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特開2023-127145測定器の演算装置および探針並びに測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127145
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】測定器の演算装置および探針並びに測定方法
(51)【国際特許分類】
   G08C 17/00 20060101AFI20230906BHJP
   G08C 25/00 20060101ALI20230906BHJP
   G06K 19/07 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G08C17/00 Z
G08C25/00 H
G06K19/07 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030747
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000117814
【氏名又は名称】安立計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】原 悠季
【テーマコード(参考)】
2F073
【Fターム(参考)】
2F073AA02
2F073AA23
2F073AA40
2F073AB01
2F073AB04
2F073BB01
2F073BB04
2F073BC01
2F073BC02
2F073CC01
2F073CC03
2F073CC12
2F073CC14
2F073CD01
2F073CD11
2F073DD01
2F073DE02
2F073EE01
2F073EE03
2F073EF05
2F073FF03
2F073FF13
2F073FG01
2F073FG02
2F073FG04
2F073GG01
2F073GG05
2F073GG08
2F073GG09
(57)【要約】
【課題】RFタグに保存された固有のデータの取得の成否に関わらずに測定可能な測定器の演算装置および探針並びに測定方法を提供する。
【解決手段】測定器1の演算装置10において、演算処理部12は、探針20から送信されたアナログ信号Adを変換して得られるデジタルデータMtを補正データ30に基づいて補正することにより、出力値Dtが出力される測定処理を実行し、補助記憶部14には、既定データ32が予め保存されていて、リーダ33は、RFタグ34との通信により、RFタグ34に保存されている固有のデータ31を取得するデータ取得処理を実行し、実行された測定処理では、固有のデータ31が取得された場合に、補正データ30としてその固有のデータ31を用いて、固有のデータ31が取得されない場合に、補正データ30として既定データ32を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算処理部と記憶部と雌コネクタとリーダとを備えていて、前記雌コネクタに探針の雄コネクタが着脱自在に差し込まれて、前記演算処理部と前記探針とが電気的に接続される測定器の演算装置において、
前記演算処理部は、前記探針から送信されたアナログ信号を変換して得られるデジタルデータを前記記憶部の所定のメモリアドレスに保存されたデータに基づいて補正することにより、測定対象の物理量を示す出力値を算出する測定処理を実行し、
前記記憶部には、前記探針の機械誤差が非把握な既定データが予め保存されていて、
前記リーダは、前記測定処理が実行されるよりも前に、前記演算処理部に接続された前記探針が有するRFタグとの通信により、そのRFタグに保存されていて前記探針の機械誤差が予め把握されている固有のデータが取得されるデータ取得処理を実行し、
実行された前記測定処理では、前記データ取得処理で前記固有のデータが取得された場合に、前記データとしてその固有のデータが用いられて、その固有のデータが取得されない場合に、前記データとして前記既定データが用いられることを特徴とする測定器の演算装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記リーダが前記データ取得処理を実行するよりも前に、前記既定データを前記所定のメモリアドレスに保存するデータ処理を実行し、前記リーダが前記データ取得処理を実行して前記固有のデータを取得した場合にその固有のデータを前記所定のメモリアドレスに上書きして保存するデータ処理を実行する請求項1に記載の測定器の演算装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記既定データを前記所定のメモリアドレスに保存した後に前記リーダに前記データ取得処理を実行させる指示を出す請求項2に記載の測定器の演算装置。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記測定処理での前記データとして前記既定データもしくは前記固有のデータのどちらを用いたのかを区別可能にするデータ処理を実行する請求項1~3のいずれか1項に記載の測定器の演算装置。
【請求項5】
前記雌コネクタは、前記演算処理部から導出された各々の電線に接続された複数のコンタクトが収納されたレセプタクルであり、前記リーダは、前記雌コネクタに前記探針の前記雄コネクタが差し込まれた状態で前記RFタグに内蔵されたタグ用アンテナに対向するリーダ用アンテナを有し、通信方式が電磁誘導方式である請求項1~4のいずれか1項に記載の測定器の演算装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの1項に記載の測定器の演算装置に電気的に接続される探針であって、前記固有のデータが保存された前記RFタグを有することを特徴とする測定器の探針。
【請求項7】
前記固有のデータは、当該探針を前記演算装置に接続した状態で行われた校正結果に基づいている請求項6に記載の測定器の探針。
【請求項8】
前記探針の前記雄コネクタは、前記探針の素子から導出された各々の電線に接続された複数のコンタクトが収納されたプラグであり、前記RFタグは、前記プラグの前記雌コネクタに挿入される部位の外面に設置される請求項6または7に記載の測定器の探針。
【請求項9】
探針の雄コネクタを演算装置の雌コネクタに着脱自在に差し込んで、前記演算装置の演算処理部と前記探針とを電気的に接続する測定器の測定方法において、
前記演算装置のリーダにより、前記演算処理部に接続された前記探針が有するRFタグと通信して、そのRFタグに保存されていて前記探針の機械誤差が予め把握されている固有のデータを取得するデータ取得工程を行った後に、前記演算処理部により、前記探針から送信されたアナログ信号を変換して得られるデジタルデータを前記記憶部の所定のメモリアドレスに保存されたデータに基づいて補正することにより、測定対象の物理量を示す出力値を出力する測定工程を行い、
前記測定工程では、前記データ取得工程で前記固有のデータを取得した場合に、前記データとしてその固有のデータを用いて、その固有のデータを取得できない場合に、前記データとして前記記憶部に予め保存されていて前記探針の機械誤差が非把握な既定データを用いることを特徴とする測定器の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定器の演算装置および探針並びに測定方法に関し、より詳細には、探針の雄コネクタが演算装置の雌コネクタに差し込まれた探針を用いて測定対象の物理量の測定を行う測定器の演算装置および探針並びに測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
探針と演算装置とが別体の測定器(センサ)を用いた測定により得られた測定対象の物理量を示す出力値には、系統誤差として探針ごとの個体差を起因とする機械誤差が含まれている。この機械誤差は、探針に備えられている測定素子の製造ロットの相違や探針の製造精度、さらには、探針を用いた測定による測定対象物の物理量の変化などに影響されるものであり、探針ごとに異なっている。この機械誤差を解消する方法として、例えば、探針と記憶媒体とをセットにし、その記憶媒体にその探針の機械誤差を解消する固有のデータを保存して、演算装置にその固有のデータを取得させて、その固有のデータを用いて補正する方法がある。この方法を用いることで、探針ごとに異なる機械誤差を解消することが可能になる。
【0003】
記憶媒体としては、測定器に関する発明ではないが、電子装置の電線ケーブルに備えられたRF(Radio Frequency)タグ(電子タグ、無線タグ、ICタグ、RFIDタグ)が種々提案されている(特許文献1参照)。測定器の探針が特許文献1で提案されているRFタグを備え、測定器の演算装置がそのRFタグに保存した固有のデータを取得するリーダを備えることで、非常に簡便に探針ごとに異なる機械誤差の解消が可能になる。
【0004】
しかしながら、RFタグとリーダとを用いたRFID(Radio Frequency Identifier)システムが組み込まれた管理システムでは、管理の対象となる対象物(例えば、特許文献1の電線ケーブル)の全てがRFタグを備えていることが前提となっている。それ故、RFタグを備えていない対象物やRFタグを備えていてもリーダがそのRFタグからデータを取得できない対象物は管理の対象外となっている。つまり、RFIDシステムが組み込まれた測定器では、探針がRFタグを備えていない場合や探針がRFタグを備えていてもリーダがそのRFタグから固有のデータを取得できない場合に、固有のデータを用いる補正を行うことができない。その結果、出力値を出力することができずに、測定できない事態に陥る。このように、測定器に既存のRFIDシステムを組み込んだとしても、固有のデータの取得の成否に関わらずに測定するには、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-17142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、RFタグに保存された固有のデータの取得の成否に関わらずに測定可能な測定器の演算装置および探針並びに測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の測定器の演算装置は、演算処理部と記憶部と雌コネクタとリーダとを備えていて、前記雌コネクタに探針の雄コネクタが着脱自在に差し込まれて、前記演算処理部と前記探針とが電気的に接続される測定器の演算装置において、前記演算処理部は、前記探針から送信されたアナログ信号を変換して得られるデジタルデータが補正データにより補正されて、測定対象の物理量を示す出力値が出力される測定処理を実行し、前記記憶部には、既定データが予め保存されていて、前記リーダは、前記測定処理が実行されるよりも前に、前記演算処理部に接続された前記探針が有するRFタグとの通信により、そのRFタグに保存されている固有のデータが取得されるデータ取得処理を実行し、実行された前記測定処理では、前記データ取得処理で前記固有のデータが取得された場合に、その固有のデータが前記補正データとして用いられて前記探針の機械誤差が解消された前記出力値が出力され、その固有のデータが取得されない場合に、前記既定データが前記補正データとして用いられて前記探針の機械誤差を含む前記出力値が出力されることを特徴とする。
【0008】
本発明の測定器の探針は、上記の測定器の演算装置に電気的に接続される探針であって、前記固有のデータが保存された前記RFタグを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の測定器の測定方法は、探針の雄コネクタを演算装置の雌コネクタに着脱自在に差し込んで、前記演算装置の演算処理部と前記探針とを電気的に接続する測定器の測定方法において、前記演算装置のリーダにより、前記演算処理部に接続された前記探針が有するRFタグと通信して、そのRFタグに保存されている固有のデータを取得するデータ取得工程を行った後に、前記演算処理部により、前記探針から送信されたアナログ信号を変換して得られるデジタルデータを補正データにより補正して、測定対象の物理量を示す出力値を出力する測定工程を行い、前記測定工程では、前記データ取得工程で前記固有のデータを取得した場合に、その固有のデータを前記補正データとして用いて前記探針の機械誤差を解消した前記出力値を出力し、その固有のデータを取得できない場合に、前記既定データを前記補正データとして用いて前記探針の機械誤差を含む前記出力値を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、RFタグに保存された固有のデータの取得の成否により、測定処理で用いるデータを入れ替えることで、RFタグに保存された固有のデータが取得できない場合でも出力値が出力されるまでのデータ処理を途中で中断することなくその実行を完了できる。これにより、本発明は、RFタグを備えていない探針を使用した測定を可能にする構成でありながら、RFタグを備えた探針を使用した測定ではRFIDシステムを利用することで、非常に簡便に探針ごとに異なる機械誤差を解消した高精度な測定を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】測定器の演算装置および探針の実施形態を例示する構成図である。
図2図1の演算装置の雌コネクタおよび探針の雄コネクタを例示する斜視図である。
図3図1の演算装置の雌コネクタに探針の雄コネクタを差し込んだ状態を例示する構成図である。
図4】測定工程で用いる補正データを例示する説明図である。
図5】固有のデータおよび既定データのそれぞれの基準値および校正値の関係を例示するグラフ図である。
図6】測定器の測定方法の実施形態の工程を例示するフロー図である。
図7図6の測定工程を例示するフロー図である。
図8】実施例の測定結果の誤差を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、測定器の演算装置および探針並びに測定方法を、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示する測定器(センサ)1は、互いに別体の演算装置10と探針(プローブ)20とを備え、科学的原理を利用して測定対象の物理量を数値化する公知の種々のデジタルセンサを用いることができる。測定器1が数値化可能な物理量としては、機械的性質、電磁気的性質、熱的性質、音響的性質、化学的性質、空間情報、および、時間情報などが例示される。例えば、測定器1は、科学的原理としてゼーベック効果を用いて物理量として温度を数値化する熱電対温度センサである。
【0014】
演算装置10の実施形態は、筐体11、演算処理部12、主記憶部13、補助記憶部14、ディスプレイ15、外部バスコネクタ16、雌コネクタ17、電源スイッチ18、および、リーダ33を備えている。演算装置10は、探針20で検出されたアナログ信号Adを変換して得られるデジタルデータMtを主記憶部13の所定のメモリアドレスに保存されたデータ30(以下、補正データ)により補正して、測定対象の物理量を示す出力値Dtを出力する。なお、主記憶部13および補助記憶部14のそれぞれが記憶部に相当する。演算装置10は、ポータブル電源(例えば、乾電池)から供給された電力により作動する携帯型であるが、商用電源から供給された電力により作動する設置型でもよい。演算装置10としては、公知の種々のコンピュータを用いることもできる。
【0015】
筐体11は、内部に演算処理部12、主記憶部13、補助記憶部14、および、リーダ33が収納されていて、外装に出力部や入力部としてディスプレイ15、外部バスコネクタ16、雌コネクタ17、および、電源スイッチ18が設置されている。筐体11を構成する材料は特に限定されるものではないが、少なくともリーダ33の設置箇所の周辺だけは磁力や電波に対して干渉が生じ難い材料で構成されることが望ましい。そのような材料としては、合成樹脂などが例示される。
【0016】
演算処理部12は、出力値Dtを出力するまでの各データ処理を実行可能な構成であればよく、公知の種々のプロセッサを用いることができる。演算処理部12は、プロセッサに加えて、マルチプレクサや補償器などの公知の電子回路が含まれてもよい。熱電対温度センサにおいて、演算処理部12は、補償器として雌コネクタ17を基準接点とする基準接点補償器を含む。
【0017】
主記憶部13は、公知の種々のRAM(Random Access Memory)を用いることができる。主記憶部13には、演算処理部12が実行する一連のデータ処理で用いる補正データ30の領域として所定のアドレスが指定されている。補助記憶部14は、公知の種々のROM(Read Only Memory)を用いることができる。補助記憶部14は、筐体11の内部に収納されるものに限定されずに、フラッシュメモリなどの外部記憶装置を用いてもよい。補助記憶部14には、既定データ32が予め保存されている。ディスプレイ15は、公知の種々の映像表示装置を用いることができる。外部バスコネクタ16は、公知の種々のシリアルバスあるいはパラレルバスのコネクタを用いることができる。
【0018】
雌コネクタ17は、探針20の雄コネクタ24が着脱自在に差し込まれるコネクタであり、公知の雌レセプタクルを用いることができる。雌コネクタ17は、筐体11から導出した電線の末端に取り付けられた公知の雌アダプタを用いてもよいが、後述するリーダ33のアンテナ基盤35の設置を考慮すると雌レセプタクルを用いることが望ましい。雌コネクタ17は、筐体11の外部から内部に向かって窪んで成る空間を有し、その空間に複数の雄コンタクト(ピンインサート)19が収納されている。複数の雄コンタクト19は、筐体11の外部から内部に向かって突出するピン端子であり、演算処理部12から導出された各々の電線に接続されている。雄コンタクト19の本数は、演算処理部12と探針20との間で送受信される信号の数と同数であり、熱電対温度計では二本である。雄コンタクト19はその先端が雌コネクタ17から外側に向かって突出することなく、雌コネクタ17に収納されている。
【0019】
リーダ33は、公知のRFID(Radio Frequency Identifier)システムのリーダを用いることができる。リーダ33は、互いに別体のアンテナ基盤35とコントローラ基盤36とを有している。アンテナ基盤35は、その盤面が複数の雄コンタクト19に対して雄コネクタ24の抜き差し方向(X方向)に交差する方向(例えば、Z方向)で対向している。コントローラ基盤36は、演算処理部12およびアンテナ基盤35のそれぞれに信号線を介して接続されている。コントローラ基盤36は、演算処理部12の指示により後述するデータ取得処理を実行する。なお、リーダ33は、アンテナ基盤35とコントローラ基盤36とが一体化されていてもよい。また、リーダ33は、読み取り機能のみを有するものであるが、書き込み機能を有していてもよい。
【0020】
探針20の実施形態は、測定素子21、探針本体22、ケーブル23、雄コネクタ24、および、RFタグ34を備えている。探針20は、測定素子21が測定対象の物理量をアナログ信号Adとして検出し、検出したそのアナログ信号Adを演算装置10に送信する。探針20は、測定対象の物理量を測定素子21が直に受信する受動型が例示されるが、測定対象に所定の信号を送信し、送信したその信号の反射を受信する能動型でもよい。熱電対温度センサにおいて、探針20は測定素子21として熱電対を用いた能動型である。
【0021】
測定素子21は、公知の種々の測定素子を用いることができる。例えば、温度を測定する測定素子21としては、熱電対、白金抵抗体、サーミスタなどがある。熱電対温度センサにおいて、測定素子21は熱電対であり、異なる二種類の金属線からなり、それらの接合点である測定部25に生じる起電力の電圧をアナログ信号Adとして検出する。熱電対としては、+極にクロメル、-極にアルメルを用いたタイプK、+極にクロメル、-極にコンスタンタンを用いたタイプE、+極に白金ロジウム合金(ロジウム含有量30%)、-極に白金ロジウム合金(ロジウム含有量6%)を用いたタイプBなどが例示される。
【0022】
探針本体22およびケーブル23は、特に限定されるものではない。例えば、受動型の探針20の探針本体22では、測定素子21が内部に収納されていて、その先端部に測定素子21の異種金属線どうしの接合点である測定部25が配置されている。ケーブル23は、探針本体22から導出された測定素子21または測定素子21からの信号を伝送する測定素子21とは別体の電線のいずれかの線材が被覆材により被覆されて構成されている。
【0023】
雄コネクタ24は、演算装置10の雌コネクタ17に着脱自在に差し込まれるコネクタであり、ケーブル23の末端に取り付けられている。雄コネクタ24は、公知の雄プラグを用いることができる。雄コネクタ24は、末端部に複数の雌コンタクト(ソケットインサート)26が埋め込まれている。複数の雌コンタクト26は、複数の雄コンタクト19の各々が挿入されるソケット端子であり、ケーブル23に電気的に接続されている。雌コンタクト26の本数は、演算処理部12と探針20との間で送受信される信号の数と同数であり、熱電対温度センサでは二本である。雌コンタクト26はその末端が雄コネクタ24から外側に向かって突出することなく、雄コネクタ24に収納されている。
【0024】
RFタグ34は、公知のRFIDシステムのRF(Radio Frequency)タグ(電子タグ、無線タグ、ICタグ、RFIDタグ)を用いることができる。RFタグ34は、一枚の基盤で構成されている。RFタグ34は、雄コネクタ24の雌コネクタ17に挿入される部位の外面に配置されることが望ましい。また、RFタグ34は、雄コネクタ24の外面から内側に向かって窪んだ穴に埋設されている。埋設されたRFタグ34は、その盤面が雄コネクタ24の外面に露出しなくてもよいが、通信の強度の確保には露出することが望ましい。
【0025】
リーダ33およびRFタグ34から成るRFIDシステムは、無線通信を用いてリーダ33によりRFタグ34に保存された固有のデータ31を取得する。RFIDシステムの周波数帯としては、135KHz以下の長波(LF)、13.56MHzの短波(HF)、433MHzまたは860MHz~960MHzまたは2.45GHzの極超短波(UHF)などが例示される。RFIDシステムは、それぞれの周波数帯に応じて、電磁結合方式、電磁誘導方式、電波方式などの通信方式(空間伝送方式)を用いている。
【0026】
RFIDシステムは、その周波数帯が長波または短波であることが望ましい。RFIDシステムの周波数帯が長波または短波であれば、演算装置10が備えているリーダ33と探針20が備えているRFタグ34とが一対一で、かつ、それらが近接した短距離(10cm以下)でのみ通信可能になり、不要なデータ(固有のデータ31以外のデータ)の取得を回避するには有利になる。また、周波数帯が長波または短波のRFIDシステムは、周波数帯が極超短波のRFIDシステムに比して安価であり、導入に要するコストの低減には有利になる。
【0027】
図2は雌コネクタ17に雄コネクタ24を差し込む前の状態を示し、図3は雌コネクタ17に雄コネクタ24を差し込んだ状態を示している。雌コネクタ17に雄コネクタ24を差し込むと、雄コンタクト19が雌コンタクト26に挿入されて電気的に接合される。雌コネクタ17および雄コネクタ24のそれぞれには、キーイングが施されており、雌コネクタ17には、内部の空間から外側に向かって窪んだ溝が形成されており、雄コネクタ24には、外表面から外側に向かって出っ張って、溝に嵌合する出っ張りが形成されている。雄コネクタ24のキーイングは、RFタグ34が設置されていない箇所に施されている。
【0028】
アンテナ基盤35には、リーダ用アンテナ37が形成されている。リーダ用アンテナ37は、公知の種々のアンテナを用いることができる。リーダ用アンテナ37は、雌コネクタ17に雄コネクタ24を差し込んだ状態で、RFタグ34のタグ用アンテナ38に対向することが望ましい。周波数帯が長波または短波のRFIDシステムでは、リーダ用アンテナ37により生じさせた磁界の向きが、探針20の雄コネクタ24の抜き差し方向(X方向)に交差する方向(Z方向)を向いている。リーダ用アンテナ37により生じする磁界の向きは、雄コネクタ24の雌コネクタ17に挿入される部分に設置されたRFタグ34の盤面に対して垂直な向きが望ましい。また、リーダ用アンテナ37は、X方向視における筐体11の中央部に寄せて配置されることが望ましい。リーダ用アンテナ37が筐体11の中央部に寄せて配置されることで、リーダ用アンテナ37による無線通信可能な範囲の一部を筐体11が専有することになり、不要なデータ(固有のデータ31以外のデータ)の取得を回避するには有利になる。さらに、リーダ用アンテナ37は、RFタグ34よりも大きく、かつ、その中心が、雌コネクタ17に雄コネクタ24が差し込まれた状態でのRFタグ34の中心に位置することが望ましい。
【0029】
RFタグ34は、タグ用アンテナ38とメモリ39とを内蔵する。タグ用アンテナ38としてはリーダ用アンテナ37と同様に公知の種々のアンテナを用いることができる。メモリ39は、タグ用アンテナ38に信号線を介して接続されており、固有のデータ31が保存されている。固有のデータ31は予め把握されているデータであり、RFIDシステムのライタを用いてメモリ39に書き込まれている。
【0030】
図4に示す補正データ30は、主記憶部13の所定のメモリアドレスに保存された固有のデータ31または既定データ32のどちらか一方のデータであり、それぞれのデータが固有のデータ31の取得の有無により入れ替えられている。補正データ30は、表の同一の行において対になる基準値(F1、・・・、Fn)および校正値(S1、・・・、Sn)が複数組、集積している。基準値および校正値のそれぞれは、数値の大小の順に並んでおり、図4の表中では列の上から下に向かって数値が大きくなっている。図4の表中では、基準値および校正値の具体的な値が「・・・」によって省略された記載になっているが実際は、数値が記載されている。表外に記載されている機械誤差(E1、・・・、En)は、表の同一行における基準値および校正値の差分を示しており、実際の補正データ30に含まれるものではない。この機械誤差は、測定素子21の製造ロットの相違や探針本体22の製造精度、さらには、探針20を測定対象に直に接触する場合に生じる測定対象の物理量の変化(例えば、物理量が温度の場合に、探針20の接触による伝熱による温度の変化)などに影響される。それ故、この機械誤差は、探針20ごとに異なっており、探針20の設計過程や製造過程で予め予測することが困難な誤差である。
【0031】
固有のデータ31と既定データ32とは、補正データ30と同一のデータ構造を成すが、探針20の機械誤差を解消可能か否かが異なっている。固有のデータ31は、測定器1を用いた校正結果で校正されており、探針20の機械誤差が予め把握されていて、その機械誤差を小さくして出力値Dtを真値に近似させることが可能なデータである。また、固有のデータ31は、図4に示す機械誤差のうちのいくつかが「0」の場合もあるが、その全てが「0」であることは無いデータである。既定データ32は、固有のデータ31のデータ構造に合わせて任意に作成されていて、探針20の機械誤差が非把握なデータである。また、既定データ32は、図4に示す機械誤差(E1~En)の全てが「0」であるデータである。以下、固有のデータ31と既定データ32について詳述する。
【0032】
図5に例示する固有のデータ31および既定データ32は、測定器1の測定可能範囲を-100~100(単位は省略)とし、基準値どうしの間隔を正の範囲では50ずつの等間隔とし、負の範囲では-30ずつの等間隔とし、n=6としたものである。固有のデータ31および既定データ32は、それぞれの基準値(または、校正値)どうしの間隔が、不等間隔であってもよいが、最も小さい基準値(F1)が測定器1の測定可能範囲(公称精度を担保可能な範囲)の最小値の近傍に、最も大きい基準値(F6)が測定可能範囲の最大値の近傍に位置することが望ましい。また、固有のデータ31および既定データ32は、不等間隔とする場合に、固有のデータ31がグラフ図における非線形の変曲点のそれぞれを示すことが望ましい。
【0033】
固有のデータ31は、測定器1とは異なる基準の測定器を用いた公知の種々の校正方法を利用して、基準の測定器による測定で得られた基準値と測定器1による測定で得られた校正値が複数組(n組)、集積している。固有のデータ31は、基準値の変化量に対する校正値の変化量が、非線形になっている。基準の測定器は、予め機械誤差を含む系統誤差が把握されており、測定結果である基準値が真値に近似する値であれば特に限定されるものではないが、測定器1と異なる科学的原理を用いるものがより好ましい。基準値は、基準の測定器で測定され、測定対象の物理量の真値に対する誤差が小さく、真値に近似する値である。校正値は、探針20を演算装置10に接続した測定器1で測定される(ただし、この測定での補正データ30としては、既定データ32を用いる)。基準値や校正値は、測定対象の物理量や測定環境などが統一された同条件下で、複数回測定して得られた複数の値の平均値や中央値を用いてもよい。
【0034】
公知の校正方法では、測定対象の物理量を漸次変化させて、基準の測定器と測定器1との両方を用いて変化させた物理量を測定し、基準の測定器による測定で得られた基準値と測定器1による測定で得られた校正値との差分(系統誤差)を「ゼロ」に近づけている。しかし、測定対象の物理量を変化させた全ての範囲で、基準値と校正値との差分を「ゼロ」にすることは基準値と校正値との関係が完全な線形関係でない限り不可能であり、最終的な校正結果である基準値と校正値との差分が校正不可能な系統誤差として残ることになる。特に、探針20はアナログ回路であり、製造後の調整が容易ではない。このような校正不可能な系統誤差は、概ね探針20の機械誤差と見做せる。このように、公知の校正方法を利用することで、探針20の機械誤差を把握することが可能になる。そして、固有のデータ31は、公知の校正方法の最終的な校正結果である基準値と校正値とを、RFIDシステムのライタを用いて、RFタグ34のメモリ39に保存したデータである。
【0035】
測定器1の測定可能範囲における探針20の機械誤差は、線形や非線形の特性になる。機械誤差の特性が線形の場合に、固有のデータ31は、測定範囲内の二組の基準値および校正値(n=2)であればよい。機械誤差の特性が非線形の場合に、固有のデータ31は、測定範囲を離散化し(二分化を除く)、機械誤差の特性を離散化連続関数として表すことが可能な組数の基準値および校正値であればよい。ただし、その組数が多くなるほど探針20の機械誤差を取り除くには有利になるが、情報量が増えることになる。特に、RFIDシステムを利用する固有のデータ31には、情報量に制限がある場合がある。そこで、その組数は、RFIDシステムを利用可能な情報量に収まる組数であることが望ましい。RFIDシステムを利用可能な情報量は、RFタグ34のメモリ39の容量やRFIDシステムでの送受信可能な容量により制限される。固有のデータ31の組数は、所望する機械誤差の補正精度とRFIDシステムを利用可能な情報量とに基づいて、適宜、選択可能である。
【0036】
既定データ32は、固有のデータ31のデータ構造(例えば、n=6)に合わせて、いずれの組でも差分が「0」になるように任意に作成された基準値および校正値が複数組(n組)、集積している。既定データ32は、基準値の変化に対する校正値の変化が、等倍である。つまり、既定データ32は、デジタルデータMtと出力値Dtとの関係を変化させないデータであり、デジタルデータMtを既定データ32で補正した場合に、出力値Dtが元のデジタルデータMtから変化しない。
【0037】
図6および図7に測定方法の一例を示す。まず、電源スイッチ18が測定者により操作されて演算装置10が起動すると、演算処理部12が各データ処理を実行する(S110~S160)。測定工程(S160)は、所定の周期ごとに測定が終了するまで行われる。最終的に、測定が終了すると(S170)、終了となる。なお、電源スイッチ18を有さない演算装置10では、電源コネクタが商用電源に差し込まれることで、演算装置10が起動する。以下に、(S110)~(S170)の各ステップの内容を詳述する。
【0038】
測定器1への操作を検出したか否かを判定するステップ(S110)では、演算処理部12により、測定者による測定器1への操作により、電気的な接続による電気的な回路への通電や電子機器への通電が開始されたか否かを判定する。このような操作としては、測定者による電源スイッチ18の操作や測定者による探針20の雄コネクタ24の演算装置10の雌コネクタ17への差し込みが例示される。差し込みの検出は、演算処理部12がラインアウト検出回路を有していれば可能になる。演算装置10や探針20が測定工程(S160)を開始するための測定スイッチを有する場合は、測定者による測定スイッチの操作を検出してもよい。なお、測定器1への操作として、探針20の雄コネクタ24の演算装置10の雌コネクタ17への差し込みを用いる場合には、演算装置10の起動後に測定者により差し込みの操作を行わせる必要がある。
【0039】
既定化工程(S120)では、演算処理部12により、測定器1への操作を検出したと判定すると(S110:YES)、補助記憶部14に保存されていた既定データ32を、補正データ30の領域として指定された主記憶部13の所定のメモリアドレスに保存する。このときに、既に主記憶部13の所定のメモリアドレスに別のデータが保存されている場合には、既定データ32によりそのデータを上書きする。
【0040】
データ取得工程(S130)では、演算処理部12により、リーダ33にデータ取得処理を実行させる指示を出す。ついで、その指示を受けたリーダ33により、RFタグ34との間の通信を開始して、RFタグ34に保存された固有のデータ31を取得する。このデータ取得工程は、探針20のRFタグ34の有無に依らずに行われるものであり、探針20がRFタグ34を有していない場合にも行われる。公知のRFIDシステムのリーダには、常時、RFタグへの通信を行っているものがあるが、その通信には電力の消費が伴う。そこで、リーダ33によるRFタグ34への通信が、演算処理部12により所定のタイミングに限定されることで、通信に要する電力の削減には有利になる。
【0041】
固有のデータ31を取得したか否かを判定するステップ(S140)では、演算処理部12により、データ取得工程(S130)を行った結果、リーダ33が固有のデータ31を取得したか否かを判定する。固有のデータ31を取得できない場合としては、探針20がRFタグ34を有していない場合、探針20がRFタグ34を有していてもRFIDシステムの通信不良や機器の不良が生じている場合などが挙げられる。固有のデータ31を取得したと判定した場合には(S130:YES)、データ保存工程(S150)へ進み、固有のデータ31を取得していないと判定した場合には(S130:NO)、測定工程(S160)へ進む。
【0042】
データ保存工程(S150)では、演算処理部12により、リーダ33が取得した固有のデータ31を補正データ30の領域として指定された主記憶部13の所定のメモリアドレスに上書きして保存する。既定化工程(S120)により所定のメモリアドレスには、既定データ32が保存されているが、このデータ保存工程(S150)により所定のメモリアドレスには、固有のデータ31が保存されることになる。なお、リーダ33が取得した固有のデータ31は、補助記憶部14に保存した後に、主記憶部13の所定のメモリアドレスに保存してもよい。
【0043】
図7に示す測定工程(S160)では、演算処理部12により測定処理として各データ処理(S162~S166)が実行される。具体的に、演算処理部12により各データ処理が実行されることで、アナログ信号Adを変換して得られるデジタルデータMtが補正データ30により補正されて、出力値Dtが出力される。測定工程(S160)は、所定の周期ごとに繰り返され、随時、出力値Dtが出力される。
【0044】
アナログ信号AdをデジタルデータMtに変換するステップ(S162)では、演算処理部12により、探針20から送信されたアナログ信号Adを公知の変換方法を用いて測定対象の物理量を示すデジタルデータMtに変換する。変換方法としては、アナログ信号Adを数値化したデータを、測定対象の物理量を示すデジタルデータMtに変換できればよく、測定素子21や測定対象の物理量に応じたものを用いる。変換方法によっては、演算処理部12が有する補償器から出力される補償値や補助記憶部14に予め保存されていた変換表、変換式などの変換用データを用いることができる。例えば、熱電対温度センサにおいて、アナログ信号Adは、測定素子21である熱電対の起電力の電圧であり、デジタルデータMtは、測定対象の温度を示す。起電力の電圧から温度を示すデジタルデータMtに変換するには、基準接点補償器で得られる補償値や日本工業規格(JIS R 1602)に規定される規準熱起電力表を用いる。日本工業規格の規準熱起電力表の代わりに米国標準局(NBS)の熱電対テーブルを用いた温度変換多項式を用いてもよい。基準熱起電力表や熱電対テーブルは、熱電対の種類に応じて異なっており、熱電対温度センサでは、複数の基準起電力表や熱電対テーブルが用意されており、熱電対の種類に応じてそれらを切り替えている。このように、測定素子21が複数種類に分類される場合には、変換用データもその種類に応じて複数、用意するとよい。
【0045】
デジタルデータMtを補正データ30で補正するステップ(S164)では、演算処理部12により、補正データ30を用いた公知の補間法(内挿法)によりデジタルデータMtを補正して、出力値Dtを算出する。補正データ30は、固有のデータ31の取得の有無により固有のデータ31と既定データ32とが入れ替えられている。詳述すると、補正データ30は、データ保存工程(S150)が行われた場合に固有のデータ31になり、データ保存工程(S150)が行われない場合に、既定化工程(S120)より保存された既定データ32になる。補間法としては、補正データ30として固有のデータ31を用いた場合に、探針20の機械誤差を解消可能な方法であればよく、線形補間(1次補間)、ニュートン補間やラグランジュ補間などの多項式補間、区分線形補間(スプライン補間)、放射基底関数(RBF)補間などが例示される。
【0046】
出力値Dtを出力するステップ(S166)では、演算処理部12により、算出した出力値Dtをディスプレイ15に表示させるとともに補助記憶部14に保存する。なお、算出された出力値Dtは、ディスプレイ15での表示のみでもよく、補助記憶部14への保存のみでもよい。このステップでは、演算処理部12により、補正データ30として固有のデータ31もしくは既定データ32のどちらを用いたのかを区別可能にするデータ処理を実行させることが望ましい。例えば、出力値Dtをディスプレイ15に表示させる場合に、補正データ30として固有のデータ31もしくは既定データ32のどちらを用いたのかを区別可能な印などを表示させる。また、出力値Dtを補助記憶部14に保存する場合に、出力値Dtとセットで、補正データ30として固有のデータ31もしくは既定データ32のどちらを用いたのかを区別可能なデータを保存する。このようなデータ処理を実行させることで、RFIDシステムで固有のデータ31の読み取り不良が生じた場合に、測定の終了後に補正データ30として規定データ32を用いて出力された出力値Dtを補正することが可能となる。また、RFタグ34を有していない探針20を用いた測定で、意図せずに他の探針20のRFタグ34から固有のデータ31が読み取られた場合に、測定の終了後に補正データ30として固有のデータ31を用いて出力された出力値Dtを補正することが可能となる。
【0047】
測定が終了したか否かを判定するステップ(S170)では、測定者または演算処理部12のどちらかによる測定の終了の判定が行われる。測定者による測定の終了は、電源スイッチ18が測定者により操作されて演算装置10が停止した場合である。なお、測定者による測定の終了は、測定者による測定スイッチの操作でもよい。演算処理部12による測定の終了は、予め設定された測定期間が経過した場合や測定回数に達した場合である。
【0048】
以上のとおり、本実施形態によれば、リーダ33によるRFタグ34に保存された固有のデータ31の取得の成否により、補正データ30として使用するデータを固有のデータ31と既定データ32とで入れ替える。それ故、RFタグ34に保存された固有のデータ31が取得できない場合には、補正データ30として既定データ32を用いることで出力値Dtが出力されるまでのデータ処理を途中で中断することなくその実行を完了できる。
【0049】
また、本実施形態によれば、固有のデータ31として、最終的な校正結果のデータを用いている。それ故、補正データ30として固有のデータ31を用いて出力された出力値Dtは、校正不可能な探針20の機械誤差が小さくなり、真値に近似し易くなる。本実施形態は、以上のようにRFタグ34を備えていない探針を使用した測定を可能にする構成でありながら、RFタグ34を備えた探針20を使用した測定ではRFIDシステムを利用することで、非常に簡便に探針20ごとに異なる機械誤差を解消した高精度な測定を実現することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態によれば、演算装置10と探針20とをセットにする必要がない。それ故、一つの演算装置10に対して、複数の探針20を用いることができる。さらに、コネクタなどの規格が同一のものであれば、従来使用していた演算装置に探針20を接続して測定したり、従来使用していた探針を演算装置10に接続して測定したりすることができる。このように、従来の資産を活用可能になることで、導入のコストを削減できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の測定器の演算装置および探針並びに測定方法は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0052】
アナログ信号AdをデジタルデータMtに変換するステップ(S162)では、デジタルデータMtが、アナログ信号Adを数値化したデータであってもよい。デジタルデータMtがアナログ信号Adを数値化したデータ、つまり、測定対象の物理量を直接的に示さない数値である場合に、固有のデータ31は、アナログ信号Adから測定対象の物理量を示す数値に変換する変換用データと探針20の機械誤差を解消可能なデータとを有する。また、既定データ32は、アナログ信号Adから測定対象の物理量を示す数値に変換する変換用データのみを有する。このように、固有のデータ31や既定データ32が変換用データを有することで、デジタルデータMtを補正データ30で補正するステップ(S164)では、アナログ信号Adを直に数値化したデータを補正データ30により補正することで、出力値Dtを算出することが可能になる。ただし、補正データ30の情報量は、固有のデータ31および既定データ32のそれぞれの情報量と一致させる必要がある。RFIDシステムを利用する固有のデータ31には、情報量に制限があるため、その制限に応じて、固有のデータ31への変換用データの追加の有無を判断するとよい。固有のデータ31が変換用データを有することで、演算装置10で測定素子21の種類に応じた複数の変換用データから所定の変換用データを選択する手間を省くことが可能になる。これにより、演算装置10での変換用データの選択のミスによる誤測定を防ぐには有利になる。
【0053】
測定器1への操作を検出したか否かを判定するステップ(S110)では、測定者による測定器1への操作を一つに限定せずに、複数の操作を検出対象とするとよい。例えば、電源スイッチ18の操作と、演算装置10および探針20の接続操作との二つの操作を検出対象とすることで、測定途中で、探針20を別の探針に変更することが可能となる。
【0054】
既定化工程(S120)とデータ取得工程(S130)との順番は、データ取得工程の順番が既定化工程の順番よりも後であればよく、データ取得工程の開始が既定化工程の完了を合図に行われるものに限定されない。例えば、電源スイッチ18の操作により演算装置10が起動してから探針20が演算装置10に接続される使用方法に限定した場合に、既定化工程の開始は電源スイッチ18の操作を合図とし、データ取得工程の開始は探針20が演算装置10に接続されたことを合図としてもよい。
【0055】
補正データ30は、その領域として補助記憶部14の所定のメモリアドレスが指定されていてもよい。この場合に、既定化工程とデータ取得工程では、補助記憶部14の所定のメモリアドレスに固有のデータ31や既定データ32が保存される。そして、測定工程で、補助記憶部14の所定のメモリアドレスに保存された補正データ30が主記憶部13の所定のメモリアドレスに書き込まれて、出力値Dtの算出が行われる。なお、主記憶部13に保存されたデータは、演算装置10が停止すると消去される。
【0056】
測定器1は、演算装置10と探針20とを接続し、演算装置10を起動した時点から測定作業が可能な状態になっている。しかし、測定作業は、測定工程(S160)の直前までの処理が完了してから行われることが望ましい。そこで、測定工程の直前までの処理が完了したときに、演算装置10のディスプレイ15に測定作業の開始の合図を表示するようにしてもよい。
【0057】
本発明の応用例として、補助記憶部14に複数の固有のデータ31が予め保存されていて、複数の固有のデータ31の各々には、探針20ごとに異なる識別番号が付与されており、RFタグ34には、その識別番号が保存されている構成がある。この構成では、データ取得工程(S130)で、固有のデータ31の代わりに識別番号を取得し、補助記憶部14に保存された複数の固有のデータ31のなかから取得したその識別番号が付与されている固有のデータ31を特定し、データ保存工程(S150)で、特定したその固有のデータ31を所定のメモリアドレスに上書きする。この応用例では、探針20と電子記憶媒体(USBメモリやフラッシュメモリなど)とをセットにして、その電子記憶媒体から演算装置10の補助記憶部14に識別番号が付与された固有のデータ31を保存する必要がある。
【実施例0058】
測定素子がタイプKの熱電対であり、探針が測定対象に直に接する受動型の熱電対温度センサに、周波数帯が短波(HF)で、通信可能距離が10cmのRFIDシステムを組み込んで、図1図3に例示する構造の測定器の演算装置および探針を試作した。試作した測定器の測定可能範囲は、-100.00℃~200.00℃とした。
【0059】
試作した測定器での測定工程では、熱電対で検出したアナログ信号を数値化した検出値Vt〔μV〕から基準接点補償器で得られる補償値Rt〔μV〕を減算した値を、日本工業規格に規定されるタイプKの規準熱起電力表を用いてデジタルデータMt〔℃〕に変換した。ついで、そのデジタルデータMtを、補間法として下記の数式(1)で示す線形補間を用いて補間した。数式(1)のFn+1、Fnは補正データ30の基準値を示し、Sn+1、Snは補正データ30の校正値を示し、nは下記の数式(2)の条件を満たす値とした。
【0060】
【数1】
【0061】
【数2】
【0062】
なお、上記の数式(2)は、基準値の代わりに校正値を用いてもよい。また、上記の数式(2)を満たすnが、0の場合(デジタルデータMtが基準値の最小値であるF1よりも小さい場合)に、F0としてF1を用いて、nの場合(デジタルデータMtが基準値の最大値であるFnよりも大きい場合)に、Fn+1としてFnを用いた。
【0063】
表1は、試作した測定器の最終的な校正結果である基準値(F1、・・・、F7)と校正値(S1、・・・、S7)であり、試作した測定器の探針の固有のデータを示す。試作した測定器の校正では、基準の測定器として白金(Pt)を用いた測温抵抗体を用いて、測定対象の温度を正の温度範囲では50℃ずつ変化させ、負の温度範囲では40℃ずつ変化させた。
【0064】
【表1】
【0065】
表2は、試作した測定器の固有のデータに合わせて、基準値および校正値を正の温度範囲では50℃刻み、負の温度範囲では40℃刻みとした既定データである。
【0066】
【表2】
【0067】
図8は、実線が、試作した測定器の探針のRFタグに表1に示す固有のデータを保存しして測定した結果を示し、点線が、試作した測定器の探針のRFタグに表1に示す固有のデータを保存せずに測定した結果を示す。なお、測定では、RFタグに保存した固有のデータを演算装置のリーダが取得できない状況が発生していないものとする。
【0068】
RFタグに固有のデータを保存していない測定では、上記の数式(1)の線形補間において表2に示す既定データを用いる。既定データを用いても出力値Dtをデータ処理することは可能であることが分かる。図8の点線に示すように、既定データを用いた出力値Dtは元のデジタルデータMtから変化せず、機械誤差を含んでいることが分かる。一方、RFタグに固有のデータを保存した測定では、上記の数式(1)の線形補間において表1に示す固有のデータを用いる。図8の実線に示すように、固有のデータを用いた出力値Dtは、デジタルデータMtが含む機械誤差が解消されて、より真値に近似することが分かる。また、固有のデータの基準値と校正値との組数が七組でも、測定可能範囲の誤差を0.1℃未満に収められた。
【符号の説明】
【0069】
1 測定器
10 演算装置
12 演算処理部
13 主記憶部
14 補助記憶部
17 雌コネクタ
20 探針
21 測定素子
24 雄コネクタ
30 補正データ
31 固有のデータ
32 既定データ
33 リーダ
34 RFタグ
Ad アナログ信号
Mt デジタルデータ
Dt 出力値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8