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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127095
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】触媒および触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20230906BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230906BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230906BHJP
   C01B 33/26 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B01J27/24 A
B01J37/08
B01J37/02 101Z
B01J37/02 101C
C01B33/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030661
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】519318786
【氏名又は名称】高千穂シラス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】新留 昌泰
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 哲士
(72)【発明者】
【氏名】野口 大輔
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA48
4G073BA69
4G073CE01
4G073CE06
4G073FB32
4G073FD23
4G073FE02
4G073FF02
4G073GA11
4G073GA12
4G073GA13
4G073GA14
4G073UA05
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA03A
4G169BA03B
4G169BA15C
4G169BB20A
4G169BB20B
4G169BB20C
4G169BC31B
4G169CA02
4G169CA08
4G169CA10
4G169CA13
4G169CA17
4G169DA06
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC06Y
4G169EC14Y
4G169EC15Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB18
4G169FB29
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC04
(57)【要約】
【課題】ゼオライトに比べて安価なシラス原料を、簡素な工程で特殊な構造にし、安価で高活性な触媒及び当該触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒の製造方法は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料にアンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する。触媒は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備えた触媒であって、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料にアンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する、触媒の製造方法。
【請求項2】
前記アンモニア処理工程の前に、前記シラス原料を加熱する加熱工程をさらに有する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記シラス原料は、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる、請求項1または請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記シラス原料に所定の金属元素を担持する担持工程をさらに有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アンモニア処理工程において、前記シラス原料にアンモニア処理を施すと共に、前記シラス原料に所定の金属元素を担持する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備えた触媒であって、
前記シラス及び前記シラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である、触媒。
【請求項7】
前記シラスは平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでおり、前記シラスバルーンは平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる、請求項6に記載の触媒。
【請求項8】
所定の金属元素が担持されている、請求項6または請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とし、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいるシラス由来の原料であって、
少なくともアンモニア処理を施すことで、触媒となるシラス由来の原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒および触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シラスの主成分である酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む材料の代表例として、ゼオライトが挙げられる。ゼオライトは固体酸として優れた機能を有している。ここで、先行技術文献として特許文献1を掲げる。特許文献1には、ゼオライトを含んでなるスラリーを調製し、スラリーに1価の酸を添加し、スラリーのpHを3超の値に調整し、そして、スラリーを成形して粒子を形成する段階を含んでなる、触媒の製法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-523976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゼオライトの触媒の高活性化は複雑なプロセスで難しく、材料がシラスに比べて高価である。また、ゼオライトは、水素燃料の原料として注目されているアンモニアボランからの水素発生に対する活性が従来の触媒と比較して低い。
【0005】
本発明は、ゼオライトに比べて安価なシラス原料を、簡素な工程で特殊な構造にし、安価で高活性な触媒を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る触媒の製造方法は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料にアンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する。
【0007】
本発明の他の態様に係る触媒は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備えた触媒であって、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゼオライトに比べて安価なシラス原料を、簡素な工程で特殊な構造にし、安価で高活性な触媒を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】シラス原料にアンモニア処理などの各種処理を施して得られた試料を用いて、アンモニアボランの分解をしたときにおける水素の発生量を示す図である。(a)は、シラス原料としてシラスのみを用いた場合を示しており、(b)は、シラス原料として小さい粒子で構成されているシラスバルーンのみを用いた場合を示している。
図2】シラス原料、および当該シラス原料にアンモニア処理などの各種処理を施して得られたもの(試料)の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】(a)は、シラス原料、および当該シラス原料にアンモニア処理などの各種処理を施して得られた試料について、エネルギー分散型X線分析の結果から算出した組成と滴定法による測定から算出した酸点量を示している。(b)は、上記試料の窒素吸脱着測定の結果から算出した各種物性を示している。(c)は、XPS測定の結果より算出したシラス原料表面および各種試料表面のSiおよびAlの組成を示している。
図4】(a)は、図3における結果から、表面におけるケイ素(Si)とアルミニウム(Al)との組成比と、水素発生量との関係を示している。(b)は、シラス原料、および当該シラス原料にアンモニア処理などの各種処理を施して得られた試料のX線回折スペクトルを示している。(c)は、石英に由来するピークからシェラー式により算出した結晶子径(D)と水素発生量との関係を示している。
図5】固体酸機能を発現するアルミニウム(Al)を含む活性サイトをイメージした図である。
図6】(a)は、銅が担持されたシラス由来試料における、亜酸化窒素の転化率の温度依存性を示している。(b)は、銅が担持されたシラス由来試料の重量の影響を示している。
図7】銅が担持されたシラス由来の試料等の、走査型電子顕微鏡写真を示している。
図8】(a)は、各種銅担持シラス由来の試料等の組成を示している。(b)は、各種シラス原料を担体とした銅担持触媒のX線回折スペクトルを示している。(c)は、各種試料の紫外可視分光スペクトルを示している。
図9】各種シラス原料等を担体とする銅担持触媒のCu2p、O1s、および、Si2p軌道のX線光電子分光スペクトルを示している。
図10A】(a)は、X線光電子分光スペクトルの結果から算出した表面組成を示している。(b)、(c)は、銅とともに異種金属を担持した試料の亜酸化窒素の転化率の温度依存性を示している。
図10B】銅とともに異種金属を担持した試料の亜酸化窒素の転化率の温度依存性を示している。(d)は、Coを添加した場合を示しており、(e)は、Coを添加した場合を示している。
図11】各種試料の走査型電子顕微鏡写真を示している。
図12】(a)は、エネルギー分散型X線分析(EDX)およびX線光電子分光法(XPS)の測定結果から算出した各種触媒のバルク体および表面組成を示している。(b)は、X線光電子分光法(XPS)の測定結果のスペクトルを示している。
図13】アンモニア添加による銅サイトの変化をイメージした図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る触媒1は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料を用いたものである。シラス原料としては、シラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を用いることができる。そして、本実施形態に係る触媒1では、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素(Si)/アルミニウム(Al)の組成比(表面におけるケイ素のモル数/アルミニウムのモル数の値)が1~2.5になっている。
【0011】
シラスとは、俗称白色砂質堆積物であって、南九州に広く分布する白色粗鬆な火山噴出物およびそれに由来する2次堆積物の総称である。シラスは、高温マグマの冷却により結晶分化作用が起こり、マグマ中の主成分SiO、Al、Fe、MgO、CaO、NaO、KO等が互いに集まっている。また、シラスは、鉱物として晶出して間もなく爆発的に噴出して形成されたものであり、約3割の結晶鉱物と残り約7割の非晶質火山ガラスから成っている。
【0012】
この非晶質火山ガラスはマグマ中の揮発性成分を急激に放出して、多孔質の軽石状を成しており、SiOが65~73%、Alが12~16%、CaOが2~4%、NaOが3~4%、KOが2~4%含まれ、さらに鉄分が1~3%含まれている。また、結晶鉱物は斜長石が最も多く、他に紫蘇輝石、石英、普通輝石、磁鉄鉱等が多少含まれている。
【0013】
ここでシラスについてさらに説明する。シラスは、シラス台地を形成しているものである。シラス台地は、日本国の鹿児島県から宮崎県南部にかけて最大150mの厚さになっている。
【0014】
シラスは、大量の火砕流として一気に堆積したものであるので、他の土と混ざることなく厚い地層になってシラス台地を形成している。一般的な土は、岩石が細かく粉砕された粉末に、植物や微生物などがもたらす作用によって、様々な有機物が混ざっている。
【0015】
これに対して、シラスは、マグマが岩石になる前に粉末になったものであるので、養分(有機物)を殆ど含んでおらず、マグマの状態から超高温で焼成された高純度の無機質セラミック物質となっている。すなわち、シラスは火山ガラスを主成分としケイ酸分を60%~80%含む多孔質の鉱物である。
【0016】
ここで、高千穂シラス(九州高千穂山産のシラス)を分析すると、各成分の含有量は重量%で次の通りである。
【0017】
強熱減量が2.7%、SiOが67.8%、Alが15.1%、NaOが3.7%、CaOが2.2%、Feが2.5%、KOが2.2%、TiOが0.27%、MnOが0.06%、MgOが0.58%、Pが0.03%、SOが0.20%、Clが0.001%未満になっている。
【0018】
強熱減量は、三酸化硫黄(SO)によるもので、JIS R5202により測定した。酸化ケイ素(IV)(SiO)は、凝集重量吸光光度併用法により測定した。酸化アルミニウム(Al)と酸化鉄(III)(Fe)と酸化チタン(IV)(TiO)と酸化カルシウム(CaO)と酸化マグネシウム(MgO)と酸化ナトリウム(NaO)と酸化カリウム(KO)と酸化マンガン(MnO)と五酸化リン(P)とは、フッ化水素酸、硝酸、過塩素酸分解-ICP発光分析法により測定した。塩化物イオン(Cl)は環境庁告示第13号に準じた溶出を行い、検液をイオンクロマトグラフ法で測定した。
【0019】
なお、高千穂シラス以外のシラス(たとえば鹿児島産のシラス)や、高千穂シラスと同様の組成になっているものを、高千穂シラスの代わりに採用してもよい。
【0020】
さらに説明すると、シラスの主成分は、ケイ酸及び酸化アルミニウムであり、斜長石や石英、酸化チタン等も含まれる。また、シラスの粒子内には、微小な気泡が多数存在している。なお、サラサラした粉状のシラスは、水持ちが悪いので水田に向かず、豪雨の際に土砂崩れを引き起こしやすいなど、やっかいもの扱いされている。
【0021】
シラスバルーンは、シラスを1000℃程度の高温で焼成・発泡させた微細な風船状のもの(微粒の中空体)である。
【0022】
本実施形態に係る触媒1におけるシラスは、触媒としての活性を高めるために、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる。また、本実施形態に係る触媒1におけるシラスバルーンは、触媒としての活性を高めるために、2μm~3μmの粒子を含んでいる。
【0023】
さらに説明すると、本実施形態に係る触媒1におけるシラスは、この大部分が、平均粒子径が2μm~3μmの粒子となっており、本実施形態に係る触媒1におけるシラスバルーンは、この大部分が、2μm~3μmの粒子となっている。なお、シラス及びシラスバルーンの粒子径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0024】
次に、本実施形態に係る触媒1の製造方法について説明する。
【0025】
本実施形態に係る触媒1は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料の材料にアンモニア処理を施すアンモニア処理工程を経て得られる。シラス原料は、たとえば、シラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を含む材料である。つまり、シラス原料は、シラスのみ、シラスバルーンのみ、もしくは、シラスとシラスバルーンとの混合物のみからなっている材料である。
【0026】
アンモニア処理は、常温下で、定量のシラス原料を、アンモニアの濃度が所定の濃度になっているアンモニア水に懸濁し、所定時間攪拌する処理である。
【0027】
そして、アンモニア処理の後に、常温下で、アンモニア処理されたシラス原料を濾過(濾過工程)し、この後、乾燥(乾燥工程)することで、触媒(シラス由来の触媒)1を得ることができる。
【0028】
このようなアンモニア処理を施すことにより、触媒(シラス由来の触媒)1では、表面におけるケイ素(Si)とアルミニウム(Al)との組成比(表面におけるケイ素のモル数/アルミニウムのモル数の値)が、上述したように、1~2.5(より好ましくは1~1.5)になっている。
【0029】
なお、本実施形態に係る触媒1の製造方法において、アンモニア処理をする前に、シラス原料を加熱する加熱処理(熱処理;加熱工程)を実行してもよい。加熱工程は、シラス原料に含まれている有機物等の不純物をシラス原料から取り除くためになされるものである。加熱工程では、450℃程度の温度で、所定時間(たとえば、1時間から5時間)、空気中でシラス原料を加熱する。
【0030】
なお、加熱処理の温度は、350℃~700℃(より好ましくは、400℃~500℃)の範囲内で適宜変えてもよい。さらに、加熱処理は、たとえば、常温の状態で開始され、この後、次第に温度を上げてなされてもよい。このときの温度の上昇率は、5℃/min~20℃/minの間の適宜の値になっている。なお、5℃/min~20℃/minの範囲を広げてもよい。たとえば、2℃/min~50℃/minの範囲に広げてもよい。
【0031】
また、触媒1の製造方法において、シラス原料に対してアンモニア処理を施すことによりアンモニア処理粉末を得た後、当該アンモニア処理粉末に対して焼成処理(熱処理)を施してもよい。具体的には、上述のアンモニア処理粉末に対して、高温下(たとえば、450℃の温度の下)で熱処理を行ってもよい。また、450℃の温度を350℃~700℃(より好ましくは、400℃~500℃)の範囲内で適宜変えてもよい。当該熱処理は、たとえば、常温の状態で開始され、この後、次第に温度を上げてなされるようになっている。このときの温度の上昇率は、5℃/min~20℃/minの間の適宜の値になっている。なお、5℃/min~20℃/minの範囲を広げてもよい。たとえば、2℃/min~50℃/minの範囲に広げてもよい。
【0032】
シラス原料は、上述したように、(触媒としての活性を高める)平均粒子径が2μm~3μmの材料を含んでいる。
【0033】
シラス原料のうちのシラスは、平均粒子径が50μm~70μmの粗大な粒子と、平均粒子径が2μm~3μmの小粒子で構成されている。平均粒子径が50μm~70μmの粗大な粒子に対する平均粒子径が2μm~3μmの小粒子との質量の比は、0.1~10の間の所定の値になっている。
【0034】
シラス原料のうちのシラスバルーンでは、このほぼ総てが、平均粒子径が2μm~3μmの小粒子で構成されている。なお、加熱工程及びアンモニア処理工程を経ても、シラス原料における粒子径の変化はほとんど無い。
【0035】
上記製造方法で得られた触媒1は、例えば、アンモニアボランの分解(たとえばアンモニアボランの分解による水素の発生)に使用することができる。
【0036】
ここで、本実施形態に係る触媒、および、この製造方法について、実験例等を掲げてさらに説明する。
【0037】
まず、シラス原料として、サンプル1であるシラスと、サンプル3であるシラスバルーンを準備した。なお、サンプル1およびサンプル3は比表面積の値が大きく、例えば、サンプル1は比表面積の最大値が8.8m/gであり、サンプル3は比表面積の最大値が3.2m/gである。
【0038】
〔実験〕
次に、これらのシラス原料0.8gを28%のアンモニア水20mLにて懸濁し、4~5時間攪拌した後にろ過して乾燥し、目的の試料を得た。なお、上記アンモニア水を用いた処置が上述したアンモニア処理に該当する。また、シラス原料0.4gを、35%の塩酸40mLにて懸濁し、4~5時間攪拌した後にろ過して乾燥し、目的の試料(参考例に係る試料)を得た。
【0039】
得られた各試料のそれぞれ0.2gを二口フラスコに入れ、一方の口をセプタムで密封し、もう一方の口をガスビュレットに接続した。この後注射器を使用し、0.16wt%のアンモニアボラン水溶液3.5mLをフラスコに導入して反応を開始し、発生する水素ガスをガスビュレットでモニターして活性を評価した。また、得られた各試料を、窒素吸脱着測定、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析、X線光電子分光法にて解析した。また、得られた試料の酸点量を、メチルレッドを指示薬とし、n-ブチルアミンを滴下することで評価した。
【0040】
〔結果〕
図1に各種処理した試料の水素発生量の経時変化を示す。図1(a)は、サンプル1(シラス)由来の試料の結果を示しており、図1(b)は、サンプル3(シラスバルーン)由来の試料の結果を示している。図1の横軸は、反応時間を示しており、図1の縦軸は、アンモニアボラン水溶液からの水素の発生量を示している。
【0041】
図1で示すように、サンプル1由来の試料では、アンモニア水で処理した試料(アンモニア処理した試料)が高活性を示すことが確認された。
【0042】
図1(a)で示す「サンプル1」は、サンプル1に一切の処理をしていない試料であり、線図L11は、サンプル1に一切の処理をしていない試料における反応時間と水素の発生量との関係を示している。図1(a)で示す「サンプル1 HCl」は、サンプル1に上述したような塩酸で処理を施した試料である。図1(a)で示す「サンプル1 NH」は、サンプル1に常温でアンモニア処理を施した試料である。線図L12は、サンプル1に常温でアンモニア処理を施した試料における反応時間と水素の発生量との関係を示している。
【0043】
図1(a)で示す「サンプル1cal NH」は、450℃で加熱処理したサンプル1に対して、アンモニア処理を施した試料である。なお、450℃の温度は、20℃/minの温度上昇率で常温から450℃に昇温したものである。線図L14は、450℃(20℃/minの温度上昇率)で加熱処理したサンプル1に対して、アンモニア処理を施した試料における反応時間と水素の発生量との関係を示している。
【0044】
図1(a)で示す「サンプル1cal(450、5) NH」は、450℃で加熱処理したサンプル1に対して、アンモニア処理を施した試料である。なお、450℃の温度は、5℃/minの温度上昇率で常温から450℃に昇温したものである。線図L13は、450℃(5℃/minの温度上昇率)で加熱処理したサンプル1に対して、アンモニア処理を施した試料における反応時間と水素の発生量との関係を示している。
【0045】
図L11で示す試料よりも水素の発生量が多い試料(触媒としての活性が高い試料)、すなわち、線図L12、線図L13、線図L14で示す試料が、本実施形態に係る触媒1になる。
【0046】
図1(b)で示す「サンプル3」は、サンプル3に一切の処理をしていない試料である。図1(b)で示す「サンプル3 HCl」は、サンプル3に上述したような塩酸で処理を施した試料である。図1(b)で示す「サンプル3 NH」は、サンプル3に常温でアンモニア処理を施した試料である。線図L15は、サンプル3に常温でアンモニア処理を施した試料における反応時間と水素の発生量との関係を示している。サンプル3に一切の処理をしていない試料よりも水素の発生量が多い試料、線図L15で示す試料が、本実施形態に係る触媒1になる。
【0047】
まとめると、上述したアンモニア処理を施した試料においては、いずれのシラス原料においてもシラスそのものに比べて4~7倍の水素発生量を示すことが確認された.
なお、結果の詳細は図示していないが、サンプル1では、前処理として450℃(723K)の温度の下、2時間空気中で熱処理した後に上述したアンモニア処理することで、さらに水素発生速度および発生量が増大することが確認された。また、サンプル3であっても、前処理として450℃の温度の下、2時間空気中で熱処理した後に上述したアンモニア処理することで、さらに水素発生速度および発生量が増大すると推定される。
【0048】
〔解析〕
上述した結果をもとに、サンプル1およびサンプル3由来の試料において大幅に活性が向上した原因について検討するために、試料の形状および組成について解析した
図2に各種処理したシラス由来試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。いずれの試料においても、処理前後で形状に大きな違いが確認できなかった。サンプル1由来の試料は、50μm~70μm程度の粗大な粒子と2μm~3μm程度の小粒子で構成されており、サンプル3由来の試料は、主に2μm~3μm程度の小粒子で構成されていることが確認された。
【0049】
上述した各種処理をした試料について、エネルギー分散型X線分析の結果から算出した組成と滴定法による測定から算出した酸点量(Acid sites)を図3(a)に示す。サンプル1由来の試料において、塩酸処理(サンプル1 HCl)を行うことでAl組成が大幅に減少していることが確認できる。また、アンモニア処理をした場合も、サンプル1およびサンプル3由来のいずれの試料でも、Alの組成が減少している。ただ、加熱処理後にアンモニア処理したサンプル1由来の試料は、塩酸処理をした試料と比較して、Al組成の減少が小さいことが確認された。
【0050】
また、サンプル1由来の試料では、加熱処理後にアンモニア処理した試料は、加熱処理をしない試料と比較して、Al組成の減少が小さくなっていることが確認された。これらの結果より、処理条件によって酸化アルミニウムの溶出量が異なることが示唆された。また、これらの試料の酸点量は、何も処理していないサンプル3、塩酸処理したサンプル1以外は、水素発生量と同じ序列で増大することが確認された。
【0051】
上述した各種処理をした試料の窒素吸脱着測定の結果から算出した各種物性を図3(b)に示す。図3(b)より、サンプル3と比較してサンプル1を原料とする試料では、比表面積および細孔容積が大きくなっているが、同じ原料で比較した際には、熱処理やアンモニア処理の影響は小さいことが確認された。一方で、サンプル1を原料とする試料で塩酸処理をしたものに関しては比表面積および細孔容積が減少し、平均細孔径が大きくなっていることが確認された。以上のことより、塩酸処理した場合、他の試料と比較して微細なレベルでの形状が崩れていることが示唆された。
【0052】
さらに、上述した各種処理をした試料の表面状態を解析するためにXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定を行ったところ、主にSi(ケイ素)、Al(アルミニウム)、O(酸素)のピークが確認された。この結果より、いずれの試料表面も主に酸化ケイ素および酸化アルミニウムで構成されていることが示唆された。
【0053】
図3(c)には、XPS測定の結果より算出した各種試料表面のSiおよびAlの組成を示す。この結果より、サンプル1を各種処理することで、表面のAl組成が増大する傾向にあることが確認できた。特に、加熱処理後にアンモニア処理した試料においてはAl組成が最大になっていることが確認できる。一方、サンプル3については、アンモニア処理することで、Al組成が減少していることが確認された。
【0054】
図3で示す結果から、バルク体および表面組成と水素発生量との関係をまとめた結果を図4(a)に示す。図4(a)の横軸はSi/Alの比を示しており、縦軸は水素の発生量を示している。図4(a)で示す「サンプル1surface」は、サンプル1の表面およびサンプル1由来試料の表面におけるSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示しており、「サンプル3surface」は、サンプル3の表面およびサンプル3由来試料の表面におけるSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。図4(a)で示す「サンプル1bulk」は、サンプル1の全体およびサンプル1由来試料の全体におけるSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示しており、「サンプル3bulk」は、サンプル3の全体およびサンプル3由来試料の全体におけるSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0055】
図4(a)で示す点P41aは、図3で示すサンプル1に対応するサンプル1表面のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。点P41bは、図3で示すサンプル1に対応するサンプル1全体のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0056】
図4(a)で示す点P42aは、図3で示すサンプル1 HClに対応するサンプル1 HCl表面のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。点P42bは、図3で示すサンプル1 HClに対応するサンプル1 HCl全体のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0057】
図4(a)で示す点P43aは、図3で示すサンプル1 NHに対応するサンプル1 NH表面のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。点P43bは、図3で示すサンプル1 NHに対応するサンプル1全体のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0058】
図4(a)で示す点P44aは、図3で示すサンプル1cal NHに対応するサンプル1cal NH表面のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。点P44bは、図3で示すサンプル1cal NHに対応するサンプル1cal全体のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0059】
図4(a)で示す点P45aは、図3で示すサンプル3に対応するサンプル3表面のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。点P45bは、図3で示すサンプル3に対応するサンプル3全体のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0060】
図4(a)で示す点P46aは、図3で示すサンプル3 NHに対応するサンプル3 NH表面のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。点P46bは、図3で示すサンプル3 NHに対応するサンプル3 NH全体のSi/Alの組成比と水素の発生量との関係を示している。
【0061】
図4(a)より、バルク体の組成と水素発生量の相関はないが、各種処理をしていないサンプル3を除き、表面組成と水素発生量は直線的な相関関係があり、Si/Alが1に近いほど水素発生量が多いことが確認できる。
【0062】
この結果より、表面のAl組成が増大することにより、酸化ケイ素のネットワークに入り込み、水素イオンを備えるブレンステッド酸サイトの数が増大することで水素発生がより促進されることを示唆された。
【0063】
また、図4(b)には上記の試料のX線回折スペクトルを示す。この図より、いずれの試料においても石英および斜長石由来のピークが存在することが確認できる。また、サンプル1およびサンプル3に各種処理をすることで、いずれのピーク強度も減少していることが確認された。特にサンプル1を熱処理およびアンモニア処理をした試料では、ピーク強度が大幅に減少していることが確認できる。この結果より、各種処理により試料を構成する結晶子の大きさが減少することが示唆された。
【0064】
図4(c)には、石英に由来するピークからシェラー式により算出した結晶子径(D)と水素発生量との関係を示す。この図よりサンプル1およびサンプル3由来の試料で傾きは異なるが、結晶子径が小さい試料ほど水素発生量が多いことが確認された。これらの結果とシラス原料が非晶質成分を主成分とすることを合わせると、加熱処理あるいはアンモニア処理によって結晶性の不純物を含め、触媒を構成する粒子の分散性が向上し、機能が向上したことが示唆された。
【0065】
以上の結果より、各種処理をしたシラス由来試料において、特に加熱処理やアンモニア処理した試料において、表面のSi/Al比が1に近くなる傾向にあることが示唆され、構成する粒子の分散性が高い試料で活性点が多くなり、水素発生量が多くなる傾向にあることが示唆された。
【0066】
このように、シラス由来の安価な原料を簡単な方法で特殊な構造にすることで、高活性の固体酸触媒を提供することができることが分かる。さらに、本実施形態の触媒の機能性は、ゼオライトと比較して、ターンオーバー頻度(TOF)が1桁大きな値となることから、アンモニアボランの水素発生に対する機能性を有する材料として期待できる。
【0067】
また、本実施形態に係る触媒1および触媒1の製造方法によれば、シラス及び/又はシラスバルーンというシラス原料を使用しているので、ゼオライトを使用する場合に比べて、安価に触媒を得ることができる。
【0068】
また、本実施形態に係る触媒1および触媒1の製造方法によれば、アンモニア処理という簡素な処理を施すことにより、触媒1の表面におけるケイ素(Si)とアルミニウム(Al)の組成比が1に近くなっている。これにより、触媒1の表面のアルミニウムの組成が増大しており、アルミニウムが酸化ケイ素のネットワークに入り込んでいる。そして、水素イオンを備える酸点の数が、図5(b)で示す場合に比べて、図5(a)で示すように増えている。そのため、シラス原料が活性化されており、アンモニアボランからの水素の発生が促進され、アンモニアボランの分解が促進されると推測される。
【0069】
また、本実施形態に係る触媒1の製造方法では、アンモニア処理をする前に、シラス原料を加熱してもよい。これにより、シラス原料に有機物等の不純物が含まれていても、この不純物等がアンモニア処理前に除去され、アンモニア処理によって触媒の表面におけるケイ素(Si)とアルミニウム(Al)の比を一層「1」の近くにすることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る触媒1および触媒1の製造方法では、シラス原料が、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいてもよい。これにより、触媒1の表面積が増えるため、アンモニアボランからの水素の発生が一層促進される。
【0071】
上述したアンモニア処理についてさらに説明する。上述したアンモニア処理では、シラス原料0.8gを28%のアンモニア水20mLにて懸濁し、4~5時間攪拌した後にろ過して乾燥している。すなわち、シラス原料1.0gを28%のアンモニア水25mLにて懸濁し、4~5時間攪拌した後にろ過して乾燥している。ここで、シラス原料の触媒として活性を高めるために、上記各値(パラメータ)を、適宜変更してもよい。たとえば、シラス原料1.0gを20%~35%のアンモニア水15mL~35mLにて懸濁し、1~8時間攪拌した後にろ過して乾燥し、これをアンモニア処理としてもよい。さらに、シラス原料1.0gを25%~30%のアンモニア水20mL~35mLにて懸濁し、3~6時間攪拌した後に濾過して乾燥し、これをアンモニア処理としてもよい。
【0072】
なお、アンモニア処理をする前の加熱工程では、450℃程度の温度でシラス原料を加熱しているが、加熱温度を適宜変更してもよい。たとえば、加熱工程での加熱温度を、300℃~600℃の範囲のうちの適宜の温度にしてもよい。さらに、加熱工程での加熱温度を、400℃~500℃の範囲のうちの適宜の温度にしてもよい。
【0073】
〔担持触媒〕
次に、所定の金属元素が担持されている担持触媒について説明する。この所定の金属元素が担持されている担持触媒にも、上述した触媒1と同様に、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス又はシラスバルーンが用いられている。また、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素(Si)/アルミニウム(Al)の組成比が1~2.5になっている。さらに、シラスでは、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでおり、シラスバルーンでは、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる。
【0074】
次に、所定の金属元素が担持されている担持触媒(金属酸化物担持触媒)の製造方法について説明する。
【0075】
金属酸化物担持触媒の製造では、担持工程に加えて、上述したアンモニア処理工程を実行し、さらに加熱工程を必要に応じて実行する。担持工程では、シラス原料に所定の金属元素を担持する。
【0076】
担持工程での担持は、たとえば、アンモニア処理工程と一緒になされる。なお、担持工程は、加熱工程前又は加熱工程後であってもよく、アンモニア処理工程前又はアンモニア処理工程後であってもよく、濾過工程前又は濾過工程後であってよく、乾燥工程前又は乾燥工程後であってもよい。
【0077】
担持工程で担持する金属元素としては、銅(Cu)、セリウム(Ce)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。この中でも、金属元素としては、銅(Cu)を用いることが好ましい。
【0078】
なお、担持工程で担持する金属元素の組み合わせとしては、銅(Cu)とセリウム(Ce)、銅(Cu)と鉄(Fe)、銅(Cu)とコバルト(Co)、銅(Cu)とニッケル(Ni)とすることができる。
【0079】
さらに、金属元素としては、Ru(ルテニウム)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Mn(マンガン)等の金属も用いることができる。なお、触媒に担持された金属は、酸化物の状態であってもよく、イオンの状態であってもよい。
【0080】
また、金属元素としては、In(インジウム)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)、La(ランタン)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)などを用いることができる。なお、当該金属元素を担体に担持して触媒粉末を得た後、当該触媒粉末をシラス原料に担持してもよい。このような担体として、CeO、TiO等を用いることができる。
【0081】
ここで、銅を担持した担持触媒における亜酸化窒素の分解活性をさらに説明する。
【0082】
銅系触媒は二酸化炭素の水素化や窒素酸化物の分解など種々の酸化還元反応に高い活性を示すことが知られている。また、この触媒系は、窒素酸化物の一種である亜酸化窒素の分解においても高機能を示し、様々な酸化物への担持や複合化によって、その機能が向上する。たとえば、酸化ケイ素と酸化アルミニウムを主成分とするゼオライトに銅を担持することで、高い活性を示すことが知られている。
【0083】
〔実験〕
銅担持シラス由来試料(担持触媒)は、28%のアンモニア水0~1.18mLを含む0.01M又は0.1Mの酢酸銅水溶液50mLにシラス原料を浸漬し、室温で4~5時間攪拌した後、ろ過乾燥して得たものである。
【0084】
そして、得られた銅担持シラス由来試料を固定小流通式反応装置に充填し、500℃で1時間、ヘリウム気流中(50mL/min)で前処理し、目的の反応温度に設定した。この後、0.5%亜酸化窒素を含むアルゴン気流中、あるいは0.45%亜酸化窒素と1%アンモニアとを含むアルゴン気流中(50mL/min)で触媒活性を評価した。
【0085】
触媒活性の評価にあたっては、各温度で1時間流通し、オンラインで接続したガスクロマトグラフィーにおいて亜酸化窒素の転化量を定量した結果から亜酸化窒素転化率を算出して活性を評価した。また、得られた試料は、窒素吸脱着測定、走査型電子顕微鏡観察、エネルギー分散型線分析、X線回折測定、紫外可視分光測定、およびX線光電子分光測定により解析を行った。
【0086】
〔結果〕
図6(a)には、各種条件で銅を担持したシラス由来試料における亜酸化窒素の転化率の温度依存性を示す。この図6(a)より、銅を担持していないシラス原料およびアンモニアを添加せずに銅を担持した試料は、すべての温度域で5%以下の転化率であることが確認された(線図L61参照)。
【0087】
一方、アンモニアを添加して銅を担持した試料については、サンプル1およびサンプル3を担体とした場合、300℃以上の温度域で高い活性を示し、特にサンプル3を担体とした場合、400℃約35%、500℃で約80%の転化率を示すことが確認された(図6(a)のCu(NH/サンプル3 NH参照)。
【0088】
また、サンプル1を使用した試料であって、アンモニアを1/3の量にして調製した試料では、全温度領域において転化率が低下していることが確認された(図6(a)のCu(NH)/サンプル1参照)。また、サンプル1を使用した試料であって、銅とアンモニアをいずれも1/10にして調製した試料でも、全温度領域において転化率が低下していることが確認された。以上の結果より、担持時に一定濃度以上の銅およびアンモニアを使用し、銅濃度よりも高いアンモニア濃度で担持した試料において高い活性を示すことが示唆された。
【0089】
一方、アンモニアを反応ガスに添加することで、アンモニアの還元作用により反応が促進されると考えられる。そのため、最も活性が高かった、アンモニアを銅の3倍添加し、サンプル3を担体とした試料について、反応ガスにアンモニアを添加したときの効果を検討した。図6(a)にはその結果も示しているが、アンモニア添加により、亜酸化窒素の転化活性が向上しており、400℃(673K)で転化率100%を示すことが確認された(図6(a)のCu(NH/サンプル3 NH参照)。
【0090】
これらの担持触媒に関して、活性の経時変化を400℃(673K)および500℃(773K)において評価したところ、いずれの反応温度でも6時間程度では一定の活性を維持することが確認された。
【0091】
図6(b)では、銅担持触媒の触媒重量の影響を検討した結果を示す。この結果より、400℃(673K)以下では、触媒重量の増大に伴い転化率が増大するが、500℃(773K)においては、触媒重量の違いによる転化率の違いは殆ど無いことが確認された。
【0092】
ここで、銅担持条件や担体として使用したシラス原料の、活性の違いに対する影響を検討するため、各種測定により解析を行った。図7には各種試料のSEM写真を示す。この結果より、銅担持していないシラス由来試料と銅担持したシラス由来試料(銅担持触媒)では形状の違いは見られなかった。
【0093】
図8(a)では、各種の銅担持したシラス由来試料(銅担持触媒)等の組成を示す。図8(a)より、アンモニアを添加した試料では銅担持量が大幅に増大していることが確認された。また、担体のシラス原料等によって銅担持量が変化することも確認された。
【0094】
図8(b)には、各種シラス原料等を担体とした銅担持触媒のX線回折スペクトルを示す。図8(b)より、アンモニアを添加しないで調製した試料では、酸化銅に由来するピークが確認されなかった(図8(b)のCu/サンプル1参照)。一方、アンモニアを添加した試料では、いずれも酸化銅に由来するピークが確認された。
【0095】
また、図8(c)の各種試料の紫外可視分光スペクトルからも銅の存在が確認できる。一方で、図8(c)の結果から、いずれの試料においても、200nm付近の微細な銅種に由来するピークとバルク状の銅種に由来する700nm付近のピークが存在することが確認された。特に、サンプル2を担体とする試料で、700nm付近のピークが大きい一方、サンプル3およびサンプル1を担体とする試料ではこのピーク強度が大幅に減少していることが確認できる。なお、「サンプル2」は、シラスバルーンからなるシラス原料であって、主として、50μm~70μm程度の粗大な粒子で構成されている試料である。
【0096】
図9では、各種シラス原料等を担体とする銅担持触媒のCu2p、O1s、およびSi2pのX線光電子分光スペクトルを示す。
【0097】
Cu2p軌道のスペクトルにおいては、アンモニアを添加していない試料が比較的ピーク強度が低いことが確認できる。このことは、銅担持量が他の試料と比較して低いことが原因である。また、O1s軌道のピークについて、アンモニアを添加していない試料のピークが比較的高エネルギーであることが確認できる。さらに、試料によってSi2p軌道のピーク強度が大幅に異なることが確認された。この結果は、銅担持量が低く、シラス原料の主成分である酸化ケイ素が表面に露出していることを示唆する。
【0098】
また、O1s軌道のピークについて、サンプル3およびサンプル1を担体とする試料と比較して、サンプル2を担体とする試料で低エネルギーにピークが存在することが確認できる。また、この結果は、サンプル2において酸化銅の被覆率が大きく、酸化銅に由来する酸素が多くなっていることを示唆する。
【0099】
図10Aの(a)に、X線光電子分光スペクトルの結果から算出した表面組成を示す。図10Aの(a)より、アンモニアを添加せずに調製した試料と比較して、アンモニアを添加した試料では、Siの組成が大幅に減少していることが確認できる。この結果からアンモニアを添加することにより銅種の酸化ケイ素への吸着量が増大することが示唆された。
【0100】
以上より、銅担持の際にアンモニアを添加し、バルク状の銅種が減少し、かつ、酸化ケイ素上に銅が担持されることによって、高い亜酸化窒素分解活性を示すことが示唆された。
【0101】
次に、銅とともに異種金属を1:1の割合で担持した効果についても検討した。図10Aの(b)にその結果を示す。図10Aの(b)より、特に高温においてはCo、Feの添加効果が見られた。一方で、Niに関しては、低温で活性が高い傾向にあることが確認された。
【0102】
この結果をもとにCo、Feを添加した担持触媒に関して、Cuとの組成比の影響を検討した。その結果を図10Aの(c)、図10Bの(d)に示す。この結果より、いずれの組成においてもFeを添加した担持触媒は添加していない担持触媒と比較して低活性であることが確認された。一方、Coを添加した担持触媒では、Cu/Co=1/3の担持触媒で、Cuのみを添加した担持触媒と比較して高活性を示すことが確認された。
【0103】
なお、Cu/Co=1/3である担持触媒に関して500℃(773K)における活性の経時変化を評価したところ、一定の活性を維持することも確認された。
【0104】
さらに、Cu/Co=1/3である担持触媒に関して、反応ガスにアンモニアを添加してその効果について検討したところ、活性が向上し、400℃(673K)以上で転化率が100%となることが確認された(図10B(d)のCuCo(NH/サンプル3 NH参照)。
【0105】
この担持触媒に関して、触媒重量の活性に対する影響についても確認したところ、図10の(e)に示すように、触媒重量の増大に伴い活性が増大し、0.6g使用した場合には、300℃(573K)で60%程度、400℃(673K)以上で100%の転化率を示すことが確認された。
【0106】
特に、Coを添加した系に関して、その活性の違いを解析するために、各種キャラクタリゼーションを行った。図11に各種組成の担持触媒のSEM写真を示す。図11よりいずれの担持触媒も2~3μm程度の粒子で構成されていることが確認できる。
【0107】
図12の(a)には、EDXおよびXPS測定の結果から算出した各種担持触媒のバルク体および表面の組成を示す。この結果より、バルク体および表面においてCuの量が少なく、担持されている金属の殆どがCoであることが確認された。
【0108】
一方で、表面組成においては最も活性が高かったCu/Co=1/3の担持触媒で、表面のアルミニウム種の組成が大きく、シリコンの組成が低くなっていることが確認できる(図12B(a)のCuCo(NH/サンプル3 NH参照)。この結果は担持されたCoがシリコンに優先的に吸着する傾向があることを示唆している。
【0109】
なお、図12(b)のXPSスペクトルが示すように、いずれの試料に担持されているCo種も価電状態にそれほど変化がなく、Co2+に由来するピークがみられることが確認できる。
【0110】
このように、本実施形態に係る担持触媒および担持触媒の製造方法では、シラス原料にアンモニア処理を施し、さらに所定の金属元素を担持することで、担持触媒が亜酸化窒素に対して高い分解活性を示す。すなわち、図13(b)で示すように、本実施形態の担持触媒では、銅とアンモニアからなる活性銅種の数が増えているため、亜酸化窒素の分解が促進されると考えられる。
【0111】
なお、本実施形態に係る触媒および担持触媒によって、アンモニアボラン及び亜酸化窒素の分解が促進されるが、アンモニアボラン及び亜酸化窒素の場合と同様に、臭気及び有害物質の分解も促進されると考えられる。つまり、本実施形態に係る担持触媒および担持触媒によって、アンモニア及びトリメチルアミンなどのアミン系の化合物、メタンなどの温室効果ガス、有機物系の匂い成分(硫化水素等の還元性の硫化化合物)も分解されると考えられる。
【0112】
本実施形態に係る触媒および担持触媒によって臭気等の分解が促進される場合、豚、鶏等の家畜の飼育場で発生する臭気等を集めた後、臭気等を当該触媒によって分解することができる。そして、この分解をした後、大気に開放することで臭気等が大気にそのまま放たれてしまうことを防止することができる。また、畑等の耕作において、家畜の排泄物等を堆肥として散布とともに、本実施形態に係る触媒および担持触媒を散布することにより、散布された堆肥から臭気等が発生することを極力防止することができる。
【0113】
上述のように、本実施形態に係る触媒および担持触媒を使用して亜酸化窒素の分解する際に、還元剤として反応ガスにアンモニアを添加することで、亜酸化窒素の分解反応を促進することができる。ただ、還元剤として作用することが可能ならば、アンモニア以外の化合物も反応ガスに添加することができる、具体的には、アンモニア以外の添加成分としては、硫化水素、トリメチルアミン、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などを挙げることができる。
【0114】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 触媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13