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特開2023-127409ポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなる着氷雪防止フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127409
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなる着氷雪防止フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230906BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20230906BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230906BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230906BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20230906BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C08L27/06
C09K3/16 102E
C09K3/18
C08K3/36
C08K5/11
C08K3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031182
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】503048338
【氏名又は名称】ダイヤプラスフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】広沢 栄人
【テーマコード(参考)】
4H020
4J002
【Fターム(参考)】
4H020AA03
4H020AB01
4J002BD041
4J002BD061
4J002BD081
4J002DD079
4J002DJ017
4J002DJ018
4J002EH096
4J002EH146
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD116
4J002FD207
4J002FD208
4J002FD209
4J002GC00
4J002GG00
(57)【要約】
【解決課題】
着氷雪防止性を付与できるポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、帯電防止可塑剤及び帯電防止剤を合計添加量で35質量部以上50質量部以下、親水性フュームドシリカを0.05質量部以上0.80質量部以下、疎水性フュームドシリカを2.5質量部以上15.0質量部以下、を含有することを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、
帯電防止可塑剤及び帯電防止剤を合計添加量で35質量部以上50質量部以下、
親水性フュームドシリカを0.05質量部以上0.80質量部以下、
疎水性フュームドシリカを2.5質量部以上15.0質量部以下、
を含有することを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記帯電防止可塑剤がアジピン酸系エステルである、請求項1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
過塩素酸バリウムをさらに含有する、請求項1または2に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用いた着氷雪防止フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなる着氷雪防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル系樹脂は柔軟性、透明性に優れた樹脂としてフィルムに成形され幅広く使用されている。
ポリ塩化ビニル系樹脂は、各種性能(静電気防止性、防炎性、耐候性、耐寒性等々)を付与することが可能で一般雑貨分野以外にも使用される場合がある。
【0003】
軟質ポリ塩化ビニル樹脂に、氷着を防止するためにシリコーンオイル等を添加することで経時でブリードアウトを発生させて表面を滑りやすくする方法がある。(特許文献1、2参照)
【0004】
しかし、ブリードアウトさせたフィルムを用いるため、加工時に汚れが付着しやすくなり、保管や管理が困難であるという問題があった。
この問題を解決するため、フィルム表面にフッ素系塗工液等を塗布する工程を経る方法が用いられているものもある。
【0005】
しかしながら、塗工する工程が必要となり自社で塗工できない場合は委託場所を探す必要もあり、生産コストも上がり非常に高価な製品となってしまう問題がある。また、フッ素系塗工液は環境問題の観点から使用は避けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-252477号公報
【特許文献2】特開2020-152107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの手間とコストを低減するための着氷雪防止性を付与できるポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、帯電防止可塑剤と、親水性フュームドシリカ、疎水性フュームドシリカを用いることで、生産時のプレートアウトや、生産したフィルムのブリードアウトを抑制しながら、着氷雪防止性を有するポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなる着氷雪防止ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、帯電防止可塑剤及び帯電防止剤を合計添加量で35質量部以上50質量部以下、親水性フュームドシリカを0.05質量部以上0.80質量部以下、疎水性フュームドシリカを2.5質量部以上15.0質量部以下、を含有するポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
[2]
前記帯電防止可塑剤がアジピン酸系エステルである、[1]に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
[3]
過塩素酸バリウムをさらに含有する、[1]または[2]に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
[5]
[4]に記載の塩化ビニル系樹脂フィルムを用いた着氷雪防止フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用いることで、生産時の帯電防止剤や帯電防止可塑剤のプレートアウト、フィルム時のブリードアウトを抑制することができ、該フィルム面に雪が積もっても、着氷雪防止性を有するポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、および着氷雪防止フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性を含む表現として用いるものとする。
【0012】
以下に、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物、該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、着氷雪防止フィルムについて詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、帯電防止可塑剤及び帯電防止剤を合計添加量で35質量部以上50質量部以下、親水性フュームドシリカを0.05質量部以上0.80質量部以下、疎水性フュームドシリカを2.5質量部以上15.0質量部以下含有することを特徴とする。
【0014】
<ポリ塩化ビニル樹脂>
本発明に使用されるポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルを主モノマーとする種々のポリマーであって、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルモノマーと種々の共重合体が挙げられる。例えば、エチレン-塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル共重合体が挙げられる。
塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマー共重合体は、1種類のみでもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0015】
ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は、特に限定するものではないが、加工性、成形性の点からJIS K6721に基づいた平均重合度が800~1700であることが好ましく、1000~1500であることがより好ましく、1000~1300であることが更に好ましい。
【0016】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、例えば、「TH-800」、「TH-1000」、「TH-1300」、「TH-1400」、「TH-1700」(以上、大洋塩ビ株式会社製)等を市販品として入手することができる。
【0017】
<帯電防止可塑剤>
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂に使用できる帯電防止可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブトキシエチルのアジピン酸エステル系可塑剤、フタル酸ジブトキシエチルのフタル酸エステル系可塑剤が挙げられる。
中でも、耐寒性の観点から、アジピン酸エステル系可塑剤が更に好ましい。
市販品としては、ジェイ・プラス製のD931、ADEKA製のLV808等を使用することができる。
添加量としては、33質量部以上、48質量部以下添加することが好ましく、35質量部以上、45質量部以下が更に好ましく、38質量部以上、42質量部以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、耐熱性を維持することができ、帯電防止可塑剤のプレートアウトやブリードアウトを抑制することができる。
【0018】
<帯電防止剤>
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂に使用できる帯電防止剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、カチオン系界面活性剤、オニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。カチオン系界面活性剤がポリ塩化ビニル系樹脂と併用する場合には、最も効果が発現しやすい。
帯電防止剤としては、塩化ビニル系樹脂に使用できるものであればよく、市販品としては、例えば、竹本樹脂製のMVA105(カチオン系界面活性剤)、日油製のニューエレガンAI(カチオン系界面活性剤)、アデカ製のLV70等を挙げることができる。耐熱性の観点から、アデカ製のLV70が更に好ましい。
添加量としては、2質量部以上、5質量部以下添加することが好ましく、3質量部以上、4.8質量部以下が更に好ましい。2質量部以上であれば、静電気の帯電を防止するので、撥水性効果が現れ、フィルムを傾斜した時に落水効果が得られやすい。5質量部以下であれば、噴出しが抑えられるので、フィルム面へ汚れを防止し、落水効果を得られやすい。
【0019】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂に含有する帯電防止可塑剤と帯電防止剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計添加量が35質量部以上50質量部以下添加することが重要である。
帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計添加量としては、35質量部以上50質量部以下が好ましく、40質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。帯電防止可塑剤だけでは要求する帯電防止性能を得られないため、帯電防止剤と併用することが好ましい。35質量部以上であれば、帯電防止性能を得ることができ、撥水性効果を得ることができる。50質量部以下であれば、加工時の耐熱性が良くプレートアウトを抑制することができ、帯電防止可塑剤と帯電防止剤のブリードアウトを抑制させることができ、長期にわたって着氷雪防止性が得られる。
【0020】
帯電防止性としては、表面抵抗値をおさえることで、帯電による水滴の付着を防止することができる。
表面抵抗値としては、1.0×1010(Ω/□)以下であることが好ましく、9.9×10(Ω/□)以下であることが更に好ましい。1.0×1010(Ω/□)以下であれば、水滴の付着を防止する効果があり、水滴が付着したまま着氷することを防止する効果がある。
【0021】
<親水性フュームドシリカ>
親水性フュームドシリカは、表面に親水性のシラノール基(Si-OH)が存在しているシリカの微粒子である。
本発明では、より多い帯電防止可塑剤や帯電防止剤を添加して、帯電防止性能、着氷雪防止性能を得るものであるが、加工時のプレートアウトや、フィルムへの噴出し(ブリードアウト)の発生が懸念される。
本発明では親水性フュームドシリカを添加することで、通常より多く添加されている帯電防止可塑剤や帯電防止剤を親水性フュームドシリカに吸着させ、高温多湿の中ではフィルムの表面に噴出し(ブリードアウト)の発生を抑制することができ、透明性を損なったり、汚れやすくなる現象を抑制することができる。
添加量としては、0.05質量部以上、0.80質量部以下であることが好ましく、0.08質量部以上、0.70質量部以下が更に好ましい。0.05質量部以上であれば、帯電防止可塑剤及び帯電防止剤を親水性フュームドシリカが吸着するため、加工時のプレートアウトや、フィルムの表面に噴出し(ブリードアウト)の発生を抑制することができる。0.80質量部以下であれば、帯電防止効果を阻害することがない。
親水性フュームドシリカとしては、例えば「アエロジル50」、「アエロジル90G」、「アエロジル130」、「アエロジル200」、「アエロジル200CF」、「アエロジル200V」、「アエロジル300」、「アエロジル300CF」「アエロジルOX50」(以上、日本アエロジル株式会社製)等を市販品として入手することができる。
【0022】
<疎水性フュームドシリカ>
疎水性フュームドシリカは、表面に疎水性のシロキサン基(Si-O-Si)が存在しているシリカの微粒子である。
本発明では疎水性フュームドシリカを添加することができる。
添加量としては、2.5質量部以上、15.0質量部以下が好ましく、2.8質量部以上、8.0質量部以下が更に好ましく、3.0質量部以上、7.0質量部以下が最も好ましい。
疎水性フュームドシリカの添加量が、2.5質量部以上であれば、疎水効果を発現でき、水滴がフィルムに付着しづらいため、強いてはフィルムへの氷着を防止することができる。15.0質量部以下であれば、帯電防止可塑剤及び帯電防止剤の帯電防止効果を低下させることがなく、フィルムに水滴が付着することを抑制でき、氷着防止効果を発現することができる。
疎水性フュームドシリカとしては、「アエロジルDT4」、「アエロジルNA200Y」、「アエロジルNA50H」、「アエロジルNA50Y」、「アエロジルNAX50」、「アエロジルR104」、「アエロジルR106」、「アエロジルR202」、「アエロジルR202W90」、「アエロジルR504」、「アエロジルR711」、「アエロジルR700」、「アエロジルR7200」、「アエロジルR805」、「アエロジルR805VV90」、「アエロジルR812」、「アエロジル812S」、「アエロジルR816」、「アエロジルR8200」、「アエロジルR972」、「アエロジルR972V」、「アエロジルR974」、「アエロジルRA200HS」、「アエロジルRX200」、「アエロジルRX300」、「アエロジルRX50」、「アエロジルRY200」、「アエロジルRY200S」、「アエロジルRY300」、「アエロジルRY50」(以上、日本アエロジル株式会社製)等を市販品として入手することができる。また、日本アエロジル株式会社以外には株式会社トクヤマからも同様のヒュームドシリカを入手することができる。
【0023】
<過塩素酸バリウム>
過塩素酸バリウムには、アミン汚染防止として自動車座席シートに使用されている発泡ウレタン樹脂から発するアミンガスによる塩ビ成形品の汚染劣化を防止する効果があることが従来から知られている。
塩化ビニル系樹脂に過塩素酸バリウムを添加することで、混練時に帯電防止可塑剤等から発生するアミンガスを捕捉し、アミンガスによる塩化ビニル系樹脂の熱劣化や着色を防止する効果があることが確認された。
添加量は、0.1質量部以上、0.5質量部以下であることが好ましい。0.1質量部以上であれば、加工中のポリ塩化ビニル系樹脂の熱劣化を抑制することができ、生産時の帯電防止可塑剤や帯電防止剤のプレートアウトや、使用時のブリードアウトを抑制することができる。0.5質量部以下であれば、過塩素酸バリウム自体が表面に析出することもなく、外観を良好に保つことができる。
過塩素酸バリウムとしては、「アデカスタブ CPSシリーズ(粉末)、CPLシリーズ(液体)」(ADEKA社製)等の市販品を入手して使用することができる。
また、過塩素酸バリウム以外の粉体成型(パウダースラッシュ)で使用されている過塩素化処理をしたハイドロタルサイト系や共同薬品社KP-800A-4(Ba―Mg系)のアミンキャッチャー材も使用することができる。
【0024】
<その他添加剤>
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物には、その他の添加剤として、熱安定助剤を添加することができる。
熱安定助剤としては、耐熱性の観点からいうと、エポキシ化大豆油が添加されているADEKA製のものが挙げられる。
また、耐熱性を上げる目的で、エポキシ基を含有するものが好ましく、例えば、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油、エポキシ基を含有するアクリル系ポリマー等が挙げられる。
エポキシ基を含有するアクリル系ポリマーであれば、屋外で使用する場合は、経時での噴出しが発生しにくいため好ましい。
エポキシ基を含有するアクリル系ポリマーの添加量としては、ポリ塩化ビニル樹脂を100質量%とした場合に、1.5質量%以上、3質量%以下とすることが好ましい。1.5質量%以上であれば、耐熱性を向上させることができ、3質量%以下であれば、ポリ塩化ビニル系樹脂の実用上問題ない柔軟性を維持することができる。
【0025】
また、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物には、難燃剤を添加することができる。
難燃性を付与する場合は、透明性が要求される際には難燃性可塑剤を選択するが、難燃性可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリキシルホスフェート、トリクレジルホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等のリン酸エステル系可塑剤や塩素化パラフィン等が挙げられる。
また、不透明が要求される場合には、無機系難燃助剤剤として三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0026】
<ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム>
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、上記のポリ塩化ビニル系樹脂組成物で構成される。
【0027】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、単層であってもよく、多層であってもよい。また、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、0.07~3mmが好ましく、0.1~1mmがより好ましく、0.2~0.5mmが更に好ましい。
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう(日本工業規格JISK6900)。しかし、フィルムとシートの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0028】
<着氷雪防止フィルム>
本発明の着氷雪防止フィルムは、上記のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用いた着氷雪防止フィルムで構成される。
着氷雪防止フィルムは、着氷雪を防止したい用途に用いることができる。例えば、道路交通設備カバー、家屋の屋根カバー等に使用したり、電線保護カバー、自動車車体カバー、鉄橋の積雪防止カバー等のフィルムとして使用することもできる。
着氷雪防止フィルムは、アルミ粘着テープを片面に貼り付けたり、予め粘着層を設けておいてもよい。
【0029】
<フィルムの製造方法>
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを製造する方法としては、前記ポリ塩化ビニル系樹脂に対して、前記の各成分を所定量添加してポリ塩化ビニル系樹脂組成物を製造する。まず、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の原料(前記各成分)を攪拌機でブレンドし、バンバリーミキサー、1軸押し出し機、ロール、ニーダー等の公知の混練機を用いて加熱溶融状態で混練りすることによってポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得る。このようにして得られるポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、ペレット状、粒子状、フレーク状、粉末状等の形状で得ることができる。次に、得られたポリ塩化ビニル系樹脂組成物をカレンダーロールや、Tダイ成形機でフィルムに成形することによってポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを得ることができる。
【0030】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、及び着氷雪防止フィルムは、帯電防止可塑剤及び帯電防止剤を含有するが、親水性フュームドシリカにこれらを吸着させることで加工時のプレートアウトや、使用時のブリードアウトを抑制しながら帯電防止性を有し、また、疎水性フュームドシリカにより、水滴の吸着を防止することができ、着氷雪防止性を有するポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、着氷雪防止フィルムを提供できる。
【実施例0031】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で使用した材料、評価した特性の測定方法等は、次の通りである。
【0032】
[使用材料]
<ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)>
大洋塩ビ株式会社製、「TH1300」(塩ビホモポリマー、平均重合度:1270-1370)
<帯電防止可塑剤>
ADEKA社製「アデカイザー LV-808」(アジピン酸系エステル)
<難燃可塑剤>
味の素ファインテクノ株式会社製「REOFOS65」(リン酸エステル)
<帯電防止剤>
ADEKA社製「アデカイザー LV-70」(カチオン系混合物)
<親水性フュームドシリカ>
日本エアロジル株式会社製「親水性フュームドシリカ OX-50」
<疎水性フュームドシリカ>
日本エアロジル株式会社製「疎水性フュームドシリカ R-8200」
<過塩素酸バリウム>
ADEKA社製「アデカスタブ M-CPS55R」(過塩素酸バリウム)
<アンチブロッキング剤>
日信化学工業株式会社製「シャリーヌR-175」(シリコーン・アクリルハイブリッド樹脂)
<熱安定性助剤>
日油株式会社製「マープルーフ G0150M」(エポキシ基含有アクリルポリマー)
<安定剤1>
ADEKA社製「アデカスタブ AC-293」(バリウム亜鉛系液体安定剤)
<安定剤2>
ADEKA社製「アデアスタブ AP-551」(バリウム亜鉛系粉体安定剤)
<加工助剤>
三菱ケミカル株式会社製「メタブレン P-530A」(アクリル系加工助剤)
<シリコーンオイル>
信越化学工業株式会社製「シリコーンオイル KF-96H-1マンCS」(シリコーンオイル)
<紫外線吸収剤>
BASFジャパン株式会社製「Chimassorb 81 FL」(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤)
【0033】
<フィルムの成膜方法>
上記の材料を表1の配合比率で、ステンレスビーカーに計量し、撹拌棒で撹拌を行い、得られた混合物をロール面に投入し、180℃で7分間、2本の金属を用い、ロール混練後、ロール間隙を厚さ0.35mmに調整して部分カットで取出してポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを作製した。
【0034】
[加工性の確認]
<プレートアウト>
フィルム製膜の際に、金属ロール面に汚れの有無を目視にて確認し、以下の基準に基づき、評価した。
○:金属ロール面の汚れが確認できない。
×:金属ロール面の汚れが確認できる。
<金属ロール剥離性>
フィルム製膜の際に、フィルムが金属ロールにトラレの有無を確認し、以下の基準に基づき、評価した。
○:フィルムが金属ロールにトラレない。
×:フィルムが金属ロールにトラレた。
<初期着色>
フィルム製膜の際に、樹脂の着色劣化の有無を目視にて確認し、以下の基準に基づき、評価した。
○:フィルム製膜時、樹脂の着色劣化が見られない。
×:フィルム製膜時、樹脂が黄変し着色劣化が見られた。
【0035】
[ブリードアウトの有無]
得られたフィルムを使用し、縦10cm、横10cmの寸法のカットサンプルを3枚重ねにして50℃×80%RHに保たれる恒温恒湿機内に2日間保管後、5℃に保たれる冷蔵庫内に1日間保管後、再度、50℃×80%RHに保たれる恒温恒湿機内に1日間保管した後、カットサンプルの1枚目を剥がして、2枚目の外観表面状態を目視にて観察し、一部を綿棒で軽く擦って以下の評価を行った。
○:目視観察での表面変化及び綿棒の拭き取り跡が見られなかったもの。
×:目視観察での表面変化及び綿棒の拭き取り跡が見られたもの。
【0036】
[帯電防止性]
湿度を調整できる恒温室(23℃×50%RH)の環境下に1日保管した後、表面抵抗測定器:ハイレスタ―(三菱ケミカル製)を用いてフィルムの表面抵抗率を測定した。
以下の基準で判定した。
表面抵抗率が9.9E+9(Ω/□)以下 ・・〇
表面抵抗率が1.0E+10~9.9E+10(Ω/□)・・ △
表面抵抗率が1.0E+11(Ω/□)以上 ・・×
【0037】
[着氷雪試験]
得られたフィルムを使用し、縦15cm、横15cmの寸法のカットサンプルを作製した。
次に、かき氷器(ドウシシャ製、商品名:Otona 電動ふわふわ とろ雪かき氷器)で削り出されたかき氷を、カットサンプル上の全面に載置し、冷凍庫室内(日立製、商品名:日立ノンフロン冷凍冷蔵庫)に1時間30分放置した。かき氷を降り積もった雪に見立ての試験であるため、着氷雪試験とした。
最後に、かき氷が載置されたカットサンプルを冷凍庫室から取り出し、カットサンプルを垂直にした際に、カットサンプルに着氷しているフィルムの状態を目視にて観察し、かき氷の着氷面積を目測し、以下の評価を行った。
○:カットサンプルにほとんど着氷なし(着氷面積が30%以下)。
△:カットサンプルに部分着氷している(着氷面積が30%より大きく、38%以下)。
×:カットサンプルに着氷面積が大きい、あるいは全面着氷(着氷面積が38%より大きい)。
【0038】
[実施例1~9、比較例1~9]
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、帯電防止可塑剤、帯電防止剤、親水性フュームドシリカ、疎水性フュームドシリカ、過塩素酸バリウム、他各種添加剤を用い、表1に記載の配合量とし、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を調製した。
表1に記載の樹脂組成物を用い、前述した成膜方法にて厚さが0.35mmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを得た。
得られたポリ塩化ビニル系樹脂フィルムに対して、前述した加工性の確認、ブリードアウトの有無、着氷雪試験を実施し、評価を行い、その結果を表1に示す。また、着氷雪試験の状態を表2に示す。
【0039】
実施例1~4、8は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計の添加量が45.6質量部、親水性フュームドシリカの添加量が0.1~0.2質量部、疎水性フュームドシリカの添加量が3.0~10質量部、過塩素酸バリウムの添加量が0.2質量部であった。
加工性の評価において、金属ロール面へのプレートアウトは確認できず、ロール離れ性は良好であり、初期着色は確認できなかった。プレートアウトの原因となる帯電防止可塑剤や帯電防止剤を親水性フュームドシリカが吸着し、プレートアウトを抑制したものと推察する。また、加工時において、過塩素酸バリウムが帯電防止可塑剤等から発生するアミンガスを捕捉し、ポリ塩化ビニル系樹脂の劣化を抑制し、初期着色を抑制できたものと推察する。
ブリードアウトの有無において、綿棒拭き取りで拭き取り線は確認できなかった。ブリードアウトの原因となる帯電防止可塑剤や帯電防止剤を親水性フュームドシリカが吸着し、ブリードアウトを抑制したものと推察する。
帯電防止性の評価において、表面抵抗率が5.1×10~8.7×10Ω/□と低く、9.9×10Ω/□以下であり、「○」の良好な評価結果であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷がほとんど着氷しておらず、着氷面積を0%の評価結果であった。カットサンプル面上に、かき氷が溶解した水滴が付着しても、静電気による帯電防止効果と疎水性フュームドシリカの疎水効果により、水滴を留めることがないため、かき氷がほどんど着氷していなかったと推察する。
【0040】
実施例5は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、帯電防止可塑剤が30質量部、帯電防止剤が5.0質量部であった。
加工性の評価、およびブリードアウトの有無においては、表1に示すとおり、良好な結果であった。
帯電防止性の評価において、表面抵抗率が3.7×1010Ω/□と実用上問題ないがやや高く、「△」の評価結果であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積が35%であり、部分着氷が確認された。帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計が35質量部であり、表面抵抗率がやや高いため、かき氷が部分的にフィルム表面に水滴が固着して着氷したと考えられるが、許容範囲と判断した。
【0041】
実施例6は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、帯電防止可塑剤が36質量部、帯電防止剤が3.0質量部であった。
加工性の評価、およびブリードアウトの有無においては、表1に示すとおり、良好な結果であった。
帯電防止性の評価において、表面抵抗率が3.7×1010Ω/□と実用上問題ないがやや高く、「△」の評価結果であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積が25%であり、部分着氷が確認された。帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計が38質量部であり、表面抵抗値がやや高いため、フィルム表面に水滴が固着してかき氷が部分的に着氷したと考えられるが、許容範囲と判断した。
【0042】
実施例7は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、帯電防止可塑剤が36質量部、帯電防止剤が3.0質量部であった。
加工性の評価、およびブリードアウトの有無においては、表1に示すとおり、良好な結果であった。
帯電防止性の評価において、表面抵抗率が9.9×10Ω/□であり、「〇」の評価結果であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積が35%であり、部分着氷が確認され、「△」評価であった。部分着氷面積は35%であるものの、許容範囲と判断した。
【0043】
実施例9は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、親水性フュームドシリカが0.60質量部であった。
加工性の評価、およびブリードアウトの有無においては、表1に示すとおり、良好な結果であった。
帯電防止性の評価において、表面抵抗率が5.9×10Ω/□であり、「〇」の評価結果であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積が10%であり、部分着氷が確認された。部分的に着氷は確認できるものの許容範囲であると判断した。
【0044】
比較例1は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、帯電防止可塑剤が30質量部、帯電防止剤が1.0質量部であり、帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計が31質量部であった。
帯電防止性において、表面抵抗率が2.5×1011Ω/□であり、「×」の評価結果であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積が85%であり、ほぼ全面に着氷と判断した。帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計が35質量部以下であり、帯電防止性が不十分であり、かき氷の溶解した水滴が帯電により、カットサンプル上に留まった状態で、冷凍庫内で凍ったためカットサンプルに着氷したものと推察する。
【0045】
比較例2、3は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、疎水性フュームドシリカの添加量がそれぞれ、1.0質量部、2.0質量部であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積がいずれも40%であり、部分着氷と判断した。疎水性フュームドシリカの添加量が2.5質量部以下であり、疎水性が充分に発揮できず、かき氷の溶解した水滴等が、カットサンプル上に留まった状態で、冷凍庫内で凍ったためカットサンプルに着氷したものと推察する。
【0046】
比較例4、5は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計添加量が、それぞれ、51質量部、55質量部であった。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積がいずれも40%であり、部分着氷と判断した。帯電防止可塑剤と帯電防止剤の合計添加量が50質量部を超えるものであった。帯電防止可塑剤と帯電防止剤は、親水性により帯電を低減するものであるから、親水性が強くなることにより、着氷面積が増えたのではないかと推察する。
【0047】
比較例6、7、8は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、親水性フュームドシリカの添加量を徐々に増やしたものである。
着氷雪防止性評価において、カットサンプル面上に、かき氷の着氷面積がいずれも100%であり、全面着氷と判断した。親水性フュームドシリカの添加量が0.8質量部を超えるため、カットフィルムサンプル面上の親水性が上がり、かき氷が溶解した水滴等が、カットサンプル上に留まりやすく、冷凍庫内でカットサンプル上に着氷したものと推察する。
【0048】
比較例9は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量に対して、親水性フュームドシリカ、疎水性フュームドシリカ、過塩素酸バリウムを添加しなかった。
親水性フュームドシリカが添加されていないので、帯電防止可塑剤、難燃可塑剤、帯電防止剤等の低分子量物が、生産時に金属ロール面上にプレートアウトした。また、フィルムにした後も、ブリードアウトが見られた。
過塩素酸バリウムが添加されていないので、生産時にカレンダーロールで混練する際に、フィルム製膜時、樹脂が黄変し着色劣化が見られた。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
[産業上の利用可能性]
本発明により、手間とコストを低減するための着氷雪防止性を付与できるポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該組成物からなるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供することが可能となる。