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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127025
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】エンジンの吸排気装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20230906BHJP
   F02B 29/08 20060101ALI20230906BHJP
   F02M 35/108 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
F02D13/02 F
F02B29/08 D
F02M35/108 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030537
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 光高
(72)【発明者】
【氏名】石井 広司
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA05
3G092AA11
3G092AA17
3G092AB02
3G092AC02
3G092BA01
3G092BB02
3G092DA01
3G092DA10
3G092DC05
3G092FA02
3G092HA06Z
3G092HE03Z
(57)【要約】
【課題】インパルスバルブを適切に開弁させるように設定して、充填効率を大きく上昇させて出力を増加させるエンジンの吸排気装置を提供する。
【解決手段】吸気バルブ50の上流側の吸気通路を開閉するインパルスバルブ25を備えたエンジン1の吸排気装置であって、インパルスバルブ25の開弁期間を、吸気バルブ50の開弁期間より短く、かつ吸気バルブ50の開弁期間内に設定するとともに、エンジン1の1サイクル当たりの、インパルスバルブ25のリフト量の積分値である開口量を、排気バルブ66の開口量より小さく、かつ排気バルブ66の開口量を吸気バルブ50の開口量より小さく設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブと、排気バルブと、前記吸気バルブの上流側で吸気通路を開閉するインパルスバルブと、を備えたエンジンの吸排気装置であって、
前記インパルスバルブの開弁期間は、前記吸気バルブの開弁期間より短く、かつ前記吸気バルブの開弁期間内に設定されているとともに、
前記エンジンの1サイクル当たりの、前記インパルスバルブの開口量は前記排気バルブの開口量より小さく、かつ前記排気バルブの開口量は前記吸気バルブの開口量より小さく設定されていることを特徴とするエンジンの吸排気装置。
【請求項2】
前記インパルスバルブを開閉する場合に、前記インパルスバルブが開弁状態に維持される場合と比較して、前記吸気バルブの閉弁時期が遅角設定されるとともに、
前記吸気バルブの閉弁時期の遅角設定に合わせて、前記インパルスバルブの閉弁時期を遅角設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの吸排気装置。
【請求項3】
前記インパルスバルブの開弁期間の中央位置は、前記吸気バルブの開弁期間の中央位置と同一にする
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの吸排気装置。
【請求項4】
前記吸気バルブの開弁期間を変更するバルブタイミング制御装置を備え、
前記インパルスバルブの開弁期間は、前記吸気バルブの開弁期間に合わせて変更される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のエンジンの吸排気装置。
【請求項5】
前記インパルスバルブは、前記吸気バルブを駆動するカムシャフトから伝動部材を介して同期駆動される
ことを特徴とする請求項4に記載のエンジンの吸排気装置。
【請求項6】
前記エンジンは4気筒であって、
前記排気バルブは、前記インパルスバルブが開弁状態に維持される場合と比較して、閉弁時期が遅角設定されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のエンジンの吸排気装置。
【請求項7】
前記エンジンは、シリーズモードが可能なハイブリッド車に搭載され、所定回転速度以下で運転する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のエンジンの吸排気装置。
【請求項8】
前記吸気バルブと前記インパルスバルブとの間の前記吸気通路の内壁に、外部との熱交換を阻害する断熱材を備えた
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のエンジンの吸排気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸気通路にインパルスバルブを備えたエンジンの給排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸気通路に備えられて、吸気に脈動を発生させるインパルスバルブが知られている。インパルスバルブは、エンジンの作動に合わせて通路の流路断面積を変化させることで、吸気圧に脈動を発生させてエンジンの充填効率を高める。
特許文献1には、インテークマニホールドにインパルスバルブを備えたエンジンが開示されている。特許文献1では、インパルスバルブは、エンジンコントロールユニットによって作動制御され、吸気弁の開弁期間内で開弁するように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-53608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにインパルスバルブを備えたエンジンにおいては、インパルスバルブの開閉期間の設定によって、エンジンの充填効率が大きく変化することが予想される。したがって、エンジンの充填効率を上昇させるために、インパルスバルブの適切な開弁期間を設定する手法が要求されている。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、充填効率を大きく上昇すべく、インパルスバルブを適切な開弁期間に設定するエンジンの吸排気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るエンジンの吸排気装置は、吸気バルブと、排気バルブと、前記吸気バルブの上流側で吸気通路を開閉するインパルスバルブと、を備えたエンジンの吸排気装置であって、前記インパルスバルブの開弁期間は、前記吸気バルブの開弁期間より短く、かつ前記吸気バルブの開弁期間内に設定されているとともに、前記エンジンの1サイクル当たりの、前記インパルスバルブの開口量は前記排気バルブの開口量より小さく、かつ前記排気バルブの開口量は前記吸気バルブの開口量より小さく設定されていること特徴とする。
【0006】
これにより、インパルスバルブの開弁期間が吸気バルブの開弁期間より短く、かつ吸気バルブの開弁期間内に設定されていることで、吸気工程中に吸気通路に負圧の圧力波を発生させ、インパルスバルブの上流側で反射して正圧となった圧力波により次サイクルでの筒内への吸気の流入を促進させて、充填効率を向上させる。
インパルスバルブの開口量が排気バルブの開口量より小さく設定されていることで、エンジン筒内及び吸気通路を密閉する期間を長くすることができ、吸気工程中にエンジン筒内及び吸気通路に負圧を大きく発生させることができ、インパルスバルブによる効果を大きく得ることができる。また、吸気バルブの開口量が排気バルブの開口量より大きく設定されていることで、吸気バルブの開弁時には吸気抵抗を低下させ、充填効率を更に向上させる。
【0007】
好ましくは、前記インパルスバルブを開閉する場合に、前記インパルスバルブが開弁状態に維持される場合と比較して、前記吸気バルブの閉弁時期が遅角設定されるとともに、前記吸気バルブの閉弁時期の遅角設定に合わせて、前記インパルスバルブの閉弁時期を遅角設定するとよい。
これにより、吸気バルブとともにインパルスバルブの閉弁時期を遅角して、インパルスバルブの開弁期間を長く設定することができる。したがって、高回転域でのエンジンの出力トルクを上昇させることができる。
【0008】
好ましくは、前記インパルスバルブの開弁期間の中央位置は、前記吸気バルブの開弁期間の中央位置と同一にするとよい。
これにより、吸気バルブの開弁からインパルスバルブが開弁するまでの期間を確保して、負圧の発生を促進させるとともに、吸気バルブの閉弁からインパルスバルブが閉弁するまでの期間を確保して吸気通路に反射してきた正圧を閉じ込め、次サイクルでの吸気の筒内への吸気の流入を十分に促進させることができる。
【0009】
好ましくは、前記吸気バルブの開弁期間を変更するバルブタイミング制御装置を備え、
前記インパルスバルブの開弁期間は、前記吸気バルブの開弁期間に合わせて変更されるとよい。
これにより、バルブタイミング制御装置によって吸気バルブの開弁期間を適切に変更することで、エンジンの出力トルクを向上させるとともに、インパルスバルブの開弁期間を吸気バルブの開弁期間に合わせて変更することで、吸気バルブの開弁期間が変更してもインパルスバルブの開弁期間を適切に設定して、インパルスバルブによる効果を確保することができる。
【0010】
好ましくは、前記インパルスバルブは、前記吸気バルブを駆動するカムシャフトから伝動部材を介して同期駆動されるとよい。
これにより、吸気バルブの開弁期間が変更されても、簡単な構造でインパルスバルブの開弁期間を吸気バルブの開弁期間に合わせて適切に設定することができる。
好ましくは、前記エンジンは4気筒であって、前記排気バルブは、前記インパルスバルブが開弁状態に維持される場合と比較して、閉弁時期が遅角設定されているとよい。
【0011】
これにより、エンジンが4気筒である場合に、排気バルブの開弁時期を遅角設定することで、排気干渉を押さえ、次サイクルでの吸気の筒内への吸気の流入を促進させることができる。
好ましくは、シリーズモードが可能なハイブリッド車に搭載され、所定回転速度以下で運転するとよい。
【0012】
これにより、インパルスバルブにより充填効率が向上する効果は、中低速回転域で大きく得られるので、シリーズモードでのエンジンのように中低速回転域で一定に運転するエンジンに好適なものになる。
好ましくは、前記吸気バルブと前記インパルスバルブとの間の前記吸気通路の内壁に、外部との熱交換を阻害する断熱材を備えるとよい。
【0013】
これにより、エンジンの熱により吸気温度が上昇することを抑え、エンジンの充填効率を向上させることができる。なお、インパルスバルブにより吸気通路に吸気が閉じ込められる時間が増加するので、この断熱材による効果を高く得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るエンジンの吸気装置によれば、インパルスバルブの開口量が適切に設定され、充填効率を大きく向上させることができる。特に、中低回転域での充填効率を向上させることでき、例えばハイブリッド車のシリーズモードにおいて使用されるエンジンのように、中低速回転域で定常運転するのに好適なエンジンにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの吸気系の概略構造図である。
図2】本実施形態のエンジンの右側面図である。
図3】インパルスバルブを備えたエンジンにおける、クランク角度に対する各バルブのリフト量及び吸気系の圧力の推移の一例を示すグラフである。
図4】インパルスバルブを備えたエンジンにおける、クランク角度に対する各バルブのリフト量及び吸気ポート内の吸気温度の推移の一例を示すグラフである。
図5】本実施形態のエンジンにおけるインパルスバルブの開弁期間及びリフト量の設定例を示すグラフである。
図6】インパルスバルブの開弁期間とリフト量の設定例を示すグラフである。
図7】インパルスバルブの開弁期間の長さ及びリフト量が異なる設定例でのエンジンの回転速度と出力トルクとの関係を示すグラフである。
図8】排気バルブの開弁期間及びリフト量の設定例を示すグラフである。
図9】排気バルブの開弁期間とリフト量が異なる設定例でのエンジンの回転速度と出力トルクとの関係を示すグラフである。
図10】エンジン回転速度に対するエンジンの出力トルクについて、インパルスバルブ、可変バルブタイミング機構、吸気ポート内樹脂加工の有無で比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るエンジン1の吸気系の概略構造図である。図1は、1つの気筒を上下前後方向に延びる面で切断し、右前方から視た縦断面斜視図である。図2は、本実施形態のエンジン1の右側面図である。
本発明の吸排気装置を採用した一実施形態であるエンジン1は、直列4気筒の4ストロークエンジンであり、車両に横置きに配置されている。気筒に対して車両前方側に吸気ポート4が延び、車両後方側に排気ポート6が延びるように配置されている。
【0017】
なお、以降の説明においては、車両に設置された際でのエンジン1の向きを使用して説明する。
図1、2に示すように、本実施形態のエンジン1には、シリンダヘッド2の前壁面3から前方かつわずかに上方に延びるように吸気ポート4が備えられている。また、エンジン1には、シリンダヘッド2の後壁面5から後方かつわずかに上方に延びるように排気ポート6が備えられている。
【0018】
シリンダヘッド2の前面には、吸気マニホールド10(吸気通路)が配置されている。吸気マニホールド10は、各気筒の吸気ポート4に接続される4個のブランチ管11と、サージタンク12とを備えている。
サージタンク12は、エンジン1の上部前面に左右方向に延びるように配置されている。サージタンク12の右部には図示しない吸気管が接続されており、吸気が導入される。
【0019】
エンジン1には、EGR装置が備えられている。EGR装置は、EGR通路21と、図示しないEGRバルブを備えている。EGR通路21は、エンジン1の排気ポート6に接続された排気マニホールド22と吸気マニホールド10とを接続する配管である。EGRバルブは、EGR通路21を開閉する開閉弁であり、エンジンコントロールユニット100によって開度が制御される。
【0020】
EGR通路21は、サージタンク12の右部、吸気管との接続部付近に接続されている。したがって、サージタンク12の右部から流入した吸気は、EGR通路21から導入された排気(EGRガス)と混合しつつサージタンク12内に流入する。
各気筒の吸気ポート4に接続された4本のブランチ管11は、サージタンク12の上部に左右方向に並ぶように接続されている。更に、本実施形態では、サージタンク12と各ブランチ管11との接続部に、夫々インパルスバルブ25が備えられている。
【0021】
インパルスバルブ25は、ポペットタイプの開閉弁であり、サージタンク12とブランチ管11との接続部を開閉するように配置される。インパルスバルブ25は、上方に向かってわずかに前方に傾斜して上下方向に延びるように配置されたインパルスバルブシャフト26と、インパルスバルブシャフト26の下端に備えられた弁体27と、弁体27を開方向に付勢するインパルスバルブスプリング28と、を備えている。
【0022】
インパルスバルブシャフト26の上端部は、サージタンク12の上方で左右方向に延びるように配置されたインパルスバルブカムシャフト30に設けられたカム31によって下方に押される。これにより、インパルスバルブカムシャフト30の回転に応じて、インパルスバルブシャフト26が上下動し、弁体27が開閉駆動する。
吸気マニホールド10は、サージタンク12を形成する樹脂製のロアケース10aと、ブランチ管11を形成するアルミ製のアッパーケース10bによって構成されている。
【0023】
アッパーケース10bは、更にインパルスバルブカムシャフト30を収納する筒状のインパルスバルブカムシャフトケース35と、インパルスバルブシャフト26及びインパルスバルブスプリング28を収納する4本のインパルスバルブケース36と、を有している。インパルスバルブケース36は、インパルスバルブカムシャフトケース35とサージタンク12とを接続するように構成されている。
【0024】
エンジン1のシリンダヘッド2の前側には、吸気ポート4に燃料を噴射する燃料噴射弁40が備えられている。燃料噴射弁40は、各吸気ポート4の上部に左右方向に並んで4個備えられており、シリンダヘッド2の前壁面3と吸気マニホールド10のアッパーケース10bとの間に囲まれた空間に配置されている。各燃料噴射弁40には、シリンダヘッド2の前壁面3と吸気マニホールド10のアッパーケース10bとの間に囲まれた空間内で左右方向に延びるように配置されたデリバリパイプ41から燃料が供給される。
【0025】
インパルスバルブカムシャフト30の右端部は、インパルスバルブカムシャフトケース35から外方に突出している。インパルスバルブカムシャフト30の右端部には、ベルト45(伝動部材)を掛け回すためのプーリー46が備えられている。
一方、エンジン1の吸気バルブ50を駆動する吸気カムシャフト51(カムシャフト)の右端部には、可変バルブタイミング機構52(バルブタイミング制御装置)が備えられている。吸気カムシャフト51は、エンジン1の図示しないクランクシャフトからタイミングベルトを介して駆動される。可変バルブタイミング機構52は、例えば電動アクチュエータを内蔵し、タイミングベルトによって回転駆動される内蔵のプーリーから吸気カムシャフト51に伝達する回転の位相を変化させる。
【0026】
吸気カムシャフト51の右端部と可変バルブタイミング機構52との間には、プーリーを備えた図示しないアダプタシャフトが吸気カムシャフト51と同軸に備えられている。アダプタシャフトのプーリーとインパルスバルブカムシャフト30のプーリー46とはベルト45(伝動部材)によって連結されている。したがって、エンジン1のクランクシャフトの回転は、タイミングベルト、可変バルブタイミング機構52及びアダプタシャフトを介して吸気カムシャフト51を回転駆動するように伝達するとともに、アダプタシャフトからベルト45を介してインパルスバルブカムシャフト30を回転させる構造になっている。
【0027】
エンジン1のシリンダヘッド2の右側壁55には車両後方に延びるブラケット56が固定されている。ブラケット56の後端部はインパルスバルブカムシャフトケース35の右側部に固定されている。また、ブラケット56の中間部には、アイドラープーリー57の軸部が支持されている。ブラケット56の前端部とインパルスバルブカムシャフトケース35とは固定位置が調整可能であって、ブラケット56とシリンダヘッド2との固定部を回転中心としてブラケット56の前部を上方に移動させて固定することで、アイドラープーリー57は、ベルト45を上方に押し付けて、ベルト45の撓みを減少させる効果を有する。
【0028】
更に、吸気ポート4には、樹脂製の筒体60(断熱材)が挿入されている。即ち吸気ポート4の内壁面が外部と熱交換を阻害するように、断熱性の高い樹脂性になっている。
また、エンジン1のシリンダヘッド2には、吸気カムシャフト51と平行に排気カムシャフト65が備えられている。排気カムシャフト65は、各気筒の排気ポート6に備えられた排気バルブ66を駆動するためのカムが備えられている。排気カムシャフト65も吸気カムシャフト51と同様に、エンジン1のクランクシャフトからタイミングベルトを介して駆動される。
【0029】
エンジンコントロールユニット100は、エンジン1の作動を制御する制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、タイマ及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
エンジンコントロールユニット100の入力側には、クランク角センサやスロットルポジションセンサ等の各種センサ等から検出情報を入力し、燃料噴射弁40、図示しない点火プラグ、電子制御スロットルバルブ、EGRバルブ等のエンジン1の各種機器、及び可変バルブタイミング機構52のアクチュエータを作動制御する。
【0030】
次に、図3、4を用いて、インパルスバルブ25による作動原理(一般的な作用)について簡単に説明する。
図3、4は、本実施形態のように吸気マニホールド10のブランチ管11(ランナー)毎にポペットバルブであるインパルスバルブ25を備えたエンジン1において、一定の回転速度(例えば1500rpm)で運転した場合での、各気筒におけるクランク角度に対する各バルブ(吸気バルブ50、排気バルブ66、インパルスバルブ25)のリフト量の1サイクルでの推移の一例を示している。更に図3は各圧力(筒内圧Pc、吸気ポート圧Pi)の推移を示し、図4は吸気ポート内ガス温度Tiの推移を示している。図3、4において、Vaが排気バルブ66、Vbが吸気バルブ50、Vcがインパルスバルブ25のリフト量を示す。また、各圧力及び吸気ポート内ガス温度については、実線がインパルスバルブ25を備えた場合、破線がインパルスバルブ25を備えていない場合を示す。なお、各バルブのリフト量については、図3図4とで比率が異なって記載されているが同一の値である。
【0031】
図3に示すように、インパルスバルブ25を備えたエンジンでは、インパルスバルブ25の開弁期間を吸気バルブ50の開弁期間に対して短くし吸気バルブ50の開弁期間内に設定することで、吸気行程開始後にピストンが下がるに従って、筒内に負圧が発生し圧力波が発生する(図3中のa)。
その後,吸気行程途中でインパルスバルブ25を開弁する。これにより、吸気ポート4と筒内の圧力差によって吸気が高速で筒内に流入する。この際に発生する負圧波が上流側にあるサージタンク12等で反射し,正圧波となって筒内に到達した時にインパルスバルブ25を閉弁するように設定する。これにより、充填効率が向上する(図3中のb)。
【0032】
さらに,吸気ポート4に閉じ込められた正圧(図3中のc)で,次サイクルのバルブオーバーラップ期間中の吹き返しが抑制される。したがって、掃気性が向上し、吸気ポート4内の吸気の温度が低下して(図4中のd)、耐ノック性が向上する。
次に、本実施形態のエンジン1における各バルブ(吸気バルブ50、排気バルブ66、インパルスバルブ25)の開弁期間及びリフト量の詳細な設定について説明する。
【0033】
図5は、吸気バルブ50、排気バルブ66及びインパルスバルブ25の、クランク角度に対するリフト量の設定例を示すグラフである。
図5において、Vaが排気バルブ66、Vb群が吸気バルブ50、破線で示すVc群がインパルスバルブ25を示す。
本実施形態のエンジン1では、排気バルブ66におけるクランク角度とリフト量との関係は、図5のVaに示すように一義的に設定されている。
【0034】
一方、上記のように吸気カムシャフト51に可変バルブタイミング機構52を備えているので、吸気バルブ50におけるクランク角度とリフト量との関係は、図5のVbに示すように、所定範囲のクランク角度内で進遅角の制御が可能になっている。図5では、5段階の設定例を示している。
インパルスバルブ25は、吸気カムシャフト51と同期駆動するので、吸気バルブ50の進遅角に合わせて進遅角する。例えば図5のVcに示すように、吸気バルブ50の進遅角が5段階に設定されると、インパルスバルブ25の進遅角も5段階に設定される。例えば図5において、吸気カムシャフトが最も進角した場合にインパルスバルブ25も最も進角し、吸気カムシャフトが最も遅角した場合にインパルスバルブ25も最も遅角するように設定される。なお、吸気バルブ50が連続的に進遅角すれば、インパルスバルブ25も連続的に進遅角する。
【0035】
本実施形態のエンジン1では、可変バルブタイミング機構52によって、吸気バルブ50を最も遅角させたときに、吸気バルブ50の開弁を開始するクランク角度は、排気バルブ66を閉弁するクランク角度よりわずかに進角したクランク角度に設定されている。即ち、吸気バルブ50の開弁時期を変更しても、バルブオーバーラップ期間を有する。
図5に示すように、本実施形態ではインパルスバルブ25の開弁期間は、吸気バルブ50の開弁期間より短くし、吸気バルブ50の開弁期間内とする。これは、上記のようにインパルスバルブ25の作動原理から必要な公知の制御である。
【0036】
更に、インパルスバルブ25の開弁期間を吸気バルブ50の開弁期間内とした上でできる限り大きくするとよい。これは、インパルスバルブ25の開弁期間が高回転側の性能に大きく関与するためである。例えば吸気カムシャフト51を、インパルスバルブ25のないエンジン(インパルスバルブ25を開弁状態に維持するような場合)に使用される通常カムよりも遅く閉じるカム(遅閉カム)を備えたものにすればよい。これにより、インパルスバルブ25の開弁期間を遅角側に大きく取ることができる。
【0037】
ここで、例えば図6に示すように、インパルスバルブ25の開弁期間の長さ及びリフト量を吸気バルブ50の開弁期間内で、仕様1(Vc1)と仕様1よりも開弁期間が長くかつリフト量の大きい仕様2(Vc2)とで、エンジン1の出力トルクを実測して比較した。
すると、図7に示すように、インパルスバルブ25を開閉制御する仕様1(Vc1)及び仕様2(Vc2)は、インパルスバルブ25を開状態のまま維持する、即ちインパルスバルブ25を有しない仕様0(Vc0)と比較すると低回転領域において出力トルクが大きく増加する。しかしながら、インパルスバルブ25の開弁期間の長さ及びリフト量が比較的短い仕様1では、中高回転領域において出力トルクが大きく低下してしまう。詳しくは、仕様1のようにインパルスバルブ25の開弁期間の長さ及びリフト量が短すぎると、中高回転領域においては、脈動の効果よりも開口部の大きさで吸気の流入が律速されるため充填効率が減少し、出力トルクが低下する。
【0038】
これに対し、インパルスバルブ25の開弁期間の長さ及びリフト量が仕様1よりも大きい仕様2では、中高回転領域において出力トルクの低下が抑制される。
また、インパルスバルブ25の開弁期間の中央位置は吸気バルブ50の開弁期間の中央位置とほぼ同じとし、両バルブ50、25の開閉間隔をほぼ同一に、詳しくは吸気バルブ50の開弁時期とインパルスバルブ25の開弁時期との間隔と、吸気バルブ50の閉弁時期とインパルスバルブ25の閉弁時期との間隔をほぼ同一とするとよい。
【0039】
これは、上記のように筒内に負圧(圧力波)を発生させる作用と(図3中のa)、吸気ポート4に正圧を閉じ込めさせる作用と、の両方を十分得るためのである。
本実施形態のように吸気バルブ50の駆動系に可変バルブタイミング機構52を備えたエンジン1では、可変バルブタイミング機構52による吸気バルブ50の進遅角に同期してインパルスバルブ25を進遅角する。
【0040】
詳しくは、排気バルブ66の開弁期間とインパルスバルブ25の開弁期間とが重ならない程度にインパルスバルブ25の進角量を制限させる。
これは、バルブオーバーラップ期間を大きくすることで吹き返しを抑制し、掃気が向上するため特に低回転時進角側に設定するが、インパルスバルブ25が開弁すると吹き返し効果がなくなるため、これを回避するためである。
【0041】
一方、排気バルブ66の開弁期間及びリフト量についても、インパルスバルブ25よりも長く大きく設定する。言い換えると、排気バルブ66の開口量(1サイクル当たりの開口面積の積分値)を、インパルスバルブ25の開口量より大きくする。
筒内に負圧を発生させて圧力差を利用して筒内に新規に流入する自然吸気式のエンジン1では、吸気バルブの50の開弁期間の長さ及びリフト量は、排気バルブの66の開弁期間の長さ及びリフト量より大きい。そして、排気バルブ66の開弁期間及びリフト量を、インパルスバルブ25よりも長く大きく設定するのは、排気の際に筒内から既燃ガスを流出させる掃気性を向上させるためである。なお、掃気性が低下すると、既燃ガスが筒内に残り、新規の混合気が筒内に入り難くなり、出力低下を招く。
【0042】
但し、上記のように排気バルブの66の開弁期間の長さ及びリフト量を、インパルスバルブ25よりも長く&大きくすることが望ましいが、4気筒であるエンジン1の場合は排気干渉を抑えた方が吹き返しを抑制する効果が増すため、排気バルブ66の開弁時期を適宜短く設定するとよい。
図8、9には、本実施形態において、排気バルブ66の開弁期間(クランク角範囲)とリフト量を変更した場合でのエンジン1の回転速度毎の出力トルクの実測例を示している。
【0043】
図8に示すように、基準の排気バルブ66(Va0)に対し、排気バルブ66の開弁期間(クランク角範囲)とリフト量を、乗数(例えばVa1では0.95、Va2では0.90、Va3では0.85、Va4では0.80)を積算した値に設定する。
すると図9に示すように、基準の開弁期間に設定された排気バルブ66(Va0)よりも、開弁期間を短く設定した排気バルブ(Va2)では、少なくとも中低回転域(1500rpm~5000rpm)において、エンジン出力トルクが増加する。
【0044】
以上のように、インパルスバルブ25開弁期間の中心を吸気バルブ50の開弁期間の中心とほぼ同じとし、両バルブ50、25の開閉間隔をほぼ同一とすること、排気バルブ66の開弁期間とインパルスバルブ25の開弁期間とが重ならない程度にインパルスバルブ25の進角量を制限させた上で、インパルスバルブ25の開弁期間を大きく設定することで、エンジン1の出力、特に中低回転域でのエンジン出力トルクを増加させることができる。
【0045】
更に、排気バルブ66の開弁期間を適宜短く設定することで、中低回転域において、エンジン出力トルクが更に増加する。但し、高回転域では逆にエンジン出力が低下するので、シリーズ式のハイブリッド車のように、発電機を中回転(所定回転速度)以下で運転する車両のエンジン1に好適なものになる。
更に、本実施形態では、吸気ポート4に樹脂製の筒体60が挿入されているので、エンジン1の駆動時に吸気ポート4を通過する際にエンジン1の熱によって吸気温度が上昇することを抑制できる、これにより、エンジン1の充填効率を更に高めることができる。
【0046】
特に、本実施形態ではインパルスバルブ25の閉弁時に吸気ポート4内に吸気を閉じ込めるので、吸気ポート4の内壁を樹脂製にして断熱させることで、吸気ポート4内のガス温度(吸気温度)を効果的に上昇することを抑え、充填効率を更に向上させることができる。
図10は、エンジン回転速度に対するエンジン1の出力トルクについて、インパルスバルブ25、可変バルブタイミング機構52、吸気ポート内樹脂加工(筒体60)の有無で比較したグラフである。
【0047】
図10中に記載された+点が本実施形態のように、インパルスバルブ25、可変バルブタイミング機構52及び筒体60を有するエンジン1での出力トルクを示す(A)。また、◇点がインパルスバルブ25及び筒体60を有するエンジン(B)、矩形状の点がインパルスバルブ25及び可変バルブタイミング機構52を有するエンジン(C)、×点がインパルスバルブ25を有するエンジン(D)、□点が筒体60を有するエンジン(E)、〇点がインパルスバルブ25、可変バルブタイミング機構52及び筒体60のいずれも有しないエンジン(F)での出力トルクを示す。
【0048】
図10に示すように、エンジン回転数(エンジン回転速度)が5000rpm弱以下では、インパルスバルブ25、可変バルブタイミング機構52及び筒体60のいずれか1つを有することでエンジンの出力トルクが増加し、これらを組み合わせることで更にエンジンの出力トルクが増加する。本実施形態のように、インパルスバルブ25、可変バルブタイミング機構52及び筒体60(吸気ポート内樹脂加工)を有するエンジン1は、エンジン回転数が5000rpm弱以下において、出力トルクが最も大きい。そして、シリーズ式の走行モードが可能なプラグインハイブリッド車やハイブリッド車では、エンジン回転数が5000rpm弱以下に設定されるので、この使用範囲に適した出力トルクの高いエンジンにすることができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。例えば上記のエンジン1は可変バルブタイミング機構52を備えているが、可変バルブタイミング機構52を備えておらず吸気バルブ50の開弁時期が一定のエンジンにも本発明を適用することができる。
また、上記の各種制御については、一部を実行してもよい。少なくとも本発明は、インパルスバルブ25の開弁期間が、吸気バルブ50の開弁期間より短く、かつ吸気バルブ50の開弁期間内に設定されていることを前提として、エンジンの1サイクル当たりの、インパルスバルブ25の開口量(開口面積(≒リフト量)の積分値)が排気バルブ66の開口量より小さく、かつ排気バルブ66の開口量が吸気バルブ50の開口量より小さく設定されればよい。
【0050】
本発明は、例えばシリーズモードが可能なハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に搭載したエンジンに適しているが、その他の使用条件のエンジンにも適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
4 吸気ポート
10 吸気マニホールド(吸気通路)
11 ブランチ管(吸気通路)
25 インパルスバルブ
45 ベルト(伝動部材)
50 吸気バルブ
51 吸気カムシャフト(カムシャフト)
52 可変バルブタイミング機構(バルブタイミング制御装置)
60 筒体(断熱材)
66 排気バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10