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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126933
(43)【公開日】2023-09-12
(54)【発明の名称】黄斑浮腫を処置するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230905BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 31/721 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/02
A61K45/06
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K38/38
A61K38/17
A61K38/17 100
A61K31/721
A61K31/716
A61K31/573
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023111242
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2020512635の分割
【原出願日】2018-08-31
(31)【優先権主張番号】17306133.4
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ベアール-コーエン,フランシーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ-ブクリス,リナス
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ミン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】既存の治療処置法よりも安全で費用対効果の高い黄斑浮腫の治療法を提供する。
【解決手段】硝子体の膠質浸透圧を上昇させることにより黄斑浮腫を処置する。硝子体の膠質浸透圧の上昇は、好ましくは膠質浸透圧増大高分子の硝子体内注射によって実施され、この高分子は、アルブミン、ゼラチン、α2マクログロブリン、フィブリノーゲン、ハプトグロビン多量体、βリポタンパク質及び抗体、更にはデキストラン及びヒドロキシエチルデンプンのような、タンパク質又は非タンパク質高分子を含む群から選択され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子。
【請求項2】
前記高分子が、タンパク質高分子及び非タンパク質高分子の群から選択される、請求項1記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子。
【請求項3】
タンパク質高分子が、アルブミン、ゼラチン、α2マクログロブリン、フィブリノーゲン、ハプトグロビン多量体、βリポタンパク質、及びヒトタンパク質に結合しない抗体又は抗体フラグメントからなる群より選択される、請求項1及び2のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子。
【請求項4】
1%~25%w/wアルブミン水性組成物である、請求項3記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項5】
2%~10%w/wゼラチン組成物である、請求項3記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項6】
非タンパク質高分子が、デキストラン及びヒドロキシエチルデンプンからなる群より選択される、請求項1及び2のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項7】
0.1%~15% w/wヒドロキシエチルデンプン組成物である、請求項6記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項8】
3%~20%w/wデキストラン組成物である、請求項6記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項9】
10μl~500μlの範囲の体積を有する投与単位に適合した、請求項1~8のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項10】
加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、網膜静脈閉塞、網膜分離症、網膜色素変性、偽水晶体黄斑浮腫からなる群より選択される黄斑浮腫障害を処置するための、請求項1~9のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項11】
抗炎症剤からなる群より選択される1種以上の他の活性剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項12】
前記1種以上の他の活性剤が、コルチコステロイドの群から選択される、請求項11記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項13】
前記コルチコステロイドが、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、及びミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストからなる群より選択される、請求項11記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滲出型加齢黄斑変性症及び他の型の脈絡膜血管新生、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、網膜静脈閉塞又は網膜枝静脈閉塞、網膜色素変性及び偽水晶体黄斑浮腫を含む群から選択される障害又は疾患において発生する黄斑浮腫を包含する、黄斑浮腫を処置するための医薬組成物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
黄斑浮腫(ME)は、黄斑内の液量の異常な増加として定義される。細胞外液は、網膜層に浸潤するか、かつ/又は一般に「嚢胞」と呼ばれる空洞に蓄積するか、かつ/又は網膜下腔に集まる(そこでは網膜下液(SRF)と呼ばれる)ことがある。MEは、液体流入と液体排出との不均衡に起因するが、両方のメカニズムは、網膜疾患では複数の要因によってしばしば調節解除されている。
【0003】
網膜浮腫は、液体流入、液体排出及び組織の通水コンダクタンスの不均衡の結果である。ほとんどの網膜疾患において、黄斑浮腫は多因子性であり、複数の複雑なメカニズムに起因するが、ある特定の条件では、これらのメカニズムのうちのたった1つが優勢であり、各成分のより良い分析が可能である。
【0004】
MEは主要な公衆衛生問題であり、多くの代謝性、血管性及び炎症性網膜疾患の時間経過における視覚障害の主要な原因の1つである。世界中で糖尿病による約700万人の患者(Yau et al., 2012, Diabetes Care 35, 556-564. doi:10.2337/dc11-1909)及び静脈閉塞による300万人の患者(Rogers et al., 2010, International Eye Disease Consortium, 2010. The prevalence of retinal vein occlusion: pooled data from population studies from the United States, Europe, Asia, and Australia. Ophthalmology 117, 313-319.e1. doi:10.1016/j.ophtha.2009.07.017)に影響を及ぼす。ブドウ膜炎患者の40パーセントがMEを発症する(Levin et al., 2014, Ophthalmology 121, 588-595.e1. doi:10.1016/j.ophtha.2013.09.023)。先進国では、60歳を超える個人の5%に、MEを引き起こす血管新生加齢黄斑変性症(AMD)による黄斑浮腫がある(Pennington and DeAngelis, 2016, Eye Vis. 3. doi:10.1186/s40662-016-0063-5)。MEは、視覚障害の主要な網膜の要因の1つであるが、処置が最も受けやすいものでもある。
【0005】
黄斑浮腫は、糖尿病性黄斑浮腫、滲出型AMD(加齢黄斑変性症)、網膜静脈閉塞及び慢性眼内炎症時の失明の主な原因である。これは、網膜損傷に対する組織反応の一般的なメカニズムとして、ほぼ全ての網膜疾患の時間経過において発生する。
【0006】
内部の血液網膜関門の透過性の上昇につながる主要なメカニズムは以下のとおりである:
-関門を構成する細胞(内皮細胞、周皮細胞、大グリア細胞)の消失及び/又は機能障害、
-リン酸化状態のダウンレギュレーション又は変更及び膜アンカリングの消失による、細胞間結合タンパク質の変化((Klaassen et al., 2013, Prog. Retin. Eye Res. 34, 19-48. doi:10.1016/j.preteyeres.2013.02.001; (Antonetti et al., 1999, J. Biol. Chem. 274, 23463-23467))、並びに
-経内皮輸送の調節解除。
【0007】
排出減少メカニズムにつながる主要なメカニズムは以下のとおりである:
-網膜色素上皮細胞(RPE細胞)の消失及び/又は機能変化
-網膜グリアミュラー細胞(大グリア細胞)の消失及び/又は機能障害
-バリアの破壊及び/又は経細胞透過性の上昇(脈絡膜内皮細胞の小孔(fenestration)の増加など)に続発する、硝子体、網膜及び脈絡膜間のタンパク質勾配の変化。
【0008】
現在まで、滲出型AMD、糖尿病性網膜症、又は静脈閉塞に関して眼に施される全ての医学的処置は、黄斑浮腫及びその後の視力低下を標的としている。
【0009】
現在、2種類の薬物、VEGFファミリーメンバーを中和するタンパク質分子とグルココルチコイドが使用されているが、作用メカニズムは異なるが、単一の症状:黄斑浮腫を標的としている。
【0010】
黄斑浮腫の従来の治療法として、レーザー照射による光凝固、硝子体手術、並びにステロイドの全身投与、硝子体内投与及びテノン嚢下投与が実施されてきた。レーザー照射による光凝固により、異常な漏出性血管が閉じられ、RPE排出メカニズムが刺激され、ブルッフ膜透過性が上昇することによって、黄斑の腫れが低下する。ただし、非常に脆弱な中心窩を避けるために、レーザー照射には注意を払う必要がある。更には、腫れを取り除くには複数回のレーザー手術がしばしば必要である。硝子体手術は、レーザー手術が効果のない症例に適用されるが、組織侵襲の可能性が高く、時に術後合併症の問題を引き起こすことがある。レーザー又は従来の手術の有効性は依然として低く、硝子体内薬物療法と比較して第2の選択肢である。
【0011】
更に、ステロイドの投与が有用であると報告されている。ステロイドの全身投与は、眼疾患の処置法として一般には可能であるが、しばしば眼科的使用には重すぎる副作用を引き起こす。
【0012】
硝子体内投与は、全身投与に伴う幾つかの欠点を解決できるが、既存の眼科用組成物の硝子体内投与は、高眼圧症、ステロイド投与時にはステロイド緑内障及び白内障を引き起こす可能性がある。
【0013】
抗VEGF薬とステロイドとは両方とも種々の由来の黄斑浮腫を効率的に減少させるが、VEGFの眼内レベルと糖尿病黄斑浮腫又は滲出型AMDとの間の相関関係は弱い(IOVS, 2009; 50:6)。実際、VEGFレベルは、網膜の表面で血管新生が起こる場合に増殖性糖尿病性網膜症の症例では大抵上昇する(Bromberg-White J et al IOVS 2013; 54,10:6474)(Mc Auley AK. et al. Journal of diabetes and its complications. 2014; 28:419-425)。興味深いことに、黄斑の厚さと、MCP1、IL1、IL6、IL8などの眼媒体中の他の多くのサイトカインとの間には良好な相関関係があるが、VEGFとはそうでない(Yoshimura T et al Plos One 2009; 4:e8158 - Funatsu H et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2005; Sonoda S et al. Retina. 2014 Apr;34(4):741-8- Oh I et al. Current Eye Research. 2010)。
【0014】
黄斑浮腫が存在する全ての状況において、TNF-α、IL1β、IL6、IL8、MCP1のような、眼のバリア破裂を誘発することが知られている多くの炎症誘発性サイトカインが眼媒体中で発現及び測定される。しかし抗VEGFはVEGFファミリーのメンバーのみを中和するが、一方ステロイドは全ての炎症誘発性サイトカインを減少させ、そして驚くべきことに両方の薬剤は同等の効力を持ち、時には同じ患者でも同等である。
【0015】
MEに罹患している患者において、硝子体内血管内皮増殖因子(VEGF)濃度が上昇することが示されている(Fine et al. (2001) Am J Ophthalmol. 132(5):794-6, Weiss et al. (2009) Eye (Lond). 23(9):1812-8)。この発見は、VEGFに対する抗体でMEを処置する論拠を提供した。例えば、抗炎症薬による標準処置法に抵抗性のME患者は、硝子体内ベバシズマブ注射を用いた処置である程度の成功を収めている(Bae et al. (2011) Retina 31(1):111-8)。硝子体内ベバシズマブとトリアムシノロンの併用療法も報告されている(Cervantes-Castaneda et al. (2009) Eur J Ophthalmol. 19(4):622-9)。
【0016】
硝子体内抗VEGF抗体注射の効果は一般に持続しない(Barkmeier & Akduman (2009) Ocul Immunol Inflamm. 17(2):109-17, Bae et al. (2011) Retina 31(1):111-8)。同様に、抗VEGF抗体での硝子体内抗VEGF療法を用いる、白内障手術に続発する黄斑浮腫の処置は、しばしば視力の短期改善のみをもたらす(Buchholz et al. (2010) Dev Ophthalmol. 46:111-22)。
【0017】
糖尿病性黄斑浮腫において、患者の3分の1のみが抗VEGF療法に至適応答を示す(浮腫の解消、及び15文字を超えるVA(視力)改善)。0.3mg ラニビズマブと比較して、2mg アフリベルセプト(afliberceopt)の方が解剖学的反応が良好である。[Change in Diabetic Retinopathy Through 2 Years: Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial Comparing Aflibercept, Bevacizumab, and Ranibizumab.Bressler SB, Liu D, Glassman AR, Blodi BA, Castellarin AA, Jampol LM, Kaufman PL, Melia M, Singh H, Wells JA; Diabetic Retinopathy Clinical Research Network. JAMA Ophthalmol. 2017 Jun 1;135(6):558-568]。
【0018】
最も一般的な網膜疾患(滲出型AMD、糖尿病性網膜症、及び静脈閉塞)に適応とされる、現在使用されている眼内抗血管新生剤及びグルココルチコイド製剤は、MEに対するその効果及びその後の視力向上について承認されている。そのような処置法は、患者の生活に対する黄斑浮腫の主要な障害を考慮すると費用対効果が高い(Romero-Aroca et al., 2016, J. Diabetes Res. 2016, 2156273. doi:10.1155/2016/2156273)が、世界の医療制度への重大な負担となる(Hodgson et al., 2016, Therapy. Mol. Pharm. 13, 2877-2880. doi:10.1021/acs.molpharmaceut.5b00775; Ross et al., 2016, JAMA Ophthalmol. 134, 888-896. doi:10.1001/jamaophthalmol.2016.1669)。
【0019】
よって、既知の治療戦略と比較して代替的又は改善された黄斑浮腫の処置法の必要性が依然として存在する。とりわけ、既存の治療処置法よりも安全で費用対効果の高い黄斑浮腫の更なる治療法が必要である。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子に関する。
【0021】
幾つかの実施態様において、前記高分子は、タンパク質高分子及び非タンパク質高分子の群から選択される。
【0022】
幾つかの実施態様において、タンパク質高分子は、アルブミン及びゼラチンからなる群より選択される。
【0023】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、1%~25% w/wアルブミン水性組成物である。
【0024】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、2%~10% w/wゼラチン組成物である。
【0025】
幾つかの実施態様において、非タンパク質高分子は、デキストラン及びヒドロキシエチルデンプンからなる群より選択される。
【0026】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、0.1%~15% w/wヒドロキシエチルデンプン組成物である。
【0027】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、3%~20% w/wデキストラン組成物である。
【0028】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、10μl~500μlの範囲の体積を有する投与単位に適合している。
【0029】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、網膜静脈閉塞、網膜分離症、網膜色素変性、偽水晶体黄斑浮腫からなる群より選択される黄斑浮腫障害の処置を目的とする。
【0030】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、抗炎症活性成分を更に含む。
【0031】
幾つかの実施態様において、前記組成物は、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、3% w/wゼラチン組成物(Plasmion(登録商標))での硝子体膠質浸透圧の上昇による網膜内の選択された遺伝子の遺伝子発現レベルを示す。縦軸:任意の単位で表される遺伝子発現レベル。横軸:2個のバーの各群は、特定の選択された遺伝子の発現レベルを示し、(i)左バーは対照実験であり、そして(ii)右バーはPlasmionの硝子体内注射である。図1の左から右への2個のバーの群は、以下の選択された遺伝子を表す:PDPN、CRYM、AGT、SLC14A1、SLC39A1、PYCARF、TNF-R1、GALECTIN38P及びCLIC1。
図2図2は、3% w/wゼラチン組成物(Plasmion(登録商標))での硝子体膠質浸透圧の上昇による網膜内の選択された遺伝子の遺伝子発現レベルを示す。縦軸:任意の単位で表される遺伝子発現レベル。横軸:2個のバーの各群は、特定の選択された遺伝子の発現レベルを示し、(i)左バーは対照実験であり、そして(ii)右バーはPlasmion(登録商標)の硝子体内注射である。図2の左から右への2個のバーの群は、以下の選択された遺伝子:SERPINA3N、SPP1、TSPO、TIMP1及びNGALを表す。
図3図3は、黄斑浮腫に対する網膜外部環境の膠質浸透圧の上昇の効果を示す。縦軸:ミリメートルで表される網膜の厚さ。横軸:図3の左から右へ(i)細胞外液(EC)、(ii)低浸透圧液(Hypo)、(iii)精製ヒトIgG Fabフラグメント(Aviva Systems BiologyのOAMA04119)、(iv)Lucentis(登録商標)のラニビズマブ(抗VEGF Fabフラグメント)、(v)3%w/wゼラチン組成物(Plasmion(登録商標))。
【0033】
発明の詳細な説明
予期しないことに、本発明者らは、硝子体腔の膠質浸透圧を上昇させることにより黄斑浮腫が処置され得ることを示した。
【0034】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、硝子体の膠質浸透圧を上昇させると、タンパク質が蓄積して、黄斑浮腫に特徴的な嚢胞を形成している網膜層に浸潤した、細胞外液からの房水流出であって、硝子体に向かう房水流出が引き起こされると考えている。
【0035】
よって本発明者らは、硝子体の膠質浸透圧を上昇させると、網膜組織に蓄積した間質水から硝子体区画への液体流が誘発され、黄斑浮腫が減少又は停止すると考えている。
【0036】
本発明者らは、黄斑浮腫が、膠質浸透圧を上昇させる組成物、より正確には少なくとも1種の膠質浸透圧増大高分子を含む組成物を硝子体に投与することにより処置され得ることを示した。
【0037】
幾つかの実施態様において、前記膠質浸透圧増大分子は、サイトカイン、そして最も好ましくはヒトサイトカインを認識しない膠質浸透圧増大高分子、及び特にVEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子、そして最も好ましくはヒトVEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子の群から選択される。
【0038】
さもなければ、幾つかの実施態様において、本発明により使用され得る前記膠質浸透圧増大高分子は、サイトカインを認識する膠質浸透圧増大高分子を包含せず、そして特にヒトサイトカインを認識する膠質浸透圧増大高分子を包含しない。
【0039】
サイトカインを認識する膠質浸透圧増大高分子は、前記サイトカインに特異的に結合する膠質浸透圧増大高分子からなる。幾つかの実施態様において、膠質浸透圧増大高分子は、前記サイトカインに特異的に結合し、その生物活性を中和する浸透圧増大高分子からなる。
【0040】
よってサイトカインを認識する膠質浸透圧増大高分子は、前記サイトカインの既知の生物活性を中和するものを包含する。
【0041】
サイトカインを認識する膠質浸透圧増大高分子は、前記サイトカインに対する抗体を包含する。
【0042】
本明細書に使用されるとき、サイトカインは、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、及びTNF関連サイトカインを含む群から選択されるものを包含する。
【0043】
本明細書に使用されるとき、「含む」という用語は、「から本質的になる」及び「からなる」を包含する。
【0044】
インターロイキン(IL)は、IL-1からIL-35を包含するが、これらは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34及びIL-35を含む。
【0045】
インターフェロンは、インターフェロンα、インターフェロンβ及びインターフェロンγを包含する。
【0046】
成長因子は、TGFα(トランスフォーミング増殖因子α)、TGFβ(トランスフォーミング増殖因子β)、FGF(線維芽細胞増殖因子、特にFGF-1からFGF-23)、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、M-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、PLGF(胎盤増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、EGF(上皮成長因子)、GDF-9(増殖分化因子-9)、HGF(肝細胞増殖因子)、HDGF(肝細胞癌由来成長因子)、IGF-1(インスリン様成長因子1)、IGF-2(インスリン様成長因子2)及びEPO(エリスロポエチン)を包含する。
【0047】
FGFは、FGF-1からFGF-23を包含するが、これらは、FGF-1、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、FGF-10、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、FGF-15、FGF-16、FGF-17、FGF-18、FGF-19、FGF-20、FGF-21、FGF-22及びFGF-23を含む。
【0048】
TNF関連サイトカインは、TNF-α(腫瘍壊死因子α)、TNF-β(腫瘍壊死因子β)、LTα(リンホトキシンα)、LTβ(リンホトキシンβ)を包含する。
【0049】
よって幾つかの実施態様において、本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子に関する。
【0050】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、硝子体腔内の膠質浸透圧を上昇させると、網膜層からの房水流出が単に受動的に誘発されるだけでなく、複数のタンパク質ポンプを含む、種々のタンパク質の発現も活性化され、そしてこのことが、観察された遺伝子活性化によって示されるとおり、網膜嚢胞から硝子体区画への液体移動に寄与している可能性があると考えている。
【0051】
より正確には、本発明者らは、硝子体の膠質浸透圧を上昇させると、Clic1、Pdpn(ポドプラニン(podoplanin)をコードする)、Pycard、セルピンA3(α1アンチキモトリプシンをコードする)、Slc14a1(尿素及び水輸送体をコードする)、Spp1(オステオポンチンをコードする)、Timp1(メタロプロテアーゼ阻害剤1)及びLcn2(MMP9の活性を調節する、リポカリン2又はNgal)のような、網膜でのフラックス交換に関与する複数の遺伝子のアップレギュレーションが誘発されることを示した。注目すべきことに、(i)Clicタンパク質は、微絨毛構造、食作用及び小胞輸送の維持に関与しており、(ii)Pdpnは、タンパク質排出に関連するリンパ管新生、及びリンパ管腫を含むPDPNに関連する疾患に関与し、(iii)機能性セルピンA3の欠如は、早発性汎小葉肺気腫を引き起こし、(iv)Slc14a1タンパク質は、尿素と水の両方を輸送し、比較的高い輸送速度に恵まれる。尿素は浸透圧調節因子であるため、低浸透圧ストレスにより尿素伝導の速度が上昇する。(v)網膜では、Spp1によってコードされるオステオポンチンが、網膜グリア(ミュラー)細胞から放出され、低浸透圧暴露によって誘導されるラットのミュラー細胞の腫れを抑制し、(vi)TIMP1/MMP9は、血液脳関門の重要な調節因子であり、TIMP1は、MMP2の阻害により閉塞発現を誘導し、そして(vii)Lcn2は、MMP9の活性を調節し、透過性において複数の役割を担う。興味深いことに、TIMP-1/MMP-9不均衡は、ラットの実験的脳浮腫に関与している。
【0052】
よって、本明細書の実施例では、高分子の注入により硝子体区画の膠質浸透圧を上昇させると、黄斑浮腫の処置が可能であることが示されているが、観察された網膜の房水流出の正確な基礎メカニズムは正確には分からない。
【0053】
本明細書の実施例に示されるように、膠質浸透圧増大高分子がサイトカイン阻害剤として知られる分子からなるかどうかに関係なく、そして特に膠質浸透圧増大高分子がVEGF阻害剤として知られる分子からなるかどうかに関係なく、同じ浮腫減少効果に至る。
【0054】
とりわけ、本発明者らは、遺伝子発現のアップレギュレーションに対するほぼ同じ効果が、(i)ラニビズマブのような治療用抗VEGF抗体Fabフラグメント及び(ii)無関係のポリクローナルFabフラグメント(89%の共通の発現変動遺伝子)の硝子体内注射によって得られることを示した。
【0055】
更に、本発明者らは、遺伝子発現の調節に対するほぼ同じ効果が、(i)ベバシズマブのような治療用抗VEGF抗体及び(ii)無関係なアイソタイプヒトIgGの硝子体内注射によって得られることを示した。
【0056】
予期しないことにかつ非常に重要なことに、浮腫減少と同じ効果が、(i)ベバシズマブのような治療用抗VEGF抗体、(ii)無関係なFabフラグメント、及び(iii)3% w/wゼラチン組成物のような、サイトカインを認識しない、具体的にはVEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子の硝子体内注射によって得られることが本明細書で示された。
【0057】
驚くべき発明者らの発見は、滲出型AMD及び脈絡膜血管新生の患者の硝子体に反復注射された抗VEGFは、新血管を抑制しないことであり、よって黄斑浮腫を減らすために複数回の反復注射を必要とすることである。
【0058】
別の驚くべき発見は、ラニビズマブ(治療用抗VEGF Fabフラグメント)もベバシズマブ(治療用抗VEGF抗体)もマウスVEGFを中和しないことであり(Patel JL et alExp Eye Res 2006; 798-806)、しかし多数の刊行物が、新血管新生、腫瘍などの種々のマウスモデルに対するこれらの活性成分の効果を記載している。
【0059】
本明細書の実施例に示された予期しない発明者らの実験結果によって、抗VEGF活性成分による黄斑浮腫の処置に関連する科学文献を再検討することになった。
【0060】
重要なことには、治療用抗VEGF分子は、VEGFに対する上昇した結合親和性に最適化されており、そしてVEGFによって誘導される血管増殖に対するIC50は、ラニビズマブ及びアフリベルセプト(抗体Fcに融合したVEGF受容体ドメインを含む融合タンパク質)では100pMであるが、網膜を乾燥状態に保つために必要な硝子体のラニビズマブの最小濃度は10μMである。8週ごとに硝子体に注射されるアフリベルセプトの用量は2mgであり、ラニビズマブの毎月の注射用量は0.5mgであり、そしてベバシズマブの毎月の注射用量は1.25mgである。更に、臨床研究では、これらの異なる活性成分に関して用量反応は示されなかった。よって(i)VEGFの生物活性を中和するこれらの生物分子の非常に高い効力と(ii)臨床効果を得るために必要な高用量との間には矛盾があるが、これは糖尿病性網膜症のヒトの眼のVEGFレベルが5~10ng/mlと低いままであり、滲出型加齢黄斑変性症(AMD)による黄斑浮腫(ME)のある眼では上昇もないためである。
【0061】
上記文献の紛らわしい結果の少なくとも一部は、硝子体区画内に注射される高用量範囲の抗VEGF分子が硝子体の膠質浸透圧の上昇を引き起こし、その硝子体の膠質浸透圧の上昇が浮腫性網膜組織嚢胞からの房水流出を誘発し、よって黄斑浮腫の減少につながるという論拠を本明細書の実施例に見出した。
【0062】
要するに、本発明者らの発見は、網膜嚢胞及び網膜間質組織から、おそらく硝子体への房水流を誘導するために、硝子体の膠質浸透圧を上昇させる戦略に基づく黄斑浮腫を処置する方法の着想のもとになった。房水流出により、網膜嚢胞を空にすることができ、そして黄斑浮腫を減少又は再吸収させることができる。
【0063】
本発明は、ヒト個体の黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、サイトカインを認識しない膠質浸透圧増大高分子に関する。
【0064】
好ましい実施態様において、本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、サイトカインを認識しない膠質浸透圧増大高分子に関する。
【0065】
とりわけ、本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子に関する。
【0066】
本発明はまた、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射に適合した薬剤を調製するための活性成分としての、サイトカインを認識しない膠質浸透圧増大高分子の使用に関する。
【0067】
とりわけ、本発明はまた、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射に適合した薬剤を調製するための活性成分としての、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子の使用に関する。
【0068】
本発明はまた、サイトカインを認識しない膠質浸透圧増大高分子を硝子体内注射によりそれを必要とする個体に投与する工程を含む、黄斑浮腫を処置する方法に関する。
【0069】
とりわけ、本発明はまた、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子を硝子体内注射によりそれを必要とする個体に投与する工程を含む、黄斑浮腫を処置する方法に関する。
【0070】
「膠質浸透圧」という用語は、本明細書では、当技術分野で認められるその従来の意味で使用され、そして当技術分野では「コロイド浸透圧」とも呼ばれる。念のため、膠質浸透圧は、通常は水を循環系に引き込む傾向がある血管の血漿(血液/液体)内のタンパク質、とりわけアルブミンによって発揮される浸透圧の一形態である。これは、静水圧に相反する力である。膠質浸透圧は、「コロイド浸透圧」(「COP」とも呼ばれる)という、大きな分子が寄与する浸透圧の一部である。
【0071】
本明細書において、コロイドとは、溶液中に存在する大きな分子量(名目上MW>30,000)の粒子を総称するために使用される用語であることが再認識される。正常な血漿では、血漿タンパク質は、存在する主要なコロイドである。コロイドは溶質であるため、溶液の総浸透圧に寄与する。コロイドに起因するこの成分は、典型的には総浸透圧のかなり小さな割合である。これは、コロイド浸透圧(又は時に膠質浸透圧)と呼ばれる。血漿では、膠質浸透圧は総浸透圧の約0.5%に過ぎない。これはわずかな割合かもしれないが、コロイドは毛細血管膜を容易に通過できないため、膠質浸透圧は経毛細血管の流体力学において極めて重要である。コロイド相互作用へのアルブミンの浸透圧の寄与は、Mukta Singh-Zocchi,*†‡ Anita Andreasen,* and Giovanni Zocchi* Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Jun 8; 96(12): 6711-6715に記載されている。一般に、アルブミンは哺乳動物、そして特にヒトの血漿の膠質浸透圧に75%寄与すると認められる。高分子含有溶液の膠質浸透圧の測定は、Morissette(1977, CMA Journal, Vol. 116: 897-900)、Barclayら(1987, Intensive care medicine, Vol. 13 (n°2): 114-118)及びMillerら(1988, Kidney International, Vol. 34: 220-223)により記載されたものなどの、当技術分野で既知の方法によって実施することができる。高分子含有溶液の膠質浸透圧は、とりわけ、米国特許第2,716,886号に開示されているような、又はBiseraら(1978, Clin Chem, Vol. 24 (n° 9): 1586-1589)によって開示されているような測定装置を使用することにより測定することができる。当技術分野では、理想的な状態(即ち、硝子体液のようなあまり複雑でない媒体中)では、膠質浸透圧値は以下のファントホッフ(Van't Hoff)の式(1):
COP=R×T×C(1)、
[式中、
-COPは、膠質浸透圧値(又はコロイド浸透圧値)であり、例えば、mmHgで表される値であり、
-Cは、モルコロイド濃度であり、例えば、g/Lで表される濃度であり、
-Rは、一般気体定数であり、例えば、リットル×atm K-1 mol-1で表される定数であり、そして
-Tは、絶対温度である]により与えられることが認められる(1985, Van Holde, Physical Chemistry, 2nd Ed. Englewood Cliffs, NJ:Prentice Hall)。
【0072】
溶液の膠質浸透圧値は、mmHgとして又はPaとしても表すことができるが、以下の1mmHg=133.322Paの関係があることが再認識される。
【0073】
本発明者らは、硝子体内に高分子含有組成物を投与することによって、得られる硝子体膠質浸透圧上昇の得られる絶対値に関係なく、黄斑浮腫の処置を可能にする硝子体膠質浸透圧の上昇に至ることを割り出した。
【0074】
当技術分野において知られているとおり、溶液の膠質浸透圧は高分子の重量に依存せず、代わりに溶解分子の数に依存するが、このことは、高分子含有溶液の膠質浸透圧が、そこに含まれる高分子の母集団の数平均分子量(「Mn」)に依存する理由を説明している。
【0075】
本明細書に使用されるとき、「数平均分子量」又は「Mn」という用語は、当技術分野で認められるその従来の意味で使用され、そしてこれは、試料中の全てのポリマー鎖の統計的平均分子量であり、以下の式(1):
Mn=ΣNiMi/ΣNi(1)、
[式中、
-Miは、ある鎖の分子量であり、そして
-Niは、その分子量の鎖の数である]により定義される。
【0076】
Mnは、重合メカニズムによって予測されることが可能であり、一部の重合性高分子については、所与の重量の試料中の分子数を決定する方法;例えば、末端基アッセイのような束一的方法によって測定される。Mnがある分子量分布について見積もられる場合、その分布ではMnのどちら側にも等しい数の分子が存在する。
【0077】
本明細書に記載の黄斑浮腫を処置する戦略は、硝子体の膠質浸透圧の上昇を誘導することにより、網膜組織に位置する嚢胞及び間質液を減少又は再吸収させることができることを示すことに基づくのであるが、発明者らは、最低限の数平均分子量を有する高分子によって膠質浸透圧の所望の上昇に至ることを示したため、膠質浸透圧値自体は重要なパラメーターではないことは理解されよう。
【0078】
幾つかの実施態様において、高分子含有組成物は、特にそこに含まれる全ての高分子が同じ分子量である場合、よって特に前記高分子がタンパク質からなる場合、単分散溶液として挙動する。
【0079】
幾つかの他の実施態様において、高分子含有組成物は、特に前記組成物が、浸透圧増大高分子としてヒドロキシエチルデンプン、ゼラチン又はデキストランを含む組成物のような、異なる分子量を有する高分子の集団を含む場合、多分散溶液として挙動する。多分散溶液を生成する高分子集団では、数平均分子量(Mn)は一般に、平均分子量(Mw)と同程度の大きさである。例示的には、全てではないにしてもほとんどの市販のデキストランは、Mw/Mn比の値が1.0に近く、極めて低い多分散性を有する。
【0080】
結果として、本発明者らは本明細書において、黄斑浮腫を処置するための硝子体の膠質浸透圧の所望の上昇が、最低限の平均分子量(Mw、本明細書では「分子量」とも呼ばれる)を有する高分子の硝子体内注射により、そして更に正確には30kDa以上の分子量(Mw)を有する高分子の注射により好ましくは得られることを示した。
【0081】
更に、本発明者らは、高分子含有組成物であって、前記高分子が30kDa以上の分子量を有する高分子含有組成物により効率的な黄斑浮腫の減少に至ることを割り出した。
【0082】
好ましい実施態様において、高分子含有組成物であって、前記高分子が、25kDaから160kDaの範囲の分子量を含む、25kDaから200kDaの範囲の分子量のような、25kDaから300kDaの範囲の分子量を有する高分子含有組成物により効率的な黄斑浮腫の減少に至る。
【0083】
本明細書に使用されるとき、「高分子」は1つ以上の鎖であって、各鎖が互いに連結された複数の単位を含む鎖で構成されるポリマー分子からなり、そして前記高分子は25kDa以上の分子量を有する。
【0084】
本発明によれば、(i)組成物が注射されると、前記高分子が、(a)投与すべき直ぐに使用できる組成物中及び(b)硝子体中の両方において懸濁されたままであるならば、そして(ii)注射された組成物が、処置される黄斑浮腫の再吸収を誘導するならば、使用される高分子の分子量に正確な上限はない。
【0085】
しかしながら、得られる高分子含有組成物の粘度が、便利な投与には高すぎる可能性があるため、300kDaを超える分子量を有する高分子は適切でない可能性があると考えられている。更に、300kDaを超える分子量を有する高分子は凝集する傾向があり、これは医療用途には不適切であると考えられている。
【0086】
よって本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する膠質浸透圧増大高分子に関する。
【0087】
本発明はまた、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射に適合した薬剤を調製するための活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する膠質浸透圧増大高分子の使用に関する。
【0088】
本発明はまた、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する膠質浸透圧増大高分子を硝子体内注射によりそれを必要とする個体に投与する工程を含む、黄斑浮腫を処置する方法に関する。
【0089】
本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する膠質浸透圧増大ポリマー分子に関する。
【0090】
本発明はまた、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射に適合した薬剤を調製するための活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する膠質浸透圧増大ポリマー分子の使用に関する。
【0091】
本発明はまた、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する膠質浸透圧増大ポリマー分子を硝子体内注射によりそれを必要とする個体に投与する工程を含む、黄斑浮腫を処置する方法に関する。
【0092】
本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する高分子に関する。
【0093】
本発明はまた、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射に適合した薬剤を調製するための活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する高分子の使用に関する。
【0094】
本発明はまた、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有する高分子を硝子体内注射によりそれを必要とする個体に投与する工程を含む、黄斑浮腫を処置する方法に関する。
【0095】
本発明は、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有するポリマー分子に関する。
【0096】
本発明はまた、黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射に適合した薬剤を調製するための活性成分としての、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有するポリマー分子の使用に関する。
【0097】
本発明はまた、サイトカインを認識しない、そして特にVEGFを認識しない、25kDa以上の分子量を有するポリマー分子を硝子体内注射によりそれを必要とする個体に投与する工程を含む、黄斑浮腫を処置する方法に関する。
【0098】
幾つかの実施態様において、膠質浸透圧増大高分子は、25kDa以上の分子量を有するタンパク質である。ほとんどのタンパク質は独自のポリマーのアミノ酸鎖で構成されているため、その数平均分子量(Mn)はその重量平均分子量(Mw)に等しく、そしてこれは従来から使用されている分子量値でもある。
【0099】
本明細書に使用されるとき、「サイトカインを認識しない」高分子又はポリマー分子は、前記サイトカインに特異的に結合する能力を持たない高分子又はポリマー分子からなる(たとえ、前記高分子(又はポリマー分子)が、時には前記サイトカインに非特異的に結合することがあっても、特に低い親和性で前記サイトカインに非特異的に結合することがあっても)。
【0100】
本明細書に使用されるとき、「VEGFを認識しない」高分子又はポリマー分子は、VEGFに特異的に結合する能力を持たない高分子又はポリマー分子からなる(たとえ、前記高分子(又はポリマー分子)が、時にはVEGFに非特異的に結合することがあっても、特に低い親和性でVEGFに非特異的に結合することがあっても)。
【0101】
例示的には、サイトカイン若しくはサイトカインフラグメントに対する抗体又はその変異体、並びにサイトカイン結合抗体フラグメント又は変異体は、本発明の膠質浸透圧を上昇させるために使用され得る高分子又はポリマー分子に包含されるものから明示的に除外される。
【0102】
例示的には、VEGFに対する抗体、並びにVEGF結合抗体フラグメント又はその変異体は、本発明の膠質浸透圧を上昇させるために使用され得る高分子又はポリマー分子により包含されるものから明示的に除外される。
【0103】
更に例示的には、サイトカイン受容体などのサイトカインに結合する他の分子、並びにサイトカイン結合フラグメント又はその変異体も、本発明の膠質浸透圧を上昇させるために使用され得る高分子又はポリマー分子により包含されるものから明示的に除外される。
【0104】
なおも例示的には、VEGF受容体などのVEGFに結合する他の分子、並びにVEGF結合フラグメント又はその変異体も、本発明の膠質浸透圧を上昇させるために使用され得る高分子又はポリマー分子により包含されるものから明示的に除外される。VEGF受容体の変異体は、免疫グロブリンのFcフラグメントに融合され得るVEGF受容体のVEGF結合ドメインを包含する。
【0105】
本明細書に使用されるとき、VEGFは、任意の哺乳動物の血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor)、特にヒト血管内皮増殖因子を包含する。
【0106】
本明細書に使用されるとき、膠質浸透圧増大高分子、又はポリマー分子は、「活性成分」からなることが意図されており、このことは、前記膠質浸透圧増大高分子、又はポリマー分子が、単独で又は1種以上の他の膠質浸透圧増大高分子と組合せて使用される場合に、それ自体で抗黄斑浮腫作用を発揮することを意味する。
【0107】
徹底した研究を通して、本発明者らは、硝子体内注射には少量のみが使用されることを考慮に入れながらも、注射された高分子は、硝子体区画内に注射される場合に膠質浸透圧を十分に上昇させるために最低限の膠質浸透圧増大能力を有することを割り出した。既に前記のとおり、本発明者らは次に、30kDa以上の分子量(Mn)を有する高分子のみが、本発明の硝子体内注射用の抗黄斑浮腫組成物の活性成分として挙動し得ることを割り出した。
【0108】
膠質浸透圧増大高分子
幾つかの実施態様において、前記膠質浸透圧増大高分子は、タンパク質高分子からなる。タンパク質高分子は、アルブミン、ゼラチン、α2マクログロブリン、フィブリノーゲン、ハプトグロビン多量体、βリポタンパク質、ヒトタンパク質に結合しない抗体又は抗体フラグメントを包含する。
【0109】
幾つかの他の実施態様において、前記膠質浸透圧増大高分子は、グリコシド高分子のような非タンパク質高分子からなる。
【0110】
本明細書に記載の膠質浸透圧増大高分子は、とりわけ体積膨張組成物(「体積膨張剤」とも呼ばれる)に使用される特定の高分子、そして特に体積膨張組成物に含まれる幾つかのコロイド形成高分子を包含する。
【0111】
よって膠質浸透圧増大高分子は、アルブミンやゼラチンなどのタンパク質、並びにデキストランやヒドロキシエチルデンプン(「HES」とも呼ばれる)などの他のコロイド形成高分子、カルボキシメチルセルロース、並びに医療グレードのポリスチレン樹脂を包含する。
【0112】
医療グレードのポリスチレン樹脂は、例えば、Sanofi社によってKayexalate(登録商標)というブランド名で販売されているもののようなポリスチレンスルホン酸ナトリウム、デキストランポリスチレンジブロックコポリマーを包含する。
【0113】
アルブミン
本明細書に記載の膠質浸透圧増大組成物に使用され得るアルブミンは、ウシ血清アルブミン、ウマ血清アルブミン及びヒト血清アルブミンのような哺乳動物血清アルブミンを含む、任意の利用可能なアルブミンを包含する。幾つかの実施態様において、前記アルブミンは、血漿のような天然物からの抽出及び精製により得られる。幾つかの他の実施態様において、前記アルブミンは、組換えヒトアルブミンのような組換えアルブミンからなる。
【0114】
ヒトアルブミンは、らせん様四次構造をもつ単純なアミノ酸鎖で構成されるタンパク質である。分子の中心は、多くのリガンドの結合部位である疎水性ラジカルで構成されている。分子の外側部分は、親水性ラジカルで構成されている。アルブミンは、空間的には比較的小さな分子であるが、そのサイズはアルブミンが毛細血管膜を通過するのを防ぐのに十分である。生理学的濃度(40~45g/L)では、アルブミンは、血漿の膠質浸透圧の70%、又は約18~22mmHgを占めるが、このうち5~9mmHgがドナン効果(分子の電気的に中性の電荷)に関連している。
【0115】
アルブミンは、静脈切開術により採取された血漿からのみ抽出され得る。アルブミンはまた、トランスジェニック動物から入手され得る。現在使用されているほとんどの手法は、コーンの原理に基づいており、血漿タンパク質の連続分画を伴う。4% w/w、5% w/w、20% w/w、又は25% w/wアルブミン溶液の利用可能な濃縮調製物は、無菌状態である。
【0116】
本明細書に記載の膠質浸透圧増大組成物に使用され得るアルブミンは、ヒト組換えアルブミンのような組換えアルブミンを含む。例示的には、ヒトアルブミンは、長さが575アミノ酸残基を有し、数平均分子量に等しい69kDaの分子量を有するタンパク質である。
【0117】
デキストラン
臨床診療で使用される全てのコロイドの中で、デキストランは、医療従事者が最も経験のあるものである。デキストランの物理的、化学的及び薬理学的性質は特によく知られており、全ての血漿代替品の中で最も研究されている。
【0118】
念のため、デキストランは、細菌起源の単鎖多糖類である。これらの可変分散溶液の平均分子量は、重要な製品特性である。デキストラン溶液の主な型は、そのMwに応じて指定される:70,000Da(デキストラン70)、60,000Da(デキストラン60)及び40,000Da(デキストラン40)。
【0119】
デキストラン70及び60は、一般に6%溶液として調製されるが、デキストラン40は、10%濃度で入手できる。種々のデキストラン溶液のコロイド浸透力は非常に高い。
【0120】
デキストランは、種々の長さ(3~2000kDa)の鎖で構成される複雑な分岐グルカン(多くのグルコース単位でできた多糖)である。デキストランは、細菌起源のポリマー分子である。デキストランは、特に体積膨張剤溶液での使用を含む種々の医療用途での使用に関して、当技術分野において周知である。典型的には、「デキストラン40」は、40kDaの数平均分子量を有するデキストラン分子の集団を含む組成物からなり、よって本発明の対象となる高分子又は対象となるポリマー分子として包含される。対象となるデキストラン組成物は、デキストラン40、デキストラン60及びデキストラン80を包含する。本発明に使用され得るデキストランは、Hemodex(登録商標)、Macrodex(登録商標)、Rheomacrodex(登録商標)、並びにPlasmacair(登録商標)のブランド名で販売されているものを包含する。
【0121】
ヒドロキシエチルデンプン
ヒドロキシエチルデンプンは、修飾された天然多糖類である。ヒドロキシエチルデンプン(HES)は、植物、特にトウモロコシから抽出することで入手され得る。当技術分野で知られているとおり、少なくとも部分的にグルコースヒドロキシル基をヒドロキシエチルエーテル基で置換することによるデンプン修飾によって、酵素加水分解に対するデンプン感受性が減少し、溶液中の得られる修飾デンプン分子が安定化する。ヒドロキシル化又はエーテル化を利用することにより、溶液を安定化し、分子の親水性を大幅に上昇させ、そしてその立体構造を拡張する。ヒドロキシエチル化の程度は、(i)置換度と(ii)モル置換比との2つの特性によって測定され得る。この2番目の特徴は、グルコースの幾つかの分子で発生する二置換及び三置換を考慮に入れ、α-アミラーゼによる加水分解に対するデンプンの耐性をよりよく反映する。グルコース分子上のヒドロキシエチル化の部位は、優先的にC2であるが、C3又はC6でのエーテル化も可能である。C2でのヒドロキシエチル化により、α-アミラーゼに対する耐性が最も高くなる。C2/C6の比は、ヒドロキシエチル化の型を反映する。
【0122】
最初のヒドロキシエチルデンプンは、ドイツと米国で販売され、Mw(450kDa)が高かった。しかし、このデンプンは止血に副作用があり、市場から撤退することになった。より低分子量の他のデンプンが現在開発されている。フランスでは、主な製品は、Elohes(登録商標)、Lomol(登録商標)、Heafusine(登録商標)及びHesteril(登録商標)である。これらの製品は、異なるが類似した特徴を有する。Elohesは6%溶液で、Mwは200kD、モル置換率は0.62である。Lomolは10%溶液で、Mwは250kD、モル置換率は0.45である。HesterilとHeafusineは、Lomolと同一ではないが類似した特徴を有しており、6%溶液である。
【0123】
インビトロMw、即ち、高Mw(450kD)、中Mw(200kD)及び低Mw(70kD)によるヒドロキシエチルデンプンの分類では、ヒドロキシエチル置換度又はC2/C6比は考慮されない。インビボMwは、(i)元のMw、(ii)ヒドロキシエチル化の程度及び(iii)C2/C6比に依存する。これらの特徴3つ全ての値が高いほど、インビボMwが高くなる。
【0124】
例示的には、2つの異なるヒドロキシエチルデンプンについて、その1つは他方の半分のインビボMwを持つが、このことは、同じ濃度では、小さい方のMwの溶液が他方の2倍のコロイド浸透力を持つことを意味する。言い換えれば、小さい方のMwの溶液では、同等の効果を得るには半分の濃度で十分であろう。
【0125】
幾つかの実施態様において、選択されたヒドロキシエチルデンプンは、腎排出の閾値である50~60kDを超える最低のインビボMwを有するものである。ElohesのインビボMwは140~150kDであり、110~120kDのHesterilのMwよりも高い。
【0126】
本発明に使用され得るヒドロキシエチルデンプンは、Voluven(登録商標)、Restorvol(登録商標)、Lomol、Heafusine、Heloes(登録商標)、更にはHesterilのブランド名で現在販売されているものを包含する。Lomol、Heafusine、Heloes及びHesterilのブランド名で販売されている溶液に含まれるヒドロキシエチルデンプンは、200kDa以上の高分子量HESからなる。Voluven及びRestorvolのブランド名で販売されている溶液に含まれるヒドロキシエチルデンプンは、約130kDaの低分子量HESからなる。
【0127】
ゼラチン
ゼラチンは、現在の製品、修飾流動ゼラチン、尿素架橋ゼラチンを含め、1950年代から臨床で使用できるようになった。
【0128】
ゼラチンは一般にウシ由来の製品である。3つの要因が結びつき、医薬品に使用されるゼラチンの安全性に貢献している:(i)製造業者は、英国の原料を使用してはならない;(ii)原料として使用される組織は、検出可能なレベルの感染性を持たないものとして分類される;そして(iii)広範な酸及びアルカリ法並びに濾過を含む調製方法は、リスクを排除するのに十分である。
【0129】
ゼラチンは、一般に植物又は動物のコラーゲンから得られるポリペプチドからなる。幾つかの実施態様において、本発明に使用され得るゼラチンは、ウシ由来のゼラチンからなる。ゼラチンは、8kDa~15kDaの複数のポリマー鎖を含有する。特定の型のゼラチンにおいて、構成ポリマー鎖は、ジイソシアナート橋を介して互いに結合している。特定の修飾流動ゼラチンは、スクシニル化によりブロックされたアミン基を末端に持つポリマー鎖を有する。ゼラチンの平均分子量は約35kDaである。本発明に使用され得るゼラチンは、Gelofusine(登録商標)、Plasmion(登録商標)、Plasmagel(登録商標)、Geloplasma(登録商標)、Hextend(登録商標)、Hetastarch(登録商標)、Pentastarch(登録商標)、Voluven(登録商標)、更にはHaemaccel(登録商標)のブランド名で販売されているものを包含する。
【0130】
医薬組成物
活性成分として膠質浸透圧増大高分子を含む医薬組成物は、本明細書に更に記載されている。
【0131】
本発明により使用するための医薬組成物は、種々の形態、とりわけ種々の保存形態、即ち液体又は固体形態のいずれかであってよい。
【0132】
医薬組成物が保存液体形態である実施態様において、後で硝子体内に注射される、直ぐに使用できる組成物を調製するために、これはそのまま使用されるか、又は使用前に希釈される。
【0133】
好ましい実施態様において、液体形態の医薬組成物は、硝子体への注射に適切な浸透圧となるように、低濃度の塩(例えば、NaCl又はBaCl)も含有してよい水溶液からなる。好ましい実施態様において、溶液の適切な浸透圧は290mOsm/kg未満であってはならない。好ましい実施態様において、溶液の適切な浸透圧は、300mOsm/kgを超えてはならない。
【0134】
医薬組成物が固体形態である実施態様において、前記組成物は、凍結乾燥形態又は非凍結乾燥粉末形態であってもよい。両方の形態において、直ぐに使用できる医薬組成物の調製は、黄斑浮腫を処置するための本明細書に記載される所望の特性を有する医薬組成物を得るために、水又は生理食塩水を添加することによる再構成の工程の実施を必要とする。
【0135】
本発明によれば、黄斑浮腫を伴う障害は、加齢黄斑変性症を合併する脈絡膜血管新生、びまん性網膜上皮症を含む慢性脈絡膜症、炎症性血管新生、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、網膜静脈閉塞又は分枝静脈閉塞、網膜色素変性症、他の網膜変性及び偽水晶体黄斑浮腫を含む群から選択される障害を包含する。
【0136】
当業者には容易に理解されるとおり、硝子体膠質浸透圧の上昇は、(i)活性成分として使用される高分子、(ii)医薬組成物中の前記高分子の最終濃度、及び(iii)硝子体区画内の前記組成物の注入量(即ち、投与後の硝子体区画内の前記高分子の最終濃度)に依存する。
【0137】
客観的な生理学的理由から、硝子体区画内の本明細書に記載の医薬組成物の注入量は、10μl~500μlの範囲であり、有利には50μl~200μlの範囲である。
【0138】
直ぐに使用できる最終医薬組成物は、本明細書に記載の対象となる1種以上の膠質浸透圧増大高分子を含む溶液からなる。
【0139】
本発明による使用のための医薬組成物中の選択された高分子の適切な重量濃度は、おそらく専門知識と合わせて、本明細書に提供されるガイダンスから利益を得るであろう当業者によって容易に決定される。
【0140】
更に、本明細書に記載の医薬組成物中の選択された高分子の最適重量濃度を決定するために、当業者は本明細書の実施例に開示された方法を実施することができ、そして特に網膜外植片を利用する記載されたインビトロ法を実施することができる。よって、全ての場合において、本発明に使用するための医薬組成物を調製するための選択された高分子の最適濃度を決定するために、当業者は以下の工程:
a)網膜外植片を提供する工程、
b)適切な期間中に低浸透圧条件で前記網膜外植片をインキュベートすることなどにより、網膜浮腫を発生させる工程、
c)工程b)の最後に得られた外植片に洗浄工程を実施し、次に得られた網膜外植片を、既知濃度の選択された高分子を含む候補組成物と一緒にインキュベートする工程、
d)前記組成物が前記網膜外植片の浮腫の減少を引き起こす場合、前記候補組成物を選択する工程
を含むインビトロ法を実施することができる。
【0141】
幾つかの実施態様において、本方法の工程a)に使用される網膜外植片は、新鮮な摘出ラット眼を切断し、次に神経網膜を分離することによって事前に得られ、その後、当技術分野で周知の手法により培地中でペーパーフィルターでの器官培養で維持される。
【0142】
工程a)で提供される網膜移植片は、ヒト哺乳動物網膜外植片及びラット網膜外植片のような非ヒト哺乳動物網膜外植片を包含する。
【0143】
工程b)で、低浸透圧条件は、水が加えられる従来の生理食塩水、例えば、前記生理食塩水の初期体積の40%の水量が加えられるものを使用することにより到達され得る。インキュベーション工程b)の期間は、適用される低浸透圧条件に応じて変化してよい。例示的には、工程b)は、1分~10分の範囲の時間、例えば3分~5分の範囲、例えば4分の時間で実施され得る。
【0144】
工程d)自体は、次のサブ工程を含む:
d1)網膜外植片の厚さ値を測定する工程、及び
d2)工程d1)で測定された厚さ値を網膜厚標準値と比較する工程。
【0145】
幾つかの実施態様において、工程d1)は、一般に顕微鏡を使用することにより、工程c)の最後に得られた網膜外植片から調製された1つ、又は好ましくは2つ以上の染色低温組織切片試料で実施され得る。
【0146】
工程d2)の幾つかの実施態様において、網膜厚標準値は、インビトロ法の工程b)の最後に得られた網膜外植片から得られた網膜厚値である。
【0147】
本明細書の他の箇所で以前に言及したとおり、本発明に使用され得る医薬組成物は、特に急性出血の状況を管理するための、体積膨張溶液として現在使用されている既知の組成物を包含する。
【0148】
例示的には、アルブミンが対象となる高分子である実施態様において、1% w/w~25% w/wの範囲のアルブミン濃度を含む溶液を使用することができる。
【0149】
当業者は、Albuked(登録商標)、Albumarc(登録商標)、Albumin-Alpine(登録商標)、Albuminar-25(登録商標)、Albunex(登録商標)、Alburx(登録商標)、Albutein(登録商標)、Buminate(登録商標)、Flexbumin(登録商標)、Human Albumin Grifols(登録商標)、Kedbumin(登録商標)、Plasbumin-25(登録商標)、Plasbumin-5(登録商標)及びRecombunin(登録商標)のブランド名で販売されている組成物を含む群から選択されるヒトアルブミン溶液を使用し得る。
【0150】
例示的には、4% w/wヒトアルブミン溶液の膠質浸透圧は20~29mmHgであり;25% w/wヒトアルブミン溶液の膠質浸透圧は100~120mmHgである(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0151】
対象となる高分子がデキストランからなる実施態様において、デキストラン40、デキストラン60、デキストラン70及びデキストラン80を包含する、種々の分子量のデキストランを使用することができる。
【0152】
デキストラン濃度は、3% w/w~20% w/wまで変化してもよい。
【0153】
有利には、当業者は、Hemodex(登録商標)、Macrodex(登録商標)、Rheomacrodex(登録商標)、更にはPlasmacair(登録商標)のブランド名で市販されているものを含む群から選択されるデキストラン組成物を使用することができる。
【0154】
例示的には、Macrodexのブランド名で販売されているデキストラン組成物は、6% w/wのデキストラン70を含み、そして56~68mmHgの膠質浸透圧を有する(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5) : 592-607)。
【0155】
対象となる高分子がヒドロキシエチルデンプン(HES)である実施態様において、HES濃度は1% w/w~15% w/w、例えば3%w/w~10% w/wの範囲である。
【0156】
対象となる高分子がヒドロキシエチルデンプン(HES)である実施態様において、Voluven(登録商標)、Restorvol(登録商標)、Lomol(登録商標)、Heafusine(登録商標)、Heloes(登録商標)及びHesteril(登録商標)のブランド名で販売されているものを含む群から選択される組成物を使用することができる。
【0157】
例示的には、Hextend(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、670kDaの分子量、及び0.75のモル置換比を有する6% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は25~30である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0158】
例示的には、Hetastarch(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、450kDaの分子量、0.7のモル置換比及び5のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は25~30である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0159】
例示的には、Pentastarch(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、260kDaの分子量、及び0.45のモル置換比を有する10% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は55~60である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0160】
例示的には、Elohes(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、200kDaの分子量、0.62のモル置換比及び10のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は25~30である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0161】
例示的には、Hesteril(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、200kDaの分子量、0.5のモル置換比及び5~6のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は30~37である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0162】
例示的には、Lomol(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、200kDaの分子量、0.5のモル置換比及び6のC2/C6比を有する10% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は59~82である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0163】
例示的には、Tetrasearch(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、130kDaの分子量、0.4のモル置換比及び9のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含み、膠質浸透圧は36である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0164】
例示的には、Heafusine(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、200kDaの分子量、0.5のモル置換比及び5~6のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含む。
【0165】
例示的には、Restorvol(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、130kDaの分子量、0.4のモル置換比及び6のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含む。
【0166】
例示的には、Voluven(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、130kDaの分子量、0.4のモル置換比及び9のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含む。
【0167】
例示的には、Isovol(登録商標)のブランド名で販売されているHES組成物は、130kDaの分子量、0.4のモル置換比及び9のC2/C6比を有する6% w/wのHESを含む。
【0168】
対象となる高分子がゼラチンである実施態様において、2% w/w~10% w/wの範囲のゼラチン濃度を含む溶液を使用することができる。
【0169】
有利には、当業者は、Gelofusine(登録商標)、Plasmion(登録商標)、Plasmagel(登録商標)、Geloplasma(登録商標)、Hextend(登録商標)、Hetastarch(登録商標)、Pentastarch(登録商標)、Voluven(登録商標)、更にはHaemaccel(登録商標)のブランド名で販売されているものを含む群から選択されるゼラチン組成物を使用することができる。
【0170】
例示的には、Geloplasma(登録商標)のブランド名で販売されている流動ゼラチン組成物は、3% w/w ゼラチンを含み、膠質浸透圧は26~29である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0171】
例示的には、Haemaccel(登録商標)のブランド名で販売されている尿素結合ゼラチンは、3.5% w/w ゼラチンを含み、膠質浸透圧は25~29である(Miltra et al., 2009, Indian J Anaesth, Vol. 53 (n°5): 592-607)。
【0172】
例示的には、Plasmion(登録商標)のブランド名で販売されているゼラチンは、3.0% w/w ゼラチンを含む。
【0173】
本発明に使用される医薬組成物の好ましい実施態様において、その直ぐに使用できる形態の前記組成物は、比較的低い浸透圧を有し、そして好ましくは290mOsm/kgから300mOsm/kgの範囲の浸透圧のような、約300ミリオスモル/kgの浸透圧を有する。
【0174】
本発明はまた、黄斑浮腫の処置法であって、膠質浸透圧増大高分子の投与が、前記処置の抗浮腫効果を更に上昇させるために、1種以上の他の活性剤の投与と組合せられる処置法に関する。
【0175】
幾つかの実施態様において、前記1種以上の他の活性剤は、コルチコステロイドを含む抗炎症剤を含む群から選択されてもよい。
【0176】
コルチコステロイドは、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンのようなグルココルチコイド類、スピロノラクトン若しくはエプレレノンのようなミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト、又はsirNAのようなミネラルコルチコイド受容体を中和する任意の分子の群から選択されてもよい。
【0177】
本発明は、本明細書の実施例によって、何ら限定されることなく、更に説明される。
【実施例0178】
実施例1:硝子体膠質浸透圧の上昇による網膜遺伝子のアップレギュレーション
1.1.硝子体への抗VEGF抗体注射による網膜遺伝子のアップレギュレーション
Lewisアルビノラット(8~12週齢)の硝子体に幾つかの製剤を体積5μlで注射し、24時間での網膜及びRPE/脈絡膜に対するこれらのトランスクリプトーム効果を評価した。
試験された製剤
-Lucentis(登録商標)(ラニビズマブ:0.1mg/mL)
-「Fab+ポリソルベート」:ヒトアイソタイプFab(OAMA04119、Aviva Systems Biology)+ポリソルベート20:(Fab+Poly、0.1mg/ml+0.01%)(これはLucentis製剤中のポリソルベート20濃度である)。
-対照溶液:H
重要なことには、Avastin(登録商標)(ベバシズマブ)及びLucentis(登録商標)(ラニビズマブ)はラットVEGFを中和しない。
条件ごとに12個の眼を試験して、RNA配列決定のためにRNAを抽出した。
RNA配列決定の結果は、対照とLucentis(登録商標)製剤の間で変動調節される遺伝子の89%が、Fab+ポリソベート製剤によって調節される遺伝子に共通であることを示したが、この結果は、非活性Fabを含有する溶液が、Lucentis(登録商標)と類似のトランスクリプトーム効果を発揮することを証明している。
RNA配列決定の結果は、(i)139個の遺伝子がLucentis(登録商標)製剤と対照製剤により調節されることを示し、そしてまた(ii)これらの遺伝子の88%が、Fab+Polyと対照により調節される遺伝子に共通であることを示した。
GO用語の解析
GO用語は122個の共通遺伝子で分析され、(i)94個のGO用語(44%)は炎症/免疫関連遺伝子に属し、(ii)16個(8%)のGO用語は細胞死関連遺伝子に属し、(iii)10個のGO用語(4.6%)は、水イオン調節関連遺伝子に属し、そして(iv)3個のGO用語は、血管新生反応及び低酸素反応に関連する遺伝子に属する(Serpine1、Angptl4及びTnfrsf1を含む)。
KEGGパスウェイの解析
結果は、変動調節される遺伝子が、(i)炎症/免疫に関連する13経路及び(ii)細胞接着に関連する1経路を含む、15の濃縮経路に属することを示した。
これらの結果は、Lucentis薬(ラニビズマブ)が、VEGFのみの中和ではなく、分子(タンパク質)の性質に関連する「オフターゲット」効果を発揮するという仮説を導いた。
【0179】
1.2.硝子体への無関係な抗体の注射による網膜遺伝子のアップレギュレーション
上記1.1.項に記載されたものと同様の実験は、(i)5μlのAvastin(登録商標)(ベバシズマブ:0.25mg/ml)又は(ii)5μlのアイソタイプヒトIgG(ABIN619681、抗体オンライン(登録商標)から入手可能)+ポリソルベート20(IgG+ポリソルベート、0.25mg/ml+0.04%)(これはAvastin(登録商標)製剤に含まれるポリソルベート濃度である)の硝子体内注射を用いることにより実施された。
得られたRNA配列決定からの結果は、60個の遺伝子が上記の処置(i)と(ii)の両方に共通であることを示した。より大きく調節された遺伝子は以下にリストされており、Agt(アンギオテンシノーゲン)を除いて全てアップレギュレートされている。
これらのアップレギュレートされた遺伝子は以下のとおりである:A2m、Agt、Arpc1b、C1R、C1S、C3、Cd14、Cebpd、Ch/3/1、Clic1、Clu、Coro1a、Cp、Crym、Cts2、Gfap、Jak3、Krt15、Lcn2、Litaf、Lrg1、Mt1a、Mt1h12、Mt1X、Nudt6、Pdpn、Prss56、Pycard、Rrm2、Sbno2、Serpina3、Serping1、Slc14a1、Socs3、Spp1、Tagin2及びTimp1。
【0180】
1.3.膠質浸透圧増大高分子の硝子体内注射による硝子体膠質浸透圧の上昇による網膜遺伝子のアップレギュレーション
Plasmion(登録商標)3%(320mmol/l、これは静脈内注射後3時間、1の血管拡張組成物として従来から使用される)のトランスクリプトーム効果。
Plasmion(登録商標)(修飾流動ゼラチン)の組成:
無水ゼラチンとして表される量 3.0000g
塩化ナトリウム 0.5382g
六水和塩化マグネシウム 0.0305g
塩化カリウム 0.0373g
(S)-乳酸ナトリウム溶液 0.3360g
灌流用の溶液100mlを注ぐ。
Plasmion(登録商標)溶液を体積5μlで各試験眼に注射した。
種々の遺伝子の発現レベルは、n=12の眼でRT-PCR法を用いて試験された。Plasmion(登録商標)の注射の効果を、シャム注射(いかなる量も注射されない針)の効果と比較した。
結果を図1及び2に示す。結果は、以下の遺伝子を含む種々の遺伝子がアップレギュレートされたことを示した:(i)Pdpn、Crym、Agt、Slc14a1、Slc39a1、Pycard、Tnf-R1、Galectin3bp及びClic1(図1を参照)及び(ii)Serpina3n、Spp1、Tspo、Timp1及びNgal(図2を参照)。
【0181】
実施例2:膠質浸透圧増大高分子の硝子体内注射による黄斑浮腫の処置
神経網膜に対する抗浮腫効果が、Plasmion(登録商標)組成物、Fab+ポリソルベートの上記組成物及びLucentis(登録商標)組成物によって同様に達成できることを証明するために、浮腫を作成すべくラット網膜外植片を低浸透圧条件でインキュベートして、次にこれらの各組成物の保護効果を試験した。
A.材料と方法
ラットの網膜外植片を最初に低浸透圧溶液と共に4分間インキュベートして、網膜浮腫を誘発した。次に、これらのラット網膜外植片を、細胞外(EC)液と共に、又は以下の濃度のEC+Lucentis(登録商標)、Fab+ポリソルベート、若しくはPlasmion(登録商標)と共に1時間インキュベートした:
TRIS 1MでpH7.4に調整した細胞外液(EC)500ml(50ml中に6.05g)
【0182】
【表1】

低浸透圧溶液:EC+40% H
EC+塩化バリウム溶液:(1mM、MM=224.26)5mlで1.12mg又は10mlで2.24mg
Lucentis(登録商標)溶液(0.1mg/ml)
Fab+Poly溶液(0.1mg/ml)
Plasmion(登録商標)溶液(0.1%)
実験を3回繰り返した(n=2外植片/条件×3)。
実験の最後に、ラット外植片を固定せずに凍結切片に含め、核染色にはDAPIで、グリア細胞染色にはGFAPで染色した。網膜の厚さは、内層から外顆粒層の境界までの網膜あたり少なくとも10切片で測定された。
B.結果
結果を図3に示す。
低浸透圧溶液でのインキュベーションは、網膜の厚さの有意な増大を誘発した(107.7±2.4μmから131.7±20.7μm、p<0.05)。Fab、Lucentis又はPlasmionによる処置は、厚さの有意な減少を誘発した(110,6±3、102,6±21,105±2,4μm、p<0.05)。
結論:
Plasmion(登録商標)、Fab組成物及びLucentis(登録商標)は、低浸透圧誘発性の網膜浮腫に対して同様の抗浮腫効果を発揮する。
これらの結果は、膠質浸透圧増大高分子を使用することにより黄斑浮腫を効率的に処置できることを示す。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-07-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄斑浮腫を処置するための硝子体内注射による使用のための組成物中の活性成分としての、VEGFを認識しない膠質浸透圧増大高分子。
【請求項2】
前記高分子が、タンパク質高分子及び非タンパク質高分子の群から選択される、請求項1記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子。
【請求項3】
タンパク質高分子が、アルブミン、ゼラチン、α2マクログロブリン、フィブリノーゲン、ハプトグロビン多量体、βリポタンパク質、及びヒトタンパク質に結合しない抗体又は抗体フラグメントからなる群より選択される、請求項1及び2のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子。
【請求項4】
1%~25% w/wアルブミン水性組成物である、請求項3記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項5】
2%~10% w/wゼラチン組成物である、請求項3記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項6】
非タンパク質高分子が、デキストラン及びヒドロキシエチルデンプンからなる群より選択される、請求項1及び2のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項7】
0.1%~15% w/wヒドロキシエチルデンプン組成物である、請求項6記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項8】
3%~20% w/wデキストラン組成物である、請求項6記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項9】
10μl~500μlの範囲の体積を有する投与単位に適合した、請求項1~8のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項10】
加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、網膜静脈閉塞、網膜分離症、網膜色素変性、偽水晶体黄斑浮腫からなる群より選択される黄斑浮腫障害を処置するための、請求項1~9のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項11】
抗炎症剤からなる群より選択される1種以上の他の活性剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項12】
前記1種以上の他の活性剤が、コルチコステロイドの群から選択される、請求項11記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【請求項13】
前記コルチコステロイドが、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、及びミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストからなる群より選択される、請求項11記載の使用のための膠質浸透圧増大高分子組成物。
【外国語明細書】