(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127033
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】抵抗素子の製造方法およびそれによって得られた抵抗素子
(51)【国際特許分類】
H01C 17/28 20060101AFI20230906BHJP
B23K 20/12 20060101ALI20230906BHJP
H01C 13/00 20060101ALI20230906BHJP
H01C 1/148 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
H01C17/28
B23K20/12 360
H01C13/00 J
H01C1/148 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030564
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】596091956
【氏名又は名称】冨士端子工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】長岡 亨
(72)【発明者】
【氏名】京田 猛
(72)【発明者】
【氏名】安東 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】三輪 哲司
【テーマコード(参考)】
4E167
5E028
5E032
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167AB03
4E167BG22
4E167DA04
4E167DC01
5E028BA21
5E028BB01
5E028CA12
5E028JA11
5E028JA16
5E028JB03
5E032BA21
5E032BB01
5E032CA12
5E032CC11
(57)【要約】
【課題】抵抗体と端子を良好な状態で接合できる抵抗素子の製造方法を提供する。
【解決手段】一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる第1金属部材10と、アルミニウムからなる第2金属部材20とを準備し、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を隙間ができないように隣接して配置し、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の境界3に対して回転工具30の外周縁が略一致するよう、上記回転工具30を上記第2金属部材20に挿入した状態で、上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させることにより、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を摩擦攪拌接合により接合し、上記第1金属部材10を抵抗素子本体11とし、上記第2金属部材20を電極部21とし、上記抵抗素子本体11と上記電極部21が、AL
2Cu化合物層を介して接合された抵抗素子1を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる第1金属部材と、アルミニウムからなる第2金属部材とを準備し、
上記第1金属部材と上記第2金属部材を実質的に隙間ができないように隣接して配置し、
上記第1金属部材と上記第2金属部材の境界に対して回転工具の外周縁が略一致するよう、上記回転工具を上記第2金属部材に挿入した状態で、上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1金属部材と上記第2金属部材を摩擦攪拌接合により接合し、
上記第1金属部材を抵抗素子本体とし、上記第2金属部材を電極部とし、上記抵抗素子本体と上記電極部が、AL2Cu化合物層を介して接合された抵抗素子を得る
ことを特徴とする抵抗素子の製造方法。
【請求項2】
上記第1金属部材と上記第2金属部材の境界に沿う領域を少なくとも覆う補助金属材を配置し、
上記補助金属材の存在する領域で上記回転工具を上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う
請求項1記載の抵抗素子の製造方法。
【請求項3】
隣接して配置された上記第1金属部材と上記第2金属部材の上側に上記補助金属材を配置し、
上記回転工具を上記補助金属材の上側から上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う
請求項2記載の抵抗素子の製造方法。
【請求項4】
隣接して配置された上記第1金属部材と上記第2金属部材の下側に上記補助金属材を配置し、
上記回転工具を上記第2金属部材の上側から上記補助金属材に至るまで上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う
請求項2または3記載の抵抗素子の製造方法。
【請求項5】
上記補助金属材を、第2金属部材と実質的に同じアルミニウムとする
請求項2~4のいずれか一項に記載の抵抗素子の製造方法。
【請求項6】
上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である
請求項1~5のいずれか一項に記載の抵抗素子の製造方法。
【請求項7】
一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる抵抗素子本体と、
上記抵抗素子本体に対して接合されたアルミニウムからなる電極部とを備え、
上記抵抗素子本体と上記電極部は、AL2Cu化合物層を介して接合されている
ことを特徴とする抵抗素子。
【請求項8】
上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である
請求項7記載の抵抗素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばシャント抵抗器等に利用可能な抵抗素子の製造方法およびそれによって得られた抵抗素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、普及し始めている電気自動車やスマートメーターでは、数十A~数百Aという大電流が流れることがある。このような大電流は、電流を電圧に変換して測定するシャント抵抗によって高速で精度よくしかも安価に測定できる。したがって、電気自動車やスマートメーターなどの普及にともない、シャント抵抗器の需要が増えている。
【0003】
このようなシャント抵抗器には、抵抗値の温度依存性が低いマンガニン(登録商標)が抵抗素子として用いられる。上記抵抗素子に銅等の金属からなる端子が溶接されて抵抗器が構成される。
【0004】
このような抵抗素子およびその製造方法に関する先行技術文献として、出願人は下記の特許文献1および2を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-220714号公報
【特許文献2】特許第6671129号公報
【0006】
上記特許文献1は、抵抗器に関する技術を開示するものであり、以下の記載がある。
〔0017〕
上記構成において、前記抵抗体11は銅ニッケル、ニクロム、マンガニン等の金属板により構成されている。また前記金属端子12は、前記抵抗体11より電気伝導度が大きな金属、例えば金、銀、銅、アルミニウム等の金属により板状に構成され、そしてこの板状の金属端子12は抵抗体11の両端部を挟みこむようにU字状に折り曲げられて形成されている。そしてまた、この金属端子12は前記抵抗体11の少なくとも上面および下面に電気的に接続されるように構成している。
【0007】
上記特許文献2は、シャント抵抗器の製造方法に関する技術を開示するものであり、以下の記載がある。
〔0002〕
長板状の抵抗体に電極となる長板状金属板を接合し、この接合した板材(溶接済み板材)から所定形状に切り抜いて抵抗器とするものが公知である。この場合に抵抗体は通常、Cu(銅)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)等のマンガニン金属合金であり、端子板は通常銅板である。このような異種金属を溶接する手段として、電子ビームを用いる方法が公知である。この電子ビームを用いる方法は、真空中で電子ビームを接合部(抵抗体と端子板との突き合わせ部)に照射する必要があるため真空チャンバや真空装置が必要になり、溶接装置が大型化し高価になり、また溶接処理能率が悪いという問題が有った。
〔0003〕
そこで電子ビームに代えてレーザービームを用いて溶接することが提案されている。特許文献1には、長板状の抵抗体と端子板との突き合わせ端面に外側からレーザビームを照射して、抵抗体と端子板の接触部を溶融接合する方法が開示されている。この種の抵抗器において、いわゆるシャント抵抗器が近年広く使用されている。このシャント抵抗器は自動車などの電子機器などにおいて、電流を検出するために広く用いられるものであるが、この場合は抵抗値が小さく大電流に耐えられる(大定格電力)ものであることが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1は、抵抗体11の両端部に金属端子12を挟みこむようにU字状に折り曲げられて形成した抵抗器が開示されている。上記抵抗体11としてマンガニン(登録商標)を用いることが記載され、上記金属端子12を構成する金属として銅やアルミニウムを用いることが記載されている。
【0009】
上記特許文献2は、マンガニン金属合金からなる抵抗体に銅板を溶接してシャント抵抗器を製造する方法が開示されている。上記の溶接を行う手段として、電子ビームを用いる方法やレーザービームを用いる方法について記載されている。
【0010】
抵抗器の構成としては、マンガニン(登録商標)の抵抗体に銅の金属端子を組み合わせるのが一般的である。マンガニン(登録商標)と銅を組み合わせた抵抗体には、常温で抵抗の温度計数が非常に小さい、抵抗値や抵抗温度計数の経年変化が少ない、対銅熱電力が小さい、圧延加工や細線加工が容易である、ろう付けやはんだ付けも容易である等のメリットがあるからである。一方、耐蝕性が悪い、僅かの加工が特性に影響する、常温付近の抵抗温度係数がリニアでない、加熱により表面に劣化層を生じやすい、等のデメリットが知られている。
【0011】
また、上記のような抵抗器において、マンガニン(登録商標)と銅の接合は電子ビーム溶接が主であったが、電子ビーム溶接は真空環境が必須となり、レーザービーム溶接も実用化しているが、依然として設備が大型で高くなるという問題がある。
【0012】
上記特許文献1には、上記金属端子12としてアルミニウムを用いることが記載されているが、U字状に折り曲げた金属端子12で抵抗体11を挟みこんで機械的に接続するものである。このため金属端子12と抵抗体11の接合界面には、構造的な欠陥が避けられず、上述したような各種の抵抗体の特性が得られないおそれがある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
抵抗体と金属端子が欠陥の少ない極めて良好な状態で接合できる抵抗素子の製造方法およびそれによって得られた抵抗素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の抵抗素子の製造方法は、上記目的を達成するため、下記の構成を採用した。
一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる第1金属部材と、アルミニウムからなる第2金属部材とを準備し、
上記第1金属部材と上記第2金属部材を実質的に隙間ができないように隣接して配置し、
上記第1金属部材と上記第2金属部材の境界に対して回転工具の外周縁が略一致するよう、上記回転工具を上記第2金属部材に挿入した状態で、上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1金属部材と上記第2金属部材を摩擦攪拌接合により接合し、
上記第1金属部材を抵抗素子本体とし、上記第2金属部材を電極部とし、上記抵抗素子本体と上記電極部が、AL2Cu化合物層を介して接合された抵抗素子を得る。
【0015】
請求項2記載の抵抗素子の製造方法は、請求項1記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記第1金属部材と上記第2金属部材の境界に沿う領域を少なくとも覆う補助金属材を配置し、
上記補助金属材の存在する領域で上記回転工具を上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
【0016】
請求項3記載の抵抗素子の製造方法は、請求項2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
隣接して配置された上記第1金属部材と上記第2金属部材の上側に上記補助金属材を配置し、
上記回転工具を上記補助金属材の上側から上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
【0017】
請求項4記載の抵抗素子の製造方法は、請求項2または3記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
隣接して配置された上記第1金属部材と上記第2金属部材の下側に上記補助金属材を配置し、
上記回転工具を上記第2金属部材の上側から上記補助金属材に至るまで上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
【0018】
請求項5記載の抵抗素子の製造方法は、請求項2~4のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記補助金属材を、第2金属部材と実質的に同じアルミニウムとする。
【0019】
請求項6記載の抵抗素子の製造方法は、請求項1~5のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である。
【0020】
請求項7記載の抵抗素子は、上記目的を達成するため、下記の構成を採用した。
一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる抵抗素子本体と、
上記抵抗素子本体に対して接合されたアルミニウムからなる電極部とを備え、
上記抵抗素子本体と上記電極部は、AL2Cu化合物層を介して接合されている。
【0021】
請求項8記載の抵抗素子は、請求項8記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の抵抗素子の製造方法は、まず、一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる第1金属部材と、アルミニウムからなる第2金属部材とを準備する。ついで、上記第1金属部材と上記第2金属部材を実質的に隙間ができないように隣接して配置する。つぎに、上記第1金属部材と上記第2金属部材の境界に対して回転工具の外周縁が略一致するよう、上記回転工具を上記第2金属部材に挿入した状態で、上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1金属部材と上記第2金属部材を摩擦攪拌接合により接合する。これにより、上記第1金属部材を抵抗素子本体とし、上記第2金属部材を電極部とする抵抗素子を得る。
上記摩擦攪拌接合により、上記第2金属部材に塑性流動が生じて第1金属部材との上記境界に密着し、上記第1金属部材と第2金属部材が接合される。このとき、上記第2金属部材だけに塑性流動が生じ、第1金属部材では塑性流動がほとんど起こらない。また、上記抵抗素子本体と上記電極部が、AL2Cu化合物層を介して接合されるため、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。つまり、AL2Cu化合物層が生成することで、アルミニウムと銅は金属的に結合がなされる。しかも、2種類の金属が混合することなく、AL2Cu化合物層が接合界面にフィルム状に形成され、接合部の電気抵抗値が安定する。さらに、AL2Cu化合物層の厚さを1ミクロン程度と薄いものにすれば、接合部が脆性的に破壊し難くなる。
【0023】
請求項2記載の抵抗素子の製造方法は、上記第1金属部材と上記第2金属部材の境界に沿う領域を少なくとも覆う補助金属材を配置する。そして、上記補助金属材の存在する領域で上記回転工具を上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。また、上記第1金属部材と上記第2金属部材が薄板(たとえば2mm以下程度)であっても、上記第1金属部材と上記第2金属部材を上記補助金属材が保持することにより、良好な接合状態が得られる。
【0024】
請求項3記載の抵抗素子の製造方法は、隣接して配置された上記第1金属部材と上記第2金属部材の上側に上記補助金属材を配置する。そして、上記回転工具を上記補助金属材の上側から上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。また、上記第1金属部材と上記第2金属部材が薄板(たとえば2mm以下程度)であっても、上記第1金属部材と上記第2金属部材を上記補助金属材が保持することにより、良好な接合状態が得られる。
【0025】
請求項4記載の抵抗素子の製造方法は、隣接して配置された上記第1金属部材と上記第2金属部材の下側に上記補助金属材を配置する。そして、上記回転工具を上記第2金属部材の上側から上記補助金属材に至るまで上記第2金属部材に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。また、上記第1金属部材と上記第2金属部材が薄板(たとえば2mm以下程度)であっても、上記第1金属部材と上記第2金属部材を上記補助金属材が保持することにより、良好な接合状態が得られる。
【0026】
請求項5記載の抵抗素子の製造方法は、上記補助金属材を、第2金属部材と実質的に同じアルミニウムとする。
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。
【0027】
請求項6記載の抵抗素子の製造方法は、上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である
このため、市場に流通する銅-マンガン-ニッケル合金で上記抵抗素子を構成することができ、一定品質のものを安価に得ることができる。
【0028】
請求項7記載の抵抗素子は、一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる抵抗素子本体と、上記抵抗素子本体に対して接合されたアルミニウムからなる電極部とを備えている。そして、上記抵抗素子本体と上記電極部は、AL2Cu化合物層を介して接合されている。このため、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。つまり、AL2Cu化合物層が生成することで、アルミニウムと銅は金属的に結合がなされる。しかも、2種類の金属が混合することなく、AL2Cu化合物層が接合界面にフィルム状に形成され、接合部の電気抵抗値が安定する。さらに、AL2Cu化合物層の厚さを1ミクロン程度と薄いものにすれば、接合部が脆性的に破壊し難くなる。
【0029】
請求項8記載の抵抗素子は、上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である。
このため、市場に流通する銅-マンガン-ニッケル合金で上記抵抗素子を構成することができ、一定品質のものを安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の抵抗素子の製造方法の第1実施形態を説明する図である。
【
図2】上記方法によって得られた抵抗素子を説明する図である。
【
図3】本発明の抵抗素子の製造方法の第2実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0032】
〔工程〕
図1は、本発明の抵抗素子の製造方法の第1実施形態を説明する図である。(A)は正面から見た状態、(B)は上から見た状態である。
【0033】
この製造方法は、まず、一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる第1金属部材10と、アルミニウムからなる第2金属部材20とを準備する。
【0034】
上記第1金属部材10を構成する上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上のものを好ましく用いることができる。たとえば、JIS C 2532において一般電気抵抗用の銅マンガンGCM44として規定されるものや、マンガニン(登録商標)として流通するものを用いることができる。
【0035】
上記第1金属部材10を構成する上記アルミニウムとしては、電気接続用の端子材料として用いられる各種のアルミニウム系の材料(合金を含む)を用いることができる。
【0036】
図示した例では、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20は、ともに四角形(正方形または長方形)を呈している。
【0037】
ついで、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を実質的に隙間ができないように隣接して配置する。図示した例では、それぞれ四角形の板材である第1金属部材10と第2金属部材20を、金床40上に載せ、互いの辺を突き合せて配置する。上記第1金属部材10と第2金属部材20と突き合せたところに境界3が形成される。
【0038】
上記金床40は、第1金属部材10と第2金属部材20を突き合せた状態より、すこし大きな四角形である。この例では、上記金床40には、突き合せた第1金属部材10と第2金属部材20の境界3に沿うように隙間41が形成されている。
【0039】
つぎに、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の上記境界3に対して回転工具30の外周縁が略一致するよう、上記回転工具30を上記第2金属部材20に挿入した状態で、上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させることにより、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を摩擦攪拌接合により接合する。
【0040】
図2は、上記第1金属部材10の両側に、一対の上記第2金属部材20を上述した摩擦攪拌接合により接合した状態である。(A)は平面図、(B)は正面から見た状態である。
【0041】
このようにして、上記第1金属部材10を抵抗素子本体11とし、上記第2金属部材20を電極部21とした抵抗素子1を得ることができる。
【0042】
上述したように、上記抵抗素子本体11を構成する上記第1金属部材10は、一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなるものである。好ましくは、上記銅-マンガン-ニッケル合金として、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上であるものを用いることができる。上記電極部21を構成する第2金属部材20はアルミニウムである。そして、摩擦攪拌の作用により、上記第1金属部材10(銅-マンガン-ニッケル合金)中の銅と、上記第2金属部材20(アルミニウム)が反応して両者の界面に化合物層が形成される。これにより、上記抵抗素子本体11と上記電極部21は、AL2Cu化合物層を介して接合される。
【0043】
〔第1実施形態の効果〕
上記第1実施形態の抵抗素子の製造方法は、まず、一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる第1金属部材10と、アルミニウムからなる第2金属部材20とを準備する。ついで、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を実質的に隙間ができないように隣接して配置する。つぎに、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の境界3に対して回転工具30の外周縁が略一致するよう、上記回転工具30を上記第2金属部材20に挿入した状態で、上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させることにより、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を摩擦攪拌接合により接合する。これにより、上記第1金属部材10を抵抗素子本体11とし、上記第2金属部材20を電極部21とする抵抗素子を得る。
上記摩擦攪拌接合により、上記第2金属部材20に塑性流動が生じて第1金属部材10との上記境界3に密着し、上記第1金属部材10と第2金属部材20が接合される。このとき、上記第2金属部材20だけに塑性流動が生じ、第1金属部材10では塑性流動がほとんど起こらない。また、上記抵抗素子本体11と上記電極部21が、AL2Cu化合物層を介して接合されるため、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。つまり、AL2Cu化合物層が生成することで、アルミニウムと銅は金属的に結合がなされる。しかも、2種類の金属が混合することなく、AL2Cu化合物層が接合界面にフィルム状に形成され、接合部の電気抵抗値が安定する。さらに、AL2Cu化合物層の厚さを1ミクロン程度と薄いものにすれば、接合部が脆性的に破壊し難くなる。
【0044】
上記第1実施形態の抵抗素子の製造方法は、上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である
このため、市場に流通する銅-マンガン-ニッケル合金で上記抵抗素子を構成することができ、一定品質のものを安価に得ることができる。
【0045】
上記第1実施形態の抵抗素子は、一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金からなる抵抗素子本体11と、上記抵抗素子本体11に対して接合されたアルミニウムからなる電極部21とを備えている。そして、上記抵抗素子本体11と上記電極部21は、AL2Cu化合物層を介して接合されている。このため、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。つまり、AL2Cu化合物層が生成することで、アルミニウムと銅は金属的に結合がなされる。しかも、2種類の金属が混合することなく、AL2Cu化合物層が接合界面にフィルム状に形成され、接合部の電気抵抗値が安定する。さらに、AL2Cu化合物層の厚さを1ミクロン程度と薄いものにすれば、接合部が脆性的に破壊し難くなる。
【0046】
上記第1実施形態の抵抗素子は、上記銅-マンガン-ニッケル合金は、Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上である。
このため、市場に流通する銅-マンガン-ニッケル合金で上記抵抗素子を構成することができ、一定品質のものを安価に得ることができる。
【0047】
図3は、本発明の抵抗素子の製造方法の第2実施形態を説明する図である。(A)は第1例、(B)は第2例、(C)は第3例である。
【0048】
第2実施形態では、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の境界3に沿う領域を少なくとも覆う補助金属材50A/50Bを配置する。そして、上記補助金属材50A/50Bの存在する領域で上記回転工具30を上記第2金属部材20に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
【0049】
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。
【0050】
第2実施形態では、上記補助金属材50A/50Bを、第2金属部材20と実質的に同じアルミニウムとすることができる。
【0051】
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。
【0052】
【0053】
この例では、隣接して配置された上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の上側に補助金属材50Aを配置する。また、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の下側にも補助金属材50Bを配置する。上記下側の補助金属材50Bは、金床40Aに形成された溝42にはめ込まれている。そして、上記回転工具30を上記補助金属材50Aの上側から上記補助金属材50Bに至るまで上記第2金属部材20に挿入し、上記摩擦攪拌接合を行う。
【0054】
【0055】
この例では、隣接して配置された上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の上側に上記補助金属材50Aを配置し、上記回転工具30を上記補助金属材50Aの上側から上記第2金属部材20に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
【0056】
【0057】
この例では、隣接して配置された上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の下側に上記補助金属材50Bを配置し、上記回転工具30を上記第2金属部材20の上側から上記補助金属材50Bに至るまで上記第2金属部材20に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
【0058】
〔第2実施形態の効果〕
第2実施形態の抵抗素子の製造方法は、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20の境界3に沿う領域を少なくとも覆う補助金属材50A/50Bを配置する。そして、上記補助金属材50A/50Bの存在する領域で上記回転工具30を上記第2金属部材20に挿入することにより上記摩擦攪拌接合を行う。
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材50A/50Bが上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。また、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20が薄板(たとえば2mm以下程度)であっても、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20を上記補助金属材50A/50Bが保持することにより、良好な接合状態が得られる。
【0059】
第2実施形態の抵抗素子の製造方法は、上記補助金属材50A/50Bを、第2金属部材20と実質的に同じアルミニウムとする。
このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材50A/50Bが上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。
【実施例0060】
図4は、実施例の抵抗素子1の断面顕微鏡写真を示す。
【0061】
上記実施例の抵抗素子1は、以下の条件により得た。
▽第1金属部材10:
一般電気抵抗用の銅-マンガン-ニッケル合金(Mn:10~13重量%、Ni:1~4重量%、残部:Cuであり、Cu+Ni+Mnが98重量%以上)(板厚3mm)
▽第2金属部材20:
アルミニウム(板厚3mm)
▽摩擦攪拌接合:
回転工具直径:6mm
回転数:2000rpm
移動速度:200mm/min
補助金属材:アルミニウム
【0062】
2枚の写真は、拡大倍率が異なるものである。いずれの写真においても、画面の左側に見える相が銅-マンガン-ニッケル合金であり、画面の右側に見える相がアルミニウムである。
【0063】
図からわかるように、上述した摩擦攪拌接合により上記第1金属部材10(抵抗素子本体11)と上記第2金属部材20(電極部21)を接合することで、上記抵抗素子1は、上記抵抗素子本体11と上記電極部21が、AL2Cu化合物層を介して接合されている。上記AL2Cu化合物層の厚みは1ミクロン程度の薄いものであった。
【0064】
〔変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。