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  • 特開-像安定化装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127091
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】像安定化装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 23/02 20060101AFI20230906BHJP
   G03B 5/00 20210101ALI20230906BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20230906BHJP
【FI】
G02B23/02
G03B5/00 J
G02B7/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030653
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】307048583
【氏名又は名称】伊藤 春雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 春雄
【テーマコード(参考)】
2H039
2K005
【Fターム(参考)】
2H039AA05
2H039AB32
2K005CA04
2K005CA14
2K005CA25
(57)【要約】
【課題】光学系装置に加わる振動等によって生じる手振れによる観察像の劣化を補償し、コストの削減及び小型化を図ることができる単眼鏡及び双眼鏡の像安定化装置の提供。
【解決手段】対物レンズと接眼レンズに加え、手振れ検出センサーを固設した筐体に対して、回動自在に装着された外枠と、外枠に対して回動自在に装着された内枠とを有するジンバル懸架装置の内枠に正立プリズムを固設すると共に、前記外枠及び内枠を回動させる手段としてのボイスコイルモータを制御し、検出された角運動量を(保存則を利用して)受動的に打消す向きにジンバル懸架装置に加え手振れをキャンセル出来る像安定化装置を、安価な小型軽量防振ユニットとして提供することで、防振光学系の設計自由度を大幅に高める事が可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正立プリズムを対物レンズと接眼レンズとの間に配置した単眼鏡光学系又は双眼鏡光学系を有し、前記正立プリズムを、単眼鏡光学系又は双眼鏡光学系の光軸に直交し、且つ互いに直交する2軸の回りに回動させることで、手振れによって生じる観察像の劣化を補償する像安定化装置であって、
対物レンズと接眼レンズ及び手振れを検出する角速度検出手段とを筐体に固設し、筐体に対して回動自在に装着された外枠と、外枠に対して回動自在に装着された内枠とで構成されるジンバル懸架装置の外枠及び内枠を回動させる駆動手段を備えた機構からなり、
前期筐体に固設された角速度検出手段により検出された手振れ角運動量を打消す向きに、ジンバル懸架装置に加え、観察像の劣化を補償する像安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単眼鏡及び双眼鏡等の光学装置が振動等を受けることで生じる手振れによって、光学装置の光軸に対する観察物体から射出される光束の射出角度が変動することによって生じる観察像の劣化を補償する単眼鏡及び双眼鏡の像安定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単眼鏡及び双眼鏡等で代表される光学的な観測を目的とした望遠鏡を手で保持しつつ観察対象を観察するために前記望遠鏡を操作する場合、特に望遠鏡を航空機及び車両等に持ち込んでこれを使用する場合に、航空機及び車両等による振動等が筐体に加わり手振れとなるが、手振れにより光軸に対する観察対象からの光束の射出角度が変動し、その結果として観察対象の観察像(光学像)が劣化してしまう。望遠鏡に加わる振動は、その振幅がたとえ小さくても、単眼鏡及び双眼鏡等の望遠鏡においては、視界が狭いこと、接眼レンズによって対物レンズの像を拡大して観察するので、最終的に視覚に訴える観察像が劣化して観察され、像の手振れを無視することが出来なくなる。
【0003】
これまでに、望遠鏡に加わる手振れよって光軸に対する光束の射出角度が変動し、この変動によって観察される観察像が劣化することを補償する像安定化装置が種々提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-250100号公報
【特許文献2】特開平7-43645号公報
【特許文献3】特開平10-20213号公報
【特許文献4】特開平2021-131429号公報
【0005】
例えば、特許文献1に記載された像安定化装置は、光軸に対して垂直な平面内で互いに直交する二軸を中心として回転可能に正立プリズムを支持するジンバル懸架装置を備え、
前記、ジンバル懸架装置の回動軸(Pivot)位置が、プリズムと対物/接眼両レンズ間の(光学的)距離が等しい時に、プリズムは(慣性系に対し)止まって見える。
それ故、プリズムと一体化した角速度検出センサー出力が出ない様にフィードバック制御することが可能となり、このプリズム保持枠に配置された角速度検出センサーを用いて、射出角の間接的なフィードバックが成されるので、周囲環境変化に強く、補正可能なブレ量が大きく出来る特徴を持つ。
が、同時にプリズムを中央に置かざるを得ず、対物レンズを大口径にするとケラレを防ぐ為、プリズムも大型化せざるを得なかった。
【0006】
一方、手振れ角に応じた光軸可変手段(頂角可変プリズム、レンズシフトなど)の補正制御量を、予め実験的に求め記憶して於くことで、像を安定化する特許文献2及び特許文献3に記載された像安定化装置は、機構が小型化し易いが、角速度出力に対する補正制御量を予め実験的に確認し、対応表化する作業が必要不可欠である。
しかも、射出角のフィードバックが無い為、環境変化(気温,電源電圧など)に敏感で、対応表作成は容易ではなく、補正可能なブレ量が小さいなどの欠点を持つ。
【0007】
特許文献4に記載された像安定化装置は、特許文献1の装置に更に手振れを検出する角速度センサーを装着することにより、前記、ジンバル懸架装置の回動軸(Pivot)位置を、対物/接眼両レンズ間で移動可能とすることで、正立プリズムを接眼側に寄せて小型・軽量化するだけでなく、高性能化も実現した像安定化装置である。
が、電子部品中最も高価な角速度センサーを2組使用する為、高性能と引換えに高コストとなってしまう欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この様に、それぞれ一長一短がある。
【0009】
ところで、特許文献1や特許文献4に記載された、正立プリズム等を、手振れに応じて光軸に適切な角度振ってやれば像安定化が可能であることが、近軸理論を用いた光線追跡ソフトウェアの発達により判って来た。
しかも、プリズムの光軸上の位置(Pivot)を光軸上で移動しても、Pivotのズレに応じてプリズムの駆動角を変更すれば、同様に手振れが補正出来た。
そこで、Pivot位置を光学的中心位置からズラした際の、手振れ角と正立プリズムの駆動角の関係を、近軸理論を用いた幾何学的解析により求めると、Pivotをズラした量と、Pivotから実像までの長さの比率となり、比例関係にあることが解った。
【0010】
しかも、これは、純粋に近軸光学的な解析の結果でもあるので、射出角のフィードバック有無に無関係で、プリズム角速度検出センサーは必ずしも必要ではない。
すなわち、像安定化に必要不可欠な要素は手振れ角に対し、光軸方向変更手段である正立プリズムを上記で示される比率倍駆動する駆動手段を持っていれば良いことになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の課題の1つは、Pivot位置の制限を外し、プリズムを接眼レンズに近付けて像安定化装置を小型軽量化することにあるので、このプリズム駆動角を手振れ角の比例係数倍する制御が出来れば、1つ目の課題は解決出来たことになる。
【0012】
実は、特許文献4は、特許文献1に手振れ検出センサーを付加し、フィードバック制御することで、この比例係数k倍を実現し、プリズムが中央になければならないというデザイン上の制限を取り去り、像安定化装置を、小型軽量で構成した像安定化装置を提供したものである。
【0013】
この発明のもう1つの課題は、特許文献4では、部品中最も高価な角速度センサーを2組使い高コスト化してしまっているので、片方の角速度センサーのみで比例係数を維持した制御が出来ないか?という検討である。
プリズム加速度センサーは、射出角のフィードバック制御の大元であるし、手振れ角速度センサー無しに手振れ量は検出出来ない。
【0014】
特許文献1や特許文献4に記載された、プリズム駆動手段やジンバル機構は残したまま、フィードバック機能の生みの親であるプリズムと一体化した角速度センサーのみを削除して、射出角のフィードバックが無くなっても、上記比例係数を維持出来れば手振れが補正出来ることになる。
【0015】
本駆動機構では、プリズムの回転軸位置(Pivot)が光軸上の一点である回転運動系なので、プリズムの各軸周りの慣性モーメントと手振れ検出用角速度センサー出力の積である角運動量を、手振れを打消す方向へプリズムの角運動量に加えてやれば、角運動量を時間微分したトルクがプリズムに加わり、フィードバックが無くてもプリズムが所定の角度に駆動され上記比率が維持されることが、回転運動方程式から判っており、かつ、比例係数は、各軸周りの慣性モーメントそのものであるので、面倒な補正制御量対応表を作成する必要がない。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、単眼鏡や双眼鏡の光学系装置に加わる手振れによって生じる観察像の劣化を補償することができるのは勿論、ジンバル懸架装置の位置の縛りがないので、設計自由度が大幅に向上するのみならず、接眼レンズ近くにPivot位置をズラす事により、プリズム自体を小型軽量化することができ、手振れ検出センサーのみで低コストな像安定化装置として単眼鏡及び双眼鏡のみならず、各種の分野における防振ユニットを提供することが可能となる。
【0017】
しかも、特許文献4に記載された像安定化装置のように、アクティブなフィードバック制御ではなく、回転角運動量保存則を利用したパッシブな制御であるので、消費電力が低減したエコな制御が可能である。
【0018】
特に、本発明による防振ユニットは、各種光学系の設計に際し、Pivotズラしの比例係数さえ変えれば、全く共通した単一部品として供給することが可能となるので、量産化により防振ユニットの更なる低コスト化が可能となり、デファクトスタンダード部品と成り得る。
【0019】
駆動の中心となるPivotを有すれば、(少なくとも)2軸の光軸に直交するジンバル機構で構成される正立プリズムは、他の正立ブロック(ポロプリズムや複数のミラー等)に置換え可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の像安定化装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら」本発明の実施形態に係る像安定化装置の構成について説明する。本明細書に於いては、全体を通じて、同一の要素には同一の符号を付する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る像安定化装置1の構成を示す断面図である。像安定化装置1は、例えば、目標物を観察するための単眼鏡から構成される。像安定化装置1は、筐体10、対物レンズ20、接眼レンズ30、像振れ補正ユニット70、角速度検出手段91を備える。なお、本実施形態では、像安定化装置1は、単眼鏡(具体的には、単眼望遠鏡)から構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、一対の単眼鏡から成る双眼鏡から構成されてもよい。
【0023】
筐体10は、長手方向に沿って、延在する筒状(具体的には、円筒状)の部材である。筐体10には、対物レンズ20、接眼レンズ30、像振れ補正ユニット70、角速度検出手段91、が設けられる。
【0024】
対物レンズ20は、環状(具体的には、円環状)の対物レンズ枠21を介して筐体10の一方側としての前方側(図1の左側)に設けられる。対物レンズ20は、全体として正の屈折力を有し、対物側(図1の左側)から接眼側(図1の右側)に順に配置される正レンズG1及び負レンズG2から構成される。対物レンズ20の光軸22は、対物レンズの中心を通り長手方向に沿って延在する。対物レンズ20の接眼側には、対物レンズ20の後側焦点23が形成される。
【0025】
接眼レンズ30は、環状(具体的には、円環状)の接眼レンズ枠31を介して筐体10の他方側としての後方側(図1の右側)に設けられる。接眼レンズ30は、全体として正の屈折力を有し、対物側(図1の左側)から接眼側(図1の右側)に順に配置される府レンズG3、正レンズG4及び正レンズG5から構成される。接眼レンズ30の光軸32は、対物レンズ20の光軸22と重なるように接眼レンズ30の中心を通り長手方向に沿って延在する。接眼レンズ30の対物側には、接眼レンズ30の前側焦点33が形成される。
【0026】
そして、対物レンズ20と接眼レンズ30とは、後側焦点23と前側焦点33とが一致するように配置される。これにより、ユーザが対物レンズ20を目標物に向けて接眼レンズ30から目標物を観察すると、対物レンズ20の後側焦点23(すなわち、接眼レンズ30の前側焦点33)の位置に発生した目標物の実像を拡大して観察することができる。
【0027】
図1に示すように、像振れ補正ユニット70は、手振れ等による筐体10の像振れを補正するための防振ユニットである。像振れ補正ユニット70は、対物レンズ20と接眼レンズ30との間に位置するように筐体10に収容される。また、像振れ補正ユニット70は、正立プリズム40及び支持機構としてのジンバル懸架装置50を有する。
【0028】
正立プリズム40は、倒立像を正立像にするためのプリズムである。正立プリズム40は、例えば、シュミットペシャンタイプであり、ダハプリズム41及び補正プリズム42を含んで構成される。なお、正立プリズム40は、シュミットペシャンタイプに限らず、例えば、ポロタイプ、アッベケーニッヒタイプ、シュミットプリズム又はアミチプリズムであってもよい。また、正立プリズム40を構成する反射面の一部又は全部は、平面ミラーで構成されてもよい。
【0029】
ジンバル懸架装置50は、正立プリズム40を旋回可能に支持するための支持機構である。ジンバル懸架装置50は、筐体10の内側に固定される固定枠51と、高さ方向に沿って延在する第1旋回軸52を介して旋回可能に固定枠51の内側に支持される外枠61と、幅方向に沿って延在する第2旋回軸62を介して旋回可能に外枠61の内側に支持される内枠71と、を有する。内枠71内には、正立プリズム40が固定される。
【0030】
角速度検出手段91は、手振れ等による筐体10の傾きに応じた角速度を検出する2軸の角速度検出手段である。本実施形態では、角速度検出手段91は、筐体10の内側に取り付けられているが、これに限定されるものではなく、例えば、固定枠51に取り付けられてもよい。
【0031】
なお、角速度検出手段91は、MEMS技術を用いたジャイロセンサや、その他のセンサが用いられてもよい。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態は、本発明の適用例の
一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上述した実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。


図1