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特開2023-127081カーボンナノチューブ分散用重合体及びカーボンナノチューブ分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127081
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散用重合体及びカーボンナノチューブ分散液
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/40 20060101AFI20230906BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20230906BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20230906BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230906BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20230906BHJP
【FI】
C08F220/40
C08F220/20
C08F220/06
C09K23/52
C01B32/174
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030639
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】森 しほ
(72)【発明者】
【氏名】寺田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】平岡 隆一
【テーマコード(参考)】
4G146
4J100
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD23
4G146AD28
4G146AD30
4G146CB10
4J100AB04Q
4J100AJ02R
4J100AL03Q
4J100AL08Q
4J100AL66P
4J100AM47P
4J100BA02P
4J100BA03Q
4J100BA10Q
4J100BC43P
4J100BC43Q
4J100CA03
4J100CA05
4J100CA06
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA29
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100HA39
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA07
4J100JA32
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】
カーボンナノチューブ類の分散性に優れた重合体、その重合体を含む経時安定性に優れるカーボンナノチューブ分散液を提供する。
【解決手段】
主鎖に環構造を含む構成単位、及び(メタ)アクリル酸由来の酸基を含む構成単位を有するカーボンナノチューブ分散用重合体。上記主鎖に環構造を含む構成単位が、N-ベンジルマレイミド、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構成単位であることが好適な形態である。また、上記重合体、溶剤及びカーボンナノチューブ類を含むカーボンナノチューブ分散液でもある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を含む構成単位、及び(メタ)アクリル酸由来の酸基を含む構成単位を有するカーボンナノチューブ分散用重合体。
【請求項2】
前記主鎖に環構造を含む構成単位が、N-ベンジルマレイミド、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構成単位である請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散用重合体。
【請求項3】
前記重合体が、側鎖に芳香族基を含む構成単位を有する請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ分散用重合体。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の重合体、溶剤及びカーボンナノチューブ類を含むカーボンナノチューブ分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ類を安定に分散できるカーボンナノチューブ分散用重合体、および、カーボンナノチューブ分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラフェン(炭素の単結合で形成された環構造が連続した層状化合物)が管状となった物質であり、熱伝導性、電気伝導性に優れることが知られている。そのため、カーボンナノチューブは、電極や、半導体、微小回路、光学部品等に有用な材料として注目を集めている。例えば、導電性が高いことから、リチウムイオン電池の「導電助剤(電極の抵抗を低減する)」等に使用されている。一方、カーボンナノチューブは分子間力で凝集しやすいため、分散してもすぐに凝集しない安定性の高い分散液が求められている。液媒体としては、水系溶剤や有機溶剤が挙げられる。環境への負荷が低く、取り扱い容易性などの観点から、水系溶剤が広く検討されている。水系分散液は、塗布することで塗膜を形成することができるが、カーボンナノチューブ単独ではその強い凝集性により均一に分散した塗膜を形成するのは困難であるため、分散剤を使用することで安定に分散させようとする検討が広く実施されている。
【0003】
例えば、分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸共重合体等を使用したカーボンナノチューブの水系分散液に関する報告がなされている(特許文献1及び2参照)。
これらの分散剤を使用することで、水系溶剤へのカーボンナノチューブの分散が可能となるが、分散性能には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-149832号公報
【特許文献2】国際再公表WO2013-042482号公報 上述したように、カーボンナノチューブ類を溶剤に高濃度で安定に分散させることは容易なことではなく、液媒体中に高濃度で安定に分散させ得る分散剤のさらなる開発が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カーボンナノチューブ類の分散性に優れた重合体、その重合体を含む経時安定性に優れるカーボンナノチューブ分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構成単位を有する重合体を用いることで、上記の課題を解決できることの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、下記<1>~<4>により達成される。
<1>主鎖に環構造を含む構成単位、及び(メタ)アクリル酸由来の酸基を含む構成単位を有するカーボンナノチューブ分散用重合体。
<2>上記主鎖に環構造を含む構成単位が、N-ベンジルマレイミド、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構成単位である<1>に記載のカーボンナノチューブ分散用重合体。
<3>上記重合体が、側鎖に芳香族基を含む構成単位を有する<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ分散用重合体。
<4>上記<1>~<3>の何れかに記載の重合体、溶剤及びカーボンナノチューブ類を含むカーボンナノチューブ分散液。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボンナノチューブ分散用重合体及びカーボンナノチューブ分散液は、分散安定性に優れる。カーボンナノチューブ類が凝集することなく良好に分散できる分散剤、バインダーとして用いることができる。また、この分散液は均一性が高いので、高品質な塗料、インキ、接着剤、成型品等を得ることができる。そのため、光学部材や電機・電子機器等の各種用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の好ましい形態である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
また、本明細書において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。さらに、上限値および下限値について、好適な数値を段階的に記載する場合、各々分けて記載した上限値と下限値を、適宜組み合わせた数値範囲も好適な数値範囲である。
本発明は、特定の構成単位を有するカーボンナノチューブ(CNTとも称する)分散用重合体、さらには、カーボンナノチューブ類、溶剤及び上記重合体を含有してなるカーボンナノチューブ分散液を提供するものである。
以下、本発明の重合体、分散液を構成する材料について、それぞれ説明する。
<カーボンナノチューブ分散用重合体>
本発明のカーボンナノチューブ分散用重合体は、主鎖環構造と酸基を有する重合体である。中でも、分子内にカルボキシル基を有する重合体であることが好ましい。酸基としては、カルボキシル基以外に、フェノール性水酸基、カルボン酸無水物基、リン酸基、スルホン酸基等、アルカリ水と中和反応する官能基が挙げられ、これらの1種のみを有していてもよいし、2種以上有していてもよいが、カルボキシル基を必須とする。分散液の液媒体として水系溶剤を用いる場合は、分散性の点で、カルボキシル基やカルボン酸無水物基が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。
上記重合体の総量(主鎖環構造と酸基を有する重合体と、必要に応じて更に含んでもよい他の重合体との合計量)は、分散液の固形分総量100質量%に対し、5質量%以上であることが好ましく、また、95質量%以下であることが好適である。このような範囲にあることで、本発明の効果をより顕著に奏することが可能となる。より好ましくは10~95質量%、更に好ましくは15~85質量%、特に好ましくは15~80質量%である。
上記CNT分散用重合体は、重量平均分子量が5000~500000であることが好ましく、より好ましくは5000~100000である。このような分子量の重合体を用いると、CNT類の分散性がより向上され、長期間安定して維持できる。更に好ましくは7000以上、特に好ましくは9000以上である。また、粘性等の観点から、5万以下であることが好ましい。更に好ましくは3万以下、特に好ましくは2万以下である。重量平均分子量(Mw)は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上記CNT分散用重合体の酸価(AV)としては特に限定されないが、例えば、30mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下であることが好適である。これにより、液媒体に応じて充分な溶解性が発現され、均一性により優れるCNT分散液を得ることが可能になる。より好ましくは40mgKOH/g以上、更に好ましくは50mgKOH/g以上である。また、290mgKOH/g以下がより好ましく、更に好ましくは280mgKOH/g以下である。
なお、上記CNT分散用重合体は、液媒体が水系溶媒である場合、CNT分散液として使用する前に50モル%以上のカルボン酸基が中和されていることが好ましい。この範囲にすることにより、充分な溶解性が発現され、均一性により優れるCNT分散液を得ることが可能になる。より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%中和(重合体に含まれる全てのカルボン酸を中和してカルボン酸塩とする)である。これは中和度を変更できることにより、本明細書中、重合体の酸価は、後述する実施例に記載の方法により重合体溶液の酸価を測定した後、溶液の酸価と溶液の固形分とから、固形分あたりの酸価を計算することで求めることができる。重合体溶液の固形分は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。中和度を調整することにより溶解度を調整できる。
上記CNT分散用重合体として特に好ましくは、主鎖に環構造を有する重合体である。上記CNT分散用重合体として主鎖に環構造を有する重合体を用いるとCNTの分散性が向上する。したがって、上記ベースポリマーを形成する単量体成分は、酸基及び重合性二重結合を有する単量体とともに、重合体の主鎖骨格に環構造を導入し得る単量体を1種又は2種以上含むことが好適である。重合体の主鎖骨格に環構造を導入し得る単量体としては、例えば、分子内に二重結合含有環構造を有する単量体や、環化重合して環構造を主鎖に有する重合体を形成する単量体等が挙げられる。
上記酸基及び重合性二重結合を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、ビニル安息香酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和多価カルボン酸類;コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)等の不飽和基とカルボキシル基との間が鎖延長されている不飽和モノカルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物類;ライトエステルP-1M(共栄社化学製)等のリン酸基含有不飽和化合物;等が挙げられる。これらの中でも、汎用性、入手性等の観点から、カルボン酸系単量体(不飽和モノカルボン酸類、不飽和多価カルボン酸類、不飽和酸無水物類)を用いることが好適である。より好ましくは、反応性の点で、不飽和モノカルボン酸類を用いることであり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸(すなわちアクリル酸及び/又はメタクリル酸)であり、このうち特に好ましくはメタクリル酸である。
上記酸基及び重合性二重結合を有する単量体の含有割合は、例えば、上記ベースポリマー成分(ベースポリマーを形成する単量体成分)100質量%に対し、5質量%以上であることが好ましい。これにより、アルカリに対する溶解性がより充分となり、例えば、現像性が必要とされる用途に更に有用なCNT分散液となる。また、高温環境下においても成型品(硬化物)の優れた外観や密着性等をより維持できる点で、85質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10~80質量%、更に好ましくは15~75質量%、特に好ましくは20~50質量%である。
上記単量体成分は、上述した酸基及び重合性二重結合を有する単量体に加えて、その他の
ラジカル重合性単量体(他の単量体とも称す)を1種又は2種以上含むものであってもよい。
上記他の単量体としては、例えば、上述したように、重合体の主鎖骨格に環構造を導入し得る単量体として、分子内に二重結合含有環構造を有する単量体や、環化重合して環構造を主鎖に有する重合体を形成する単量体等の1種又は2種以上が好適である。このような単量体としては、N-置換マレイミド系単量体(特にN-ベンジルマレイミド)、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好適である。このように上記CNT分散用重合体が、N-ベンジルマレイミド単位(N-ベンジルマレイミド由来の構成単位)、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体単位、及び/又は、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体単位を有する重合体である形態は、本発明の好適な形態の1つである。主鎖環構造のヘテロ原子は弱い塩基性を帯びており、CNTに効率よく配位できるため分散能が大きく向上する。
特にN-ベンジルマレイミド単位、及び/又は、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体単位を含む重合体はCNT分散性が高い。分散媒への溶解性と、ヘテロ原子の塩基性のバランスが良いためと推察される。
上述の単量体単位を含む重合体とは、例えば、単量体の重合反応や架橋反応によって当該単量体由来の構成単位を含む重合体を意味する。
上記単量体成分において、N置換マレイミド系単量体としては、例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、CNT分散性に優れる点で、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミドが好ましく、特にN-ベンジルマレイミドが好適である。
上記N-ベンジルマレイミドとしては、例えば、ベンジルマレイミド;p-メチルベンジルマレイミド、p-ブチルベンジルマレイミド等のアルキル置換ベンジルマレイミド;p-ヒドロキシベンジルマレイミド等のフェノール性水酸基置換ベンジルマレイミド;o-クロロベンジルマレイミド、o-ジクロロベンジルマレイミド、p-ジクロロベンジルマレイミド等のハロゲン置換ベンジルマレイミド等が挙げられる。
上記ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体としては、CNT分散性、工業的入手の容易さ等の観点から、例えば、ジメチル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート等を用いることが好適である。
上記α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとしては、例えば、α-アリルオキシメチルアクリル酸、α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-プロピル、α-アリルオキシメチルアクリル酸i-プロピル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-ブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸s-ブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸t-ブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-アミル、α-アリルオキシメチルアクリル酸s-アミル、α-アリルオキシメチルアクリル酸t-アミル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ネオペンチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-ヘキシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸s-ヘキシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-ヘプチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-オクチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸s-オクチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸t-オクチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸2-エチルヘキシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸カプリル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ノニル、α-アリルオキシメチルアクリル酸デシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ウンデシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ラウリル、α-アリルオキシメチルアクリル酸トリデシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ミリスチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ペンタデシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸セチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ヘプタデシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ステアリル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ノナデシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸エイコシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸セリル、α-アリルオキシメチルアクリル酸メリシル等の鎖状飽和炭化水素基含有α-(アリルオキシメチル)アクリレートが好ましい。その他、アルキル-(α-メタリルオキシメチル)アクリレート系単量体等も好ましい。中でも、α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル(α-(アリルオキシメチル)メチルアクリレートとも称す)が特に好適である。
上記α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、例えば、国際公開第2010/114077号パンフレットに開示されている製造方法により製造することができる。
上記重合体の主鎖骨格に環構造を導入し得る単量体の含有割合(2種以上用いる場合はその合計の割合)は、例えば、上記ベースポリマー成分100質量%に対し、1~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることがさらに好ましい。この範囲にあると、分散性がより向上されたCNT分散液を得ることが可能になる。中でも特に、N-ベンジルマレイミド、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び/又は、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体の含有割合(2種以上用いる場合はその合計の割合)が、上記ベースポリマー成分(ベースポリマーを形成する単量体成分)100質量%に対して1~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることがさらに好ましい。これらの単量体成分に由来する主鎖環構造の含有量が上記数値範囲において増加すると、CNT分散性が向上する傾向にある。上記N-ベンジルマレイミド、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び/又は、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの含有割合としてより好ましくは2~40質量%、更に好ましくは3~35質量%である。
上記他の単量体としてはまた、上述した単量体には該当しないその他の(メタ)アクリル酸エステル系単量体や、芳香族ビニル系単量体等の1種又は2種以上を用いることができる。なお、芳香族ビニル系単量体を用いた場合、上記CNT分散用重合体は側鎖に芳香族基(芳香族炭化水素基)を含む構成単位を有する重合体となる。側鎖に芳香族基を含むことで、CNT分散性をより向上させることができる。
上記その他の(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート以外の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を意味する。
具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸エチル等の他、1,4-ジオキサスピロ[4,5]デカ-2-イルメタアクリル酸、(メタ)アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン、アルコキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中でも、CNT分散性が優れる点で、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、アルコキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリレートを用いることも好適である。より好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、及び/又は、アルコキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリレートを用いることである。したがって、上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体由来の構成単位を含むCNT分散用重合体も好適である。
上記芳香族ビニル系単量体は、芳香族基とビニル基を有する単量体である。側鎖の芳香族基はCNT分散安定性に寄与し得る。芳香族基としては、ベンゼン環、ナフタレン環等を含む基が挙げられ、なかでもベンゼン環を含む基が好ましい。上記芳香族基は、置換基を有していてもよい。上記置換基としては、例えば、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基等が挙げられる。上記芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、キシレン、メトキシスチレン、エトキシスチレン等が挙げられ、なかでも、有機溶媒やアルカリに対する溶解速度が高く、メチル基が疎水性の向上に寄与することから、より好ましくはビニルトルエンが挙げられる。他の単量体との相溶性を考慮すると、重合時の全単量体総量100質量%に対して10~90質量%であることが好ましい。重合性を考慮すると全単量体総量100質量%に対して、15質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、また、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。この範囲だと、水系での加水分解が起こりにくく、π-πスタッキング作用によりCNT分散性が向上する。
上記ビニルトルエンは、o-ビニルトルエン、p-ビニルトルエン、m-ビニルトルエンがある。これらの中でも、工業的に入手しやすい、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエン、及び、m-ビニルトルエンとp-ビニルトルエンとの混合物が好ましく、特に工業的に入手しやすい、m-ビニルトルエンとp-ビニルトルエンとの混合物が好適である。
本発明のCNT分散用重合体における上記芳香族基(芳香族炭化水素基)を含む構成単位の割合は、特に制限されないが、全構成単位100質量%に対し、1~80質量%、好ましくは10~80質量%、さらに好ましくは20~70質量%であるのがよい。この範囲により、液媒体に対する溶解性と分散安定性が良好となる。
上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び/又は芳香族ビニル系単量体の含有割合(2種以上用いる場合はその合計の割合)は、例えば、上記ベースポリマー成分100質量%に対し、1~80質量%であることが好適である。この範囲にあると、CNT分散性に優れる成型品(硬化物)を得ることができる。より好ましくは10~75質量%、更に好ましくは20~70質量%である。
上記他の単量体としてはまた、例えば、特開2013-227485号公報〔0051〕に例示された、(メタ)アクリルアミド類;重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;共役ジエン類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類;N-ビニル化合物類;不飽和イソシアネート類;等の1種又は2種以上を用いることもできる。中でもN-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等の単官能N-ビニル化合物類がCNT分散性の点で好ましい。その含有割合は、上記ベースポリマー成分100質量%中、10質量%以下とすることが好適である。
ここで、上記主鎖環構造と酸基を有する重合体以外に、必要に応じて更に含んでもよい他の重合体としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が好適である。
必要に応じて更に含んでもよい他の重合体は任意成分であるが、要求物性に応じてこれを含む場合、その含有量は、上記主鎖環構造と酸基を有する重合体100質量%に対し、50質量%以下とすることが好適である。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。なお、下限値は0質量%である。
【0010】
上記単量体を重合する方法としては、バルク重合、溶液重合、乳化重合等の通常用いられる手法を用いることができ、目的、用途に応じて適宜選択すればよい。中でも、溶液重合が、工業的に有利で、分子量等の構造調整も容易であるため好適である。また、上記単量体成分の重合機構は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合等の機構に基づいた重合方法を用いることができるが、ラジカル重合機構に基づく重合方法が、工業的にも有利であるため好ましい。
上記重合反応の好ましい形態は、特開2013-227485号公報〔0053〕~〔0065〕に記載のとおりである。なお、重合時間は、1~8時間が好ましく、より好ましくは1~5時間、更に好ましくは2~4時間である。
上記CNT分散用重合体は、上述したようにして得られるベースポリマーに、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物を反応させて得られる重合体であることが好適であるが、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物における重合性二重結合としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられ、当該化合物として、これらの1種又は2種以上を有するものが好適である。中でも、反応性の点で、(メタ)アクリロイル基が好ましい。また、酸基と結合し得る官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基等が挙げられ、当該化合物として、これらの1種又は2種以上を有するものが好適である。中でも、変成処理反応の速さ、分散性の点から、エポキシ基(グリシジル基を含む)が好ましい。
【0011】
上記酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、ビニルシクロヘキセンオキシド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。中でも、エポキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物(単量体)を用いることが好適である。
上記酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物の使用量は、例えば、上記ベースポリマー成分(ベースポリマーを構成する単量体成分の総量)100質量部に対し、1~50質量部とすることが好適である。より好ましくは5~45質量部、特に好ましくは10~40質量部である。
【0012】
上記酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物の使用量(配合割合)はまた、ベースポリマーを構成する酸基及び重合性二重結合を有する単量体(これを「単量体x」とする)のカルボン酸に付加させた、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物(これを「化合物y」とする)の配合割合(質量%)、すなわち「{化合物yのモル量(mol)/単量体xのモル量(mol)}×{単量体xの配合割合(質量%)}」で求められ、50質量%以下となるように設定することが好適である。これにより、耐光性により優れた成型品(硬化物)を得ることができる。更に好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは35質量%以下である。また5質量%以上であることが好適である。より好ましくは7質量%以上である。
なお、例えば、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物(化合物y)としてGMA(メタクリル酸グリシジル)を用い、酸基及び重合性二重結合を有する単量体(単量体x)としてMAA(メタクリル酸)を用いた場合、上記でいう「酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物の配合割合(質量%)」とは、付加させたGMAをMAA質量換算した質量%を意味し、「{GMAのモル量(mol)/MAAのモル量(mol)}×MAA配合割合(質量%)」により求められる。この数値が、上記
の好ましい範囲内にあることが好適である。
上記CNT分散用重合体は、例えば、上記ベースポリマー成分と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物とを反応させる際に、該ベースポリマー成分の酸基(好ましくはカルボキシル基)の量を、該酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物の量より過剰にする方法;上記ベースポリマー成分と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物とを反応させた後に、更に多塩基酸無水物基を有する化合物を反応させる方法;等の手法を用いて製造することが好ましい。
【0013】
上記ベースポリマー成分(好ましくはカルボキシル基を有する重合体)と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物とを反応させる工程は、良好な反応速度を確保し、かつゲル化を防ぐために、50~160℃の温度範囲で行うことが好ましい。より好ましくは70~140℃、更に好ましくは90~130℃である。また、反応速度を向上するために、触媒として、通常使用されるエステル化又はエステル交換用の塩基性触媒や酸性触媒を用いることができる。中でも、副反応が少なくなるため、塩基性触媒を用いることが好ましい。
【0014】
上記塩基性触媒としては、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等の3級アミン;テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、n-ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩;テトラメチル尿素等の尿素化合物;テトラメチルグアニジン等のアルキルグアニジン;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3級ホスフィン;テトラフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩;等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、反応性、取扱い性やハロゲンフリー等の点で、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、テトラメチル尿素、トリフェニルホスフィンが好ましい。
上記触媒の使用量は、上記ベースポリマー成分と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合基を有する化合物との合計量100質量部に対し、0.01~5質量部とすることが好ましい。より好ましくは0.1~3質量部である。
【0015】
上記ベースポリマー成分と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物とを反応させる工程はまた、ゲル化を防ぐために、重合禁止剤を添加し、分子状酸素含有ガスの存在下で行うことが好ましい。分子状酸素含有ガスとしては、通常、窒素等の不活性ガスで希釈された空気又は酸素ガスが用いられ、反応容器内に吹き込まれる。
【0016】
上記重合禁止剤としては、通常使用されるラジカル重合性単量体用の重合禁止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、メトキノン、6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のフェノール系禁止剤、有機酸銅塩やフェノチアジン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、低着色、重合防止能力等の点でフェノール系禁止剤が好ましく、入手性、経済性から、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、メトキノン、6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールがより好ましい。
【0017】
上記重合禁止剤の使用量としては、充分な重合防止効果の確保、及び、硬化性樹脂組成物としたときの硬化性等の観点から、上記ベースポリマー成分と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物との合計量100質量部に対し、0.001~1質量部であることが好ましい。より好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0018】
上記多塩基酸無水物基を有する化合物としては、例えば、無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記CNT分散用重合体は、エチレン性不飽和基の当量、すなわち二重結合当量が200~1万であることが好ましい。これにより、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。中でも、分散性向上の観点から、300~5000であることがより好ましい。下限値として更に好ましくは350以上、特に好ましくは400以上であり、また、上限値としてより好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、特に好ましくは2000以下、最も好ましくは1500以下である。このようにCNT分散用重合体の二重結合当量が400~1500である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。上記CNT分散用重合体は、最終用途としてフィルム等の膜に成型する場合には、硬化性向上の観点から、側鎖にエチレン性不飽和基(すなわち、二重結合)を有する重合体(これを「側鎖二重結合含有重合体」とも称す)が含まれることによりバインダー樹脂としても作用できる。そのためより好ましくは、酸基及び重合性二重結合を有する単量体を含む単量体成分を重合して得られる重合体(ベースポリマーとも称す)に、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物を反応させて得られる重合体である。ここで使用される各単量体は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
二重結合当量とは、重合体の二重結合1molあたりの重合体溶液の固形分の質量(g)である。ここでいう重合体溶液の固形分の質量とは、上記ベースポリマー成分の質量と、酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合基を有する化合物の質量と、連鎖移動剤の質量とを合計したものである。重合体溶液の固形分の質量を重合体の二重結合量で除することにより、求めることが可能である。重合体の二重結合量は、投入した酸基と、結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物との量から求めることができる。また、滴定及び元素分析、NMR、IR等の各種分析や示差走査熱量計法を用いて測定することもできる。例えば、JIS K 0070:1992に記載のよう素価の試験方法に準拠して、重合体1gあたりに含まれるエチレン性二重結合の数を測定することにより算出してもよい。
その他、上記CNT分散用重合体が側鎖にエチレン性不飽和基(すなわち、二重結合)を有さない重合体である形態も好ましい。例えば、特開2015-42697号に記載される3級炭素含有(メタ)アクリレート系単量体由来の構成単位、水酸基を有する単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸単位を有する(メタ)アクリレート系重合体が好ましい。さらには、特開2016-29151号に記載される3級炭素含有(メタ)アクリレート系単量体単位、水酸基を有する単量体単位、活性メチレン基を有する単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸単位を有する(メタ)アクリレート系重合体が好ましい。
<カーボンナノチューブ分散液>
上述のカーボンナノチューブ分散用重合体以外に含まれる成分について以下に説明する。
(カーボンナノチューブ類)
ナノカーボン物質として、カーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類、ナノグラフェン類を挙げることができる。ナノカーボン物質は、炭素原子の共有結合によって形成する六員環グラファイト構造の1層(グラフェンシート)からなるナノサイズの形状を持つ物質であり、カーボンナノチューブ類は、グラフェンシートが丸まって円筒の形状をしたナノカーボン物質である。その種類としては、1層のみからなる単層カーボンナノチューブ(SWNT)、同心円状にカーボンナノチューブが重なった構造の多層カーボンナノチューブ(MWNT)がある。 その形状、大きさ、製造方法については限定されず公知のものを使用できる。また、それらの混合物でもよい。
カーボンナノチューブ分散液及び該分散液を塗布して得られる塗膜には、求められる用途特性に応じて、単層、2層、多層のいずれのカーボンナノチューブ及びそれらの混合物を用いることができる。特に、光透過性の高い導電塗膜を得るには、単層のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。
カーボンナノチューブの長さは、特に限定されなくてもよく、導電性の観点から、0.5μm以上が好ましく、より好ましくは1μm以上であり、分散性の観点から、30μm以下が好ましい。
CNTにおける不純物の含有量は、CNTの有効分を高濃度とする観点から、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、実質的に0質量%がさらに好ましい。
CNT分散液中のCNT類の含有量は、有効分をより高濃度とする観点から、0.03質量%以上が好ましく、0.04質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、そして、分散液の扱いやすい粘度の観点から、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
(溶剤)
本発明のCNT分散液に含まれる溶剤としては、水、水溶性溶剤、有機溶剤又はこれらの混合溶剤を用いることができる。例えば、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、アルコール、エーテル、石油エーテル、グリコールエーテル、セロソルブ、ベンゼン、酢酸エチル、クロロホルム、ケトン、アセトン、トルエン等が挙げられる。これらの中でも、低毒性の観点から、アルコール又は水が好ましい。
アルコールとしては、1価アルコールが好ましく、炭素数1~5の1価アルコールがより好ましく、炭素数2~4の1価アルコールがさらに好ましく、直鎖状でもよいし分岐鎖状でもよい。かかるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられ、エタノール、イソプロピルアルコールがより好ましく、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。取り扱い易さや環境への負荷を考慮した場合、単独で水を用いることが特に好ましいが、分散時のナノカーボン物質(カーボンナノチューブ類)の濡れ性を改善したり、凝集状態のナノカーボン物質を解きやすくしたり、ナノカーボン物質の分散を助けるために親水性有機溶剤を水と混合して使用することが好ましい。親水性有機溶剤は、水と混合した時に相溶し得る溶剤であり、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。これらの親水性有機溶剤は、単独でも複数混合しても用いることができる。
上記溶剤の含有量は、目的、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、本発明のCNT分散液の総量100質量%中に、10~99.9質量%含まれるようにすることが好ましい。より好ましくは20~99.8質量%、特に好ましくは40~99.7質量%、最も好ましくは60~99.5質量%である。
(CNT分散用重合体)
上述のカーボンナノチューブ分散用重合体は、ナノカーボン物質吸着部と液媒体親和部とを有する構造とすることで、ナノカーボン物質を良好な状態に分散できる。重合体については上述した通りである。カーボンナノチューブ類への吸着性を高めるために、主鎖に環構造を有することが好ましい。また、ナノカーボン物質との吸着効果をさらに高めるため、芳香族骨格を有していてもよい。ナノカーボン物質の六員環グラファイト構造と芳香族骨格とのπ-πスタッキング作用または疎水性相互作用による吸着効果を期待したものによる。また、酸性基を含むことが好ましい。酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。酸性基はイオン性基であるため、酸性基が多くなると強い疎水性のナノカーボン物質との吸着性能が低下してしまう、さらに、好適な液媒体である水系溶剤との親和効果が低下してしまうため、重合体の中和率は50~100mol%の高い範囲であることが好ましい。酸価は、ベースポリマーを合成する際の酸基含有単量体の仕込み量、側鎖に重合性二重結合を付与するためにその酸基を変性する割合、ベースポリマーまたは変性後の重合体をアルカリで中和することで制御できる。使用されるアルカリとしては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0019】
また、液媒体が有機溶剤である場合、分散性向上の観点から、カーボンナノチューブ分散用重合体の中和度は低いことが好ましい。中和度が、重合体に含まれる中和可能な官能基(例えば、カルボキシル基)100mol%に対して、25mol%以下であることが好ましく、20mol%以下であることがより好ましく、分散性向上の観点から、10mol%以下がさらに好ましく、実質的に中和されていないことがさらに好ましい。実質的に中和されていない場合の重合体の中和度は、具体的には、1mol%以下が好ましく、0mol%がより好ましい。中和度は、例えば、pH測定により算出できる。
また、重合体の数平均分子量は、GPCにおけるポリスチレン換算値で1,000~15,000であることが好ましい。これにより、ナノカーボン物質との十分な吸着性が発揮され良好な分散性を発現する。なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)法を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法により算出できる。
CNT分散液中の重合体の含有量は、分散性の観点から、CNT100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、そして、分散性の観点から、1000質量%以下が好ましく、500質量%以下がより好ましく、300質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
また、CNT分散液100質量%に対し、上記分散用重合体の含有量は、取扱い性の容易さの観点から、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。CNT分散液中の分散用重合体の含有量は、例えば、原材料の仕込み量からも求めることができ、あるいは、CNT類を濾別して、溶液中の固形分量を測定することにより求めることもできる。
本発明のCNT分散液は、上述のCNT類、溶剤、分散剤としての重合体を必須成分として含んでなるが、CNT類と重合体との質量比率が、CNT類:重合体=1:100~1であり、且つ、分散液中のCNT類の質量が15質量%以下であること、より好ましくは、10~0.05質量%の範囲となるように調整することが特に好ましい。この範囲に制御することで、増粘し過ぎず、十分な分散性能を得ることができる。本発明のCNT分散液におけるCNT類と重合体との質量比率としては、CNT類:重合体=1:20~1であることがより好ましく、さらには、CNT類:重合体=1:10~1であることが特に好ましい。本発明を特徴づける上記重合体を用い、より好ましくは、CNT類と重合体とを前記質量比率となるように配合して用いることで、より安定に分散したCNT分散液となる。
CNT分散液の粘度は、取り扱い性の観点から、100mPa・s以上が好ましく、150mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましく、そして、同様の観点から、2000mPa・s以下が好ましく、1500mPa・s以下がより好ましく、1000mPa・s以下がさらに好ましい。より具体的には、CNT分散液の粘度は、100mPa・s以上2000mPa・s以下が好ましく、150mPa・s以上1500mPa・s以下がより好ましく、200mPa・s以上1000mPa・s以下がさらに好ましい。
CNT分散液中におけるCNT類の量を少なくすることは、コスト面でのメリットはあるものの、例えば、0.01質量%以下のように過度に少ない場合は、これまでの炭素化合物にないCNT類に独特の特性や新規機能が十分に発現し得ず、所望の特性や効果が得られにくくなるので、極度に少ない量の添加は好ましくはない。すなわち、本発明の特徴は、CNT分散液中に、CNT類が持つ独自の特性や機能を発現できる量で目的に合ったCNT類を選択して、主鎖に環構造を含む構成単位、及び(メタ)アクリル酸由来の酸基を含む構成単位を有するカーボンナノチューブ分散用重合体を用い、より好適には、重合体の全構成単位における主鎖環構造を含む構成単位10~30質量部、(メタ)アクリル酸由来の酸基を含む構成単位10~40質量部含まれる重合体を用いることで、独特の特性や機能を持つCNT類を溶剤に、安定に分散させることを可能にしたことにあり、この結果、目的とする効果およびコスト面も含め、CNT類の持つ優れた特性を発揮し得る、多様な用途への適用可能なCNT分散液が提供され、広範な分野への応用が期待できるという、工業上、極めて有用な効果が得られる。
<カーボンナノチューブ分散液(CNT分散液)の製造方法>
本発明のCNT分散液は、例えば、本発明の分散用重合体、CNT類及び液媒体(溶剤)を公知の方法で配合することにより製造できる。したがって、本開示は、一態様において、本開示の分散用重合体、CNT類、及び液媒体を混合し、CNT類を液媒体中で分散させる分散工程を含む、CNT分散液の製造方法に関する。本開示のCNT分散液製造方法によれば、分散性に優れるCNT分散液を製造しうる。本開示の分散液製造方法に用いられるCNT類及び液媒体としては、上述した本開示のCNT分散液の含有成分と同様のものを用いることができる。
上記分散工程では、塗料製造用の一般的な混合分散機を用いてCNT分散液を製造できる。混合分散機としては、例えば、超音波ホモジナイザー、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、及びペイントシェーカー等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記分散工程では、分散性向上の観点から、超音波分散、ビーズミル分散、乳化装置などを用いた分散が好ましい。分散に用いるCNTの状態は、乾燥状態でもよいし、液媒体を含んだ状態であってもよい。上記分散工程において、各成分の好ましい配合量は、上述した本開示のCNT分散液の好ましい配合量と同じとすることができる。
(分散状態の確認方法)
本発明のCNT分散液は、CNT類、溶剤、分散用重合体を混合し、分散処理を行うことで容易に調製することができる。本発明のCNT分散液中におけるCNT類の分散性の確認方法としては、目視に加えて、下記に挙げるような分光光度計によるCNT分散液の吸光度測定法で実施することができる。まず、CNT類が濃度既知の極低濃度の分散液を数サンプル作成し、特定波長における吸光度を測定し、濃度に対する吸光度の検量線を作成しておく。次に、CNT類、溶剤、分散用重合体を混合し、所定の分散方法で分散処理した後、遠心分離処理をして分散しきれないCNT類を沈降分離させ、その上澄み液を吸光度測定可能な濃度に希釈して吸光度を測定し、検量線から濃度を算出する。得られる分散液の濃度により及び仕込み量と分散液の濃度を比較することにより、分散性を評価することができる。また、遠心分離後のCNT分散液を長期間静置させて、凝集物の有無を確認する方法も実施することができる。
<カーボンナノチューブ分散樹脂組成物>
本発明では、上記で説明した本発明のCNT分散液に別途樹脂組成物を添加することで、様々な形態のCNT分散樹脂組成物を得ることができる。樹脂組成物としては、従来公知の樹脂組成物を用いることができる。具体的には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂等の樹脂を含有してなる樹脂組成物を用いることができる。その形状としては、樹脂固形物でもよく、その樹脂溶液でもよい。また複数の樹脂の混合物を用いてもよい。
【0021】
本発明のCNT分散樹脂組成物は、CNT類が分散してなる、塗料、インキ、プラスチックなどとして用いることができ、導電性材料としての利用が期待できるほか、帯電防止材料としての応用も期待できる。CNT類が分散した塗料またはインキの作成は、本発明のCNT分散液に、塗料またはインキ組成となるように別途樹脂組成物を添加して塗料またはインキ化する方法や、市販の塗料またはインキにCNT分散液を添加する方法等を実施することで実現できる。また、CNT類が分散したプラスチックの作成は、溶融状態でプラスチックに、本発明のCNT分散液を混合し、溶剤を除去する方法や、微粉末状態のプラスチックに本発明のCNT分散液を添加し、溶剤を除去またはCNT類を析出させる方法等を実施することで実現できる。
【実施例0022】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
本発明に関し、実施例、比較例および特性評価により具体的に示す。なお、実施例および比較例では、特に記載しない限り%、wt%は質量%を、部は質量部を意味する。
以下の実施例等において、各種物性等は以下のようにして評価した。
[評価方法]
(1)重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶離液として、HLC-8220GPC(東ソー社製)、カラム:TSKgel SuperHZM-M(東ソー社製)によるGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法にて重量平均分子量及び数平均分子量を測定した。
(2)固形分
重合体溶液をアルミカップに約1gはかり取り、アセトン約3gを加えて溶解させた後、常温で自然乾燥させた。そして、熱風乾燥機(商品名:PHH-101、エスペック社製)を用い、真空下140℃で1.5時間乾燥した後、デシケータ内で放冷し、質量を測定した。その質量減少量から、重合体溶液の固形分(NV:質量%)を計算した。
(3)酸価
重合体溶液を3g精秤し、アセトン90gと水10gの混合溶媒に溶解させ、0.1NのKOH水溶液を滴定液として用いて滴定した。滴定は、自動滴定装置(商品名:COM-555、平沼産業社製)を用いて行い、溶液の酸価と溶液の固形分から固形分1g当たりの酸価(mgKOH/g)を求めた。
(4)二重結合当量(g/当量)
重合体固形分の質量(g)を重合体の二重結合量(mol)で除することにより求めた。
[CNT分散用重合体の合成]
まず、重合体(No.A-1~A-7、B-1~B-2)の合成を行った。
(実施例1)
重合体溶液A-1の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート) 80部を仕込み、窒素置換した後、90℃に昇温した。他方、滴下槽1にN-ベンジルマレイミド 25部、アクリル酸 36部、PGMEA 70部を混合した。また、滴下槽2に、ビニルトルエン(m-及びp- 60対40混合物)39部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(パーブチルO、商品名、日本油脂社製) 2部、n-ドデシルメルカプタン 2.8部を混合した。反応温度を90℃に保ちながら、滴下槽1及び2から、反応槽に4.0時間かけて等速で滴下を行った。滴下終了後、30分90℃を保った後、パーブチルO 0.5部を投入し、更に90℃で30分、反応を継続した。その後、反応温度を115℃に昇温し、1.5時間反応を継続した。その後、室温まで冷却し、重合体溶液A-1を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。
(実施例2)
重合体溶液A-2の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、PGMEA 116部を仕込み、窒素置換した後、90℃に昇温した。他方、滴下槽1にN-ベンジルマレイミド 15部、アクリル酸 37.8部、PGMEA 60部を混合した。また、滴下槽2に、ビニルトルエン(m-及びp- 60対40混合物)47.2部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(パーブチルO、商品名、日本油脂社製) 2部、n-ドデシルメルカプタン 1.5部を混合した。反応温度を90℃に保ちながら、滴下槽1及び2から、反応槽に4.0時間かけて等速で滴下を行った。滴下終了後、30分90℃を保った後、パーブチルO 1.5部を投入し、更に90℃で30分、反応を継続した。その後、反応温度を115℃に昇温し、1.5時間反応を継続した。その後、室温まで冷却し、重合体溶液A-2を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。
(実施例3)
重合体溶液A-3の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)172部を仕込み、窒素置換した後、90℃に昇温した。他方、滴下槽1にN-ベンジルマレイミド 15部、アクリル酸 35部、PGMEA 60部を混合した。また、滴下槽2に、ビニルトルエン(m-及びp- 60対40混合物)50部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(パーブチルO、商品名、日本油脂社製) 2.0部、n-ドデシルメルカプタン 3.4部を混合した。反応温度を90℃に保ちながら、滴下槽1及び2から、反応槽に4.0時間かけて等速で滴下を行った。滴下終了後、30分90℃を保った後、パーブチルO 1.5部を投入し、更に90℃で30分、反応を継続した。その後、反応温度を115℃に昇温し、1.5時間反応を継続した。一旦室温まで冷却した後、メタクリル酸グリシジル 57部、6-t-ブチル-2,4-キシレノール 0.2部、トリエチルアミン 0.4部を投入し、酸素濃度7%に調整した窒素・空気混合ガスをバブリングしながら110℃に昇温し、12時間反応を行った。その後室温まで冷却し、重合体溶液A-3を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。表1には記載していないが、二重結合当量は401g/当量であった。
(実施例4)
重合体溶液A-4(BzMI-MMA-tBMA-HEMA-AA共重合体溶液)の合成
温度計、攪拌機、ガス導入管、冷却管及び滴下槽導入口を備えた反応槽に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテ-ト110部を仕込み、窒素置換した後、加熱して90℃まで昇温した。他方、滴下槽(A)として、ビーカーにN-ベンジルマレイミド20部、メタクリル酸メチル21.8部、メタクリル酸t-ブチル25部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル20部、アクリル酸13.2部及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂社製「パーブチルO」)2.2部を攪拌混合したものを準備し、滴下槽(B)に、n-ドデシルメルカプタン2.6部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート15部を攪拌混合したものを準備した。反応槽の温度が90℃になった後、同温度を保持しながら、滴下槽から3時間かけて滴下を開始し、重合を行った。滴下終了後30分間90℃を保った後、115℃まで昇温し、90分間熟成を行い、重合体溶液A-4を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。
(実施例5)
重合体溶液A-5(BzMI-tBMA-MMA-HEMA-AAEM-AA共重合体溶液)の合成
温度計、攪拌機、ガス導入管、冷却管及び滴下槽導入口を備えた反応槽に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート144部を仕込み、窒素置換した後、加熱して90℃まで昇温した。他方、滴下槽(A)として、ビーカーにN-ベンジルマレイミド
10部、メタクリル酸t-ブチル35部、メタクリル酸メチル1.0部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル29部、メタクリル酸2-アセトアセトキシエチル12.1部、アクリル酸12.9部及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂社製「パーブチルO」)2.2部を攪拌混合したものを準備し、滴下槽(B)に、n-ドデシルメルカプタン5.8部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート18.4部を攪拌混合したものを準備した。反応槽の温度が90℃になった後、同温度を保持しながら、滴下槽から3時間かけて滴下を開始し、重合を行った。滴下終了後30分間90℃を保った後、115℃まで昇温し、90分間熟成を行い、重合体溶液A-5を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。
(実施例6)
重合体溶液A-6の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、PGMEA168部、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)78部を仕込み、窒素雰囲気下にて90℃に昇温した。他方、滴下槽1にジメチル-2,2'-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート(MD)10部、BzMA20部、MMA29.6部、MAA40.4部、PGMEA34部、PGME15部、PBO(t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート)2部を混合した。滴下槽2に、n-ドデシルメルカプタン7部、PGMEA 13質量部を混合した。それぞれ3時間かけて連続的に供給した。その後30分90℃を保持した後、PBO 0.5部を投入し、更に90℃で30分、反応を継続した。その後、温度を115℃まで昇温し、1.5時間重合を継続した。その後、室温まで冷却し、重合体溶液A-6を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。
(実施例7)
重合体溶液A-7の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、PGMEA168部、PGME78部を仕込み、窒素雰囲気下にて90℃に昇温した。他方、滴下槽1にジメチル-2,2'-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート(MD)15部、BzMA52.5部、MMA2.0部、MAA30.5部、PGMEA34部、PGME15部、PBO2部を混合した。滴下槽2に、n-ドデシルメルカプタン5部、PGMEA 13質量部を混合した。それぞれ3時間かけて連続的に供給した。その後30分90℃を保持した後、PBO0.5部を投入し、更に90℃で30分、反応を継続した。その後、温度を115℃まで昇温し、1.5時間重合を継続した。その後、室温まで冷却し、重合体溶液A-7を得た。得られた重合体の各種物性を表1に示す。
【0023】
【表1】
(比較例1)
重合体溶液B-1(DL522 ポリアクリル酸Na 固形分=30wt% 平均分子量=約170,000 pH=8.0±1.0)
ポリアクリル酸ナトリウム(商品名アクアリックDL522、株式会社日本触媒製)を重合体溶液B-1とする。重合体の各種物性を表2に示す。
(比較例2)
重合体溶液B-2(TL200 アクリル酸Na/マレイン酸Na=78/22(mol比) 固形分=40wt% 平均分子量=約60,000 pH=8.0±1.0)
株式会社日本触媒製アクアリックTL200(SA及びSMAのコポリマー、組成:SA/SMA=79/21%、重量平均分子量Mw60000、固形分40.6%)を重合体溶液B-2とする。重合体の各種物性を表2に示す。
【0024】
【表2】
なお、表1、2中の記載は、下記のとおりである。
BzMI:ベンジルマレイミド
MD:ジメチル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート
BzMA:メタクリル酸ベンジル
VT:ビニルトルエン
tBMA:メタクリル酸t-ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
AAEM:メタクリル酸2-アセトアセトキシエチル
HEMA:メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
GMA:メタクリル酸グリシジル

(カーボンナノチューブ水系分散液の調製)
分散剤(重合体A-1~A-6をTHFで溶解し、ヘキサンで再沈して精製した粉体の100%Na中和体、B-1、B-2)、CNT、及び蒸留水を混合し、実施例8~13及び比較例3~4のCNT水系分散液を調製した。
中和の手順は以下の通り。
重合体の酸価に対してすべて中和されるように1mol%の水酸化ナトリウム水溶液(ただし、重合体A-6、A-7は0.1mol%水酸化ナトリウム水溶液)を測りとり、各重合体を溶解させた。その後、実施例8~13及び比較例3~4のCNT水系分散液を調製した。
具体的には、20mLスクリュー管に分散剤溶液と蒸留水を15gとなるように測りとり、次いでCNT(VGCF-H)0.08gを測りとった。そして、撹拌機で30秒間振とうさせた。撹拌機は試験管ミキサーTRIO(High Type) HM-1Nを用いた。
CNT分散液中の分散剤の配合量は0.5質量%、CNTの配合量は0.05質量%とした。蒸留水の含有量は、分散剤及びCNT(不純物を含む)を除いた残余である。
CNTには、VGCF-H(登録商標、昭和電工社製。繊維径:約150nm、繊維長:10~20μmの多層カーボンナノチューブ)を使用した。
分散安定性について評価した。評価基準は以下の通り。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
[CNT分散性(外観)]
分散状態の評価は目視により判断した。
(目視)
スクリュー管の側面にカーボンナノチューブの凝集物が観察されるかどうかを確認した。
<評価基準>
◎:凝集物がほとんど見られない
〇:ところどころ凝集物が見られる
×:全く分散できていない

(カーボンナノチューブ有機溶媒系分散液の調製)
分散剤(重合体A-1、A-3、A-4、A-6、A-7、B-1、B-2)、CNT、及びNMPを混合し、実施例14~18及び比較例5~6のCNT有機溶媒系分散液を調製した。
具体的には、20mLスクリュー管に分散剤溶液とNMPを15gとなるように測りとり、次いでCNT(VGCF-H)0.08gを測りとった。そして、撹拌機で30秒間振とうさせた。撹拌機は試験管ミキサーTRIO(High Type) HM-1Nを用いた。
CNT分散液中の分散剤の配合量は0.5質量%、CNTの配合量は0.05質量%とした。NMPの含有量は、分散剤及びCNT(不純物を含む)を除いた残余である。
CNTには、VGCF-H(登録商標、昭和電工社製。繊維径:約150nm、繊維長:10~20μmの多層カーボンナノチューブ)を使用した。
振とう後7日間静置後の沈殿物の様子を評価した。結果を表4に示す。
【0026】
【表4】
[CNT分散性(外観)]
分散状態の評価は目視により判断した。
(目視)
スクリュー管の底面の沈殿物を確認した。
<評価基準>
◎:粉体状態を維持
〇:粉体状態をほぼ維持
×:粉体状態を維持できず塊状化(再分散できない)
表3、表4の結果から明らかなように、比較例の分散液に比べて、本発明を特徴づける重合体を分散剤に用いた実施例の分散液とすることで、いずれの場合も安定性の高いCNT分散液を得ることができた。また、長期間静置させても凝集物が生成することなく、安定に分散していたことが確認された。一方、比較例の場合、分散効果が劣っていることが確認された。なお、CNT水系分散液1及び4(実施例8及び11)、CNT有機溶媒系分散液1(実施例14)が分散性に特に優れていることより、BzMI-VT-AA共重合体(主鎖に環構造を含む構成単位、側鎖に芳香族基を含む構成単位及びアクリル酸由来の酸基を含む構成単位を有する重合体)やBzMI-MMA-tBMA-HEMA-AA共重合体がCNT分散剤として特に有用であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の重合体をCNT分散剤として用いることで、安定にCNT類が分散したCNT分散液を得ることができる。本発明の活用例としては、本発明のCNT分散液は、導電性付与、帯電防止性付与、機械特性付与等のCNT類の優れた特性を発揮し得る材料として、広範な分野への応用が期待できる。