IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-流体供給装置 図1
  • 特開-流体供給装置 図2
  • 特開-流体供給装置 図3
  • 特開-流体供給装置 図4
  • 特開-流体供給装置 図5
  • 特開-流体供給装置 図6
  • 特開-流体供給装置 図7
  • 特開-流体供給装置 図8
  • 特開-流体供給装置 図9
  • 特開-流体供給装置 図10
  • 特開-流体供給装置 図11
  • 特開-流体供給装置 図12
  • 特開-流体供給装置 図13
  • 特開-流体供給装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127341
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】流体供給装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/145 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
A61M5/145 510
A61M5/145 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031069
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005038
【氏名又は名称】セイコーグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明彦
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勝平
(72)【発明者】
【氏名】國分 友隆
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD11
4C066DD13
4C066EE14
4C066FF04
4C066HH02
4C066HH03
4C066HH13
4C066QQ32
4C066QQ48
4C066QQ85
4C066QQ92
(57)【要約】
【課題】プランジャの速度制御を行うことができると共に、流体を所望の供給態様で外部に供給することができ、且つ省電力化を図ること。
【解決手段】収容筒50及びプランジャ51を有する流体収容器2を収容する本体ケース3と、プランジャを押込み方向FWに移動させる可動体4と、可動体を押込み方向に向けて押圧するばね部材6と、可動体の移動を制御する制御機構5と、を備え、ばね部材は、弾性体が渦巻き状に巻回された巻回部161と、巻回部から引き伸ばされた引出部とを備え、ばね部材は弾性復元力を利用して可動体を押圧し、制御機構は、軸線Mと同軸に配置された送りねじ70と、送りねじに螺着されると共に可動体に連結されたナット部材と、送りねじを回転させるための動力を発生させる駆動モータ80と、駆動モータからの動力を送りねじに伝達する伝達機構90と、を備えている流体供給装置1を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が充填される収容筒と、前記収容筒内に軸線に沿って摺動移動可能に配置され、押込み方向に向けた移動によって前記流体を外部に供給するプランジャと、を有する流体収容器を収容する本体ケースと、
前記軸線に沿って移動可能に配置されると共に、前記プランジャを押圧して、前記プランジャを前記押込み方向に移動させる可動体と、
前記可動体を前記押込み方向に向けて押圧するばね部材と、
前記可動体を前記押込み方向に所定の速度で移動するように、前記可動体の移動を制御する制御機構と、を備え、
前記ばね部材は、
帯状の弾性体が渦巻き状に巻回され、前記本体ケースに保持された巻回部と、
前記可動体に連結されると共に、前記弾性体のうち前記巻回部から引き伸ばされた部分である引出部と、を備え、
前記ばね部材は、前記引出部が引き伸ばされた状態から巻回する状態に復元変形するときの弾性復元力を利用して、前記可動体を押圧し、
前記制御機構は、
前記軸線と同軸に配置された送りねじと、
前記送りねじに螺着されると共に、前記可動体に連結されたナット部材と、
前記送りねじを回転させるための動力を発生させる駆動モータと、
前記駆動モータからの動力を前記送りねじに伝達する伝達機構と、を備えていることを特徴とする流体供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体供給装置において、
前記引出部は、前記軸線を対称軸として線対称に配置されると共に前記流体収容器の両側に配置される、流体供給装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流体供給装置において、
前記送りねじの外周面には、前記ナット部材に螺合する雄ねじ部が形成され、
前記雄ねじ部は、該雄ねじ部のねじ山のピッチよりも、リードが大きくなるように形成されている、流体供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種の分野において薬液を送り出す薬液ポンプが使用されている。例えば、理化学分野、医療分野において薬液を注入する場合や、水処理分野において酸、アルカリ等の薬液を注入する場合や、畜産分野において栄養剤等の薬液を注入する場合等に薬液ポンプが使用されている。
【0003】
この種の薬液ポンプとして、例えば下記特許文献1に示されるように、薬液が充填されたシリンジと、シリンジのプランジャ(押し子)と、プランジャに固定されたナット部材に螺着された送りねじと、複数の歯車を介して送りねじに動力を伝達する駆動モータと、を具備する薬液ポンプが知られている。
この薬液ポンプによれば、駆動モータからの動力を利用して送りねじを回転させることで、ナット部材を介してプランジャを移動させることができ、プランジャを押圧することができる。その結果、シリンジ内から薬液を排出することができ、薬液を外部に供給することができる。
【0004】
同様の薬液ポンプとして、下記特許文献2に示される薬液ポンプが知られている。
この薬液ポンプは、薬液が充填されたシリンジの外筒を保持する保持体と、シリンジのプランジャを押圧する押圧部材と、押圧部材を付勢する渦巻きばねと、を具備する。渦巻きばねは、帯状の弾性体が渦巻き状に巻回されることで構成されている。渦巻きばねは、弾性体の外端部が保持体に固定されると共に、外端部から引き伸ばされた状態で、弾性体の内端部を含む巻回部分が押圧部材に収納されている。
この薬液ポンプによれば、渦巻きばねが自身の弾性復元力によって、引き伸ばされた部分を巻き取るように弾性復元変形する。これにより、押圧部材を移動させてプランジャを押圧することができる。その結果、シリンジ内から薬液を排出することができ、薬液を外部に供給することができる。
【0005】
さらに同様の薬液ポンプとして、例えば下記特許文献3に示される薬液ポンプが知られている。
この薬液ポンプは、プランジャの移動に伴って薬液が吐出されるシリンジを保持する保持部材と、所定の駆動力でプランジャを押圧して、プランジャをシリンジ内に向かう第1方向に移動させる駆動部と、プランジャの移動を調整する調整機構と、を具備する。調整機構は、シリンジ内でのプランジャの移動に起因して生じる抵抗力と駆動力との差分に応じて、プランジャに対して第1方向と同じ方向に補助力を付与、或いはプランジャに対して第1方向とは反対の第2方向に反力を付与する。
この薬液ポンプによれば、調整機構がシリンジ内でのプランジャの移動に起因して生じる抵抗力と駆動力との差分に応じて、補助力或いは反力をプランジャに付与するので、一定の移動量でプランジャを移動させることができ、薬液を一定の吐出量で吐出することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6442480号公報
【特許文献2】特開2011-250867号公報
【特許文献3】特開2021-122315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の薬液ポンプでは、駆動モータからの動力を利用して送りねじを回転させることで、ナット部材を介してプランジャを移動させているため、プランジャを所望の速度で移動させ易い。しかしながら、プランジャを押圧するための推力が、駆動モータの動力(回転トルク)によって決定されてしまう。従って、薬液の粘性やプランジャの摺動抵抗等の影響を受けることなく、安定した推力でプランジャを押圧するためには、例えば駆動モータを大型化する等して、大きな回転トルクを確保する必要がある。しかし、このような場合には、小型化、薄型化を図り難いうえ、省電力化を図り難くなってしまう。
【0008】
この点、上記特許文献2に記載の発明では、駆動モータに代えて、渦巻きばねによる動力を利用してプランジャを押圧しているため、例えば駆動モータを利用する場合よりも省電力化等を図り易い。しかしながら、プランジャを押圧するための推力が、渦巻きばねの巻取りに伴って変動する可能性があり、プランジャを所望の速度で安定に移動させることが難しい。
【0009】
さらに特許文献3に記載の発明では、シリンジ内でのプランジャの移動に起因して生じる抵抗力と駆動力との差分に応じて、補助力或いは反力をプランジャに付与している。しかしながら、ぜんまいの巻き解けによる動力を利用して、調整機構が補助力を付与している。そのため、ぜんまいの巻取りに伴って補助力が変動する可能性があり、プランジャを一定の推力で押圧することや、所望の速度で安定に移動させることが難しい。さらに、プランジャの移動速度を動作の途中で変化させることが難しい。
【0010】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、プランジャの速度制御を行うことができると共に、流体を所望の供給態様で外部に供給することができ、且つ省電力化を図ることができる流体供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る流体供給装置は、内部に流体が充填される収容筒と、前記収容筒内に軸線に沿って摺動移動可能に配置され、押込み方向に向けた移動によって前記流体を外部に供給するプランジャと、を有する流体収容器を収容する本体ケースと、前記軸線に沿って移動可能に配置されると共に、前記プランジャを押圧して、前記プランジャを前記押込み方向に移動させる可動体と、前記可動体を前記押込み方向に向けて押圧するばね部材と、前記可動体を前記押込み方向に所定の速度で移動するように、前記可動体の移動を制御する制御機構と、を備え、前記ばね部材は、帯状の弾性体が渦巻き状に巻回され、前記本体ケースに保持された巻回部と、前記可動体に連結されると共に、前記弾性体のうち前記巻回部から引き伸ばされた部分である引出部と、を備え、前記ばね部材は、前記引出部が引き伸ばされた状態から巻回する状態に復元変形するときの弾性復元力を利用して、前記可動体を押圧し、前記制御機構は、前記軸線と同軸に配置された送りねじと、前記送りねじに螺着されると共に、前記可動体に連結されたナット部材と、前記送りねじを回転させるための動力を発生させる駆動モータと、前記駆動モータからの動力を前記送りねじに伝達する伝達機構と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る流体供給装置によれば、ばね部材が、引き伸ばされた引出部を巻回部に巻回するように弾性復元変形する。これにより、ばね部材による弾性復元力を利用して、引出部を巻回部側に引っ張ることができ、引出部に連結された可動体を軸線に沿って押込み方向に向けて押圧することができる。この際、送りねじに螺着されたナット部材が可動体に連結されているので、送りねじ及びナット部材を利用して、プランジャの移動速度を制御することができる。
プランジャを移動させる場合には、駆動モータを作動させ、該駆動モータで発生した動力(回転トルク)を、伝達機構を介して送りねじに伝達することにより、送りねじを軸線回りに回転させることができる。送りねじに螺着されたナット部材は、ばね部材の引出部に連結された可動体に組み合わされているので、送りねじの回転に伴って回転することがない。従って、送りねじの回転に伴って、ナット部材を含む可動体を軸線に沿って押込み方向に移動させることができる。特に駆動モータを利用しているので、可動体の移動速度を制御することが可能である。従って、プランジャの移動速度を制御することができる。
【0013】
従って、ばね部材による弾性復元力によって押圧されたプランジャを、速度制御しながら押込み方向に向けて移動させることができる。その結果、収容筒内に充填された流体をプランジャで押し出すことがで、流体を外部に供給することができる。特に、プランジャを速度制御しながら移動させることができるので、流体を精度良く外部に供給することができる。しかも、駆動モータによってプランジャの移動速度を変化させることが可能であるので、外部への流体の供給量を任意に変化させることもできる。その結果、流体を所望の供給態様で外部に供給することができる。
さらに、プランジャの抵抗が変化した場合であっても、駆動モータによって送りねじを安定して回転させることができるので、プランジャの移動速度を維持することが可能である。これにより、安定的な流体の供給を行える。なお、例えばプランジャの抵抗が過度に大きくなった場合には、ばね部材からの弾性復元力に加えて、駆動モータからの動力を推力として利用することができる。従って、プランジャを押圧する推力を増幅することができ、安定的な流体の供給を行える。
【0014】
さらにばね部材における巻回部は、本体ケースによって保持されているため、巻回部の位置を変化させることなく、弾性復元変形によって引出部を引っ張って巻回することができる。従って、巻回部を移動させることなく、可動体を移動させることができるので、巻回部の移動スペースが不要となり、その分、省スペース化を図ることができる。特に巻回部は、引出部を巻回するにつれてサイズが大きくなるため、有効に省スペース化を図ることができる。そのため、流体供給装置全体の小型化、薄型化に繋げることができる。
さらには、駆動モータを利用しつつも、ばね部材による弾性復元力を主な推力としてプランジャを移動させるので、例えば動力の小さい駆動モータを利用することができる。従って、省電力化に繋げることができる。
【0015】
(2)(1)に記載の流体供給装置において、前記引出部は、前記軸線を対称軸として線対称に配置されると共に前記流体収容器の両側に配置されても良い。
【0016】
この場合には、引出部が、軸線を対称軸として線対称に配置されるように、流体収容器を挟んで配置された状態で可動体に連結されている。そのため、可動体にモーメント荷重が発生することを抑制しながら押込み方向に移動させることができる。従って、プランジャを軸線に沿って連続的に真っすぐに移動させることができると共に、スティックスリップ現象(いわゆるびびり現象)を生じさせ難い。従って、プランジャを押込み方向に向けて抵抗少なくスムーズに移動させることができる。
【0017】
(3)(1)又は(2)に記載の流体供給装置において、前記送りねじの外周面には、前記ナット部材に螺合する雄ねじ部が形成され、前記雄ねじ部は、該雄ねじ部のねじ山のピッチよりも、リードが大きくなるように形成されても良い。
【0018】
この場合には、雄ねじ部のねじ山のピッチよりもリード(送りねじが1回転したときの軸方向に進む距離)を大きくすることができる。そのため、駆動モータの動力が小さい場合であっても、プランジャを効率良く移動させることができると共に、ばね部材の弾性復元力を効率良く利用してプランジャを押圧することができる。従って、さらに動力の小さい駆動モータを利用することができ、さらなる省電力化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る流体供給装置によれば、プランジャの速度制御を行うことができると共に、流体を所望の供給態様で外部に供給することができ、且つ省電力化を図ることができる。従って、流体として例えばインスリン等の薬液を採用した場合には、患者に対する薬液の安定的な投与や、患者に合わせた投与量の調整等を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る流体供給装置(薬液投与装置)の実施形態を示す図であって、薬液投与装置全体の構成を示す斜視図である。
図2図1に示す上部ケースを取り外した状態を示す薬液投与装置の斜視図である。
図3図2に示す薬液投与装置の上視図である。
図4図2に示す下部ケースの斜視図である。
図5図2に示す薬液投与装置を異なる視点から見た斜視図である。
図6図5に示す状態から、下部ケース及び制御基板等を取り外した状態を示す斜視図である。
図7図6に示す渦巻きばね等を異なる視点から見た斜視図である。
図8図7に示す状態からプランジャ等を取り外した状態を示す斜視図である。
図9図8に示すスライダ等を下方から見た斜視図である。
図10図8に示す状態から渦巻きばね及びスライダ等を取り外した状態を示す斜視図である。
図11図2に示す伝達機構の周辺を示す斜視図である。
図12図11に示す状態からベース板等を取り外した状態を示す斜視図である。
図13】渦巻きばねの変形例を示す上面図である。
図14】渦巻きばねの別の変形例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る流体供給装置の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、流体供給装置を、薬液を使用者の体内に投与する薬液投与装置に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0022】
(薬液投与装置)
図1図3に示すように、本実施形態の薬液投与装置(本発明に係る流体供給装置)1は、薬液W(本発明に係る流体)(図5参照)が充填されたシリンジ(本発明に係る流体収容器)2を収容する本体ケース3と、シリンジ2のプランジャ51を移動させるスライダ(本発明に係る可動体)4と、スライダ4の移動を制御する制御機構5と、スライダ4を押圧する渦巻きばね(本発明に係るばね部材)6と、を備えている。
なお、薬液Wとしては特に限定されるものではないが、例えばインスリンが挙げられる。この場合、薬液投与装置1はインスリン投与装置として機能する。
【0023】
(本体ケース)
本体ケース3は、シリンジ2を内部に収容すると共に、薬液投与装置1を構成する各種の構成品を内部に収容するケースであり、使用者の体表面Sに装着可能とされている。本体ケース3は、例えば下部ケース10及び上部ケース20が組み合わされた構成とされ、使用者の予め決められた装着箇所(例えば腹部周辺)に装着可能とされている。
なお、本体ケース3を使用者の体表面Sに装着する装着方法については、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用して構わない。例えば、粘着テープ等を利用して本体ケース3を体表面Sに貼着しても構わないし、クリップや装着ベルト等の図示しない装着部材を本体ケース3に組み合わせ、装着部材を介して本体ケース3を体表面Sに装着しても構わない。
【0024】
本体ケース3は、下部ケース10及び上部ケース20が上下方向に重なるように組み合わされることで構成されている。下部ケース10と上部ケース20とが組み合わされることで画成された内部空間に、薬液投与装置1を構成する各構成品が内蔵されている。
なお、本実施形態では、本体ケース3の厚さ方向を上下方向といい、下部ケース10から上部ケース20に向かう方向を上方、その反対方向を下方という。さらに上下方向に直交する一方向を前後方向L1といい、上下方向及び前後方向L1に直交する方向を左右方向L2という。さらに前後方向L1のうち一方側を前方FWといい、その反対方向を後方BKという。さらに左右方向L2のうち一方側を右側RHといい、その反対方向を左側LHという。
【0025】
本実施形態では、本体ケース3は、左右方向L2よりも前後方向L1に長く、且つ厚みの薄い箱型の直方体状に形成されている。さらに本体ケース3の四隅は、丸みを帯びた形状とされている。ただし、本体ケース3の形状はこの場合に限定されるものではなく、例えば平面視円形状、楕円状、多角形状等、任意の形状に形成しても構わない。
本体ケース3は、下部ケース10を使用者の体表面Sに接触させた状態で装着されても構わないし、上部ケース20を使用者の体表面Sに接触させた状態で装着されても構わない。
【0026】
図1図4に示すように、下部ケース10は、上方に開口した有底筒状に形成されている。下部ケース10内の右側RHには、主にシリンジ2及び後述する送りねじ70が前後方向L1に並ぶように配置されている。具体的には、シリンジ2は、送りねじ70よりも前方FWに位置するように配置されている。下部ケース10内の左側LHには、シリンジ2及び送りねじ70に対して左右方向L2に並ぶように制御基板30が配置されている。
下部ケース10の四隅のうち、前方FW且つ右側RHに位置する角部を除いた残り3箇所の角部には、連結ねじ孔31が形成された支柱部32が形成されている。さらに下部ケース10の前方FWに位置する周壁についても同様に、連結ねじ孔31が形成された支柱部32が形成されている。
【0027】
図1に示すように、上部ケース20は、下方に開口した有頂筒状に形成され、下部ケース10に対して上方から重ね合わせ可能とされている。上部ケース20は、主に連結ねじ孔31に連結ねじ33を螺着することで、下部ケース10に対して一体的に組み合わされている。
上部ケース20の頂壁のうち、前方FW且つ左側LHに位置する角部には、下方に凹んだ段差部21が形成されている。段差部21の壁面には、例えばチューブ取付部22を有する連結口23が形成されている。なお、連結口23は、前方FWに向くように配置されている。
【0028】
図2図4に示すように、下部ケース10の底壁には、シリンジ2を保持する第1保持台40及び第2保持台45が設けられている。
第1保持台40及び第2保持台45は、前後方向L1に間隔をあけて並ぶように配置されている。第1保持台40は、後述するシリンジ本体50を下方から支持することでシリンジ2を保持する。第1保持台40は、左右方向L2に延びる横リブ状に形成され、例えば底壁に一体に形成されている。第1保持台40の上面には、シリンジ本体50の外径に対応した曲率で下方に湾曲した円弧面41が形成とされている。これにより、第1保持台40を利用して、シリンジ本体50を下方から支持することが可能とされている。
【0029】
第2保持台45は、第1保持台40よりも後方BKに配置され、例えば底壁上に形成された突起部46(図4参照)を利用して下部ケース10に一体に組み合わされている。第2保持台45は、左右方向L2に沿って延びると共に、上下方向に一定の高さを有するプレート状に形成されている。第2保持台45は、シリンジ本体50に形成された後述するフランジ部50aを保持することで、シリンジ2を前後方向L1及び左右方向L2に位置決めしている。
なお、第2保持台45には、該第2保持台45を前後方向L1に貫通すると共に、後述するプランジャ51を挿通させるためのプランジャ挿通孔47が形成されている。
【0030】
上述のように構成された第1保持台40でシリンジ本体50を支持した状態で、第2保持台45を利用してフランジ部50aを保持することで、シリンジ2の全体を前後方向L1及び左右方向L2に位置決めした状態で保持することが可能とされている。これにより、シリンジ2は、位置決めされた状態で本体ケース3内に取り外し可能に収容されている。
【0031】
さらに下部ケース10の底壁には、図4に示すように、前後方向L1に沿って延びる縦長の案内レール34が形成されている。案内レール34は、底壁のうち突起部46よりも後側に位置する部分に形成されている。
さらに下部ケース10の底壁には、第1保持台40よりも前方FWに位置する部分に、渦巻きばね6を下方から支持する第1台座部35及び第2台座部36が一体に形成されている。第1台座部35及び第2台座部36は、所定の外径を有する円柱状に形成され、左右方向L2に間隔をあけて並ぶように配置されている。図示の例では、第1台座部35は、底壁のうち前方FW、且つ右側RHに位置する角部に配置され、第2台座部36は第1台座部35の左側LHに配置されている。なお、第1台座部35と第2台座部36との間に、支柱部32が配置されている。
【0032】
第1台座部35及び第2台座部36は、平坦な上端面を有するように形成されている。第1台座部35の上端面、及び第2台座部36の上端面の中央部には、下方に向けて凹む平面視円形状の凹部35a、36aが形成されている。図示の例では、第1台座部35の上端面よりも第2台座部36の上端面の方が上方に位置するように、第1台座部35及び第2台座部36は高さが異なるように形成されている。
【0033】
さらに下部ケース10の底壁のうち、第1保持台40及び案内レール34よりも左側LHに位置する部分には、制御基板30を下方から支持する複数(4つ)のボス部37が一体に形成されている。
【0034】
(シリンジ)
次いで、薬液投与装置1にセットされるシリンジ2について説明する。
図2図3及び図5に示すように、シリンジ2は、例えばリザーババレル等と称される薬液容器であって、内部に薬液Wが充填されるシリンジ本体(本発明に係る収容筒)50と、シリンジ本体50の内部に摺動移動可能に配置されたプランジャ51と、を備えている。
【0035】
シリンジ本体50は、前後方向L1に沿って延びるシリンジ軸線(本発明に係る軸線)Mを中心とした円筒状に形成され、内部に薬液Wを充填することが可能とされている。具体的には、シリンジ本体50は、前端部側が閉塞し、且つ後端部側が開口した有頂筒状に形成されている。
なお、例えば予め薬液Wが充填された図示しないバイアル(またはアンプルともいう)から薬液Wを移し替えて或いは吸い上げることで、シリンジ本体50内に充填することが可能とされている。
【0036】
シリンジ本体50の前端部には、図示しない流体供給口が形成されている。この流体供給口には、図示しないチューブが取り付けられている。チューブは、上部ケース20に設けられたチューブ取付部22に接続されている。これにより、シリンジ本体50内の薬液Wを、流体供給口を通じてチューブ内に供給し、チューブ取付部22に導くことが可能とされている。
さらにシリンジ本体50の後端部には、外側に向かって突出したフランジ部50aが形成されている。
【0037】
図5図7に示すように、プランジャ51は、後方BKからシリンジ本体50内に挿入され、シリンジ軸線Mに沿って摺動移動可能とされている。プランジャ51は、前後方向L1に沿って延びる第1プランジャ軸52及び第2プランジャ軸53と、第1プランジャ軸52及び第2プランジャ軸53の前端部に一体に形成された円柱状のガスケット部54と、を備えている。
ガスケット部54は、シリンジ軸線Mに沿ってシリンジ本体50内を前後摺動可能とされている。ガスケット部54の外周面には、Oリング等のシール部材が固定されている。これにより、ガスケット部54とシリンジ本体50との間は、密(液密、気密)にシールされている。
【0038】
第1プランジャ軸52及び第2プランジャ軸53は、シリンジ軸線Mを挟んで左右方向L2に向かい合うように配置されている。第1プランジャ軸52及び第2プランジャ軸53は、第2保持台45に形成されたプランジャ挿通孔47を挿通した状態でガスケット部54に連結されている。さらに第1プランジャ軸52及び第2プランジャ軸53の後端部には、スライダ4に連結される連結部55が形成されている。
【0039】
上述のように構成されたシリンジ2は、先に述べたように、第1保持台40及び第2保持台45によって保持されることで、前後方向L1及び左右方向L2に位置決めされた状態で下部ケース10に取り外し可能に組み合わされている。
なお、プランジャ51を後方BKから前方FWに向けて移動させることで、シリンジ本体50内にプランジャ51を押込むことができる。従って、本実施形態では、前方FWがプランジャ51の押込み方向となる。
【0040】
(スライダ)
図2及び図3に示すように、スライダ4は、シリンジ軸線Mに沿って前後方向L1に移動可能に配置されると共に、プランジャ51を押圧して、該プランジャ51を押込み方向である前方FWに向けて移動させる役割を果たしている。
【0041】
図8及び図9に示すように、スライダ4は、前後方向L1に所定の厚みを有すると共に、前後方向L1から見て外形が四角形状となるように形成され、プランジャ51よりも後方BK側に配置されている。スライダ4には、該スライダ4を前後方向L1に貫通する複数の連結孔60が形成されている。
図5図7に示すように、スライダ4は、第1プランジャ軸52及び第2プランジャ軸53の後端部に形成された連結部55の一部分を、複数の連結孔60内に挿し込んだ状態で、プランジャ51に対して後方BKから組み合わされている。図8及び図9に示すように、スライダ4の下面には、例えばスライダ4と連結部55とを連結する連結ねじ61が螺着されている。これにより、スライダ4及びプランジャ51は、互いに一体に組み合わされている。
【0042】
さらにスライダ4の下面には、下方に向けて突出すると共に、下部ケース10の底壁に形成された案内レール34に対して左右方向L2の両側から摺接する案内片62が形成されている。なお、案内レール34は、シリンジ軸線Mの下方にシリンジ軸線Mと平行に配置されている(図4参照)。これにより、スライダ4は、案内レール34に沿って案内片62が摺接することで、シリンジ軸線Mに沿ってがたつき少なく真っすぐに移動可能とされている。
【0043】
スライダ4の中央部には、該スライダ4を前後方向L1に貫通すると共に、後述するナット部材75が組み込まれるナット用開口部63が形成されている。さらにスライダ4には、左右方向L2の両側に向けて突出する連結ピン64が形成されている。
【0044】
(制御機構)
図2に示すように、制御機構5は、スライダ4を押込み方向に所定の速度で移動するようにスライダ4の移動を制御する。制御機構5は、図7図10図12に示すように、シリンジ軸線Mと同軸に配置された送りねじ70と、送りねじ70に螺着されると共にスライダ4に連結されたナット部材75と、送りねじ70を回転させるための動力(回転トルク)を発生させる駆動モータ80と、駆動モータ80からの動力を送りねじ70に伝達する伝達機構90と、を備えている。
【0045】
送りねじ70は、前後方向L1に沿って延びる螺軸(リードスクリュー)であって、シリンジ軸線Mと同軸となるように、シリンジ本体50よりも後方BKに配置されている。具体的には、送りねじ70は、第1プランジャ軸52と第2プランジャ軸53との間に位置するように配置されている。送りねじ70は、スライダ4よりも後方BK側に配置されたベース板100よりも、さらに後方BKに突出するように配置されている。
【0046】
ベース板100には、該ベース板100を前後方向L1に貫通すると共に、送りねじ70が挿通される図示しない挿通孔が形成されている。送りねじ70の後端部は、この挿通孔を通じてベース板100よりも後方BKに突出している。なお、送りねじ70の外周面には、送りねじ70の全長に亘って雄ねじ部71が形成されている(図10図12参照)。
【0047】
ナット部材75は、送りねじ70に螺着された状態で、スライダ4に形成されたナット用開口部63の内側に組み込まれている。ナット部材75の内周面には、送りねじ70の雄ねじ部71に螺合する図示しない雌ねじ部が形成されている。さらにナット部材75には、下方に向けて突出する回り止め突起76が形成されている(図10図12参照)。
【0048】
ナット部材75は、回り止め突起76をスライダ4に形成された図示しない回り止め凹部内に係合させた状態でナット用開口部63の内側に組み込まれている。これにより、ナット部材75は、シリンジ軸線M回りの回転が規制された状態で送りねじ70に螺着されている。従って、送りねじ70をシリンジ軸線M回りに回転させることで、送りねじ70の回転運動をスライダ4の直線運動に変換することができ、スライダ4の全体をシリンジ軸線Mに沿って前後方向L1に移動させることが可能とされている。これにより、スライダ4を介してプランジャ51を押圧し、該プランジャ51を押込み方向に移動させることが可能とされている。
【0049】
ベース板100は、駆動モータ80及び伝達機構90等の構成品を支持する支持基板であり、下部ケース10の底壁のうちスライダ4よりも後方BKに位置する部分に固定されている。なお、ベース板100は、下部ケース10の底壁に形成された複数の突起部(図4参照)38等を利用して下部ケース10に一体に組み合わされている。
さらにベース板100は、該ベース板100の上端面に形成された固定ねじ孔101に螺着された固定ねじ102(図1参照)によって、上部ケース20の頂壁と一体に固定されている。
【0050】
ベース板100は、前後方向L1に所定の厚みを有すると共に、左右方向L2に延びるプレート状に形成され、下部ケース10内を前後方向L1に区画するように形成されている。図示の例では、ベース板100は、スライダ4の後方BKに位置する部分よりも、制御基板30の後方BKに位置する部分の方が後方BK側にシフトするように、前後方向L1に屈曲した平面視Z状に形成されている。
ただし、この場合に限定されるものではなく、例えばベース板100は左右方向L2に沿って延びる平坦なプレート状に形成されていても構わない。
【0051】
ベース板100のうち制御基板30の後方BKに位置する部分には、駆動モータ80が固定されている。駆動モータ80は、駆動ギア81が連結された駆動軸82をベース板100の後方BKに突出させた状態で、ベース板100に固定されている。なお、駆動モータ80は、例えばステッピングモータとされている。
【0052】
ベース板100のうちスライダ4の後方BKに位置する部分の後壁には、送りねじ70の後端部に固定された最終ギア91がシリンジ軸線M回りに回転可能に固定されている。さらにベース板100の後壁には、互いに噛み合う複数の中間ギアが回転可能に固定されている。
本実施形態では、ベース板100のうち制御基板30の後方BKに位置する部分の後壁に回転可能に固定された第1中間ギア92と、ベース板100のうちスライダ4の後方BKに位置する部分の後壁に回転可能に固定された第2中間ギア93と、を有している。第1中間ギア92は、2段ギアとされ、駆動ギア81に噛み合っている。第2中間ギア93は、2段ギアとされ、第1中間ギア92に噛み合うと共に、最終ギア91に噛み合っている。
【0053】
これにより、駆動モータ80の動力を、駆動ギア81、第1中間ギア92、第2中間ギア93及び最終ギア91を介して送りねじ70に伝達することが可能とされている。これら駆動ギア81、第1中間ギア92、第2中間ギア93及び最終ギア91は、いわゆる輪列機構であり、上記伝達機構90として機能する。
【0054】
図2に示すように、ベース板100の後方BKには、該ベース板100との間に一定のスペースをあけた状態で保護板110が配置されている。保護板110は、少なくとも第1中間ギア92、第2中間ギア93及び最終ギア91を後方BKから覆うサイズに形成され、複数のスペーサ111及び複数の固定ねじ112を利用してベース板100に固定されている。これにより、第1中間ギア92、第2中間ギア93及び最終ギア91は、ベース板100と保護板110との間に配置されることで、保護されている。
【0055】
(制御基板)
図2及び図3に示すように、下部ケース10内には、上述したシリンジ2よりも左側LHに位置し、且つベース板100よりも前方FWに位置する部分に制御基板30が配置されている。
制御基板30は、下部ケース10の底壁に形成された複数のボス部37によって支持されていると共に、これらボス部37に螺着された固定ねじ120によって制御基板30はボス部37に一体に組み合わされている。
【0056】
図示の例では、制御基板30は、左右方向L2よりも前後方向L1に長い平面視長方形状に形成されている。制御基板30には、例えば薬液投与装置1全体を総合的に制御するCPU等の制御部、フラッシュメモリ等の各種記憶部等を含む、複数の電子部品が実装されていると共に、各種の構成品に電力を供給する電源部等が実装されている。なお電源部は、例えばボタン電池、乾電池等の交換可能な一次電池、或いは充放電可能な二次電池等、適宜採用して構わない。
【0057】
さらに制御基板30には、制御部からの指示に基づいて駆動パルスを出力する図示しないモータ制御部と、駆動パルスに基づいた制御電流を駆動モータ80に供給する図示しないドライバ等が設けられている。これにより、駆動モータ80は、例えば回転速度及び回転角度等が制御されている。
【0058】
(渦巻きばね)
図2図3図5図8に示すように、渦巻きばね6は、スライダ4を押込み方向に向けて押圧する役割を果たしている。
本実施形態では、2つの渦巻きばね6を有している。このうち一方の渦巻きばね6を第1渦巻きばね130といい、他方の渦巻きばね6を第2渦巻きばね140という。
第1渦巻きばね130は、第1台座部35上に配置された円筒状の第1ボビン150を主に利用して下部ケース10内に配置されている。第2渦巻きばね140は、第2台座部36上に配置された円筒状の第2ボビン151を主に利用して下部ケース10内に配置されている。
【0059】
第1ボビン150は、第1台座部35の外径と同径の外径を有し、且つ凹部35aの直径と同径の内径を有する円筒状に形成されている。第1ボビン150の内側には、円柱状の第1軸部152が上方から差し込まれている。第1軸部152の下端部は、第1台座部35に形成された凹部35aの内側に嵌合されている。第1軸部152の上端部は、例えば上部ケース20の頂壁に対して下方から接触している。これにより、第1軸部152は、下部ケース10と上部ケース20との間に上下方向に挟まれている。
そして、第1ボビン150は、第1軸部152の中心軸線を中心として回転可能に第1台座部35上に配置されている。
【0060】
第2ボビン151は、第2台座部36の外径と同径の外径を有し、且つ凹部36aの直径と同径の内径を有する円筒状に形成されている。第2ボビン151の内側には、円柱状の第2軸部153(図1参照)が上方から差し込まれている。第2軸部153の下端部は、第2台座部36に形成された凹部36aの内側に嵌合されている。第2軸部153の上端部は、例えば上部ケース20の頂壁に組み合わされている。これにより、第2軸部153は、下部ケース10と上部ケース20との間に上下方向に挟まれている。
そして、第2ボビン151は、第2軸部153の中心軸線を中心として回転可能に第2台座部36上に配置されている。
【0061】
第1渦巻きばね130は、厚みが薄く、且つ所定の幅を有する長尺な帯状の弾性体160を渦巻き状に巻回することで構成されている。なお、弾性体160の材質としては、特に限定されるものではないが、例えばステンレス等の金属製としても構わないし、合成樹脂製であっても構わない。
【0062】
第1渦巻きばね130は、弾性体160が渦巻き状に巻回され、第1ボビン150に外装された巻回部161と、スライダ4に連結されると共に、弾性体160のうち巻回部161から引き伸ばされた部分である引出部162と、を備えている。
巻回部161は、第1ボビン150を囲むように外装され、第1ボビン150に対して相対移動可能とされている。これにより、巻回部161は、例えば第1軸部152の中心軸線回りに回転しながら引出部162を効率良く巻き取ることが可能とされている。
【0063】
巻回部161は、第1ボビン150を囲むように外装されることで、下部ケース10を含む本体ケース3によって保持されている。特に巻回部161は、シリンジ本体50よりも押込み方向側(前方FW側)に配置されている。
【0064】
引出部162は、巻回部161からシリンジ軸線Mと平行に前方FWに向かって引き伸ばされていると共に、シリンジ2の右側RHに隣接するように配置されている。引出部162の端部は、スライダ4に形成された連結ピン64を利用してスライダ4に連結されている。
【0065】
このように構成された第1渦巻きばね130は、引出部162が引き伸ばされた状態から巻回する状態に弾性復元変形するときの弾性復元力を利用して、スライダ4を前方FWに押圧している。これにより、スライダ4を前方FWに向けて移動させることができ、第1渦巻きばね130の弾性復元力に起因する推力によって、プランジャ51を押込み方向(前方FW)に向けて移動させ、プランジャ51をシリンジ本体50内に押し込むことが可能とされている。
【0066】
なお、第1渦巻きばね130は、いわゆる定荷重ばねとされ、例えばコイルばね等に比べて、伸びた状態から巻回によって元の状態に復元する間の弾性復元力がほぼ一定となる特性を有している。従って、予め決められた一定の推力でプランジャ51を押圧可能とされている。
【0067】
第2渦巻きばね140は、上述した第1渦巻きばね130と同様に構成されている。従って、第2渦巻きばね140に関し、第1渦巻きばね130と同一の構成部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
つまり、第2渦巻きばね140は、巻回部161及び引出部162を備えている。なお、巻回部161は、第2ボビン151を囲むように外装されることで、下部ケース10を含む本体ケース3によって保持されている。これにより、第2渦巻きばね140の巻回部161についても、シリンジ本体50よりも押込み方向側(前方FW側)に配置されている。
さらに引出部162は、巻回部161からシリンジ軸線Mと平行に前方FWに向かって引き伸ばされていると共に、シリンジ2の左側LHに隣接するように配置されている。そして引出部162の端部は、スライダ4に形成された連結ピン64を利用して連結されている。
【0068】
上述のように配置された第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140は、図3に示すように、上方から見た平面視で、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称に配置されている。これにより、第1渦巻きばね130の引出部162及び第2渦巻きばね140の引出部162は、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称に配置されると共に、シリンジ2を挟んで左右方向L2に配置された状態でスライダ4にそれぞれ連結されている。さらに、第1渦巻きばね130の引出部162及び第2渦巻きばね140の引出部162は、シリンジ軸線Mに平行に配置され、シリンジ2の左右両側に配置されている。
【0069】
(注入セット)
上述のように構成された薬液投与装置1において、図1に示すように、チューブ取付部22には、例えば注入セット170が接続されている。
注入セット170は、使用者の体表面Sに例えば貼着等によって取り付け可能とされた注入パッチ171と、チューブ取付部22と注入パッチ171との間に接続された中継チューブ172と、を備えている。
【0070】
注入パッチ171は、図示しない内針と共に体内に穿刺可能とされ、内針の引き抜きによって体表面Sに留置されるプラスチック製のカニューレ型の留置針173を備えている。これにより、シリンジ2内から供給された薬液Wを、中継チューブ172及び留置針173を通じて使用者の体内に投与することが可能とされている。なお、留置針173は、本体ケース3を体表面Sに装着している間、使用者に穿刺された状態で体表面Sに留置可能とされている。
【0071】
なお、注入セット170は必須なものではなく、具備しなくても構わない。例えば、チューブ取付部22に、留置針173を直接的に接続しても構わない。
【0072】
(薬液投与装置の作用)
次に、上述のように構成された薬液投与装置1を使用して、使用者の体内に薬液Wを投与する場合について説明する。
【0073】
なお、この場合の初期状態として、図1に示すように薬液投与装置1が使用者の体表面Sに装着され、留置針173が体内に穿刺された状態で体表面Sに留置されているものとする。さらに、薬液Wが充填されたシリンジ2が本体ケース3内にセットされているものとする。さらに、スライダ4がプランジャ51よりも後方BK側に位置して、プランジャ51が押し込み開始位置にセットされているものとする。
【0074】
上述の初期状態のもと、薬液投与装置1によれば、図3に示すように、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140が、引き伸ばされた引出部162を巻回部161に巻回するように弾性復元変形する。これにより、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140による弾性復元力を利用して、図3に示す矢印Fの如く引出部162を前方FWに向けて引っ張ることができ、引出部162に連結されたスライダ4をシリンジ軸線Mに沿って前方FWに向けて押圧することができる。
その結果、スライダ4を介してプランジャ51を押込み方向に向けて、一定の推力で押圧することができる。
【0075】
この際、送りねじ70に螺着されたナット部材75がスライダ4に連結されているので、送りねじ70及びナット部材75を利用してプランジャ51の移動速度を制御することができる。
具体的にプランジャ51を移動させる場合には、駆動モータ80を作動させる。これにより、駆動モータ80で発生した動力(回転トルク)を、駆動ギア81、第1中間ギア92、第2中間ギア93及び最終ギア91を介して送りねじ70に伝達することができ、送りねじ70をシリンジ軸線M回りに回転させることができる。
【0076】
送りねじ70に螺着されたナット部材75は、シリンジ軸線M回りの回転が規制された状態でスライダ4に組み合わされているので、送りねじ70の回転によって回転することがない。従って、送りねじ70の回転運動を直線運動に変換することができ、送りねじ70の回転に伴って、ナット部材75を含むスライダ4をシリンジ軸線Mに沿って押込み方向に移動させることができる。
特に、駆動モータ80を利用しているので、スライダ4の移動速度を制御することができ、結果的にプランジャ51の移動速度を制御することができる。
【0077】
従って、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140による弾性復元力によって一定の推力で押圧されたプランジャ51を、速度制御しながら押込み方向に向けて移動させることができる。その結果、シリンジ本体50内に充填された薬液Wをプランジャ51で押し出すことができ、留置針173に向けて供給することができる。これにより、供給された薬液Wを、留置針173を通じて使用者に投与することができる。
【0078】
特に、プランジャ51を速度制御しながら移動させることができるので、薬液Wを精度良く供給することができる。しかも駆動モータ80によってプランジャ51の移動速度を変化させることが可能であるので、薬液Wの供給量を任意に変化させることもできる。その結果、薬液Wを所望の供給態様で供給することができる。
従って、使用者に対する薬液Wの安定的な投与や、使用者に合わせた投与量の調整等を行うことが可能とされている。
【0079】
さらに、プランジャ51の抵抗が変化した場合であっても、駆動モータ80によって送りねじ70を安定して回転させることができるので、プランジャ51の移動速度を維持することができる。これにより、安定的な薬液Wの供給を行える。
なお、例えばプランジャ51の抵抗が過度に大きくなった場合には、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140からの弾性復元力に加えて、駆動モータ80からの動力を推力として利用することができるので、プランジャ51を押圧する推力を増幅することが可能である。従って、この場合であっても、安定的な薬液Wの供給を行える。
【0080】
さらに、第1渦巻きばね130の巻回部161、及び第2渦巻きばね140の巻回部161は、第1ボビン150及び第2ボビン151を介して本体ケース3に保持されている。これにより、巻回部161の位置を変化させることなく、弾性復元変形によって引出部162を引っ張って巻回することができる。従って、巻回部161を移動させることなく、スライダ4を移動させることができるので、巻回部161の移動スペースが不要となり、その分、省スペース化を図ることができる。特に、巻回部161は、引出部162を巻回するにつれてサイズが大きくなるため、有効に省スペース化を図ることができる。そのため、薬液投与装置1全体の小型化、薄型化に繋げることができる。
【0081】
さらには、駆動モータ80を利用しつつも、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140による弾性復元力を主な推力としてプランジャ51を移動させるので、例えば動力の小さな駆動モータ80を利用することができる。従って、省電力化に繋げることができる。
【0082】
さらには、第1渦巻きばね130の引出部162、及び第2渦巻きばね140の引出部162は、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称に配置されると共に、シリンジ2の両側に配置された状態でスライダ4に連結されている。そのため、スライダ4にモーメント荷重が発生することを抑制しながら押込み方向に移動させることができる。従って、プランジャ51をシリンジ軸線Mに沿って連続的に真っすぐに移動させることができると共に、スティックスリップ現象(いわゆるびびり現象)を生じさせ難い。
従って、プランジャ51を押込み方向に向けて抵抗少なくスムーズに移動させることができる。その結果、プランジャ51をより安定した移動速度で移動させることができ、薬液Wを安定且つ精度良く供給することができる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の薬液投与装置1によれば、薬液Wを安定且つ精度良く供給することができると共に、小型化、薄型化を図ることができる。さらに本実施形態の薬液投与装置1によれば、プランジャ51の移動制御を行うことができると共に、薬液Wを所望の供給態様で供給することができ、且つ省電力化を図ることができる。
これらのことから、使用者に対する安定的な薬液Wの投与を行うことができると共に、携帯し易い信頼性の高いインスリン投与装置等として好適に使用することができる。さらに使用者に合わせた最適な投与量、投与速度で薬液Wを投与することもでき、使い易く、利便性に優れたインスリン投与装置等として好適に使用することができる。
【0084】
さらに本実施形態では、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140の引出部162による引っ張り力を、スライダ4の左右両側に均等に作用させることができる。従って、スライダ4にモーメント荷重が発生することを適切に抑制しながら押込み方向に移動させることができ、プランジャ51をより安定に移動させることができる。
さらに2つの渦巻きばね6、すなわち第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140を利用するので、それぞれの渦巻きばねが有する弾性復元力を抑えたとしても、プランジャ51を押圧するための適切な推力を得ることができる。従って、例えば第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140を小型化、薄型化等した場合であっても、プランジャ51を安定して移動させることができる。そのため、プランジャ51の安定した移動を実現しつつ、薬液投与装置1全体のさらなる小型化、薄型化に繋げることができる。
【0085】
さらに、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140の巻回部161を、シリンジ本体50よりも前方FW側に配置しつつ、引出部162をシリンジ軸線Mと平行に配置しているので、スペースを有効に利用しながら、シリンジ2、第1渦巻きばね130、第2渦巻きばね140及びスライダ4を効率良く配置することができる。従って、この点においても、薬液投与装置1の小型化、薄型化に繋げ易い。
【0086】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0087】
例えば、上記実施形態では、流体として薬液Wを例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。例えば流体としては、その他の液体や、ガス等の気体であっても構わない。使用される用途や目的等に応じて、内容物を適宜変更して構わない。例えば、流体としては、塗料、飲料、香料、油脂類(グリス、オイル等)等、様々なものを選択して構わない。
【0088】
さらに上記実施形態では、駆動モータ80からの動力を送りねじ70に伝達する伝達機構90として、輪列機構(駆動ギア81、第1中間ギア92、第2中間ギア93、最終ギア91)を利用した場合を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。例えば、カム部材、ベルトローラ等を利用して動力を伝達しても構わない。
【0089】
さらに上記実施形態において、送りねじ70における雄ねじ部71を、雄ねじ部71のねじ山のピッチよりも、リードが大きくなるように形成しても構わない。
この場合には、雄ねじ部71のねじ山のピッチよりもリード(送りねじ70が1回転したときの前後方向L1に進む距離)を大きくすることができる。そのため、駆動モータ80の動力が小さい場合であっても、プランジャ51を効率良く移動させることができると共に、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140の弾性復元力を効率良く利用してプランジャ51を押圧することができる。従って、さらに動力の小さい駆動モータ80を利用することができ、さらなる省電力化を図ることができる。
このような雄ねじ部71としては、例えば、二条ねじ、三条ねじ等の多条ねじにすることが挙げられる。ただし、ねじ山のピッチよりもリードが大きくなるように形成されていれば良く、多条ねじに限定されるものではない。
【0090】
さらに上記実施形態では、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140の巻回部161を、シリンジ2よりも前方FW側に配置し、且つ引出部162をシリンジ軸線Mに平行になるように配置した構成を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140が、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称となるように配置されていれば良い。
【0091】
例えば図13に示すように、巻回部161がシリンジ本体50の左右両側に配置され、引出部162がシリンジ軸線Mに対して傾斜するように、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140を配置しても構わない。
この場合であっても、第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140を、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称に配置することができる。従って、この場合であっても、スライダ4にモーメント荷重が発生することを抑制しながらプランジャ51を押込み方向(前方FW)に向けて移動させることができる。従って、上記実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0092】
さらに上記実施形態では、上記実施形態では、2つの渦巻きばね6(第1渦巻きばね130及び第2渦巻きばね140)を利用した場合を例に挙げて説明したが、2つに限定されるものではなく、例えば4つ、6つ等、渦巻きばね6の数を増やしても構わない。
これらの場合であっても、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称となるように、複数の渦巻きばね6をシリンジ2の左右両側に均等配置して、スライダ4にモーメント荷重が発生することを抑制すれば良い。
【0093】
さらには、図14に示すように、1つの渦巻きばね180を利用しても構わない。
この場合には、渦巻きばね180が、1枚の弾性体181の両端部に巻回部182、183をそれぞれ設けることで、2つの巻回部182、183、すなわち第1巻回部182及び第2巻回部183を具備している。
第1巻回部182は第1ボビン150に外装され、第2巻回部183は第2ボビン151に外装されている。これにより、第1巻回部182及び第2巻回部183は、シリンジ軸線Mを対称軸として線対称に配置されるようにシリンジ2の両側に配置されている。さらに第1巻回部182及び第2巻回部183は、シリンジ2よりも押込み方向(前方FW)に配置されている。
【0094】
さらに弾性体181のうち、第1巻回部182及び第2巻回部183同士を繋ぎ、且つ第1巻回部182及び第2巻回部183から引き伸ばされた部分が引出部184とされている。引出部184は、中央部184aが例えばスライダ4を後方BK側から回り込むように配置されていると共に、中央部184aがスライダ4に移動可能に連結されている。
そして、引出部184のうちスライダ4に連結された中央部184aと、第1巻回部182及び第2巻回部183とをそれぞれ繋ぐ連結部分184bがシリンジ軸線Mを対称軸として線対称に配置されるようにシリンジ2の両側に配置されている。特に、連結部分184bは、シリンジ軸線Mと平行に配置されている。
【0095】
このように構成された1つの渦巻きばね180の場合であっても、引出部184の中央部184aをスライダ4に移動可能に連結しているので、例えばスライダ4全体に均等に引出部184の引っ張り力を作用させることができる。従って、スライダ4にモーメント荷重が発生することを適切に抑制しながら押込み方向(前方FW)に移動させることができ、プランジャ51を安定した移動させることができる。
さらに、1つの渦巻きばね180を利用するので、部品点数を削減することができ、構成の簡略化を図り易い。さらに、シリンジ2よりも前方FWに第1巻回部182及び第2巻回部183を配置しつつ、引出部184における連結部分184bをシリンジ軸線Mと平行に配置するので、スペースを有効に利用して、シリンジ2、渦巻きばね180、スライダ4を効率良く配置することができる。従って、上記実施形態と同様に、薬液投与装置1全体の小型化、薄型化に繋げ易い。
【符号の説明】
【0096】
FW…押込み方向(前方)
M…シリンジ軸線(軸線)
W…薬液(流体)
1…薬液投与装置(流体供給装置)
2…シリンジ(流体収容器)
3…本体ケース
4…スライダ(可動体)
5…制御機構
6、180…渦巻きばね(ばね部材)
50…シリンジ本体(収容筒)
51…プランジャ
70…送りねじ
71…送りねじの雄ねじ部
75…ナット部材
80…駆動モータ
90…伝達機構
130…第1渦巻きばね(ばね部材)
140…第2渦巻きばね(ばね部材)
160、181…弾性体
161…巻回部
162、184…引出部
182…第1巻回部(巻回部)
183…第2巻回部(巻回部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14