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特開2023-127048トリメチルアルミニウム含有組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127048
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】トリメチルアルミニウム含有組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
C07F5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030590
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】住田 渉
(72)【発明者】
【氏名】山根 猛夫
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB84
4H048AD11
4H048AD17
4H048AD30
4H048BC10
(57)【要約】
【課題】ジメチルアルミニウムクロライド(DMAC)及びジメチルアルミニウムハイドライド(DMAH)を、トリメチルアルミニウム(TMAL)の働きを阻害しない程度に低減したTMAL含有組成物を提供する。
【解決手段】DMAHの含有量は水素原子質量換算で0.1ppm以上500ppm以下の範囲であり、DMACの含有量が塩素原子質量換算で15ppm以下であるTMAL含有組成物。不純物としてDMACを含むTMALと、MIIIHR3で示される化合物(MIは第1族元素、MIIは第13族元素、Rは水素、アルキル基、アルコキシ基及びシアノ基のいずれかの組み合わせ)を混合する工程(1)、前記混合により得られた混合物を蒸留して、主留分としてTMAL含有組成物を得る工程(2)を含むTMAL含有組成物の製造方法。一般式(A)で示される化合物の混合量が、DMACに対して1当量以上、20当量以下の範囲である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを含有する組成物であって、
ジメチルアルミニウムハイドライドの含有量は水素原子質量換算で0.1ppm以上500ppm以下の範囲であり、かつ
ジメチルアルミニウムクロライドの含有量が塩素原子質量換算で15ppm以下である、前記組成物。
【請求項2】
酸素含有成分をさらに含み、酸素含有成分の含有量が酸素原子質量換算で5ppm以上、500ppm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
エチル基含有成分を実質的に含まない、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
有機ケイ素成分の含有量がケイ素原子質量換算で0.01ppm以上1ppm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
カルシウム成分の含有量がカルシウム原子質量換算で0.1ppm以下、カドミウム成分の含有量がカドミウム原子質量換算で0.1ppm以下、コバルト成分の含有量がコバルト原子質量換算で0.1ppm以下、クロム成分の含有量がクロム原子質量換算で0.1ppm以下、銅成分の含有量が銅原子質量換算で0.1ppm以下、鉄成分の含有量が鉄原子質量換算で0.1ppm以下、ゲルマニウム成分の含有量がゲルマニウム原子質量換算で0.6ppm以下、リチウム成分の含有量がリチウム原子質量換算で0.1ppm以下、マグネシウム成分の含有量がマグネシウム原子質量換算で0.1ppm以下、マンガン成分の含有量がマンガン原子質量換算で0.1ppm以下、ナトリウム成分の含有量がナトリウム原子質量換算で0.1ppm以下、ニッケル成分の含有量がニッケル原子質量換算で0.1ppm以下、鉛成分の含有量が鉛原子質量換算で5ppm以下、スズ成分の含有量がスズ原子質量換算で2ppm以下、または亜鉛成分の含有量が亜鉛原子質量換算で0.1ppm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
不純物としてジメチルアルミニウムクロライドを含む原料トリメチルアルミニウムと、一般式(A)で示される化合物を混合する工程(1)、
【化1】
式中、MIは第1族元素を示し、MIIは第13族元素を示し、Rは水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及びシアノ基のいずれかの組み合わせである、及び
前記混合により得られた混合物を蒸留して、主留分として、請求項1に記載の組成物を得る工程(2)を含み、
工程(1)における一般式(A)で示される化合物の混合量が、ジメチルアルミニウムクロライドに対して1当量以上、20当量以下の範囲である、
トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを含有する組成物の製造方法。
【請求項7】
原料トリメチルアルミニウムが酸素含有成分をさらに含み、かつ工程(2)で主留分として得られる組成物が酸素含有成分をさらに含み、酸素含有成分の含有量が酸素原子質量換算で5ppm以上、500ppm以下である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
原料トリメチルアルミニウムがエチル基含有成分をさらに含み、かつ工程(2)で主留分として得られる組成物がエチル基含有成分を実質的に含まない、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(1)で得られた混合物をろ過して固体分を除去し、得られた液体を工程(2)の蒸留に供する、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第13族元素がアルミニウムまたはホウ素である請求項6~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(A)で示される化合物が水素化アルミニウムリチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムである、請求項6~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(1)における混合の温度は、20℃以上150℃以下である、請求項6~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチルアルミニウム含有組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリメチルアルミニウム(以下、TMALと表記する場合がある)は、重合触媒、オレフィン製造原料、半導体などの電子工業用製造原料などとして利用され、不純物含有量の少ない高純度品の需要がある。トリメチルアルミニウムに含有される主な不純物は、ジメチルアルミニウムクロライド等の塩素含有成分、酸素含有成分、エチル基含有成分、有機ケイ素成分などである。トリメチルアルミニウムに含有される不純物を低減する方法はいくつか知られている。
【0003】
トリメチルアルミニウムに含まれる不純物を蒸留及び蒸発により除去する方法、不純物を含むトリメチルアルミニウムに金属ナトリウムを溶媒中で混合し、さらに溶媒を蒸留により除去する方法が知られている(特許文献1)。この方法により、有機ケイ素成分、塩素成分などを低減したトリメチルアルミニウムが提供されるとしている。
【0004】
アルキルアルミニウム中の不純物である酸素含有成分を低減する方法として、トリメチルアルミニウムを水素化アルミニウムリチウムと反応させて、次いで蒸留することで、酸素成分の濃度を<2ppmに低減した精製トリメチルアルミニウムが提供されることが開示されている(特許文献2、実施例2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-1896号公報
【特許文献2】特開平2-67230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の不純物低減方法には、以下の問題がある。
(1)実質的に不純物を含まない(純度99.9%以上)金属ナトリウムが必要であり、かつトリメチルアルミニウムより沸点が10℃以上高い溶媒に溶解させながら釜に投入する必要があるため、コストがかかり、操作も煩雑になる。
(2)金属ナトリウムの量がトリメチルアルミニウムに対して2~5wt%必要であり、コストがかかるとともに反応残渣の後処理が煩雑となる。
(3)原料TMALの塩素含有量を50~100ppmと規定しており、それ以上の塩素量の低減を想定していない。
【0007】
特許文献2の実施例2に記載の方法では、酸素成分の濃度を<2ppmに低減できるが、本発明者らの検討によれば、得られた精製トリメチルアルミニウム中には、多量(約4120ppm)のジメチルアルミニウムハイドライドが含まれ、蒸留精製後もトリメチルアルミニウム中に残存することが判明した(比較例3参照)。ジメチルアルミニウムハイドライドは、トリメチルアルミニウムを電子工業用製造原料や重合触媒などとして使用する場合に、トリメチルアルミニウムとは異なる作用をすることがあるという課題が新たに明らかになった。また、本発明者らの検討によれば、特許文献2の実施例2に記載の方法では、酸素成分のみならず塩素含有成分も低減できているが、酸素成分及び塩素含有成分の低減と引き換えに多量のジメチルアルミニウムハイドライドの含有されることになることが明らかになった(比較例3参照)。
【0008】
そこで本発明は、電子工業用製造原料や重合触媒などとして使用する場合にトリメチルアルミニウムの働きを阻害する主な原因となる、ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを、トリメチルアルミニウムの働きを阻害しないまたは阻害しにくい程度にまで低減したトリメチルアルミニウム含有組成物を提供することを課題とし、この課題を解決することを本発明の目的とする。
【0009】
特許文献2の実施例2では、トリメチルアルミニウムに対して水素化アルミニウムリチウムの添加量が約5wt%である。精製対象のトリメチルアルミニウムの酸素含有成分や塩素含有成分の濃度の記載はないが、これらの低減対象の成分に対して大過剰量が用いられている。特許文献2の実施例2においては、低減対象が酸素含有成分であり、それを<2ppmにまで低減するために、大過剰量が用いられているものと推察され、その結果、特許文献2には記載はないもののトリメチルアルミニウム中に約4120ppmものジメチルアルミニウムハイドライドが含有されることとなったものと推察される。
【0010】
本発明者らのさらなる検討の結果、酸素含有成分及び塩素含有成分を不純物として含有するトリメチルアルミニウムを、特許文献2の実施例2と同じ水素化アルミニウムリチウムを用い、その量を格段に少なくし、かつ反応条件もマイルドにすることで、酸素含有成分は大幅には低減できないものの、塩素含有成分はトリメチルアルミニウムの働きの阻害を抑制できるレベルまで低減でき、かつジメチルアルミニウムハイドライドの含有量もトリメチルアルミニウムの働きの阻害を抑制できるレベルに抑制できた精製トリメチルアルミニウムが得られることを見いだして、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の方法では、実施例に結果を示すように、酸素含有成分は実質的に低減できていない。特許文献2の実施例2の記載においては、低減すべき対象は酸素成分であり、酸素成分を実質的に低減できない条件での精製方法に相当する本発明に想到することは、当業者が動機づけられるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の通りである。
[1]
トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを含有する組成物であって、
ジメチルアルミニウムハイドライドの含有量は水素原子質量換算で0.1ppm以上500ppm以下の範囲であり、かつ
ジメチルアルミニウムクロライドの含有量が塩素原子質量換算で15ppm以下である、
前記組成物。
[2]
酸素含有成分をさらに含み、酸素含有成分の含有量が酸素原子質量換算で5ppm以上、500ppm以下である、[1]に記載の組成物。
[3]
エチル基含有成分を実質的に含まない、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]
[有機ケイ素成分の含有量がケイ素原子質量換算で0.01ppm以上1ppm以下である[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]
カルシウム成分の含有量がカルシウム原子質量換算で0.1ppm以下、カドミウム成分の含有量がカドミウム原子質量換算で0.1ppm以下、コバルト成分の含有量がコバルト原子質量換算で0.1ppm以下、クロム成分の含有量がクロム原子質量換算で0.1ppm以下、銅成分の含有量が銅原子質量換算で0.1ppm以下、鉄成分の含有量が鉄原子質量換算で0.1ppm以下、ゲルマニウム成分の含有量がゲルマニウム原子質量換算で0.6ppm以下、リチウム成分の含有量がリチウム原子質量換算で0.1ppm以下、マグネシウム成分の含有量がマグネシウム原子質量換算で0.1ppm以下、マンガン成分の含有量がマンガン原子質量換算で0.1ppm以下、ナトリウム成分の含有量がナトリウム原子質量換算で0.1ppm以下、ニッケル成分の含有量がニッケル原子質量換算で0.1ppm以下、鉛成分の含有量が鉛原子質量換算で5ppm以下、スズ成分の含有量がスズ原子質量換算で2ppm以下、または亜鉛成分の含有量が亜鉛原子質量換算で0.1ppm以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]
不純物としてジメチルアルミニウムクロライドを含む原料トリメチルアルミニウムと、一般式(A)で示される化合物を混合する工程(1)、
【化1】
式中、MIは第1族元素を示し、MIIは第13族元素を示し、Rは水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及びシアノ基のいずれかの組み合わせである、及び
前記混合により得られた混合物を蒸留して、主留分として、[1]に記載の組成物を得る工程(2)を含み、
工程(1)における一般式(A)で示される化合物の混合量が、ジメチルアルミニウムクロライドに対して1当量以上、20当量以下の範囲である、
トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを含有する組成物の製造方法。
[7]
原料トリメチルアルミニウムが酸素含有成分をさらに含み、かつ工程(2)で主留分として得られる組成物が、酸素含有成分をさらに含み酸素含有成分の含有量が酸素原子質量換算で5ppm以上、500ppm以下である、[6]に記載の製造方法。
[8]
原料トリメチルアルミニウムがエチル基含有成分をさらに含み、かつ工程(2)で主留分として得られる組成物がエチル基含有成分を実質的に含まない、[6]または[7]に記載の製造方法。
[9]
工程(1)で得られた混合物をろ過して固体分を除去し、得られた液体を工程(2)の蒸留に供する、[6]~[8]のいずれか1項に記載の製造方法。
[10]
前記第13族元素がアルミニウムまたはホウ素である[6]~[9]のいずれか1項に記載の製造方法。
[11]
一般式(A)で示される化合物が水素化アルミニウムリチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムである、[6]~[10]のいずれか1項に記載の製造方法。
[12]
工程(1)における混合の温度は、20℃以上150℃以下である、[6]~[11]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩素含有成分はトリメチルアルミニウムの働きの阻害を抑制できるレベルまで低減でき、かつジメチルアルミニウムハイドライドの含有量もトリメチルアルミニウムの働きの阻害を抑制できるレベルに抑制できた精製トリメチルアルミニウムであるトリメチルアルミニウム含有組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<TMAL含有組成物>
本発明のTMAL含有組成物は、トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを含有する組成物であって、
ジメチルアルミニウムハイドライドの含有量は水素原子質量換算で0.1ppm以上500ppm以下の範囲であり、かつ
ジメチルアルミニウムクロライドの含有量が塩素原子質量換算で15ppm以下である。
【0015】
本発明のTMAL含有組成物は、トリメチルアルミニウム(TMAL)が主成分であり、不純物としてジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライドを含有する。ジメチルアルミニウムクロライド及びジメチルアルミニウムハイドライド以外の不純物も含有することがあるが、不純物以外の残部はTMALである。
【0016】
ジメチルアルミニウムハイドライドの含有量は、ジメチルアルミニウムハイドライドに含まれる水素原子の質量に換算した水素原子質量換算で0.1ppm以上500ppm以下の範囲であり、好ましくは0.1ppm以上300ppm以下の範囲、より好ましくは0.1ppm以上200ppm以下の範囲、さらに好ましくは0.1ppm以上150ppm以下の範囲、一層好ましくは0.1ppm以上100ppm以下の範囲である。ジメチルアルミニウムハイドライドは、本発明のTMAL含有組成物を調製する際に副生する成分であり、ジメチルアルミニウムハイドライドの含有量が少ないほどTMAL含有組成物を電子工業用製造原料や重合触媒などとして使用する場合にTMALの働きを阻害する可能性を低減できる。
【0017】
ジメチルアルミニウムクロライドの含有量は、ジメチルアルミニウムクロライドに含まれる塩素原子の質量に換算した塩素原子質量換算で15ppm以下である。ジメチルアルミニウムクロライドの含有量が少ないほどTMAL含有組成物を電子工業用製造原料や重合触媒などとして使用する場合にTMALの働きを阻害する可能性を低減できる。ジメチルアルミニウムクロライドは、原料TMALに不純物として含まれている成分であり、本発明のTMAL含有組成物を調製する際に低減される成分である。
【0018】
本発明のTMAL含有組成物は、不純物として、酸素含有成分をさらに含むことがあり、酸素含有成分を含む場合、酸素含有成分の含有量は、酸素含有成分に含まれる酸素原子の質量に換算した酸素原子質量換算で5ppm以上、500ppm以下であることができる。酸素含有成分は、アルコキシドなどを含む有機アルミニウム化合物であり、原料TMALに含有され、原料TMALに由来する成分である。本発明のTMAL含有組成物を調製する際に、条件によっては原料に比べて低減されることはあるが、大きく低減されることはなく、一定量残存することがある。
【0019】
本発明のTMAL含有組成物は、エチル基含有成分を実質的に含まないことが好ましい。エチル基含有成分は、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物であり、原料TMALに含有されることがあり、原料TMALに由来する成分である。本発明のTMAL含有組成物を調製する際に、原料に比べてその量は低減される成分である。
【0020】
本発明のTMAL含有組成物は、上記以外にも原料TMALに由来する金属含有成分を不純物として含有することがあり、これらの不純物の含有量は少ないことがTMAL含有組成物を電子工業用製造原料や重合触媒などとして使用する場合には有利である。有機ケイ素成分の含有量は、有機ケイ素成分に含まれるケイ素原子の質量に換算したケイ素原子質量換算で0.01ppm以上1ppm以下であることができ、好ましくは0.2ppm以下、より好ましくは0.1ppm以下である。
【0021】
カルシウム成分の含有量がカルシウム原子質量換算で0.1ppm以下、カドミウム成分の含有量がカドミウム原子質量換算で0.1ppm以下、コバルト成分の含有量がコバルト原子質量換算で0.1ppm以下、クロム成分の含有量がクロム原子質量換算で0.1ppm以下、銅成分の含有量が銅原子質量換算で0.1ppm以下、鉄成分の含有量が鉄原子質量換算で0.1ppm以下、ゲルマニウム成分の含有量がゲルマニウム原子質量換算で0.6ppm以下、リチウム成分の含有量がリチウム原子質量換算で0.1ppm以下、マグネシウム成分の含有量がマグネシウム原子質量換算で0.1ppm以下、マンガン成分の含有量がマンガン原子質量換算で0.1ppm以下、ナトリウム成分の含有量がナトリウム原子質量換算で0.1ppm以下、ニッケル成分の含有量がニッケル原子質量換算で0.1ppm以下、鉛成分の含有量が鉛原子質量換算で5ppm以下、スズ成分の含有量がスズ原子質量換算で2ppm以下、または亜鉛成分の含有量が亜鉛原子質量換算で0.1ppm以下であることができる。好ましくは、上記不純物としての金属成分の含有量の全てが上記の数値範囲以下である。
【0022】
<TMAL含有組成物の製造方法>
本発明のTMAL含有組成物の製造方法は、不純物としてジメチルアルミニウムクロライドを含む原料トリメチルアルミニウムと、一般式(A)で示される化合物を混合する工程(1)、及び
前記混合により得られた混合物を蒸留して、主留分として、本発明のTMAL含有組成物を得る工程(2)を含む。
【0023】
工程(1)
工程(1)では、不純物としてジメチルアルミニウムクロライドを含む原料トリメチルアルミニウム(原料TMAL)と、一般式(A)で示される化合物を混合する。
【0024】
【化2】
【0025】
一般式(A)中、MIは第1族元素を示し、MIIは第13族元素を示し、Rは水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及びシアノ基のいずれかの組み合わせである。
【0026】
I(第1族元素)の具体例としては、リチウム、ナトリウムおよびカリウムが挙げられ、MII(第13族元素)の具体例としては、ホウ素およびアルミニウムが挙げられる。
【0027】
一般式(A)で示される化合物のRの炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基が挙げられ、炭素数1~6のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基およびアセトキシ基が挙げられる。
【0028】
一般式(A)で示される化合物のRの3つの官能基は、同一でもそれぞれ異なっていてもよい。
【0029】
一般式(A)で示される化合物は、入手が容易であるという観点から、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化トリエチルホウ素リチウムが好ましく、水素化アルミニウムリチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムがより好ましい。
【0030】
一般式(A)で示される化合物は、市販品または公知の方法で製造された製品を利用でき、炭化水素溶媒にて溶液とした製品も利用できる。
【0031】
工程(1)における一般式(A)で示される化合物の混合量は、ジメチルアルミニウムクロライドに対して1当量以上、20当量以下の範囲である。原料TMALに含まれるジメチルアルミニウムクロライドに対して1当量以上用いれば、所望のジメチルアルミニウムクロライド低減効果は得られ、一方、一般式(A)で示される化合物の混合量が多すぎると、ジメチルアルミニウムハイドライドの副生量が増大し好ましくない。これらのことから、一般式(A)で示される化合物の混合量は、ジメチルアルミニウムクロライドに対して1当量以上20当量以下が好ましく、2当量以上15当量以下がより好ましい。
【0032】
原料として用いるTMALには特に制限はないが、TMALは、製造方法、条件などにより変動はするが、一般に、原料または溶媒、操作由来の不純物として、ジメチルアルミニウムクロライド等の塩素成分が1ppm~1000ppmの範囲、有機ケイ素成分が1ppm~1000ppmの範囲、金属含有成分が合計0.1ppm~100ppmの範囲、トリメチルアルミニウム由来以外の炭化水素成分が1ppm~1000ppmの範囲、酸素成分が1ppm~1000ppmの範囲で含有されていることがある。
【0033】
一般式(A)で示される化合物は、原料TMALに不純物として含まれるジメチルアルミニウムクロライドと下記一般式(1)に示す反応が進行する。
【化3】
【0034】
また、主成分のトリメチルアルミニウムとも下記一般式(2)に示す反応が進行する。
【化4】
【0035】
一般式(A)で示される化合物を過剰に用いると、一般式(2)に示す副反応により、得られたTMAL含有組成物中のジメチルアルミニウムハイドライドの副生量が増大する原因となる。
【0036】
工程(1)に用いる反応装置としては、縦型、横型のいずれでもよく、特に制限なく用いることができる。例えば、耐圧性の撹拌機付きオートクレーブを用いることができる。撹拌翼は、一般的なものを用いられ、例えば、プロペラ、タービン、ファウドラー、マックスブレンド、フルゾーン等が挙げられる。
【0037】
反応装置内は、空気中の水分が反応系と反応するため、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。
【0038】
反応温度は、トリメチルアルミニウムの融点15℃以上であればよく、20℃以上150℃以下が好ましい。反応時間は、特に制限はないが、1時間以上48時間以内が好ましい。反応圧力は、常圧、加圧のいずれでもよいが、0MPaG以上0.2MPaG以下が好ましい。
【0039】
工程(1)で得られた混合物をろ過して固体分を除去し、得られた液体を工程(2)の蒸留に供することができる。ろ過は、上記反応後の反応混合物に対して実施し、未反応の還元剤を含む固体分を除去することができる。特に、還元剤に水素化アルミニウムリチウムを用いた場合には、蒸留後に得られた組成物のジメチルアルミニウムハイドライドの含有量を抑制することができるので、ろ過を実施することが好ましい。
【0040】
ろ過は、空気中の水分が反応混合物と反応するため、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。
【0041】
ろ過器具は、ろ紙に含まれる水分等により反応混合物が反応するため、ろ紙を必要としないガラスフィルターを用いて、真空ポンプで吸引することが好ましい。
【0042】
ろ過をする際の圧力は、特に制限はないが、50kPaA以下が好ましく、ろ過温度は、トリメチルアルミニウムの融点15℃以上であればよく、20℃以上30℃以下が好ましい。
【0043】
工程(2)
工程(2)は、工程(1)混合により得られた混合物、またはその後のろ過を経た混合物を蒸留して、主留分として、本発明のTMAL含有組成物を得る工程である。蒸留では、留分として初留分および主留分を得るが、主留分が本発明のTMAL含有組成物である。
【0044】
蒸留塔は分離性能を向上させるため、蒸留塔に充填物を使用したものが好ましい。充填物は市販品または公知の方法で製造された製品を使用でき、規則充填物、不規則充填物のいずれも使用できる。理論段数は多いほどよいが、工業的に有利な高さが選択される。理論段数が4段以上20段以下の蒸留塔が好ましい。
【0045】
蒸留装置内は、空気中の水分が反応混合物またはろ液と反応するため、蒸留開始前に予め窒素、アルゴン等の不活性ガスにて置換しておくことが好ましい。
【0046】
蒸留する際の温度は、装置の減圧度に依存するが、40℃以上150℃以下が好ましく、40℃以上130℃以下がより好ましい。蒸留する際の圧力は、常圧および減圧のいずれでもよいが、0.01kPaA以上30kPaA以下が好ましい。
【0047】
蒸留によって得られる留分のうち、初留分はトリメチルアルミニウムが主成分であるが、不純物を多く含む。そのため、本発明の組成物として得ることは困難であるが、回収して次のバッチの還元反応または蒸留で再利用できる。
【0048】
蒸留によって得られる留分のうち、主留分の回収率は、例えば、30%以上70%以下が好ましい。
【0049】
主留分として得られるTMAL含有組成物は、ジメチルアルミニウムハイドライドの含有量は水素原子質量換算で0.1ppm以上500ppm以下の範囲であり、ジメチルアルミニウムクロライドの含有量が塩素原子質量換算で15ppm以下である。主留分として得られるTMAL含有組成物は、酸素含有成分をさらに含み、酸素含有成分の含有量が酸素原子質量換算で5ppm以上、500ppm以下であることができる。主留分として得られるTMAL含有組成物は、エチル基含有成分を実質的に含まないものであることが好ましい。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。なお、トリメチルアルミニウムの成分分析には以下の分析法を用いた。
【0051】
分析試料調製
分析対象であるトリメチルアルミニウムを有機溶媒にて希釈した溶液を酸性水溶液中に滴下して、トリメチルアルミニウムの加水分解液とした。有機溶媒による希釈は、水素成分及び炭化水素成分については、流動パラフィンで約4倍に希釈し、金属成分(アルミニウム成分を含む)、塩素成分及び有機ケイ素成分については、キシレンで約30倍に希釈した。
【0052】
分析方法1(アルミニウムを除く金属成分および有機ケイ素成分)
トリメチルアルミニウム中に含まれるアルミニウムを除く金属成分は、上記加水分解液の水層をパーキンエルマー製ICP-AES(誘導結合高周波プラズマ発行分光分析)装置OPTIMA7300DVにて測定して各金属原子の質量換算の含有量を算出した。また、有機ケイ素成分は、上記加水分解液の有機層を島津製作所製ICP-AES装置ICP-7510にて測定してケイ素原子の質量換算の含有量を算出した。
【0053】
分析方法2(アルミニウム成分)
トリメチルアルミニウム中に含まれるアルミニウム成分は、上記加水分解液の水層に含まれるアルミニウムイオンを京都電子工業製電位差自動滴定装置AT-610にて滴定してアルミニウム原子の質量換算の含有量を算出した。
【0054】
分析方法3(塩素成分)
トリメチルアルミニウム中に含まれる塩素成分は、上記加水分解液の水層を硝酸銀水溶液にて懸濁させて、その吸光度を日立ハイテクノロジーズ製分光光度計U-1900にて測定し、トリメチルアルミニウムに含まれる塩素原子の質量換算の含有量を算出した。
【0055】
分析方法4(水素成分及び炭化水素成分)
トリメチルアルミニウム中に含まれる水素成分および炭化水素成分は、上記分析試料調製の際の加水分解で発生したガスを捕集し、そのガス組成を島津製作所製ガスクロマトグラフGC-8Aにて測定し、測定結果からトリメチルアルミニウム中の含有量を算出した。
【0056】
分析方法5(酸素成分)
トリメチルアルミニウム中に含まれる酸素成分は、内部標準物質としてアニソールを加えた重ベンゼンでトリメチルアルミニウムを希釈したのち、日本電子製NMR(核磁気共鳴)装置JNM-ECA 500にてプロトンNMRを測定し、酸素原子の質量換算の含有量を算出した。
【0057】
実施例1
窒素置換を行ったSUS製撹拌機付き1Lオートクレーブに、ジメチルアルミニウムクロライドが塩素原子質量換算として400ppm(78.9mg)含まれる原料のトリメチルアルミニウム197g(2.74mol)および水素アルミニウムリチウムを1.35g(28.5mmol、富士フイルム和光純薬製、純度80%、ジメチルアルミニウムクロライドに対して13当量)添加し、60℃、12時間撹拌した。その後、オートクレーブに接続した、理論段数10段の充填物(スルザー製スルザーEXラボパッキン)が充填されたガラス製蒸留塔により、8kPaA、60℃、還流比20の条件で蒸留した。初留分21g(0.290mol)を留去したのち、主留分としてジメチルアルミニウムクロライドが塩素原子質量換算で15ppm以下である、ジメチルアルミニウムハイドライドを水素原子質量換算で140ppm含むトリメチルアルミニウム組成物を115g(1.59mol、収率58%)得た。この組成物の不純物の含有量を表1に示す。
【0058】
実施例2
実施例1より水素化アルミニウムリチウムの量をジメチルアルミニウムクロライドに対して8当量としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0059】
実施例3
実施例2より反応時間を6時間に変更した。また、反応後、反応混合物を装置から抜き出し、油回転真空ポンプを接続したガラスフィルターにてろ過することにより固体分を除去した。その後、ろ液を反応装置へ戻し、実施例1と同様に蒸留することでトリメチルアルミニウム組成物を得た。組成物の分析結果を表1に示す。
【0060】
実施例4
水素アルミニウムリチウムを水素化ホウ素ナトリウム(東京化成工業製、純度95%)に変更し、反応温度を100℃に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0061】
比較例1
水素アルミニウムリチウムを添加、混合、および撹拌せず、原料のトリメチルアルミニウムを実施例1と同様の条件でそのまま蒸留した。得られた組成物はジメチルアルミニウムクロライドが塩素原子質量換算で200ppm残存した。その他の分析結果を表1に示す。
【0062】
比較例2
水素アルミニウムリチウムを水素化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製、純度63%、ミネラルオイル入り)に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物は、ジメチルアルミニウムクロライドが塩素原子質量換算で15ppm未満である、ジメチルアルミニウムハイドライドを水素原子質量換算で10ppm含むトリメチルアルミニウムであったものの、原料のトリメチルアルミニウム由来のエチル基含有成分が残存した。その他の分析結果を表1に示す。
【0063】
比較例3
特許文献2の実施例2に従って、原料トリメチルアルミニウムに対して6wt%の水素アルミニウムリチウム(純度80%、ジメチルアルミニウムクロライドに対して144当量)を用い、反応温度を100℃、反応時間を1時間、蒸留時の圧力を26.5kPaA、蒸留温度を80℃に変更し、その他の条件は実施例1と同様に行った。得られた組成物はジメチルアルミニウムクロライドが塩素原子質量換算で15ppm以下であるものの、ジメチルアルミニウムハイドライドが水素原子質量換算で4120ppm含まれていた。その他の分析結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、トリメチルアルミニウムに関する技術分野において有用である。