(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127204
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】高耐久性Zr系複合酸化物担体及び排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/58 20060101AFI20230906BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20230906BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230906BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230906BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230906BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B01J23/58 A
B01J32/00 ZAB
B01J37/08
B01J37/02 101Z
B01D53/94 245
B01D53/94 222
B01D53/94 280
F01N3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030838
(22)【出願日】2022-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>「京都大学 実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 三郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 庸裕
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB03
3G091BA07
3G091GB05
3G091GB05X
3G091GB10
3G091GB10X
4D148AA06
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4G169AA03
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4G169BB06B
4G169BC09A
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13A
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC71A
4G169BC72A
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4G169BC75A
4G169CA03
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4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC23
4G169EC25
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB09
4G169FB14
4G169FB30
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐熱性に優れ且つ貴金属の使用量を低減化し得る排ガス浄化用触媒に使用できる担体を開発することを主な目的とする。
【解決手段】
金属複合酸化物を含む担体であって、
前記金属複合酸化物が、下記式(I)
M1ZrO3 (I)
[式中、M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。]
で表わされるペロブスカイト型金属複合酸化物又は下記式(II)
M1
3Zr2O7 (II)
[式中、M1は、前記に同じ。]
で表わされるペロブスカイト類縁型金属複合酸化物である、担体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属複合酸化物を含む担体であって、
前記金属複合酸化物が、下記式(I)
M1ZrO3 (I)
[式中、M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。]
で表わされるペロブスカイト型金属複合酸化物又は下記式(II)
M1
3Zr2O7 (II)
[式中、M1は、前記に同じ。]
で表わされるペロブスカイト型類縁金属複合酸化物である、
担体。
【請求項2】
金属複合酸化物を含む担体の製造方法であって、
M1化合物[M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。]及びZr化合物の混合物を焼成する工程を備える、
担体の製造方法。
【請求項3】
下記式(III)
M/M1ZrO3 (III)
[式中、Mは、Pd、Rh及びPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属を示す。M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。
M1ZrO3は、ペロブスカイト型金属複合酸化物である。]
又は下記式(IV)
M/M1
3Zr2O7 (IV)
[式中、M及びM1は、前記に同じ。
M1
3Zr2O7は、ペロブスカイト類縁型金属複合酸化物である。]
で表わされる、排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記M1ZrO3(M1は、前記に同じ。)又はM1
3Zr2O7(M1は、前記に同じ。)で表わされる金属複合酸化物を含む担体に対して、貴金属M(Mは、前記に同じ。)が0.01~5質量%担持されてなる、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
請求項3に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法であって、
(1)ペロブスカイト型金属複合酸化物又はペロブスカイト類縁型複合酸化物を含む担体に貴金属M(Mは、前記に同じ。)の懸濁液を含浸させる工程、及び
(2)工程1で得られた懸濁液を含浸させた担体を焼成する工程
を備える、触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性Zr系複合酸化物担体及び排ガス浄化用触媒に関する
【背景技術】
【0002】
自動車排ガス浄化触媒として現在用いられているのは、主にPd、Rh、Pt等の貴金属種である。このような貴金属種は、自動車排ガス浄化触媒として高い活性を示し、自動車に欠かせない元素であるが、希少元素であるため、価格変動が激しいという問題がある。
【0003】
自動車排ガス浄化触媒には、高温の排ガスと接触した際に触媒活性が低下しないことが求められている。しかしAl2O3やゼオライトといった触媒によく使用される担体では、耐熱性が乏しく、触媒活性の低下が避けられない。
【0004】
近年、自動車排ガス浄化用の三元触媒として、Pd、Rh、Pt等のPGM(白金族元素)とペロブスカイト系担体とを組合せたものが開発されている。具体的には、Pdと担体としてSr(FeTi)O3とを組み合わせた触媒が、良好な活性を示すことが知られている(特許文献1)。また、担体をSr3Ti2O7とすることによって、更なる性能向上を見込めることが検討されている。Sr3Ti2O7は、PdOとの強い相互作用により耐熱性に優れた触媒であるものの、H2OやCO2に対する化学的安定性が乏しいという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性に優れ、且つ貴金属の使用量を低減化し得る排ガス浄化用触媒に使用できる担体を開発することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、耐熱性に優れ、且つ貴金属の使用量を低減化し得る触媒を開発すべく、鋭意研究を重ねてきた。その研究過程において、貴金属と担体との相互作用を強めるように、それぞれの格子定数を厳密に検討した結果、新規な担体としてジルコニウム(Zr)系ペロブスカイト型金属複合酸化物を開発することに成功した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、下記に示す態様の発明を広く包含するものである。
【0008】
項1 金属複合酸化物を含む担体であって、
前記金属複合酸化物が、下記式(I)
M1ZrO3 (I)
[式中、M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。]
で表わされるペロブスカイト型金属複合酸化物又は下記式(II)
M1
3Zr2O7 (II)
[式中、M1は、前記に同じ。]
で表わされるペロブスカイト類縁型金属複合酸化物である、
担体。
【0009】
項2 金属複合酸化物を含む担体の製造方法であって、
M1化合物[M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。]及びZr化合物の混合物を焼成する工程を備える、
担体の製造方法。
【0010】
項3 下記式(III)
M/M1ZrO3 (III)
[式中、Mは、Pd、Rh及びPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属を示す。M1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種を示す。
M1ZrO3は、ペロブスカイト型金属複合酸化物である。]
又は下記式(IV)
M/M1
3Zr2O7 (IV)
[式中、M及びM1は、前記に同じ。
M1
3Zr2O7は、ペロブスカイト類縁型金属複合酸化物である。]
で表わされる、排ガス浄化用触媒。
【0011】
項4 前記M1ZrO3(M1は、前記に同じ。)又はM1
3Zr2O7(M1は、前記に同じ。)で表わされる金属複合酸化物を含む担体に対して、貴金属M(Mは、前記に同じ。)が0.01~5質量%担持されてなる、上記項3に記載の触媒。
【0012】
項5 上記項3に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法であって、
(1)ペロブスカイト型金属複合酸化物又はペロブスカイト類縁型金属複合酸化物を含む担体に貴金属M(Mは、前記に同じ。)の懸濁液を含浸させる工程、及び
(2)工程1で得られた懸濁液を含浸させた担体を焼成する工程
を備える、触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Pd、Rh及びPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属を一般式(I)又は(II)で表わされるZr系金属複合酸化物を含む担体に担持させることにより、貴金属の担持量を少なくしても排ガス浄化用触媒として優れた高耐熱性、化学的安定性等の高耐久性能を発揮することができる。また、上記触媒は、低温領域においても高い触媒活性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例にて製造した担体のXRD測定を行った結果を示す。
【
図2】
図2は、実施例にて製造した担体のSEM像である。
【
図3】
図3は、三元触媒反応の反応条件等を示す図である。
【
図5】
図5は、エージング処理後の触媒を使用した試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。なお、以下において、特に断らない限り、数値範囲を示す「~」の標記は、「以上以下」を示す。つまり、「A~B」は「A以上B以下」を意味する。
【0016】
本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【0017】
本発明の担体は、金属複合酸化物を含有する。前記金属複合酸化物は、下記式(I)
M1ZrO3 (I)
で表されるペロブスカイト型金属複合酸化物又は下記式(II)
M1
3Zr2O7 (II)
で表されるペロブスカイト類縁型金属複合酸化物である。
【0018】
本明細書において、上記式(I)及び(II)で表される金属複合酸化物を、併せて「ペロブスカイト型金属複合酸化物」と呼ぶことがある。
【0019】
上記式(I)及び(II)におけるM1は、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される少なくとも一種であり、中でも、Srが好ましい。
【0020】
なお、上記好ましい態様においてSrは、100%Srであることは勿論であるが、Srの一部が、その50%を超えない範囲において、Ba及び/又はCaに置き換わっていてもよい。
【0021】
Srの一部がBaに置き換わる割合は、特に限定されないが、例えばSrに対して50%以下、50%未満、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、1%以下又は0.5%以下とすることができる。
【0022】
また、Srの一部がCaに置き換わる割合も、同様に特に限定されず、例えばSrに対して50%以下、50%未満、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、1%以下又は0.5%以下とすることができる。
【0023】
本発明の担体を構成するZrは、その一部がTiに置き換わっていてもよい。Zrと置き換えられるTiの割合は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されず、例えばZrに対して50%以下、50%未満、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、1%以下又は0.5%以下であることができる。
【0024】
上記式(I)及び(II)で表される本発明のペロブスカイト型金属複合酸化物を含む担体は、M1化合物及びZr化合物の混合物を焼成することによって製造することができる。
【0025】
原料として使用されるZr化合物は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。例えば、Zrの硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、Zrにアセチルアセトン、アルコキシド(メトキシド、エトキシド、n-プロポキシド、iso-プロポキシド、tert-ブトキシド等)のような配位子が配位した錯体化合物等を、上記Zr化合物として挙げることができる。これらの、Zr化合物の中でも、ZrO(NO3)2に代表される硝酸塩が好ましい。
【0026】
上記製造方法においてM1化合物及びZr化合物の混合物を焼成する温度は、特に限定されず、広い範囲から適宜選択することができ、通常、873~1873K程度とすることができる。好ましい焼成温度は、1073~1873Kであり、より好ましくは1273~1873Kであり、最も好ましくは1273~1773Kである。また、焼成時間も、特に限定されず、通常0.5~24時間程度、好ましくは1~12時間程度、最も好ましくは2~10時間程度である。
【0027】
上記の焼成を実施する雰囲気下は、特に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等の不活性化ガス、大気、真空等の雰囲気下を挙げることができる。
【0028】
本発明のペロブスカイト型金属複合酸化物は、上記式(I)又は(II)で表される金属複合酸化物であっても、上記式(I)及び(II)で表される金属複合酸化物の混合物であってもよい。
【0029】
本発明のペロブスカイト型金属複合酸化物は、上記ペロブスカイト型金属複合酸化物からなっていてもよいが、本発明の効果が阻害されない限り、公知の担体が含まれていてもよい。公知の担体としては、この分野で慣用されている担体を広く使用することができ、例えば、アルミナ、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア固溶体、ゼオライト、Sr(FeTi)O3、SrTiO3、Sr3Ti2O7等が挙げられ、その含有量は通常80質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0030】
本発明のペロブスカイト型金属複合酸化物を含む担体は、各種活性金属種と共に、触媒として使用することができる。このような触媒として、三元触媒を挙げることができる。前記三元触媒は、排気ガスの有害成分である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を無害ガスである水(H2O)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)に変換する触媒である。
【0031】
本発明の排ガス浄化用触媒は、下記式(III)又は(IV)で表される。
M/M1ZrO3 (III)
上記式(III)におけるMは、Pd、Rh及びPtからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、M1ZrO3は、ペロブスカイト型金属複合酸化物である。
【0032】
M/M1
3Zr2O7 (IV)
上記式(IV)におけるMは、Pd、Rh及びPtからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、M1
3Zr2O7は、ペロブスカイト類縁型金属複合酸化物である。
【0033】
本発明の排ガス浄化用触媒は、換言すると、Pd、Rh及びPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属Mが、下記式(I)又は(II)
M1ZrO3 (I)
M1
3Zr2O7 (II)
で表わされる、ペロブスカイト型金属複合酸化物を含む担体に担持されてなる排ガス浄化用触媒である。
【0034】
上記式(III)及び(IV)における貴金属Mの中でも、好ましくは、Rh又はPdであり、より好ましくは、Pdである。
【0035】
貴金属Mの担持量は、上記式(I)又は(II)で表わされる金属複合酸化物を含む担体の質量を基準にして、貴金属のコスト及び排気ガス浄化性の観点から、通常0.01~5質量%程度とすることができ、好ましくは0.02~2質量%程度、より好ましくは0.03~2質量%程度、特に好ましくは0.05~1質量%程度である。
【0036】
本発明の排ガス浄化用触媒は、以下の工程(1)及び(2)を経て製造される。
【0037】
工程(1) ペロブスカイト型金属複合酸化物又はペロブスカイト類縁型金属複合酸化物を含む担体に貴金属Mの懸濁液を含浸させる工程
工程(2) 工程1で得られた懸濁液を含浸させた担体を焼成する工程
【0038】
工程1で用いられるペロブスカイト型金属複合酸化物又はペロブスカイト類縁型金属複合酸化物については、上述したとおりである。また、工程1における貴金属Mは、Pd化合物、Rh化合物及びPt化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0039】
Pd化合物としては、従来公知のものを広く使用でき、具体的には塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム等を挙げることができ、好ましくは酢酸パラジウム、硝酸パラジウム等であり、更に好ましくは酢酸パラジウムである。
【0040】
Rh化合物としては、従来公知のものを広く使用でき、具体的には塩化ロジウム、硫酸ロジウム、硝酸ロジウム、水酸化ロジウム、アセチルアセトナトロジウム等を挙げることができ、好ましくはアセチルアセトナトロジウム、硝酸ロジウム等であり、更に好ましくは硝酸ロジウムである。
【0041】
Pt化合物としては、従来公知のものを広く使用でき、具体的にはヘキサクロロ白金酸、テトラクロロ白金酸、テトラクロロ白金酸カリウム、テトラクロロ白金酸ナトリウム、塩化白金、ジニトロジアミン白金等を挙げることができ、好ましくは塩化白金、ジニトロジアミン白金等であり、更に好ましくはジニトロジアミン白金である。
【0042】
工程1における貴金属Mの使用量は、所望の触媒が製造することができる限りにおいて広い範囲から適宜選択することができ、具体的には、ペロブスカイト型金属複合酸化物を含む担体に対して、0.5~1質量%程度とすることができる。
【0043】
工程2における焼成温度は、特に限定されず、通常、873~1873K程度とすることができる。好ましい焼成温度は、1073~1873Kであり、より好ましくは1073~1373Kであり、最も好ましくは1073~1273Kである。また、焼成時間も、特に限定されず、通常0.5~24時間程度、好ましくは1~12時間程度、最も好ましくは2~10時間程度である。
【0044】
上記の焼成を実施する環境(雰囲気下)は、特に限定されない。例えば、窒素、アルゴン等の不活性化ガス、大気、真空等の雰囲気下を挙げることができる。
【0045】
本発明の触媒は、CO、炭化水素(HC)、NOxを低温で処理できるので、自動車等の排ガス浄化用の三元触媒として特に優れている。
【0046】
上述した本発明の各実施態様について説明した性質、構造、機能等の各種の特性は、本発明に包含される態様を特定するにあたり、適宜組み合わせることができる。すなわち、本発明には、本明細書において開示され、そして組み合わせることができる各特性の態様の全てを包含することができる。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0048】
下記実施例における物性評価は、以下の通りで行った。
・粉末X線回折(XRD)
粉末X線回折には試料水平型多目的X線回折装置(Rigaku社製SmartLab)を使用した。具体的な測定測定を以下に示す。
X線源:Cu-Kα線、走査角度:2θ=10-70deg.、サンプリング幅:0.02deg.、スキャンスピード:10deg./min、管電圧:40kV、管電流:40mA
・比表面積測定
サンプル触媒100mgを反応管に充填した後、前処理装置(日本ベル社製BELPR-VacII-SP)を用いて窒素パージ下200度1時間の条件で前処理を行い、細孔分布測定装置(日本ベル社製BELSORP-miniII-HSP)で窒素吸着量を測定した。比表面積は、BET法を用いて窒素吸着量から算出した。
・走査型電子顕微鏡(SEM)
SU8220(HITACHI)を使用し、加速電圧を15kVとして観察を行った。
【0049】
SrZrO
3
及びSr
3
Zr
2
O
7
の合成
Sr3Zr2O7の調製は、以下に示す共沈法により行った。具体的に、500mlビーカー中に100mmolの水酸化ナトリウム及び100mmolの炭酸ナトリウムを100mlの純水に溶解させた水溶液を調製し、これに30mmolのSr(NO3)2と20mmolのZr(NO3)2・2H2Oとを100ml純水に溶解させた水溶液を混ぜ合わせることで沈殿物を生成させた。この水溶液を1時間攪拌熟成した後、遠心分離機を使用して沈殿物を濾別した。当該沈殿物を水及びアセトンで洗浄後、常温で3日乾燥を行うことで前駆体を得て、この前駆体を1773Kで5時間の焼成を行うことで、目的の複合酸化物であるSr3Zr2O7を合成した。なお、SrZrO3の調製の場合は、20mmolのSr(NO3)2と20mmolのZr(NO3)2・2H2Oとを用い、1273Kで2時間焼成したものを利用した。
【0050】
上記にて製造したSrZrO
3及びSr
3Zr
2O
7を粉末X線回折(XRD)に供した。その結果を
図1に示す。
図1に示す結果から明らかなように、SrZrO
3合成の場合、1273Kの焼成で単一相のSrZrO
3が生成した。Sr
3Zr
2O
7合成の場合、1273Kの焼成ではSrZrO
3が主生成物であり、焼成温度を1773KとすることによってSr
3Zr
2O
7が生成することが明らかとなった。
【0051】
また、上記にて製造したSrZrO
3及びSr
3Zr
2O
7のSEM像を
図2に示す。この結果から、Sr
3Zr
2O
7は、比較的大きな粒子径を有することが明らかとなった。これらの比表面積を測定したところ、SrZrO
3は、7m
2g
-1であり、Sr
3Zr
2O
7は、1m
2g
-1であった。通常、Al
2O
3等の一般的に知られる担体の比表面積が80~100m
2g
-1であることから、SrZrO
3及びSr
3Zr
2O
7の比表面積は小さく、特に、Sr
3Zr
2O
7の比表面積は、かなり小さいことが明らかとなった。このように比表面積の小さな担体は、これを活性金属種と共に触媒として使用した際の活性が低くなると言われている。
【0052】
Sr
3
Ti
2
O
7
の合成(比較例)
Sr3Ti2O7の調製を以下に示す共沈法により行った。具体的に、500mlビーカー中に100mmolの水酸化ナトリウム及び100mmolの炭酸ナトリウムを100mlの純水に溶解させた水溶液を調製し、これに、30mmolのSr(NO3)2とTiCl4として20mmolのTiCl4水溶液とを100mlの純水に溶解させた水溶液を混ぜ合わせることで、析出物を生成させた。この水溶液を1時間攪拌熟成した後、遠心分離機を使用して3000rpmで1分間にて析出物を濾別した。当該析出物を水及びアセトンで洗浄後、常温で3日乾燥を行うことで前駆体を得た。この前駆体を1273Kで2時間の焼成を行うことで目的の複合酸化物であるSr3Ti2O7を合成した。
【0053】
SrTiO
3
の合成(比較例)
SrTiO3の調製を以下に示す錯体重合法により行った。具体的に、ビーカー中で180mlの純水に400mmolのクエン酸を加えて溶解させ、これに、10mmolのSr(CO3)及び10mmolのTi{OCH(CH3)2}4を加え、353Kのオイルバス中で2時間攪拌した。攪拌後、400mmolのエチレングリコールを加えて403Kで5時間熟成させた。その後、723Kで3時間の仮焼成を行い、更に1273Kで2時間の本焼成することで目的の複合酸化物であるSrTiO3を合成した。
【0054】
Sr
3
Ti
2
O
7
、SrTiO
3
、SrZrO
3
及びSr
3
Zr
2
O
7
を担持する貴金属触媒の合成
上記に合成した複合酸化物を担体とする貴金属触媒の調製を含浸法により行った。具体的には、蒸発皿中で0.0211gの酢酸パラジウムを10mLのアセトンに溶解させ、これに上記に作成したそれぞれ990mgのSr3Ti2O7、SrZrO3及びSr3Zr2O7を担体酸化物として加えることで含浸担持させた。得られた粉末を1273Kで5時間焼成することにより、貴金属担持触媒(Pd/Sr3Ti2O7、Pd/SrTiO3、Pd/SrZrO3及びPd/Sr3Zr2O7)を合成した。なお、貴金属の使用量は、各触媒の全量に対して1重量%となるようにした。
【0055】
Pd/Al
2
O
3
の合成
1重量%のパラジウムが担持されたAl2O3を含浸法により調製した。具体的には、Al2O3(触媒学会参照触媒、ALO-7)を使用し、溶媒として10mLのアセトンを用いて0.0211g酢酸パラジウムを含浸担持させ、その後、1273Kで5時間、空気中で焼成することで1重量%のパラジウムが担持されたAl2O3(Pd/Al2O3)合成した。
【0056】
触媒のエージング処理
上記に合成した各触媒(Pd/SrZrO3、Pd/Sr3Zr2O7、Pd/Sr3Ti2O7及びPd/Al2O3)を、10vol%のH2O及び10vol%のCO2を含んだ空気(100mL/min)に流通させ、1273Kで2時間加熱することにより、エージング処理を施した。
【0057】
触媒試験
三元触媒反応として、
図1に示す固定床流通型反応装置を用いて行った。具体的には、下記反応式(1)
C
3H
6+4CO+4NO+9/2O
2→7CO
2+2N
2+3H
2O (1)
の化学量論条件となるように反応ガス(C
3H
6;250ppm、CO;1000ppm、NO;1000ppm、O
2;1125ppm、He;balance)を流通させた。なお、ガスの流量は、mass flow controllerにより制御した。実験に使用する各触媒は、それぞれ25~50meshに整粒し、200mgを石英製反応管に充填して用いた。昇温反応は、373Kから5K/分の割合で昇温させ、50K毎に20分間保持し、773Kまで昇温することで行った。反応温度が50K上昇する毎に出口ガスをMicro GC(Agilent社製、高速・小型ガス分析計Micro GC)を用いて分析した。なお、触媒の前処理は、100mL/分の割合のHe流通下の773Kで、1時間保持することで行った。
【0058】
図4に、SrZrO
3担体及びSr
3Zr
2O
7担体にパラジウムを担持させた触媒(Pd/SrZrO
3及びPd/Sr
3Zr
2O
7)と共に、Sr
3Ti
2O
7担体、SrTiO
3担体及びAl
2O
3担体にパラジウムを担持させた触媒(Pd/Sr
3Ti
2O
7、Pd/SrTiO
3及びPd/Al
2O
3)を上記触媒試験に供した結果を示す。
【0059】
図4に示す結果から、窒素及び二酸化炭素の生成量が、ジルコニウムを含有するPd/SrZrO
3及びPd/Sr
3Zr
2O
7が、チタンを含有するPd/Sr
3Ti
2O
7及びPd/SrTiO
3と同程度の活性を示した。また、Pd/SrZrO
3及びPd/Sr
3Zr
2O
7は、一般的に使用されるAl
2O
3担体よりも遙かに高い触媒活性を有することも明らかとなった。
【0060】
次いで、上記Pd/SrZrO
3、Pd/Sr
3Zr
2O
7、Pd/Sr
3Ti
2O
7及びPd/Al
2O
3をエージング処理した触媒を、上記触媒試験に供した結果を
図5に示す。
【0061】
図5に示す結果から、窒素及び二酸化炭素の生成量が、ジルコニウムを含有するPd/SrZrO
3及びPd/Sr
3Zr
2O
7が、チタンを含有するPd/Sr
3Ti
2O
7よりも優れていることが明らかとなり、Pd/SrZrO
3及びPd/Sr
3Zr
2O
7が高い触媒活性を有する事が明らかとなった。また、Pd/SrZrO
3及びPd/Sr
3Zr
2O
7は一般的に使用されるAl
2O
3担体よりも遙かに高い触媒活性を有することも明らかとなった。
【0062】
以上の結果から、エージング処理の有無にかかわらず、パラジウムを担持するSrZrO3担体及びSr3Zr2O7担体が高い触媒活性を示したことから、これらの担体を活性金属種として機能する貴金属と共に触媒として使用することによって、当該触媒が極めて高い耐熱性及び化学的安定性を有し、優れた排ガス浄化性能を有することが明らかとなった。
【0063】
また、Sr3Zr2O7のほうが、SrZrO3よりも比表面積が低いにもかかわらず、代表的な金属活性種であるPdを担持させることによって、高い触媒効果を発揮することは、驚くべきことである。