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特開2023-127037レーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127037
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】レーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/064 20140101AFI20230906BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20230906BHJP
   G02B 27/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B23K26/064 Z
B23K26/073
G02B27/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030574
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小森 一範
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敬志
(72)【発明者】
【氏名】竹本 昌紀
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD11
4E168BA02
4E168BA83
4E168BA87
4E168CA02
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA36
4E168DA39
4E168EA11
4E168EA13
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】レーザビームのスポットの移動速度が速くても、溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないレーザビームのスポットの像形状及びエネルギー強度分布を得ることができるレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの照射軌道内において、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー強度分布を調整するエネルギー強度分布調整機構を備え、前記エネルギー強度分布調整機構は、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー強度分布が不均一になるよう調整することを特徴とするレーザビーム照射用光学ユニットを採用した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、
前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの照射軌道内において、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー強度分布を調整するエネルギー強度分布調整機構を備え、
前記エネルギー強度分布調整機構は、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー強度分布が不均一になるよう調整することを特徴とするレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項2】
前記不均一なエネルギー強度分布は、前記加工対象物上における前記スポットの進行方向側の領域である前方領域における前記レーザビームのエネルギー強度が弱く、前記前方領域とは異なる後方領域における前記レーザビームのエネルギー強度が強いエネルギー強度分布である請求項1に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項3】
前記不均一なエネルギー強度分布の強弱比は、当該エネルギー強度分布における強いエネルギー強度を1とした場合、弱いエネルギー強度が0.1以上0.95以下である請求項1又は請求項2に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項4】
前記スポットにおける前記レーザビームの像形状は、少なくとも環状の周辺領域からなる環状形状である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項5】
前記エネルギー強度分布調整機構には、
前記レーザビームの前記照射軌道への入射方向を調整するためのレーザビーム方向調整機構、
前記レーザビームを平行光にするためのコリメートレンズ、及び、
前記レーザビームを前記スポットに集光するための集光レンズのうち少なくとも1つが含まれる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項6】
前記照射軌道内に、前記エネルギー強度分布調整機構を用いて調整した前記スポットにおけるエネルギー強度分布を確認するための観測装置を備える請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項7】
前記観測装置で観測する観測光が、前記レーザビームとは異なる観測用の前記観測光である請求項6に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項8】
レーザ加工ヘッド内に、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニットを収容して得られることを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、レーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザビームが種々の製品の加工に広く用いられている。レーザビームは、1点に集光して被加工物に照射することによって被加工物の表面温度を急激に上昇させ、被加工物の被照射面を融解もしくは蒸発させる。このレーザビームを用いるレーザ加工装置は、このようにして、被加工物へ切断や穴開け、溶接といった加工を施す装置である。そして、レーザビームを1点に集光するため、ピンポイントで精密かつ微細な加工が可能である。また、より高エネルギーのレーザビームを用いることで、加工時間を短縮することができ、かつ、刃物での加工が困難な高硬度の被加工物の加工も可能である。
【0003】
ここで、レーザビームを1点に集光したスポットにおけるレーザビームの像形状は円形で、エネルギー強度分布がガウシアン状やトップハット状のものが従来採用されてきた。しかしながら、この従来のスポットを採用したレーザ加工においては、被加工物の切断や溶融、穴開けの際、レーザビームによって溶融した被加工物が切断面や穴部に残存してしまい、加工品質が悪化する問題があった。そこで、近年、スポットにおけるレーザビームの像形状を環状にすることによって、溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないレーザ加工が提案されている。
【0004】
例えば溶融亜鉛鋼板と溶融亜鉛鋼板とを溶接する場合、スポットにおけるレーザビームの像形状を環状にすることによって、溶融時のスパッタがスポットにおけるレーザビームの入射側に対して反対側方向に飛ぶようになり、加工品質が良くなる。また、アルミや銅などの高反射材を加工する場合、スポットにおけるレーザビームの像形状を環状と環状の中心部とのものとすることによって、環状部分で被加工物を溶融させて反射率を下げ、環状の中心部で切断、溶接することが可能となり、加工品質が良くなる。
【0005】
そこで特許文献1では、光学系にレーザビームの位相をシフトさせる機能を導入し、レーザビームの光束の一部に位相差を設けることによって、スポットにおけるレーザビームの像形状が環状であって、かつ、環状のレーザビームのエネルギー強度分布が均一である光学システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許9285593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スポットにおけるレーザビームの像形状が環状であって、かつ、環状のレーザビームのエネルギー強度分布が均一である場合、レーザ加工時におけるレーザビームのスポットの移動速度が低速である時は溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないが、レーザ加工時におけるレーザビームのスポットの移動速度を速くすると、溶融した被加工物が切断面や穴部に残存してしまう課題がある。そして、そのことによって、レーザ加工のスループットを上げることができない、という課題がある
【0008】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本件発明は、レーザビームのスポットの移動速度が速くても、溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないレーザビームのスポットの像形状及びエネルギー強度分布を得ることができるレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下のレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置に想到した。
【0010】
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの照射軌道内において、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー強度分布を調整するエネルギー強度分布調整機構を備え、前記エネルギー強度分布調整機構は、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー強度分布が不均一になるよう調整することを特徴とするレーザビーム照射用光学ユニットを採用した。
【0011】
本件発明に係るレーザ加工装置は、レーザ加工ヘッド内に、上述のレーザビーム照射用光学ユニットを収容して得られることを特徴とするレーザ加工装置を採用した。
【発明の効果】
【0012】
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザビームのスポットの移動速度が速くても、移動方向に対してスポットの前方領域で被加工物を溶融し、スポットの後方領域で溶融した被加工物の金属を適切に飛ばすことができる。このことによって、被加工物の切断面や穴部に溶融した被加工物を残存させない。また、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットを用いたレーザ加工装置は、レーザ加工の加工品質が優れ、スループットが高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】レーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビームの略軌道を示す断面図である。
図2】スポットにおけるエネルギー強度分布の略図である。
図3】集光レンズを用いてレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する場合のレーザビーム照射用光学ユニットの断面図である。
図4】コリメートレンズを用いてレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する場合のレーザビーム照射用光学ユニットの断面図である。
図5】レーザビーム方向調整機構を用いてレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する場合のレーザビーム照射用光学ユニットの断面図である。
図6】レーザビーム方向調整機構の略断面図である。
図7】実施例1のチルト量の角度が0°の場合の測定結果である。
図8】実施例1のチルト量の角度が3°の場合の測定結果である。
図9】実施例1のチルト量の角度が3°の場合の測定結果である。
図10】実施例2のシフト0.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図11】実施例2のシフト0.125mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図12】実施例2のシフト1.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図13】実施例2のシフト4.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図14】実施例2のシフト0.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図15】実施例2のシフト0.125mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図16】実施例2のシフト1.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図17】実施例2のシフト4.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図18】実施例3のチルト0°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図19】実施例3のチルト3°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図20】実施例3のチルト7°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図21】実施例3のチルト0°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図22】実施例3のチルト3°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図23】実施例3のチルト7°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図24】実施例4のシフト0.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図25】実施例4のシフト0.125mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図26】実施例4のシフト1.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図27】実施例4のシフト4.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図28】実施例4のシフト0.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図29】実施例4のシフト0.125mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図30】実施例4のシフト1.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図31】実施例4のシフト4.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図32】実施例5のチルト0°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図33】実施例5のチルト1°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図34】実施例5のチルト4°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図35】実施例5のチルト0°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図36】実施例5のチルト1°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図37】実施例5のチルト4°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図38】実施例6のシフト0.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図39】実施例6のシフト0.125mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図40】実施例6のシフト4.0mmにおけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図41】実施例6のシフト0.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図42】実施例6のシフト0.125mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図43】実施例6のシフト4.0mmにおけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図44】実施例7のチルト0°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図45】実施例7のチルト3°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図46】実施例7のチルト7°におけるレーザビームの像形状におけるエネルギー分布である。
図47】実施例7のチルト0°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図48】実施例7のチルト3°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
図49】実施例7のチルト7°におけるX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置の実施の形態に関して述べる。なお、以下に説明するものは、単に一態様を示したものであり、以下の記載内容に限定解釈されるものではない。
【0015】
1.レーザビーム照射用光学ユニット
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、レーザ発振器から加工対象物までのレーザビームの照射軌道内において、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を調整するエネルギー強度分布調整機構を備え、エネルギー強度分布調整機構は、スポットにおけるレーザビームが形成する像のエネルギー強度分布が不均一になるよう調整するものである。
【0016】
そして、本件発明に係るエネルギー強度分布調整機構は、レーザビーム方向調整機構と、コリメートレンズと、集光レンズとのうち少なくとも1つを用いて実現するものである。
【0017】
当該レーザビーム照射用光学ユニットは、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を不均一にすることによって、レーザビームのスポットの移動速度が速くても、移動方向に対してスポットの前方領域で被加工物を溶融し、スポットの後方領域で溶融した被加工物の金属を適切に飛ばすことができる。このことによって、被加工物の切断面や穴部に溶融した被加工物を残存させずに、レーザ加工を行うことができる。
【0018】
エネルギー強度分布調整機構は、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整する機能を有している。ここで、エネルギー強度分布調整機構の透過損失や反射による損失を除いた場合、エネルギー強度分布調整機構は、入力レーザビームに対する出力レーザビームのエネルギーの総和を変えずに、レーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整するものである。そして、レーザビームのスポットの移動速度が速くても、溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないことを達成する限りにおいて、レーザビームのエネルギー強度分布の不均一さがどのようなものであっても制限するものではない。具体例を挙げれば、当該「不均一」なエネルギー強度分布は、スポットにおけるレーザビームが形成する像において、スポットのレーザ加工時の進行方向の前方領域におけるレーザビームのエネルギー強度が弱く、当該前方領域とは異なる(前方領域とは逆側の)後方領域におけるレーザビームのエネルギー強度が強い分布が好ましい。レーザビームのスポットの移動速度が速くても、移動方向に対してスポットの前方領域で被加工物を溶融し、スポットの後方領域で溶融した被加工物の金属を適切に飛ばすことができるからである。
【0019】
なお、当該「不均一」なエネルギー強度分布状態は、上述に限定されるものではなく、スポットにおけるレーザビームが形成する像において、スポットのレーザ加工時の進行方向の前方領域におけるレーザビームのエネルギー強度が強く、当該前方領域とは異なる後方領域におけるレーザビームのエネルギー強度が弱い分布でも良い。さらに、スポットのレーザ加工時の進行方向の前後方向に対して、左右の領域においてレーザビームのエネルギー強度が不均一であっても良いし、前後斜めの領域においてレーザビームのエネルギー強度が不均一であっても良い。例えばアルミニウムと銅といったように、ともに高反射であって融点の異なる材料の突合せ溶接の場合や、異なる厚みの材料の溶接や、溶接する材料の間に隙間がある場合などに好適である。
【0020】
図1に、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニット1の光学素子の配置構成とレーザビームの略軌道を表す断面図を示す。レーザビーム照射用光学ユニット1は、レーザ発振器から出力されるレーザビームを導く光ファイバ30を接続するコネクタ部31と、コネクタ部31をレーザビームの照射軌道に対して固定するコネクタ受け部32と、光ファイバ30の出力端から拡散状に出力されたレーザビームを平行光にするためのコリメートレンズ21と、コリメートレンズ21で平行光にされたレーザビームを加工対象物表面のスポットに集光するための集光レンズ22と、スポットにおけるレーザビームの強度分布を確認するための観測光を観測するための観測装置23とを、レーザビーム照射用光学ユニット1の照射軌道の光軸10に沿って、レーザ発振器側から順に配置している。そして、コリメートレンズ21の光学中心と、集光レンズ22の光学中心との位置は、光軸10に一致するよう配置されている。
【0021】
なお、図1では、レーザ発振器側から順に、レーザビーム方向調整機構20、コリメートレンズ21、集光レンズ22を光軸10に沿って配置しているが、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を「不均一」になるよう調整できる限りにおいて、レーザ発振器側から順に、レーザビーム方向調整機構20、集光レンズ22、コリメートレンズ21と配置しても良い。
【0022】
レーザ発振器からレーザビーム照射用光学ユニット1に入射されるレーザビームは、レーザ加工用に用いることができるレーザビームであれば、いかなるレーザビームであっても用いることができる。特に、YAGレーザ(波長1064nm)、ファイバレーザ(波長1070nm)、ディスクレーザ(波長1030nm)、半導体レーザ(波長935nm、940nm、980nm、940~980nm、940~1025nm)に代表される発振波長が約920~1080nmの近赤外レーザビームであることが好ましい。また、レーザビーム照射用光学ユニット1に入射されるレーザビームの光軸に垂直な面におけるエネルギー分布は、中心部(光軸部分)のエネルギーが強いガウシアン状であっても、均一であっても良い。
【0023】
レーザビーム方向調整機構20は、光ファイバ30が接続されるコネクタ部31と、コネクタ部31を照射軌道の光軸10に対して固定するコネクタ受け部32とからなり、レーザビーム出力端における光ファイバ30のコアの中央部を中心点として、コネクタ部31とコネクタ受け部32との少なくとも一方が円弧状に旋回することによって、レーザビームの照射軌道への入射方向を調整する。
【0024】
図1では、コネクタ受け部32と、コリメートレンズ21と、集光レンズ22とは、それぞれの光学中心が光軸10に一致するよう鏡筒33内に設置されている。そして、鏡筒33には、観測装置23を備える観測筒34が接続されている。このとき、観測筒34は、鏡筒33に対して脱着可能な構造を備えても良い。レーザビームの照射軌道の光軸10を構成する鏡筒33に、観測装置23を備える脱着可能な観測筒34を接続することによって、本件発明に係るエネルギー強度分布調整機構を用いて調整する際の、レーザビームの照射軌道への入射方向の確認や、スポットにおける観測光のエネルギー強度分布の確認を行うことができる。そして、観測装置23による観測を行って、スポットにおけるレーザビームの強度分布を望ましいものに調整した後、観測筒34を取り外し、観測装置23の撮像面があった位置に加工対象物の表面を位置させることによって、レーザ加工を精度良く行うことができる。
【0025】
なお、観測装置23にレーザビームを入射する前に、観測装置23が損傷することなく観測可能なレベルにレーザビームの強度を減光することが好ましい。観測装置23への入射光を歪ませることなくレーザビームの強度を減光するものであれば、いかなる減光素子も用いることができる。なお、観測装置23に入射する観測光は、加工に用いるレーザビームもしくは減光したレーザビームに限定されることなく、加工に用いるレーザビームとは異なるガイド光もしくはエイミング光と呼ばれる観測用の観測光を用いることも好ましい。観測用の観測光のエネルギー強度が、観測装置23を損傷させるレベルではなく、減光させる必要が無いからである。
【0026】
ここで、レーザビーム照射用光学ユニット1のコリメートレンズ21と、集光レンズ22との少なくともいずれか1つは、スポットにおけるレーザビームの像形状を、少なくとも環状の周辺領域からなる環状形状となるよう変換する機能(以降、本明細書では環状変換機能と呼称する)を有することが好ましい。当該環状変換機能は、上述のエネルギー強度分布調整機構による「レーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する」機能とは異なるものであり、レーザビームに対してエネルギー強度分布調整機構による調整を行わなかった場合は、当該環状の像形状におけるエネルギー強度は、光軸10に対して点対称に均一となるものである。スポットのエネルギー分布の形状が少なくとも環状の周辺領域からなる環状形状となることによって、加工対象物の表面において、スポットの中心領域からどの向きにも均一にレーザビームのエネルギーが照射される。そして、このことによって、溶融亜鉛鋼板の重ね溶接で、亜鉛のガスが抜け、きれいな溶接ができる。
【0027】
また、環状変換機能によるスポットの形状は特に限定されるものではなく、例えば、環状と環状の中心部における点状(点部分はガウシアン状)とからなるものであっても良いし、トップハット型の形状などであっても良い。このとき、環状の中心部における点状のスポットのエネルギー強度は、環状部のエネルギー強度よりも高いことが好ましい。光の反射率が高いアルミなどでは、エネルギー強度の弱い環状部で金属を溶融させて反射率を下げ、エネルギー強度の高い中心部で加工対象物を深く溶融させることなどができるため、レーザ加工がより容易になるからである。
【0028】
前述のスポットの像形状を形成するために、環状変換機能を備える光学素子の光学有効面の少なくとも1面は、回折レンズ、アキシコンレンズ、非球面レンズのいずれかであることが好ましい。レーザビームのスポット形状を、環状、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなるものにすることができるからである。
【0029】
なお、レーザビーム照射用光学ユニット1は、環状変換機能を必ずしも有している必要はなく、光ファイバ30から出射されるレーザビームの像形状が、少なくとも環状の周辺領域からなる環状形状となるレーザビームを用いても良い。光ファイバ30から出射されるレーザビームの像形状が、環状や、環状と環状の中心部における点状との組み合わせ形状、トップハット状などの形状のレーザビームを用いることによって、レーザビーム照射用光学ユニット1は、レーザビームの像形状におけるエネルギー強度分布を不均一に調整することができる。以降は、コリメートレンズ21と集光レンズ22との少なくともいずれか1つに環状変換機能を備えた実施形態として説明するが、レーザビーム照射用光学ユニット1は、環状変換機能を備えたものに限定されない。
【0030】
次に、スポットにおけるレーザビームの像形状が環状である場合の、スポットにおけるエネルギー強度分布について図2を用いて説明する。図2(a)は、レーザ発振器から照射されるレーザビームの光軸に垂直な面におけるエネルギー強度分布がガウシアン状であり、環状変換機能を用いることによってスポットにおけるレーザビームの像形状が環状であって、エネルギー強度分布調整機構でレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整していない場合の、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を示している。横軸は、スポットにおける光軸を含む光軸に垂直な直線上の座標であって、かつ、座標の正側(右側)から負側(左側)に向かう方向がレーザ加工時のスポットの進行方向である。すなわち、図2(a)の第一象限がレーザ加工の進行方向の後方領域に相当し、第二象限が前方領域に相当している。そして、横軸の中心が当該レーザビーム照射用光学ユニット1の光軸の位置を示している。縦軸は、レーザビームのエネルギー強度を示している。図2における破線は、図2(a)のエネルギー強度のピーク値を示している。つまり、エネルギー強度分布調整機構でエネルギー強度分布を不均一に調整していない場合、レーザビームのエネルギー強度分布は前方領域と後方領域のピーク値は均一な双峰状となる。
【0031】
次に、エネルギー強度分布調整機構を用いて、図2(a)の状態のレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整した場合のスポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を図2(b)に示す。図2(a)と同様に、図2(b)の第一象限がレーザ加工の進行方向の後方領域に相当し、第二象限が前方領域に相当している。図2(b)では、後方領域側にエネルギーを偏らせることによって、エネルギー強度分布を不均一に調整している状態を示している。この場合、レーザ加工の進行方向の前方領域のエネルギー強度が弱く、後方領域のエネルギー強度は強い。すなわち、レーザビームのエネルギー強度分布は前方領域と後方領域のピーク値が「不均一な双峰状」となる。なお、エネルギー強度分布調整機構は、入力レーザビームに対する出力レーザビームのエネルギーの総和を変えないことから、図2(a)と、図2(b)とに示すレーザビームのエネルギーの総和(横軸に対するエネルギーの積分値)はほぼ一致している。
【0032】
図2(a)のような、スポットにおけるレーザビームの像形状が環状で、レーザビームのエネルギー強度分布が均一な双峰状である場合、レーザ加工時におけるレーザビームのスポットの移動速度が低速である時は溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないが、レーザ加工時におけるレーザビームのスポットの移動速度を速くすると、溶融した被加工物が切断面や穴部に残存してしまう。しかしながら、図2(b)のように、スポットにおけるレーザビームの像形状が環状で、かつ、レーザ加工の進行方向の前方領域のエネルギー強度が弱く、後方領域のエネルギー強度が強い不均一な双峰状の場合、レーザ加工時におけるレーザビームのスポットの移動速度が速くても、スポットの前方領域で溶融させた被加工物を、エネルギー強度の強いスポットの後方領域で適切に飛ばすことができる。これによって、切断面や穴部に、溶融した被加工物を残存させない。
【0033】
図2(b)におけるレーザビームの不均一なエネルギー強度分布の強弱比は、スポットのレーザ加工時の進行方向の後方領域(第一象限)における強いエネルギー強度のピーク値を1とした場合、前方領域(第二象限)の弱いエネルギー強度のピーク値が0.1以上0.95以下であることが好ましい。上述したように、例えば弱いエネルギー強度分布のレーザビームで被加工物を溶融し、強いエネルギー強度分布のレーザビームで溶融した被加工物の金属を飛ばすというように、弱いエネルギー強度のレーザビームと強いエネルギー強度分布のレーザビームとが、レーザ加工においてそれぞれ異なる役割を果たすことができるからである。なお、強いエネルギー強度のピーク値を1とした場合、弱いエネルギー強度のピーク値の下限値は0.20がより好ましく、0.25がさらに好ましい。強いエネルギー強度のピーク値を1とした場合、弱いエネルギー強度のピーク値の上限値は0.6がより好ましく、0.5がさらに好ましい。なお、図2(b)におけるレーザビームのエネルギー強度の強弱比の比較対象は、「不均一な双峰状」におけるそれぞれピークを形成するエネルギー強度分布のピーク値であり、スポット中心部(図2(b)の横軸の中心部)は対象外である。
【0034】
また、レーザ加工の進行方向に対して、前方領域と後方領域とにおけるエネルギー強度分布が上述とは逆の不均一なエネルギー強度分布であっても良い。すなわち、環状部の不均一なエネルギー強度分布におけるエネルギー強度の強弱比は、スポットのレーザ加工時の進行方向の前方領域における強いエネルギー強度のピーク値を1とした場合、後方領域の弱いエネルギー強度のピーク値が0.1以上0.95以下であることが好ましい。弱いエネルギー強度のレーザビームと強いエネルギー強度分布のレーザビームとが、レーザ加工においてそれぞれ異なる役割を果たすことができるからである。なお、強いエネルギー強度のピーク値を1とした場合、弱いエネルギー強度のピーク値の下限値は0.20がより好ましく、0.25がさらに好ましい。強いエネルギー強度のピーク値を1とした場合、弱いエネルギー強度のピーク値の上限値は0.6がより好ましく、0.5がさらに好ましい。
【0035】
〔エネルギー強度分布調整機構の第1の実施形態〕
図3に、エネルギー強度分布調整機構の第1の実施形態であって、集光レンズ22a、集光レンズ22bを用いてレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する場合のレーザビーム照射用光学ユニット2の断面図を示す。図3(a)の環状変換機能を備えた集光レンズ22aは、光軸10に垂直な平面に平行な方向(図3(a)では光軸10よりも図面における上方)に集光レンズ22aを移動させた状態のものである。以降、本明細書では、光軸10に垂直な平面に平行な方向に光学素子を移動させることをシフトと呼称する。この場合、集光レンズ22aの光学中心は、光軸10よりも図面における上方に位置している。図3(a)の状態においては、集光レンズ22aの光軸10よりも下半分を通過するレーザビームと上半分を通過するレーザビームとでは、集光レンズ22aの面の曲率分布が異なる状態となる。このことによって、集光レンズ22aを通過するレーザビームには、メリディオナル面の方向に偏心コマ収差が生じることになる。このようにして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整することができる。そして、不均一の程度は、集光レンズ22aのシフトさせる量によって、調整することができる。
【0036】
図3(b)の環状変換機能を備えた集光レンズ22bは、光軸10上の集光レンズ22bの光学中心を含む光軸10に垂直な直線を回転軸として集光レンズ22bを旋回させた状態のものである。以降、本明細書では、光軸10上の光学中心を含む光軸10に垂直な直線を回転軸として光学素子を旋回させることをチルトと呼称する。この場合、集光レンズ22bの光学中心の位置は、光軸10に一致している。図3(b)の状態においては、集光レンズ22bの光軸10よりも上半分を通過するレーザビームと下半分を通過するレーザビームとでは、集光レンズ22bの面への法線入射角が非対称な状態となる。このことによって、集光レンズ22bを通過するレーザビームには、メリディオナル面の方向に偏心コマ収差が生じることになる。このようにして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整することができる。そして、不均一の程度は、集光レンズ22bのチルトさせる量によって、調整することができる。
【0037】
集光レンズ22aをシフトせる方法としては、例えば、集光レンズ22aを固定するレンズホルダーに、光軸に垂直にシフトすることが可能な機能を備えたものを用い、ネジで押し込むなどしてレンズホルダーの位置をシフトさせることで行うことができる。また、集光レンズ22bをチルトさせる方法としては、例えば、集光レンズ22bを固定するレンズホルダーに光学中心を含む直線を回転軸としてチルトすることが可能な機能を備えたものを用い、ネジで押し込むなどしてレンズホルダーの角度をチルトさせることで行うことができる。なお、集光レンズ22aをシフトもしくは集光レンズ22bをチルトさせることができれば、上述の方法に制限されない。そして、上述した観測装置23でスポットにおけるエネルギー強度分布を観測しながら集光レンズ22aのシフト量もしくは集光レンズ22bのチルト量を調節して、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整することができる。
【0038】
なお、上述のレーザビーム照射用光学ユニット2は、環状変換機能は集光レンズ22a、集光レンズ22bが備えたものとして説明したが、環状変換機能は集光レンズ22a、集光レンズ22bとは異なる光学素子に備えさせることもできる。例えばコリメートレンズ21が環状変換機能を備えることもできる。この場合であっても、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整するには、上述と同様に、集光レンズ22aのシフト量もしくは集光レンズ22bのチルト量を調節して行うことができる。そして、この場合、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布をより適切な「不均一」状態になるよう調整するには、チルト量を調節することが好ましい。
【0039】
〔エネルギー強度分布調整機構の第2の実施形態〕
次に、図4に、エネルギー強度分布調整機構の第2の実施形態であって、コリメートレンズ21a、コリメートレンズ21bを用いてレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する場合のレーザビーム照射用光学ユニット3の断面図を示す。図4(a)の環状変換機能を備えたコリメートレンズ21aは、光軸10に垂直な平面に平行な方向(図4(a)では光軸10よりも図面における上方)にコリメートレンズ21aをシフトさせた状態のものである。この場合、コリメートレンズ21aの光学中心は、光軸10よりも図面における上方に位置している。図4(a)の状態においては、コリメートレンズ21aの光軸10よりも下半分を通過するレーザビームと上半分を通過するレーザビームとでは、コリメートレンズ21aの面の曲率分布が異なる状態となる。このことによって、コリメートレンズ21aを通過するレーザビームには、メリディオナル面の方向に偏心コマ収差が生じることになる。このようにして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整することができる。そして、不均一の程度は、コリメートレンズ21aのシフトさせる量によって、調整することができる。
【0040】
図4(b)の環状変換機能を備えたコリメートレンズ21bは、光軸10上のコリメートレンズ21bの光学中心を含む直線を回転軸としてコリメートレンズ21bをチルトさせた状態のものである。この場合、コリメートレンズ21bの光学中心の位置は、光軸10に一致している。図4(b)の状態においては、コリメートレンズ21bの光軸10よりも上半分を通過するレーザビームと下半分を通過するレーザビームとでは、コリメートレンズ21bの面への法線入射角が非対称な状態となる。このことによって、コリメートレンズ21bを通過するレーザビームには、メリディオナル面の方向に偏心コマ収差が生じることになる。このようにして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整することができる。そして、不均一の程度は、コリメートレンズ21bのチルトさせる量によって、調整することができる。
【0041】
コリメートレンズ21aをシフトせる方法としては、例えば、コリメートレンズ21aを固定するレンズホルダーに、光軸に垂直にシフトすることが可能な機能を備えたものを用い、ネジで押し込むなどしてレンズホルダーの位置をシフトさせることで行うことができる。また、コリメートレンズ21bをチルトさせる方法としては、例えば、コリメートレンズ21bを固定するレンズホルダーに光学中心を含む直線を回転軸としてチルトすることが可能な機能を備えたものを用い、ネジで押し込むなどしてレンズホルダーの角度をチルトさせることで行うことができる。なお、コリメートレンズ21aをシフトもしくはコリメートレンズ21bをチルトさせることができれば、上述の方法に制限されない。そして、上述した観測装置23でスポットにおけるエネルギー強度分布を観測しながらコリメートレンズ21aのシフト量もしくはコリメートレンズ21bのチルト量を調節して、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整することができる。
【0042】
なお、上述のレーザビーム照射用光学ユニット3は、環状変換機能はコリメートレンズ21a、コリメートレンズ21bが備えたものとして説明したが、環状変換機能はコリメートレンズ21a、コリメートレンズ21bとは異なる光学素子に備えさせることもできる。例えば集光レンズ22が環状変換機能を備えることもできる。この場合であっても、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整するには、上述と同様に、コリメートレンズ21aのシフト量もしくはコリメートレンズ21bのチルト量を調節して行うことができる。そして、この場合、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布をより適切な「不均一」状態になるよう調整するには、チルト量を調節することが好ましい。
【0043】
〔エネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態〕
次に、図5に、エネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態であって、レーザビーム方向調整機構20を用いてレーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整する場合のレーザビーム照射用光学ユニット4の断面図を示す。図5(a)のコネクタ部31aとコネクタ受け部32aからなるレーザビーム方向調整機構20aは、光軸10に垂直な平面に平行な方向(図5(a)では光軸10よりも図面における上方)にレーザビーム方向調整機構20の全体をシフトさせた状態のものである。光ファイバ30aはコネクタ部31aに固定されている。この場合、レーザビーム方向調整機構20aの光学中心は、光軸10よりも図面における上方に位置している。図5(a)の状態においては、コリメートレンズ21及び集光レンズ22の光軸10よりも下半分を通過するレーザビームと上半分を通過するレーザビームとでは、コリメートレンズ21及び集光レンズ22の面の曲率分布が異なる状態となる。すなわち、スポットに結像する像は、メリディオナル面の方向に偏心コマ収差が生じたものとなる。このようにして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整することができる。そして、不均一の程度は、レーザビーム方向調整機構20aのシフトさせる量によって、調整することができる。
【0044】
図5(b)のレーザビーム方向調整機構20bは、レーザビーム方向調整機構20の「円弧状の旋回」機能を用いて、光ファイバ30bが固定されたコネクタ部31bをコネクタ受け部32bに対して図5(b)における下向きにチルトさせた状態のものである。この、「円弧状の旋回」機能の詳細については、以降で説明する。この場合、コネクタ受け部32bの光学中心の位置は、光軸10に一致している。なお、ここでは、光ファイバ30bの出力端から出力されるレーザビームの出射方向は、光ファイバ30bの出力端の構造部及びコネクタ部31bの構造で決定される基準光軸に一致しているものとして説明する。図5(b)の状態においては、コリメートレンズ21及び集光レンズ22の光軸10よりも上半分を通過するレーザビームと下半分を通過するレーザビームとでは、コリメートレンズ21及び集光レンズ22の面への法線入射角が非対称な状態となる。このことによって、コリメートレンズ21及び集光レンズ22を通過するレーザビームには、メリディオナル面の方向に偏心コマ収差が生じることになる。このようにして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布が「不均一」になるよう調整することができる。そして、不均一の程度は、レーザビーム方向調整機構20bのチルト量、すなわち円弧状に旋回させる量によって、調整することができる。
【0045】
レーザビーム方向調整機構20aをシフトせる方法としては、例えば、レーザビーム方向調整機構20aを固定するホルダーに、光軸に垂直にシフトすることが可能な機能を備えたものを用い、ネジで押し込むなどしてホルダーの位置をシフトさせることで行うことができる。レーザビーム方向調整機構20bの「円弧状の旋回」機能は、以降で説明する。なお、レーザビーム方向調整機構20aをシフトもしくはレーザビーム方向調整機構20bをチルトさせることができれば、上述の方法に制限されない。そして、上述した観測装置23でスポットにおけるエネルギー強度分布を観測しながらレーザビーム方向調整機構20aのシフト量もしくはレーザビーム方向調整機構20bのチルト量を調節して、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整することができる。
【0046】
なお、上述のレーザビーム照射用光学ユニット4は、コリメートレンズ21が環状変換機能を備えているが、環状変換機能は、コリメートレンズ21と集光レンズ22との少なくともいずれか1つに備えさせることができる。いずれの場合であっても、レーザビーム方向調整機構20aのシフト量もしくは「円弧状の旋回」機能を用いるレーザビーム方向調整機構20bのチルト量を調節して、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整することができる。そして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布をより適切な「不均一」状態になるよう調整するには、チルト量を調節することが好ましい。
【0047】
エネルギー強度分布調整機構の第1~第3の実施形態で説明したように、本件発明に係るエネルギー強度分布調整機構は、レーザビーム方向調整機構20と、コリメートレンズ21と、集光レンズ22とのうち少なくとも1つを用いて実現することができる。
【0048】
〔レーザビーム方向調整機構〕
図6に、光ファイバ30とレーザビーム方向調整機構20の略断面図を示す。レーザビーム方向調整機構20は、光ファイバ30の出力端から出力されるレーザビームの出射方向に傾きがあっても、レーザビームの照射軌道への入射方向を適切な方向に調整する機能を有するものである。そしてこの調整は、レーザビーム方向調整機構20の「円弧状の旋回」機能を用いて行っている。本件発明に係るエネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態におけるチルト動作は、このレーザビーム方向調整機構20の「円弧状の旋回」機能を活用するものである。
【0049】
レーザビーム方向調整機構20の、レーザビームの照射軌道への入射方向を適切な方向に調整する機能について説明する。レーザ発振器から出力されるレーザビームは、光ファイバ30を用いてレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドへ導かれる。この光ファイバ30は、レーザ加工ヘッド内のレーザビーム照射用光学ユニット1にコネクタ部31を介して接続される。このとき、図6(a)が示すように、光ファイバ30の出力端から出力されるレーザビームの出射方向11は、光ファイバ30の出力端の構造部及びコネクタ部31の構造で決定される基準光軸(照射軌道の光軸10に一致している)に対して、光ファイバ出力端の中央部を中心点としてθの角度で表される一定の範囲の傾きを有している。具体的には、例えばレイカスファイバー社のCWファイバレーザでは、光ファイバの出力端の構造部及びコネクタの構造で決定される基準光軸に対して、光ファイバの出力端から出力されるレーザビームの光軸の角度が、30mrad(ミリラジアン)以下であるとされている。
【0050】
図6(b)は、レーザビーム方向調整機構20を用いて、光ファイバ30の出力端から出力されるレーザビームの照射軌道への入射方向を調整したときの概要を示す断面図である。図6(b)では、レーザビーム方向調整機構20を用いて、光ファイバ30及びコネクタ部31側を、光ファイバ出力端の中央部を中心点として、半径rの円弧状に-θの角度で旋回させている。旋回軌跡40は、コネクタ部31が、半径rで円弧状に旋回する場合の軌跡を示している。すなわち、光ファイバ30の出力端の構造部及びコネクタ部31の構造で決定される基準光軸12が、照射軌道の光軸10に対して、-θの角度を有する状態となる。この調整によって、光ファイバ30の出力端から出力されるレーザビームの出射方向11は、照射軌道の光軸10に略一致する状態になる。
【0051】
このとき、レーザビーム方向調整機構20は、レーザ発振器の光ファイバ30の出力端の中央部を中心点として円弧状に旋回する構造であることが好ましい。レーザビーム方向調整機構20が、レーザビーム出力端における光ファイバ30のコアの中央部を中心点として、コネクタ部31とコネクタ受け部32との少なくとも一方が円弧状に旋回する構造を有することによって、光ファイバ30の出力端の構造部及びコネクタ部31の構造で決定される基準光軸12に対する、光ファイバの出力端から出力されるレーザビームの照射軌道への入射方向を、レーザビーム照射用光学ユニット1のレーザビームの照射軌道の光軸10と略一致するよう調整することができるからである。
【0052】
レーザビーム方向調整機構20において、光ファイバ30の出力端の中央部を中心点とした円弧状の旋回の旋回角度θの範囲は、照射軌道の光学素子の光学中心を通る光軸10方向を0mradとした場合、-30mrad<θ<30mradであることが好ましい。光ファイバ30の出力端の構造部及びコネクタ部31の構造で決定される基準光軸12に対する、光ファイバ30の出力端から出力されるレーザビームの出射方向11の傾きがあっても、レーザビーム照射用光学ユニット1のレーザビームの照射軌道への入射方向を、照射軌道の光軸10と略一致するよう調整することができ、かつ、エネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態におけるチルト動作を行うことができるからである。
【0053】
なお、上述の光ファイバ30の出力端の中央部を中心点とした円弧状の旋回の旋回角度θとは、照射軌道の光軸10に対して、照射軌道の光軸10に沿った照射軌道の光軸10を含む平面において、任意の平面における角度を示しており、特定の平面における角度に限定されるものではない。
【0054】
レーザビーム方向調整機構20の旋回機構は、例えば、光軸10に直交する平面上にあって、互いに直交したX方向の回転軸と、Y方向の回転軸を備えることによって、光ファイバ30の出力端の中央部を中心点とした円弧状の旋回を行うことができる。ただし、旋回機構は、照射軌道の光軸10に対して、照射軌道の光軸10に沿った照射軌道の光軸10を含む任意の平面において、光ファイバ30の出力端の中央部を中心点とした円弧状の旋回の旋回角度θとして、-30mrad<θ<30mradの範囲で、調整することができるものであれば、上述したものに限定されるものではない。
【0055】
〔観測装置〕
観測装置23は、本件発明に係るエネルギー強度分布調整機構を用いて調整したレーザビームの照射位置や、レーザビームのエネルギー強度分布を観測することができるものであれば、特に限定されるものではなく、いかなる観測装置も用いることができる。そして、当該観測装置23を備える観測筒34は、鏡筒33に対して脱着可能であることが好ましい。観測筒34を鏡筒33に接続した際の、観測装置23の撮像面(観測点)の位置は、レーザ加工時の、スポットを形成する加工対処物の表面と同じ場所に位置するのが好ましい。さらに、観測装置23の撮像面の中心の位置は、光軸10に位置するとともに、加工対象物の加工部分の中心であることが好ましい。スポットを形成する加工対処物の表面と同じ位置において、レーザビームの位置やレーザビームのエネルギー分布を観測することができるからである。そして、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整した後観測装置23を取り外し、観測装置23の撮像面の位置に加工対象物の表面が位置するように配置することによって、加工対象物を加工することができる。
【0056】
〔コリメートレンズ〕
コリメートレンズ21は、光ファイバ30の出力端から放射状に出力されるレーザビームを平行光にするための光学素子である。
【0057】
〔集光レンズ〕
集光レンズ22は、コリメートレンズ21で平行光に変換されたレーザビームを、スポットに集光するための光学素子である。
【0058】
〔エネルギー強度分布の調整方法〕
レーザビーム照射用光学ユニット1のエネルギー強度分布調整機構の第1~第3の実施形態を用いて、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整する方法の具体的方法について説明する。なお、この調整方法は、以降で説明する方法に限定されるものではない。
【0059】
ここでは、加工対象物表面でのスポットにおけるレーザビームの像形状が環状である場合で説明する。観測装置23で撮像したレーザビームのスポット像から、撮像面の中心を含みレーザ加工時のスポットの進行方向上の第1の座標軸上のエネルギー強度分布を抽出する。そして、撮像面の中心を第1の座標軸の原点として、第1の座標軸上のマイナス座標側とプラス座標側のそれぞれのエネルギー強度分布値を積分した値をEM1、EP1とする。同様にして、第1の座標軸と直交する第2の座標軸上のエネルギー強度分布を抽出し、撮像面の中心を第2の座標軸の原点として、第2の座標軸上のマイナス座標側とプラス座標側のそれぞれのエネルギー強度分布値を積分した値をEM2、EP2とする。このとき、EM1、EP1、EM2、EP2の大きさを比較することによって、第1の座標軸と第2の座標軸からなる座標平面において、スポット像のエネルギー強度がどのような分布であるかを知ることができる。
【0060】
さらに、観測装置23で撮像したレーザビームのスポット像から、第1の座標軸上と第2の座標軸上とにおいて、マイナス座標側とプラス座標側のそれぞれのエネルギー強度値のピーク値と、ピーク値を示した座標値を抽出する。これらのエネルギー強度値のピーク値と、ピーク値を示した座標値から、スポットの進行方向上におけるエネルギー強度分布の形状の不均一状態や、エネルギー強度の強弱比を知ることができる。
【0061】
このようにして確認したスポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布情報から、エネルギー強度分布調整機構の第1~第3の実施形態のいずれかを用いて、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整することができる。調整した後、上述の方法で再度レーザビームのスポットにおけるエネルギー強度分布を確認し、例えばEM1、EP1、EM2、EP2の大きさを比較したエネルギー強度の分布状態や、スポットの進行方向における前方領域と後方領域のピーク値の差がエネルギー強度の強弱比の許容値の範囲内であるかなどの判断基準によって、調整完了を判断できる。そして、1回の調整で判断基準内に調整できなかった場合は、上述の方法で再調整することができる。このようにして、スポットにおいて適切なエネルギー分布を得ることができる。
【0062】
なお、エネルギー強度分布調整機構の第1~第3の実施形態において、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な不均一状態に調整した場合、スポットにおける像の前方領域と後方領域との中心位置(スポット中心位置)が光軸の位置からずれる場合がある。この場合、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な不均一状態に調整した後、スポット中心位置の光軸10からのズレを測定することによって、レーザ加工時に、スポット中心位置を被加工物の加工位置に正しく合わせることができる。
【0063】
また、上述のように、観測装置23から、スポットにおけるエネルギー強度分布を数値情報として得ることができることから、観測装置23から得られる上述の観測値を、エネルギー強度分布調整機構による調整の大きさに応じて事前にレーザビーム照射用光学ユニット1の制御装置に学習させること等によって、当該調整を自動化させることも可能である。
【0064】
2.レーザ加工装置
本件発明に係るレーザ加工装置は、レーザ加工装置のレーザ加工ヘッドに、上述のレーザビーム照射用光学ユニット1を収容して得られるものである。これによって、加工対象物にレーザビームを照射して、加熱溶解による加工対象物の加工を行うことができる。また、本件発明に係るレーザ加工装置は、レーザビーム方向調整機構20と、コリメートレンズ21と、集光レンズ22との少なくともいずれか1つを用いたエネルギー強度分布調整機構の第1~第3の実施形態を用いて、スポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を適切な「不均一」状態になるよう調整することができる。そして、当該「不均一」は、スポットの光軸を含む光軸に垂直な直線を境とするスポットのレーザ加工時の進行方向の前方領域におけるレーザビームのエネルギー強度が弱く、当該前方領域とは異なる後方領域におけるレーザビームのエネルギー強度が強い分布とすることができる。
【0065】
したがって、当該レーザ加工装置は、レーザビームのスポットの移動速度が速くても、移動方向に対してスポットの前方領域で被加工物を溶融し、スポットの後方領域で溶融した被加工物の金属を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させない。
【0066】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0067】
実施例1のレーザビーム照射用光学ユニットは、図5(b)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態の光学系を選択した。レーザ発振器には、レーザビームの波長が1070nmのシングルモードファイバーレーザYLS-6000(IPG Photonics社製)を使用した。シングルモードであることからスポットにおけるエネルギー強度分布はガウシアン状である。このYLS-6000から出力されるレーザビームを、光ファイバ30bを介してコネクタ部31bに接続した。なお、光ファイバ30bから出射されるレーザビームの出射方向は光軸10とほぼ一致しているものを用いた。環状変換機能を備えたコリメートレンズ21には焦点距離200mmのレンズを用いた。そして、集光レンズ22には焦点距離が200mmの非球面を有するレンズを用いた。観測装置23には、ForcusMonitor FM+(PRIMES社製)を用いた。そして、レーザ発振器側から順に、実施例1の光学系の光軸に沿って、レーザビーム方向調整機構20b、コリメートレンズ21、集光レンズ22、観測装置23を配置した。
【0068】
そして、YLS-6000の出力を600Wとし、LaserDiagnoseSoftware(PRIMES社製)を使用しForcusMonitor FM+を操作して測定を行った。レーザビーム方向調整機構20bの「円弧状の旋回」機能を用いるチルト量の角度が0°の場合の測定結果を図7に示す。図7におけるX Intensity contour lineは、実施例1の光学系の光軸に垂直な平面の任意の座標におけるスポットのエネルギー強度分布を表しており、横軸(X軸)は中央が光軸の位置に一致する座標を示し、縦軸がエネルギー強度(上がエネルギー大)を示している。Y Intensity contour lineは、X Intensity contour lineの座標系に直交する座標におけるスポットのエネルギー強度分布を表しており、縦軸(Y軸)は中央が光軸の位置に一致する座標を示し、横軸がエネルギー強度(右がエネルギー大)を示している。X-Y contour lineは、X軸、Y軸の座標で形成される平面上に、Y Intensity contour line図にある矢印部(図7の場合エネルギー強度のピーク値)のエネルギー強度と同じ強度のレーザビームが存在する部分を描画したものであり、横方向がX軸方向、縦方向がY軸方向で、X-Y contour line図の中心が各軸の原点である。このとき、スポットのピーク値を示す環状の直径は約0.43mmであった。そして、Y Intensity contour line図にある矢印部のエネルギー強度は、688.42kW/cmであった。
【0069】
次に、レーザビーム方向調整機構20bの「円弧状の旋回」機能を用いるチルト量の角度が3°の場合の測定結果を図8図9に示す。図8のX-Y contour lineが、図8のY Intensity contour line図にある矢印部のエネルギー強度と同じ強度のレーザビームが存在する部分を描画したものであり、図9のX-Y contour lineが、図9のY Intensity contour line図にある矢印部のエネルギー強度と同じ強度のレーザビームが存在する部分を描画したものである以外は、図8図9が表示している情報は図7において説明したものと同じである。図8図9のY Intensity contour line図から、レーザビーム方向調整機構20bの「円弧状の旋回」機能を用いてチルトさせることによって、Y軸方向においてスポットにおけるレーザビームのエネルギー強度分布を「不均一」に調整できることを確認した。
【0070】
そして、図8のY Intensity contour line図にある矢印部のエネルギー強度は、396.28kW/cmであり、図9のY Intensity contour line図にある矢印部のエネルギー強度は、810.61kW/cmであった。すなわち、エネルギー強度を「不均一」に調整後の強いエネルギー強度側のエネルギー強度は、「不均一」に調整前のエネルギー強度よりも大きい値になっていることを確認した。これによって、レーザビームのエネルギー強度分布を不均一に調整しても、エネルギー強度分布調整機構(実施例1ではレーザビーム方向調整機構)は、入力レーザビームに対する出力レーザビームのエネルギーの総和をほぼ変えないことを確認した。
【実施例0071】
実施例2のレーザビーム照射用光学ユニットは、図3(a)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第1の実施形態の光学系を選択した。ここでは、レーザ発振器から出力されるエネルギー強度分布がガウシアン状(シングルモード)であるレーザビームを導く光ファイバ30を接続するコネクタ部31と、コネクタ部31をレーザビームの照射軌道に対して固定するコネクタ受け部32と、光ファイバ30の出力端から拡散状に出力されたレーザビームを平行光にするための焦点距離200mmのコリメートレンズ21と、コリメートレンズ21で平行光にされたレーザビームを加工対象物表面のスポットに集光するための環状変換機能を備えた焦点距離が200mmの非球面を有する集光レンズ22aとを用いた。そして、レーザ発振器側から順に、実施例2の光学系の光軸に沿って、レーザビーム方向調整機構20、コリメートレンズ21、集光レンズ22a、観測装置23を配置した。なお、スポットにおけるレーザビームの強度分布を確認するための観測光を観測するための観測装置23は、光学シミュレーション時の観測点とした。
【0072】
そして、光ファイバ30から波長が1070nmのレーザビームがコネクタ部31に入射するように設定し、光学シミュレータZemax OpticStudio(Zemax,LLc社製)を用いてシミュレーションを行った。集光レンズ22aを、0.0mm、0.125mm、1.0mm、4.0mmシフトさせたときのスポットにおけるエネルギー強度分布のシミュレーション結果を図10図17に示す。図10図13は、観測装置23の撮像面に結像したレーザビームの像形状におけるエネルギー分布を示しており、縦軸のY位置における負側がレーザ加工時の前方領域、正側が後方領域に相当する。そして横軸のX位置は縦軸に直交した座標を示す。このときのエネルギー強度の強さの相対比を色の濃淡によって示している。また、図14図17は、図10図13のX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布を示しており、横軸はY位置、縦軸はレーザビームのエネルギー強度を示している。
【0073】
図10図13から、集光レンズ22aを、0.0mm、0.125mm、1.0mm、4.0mmとシフトすることによって、像形状が環状を維持しながら、エネルギー強度分布が均一から不均一に変化することが色の濃淡の変化によって確認できた。そして、図14図17から、前方領域と後方領域におけるエネルギー強度の強弱比については、後方領域のエネルギー強度を1.0としたときの前方領域のエネルギー強度が、0.0mmシフトのとき1.0なのに対して、0.125mmシフトのとき0.87、1.0mmシフトのとき0.48、4.0mmシフトのとき0.10であった。
【実施例0074】
実施例3のレーザビーム照射用光学ユニットは、図3(b)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第1の実施形態の光学系を選択し、集光レンズ22bには実施例2の集光レンズ22aと同じレンズを用いた以外は実施例2と同じ構成とした。
【0075】
そして、光ファイバ30から波長が1070nmのレーザビームがコネクタ部31に入射するように設定し、光学シミュレータZemax OpticStudio(Zemax,LLc社製)を用いてシミュレーションを行った。集光レンズ22bのチルト量の角度が、0°、3°、7°の場合のスポットにおけるエネルギー強度分布のシミュレーション結果を図18図23に示す。図18図20は、観測装置23の撮像面に結像したレーザビームの像形状におけるエネルギー分布を示しており、縦軸のY位置における負側がレーザ加工時の前方領域、正側が後方領域に相当する。そして横軸のX位置は縦軸に直交した座標を示す。このときのエネルギー強度の強さの相対比を色の濃淡によって示している。また、図21図23は、図18図20のX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布を示しており、横軸はY位置、縦軸はレーザビームのエネルギー強度を示している。
【0076】
図18図20から、集光レンズ22bのチルト角度を0°、3°、7°とすることによって、像形状が環状を維持しながら、エネルギー強度分布が均一から不均一に変化することが色の濃淡の変化によって確認できた。そして、図21図23から、前方領域と後方領域におけるエネルギー強度の強弱比については、後方領域のエネルギー強度を1.0としたときの前方領域のエネルギー強度が、0°チルトのときのとき1.0なのに対して、3°チルトのとき0.85、7°チルトのとき0.59であった。
【実施例0077】
実施例4のレーザビーム照射用光学ユニットは、図4(a)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第2の実施形態の光学系を選択した。ここでは、コリメートレンズ21aには環状変換機能を備えた焦点距離が200mmの非球面を有するレンズと、集光レンズ22には焦点距離が200mmのレンズとを用いた。そして、レーザ発振器側から順に、実施例4の光学系の光軸に沿って、レーザビーム方向調整機構20、コリメートレンズ21a、集光レンズ22、観測装置23を配置した。なお、スポットにおけるレーザビームの強度分布を確認するための観測光を観測するための観測装置23は、光学シミュレーション時の観測点とした。
【0078】
そして、光ファイバ30から波長が1070nmのレーザビームがコネクタ部31に入射するように設定し、光学シミュレータZemax OpticStudio(Zemax,LLc社製)を用いてシミュレーションを行った。コリメートレンズ21aを、0.0mm、0.125mm、1.0mm、4.0mmシフトさせたときのスポットにおけるエネルギー強度分布のシミュレーション結果を図24図31に示す。図24図27は、観測装置23の撮像面に結像したレーザビームの像形状におけるエネルギー分布を示しており、縦軸のY位置における負側がレーザ加工時の前方領域、正側が後方領域に相当する。そして横軸のX位置は縦軸に直交した座標を示す。このときのエネルギー強度の強さの相対比を色の濃淡によって示している。また、図28図31は、図24図27のX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布を示しており、横軸はY位置、縦軸はレーザビームのエネルギー強度を示している。
【0079】
図24図27から、コリメートレンズ21aを、0.0mm、0.125mm、1.0mm、4.0mmとシフトすることによって、像形状が環状を維持しながら、エネルギー強度分布が均一から不均一に変化することが色の濃淡の変化によって確認できた。そして、図28図31から、前方領域と後方領域におけるエネルギー強度の強弱比については、後方領域のエネルギー強度を1.0としたときの前方領域のエネルギー強度が、0.0mmシフトのとき1.0なのに対して、0.125mmシフトのとき0.88、1.0mmシフトのとき0.49、4.0mmシフトのとき0.12であった。
【実施例0080】
実施例5のレーザビーム照射用光学ユニットは、図4(b)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第2の実施形態の光学系を選択し、コリメートレンズ21bには実施例4のコリメートレンズ21aと同じレンズを用いた以外は実施例4と同じ構成とした。
【0081】
そして、光ファイバ30から波長が1070nmのレーザビームがコネクタ部31に入射するように設定し、光学シミュレータZemax OpticStudio(Zemax,LLc社製)を用いてシミュレーションを行った。コリメートレンズ21bのチルト量の角度が、0°、1°、4°の場合のスポットにおけるエネルギー強度分布のシミュレーション結果を図32図37に示す。図32図34は、観測装置23の撮像面に結像したレーザビームの像形状におけるエネルギー分布を示しており、縦軸のY位置における負側がレーザ加工時の前方領域、正側が後方領域に相当する。そして横軸のX位置は縦軸に直交した座標を示す。このときのエネルギー強度の強さの相対比を色の濃淡によって示している。また、図35図37は、図32図34のX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布を示しており、横軸はY位置、縦軸はレーザビームのエネルギー強度を示している。
【0082】
図32図34から、コリメートレンズ21bのチルト量の角度を0°、1°、4°とすることによって、像形状が環状を維持しながら、エネルギー強度分布が均一から不均一に変化することが色の濃淡の変化によって確認できた。そして、図35図37から、前方領域と後方領域におけるエネルギー強度の強弱比については、後方領域のエネルギー強度を1.0としたときの前方領域のエネルギー強度が、0°チルトのときのとき1.0なのに対して、1°チルトのとき0.86、4°チルトのとき0.34であった。
【実施例0083】
実施例6のレーザビーム照射用光学ユニットは、図5(a)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態の光学系を選択した。ここでは、コリメートレンズ21には環状変換機能を備えた焦点距離が200mmの非球面を有するレンズと、集光レンズ22には焦点距離が200mmのレンズとを用いた。そして、レーザ発振器側から順に、実施例6の光学系の光軸に沿って、レーザビーム方向調整機構20a、コリメートレンズ21、集光レンズ22、観測装置23を配置した。なお、スポットにおけるレーザビームの強度分布を確認するための観測光を観測するための観測装置23は、光学シミュレーション時の観測点とした。
【0084】
そして、光ファイバ30から波長が1070nmのレーザビームがコネクタ部31に入射するように設定し、光学シミュレータZemax OpticStudio(Zemax,LLc社製)を用いてシミュレーションを行った。レーザビーム方向調整機構20aを、0.0mm、0.125mm、4.0mmシフトさせたときのスポットにおけるエネルギー強度分布のシミュレーション結果を図38図43に示す。図38図40は、観測装置23の撮像面に結像したレーザビームの像形状におけるエネルギー分布を示しており、縦軸のY位置における負側がレーザ加工時の前方領域、正側が後方領域に相当する。そして横軸のX位置は縦軸に直交した座標を示す。このときのエネルギー強度の強さの相対比を色の濃淡によって示している。また、図41図43は、図38図40のX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布を示しており、横軸はY位置、縦軸はレーザビームのエネルギー強度を示している。
【0085】
図38図40から、レーザビーム方向調整機構20aを、0.0mm、0.125mm、4.0mmとシフトすることによって、像形状が環状を維持しながら、エネルギー強度分布が均一から不均一に変化することが色の濃淡の変化によって確認できた。そして、図41図43から、前方領域と後方領域におけるエネルギー強度の強弱比については、後方領域のエネルギー強度を1.0としたときの前方領域のエネルギー強度が、0.0mmシフトのとき1.0なのに対して、0.125mmシフトのとき0.89、4.0mmシフトのとき0.14であった。
【実施例0086】
実施例7のレーザビーム照射用光学ユニットは、図5(b)に示す、エネルギー強度分布調整機構の第3の実施形態の光学系を選択した。ここでは、レーザビーム方向調整機構20bを用いた以外は実施例6と同じ構成とした。
【0087】
そして、光ファイバ30から波長が1070nmのレーザビームがコネクタ部31に入射するように設定し、光学シミュレータZemax OpticStudio(Zemax,LLc社製)を用いてシミュレーションを行った。レーザビーム方向調整機構20bの「円弧状の旋回」機能によるチルト量の角度が、0°、3°、7°の場合のスポットにおけるエネルギー強度分布のシミュレーション結果を図44図49に示す。図44図46は、観測装置23の撮像面に結像したレーザビームの像形状におけるエネルギー分布を示しており、縦軸のY位置における負側がレーザ加工時の前方領域、正側が後方領域に相当する。そして横軸のX位置は縦軸に直交した座標を示す。このときのエネルギー強度の強さの相対比を色の濃淡によって示している。また、図47図49は、図44図46のX位置がゼロの位置におけるY位置方向のエネルギー強度分布を示しており、横軸はY位置、縦軸はレーザビームのエネルギー強度を示している。
【0088】
図44図46から、レーザビーム方向調整機構20bの「円弧状の旋回」機能によるチルト量の角度を0°、3°、7°とすることによって、像形状が環状を維持しながら、エネルギー強度分布が均一から不均一に変化することが色の濃淡の変化によって確認できた。そして、図47図49から、前方領域と後方領域におけるエネルギー強度の強弱比については、後方領域のエネルギー強度を1.0としたときの前方領域のエネルギー強度が、0°チルトのときのとき1.0なのに対して、3°チルトのとき0.63、7°チルトのとき0.49であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザビームのスポットの移動速度が速くても、移動方向に対してスポットの前方領域で被加工物を溶融し、スポットの後方領域で溶融した被加工物の金属を適切に飛ばすことができる。このことによって、被加工物の切断面や穴部に溶融した被加工物を残存させない。また、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットを用いたレーザ加工装置は、レーザ加工のスループットが高い。すなわち、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザビームを照射して加工対象物を加工するレーザ加工に好適である。
【符号の説明】
【0090】
1 レーザビーム照射用光学ユニット
10 照射軌道の光軸
11 レーザビームの出射方向
12 光ファイバの出力端の構造部及びコネクタの構造で決定される基準光軸
15 照射軌道
20 レーザビーム方向調整機構
20a レーザビーム方向調整機構
20b レーザビーム方向調整機構
21 コリメートレンズ
21a コリメートレンズ
21b コリメートレンズ
22 集光レンズ
22a 集光レンズ
22b 集光レンズ
23 観測装置
30 光ファイバ
30a 光ファイバ
30b 光ファイバ
31 コネクタ部
31a コネクタ部
31b コネクタ部
32 コネクタ受け部
32a コネクタ受け部
32b コネクタ受け部
33 鏡筒
34 観測筒
40 旋回軌跡
図1
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