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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127055
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20230906BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230906BHJP
   B32B 27/38 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
B32B5/02 B
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
B32B27/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030599
(22)【出願日】2022-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「多機能 CFRPの開発による高付加価値化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐道 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】坂田 宏明
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
【Fターム(参考)】
4F072AA06
4F072AB10
4F072AB28
4F072AD23
4F072AD46
4F072AE07
4F072AG03
4F072AG16
4F072AH49
4F100AA25A
4F100AA25H
4F100AA31A
4F100AA31H
4F100AA37A
4F100AA37H
4F100AD10A
4F100AD10H
4F100AK53A
4F100AK53G
4F100CA08A
4F100CA08H
4F100DH01A
4F100DH01B
4F100GB31
4F100JJ07A
4F100JJ07H
4F100JK01A
4F100JK01H
(57)【要約】
【課題】
本発明は、優れた難燃性を発現しつつ力学特性を維持できる軽量な積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】
繊維、マトリックス樹脂および難燃剤フィラーを含む積層体であって、
該難燃剤フィラーは、少なくとも一部がホウ酸亜鉛であって、
繊維方向に対して45°の断面において、該45°の断面全体における該難燃剤フィラーが占める面積を100%としたとき、片方の積層体最表面から400μmの範囲Sにおける該難燃剤フィラーが占める面積比Rが70%以上であり、
かつ該範囲Sにおいて、該難燃剤フィラーが占める面積をA、マトリックス樹脂面積をBとしたときに、以下の関係式(I)が成り立つ積層体。
0.01<A/B<0.2 (I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、マトリックス樹脂および難燃剤フィラーを含む積層体であって、
該難燃剤フィラーは、少なくとも一部がホウ酸亜鉛であって、
繊維方向に対して45°の断面において、該45°の断面全体における該難燃剤フィラーが占める面積を100%としたとき、片方の積層体最表面から400μmの範囲Sにおける該難燃剤フィラーが占める面積比Rが70%以上であり、
かつ該範囲Sにおいて、該難燃剤フィラーが占める面積をA、マトリックス樹脂面積をBとしたときに、以下の関係式(I)が成り立つ積層体。
0.01<A/B<0.2 (I)
【請求項2】
前記難燃剤フィラーがホウ酸亜鉛を60質量%以上含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記難燃剤フィラーの平均粒径は、前記繊維の繊維径より大きく、かつ60μm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記繊維の一部または全部が織物を構成する、請求項1から3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記面積比Rが70%以上である側の最表層に含まれる繊維が織物を構成する、請求項1から4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
厚さが4mm以上である、請求項1から5のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用途に好適な積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維、特に炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維複合材料は、その力学特性が優れていることから、ゴルフクラブ、テニスラケットおよび釣り竿などのスポーツ用品を始め、航空機や車両などの構造材料やコンクリート構造物の補強など幅広い分野で利用されている。近年は、優れた力学特性のみならず、炭素繊維が導電性を有することから、ノートパソコンやビデオカメラなどの電子電気機器の筐体などにも使用され、筐体の薄肉化、機器の重量軽減などに役立っている。このような炭素繊維強化複合材料は、熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸して得られるプリプレグを積層して得られることが多い。
【0003】
炭素繊維強化複合材料の様々な用途の中で、特に航空機や車両などの構造材料や内装材料などにおいては、火災によって材料が着火燃焼しないように材料に難燃性を有することが強く求められている。また電子電気機器用途においても、装置内部からの発熱や外部の高温にさらされることにより、筐体や部品などが発火し燃焼する事故を防ぐために、材料の難燃化が求められている。
【0004】
難燃性を向上させる方法として、熱硬化性樹脂に難燃剤を配合する方法が広く用いられている(例えば特許文献1)。しかしながらフィラーはその部分が破断起点となって、力学特性を低下させるため、その混合量を減少する必要がある。
【0005】
そこで、難燃剤フィラーを混合したプリプレグを表層部両面に積層した積層体の技術が開示されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/082982号公報
【特許文献2】特開2007-231073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の技術である、難燃剤フィラーを表面部両面に積層した積層体では、難燃性も低く、また両表層付近から進展する物性低下を抑制するのには不十分であるという課題を有している。
【0008】
本発明は、上記した従来技術における問題を解決し、優れた難燃性を発現しつつ力学特性を維持できる軽量な繊維強化複合材料を得るための積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本発明は、次の構成を有するものである。すなわち、繊維、マトリックス樹脂および難燃剤フィラーを含む積層体であって、該難燃剤フィラーは、少なくとも一部がホウ酸亜鉛であって、繊維方向に対して45°の断面において、45°の断面全体における難燃剤フィラーが占める面積を100%としたとき、片方の積層体最表面から400μmの範囲Sにおける難燃剤フィラーが占める面積比Rが70%以上であり、かつ該範囲Sにおいて、難燃剤フィラーが占める面積をA、マトリックス樹脂面積をBとしたときに、以下の関係式(I)が成り立つ積層体を提供する。
0.01<A/B<0.2 (I)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、積層体を成形して得られる繊維強化複合材料の難燃性と力学特性を両立するという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の積層体は繊維方向に対して45°の断面において、該45°の断面全体における難燃剤フィラーが占める面積を100%としたとき、片方の積層体最表面から400μmの範囲における難燃剤フィラーが占める面積比Rが70%以上であり、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。繊維方向に対して45°でカットすることにより、0°および90°方向の繊維が同じ断面形状となり、大きな誤差なく繊維、樹脂、難燃剤フィラーの存在比を予測することができる。難燃剤フィラーが占める面積が70%以上であることで効率良く積層体の難燃性を発揮することができる。かかる難燃剤フィラーの比率は実施例に記載する面積の測定法に従って評価する。
【0012】
本発明の積層体は(I)式が0.01<A/B<0.2であり、好ましくは0.015<A/B<0.18であり、より好ましくは0.02<A/B<0.16である。A/Bの値が0.01を超えれば十分な難燃性を発現することができる。A/Bの値は大きいに越したことはないが、0.2未満が上限となるように制御する。かかる難燃剤フィラー面積およびマトリックス樹脂面積は実施例に記載する面積の測定法に従って評価する。
【0013】
本発明に係る難燃剤フィラーは、少なくとも一部がホウ酸亜鉛であるが、これを60質量%以上含むことが好ましく、フィラーの単位面積あたりの濃度が高められ、より高い難燃効果を発揮することができる。
【0014】
本発明に係る難燃剤フィラーは、平均粒径が繊維径より大きく、かつ60μm以下であることが好ましい。繊維径より大きいことで、繊維層へ樹脂を含浸するときに難燃剤フィラーが繊維層に含浸しにくく表層に残存し、高い難燃性を発現する。また、60μm以下であれば、難燃剤フィラーの総表面積が十分に大きく、高い難燃効果を発現できる。かかる繊維径および難燃剤フィラーの平均粒径は実施例に記載する計算法に従って評価する。
【0015】
本発明の積層体は、繊維のうち一部または全部が織物を構成することが好ましい。織物であることで、難燃剤フィラーを添加しても力学特性に影響しにくく、難燃性を高めることができる。
【0016】
本発明の積層体は最表面から400μmの範囲における難燃剤フィラーが占める面積が70%以上である側の最表層に含まれる繊維が織物であることが好ましい。ここで最表層とは、積層体の最も外側に配置される層である。最表層に含まれる繊維が織物であることで難燃剤フィラーを添加しても力学特性に影響しにくく、難燃性を高めることができる。
【0017】
本発明の積層体は、厚さが4mm以上であることが好ましい。厚さが4mm以上になることで、表層の難燃剤フィラーが力学特性へ与える影響が小さくなり、優れた難燃性を発現しつつ力学特性を維持できる。
【0018】
次に本発明におけるマトリックス樹脂について述べる。
【0019】
本発明におけるマトリックス樹脂はエポキシ樹脂と硬化剤とを含む。
【0020】
本発明におけるエポキシ樹脂としては、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などを好ましく用いることができる。なお、本発明において「液状」とは、25℃で流動性を示すもののことをいう。
【0021】
本発明における硬化剤は、アミン系硬化剤である。アミン系硬化剤とは硬化剤分子中に窒素原子を有する化合物をいう。
【0022】
かかる硬化剤としては、分子中に窒素原子を含有していれば特に特定されないが、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミンのような活性水素を有する芳香族ポリアミン化合物、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステルのような活性水素を有する脂肪族アミン、これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルベンジルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールや1置換イミダゾールのような活性水素を持たない第三アミン、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、アジピン酸ヒドラジドやナフタレンカルボン酸ヒドラジドのようなポリカルボン酸ヒドラジド、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。
【0023】
本発明におけるアミン系硬化剤は、樹脂調合工程での安定性や室温での保存安定性、あるいは炭素繊維への炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を含浸する工程で受ける熱履歴に対する安定性などのため、熱活性型の潜在性を有することが好ましい。ここで熱活性型の潜在性とは、そのままでは活性の低い状態であるが、一定の熱履歴を受けることにより相変化や化学変化などを起こして、活性の高い状態に変わるという性質を意味する。
【0024】
本発明におけるマトリックス樹脂には、粘弾性制御や靱性付与のために、さらに熱可塑性樹脂を配合することができる。
【0025】
このような熱可塑性樹脂の例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール類、ポリビニルピロリドン、芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分とする重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、フェノキシ樹脂などが挙げられる。これらの中で、ポリビニルホルマールやポリエーテルスルホンが、多くの種類のエポキシ樹脂を良好な相溶性を有し、炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の流動性制御の効果が大きい点で好ましく用いられる。
【0026】
本発明におけるマトリックス樹脂において、熱可塑性樹脂成分は、エポキシ樹脂100質量部に対して、5~20質量部含まれることが好ましい。この範囲内であるとプリプレグのドレープ性と炭素繊維強化複合材料における難燃性が両立できる。
【0027】
次に本発明における難燃剤フィラーについて述べる。
【0028】
本発明における難燃剤フィラーは、少なくとも一部がホウ酸亜鉛であるが、特に組成物における分散性、安定性などの観点から、ZnO、Bを含むことが好ましい。また、ホウ酸亜鉛と他の難燃剤を併用すること、例えばホウ酸亜鉛と金属水酸化物、ホウ酸亜鉛と赤リン、ホウ酸亜鉛とリン化合物、ホウ酸亜鉛と窒素含有化合物のように複数種の難燃剤を併用することも可能である。
【0029】
本発明の積層体においては、繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。なお、以下では繊維を強化繊維と記載することもある。炭素繊維を強化繊維として用いることにより、繊維強化複合材料に優れた難燃性、強度、耐衝撃性を発現させることができる。
【0030】
炭素繊維としては、既知の炭素繊維であれば、いずれのものでも用いることができるが、ストランド引張試験におけるストランド弾性率が200GPa以上450GPa以下であるものが好ましく用いられる。なお、ストランド引張試験とは、JIS R7601(1986)に基づいて行う試験をいう。
【0031】
炭素繊維のフィラメント数は、繊維配列が蛇行せず、プリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸がしやすいという観点から、2000~50000本が好ましく、より好ましくは、2500~40000本である。
【0032】
本発明で用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系およびピッチ系等の炭素繊維に分類される。中でも、引張強度の高いポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましく用いられる。ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸は、製糸工程を経て、プリカーサーとし、続いて耐炎化および炭化などの工程を経て炭素繊維を得ることができる。
【0033】
炭素繊維の市販品としては、引張弾性率が230GPaの“トレカ(登録商標)”T700G-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T700S-12Kや294GPaの“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、324GPaの“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(以上、東レ(株)製)等が挙げられる。
【0034】
炭素繊維の形態や配列については、一方向に引き揃えた長繊維や織物等から適宜選択できるが、軽量で耐久性がより高い水準にある炭素繊維強化複合材料を得るためには、炭素繊維が、一方向に引き揃えた長繊維(繊維束)や織物等連続繊維の形態であることが好ましい。ここでいう長繊維とは、繊維ストランドの平均長さが10mm以上のものをいう。
【0035】
本発明で用いられる炭素繊維束は、撚糸時や樹脂組成物の含浸処理工程において炭素繊維束の損傷を起こさず、かつ炭素繊維束に樹脂組成物を充分に含浸させる観点から、単繊維繊度は0.2~2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは0.4~1.8dtexである。
【0036】
本発明の積層体は、炭素繊維を一方向に引き揃えた長繊維や織物等にマトリックス樹脂と難燃剤フィラーの混合物を含浸させてなるプリプレグを積層後、硬化させることで得られる。
【0037】
かかるプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、本発明におけるエポキシ樹脂組成物からなるマトリックス樹脂をアセトン、メチルエチルケトンおよびメタノール等から選ばれる有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維に含浸させるウェット法、あるいは、有機溶媒を使用せずに加熱によりマトリックス樹脂を低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法等の方法により、プリプレグを製造することができる。
【0038】
ウェット法では、マトリックス樹脂を含む液体に強化繊維を浸漬した後に引き上げ、オーブン等を用いて有機溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を、強化繊維に直接含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂を離型紙等の上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シート(以降、「樹脂フィルム」と表すこともある)をまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させる方法等を用いることができる。
【0039】
本発明におけるプリプレグの製造方法としては、プリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無となるため、有機溶媒を用いずにマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させるホットメルト法が好適に用いられる。
【0040】
本発明におけるプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量が70~2000g/mであることが好ましい。かかる強化繊維量が70~2000g/mの範囲内であると、プリプレグのドレープ性に優れたり、繊維強化複合材料を成形する際、所定の厚みを得るためのプリプレグ積層枚数が適度となるため作業性に優れたりする。
【0041】
本発明におけるプリプレグ中における強化繊維の質量含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、さらに好ましくは40~80質量%である。プリプレグ中における強化繊維の質量含有率が30質量%以上であると、比強度と比弾性率に優れた繊維強化複合材料を得ることができたり、繊維強化複合材料を成形する際の硬化発熱量を抑制することができたりする。また、プリプレグ中における強化繊維の質量含有率が90質量%以下であると、強化繊維に十分マトリックス樹脂が含浸し、ボイドの無い積層体を得ることができる。
【0042】
本発明の積層体は、上述した本発明におけるプリプレグを所定の形態で積層し、加熱加圧してマトリックス樹脂を硬化させる方法を一例として、製造することができる。ここで熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、内圧成形法等が挙げられる。
【0043】
さらに、プリプレグを用いずに、本発明におけるマトリックス樹脂組成物を強化繊維に直接含浸させた後、加熱硬化する方法、例えばハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、レジン・トランスファー・モールディング法等の成形法によっても積層体を作製することができる。
【0044】
プリプレグを積層する際には、難燃剤フィラーを混合したプリプレグが一方の面の最表層に来るように積層させることが好ましい。この理由として、燃焼は積層体の最表面から進行するため、この最表面の難燃性を高めることが最も効果が高いためである。また、積層体の構成に特に限定はないが、積層体の厚さが4mm以下の場合は、硬化後の樹脂の冷却時での収縮差による変形を防ぐため、繊維やマトリックス樹脂は厚さ方向で対称であることが望ましい。
【0045】
本発明における積層体は、FAR25.853(Appendix F,Part IV)に準拠したヒートリリース試験(OSU法)で、最大発熱速度が100kW・m-2以下という高い難燃性を有したものである。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。実施例および比較例において用いられた材料を次に示す。
【0047】
<エポキシ樹脂>
・ELM434(テトラグリシジルアミノジフェニルメタン樹脂、住友化学(株)製)。
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン樹脂、日本化薬(株)製)。
・“jER(登録商標)”825(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)。
【0048】
<熱可塑性樹脂>
・“スミカエクセル(登録商標)”5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製) 10質量部。
【0049】
<難燃剤フィラー>
・“Firebrake(登録商標)”500(無水ホウ酸亜鉛、Borax製)。
【0050】
<炭素繊維>
・“トレカ(登録商標)”T800SC-24K(引張強度5.9GPa、引張弾性率294GPa、繊維比重1.80、東レ(株)製)。
【0051】
<強化繊維ファブリック>
炭素繊維織物(東レ製“トレカ”クロス CO6343B)
炭素繊維:トレカT300B(3K)
織組織:平織
経密度:12.5本/25mm 緯密度:12.5本/25mm
目付け:198g/m 厚み:0.23mm。
【0052】
<プリプレグシート>
プリプレグシート:“トレカ”(商標登録)プリプレグシートP2352W-19
強化繊維:T800S
マトリックス樹脂:3900-2B
強化繊維の体積含有率:56%。
【0053】
(1)マトリックス樹脂の調製方法
混練装置中に、表1に該当するエポキシ樹脂および熱可塑性樹脂を投入後、加熱混練を行った。次いで、60℃以下の温度まで降温させ、表1に該当するアミン系硬化剤を加えて均一に分散するように撹拌し、マトリックス樹脂を得た。
【0054】
(2)難燃剤フィラー混合マトリックス樹脂の調製方法
混練装置中に、表1に該当するエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂および難燃剤フィラーを投入後、加熱混練を行った。次いで、60℃以下の温度まで降温させ、表1に該当するアミン系硬化剤を加えて均一に分散するように撹拌し、難燃剤フィラー混合マトリックス樹脂を得た。
【0055】
(3)プリプレグの作製
上記(1)および(2)で調製したマトリックス樹脂を用いて、66g/mの目付として離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムをプリプレグ作製機にセットし、両方の面が(1)で調製したマトリックス樹脂組成物のフィルムおよび両方の面が(2)で調製した難燃剤フィラー混合マトリックス樹脂組成物のフィルムとなるよう炭素繊維織物に樹脂フィルムを“トレカ”(商標登録)クロスCO6343Bの両面から重ね、加熱加圧して樹脂組成物を含浸させ、マトリックス樹脂の質量分率が40質量%のプリプレグを作製した。
【0056】
(3)炭素繊維強化複合材料の積層板の作製
“トレカ”(商標登録)プリプレグシートP2352W-19をクロスプライ積層で11プライまたは21プライ積層して、その片面に(1)で調製したマトリックス樹脂を用いて(3)で作製したプリプレグを、もう一方の面に(2)で調製したマトリックス樹脂を用いて(3)で作製したプリプレグを積層して、それぞれ全体として厚み2mmまたは5mm厚の積層板を作製した。この積層板から、幅150mm、長さ150mmとなるように切り出した。
【0057】
(4)積層体の難燃剤フィラーの混合量の評価方法
(3)で得た積層体をEpoKwick FC Resin(Buehler)を主材、Epokwick FC Hardener(Buehler)を硬化剤とし、これらを混合して調整したエポキシ樹脂中に包埋し、室温で硬化した後、繊維軸に対して45°方向の断面を湿式研磨した。露出した積層体断面の長さ2mmを光学顕微鏡の50倍の対物レンズを用い合計500倍で観察した。
【0058】
難燃剤フィラーが占める面積を100%としたときの片方の積層体最表面から400μmの範囲における難燃剤フィラーが占める面積比Rについては、研磨面の断面顕微鏡画像のうち、難燃剤フィラーが占める面積および片方の積層体最表面から400μmの範囲における難燃剤フィラーが占める面積Aをそれぞれ算出することで求めた。解析には、画像解析プログラムFIJIのTrainable WEKA Segmentationプラグインを使用した。まず、断面像において、繊維、マトリックス樹脂、難燃剤フィラーの領域分割を識別する別個の分類子を決定し、全断面画像に適用して難燃剤フィラーが占める面積Atを求めた。次に全断面画像から難燃剤フィラーの存在する最表面から400μmの部分を切り出し、同様にして難燃剤フィラーが占める面積Aを求めて面積比を導出した。
積層体最表層から400μmの範囲でのマトリックス樹脂断面積Bに対する難燃剤フィラーの総断面積Aの比率であるA/Bは、研磨面の断面顕微鏡画像のうち難燃剤フィラーの混合された方の最表面400μmの範囲で、同様に、画像解析プログラムFIJIのTrainable WEKA Segmentationプラグインを使用して、樹脂断面積Bおよび難燃剤フィラー断面積Aを算出することで求めた。
【0059】
繊維径は上記の画像解析プログラムFIJIのTrainable WEKA Segmentationプラグインを使用して、難燃剤フィラーの存在する最表面から400μmの範囲での断面画像から領域分割で識別して導出した。詳細として、各繊維の面積F(i=1~n:断面画像内の繊維数)をそれぞれ導出し、この値からそれぞれの繊維径fを算出した。繊維軸に垂直な面の繊維断面を円と仮定すると、断面積Fが繊維方向に対して45°であることを考慮して、繊維径fは以下のように計算できる。
【0060】

=(F/π×2√2)0.5

このようにして導出した繊維径f~fの平均値を繊維径とした。
【0061】
難燃剤フィラーの平均粒径は上記の方法で求めた断面積Aの数平均値A/Nから求めた。ここで、難燃剤フィラーの形状を球体と仮定すると、上記の方法で得られる難燃剤フィラーの断面積は、球体の中心を通る軸に垂直に交わる任意の円となる。このため、断面積の期待値Sは、球体と仮定した難燃剤フィラーの半径をrとおくと、球体の体積を中心軸の直径長さ2rで割った値となり以下の式で計算できる。
【0062】

S=2/3×r

ここで、S=A/Nとして、難燃剤フィラーの平均粒径2rは以下の式で求めた。
【0063】

2r=(6×A/N)0.5
【0064】
(6)ヒートリリース試験(OSU法)
上記(5)で作製した積層体を、燃焼面が(2)で作製したプリプレグとなるようにFAR25.853(Appendix F,Part IV)に準拠したヒートリリース試験(OSU法)を実施して、最大発熱速度および開始2分間の総発熱量の平均値を評価した。なお、判定基準として最大発熱速度が100kW・m-2かつ開始2分間の総発熱量の平均値が100kW・min・m-2以下を満たすときを合格、それ以外の場合を不合格とした。
【0065】
(実施例1~3)
難燃剤フィラーとして“Firebrake(登録商標)”500を、表1に示すA/Bおよび面積比Rとなるように配合して上記(2)に示すマトリックス樹脂組成物の調製を行い、“トレカ”(商標登録)クロスCO6343Bを用いてプリプレグを作製した。さらにこのプリプレグを“トレカ”(商標登録)プリプレグシートP2352W-19とともに厚さ2mmの積層体を作製した。この積層体の断面観察から、難燃剤フィラー面積と樹脂面積の比率A/Bを計算した。ヒートリリース試験(OSU法)も行ったところ、難燃性は良好であった。
【0066】
(実施例4)
マトリックス樹脂として表1に記載の成分を配合した以外は実施例2と同様にして積層体を作製した。ヒートリリース試験(OSU法)も行ったところ、難燃性は良好であった。
【0067】
(実施例5)
積層体厚さを5mmにした以外は実施例2と同様にして積層体を作製した。ヒートリリース試験(OSU法)も行ったところ、難燃性は良好であった。
【0068】
(比較例1)
難燃剤フィラーを含まないこと以外は実施例1~3と同様にして、積層体を作製した。ヒートリリース試験(OSU法)も行ったところ、難燃性は不十分であった。
【0069】
(比較例2)
積層体厚さを5mmにした以外は比較例1と同様にして積層体を作製した。ヒートリリース試験(OSU法)も行ったところ、難燃性は不十分であった。
【0070】
(比較例3)
難燃剤フィラーとして“Firebrake(登録商標)”500を、表1に示すA/Bおよび面積比Rとなるように配合した以外は実施例1~3と同様にして上記(3)のようにプリプレグを作製したところ、難燃効果が低く、難燃性が不十分となった。
【0071】
【表1】
【0072】
表中の含有量は質量部を表す。また、判定では、合格の場合をA、不合格の場合をBと表す。