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特開2023-127369スペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127369
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】スペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20230906BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G01T1/17 H
G01T1/167 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031123
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】青山 道夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 直人
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA23
2G188AA27
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB15
2G188CC28
2G188EE01
2G188EE06
2G188EE07
2G188EE12
2G188EE17
2G188FF28
(57)【要約】
【課題】スペクトル解析の効率を向上させることができるスペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】本開示に係るスペクトル解析システムは、プロセッサを備え、前記プロセッサは、取得ステップにおいて、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得し、ピーク特定ステップにおいて、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定し、ピークセット生成ステップにおいて、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成し、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、帰属ステップにおいて、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを備えるスペクトル解析システムであって、
前記プロセッサは、
取得ステップにおいて、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得し、
ピーク特定ステップにおいて、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定し、
ピークセット生成ステップにおいて、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成し、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、
帰属ステップにおいて、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定する、
スペクトル解析システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記ピークセット生成ステップにおいて、個のピークセットを生成する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項3】
前記スペクトルは、ピーク位置を示す第1軸及び強度を示す第2軸を含み、
前記プロセッサは、前記特定した帰属情報に基づいて、前記第1軸のピーク位置と前記参照情報における固有値との関係式を生成する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記帰属ステップにおいて、
各ピークセットと前記参照情報とを照合することにより、各ピークセットのm個のピークに対応する帰属情報の組を第1解候補として特定し、
ピークセット同士で第1解候補を比較することにより、前記特定したn個のピークに対応するn個の帰属情報の組を第2解候補として特定する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記帰属ステップにおいて、
ピークセットごとに第1解集合を特定し、前記第1解集合は、当該ピークセットに基づいて特定された1以上の第1解候補の集合であり、
各ピークセットの第1解集合の共通部分に含まれる解候補を、前記第2解候補として特定する、
請求項4に記載のスペクトル解析システム。
【請求項6】
前記プロセッサは、
各ピークセットに対して、正規化したピーク間隔を計算し、
前記正規化したピーク間隔及び前記参照情報に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項7】
前記プロセッサは、ピークセットに含まれる各ピークのピーク位置の差をそれぞれピーク間隔として計算し、前記ピーク間隔を相対値に換算することにより、前記正規化したピーク間隔を計算する、
請求項6に記載のスペクトル解析システム。
【請求項8】
前記帰属先は、前記スペクトルにおいて1以上の特性ピークを示す種であり、
前記プロセッサは、前記帰属ステップにおいて、
前記特定した帰属情報に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する1以上の種を特定し、
前記特定した種が示す1以上の特性ピークであって、前記特定したn個のピークではないピークが、前記スペクトルに含まれるか否かを判定する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項9】
前記スペクトルは、ピーク位置を示す第1軸及び強度を示す第2軸を含み、
前記プロセッサは、較正ステップにおいて、前記特定した帰属情報に基づいて、前記第1軸のピーク位置と前記参照情報における固有値とが対応するように前記第1軸を較正する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記較正ステップ後に、前記参照情報に基づいて、前記特定したn個のピーク以外のピークに対応する帰属情報を特定する、
請求項9に記載のスペクトル解析システム。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記ピーク特定ステップにおいて、他のピークと実質的に重なっていないピークを特定する、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項12】
前記スペクトルは、γ線スペクトルであり、
前記帰属先は、放射性核種である、
請求項1に記載のスペクトル解析システム。
【請求項13】
コンピュータのプロセッサが実行するスペクトル解析方法であって、
取得ステップと、ピーク特定ステップと、ピークセット生成ステップと、帰属ステップと、を含み、
前記取得ステップは、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得することを含み、
前記ピーク特定ステップは、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定することを含み、
前記ピークセット生成ステップは、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成することを含み、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、
前記帰属ステップは、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定することを含む、
スペクトル解析方法。
【請求項14】
コンピュータのプロセッサにスペクトル解析方法を実行させるためのプログラムであって、
前記スペクトル解析方法は、取得ステップと、ピーク特定ステップと、ピークセット生成ステップと、帰属ステップと、を含み、
前記取得ステップは、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得することを含み、
前記ピーク特定ステップは、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定することを含み、
前記ピークセット生成ステップは、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成することを含み、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、
前記帰属ステップは、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定することを含む、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、スペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーや質量電荷比などの特徴量に対して対象物からの信号強度を示したスペクトルデータは、対象物の成分分析や特性分析に有用である。このようなスペクトルをコンピュータで解析する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-094892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、スペクトル解析の効率を向上させることができるスペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を含み得る。
[1]プロセッサを備えるスペクトル解析システムであって、前記プロセッサは、取得ステップにおいて、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得し、ピーク特定ステップにおいて、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定し、ピークセット生成ステップにおいて、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成し、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、帰属ステップにおいて、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定する、スペクトル解析システム。
[2]前記プロセッサは、前記ピークセット生成ステップにおいて、個のピークセットを生成する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[3]前記スペクトルは、ピーク位置を示す第1軸及び強度を示す第2軸を含み、前記プロセッサは、前記特定した帰属情報に基づいて、前記第1軸のピーク位置と前記参照情報における固有値との関係式を生成する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[4]前記プロセッサは、前記帰属ステップにおいて、各ピークセットと前記参照情報とを照合することにより、各ピークセットのm個のピークに対応する帰属情報の組を第1解候補として特定し、ピークセット同士で第1解候補を比較することにより、前記特定したn個のピークに対応するn個の帰属情報の組を第2解候補として特定する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[5]前記プロセッサは、前記帰属ステップにおいて、ピークセットごとに第1解集合を特定し、前記第1解集合は、当該ピークセットに基づいて特定された1以上の第1解候補の集合であり、各ピークセットの第1解集合の共通部分に含まれる解候補を、前記第2解候補として特定する、[4]に記載のスペクトル解析システム。
[6]前記プロセッサは、各ピークセットに対して、正規化したピーク間隔を計算し、前記正規化したピーク間隔及び前記参照情報に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[7]前記プロセッサは、ピークセットに含まれる各ピークのピーク位置の差をそれぞれピーク間隔として計算し、前記ピーク間隔を相対値に換算することにより、前記正規化したピーク間隔を計算する、[6]に記載のスペクトル解析システム。
[8]前記帰属先は、前記スペクトルにおいて1以上の特性ピークを示す種であり、前記プロセッサは、前記帰属ステップにおいて、前記特定した帰属情報に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する1以上の種を特定し、前記特定した種が示す1以上の特性ピークであって、前記特定したn個のピークではないピークが、前記スペクトルに含まれるか否かを判定する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[9]前記スペクトルは、ピーク位置を示す第1軸及び強度を示す第2軸を含み、前記プロセッサは、較正ステップにおいて、前記特定した帰属情報に基づいて、前記第1軸のピーク位置と前記参照情報における固有値とが対応するように前記第1軸を較正する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[10]前記プロセッサは、前記較正ステップ後に、前記参照情報に基づいて、前記特定したn個のピーク以外のピークに対応する帰属情報を特定する、[9]に記載のスペクトル解析システム。
[11]前記プロセッサは、前記ピーク特定ステップにおいて、他のピークと実質的に重なっていないピークを特定する、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[12]前記スペクトルは、γ線スペクトルであり、前記帰属先は、放射性核種である、[1]に記載のスペクトル解析システム。
[13]コンピュータのプロセッサが実行するスペクトル解析方法であって、取得ステップと、ピーク特定ステップと、ピークセット生成ステップと、帰属ステップと、を含み、前記取得ステップは、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得することを含み、前記ピーク特定ステップは、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定することを含み、前記ピークセット生成ステップは、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成することを含み、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、前記帰属ステップは、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定することを含む、スペクトル解析方法。
[14]コンピュータのプロセッサにスペクトル解析方法を実行させるためのプログラムであって、前記スペクトル解析方法は、取得ステップと、ピーク特定ステップと、ピークセット生成ステップと、帰属ステップと、を含み、前記取得ステップは、3個以上のピークを含むスペクトルのデータを取得することを含み、前記ピーク特定ステップは、前記スペクトルに含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定することを含み、前記ピークセット生成ステップは、前記特定したn個のピークから複数のピークセットを生成することを含み、各ピークセットは、前記特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せであり、前記帰属ステップは、前記生成したピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、前記特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定することを含む、プログラム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スペクトル解析の効率を向上させることができるスペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係るスペクトル解析装置の解析対象であるスペクトルデータの一例を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係るスペクトル解析装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態に係るピークリストの一例を示す図である。
図4】第1実施形態に係るピークセットリストの一例を示す図である。
図5】第1実施形態に係る帰属情報DBの一例を示す図である。
図6】第1実施形態に係るピークセットリストの一例を示す図である。
図7】第1実施形態に係るピークリストの一例を示す図である。
図8】第1実施形態に係るデータ処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9】第1実施形態に係るスペクトル解析方法の一例を示すフローチャートである。
図10】第1実施形態に係る解候補生成ステップの一例を示すフローチャートである。
図11】第1実施形態に係る解析結果生成ステップの一例を示すフローチャートである。
図12】第2実施形態に係る解析結果生成ステップの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態のスペクトル解析システム、スペクトル解析方法、及びプログラムを、図面を参照して説明する。
【0009】
本明細書において、「XXに基づく」とは「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。また、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば情報)である。
【0010】
<第1実施形態>
図1及び図2を参照して、第1実施形態に係るスペクトル解析装置1(「スペクトル解析システム」の一例)について説明する。なお、本明細書における「システム」との語は、複数の装置などから構成されるシステムに限定されず、単一の装置で構成されるシステムも包含する。
図1は、第1実施形態に係るスペクトル解析装置1の解析対象であるスペクトルデータ320の一例を示す模式図である。
図2は、第1実施形態に係るスペクトル解析装置1の構成を示すブロック図である。
【0011】
[スペクトルデータ]
スペクトル解析装置1の解析対象であるスペクトルデータ320は、例えば、スペクトル測定装置の検出器が試料から受け取った電磁波などを電気信号に変換することによって得られる。スペクトルデータ320の種類は特に限定されない。本実施形態では、ゲルマニウム半導体検出器を用いたγ線スペクトロメトリーによって測定されたγ線スペクトルデータ320を例に取って説明する。
【0012】
ゲルマニウム半導体検出器は、測定対象試料から入射したγ線との相互作用から生じた二次電子の電離作用によってゲルマニウム結晶中に電子正孔対を発生させ、この電子正孔対の電荷を電気信号として検出する。ゲルマニウム半導体検出器に含まれる多重波高分析器は、電気信号(すなわち、電荷量に比例する高さの電圧パルス)の波高値をチャネルと呼ばれるデジタル値に変換し、チャネルごとの計数値を積算する。これにより、γ線のエネルギーに対応するチャネルごとの計数値を示すヒストグラムが、γ線スペクトルとして測定される。γ線スペクトルを解析することにより、試料が放出するγ線のエネルギー(チャネルに対応)及び強度(計数値に対応)を特定することができる。これにより、試料に含まれる放射性核種の種類などを推定することができる。
【0013】
なお、γ線スペクトロメトリーでは、複数個の光子が検出器に同時に入射することでそれらの和の出力信号が生じる、いわゆるサム効果を適宜補正する必要がある。また、γ線が試料自体に吸収される自己吸収の影響も適宜補正する必要がある。図1は、このような種々の補正を行った後のγ線スペクトルデータ320を示す。
【0014】
図1に示すように、スペクトルデータ320は、複数のピークを含み得る。これらのピークはそれぞれ、特定の放射性核種が放出するγ線に対応している。また、種々の放射性核種が放出するγ線エネルギーは既知である。このため、各ピークに対応するエネルギー値を特定することにより、各ピークを特定の放射性核種に帰属することができる。
【0015】
スペクトルデータ320は、ピーク位置を示す第1軸(横軸)及び信号強度を示す第2軸(縦軸)を含む。一般に、γ線スペクトル320の第1軸(横軸)は、多重波高分析器のチャネル番号を示し、第2軸(縦軸)は、各チャネルにおける計数値(強度)を示す。チャネル番号は、一般にγ線エネルギーに略比例するが、チャネルとエネルギーとの関係は測定条件などによって変動する。すなわち、一般にγ線スペクトロメトリーでは、γ線スペクトルのピーク位置と、ピークを帰属するためのγ線エネルギーの値(「ピーク位置に関する固有値」の一例)とは一致しない。このため、γ線スペクトル320の各ピークのγ線エネルギーを特定するためには、横軸のチャネルを較正すること(すなわち、チャネルをγ線エネルギーに換算すること)が必要である。
【0016】
図1は、γ線スペクトルデータ320の実測値MVを実線で示す。また、図1は、既知の関数を用いたシミュレーション計算によって生成されたバックグラウンドライン(ベースライン)BGを一点鎖線で示し、シミュレーションピークP1~P10を破線で示す。例えば、シミュレーション計算は、ガウシアンなど任意の関数で実測値MVをフィッティングすることを含む。スペクトルデータ320は、一見すると8個のピークを含むが、図1のP4、P5で示すピークは、2個のシミュレーションピークP4、P5の足し合わせで再現され、図1のP9、P10で示すピークは、2個のシミュレーションピークP9、P10の足し合わせで再現される。このようなピーク分離計算により、スペクトルデータ320は、実際には10個のピークP1~P10を含むものとして解析される。ピークP1~P10のピーク位置(チャネル)は、それぞれC1~C10である。本実施形態では、この10個のピークP1~P10を含むγ線スペクトルデータ320を例に取って、スペクトル解析装置1について説明する。
【0017】
[スペクトル解析装置1の構成]
スペクトル解析装置1は、スペクトルデータ320の解析を実行する情報処理装置である。例えば、スペクトル解析装置1は、プログラム310がインストールされたコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、測定装置に組み込まれた内蔵コンピュータなど)である。具体的には、図2に示すように、スペクトル解析装置1は、取得部100、解析部200、記憶部300、及び出力部400を、その機能部として含む。
【0018】
(取得部100)
取得部100は、各種情報を取得する。例えば、取得部100は、スペクトル解析装置1に入力されたスペクトルデータ320を取得する。
【0019】
(解析部200)
解析部200は、取得部100が取得したスペクトルデータ320の解析処理を行う。具体的には、解析部200は、スペクトル処理部210、帰属処理部220、及び判定部230を含む。
【0020】
(スペクトル処理部210)
スペクトル処理部210は、スペクトルデータ320のデータ処理を実行する。具体的には、スペクトル処理部210は、前処理部212、ピーク特定部214、及びピークセット生成部216を含む。
【0021】
前処理部212は、解析部200が各ピークの帰属解析処理を実行する前に、スペクトルデータ320の前処理を実行する。例えば、前処理部212は、自己吸収補正などのデータ補正処理;平滑化などのノイズ低減処理;微分計算などのピーク検出処理;バックグラウンド(ベースライン)特定処理;ピークフィッティングによるピーク分離処理;分離されたピークごとにピーク位置やピーク面積を計算するなどを、前処理として実行する。これにより、図1に示すように、前処理部212は、スペクトルの実測値MVに対してバックグラウンドBGやピーク関数P1~P10を設定するとともに、各ピークの情報をリスト化したピークリスト330を生成することができる。前処理部212は、例えば、スペクトルにおいて、ベースラインに対する相対的な信号強度(例えば信号強度の差や比)が所定閾値以上である山なりの波形部分を「ピーク」として検出することができる。
【0022】
図3は、第1実施形態に係るピークリスト330の一例を示す図である。前処理部212は、検出された全ピークP1~P10をピークリスト330に登録するとともに、各ピークについての各種情報も登録する。これらの情報には「ピークID」、「半値全幅(FWHM)」、「半値全幅(FWHM)の誤差」、「ピーク位置」、「ピーク面積」、「ピーク面積の計数誤差」、「ピーク高さ」、「孤高度」などが含まれる。図3に示す例では、ピークリスト330は、「ピークID」、「ピーク位置」、「ピーク面積」、「孤高度」の欄を含む。「ピークID」の欄には、各ピークを区別する識別符号が入力される。ここでは、検出された10個のピークに対し、チャネルが小さい順に(すなわち、図1の左側から右側へ向かう順に)、P1、P2、P3、……と数字が付与されている。「ピーク位置」の欄には、スペクトルデータ320における各ピークのチャネル番号C1~C10が入力される。「ピーク面積」の欄には、スペクトルデータ320における各ピークの面積S1~S10が入力される。なお、面積に代えて各ピークのピーク高さ(計数値)が使用されてもよい。「孤高度」の欄には、当該ピークが孤立し、かつ適度に分散している程度に従って、その大きさの順に「1」から順番に番号が振られる。図1の例では、各々が孤立しているピークP1~P3の「孤高度」欄には、それぞれ「1」、「6」、「4」と入力されている。一方、ピークP5と部分的に重なっているピークP4の「孤高度」欄には、「10」と入力されている。すなわち、ピークリスト330の「孤高度」欄の数字が小さいほど、孤高度が高いといえる。
【0023】
前処理部212は、例えば、全スペクトルの中から、位置的に適度に分散している顕著なピークを、下記に従って「孤高度」として順番に番号を振る機能を含む。このことにより、孤高度の大きいピークをn本(4≦n)使うことで、効率的なピーク帰属及びエネルギー較正を行うことができる。孤高度が最も高いピークは、スペクトル中の「ピーク面積の対数×チャネル番号の2乗」が最も大きなピークである。前処理部212は、当該ピークの孤高度を「1」に設定する。前処理部212は、次の孤高ピークとして、未選出ピークの中から「ピーク面積の対数×既選出孤高ピーク中の最も近いピークとの距離」が最大であるピークを選んで順次孤高ピーク群に加えていく。すなわち、前処理部212は、「ピークの面積の対数×既選出孤高ピーク中の最も近いピークとの距離」の順に、孤高度を「2」、「3」、「4」、……と設定していく。
【0024】
ピーク特定部214は、ピークリスト330に挙げられたピークP1~P10から、孤高度が大きい順にn個のピークを対象ピークとして特定する。対象ピークの数nは、4以上であれば特に限定されず、n=4、5、6、7、8、9、又は10(全ピーク数)であってよい。対象ピークの数は、計算量が格段に軽減される点で5個程度にするのが好ましい。例えば、n=4の場合には、複数の解候補が出てくる可能性がある程度見込まれるので、ユーザが複数の解候補を比較して正解を決定する必要がある場合が多くなり得る。一方、nが5以上であれば、抽出される解候補の数が絞り込まれるので、解候補の精度が格段に向上し得る。
【0025】
ピーク特定部214は、例えば、孤高度を基準にして対象ピークを自動的に選択する。図1の例では、10個のピークP1~P10のうち孤高度が大きい5個のピークを抽出することにより、対象ピークとしてピークP1、P3、P6、P7、P8が自動的に特定される(図1で下線を付して示す)。以下では、これらの5個のピークが対象ピークとして特定されたものとして説明する。(なお、対象ピークの特定方法は上記例に限定されない。例えば、ピーク特定部214は、他の指標を利用して対象ピークを選択してもよく、ユーザによるピークの選択操作を受け付けて、ユーザが選択したピークを対象ピークとして特定してもよい。)
【0026】
ピークセット生成部216は、特定されたn個の対象ピークのうち一部のピークからなるピークセットを生成する。生成されるピークセットは、n個の対象ピークのうちm個(3≦m<n)のピークの組合せである。ピークセット生成部216は、複数のピークセットを生成する。生成される各ピークセットは、m個のピークの組合せである点で共通するが、互いに異なる組合せである。理論上、生成可能なピークセット数の上限は、n個の対象ピークからm個のピークを選び出す組合せの数である。したがって、ピークセット生成部216により生成されるピークセットの数は、6個以上個以下である。全組合せを検討することにより解析精度が向上し得るので、好ましくは、ピークセット生成部216は、個のピークセットを生成する。
【0027】
図4は、第1実施形態に係るピークセットリスト340の一例を示す図である。ピークセット生成部216は、生成された全ピークセットをピークセットリスト340に登録する。図4に示す例では、ピークセット生成部216は、5個の対象ピークP1、P3、P6、P7、P8から3個のピークの組合せを生成している(n=5、m=3)。生成されたピークセットの数は10(=)であり、生成可能なピークセット数の上限である。なお、図4では、ピークを示す「P1」、「P2」、……との記載を、単に「1」、「2」、……と略記する。
【0028】
ピークセットリスト340は、「ピークセットID」、「ピーク」、及び「正規化したピーク間隔」の欄を含む。「ピークセットID」の欄には、各ピークセットを区別する識別符号が入力される。「ピーク」の欄には、ピークセットを構成するピークの組が入力される。例えば、第1のピークセット(ピークセットID:1)は、3本のピークP1、P3、P6の組合せである。「正規化したピーク間隔」の欄には、ピークセットを構成するピーク間の間隔を正規化した数値が入力される。
【0029】
ピークセット生成部216は、各ピークセットについて、ピーク間隔を計算するとともに、計算したピーク間隔を正規化する。例えば、第1のピークセット(ピークセットID:1)を例に取ると、図1に示すように、第1のピークセットを構成するピークP1、P3、P6同士のピーク間隔(チャネル単位)は、ピークP1とピークP3との間でA1=C3-C1であり、ピークP3とピークP6との間でB1=C6-C3である。ピークセット生成部216は、これらのピーク間隔A1及びB1を計算した後、正規化したピーク間隔a1、b1を以下の式により計算する。なお、m≧4の場合についても同様である。
a1=A1/(A1+B1)=(C3-C1)/(C6-C1)
b1=B1/(A1+B1)=(C6-C3)/(C6-C1)
【0030】
一般化すると、ピークセット生成部216は、ピークセットに含まれるm個のピークについて、隣り合う2個のピーク間の間隔をチャネル単位で計算する。その後、ピークセット生成部216は、m個のピークのうち最もチャネル番号が小さい左端のピークと、最もチャネル番号が大きい右端のピークと、の間のピーク間隔(すなわち、計算した全ピーク間隔の総和)で、各ピーク間隔を割ることによって、計算した各ピーク間隔を正規化する。正規化したピーク間隔の合計は1である。
【0031】
同様に、ピークセット生成部216は、他のピークセット(ピークセットID:2~10)についても、正規化したピークセット間隔(a2、b2)、(a3、b3)、……、(a10、b10)を計算して、ピークセットリスト340の「正規化したピーク間隔」欄に入力する。
【0032】
(帰属処理部220)
帰属処理部220は、スペクトルデータ320に含まれる各ピークの帰属処理を実行する。具体的には、帰属処理部220は、解候補生成部240及び解析結果生成部250を含む。
【0033】
(解候補生成部240)
解候補生成部240は、特定されたn個のピークの帰属情報を含む解の候補を生成する。具体的には、解候補生成部240は、探索部242、抽出部244、及び検証部246を含む。
【0034】
探索部242は、帰属情報データベース(DB)350(「参照情報」の一例)を参照して、ピークの帰属情報を含む解の探索処理を実行する。具体的には、探索部242は、ピークセット生成部216により生成された各ピークセットについて、ピークの帰属情報を探索する。
【0035】
図5は、第1実施形態に係る帰属情報DB350の一例を示す図である。帰属情報DB350は、既知の放射性核種が放出するγ線エネルギーの情報をまとめたデータベースである。図5に示す例では、帰属情報DB350は、「帰属情報ID」、「γ線エネルギー」、「帰属先(核種)」、及び「検証フラグ」の欄を含む。「帰属情報ID」欄には、帰属情報ごとの識別番号が記載されている。「γ線エネルギー」欄及び「帰属先(核種)」欄には、γ線エネルギーの値及びそのγ線エネルギーの値に特性ピークを示す放射性核種の種類(すなわち、γ線エネルギーの値に検出されたピークが帰属される放射性核種の種類)が記載されている。なお、一般に放射性核種は、異なるエネルギーを持つ2種類以上のγ線を放出し得るが、帰属情報DB350では、γ線エネルギーごとにIDが設定されている。すなわち、2種類以上のγ線を放出する放射性核種については、複数の行にわたって「帰属先(核種)」欄に同一の核種が記載される。好ましくは、帰属情報DB350は、γ線スペクトルに現れ得るすべてのピークを帰属できるように、考えられる全種類の放射性核種のγ線エネルギーの情報を網羅的に含む。例えば、帰属情報DB350は、典型的な放射性核種のいずれかに帰属される421種類のγ線エネルギーに対応する帰属情報を含む。なお、計算時間短縮などのために、現実的には想定しにくい放射性核種の情報が省略されてもよい。例えば、帰属情報DB350に含まれる各行は、「γ線エネルギー」の値で昇順にソートされている。「検証フラグ」の欄には、後述する検証部246による検証対象か否かを示す情報が記載されている。具体的には、検証フラグが「ON」であれば検証対象であり、検証フラグが「OFF」であれば検証対象ではない。例えば、環境中に存在する放射性核種、原子力発電所や核実験施設で発生しやすい人工の放射性核種から放出されるγ線のうち、γ線スペクトル上でピーク強度が大きいものについて、検証フラグが「ON」に設定され得る。
【0036】
探索部242は、ピークセット生成部216により生成された各ピークセットを、帰属情報DB350と照合する。具体的には、探索部242は、各ピークセットについて、帰属情報DB350に列挙されたすべてのγ線エネルギーのうち、当該ピークセットの「正規化したピーク間隔」を満たすγ線エネルギーの組を探索する。例えば、図4のように3個のピークP1、P3、P6からなるピークセットを生成した場合には、帰属情報DB350のγ線エネルギーのうち、正規化したピーク間隔(a1、b1)を満たす3種類のγ線エネルギーを探索する。より具体的には、探索部242は、帰属情報DB350から3種類のγ線エネルギーを取り出して生成可能なあらゆる組合せについて、正規化したピーク間隔を計算して、ピークセットの正規化したピーク間隔(a1、b1)と一致するか否かを確認することができる。このような組合せの数は、帰属情報DB350が421種類のγ線エネルギーの情報を含む場合には、421通りである。すなわち、探索部242は、421通りのγ線エネルギーの組合せについて正規化したピーク間隔を計算し、それらのうち(a1、b1)に一致するものを特定する。これにより、探索部242は、ピークセットに対応する帰属情報の組を、第1解候補として特定することができる。探索部242は、特定した第1解候補をピークセットリスト340に登録する。このように、対象ピークを複数のピークセットに分割することにより、探索部242で行われる計算量を大きく減らすことができる。
【0037】
図6は、第1実施形態に係るピークセットリスト340の一例を示す図である。図6では、図4のピークセットリスト340に「第1解候補」の欄が追加されている。「第1解候補」欄には、探索部242により特定された第1解候補がピークセットごとに入力される。図6に示す例では、第1解候補は、5個の対象ピーク(P1、P3、P6、P7、P8)に対応する形で入力される。例えば、第1のピークセット(ピークセットID:1)を見ると、以下の3個の第1解候補が入力されている。
(X1、X3、X6、任意、任意) ……(1)
(Y1、Y3、Y6、任意、任意) ……(2)
(Z1、Z3、Z6、任意、任意) ……(3)
ここで、X1、X3、X6、Y1、Y3、Y6、Z1、Z3、及びZ6は、それぞれ帰属情報(例えば、帰属情報DB350のID)を表す。例えば、上記(1)は、ピークP1、P3、P6がそれぞれ帰属情報X1、X3、X6に帰属され、ピークP7、P8(ピークセットに含まれていないピーク)の帰属情報は特に限定されないことを意味する。なお、帰属情報X1、X3、X6の特定過程から当然であるが、特定された帰属情報X1、X3、X6に対応するγ線エネルギーの間隔を正規化すると、ピークP1、P3、P6の正規化したピーク間隔(a1、b1)と略一致する。
【0038】
このように、探索部242は、帰属情報DB350に基づいて、ピークセットごとに1以上の第1解候補を特定する。以下、1個のピークセットに対して特定された1以上の第1解候補の集合を第1解集合という。探索部242は、ピークセットと同じ数(図6の例では10個)の第1解集合を特定する。
【0039】
抽出部244は、ピークセットごとに特定された複数の第1解集合を相互に比較し、それらの共通部分を第2解集合として抽出する。この共通部分に含まれる対象ピークP1、P3、P6、P7、P8の帰属情報の組は、いずれのピークセットの正規化したピーク間隔とも整合する(すなわち矛盾しない)解候補である。抽出部244は、抽出した第2解集合に含まれる1以上の解候補を第2解候補として特定する。
【0040】
図6の例では、10個の第1解集合の共通部分に含まれる解候補は、(X1、X3、X6、X7、X8)のみである。したがって、抽出部244は、帰属情報の組(X1、X3、X6、X7、X8)のみを含む集合を第2解集合として特定するとともに、この帰属情報の組(X1、X3、X6、X7、X8)を第2解候補として特定する。
【0041】
なお、第1解集合の共通部分に複数の解候補が含まれる場合には、抽出部244は、それらの解候補をすべて第2解候補として特定する。第1解集合の共通部分が空集合である場合には、抽出部244は、出力部400に第2解候補が発見されなかった旨の警告やエラーメッセージなどを出力させることができる。
【0042】
検証部246は、抽出部244により抽出された第2解候補の各々について、スペクトルデータ320と整合するか否かを検証する。例えば、γ線スペクトルにおいては、1種類の核種が複数の特性ピークを示すことが一般的である。したがって、第2解候補において対象ピークP1、P3、P6、P7、P8の帰属先として特定された核種は、対象ピークP1、P3、P6、P7、P8以外にも特性ピークを示す場合がある。検証部246は、対象ピークの帰属先として特定された核種をキーにして帰属情報DB350を検索することにより、当該特定された核種の特性ピークであって対象ピークP1、P3、P6、P7、P8に対応しない特性ピークを特定する。第2解候補の帰属情報が正しければ、このように特定された特性ピークは、スペクトルデータ320に含まれているはずである。検証部246は、スペクトルデータ320から生成されたピークリスト330を参照して、特定された特性ピークがピークリスト330に含まれているか否かを検証する。第2解候補から特定された特性ピークがピークリスト330に含まれていると判定した場合、検証部246は、当該第2解候補の整合フラグをTRUEにし、正式に第2解候補として登録する。一方、第2解候補から特定された特性ピークがピークリスト330に含まれていないと判定した場合、検証部246は、当該第2解候補の整合フラグをFALSEにし、第2解候補から削除する。このようにして、検証部246は、抽出された第2解候補の各々について、スペクトルデータ320又はピークリスト330と矛盾しないかどうかを検証することにより、不適切な第2解候補を第2解集合から除外することができる。
【0043】
検証部246は、帰属情報DB350に含まれる帰属情報のうち特定のもののみを検証に使用することができる。例えば、検証部246は、帰属情報DB350の「検証フラグ」欄が「ON」である帰属情報のみを第2解候補の検証に使用する。予め典型的な特性ピークの検証フラグのみを「ON」に設定することにより、検証部246は、このような典型的な特性ピークに限定して検証処理を実行することができる。これにより、検証処理の効率性が向上する。
【0044】
以上の処理により、解候補生成部240は、対象ピークP1、P3、P6、P7、P8に対応する帰属情報の組を、1以上の第2解候補として特定することができる。
【0045】
(解析結果生成部250)
解析結果生成部250は、解候補生成部240により生成された第2解候補に基づいて、スペクトルデータ320の解析結果を生成する。具体的には、解析結果生成部250は、解特定部252、較正部254、及びピーク帰属部256を含む。
【0046】
解特定部252は、第2解候補に基づいて、対象ピークP1、P3、P6、P7、P8に対応する帰属情報の組を一意に特定する。第2解集合が唯一の第2解候補を含む場合には、解特定部252は、当該第2解候補を解として特定する。一方、第2解集合が複数の第2解候補を含む場合には、解特定部252は、複数の第2解候補のうち1個を解として特定する。例えば、解特定部252は、ユーザに複数の第2解候補の情報を提示して、最も適切な第2解候補を選択させてもよいし、任意の基準に従って最も適切な第2解候補を自動的に選択してもよい。解が特定された後、解特定部252は、特定された解をピークリスト330に反映する。具体的には、解特定部252は、対象ピークP1、P3、P6、P7、P8に対応する帰属情報をピークリスト330に登録する。
【0047】
図7は、第1実施形態に係るピークリスト330の一例を示す図である。図3で示したピークリスト330と比較すると、図7のピークリスト330には「帰属情報」欄が追加されている。「帰属情報」欄は、「帰属先」欄及び「γ線エネルギー」欄を含む。「帰属先」欄には、各ピークに対して特定された帰属先(核種)が入力される。「γ線エネルギー」欄には、各ピークに対して特定されたγ線エネルギーが入力される。解特定部252は、特定された解に従って、ピークリスト330の対象ピークP1、P3、P6、P7、P8の「帰属先」欄及び「γ線エネルギー」欄に、各対象ピークが帰属される核種及びγ線エネルギーをそれぞれ入力する。
【0048】
較正部254は、スペクトルデータ320の軸を較正する。具体的には、較正部254は、スペクトルデータ320の横軸であるチャネル軸を、γ線エネルギーを表す軸に変換する。例えば、較正部254は、スペクトルデータ320の横軸に対応するチャネル番号とγ線エネルギーとを一対一に対応づける関係式(以下、「較正式」という。)を導出する。具体的には、較正部254は、帰属情報が特定された対象ピークP1、P3、P6、P7、P8について、ピークリスト330に登録されたピーク位置C(C1、C3、C6、C7、C8)とγ線エネルギーE(E1、E3、E6、E7、E8)との回帰分析を行うことにより、回帰式E=f(C)を導出することができる。例えば、回帰分析は、f(C)=aC+b(a、b:定数)による線形回帰であってよい。較正部254は、較正式をスペクトルデータ320に適用することにより、チャネル軸から変換されたγ線エネルギー軸を第1軸とする横軸較正スペクトルを生成することができる。
【0049】
ピーク帰属部256は、スペクトルデータ320に含まれる対象ピークP1、P3、P6、P7、P8以外のピークの帰属を行う。例えば、ピーク帰属部256は、較正部254により導出された較正式に基づいて、ピークリスト330の残りのピークについて、ピーク位置(すなわちチャネル番号)からγ線エネルギーを特定する。次いで、ピーク帰属部256は、各ピークについて特定されたγ線エネルギーを帰属情報DB350と照合することにより、各ピークの帰属情報を特定する。ピーク帰属部256は、図7に示すピークリスト330の「帰属先」欄に、各ピークが帰属される核種を入力する。
【0050】
このようにして、解析結果生成部250は、ピークリスト330に含まれるすべてのピークのγ線エネルギー及び帰属先を特定する。これにより、解析結果生成部250は、全ピークの帰属情報を含むピークリスト330をピーク帰属リストとして出力することができる。例えば、解析結果生成部250は、生成されたピーク帰属リストを、較正部254が生成した横軸較正式及び横軸較正スペクトルとともに、解析結果として出力することができる。
【0051】
(判定部230)
判定部230は、スペクトル解析における各種判定処理を実行する。
【0052】
(記憶部300)
記憶部300は、解析部200が実行する演算処理の内容を含むプログラム310、取得部100により取得されたスペクトルデータ320、スペクトルデータ320から生成されたピークリスト330、ピークセット生成部216により生成されたピークセットリスト340、帰属処理部220により参照される帰属情報DB350、その他の各種データなどを記憶する。
【0053】
(出力部400)
出力部400は、解析部200による演算処理の結果を外部に出力する。例えば、出力部400は、解析結果生成部250により生成されたスペクトルデータ320の解析結果を出力する。具体的には、出力部400は、表示部410を含む。
【0054】
表示部410は、出力部400の出力内容を視覚的情報としてユーザに提示する。例えば、表示部410は、任意の構成のディスプレイ装置である。具体的には、表示部410は、図7のように各ピークの帰属情報が記載されたピークリスト330(すなわちピーク帰属リスト)や、各ピークの近傍に帰属情報が記載された横軸較正スペクトルなどを、ユーザに対して表示することができる。
【0055】
上記の取得部、解析部、記憶部、出力部などの構成は、情報処理装置が備えるプロセッサ、メモリ、ストレージ、入出力インタフェース、通信インタフェース、これらを相互接続するバスなどを含むハードウェア構成の協働により実現される機能部である。
【0056】
[解析処理フロー]
図8及び図9を参照して、スペクトル解析装置1による解析処理の流れについて説明する。
図8は、第1実施形態に係るデータ処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9は、第1実施形態に係るスペクトル解析方法の一例を示すフローチャートである。
【0057】
図8に示すように、スペクトル解析装置1によるデータ処理は、スペクトル処理801及び帰属処理802、803に大別される。帰属処理はさらに、解候補生成処理802及び解析結果生成処理803に分けられる。
【0058】
図8のスペクトル処理801は、図9のステップS901に対応する。ステップS901では、スペクトル処理部210が、帰属処理の前段階として、スペクトルデータ320のデータ処理を実行する。まず、ステップS910では、前処理部212が、スペクトル解析の前処理を行う。具体的には、ステップS911において、前処理部212が、スペクトルデータ320のピーク分離処理を行う。ステップS912では、前処理部212が、各ピークについてピークの高さ及び隣接ピークとの距離を判定することにより、ピークの孤高度を決定する。これにより、図8に示すように、前処理部212は、スペクトルデータ320からピークリスト330を生成する。次いで、図9のステップS920において、ピーク特定部214が、ピークリスト330に含まれるピークのうちn個(nは4以上の整数)の対象ピークを特定する。ステップS930では、ピークセット生成部216が、n個の対象ピークから複数のピークセットを生成する。各ピークセットは、n個の対象ピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークの組合せである。ステップS940では、ピークセット生成部216が、各ピークセットに対して、正規化したピーク間隔を計算する。
【0059】
図8の帰属処理802、803は、図9のステップS902に対応する。ステップS902では、帰属処理部220が、スペクトルデータ320から抽出されたピークリスト330及び各ピークセットと帰属情報DB350とに基づいて、スペクトルデータ320に含まれるピークの帰属処理を実行する。具体的には、図8の解候補生成処理802が、図9のステップS950に対応し、図8の解析結果生成処理803は、図9のステップS960に対応する。
【0060】
ステップS950では、解候補生成処理802として、解候補生成部240が、n個の対象ピークに対応する解候補を生成する。具体的には、ステップS951において、探索部242が、帰属情報DB350を参照して、ピークセットごとに第1解候補を探索する。これにより、探索部242は、図8に示すように、ピークセットごとに第1解候補の集合である第1解集合を特定する。次いで、ステップS952において、抽出部244が、各ピークセットについて特定された複数の第1解集合から、全ピークセットと整合する第2解候補を抽出する。このとき、検証部246が、抽出された解候補と対象ピーク以外のピークの情報とを比較検証することができる。図8に示すように、抽出部244は、第2解候補の集合を第2解集合として特定する。
【0061】
次いで、ステップS960では、解析結果生成部250が、解析結果生成処理803として、スペクトルデータ320の解析結果を生成する。具体的には、ステップS961において、解特定部252が、第2解集合に含まれる第2解候補から、n個の対象ピークの帰属情報の解を特定する。ステップS962では、較正部254が、特定された解に基づいて、スペクトルデータ320のチャネル軸をエネルギー軸に変換する横軸較正式を導出する。また、較正部254は、導出された横軸較正式に基づいて、横軸較正スペクトルを生成する。ステップS963では、ピーク帰属部256が、横軸較正により特定された各ピークのγ線エネルギーと帰属情報DB350とに基づいて、対象ピーク以外のピークの帰属処理を実行する。これにより、ピーク帰属部256は、ピーク帰属リストを生成する。
【0062】
ステップS903では、出力部400が、横軸較正式、横軸較正スペクトル、ピーク帰属リストなどを含む解析結果を出力する。
【0063】
次いで、図10を参照して、ステップS951、S952の詳細な流れについて説明する。
図10は、第1実施形態に係る解候補生成ステップの一例を示すフローチャートである。
【0064】
ステップS1001では、探索部242が、ピークセットリスト340から1個のピークセットを選択するとともに、当該ピークセットの正規化したピーク間隔を取得する。ステップS1002では、探索部242が、帰属情報DB350を参照して、選択したピークセットに対応する帰属情報の組を探索する。例えば、探索部242は、ピークセットがm個のピークの組である場合、帰属情報DB350からm個の帰属情報の全組合せを生成する。帰属情報DB350がN個の帰属情報を含む場合には、生成される組合せの総数は個である。探索部242は、各組合せについて、正規化したピーク間隔を計算し、選択したピークセットの正規化したピーク間隔と実質的に一致するか否かを判定する。例えば、探索部242は、両者の正規化したピーク間隔の違いが所定の許容範囲内である場合には、両者の正規化したピーク間隔が実質的に一致すると判定することができる。
【0065】
探索部242は、正規化したピーク間隔が選択したピークセットと実質的に一致する帰属情報の組が発見された場合(S1003:YES)、ステップS1004において、探索部242は、発見された帰属情報の組を、選択されたピークセットの第1解候補として登録する。例えば、探索部242は、ピークセットリスト340の「第1解候補」欄に当該帰属情報の組を入力する。ステップS1005では、判定部230が、帰属情報DB350において未検討の帰属情報の組があるか否かを判定する。判定部230が未検討の帰属情報の組があると判定した場合(ステップS1005:YES)には、探索部242は、ステップS1002に戻り、帰属情報DB350の探索を継続する。判定部230が未検討の帰属情報の組がないと判定した場合(ステップS1005:NO)には、判定部230は、ステップS1006において、ピークセットリスト340に未検討のピークセットがあるか否かを判定する。判定部230が未検討のピークセットがあると判定した場合(S1006:YES)には、探索部242は、ステップS1001に戻り、他のピークセットを解探索処理の対象として選択する。判定部230が未検討のピークセットがないと判定した場合(S1006:NO)には、解候補生成処理は、ステップS952に進む。
【0066】
ステップS1007では、抽出部244が、ピークセット同士で第1解候補を比較することにより、共通する解候補を抽出する。具体的には、抽出部244は、各ピークセットの第1解集合の共通部分を特定することにより、当該共通部分に含まれる解候補を抽出することができる。ステップS1008では、検証部246が、抽出部244により抽出された解候補を検証する。具体的には、検証部246は、仮に解候補の帰属が正しい場合にスペクトルに現れるピークを、帰属情報DB350に基づいて予想し、実際のスペクトルデータ320及びピークリスト330と照合することができる。ステップS1009において、検証部246は、解候補から予想されるピークが実際のスペクトルデータ320又はピークリスト330に含まれているか否かを判定する。これにより、検証部246は、解候補から予想されるピークが実際のスペクトルで不足しているか否かを判定することができる。測定されたスペクトルにおいてピークが不足していないと判定された場合(ステップS1009:NO)には、ステップS1010において、検証部246が、当該解候補を第2解候補として登録する。測定されたスペクトルにおいてピークが不足していると判定された場合(ステップS1009:YES)には、検証部246は、当該解候補を第2解候補として登録しない。ステップS1011では、判定部230が、未検証の他の解候補があるか否かを判定する。未検証の解候補があると判定された場合(ステップS1011:YES)には、ステップS1008に戻り、検証部246が、未検証の解候補の検証を行う。未検証の解候補が無いと判定された場合(ステップS1011:NO)には、帰属処理は、解析結果生成処理(ステップS960)に進む。
【0067】
次いで、図11を参照して、ステップS961の詳細な流れについて説明する。
図11は、第1実施形態に係る解析結果生成ステップの一例を示すフローチャートである。
【0068】
ステップS1101では、判定部230が、複数の第2解候補が登録されているか否かを判定する。複数の第2解候補が存在すると判定された場合(ステップS1101:YES)には、ステップS1102において、解特定部252が、1個の第2解候補を選択する。ステップS1103では、較正部254が、選択された第2解候補のピーク位置(すなわちチャネル番号)の値と帰属情報のγ線エネルギーの値とに基づいて、エネルギー較正式を生成する。ステップS1104では、判定部230が、他の第2解候補があるか否かを判定する。他の第2解候補があると判定された場合(ステップS1104:YES)には、ステップS1102に戻り、解特定部252が、次の第2解候補を選択する。これを繰り返すことにより、すべての第2解候補に対してエネルギー較正式が生成される。他の第2解候補がないと判定された場合(ステップS1104:NO)には、ステップS1105において、解特定部252が、すべての第2解候補及びエネルギー較正式をユーザに提示するように出力部400に指示する。解特定部252は、ユーザに対して、適切な第2解候補又はエネルギー較正式を選択するように要求する。このとき、解特定部252は、チャネル軸をエネルギー軸に変換し且つ/又は第2解候補の帰属情報を付記したγ線スペクトルを、表示部410に表示させてもよい。ユーザは、第2解候補の内容やエネルギー較正式を検討して、最も正しいと考える第2解候補又はエネルギー較正式を選択する。ステップS1106では、解特定部252が、ユーザの選択操作を受け付ける。ステップS1107では、解特定部252が、ユーザの選択操作に従って、選択された第2解候補をn個の対象ピークの解として特定する。これにより、解特定部252は、n個の対象ピークの帰属情報を特定する。なお、ステップS1101において第2解候補が1個しか存在しないと判定された場合(S1101:NO)には、解特定部252は、当該第2解候補をそのまま解として特定することができる。
【0069】
解特定部252は、ユーザによる第2解候補の選択を補助するための情報を出力してもよい。例えば、解特定部252は、複数の第2解候補が存在する場合において、各第2解候補のスコアを計算してもよい。スコアは、例えば、スペクトルデータ320と帰属情報DB350とを比較した場合における、ピーク間隔の一致の程度、各ピークのピーク強度の一致の程度などに基づいて計算可能である。また、解特定部252は、エネルギー較正式を適用してスペクトルに含まれる対象ピーク以外のピークが帰属可能か否かを、帰属情報DB350を参照して検証し、検証結果をスコアに反映してもよい。
【0070】
以上のようなスペクトル解析装置1によれば、スペクトル解析の効率を向上させることができる。以下、解析効率の向上について説明する。
【0071】
スペクトル解析装置1は、スペクトルのピークのうちn個(nは4以上の整数)のピークを特定し、特定したn個のピークのうちm個(mは3以上n未満の整数)のピークを組み合わせたピークセットを複数生成する。その後、スペクトル解析装置1は、ピークセット及び参照情報に基づいて、n個のピークに対応する帰属情報を特定する。例えば、参照情報がN個の帰属情報を含む場合、スペクトル解析装置1は、参照情報からm個の帰属情報の組を通り生成することができる。スペクトル解析装置1は、通りの組合せの各々について、ピークセットのm個のピークの組に対応するか否かを判定することにより、ピークセットに対応する帰属情報の組(すなわち第1解候補)を特定することができる。具体的には、スペクトル解析装置1は、1個のピークセットに対して、参照情報に含まれる帰属情報の組通りとの照合計算を行う(すなわち、1個のピークセットに対して照合計算を回繰り返す)ことにより、1以上の第1解候補を特定することができる。これを全ピークセットに対して繰り返して得られた第1解候補から、n個のピークに対応する帰属情報を特定することができる。そうすると、k個のピークセットを生成する場合、スペクトル解析装置1によるピークセットと参照情報に含まれる帰属情報の1組との照合計算の回数は、k×回である。例えば、N=421、n=5、m=3、k==10とすると、照合計算の回数はk×=10×421=123,479,300であり、約1.2億回である。
【0072】
これに対し、ピークセットの生成を行わず、特定したn個のピークに対して参照情報との照合計算を直接行う場合には、参照情報に含まれるN個の帰属情報からn個の帰属情報の組合せを生成することにより照合計算が行われる。このような帰属情報の組合せの総数は通りであるから、照合計算の回数は、回である。例えば、N=421、n=5、m=3とすると、照合計算の回数は421=107,615,914,329であり、1千億回を超える。これは、本実施形態のスペクトル解析装置1による計算回数の約1千倍である。このように、本実施形態のスペクトル解析装置1によれば、実直に対象ピークの照合計算を実行する場合に比べて、計算負荷を格段に低減できる。これにより、スペクトル解析の効率を向上させることができる。
【0073】
また、スペクトル解析装置1は、複数のピークの組合せであるピークセットをキーにして参照情報からピークの帰属を行う。このため、γ線スペクトル解析のようにスペクトルの軸を較正する必要がある場合でも、スペクトル解析装置1は、ピーク間隔の相対値に基づいてピークの帰属処理を実行することができる。このため、軸を較正するための標準物質や較正処理が不要である。なお、スペクトル解析装置1は、標準物質などに由来するエネルギー値が既知のピークを含むスペクトルの解析も可能である。この場合、スペクトル解析装置1は、既知のエネルギー値を考慮に入れて(例えば、当該ピークのエネルギーを初めから特定して)スペクトルを解析することができる。
【0074】
上記実施形態において、ピークセット生成部216は、ピークセット生成ステップにおいて、個のピークセットを生成し得る。このような態様によれば、n個のピークからm個のピークを選択する組合せの総数は個であるから、n個の対象ピークから生成可能な全ピークセットについて解探索を実行することにより、解の特定精度が向上し得る。
【0075】
上記実施形態において、スペクトルは、ピーク位置を示す第1軸及び強度を示す第2軸を含み得る。較正部254は、特定した帰属情報に基づいて、第1軸のピーク位置と参照情報における固有値との関係式を生成し得る。このような態様によれば、較正部254は、スペクトルの第1軸が無次元量や相対量である場合にも、第1軸を絶対量である固有値を表す軸に変換することができる。
【0076】
上記実施形態において、探索部242は、帰属ステップにおいて、各ピークセットと参照情報とを照合することにより、各ピークセットのm個のピークに対応する帰属情報の組を第1解候補として特定し得る。抽出部244は、帰属ステップにおいて、ピークセット同士で第1解候補を比較することにより、特定したn個のピークに対応するn個の帰属情報の組を第2解候補として特定し得る。このような態様によれば、第1解候補の比較によって第2解候補を特定する処理の計算量が比較的小さいため、計算処理の効率が向上し得る。
【0077】
上記実施形態において、探索部242は、帰属ステップにおいて、ピークセットごとに第1解集合を特定し得る。第1解集合は、当該ピークセットに基づいて特定された1以上の第1解候補の集合である。抽出部244は、帰属ステップにおいて、各ピークセットの第1解集合の共通部分に含まれる解候補を、第2解候補として特定し得る。このような態様によれば、解析部200は、第1解集合を特定した後、単に第1解集合の共通部分を求めるだけでn個の対象ピークに対応する帰属情報の組を特定することができる。これにより、n個の対象ピークの帰属情報を直接探索する場合に比べて、計算量を格段に軽減することができる。
【0078】
上記実施形態において、ピークセット生成部216は、各ピークセットに対して、正規化したピーク間隔を計算し、正規化したピーク間隔及び参照情報に基づいて、特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定し得る。ピークセット生成部216は、ピークセットに含まれる各ピークのピーク位置の差をそれぞれピーク間隔として計算し、ピーク間隔を相対値に換算することにより、正規化したピーク間隔を計算し得る。このような態様によれば、スペクトルの第1軸が無次元量や相対量である場合にも、標準物質などを使用する必要なく、ピークセットに対応する帰属情報の組を探索することができる。
【0079】
上記実施形態において、帰属先は、スペクトルにおいて1以上の特性ピークを示す種であり、帰属ステップにおいて、検証部246は、特定した帰属情報に基づいて、特定したn個のピークに対応する1以上の種を特定し得る。検証部246は、特定した種が示す1以上の特性ピークであって、特定したn個のピークではないピークが、スペクトルに含まれるか否かを判定し得る。このような態様によれば、対象ピーク以外のピークの情報を活用して、不適切な解候補を自動的に除外することができる。これにより、ユーザの判断負荷や検証後の計算負荷を軽減することができる。
【0080】
上記実施形態において、較正部254は、較正ステップにおいて、特定した帰属情報に基づいて、第1軸のピーク位置と参照情報における固有値とが対応するように第1軸を較正し得る。ピーク帰属部256は、較正ステップ後に、参照情報に基づいて、特定したn個のピーク以外のピークに対応する帰属情報を特定し得る。このような態様によれば、全ピークの帰属処理を半自動又は全自動で実行可能である。
【0081】
上記実施形態において、ピーク特定部214は、ピーク特定ステップにおいて、他のピークと実質的に重なっていないピークを特定し得る。このような態様によれば、誤差が生じやすい重なったピークを使用せずに解特定やエネルギー較正が実行されるので、解析精度が向上し得る。
【0082】
<第2実施形態>
図12を参照して、第2実施形態に係るスペクトル解析装置1の解析処理について説明する。第2実施形態は、スペクトル解析装置1が適切な解を自動的に特定する点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
【0083】
図12は、第2実施形態に係る解析結果生成ステップの一例を示すフローチャートである。第2実施形態の解析結果生成ステップS960では、スペクトル解析装置1は、図9のようにステップS961、S962、S963を段階的に実行するのではなく、図12のような処理を行う。
【0084】
図12に示すように、解候補生成ステップS950の後、ステップS1201において、判定部230が、複数の第2解候補が登録されているか否かを判定する。複数の第2解候補が存在すると判定された場合(ステップS1201:YES)には、ステップS1202において、解特定部252が、1個の第2解候補を選択する。ステップS1203では、較正部254が、選択された第2解候補のピーク位置の値と帰属情報のγ線エネルギーの値とに基づいて、エネルギー較正式を生成する。ステップS1204では、ピーク帰属部256が、エネルギー較正式により特定された各ピークのγ線エネルギーと帰属情報DB350とに基づいて、対象ピーク及びそれ以外のピークを含む、スペクトル中の全ピークに対して帰属処理を実行する。
【0085】
ステップS1205では、判定部230が、整合しないピークが存在するか否かを判定する。具体的には、判定部230は、スペクトル中に帰属できないピークが存在するか否かを判定することができる。また、判定部230は、検証部246が帰属情報に基づいて存在を予想したピークが実際にスペクトル中に存在するか否かを判定してもよい。このようにして、判定部230は、スペクトルに含まれる全ピークと、第2解候補から得られる帰属情報と、に基づいて、両者が整合しないピークが存在するか否かを判定することができる。整合しないピークが存在しないと判定された場合(S1205:YES)には、ステップS1206において、解特定部252が、選択された第2解候補の整合フラグをTRUEに設定する。一方、整合しないピークが存在すると判定された場合(S1205:NO)には、ステップS1207において、解特定部252が、選択された第2解候補の整合フラグをFALSEに設定する。
【0086】
次いで、ステップS1208において、判定部230が、他の第2解候補があるか否かを判定する。他の第2解候補があると判定された場合(ステップS1208:YES)には、ステップS1202に戻り、解特定部252が、次の第2解候補を選択する。これを繰り返すことにより、すべての第2解候補に対してエネルギー較正式の生成及び未帰属ピークの帰属処理が実行され、整合フラグがTRUE又はFALSEに設定される。
【0087】
他の第2解候補がないと判定された場合(ステップS1208:NO)には、ステップS1209において、判定部230が、整合フラグがTRUEに設定された第2解候補が複数存在するか否かを判定する。整合フラグがTRUEである第2解候補が1個しか存在しないと判定された場合(S1209:NO)には、ステップS1212において、解特定部252が、整合フラグがTRUEに設定された第2解候補をn個の対象ピークの解として特定する。これにより、解特定部252は、n個の対象ピークの帰属情報を特定する。なお、対象ピークの帰属情報だけでなく、エネルギー較正式や対象ピーク以外のピークの帰属情報も、ステップS1203、S1204で既に決定されている。したがって、ステップS1213では、ピーク帰属部256が、ピークリスト330に各ピークの帰属情報を登録する。
【0088】
一方、整合フラグがTRUEである複数の第2解候補が存在すると判定された場合(S1209:YES)には、ステップS1210において、解特定部252が、すべての第2解候補及びエネルギー較正式をユーザに提示するように出力部400に指示する。ステップS1211では、解特定部252が、ユーザによる適切な第2解候補又はエネルギー較正式の選択操作を受け付ける。ステップS1212では、解特定部252が、ユーザの選択操作に従って、選択された第2解候補をn個の対象ピークの解として特定する。ステップS1213では、ピーク帰属部256が、既にステップS1204で決定された各ピークの帰属情報をピークリスト330に登録する。
【0089】
なお、ステップS1201において第2解候補が1個しか存在しないと判定された場合(S1201:NO)には、解特定部252は、当該第2解候補をそのまま解として特定することができる。この場合、当該第2解候補に従って、較正部254がエネルギー較正を実行し、ピーク帰属部256が全ピークの帰属処理を実行する。
【0090】
このように、第2実施形態では、スペクトル解析装置1が、各第2解候補について、全ピークの帰属処理を試行し、すべてのピークを帰属することに失敗した場合には当該第2解候補を解候補から除外する。これにより、ユーザの判断負荷を軽減することができる。このような整合性チェックによって第2解候補が1個に絞られれば、解特定部252は、自動的に解を特定することができる。
【0091】
なお、複数の第2解候補の整合フラグがTRUEに設定された場合においても、スペクトル解析装置1は、ユーザへの選択を要求せず、任意の指標や判断基準に基づいて各第2解候補のスコアを計算し、スコアが最も高い第2解候補を解として特定してもよい。これにより、解の特定を含め、完全に自動化された解析処理が実現できる。
【0092】
<第3実施形態>
次いで、第3実施形態に係るスペクトル解析装置1の解析処理について説明する。第3実施形態は、ピークセット生成部216が全組合せのピークセットを生成せず、一部のピークセットのみを生成して計算の簡略化を図る点で、第1実施形態と異なる。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
【0093】
第1実施形態では、ピークセット生成部216は、5個の対象ピークP1、P3、P6、P7、P8から3個のピークの全組合せを生成する。上記のとおり、この場合の照合計算の回数は、N=421、n=5、m=3、k==10とすると、k×=10×421=123,479,300である。
【0094】
これに対し、第3実施形態では、ピークセット生成部216は、まず、孤高度の高い順にピークを5本選ぶ(P1、P8、P6、P3、P7)。次いで、ピークセット生成部216は、そこから孤高度の高い3本が共通である4つのピークからなる2個のピークセット(P1、P8、P6、P3)及び(P1、P8、P6、P7)を作り、それらをチャネル順に並べ替えて(P1、P3、P6、P8)及び(P1、P6、P7、P8)とする。次いで、ピークセット生成部216は、これら2個のピークセットから、3本のピークからなる7個のピークセットを作成する。この場合、照合計算の回数は、第1実施形態における5本から3本選ぶすべての組合せの数である10×421=123,479,300から、7×421=86,435,510まで減少する。これにより、さらに照合計算時間が節約できる。
【0095】
すなわち、第3実施形態では、ピークセット生成部216が、特定されたn個のピークから複数の第1ピークセットを生成する。各第1ピークセットは、m個のピークが共通するl個(lはmより大きくn未満の整数)のピークの組合せである。次いで、ピークセット生成部216は、第1ピークセットの各々について、当該第1ピークセットを構成するl個のピークから複数の第2ピークセットを生成する。各第2ピークセットは、m個(mは3以上l未満の整数)のピークの組合せである。ここで、第1ピークセットに共通するm個のピークは、上記の孤高度に基づいて決定され得る。例えば、第1ピークセットに共通するm個のピークは、孤高度が高い順にm個特定されてよい。次いで、帰属処理部220は、生成した第2ピークセットと、ピーク位置に関する固有値と当該固有値の帰属先とを対応づける帰属情報を含む参照情報と、に基づいて、特定したn個のピークに対応する帰属情報を特定する。これにより、全組合せを検討せずに確度の高い組合せについてのみ照合計算を行うことができる。したがって、解析の効率性がさらに向上し得る。
【0096】
<変形例>
上記各実施形態では、γ線スペクトルを例に取って説明したが、スペクトル解析装置1は、帰属可能なピークを含む任意のスペクトルデータを解析可能である。解析対象スペクトルの例として、光学スペクトル、質量分析計によるマススペクトル、電子スピン共鳴(ESR)スペクトル、各磁気共鳴(NMR)スペクトル、X線光電子分光(XPS)スペクトル、X線回折(XRD)パターンなどが挙げられるが、これらに限定されない。スペクトル解析装置1は、γ線スペクトルのように、ピーク位置を示す第1軸の量がピーク帰属のための固有値(例えばエネルギー)と一致しない(すなわち、直接比較できない)場合に、標準物質などを使用しなくても簡便にピーク帰属を実行できる点で、特に有効である。
【0097】
上記実施形態では、解析部200が、参照情報として帰属情報DB350を参照して解析処理を実行しているが、参照情報の内容はこれに限定されない。例えば、解析部200は、ピークの帰属情報に関する対応関係を学習した機械学習モデルを利用して、ピークセットに対応する帰属情報の組を特定してもよい。
【0098】
検証部246による解候補の検証は、上記例に限定されず、任意のタイミングで実行されてよい。例えば、検証部246は、探索部242が第1解候補を特定する際に検証処理を実行してもよく、一旦特定された第2解候補から解特定部252が解を特定する際に検証処理を実行してもよく、複数のタイミングで検証処理を実行してもよい。また、検証処理を省略してもよい。
【0099】
上記実施形態では、CPU(中央演算処理装置)のような1以上のプロセッサがメモリなどの外部記憶装置内のプログラムソフトを実行することによって、スペクトル解析装置1における処理が実行される。各実施形態における処理手順に示された指示は、コンピュータにより実行可能なプログラムとして、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリなどのコンピュータ又は組み込みシステムが読み取り可能な不揮発性記録媒体に記録され得る。コンピュータは、ネットワークを通じてプログラムを取得又は読み込んでもよい。なお、スペクトル解析装置1における処理は、CPUを用いないハードウェア(例えば、回路部;circuitry)によって実現されてもよい。また、一部又は全部の処理がクラウドサーバを介して実行されてもよい。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0101】
1…スペクトル解析装置(スペクトル解析システム)、100…取得部、200…解析部、210…スペクトル処理部、212…前処理部、214…ピーク特定部、216…ピークセット生成部、220…帰属処理部、230…判定部、240…解候補生成部、242…探索部、244…抽出部、246…検証部、250…解析結果生成部、252…解特定部、254…較正部、256…ピーク帰属部、300…記憶部、310…プログラム、320…スペクトルデータ、330…ピークリスト、340…ピークセットリスト、350…帰属情報DB(参照情報)、400…出力部、410…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12