(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127003
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】電離放射線変換デバイスおよび電離放射線の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/24 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
G01T1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134157
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】松井 太佑
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸広
(72)【発明者】
【氏名】根上 卓之
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB05
2G188BB09
2G188CC28
2G188DD44
(57)【要約】
【課題】電離放射線に対して高い感度を有する電離放射線変換デバイスを提供する。
【解決手段】本開示の電離放射線変換デバイス100は、基板10および基板10上に配置された電離放射線変換層20を備える。ここで、電離放射線変換層20は、1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板および前記基板上に配置された電離放射線変換層を備え、
ここで、
前記電離放射線変換層は、1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物を含有する、
電離放射線変換デバイス。
【請求項2】
電極をさらに備え、
前記電離放射線変換層は、前記基板および前記電極の間に配置されている、
請求項1に記載の電離放射線変換デバイス。
【請求項3】
前記ペロブスカイト化合物は、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンを含む、
請求項1または2に記載の電離放射線変換デバイス。
【請求項4】
前記2種以上のカチオンは、Pb2+、Sn2+、Ge2+、およびBi3+からなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項3に記載の電離放射線変換デバイス。
【請求項5】
前記電離放射線変換層は、樹脂材料を含有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電離放射線変換デバイス。
【請求項6】
基板および前記基板上に配置された電離放射線変換層、を備え、
ここで、
前記電離放射線変換層は、1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物を含有する、
電離放射線変換デバイス、を用い、
前記電離放射線変換デバイスによって、前記ペロブスカイト化合物に電離放射線が照射されることにより発生した電荷を検出する、
電離放射線の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電離放射線変換デバイスおよび電離放射線の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線のような電離放射線を電気信号に変えるデバイスは種々あり、物質から発せられる電離放射線の強度を測定することや、電離放射線を物質に照射した結果、物質を透過する電離放射線を測定することで物質の内部情報を得ることができる。電離放射線を電気信号に変換する材料は種々考案され実用化されている。一般的にこの材料は原子番号が大きい原子を含むことが望ましい。現在使用されるのはアモルファスセレンやヨウ化セシウムである。近年、ヨウ化鉛メチルアンモニウムに代表されるペロブスカイト化合物がその材料として着目されている。
【0003】
電離放射線を電気信号に変える場合、前述の材料を厚くすることで、その感度を上げることが可能である。
【0004】
非特許文献1では、X線を電荷に変換するペロブスカイト化合物として、ヨウ化鉛メチルアンモニウムが使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature Photonics Vol.9, p.444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、電離放射線に対して高い感度を有する電離放射線変換デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電離放射線変換デバイスは、
基板および前記基板上に配置された電離放射線変換層を備え、
ここで、
前記電離放射線変換層は、1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、電離放射線に対して高い感度を有する電離放射線変換デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の電離放射線変換デバイス100の断面図を示す。
【
図2】
図2は、本開示の電離放射線変換デバイス200の断面図を示す。
【
図3】
図3は、本開示の電離放射線変換デバイス300の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
吸収した電離放射線(例えば、X線)を電気信号に変換する場合、電離放射線は透過能が高いため、吸収能の観点では電離放射線変換層は厚い方が望ましい。一方で、電離放射線によって励起された電子と正孔を外部回路に取り出すためには、電離放射線変換層の膜厚をキャリア拡散長以下とすることが望ましい。電離放射線変換材料として、ペロブスカイト化合物を用いる場合、基板上に形成された電離放射線変換薄膜は基本的に多結晶であるが、多結晶は粒界が存在するために単結晶と比較してキャリア拡散長が著しく小さい。そのため、多結晶膜で生成したキャリアを取り出すためには、電離放射線変換薄膜は非常に薄い膜(通常1μm以下)である必要がある。一方で、単結晶膜であれば膜厚を大きくしても生成したキャリアを取り出すことが可能となるが、ペロブスカイト化合物は、下地やプロセスの制約上、基板上に単結晶を成長させ薄膜とすることは困難である。そのため、電離放射線変換層においては、電離放射線を吸収するために十分な膜厚と、損失なくキャリアを取り出すことの両立が困難である。
【0011】
本開示の電離放射線変換デバイスでは、基板上に電離放射線を十分に吸収可能な量の高品質なペロブスカイト化合物を充填できる。したがって、本開示の電離放射線変換デバイスは、電離放射線に対して高い感度を有する。
【0012】
本開示において、「電離放射線」とは、α線、β線、中性子線、陽子線、X線、またはγ線を意味する。
【0013】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0014】
図1は、本開示の電離放射線変換デバイス100の断面図を示す。
【0015】
電離放射線変換デバイス100は、基板10および基板10上に配置された電離放射線変換層20を備える。電離放射線変換層20は、1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物を含有する。
【0016】
以上の構成によれば、電離放射線変換デバイス100は、電離放射線に対して高い感度を有する。すなわち、電離放射線変換デバイス100は、電離放射線を効率よく電荷に変換することができる。1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物は、電離放射線を効率よく吸収でき、かつ電離放射線によって生成した電荷が粒子内で効率的に移動することができる。
【0017】
電離放射線変換デバイス100は、例えば、電離放射線検出器、撮像装置、線量計、またはベータボルタ電池として使用され得る。
【0018】
電離放射線変換デバイス100は、電荷を読み出す読み出し回路をさらに備えていてもよい。ここで、読み出し回路は、電離放射線変換デバイス100に電気的に接続されている。
【0019】
読み出し回路は、例えば、基板10中に位置していてもよく、基板10の外部に位置していてもよい。
【0020】
図2は、第1実施形態による電離放射線変換デバイス200の断面図を示す。
【0021】
電離放射線変換デバイス200は、電離放射線変換デバイス100に加えて、電極30をさらに備える。ここで、電離放射線変換層20は、基板10および電極30の間に配置されている。
【0022】
以下、
図2を用いて直接変換方式の電離放射線変換デバイスの動作の概略を説明する。電離放射線変換デバイス200に入射された電離放射線は、電離放射線変換層20でその一部のエネルギーを失い、電子正孔対を形成する。生成された正孔および電子は、それぞれ基板10および電極30に到達し、外部回路に取り出される。
【0023】
ペロブスカイト化合物に電離放射線が照射されることにより発生した電荷を検出することで、電離放射線を検出してもよい。以上の検出方法によれば、感度よく電離放射線を検出できる。
【0024】
基板10は、ガラスまたはプラスチックから構成されていてもよい。あるいは、基板10は、導電性材料から構成されていてもよい。
【0025】
導電性材料は、透光性を有していてもよく、透光性を有していなくてもよい。
【0026】
透光性を有する導電性材料の例は、金属酸化物である。当該金属酸化物の例は、
(i)インジウム-錫複合酸化物、
(ii)アンチモンがドープされた酸化錫、
(iii)フッ素がドープされた酸化錫、
(iv)ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも1つの元素がドープされた酸化亜鉛、または
(v)これらの複合物
である。
【0027】
透光性を有しない導電性材料の例は、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、あるいはこれらのいずれかを含む合金、または、導電性の炭素材料である。
【0028】
電極30は、導電性材料から構成される。導電性材料の例は、上述の通りである。
【0029】
基板10がガラスまたはプラスチックから構成される場合、基板10および電離放射線変換層20の間にさらに電極を備えていてもよい。当該電極は、導電性材料から構成される。
【0030】
本開示において、「ペロブスカイト化合物」とは、ABX3により表される化合物またはその類縁体である。
【0031】
ABX3により表される化合物は、例えば、BaTiO3、MgSiO3、CsPbI3、CsPbBr3または(CH3NH3)PbI3である。以下、メチルアンモニウムカチオン(すなわち、CH3NH3
+)を「MA」という。
【0032】
ABX3により表される化合物の類縁体は、以下の(i)または(ii)の構造を有する。
(i)ABX3により表される化合物において、Aサイト、Bサイト、またはXサイトの一部が欠損した構造(例えば、MA3Bi2I9)
(ii)ABX3により表される化合物において、Aサイト、Bサイト、またはXサイトが異なる複数の価数の材料によって構成される構造(例えば、Cs(Ag0.5Bi0.5)I3)
【0033】
ペロブスカイト化合物は、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンを含んでいてもよい。
【0034】
ペロブスカイト化合物は、実質的に、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンからなっていてもよい。「ペロブスカイト化合物が、実質的に、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンからなる」とは、ペロブスカイト化合物を構成する全元素の合計の物質量に対して、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンの合計の物質量が90モル%以上であることを意味する。ペロブスカイト化合物は、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンからなっていてもよい。
【0035】
電離放射線に対する感度を高めるために、2種以上のカチオンは、Pb2+、Sn2+、Ge2+、およびBi3+からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0036】
1価のアニオンは、例えば、ハロゲンアニオンまたは複合アニオンである。ハロゲンアニオンの例は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素である。複合アニオンの例は、SCN-、NO3
-、またはHCOO-である。
【0037】
ペロブスカイト化合物は、例えば、ABX3(Aは1価のカチオンであり、Bは2価のカチオンであり、かつ、Xはハロゲンアニオンである。により表される化合物であってもよい。このようなペロブスカイト化合物は、電離放射線の吸収能力が高く、かつキャリア拡散長が長くなるため、電離放射線を効率よく電気信号に変換できる。
【0038】
1価のカチオンの例は、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。
【0039】
有機カチオンの例は、MA、ホルムアミジニウムカチオン(すなわち、NH2CHNH2
+)、フェニルエチルアンモニウムカチオン(すなわち、C6H5C2H4NH3
+)、またはグアニジニウムカチオン(すなわち、CH6N3
+)である。
【0040】
アルカリ金属カチオンの例は、セシウムカチオン(すなわち、Cs+)または、ルビジウムカチオン(すなわち、Rb+)である。
【0041】
2価の金属カチオンの例は、鉛カチオン(すなわち、Pb2+)、錫カチオン(すなわち、Sn2+)、またはゲルマニウムカチオン(すなわち、Ge2+)である。
【0042】
ペロブスカイト化合物は、例えば、CH3NH3PbI3、CH3CH2NH3PbI3、HC(NH2)2PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CsPbI3、またはCsPbBr3である。
【0043】
電離放射線に対する感度を高めるために、電離放射線変換層20は、0.1μm以上の厚みを有していてもよい。電離放射線変換層20は、0.1μm以上かつ1cm以下の厚みを有していてもよい。望ましくは、100μm以上かつ1mm以下の厚みを有していてもよい。
【0044】
電離放射線に対する感度を高めるために、電離放射線変換層20は、ペロブスカイト化合物を30モル%以上含有していてもよい。望ましくは、電離放射線変換層20は、ペロブスカイト化合物を80モル%以上含有していてもよい。電離放射線変換層20は、ペロブスカイト化合物のみからなっていてもよい。
【0045】
電離放射線変換デバイス100または200において、ペロブスカイト化合物はシンチレータとして使用されてもよい。例えば、電離放射線変換デバイス100または200において、基板10とペロブスカイト化合物を含む電離放射線変換層20との間に、フォトダイオードのような光を電気信号に変換する素子を配置することで、同様の効果が得られる。この場合、電極30を備えず、かつ、基板10は、ガラス基板またはプラスチック基板であってもよい。
【0046】
電離放射線変換層20に含まれるペロブスカイト化合物の平均粒子径は、1μm以上かつ10mm以下であってもよい。望ましくは、ペロブスカイト化合物の平均粒子径は、10μm以上かつ1mm以下であってもよい。
【0047】
ペロブスカイト化合物の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定され得る。粒子群を電子顕微鏡で観察し、電子顕微鏡像における特定の粒子の定方向径が測定される。30個のペロブスカイト化合物の粒子の定方向径が算出され、それらの平均値がペロブスカイト化合物の平均粒子径とみなされる。
【0048】
図3は、本開示の電離放射線変換デバイス300の断面図を示す。
【0049】
電離放射線変換層20は、ペロブスカイト化合物を含有する電離放射線変換材料21だけでなく、樹脂材料22を含有していてもよい。これにより、ペロブスカイト化合物を固着させることができ、電離放射線変換層20の機械的強度が向上する。このように、樹脂材料22は、バインダとして機能する。
【0050】
樹脂材料は、例えば、セルロース樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、またはシリコーン樹脂である。
【0051】
電離放射線変換層20において、ペロブスカイト化合物に対する樹脂材料22のモル比は、0.01%以上かつ50%以下であってもよい。望ましくは、ペロブスカイト化合物に対する樹脂材料のモル比は、0.1%以上かつ10%以下であってもよい。これにより、電離放射線変換層20においてペロブスカイト化合物粒子が強固に保持され、かつ電荷の移動を妨げにくい。
【0052】
(電離放射線変換デバイスの製造方法)
以下、電離放射線変換デバイスの製造方法が説明される。ここでは、一例として、電離放射線変換デバイス300の製造方法について説明される。
【0053】
まず、基板10を用意する。基板10は、読み出し回路を有していてもよい。複数の画素を有する場合は、画素ピッチは、例えば、125マイクロメートルである。
【0054】
次に、基板10上にペロブスカイト化合物を含む電離放射線変換層20が形成される。
【0055】
例えば、ペロブスカイト化合物が目的の組成を有するように、原料が用意される。ペロブスカイト化合物の原料を溶媒に溶解させて得られた溶液を、例えば所定の温度に加熱して、ペロブスカイト化合物の粒子を析出させる。得られたペロブスカイト化合物の粒子、樹脂材料、および溶媒を含む溶液が作製される。作製された溶液を基板10上に塗布し、乾燥させることで、電離放射線変換層20が得られる。
【0056】
電離放射線変換層20の形成方法の具体例が説明される。ペロブスカイト化合物の原料として1mol/LのPbI2および1mol/Lのヨウ化ホルムアミジニウム(CH(NH2)2I)を含むγ-ブチロラクトン溶液を準備する。この溶液を、例えば150℃以上に加熱することで、ペロブスカイト化合物の粒子が溶液内に析出する。これらのペロブスカイト化合物の粒子をろ過等で溶液から取り出した後、ペロブスカイト化合物の粒子と樹脂材料(例えば、ポリメチルメタクリレート)を重量比で1%含むトルエン溶液を作製する。作製した溶液を、基板10上に塗布し、乾燥させることで電離放射線変換層20が得られる。作製した電離放射線変換層20上に、例えば蒸着法で金を厚さ100nmで形成することで、電極30が形成される。このようにして電離放射線変換デバイスが得られる。
【0057】
(電離放射線の検出方法)
本開示の電離放射線の検出方法は、上述の本開示の電離放射線変換デバイスを用いて、電離放射線を検出する方法である。
【0058】
すなわち、本開示の電離放射線の検出方法は、例えば、基板10および基板10上に配置された電離放射線変換層20を備え、ここで、電離放射線変換層20は1μm以上の平均粒子径を有するペロブスカイト化合物を含有する、電離放射線変換デバイスを用いる。本開示の電離放射線の検出方法では、当該電離放射線変換デバイスによって、ペロブスカイト化合物に電離放射線が照射されることにより発生した電荷を検出する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示の電離放射線変換デバイスは、例えば、電離放射線検出器において利用される。
【符号の説明】
【0060】
10 基板
20 電離放射線変換層
21 電離放射線変換材料
22 樹脂材料
30 電極
100、200、300 電離放射線変換デバイス