(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127192
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】配線基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/12 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
H05K3/12 610B
H05K3/12 610C
H05K3/12 610D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030821
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】513114571
【氏名又は名称】株式会社マテリアル・コンセプト
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ホアン・チ・ハイ
(72)【発明者】
【氏名】芳村 友可
(72)【発明者】
【氏名】田原 麻里
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
(72)【発明者】
【氏名】井頭 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小田 修三
(72)【発明者】
【氏名】川野 晋司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康平
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA16
5E343AA18
5E343AA19
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB44
5E343BB72
5E343BB75
5E343DD02
5E343DD12
5E343EE22
5E343ER32
5E343ER37
5E343FF02
(57)【要約】
【課題】樹脂基板に由来する柔軟性と金属配線に由来する高い電気伝導性を兼ね備えながら、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性が高く、樹脂基板を曲げたときに剥離や断線を生じにくい新たな配線基板を、フォトリソグラフィー工程を用いることなく製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明の配線基板の製造方法は、耐熱性樹脂基板の上に、ガラス転移温度Tgを有する熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層を形成する工程と、一次粒子の平均粒子径が150nm以上であり、且つ銅、銀及びニッケルから選択される金属粒子を含む金属含有ペーストを高分子化合物層の上に塗布又は印刷する工程と、500ppm以上の酸素濃度を有する酸化雰囲気下、150℃以上450℃以下の温度T
1で加熱する工程と、還元雰囲気下、150℃以上450℃以下で加熱する工程と、を備え、Tg及びT
1が式:Tg<T
1を満たす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板の製造方法において、
少なくとも、耐熱性樹脂基板の上に、ガラス転移温度Tgを有する熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層を形成して積層体を得る高分子化合物層形成工程と、
一次粒子の平均粒子径が150nm以上であり、且つ銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上の金属粒子を少なくとも含む金属含有ペーストを前記高分子化合物層の上に塗布又は印刷するペースト塗布又は印刷工程と、
前記金属含有ペーストが塗布又は印刷された前記積層体を、500ppm以上の酸素濃度を有する酸化雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲に含まれる第1加熱温度T1で加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱温度T1で加熱された前記積層体を、還元雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲で加熱する第2加熱工程と、を備え、
前記ガラス転移温度Tg及び前記第1加熱温度T1が、下記式(I)を満たす、
配線基板の製造方法。
Tg<T1 ・・・式(I)
【請求項2】
前記高分子化合物層形成工程は、前記耐熱性樹脂基板の上に、原料溶液を塗布した後、前記原料溶液を塗布した前記耐熱性樹脂基板を、酸素含有雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、層形成加熱温度T0で加熱し、
前記層形成加熱温度T0及び前記ガラス転移温度Tgが、下記式(II)を満たす、
請求項1に記載の配線基板の製造方法。
T0<Tg ・・・式(II)
【請求項3】
前記還元雰囲気は、1体積%以上の還元性ガスを含む、請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
【請求項4】
耐熱性樹脂基板の上の少なくとも一部に熱可塑性樹脂層を備え、
前記熱可塑性樹脂層の少なくとも一部に銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属粒子の焼結体を備え、
前記焼結体は、合計で5体積%以上40体積%以下の複数の空隙を有し、前記空隙の少なくとも一部は、前記熱可塑性樹脂層に向けて開口部を有し、前記開口部から、前記熱可塑性樹脂層の一部が屈曲して入り込んでいる、配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板は、可撓性のある有機物絶縁フィルムを基板として、このフィルム上に金属配線を形成したものである。
【0003】
金属配線の形成方法としては、サブトラクティブ法、セミアディティブ法及びアディティブ法の3種類が挙げられる。
【0004】
具体的に、サブトラクティブ法では、金属箔を基板に張り付けて、フォトリソグラフィー工程によって配線を形成させる。また、セミアディティブ法では、シード層となる薄膜をスパッタ法等で基板上に被着した後に、電解めっきを行って配線を形成させる(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、サブトラクティブ法とセミアディティブ法はいずれもフォトリソグラフィー工程が必要であり、工程数が多いことに加えて、廃液処理が必要となる等、コストと環境に対する負荷が大きい。
【0005】
一方で、アディティブ法では、インクジェットやスクリーン印刷によって金属配線を基板上に直接描画する。このアディティブ法はフォトリソグラフィー工程が不要であるという利点がある。しかしながら、基板上に金属配線を形成しただけでは、金属配線の密着強度が弱いため金属配線が容易に剥離するという問題がある。そこで、金属配線と基板の密着強度を高めるために、基板上に予めNi-Cr合金薄膜を密着層として形成し、その後に金属配線を形成する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この方法を用いれば、やはりNi-Cr合金薄膜を配線形状にエッチングする必要が生じ、フォトリソグラフィー工程が必要となる。このような方法では、サブトラクティブ法とセミアディティブ法と同様に、工程数が多く、廃液処理が必要となるため、高価且つ環境負荷が大きいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-72200号公報
【特許文献2】特開平5-136547号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Cao,J.Tian,and X.Hu,This Solid Films,Vol.365(1),pp.49-52(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、樹脂基板に由来する柔軟性と金属配線に由来する高い電気伝導性を兼ね備えながら、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性が高く、樹脂基板を曲げたときに剥離や断線を生じにくい新たな配線基板を、フォトリソグラフィー工程を用いることなく製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、耐熱性樹脂基板の上に、熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層と、金属粒子を含む金属含有ペーストとを積層すること、得られた積層体を酸化雰囲気下で加熱し、次いで、還元雰囲気下で加熱すること、これらの加熱処理を特定条件で行うことにより、樹脂基板に由来する柔軟性と金属配線に由来する高い電気伝導性とを兼ね備えながら、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性が高く、樹脂基板を曲げたときに剥離や断線を生じにくい新たな配線基板を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下の実施形態を提供する。
【0010】
(1)配線基板の製造方法において、少なくとも、耐熱性樹脂基板の上に、ガラス転移温度Tgを有する熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層を形成して積層体を得る高分子化合物層形成工程と、一次粒子の平均粒子径が150nm以上であり、且つ銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上の金属粒子を少なくとも含む金属含有ペーストを前記高分子化合物層の上に塗布又は印刷するペースト塗布又は印刷工程と、前記金属含有ペーストが塗布又は印刷された前記積層体を、500ppm以上の酸素濃度を有する酸化雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲に含まれる第1加熱温度T1で加熱する第1加熱工程と、前記第1加熱温度T1で加熱された前記積層体を、還元雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲で加熱する第2加熱工程と、を備え、前記ガラス転移温度Tg及び前記第1加熱温度T1が、下記式(I)を満たす、配線基板の製造方法。
Tg<T1 ・・・式(I)
【0011】
(2)前記高分子化合物層形成工程は、前記耐熱性樹脂基板の上に、原料溶液を塗布した後、前記原料溶液を塗布した前記耐熱性樹脂基板を、酸素含有雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、層形成加熱温度T0で加熱し、前記層形成加熱温度T0及び前記ガラス転移温度Tgが、下記式(II)を満たす、上記(1)請求項1に記載の配線基板の製造方法。
T0<Tg ・・・式(II)
【0012】
(3)前記還元雰囲気は、1体積%以上の還元性ガスを含む、上記(1)または上記(2)に記載の配線基板の製造方法。
【0013】
(4)耐熱性樹脂基板の上の少なくとも一部に熱可塑性樹脂層を備え、前記熱可塑性樹脂層の少なくとも一部に銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属粒子の焼結体を備え、前記焼結体は、合計で5体積%以上40体積%以下の複数の空隙を有し、前記空隙の少なくとも一部は、前記熱可塑性樹脂層に向けて開口部を有し、前記開口部から、前記熱可塑性樹脂層の一部が屈曲して入り込んでいる、配線基板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂基板に由来する柔軟性と金属配線に由来する高い電気伝導性とを兼ね備えながら、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性が高く、樹脂基板を曲げたときに剥離や断線を生じにくい新たな配線基板を提供することができる。そして、本発明によれば、フォトリソグラフィー工程を用いることなく、当該配線基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る配線基板の焼結体を備える部分の縦断面図である。
【
図2】本実施形態に係る配線基板の製造方法を説明するための模式図であり、(a)及び(b)は、高分子化合物層形成工程を示し、(c)は、ペースト塗布又は印刷工程を示し、(d)は、第1加熱工程を示し、(e)は、第2加熱工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
1.配線基板
以下、本実施形態に係る配線基板について、
図1を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る配線基板の焼結体を備える部分の縦断面図である。
【0018】
本実施形態に係る配線基板1は、耐熱性樹脂基板2の上の少なくとも一部に熱可塑性樹脂層3を備え、熱可塑性樹脂層3の少なくとも一部に銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属粒子の焼結体4を備えるものである。そして、焼結体4は、合計で5体積%以上40体積%以下の複数の空隙5(5a,5b,5c,5d)を有し、空隙5の少なくとも一部は、熱可塑性樹脂層3に向けて開口部51a,51b,51c,51dを有し、このうち開口部51a,51b,51cから、熱可塑性樹脂層3の一部31a,31b,31cが屈曲して入り込んでいることを特徴とするものである。このように、熱可塑性樹脂層3の一部31a,31b,31cが、空隙5a,5b,5cに屈曲して入り込んでいることにより、絶縁性の樹脂基板が焼結体に入り込んで、それらの間で接触部が増加するともに、焼結体4と熱可塑性樹脂層3が剥離する際に、屈曲して入り込んだ樹脂の変形を必要とするため、焼結体4と熱可塑性樹脂層3との間の密着性を高めることができる。
【0019】
また、熱可塑性樹脂層3に向けて開口部51a,51b,51cを有する空隙5(5a,5b,5c)のうち、複数の空隙5a,5bが焼結体4の内部で連結しており、複数の異なる開口部51a,51bから入り込んだ熱可塑性樹脂層3の一部31a,31b同士が連結していることが好ましい。このように、複数の異なる開口部51a,51bから入り込んだ熱可塑性樹脂層3の一部31a,31b同士が連結していることにより、接触部分が増加するとともに、入り込んで連結した熱可塑性樹脂層3の一部31a,31bを切断しなければ剥離が生じなくなるため、絶縁性の樹脂基板との間の密着性を高めることができる。
【0020】
上述したとおり、焼結体4は、合計で5体積%以上40体積%以下の空隙を有するものである。空隙率が1体積%以上であることにより、熱可塑性樹脂層3の一部31a,31b,31cが入り込むことができる開口部を有することができる。また、空隙率が40体積%以下であることにより、焼結体4の破断耐性を高めることができる。なお、「空隙率」とは、焼結体4の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、断面の外周で縁取られる内部の面積を「全断面積」とし、その内部にある空隙の面積を「空隙面積」とし、以下に示す式(A)で与えられる数値を、10個の断面で平均したものとする。
空隙率(%)=(空隙面積/全断面積)×100 ・・・式(A)
【0021】
(耐熱性樹脂基板)
耐熱性樹脂基板2は、樹脂を主として含む基板であり、耐熱性樹脂基板2の上に熱可塑性樹脂3を形成する。
【0022】
耐熱性樹脂基板2を構成する樹脂としては、特に限定されないが、ポリイミド、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の可撓性を有する樹脂を用いて構成することができる。
【0023】
耐熱性樹脂基板2には、配線基板1の用途に応じて、樹脂以外に、酸化防止剤、難燃剤、無機物粒子からなるフィラー等を含むことができる。
【0024】
耐熱性樹脂基板2の厚さは、特に限定されないが、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。一方で、耐熱性樹脂基板2の厚さは、100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。なお、耐熱性樹脂基板2がPET基材の場合、その厚さは、100μm超であってもよい。耐熱性樹脂基板2の厚さが5μm以上であることにより、曲げや引張変形に対する基板の破断をより強く防止することができる。また、耐熱性樹脂基板2の厚さが100μm以下であることにより、樹脂材料に由来する優れた可撓性を配線基板1に付与することができる。
【0025】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層3は、熱可塑性樹脂を主として含む。
【0026】
熱可塑性樹脂層3を構成する樹脂は、特に限定されないが、ポリイミド、ポリアミドイミド、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート等の可撓性を有する熱可塑性樹脂を用いて構成することができる。なお、耐熱性樹脂基板2と熱可塑性樹脂層3とは、区別可能な状態で2つの層が形成されていればよい。ここでいう「区別可能」とは、耐熱性樹脂基板2を構成する樹脂と熱可塑性樹脂層3を構成する熱可塑性樹脂とが、異なる樹脂から構成されている場合や、同じ樹脂であっても、数平均分子量若しくは質量平均分子量が異なっていたり、(層として)樹脂の配向が異なっていたりする場合において、2層が区別可能な状態であることをいう。
【0027】
熱可塑性樹脂層3には、配線基板1の用途に応じて、熱可塑性樹脂以外に、酸化防止剤、難燃剤、無機物粒子からなるフィラー等を含むことができる。
【0028】
熱可塑性樹脂層3の厚さは、特に限定されないが、例えば0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましい。一方で、熱可塑性樹脂層3の厚さは、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂層3の厚さが5μm以上であることにより、曲げや引張変形に対する基板の破断をより強く防止することができる。また、熱可塑性樹脂層3の厚さが100μm以下であることにより、樹脂材料に由来する優れた可撓性を配線基板1に付与することができる。
【0029】
(焼結体)
焼結体4は、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属粒子の焼結体から構成されるものであり、配線基板1において導電経路として作用するものである。この焼結体は、前記金属粒子を焼結することによって形成される。
【0030】
焼結体4として、銅粒子を用いることにより、低抵抗を示す配線を低コストで提供できる。また、焼結体4として、銀粒子を用いることにより、高温焼結時においても配線が酸化しない。さらに、焼結体4として、ニッケル粒子を用いることにより、高電流密度の負荷状態で発生するエレクトロマイグレーション不良を抑制できる。
【0031】
金属粒子は、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される複数の金属粒子から構成されてもよい。この場合において、焼結体4は、その一部または全部が合金化していてもよい。
【0032】
焼結体4の空隙率は、合計で5体積%以上40体積%以下であれば、特に限定されない。空隙率は、6体積%以上であることが好ましく、7体積%以上であることがより好ましく、8体積%以上であることがさらに好ましく、9体積%以上であることが特に好ましい。空隙率が5体積%以上であることにより、開口部51a,51b,51c,51dを有する空隙5a,5b,5c,5dが増加して、熱可塑性樹脂層3が入り込みやすくなり、その結果、熱可塑性樹脂層3と焼結体4との間の密着性を高めることができる。一方、焼結体4の空隙率は、37体積%以下であることが好ましく、35体積%以下であることがより好ましい。空隙率が40体積%以下であることにより、強度に加えて焼結体4の導電性を高めることができる。
【0033】
焼結体4としては、フレーク状、球状、多面体状、不定形状等の金属粒子が焼結されてなるものを特に限定されずに用いることができる。フレーク状の金属粒子と球状の金属粒子が焼結されてなるものを用いることが好ましい。フレーク状の金属粒子と球状の金属粒子が焼結されてなるものを用いる場合において、フレーク状の金属粒子の割合が、フレーク状の金属粒子及び球状の金属粒子の総質量に対し、20%以上80%以下であることが好ましく、30%以上70%以下であることがより好ましい。フレーク状の金属粒子の割合が、20%以上80%以下であることにより、上述した空隙率を有する焼結体4を形成しやすくなる。
【0034】
このような焼結体4においては、その内部に空隙5a、5b、5c、5dが存在するため、機械的強度が低い部分が存在する。このような部分として、例えば、金属粒子同士が焼結した箇所が細く形成される「ネック」と呼ばれる部位が挙げられる。配線基板1がフレキシブル回路として用いられる場合、その用途に応じた変形に伴って焼結体4が変形すると、このようなネックに力が集中し、局所破壊を起こしやすくなる。
【0035】
そこで、焼結体が多孔質構造を有する場合には、焼結体4がその多孔質構造の間隙に、導電性を有する金属元素、特に焼結体4を構成する金属元素と同じ金属(銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上)のめっきを含むことが好ましい。このようにして多孔質構造の間隙に、金属のめっきが存在することで、変形によりネックに集中する力を分散することができ、屈曲や伸縮等の変形に対する耐久性が向上する。さらに、導電性を有する金属によって空隙が充填されることから、電気抵抗率が低下する。
【0036】
なお、焼結体4を構成する金属の種類や、配線基板1が置かれる環境によっては、不可避的に焼結体4中の金属元素が酸化することがある。したがって、焼結体4は、導電性が担保される限りにおいて、例えば、原子数換算で最大20%以下の金属原子が酸化していてもよい。また、焼結体4は、銅、銀及びニッケル以外の各種添加物や、(酸化物における酸素も含む)不可避的不純物を、焼結体4(100質量%)に対し、30質量%程度含んでいてもよい。
【0037】
2.配線基板の製造方法
本実施形態に係る配線基板の製造方法は、少なくとも、耐熱性樹脂基板の上に、ガラス転移温度Tgを有する熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層を形成して積層体を得る高分子化合物層形成工程と、一次粒子の平均粒子径が150nm以上であり、且つ銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上の金属粒子を少なくとも含む金属含有ペーストを高分子化合物層の上に塗布又は印刷するペースト塗布又は印刷工程と、金属含有ペーストが塗布又は印刷された積層体を、500ppm以上の酸素濃度を有する酸化雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲に含まれる第1加熱温度T1で加熱する第1加熱工程と、第1加熱温度T1で加熱された積層体を、還元雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲で加熱する第2加熱工程と、を備え、ガラス転移温度Tg及び第1加熱温度温度T1が、下記式(I)を満たすことを特徴とするものである。
Tg<T1 ・・・式(I)
そして、このような配線基板の製造方法によれば、上述したような特徴を有する配線基板が得られる。
【0038】
以下、
図2を用いて、本実施形態に係る配線基板の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る配線基板の製造方法を説明するための模式図である。
【0039】
(1)高分子化合物層形成工程
高分子化合物層形成工程(
図2(a)及び(b))は、少なくとも、耐熱性樹脂基板6の上に、ガラス転移温度Tgを有する熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層7を形成して積層体を得る工程である。
【0040】
(耐熱性樹脂基板)
耐熱性樹脂基板6は、耐熱性樹脂基板6を構成する樹脂のガラス転移温度TG(℃)が式:TG+50℃>第1加熱温度T1を満たすものが好ましい。耐熱性樹脂基板6を構成する樹脂は、ガラス転移温度TGにおいて軟化を開始するもののTGより50℃高い温度までは、耐熱性樹脂基板の形状をほぼ維持できる。第1加熱温度T1をTG+50℃より低い範囲に設定することにより、第1加熱工程の加熱において耐熱性樹脂基板の変形や劣化を防止することができる。
【0041】
耐熱性樹脂基板6としては、そのガラス転移温度TGが上述した式を満たす限りにおいて、上述した樹脂から構成されるものを特に限定されず用いることができる。
【0042】
(高分子化合物層の形成方法)
高分子化合物層7の形成方法としては、例えば、耐熱性樹脂基板6の上に熱可塑性樹脂の溶液やその前駆体物質の溶液を塗布する方法が挙げられる。ここで、「前駆体物質」とは、何らかの処理を施すことにより、硬化して、可撓性を有する樹脂が得られる物質をいう。前駆体物質としては、例えば、樹脂としてポリイミドを用いる場合のポリアミック酸が挙げられる。詳細は後述するが、このポリアミック酸は、イミド化処理を施すことによりポリイミドに変化するものであり、すなわち、ポリイミドの前駆体物質であるといえる。
【0043】
高分子化合物の溶液は、上述した高分子化合物が溶媒に溶解してなる溶液である。溶媒の種類や高分子化合物の濃度としては、高分子化合物の溶解度や高分子化合物の溶液の塗布又は印刷しやすさ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0044】
塗布方法としては、厚さ数μmの膜厚を均一に形成できる方法であれば、特に限定されないが、スピンコート、バーコート、スリットコート等を用いることができる。
【0045】
この高分子化合物層形成工程は、耐熱性樹脂基板の上に、原料溶液を塗布した後、原料溶液を塗布した耐熱性樹脂基板を、酸素含有雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、層形成加熱温度T0で加熱し、層形成加熱温度T0及びガラス転移温度Tgが、式(II):T0<Tgを満たすことが好ましい。
【0046】
酸素含有雰囲気としては、例えば、酸素又は大気等を含むガスを用いることができる。また、酸素ガスに酸素以外のガス(例えば、不活性ガス)を混合して用いることができる。不活性ガス雰囲気としては、例えば、窒素ガス。アルゴンガス等を用いることができる。
【0047】
(高分子化合物層としてポリイミドを形成する場合)
具体的に、高分子化合物層としてポリイミドを形成する方法について説明する。
【0048】
まず、耐熱性樹脂基板6の上にポリイミドの前駆体物質としてのポリアミック酸の溶液を塗布する。
【0049】
ポリアミック酸の溶液を形成するための溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、水等を用いることができる。
【0050】
次いで、耐熱性樹脂基板6の上の溶剤を除去するため、大気雰囲気下で乾燥させる。乾燥方法としては、特に限定されず、加熱や減圧等の操作を行ってもよいし、静置していてもよい。
【0051】
その後、例えば、ポリアミック酸溶液を塗布した耐熱性樹脂基板6を大気雰囲気下、150℃以上300℃以下で加熱すると、イミド化反応が進行して耐熱性樹脂基板6の上に熱可塑性樹脂を含む高分子化合物層としてのポリイミドの層が形成される。
【0052】
(2)ペースト塗布又は印刷工程
ペースト塗布又は印刷工程(
図2(c))は、金属含有ペースト8を高分子化合物層7の上に塗布又は印刷する工程である。
【0053】
(金属含有ペースト)
金属含有ペーストは、銅、銀又はニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属の焼結体を形成するために用いるものである。金属含有ペーストは、一次粒子の平均粒子径が150nm以上であり、且つ銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上の金属粒子を少なくとも含む。また、金属含有ペーストは、例えば、バインダー樹脂及び溶媒を含むものである。
【0054】
金属粒子の一次粒子の平均粒子径としては、150nm以上であれば特に限定されないが、250nm以上であることが好ましく、350nm以上であることがより好ましい。なお、金属粒子の一次粒子の平均粒子径は、金属含有ペーストを溶剤に溶かしてフィルターで金属粒子を分離し、乾燥した後にレーザー回折式粒度分布計を用いて測定したメジアン径をいう。
【0055】
金属粒子は、銅、銀又はニッケル以外の金属元素を含んでもよい。銅、銀及びニッケル以外の金属元素の含有量は、金属焼結体中に含まれる全ての金属元素に対し、その状態にかかわらず金属換算で、0(非含有)~30質量%以下であることが好ましく、0(非含有)~20質量%以下であることが好ましい。
【0056】
金属粒子の含有量としては、特に限定されないが、例えば、金属含有ペースト100質量%に対し、80質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0057】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、焼結によって分解される樹脂であれば特に限定されず、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0058】
バインダー樹脂の含有量としては、特に限定されないが、例えば、金属含有ペースト100質量%に対し、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。大気下で焼結を行う場合には、バインダー樹脂が大気中の酸素と反応して燃焼させることにより、焼結体に残留する樹脂量を極力低減し、樹脂の残留による焼結体の電気抵抗率を低減させることができる。特に、バインダー樹脂の含有量が5質量%以下であることにより、バインダー樹脂成分が配線中に残留することを抑制して、焼結体の電気抵抗率に与える影響を無視できるようにすることができる。一方で、有機ビヒクル中のバインダー樹脂の質量%が0.1以上であることにより、導電性ペーストの粘度を高め、ペーストの塗布性又は印刷性を高めることができる。
【0059】
(溶剤)
金属含有ペーストに含有される溶剤としては、適正な沸点、蒸気圧、粘性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、炭化水素系溶剤、塩素化炭化水素系溶剤、環状エーテル系溶剤、アミド系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系化合物、多価アルコールのエステル系溶剤、多価アルコールのエーテル系溶剤、テルペン系溶剤及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中で、沸点が200℃近傍にあるテキサノール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール等を用いることが好ましい。
【0060】
溶剤の含有量としては、特に限定されないが、例えば、金属含有ペースト100質量%に対し、2質量%以上25質量%以下であることが好ましい。溶剤の含有量が25質量%以下であることにより、金属含有ペーストの粘度が減少し、狙いの印刷形状より拡大することを抑制できる。一方で、溶剤の含有量が2質量%以上であることにより、金属含有ペーストの印刷性を高めることができる。
【0061】
(その他の有機ビヒクル中の成分)
「有機ビヒクル」とは、バインダー樹脂、溶媒及びその他必要に応じて添加される有機物を全て混合した液体のことをいう。有機ビヒクルとしては、通常、バインダー樹脂と溶剤をのみを混合して得たものを用いることができるが、これらの成分以外に、有機ビヒクルに金属塩とポリオールを混合して用いることができる。
【0062】
金属含有ペーストの製造方法としては、特に限定されないが、例えば上述したバインダー樹脂と溶媒を混合し、さらに金属粒子を添加して、遊星ミキサー等の装置を用いて混練することができる。さらに、必要に応じて三本ロールミルを用いて金属粒子の分散性を高めることもできる。
【0063】
(塗布又は印刷の方法)
高分子化合物層7の上に、金属含有ペーストを塗布又は印刷して、配線や電極等の形状を形成する。具体的に、塗布又は印刷の方法としては、スクリーン印刷、ディスペンサー印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
【0064】
(3)第1加熱工程
第1加熱工程(
図2(d))は、金属含有ペーストを塗布又は印刷された積層体を、500ppm以上の酸素濃度を有する酸化雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲に含まれる第1加熱温度T
1で加熱する工程である。そして、このとき、第1加熱温度T
1で加熱する前の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが式:Tg<T
1を満たす。
【0065】
このようにして、第1加熱工程では、第1加熱温度T1で加熱する前の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが式:Tg<T1を満たすものを、第1加熱温度T1で加熱することにより、高分子化合物が軟化する。一方で、金属粒子は、酸化雰囲気で焼結されてその内部に屈曲した空隙を複数有する焼結体を形成する。第1加熱温度T1での加熱により軟化した高分子化合物層7中の高分子化合物は、焼結体の空隙の高分子化合物層側の開口部からその一部が空隙に沿って屈曲して入り込む。このようにして、高分子化合物の一部が焼結体の空隙の高分子化合物層側の開口部から空隙に沿って屈曲して入り込んだ高分子化合物層7Aにより、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性が高く、樹脂基板を曲げたときに剥離や断線を生じにくい配線基板が得られる。
【0066】
また、第1加熱工程では、酸化雰囲気で加熱することにより、金属粒子に含まれる金属元素が酸化して、金属粒子の体積が膨張し、得られる焼結体8Aにおいて粒子同士の接触が強固になる。そしてこれに続く第2加熱工程で還元して得られる焼結体8Bも、粒子同士が強固に接触して強固なものとなる。
【0067】
なお、上述したように高分子化合物として、ポリアミック酸からポリイミドを形成した場合、アニールだけでは、ポリアミック酸が僅かに残存することもある。このような場合に、第1加熱工程における加熱により、残存したポリアミック酸がポリアミドに変換される。または、ポリイミドのTgを調整するために、あえて一部未反応のポリアミック酸を残しておき、第1加熱工程における加熱により、残存したポリアミック酸をポリアミドに変換することもできる。
【0068】
第1加熱温度T1としては、100℃以上500℃以下であれば特に限定されないが、120℃以上400℃以下であることが好ましい。
【0069】
酸化雰囲気中の酸化性ガスとしては、例えば酸素、又は大気等を用いることができる。また、酸化性ガス以外のガスと酸化性ガスとを混合して用いることができる。酸化性ガス以外のガスとしては、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)を用いることができる。
【0070】
酸化雰囲気中の酸素の濃度としては、特に限定されないが、酸素分圧にして50Pa以上であることが好ましく、60Pa以上であることが好ましく、70Pa以上であることがさらに好ましい。雰囲気の圧力が大気圧(105Pa)である場合にこれらの酸素分圧を体積比の濃度に換算すると、500ppm以上である。また、酸素の濃度としては、600ppm以上であることが好ましく、700ppm以上であることがより好ましい。
【0071】
酸素の濃度が500ppm以上であることにより、バインダー樹脂を十分に燃焼することができる。一方で、酸素の濃度が8000ppm以下であることにより、金属含有ペーストの表面近傍でのみ急速に反応が生じることを防止して、焼結体内部まで十分に焼結させることができる。
【0072】
なお、第1加熱工程では、少なくとも1つの加熱温度及び酸素濃度条件で加熱すればよく、また、複数の加熱温度及び酸素濃度条件に分けて加熱してもよい。
【0073】
(4)第2加熱工程
第2加熱工程(
図2(e))は、第1加熱温度T
1で加熱された積層体を、還元雰囲気下、150℃以上450℃以下の範囲(以下、「第2加熱温度T
2」ということもある。)で加熱する工程である。
【0074】
第2加熱工程では、第1加熱工程において、酸化雰囲気で焼結されて酸化物として得られた焼結体を、還元することで導電性を有する金属の焼結体8Bとして得る。
【0075】
第2加熱工程における第2加熱温度T2としては、150℃以上450℃以下であれば特に限定されないが、170℃以上450℃以下であることが好ましい。
【0076】
還元雰囲気を構成する還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、ギ酸、アンモニア、アルコール等を用いることができる。また、還元性ガス以外のガスとしては、不活性ガス、例えば窒素ガスやアルゴンガスを用いることができる。
【0077】
還元性ガスの濃度としては、特に限定されないが、還元雰囲気の圧力が大気圧(105Pa)であるとすると、1体積%以上であることが好ましく、2体積%以上であることがより好ましく、5体積%以上であることがさらに好ましい。体積比で1%未満であると、焼結体における銅、銀又はニッケルの酸化物の還元が充分に行われず、金属酸化物が残存し、焼成後の金属配線は、高い電気抵抗率を呈するおそれがある。
【0078】
なお、第2加熱工程では、少なくとも1つの加熱温度及び還元性ガス濃度条件で加熱すればよく、また、複数の加熱温度及び還元性ガス濃度条件に分けて加熱してもよい。
【0079】
本発明は、以上の具体的な実施形態に何ら限定されず、本発明の効果を阻害しない限りにおいて適宜変更を加えて行うことができる。
【実施例0080】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0081】
(試験1)第1加熱温度T1による影響
耐熱性樹脂基板として、ガラス転移温度がTG=413℃のポリイミド基板を用いた。また、ガラス転移温度がTg=225℃のブロック共重合ポリイミドからなる溶剤可溶性ポリイミドをN-メチル-2-ピロリドンに溶解して、ポリイミドワニスを作製した。バーコーターを用いて、ポリイミド基板上にポリイミドワニスを均一な厚さ(約6μm)に塗布した後、窒素ガス雰囲気中で層形成加熱温度T0=200℃、20分の加熱処理を行い、溶媒を除去して厚さが0.5μmの熱可塑性の高分子化合物層を形成した。さらに、この高分子化合物層の上に一次粒子の平均粒径が0.6μmの銅粒子を含む銅ペーストを印刷した後、大気中のT1=130~475℃で10分の加熱処理を行った。続いて、N2+5体積%H2の還元ガス雰囲気中でT2=400℃、30分の加熱処理を行って、高分子化合物層の上に銅電極を形成し、サンプルを作製した。
【0082】
得られたサンプルを用いて、テープテストにより高分子化合物層と銅電極との密着性を調べた。具体的には、サンプルの銅電極の表面に粘着力が35N/cmの粘着テープを貼り付けた後に、粘着テープを引き剥がして、粘着テープとともに剥離するか否かを評価した。得られた結果を表1に示す。評価基準は、ASTM D3359-79に準拠して、最高値のレベル5である場合を合格とし、表中に「Y」で示した。一方、レベル5未満である場合を不合格とし、「N」で示した。当該レベルは、粘着テープとともに剥離する面積が小さいことに対応する。当該レベルの数値が大きいほど、剥離面積が小さく、密着性が良いことを示す。レベル5は剥離する面積がゼロの場合である。
【0083】
さらに、サンプルにおける銅電極の電気抵抗率(R)を直流四探針法で測定した。得られた結果を表1に示す。Rが10μΩ・cm以下の場合を合格とし、表中に「Y」で示した。Rが10μΩ・cmより大きい場合を不合格とし、「N」で示した。総合判定は、電気抵抗率及びテープテストの両方が合格(Y)である場合を合格(Y)とし、それ以外の場合を不合格(N)とした。
【0084】
【0085】
表1に示すように、T1が150℃以上であれば、電気抵抗率は、十分に低いものとなることが分かった。また、式:T1>Tgを満たすと、テープテストによる密着性が高まることが分かった。ただし、T1=475℃においては、ポリイミド基板が高温環境下で変質して密着性を損なうことが分かった。
【0086】
(試験2)層形成加熱温度T0による影響
Tg=225℃、T1=300℃、T2=400℃に固定し、T0を150~300℃の範囲で変化させて、試験1と同様の手順で試験を行った。この結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
T1が300℃であるため、T0の値にかかわらず10μΩ・cm以下の低抵抗となることが分かった。さらに式:Tg>Toを満たすと、テープテストによる密着性が高まることが分かった。
【0089】
(試験3)金属粒子の平均粒子径及び焼結体の空隙率による影響
Tg=285℃、T0=200℃、T1=300℃、T2=400℃に固定し、銅粒子の平均粒子径を0.1~10μmの範囲で変更して、試験1と同様の手順でサンプルを作製し、テープテストを行った。さらに、銅電極の空隙率を測定した。銅電極の焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、断面の外周で縁取られる内部の面積である「全断面積」と、その内部における「空隙面積」とを測定し、「(空隙面積/全断面積)×100」の式により「空隙率」を算出した。サンプルにおいて10個の断面で空隙率を測定し、その平均値を得た。これらの結果を表3に示す。
【0090】
【0091】
銅粒子の平均粒子径が0.1μmの場合は、T1の温度における酸化加熱時に急激に焼結が生じて空隙の体積分率が5%より小さい緻密な焼結組織を形成するため、T1>Tgであっても、熱可塑性樹脂が焼結体内部に侵入することが困難となり、密着性が悪化することが分かった。
【0092】
(試験4)酸化雰囲気による影響
Tg=285℃、T0=200℃、T1=300℃、T2=400℃に固定し、第1加熱工程における加熱炉内の酸素濃度を100ppmから大気(200,000ppm)の範囲で変更し、試験1と同様の手順でサンプルを作製し、電気抵抗率を測定した。さらに、試験5と同様の手順で空隙率を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0093】
【0094】
酸素濃度が500ppmより低いと、酸化が不十分となり、T1=300℃の第1加熱工程における空隙率が40%超となり焼結が不十分となる結果、還元後の電気抵抗率が10μΩ・cmより大きくなることが分かった。よって、第1加熱工程における酸化雰囲気中の酸素濃度は、500ppm以上であることが好ましいことが分かった。また、空隙率は、40%以下であることが好ましいことが分かった。
【0095】
(試験5)第2加熱温度T2による影響
Tg=285℃、T0=200℃、T1=300℃に固定し、T2を120~475℃の範囲で変更し、加熱時間を30~120分の範囲で変更して、試験1と同様の手順で試験を行った。この結果を表5に示す。
【0096】
【0097】
T2が140℃以上では、電気抵抗率は10μΩ・cm以下と低くなり、密着性も良好である一方、T2が475℃であると、ポリイミド基板が変質して密着性が劣化することが分かった。よって、還元温度T2は、140℃以上450℃以下が好ましいことが分かった。また、140℃における加熱時間は90分、450℃における加熱時間は30分が適している。
【0098】
(試験6)還元雰囲気による影響
試験5において第2加熱工程の温度T2を300℃、加熱時間を30分とし、還元雰囲気を、N2+3%H2、N2+1%H2、N2+0.5%H2、N2+0.1%H2に変更して、電気抵抗率を測定した。その試験結果によると、水素ガス濃度が1%以上である場合に10μΩ・cm以下の値を示した。よって、還元性ガス濃度は、1体積%以上が好ましいことが分かった。