(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127163
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
H01S5/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030773
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC04
5F173AC14
5F173AC26
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC53
5F173AH22
5F173AP05
5F173AP33
5F173AP42
5F173AR26
5F173AR33
5F173MF02
5F173MF28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い発光効率及び出力を有し、安定してシングルモードの光を出射することが可能な垂直共振器型発光素子を提供する。
【解決手段】垂直共振器型発光素子10は、窒化ガリウム系半導体基板と、窒化ガリウム系半導体基板上に形成された窒化物半導体よりなる第1の多層膜反射鏡13と、第1の多層膜反射鏡上に形成された窒化物半導体よりなる活性層19を含む半導体構造層15と、半導体構造層上に形成され、第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡31と、第1の多層膜反射鏡と第2の多層膜反射鏡との間に形成され、活性層の1の領域に電流を集中させる電流狭窄構造と、を有し、窒化ガリウム系半導体基板の下面または下面より下方の領域に配され、窒化ガリウム系半導体基板の上面に垂直な方向から見た上面視において1の領域よりも外側まで延在しかつ第1の多層膜反射鏡に対向する凹状反射面を有する凹状反射構造12Rを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体基板と、
前記基板上に形成された窒化物半導体よりなる第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡と前記第2の多層膜反射鏡との間に形成され、前記活性層の1の領域に電流を集中させる電流狭窄構造と、を有し、
前記窒化ガリウム系半導体基板の下面または当該下面より下方の領域に配され、前記窒化ガリウム系半導体基板の上面に垂直な方向から見た上面視において前記1の領域よりも外側まで延在しかつ前記第1の多層膜反射鏡に対向する凹状反射面を有する凹状反射構造を有することを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
前記凹状反射構造は、前記窒化ガリウム系半導体基板の下面に形成されかつ前記上面視において前記1の領域よりも外側まで延在する凸部及び前記凸部の表面を覆って前記凹状反射面を形成する第3の多層膜反射鏡からなることを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記凹状反射構造は、前記窒化ガリウム系半導体基板の下面に形成されかつ前記上面視において前記1の領域よりも外側まで延在する凸部及び前記凸部の表面に互いに平行に形成された複数のスリット溝からなり前記凹状反射面を形成する回折格子からなることを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記凹状反射構造は、前記窒化ガリウム系半導体基板の下方に離隔して配されかつ前記凹状反射面を有する部材であることを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記窒化ガリウム系半導体基板の下面の前記上面視において前記凹状反射構造よりも外側の領域に形成された第1の電極と前記半導体構造層の上面に形成された第2の電極とを有し、窒化ガリウム系半導体基板はn型ドーパントでドーピングされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
前記n型ドーパントはSiであることを特徴とする請求項5に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項7】
前記窒化ガリウム系半導体基板の前記第1の電極に接する領域において、他の領域よりもドーパント濃度が高くなっていることを特徴とする請求項5または6に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項8】
前記窒化ガリウム系半導体基板の上面は、C面からM面またはA面のいずれかの結晶面にオフセットした面であり、前記凹状反射面は、前記上面がM面にオフセットしている場合にはm軸方向に長手方向を有し、前記上面がA面にオフセットしている場合にはa軸方向に長手方向を有することを特徴とする請求項2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項9】
前記窒化ガリウム系半導体基板の上面は、C面からM面またはA面のいずれかの結晶面にオフセットした面であり、前記複数のスリットの各々は、前記上面がM面にオフセットしている場合にはm軸方向に伸張し、前記上面がA面にオフセットしている場合にはa軸方向に伸張することを特徴とする請求項3に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項10】
前記窒化ガリウム系半導体基板の前記上面は、前記上面がM面にオフセットしている場合にはc面からM面に0.8°以下の角度だけオフセットした面であり、前記上面がA面にオフセットしている場合にはc面からA面に0.8°以下の角度だけオフセットした面であることを特徴とする請求項8または9に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項11】
前記凹状反射構造の前記凹状反射面の曲率半径Rは、前記凹状反射面と前記活性層との距離をZ、前記凹状反射面と第2の多層膜反射鏡との間の等価屈折率をn
eq、前記活性層からの出射光の波長をλ
lasingλとした際に以下の式を満たすことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:vertical cavity surface emitting laser)などの垂直共振器型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザの1つとして、電圧の印加によって光を放出する半導体層と、当該半導体層を挟んで互いに対向する多層膜反射鏡と、を有する垂直共振器型の半導体面発光レーザ(以下、単に面発光レーザとも称する)が知られている。例えば、特許文献1には、n型半導体層及びp型半導体層にそれぞれ接続されたn電極及びp電極を有する垂直共振器型の半導体レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子には、対向する反射鏡によって光共振器が形成されている。例えば、面発光レーザ内においては、電極を介して半導体層に電圧が印加されることで、当該半導体層から放出された光が当該光共振器内で共振し、レーザ光が生成される。
【0005】
しかし、垂直共振器型の半導体レーザ素子には、例えば、活性層を含む半導体層の面内方向に共振器を有する水平共振器型の半導体レーザに比べ発光効率が低いということが課題の一例として挙げられる。
【0006】
また垂直共振器型の半導体レーザ素子にから出射される光は、横モードがシングルモードではなくマルチモードになりやすい。そのため、横モードが安定したシングルモードの光を得るのが困難であった。
【0007】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、高い発光効率及び出力を有し、安定してシングルモードの光を出射することが可能な垂直共振器型発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による垂直共振器型発光素子は、窒化ガリウム系半導体基板と、前記基板上に形成された窒化物半導体よりなる第1の多層膜反射鏡と、前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、前記半導体構造層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、前記第1の多層膜反射鏡と前記第2の多層膜反射鏡との間に形成され、前記活性層の1の領域に電流を集中させる電流狭窄構造と、を有し、前記窒化ガリウム系半導体基板の下面または当該下面より下方の領域に配され、前記窒化ガリウム系半導体基板の上面に垂直な方向から見た上面視において前記1の領域よりも外側まで延在しかつ前記第1の多層膜反射鏡に対向する凹状反射面を有する反射構造を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。以下の説明においては、半導体面発光レーザ素子を例に説明するが、本発明は、面発光レーザのみならず、垂直共振器型発光ダイオードなど、種々の垂直共振器型発光素子に適用することができる。
【実施例0011】
図1は、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、単に面発光レーザとも称する)10の斜視図である。
【0012】
基板11は、窒化ガリウム系半導体基板、例えばアンドープのGaN基板である。基板11は、例えば、上面形状が矩形の基板である。基板11の上面は、C面からM面方向に0.5°オフした面である。また、基板11の上面は、C面からA面方向にはほとんどオフしておらず、C面からA面方向へのオフ角は0±0.01°である。以下の説明において、基板11の上面の中心を通りかつ当該上面に垂直な軸を中心軸AX1として説明する。
【0013】
なお、面発光レーザ10においては、基板11も共振器内に配されることになるので、光の透過性が高いことが好ましい。そのため、基板11は、アンドープであることが好ましい。
【0014】
凸部11Pは、基板11の下面の中心軸AX1を中心とした円状の領域に形成された、下方に凸の曲面からなる凸部である。本実施例では、凸部11Pは平凸レンズ形状を有している。また、本実施例では凸部11Pが形成するレンズ形状の光軸が中心軸AX1と一致している。
【0015】
裏面多層膜反射鏡12(図中二点鎖線)は、凸部11Pの表面に形成された誘電体膜からなる誘電体多層膜反射鏡である。裏面多層膜反射鏡12は、SiO2からなる低屈折率誘電体膜と、Nb2O5からなり低屈折率誘電体膜よりも屈折率が高い高屈折率誘電体膜とが交互に積層された誘電体多層膜反射鏡である。
【0016】
言い換えれば、裏面多層膜反射鏡12は、誘電体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。本実施例において、裏面多層膜反射鏡12は、凸部11Pの表面に形成された4ペアのNb2O5/SiO2層からなる。この裏面多層膜反射鏡12と凸部11Pとで上方に凹の凹状反射面12RSを有する凹状反射構造12Rが形成されている。言い換えれば、裏面多層膜反射鏡12の上面が凹状反射面12RSになっている。
【0017】
第1の多層膜反射鏡13は、基板11の上に成長させられた半導体層からなる半導体多層膜反射鏡である。第1の多層膜反射鏡13は、AlInNの組成を有する低屈折率半導体膜と、GaN組成を有し低屈折率半導体膜よりも屈折率が高い高屈折率半導体膜とが交互に積層されることで形成されている。言い換えれば、第1の多層膜反射鏡13は、半導体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR)である。
【0018】
第1の多層膜反射鏡13は、例えば、基板11の上面に、GaN組成を有するバッファ層を設け、当該バッファ層上に上記高屈折率半導体膜と低屈折率半導体膜とを交互に成膜させることで形成される。本実施例では、第1の多層膜反射鏡13は、基板11上面に形成された1μmのGaN下地層の上に積層された35ペアのGaN/AlInN層からなる。このような構成の第1の多層膜反射鏡13は、活性層19からの出射光に対し、80%程度の反射率を有する。
【0019】
半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡13上に形成された複数の半導体層からなる積層構造体である。半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡13上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)17と、n型半導体層17上に形成された発光層(または活性層)19と、活性層19上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層)21と、を有する。
【0020】
第1の導電型の半導体層としてのn型半導体層17は、第1の多層膜反射鏡13上に形成された半導体層である。n型半導体層17は、GaN組成を有し、n型不純物としてSiがドーピングされている半導体層である。n型半導体層17は、角柱状の下部17Aとその上に配された円柱状の上部17Bとを有する。具体的には、例えば、n型半導体層17は、角柱状の下部17Aの上面17Sから突出した円柱状の上部17Bを有している。言い換えれば、n型半導体層17は、上部17Bを含むメサ形状の構造を有する。
【0021】
活性層19は、n型半導体層17の上部17B上に形成されており、InGaN組成を有する井戸層及びGaN組成を有する障壁層を含む量子井戸構造を有する層である。面発光レーザ10においては、活性層19において光が発生する。本実施例において、活性層19は、その発光中心が中心軸AX1上に持ち来されるように形成されている。
【0022】
第2の導電型の半導体層としてのp型半導体層21は、活性層19上に形成されたGaN組成を有する半導体層である。p型半導体層21には、p型の不純物としてMgがドーピングされている。
【0023】
n電極23は、n型半導体層17の下部17Aの上面17Sに設けられ、n型半導体層17と電気的に接続されている金属電極である。n電極23は、n型半導体層17の上部17Bを囲繞するように環状に形成されている。n電極23は、n型半導体層17と電気的に接触し、半導体構造層15に外部からの電流を供給する第1の電極層を形成している。
【0024】
絶縁層25は、p型半導体層21上に形成されている絶縁体からなる層である。絶縁層25は、例えばSiO2等のp型半導体層21を形成する材料よりも低い屈折率を有する物質によって形成されている。絶縁層25は、p型半導体層21上において環状に形成されており、中央部分にp型半導体層21を露出する開口部(図示せず)を有している。
【0025】
透明電極27は、絶縁層25の上面に形成された透光性を有する金属酸化膜である。透明電極27は、絶縁層25の上面全体及び絶縁層25の中央部分に形成された開口から露出するp型半導体層21の上面の全体を覆っている。透明電極27を形成する金属酸化膜としては、例えば、活性層19からの出射光に対して透光性を有するITOやIZOを用いることができる。
【0026】
p電極29は、透明電極27上に形成された金属電極である。p電極29は、絶縁層25の上記開口部から露出したp型半導体層21の上面と、透明電極27を介して電気的に接続されている。透明電極27とp電極29とで、p型半導体層21に電気的に接触しかつ半導体構造層15に外部からの電流を供給する第2の電極層が形成されている。本実施例において、p電極29は、透明電極27の上面に当該上面の外縁に沿って環状に形成されている。
【0027】
第2の多層膜反射鏡31は、透明電極27の上面のp電極29に囲まれた領域に形成された円柱上の多層膜反射鏡である。第2の多層膜反射鏡31は、SiO2からなる低屈折率誘電体膜と、Nb2O5からなり低屈折率誘電体膜よりも屈折率が高い高屈折率誘電体膜とが交互に積層された誘電体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第2の多層膜反射鏡31は、誘電体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR)である。
【0028】
本実施例において、第2の多層膜反射鏡31は、透明電極27の上面に形成されたNb2O5のスペーサー層、及び当該スペーサー層上に成膜された10.5ペアのNb2O5/SiO2層からなる。このような構成の第2の多層膜反射鏡31は、活性層19からの出射光に対し、99%以上の反射率を有する。この第2の多層膜反射鏡31の反射率は、第1の多層膜反射鏡13の反射率よりも高くなっている。
【0029】
図2は、面発光レーザ10の上面図である。
図2において、基板11の上面と同一面内においてm軸方向に沿っている軸を横方向軸AX2とする。上述したように、面発光レーザ10は、矩形の上面形状を有する基板11上に形成されたn型半導体層17、上面形状が円形の活性層19及びp型半導体層21を含む半導体構造層15を有している(
図1参照)。p型半導体層21上には、絶縁層25及び透明電極27が形成されている。透明電極27上には、p電極29及び第2の多層膜反射鏡31が形成されている。
【0030】
絶縁層25は、上述した絶縁層25のp型半導体層21を露出する円形の開口部である開口部25Hを有している。
図2に示すように、開口部25Hは、面発光レーザ10の上方からみて絶縁層25の中央部に形成されており、面発光レーザ10の上方からみて第2の多層膜反射鏡31に覆われている。言い換えれば、開口部25Hは、絶縁層25の多層膜反射鏡31の下面と対向する領域に形成されている。本実施例において、開口部25Hは直径10μmである。
【0031】
開口部25Hは、中心軸AX1上に中心を有する円形である。従って、p型半導体層21は、p型半導体層21の上面の開口部25Hから露出している円形の領域にある電気的接触面21Sを介して透明電極27と電気的に接続されている。
【0032】
図2に示すように、凸部11P(図中太い破線)は、上面視において、中心軸AX1上に中心を有する円形である。凸部11Pは、基板11の下面の電気的接触面21Sと対向する領域に亘って形成されている。凸部11Pは上面視、すなわち基板11の上面の法線方向からみて電気的接触面21Sと重なるように形成され、かつ電気的接触面21Sの外縁すなわち輪郭よりも外側まで延在している。本実施例においては、凸部11Pは、上面視においてp電極29の外側、すなわちn型半導体層17の上部17Bの外側にまで延在している。
【0033】
図3は、面発光レーザ10の
図2の3-3線に沿った断面図である。上述のように、面発光レーザ10は、GaN基板である基板11を有し、基板11上に第1の多層膜反射鏡13が形成されている。
【0034】
また、上述したように、基板11の下面の凸部11Pの表面には、第3の多層膜反射鏡としての裏面多層膜反射鏡12が形成されている。従って、凸部11P及び裏面多層膜反射鏡12によって、活性層19及び第2の多層膜反射鏡31に対向する上方に凹の反射面を有する凹状反射構造12Rが形成されている。
【0035】
この上方に凹の反射面によって、活性層19の方向から第1の多層膜反射鏡13を下方に通過してきた光が、上方にかつ中心軸AX1に向かって絞られながら反射される。すなわち、裏面多層膜反射鏡12は、第1の多層膜反射鏡13を通過して裏面多層膜反射鏡12に到達した光を、中心軸AX1に沿った領域に集める機能を有する。
【0036】
図1について上述したように、第1の多層膜反射鏡13上には、半導体構造層15が形成されている。半導体構造層15は、n型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21がこの順に形成されてなる積層体である。p型半導体層21の上面の中央部には、上方に突出している突出部21Pが形成されている。
【0037】
本実施例においては、n型半導体層17は、Siがドープされた350nmの層厚のn-GaN層である。活性層19は、3nmのGaInN層及び4nmのGaN層が4ペア積層された多重量子井戸構造の活性層である。活性層19上には、120nmのアンドープのGaN層、10nmのMgドープされたAlGaN(Al組成30%)の電子障壁層が形成され、その上に突出部21Pが形成されている部分において83nmの層厚を有するp-GaN層からなるp型半導体層21が形成されている。
【0038】
絶縁層25は、p型半導体層21の上面の突出部21P以外の領域を覆うように形成されている。絶縁層25は、上述のようにp型半導体層21よりも低い屈折率を有している材料からなっている。絶縁層25は、突出部21Pを露出せしめる開口部25Hを有している。例えば、開口部25Hと突出部21Pとは同様の形状を有しており、開口部25Hの内側面と突出部21Pの外側面は接している。
【0039】
絶縁層25は、20nmのSiO2からなる層である。絶縁層25の上面は、p型半導体層21の突出部21Pの上面と同一の高さ位置に配置されるように構成されている。言い換えれば、p型半導体層21の上面の突出部21Pは、p型半導体層21の上面の突出部21Pの周囲の領域から20nm突出している。従って、p型半導体層21は、突出部21Pにおいて83nmの層厚を有し、それ以外の領域において63nmの層厚を有する。
【0040】
透明電極27は、絶縁層25及び絶縁層25の開口部25Hから露出している突出部21Pの上面を覆うように形成されている。すなわち、透明電極27は、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している領域において、p型半導体層21と電気的に接触している。言い換えれば、p型半導体層21の上面の開口部25Hを介して露出している領域が、p型半導体層21と透明電極27との電気的接触をもたらす電気的接触面21Sとなっている。
【0041】
p電極29は、上述したように金属電極であり、透明電極27の上面の外縁に沿って形成されている。すなわち、p電極29は、透明電極27と電気的に接触している。従って、p電極29は、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している電気的接触面21Sにおいて、透明電極27を介してp型半導体層21と電気的に接触または接続している。
【0042】
第2の多層膜反射鏡31は、透明電極27の上面であって、絶縁層25の開口部25H上の領域、言い換えれば電気的接触面21S上の領域すなわち透明電極27の上面の中央部分に形成されている。第2の多層膜反射鏡31の下面は、透明電極27及び半導体構造層15を挟んで第1の多層膜反射鏡13の上面及び裏面多層膜反射鏡12の上面と対向している。第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間に第1の共振器OC1、が形成され裏面多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡31との間に第2の共振器OC2が形成される。活性層19から出射した光を共振させる共振器OCは、この第1の共振器OC1及び第2の共振器OC2を含む。
【0043】
面発光レーザ10において、第2の多層膜反射鏡31の反射率は、裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13からなる反射構造の反射率よりもわずかに高くなっている。従って、裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡13、基板11及び裏面多層膜反射鏡12を透過し、外部に取り出される。
【0044】
ここで、面発光レーザ10の動作について説明する。面発光レーザ10において、n電極23及びp電極29との間に電圧が印加されると、図中太線一点鎖線矢印に示す様に、半導体構造層15内に電流が流れ、活性層19から光が放出される。活性層19から放出された光は、第1の多層膜反射鏡13及び裏面多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡31との間において反射を繰り返し、共振状態に至る(すなわちレーザ発振する)。
【0045】
面発光レーザ10においては、p型半導体層21には、開口部25Hによって露出している部分、すなわち電気的接触面21Sのみから電流が注入される。また、p型半導体層21は非常に薄いため、p型半導体層21内では面内方向、すなわち半導体構造層15の面内に沿った方向には電流は拡散しない。
【0046】
従って、面発光レーザ10においては、活性層19のうち、開口部25Hによって画定される電気的接触面21Sの直下の領域にのみ電流が供給されて、当該領域からのみ光が放出される。すなわち、面発光レーザ10において、開口部25Hが活性層19における電流の供給範囲を制限する電流狭窄構造となっている。すなわち、面発光レーザにおいては、p型半導体層21及び絶縁層25によって電流狭窄構造が形成されている。
【0047】
言い換えれば、面発光レーザ10においては、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間に、活性層19のうち、電気的接触面21Sを底面とする柱状の領域である中央領域CAのみに電流が流れるように電流を狭窄する、すなわち、活性層の1の領域に電流を集中させる電流狭窄構造が形成されている。活性層19内の電流が流れる領域を含む中央領域CAは、電気的接触面21Sによって画定される。
【0048】
上述のように、本実施例においては、第1の多層膜反射鏡13は、第2の多層膜反射鏡31よりも低い反射率を有する。従って、第2の多層膜反射鏡31及び活性層19から到来して第1の多層膜反射鏡13に至った光は、その一部が裏面多層膜反射鏡12へ透過し、第2の多層膜反射鏡31と裏面多層膜反射鏡12との間でも共振が発生する。これら共振した光の一部は、第1の多層膜反射鏡13、裏面多層膜反射鏡12及び基板11を透過し、外部に取り出される。
【0049】
このようにして、面発光レーザ10は、基板11の下面から、基板11の凸部11Pを除く下面及び半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な方向に光を出射する。言い換えれば、基板11の下面が、面発光レーザ10の光出射面となっている。
【0050】
なお、半導体構造層15のp型半導体層21の電気的接触面21S及び絶縁層25の開口部25Hは、活性層19における発光領域の中心である発光中心を画定し、共振器OCの中心軸(発光中心軸)を画定する。共振器OCの中心軸は、p型半導体層21の電気的接触面21Sの中心を通り、半導体構造層15の面内方向に対して垂直な方向に沿って延びる。本実施例においては、共振器OCの発光中心軸と中心軸AX1とが同一であるとして説明する。以下の説明においては、中心軸AX1を発光中心軸AX1とも称する。
【0051】
活性層19の発光領域とは、例えば、活性層19内における所定の強度以上の光が放出される所定の幅を有する領域であり、その中心が発光中心である。また、例えば、活性層19の発光領域とは、活性層19内において所定の密度以上の電流が注入される領域であり、その中心が発光中心である。また、当該発光中心を通る基板11の上面または半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な直線が発光中心軸AX1である。
【0052】
発光中心軸AX1は、第1の多層膜反射鏡13及び裏面多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡31とによって構成される共振器OCの共振器長方向に沿って延びる直線である。また、発光中心軸AX1は、面発光レーザ10から出射されるレーザ光の光軸に対応する。
【0053】
以下、面発光レーザ10内部の光学的な特性について説明する。上述のように、面発光レーザ10において、絶縁層25は、p型半導体層21よりも低い屈折率を有する。また、裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間において、活性層19及びn型半導体層17の層厚は、面内のいずれの箇所においても同じ層内であれば同一である。
【0054】
従って、面発光レーザ10の裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間で形成される共振器OC内における等価的な屈折率(裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間の光学的距離であり、共振波長に対応する)は、p型半導体層21と絶縁層25との屈折率の差によって、電気的接触面21Sを底面とする円柱状の中央領域CAとその周りの筒状の周辺領域PAとで異なる。
【0055】
具体的には、裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間において、周辺領域PAの等価屈折率は中央領域CAの等価屈折率よりも低い、すなわち、中央領域CAにおける等価的な共振波長は、周辺領域PAの等価的な共振波長よりも小さい。なお、活性層19において光が放出されるのは、開口部25H及び電気的接触面21Sの直下の領域である。すなわち、活性層19において光が放出される発光領域は、活性層19のうち中央領域CAと重なる部分、言い換えれば上面視において電気的接触面21Sと重なる領域である。
【0056】
このように、面発光レーザ10においては、電流狭窄構造を形成するp型半導体層21及び絶縁層25によって、活性層19の発光領域を含む中央領域CAと、中央領域CAを囲繞しかつ中央領域CAよりも屈折率が低い周辺領域PAとが形成されている。
【0057】
これによって、中央領域CA内の定在波が周辺領域PAに発散(放射)することによる光損失が抑制される。すなわち、中央領域CAに多くの光が留まり、またその状態でレーザ光が外部に取り出される。
【0058】
つまり、面発光レーザ10においては、電流狭窄構造を形成するp型半導体層21及び絶縁層25によって、光を中央領域に留める、すなわち閉じ込める光閉じ込め構造も形成されている。
【0059】
また、面発光レーザ10においては、第1の多層膜反射鏡13を通過して裏面多層膜反射鏡12に達した光が、裏面多層膜反射鏡12によって形成される凹状反射構造12Rの凹状反射面12RSによって中央領域CAに集められる。すなわち、裏面多層膜反射鏡12によっても中央領域CAに光が留められる。
【0060】
従って、上記電流狭窄構造及び裏面多層膜反射鏡12によって、多くの光が共振器OCの発光中心軸AX1の周辺の中央領域CAに集中し、高出力かつ高密度なレーザ光を生成及び出射することができる。
【0061】
また、面発光レーザ10においては、上述のように共振器OCを裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31とで形成している。このことで、面発光レーザ10からの出射光をシングルモードに維持しつつ活性層19の電流の流れる領域、いわゆる電流注入領域を大きくして発光領域を大きくし、光出力を高めることが容易になっている。
【0062】
例えば、本願の面発光レーザ10から裏面多層膜反射鏡12を除き、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との反射率を近づけてこれらのみで共振器を形成する構成(以下、比較構成とも称する)を考える。この場合、活性層19への電流の流れ込みを制限して発光領域を画定する電流狭窄構造を形成する開口部25Hの径を約5.5μm以下にしなければ、取り出す光がシングルモードになりにくいということが、本願発明者らによって見出されていた。
【0063】
言い換えれば、単に、電流狭窄構造を形成する構造で光閉じ込めを行って横モードをシングルモードに制御する比較構成の場合、電流注入領域を小さく収めなければならないことが見出されていた。これは、活性層の電流注入領域を大きくして光出力を上げると、活性層の発光中心付近で空間的ホールバーニングが発生し、当該発光中心付近における光利得が小さくなってしまう故である。
【0064】
この空間的ホールバーニングは、活性層の特定の領域で光密度が過度に高まることで、誘導放出が多くなり、当該光密度が高い領域で注入キャリアが消費されてキャリア密度が低くなってしまう現象である。
【0065】
上記した比較構成では、光出力を上げようとした際、5.5μmを超えて開口部25Hを大きくすると、電流狭窄構造によって生ずる光閉じ込め効果により、活性層の発光中心周辺に光が集中しすぎて光密度が過度に高まってしまい、ホールバーニングが発生する。面発光レーザにおいて、このホールバーニングが発生すると、幅方向における共振器の光利得が複数のピークを持つようになり、取り出される光の横モードが多モードになってしまう。
【0066】
本実施例の面発光レーザ10では、上述のように、裏面多層膜反射鏡12及び第1の多層膜反射鏡13で上方に光反射する反射構造を形成し、第2の多層膜反射鏡31で下方に光を反射する反射構造を形成し、これらによって共振器を形成している。
【0067】
このように、面発光レーザ10では、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31とからなる第1の共振器OC1から、一部の光を第1の多層膜反射鏡13を通過させて下方に向かわせる。それにより、中心軸AX1に向かって絞りながら反射する凹状反射面12RSを有する裏面多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡31との間でも第2の共振器OC2が形成される。
【0068】
このようにすることで、活性層19において、単に第1の多層膜反射鏡13及び第2の多層膜反射鏡31との間のみで第1の共振器OC1を形成する場合よりも、発光中心軸AX1の周辺の領域における光密度を低下させることが出来、空間的ホールバーニングの発生を抑えることが可能である。
【0069】
具体的には、面発光レーザ10においては、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間に形成された光閉じ込め構造だけでなく、裏面多層膜反射鏡12によって光を中央領域CAに集めるもう一つの横方向光閉じ込め構造をとっている。また、上述のように第1の多層膜反射鏡13の反射率を低くしているので、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間の第1の共振器OC1において強く生ずる上記電流狭窄構造による光閉じ込め効果が、従来よりも緩やかなものになる。
【0070】
面発光レーザ10においては、上記電流狭窄構造による光閉じ込め効果が、上記第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡31との間の第1の共振器OC1でのみ共振が起きる比較構成に比べて緩やかになる。その代わりに、第1の多層膜反射鏡13を通過して下方に向かった光を上方に、かつ中心軸AX1に向かって絞りながら反射する凹状反射面12RSを有する裏面多層膜反射鏡12が、緩やかになった電流狭窄構造による光閉じ込め効果の補填をする形になる。
【0071】
このように、光閉じ込めを上記した電流狭窄構造とで裏面多層膜反射鏡12との組み合わせで行うことで、中央領域CAには十分に光が閉じ込められるものの、活性層19の中心軸AX1近傍の領域に光が過度に集中せず、光密度が過度に高くならなくなる。これによって、活性層19の電流注入領域を大きくしても、光密度が過度に高くなることによるホールバーニングが発生しにくくなる。
【0072】
このように、面発光レーザ10では、開口部25Hを大きくして活性層19の電流注入領域を大きくしてもホールバーニングが発生せず、出射光の光強度分布がガウシアン分布を維持しやすくなる。すなわち、面発光レーザ10では、出射光の横モードがシングルモードに保たれやすくなる。
【0073】
なお、凹状反射構造12Rの凹状反射面12RSの曲率半径Rは、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
【0074】
【0075】
ここで、Zは、本来では凹状反射構造の反射面と活性層19との距離であるが、活性層19と第2の多層膜反射鏡31の下面との距離が近似できるほど小さいので、凹状反射構造12Rの反射面と第2の多層膜反射鏡31の下面との距離とする(
図3参照)。
【0076】
また、neqは凹状反射構造12Rの反射面と第2の多層膜反射鏡31の下面との間半導体による等価屈折率、λlasingは活性層19から出射される光の波長である。
【0077】
この関係性は、第1の共振器OC1での面発光レーザ10からの出射光の出射方向と垂直な面内の光強度分布において、ピークの位置からピークにおける光強度の1/eになる位置までの距離、すなわちビームスポット径の1/2であるω0及び以下の式(2)に基づいて導出された。
【0078】
【0079】
なお、上記式(1)は、ω0とRとの関係を示す上記式(2)から導き出されている。具体的には、第1の共振器OC1によって出力される光のスポット径ω0が最大で1.65μmであると言う条件、第2の共振器OC2によって出力される光のスポット径がこれより大きくなる事が好ましいと言う条件を上記式(1)に導入することで導き出されている。
【0080】
また、上述のように、本実施例の面発光レーザ10では、基板11の上面がC面からM面方向に0.5°オフした面となっている。本実施例の面発光レーザ10のように、基板11のM面にオフセットした成長面に半導体層を成長させた場合、m軸方向に偏光方向を有する光の光学利得が他の方向に偏光方向を有する光よりも大きくなるため、m軸方向に偏光方向を有するレーザ光が発振しやすい。そのため、面発光レーザ10の中央領域CAから出射される光は、m軸方向に偏光方向を有する光が多くなる。すなわち、面発光レーザ10は、横方向軸AX2に沿った方向に偏光方向を有する光が多くなる。
【0081】
上述のように、本発明の面発光レーザによれば、出射光の横モードをシングルモードに維持しつつ発光出力を上げることが容易になる。また、高い発光効率を有し、安定して特定の偏光方向の出射光を得ることが可能となる。これは、面発光レーザの出射光を、液晶や偏光子を用いた光学系を有する装置に用いる場合に非常に有効である。
[製造方法]
以下に、面発光レーザ10の製造方法の一例について説明する。まず、基板11として、上述のように上面がC面からM面に傾斜した結晶面となっているGaN基板を用意する。
【0082】
次に、当該基板11の上面に、有機金属気相成長法(MOVPE)により、下地層としてGaN(層厚1μm)層を形成する。その後、当該下地層上にn-GaN/AlInNの層を35ペア成膜し、第1の多層膜反射鏡13を形成する。
【0083】
次に、第1の多層膜反射鏡13上に、Siドープn-GaN(層厚350nm)を形成してn型半導体層17を形成し、その上に、GaInN(層厚3nm)及びGaN(層厚4nm)からなる層を4ペア積層することで、活性層19を形成する。
【0084】
次に、活性層19上に、MgドープAlGaN(Al組成30%)からなる電子障壁層(10nm)を形成し(図示せず)、当該電子障壁層上にp-GaN層(層厚83nm)を成膜してp型半導体層21を形成する。
【0085】
次に、p型半導体層21、活性層19及びn型半導体層17の周囲の部分をエッチングして、当該周囲の部分においてn型半導体層17の上面17Sが露出するようなメサ形状を形成する。言い換えれば、この工程で、
図1のn型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21からなる円柱上の部分を有する半導体構造層15が完成する。
【0086】
次に、p型半導体層21の上面の中央部の周囲をエッチングして、突出部21Pを形成する。その後、半導体構造層15上に、SiO2を20nm成膜して、その一部を除去して開口部25Hを形成することで絶縁層25を形成する。言い換えれば、p型半導体層21の上面のエッチング除去された部分に、SiO2を埋め込む。
【0087】
次に、絶縁層25上にITOを20nm成膜して透明電極27を形成し、透明電極27の上面及びn型半導体層17の上面17SにそれぞれAuを成膜してp電極29及びn電極23を形成する。
【0088】
次に、透明電極27上にNb2O5を38nm、スペーサー層(図示せず)として成膜し、当該スペーサー層上に、1ペアがNb2O5/SiO2からなる層を10.5ペア成膜して、第2の多層膜反射鏡31を形成する。
【0089】
次に、基板11の裏面を研磨して厚さを200μm以下にした後、基板11の裏面に凸部11Pを形成する。凸部11Pはリフロープロセスによって、そのレンズ形状の中心軸が、発光中心軸AX1と一致するように形成される。なお、凸部11Pは、露光パターニング及びドライエッチングを用いて形成されてもよい。
【0090】
具体的には、例えば、基板11の裏面に凸部11Pと同様の形状にレジストを堆積させ、基板11の裏面全体をドライエッチングし、レジストの形状を基板11の裏面に転写することで形成することで凸部11Pを形成してもよい。
【0091】
[変形例1]
以下、本発明の実施例1の面発光レーザ10の変形例1である面発光レーザ40について説明する。変形例1は、凸部11Pが円形では無い点、すなわち凹状反射構造12Rが形成する凹状反射面が円形では無い点で面発光レーザ10と異なる。
【0092】
図4は、変形例1の面発光レーザ40の上面図である。
図4に示すように、面発光レーザ40において、凸部11Pの上面形状は横方向軸AX2と同じ方向の軸を長軸とする楕円形を有している。すなわち、凸部11Pが、上面視においてm軸方向沿ったに長軸を有する楕円状の上面形状を有している。
【0093】
面発光レーザ40において、凸部11Pをm軸方向に長軸を有する楕円形状とすると、すなわち凹状反射構造12Rの反射面を、m軸方向に長軸を有する楕円形の上面形状を有する反射面とすると、m軸方向に沿った偏光方向を有する光の中央領域CA内での、m軸方向に沿った偏光方向を有する光の光利得が高くなり、かつm軸方向損失が低くなることが、本願発明の発明者によって見出された。
【0094】
従って、面発光レーザ40によれば、面発光レーザ10の光出射面となっている基板11の下面から、m軸方向に沿った偏光方向を有する光を多く取り出すことができ、かつm軸に沿った方向以外の偏光方向を有する光の出射を抑制することができる。よって、面発光レーザ40によれば、光出射面から取り出される光の、光出射面の面内方向における偏光方向バラツキをさらに抑制することが可能となる。
【0095】
なお、偏光方向のバラツキをさらに抑制するための凸部11Pの形状、言い換えれば凹状反射構造12Rの反射面の上面形状は、横方向軸AX2に沿った方向を長手方向とする形状であれば他の形状であってもよい。言い換えれば、凸部11Pの上面形状は、横方向軸AX2に沿った方向を長手方向とする形状であれば楕円以外の他の形状であってもよい。
【0096】
例えば、凸部11Pの上面形状は、横方向軸AX2に沿った方向を長手方向とする長方形または矩形状であってもよい。また、例えば、凸部11Pの上面形状は、横方向軸AX2方向に沿った方向を長手方向とする陸上トラックと同一の輪郭を有する長円状であってもよい。また、例えば、凸部11Pの上面形状は、軸AX2方向に沿った方向を長手方向とする菱形状であってもよい。
【0097】
[変形例2]
以下、本発明の実施例1の面発光レーザ10の変形例2である面発光レーザ50について、
図5を参照して説明する。変形例2の面発光レーザ50は、裏面多層膜反射鏡12が形成されていない点で実施例1の面発光レーザ10とは異なる。
【0098】
図5は、
図2に示したのと同様の切断線で面発光レーザ50を切断した際の切断面、すなわち
図3に対応した切断面を示す断面図である。
図5に示すように、面発光レーザ50は、裏面多層膜反射鏡12が形成されていない代わりに、凸部11Pの表面に複数のスリット溝51からなる回折格子53(図中破線内)が形成されている。すなわち、凸部11Pと回折格子53とで凹状反射面得55RSを有する凹状反射構造55Rが形成されている。このスリット溝51は、
図5の紙面に垂直な方向に沿った軸である横方向軸AX2(
図2参照)と同じ方向に長手方向を有している。すなわちスリット溝51は、上面視においてm軸方向に沿った方向に長手方向を有している。
【0099】
このスリット溝51によって形成される回折格子53は、回折格子を形成するスリット溝51の各々の伸長方向、すなわちm軸方向が偏光方向となっている光に対する高い反射率をもたらす。すなわち、スリット溝51からなる回折格子53が形成されていることで、他の偏光方向を有する光よりもm軸方向が偏光方向になっている光の反射率が高まり、m軸方向が偏光方向になっている光が優先的に発振しやすくなる。
【0100】
従って、面発光レーザ50によれば、基板11の下面にスリット溝51からなる回折格子53を形成して凹状反射構造55Rを形成することで、出射光の更なる偏光制御を行い、1の偏光方向を有する光が支配的な出射光を安定して得ることが可能となる。
【0101】
なお、スリット溝51は、上記説明した実施例1の面発光レーザ10の製法の最後の工程において、基板11の下面にドライエッチング等のエッチング処理をすることで形成することが可能である。
【0102】
[変形例3]
以下、本発明の実施例1の変形例3である面発光レーザ60について、
図6を参照して説明する。面発光レーザ60は、上述した電流狭窄構造を形成するために、絶縁層25の代わりに半導体構造層15内にトンネル接合構造を形成する点で、実施例1の面発光レーザ10とは異なる。具体的には、面発光レーザ60は、p型半導体層21より上の構造が面発光レーザ10と異なる。
【0103】
図6は、
図2に示したのと同様の切断線で面発光レーザ60を切断した際の切断面、すなわち
図3に対応した切断面を示す断面図である。
図6に示すように、面発光レーザ60においては、p型半導体層21の突出部21P上に、トンネル接合層61が形成されている。すなわち、面発光レーザ60においては、半導体構造層15内の中央領域CAにトンネル接合層61が形成されている。
【0104】
トンネル接合層61は、p型半導体層21上に形成され、p型半導体層21よりも高い不純物濃度を有するp型半導体層であるハイドープp型半導体層61Aと、ハイドープp型半導体層61A上に形成され、n型半導体層17よりも高い不純物濃度を有するn型半導体層であるハイドープn型半導体層61Bと、を含んでいる。
【0105】
n型半導体層63は、p型半導体層21及びトンネル接合層61上に形成されている。n型半導体層63は、p型半導体層21の上面においてトンネル接合層61を埋め込むように形成されている。言い換えれば、n型半導体層63は、突出部21Pの側面並びにトンネル接合層61の側面及び上面を覆うように形成されている。
【0106】
第2の多層膜反射鏡65は、n型半導体層63の上面に形成されており、n型半導体層17と同様のドーピング濃度を有するn型半導体層である。すなわち、n型半導体層63は、ハイドープn型半導体層61Bよりも低いドーピング濃度を有している。
【0107】
このような、p型半導体層21、トンネル接合層61及びn型半導体層63の積層構造により、トンネル接合層61部分でトンネル効果が生ずる。これにより、面発光レーザ60においてはp型半導体層21とn型半導体層63との間において、トンネル接合層61の部分にのみ電流が流れ、電流が中央領域CAに狭窄される電流狭窄構造が形成される。
【0108】
第2の多層膜反射鏡65は、n型半導体層63上に形成された半導体層からなる半導体多層膜反射鏡である。第2の多層膜反射鏡65は、AlInNの組成を有する低屈折率半導体膜と、GaN組成を有し低屈折率半導体膜よりも屈折率が高い高屈折率半導体膜とが交互に積層されることで形成されており、n型半導体の特性を有している。言い換えれば、第2の多層膜反射鏡65は、半導体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。
【0109】
p側電極67は、第2の多層膜反射鏡65の上面の周縁部に沿って形成された金属電極である。面発光レーザ60においては、第2の多層膜反射鏡65が導電性を有するので、p側電極67から第2の多層膜反射鏡65、n型半導体層63、トンネル接合層61、p型半導体層21、活性層19、n型半導体層17を通ってn電極23まで電流が流れる。
【0110】
この構成を有する半導体構造層において、p-GaN層からn型半導体層17には、トンネル接合層の部分のみから電流が流入する。そのため、上記した絶縁層25を形成した場合と同様な電流狭窄効果を生じさせることが可能となる。また、トンネル接合層61とその周囲の領域で屈折率が異なることにより、実施例1と同様の光閉じ込め効果も生じさせることが可能である。
【0111】
言い換えれば、上面視において、上記した電気的接触面21Sと同じ領域にトンネル接合を形成するトンネル接合層61を形成することで、上記した電気的接触面21Sを形成したのと同様の電流狭窄効果、光閉じ込め効果を得ることが可能となる。
【0112】
以上の実施例1、変形例1乃至3においては、n電極23をn型半導体層17に形成するとしたが、これに代えて基板11の裏面にn側電極を形成しても良い。
【0113】
図7に、実施例1の面発光レーザ10において、n電極23に代えて、凸部11Pの周囲の領域、すなわち、凹状反射構造12Rよりも外側の領域にn側電極68を形成する場合の断面図を示す。この場合、基板11が電流の経路となるため、基板11にドーピングをしなければならない。
【0114】
しかしながら、上述のように面発光レーザ10においては、基板11も共振器内に配されることになるので、基板11は光の透過性が高いことが好ましい。従って、基板11にドーピングするn型ドーパントは酸素ではなくSiであるのが好ましく、ドーパント濃度は低いことが好ましい。例えば、基板11においては、第1の共振器OC1及び第2の共振器OC2内の領域において、Siドーパントの濃度が2×1018/cm3以下の領域が80%を占めることが好ましく、さらに好ましくは1×1018/cm3以下の領域が80%を占めることが好ましい。
【0115】
具体的には、n側電極を形成する部分において、ドーパントの濃度が高いことが必要となるため、例えば、その部分だけドーパント濃度を高くし、共振器OCを含むそれ以外の領域でドーパント濃度を低くすることで、上記ドーパント濃度の条件を満たす基板11を形成する。なお、n側電極を形成する部分については、共振器OCの外側の領域であるので、ドーパントは酸素でも構わない。
【0116】
上記した変形例1乃至3及びn側電極を基板11の裏面に形成する例は、全て組み合わせ可能である。
アウトプットカプラー71は、基板11の下面に対向する凹状の表面72Sを有する透明基板72及び凹状の表面72Sを覆う誘電体からなるDBRである外部多層膜反射鏡73からなる。
面発光レーザ70においては、面発光レーザ10の凹状反射構造12Rに対応する凹状反射構造71Rが透明基板72及び外部多層膜反射鏡73によって形成されている。面発光レーザ70においては、第2の共振器OC2が第2の多層膜反射鏡31と外部多層膜反射鏡73との間で形成されている。
このような、基板11の下面に形成された凸部11Pによる凹状反射構造12Rではなく、アウトプットカプラー71を用いる構成は、面発光レーザ10において設計上凹状反射構造12Rを大きくしなければならない場合に有利な構成である。
例えば、ウェハに多数の面発光レーザ10を形成して個片化する場合に、凹状反射構造12Rを大きくしなければならない場合には、1ウェハ当たりの面発光レーザ10の製造個数が、凸部11Pの大きさによって制限され得る。そのような場合に、凹状反射構造12Rを外部のアウトプットカプラー71の凹状反射構造71Rで置換することで、面発光レーザの1ウェハ当たりの製造個数を減らすことなく凹状反射構造を大きくすることができる。
上述の実施例においては、基板11の上面は、C面からM面方向に0.5°オフした面である場合、すなわちC面からM面方向へのオフ角が0.5°である場合を説明したが、オフ角はこの角度に限られない。オフ角が、例えば、0.3°から0.8°程度であれば充分に上記した偏光制御効果を得ることができる。また、基板11の上面のオフ角が0.8°以下であれば、第1の多層膜反射鏡13を構成する半導体多層膜を、安定して十分な反射率をもつように形成可能である。
また、上記実施例においては、基板11の上面は、C面からM面方向にオフしている場合を説明したが、基板11の上面がC面からA面方向にオフしており、C面方向にはほとんどオフしていなくともよい。
この場合、上記偏光制御効果を得るために、上記C面のオフ角の範囲についての説明と同様の理由で、C面からA面方向へのオフ角は0.3°~0.8°程度が好ましく、C面からM面へのオフ角は0±0.1°であるのが好ましい。なお、基板11の上面がC面からA面にオフしている場合、上記変形例1における凸部11Pの上面形状の長手方向及び変形例2におけるスリット溝51の長手方向について説明において、横方向軸AX2がa軸に対応するとして読み替えて理解されたい。
基板11の上面がC面からA面方向にオフしている場合、a軸方向に沿った偏光方向を有する光を多く取り出すことができ、かつa軸に沿った方向以外の偏光方向を有する光の出射を抑制することができる。よって、面発光レーザ10によれば、光出射面から取り出される光の、光出射面の面内方向における偏光方向バラツキを抑制することが可能となる。