(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126852
(43)【公開日】2023-09-12
(54)【発明の名称】細胞療法に使用するための、免疫学的に識別できる細胞表面変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230905BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230905BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230905BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230905BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230905BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230905BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230905BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230905BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230905BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230905BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20230905BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230905BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230905BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230905BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20230905BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/28
A61K39/395 C
A61K39/395 D
A61K39/395 L
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P7/00
A61P35/00
A61P37/06
A61P37/02
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C07K14/705 ZNA
C12Q1/04
C07K16/28
C12N5/0783
C12N15/113 Z
C12N5/0789
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105962
(22)【出願日】2023-06-28
(62)【分割の表示】P 2019521099の分割
【原出願日】2017-10-30
(31)【優先権主張番号】16196860.7
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16196858.1
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/059799
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17197820.8
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518375937
【氏名又は名称】ウニベルシテート バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イェカー,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】コルネテ,マーラ
(72)【発明者】
【氏名】ボルドリ シュヴェーデ,ロレンツァ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェーデ,トルステン
(72)【発明者】
【氏名】レポレ,ロザルバ
(72)【発明者】
【氏名】マッター マローネ,ロミーナ
(72)【発明者】
【氏名】レッヒャー,マイク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】表面タンパク質の第1アイソフォームを発現している哺乳動物細胞(特に、ヒト細胞)であって、当該表面タンパク質の第2アイソフォームを発現している細胞を有している患者の治療に使用するための、哺乳動物細胞を提供する。
【解決手段】第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、機能的に区別できないが、免疫学的には区別できる。さらに、下記(1)および(2)から選択される、医学的状態の治療方法に使用するための薬剤も提供する:(1)抗体もしくは抗体様分子を含んでいる、またはからなる化合物;(2)抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞、または、キメラ抗原受容体を有している免疫エフェクター細胞。上記薬剤は、表面タンパク質の第1または第2アイソフォームのいずれか一方に特異的に反応する。上記薬剤を投与して、薬剤が反応するアイソフォームを有している細胞を除去する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の任意の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集団の選択的な枯渇または濃縮が望ましい医療用途における、変異体ではあるが機能性の細胞表面タンパク質を有している細胞の使用に関する。DNA二本鎖切断の相同組換え修復などの遺伝子編集方法(特に、CRISPR/Cas遺伝子編集)によって、あるいは塩基エディタを使用することによって、変異体ではあるが機能性の細胞表面タンパク質を細胞に導入することができる。本発明はさらに、in vivoにおいて編集済細胞を選択的に枯渇させるための、薬剤および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞療法は非常に強力な治療の選択肢であるが、重篤かつ望ましくない副作用を伴うことが多い。導入する細胞の導入遺伝子および/または遺伝子操作が、悪性形質転換を引き起こす場合がある。CAR-T細胞の導入により、重篤なオン・ターゲット効果およびオフ・ターゲット効果(サイトカイン放出症候群)をもたされる場合がある。また、同種T細胞の導入は、移植片対宿主病(GvHD)を引き起こす場合がある。腫瘍学における細胞療法の成功によって、非悪性疾患を含む他の適応症のための細胞療法が促進される可能性が高い。細胞療法の安全性を高めるために、特に非致死性疾患の治療に使用される場合には、移植した細胞が移植後数年間に亘って確実に安全なものであることが重要となる。重篤な望ましくない副作用が発生している場合に、「安全スイッチ」または「殺傷スイッチ」によって移植細胞を能動的かつ選択的に枯渇させる可能性があるならば、細胞療法の安全性は顕著に増大するであろう。
【0003】
本発明に通底する課題は、細胞を永久的に標識して追跡するシステムを提供することである。このシステムは、標識された細胞または標識されていない細胞を、in vitroまたはin vivoにおいて、選択的に枯渇させることができる。これらの課題は、独立請求項の構成によって解決される。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現している哺乳動物細胞に関しており、
上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームは、当該表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別でき、
上記哺乳動物細胞は、上記表面タンパク質の上記第2形態を発現している細胞を有する患者の治療に使用するためものである。
【0005】
「免疫学的には区別できる」という表現は、第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に結合するリガンドによって区別することができる、表面タンパク質の第1アイソフォームおよび第2アイソフォームを表す。
【0006】
本明細書に関連して、「特異的結合」という表現は、解離定数:KD≦10-7である結合を表す。
【0007】
本明細書に関連して、「リガンド」という表現は、抗体または抗体様分子に関する。抗体または抗体様分子は、他の分子と連結されていてもよい(例えば、免疫毒素と)。あるいは、抗体または抗体様分子は、細胞(特に、免疫細胞)の表面上に存在していてもよい。
【0008】
本明細書に関連して、「抗体」という用語は、細胞生物学および免疫学の分野で知られている意味で使用される。この用語は、(i)全長抗体(免疫グロブリンのG型(IgG)、A型(IgA)、D型(IgD)、E型(IgE)またはM型(IgM)などが挙げられるが、これらに限定されない)、(ii)これらの任意の抗原結合断片または単鎖、および、(iii)これらに関連するコンストラクトまたはこれらから誘導されるコンストラクト、を表す。全長抗体とは、2本以上の重鎖(H鎖)および2本以上の軽鎖(L鎖)を含んでいる糖タンパク質であって、重鎖および軽鎖はジスルフィド結合によって相互に連結されている。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)から構成されている。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2およびCH3)から構成されている。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記する)および軽鎖定常領域(CL)から構成されている。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)からから構成されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを有している。抗体の定常領域は、免疫グロブリンと宿主組織(または宿主因子)との結合を媒介することができる。このような宿主組織または宿主因子としては、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)、および古典的補体系の第1成分が挙げられる。
【0009】
本明細書に関連して、「抗体様分子」という用語は、他の分子または標的に、高い親和性で特異的に結合することができる分子を表す(KD≦10-7mol/L、特にKD≦10-8mol/L)。抗体様分子は、抗体の特異的結合と同様に、標的に結合する。用語「抗体様分子」には、リピート含有タンパク質(設計されたアンキリンリピート含有タンパク質(Molecular Partners, Zuerich)など)、アルマジロリピート含有タンパク質に由来するポリペプチド、ロイシンリッチリピート含有タンパク質に由来するポリペプチド、Affimer、抗体由来分子(キメラ抗原受容体(CAR)など)、およびテトラトリコペプチドリピート含有タンパク質に由来するポリペプチド、が含まれる。
【0010】
用語「抗体様分子」には、さらに、タンパク質Aドメインに由来するポリペプチド、フィブロネクチンのドメインFN3に由来するポリペプチド、コンセンサスフィブロネクチンドメインに由来するポリペプチド、リポカリンに由来するポリペプチド、ジンクフィンガーに由来するポリペプチド、Src相同性ドメイン2(SH2)に由来するポリペプチド、Src相同性ドメイン3(SH3)に由来するポリペプチド、PDZドメインに由来するポリペプチド、γクリスタリンに由来するポリペプチド、ユビキチンに由来するポリペプチド、シスチンノットポリペプチドに由来するポリペプチド、およびノッチンに由来するポリペプチド、が含まれる。
【0011】
理想的には、表面タンパク質の第1アイソフォームおよび第2アイソフォームは、2種類のリガンドによって区別することができる。一方のリガンドは、第1アイソフォームを特異的に認識できる。他方のリガンドは、第2アイソフォームを特異的に認識できる。つまり、各リガンドは、一方のアイソフォームに特異的に結合できるが、他方のアイソフォームには特異的に結合できない。換言すれば、一方のアイソフォームにのみ特異的に結合し、他方には特異的に結合しないことによって、リガンドは2種類のアイソフォームを区別できる。
【0012】
「機能的に区別できない」という表現は、第1アイソフォームおよび第2アイソフォームが、細胞内で同じ機能を同じように果たすことができ、顕著な機能上の障害を伴わないことを表す。つまり、第1アイソフォームおよび第2アイソフォームは、機能的にはほとんど区別できない。特定の実施形態においては、少々の機能上の障害ならば許容されうる。
【0013】
本明細書に関連して、「細胞表面タンパク質の第1アイソフォームおよび/または第2アイソフォーム」という表現は、当該細胞表面タンパク質の、第1アレルおよび第2アレルを表す。
【0014】
特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。
【0015】
特定の実施形態において、表面タンパク質の第2アイソフォームは、タンパク質の野生型の形態(すなわち、通常天然に存在している形態)に関連している。一方、第1アイソフォームは、第2アイソフォームをコードしている核酸配列に変異を導入することによって得られるアイソフォームに関連している。
【0016】
特定の実施形態において、表面タンパク質の第2アイソフォームは、天然のアイソフォームである。一方、第1アイソフォームは、遺伝子操作アイソフォームであり、天然のアイソフォームに由来している。
【0017】
本明細書に関連して、「天然タンパク質」という表現は、細胞のゲノム内の核酸配列によってコードされているタンパク質を表す。この核酸配列は、遺伝子操作による挿入または変異を受けていない。換言すれば、天然タンパク質とは、遺伝子組換え蛋白質でもなく、遺伝子操作されたタンパク質でもないタンパク質である。
【0018】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、細胞外ポリペプチド配列を有している。このとき、第1アイソフォームと第2アイソフォームとを比較すると、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、15個または20個アミノ酸が、挿入、欠失および/または置換している。
【0019】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、細胞外ポリペプチド配列を有している。このとき、第1アイソフォームと第2アイソフォームとを比較すると、1~20個(特に1~5個、とりわけ1~3個)のアミノ酸が、挿入、欠失および/または置換している。
【0020】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、細胞外ポリペプチド配列を有している。このとき、第1アイソフォームと第2アイソフォームとを比較すると、1個のアミノ酸が挿入、欠失および/または置換している。
【0021】
特定の実施形態において、挿入、欠失、および/または置換は、異なる哺乳動物種の間において保存されていない部位に位置している。
【0022】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、表面タンパク質の二次構造を変化させない。
【0023】
特定の実施形態において、挿入、欠失、および/または置換は、結晶構造解析またはコンピュータ支援構造予測によって特定された、リガンド結合が可能な部位に位置している。
【0024】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、結晶構造解析またはコンピュータ支援構造予測によって特定された、他の哺乳動物のタンパク質と比較して固有のトポロジーを有する部位に位置している。
【0025】
本明細書に関連して、「固有のトポロジー」という表現は、ある表面タンパク質(この表面タンパク質を、1~20個のアミノ酸で挿入、欠失および/または置換して修飾する)にのみ存在し、他の哺乳動物のタンパク質には存在しない(特に、他のヒト表面タンパク質には存在しない)トポロジーを表す。他のタンパク質において、同一または非常に類似したトポロジーが存在していると、上記部位に位置しているエピトープを認識する特異的抗体の産生が妨げられる。
【0026】
特定の実施形態において、挿入、欠失、および/または置換は、予想される(または実験的に確立もしくは確認された)タンパク質-タンパク質相互作用に関与する表面タンパク質の部位に位置していない。
【0027】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、ジスルフィド結合、分子間相互作用もしくは分子内相互作用、疎水性スタッキングを削除または導入しない。挿入、欠失および/または置換によって、塩橋性の分子間相互作用または分子内相互作用を削除する場合、この塩橋性相互作用の削除が、タンパク質内の新しい相互作用によって補填されることを確認せねばならない。補填されないならば、塩橋性相互作用の削除は回避すべきである。
【0028】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、タンパク質の折畳みに重要なタンパク質の翻訳後修飾部位(特に、グリコシル化部位)を、削除または導入しない。
【0029】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、タンパク質の折畳みに関連しないタンパク質の翻訳後修飾部位(特に、グリコシル化部位)を削除または導入する。これによって、新規なエピトープを作製する。
【0030】
特定の実施形態において、第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、抗体様分子の結合または抗体の結合によって区別できる。
【0031】
特定の実施形態において、第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、抗体を有している免疫エフェクター細胞の反応によって区別できる。特定の実施形態において、第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞の反応によって区別できる。特定の実施形態において、第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、抗体を有している免疫エフェクター細胞の反応によって区別できる。特定の実施形態において、第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞の反応によって区別できる。特定の実施形態において、第1アイソフォームと第2アイソフォームとは、キメラ抗原受容体(CAR)を有しているT細胞(特に、活性化T細胞)の反応によって区別できる。
【0032】
本明細書に関連して、キメラ抗原受容体(CAR)とは、結合特異性(特に、モノクローナル抗体の特異性)をT細胞に移植した、改変受容体に関する。一般的なCARの形態には、(i)所望の結合特異性を有しているモノクローナル抗体に由来する、細胞外ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン、(iii)細胞内ドメイン、が含まれている(Gill and June, Imm Rev, 2014)。細胞外ドメインには、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域を有している、単鎖可変断片が含まれている。CARの細胞外ドメインをコードしているヌクレオチド配列は、所望の結合特異性を有している抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞に由来していてもよい(Gill and June, Imm Rev, 2014; Fields, Nat Prot, 2013)。
【0033】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、下記から選択される:
CD1a、CD1b、CD1c、CD1e、CD1e、CD2、CD3、CD3d、CD3e、CD3g、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8a、CD8b、CD9、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDwl2、CD13、CD14、CD15、CD15u、CD15s、CD15su、CD16、CD16b、CD17、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD26、CD27、CD28、CD29、CD30、CD31、CD32、CD33、CD34、CD35、CD36、CD37、CD38、CD39、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD44、CD45、CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RO、CD46、CD47、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD52、CD53、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD59、CD60a、CD60b、CD60c、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD63、CD64、CD65、CD65s、CD66a、CD66b、CD66c、CD66d、CD66e、CD66f、CD68、CD69、CD70、CD71、CD72、CD73、CD74、CD75、CD75s、CD77、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CD84、CD85a、CD85d、CD85j、CD85k、CD86、CD87、CD88、CD89、CD90、CD91、CD92、CD93、CD94、CD95、CD96、CD97、CD98、CD99、CD99R、CD100、CD101、CD102、CD103、CD104、CD105、CD106、CD107a、CD107b、CD108、CD109、CD110、CD111、CD112、CD113、CD114、CD115、CD116、CD117、CD118、CD119、CD120a、CD120b、CD121a、CD121b、CD122、CD123、CD124、CD125、CD126、CD127、CD129、CD130、CD131、CD132、CD133、CD134、CD135、CD136、CD137、CD138、CD139、CD140a、CD140b、CD141、CD142、CD143、CD144、CDw145、CD146、CD147、CD148、CDw149、CD150、CD151、CD152、CD153、CD154、CD155、CD156a、CD156b、CD156c、CD157、CD158e、CD158i、CD158k、CD159a、CD159c、CD160、CD161、CD162、CD163、CD164、CD165、CD166、CD167a、CD167b、CD168、CD169、CD170、CD171、CD172a、CD172b、CD172g、CD173、CD174、CD175、CD175s、CD176、CD177、CD178、CD179a、CD179b、CD180、CD181、CD182、CD183、CD184、CD185、CD186、CD191、CD192、CD193、CD194、CD195、CD196、CD197、CDw198、CD199、CD200、CD201、CD202b、CD203c、CD204、CD205、CD206、CD207、CD208、CD209、CD210、CDw210b、CD212、CD213a1、CD213a2、CD215、CD217a、CD218a、CD218b、CD220、CD221、CD222、CD223、CD224、CD225、CD226、CD227、CD228、CD229、CD230、CD231、CD232、CD233、CD234、CD235a、CD235b、CD236、CD236R、CD238、CD239、CD240CE、CD240DCE、CD240D、CD241、CD242、CD243、CD244、CD245、CD246、CD247、CD248、CD249、CD252、CD253、CD254、CD256、CD266、CD267、CD268、CD269(BCMA)、CD270、CD271、CD272、CD273、CD274、CD275、CD276、CD277、CD278、CD279、CD280、CD281、CD282、CD283、CD284、CD286、CD289、CD290、CD292、CDw293、CD294、CD295、CD296、CD297、CD298、CD299、CD300a、CD300c、CD300e、CD301、CD302、CD303、CD304、CD305、CD306、CD307a、CD307b、CD307c、CD307d、CD307e、CD308、CD309、CD312、CD314、CD315、CD316、CD317、CD318、CD319、CD320、CD321、CD322、CD324、CD325、CD326、CD327、CD328、CD329、CD331、CD332、CD333、CD334、CD335、CD336、CD337、CD338、CD339、CD340、CD344、CD349、CD350、CD351、CD352、CD353、CD354、CD355、CD357、CD358、CD360、CD361、CD362、CD363、CD364、CD365、CD366、CD367、CD368、CD369、CD370、CD371、免疫グロブリン軽鎖(λまたはκ)、HLAタンパク質およびβ2-ミクログロブリン。
【0034】
本明細書に関連して、HLAとは、「ヒト白血球抗原」を表す。HLAとしては、HLA-A、HLA.B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-DM、HLA-DO、HLA-DP、HLA-DQおよびHLA-DRなどが挙げられる。
【0035】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、下記から選択される:
CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD19、CD20、CD22、CD23、CD33、CD34、CD90、CD45、CD123、CD269(BCMA)、免疫グロブリン軽鎖(λまたはκ)、HLAタンパク質およびβ2-ミクログロブリン。
【0036】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD45、CD3、CD4、CD8a、CD8bおよびCD279から選択される。
【0037】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD45、CD45RAおよびCD45ROから選択される。
【0038】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD45、CD34、CD38、CD59、CD90およびCD117から選択される。
【0039】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD45、CD19、CD20、CD22、CD22、CD23、CD38、CD138、CD268、CD269(BCMA)およびCD319から選択される。
【0040】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD5、CD19、CD20、CD33、CD123、CD38およびCD269から選択される。
【0041】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD45、CD19、CD4およびCD8から選択される。
【0042】
特定の実施形態において、表面タンパク質はCD45である。
【0043】
特定の実施形態において、表面タンパク質はThy1(CD90)である。
【0044】
特定の実施形態において、表面タンパク質はCD19である。
【0045】
本明細書に関連して、「Thy1」とは、"thymus cell antigen 1, theta"を表す(別名CD90;UniProt ID P04216: (human))。
【0046】
本明細書に関連して、「CD45」とは、"protein tyrosine phosphatase, receptor type, C (Ptprc)"を表す(UniProt ID: P08575 (human))。
【0047】
実施例の動物実験におけるCD45およびCD90は、ヒトの遺伝子およびヒトのタンパク質の、マウスにおけるホモログを表す。請求項30~31および34~36では、特に、マウスのホモログである「マウスCD45」および「マウスCD90/Thy1」を表す。
【0048】
特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD4である。特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD2である。特定の実施形態において、表面タンパク質は、CD8である。特定の実施形態において、表面タンパク質は、HLAタンパク質である。
【0049】
特定の実施形態において、表面タンパク質の第1アイソフォームは、患者の元来のゲノムDNAにコードされていない。
【0050】
特定の実施形態において、細胞は、同種異系細胞である。同種異系細胞とは、細胞を受容する者と遺伝的に類似している、ドナー由来の細胞を表す。ドナーは、血縁者であってもよいし、血縁者でなくてもよい。
【0051】
特定の実施形態において、細胞は、自家細胞である。同種異系細胞とは、細胞を受容する者と同じ人に由来する細胞をいう。
【0052】
特定の実施形態においては、患者の元来のゲノムDNA中にある表面タンパク質をコードしている配列を変化させ、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換を誘導することによって、第1アイソフォームを得た。
【0053】
特定の実施形態においては、表面タンパク質をコードしているmRNAを、RNA編集技術で変化させることによって、第1アイソフォームを得た(Zhang, 2017)。この方法は、ゲノムDNAを変化させないが、表面タンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸を挿入、欠失および/または置換する。
【0054】
特定の実施形態においては、表面タンパク質の第2アイソフォームのアミノ酸配列中の、1個、2個、3個、4個または5個(または、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、15個または20個)のアミノ酸の挿入、欠失および/または置換を誘導することによって、第1アイソフォームを得た。
【0055】
特定の実施形態においては、表面タンパク質の第2アイソフォームのアミノ酸配列中の1~20個(特に1~5個、とりわけ1~3個)のアミノ酸の挿入、欠失および/または置換を誘導することによって、第1アイソフォームを得た。
【0056】
特定の実施形態においては、表面タンパク質の第2アイソフォームのアミノ酸配列中の1個のアミノ酸の挿入、欠失および/または置換を誘導することによって、第1アイソフォームを得た。
【0057】
アミノ酸の挿入、欠失および/または置換は、患者の元来のゲノムDNA中にある、表面タンパク質をコードしている配列を変化させることによって達成することができる(遺伝子編集)。あるいは、表面タンパク質をコードしているmRNAを変化させることによって達成することができる(RNA編集)。両方の編集形態も、タンパク質のアミノ酸配列に変化を生じさせる。
【0058】
特定の実施形態において、挿入、欠失、および/または置換は、下記の工程によって行われる:
(a)異なる哺乳動物種の1または数個の相同配列(特に、マウス、ラット、霊長類およびヒトのホモログ)を比較し(アラインメントし)、非保存部位に挿入、欠失および/または置換を配置する工程;
(b)結晶構造解析またはコンピュータ支援構造予測によって、挿入、欠失および/または置換を施される領域の二次構造が変化しないと予測される挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(c)結晶構造解析コンピュータ支援構造予測に従って、リガンド結合が可能な部位に位置している挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(d)上記表面タンパク質の、予想されるまたは実験的に確立されたタンパク質-タンパク質相互作用に関与していない、配列中の挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(e)ジスルフィド結合、分子間相互作用もしくは分子内相互作用、疎水性スタッキングを削除または導入しない挿入、欠失および/または置換を選択する工程;あるいは、
(f)タンパク質の折畳みに重要な、タンパク質の翻訳後修飾部位(特に、グリコシル化部位)を削除または導入しない挿入、欠失および/または置換を選択する工程。
【0059】
特定の実施形態において、挿入、欠失、および/または置換は、下記の工程によって行われる:
(a)異なる哺乳動物種の1または数個の相同配列(特に、マウス、ラット、霊長類およびヒトのホモログ)を比較し(アラインメントし)、非保存部位に挿入、欠失および/または置換を配置する工程;
(b)結晶構造解析またはコンピュータ支援構造予測によって、挿入、欠失および/または置換を施される領域の二次構造が変化しないと予測される挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(c)結晶構造解析コンピュータ支援構造予測に従って、リガンド結合が可能な部位に位置している挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(d)上記表面タンパク質の、予想されるまたは実験的に確立されたタンパク質-タンパク質相互作用に関与していない、配列中の挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(e)ジスルフィド結合、分子間相互作用もしくは分子内相互作用、疎水性スタッキングを削除または導入しない挿入、欠失および/または置換を選択する工程;ならびに、
(f)タンパク質の折畳みに重要な、タンパク質の翻訳後修飾部位(特に、グリコシル化部位)を削除または導入しない挿入、欠失および/または置換を選択する工程。
【0060】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、結晶構造解析またはコンピュータ支援構造予測に従って、他の哺乳動物のタンパク質と比較して固有のトポロジーを有している部位に位置するように選択される。
【0061】
本明細書に関連して、非保存部位とは、進化の間に頻繁に変異が発生している部位に関する(多数の相同配列の多重配列アラインメント(MSA)から推定される)。部位特異的な保存は、特定の部位において作用する、機能上または構造上の制約の存在を示している。これによって、タンパク質の構造または機能を保存する際の、重要性を評価できる。各部位における溶媒の接近しやすさの程度は、入手可能な実験的に決定された構造から予想(または観測)される。この溶媒の接近しやすさの程度によって、構造上重要な部位(高度に保存され、内部に存在することが多い)と、機能的に重要な部位(リガンド結合、基質結合またはタンパク質-タンパク質相互作用に関与している。また、高度に保存され、露出されている)と、が区別できる。したがって、本明細書に関連して、非保存部位とは、進化上あまり保存されておらず、溶媒の接近が容易である部位に関する。
【0062】
類似した配列を検索する方法は充分に確立されており、相同性の推定に日常的に使用されている。このような方法としては、広汎に使用されているBLASTの他、より感度の高い、プロファイルに基づく方法や隠れMarkovモデルに基づく方法が挙げられる(PSI-BLAST、HMMER、HHblitsなど)。
【0063】
ローカルアラインメント情報およびグローバルアラインメント情報を効果的に組合せることによって、相同配列の多重配列アラインメントを得ることができる(T-COFFEEが実行しているように)。あるいは、可能であれば、構造情報を組み込んでMSAを構築させても、相同配列の多重配列アラインメントを得ることができる(MAFFT、PROMALS3D、3D Coffee)。
【0064】
MSAから部位特異的保存を効果的に推定する方法は、Shannonエントロピーの測定、類似性に基づくマトリクス(すなわち、BLOSUM)、または確率進化モデル(最尤および経験Bayesパラダイム(Rate4Site)など)に基づいている。
【0065】
タンパク質の三次元構造を予測する効果的な方法としては、比較に基づく方法(SWISS-MODEL、MODELLER、RaptorxおよびIntFOLDなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
B細胞のエピトープを予測する方法は、アミノ酸の物理化学的特性(すなわち、疎水性、柔軟性、極性、および露出している表面)を利用して、不連エピトープまたは線状エピトープのいずれかの一部である確率を、残基に基づいて提供する。このようなツールとしては、Ellipro、SEPPA、BepiPred、ABCpred、DiscoTope、EpiSearchが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
特定の実施形態において、挿入、欠失および/または置換は、第1表面タンパク質の細胞外の部位(特に、細胞外ループ)に位置している。細胞外ループにおける変異は、タンパク質の機能に影響を及ぼしにくい。
【0068】
所定の表面タンパク質に対して反応する抗体または抗体様分子が既に存在する場合、この抗体によって認識される当該所定の表面タンパク質のエピトープの情報を用いて、挿入、欠失および/または置換の部位を選択することができる。上記既存の抗体が結合するエピトープを備えている上記所定のタンパク質のアイソフォームは、第2アイソフォームに対応している。また、改変エピトープを備えている上記所定のタンパク質の新規な改変アイソフォームは、第2アイソフォームに対応している。
【0069】
CDRモデリングについては、[Messih, Bioinformatics, 2014]にて説明されている。
【0070】
特定の実施形態においては、表面タンパク質の第2アイソフォームを発現している細胞の特異的除去前に、除去と同時に、または除去後に、細胞を投与する。特定の実施形態においては、抗体様分子、抗体、抗体または抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞、およびキメラ抗原受容体を有している免疫エフェクター細胞(特に、T細胞)から選択される薬剤を患者に投与することによって、表面タンパク質の第2アイソフォームを発現している細胞を除去する。このとき、上記薬剤は、細胞表面タンパク質の第2アイソフォームに特異的に反応するが、第1アイソフォームには特異的に反応しない。
【0071】
特定の実施形態において、細胞は、表面タンパク質の第2アイソフォームに対して反応する抗体または抗体様分子を発現している。
【0072】
特定の実施形態において、細胞は、表面タンパク質の第2アイソフォームに対して反応するキメラ抗原受容体を発現している。
【0073】
特定の実施形態において、細胞は、表面タンパク質の第2アイソフォームに対して反応する抗体または抗体様分子(特に、キメラ抗原受容体)を発現している。このとき、上記表面タンパク質は、CD45、CD19、CD8およびCD4から選択される。特に、表面タンパク質は、CD45である。
【0074】
特定の実施形態において、細胞は、下記を発現している:
(a)第1表面タンパク質の第1アイソフォームであって、当該第1表面タンパク質の第1アイソフォームは、第1表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別できる、第1アイソフォーム;および、
(b)第2表面タンパク質の第1アイソフォームであって、当該第2表面タンパク質の第1アイソフォームは、第2表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別できる。
【0075】
特定の実施形態において、第1表面タンパク質はCD19であり、第2表面タンパク質はCD45である。
【0076】
特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、造血幹細胞(血球芽細胞)、CD4+T細胞、CD8+T細胞、記憶T細胞、制御性T細胞(T reg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、自然リンパ球(ILC)、樹状細胞(DC)、Bリンパ球、粘膜関連インバリアントT細胞(MAIT)、およびガンマデルタT細胞(γδT)を含む群から選択される。
【0077】
特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、造血細胞である。特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、造血幹細胞である。特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、免疫細胞である。特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、T細胞である。特定の実施形態において、哺乳動物細胞は、B細胞である。
【0078】
特定の実施形態において、細胞は遺伝子改変されており、これにより、患者に存在する疾患関連遺伝子異常を修正したり、打消したりする。「疾患関連遺伝子異常を修正する遺伝子改変」という表現は、導入遺伝子の挿入、疾患関連変異の遺伝子修正、遺伝子の削除(特に、疾患関連変異を有している遺伝子の削除)、遺伝子の発現に重要なエピジェネティック修飾の変化、またはそれらの組合せなども含まれる。「遺伝子の削除」という表現は、例えば、途中に終止コドンを挿入することによって、あるいは調節リプレッサー配列を挿入することによって、遺伝子の機能を削除すること(つまり、遺伝子の発現を阻害すること)なども含まれる。
【0079】
特定の実施形態において、細胞は、導入遺伝子を含んでいる。特定の実施形態において、導入遺伝子は、疾患関連遺伝子異常によって影響を受けるタンパク質の、機能的なアイソフォームをコードしている核酸配列である。導入遺伝子は、疾患関連遺伝子異常を有していない。
【0080】
特定の実施形態において、細胞は、疾患関連変異の遺伝子修正を含んでいる。細胞が疾患関連遺伝子異常の遺伝子修正を含んでいる場合、天然の遺伝子の中にある疾患を引き起こす変異は、遺伝子編集技術を用いて修正される。
【0081】
本明細書に関連して、遺伝子編集または遺伝子操作とは、生物のゲノムにおいて、核酸配列の挿入、欠失または置換を与える技術に関する。遺伝子編集は、ゲノムDNAにおける部位特異的な二本鎖切断を伴う。あるいは、遺伝子編集は、ゲノムDNAにおける部位特異的な一本鎖切断(ニック)を伴う。非限定的な例として、遺伝子編集は、(i)CRISPR/Casによって媒介される部位特異的な二本鎖切断後のHDRによって達成することができるし、(ii)部位特異的な塩基エディタの使用によっても達成することができる。
【0082】
特定の実施形態において、疾患関連遺伝子異常は、Foxp3遺伝子、CD25遺伝子、Stat5b遺伝子、Stat1遺伝子およびItch遺伝子から選択される遺伝子における変異である。
【0083】
特定の実施形態において、疾患関連遺伝子異常は、Foxp3遺伝子における変異である。
【0084】
特定の実施形態は、患者へ哺乳動物細胞を投与した後に、移植片対宿主病(GvHD)が発症する場合に関連している。これらの場合、細胞表面タンパク質の第1アイソフォームに特異的に結合するが、第2アイソフォームには特異的に結合しない抗体または抗体様分子を患者に投与することによって、細胞を特異的に除去する。あるいは、細胞表面タンパク質の第1アイソフォームに特異的に反応するが、第2アイソフォームには特異的に反応しない免疫エフェクター細胞(特に、CAR-T細胞)を患者に投与することによって、細胞を特異的に除去する。
【0085】
特定の実施形態において、治療には、造血幹細胞の移植が含まれる。
【0086】
特定の実施形態において、治療には、T細胞の移植が含まれる(つまり、T細胞療法)。
【0087】
特定の実施形態において、治療には、臓器移植が含まれる。
【0088】
特定の実施形態において、治療は、遺伝性の造血性疾患の治療に関する。遺伝性の造血性疾患の非限定的な例としては、サラセミアが挙げられる。
【0089】
特定の実施形態において、治療は、T細胞媒介疾患(特に、遺伝性のT細胞媒介疾患)の治療に関する。とりわけ、IPEX様症候群、CTLA-4関連免疫調節障害症、血球貪食症候群、ALPS症候群、またはヘテロ接合性の生殖細胞PTEN変異に起因する症候群の治療に関する。
【0090】
特定の実施形態において、T細胞媒介性疾患は、腺性内分泌不全症・腸疾患を伴う免疫調節障害(X連鎖性)症候群(IPEX、OMIM:http://www.omim.org/entry/304790)またはIPEX様症候群である。このとき、上記ゲノム位置は、Foxp3遺伝子、CD25遺伝子、Stat5b遺伝子、Stat1遺伝子およびItch遺伝子から選択される遺伝子に含まれる変異である(Verbsky and Chatila, Curr Opin Pediatr. 2013 Dec;25(6):708-14)。これらの遺伝子における変異は、遺伝子産物の発現または正常な機能を妨げる。これらのゲノム位置を編集して、変異を排除すると、遺伝子およびタンパク質の発現が回復する。
【0091】
特定の実施形態において、治療は、免疫不全症、(特に、重症複合免疫不全症候群(SCID))の治療に関する。
【0092】
特定の実施形態において、疾患関連遺伝子異常はFoxp3遺伝子の変異であり、疾患は腺性内分泌不全症・腸疾患を伴う免疫調節障害(X連鎖性)症候群(IPEX)である。特定の実施形態において、疾患関連遺伝子異常は、Foxp3の変異(特に、Foxp3
K276Xの変異)である。この変異は、遺伝子産物の正常な機能を妨げる。このゲノム位置の編集により、変異型DNA配列が野生型DNA配列に戻り、したがって、Foxp3遺伝子およびFoxp3タンパク質の発現が回復する(
図20)。
【0093】
機序こそ異なるものの、非常に攻撃的であるため、IPEXは腫瘍/癌に匹敵する悪性疾患と見做すことができる。疾患関連遺伝子異常を有している病原性の造血細胞/免疫細胞の除去は、少なくとも一時的には正当化される。
【0094】
本明細書に関連して、「Foxp3遺伝子」という用語は、"human forkhead box P3, NCBI GENE ID: 50943"に関する。本願実施例に記載の動物実験では、マウスFoxp3k276X変異を遺伝子編集により修復した。この変異は、臨床的に関連するヒトFoxp3変異を再現している(Ramsdell et al., Nature reviews. Immunology 14, 343-349 (2014); Lin et al., The Journal of allergy and clinical immunology 116, 1106-1115 (2005))。
【0095】
本発明者らは、遺伝子編集によってマウスT細胞のFoxp3
k276X変異を修正できることを示した(
図20、21、22、26)。また、本発明者らは、修復済T細胞が機能性であり、他の免疫細胞を抑制できることをも実証した(
図24、25)。これらのT細胞は、(i)直接修復されたものであってもよいし、(ii)修復済HSCに由来していてもよいし、(iii)iPS由来のT細胞であってもよい。本発明者らはさらに、養子移入したT細胞が、Foxp3を欠損した宿主の中で増殖することを実証した。最大で半分のT細胞がTregになり、疾患を抑制する(
図29)。このことによって、scurfy/IPEX症候群に対するT細胞療法の実現可能性が示される。本発明者らは、CD4を枯渇させることにより、疾患を予防できることを示した(
図30-32)。それゆえ、CD4+細胞は、病原性細胞である。したがって、治療アプローチは、原則的に次のようになるだろう。まず、CD4+T細胞を枯渇させる。次に、Foxp3を修復したCD4+T細胞を移植して、免疫学的バランスを回復させる。しかし、遺伝子を修復したT細胞も、病原性のFoxp3欠損T細胞も、いずれもCD4を発現している。そのため、CD4+T細胞を継続的に枯渇させると、病原性の細胞だけでなく、養子移入した遺伝子修復済された細胞も殺されてしまう。これに対する解決手段として、Foxp3遺伝子の修正と併せて、アレル改変を行うことが挙げられよう。本発明者らは、Foxp3遺伝子を修正して、CD45.2をCD45.1に変換することの実現可能性を実証する(
図20)。その結果、天然のCD45エピトープ(例えば、CD45.2)に対する抗体を利用して、病原性のFoxp3欠損細胞を枯渇させることができる。Foxp3を修復された細胞が、改変CD45アレル(例えば、CD45.1)に変換されているならば、移植された遺伝子修復済細胞は、もはや枯渇されない。これによって、免疫バランスが回復するまで、病原性細胞の枯渇と、機能性の修復済細胞の補充とが、同時に実行できる。この時点において、病原性宿主細胞の選択的な除去を停止させることができる。本発明者らは実際に、CD45の枯渇によって、Foxp3欠損マウスの生存が実質的に延長することを示した。
【0096】
さらに、Foxp3遺伝子を修正した細胞は、Foxp3タンパク質を再発現しているだけでなく、CD25を上方制御している(
図20、21、22、26)。CD25は、in vitroおよびin vivoにおいて高い親和性を示す、インターロイキン-2(IL-2)受容体である。生理学的には、Foxp3は野生型T細胞におけるCD25の発現を正に制御し、IL-2/CD25/Stat5の軸は制御性T細胞の生存に必要である。そこで本発明者らは、Foxp3を再発現している遺伝子修正T細胞は、IL-2の治療的投与によってin vivoにて増殖できると仮定した(
図23)。IL-2/抗IL-2mAb複合体、低用量IL-2療法、(改変)IL-2変異体、その他のTreg増殖プロトコルによれば、T細胞がin vivoで増殖できることは、充分に立証されている。
図27は、IL-2/抗IL-2mAb複合体を利用することによって、修復済T細胞がin vivoで増殖できることを示している。
【0097】
特定の実施形態において、疾患関連遺伝子異常はCTLA-4遺伝子に含まれている変異であり、疾患はCTLA-4変異に関連するヒト免疫調節不全症候群である(Schubert
et al., Science Translational Medicine 5, 215ra174-215ra174 (2013); Kuehn et al., Science (New York, N.Y.) 345, 1623-1627 (2014))。
【0098】
本発明の第2の態様は、医学的状態の治療に使用するための、下記から選択される薬剤を提供する。
(a)抗体または抗体様分子を含んでいる化合物、または、抗体または抗体様分子からなる化合物;および、
(b)抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞、または、キメラ抗原受容体を有している免疫エフェクター細胞。
【0099】
上記薬剤は、表面タンパク質の第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に反応し、当該表面タンパク質の第1アイソフォームは、当該表面タンパク質の第2アイソフォームと、機能的に区別できないが、免疫学的には区別できる。そして、上記薬剤を投与することにより、上記薬剤が反応するアイソフォームを有している細胞が除去される。
【0100】
特定の実施形態において、医学的状態は、造血性障害である。
【0101】
特定の実施形態において、医学的状態は、悪性造血性疾患である。
【0102】
特定の実施形態において、医学的状態は、抗CD19 CAR-T細胞(CAR19細胞)による治療に対して屈折性(refractive to)の悪性造血性疾患である。
【0103】
特定の実施形態において、医学的状態は、非悪性造血性疾患である。
【0104】
特定の実施形態において、医学的状態は、自己免疫疾患である。
【0105】
特定の実施形態において、医学的状態は、移植片対宿主病(GvHD)である。
【0106】
本明細書に関連して、移植片対宿主病とは、遺伝的に異なる者から移植組織の受け取った後における医学的合併症に関する。ドナー組織(移植片)中の免疫細胞は、レシピエント(宿主)を異物として認識する。
【0107】
特定の実施形態において、医学的状態は、造血幹細胞移植に起因する移植片対宿主病である。
【0108】
特定の実施形態において、医学的状態は、養子移入に起因する移植片対宿主病である。本明細書に関連して、養子移入または養子細胞療法とは、患者に対するヒト細胞(通常は免疫細胞)の移植に関する。この細胞は、自家由来であっても同種異系であってもよい。遺伝子編集技術によって達成される標的化修飾により、移植細胞産物を改造して、(i)遺伝子欠損を修復したり、(ii)移植細胞の効能を増大させたり、(iii)所望の追加の特徴(誘導分子または安全スイッチなど)を細胞に組み込んだりすることが可能になる。
【0109】
特定の実施形態において、医学的状態は、臓器移植に起因する移植片対宿主病である。
【0110】
特定の実施形態において、抗体または抗体様分子は毒素に連結されており、それによって免疫毒素を形成している。特定の実施形態において、抗体または抗体様分子は、サポリン連結されている。
【0111】
特定の実施形態において、薬剤は、二重特異性抗体または二重特異性抗体様分子である。つまり、薬剤は、2つの異なる種類の抗原に同時に結合できる抗体または抗体様分子である。
【0112】
特定の実施形態において、薬剤は、二重特異性抗体または二重特異性抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞である。
【0113】
特定の実施形態において、上記薬剤は、下記を有している免疫エフェクター細胞である:
(a)第1表面タンパク質の第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に反応する第1抗体または第1抗体様分子であって、
上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび上記第2アイソフォームは、機能的に区別できないが免疫学的には区別できる、第1抗体または第1抗体様分子;ならびに、
(b)第2表面タンパク質の第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に反応する第2抗体または第2抗体様分子であって、
上記第2表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび上記第2アイソフォームは、機能的に区別できないが免疫学的には区別できる、第2抗体または第2抗体様分子。
【0114】
特定の実施形態において、第1表面タンパク質は、CD19である。
【0115】
特定の実施形態において、第2表面タンパク質は、CD45またはCD34である。
【0116】
特定の実施形態において、第1表面タンパク質はCD19であり、第2表面タンパク質はCD45である。
【0117】
特定の実施形態において、薬剤は、悪性造血性疾患の治療方法に使用するための、抗体もしくは抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞、またはキメラ抗原受容体を有している免疫エフェクター細胞(特に、T細胞)、である。
【0118】
特定の実施形態において、薬剤は、造血性疾患(特に、悪性造血性疾患)の治療方法で使用するための、CD45に対するキメラ抗原受容体を有しているT細胞である。
【0119】
CD45は、造血性疾患の治療用途における、特に好適な標的である。というのも、CD45は、悪性細胞を含む全ての造血細胞で発現しているためである。CD45は細胞の生存に重要であり、それゆえ、細胞が耐性を発達させるのは非常に難しい。
【0120】
本発明の他の態様は、下記を含んでいる、複合薬剤を提供する:
(a)第1表面タンパク質に対して反応する、第2の態様に係る第1薬剤;および、
(b)第2表面タンパク質に対して反応する、第2の態様に係る第2薬剤。
【0121】
特定の実施形態において、複合薬剤は、造血性疾患の治療のために提供される。
【0122】
特定の実施形態において、複合薬剤は、悪性造血性疾患の治療のために提供される。
【0123】
特定の実施形態において、複合薬剤は、非悪性造血性疾患の治療のために提供される。
【0124】
特定の実施形態において、第1薬剤および第2薬剤は、キメラ抗原受容体を有しているT細胞である。
【0125】
特定の実施形態において、第1表面タンパク質はCD19であり、第2表面タンパク質はCD45である。
【0126】
特定の実施形態において、第1薬剤は抗CD19 CAR-T細胞であり、第2薬剤は抗CD45 CAR-T細胞である。
【0127】
特定の実施形態において、悪性造血性疾患は、抗CD19 CAR-T細胞(CAR19細胞)単独での治療に対して屈折性(refractive to)である。
【0128】
本発明の他の態様は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現している細胞を、in
vivoで追跡する方法を提供し、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームは、上記表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別でき、上記方法は、上記第1アイソフォームに特異的に反応するリガンドを、上記患者に投与する工程を含む。
【0129】
あるいは、本発明の上記態様は、患者に由来する組織中において表面タンパク質の第1アイソフォームを発現している細胞を追跡する方法を提供し、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームは、上記表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別でき、上記方法は、上記第1アイソフォームに特異的に反応するリガンドを、上記患者に由来する上記組織に投与する工程を含む。
【0130】
本発明の上記態様の特定の実施形態において、患者に由来する組織は、血液サンプルに関する。このような血液サンプルを、FACSによって分析してもよい。本発明の上記態様の特定の実施形態において、患者に由来する組織は、臓器の組織サンプル(例えば、生検された肝臓などのサンプル)に関する。このような組織サンプルを、組織学的方法を用いて分析してもよい。
【0131】
本発明のさらに他の態様は、下記の工程を含む、in vivoで細胞を選択的に枯渇または濃縮する方法を提供する:
(a)細胞を提供する工程であって、
上記細胞は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現しており、
上記第1アイソフォームは、アミノ酸マーカーに関して、上記表面タンパク質の第2アイソフォームとは異なっており、
上記第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含んでおり、
上記第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含んでいる、工程;
(b)上記細胞のゲノムDNA中において、上記核酸配列Aから上記核酸配列Bへの変異を誘導する工程;ならびに、
(c)上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を選択的に濃縮/枯渇させる工程。
【0132】
本明細書に関連して、「細胞の選択的な枯渇」という用語は、あるマーカー/アレル/アイソフォームを発現している細胞の総数または濃度を、選択的に減少させることに関する。
【0133】
第1アイソフォームを発現している細胞および第2アイソフォームを発現している細胞が所定の体積に含まれているとき、第1アイソフォームを発現している細胞の選択的の枯渇は、第2アイソフォームを発現している細胞の濃縮に対応していることを、当業者であれば理解する。
【0134】
非限定的な例示であるが、選択的な枯渇は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体薬物複合体(ADC)によって達成できる。あるいは、選択的な枯渇は、天然抗原受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を有している細胞(特に、免疫受容体細胞)の反応によっても達成できる。選択的な枯渇はまた、エフェクター化合物(薬物または毒素など)に連結されていない抗体または抗体様分子の投与によっても達成できる。
【0135】
本発明者らは、CD45.2またはCD45.1に対する抗体を利用して、in vivoにおける選択的な枯渇が可能であることを実証した(
図12)。2つの細胞集団(例えば、CD45.2+T細胞およびCD45.1+T細胞)に共通しているエピトープに対する抗体を使用すると、両方の細胞集団を非選択的に枯渇させる(例えば、CD4に対する枯渇)。これとは対照的に、共通して発現している表面タンパク質(例えば、CD45)の、あるアレル(例えば、CD45.2)に対して選択的に結合し、他のアレル(例えば、CD45.1)に対しては選択的に結合しない抗体を利用した枯渇は、特定のmAbが結合するアレルを発現している細胞のみを枯渇させる。例を示すと、CD45.2+細胞を枯渇させることによりCD45.1+細胞が残り、そのため、CD45.1+細胞は相対的に濃縮される。毒素がmAbに連結されている場合には、より効率的に枯渇させることができる。
【0136】
毒素に連結していない抗体または抗体様分子を使用する利点としては、免疫毒素を利用する治療がHSCの枯渇を招く一方で、毒素に連結していない抗体または抗体様分子を利用する治療ならばHSCが残っている点が挙げられる。すなわち、このことは、造血系が部分的に保存されることになるの、望ましい場合がある。
【0137】
本発明者らが実証したところによると、一アミノ酸の差異を細胞内に導入でき、2種類のアイソフォーム/アレルに特異的に結合する2つの異なるリガンド(天然/操作)でこれらを識別できる(EP16196860.7、EP16196858.1、PCT/EP2017/059799を参照)。特異的に設計された人工変異、または希少ではあるが天然に存在する変異(例えば、一塩基多型(SNP))を、内因性の表面発現遺伝子に導入して、抗原を変化させる。当業者が理解するところによると、この変異は、本分野で公知の任意の方法によって導入できる(HDRおよび塩基エディタなど)。その後、改変されたエピトープを利用して、人工エピトープを特異的かつ選択的に認識するリガンドによって、編集済細胞を選択的に枯渇させる。あるいは、天然エピトープを認識するが改変エピトープを認識しないリガンドによる枯渇に対して、編集済細胞は耐性を有しており、それゆえ移植細胞は残る(一方、宿主細胞は枯渇されうる)。
【0138】
その後、「編集済細胞/改変細胞(細胞表面タンパク質の第1アイソフォームが第2アイソフォームに変化した細胞)」を移植(特に、養子移入)に用いる場合に、2種類の異なるアイソフォームを利用して、移植細胞と宿主細胞とを区別できる。これによって、移植細胞を追跡できる。というのも、移植細胞は永久的に標識されるためである。追跡は、in vivoまたはex vivoのいずれでも、標識リガンドを用いて達成できる(例えば、フローサイトメトリーによって、あるいは、細胞または組織に対する組織化学によって)。移植細胞または宿主細胞の一方に特異的なリガンドをin vivoにて適用すると、移植細胞(改変細胞)または宿主細胞にのみ結合するリガンドを用いて、移植細胞または宿主細胞の一方を選択的に枯渇させることができる。また、選択的な細胞枯渇は、移植細胞または宿主細胞の一方を認識する天然抗原受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を有している細胞によっても達成できる。
【0139】
改変細胞の選択的な枯渇は、「安全スイッチまたは殺傷スイッチ」を提供することにより、重要な安全上の機能を構成する。安全スイッチおよび自殺遺伝子の基本概念は、[Jones et al., Front Pharmacol.; 5:254. doi: 10.3389]に説明されている。本発明者らのアプローチは、より単純で、より安全で、より多用途である。原則として、養子移入される任意の細胞を改変して、改変アレル/エピトープと、in vitroもしくはin vivoでの選択スイッチ、追跡スイッチ、安全スイッチおよび/または選択的な除去スイッチと、を有するようにすることができる。限定されない例としては、(i)改変アレルのみを有しており、他の点では遺伝子操作されていない細胞や、(ii)追加の改変された特徴を有している細胞(CAR細胞など)、が挙げられる。例えば、移植片対白血病効果に利用される同種異系の移植細胞は、移植片対宿主病(GvHD)を生じさせる場合がある。移植に先立って改変アレルを組み込んでいる場合には、当該改変アレルによって移植細胞を除去して、GvHDを軽減/治療することができる。(
図2)。同様に、移植された自己の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)または病原体特異的リンパ球を改変して、改変アレルを有するようにすることができる。これによって、オフ・ターゲット効果または過剰なオン・ターゲット効果に起因する望ましくない副作用が生じる場合に、移植された細胞を除去することができる(
図2)。CARをmAb由来として、既知のmAbの特異性と細胞(例えば、キラーT細胞)の特徴とを組合せてもよい。原則として、CARを導入することによって、所与の細胞(T細胞)の傷害活性(または抑制活性)を特定の標的抗原に再指向させる原理は、広範な疾患に適用可能である(悪性腫瘍の他にも、自家免疫疾患、移植または他の造血性疾患など)。CAR19T細胞の成功は、治療剤としてのCAR細胞の可能性を示している。しかし、重要なことに、CAR19T細胞は、何種類かのCD19+腫瘍を治癒するのに非常に有効であるが、種々の異なる標的分子に対して反応する何種類かのCAR-T細胞は、時として、重篤で致死性の副作用を呈する。このような副作用には、サイトカイン放出症候群および/または神経毒性があり、CD19を標的とするCARコンストラクト、および他の標的(CD123などであるが、これに限定されない)を標的とするCARコンストラクトの何種類かについて実証されている。したがって、CAR-T細胞の移植後に、これを制御/除去する能力は重要である(
図2、10、19)。CAR細胞の場合には、改変アレルを安全スイッチとして機能させることができる。また、(おそらく数年後に、)移植した改変細胞が悪性になるか、または任意の種類の望ましくないオン・ターゲット・ダメージまたはオフ・ターゲット・ダメージを引き起こす場合には、この改変細胞を排除することもできる。あるいは、自己由来の改変細胞を残す一方で、疾患を引き起こす宿主細胞を選択的に除去することができる。本発明者らの方法とは対照的に、既存の技術は移植細胞の除去に限定されており、宿主細胞は容易には除去できない。改変アイソフォームによれば、宿主細胞の除去しながら、自家細胞(例えば、遺伝子修復した自家細胞、または他の方法で改変した自家細胞)を移植できる。本発明の方法によって導入されるアイソフォームの切替えがなければ、健康な細胞を移植するときには、宿主細胞の除去を停止する必要がある。この場合、新たに移植された修復済細胞は増殖するが、宿主細胞も増殖してしまい、もはや除去することができず、疾患を引き起こす宿主細胞が修復済細胞を排除してしまう危険がある。したがって、本発明の方法により改変細胞に枯渇に対する耐性を与えることによって、治療アプローチとして非常に有意義である。例えば、抗CD19-CAR細胞によって認識されるCD19エピトープを、自家造血細胞において変異させて、CD19の機能性を保ったまま、枯渇用の抗CD19 mAbまたは抗CD19-CAR細胞が改変細胞に結合して破壊できなくなるようにすることができるだろう。これによって、現在有効な抗CD19-CAR細胞の主要な合併症は、排除されるであろう。抗CD19-CARは、CD19を発現している悪性の造血性腫瘍の排除に非常に高い成功率を誇っているが、同時に、CD19を発現している健康な宿主細胞の排除をも招いてしまう。このことは低ガンマグロブリン血症を導き、したがって感染の危険性が増大する。変異CD19は、健康な自家造血幹細胞(HSC)による、宿主免疫系の再構成を可能とする。これによって、抗CD19-CAR細胞に耐性を示すB細胞が産生される。したがって、CAR19 T細胞が経時的に再発を防止できる一方で、耐性のある編集済細胞が感染に対する自然な保護を提供する。それゆえ、患者はもはや、IVIG注入に依存しなくなるであろう。非遺伝毒性プレコンディショニングによれば(例えば、抗体による)、HSC移植は部分的キメラとして潜在的に達成できる(Nat Biotech,
2016)。あるいは、一般的なヒト集団に見出されるエピトープ(例えば、CD45.2アナログ)を認識する抗CD45-CAR細胞を用いて、全ての造血宿主細胞を排除できる(悪性疾患または他の疾患を引き起こす造血細胞など)。CD45は、全ての造血細胞(ほとんどの悪性細胞など)において発現しているため、好適な標的である。また、CD45はリンパ球の生存に重要である。したがって、CAR-T細胞によってCD45が標的化される場合には、細胞がCD45を下方制御しうる可能性や、CD45を変異させてCAR-T細胞による標的化を逃れる可能性は低くなる。このことは、再発の危険性を低下させるであろう。改変CD45エピトープ(例えば、CD45.1)を有している健康な自家造血幹細胞(HSC)または他の造血細胞の移植によれば、宿主内で健康な造血系を再構築することができ、この造血系は、もはや抗CD45-CAR細胞によっては枯渇されない(CD45.2からCD45.1への切替え実験を参照)。主要な利点は、腫瘍または細胞型に特異的な抗原を必要とせずに、CD45を発現している全ての悪性腫瘍を標的化できることである(T細胞性悪性腫瘍および骨髄性悪性腫瘍などであるが、これらに限定されない)。すなわち、本発明は、悪性の造血性腫瘍および他の非悪性の造血性疾患を治療するための、普遍的に適用可能なシステムを提供するのである。これによって、「適切な標的抗原を同定する」という、CAR-T療法の主要な障害が克服される(Klebanoff, Nat Med 2016)。したがって、CAR-T療法に反応する疾患への応用が、実質的に拡大されうる。CAR-T療法は、CD19+腫瘍の治療には大きな成功を挙げているが、他の悪性の造血性腫瘍には大きな課題を残している。一例として、多発性骨髄腫の治療は、ある部分では、適切な標的抗原の欠如が原因となって、依然として大きな課題のままである(Mikkilineni, Blood, 2017; Sadelain, Nature 2017)。また、造血性腫瘍は、同種異系細胞を必要とせずに治療できるようになり、それゆえ、GvHDを主要な合併症から除外できるようになるだろう。さらに、枯渇中に再構成を開始できるので、回復までの時間が短縮される。重要なことに、移植細胞に枯渇に対する耐性を与えるために利用される変異は、その後必要になった場合には、当該移植細胞を再び枯渇させるためにも利用できる。CAR細胞に依存したHSCの枯渇は、緩やかな(すなわち、非遺伝毒性の)プレコンディショニングを達成する代替的な方法として使用できる可能性がある。CAR45細胞はまた、HSCをも排除する。「骨髄」移植またはHSC移植に昨今採用されている"hit and replace"戦略は、CAR45を使用すれば達成できる。毒性のある化学療法や放射線照射の代わりに、患者のプレコンディショニングをCAR45で行うことができた。CAR45細胞によってHSCおよび造血系を除去し、これをアレル改変された耐性を有しているHSCで置き換えることの利点は、望ましくない細胞の除去の間に造血系の再構成が開始できるので、移植後の危険な時間を排除しうることである。それゆえ患者は、長期間にわたって骨髄が枯渇したり免疫が抑制されたりせずに、常に機能性の免疫系を有しているであろう。したがって、本発明者の戦略によれば、昨今におけるHSC移植の主要な合併症である感染を排除することができる。標的細胞をHSCに特異的に制限するための抗原(または抗原の組合せ)に対するCAR細胞は、内因性のHSCを枯渇するために使用できる。HSCに対してCAR細胞を特異的かつ排他的に指向させるための合成生物学的アプローチ(例えば、ANDゲートを用いた)においては、抗原の組合せは、例えば、抗CD45または抗CD34ならびに第2抗原でありうる。
【0140】
CAR45療法とアレル改変されたHSCによる造血系の置換とを組合せたものは、CAR19療法の代替となりうるかもしれないし(全てのCD19+細胞は、CD45も発現しているため)、CAR19およびCAR45の組合せ療法として使用されうるかもしれない。また、CAR45療法は、CAR19療法の治療後における、再発性のCD19陰性悪性腫瘍またはCD19変異悪性腫瘍にも適用できる。
【0141】
本発明のこの態様は、細胞を置換する普遍的な戦略を表している。細胞は、自家または他家の造血細胞であってもよい。置換する細胞がHSCである場合、上記の方法は、任意の悪性の造血性腫瘍または他の造血性障害を治療するために使用できる。
【0142】
既存の「安全スイッチ」アプローチと比較したときの、本発明者らのアプローチの他の利点としては、以下の点が挙げられる。本発明者らのアプローチは内因性タンパク質を使用しており、導入遺伝子またはタグを細胞に導入する必要がない。2種類のエピトープは機能的に同一であるが、特異的に結合するリガンドによって区別することができる。このアプローチは、どのリガンドが使用されるかによって、移植細胞または宿主細胞のいずれをも枯渇させることができる。設計された変異がゲノムに導入されるので、安全上の特徴点は細胞内に永久的に残り続け、サイレンシングされることがない(これは、ウイルスによって導入された遺伝子組換え安全スイッチには生じうることである)。また、改変エピトープは、人工的な大型の安全スイッチ/自殺遺伝子コンストラクトよりも抗原性が低い。したがって、改変エピトープは、宿主細胞に拒絶される可能性が低い。さらに、改変アイソフォームの使用は、標的化された変異に依存している。したがって、他の安全スイッチ/自殺遺伝子(通常はウイルスにより送達され、ゲノム内にランダムに組み込まれるので、挿入による変異誘発を招く場合がある)よりも安全である可能性が高い(Cornu, Nat
Med, 2017)。
【0143】
当業者が理解していることには、細胞表面タンパク質を第1アイソフォームから第2アイソフォームに変化させるために、HDR以外の他の方法を適用できる。非限定的な例として、塩基エディタを用いたアイソフォームの切替えが挙げられる(Komor et al., Nature 533, 420-424, doi:10.1038/nature17946を参照)。このアプローチは、dsDNA切断を必要とすることなく所望のアミノ酸の編集を可能にするので、安全性をさらに増大させることができる。塩基エディタまたはその関連技術は、プラスミドもしくはミニサークル(dsDNA)、mRNA、またはRNPとして送達できる。
【0144】
細胞表面タンパク質の第1アイソフォームから第2アイソフォームへの切替えと、疾患を引き起こす遺伝子(例えば、Foxp3遺伝子)の修復とを組合せる場合には、第1アイソフォームを発現している細胞を枯渇させることによって、in vivoで(すなわち、宿主への導入後に)非修復済細胞を枯渇させることができる。本発明者らが実証したところによると、アイソフォームの切替えおよび遺伝子欠損の修復の両方がHDRによって達成される例では、アイソフォームの切替えが生じた細胞の中において、正常に遺伝子修復が成功する確率が高まる(
図20)。第1遺伝子におけるアイソフォームの切替えと、第2遺伝子における遺伝子改変とを組合せることにより、遺伝子操作された細胞に安全上の特徴点を導入することができる。
【0145】
また、アイソフォームの切替えは、宿主内において移植された編集済細胞を追跡するためのマーカーとしても使用できる。
【0146】
他の態様によれば、下記の工程を含む、未編集細胞と編集済細胞との組成物において、細胞を選択的に枯渇または濃縮する方法が提供される:
(a)細胞を提供する工程であって、
上記細胞は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現しており、
上記第1アイソフォームは、アミノ酸マーカーに関して、上記表面タンパク質の第2アイソフォームとは異なっており、
上記第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含んでおり、
上記第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含んでいる、工程;
(b)部位特異的な遺伝子操作によって核酸配列Aを核酸配列Bに交換し、これによって、上記細胞における上記第1アイソフォームの発現を上記第2アイソフォームの発現へと変化させることを、上記細胞内において誘導する工程;ならびに、
(c)上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を選択的に濃縮/枯渇させる工程。
【0147】
特定の実施形態において、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換をもたらす遺伝子操作は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(Cas9)およびガイドRNAによって誘導される二本鎖切断後の相同組換え修復によって達成される。このとき、ガイドRNAは、第1ゲノム位置にアニーリングすることができる。
【0148】
本明細書に関連して、「CRISPR関連エンドヌクレアーゼ」とは、本分野で公知のCas9エンドヌクレアーゼを表し、CRISPR様配列に誘導されるDNA鎖の切断を促進する。CRISPR関連エンドヌクレアーゼの非限定的な例としては、Streptococcus pyogenesのCas9エンドヌクレアーゼ(SpyCas9);FrancisellaのCpf1エンドヌクレアーゼ(FnCpf1)、AcidaminococcusのCpf1エンドヌクレアーゼ(AsCpf1)、およびLachnospiraceae bacteriumのCpf1エンドヌクレアーゼ(LbCpf1);SpyCas9、FnCpf1、AsCpf1もしくはLbCpf1の任意のオルソログ;または、SpyCas9、FnCpf1、AsCpf1もしくはLbCpf1、またはそのオルソログの、任意の改変タンパク質;が挙げられる。当業者が理解するところによると、本発明には、新規に発見または改変されたCRISPR/Cas変異体も含まれる。
【0149】
本明細書に関連して、「オルソログ」という用語は、単一の祖先遺伝子から垂直の遺伝によって進化してきた、遺伝子および対応するポリペプチドを表す。つまり、オルソログ遺伝子/オルソログポリペプチドは、共通する祖先を有しており、種が2つの異なる種に分岐したときに分化した。この2つの種における単一の遺伝子のコピーが、オルソログと呼ばれる。2つの遺伝子がオルソログであることを確認するために、当業者ならば、遺伝子の整列させたヌクレオチド配列またはポリペプチドの整列させたアミノ酸配列を比較することによって、遺伝子系統を系統発生分析することができる。
【0150】
本明細書に関連して、「ガイドRNA」と言う用語は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼを所定のゲノム位置へと誘導できる、合成RNAを表す(このゲノム位置において、エンドヌクレアーゼは、ゲノムDNA内のホスホジエステル結合を切断する)。当業者が理解しているところによると、Cas9エンドヌクレアーゼを使用する場合、発現する「ガイドRNA」は、(i)Cas9の結合に必要な配列と、ユーザが定義する「標的配列」との両方を有している、単一のガイドRNA(sgRNA)であってもよいし、(ii)2つのRNA分子の組合せであって、一方はCas9の結合に必要な配列(tracrRNA)を有しており、他方はユーザが定義する「標的配列」(crRNA)を有していている、RNA分子の組合せであってもよい。Cpf1エンドヌクレアーゼを使用する場合、発現する「ガイドRNA」は、(i)Cpf1の結合に必要な配列とユーザが定義する「標的配列」との両方を有している単一のRNA分子であってもよいし、(ii)単一のcrRNAアレイとして導入される、いくつかのガイドRNAであってもよい(Zetsche, Nat Biotech, 2016)。「標的配列」は、所定のゲノム位置にアニーリングすることができる。これによって、標的配列は、改変されるゲノム標的を規定する(通常、20ヌクレオチド程度である)。
【0151】
Cas9によるDNA切断は、標的DNA中にある短いプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の存在に依存しており、標的化可能な配列の選択は制限されている。例えば、Streptococcus pyogenes由来のCAS9(SpyCas9)は、PAM配列:5’-NGG-3’に対応している。特定の実施形態において、DNA修復コンストラクトは、変異PAM配列を有している。この変異は、PAM配列の機能を奪うが、タンパク質の発現、安定性または機能には影響しない。変異PAM配列を有しているDNA修復コンストラクトを使用することにより、HDR効率が高まる。
【0152】
当業者が理解するところによると、CRISPRシステムの他にも、部位特異的なDNA編集の代替手段が存在する。すなわち、ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、もしくはアルゴノートに基づくシステム(Nat Biotechnol. 2016 Jul;34(7):768-73)、または塩基エディタ(Komor et al., Nature 533, 420-424, doi:10.1038/nature17946)を使用できる。本発明には、部位特異的なDNA編集のための、これらの代替手段の使用も含まれる。
【0153】
特定の実施形態において、第1DNA修復コンストラクトは、上記方法の第1工程(ゲノムDNA鎖を切断する工程)で使用されるCRISPRシステムの基質ではない。これは、第1DNA修復コンストラクトが、PAM配列を有していないためである。それゆえ、第2エンドヌクレアーゼイベントによる挿入後には、挿入配列は切断できない。
【0154】
特定の実施形態において、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換をもたらす遺伝子操作は、塩基エディタ(Komor et al., Nature 533, 420-424, doi:10.1038/nature17946; Gaudelli, Nature 2017を参照)およびガイドRNAとともに、細胞をトランスフェクション/エレクトロポレーションすることによって達成される。この塩基エディタは、アミノ酸マーカーAをコードしている核酸配列Aを、アミノ酸マーカーBをコードしている核酸配列Bに変換することができる。また、このガイドRNAは、アミノ酸マーカーAをコードしている核酸配列Aへと塩基エディタを導くことができる。実施例にて後述するように、塩基エディタを設計することにより、マウスCD45.1を、マウス45.2に変換することができる(
図9)。このことは、実証されているHDRアプローチの代替として、塩基エディタを使用したアレル改変の実現可能性を示している。しかし、ゲノム中のヌクレオチドが塩基編集に反応するか否かに関する制約のために、本発明者らは、CD90.2をCD90.1に変換する塩基エディタ、またはCD90.1をCD90.2に変換する塩基エディタ設計することはできなかった。さらに、NGG PAMに関連して設計されている塩基エディタ(Komor et al., Nature 2016を参照)に基づいて、CD45.1をCD45.2に変換する塩基エディタ、またはCD45.2をCD45.1に変換する塩基エディタを設計することはできなかった。対照的に、改変されたPAM部位特異性を認識する改変Cas9バリアントを作製することにより、塩基エディタによって標的化できるヌクレオチドの数が増大した(Kim, Nat Biotech 2017)。本発明者らは、CD45.1配列中に存在するGの近傍にある、Staphylococcus aureus(SaKKH-BE3)のPAM部位を同定した(このGがAに変異すると、CD45.2アレルに変換される)。そこで、編集ウィンドウの位置5にあるGを、Aに置換するsgRNAを設計した。なぜならば、SaKKH -BE3は、編集ウィンドウ内の他の位置よりも、位置5にあるGを最も効率的に編集するためである。次に、本発明者らは、ガイドRNA/塩基エディタの対を設計して、CD45.2をCD45.1に変換した(
図9b)。新規に設計されたA/Tアデニン塩基エディタ(ABE)は、G/Cを変換できる。原則として、この新規なABEを用いると、CD45.2アレルに必須なAを、CD45.1アレルのGに変換できる。しかし、今回利用できるABEは、所望の変異の近傍にNGG PAMを必要とするが、ABEを正確に位置付けるために利用できる上記のPAMは存在しない。そこで、本発明者らは、シチジンデアミナーゼ塩基エディタに適用される規則に基づいて、ABEと推定されるものを設計した。既知のシチジンデアミナーゼ塩基エディタと新規なABEとは、類似した編集ウィンドウ内を編集するので、この戦略が上手く行くと想定しても合理的である。本発明者らは、2つの選択肢を発見した。一方は、Cas9 SaKH-ABE融合に基づくと推定されるものであり、他方はCas9 VQR-ABE融合に基づくと推定されるものであった(
図9b)。フランキングAも変換され、これによりエピトープが変化する可能性も、除外はできない。したがって、塩基エディタを使用してCD45.2をCD45.1に変換する際には、編集ウィンドウが狭く、非常に特異的な塩基エディタが必要になる。先日報告された塩基エディタは、編集ウィンドウが1~2ヌクレオチドであるため、適している(Kim, Nat Biotech, 2017)。要約すると、上記の例が説明しているのは、アレル編集のために塩基を変換する原理はプラットフォームに依存せず、HDR媒介アプローチによって達成してもよいし、代替手段(塩基編集など)によって達成してもよい、ということである。細胞型および所望の変異のゲノム上の文脈に応じて、いずれかを選択できる。
【0155】
本明細書に関連して、「DNA修復コンストラクト」とは、ゲノムDNA内のDNA鎖の損傷(特に、二本鎖切断(DSB))を、HDRによって修復するためのテンプレートとして使用される、DNAコンストラクトを表す。DNA修復コンストラクトは、相同性アームおよび所定の遺伝子組換え配列を有している。相同性アームは、DSBの5’および3’にあるゲノムDNA配列に対して、相同的である。所定の遺伝子組換え配列は、相同性アームの間に位置している。HDRによるゲノムDNA修復の際、所定の遺伝子組換え配列は、ゲノムDNAに挿入される。当業者が理解しているところによると、DNA修復コンストラクトは、線状(一本鎖または二本鎖)であってもよいし、環状(例えば、プラスミド、ミニサークルプラスミド)であってもよい。
【0156】
当業者が理解するところによると、「ガイドRNAは所定のゲノム位置にアニーリングできる」という表現は、ガイドRNAの一部(ユーザが定義する「標的配列」)が、ストリンジェンシーの高い条件下において、所定のゲノム位置にアニーリングできることを表す。ガイドRNAは、上記所定のゲノム位置にアニーリングできない、他の部分を有している。所定のゲノム位置に(部分的に)アニーリングすることによって、ガイドRNAは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼを当該所定のゲノム位置に誘導する。これによって、上記所定のゲノム位置においてDSBが生じる。
【0157】
特定の実施形態においては、HDR増強試薬(特に、バニリンまたはルカパリブ)を、遺伝子編集プロトコルの間に使用する。本明細書に関連して、バニリンとは、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド(CAS番号:121-33-5)を表す。本明細書に関連して、ルカパリブは、8-フルオロ-2-{4-[(メチルアミノ)メチル]フェニル}-1,3,4,5-テトラヒドロ-6H-アゼピノ[5,4,3-cd]インドール-6-オン(CAS番号:283173-50-2)を表す。
【0158】
本明細書において、一つの分割可能な特徴点の代替物が「実施形態」として提示されているときは常に、上記代替物を自由に組合せて、本明細書に開示されている本発明の別の実施形態が形成できることを理解されたい。
【0159】
出願EP16196860.7、EP16196858.1、PCT/EP2017/059799、およびEP17197820.8は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0160】
本発明を、下記の実施例および図によってさらに説明する。これらの実施例および図から、さらなる実施形態および利点が引き出されうる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【
図1】免疫学的に識別できる、細胞表面タンパク質の変異体の改変原理を示す。アイソフォームAおよびアイソフォームBは、同じ機能を果たしうる(機能的に同等である)。この例において、アイソフォームAは、天然に生じる表面タンパク質を表しており、改変されて変異体アイソフォームBになる。
【
図2】免疫学的に識別できる細胞表面変異体が、ヒト細胞療法の安全性をどのように向上させるかを示す。
【
図3A】表面タンパク質の2種類のアイソフォームが、モノクローナル抗体(mAb)によって区別できることを示す。上段の配列:配列番号020、下段の配列:配列番号021。
【
図4】概念実証実験:初代細胞における、CD90.2(アレルA)からCD90.1(アレルB)への変換。左側のフローサイトメトリーパネルは、純粋な出発集団であるCD90.2+初代T細胞を示す。その後、細胞をin vitroにて改変して、CD90.2からCD90.1に変換する。編集後の4つの異なる集団は区別できる:(i)CD90.2+ホモ接合細胞(未編集の出発集団;左上)、(ii)CD90.1+/CD90.2+ヘテロ接合細胞(右上)、(iii)CD90.1+ホモ接合体の細胞(右下)、(iv)CD90を欠失した細胞(左下)。右下の四角形にあたるアレル改変細胞は、出発時の(元来の)内因性アレル(CD90.2)を、もはや発現していない。CD90.1+CD90.2-細胞の純粋な集団を用いて、患者への移植前に、in vitroにて正しく編集された細胞を単離することができる。
【
図5A】概念実証実験(その2):初代細胞におけるCD45.2(アレルA)からCD45.1(アレルB)への変換。上段の配列:配列番号022、下段の配列:配列番号023。CD90.2からCD90.1へのアレル変換に関して示したように(
図4)、右下の四角形にあたるアレル改変細胞は、もはや出発時の(元来の)内因性アレル(CD45.2)を発現していない。患者への移植前に、この細胞を用いて、正しく編集された細胞の純粋集団を単離することができる。
【
図6】Cas9リボ核タンパク質粒子(RNP)を用いた、EL4細胞における遺伝子編集を示す。エレクトロポレーションの条件(方法の節に記載する)以外は、プラスミドに基づくアプローチと同様に、crRNA:tracrRNA/Cas9複合体および+/-HDR 2kbテンプレートを、EL4細胞にトランスフェクションした。この結果は、異なるアプローチ(例えば、プラスミドまたはRNP)によってアレル編集を達成できることを実証している。すなわち、アレル編集は、プラットフォームに依存しない。
【
図7】Cas9リボ核タンパク質粒子(RNP)を用いた、初代マウスT細胞における遺伝子編集を示す。プラスミドに基づくアプローチと同様に、crRNA:tracrRNA/Cas9複合体および+/-HDR 2kbテンプレートを、初代マウスT細胞にトランスフェクションした。
図6と同様に、この結果は、アレルAをアレルBに変換するアレル編集が、プラットフォームに依存しないことを実証している。
【
図8】アレル改変細胞の、非常に純粋なex vivoにおける選抜を示す。左側のパネル:CD45.2細胞をCD45.1細胞に改変した後には、4つの集団が生じる(
図4と同様)。次に、フローサイトメトリーによって、4つの集団の全てを非常に高い純度に精製した。右側のパネルは、4つの集団の各々について、精製後の純度を示す。結論:4つの可能な細胞集団は全て、改変アレルに基づいて、ex vivoにて高純度に精製できる。Sanger DNAシーケンシングによって、正しく遺伝子編集されていることを確認した(不図示)。
【
図9A】(A)CD45.1をCD45.2変換する塩基エディタ、および、(B)CD45.2をCD45.1に変換する塩基エディタの設計を示す。(A)上段の配列:配列番号024、下段の配列:配列番号025。(B)選択肢1および選択肢2における上段の配列:配列番号026、選択肢1および選択肢2における下段の配列:配列番号027。(A)ガイドRNAを設計して、PAM(NNRRT)で制限されるSaKKH-BE3塩基エディタと併せて使用した。選択したPAM配列を、黒い点線で表している(ATTTGT)。ガイドRNAを灰色線で表し、塩基編集ウィンドウ(ガイドRNAのヌクレオチド4~7)を表している。この塩基エディタによって、位置5のGがAに変換される。このようにして、CD45.1アレルは、CD45.2アレルへと変換される。(B)改変アデニン塩基エディタは、AをGに変換できる。CD45.2をCD45.1に変換するための、2つの選択肢を発見した。選択肢1:Cas9 SaKKH(PAMは黒点線)と併せて用いるようにsgRNA(灰色線)を設計した。これによって、塩基編集ウィンドウの位置5のAが、Gに変換される。選択肢2:Cas9 VQRと併せて用いるsgRNA(灰色線)。PAMを黒破線で表している。これによって、塩基編集ウィンドウの位置6のAがGに変換される。選択肢1および選択肢2によって、CD45.2アレルからCD45.1アレルに変換される。
【
図10】移植細胞を任意的に除去することの背景にある概念を示す。細胞を患者から採取した後、ex vivoで編集して、あるアレルを他のアレルへと変換する。編集が成功した細胞を選抜して、選択的な枯渇に必要なエピトープを有している細胞の純粋集団を注入する。つまり、アレル改変は、必要に応じて移植細胞を除去するという選択肢を付け加えた。
【
図11A】in vivoにおいて、移植細胞または宿主細胞を選択的に枯渇させる応用を示す。
【
図12】in vivoにおける選択的な除去の概念実証実験を示す。in vivoにおける除去のモデル。(1)精製CD45.2+T細胞およびCD45.1+T細胞の1:1混合物を用いた、全てのT細胞を欠く免疫不全マウス(Rag KO)の再構成。使用したT細胞は、コンジェニック細胞であるが、編集済細胞ではない。(2)抗体による枯渇。非選択的抗体(抗CD4)と選択的抗体(抗CD45.2)との比較。抗CD45.2抗体は、毒素と連結されていないか、または、毒素(サポリン)と連結されている。(3)1週間後の解析。
【
図13】in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的な枯渇:血中のT細胞の定量化を示す。
【
図14】in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的な枯渇:リンパ系器官におけるT細胞の相対数の定量化を示す。リンパ節(LN)および腸間膜リンパ節(mesLN)を分析した以外は、
図12と同じ手順である。
【
図15】in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的な枯渇:リンパ系器官におけるT細胞の相対数の定量化を示す。脾臓(SP)を分析した以外は、
図12と同じ手順である。
【
図16】in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的な枯渇:リンパ系器官におけるT細胞の絶対数の定量化を示す。リンパ節(LN)および腸間膜リンパ節(mesLN)を分析した以外は、
図12と同じ手順である。
【
図17】in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的な枯渇:リンパ系器官におけるT細胞の絶対数の定量化を示す。脾臓(SP)を分析した以外は、
図12と同じ手順である。
【
図18】in vivoにおけるアレル編集済細胞の選択的な除去に関する概念実証実験(その2)を示す。実験手法:(1)ex vivoにて、CD45.2T細胞をエレクトロポレーションし、CD45.1へと改変する。(2)T細胞欠損マウス(Rag KO)へと養子移入する。移植前に純度による選抜は行わなかった。(3)数週間後、品質管理によりアレル編集が成されていることを実証する。(4)CD45.2細胞を抗体によって枯渇させ、編集済細胞のみを残す。結論:PoCによると、in vivoにおいてCD45.2+宿主細胞および未編集細胞が枯渇され、アレルを改変したCD45.1+細胞は残ったことが実証される。
【
図19】本発明の適用を示す。アレル改変は安全性を向上させる(例えば、CAR-T細胞療法の)。改変細胞は、細胞表面タンパク質(例えば、CD45)の第1アイソフォームと、キメラ抗原受容体に反応を示す所定の標的(例えば、CD19(CAR-19))と、を発現している。CAR19をT細胞に組み込むとともに、CD45の第2アレルを、CD45の第1アレルに変換する。これによって、移植されたCAR-T細胞と、改変されていない宿主細胞とを区別することができる。治療に関連する毒性が生じた場合、病原性のCAR-T細胞を選択的に除去して、CAR-Tに関連する毒性を停止させる。
【
図20A】scurfy細胞およびヒトFoxp3
K276X変異を有している細胞の遺伝子修正を示す。また、アイソフォームを切替えた代理表面マーカーにゲーティングした際の、遺伝子修復済細胞の相対頻度の上昇を示す。(A)野生型Foxp3(C57BL/6)のゲノムDNA配列(配列番号028)、標的変異Foxp3
K276Xを含んでいるFoxp3遺伝子座のゲノムDNA配列(配列番号029;中途に終止コドンが導入されている)、および、scurfyマウス(B6.Cg-Foxp3sf/J)のFoxp3遺伝子座のゲノムDNA配列(配列番号030;自然発生的な2bp挿入があり、フレームシフトしている)、を整列させたもの。sgRNAの結合部位(緑色線)およびPAM配列(黒線)。
【
図20B】(B)Foxp3
K276X C57BL/6マウスに由来する、全てのCD4+T細胞を遺伝子編集する際のプロトコル。(工程1)in vitroで活性化させる。Foxp3K276X変異を標的とするsgRNAをコードしているプラスミドと、1kb野生型(wt)Foxp3修復テンプレートを有している環状プラスミドと、とともにエレクトロポレーションする。(工程2)トランスフェクションに成功した細胞を、GFPの発現に基づいて単離する。(工程3)遺伝子編集のためにin vitroにて細胞を増殖させる。rhIL-2、TGF-β(またはTGF-βとレチノイン酸(RA)との組合せ)、およびサイトカイン中和抗体(抗IL-4および抗IFNγ)の存在下にて、7日間。
【
図20C】(C)対照マウス(WT)に由来する全てのCD4+T細胞、またはFoxp3
K276Xマウスに由来する全てのCD4+T細胞を用いて、Bと同じ実験手法とした。CD25およびFoxp3の発現をフローサイトメトリーで分析した(生存CD4+T細胞でゲーティング)。空のpx458プラスミドでエレクトロポレーションした野生型細胞は、CD4+Foxp3+CD25+T細胞に分化した(左側のパネル)。Foxp3
K276Xのみを含んでいるsgRNAと共にエレクトロポレーションしたFoxp3
K276X細胞は、Foxp3に分化しなかった(中央のパネル)。Foxp3
K276Xと1kb Foxp3 dsDNA修復テンプレートとを含んでいるsgRNAと共にエレクトロポレーションしたFoxp3
K276X細胞は、Foxp3タンパク質の発現が回復した(右側のパネル)。上段:TGF-βのみによるFoxp3誘導。下段:TGF-βとRAを組合せたFoxp3誘導。TGF-βのみと比較すると、TGF-βおよびRAの組合せは、損傷していないFoxp3遺伝子座を有している細胞において(すなわち、野生型および修復済細胞において)、Foxp3を発現している細胞をより高い頻度で生じさせる。Foxp3
K276X細胞を用いた2回の実験、およびFoxp3
sf/J細胞を用いた1回の実験における、代表的なデータ。
【
図20D】(D)代理マーカーとして、CD45アイソフォームの多重切替えを利用した、Foxp3を発現している遺伝子修復済細胞の濃縮。実験手法はBと同様であるが、2種類のsgRNA(sgRNA Foxp3
K276XおよびsgRNACD45.2_R1)および2種類の1kb dsDNAテンプレート(Foxp3野生型およびCD45.1)をコードしているプラスミドと共に、エレクトロポレーションした。7日後、CD45.2、CD45.1、CD25およびFoxp3をフローサイトメトリーで分析した(生存CD4+細胞でゲーティング)。上側のパネル:CD45.1-細胞(緑色線)およびCD45.1+細胞(赤色線)でのプレゲーティング。下側のパネル:アイソフォームを切替えたCD45.1+細胞における、CD25+Foxp3+細胞の濃縮。Foxp3
K276X細胞を用いた2回の実験、およびFoxp3
sf/J細胞を用いた1回の実験における、代表的なデータ。
【
図21A】プラスミドに基づくアプローチおよびRNPに基づくアプローチによる、Foxp3遺伝子の修復を示す。(A)Foxp3 KOマウス由来のCD4 T細胞を、sgRNAプラスミドのみで(または、sgRNAプラスミドとFoxp3野生型HDRテンプレートとを併せて)トランスフェクションした。トランスフェクション(プラスミドトランスフェクション)の24時間後、GFP+およびGFP-細胞を選別した。細胞選別の後すぐに、Foxp3分化カクテルの存在下にて、実験の終了まで細胞を増殖させた。
【
図21B】(B)Foxp3 KOマウス由来のCD4 T細胞を、crRNA:tracrRNA/Cas9 RNP複合体のみで(または、crRNA:tracrRNA/Cas9 RNP複合体と+/-HDRテンプレート(180bp ssDNAまたは2kbプラスミド)とを併せて)トランスフェクションした。RNPでトランスフェクションした細胞の全集団を、Foxp3分化カクテルの存在下にて、実験の終了まで増殖させた。
【
図22】in vitroにおいて、T細胞のFoxp3遺伝子の修復に成功した。上段:野生型Foxp3(C57BL/6)のゲノムDNA配列(配列番号031)、および、標的変異Foxp3
K276Xを含んでいるFoxp3遺伝子座のゲノムDNA配列(配列番号032;中途に終止コドンが導入されている)、を整列させたもの。sgRNAの結合部位(緑色線)およびPAM配列(黒線)。wtコントロールに由来する全てのCD4+T細胞、またはFoxp3
K276Xマウスに由来する全てのCD4+T細胞をトランスフェクションした。CD25およびFoxp3の発現を、フローサイトメトリーで分析した(生存CD4+T細胞でゲーティング)。空のpx458プラスミドでエレクトロポレーションしたwt細胞は、CD4+Foxp3+CD25+T細胞へと分化した(上側のパネル)。Foxp3
K276Xのみを含んでいるsgRNAと共にエレクトロポレーションしたFoxp3
K276X細胞は、Foxp3に分化しなかった(中央のパネル)。Foxp3
K276Xおよび1kb Foxp3 dsDNA修復テンプレートを含んでいるsgRNAと共にエレクトロポレーションしたFoxp3
K276X細胞は、Foxp3タンパク質の発現が回復した(下側のパネル)。TGFβとRAとを併用して、Foxp3を誘導した。
【
図23】Foxp3
K276X C57BL/6マウスに由来する、全てのCD4+T細胞を遺伝子編集するためのプロトコルを示す。細胞をin vitroにて活性化させる。Foxp3
K276X変異を標的化するsgRNAをコードしているプラスミドと、1kb wt Foxp3修復テンプレートとを含んでいる環状プラスミドと共に、エレクトロポレーションする。トランスフェクションに成功した細胞を、GFP発現に基づいて単離する。細胞をin vivoに移植してFoxp3分化させ、その後IL-2レジメンを施す。
【
図24】細胞の養子移入から14週間後における、マウスの臨床上の表現型を示す。WTマウスおよび修復マウスには疾患が見られなかった。KO細胞の移植により、皮膚の炎症および脱毛症を生じた。
図23と同様の実験手法。
【
図25】KO細胞を移植したマウスの臨床上の表現型(T細胞の浸潤)と、耳および尾の皮膚におけるCD4/CD3+T細胞の浸潤との相関を示す。野生型T細胞または修復T細胞を移植したマウスの耳および尾の皮膚においては、CD4/CD3+T細胞は見られないか、または非常に少数であった。データを%および絶対数で示す。
【
図26】WT細胞および修復済細胞を移植したマウスにおける、CD25/Foxp3+Treg細胞の存在を示す。KO細胞を移植したマウスでは、CD25/Foxp3+T細胞は見られなかった。データを、Foxp3の割合(%)およびMFIで示す。
図23と同様の実験手法。
【
図27】修復したTregが、IL-2に応答することを示す。実験の最終週における追加のIL-2療法によって、WT細胞および修復済細胞を移植したマウスにおいては、CD25/Foxp3+Treg細胞が増加した。KO細胞を移植したマウスでは、CD25/Foxp3+T細胞は見られなかった。これらのデータは、WT細胞および修復したTreg細胞が、IL-2に対して同程度に応答することを実証している。
【
図28】WT細胞および修復したCD25/Foxp3 Treg細胞が、種々の細胞表面マーカー(GITR、ICOS、TIGIT、PD1およびKLRG1)を同等のレベルで発現していることを示す。CD25および追加マーカー(例えば、GITR)の組合せを利用して、これらの集団を濃縮できる。Foxp3を欠損するT細胞は表現型が異なり、例えば、GITRおよびKLRG1を発現していない。
【
図29】CD45.1+ WT細胞の養子移入により、Foxp3欠損マウスが救命され、寿命を8週間まで延長したことを示す(試験の最後において、疾患の徴候なし)。Foxp3 KOマウスに高い割合(50%)で見られるWT Treg細胞によって、宿主のT細胞の活性化が抑制される(CD44High細胞よりも低い割合(%))。このことは、WT T細胞により免疫調節を完全に回復させ、scurfy疾患を制御するできることを実証している。さらに、Foxp3を欠損している微小環境によって、Foxp3を有しているT細胞が大幅に増殖する。
【
図30】Foxp3 KOマウスにおけるCD4の枯渇実験を示す(リンパ節(LN))。T細胞の遺伝子修復と選択的な抗体による枯渇との組合せ:病原細胞を枯渇させた後、遺伝子を修正したT細胞を移植する。CD4の枯渇により、かなりの程度scurfy疾患が予防され、平均余命が有意に延長した。KO枯渇マウスと、未処置のKOマウスまたはWTマウスとを比較すると、CD4 T細胞が少ないか存在しないことを示すFACSのデータは、この観察結果を支持している。
【
図31】Foxp3 KOマウスにおけるCD4の枯渇実験を示す(脾臓(SP))。T細胞の遺伝子修復と選択的な抗体による枯渇との組合せ:病原細胞を枯渇させた後、遺伝子を修正したT細胞を移植する。CD4の枯渇により、scurfy疾患が大いに抑制され、平均余命が有意に延長した。KO枯渇マウスと、未処置のKOマウスまたはWTマウスとを比較すると、CD4 T細胞が少ないか存在しないことを示すFACSのデータは、この観察結果を支持している。
【
図32】(A)は、CD4の枯渇により、Foxp3欠損マウスにおけるscurfy疾患の発症が抑制されることを示す。(B)は、CD4枯渇により、Foxp3欠損マウスの尾の皮膚における皮膚炎の発症が大いに抑制されることを示す。
【実施例0162】
初代T細胞におけるプラスミドに基づいた効率的な遺伝子の除去、初代T細胞における標的化された点変異の導入、代理細胞表面マーカーのアイソフォームの切替えをモニタリングすることによるHDR編集済細胞の濃縮、および、マウスscurfy細胞の遺伝子修正に関する説明は、EP16196860.7、EP16196858.1およびPCT/EP2017/059799を参照。
【0163】
〔遺伝子操作された変異(アレル改変)を設計するのための一般的な考慮事項〕
リガンドの特異的な結合を変化させ、第2の特異的なリガンドの結合を可能とするために、標的化された小変異(一ヌクレオチドまたは一アミノ酸変異でありうる)を導入することにより遺伝子のアレルを改変することは、治療的用途における一般的原理として有用であるかもしれない。この変異は、改変タンパク質の機能を可能な限り保存するように設計される。免疫原性を変化させて、特異的に結合するリガンド(モノクローナル抗体(mAb)など)または抗体様分子(Affimer、DARPINS、ナノボディなど)を生じさせる必要がある。このようなリガンドは、特異的結合に関してスクリーニングする必要がある。また、免疫原の特徴は、注意深く設計する必要がある。同時に、この変異は、抗原に小さな変化を与えるだけなので、in vivoにおいて強力な免疫反応を引き起こす可能性は低い。マウスにおけるコンジェニック・マーカーは、これらの基準を正に満たしている。CD90.1とCD90.2との差異も、CD45.1とCD45.2と差異も、いずれも一ヌクレオチドであり、一アミノ酸の差異をもたらす。いずれの場合も、この差異は、特異的なmAbによって検出できる。そのため、各遺伝子に対応する一対のmAbがある。これらの差異からmAbを作製することができるが、コンジェニックな細胞を対応するコンジェニックな宿主に移植した場合(すなわち、CD90.1+細胞をCD90.2+宿主マウスに移植した場合(またはその逆);あるいは、CD45.1+細胞をCD45.2+宿主に移植した場合)でも、細胞は免疫学的に拒絶されない。このことは、このような小さな抗原性の差異ならば、in vivoにおいて免疫系に許容されることを意味している。要約すると、これらの特性によって、コンジェニックに標識した細胞が作製された。この細胞は、免疫学的研究の非常に有用なツールとして、数十年間使用されてきた。免疫学的には、これらの細胞は自家移植のための代理細胞として使用される。それは、この細胞が、上述の1つの変異を除いて遺伝的に同一であるためである。しかし、コンジェニックな小さな差異により、移植細胞と宿主細胞とは区別できる。
【0164】
〔操作するタンパク質の選択〕
ヒトにおいて治療用の類似システムを設計するためには、いくつかの点を考慮する必要がある。原則上、変異は、タンパク質をコードしている任意の遺伝子に導入できる。所定のタンパク質の発現パターンにも、関係があるだろう(すなわち、遍在的に発現していてもよいし、所望であれば、細胞または組織特異的に発現であってもよい)。表面上にて発現しているタンパク質は、最も直接的に標的化されうる。それゆえ、ほとんどの場合において選択されるタンパク質である。一例として、CD1~CD371の分化のクラスターによって特徴づけられるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない(Engel, J Immunol November 15, 2015, 195 (10) 4555-4563; http://www.hcdm.org/)。他の所定のタンパク質は、遍在的に発現しているタンパク質であってもよい。このようなタンパク質としては、全ての細胞(非免疫細胞を含む)で発現している、β-2-ミクログロブリン、HLAクラスIの定常部位などが挙げられる。あるいは、特定の細胞型で発現しているタンパク質が所定のタンパク質であってもよい。例えば、造血細胞のヒトCD45、T細胞のヒトCD3、ヒトT細胞受容体構成要素の定常領域、B細胞免疫グロブリンの定常領域(軽鎖のκおよびλ、もしくは重鎖定常領域など)、ヒトCD4補助受容体もしくはヒトCD8補助受容体、B細胞マーカー(CD19、CD20、CD21、CD22、CD23など)、共刺激分子(CD28もしくはCD40など)、造血幹細胞のCD34、細胞のサブセットに発現している特異的なアイソフォーム(CD45RAもしくはCD45ROなど)が挙げられる。最後のケースの場合、CD43RAとCD45ROとで異なる可変領域内(選択的にスプライシングされるエキソン内)に変異を設計する。偏在的に発現している分子(β-2-ミクログロブリンまたはHLA-Iなど)に変異を導入すると、実質的に任意の哺乳動物細胞(より具体的には、任意のヒト細胞)において使用されうる固有のシステムとして役立つかもしれない。この改変は、未改変の宿主細胞を残しながら、改変細胞を追跡および除去するために使用できる。このような特徴は、例えば、細胞療法における殺傷スイッチとして有用となるかもしれない。この細胞には、種々の種類の幹細胞(例えば、筋幹細胞)、肝細胞、または人工多能性幹細胞(iPS細胞)に由来する細胞が含まれる。細胞型に特異的なタンパク質(CD45など)に変異を導入することは、特定組織に由来する全ての細胞を標的とするのに有用であるかもしれない。造血系の場合、ヒトCD45の改変は、造血幹細胞(HSC)を標識するのに役立つかもしれない(このHSCを用いて、内因性の造血系を置換する)。このHSCの全ての子孫は、元々のHSCのゲノムに導入されたものと同じ変異を有している。元来の宿主の造血系を、任意の手段によって除去する場合(例えば、放射線照射、化学療法、枯渇リガンド(mAbまたは抗体様分子など)、毒素と連結しているmAb、細胞による除去(例えば、CAR-T細胞による除去)など)、置換された造血系は、たとえ自家由来であっても、導入された変異によって識別できる。あるいは、改変細胞を残しながら、宿主細胞の除去することもできる。
【0165】
〔設計上の考慮事項〕
◆タンパク質の発現パターン(偏在的であるか、細胞または組織に特異的であるか)
◆細胞外タンパク質:ほとんどの場合、特異的なリガンドが接近可能である、所定のタンパク質の細胞外の部位に変異が導入される。サブセットに特異的な発現が望まれる場合は、常に発現しているエキソン内、または選択的にスプライシングされるエキソン内に、変異を導入することができる。
◆種間での保存:保存されているアミノ酸(aa)または構造は、機能的に関連する可能性が高い。したがって、手を付けるべきではない。むしろ、保存されていない領域に変異を組み込むべきである。
◆アミノ酸の化学的性質(例えば、極性、電荷、疎水性)
◆アミノ酸の類似性:機能を保存するために、変異は所与のアミノ酸を関連するアミノ酸に変換すべきである。ただし、依然として、特異的なリガンドによって検出可能な変化である必要がある。
◆天然に生じる変異:タンパク質ファミリーのメンバー(異なる生物の相同配列)の多重配列アラインメントにおいて所定の位置で観察されるアミノ酸の変異に対応する変異は、当該タンパク質の機能および構造に影響を及ぼさない可能性が高い。それゆえ、変異の設計に選択されうる。
◆構造上の考慮:構造データは、可能な変異の理論設計の一助となりうる。改変するアミノ酸は、リガンド結合に接近できなければならない。ループにおける変異は、機能上比較的許容度が高く、したがって所定の部位でありうる。
◆疾患を引き起こす既知の変異を避ける。
◆既知のヒトの遺伝的変異の考慮:機能上許容される一塩基多型(SNP)は、好適な変異の候補である。
◆二次修飾(グリコシル化など)に重要な部位は、変異させるべきでない。
◆ジスルフィド結合に重要な部位は、変異させるべきでない。
◆公表されている相互作用に重要な部位(例えば、水素結合、塩橋、疎水性スタッキング相互作用)は、変異させるべきでない。この相互作用は、タンパク質内部に生じるのものだけでなく、複数のタンパク質複合体または受容体-リガンド相互作用のためのタンパク質-タンパク質相互作用に関与するものも含む。
◆過去に成功しているシステムを考慮する(CD90.1/CD90.2(Q→R)など)。
◆既知の結合リガンド(既知のmAbなど)の結合部位を考慮する。また、相補性決定領域(CDR)の計算モデリングを考慮する。
◆既知の「活性部位」を避ける(例えば、酵素の触媒部位)。
◆他のヒトタンパク質に存在する、構造的に非常に類似したドメインは避ける。特異的なリガンドが交差するリスクを高める可能性が高いため。
◆免疫原性を考慮する:適切なペプチド免疫原を生じさせる可能性が高い部位を選択する。
【0166】
〔一般的に適用可能な、プラットフォームに依存しない原理としてのアレル改変〕
EP16196860.7、EP16196858.1、およびPCT/EP2017/059799において、本発明者らが実証し特徴付けたのは、CRISPR/Casプラットフォームを用いて、アレル改変のための標的化された点変異を導入し、その後選択的な除去を行う方法である。本発明者らが実証したところによると、2つ異なるの点変異を2つの異なる遺伝子に導入し、当該導入された変異を利用して、in vivoにおいて、改変細胞を追跡および/または選択的に除去できる。本発明者らは、CRISPR/Cas9システムおよびdsDNAテンプレートに頼って、相同組換え修復(HDR)を達成していた。しかし、使用されていた例は、変異を導入する一つの方法に過ぎない。代替手段としては、他の種類のヌクレアーゼが挙げられる。その例は、ジンクフィンガータンパク質、TALEN、他の天然もしくは改変CRISPR/Casシステム(Cas9、cpf-1など)、high fidelityヌクレアーゼ、または、PAM依存性が改変されているヌクレアーゼ(Komor, Cell, 2017)などである。さらに、上記の原理は、ヌクレアーゼの送達形態には依存しない。プラスミド、mRNA、組換えタンパク質、ガイドRNAと複合した組換えタンパク質(すなわち、リボ核複合体、RNP)、splitリコンビナーゼ、または、組込みウイルスもしくは非組込みウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、バキュロウイルス、または他のウイルス送達プラットフォーム)として、ヌクレアーゼを送達できる。送達の方法としては、エレクトロポレーションまたは他の形態(例えば、リポフェクション、ナノ粒子送達、cell squeezeまたは物理的穿孔)などが挙げられる。また、HDR鋳型は、ssDNAまたはdsDNAであってもよい。これらの形態は、短鎖ssDNA、長鎖ssDNA、または環状もしくは線状ミニサークルDNA、プラスミドDNA、またはウイルス性のDNAテンプレート(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV))であってもよい。標的細胞に応じて、特異的なAAV血清型を用いて、内容物を細胞に送達する。ヒトT細胞およびヒト造血幹細胞に関しては、AAV6としてHDRテンプレートが提供されることが多い。しかし、エンドヌクレアーゼRNPおよび短鎖ssDNA HDRテンプレートもまた、上首尾に利用できる。したがって、変異を導入する方法は柔軟でありうる。
【0167】
〔他のアプローチ(例えば、塩基コンバータまたは塩基エディタ)を使用するアレル改変〕
本発明者らが実証したのは、HDRに続く標的化されたdsDNA切断を、いかにして利用して、アレル改変のための標的化された小さな変異(すなわち、正確な変異)を導入するか、ということであった。また、いかにすれば設計した点変異を生存細胞のゲノム中に導入できるか、という他のアプローチもある。例えば、新規に設計されたキメラ融合タンパク質は、標的DNAの塩基を、他の塩基に直接変換することができる(Komor, Nature 2016; Nishida, Science 2016; Yang, Nat Comm, 2016; Ma, Nat Meth 2016)。デアミナーゼなどの酵素を、DNA結合モジュール(ジンクフィンガータンパク質、TALENまたはCRISPR/Casシステムなどであるが、これらには限定されない)と融合させることができる。天然に生じるシチジンデアミナーゼ(APOBEC1、APOBEC3F、APOBEC3G)、および、活性化誘導デアミナーゼ(AID)またはAIDオルソログであるPmcdA1(ウミヤツメ由来)は、DNA中のシチジン(C)をウラシル(U)に変換することができる。DNA複製機構では、Uを修復する前にDNA複製が起こる場合、UをTとして扱う。このことは、C:G塩基対からT:A塩基対への変換を招く(Yang, Nat Comm, 2016; Komor, Nature 2016)。それゆえ、いくつかのグループは、DNA結合モジュールと融合したデアミナーゼを有している、改変キメラタンパク質を開発している。この改変キメラタンパク質は、デアミナーゼを特定のゲノム遺伝子座に運ぶために使用される。例えば、Cas9ヌクレアーゼを改変して触媒能を失わせた変異体(dCas9)を使用する場合には、CRISPR/Casシステムを送達システムとして使用することができる。このアプローチは、融合したエフェクター分子を特定のゲノム遺伝子座に標的化するために、上手く利用されてきた。蛍光タンパク質を特定の遺伝子座に標的化する応用や、トランスアクチベーターまたはリプレッサーを特定のゲノム遺伝子座に導入して特定の遺伝子の発現を制御する応用もある(Wang, Ann Rev Biochem, 2016)。シチジンデアミナーゼまたはAIDと、ニッカーゼCas9とを融合し、塩基編集の効率を改善するためにさらに改変を施すことにより、直接的に標的化した塩基の変換が可能となる(Komor, Nature 2016; Nishida, Science 2016)。特定の状況下において、上記の手法はHDRアプローチを超える利点を有しているかもしれない。というのも、塩基エディタはdsDNA切断を誘導せず、DNA HDRテンプレートの送達も必要としないためである。したがって、この代替アプローチは、indelをより減少させることができる。それゆえ、HDRに基づくゲノム改変の安全な代替手法(または、安全性を増した代替手法)となるかもしれない。さらに、mRNAまたはRNPとして塩基エディタを送達することは、充分ありうる話で、特定の細胞型に関しては毒性が低減されるかもしれない。ヒトT細胞に関して、Cas9 RNPは、成功したゲノム編集アプローチを提供している(Schumann, PNAS, 2015)。したがって、RNPの形態の塩基コンバータは、造血細胞(造血幹細胞(HSC)およびT細胞など)に非常に適しているであろうことが予想されうる。しかし原則として、塩基変換は、任意の細胞(哺乳動物細胞など)に適用できる、アレル改変の好適なアプローチでありうる。設計した点変異を導入した後には、下流での用途に使用できる(細胞標識、細胞追跡、および選択的な除去など)。RNPとして送達された塩基エディタは、哺乳動物細胞、マウス胚およびゼブラフィッシュ胚、ならびに生きたマウスの内耳において、標的ヌクレオチドの編集に成功した(Rees, Nat Comm, 2017; Kim, Nat Biotech, 2017 doi:10.1038/nbt.3816)。このように、上記の研究は、特異的なDNAを用いない塩基編集の実現可能性を示している。しかし、(ヒト)ゲノム中における、塩基変換に反応しやすいヌクレオチドの数は、HDRアプローチよりも制限されている。これは、塩基変換が、PAM配列に依存する上に(CRISPR/Casに基づく塩基コンバータの場合)、さらなる制約を有しているためである。シチジンデアミナーゼ塩基エディタは、CからT(または、GからA)への変換しかできない。しかし、新規に改変されたアデニン塩基エディタは、AからG(または、TからC)へと変換することができる(Gaudelli, Nature 2017)。しかし、PAMの制約に加えて、塩基変換は、融合タンパク質の特定の設計および/または改変によって規定されている特定のウィンドウ内でしか起こせない。したがって、塩基エディタを用いる場合、HDRによって導入される点変異と比較すると、編集可能なヌクレオチドの数は、遥かに制限される(Komor, Nature 2016)。さらに、塩基変換のウィンドウには、数個のヌクレオチドが含まれている。例えば、いわゆる塩基エディタ3(BE3)のうち、S. pyogenesのCas9を使用するもの(SpBE3;Komor et al., Nature 2016を参照)に関して、このウィンドウには約5ヌクレオチドが含まれる。したがって、複数のCヌクレオチドが隣接している配列内で、1つのCをTに編集することはできない。これによって、得られるタンパク質のアミノ酸を変化させる場合のある、望ましくない追加の変異がもたらされてしまう。同様の編集ウィンドウは、アデニン塩基エディタにも適用される。また、異なるBE3(S. aureusのCas9に基づいているSaBE3)は、標準的なBE3編集ウィンドウの外側にあるCを標的として、検出可能な塩基編集を与える。これらの制限に対処するために、新規な塩基コンバータ変異体は、狭い編集ウィンドウと、NGGとは異なるPAM特異性(例えば、NGA、NGAG、NGCG、NNGRRTおよびNNNRRT)を有するように改変されている。しかし、所与の一ヌクレオチドを変換する特定の塩基エディタの設計は、依然として困難である(Kim, Nat Biotech 2017, doi:10.1038/nbt.3803)新規な塩基コンバータによって、哺乳動物のゲノム中の標的化可能なヌクレオチドの範囲が拡大されるが、全てのヌクレオチドを自由に編集できるわけではない。しかしそれでも、塩基コンバータの利点のいくつかを利用するために、本発明者らは、CD90.1からCD90.2へのアレル改変、CD90.2からCD90.1へのアレル改変、CD45.1からCD45.2へのアレル改変、またはCD45.2からCD45.1へのアレル改変のための塩基エディタの設計を試みた。しかし、従来のNGGで制限される塩基エディタでは、これらの変換のいずれも、利用可能な塩基エディタで達成することができない。両方の遺伝子(CD90およびCD45に)に関して、アレルの差異がGからAへの置換によってコードされているにもかかわらず、である(この置換は、原則として、デアミナーゼによる変換に反応しやすい)。唯一の解決策は、SaCas9に基づくBE3の変異体(PAMの制約をNNRRTに緩和する、3つの変異を有している)を利用することであった(Kleinstiver, Nature 2015; Kim, Nat Biotech, 2016 (doi:10.1038/nbt.3803))。この塩基エディタを選択することにより、CD45.1アレルをCD45.2アレルに変換する塩基エディタ、および対応するsgRNAを設計することができた(
図9A)。しかし、この塩基エディタは、CD45.1をCD45.2に変換するだけで、CD45.2をCD45.1に変換しない。そこで、本発明者らは、アデニン塩基エディタと推定されるものを設計した(Cas9 SaKKHまたはCas9 VQRと融合しているアデニン塩基エディタ;
図9B)。一方、現存する塩基エディタの変異体であっても、CD90アレルは変換できない。
【0168】
〔方法〕
初代マウスCD4+T細胞の遺伝子編集、EL-4細胞の遺伝子編集、およびFoxp3の修復プロトコルに関する詳細な方法は、EP16196860.7、EP16196858.1およびPCT/EP2017/059799を参照。
【0169】
〔ヒトT細胞の単離および抗体〕
健康なドナーのバフィーコート(Blutspendezentrum, Basel)から、Lymphoprep(Stemcell Technologies;商標)の密度勾配を利用して、初代ヒトT細胞を単離した。Easysep Human naive CD4+ T-cell enrichment kit(Stemcell Technologies)を利用し、製造者のプロトコルに従って、ナイーブCD4+T細胞を事前に濃縮した。あるいは、ナイーブT細胞の単離工程を設けずに、臍帯血をPMBCの材料として用いた(ナイーブT細胞が高頻度で見られるため)。濃縮の前後において、CD4+T細胞のサンプルを以下の抗体で染色し、純度を評価した:αCD4-FITC(OKT-4)、αCD25-APC(BC96)、αCD45RA-BV711(HI100)、αCD45RO-BV450(UCHL1)、αCD62L-BV605(DREG-56)、αCD3-PerCP(HIT3a)、およびZombie-UV viability dye(全てBiolegendより購入)。
【0170】
手順を要約すると以下の通りである。1サンプルのバフィーコート(50mL)に対して、2×50mLのフィルタ付Falconチューブを用意し、各チューブに16mLのLymphoprepを注入して、300gにて1分間遠心分離する。各フィルタ付チューブ(50mL)に血液を等分して分注し、PBSで50mLまで満たす。2000rpmにて15分間遠心分離する(加速時間:4、減速時間1)。血清の一部を除去し、廃棄する。新しい50mLのFalconチューブに、白血球のバフィーコートを慎重に溜める。濃縮されたPBMC画分に滅菌PBSを加えて約50mLにし、300gにて5分間遠心分離する。上清を捨て、ペレットを10mLのPBSで再懸濁して50mLまで満たし、300gにて5分間遠心分離する。必要であれば、精製工程に先立って、赤血球を赤血球溶解バッファで溶解させる。
【0171】
〔ヒトT細胞をトランスフェクションするプロトコル〕
血液または臍帯血に由来するナイーブCD4+T細胞または全PBMCを、トランスフェクションに使用した。T細胞を活性化させるために、2×106個の細胞を24ウェルプレート(Corning)に播種した。このプレートは、モノクローナル抗体(mAb)のa-CD3(ハイブリドーマクローンOKT3)およびa-CD28(ハイブリドーマクローンCD28)で被覆されていた(いずれもBiolegend製)。被覆濃度は、a-CD3の場合は、5μg/mL(高)、2.5μg/mL(中)、または1μg/mL(低)であった。a-CD28の場合は、2.5μg/mL(高)、1μg/mL(中)、または0.5μg/mL(低)であった。50IU/mLの組み換えヒトインターロイキン-2(rhIL-2;RD systems)および5%CO2の存在下、37℃にて24時間静置した。24時間後、T細胞を回収し、PBSで洗浄した。活性化させた2×106個のT細胞を、エレクトロポレーションした。エレクトロポレーションには、Amaxa Transfection System, T-020 program (for plasmid)またはNeon(登録商標)Transfection System(ThermoFisher)を利用した。エレクトロポレーションの条件は、以下の通りであった:電圧(1600V)、パルス幅(10ms)、パルス(3回)、100μLチップ、バッファR(RNP用)。空のプラスミドpx458(Addgene plasmid number: 48138)、または、crRNA:tracerRNA-Atto550(IDT)-Cas9(Berkeley)複合体で、細胞をトランスフェクションした。エレクトロポレーションの後、細胞を24ウェルプレートに播種した。このプレートには、50IU/mLのrhIL-2を添加した650μLの完全培地が注入されており、mAbが植え付けられていた。このmAbの濃度は、最初の活性化に用いた濃度の半分である。すなわち、抗CD3は2.5μg/mL、1.25μg/mL、または0.5μg/mLであり、抗CD28は1.25μg/mL、0.5μg/mL、または0.25μg/mLであった。24時間後、Fortessa analyzer(BD Biosciences)を利用して、GFP+細胞またはAtto550+細胞の発現を評価した。
【0172】
〔CD45.2の枯渇実験〕
C57BL6マウス(CD45.2)およびC57BL6コンジェニックマウス(CD45.1)から、EasySep Mouse CD4+ T Cell Isolation Kit(Stem cell Technologies)を利用して、CD4+T細胞を単離した。RAG KOマウスに、ドナーCD4+T細胞を与えて再構築した。このCD4+T細胞は、CD45.2とCD45.1との比率が1:1であった(10×106個ずつ)。T細胞移植と同日から3日間連続して、PBS(非処置群)または枯渇用の抗CD4抗体(クローンGK1.5、250μg)を、マウスに腹腔内注射した。CD45.2-ZAP免疫毒素は、CD45.2ビオチン化抗体(分子量:160kDa、Biolegend)と、ストレプトアビジン-SAP複合体(1個のストレプトアビジン当たり2.8個のサポリン分子、分子量:135kDa、Advanced Targeting Systems)と、を組合せることによって作製した。組合せのモル比は1:1とし、その後使用の直前に、PBSで稀釈した(最初の文献にて説明されているものと同様。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5179034/)。免疫毒素または複合していないCD45.2抗体を用いたコントロールを、静脈内注射することによって、in vivoで投与した。1週間後、血液、末梢リンパ節(LN)、腸間膜リンパ節(mesLN)および脾臓(SP)を採取し、蛍光色素を結合させた下記のmAbで、細胞を染色した(全てBiolegend):抗CD45.2(104)、抗CD45.1(A20)、抗CD4(RM4-5)、抗CD3(145-2C11)。サンプルをBD Fortessa(BD Biosciences)にかけ、FlowJoソフトウェア(Tree Star)で分析した。
【0173】
〔項目〕
<項目1>真核細胞内の第1ゲノム位置における第1相同組換え修復(HDR)イベントを決定する方法であって、
上記細胞は、第1表面タンパク質の第1アイソフォームを発現しており、上記第1アイソフォームは、アミノ酸マーカーに関して、上記第1表面タンパク質の第2アイソフォームとは異なっており、上記第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含んでおり、上記第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含んでおり、
上記第1ゲノム位置は、上記核酸配列Aを有しており、下記の工程を含む、方法:
(a)上記第1ゲノム位置において、第1DNA二本鎖切断を誘導する工程;
(b)上記核酸配列Bと、上記第1ゲノム位置の5’および3’のDNA配列と相同的である第1相同性アームと、を有している、第1DNA修復コンストラクトを提供する工程;
(c)上記細胞において、上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現を決定し、任意で、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を精製する工程;
(d)上記第1HDRイベントの発生を決定する工程であって、上記細胞における上記第1表面タンパク質の上記第2アイソフォームの発現は、上記第1HDRイベントの発生と同義である、工程。
【0174】
<項目2>上記第1HDRイベントの発生を、2つ以上の実験条件において決定し、第2実験条件よりも第1実験条件において、上記第2アイソフォームの発現の割合が上記第1アイソフォームに対して増加している場合に、当該第1実験条件におけるHDR効率が増加している、と判断する、項目1に記載の方法。
【0175】
<項目3>工程(a)および(b)を、バニリンおよび/またはルカパリブを含んでいる細胞培養培地中で行い、特に、上記培地は、50μM~500μMのバニリン、および/または、0.5μM~2.5μMのルカパリブを含んでおり、とりわけ、上記培地は、約300μMのバニリン、および/または、約1μMのルカパリブを含んでいる、項目1または2に記載の方法。
【0176】
<項目4>上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび上記第2アイソフォームは、リガンド(特に、抗体)によって互いに区別ができ、上記リガンドは、識別可能に、(i)上記アミノ酸マーカーAに結合でき、上記アミノ酸マーカーBには結合できないか、または、(ii)上記アミノ酸マーカーBに結合でき、上記アミノ酸マーカーAには結合できないか、のいずれかである、項目1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0177】
<項目5>上記第1表面タンパク質は、天然タンパク質である、項目1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0178】
<項目6>上記第1表面タンパク質は、遺伝子組換えタンパク質である、項目1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0179】
<項目7>上記精製は、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって達成される、項目1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0180】
<項目8>上記精製は、上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは第2アイソフォームを発現している細胞を、磁気ビーズにより濃縮する工程を含む、項目1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0181】
<項目9>上記第1表面タンパク質は、Thy1またはCD45である、項目1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0182】
<項目10>CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(Cas9)と、ガイドRNAと、をコードしているDNA発現コンストラクトを上記細胞にトランスフェクションすることにより、上記第1ゲノム位置における上記第1二本鎖切断が誘導され、上記ガイドRNAは、上記第1ゲノム位置に対してアニールできる、項目1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0183】
<項目11>上記相同性アームは、それぞれが約2000塩基対(bp)を有している、項目1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0184】
<項目12>未編集細胞および編集済細胞の組成物から、編集済細胞を選択的に枯渇または濃縮する方法であって、
(a)上記未編集細胞は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現しており、上記編集済細胞は、項目1~11のいずれか1つに記載の方法によって、上記表面タンパク質の第2アイソフォームを発現するように編集されており、上記第2アイソフォームは、アミノ酸マーカーに関して、上記第1アイソフォームと異なっており、上記第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含んでおり、上記第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含んでいる;かつ、
(b)上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは第2アイソフォームの発現に基づいて、上記編集済細胞を選択的に濃縮または枯渇させる;
方法。
【0185】
<項目13>細胞組成物中の細胞を選択的に枯渇または濃縮する方法であって、下記工程を含む方法:
(c)細胞を提供する工程であって、上記細胞は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現しており、上記第1アイソフォームは、アミノ酸マーカーに関して、上記表面タンパク質の第2アイソフォームとは異なっており、上記第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含んでおり、上記第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含んでいる、工程;
(d)上記核酸配列Aを有しているゲノム位置において、DNA二本鎖切断を誘導する工程;
(e)上記核酸配列Bと、上記ゲノム位置の5’および3’のDNA配列に対して相同的である相同性アームと、を有しているDNA修復コンストラクトを提供する工程;
(f)上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を選択的に濃縮/枯渇する工程。
【0186】
〔項目2〕
<1>
表面タンパク質の第1アイソフォームを発現している哺乳動物細胞(特に、ヒト細胞)であって、
上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームは、当該表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別でき、
上記表面タンパク質の上記第2形態を発現している細胞を有する患者の治療に使用するための、哺乳動物細胞。
<2>
上記表面タンパク質は、細胞外ポリペプチド配列を有しており、
上記第1アイソフォームは、上記第2アイソフォームと比較すると、1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸の挿入、欠失および/または置換を有している、
<1>に記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<3>
上記第1アイソフォームと上記第2アイソフォームとは、(i)抗体様分子結合、(ii)抗体結合、または(iii)抗体もしくは抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞の反応、または(iv)キメラ抗原受容体(CAR)を有している免疫エフェクター細胞(特に、T細胞)の反応、によって区別できる、<1>または<2>に記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<4>
上記表面タンパク質は、以下から選択され:
CD1a、CD1b、CD1c、CD1e、CD1e、CD2、CD3、CD3d、CD3e、CD3g、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8a、CD8b、CD9、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDwl2、CD13、CD14、CD15、CD15u、CD15s、CD15su、CD16、CD16b、CD17、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD26、CD27、CD28、CD29、CD30、CD31、CD32、CD33、CD34、CD35、CD36、CD37、CD38、CD39、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD44、CD45、CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RO、CD46、CD47、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD52、CD53、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD59、CD60a、CD60b、CD60c、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD63、CD64、CD65、CD65s、CD66a、CD66b、CD66c、CD66d、CD66e、CD66f、CD68、CD69、CD70、CD71、CD72、CD73、CD74、CD75、CD75s、CD77、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CD84、CD85a、CD85d、CD85j、CD85k、CD86、CD87、CD88、CD89、CD90、CD91、CD92、CD93、CD94、CD95、CD96、CD97、CD98、CD99、CD99R、CD100、CD101、CD102、CD103、CD104、CD105、CD106、CD107a、CD107b、CD108、CD109、CD110、CD111、CD112、CD113、CD114、CD115、CD116、CD117、CD118、CD119、CD120a、CD120b、CD121a、CD121b、CD122、CD123、CD124、CD125、CD126、CD127、CD129、CD130、CD131、CD132、CD133、CD134、CD135、CD136、CD137、CD138、CD139、CD140a、CD140b、CD141、CD142、CD143、CD144、CDw145、CD146、CD147、CD148、CDw149、CD150、CD151、CD152、CD153、CD154、CD155、CD156a、CD156b、CD156c、CD157、CD158e、CD158i、CD158k、CD159a、CD159c、CD160、CD161、CD162、CD163、CD164、CD165、CD166、CD167a、CD167b、CD168、CD169、CD170、CD171、CD172a、CD172b、CD172g、CD173、CD174、CD175、CD175s、CD176、CD177、CD178、CD179a、CD179b、CD180、CD181、CD182、CD183、CD184、CD185、CD186、CD191、CD192、CD193、CD194、CD195、CD196、CD197、CDw198、CD199、CD200、CD201、CD202b、CD203c、CD204、CD205、CD206、CD207、CD208、CD209、CD210、CDw210b、CD212、CD213a1、CD213a2、CD215、CD217a、CD218a、CD218b、CD220、CD221、CD222、CD223、CD224、CD225、CD226、CD227、CD228、CD229、CD230、CD231、CD232、CD233、CD234、CD235a、CD235b、CD236、CD236R、CD238、CD239、CD240CE、CD240DCE、CD240D、CD241、CD242、CD243、CD244、CD245、CD246、CD247、CD248、CD249、CD252、CD253、CD254、CD256、CD266、CD267、CD268、CD269、CD270、CD271、CD272、CD273、CD274、CD275、CD276、CD277、CD278、CD279、CD280、CD281、CD282、CD283、CD284、CD286、CD289、CD290、CD292、CDw293、CD294、CD295、CD296、CD297、CD298、CD299、CD300a、CD300c、CD300e、CD301、CD302、CD303、CD304、CD305、CD306、CD307a、CD307b、CD307c、CD307d、CD307e、CD308、CD309、CD312、CD314、CD315、CD316、CD317、CD318、CD319、CD320、CD321、CD322、CD324、CD325、CD326、CD327、CD328、CD329、CD331、CD332、CD333、CD334、CD335、CD336、CD337、CD338、CD339、CD340、CD344、CD349、CD350、CD351、CD352、CD353、CD354、CD355、CD357、CD358、CD360、CD361、CD362、CD363、CD364、CD365、CD366、CD367、CD368、CD369、CD370、CD371、BCMA、免疫グロブリン軽鎖(λまたはκ)、HLAタンパク質、およびβ2-ミクログロブリン;
特に、上記表面タンパク質は、下記から選択される:
CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD19、CD20、CD22、CD23、CD33、CD34、CD90、CD45、CD123、BCMA、免疫グロブリン軽鎖(λまたはκ)、HLAタンパク質およびβ2-ミクログロブリン;
<1>~<3>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<5>
上記第1アイソフォームは、上記患者の元来のゲノムDNAにはコードされていない、<1>~<4>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<6>
上記第1アイソフォームは、上記患者の元来のゲノムDNA中にある上記表面タンパク質の遺伝子をコードしている配列を変化させることによって得られる、<1>~<5>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<7>
上記第1アイソフォームは、上記表面タンパク質の上記第2アイソフォームのアミノ酸配列において、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸(または、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、15個もしくは20個のアミノ酸)を、挿入、欠失および/または置換させることによって得られる、<1>~<6>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<8>
上記挿入、欠失および/または置換は、以下の工程によって達成される、<1>~<7>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞:
(a)異なる哺乳動物種の1または数個の相同配列(特に、マウス、ラット、霊長類およびヒトのホモログ)を比較し、非保存部位に挿入、欠失および/または置換を配置する工程;
(b)コンピュータ支援構造予測によって、挿入、欠失および/または置換を施される領域の二次構造が変化しないと予測される挿入、欠失および/または置換を選択する工程;(c)コンピュータ支援構造予測に従って、リガンド結合が可能な部位に位置している挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(d)上記表面タンパク質の、予想されるまたは実験的に確立されたタンパク質-タンパク質相互作用に関与していない、配列中の挿入、欠失および/または置換を選択する工程;
(e)ジスルフィド結合、分子間相互作用もしくは分子内相互作用、疎水性スタッキングを削除または導入しない挿入、欠失および/または置換を選択する工程;ならびに、
(f)タンパク質の折畳みに重要な、タンパク質の翻訳後修飾部位を削除または導入しない挿入、欠失および/または置換を選択する工程。
<9>
上記挿入、欠失および/または置換は、上記第1表面タンパク質の細胞外の部位(特に、細胞外ループ)に位置している、<1>~<8>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<10>
上記細胞は、上記表面タンパク質の上記第2アイソフォームを発現している細胞の特異的除去の前、同時または後に投与され、
特に、上記表面タンパク質の上記第2アイソフォームを発現している細胞の除去は、(i)抗体様分子、(ii)抗体、(iii)抗体または抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞、および、(iv)キメラ抗原受容体を有している免疫エフェクター細胞(特に、T細胞)から選択される薬剤を、上記患者に投与することによって行われ、
上記薬剤は、上記細胞表面タンパク質の上記第2アイソフォームと特異的に反応するが、上記第1アイソフォームとは特異的に反応しない、
<1>~<9>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<11>
上記細胞は、上記表面タンパク質の上記第2アイソフォームに対して反応する抗体または抗体様分子(特に、キメラ抗原受容体)を発現している、<1>~<10>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<12>
上記表面タンパク質は、CD45、CD19、CD8およびCD4から選択され、
特に、上記表面タンパク質は、CD45である、
<11>に記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<13>
上記哺乳動物細胞は、造血細胞(特に、造血幹細胞またはT細胞)である、<1>~<12>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<14>
上記細胞は、上記患者に存在する疾患関連遺伝子異常を修正する遺伝子改変を有している、<1>~<13>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<15>
上記疾患関連遺伝子異常は、Foxp3の変異である、<14>に記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<16>
上記治療は、T細胞媒介性疾患(特に、IPEX様症候群、CTLA-4関連免疫調節障害、血球貪食症候群、ALPS症候群、または、ヘテロ接合性の生殖細胞PTEN変異に起因する症候群)の治療である、<1>~<15>のいずれかに記載の治療に使用するための哺乳動物細胞。
<17>
医学的状態の治療に使用するための、下記から選択される薬剤であって、
(a)抗体または抗体様分子を含んでいる化合物、または、抗体または抗体様分子からなる化合物;および、
(b)抗体もしくは抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞、または、キメラ抗原受容体を有している免疫エフェクター細胞;
上記薬剤は、表面タンパク質の第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に反応し、
上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームは、当該表面タンパク質の上記第2アイソフォームと、機能的に区別できないが、免疫学的には区別でき、
上記薬剤を投与することにより、上記薬剤が反応するアイソフォームを有している細胞が除去される、
薬剤。
<18>
上記抗体または抗体様分子は、毒素(特に、サポリン)に連結されている、<17>に記載の薬剤。
<19>
上記薬剤は、二重特異性抗体または二重特異性抗体様分子である、<17>または<18>に記載の薬剤。
<20>
上記薬剤は、二重特異性抗体または二重特異性抗体様分子を有している免疫エフェクター細胞である、<17>に記載の薬剤。
<21>
上記薬剤は、下記を有している免疫エフェクター細胞である、<17>に記載の薬剤:
(a)第1表面タンパク質の第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に反応する第1抗体または第1抗体様分子であって、
上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび上記第2アイソフォームは、機能的に区別できないが免疫学的には区別できる、第1抗体または第1抗体様分子;ならびに、
(b)第2表面タンパク質の第1アイソフォームまたは第2アイソフォームのいずれかに対して特異的に反応する第2抗体または第2抗体様分子であって、
上記第2表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび上記第2アイソフォームは、機能的に区別できないが免疫学的には区別できる、第2抗体または第2抗体様分子。
<22>
上記薬剤は、抗体様分子(特に、キメラ抗原受容体)を有している抗体様分子(特に、T細胞)であり、
上記医学的状態は、造血性疾患(特に、悪性造血性疾患)である、
<17>、<20>または<21>のいずれかに記載の薬剤。
<23>
移植片対宿主病の治療に使用するための、<17>~<22>のいずれかに記載の薬剤。
<24>
下記を含んでいる、複合薬剤であって、
(a)第1表面タンパク質に対して反応する、<17>~<23>のいずれかに記載の第1薬剤;および、
(b)第2表面タンパク質に対して反応する、<17>~<23>のいずれかに記載の第2薬剤;
特に、造血性疾患の治療のための複合薬剤(とりわけ、悪性造血性疾患の治療のための複合薬剤)。
<25>
上記第1薬剤および上記第2薬剤は、キメラ抗原受容体を有しているT細胞である、<24>に記載の複合薬剤。
<26>
上記第1表面タンパク質はCD19であり、上記第2表面タンパク質はCD45である、<24>または<25>に記載の複合薬剤。
<27>
患者において表面タンパク質の第1アイソフォームを発現している細胞を、in vivoで追跡する方法であって、
上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームは、上記表面タンパク質の第2アイソフォームと機能的に区別できないが、免疫学的には区別でき、
上記第1アイソフォームに特異的に反応するリガンドを、上記患者に投与する工程を含む、
方法。
<28>
下記の工程を含む、in vivoで細胞を選択的に枯渇または濃縮する方法:
(a)細胞を提供する工程であって、
上記細胞は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現しており、
上記第1アイソフォームは、アミノ酸マーカーに関して、上記表面タンパク質の第2アイソフォームとは異なっており、
上記第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含んでおり、
上記第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含んでいる、工程;
(b)上記細胞のゲノムDNA中において、上記核酸配列Aから上記核酸配列Bへの変異を誘導する工程;ならびに、
(c)上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を選択的に濃縮/枯渇する工程。
<29>
下記の構成要素を備えている、キット:
(a)細胞表面タンパク質をコードしている遺伝子のゲノム位置を標的とする、塩基エディタガイドRNAであって、
(i)上記遺伝子には、核酸のマーカー配列に関して異なる2種類のアイソフォームが存在しており、アイソフォーム1は第1マーカー配列を有しており、アイソフォーム2は第2マーカー配列を有しており、
(ii)上記ゲノム位置は、塩基エディタPAM配列と、上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列と、を有している、塩基エディタガイドRNA;ならびに、
(b)任意構成で、アイソフォーム1およびアイソフォーム2の遺伝子産物にそれぞれ特異的に結合する、第1抗体および第2抗体。
<30>
上記細胞表面タンパク質は、マウスThy1またはマウスCD45である、<29>に記載のキット。
<31>
上記細胞表面タンパク質は、マウスCD45であり、
上記塩基エディタガイドRNAは、配列番号004、配列番号005、および配列番号006から選択される核酸配列を有している、
<30>に記載のキット。
<32>
以下の構成要素を備えているキット:
(a)細胞表面タンパク質をコードしている遺伝子のゲノム位置を標的とする、ガイドRNAであって、
(i)上記遺伝子には、核酸のマーカー配列に関して異なる2種類のアイソフォームが存在しており、アイソフォーム1は第1マーカー配列を有しており、アイソフォーム2は第2マーカー配列を有しており、
(ii)上記ゲノム位置は、PAM配列と、上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列と、を有している、ガイドRNA;
(b)下記(i)~(iii)を有している、DNAコンストラクト;ならびに、
(i)上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列
(ii)上記PAM配列(特に、変異しており非機能性である上記PAM配列)
(iii)上記細胞表面タンパク質をコードしている遺伝子の上記ゲノム位置の、5’および3’におけるゲノムDNA配列に相同である、一対の相同性アーム
(c)任意構成で、アイソフォーム1およびアイソフォーム2の遺伝子産物にそれぞれ特異的に結合する、第1抗体および第2抗体。
<33>
上記相同性アームは、各々が、85塩基対(bp)以上、特に450bp以上、とりわけ約2000bpを含んでいる、<32>に記載のキット。
<34>
上記細胞表面タンパク質は、マウスThy1またはマウスCD45である、<32>または<33>に記載のキット。
<35>
上記細胞表面タンパク質は、マウスThy1であり、
下記(a)または(b)を満たす、<32>に記載のキット:
(a)上記ガイドRNAは、配列番号001であり、
上記DNAコンストラクトは、配列番号007(no mut)、配列番号008(mut)、配列番号009(4x mut)、配列番号010(2kb)、配列番号011(4kb)、配列番号012(1kb)、および配列番号013(160bp)から選択される;または、
(b)上記ガイドRNAは、配列番号002であり、
上記DNAコンストラクトは、配列番号014(120bp)および配列番号015(180bp)から選択される。
<36>
上記細胞表面タンパク質は、マウスCD45であり、
上記ガイドRNAは、配列番号003であり、
上記DNAコンストラクトは、配列番号016、配列番号017(1kb)、配列番号018(2kb)および配列番号019(4kb)から選択される、
<32>に記載のキット。
<37>
安定なCas9発現のために遺伝子操作されたマウスT細胞を含んでいる、<32>~<36>のいずれかに記載のキット。