので製造効率に優れていた。
【0071】
このように実施例1、2、参考例1、2の2液型ウレタン成型材を用いた光学レンズは、透明レンズまたは偏光性レンズのように色素を含むレンズでも、その色調が加熱処理の前後で変化せず、硬化剤の熱劣化による黄色や褐色の変色がないので、品質が安定して優れたものであった。
図1
図2
図3
図4
図5