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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127206
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】小型非荷電分子の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20230906BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230906BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G01N27/414 301N
G01N27/414 301V
G01N27/416 386G
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030843
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】512071754
【氏名又は名称】東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】門間 聰之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 啓之
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 太
(57)【要約】
【課題】FETを用いて簡便かつ高感度に小型非荷電分子を検出することを可能にする方法を提供する。
【解決手段】(A)小型非荷電分子と、半導体センシングデバイス上に固定化された該小型非荷電分子と相互作用するプローブ分子とを相互作用させる工程、(B)工程(A)後、更に、前記小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を、前記プローブ分子と相互作用させる工程、及び(C)工程(B)後、前記相互作用によるゲートチャネル領域の電位変化を検出する工程を含む小型非荷電分子の検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)小型非荷電分子と、半導体センシングデバイス上に固定化された該小型非荷電分子と相互作用するプローブ分子とを相互作用させる工程、
(B)工程(A)後、更に、前記小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を、前記プローブ分子と相互作用させる工程、及び
(C)工程(B)後、前記相互作用によるゲートチャネル領域の電位変化を検出する工程
を含む小型非荷電分子の検出方法。
【請求項2】
前記プローブ分子が固定化された半導体センシングデバイスが、半導体上に反応ゲート絶縁膜としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果トランジスタの前記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜にプローブ分子を前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて結合させてなる、プローブ分子/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるものである請求項1記載の小型非荷電分子の検出方法。
【請求項3】
前記前記プローブ分子が、Fabである請求項1又は2記載の小型非荷電分子の検出方法。
【請求項4】
生体試料中に含まれる小型非荷電分子を検出する方法である請求項1~3のいずれか1項記載の小型非荷電分子の検出方法。
【請求項5】
前記小型非荷電分子が含まれる生体試料が、血清である請求項4記載の小型非荷電分子の検出方法。
【請求項6】
前記小型非荷電分子が含まれた生体試料を、工程(A)の前に界面活性剤で前処理する工程を含む請求項4又は5記載の小型非荷電分子の検出方法。
【請求項7】
前記小型非荷電分子が、5-フルオロウラシルである請求項1~5のいずれか1項記載の小型非荷電分子の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型非荷電分子の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタ(FET)型バイオセンサ(以下FETバイオセンサと略す。)は、生体試料中の分子の検出に非常に有望なツールである。FETバイオセンサを用いると、対象分子の吸着に伴うゲート表面の電荷密度変化を電気信号として直接検出するため、ラベルフリー検出が可能であり、低コストで迅速な生体分子の検出が可能である。それゆえ、FETバイオセンサを用いた分子の検出に関する研究が広く行われている。
【0003】
FETバイオセンサは、電荷検出範囲であるデバイ長内において、プローブ分子に捕捉された検出対象分子(以下、ターゲット分子ともいう。)の電荷に起因するゲートチャネル領域の電位の変化を測定するデバイスである。そのため、電荷を有しない小型非荷電分子の直接的な検出が困難であった。小型非荷電分子を検出するため、これまでに2種類の抗体を利用したサンドイッチアッセイの適用が試みられてきた(非特許文献1、2)。しかし、小型分子は、分子サイズが小さく、分子が抗原認識ドメイン内に包み込まれることから、複数の抗体が同時に結合できず、サンドイッチアッセイを利用したFETバイオセンサによる検出が困難であった。
【0004】
ガン治療の化学療法に幅広く使用される抗がん剤である5-フルオロウラシル(5-FU)は、患者の体表面積換算によって投与量が決定されている。しかし、その代謝速度は肝機能に依存するため個人差があり、至適濃度範囲で投与されている患者は20%程度である。さらに、現行法(例えば、ELISAやHPLC)は、測定時間や費用がかかることも問題となっている。そのため、迅速な血中濃度モニタリングが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Anal. Chem., 2017, Vol. 89, pp. 11325-11331
【非特許文献2】ACS Omega, 2019, Vol. 4, pp. 14765-14771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、FETバイオセンサを用いて簡便かつ高感度に小型非荷電分子を検出することを可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、小型非荷電分子と該小型非荷電分子が修飾されたタンパク質との間のゲート絶縁膜上に固定化された該小型非荷電分子と相互作用するプローブ分子への競合を利用することによって、FETバイオセンサを用いた小型非荷電分子の検出が可能となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
したがって、本発明は、下記小型非荷電分子の検出方法を提供する。
1.(A)小型非荷電分子と、半導体センシングデバイス上に固定化された該小型非荷電分子と相互作用するプローブ分子とを相互作用させる工程、
(B)工程(A)後、更に、前記小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を、前記プローブ分子と相互作用させる工程、及び
(C)工程(B)後、前記相互作用によるゲートチャネル領域の電位変化を検出する工程
を含む小型非荷電分子の検出方法。
2.前記プローブ分子が固定化された半導体センシングデバイスが、半導体上に反応ゲート絶縁膜としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成されたFETの前記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜にプローブ分子を前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて結合させてなる、プローブ分子/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるものである1の小型非荷電分子の検出方法。
3.前記前記プローブ分子が、Fabである1又は2の小型非荷電分子の検出方法。
4.生体試料中に含まれる小型非荷電分子を検出する方法である1~3のいずれかの小型非荷電分子の検出方法。
5.前記小型非荷電分子が含まれた生体試料が、血清である4の小型非荷電分子の検出方法。
6.前記小型非荷電分子が含まれた生体試料を、工程(A)の前に界面活性剤で前処理する工程を含む4又は5の小型非荷電分子の検出方法。
7.前記小型非荷電分子が、5-フルオロウラシル(5-FU)である1~5のいずれかの小型非荷電分子の検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、FETバイオセンサを用いて小型非荷電分子を高感度で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明で用いる半導体センシングデバイスを示す断面図であり、(A)は有機単分子膜形成前のFET構造、(B)は前記FET構造のゲート絶縁膜上に有機単分子膜を形成した状態、(C)は有機単分子膜にプローブ分子が固定化された状態を示す。
図2】オンチップデバイスのユニット構成例を示し、(A)は部分平面図、(B)はその拡大断面図である。
図3】半導体センシングデバイスを用いた小型非荷電分子検出の概念図である。
図4】参考例1及び比較参考例1で測定したFab固定化デバイスに対するBSA/5-FU又はHSA添加前後の半導体特性の評価結果を示すグラフである。
図5】実施例1で測定したFab固定化デバイスに対する各濃度の5-FU及びBSA/5-FUの順次添加による半導体特性のシフト量の評価結果を示すグラフである。
図6】実施例2及び3で測定したTween20含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS-T)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)による希釈処理を施した5-FU含有血清及びBSA/5-FUの順次添加又は各希釈処理を施した血清添加前後の半導体特性のシフト量の評価結果を示すグラフである。
図7】実施例4で測定したFab固定化デバイスに対する各濃度のPBS-T希釈5-FU含有血清及びBSA/5-FUの順次添加による半導体特性のシフト量の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の小型非荷電分子の検出方法は、(A)小型非荷電分子と、半導体センシングデバイス上に固定化された該小型非荷電分子と相互作用するプローブ分子とを相互作用させる工程、(B)工程(A)後、更に、前記小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を、前記プローブ分子と相互作用させる工程、及び(C)工程(B)後、前記相互作用によるゲートチャネル領域の電位変化を検出する工程を含むものである。なお、本発明において小型非荷電分子とは、分子量が概ね1,000以下の電荷を有しない分子を意味する。
【0012】
本発明で用いる半導体センシングデバイスは、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成されたFETの前記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜にプローブ分子を前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて結合させてなる、プローブ分子/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるものが好ましい。
【0013】
前記検出部のうち、絶縁層/半導体構造部分は、通常のFETからゲート電極を取り除くことで得られ、その構成は、従来公知のものを利用することができる。前記絶縁層は、シリコン酸化物であることが好ましい。このFET構造は、n型でもp型でもよい。このFETとしては、例えば、図1(A)に示されるものが挙げられる。なお、図1中、1はシリコン基板、1aはゲートチャネル領域、2はシリコン酸化物又は無機酸化物(ガラス、アルミナ等)を含む絶縁層、4はゲート電極、5はソース電極、6はドレイン電極、7はドープ領域を示す。
【0014】
そして、図1(B)に示されるように、絶縁層2上に第1の有機単分子膜3が形成される。ここで、本発明においては、基本原理として、絶縁層表面上のプローブ分子とターゲット分子の結合反応に伴うゲートチャネル領域の電位変化を電気信号として検出する構成とする。なお、前記絶縁層の厚さは、30~300nm、特に50~150nmが好ましい。
【0015】
前記第1の有機単分子膜は、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる。前記反応性官能基を有する有機単分子膜は、下記式(1)で表されるアルコキシシランの単分子膜であることが好ましい。
【化1】
【0016】
式(1)中、Rは、アミノ基、アミノオキシ基、カルボキシ基又はチオール基である。
【0017】
式(1)中、R1は、炭素数3~22の直鎖状アルカンジイル基である。前記直鎖状アルカンジイル基は、炭素数が3~18であるものが好ましく、炭素数が3~8であるものがより好ましい。炭素鎖が短い方が、有機単分子膜の有する疎水性が弱くなり、ターゲット分子の疎水性相互作用に起因する非特異的吸着を抑制することができるため好ましい。
【0018】
1で表される直鎖状アルカンジイル基の具体例としては、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ウンデカン-1,11-ジイル基、ドデカン-1,12-ジイル基、トリデカン-1,13-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基、ペンタデカン-1,15-ジイル基、ヘキサデカン-1,16-ジイル基、ヘプタデカン-1,17-ジイル基、オクタデカン-1,18-ジイル基、ノナデカン-1,19-ジイル基、エイコサン-1,20-ジイル基、ヘンエイコサン-1,21-ジイル基、ドコサン-1,22-ジイル基が挙げられる。これらのうち、炭素数3~18のものが好ましく、炭素数3~8のものがより好ましい。
【0019】
式(1)中、R2~R4は、それぞれ独立に、炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数2~5の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルキル基である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基又はエチル基が好ましい。また、前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数2~3のアルコキシアルキル基が好ましい。R2~R4としては、特にメチル基、エチル基、2-メトキシエチル基等が好ましい。
【0020】
前記Rがアミノ基、カルボキシ基又はチオール基であるアルコキシシランとしては、市販品を使用し得る。また、前記Rがアミノオキシ基であるアルコキシシランは、下記スキームにしたがって合成できる。
【化2】
(式中、R1~R4は、前記と同じ。R5は、R1から炭素数が2減少した直鎖状アルカンジイル基である。)
【0021】
前記Rがアミノオキシ基であるアルコキシシランは、トリアルコキシヒドロシランとO-アルケニルヒドロキシアミンとを白金系触媒で処理することによって調製することができる。例えば、窒素雰囲気下、トリアルコキシヒドロシランとO-アルケニルヒドロキシアミンとの混合物に、ヘキサクロロ白金(IV)酸等の白金系触媒を加え、10~200℃で1~1,200時間、より好ましくは60~120℃で12~48時間反応させることにより調製できる。成膜操作には、過剰のトリアルコキシヒドロシランを例えば蒸留等の操作により除去したものを使用することが好ましい。
【0022】
第1の有機単分子膜は、前記アルコキシシランを気相化学反応又は液相反応によって絶縁層上に形成し、その最適化、例えば、有機分子の自己集積化機能によって単分子が最密パッキングされた膜が形成される。気相化学反応によって単分子膜を成膜する場合は、例えば、容器に基板及びアルコキシシランを封入し、アルゴン不活性雰囲気中で好ましくは80~200℃で1~24時間、より好ましくは100~130℃で2~5時間反応させることで成膜できる。液相反応によって単分子膜を成膜する場合は、例えば、アルゴン不活性雰囲気中でアルコキシシランを含む有機溶媒中に基板を浸漬し、好ましくは20~80℃で1分間~24時間、より好ましくは55~65℃で5~20分間静置することで成膜できる。
【0023】
前記有機溶媒としては、トルエン、メタノール、エタノール等が挙げられ、特にトルエン、メタノール等が好ましい。
【0024】
前記FETの半導体上には、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層を形成することができる。この第2の絶縁層の上には、第2の有機単分子膜として、プローブ分子及びターゲット分子である小型非荷電分子のいずれとも反応しない有機分子で構成された単分子膜を形成し、この単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部とすることができる。なお、反応ゲート絶縁部と参照ゲート絶縁部とを、電位変化測定において互いに影響を与えない程度に離間させれば、反応ゲート絶縁部の第1の絶縁層と参照ゲート絶縁部の第2の絶縁層とを同一層内に設けることもできる。
【0025】
図2は、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部9及び参照部8に適用したオンチップデバイスのユニット構成例を示す。なお、図2中、1はシリコン基板、2は絶縁層、10はテンプレート部である。このデバイスのユニット構成は図示した構成に限定されず、検出部と参照部とは必ずしも1対1の関係で配置する必要はなく、必要に応じて検出部及び参照部の数及び組合せを適宜変更して配置することができる。また、検出部及び参照部は各々数~数十μmのサイズで形成可能である。
【0026】
前記第2の有機単分子膜としては、フッ素化されていてもよい炭素数8~22の直鎖状アルキル基を有するアルコキシシランの単分子膜が好ましい。なお、有機単分子膜としてアルコキシシランの単分子膜を用いる場合、前記第2の絶縁層はシリコン酸化物で形成されたものが好ましい。
【0027】
第2の有機単分子膜は、絶縁層上に均一な膜を形成させるため、自己集積化膜であることが好ましい。具体的には、下記式(2)で表されるトリアルコキシシランの単分子膜であることが好ましい。
【化3】
【0028】
式(2)中、R6は、炭素数8~22、好ましくは炭素数10~18の直鎖状アルキル基であり、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい。前記直鎖状アルキル基は、炭素数が10~18であるものが好ましい。前記直鎖状アルキル基として具体的には、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基等が挙げられる。
【0029】
式(2)中、R7~R9は、それぞれ独立に、炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数2~5の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルキル基である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基又はエチル基が好ましい。また、前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数2~3のアルコキシアルキル基が好ましい。
【0030】
式(2)で表されるトリアルコキシシランとして具体的には、CH3(CH2)7Si(OCH3)3、CH3(CH2)7Si(OC2H5)3、CH3(CH2)8Si(OCH3)3、CH3(CH2)8Si(OC2H5)3、CH3(CH2)9Si(OCH3)3、CH3(CH2)9Si(OC2H5)3、CH3(CH2)10Si(OCH3)3、CH3(CH2)10Si(OC2H5)3、CH3(CH2)11Si(OCH3)3、CH3(CH2)11Si(OC2H5)3、CH3(CH2)12Si(OCH3)3、CH3(CH2)12Si(OC2H5)3、CH3(CH2)13Si(OCH3)3、CH3(CH2)13Si(OC2H5)3、CH3(CH2)14Si(OCH3)3、CH3(CH2)14Si(OC2H5)3、CH3(CH2)15Si(OCH3)3、CH3(CH2)15Si(OC2H5)3、CH3(CH2)16Si(OCH3)3、CH3(CH2)16Si(OC2H5)3、CH3(CH2)17Si(OCH3)3、CH3(CH2)17Si(OC2H5)3、CH3(CH2)18Si(OCH3)3、CH3(CH2)18Si(OC2H5)3、CH3(CH2)19Si(OCH3)3、CH3(CH2)19Si(OC2H5)3、CH3(CH2)20Si(OCH3)3、CH3(CH2)20Si(OC2H5)3、CH3(CH2)21Si(OCH3)3、CH3(CH2)21Si(OC2H5)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)6(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)8(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)8(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)9(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)9(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)10(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)10(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)11(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)11(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)12(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)12(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)13(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)13(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)14(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)14(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)15(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)15(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)16(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)16(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)17(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)17(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)18(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)18(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)19(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)19(CH2)2Si(OC2H5)3等が挙げられる。
【0031】
なお、第1及び第2の有機単分子膜は、パターニングにより所望の位置に形成することができる。特に、オンチップでの集積化デバイスを形成するためには、有機単分子膜のパターニングが有効である。例えば、検出部の絶縁層表面には、プローブ分子固定化のために反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の単分子膜を、一方で、参照部、更には非ゲート部(テンプレート部)においては、ターゲット分子の非特異的な吸着を避けるために、プローブ分子及びターゲット分子のいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を、パターニングにより位置選択的に形成する。
【0032】
参照部としては、第2の有機単分子膜として第1の有機単分子膜と同様の単分子膜に、ターゲット分子と相互作用しない化合物を固定化したものを利用することも可能である。すなわち、ターゲット分子と相互作用しない化合物/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部とすることもできる。この場合、参照部は、前述した検出部における有機単分子膜形成方法及び後述する化合物固定化方法と同じ方法にしたがって形成することができる。
【0033】
前記半導体センシングデバイスには、前記検出部の第1の有機単分子膜にプローブ分子が固定化される。例えば、図1(C)に示されるように、第1の有機単分子膜3にプローブ分子11が結合される。
【0034】
前記プローブ分子は、直接又は架橋分子を介して前記有機単分子膜に固定化される。架橋分子としては、例えば、グルタルアルデヒド等が挙げられる。この場合、前記有機単分子膜をグルタルアルデヒド修飾する方法は、特に限定されないが、例えば0.01~25質量%のグルタルアルデヒド水溶液中で、10~50℃で1分~24時間反応させればよい。
【0035】
次に、プローブ分子中のアミノ基等の反応性官能基をグルタルアルデヒドと反応させることでプローブ分子を固定化する。具体的には、例えば、プローブ分子を含む溶液(溶媒は超純水、リン酸緩衝生理食塩水等)中で、10~50℃で1分~24時間反応させればよい。好ましくは、10~35℃で1分~60分間反応させればよい。前記プローブ分子の濃度は、1pg/mL~1mg/mLが好ましく、100ng/mL~100μg/mLがより好ましい。
【0036】
前記プローブ分子は、検出対象となる小型非荷電分子と結合するものを適宜選択すればよい。前記プローブ分子としては、例えば、抗体が挙げられる。本発明において抗体とは、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等の免疫グロブリンや、抗体フラグメント(Fab、F(ab')2)を含むものとする。また、抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。本発明においては、特にプローブ分子としてFabを用いることが好ましい。
【0037】
図3に、本発明の半導体センシングデバイスを用いた小型非荷電分子の検出方法の概念図を示す。この検出方法では、有機単分子膜上に直接固定化された固定化されたプローブ分子と小型非荷電分子とを相互作用させた後、前記小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を前記プローブ分子と相互作用させ、前記相互作用によるゲートチャネル領域1aの電位変化を検出する。なお、図3中、12は小型非荷電分子であり、13は小型非荷電分子が修飾されたタンパク質であり、また、他の構成は、図1と同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
小型非荷電分子は電荷を有していないため、プローブ分子との相互作用によってデバイ長内の電荷量は変化しないが、小型非荷電分子とプローブ分子とを相互作用させた後、更に該小型非荷電分子が修飾されたタンパク質とプローブ分子とを相互作用させることで、測定対象の小型非荷電分子の濃度に依存して小型非荷電分子が修飾されたタンパク質のセンサ表面への吸着量が変化する。すなわち、測定対象の小型非荷電分子の濃度に依存してゲートチャネル領域の電位が変化する。この場合、電流一定下においては電位シフトを、電圧一定下においては電流のシフトをシグナルとして検出することができる。なお、n型のFETを用いた場合とp型のFETを用いた場合とでは、閾値電圧のシフトは互いに逆になる。
【0039】
工程(A)において、デバイス上に固定化されたプローブ分子と小型非荷電分子とを相互作用させるには、該小型非荷電分子を含む溶液を、必要に応じて希釈して、ゲート電極上に載せればよい。このとき、前記溶液としては、分子の検出に用いられている一般的な溶液を用いることができるが、特に生理的条件を満たすものが好ましい。例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、MES緩衝生理食塩水、MOPS緩衝生理食塩水、PIPES緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等が好ましく使用できる。なお、前記溶液のpHは、5~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0040】
また、前記溶液に、Ca2+、Mg2+等のイオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のキレート剤、Tween(登録商標)20、Triton(登録商標)X-100、Nonidet(登録商標)P-40等の界面活性剤等を加えてもよい。前記イオンを加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。前記キレート剤を加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。界面活性剤を加える場合、その濃度は、0.001~10体積%が好ましく、0.05~5体積%がより好ましい。
【0041】
工程(A)において、デバイス上に固定化されたプローブ分子と小型非荷電分子とを相互作用させるときの温度は、0~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましく、室温(20~25℃)が更に好ましい。反応時間は、30秒間~2時間が好ましく、1分~1時間がより好ましく、5~30分間が更に好ましい。
【0042】
検出可能な小型非荷電分子の濃度はその種類によって異なるが、通常0~1,000ng/mL程度であり、0~500ng/mL程度が好ましく、0~200ng/mLがより好ましい。
【0043】
工程(A)の後、工程(B)の前に洗浄工程を設けてもよい。前記洗浄工程において使用する洗浄液は、前述したデバイス上に固定化されたプローブ分子とタンパク質とを相互作用させるときに用いる生理的条件を満たす溶液が好ましい。また、前記洗浄液には、更に前述したイオン、キレート剤、界面活性剤等を加えてもよい。この場合、前述した濃度になるように添加することが好ましい。
【0044】
次に、工程(B)において、有機単分子膜上に固定化されたプローブ分子と小型非荷電分子とを相互作用させた後添加する小型非荷電分子が修飾されたタンパク質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カチオン化ウシ血清アルブミン(カチオン化BSA)キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、Blue Carrierタンパク質、オボアルブミン(OVA)等に前記小型非荷電分子が修飾されたものが好ましい。
【0045】
小型非荷電分子をタンパク質に修飾する方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-スクシンイミジルナトリウム、グルタルアルデヒド等の架橋剤を介して小型非荷電分子をタンパク質に結合させる方法が挙げられる。また、必要に応じて小型非荷電分子に前記架橋剤と反応する官能基を導入して、前記架橋剤を用いて小型非荷電分子をタンパク質に結合させてもよく、例えば、5-FUをBSAに結合させる場合は、Macromol. Biosci. 2014, Vol.14, pp. 428-439に記載された方法を参考にすることができる。小型非荷電分子が修飾されたタンパク質としては、市販品を使用することもできる。
【0046】
小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を添加する場合は、該小型非荷電分子が修飾されたタンパク質を含む溶液を、必要に応じて希釈して、ゲート電極上に載せればよい。このとき、前記溶液としては、特に限定されないが、生理的条件を満たすものが好ましい。例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、MES緩衝生理食塩水、MOPS緩衝生理食塩水、PIPES緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等が好ましく使用できる。なお、前記溶液のpHは、5~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0047】
前記溶液中の小型非荷電分子が修飾されたタンパク質の濃度は、1~100μg/mLが好ましく、20~50μg/mLがより好ましい。
【0048】
また、前記溶液に、Ca2+、Mg2+等のイオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のキレート剤、Tween(登録商標)20、Triton(登録商標)X-100、Nonidet(登録商標)P-40等の界面活性剤等を加えてもよい。前記イオンを加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。前記キレート剤を加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。界面活性剤を加える場合、その濃度は、0.001~10体積%が好ましく、0.05~5体積%がより好ましい。
【0049】
工程(B)において、デバイス上に固定化されたプローブ分子と前記小型非荷電分子が修飾されたタンパク質とを相互作用させるときの温度は、0~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましく、室温(20~25℃)が更に好ましい。反応時間は、30秒間~2時間が好ましく、1分間~1時間がより好ましく、5~30分間が更に好ましい。
【0050】
工程(B)の後、工程(C)の前に洗浄工程を設けてもよい。前記洗浄工程において使用する洗浄液は、前述したデバイス上に固定化されたプローブ分子とタンパク質とを相互作用させるときに用いる生理的条件を満たす溶液が好ましい。また、前記洗浄液には、更に前述したイオン、キレート剤、界面活性剤等を加えてもよい。この場合、前述した濃度になるように添加することが好ましい。
【0051】
工程(C)において、小型非荷電分子が修飾されたタンパク質に由来するゲートチャネル領域の電位変化を、前記半導体センシングデバイスを用いて検出する。具体的には、例えば、検出部とゲート電極との間に電解液を満たし、ゲート電圧を印加してゲートチャネル領域の電位変化を検出する。前記電解液としては、リン酸緩衝液や、前述したデバイス上に固定化されたプローブ分子とタンパク質とを相互作用させるときに用いる生理的条件を満たす溶液が挙げられる。工程(A)においてプローブ分子と相互作用した小型非荷電分子が少ない(すなわち、測定試料中の小型非荷電分子の濃度が小さい)場合は、プローブ分子と相互作用する小型非荷電分子が修飾されたタンパク質が多いため、大きな電位変化が観測される。一方、工程(A)においてプローブ分子と相互作用した小型非荷電分子が多い(すなわち、測定試料中の小型非荷電分子の濃度が大きい)場合は、その逆であり、電位変化は小さくなる。これによって、定量的に測定試料中の小型非荷電分子を検出することが可能となる。
【0052】
本発明の方法によれば、小型非荷電分子を高感度に検出することが可能である。また、生理的条件下における小型非荷電分子の検出が可能となる。前記小型非荷電分子としては、プローブ分子と相互作用する性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)、マイトマイシンC、シクロホスファミド、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン、テガフール、メトトレキサート、アナストロゾール、ゲフィチニブ、イマチニブ、ウベニメクス等の抗がん剤、エストラジオール、プロゲステロン、コルチゾール、甲状腺ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン等が挙げられる。
【0053】
本発明の方法は、特に、生体試料中の小型非荷電分子の検出に好適に使用できる。前記生体試料としては、血清、血液、尿、汗、唾液、間質液、組織抽出物、細胞抽出物等が挙げられる。これらのうち、特に血清、尿、汗、唾液中の小型非荷電分子の検出に有用である。これらの生体試料中の小型非荷電分子を検出する場合は、工程(A)において生体試料をそのまま前記デバイスのゲート電極上に添加してもよいが、必要に応じて希釈してから小型非荷電分子のゲート電極上に添加してもよい。希釈するための溶液としては、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、MES緩衝生理食塩水、MOPS緩衝生理食塩水、PIPES緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等が好ましく使用できる。なお、前記溶液のpHは、5~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0054】
また、前記希釈するための溶液に、Ca2+、Mg2+等のイオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のキレート剤、Tween(登録商標)20、Triton(登録商標)X-100、Nonidet(登録商標)P-40等の界面活性剤等を加えてもよい。前記イオンを加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。前記キレート剤を加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。界面活性剤を加える場合、その濃度は、0.001~10体積%が好ましく、0.05~5体積%がより好ましい。特に、生体試料中の夾雑因子の影響を抑える観点から、界面活性剤を加えることが好ましい。
【実施例0055】
以下、製造例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0056】
[製造例1]
有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備える半導体センシングデバイスを構築した。絶縁層としてはシリコン酸化物を用いた。検出部の第1の有機単分子膜として、アミノプロピルトリエトキシシランを用いて単分子膜を形成した。以下にデバイス作製方法について記載する。
【0057】
凸版印刷(株)製の10μm長、1,000μm幅のn型FETからアセトンを用いて超音波処理することでフォトレジスト膜を除去した。ゲート表面にヒドロキシ基を導入して活性部位を作製するため、プラズマリアクターPR301(ヤマト科学(株)製)を用いて、200WのO2プラズマに1分間暴露した。
アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマアルドリッチ社製)を1質量%含むトルエン中にデバイスを浸漬し、アルゴン雰囲気下、60℃で7分間静置することで、ゲート電極上に単分子膜を成膜した。単分子膜を形成したFETをメタノール/トルエン混合溶媒(質量比1:1)を用いて超音波洗浄し、エタノールでリンスした。基板洗浄後、アルゴン雰囲気下、160℃で60分静置した。
【0058】
[参考例1]
アミノ系単分子膜を修飾されている検出部のゲート電極に抗5-フルオロウラシル(5-FU)抗体由来の抗体フラグメント(Fab)を固定化したデバイスによる5-FU修飾BSA(BSA/5-FU、コスモ・バイオ(株)製)添加時の応答を以下のとおり評価した。
まず、有機単分子膜のアミノ基とFabとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。その後、デバイスをホルダーに設置し、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLのFabを含むリン酸緩衝生理食塩水(137 mM NaCl、2.682 mM KCl、8.1 mM Na2HPO4・12H2O、1.469 mM KH2PO4、pH7.4、以下、PBSという。)に1時間浸漬した。基板洗浄後、10mMエタノールアミン含有PBSによるキャッピング処理を1時間施した。
その後、デバイスの検出部をリン酸緩衝液(0.12 mM NaH2PO4・2H2O、0.51 mM Na2HPO4・12H2O、pH7.4、以下、PBという。)0.5mLに3分間浸漬した後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。
続いて、25μg/mLの5-FU修飾BSA(BSA/5-FU)を含むPBS20μLをFab固定化デバイスのゲート表面上に添加し、30分静置した後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。その後、ゲート表面上にPBを0.5mL添加して3分間静置した後、BSA/5-FU吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、BSA/5-FU添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。
【0059】
[比較参考例1]
対照実験として、Fab固定化デバイスに対して、特異性を示さないタンパク質ヒト血清アルブミン(HSA)添加時の応答を以下のとおり評価した。
まず、有機単分子膜のアミノ基とFabとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。その後、デバイスをホルダーに設置し、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLのFabを含むPBSに1時間浸漬した。基板洗浄後、10mMエタノールアミン含有PBSによるキャッピング処理を1時間施した。
その後、デバイスの検出部をPB0.5mLに3分間浸漬した後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。
続いて、1,000μg/mLのHSAを含むPBS20μLをFab固定化デバイスのゲート表面上に添加し、30分静置した後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。その後、ゲート表面上にPBを0.5mL添加して3分間静置した後、HSA吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、HSA添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。
【0060】
Fab固定化デバイスに対する、BSA/5-FU又はHSA添加前後の半導体特性のシフト量の評価結果を図4に示す。Fab固定化デバイスにBSA/5-FUを添加した場合、半導体特性である電流-電圧曲線におけるゲート電圧シフトΔVgが+39mVとなった。一方で、Fab固定化デバイスにHSAを添加した場合、電流-電圧曲線の変化はほとんど確認されなかった。このことより、Fab固定化デバイスはBSA/5-FUに特異性を有することが確認された。
【0061】
[実施例1]
Fab固定化デバイスによる5-FU検出として、5-FU及びBSA/5-FUの順次添加による応答測定を以下のとおり評価した。
まず、有機単分子膜のアミノ基とFabとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。その後、デバイスをホルダーに設置し、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLのFabを含むPBSに1時間浸漬した。基板洗浄後、10mMエタノールアミン含有PBSによるキャッピング処理を1時間施した。
その後、デバイスの検出部をPB0.5mLに3分間浸漬した後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。
続いて、0~1,000ng/mLの5-FUを含むPBS20μLをゲート表面に添加し、30分間静置した後、PBS5mLを用いてリンスを行った。
その後、25μg/mLのBSA/5-FUを含むPBS20μLをFab固定化デバイスのゲート表面上に添加し、30分静置した後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。そして、ゲート表面上にPBを0.5mL添加して3分間静置した後、BSA/5-FU吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、5-FU及びBSA/5-FU添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。
【0062】
Fab固定化デバイスに対する5-FU及びBSA/5-FUの順次添加による半導体特性のシフト量の評価結果を図5に示す。Fab固定化デバイスへの0~1,000ng/mLの各濃度の5-FUを添加した後、BSA/5-FU添加に由来するゲート電圧シフトΔVgを取得したところ、濃度増加に伴いシフト量が減少することが確認された。これは、5-FU濃度増加に伴いFETゲート表面上の未反応Fab分子量が減少することによって、BSA/5-FUの吸着量が変化したことを意味する。したがって、Fab固定化デバイスに対する5-FU及びBSA/5-FUの順次添加による5-FU定量検出性が示された。
【0063】
[実施例2]
Fab固定化デバイスによる血清中5-FU検出時の血清試料の前処理として、Tween20含有リン酸緩衝生理食塩水による希釈を以下のとおり行い、血清中の夾雑因子の影響評価を実施した。
まず、有機単分子膜のアミノ基とFabとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。その後、デバイスをホルダーに設置し、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLのFabを含むPBSに1時間浸漬した。基板洗浄後、10mMエタノールアミン含有PBSによるキャッピング処理を1時間施した。
その後、デバイスの検出部をPB0.5mLに3分間浸漬した後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。
続いて、500ng/mL又は0ng/mLの5-FUを含むヒト血清を0.05体積%Tween20含有PBS(PBS-T)で5倍希釈した後、FETゲート表面に20μL添加し、30分間静置した。その後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。その後、500ng/mLの5-FUを含む希釈済みヒト血清添加時においてのみ、25μg/mLのBSA/5-FUを含むPBS20μLをFab固定化デバイスのゲート表面上に添加し、30分静置した後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。そして、ゲート表面上にPBを0.5mL添加して3分間静置した後、デバイスの電流-電圧曲線を測定し、PBS-T希釈ヒト血清添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。
【0064】
[実施例3]
Fab固定化デバイスによる血清中5-FU検出時の血清試料の前処理として、PBSによる希釈を以下のとおり行い、血清の夾雑因子の影響評価を実施した。
まず、有機単分子膜のアミノ基とFabとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。その後、デバイスをホルダーに設置し、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLのFabを含むPBSに1時間浸漬した。基板洗浄後、10mMエタノールアミン含有PBSによるキャッピング処理を1時間施した。
その後、デバイスの検出部をPB0.5mLに3分間浸漬した後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。
続いて、500ng/mL又は0ng/mLの5-FUを含むヒト血清をPBSで5倍希釈した後、FETゲート表面に20μL添加し、30分間静置した。その後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。その後、500ng/mLの5-FUを含む希釈済みヒト血清添加時においてのみ、25μg/mLのBSA/5-FUを含むPBS20μLをFab固定化デバイスのゲート表面上に添加し、30分静置した後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。そして、ゲート表面上にPBを0.5mL添加して3分間静置した後、BSA/5-FU吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、PBS希釈ヒト血清添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。
【0065】
Fab固定化デバイスによる血中5-FU濃度測定時の血清試料の前処理として、PBS-T又はPBSによる希釈処理を施した500ng/mLの5-FUを含む血清及びBSA/5-FUの順次添加又は各希釈処理を施した0ng/mLの5-FUを含む血清添加前後の半導体特性のシフト量の評価結果を図6に示す。PBS-Tによる希釈を施した血清を滴下した場合、ゲート電圧シフトΔVgの変化幅が小さくなった一方、PBS希釈を施した血清を滴下した際は、ΔVgは大きな変化幅を示した。したがって、PBS-Tによる希釈操作によって、血清中の夾雑因子がセンサ応答に与える影響を抑制できることが示された。
【0066】
[実施例4]
本デバイスを利用した血清中5-FU濃度測定として、5-FU及びBSA/5-FUの順次添加による応答測定を以下のとおり評価した。
まず、有機単分子膜のアミノ基とFabとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。その後、デバイスをホルダーに設置し、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLのFabを含むPBSに1時間浸漬した。基板洗浄後、10mMエタノールアミン含有PBSによるキャッピング処理を1時間施した。その後、デバイスの検出部をPB0.5mLに3分間浸漬した後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。
続いて、0~1,000ng/mLの5-FUを含むヒト血清をPBS-Tで5倍希釈した後、FETゲート表面に20μL添加し、30分間静置した。その後、PBS5mLを用いてリンスを行った。そして、25μg/mLのBSA/5-FUを含むPBS20μLをFab固定化デバイスのゲート表面上に添加し、30分静置した後、PBS3mL及びPB3mLを用いてリンスを行った。そして、ゲート表面上にPBを0.5mL添加して3分間静置した後、BSA/5-FU吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、5-FU含有ヒト血清及びBSA/5-FU添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。
【0067】
Fab固定化デバイスに対するPBS-T希釈5-FU含有血清及びBSA/5-FUの順次添加による半導体特性のシフト量の評価結果を図7に示す。Fab固定化デバイスへ、PBS-T希釈により、0~200ng/mLの範囲に濃度を調整した5-FU含有血清を添加した後、BSA/5-FU添加を順次添加した。その結果、5-FU血清及びBSA/5-FU添加前後におけるゲート電圧シフトΔVgが、5-FU濃度増加に伴い減少することが確認された。このことから、本発明の方法によって、血清中5-FU濃度の定量検出性が示された。
【符号の説明】
【0068】
1 シリコン基板
1a ゲートチャネル領域
2 絶縁層
3 第1の有機単分子膜
4 ゲート電極
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 ドープ領域
8 参照部
9 検出部
10 テンプレート部
11 プローブ分子
12 小型非荷電分子
13 小型非荷電分子が修飾されたタンパク質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7