(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127430
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/18 20060101AFI20230906BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031222
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】植田 潤
(72)【発明者】
【氏名】久野 勉
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB04
3C001TA01
3C001TB10
3C269AB05
3C269AB25
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF10
3C269MN28
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】 歯科用ミリングマシンの温湿度が変化する場合であっても、歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる。
【解決手段】 歯科用ミリングマシン10は、温度センサ91を備え、好ましくは、湿度センサ92をさらに備える。歯科用ミリングマシン10の制御装置80は、歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法として、クランプ装置30とスピンドルユニット60との相対的な位置関係の自動補正を実行した際の、歯科用ミリングマシン10の温湿度を記録する(ステップST04)。歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法は、自動補正を実行する前の温湿度またはワーク50を削る前の現在の温湿度と、記録した温湿度と、の差が、所定の閾値を超えるか否かを判定し(ステップST05,ST08)、自動補正値を更新するために、新しい自動補正を実行することができる(ステップST03,ST07)。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法であって、
前記歯科用ミリングマシンは、温度センサおよび/または湿度センサを備え、該方法は、
前記歯科用ミリングマシンのクランプ装置とスピンドルユニットとの相対的な位置関係の自動補正を実行するステップと、
前記自動補正を実行した後の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された温度および/または湿度を記録するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記自動補正を実行する前の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された温度および/または湿度を記録するステップを
更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ワークを削る前の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された温度および/または湿度を記録するステップを
更に含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記自動補正を実行した後の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された前記温度および/または前記湿度を記録する前記ステップは、前記自動補正を実行して決定された自動補正値を前記温度および/または前記湿度と関連付けて記録する、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(i)前記自動補正を実行する前の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された温度および/または湿度、または、ワークを削る前の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された温度および/または湿度と、(ii)前記自動補正を実行した後の、前記決定された自動補正値と関連付けて記録した、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された前記温度および/または前記湿度と、の差が、
所定の閾値を超えるか否かを判定するステップを
更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記差が前記所定の閾値を超える場合、新しい自動補正を実行するステップを
更に含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記新しい自動補正の実行をユーザに通知するステップを
更に含む請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを削り出すことにより、人工歯(義歯)等の補綴物へ加工するデンタル加工機(歯科用ミリングマシン)の加工品質を安定化させる方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用ミリングマシンは、例えば特許文献1に開示され、特許文献1のクランプ装置によれば、大きさの異なるワークをそれぞれ押さえることができる。また、歯科用ミリングマシンは、例えば特許文献2,3にも開示され、特許文献2の歯科用ミリングマシンによれば、例えばXYZ座標系の原点、A軸の原点、B軸の原点およびS軸の原点を記憶し、例えばB軸の原点を設定することができる。また、特許文献3によれば、歯科用ミリングマシンは、例えばXYZ座標系の原点を含む、ワークとスピンドルユニットとの相対的な位置関係を自動で補正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-126456号公報
【特許文献2】特開2020-183006号公報
【特許文献3】特開2020-028935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯科用ミリングマシンを組み立てる際に、組み立て誤差を軽減する為、歯科用ミリングマシンは、ワークとスピンドルユニットとの相対的な位置関係の自動補正を実施している。また、歯科用ミリングマシンの設置場所を移動させたとき、部品交換を実施するとき、などの、ワークとスピンドルユニットとの相対的な位置関係が物理的な影響を受けた場合、ユーザは、自動補正を実施している。その他、切削等の加工品質に低下が見られた場合など、ユーザは、任意のタイミングで、ワークとスピンドルユニットとの相対的な位置関係の自動補正を実施していた。設置場所の変化や部品交換などの物理的な外部要因以外に、温度変化による部品の熱膨張等によって、自動補正値は、変化し得る。しかしながら、ユーザは、その変化、したがって、加工精度(例えばXYZ座標系の原点)の変化または加工品質の悪化を捉えることができずにいた。
【0005】
本発明の1つの目的は、歯科用ミリングマシンの温湿度が変化する場合であっても、歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法を提供することである。本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0007】
本発明に従う態様において、温度センサおよび/または湿度センサを備える歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法は、
前記歯科用ミリングマシンのクランプ装置とスピンドルユニットとの相対的な位置関係の自動補正を実行するステップと、
前記自動補正を実行した後の、温度センサおよび/または湿度センサによって検出された温度および/または湿度を記録するステップと、
を含む。
【0008】
本発明に従う態様によれば、自動補正を実行した後の、温度および/または湿度が、好ましくは、温度および湿度の双方が記録される。本発明者らは、自動補正値と温湿度との間に良好な相関関係があることを発見し、温湿度の変化を監視することで、自動補正値(加工精度)の変化を管理することができる。また、適切なタイミングで自動補正を実施することが可能になる為、安定した加工品質を得ることが可能になる。
【0009】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に従う歯科用ミリングマシンの斜視図である。
【
図2】
図1に示されたクランプ装置の斜視図である。
【
図3】回転装置および回転支持部材の平面図であり、回転保持部材にクランプ装置が取り付けられている状態を示す図である。
【
図5】検出ツールおよび加工ツールを示す模式図である。
【
図6】
図1に示された歯科用ミリングマシンの制御系のブロック図である。
【
図7】
図1に示された歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法を実施するためのフローチャートである。
【
図8】
図8(A)は、自動補正値および気温の経時変化を表すグラフであり、
図8(B)は、自動補正値と気温との相関を表すグラフである。
【
図9】
図9(A)は、自動補正値および湿度の経時変化を表すグラフであり、
図9(B)は、自動補正値と湿度との相関を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照しながら、以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。なお、添付図面中、Frは前、Rrは後、Leは左、Riは右、Upは上、Dnは下を示している。また、歯科用ミリングマシン10は、互いに交差する3軸をX軸、Y軸およびZ軸とするXYZ座標系に配置されている。
【0012】
図1を参照する。制御装置80を備える歯科用ミリングマシン10は、歯科用の補綴物(人工歯)を加工するために用いられる。歯科用ミリングマシン10は、筐体としてのミリングマシン本体11の内部に、ワーク50を回転可能に支持する回転装置13と、この回転装置13に固定されワーク50を押さえているクランプ装置30と、ワーク50を削るためのスピンドルユニット60と、を備えている。加工ツール6Aを装着するスピンドルユニット60は、キャリッジ38に搭載されている。
【0013】
X軸は前後方向に延びる軸であり、Y軸は左右方向に延びる軸であり、Z軸は上下方向に延びる軸である。
図1の例において、X軸は、水平方向と同じ方向に延びており、Z軸は、鉛直方向と同じ方向に延びている。加工ツール6Aの回転軸(S軸)は、Z軸と平行に設けられている。加工ツール6Aおよびスピンドルユニット60は、キャリッジ38を介して、X軸方向およびZ軸方向に移動可能である。ワーク50、クランプ装置30および回転装置13は、移動機構58を介して、Y軸方向に移動可能である。
【0014】
ワーク50、クランプ装置30および回転装置13は、B軸周りに任意の回転角θBだけ回転可能である。ワーク50およびクランプ装置30は、A軸周りに任意の回転角θAだけ回転可能である。
図1の例において、回転装置13の回転軸46(B軸)は、Y軸と平行に設けられ、クランプ装置30の回転軸(A軸)は、X軸と平行に設けられている。歯科用ミリングマシン10は、従来公知の方法で、例えばX軸、Y軸、Z軸、A軸およびB軸で、ワーク50と加工ツール6Aとの相対的な位置関係を制御可能であり、歯科用ミリングマシン10の詳細の構造または機構の説明は、本明細書では省略する。
【0015】
図1の歯科用ミリングマシン10は、従来のミリングマシンと異なり、温度センサ91および湿度センサ92を備えている。温度センサ91および湿度センサ92は、歯科用ミリングマシン10の温湿度の変化を検出するために、例えばXYZ座標系の原点を自動補正するタイミングで、温湿度を記録することができる。
【0016】
なお、歯科用ミリングマシン10は、温度センサ91および湿度センサ92のうち温度センサ91だけを備えて、自動補正時に歯科用ミリングマシン10の温度だけを記録してもよい。代替的に、歯科用ミリングマシン10は、温度センサ91および湿度センサ92のうち湿度センサ92だけを備えて、自動補正時に歯科用ミリングマシン10の湿度だけを記録してもよい。
【0017】
図1において、ミリングマシン本体11には、従来のミリングマシンと同様に、例えば、上下方向にスライド可能にミリングマシン蓋体11aが取り付けられている。ワーク50を加工ツール6Aによって削る際は、ミリングマシン蓋体11aを下降させる。
【0018】
本発明に従う歯科用ミリングマシン10は、
図1の例に限定されず、従来のミリングマシンと同様に、例えば、加工ツール6Aを収容可能であるツールマガジン(図示せず)を備えることができる。
【0019】
図2を参照する。クランプ装置30は、例えば、ワーク50が載置された支持部40と、この支持部40と共にワーク50を挟み込む板状のクランプ板32と、これらの支持部40及びクランプ板32を締結する締結部材33と、を有する。クランプ装置30は、従来のクランプ装置と同様に、ワーク50を交換可能である。ワーク50は、例えば、円板状の石膏によって構成されて、ワーク50から複数の人工歯(図示せず)を削り出すことができる。
【0020】
図3を参照する。より詳細には、回転装置13は、クランプ装置30を着脱自在に保持する回転保持部材70を備え、回転保持部材70は、移動機構58(
図1参照)がX軸方向に移動することによって、X軸方向に移動可能である。
【0021】
図4を参照する。検出治具20は、例えばXYZ座標系の原点等を自動補正する時に、用いられる。
図4において、検出治具20は、クランプ装置30等のアダプタを備え、ユーザは、ワーク50の代わりに、検出治具20を回転保持部材70(回転装置13)に保持させ、または設置することができる。
【0022】
検出治具20は、従来の検出治具と同様に、例えば、検出部材を備え、検出部材は、例えば第1棒部材24Aとすることができる。
図4において、検出治具20は、例えば、1つの第1貫通孔23Aと2つの第2貫通孔23Bとが平面部21に貫通形成されている。第1貫通孔23Aは、X軸方向に延びる長孔である。第2貫通孔23Bは、Y軸方向に延びる長孔である。検出治具20は、Y軸方向に延びかつ第1貫通孔23Aに配置された第1棒部材24Aと、X軸方向に延びかつ第2貫通孔23Bに配置された第2棒部材24Bと、を備えている。
【0023】
図5を参照する。ワーク50を切削加工するときには、加工ツール6Aが用いられる。加工ツール6Aは、従来の加工ツールと同様に、スピンドルユニット60に担持される被把持部7Aを有する。
図5において、加工ツール6Aにはフランジ7Cが設けられている。フランジ7Cよりも下方には、刃物部7Bが設けられている。回転状態の加工ツール6Aの刃物部7Bがワーク50に接触することで、ワーク50が切削加工される。加工ツール6Aは、一般に被把持部7Aよりも刃物部7Bの直径DTが小さくなるよう形成されている。加工ツール6Aがスピンドルユニット60に把持されたときのフランジ7Cから刃物部7Bの下端(先端)までの長さLTは、加工ツール6Aの種類に依存する。加工ツール6Aは、金属等の導電性材料により形成されている。
【0024】
歯科用ミリングマシン10の位置補正を行うときには、加工ツール6Aの代わりに、検出ツール6Bが用いられる。歯科用ミリングマシン10の位置補正とは、スピンドルユニット60と回転装置13(保持部材)との相対的な位置関係を補正することであり、従来公知の方法で行われる。
【0025】
図5において、検出ツール6Bには、従来の検出ツールと同様に、フランジ9Cが設けられている。検出ツール6Bの被把持部9Aは、スピンドルユニット60の把持部に把持される。フランジ9Cよりも下方には、検出部9Bが設けられている。検出ツール6Bの検出部9Bは、検出治具20の検出部材と接触する。検出ツール6Bは、例えば、検出部9Bの直径DXが一定になるよう形成されている。検出部9Bの直径DXは、加工ツール6Aの刃物部7Bの直径DTより大きい。検出ツール6Bがスピンドルユニット60に把持されたときのフランジ9Cから検出部9Bの下端(先端)までの長さLXは、加工ツール6Aにおけるフランジ7Cから刃物部7Bの下端(先端)までの長さLTよりも長いことがほとんどである。
図5に示す例では、検出ツール6Bの長さLXと加工ツール6Aの長さLTと同じである。検出ツール6Bは、金属等の導電性材料により形成されている。
【0026】
図6を参照する。歯科用ミリングマシン10は、従来のミリングマシンと同様の構成と、従来のミリングマシンが備えていない新規な構成と、を備え、
図6の制御装置80も、従来の制御装置と同様の構成と、従来の制御装置が備えていない新規な構成と、を備えている。
【0027】
(従来の制御方法)
最初に、例えばX軸、Y軸、Z軸、A軸およびB軸で、ワーク50(または検出部材)と加工ツール6A(または検出ツール6B)との相対的な位置関係を制御するための、従来の制御方法を説明する。
【0028】
図6に示すように、歯科用ミリングマシン10の全体の動作は、制御装置80によって制御されている。制御装置80の構成は特に限定されない。制御装置80は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータなどの外部機器から加工データなどを受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置と、を備えている。
図1に示すように、制御装置80は、例えば、ミリングマシン本体11(ケース本体)の内部に設けられている。
【0029】
図6に示すように、制御装置80は、回転部63、第1駆動機構38C、第2駆動機構38D、第1モータ59D、第2モータ47および第3モータ55と通信可能に接続され、これらを制御する。制御装置80は、スピンドルユニット60(または検出ツール6B)のZ軸方向およびY軸方向の移動、加工ツール6AのS軸回りθSの回転、および、回転装置13(保持部材)の移動および回転(即ち回転保持部材70のX軸方向の移動と回転保持部材70のB軸回りθBの回転とクランプ装置30のA軸回りθAの回転)を制御する。
【0030】
なお、回転部63は、スピンドルユニット60の回転部分であり、スピンドルユニット60は、従来のスピンドルユニットと同様に、例えば、円柱状に形成された本体部と、この本体部に設けられた回転部63と、回転部63の下端に設けられかつ加工ツール6Aおよび検出ツール6Bを把持する把持部と、を備えている。回転部63がスピンドルユニット60の本体部に対してS軸回りθSに相対的に回転することによって、加工ツール6AがS軸回りθSに回転する。回転部63は、制御装置80に制御される。
【0031】
第1駆動機構38Cは、キャリッジ38をY軸方向に移動することができる。第2駆動機構38Dは、キャリッジ38をZ軸方向に移動することができる。キャリッジ38は、従来のキャリッジと同様に、例えば、左右方向に延びる第1ガイドシャフトに支持される第1キャリッジと、上下方向に延びる第2ガイドシャフトに支持される第2キャリッジと、を備え、キャリッジ38は、Z軸方向およびY軸方向に移動自在に設けられている。言い換えれば、キャリッジ38は、キャリッジ38に搭載されるスピンドルユニット60をZ軸方向およびY軸方向に移動させる。例えば、スピンドルユニット60(加工ツール6Aまたは検出ツール6B)を搭載するキャリッジ38(第1キャリッジ)は、第1駆動機構38Cによって、第1ガイドシャフトに沿ってY軸方向に移動することができる。スピンドルユニット60(加工ツール6Aまたは検出ツール6B)を搭載するキャリッジ38(第2キャリッジ)は、第2駆動機構38Dによって、第2ガイドシャフトに沿ってZ軸方向に移動することができる。第1駆動機構38Cおよび第2駆動機構38Dは、制御装置80に制御される。
【0032】
第1モータ59Dは、移動機構58に設けられ、移動機構58は、従来の移動機構と同等に、例えば、第1モータ59Dと、X軸方向に伸びる第3ガイドシャフトと、を備えている。ワーク50(または検出治具20の検出部材)を保持する回転装置13の保持部材(回転保持部材70)は、第1モータ59Dを駆動することによって、第3ガイドシャフトに沿ってX軸方向に移動することができる。第1モータ59Dは、制御装置80に制御される。
【0033】
第2モータ47は、回転装置13の回転軸46をB軸回りθBに回転させる。言い換えれば、回転装置13には、回転装置13を回転可能に支持する回転軸46が設けられている。回転軸46は、Y軸方向に延びている。第2モータ47は、制御装置80に制御される。第2モータ47が駆動することで、回転装置13の回転軸46がB軸回りθBに回転する。そして、回転軸46の回転に伴い、回転装置13の保持部材(回転保持部材70)に保持されるワーク50(または検出治具20の検出部材)は、B軸回りθBに回転する。
【0034】
第3モータ55は、回転装置13の回転保持部材70をA軸回りθAに回転させる。言い換えれば、回転保持部材70は、回転装置13に回転可能に支持されている。第3モータ55は、制御装置80に制御される。第3モータ47が駆動することで、回転装置13の回転保持部材70がA軸回りθAに回転する。そして、回転保持部材70の回転に伴い、回転保持部材70に保持されるワーク50(または検出治具20の検出部材)は、A軸回りθAに回転する。
【0035】
図6に示すように、制御装置80は、記憶部81と、加工制御部82と、自動補正部83と、を備えている。制御装置80の各部の機能は、プログラムによって実現されている。このプログラムは、例えばCDやDVDなどの記録媒体から読み込まれる。なお、このプログラムは、インターネットを通じてダウンロードされるものであってもよい。
【0036】
記憶部81は、例えば、XYZ座標系の原点、A軸の原点、B軸の原点およびS軸の原点を記憶している。
【0037】
制御装置80は、従来の制御装置と同様に、加工データに基づきワーク50を削るための加工制御部82を備えている。以下に、自動補正部83を簡単に説明する。
【0038】
加工データは、例えば、加工プログラムのコマンドに示された座標値であり、加工制御部62は、スピンドルユニット60および回転装置13の動作を制御する。加工制御部62は、ワーク50と加工ツール6Aとの相対的な位置関係を3次元で変化させて、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、A軸回りθA、B軸回りθBの5軸制御による高精度な加工を実現することができる。スピンドルユニット60の回転部63によって回転された加工ツール6Aの刃物部7Bを、回転装置13に保持されたワーク50に当接させることで、ワーク50に対する加工を行うことができる。
【0039】
また、制御装置80は、従来の制御装置と同様に、例えばXYZ座標系の原点等を自動補正する自動補正部83を備えている。以下に、自動補正部83を簡単に説明する。
【0040】
ユーザは、例えば自動補正ボタン(図示せず)を選択またはクリックすることで、ワーク50とスピンドルユニット60との相対的な位置関係の自動補正を実施することができる。具体的には、ユーザは、ワーク50の代わりに、検出治具20を回転保持部材70(回転装置13)に保持させ、加工ツール6Aの代わりに、検出ツール6Bをスピンドルユニット60に担持させ、自動補正ボタンを選択または操作する。これに応じて、指示部15は、自動補正部83を実行または起動させることができる。
【0041】
自動補正部83は、例えば、自動補正プログラムのコマンドに示された座標値に基づき、スピンドルユニット60および回転装置13の動作を制御する。自動補正部83は、検出ツール6Bの検出部9Bと検出治具20の検出部材とが接触(電気的に導通)する座標を取得し、その座標(取得位置)と既知の理想位置との間のズレから、例えばXYZ座標系の原点の自動補正値(オフセット量)を決定し、例えば記憶部81に記憶することができる。
【0042】
(新規な制御方法)
次に、歯科用ミリングマシン10の温湿度の変化を検出するため新規な制御方法について、説明する。
【0043】
図6に示すように、制御装置80は、温湿度の変化を検出するための所定の閾値を管理する管理部84を備え、管理部84は、温度センサ91によって検出される温度と、湿度センサ92によって検出される湿度と、を監視することができる。また、管理部84は、必要に応じて、歯科用ミリングマシン10の温湿度を記録することができる。
【0044】
図6に示すように、制御装置80は、自動補正部83によって決定した自動補正値を安定化させる安定化部85を備えている。
【0045】
安定化部85は、記憶した温湿度と現在の温湿度との差が、所定の閾値を超えているか否かを判定し、この差が所定の閾値を超える場合、自動補正部83を自動的に起動させて、新しい自動補正値を決定し、自動補正値を更新することができる。また、安定化部85は、自動補正部83によって決定された自動補正値を評価し、自動補正値が信頼できない場合、決定された自動補正値を破棄させ、信頼できる自動補正値が得られるまで、自動補正値の決定を自動的に繰り返すことができる。
【0046】
管理部84は、温湿度の変化を検出するタイミングで、報知部16を介して、自動補正を自動的に実行することをユーザに報知することができる。
【0047】
図7を参照する。1例として、歯科用ミリングマシン10の電源がONされる間、制御装置80は、歯科用ミリングマシンの加工品質を安定化させる方法を実施し続けることができる。
【0048】
ステップST01に示すように、例えば安定化部85は、自動補正部83がユーザからの指示に基づき、手動で起動されたか否かを判定することできる。安定化部85は、自動補正部83の実行状態を監視することができ、自動補正部83が手動で起動されて、自動補正(1回目)を実行する前に、自動補正を実行する直前の時刻での温湿度を管理部84に記録させることができる(ステップST02)。
【0049】
自動補正部83は、自動補正を実行し(ステップST03)、安定化部85は、自動補正(1回目)を実行した直後の時刻での温湿度を管理部84に記録させることができる(ステップST04)。安定化部85は、自動補正(1回目)の前後で所定の閾値を超える温湿度差があったか否かを判定することができる(ステップST05)。
【0050】
自動補正(1回目)の前後で所定の閾値を超える温湿度差があった場合、安定化部85は、自動補正値(1回目)が信頼できないと判断し、例えばディスプレイ等の報知部16に、再度、自動補正(2回目)を自動的に実行する旨を表示させて、ユーザに通知することができる(ステップST06)。安定化部85は、自動補正部83の次の自動補正(2回目)を自動的に実行させ(ステップST03)、安定化部85は、自動補正(2回目)を実行した直後の時刻での温湿度を管理部84に記録させることができる(ステップST04)。
【0051】
安定化部85は、自動補正(1回目)を実行した直後の時刻での温湿度を、自動補正(2回目)を実行する直前の時刻での温湿度として取り扱うことができ、自動補正(2回目)の前後で所定の閾値を超える温湿度差があったか否かを判定することができる(ステップST05)。
【0052】
なお、ステップST06の実行後、ステップST03が実行されたが、ステップST06の実行後、ステップST02が実行されてもよく、自動補正(1回目)を実行した直後の時刻よりも後であって、自動補正(2回目)を実行する直前の時刻での温湿度が記録されてもよい。
【0053】
安定化部85は、自動補正部83によって決定された自動補正値を評価し、自動補正値が信頼できない場合、決定された自動補正値を破棄させ、信頼できる自動補正値が得られるまで、自動補正値の決定を自動的に繰り返すことができる(ステップST06およびステップST03)。
【0054】
例えば自動補正(1回目)によって信頼できる自動補正値が得られた場合、安定化部85は、自動補正(1回目)を実行した直後の時刻での温湿度を自動補正値(1回目)と関連付けて、例えば管理部84に自動補正値(1回目)を管理・記録させることができる(ステップST07)。
【0055】
同様に、例えば自動補正(2回目)によって信頼できる自動補正値が得られた場合、安定化部85は、自動補正(2回目)を実行した直後の時刻での温湿度を自動補正値(2回目)と関連付けて、例えば管理部84に自動補正値(2回目)だけを管理・記録させることができる(ステップST07)。
【0056】
安定化部85は、管理部84によって管理される、自動補正値に関連付けれた温湿度と、現在の温湿度と、の差が、所定の閾値を超えるか否かを判定することができる(ステップST08)。安定化部85は、定期的に、例えば所定間隔で、管理部84によって管理される自動補正値が現在の温湿度でも信頼できる自動補正値であるか否かを判定することができる。
【0057】
例えば自動補正(1回目)によって信頼できる自動補正値が得られた場合であっても、その後に、歯科用ミリングマシン10の温湿度の変化が発生して、所定の閾値を超える温湿度差があった場合、安定化部85は、自動補正値(1回目)が信頼できないと判断し、例えばディスプレイ等の報知部16に、再度、自動補正(2回目)を自動的に実行する旨を表示させて、ユーザに通知することができる(ステップST09)。
【0058】
同様に、例えば自動補正(2回目)によって信頼できる自動補正値が得られた場合であっても、その後に、歯科用ミリングマシン10の温湿度の変化が発生して、所定の閾値を超える温湿度差があった場合、安定化部85は、自動補正値(2回目)が信頼できないと判断し、例えばディスプレイ等の報知部16に、再度、自動補正(3回目)を自動的に実行する旨を表示させて、ユーザに通知することができる(ステップST09)。
【0059】
歯科用ミリングマシン10の温湿度の変化が発生するタイミングで、安定化部85は、自動補正を実行し(ステップST03)、自動補正値を更新することができる(ステップST07)。
【0060】
(変形例)
図7のステップST08およびST09は、例えば、以下のように、変更して実行されてもよい。例えば、安定化部85は、加工制御部82の実行状態を監視することができ、加工データに基づきワーク50を削る前に、管理部84によって管理される自動補正値が現在(加工直前)の温湿度でも信頼できる自動補正値であるか否かを判定してもよい。
【0061】
自動補正値が信頼できない場合、安定化部85は、ユーザに自動補正の実行を催促することができる。例えば、安定化部85は、例えばディスプレイ等の報知部16に、自動補正を手動で実行すべき旨を表示させて、ユーザに通知することができる。
【0062】
図7のステップST07は、例えば、以下のように、変更して実行されてもよい。管理部84は、加工制御部82の実行時に使用される1つの自動補正値(オフセット量)だけを管理すれば十分であるが、過去の自動補正値(破棄またはクリアされた自動補正値)をログデータとして管理・記録してもよい(ステップST07)。管理部84が複数の自動補正値を管理・記録する場合、ユーザは、例えば
図8(A)および
図8(B)並びに
図9(A)および
図9(B)のグラフを得ることができる。なお、ログデータは、記憶部81で管理されてもよく、歯科用ミリングマシン10の外部に、例えばクラウドサーバ(図示せず)に、管理されてもよい。
【0063】
図8(A)に示すように、制御装置80は、例えば700回分の信頼できる例えばY座標の原点のオフセット量(例えば規格化されたY座標原点である0[μm]に対する自動補正値[μm])を、自動補正時の温度と関連付けて記録することができる。
図8(A)を参照すれば、これに限定されない1例として、一点鎖線で示される歯科用ミリングマシン10の環境温度(例えば歯科用ミリングマシン10を設置した場所の気温)が例えば2.5[℃]~20[℃]の範囲で変化するときに、太い実線で示されるY座標原点(Y軸方向の加工精度)は、-30[μm]~+40[μm]の範囲で、変化する。加工精度の変化または加工品質の悪化を防止するために、適切な所定の閾値(温度)を設定することができる。
【0064】
また、これに限定されない1例として、
図8(A)のデータは、
図8(B)に示すように、自動補正値と自動補正時の温度との間には、良好な相関(例えば相関係数は0.61)があった。
【0065】
図9(A)に示すように、制御装置80は、例えば700回分の信頼できる例えばY座標の原点のオフセット量(例えば規格化されたY座標原点である0[μm]に対する自動補正値[μm])を、自動補正時の湿度と関連付けて記録することができる。
図9(A)を参照すれば、これに限定されない1例として、一点鎖線で示される歯科用ミリングマシン10の環境湿度(例えば歯科用ミリングマシン10を設置した場所の湿度)が例えば20[%]~80[%]の範囲で変化するときに、太い実線で示されるY座標原点(Y軸方向の加工精度)は、-30[μm]~+40[μm]の範囲で、変化する。加工精度の変化または加工品質の悪化を防止するために、適切な所定の閾値(温度)を設定することができる。
【0066】
また、これに限定されない1例として、
図9(A)のデータは、
図9(B)に示すように、自動補正値と自動補正時の湿度との間には、良好な相関(例えば相関係数は0.79)があった。
【0067】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0068】
10・・・歯科用ミリングマシン、11・・・ミリングマシン本体、11a・・・ミリングマシン蓋体、13・・・回転装置、15・・・指示部、16・・・報知部、20・・・治具装置、21・・・平面部、23A,23B・・・貫通孔、24A,24B・・・棒部材、30・・・クランプ装置、32・・・クランプ板、33・・・締結部材、38・・・キャリッジ、38C・・・キャリッジ、38D・・・駆動機構、40・・・指示部、46・・・回転部、47・・・第2モータ、50・・・ワーク、55・・・第3モータ、58・・・移動機構、59D・・・第1モータ、60・・・スピンドルユニット、63・・・回転部、70・・・回転保持部材、80・・・制御装置、81・・・記憶部、82・・・加工制御部、83・・・自動補正部、84・・・管理部、85・・・安定化部、91・・・温度センサ、92・・・湿度センサ。