(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127227
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】映像投影装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20230906BHJP
G02B 27/48 20060101ALI20230906BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B27/48
H04N5/64 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030880
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(72)【発明者】
【氏名】芦原 将彰
(72)【発明者】
【氏名】勝山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥治
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199CA06
2H199CA12
2H199CA27
2H199CA29
2H199CA34
2H199CA42
2H199CA47
2H199CA84
2H199CA86
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、簡便な装置構成で、輝度が高く、スペックルノイズを低減した映像投影装置を提供する。
【解決手段】可視光のレーザ光を2次元に走査することで観察者に視認させる映像を射出する映像射出部と、入射した前記レーザ光が透過および散乱することで前記映像を投影する透過型スクリーンと、前記透過型スクリーンに投影された前記映像を使用者の眼球に投影する投影レンズと、前記投影レンズを透過した光と外界との光を合波して、前記眼球に投影する合波光学素子とを少なくとも備え、前記映像射出部は前記透過型スクリーンに入射する前記レーザ光の入射角度を調整可能とする入射角調整機構を備えていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光のレーザ光を2次元に走査することで観察者に視認させる映像を射出する映像射出部と、入射した前記レーザ光が透過および散乱することで前記映像を投影する透過型スクリーンと、前記透過型スクリーンに投影された前記映像を使用者の眼球に投影する投影レンズと、前記投影レンズを透過した光と外界との光を合波して、前記眼球に投影する合波光学素子とを少なくとも備えることを特徴とする映像投影装置。
【請求項2】
前記映像射出部は、前記透過型スクリーンに入射する前記レーザ光の入射角度を調整可能とする入射角調整機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の映像投影装置。
【請求項3】
前記入射角調整機構は、前記透過型スクリーンを透過した前記レーザ光のうち透過時に散乱により拡散せず直進する非拡散成分のレーザ光である非拡散レーザ光が前記眼球に入射、あるいは非入射のどちらか選択可能とする機構を有することを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の映像投影装置。
【請求項4】
前記非拡散レーザ光と、前記透過型スクリーンに投影された前記映像を同時に視認できることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の映像投影装置。
【請求項5】
前記透過型スクリーンは、レーザ光を透過かつ散乱する透過散乱層を複数枚有し、ヘイズ値が異なる前記透過散乱層を重ねて構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の映像投影装置。
【請求項6】
前記透過型スクリーンは、前記映像射出部から前記観察者までの光軸に対して観察者側となる面に前記透過散乱層を有し、前記透過散乱層を構成する各層のヘイズ値が前記光軸の観察者へ向かう方向に対して減少するようにそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の映像投影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームを用いた映像投影装置。とくに、眼鏡型ディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HMD(Head Moundted Display)やスマートグラスと呼称される眼鏡型の映像投影装置として、プロジェクターと同様の手法である反射型液晶パネルを使用するLCOS方式やDMDデバイスを使用するDLP方式、小型・省電力化を目的に有機ELパネルを用いるOLED方式、マイクロLEDディスプレイを用いる方式、レーザ光源を用いるレーザ走査方式など数多くの方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-11168
【特許文献2】特開2011-53353
【特許文献3】特開2014-228805
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の液晶や有機ELを用いた表示素子では輝度が小さく、明所において映像の視認性に課題がある。
【0005】
マイクロLEDディスプレイは、高精細・高輝度を実現するためには高度な製造技術を必要とする。レーザ光源は、小型、省電力で、高輝度という特徴がある一方で、コヒーレント光であるため、スクリーンに映像を投影する場合において、スクリーンからの散乱光が干渉することで、スペックルノイズと呼ばれるランダムな干渉パターンが形成され、画質が低下するという課題がある。
【0006】
レーザ光源を使用した場合でも、スクリーンを使用せず使用者の網膜に直接映像を投影する網膜投影方式では、スペックルノイズは生じない。しかし、本方式ではマクスウェル視となるようにレーザ光を瞳孔に入射する必要があり、人間の平均的な瞳孔径は4mm程度であるため、光線の数ミリのズレにより映像が全く視認できなくなるという課題があり、眼球の動きに追従してレーザ光を走査するための機構が別途必要となる。
【0007】
上記の課題に鑑みて、本発明は、簡便な装置構成で、輝度が高く、スペックルノイズを低減した映像投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
可視光のレーザ光を2次元に走査することで観察者に視認させる映像を射出する映像射出部と、入射した前記レーザ光が透過および散乱することで前記映像を投影する透過型スクリーンと、前記透過型スクリーンに投影された前記映像を使用者の眼球に投影する投影レンズと、前記投影レンズを透過した光と外界との光を合波して、前記眼球に投影する合波光学素子とを少なくとも備え、前記映像射出部は、前記透過型スクリーンに入射する前記レーザ光の入射角度を調整可能とする入射角調整機構を備えていることを特徴とする。
【0009】
前記入射角調整機構は、前記透過型スクリーンを透過した前記レーザ光のうち透過時に散乱により拡散せず直進する非拡散成分のレーザ光である非拡散レーザ光が前記眼球に入射、あるいは非入射のどちらか選択可能とする機構を有することを特徴とする。
【0010】
前記非拡散レーザ光と、前記透過型スクリーンに投影された前記映像を同時に視認できることを特徴とする。
【0011】
前記透過型スクリーンは、レーザ光を透過かつ散乱する透過散乱層を複数枚有し、ヘイズ値が異なる前記透過散乱層を重ねて構成されていることを特徴とする。
【0012】
前記透過型スクリーンは、前記映像射出部から前記観察者までの光軸に対して観察者側となる面に前記透過散乱層を有し、前記透過散乱層を構成する各層のヘイズ値が前記光軸の観察者へ向かう方向に対して減少するようにそれぞれ配置されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0013】
本発明により、レーザ光源を使用した際に課題となる、スペックルノイズを低減することができ、かつ網膜投影方式の課題である使用者の眼球の動きによる視野欠損を防ぐことができる。レーザ光の散乱による拡散成分と非拡散成分を切り分けることで、映像の輝度の大きさやぎらつきの有無をレーザ光の出力を変えることなく調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、レーザ光の散乱による拡散光のみにより映像を視認する場合の装置構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、非拡散レーザ光と透過型スクリーンに投影された映像を同時に視認する場合の装置構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、非拡散レーザ光と透過型スクリーンに投影された映像を同時に視認する場合の装置構成の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、透過型スクリーンの構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る映像投影装置1の概略構成図である。
図1に示す映像投影装置1は、映像射出部11と、透過型スクリーン13と、入射角調整機構14と、投影レンズ15と、合波光学素子16とを備えている。
図1には、観察者の眼球17を合わせて表示している。
図1の構成は、映像射出部11から出射したレーザ光12のうち透過時に散乱により拡散せず直進する非拡散成分のレーザ光である非拡散レーザ光が眼球17に入射しない場合を例示している。
図1に示す配置とすることで、映像を投影した際の映像のぎらつきを抑制することができる。また、前記非拡散レーザ光が眼球に直接入射しないため、レーザ発振器に過電流が印加することで生じる定格以上の過大なレーザ出力によって観察者の網膜が損傷することを予防することができる。
【0017】
図2は、
図1の構成から入射角調整機構14により映像射出部11の位置を変更することで、前記非拡散レーザ光が眼球17に入射するようにした場合の概略構成図である。
図2に示す配置とすることで、明所などで使用する際に映像の輝度を増大させることができる。
【0018】
図2では、
図1の構成から入射角調整機構14により映像射出部11の位置を変更し、レーザ光12の前記非拡散レーザ光が眼球17に入射可能としているが、別の実施形態として、
図3に示すように、
図1から映像射出部11の位置を変更しないで、別に反射鏡18を設置することで、レーザ光12の前記非拡散レーザ光を眼球17に入射する構成とすることもできる。このように、
図2および
図3では、前記非拡散レーザ光による映像と透過型スクリーンに投影される散乱光による映像を同時に視認することも可能となる。この結果、眼球の動きによって、前記非拡散レーザ光が瞳孔内に導かれず、その結果、前記非拡散レーザ光による映像が視認されない場合でも、透過型スクリーンによって生成した映像を容易に視認することが可能となる。
図3において、前記非拡散レーザ光がマクスウェル視となるように眼球17に入射することで、フォーカスフリーの映像を視認することができる。
【0019】
映像射出部11は、レーザ発振器と、レーザ光12をコリメートするためのコリメートレンズと、レーザ光12を入射することで2次元映像を投影する映像投影機構とを有している。レーザ発振器としては、可視光のレーザダイオードを用いることができ、映像をフルカラーで投影する場合には、赤、緑、青の3色もしくは黄色を含めた4色のレーザダイオードを用いることが望ましく、複数のレーザダイオードを用いる場合は、1本のレーザ光に合波するための合波器を前記コリメートレンズの前段に備える。映像投影機構としては、MEMSミラーやDMDを用いることができる。前記映像投影機構は、結像レンズを備える構成とすることで、より高い解像度の映像を透過型スクリーン13に投影することができる。また、前記レーザ発振器として、面発光レーザダイオードを用いることも可能であり、その場合の映像投影機構はDMDが望ましい。前記レーザ発振器は、フォトダイオードを内蔵することで、レーザ光の強度を一定に保つ構成にすることができる。また、過度なレーザ出力やMEMSミラーが停止した場合には、レーザ光の射出を停止する安全機構を設けることで、観察者の目に対する安全性を確保することができる。
【0020】
レーザ光12は、映像射出部11から出射され、直進するレーザ光の光線であり、ここでは散乱により拡散した光線は含まないものとする。
図1でレーザ光12は便宜上、線で示されているが、映像を投影するために一定の太さを有しており、映像射出部11から出射されるレーザ光で前記映像投影装置1の投影領域にある光線はレーザ光12に含まれる。
【0021】
透過型スクリーン13は、可視光を透過および散乱するスクリーン部材であり、入射した光の一部が散乱により拡散し、残りが透過により拡散せずに直進する。透過型スクリーン13により散乱し、かつ入射面の反対側の面である出射面を透過した拡散光を拡散透過光とする。透過型スクリーン13の光学特性は、透過率と、拡散透過光の全光線透過光に対する割合であるヘイズ値により表される。全光線透過光は、散乱の有無によらず前記出射面を透過したすべての透過光を表す。透過型スクリーン13は、スペックルノイズを低減するために、
図4に示すように多層構造とすることが望ましく、前記映像射出部11から観察者の眼球17までの光軸に対して観察者側となる面に前記レーザ光を透過かつ散乱する多層の透過散乱層を有し、前記透過散乱層を構成する各層のヘイズ値が、前記光軸の観察者へ向かう方向に対して減少するようにそれぞれ配置されていることが望ましい。透過型スクリーン13を前記のような構成とすることで、散乱光の干渉を平均化することができ、スペックルノイズを低減することができる。
図4では、紙面の上方向を光軸の観察者方向としており、3層ある透過散乱層の各層のヘイズ値は上側に進むにつれて減少する。このため、
図4では最上部層のヘイズ値が最も小さく、最下部層のヘイズ値が最も大きい。
図4では、構成の一例として3層構造としているが、層数を限定するものではない。前記透過散乱層は、可視光を散乱する微小散乱体が可視光を透過する透明体の表面または内部に分散された構造とすることで、ヘイズ値の大きさを前記微小散乱体の大きさや濃度を変えることにより調整することができる。上記濃度は前記微小散乱体同士の最近接距離に依存し、最近接距離が短い場合は濃度の値が大きく、反対に最近接距離が長い場合は濃度の値が小さい。前記微小散乱体は、ミー散乱またはレイリー散乱のどちらを発生させても構わないが、ミー散乱領域の粒子径では、前方散乱強度が大きくなり、粒子径の増大に伴いスペックルノイズが増大するため、平均粒子径は1μm以下の大きさとすることが望ましく、さらに望ましいのは0.6μm以下の大きさである。粒子径の標準偏差は小さいことが望ましい。透過型スクリーン13を多層構造とした場合に、スクリーンの厚みは、映像射出部11に内包されている前記結像レンズの焦点深度を超えると、画質の低下を招くため、前記焦点深度以下とすることが望ましい。透過型スクリーン13は、透明な液晶画像表示デバイスを併設して用いることができ、その場合に、前記レーザ光により描画する映像とは異なる映像を同時に投影することができる。
【0022】
入射角調整機構14は、映像射出部11を保持する保持機構と、水平面または垂直面のどちらかを基準面とした際の映像射出部11の設置角度を調整する角度調整機構を有している。前記設置角度を変えることで、透過型スクリーン13に入射するレーザ光12の入射角度が調整可能となる。前記設置角度は、前記基準面に対するチルト角であり、垂直面内チルト角、水平面内チルト角のどちらでも構わない。
図1に示すように、透過型スクリーン13を通過した後のレーザ光12が合波素子16に入射しないように、前記設置角度を調整することで、レーザ光12が眼球17に入射することを阻止することができる。これにより映像を投影した際の映像のぎらつきを抑制することができる。
【0023】
明所などで使用する際に映像の輝度を増大させたい場合には、レーザ光12が
図2および
図3に示すように合波素子16に入射し、かつ 眼球17の瞳孔に入射するように前記設置角度を調整することができ、使用者の用途に応じて、前記設置角度の切替えが可能となることが望ましい。
図1に示すように、レーザ光12が眼球17に入射しない場合は、透過型スクリーン13を通過した後のレーザ光12が外部に漏れ出ないように遮断する機構を設けることが望ましい。
【0024】
投影レンズ15は、透過型スクリーン13の前記拡散透過光を屈折させ、合波光学素子16を介して眼球17に導く。投影レンズ15は、映像射出部11が可視光領域の複数の波長を有する場合に、色収差を補正したレンズを用いることが望ましく、最も簡便な方法は可視光に対応したアクロマティック複合レンズを用いることである。投影レンズ15の焦点距離は、投影レンズ15と透過型スクリーン13との距離に応じて決定することが望ましい。投影レンズ15は、凸レンズを用いるのが最も簡便な方法であるが、薄型のために平板の回折光学素子を用いることもできる。
【0025】
合波光学素子16は、可視光を透過する透過材に入射した可視光の一部を反射する反射材を有しており、透過型スクリーン13で生じた散乱光の一部を眼球17に向けて反射させ、使用者が前記映像を視認できるように配置されている。合波光学素子16に、例えばハーフミラーを使用することができ、また、眼鏡用レンズの一部に反射コートを施したものを使用することができる。前記透過材の透過率は使用する環境の照度により選定することができ、屋内など暗所で使用する場合は透過率が高いことが望ましく、屋外など明所で使用する場合は透過光が十分に視認できる範囲で透過率が低いことが望ましい。前記反射材の反射率は使用環境の照度に応じて選定することが望ましい。前記反射材は、例として、アルミ、銀、金などの金属膜や、多層の誘電体膜を用いることができ、回折格子を形成して反射材とすることもできる。また、映像を拡大投影するために、凹面レンズを合波光学素子16と組み合わせて使用する、または合波光学素子16の表面を凹面にして使用することができる。小型化のために合波光学素子16は導光板と一体化することができる。
【0026】
投影レンズ15から合波光学素子16までの導光に関しては、空中を通す光空間伝送の他に、光ファイバーやその他の導波路を用いて伝送する方法を用いることができる。
【0027】
眼球17は、使用者の眼球であり、瞳孔を通って入射した前記映像を構成する光が水晶体により網膜に投影されることで、使用者は前記映像を認識する。使用者が近視の場合には、近視を補正するコンタクトレンズ、または眼鏡レンズを併用することができる。
【実施例0028】
以下に、映像投影装置1の構成例およびARディスプレイとしての実施例を示す。映像射出部11は前記レーザ発振器にRGB3色のレーザダイオードを用い、前記レーザ発振器から出射した3本のレーザ光を1本に合波するため光導波路型合波器を用い、レーザ光をコリメートするためコリメートレンズを用い、前記映像投影機構にMEMSミラー、結像レンズを組み合わせて用い、透過型スクリーン13は、透過型スクリーン(日華化学株式会社製ディアルミエ)を用い、投影レンズ15は可視光アクロマティックの平凸レンズを用い、合波光学素子16は反射率10%で透過率90%のハーフミラーを用いる構成とした。前記レーザダイオードおよびMEMSミラーの駆動回路とPCをHDMI(登録商標)ケーブルにより接続することで、PCの画面映像を投影する。前記の構成とした映像投影装置1を眼鏡枠に取り付け、観察者が実際に装着した。まず、
図1の構成になるように映像射出部11を配置した結果、実際の風景に重ね合わせる形で前記画面映像が映し出された。また、映像射出部11の位置を変え、
図2の配置となるように変えた結果、前記画面映像の輝度が増加した。