(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012744
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】覆工コンクリートの加温方法及び加温装置
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230119BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
E04G21/02 104
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116395
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596007979
【氏名又は名称】大栄工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲生
(72)【発明者】
【氏名】松田 正仁
(72)【発明者】
【氏名】坂田 晴紀
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155CA03
2D155KA00
2D155LA05
2D155LA06
2E172EA03
2E172EA06
(57)【要約】
【課題】複雑な制御手段を用いなくても、覆工コンクリートCを適切な温度に効率よく加温できるようにする。
【解決手段】加温装置は、トンネルの内壁に打設された覆工コンクリートCを加温するものであって、覆工コンクリートCの内周面を成型する金属製の型枠10と、該型枠10の内周面に当接しているPTCヒーター1と、PTCヒーター1の背後を保温する保温材2と、保温材2を介してPTCヒーター1を型枠10の内周面に押圧する押圧機構4とを含み構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内壁に打設された覆工コンクリート(C)を加温する加温方法において、
覆工コンクリート(C)の内周面を成型する金属製の型枠(10)を、該型枠(10)の内周面に当接しているPTCヒーター(1)により加温することを特徴とする覆工コンクリートの加温方法。
【請求項2】
PTCヒーター(1)の背後を保温材(2)で保温する請求項1記載の覆工コンクリートの加温方法。
【請求項3】
保温材(2)は発泡スチロール樹脂からなる請求項2記載の覆工コンクリートの加温方法。
【請求項4】
保温材(2)を介してPTCヒーター(1)を型枠(10)の内周面に押圧する請求項1又は2記載の覆工コンクリートの加温方法。
【請求項5】
トンネルの内壁に打設された覆工コンクリート(C)を加温する加温装置において、
覆工コンクリート(C)の内周面を成型する金属製の型枠(10)と、該型枠(10)の内周面に当接しているPTCヒーター(1)とを含み構成されたことを特徴とする覆工コンクリートの加温装置。
【請求項6】
PTCヒーター(1)の背後を保温する保温材(2)を含む請求項5記載の覆工コンクリートの加温装置。
【請求項7】
保温材(2)は発泡スチロール樹脂からなるものである請求項6記載の覆工コンクリートの加温装置。
【請求項8】
保温材(2)を介してPTCヒーター(1)を型枠(10)の内周面に押圧する押圧機構(4)を含む請求項6又は7記載の覆工コンクリートの加温装置。
【請求項9】
型枠(10)の内周面に複数の補強凸部(14)が突設され、2つの補強凸部(14)の間にPTCヒーター(1)と保温材(2)が配設され、補強凸部(14)にねじ(6)を螺合させることにより保温材(2)を介してPTCヒーター(1)を型枠(10)の内周面に押圧する押圧機構(4)を含む請求項6又は7記載の覆工コンクリートの加温装置。
【請求項10】
押圧機構(4)は、ねじ(6)に押されて保温材(2)の背面を押す剛体部材(7)を含み、剛体部材(7)は保温材(2)の背面を押したときに変形しないものであり、剛体部材(7)は保温材(2)と別体であるか又は一体化されている請求項9記載の覆工コンクリートの加温装置。
【請求項11】
保温材(2)は、型枠(10)の内周面を向く面に溝(3)が形成された板状体であり、
PTCヒーター(1)は、線状であり、溝(3)に収容されており、溝(3)の開口から現れた部位が型枠(10)の内周面に当接している請求項5~10のいずれか一項に記載の覆工コンクリートの加温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの内壁に打設された覆工コンクリートを加温する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トンネルの内壁をコンクリートで覆工する場合、特許文献1に記載のようなセントル台車に設けられているアーチ形状の型枠を用い、坑口から逐次、型枠が設けられた区間毎に、覆工コンクリートの打設が行われる。打設後、所定時間が経過してから脱型されるが、脱型時のコンクリート強度が低いと覆工コンクリートのひび割れ等の原因となる。
【0003】
そのため、特許文献1では、型枠を加温する複数の加温手段とその制御手段を用い、覆工コンクリートの周方向に分割して設定された複数の加温エリアを、所定のサイクルで順次切り換えて加温する方法及び装置が提案されている。所定のサイクルで順次切り換えて加温することにより、覆工コンクリート全体の温度のばらつきを少なくし、コンクリート強度をほぼ均一に高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5421413号公報
【特許文献2】特開平10-220005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法及び装置では、1サイクルの各加温エリアにおける加温時間や切り換えの順番を設定したり、リアルタイムに検出した覆工コンクリートの温度に基づいて加温時間をフィードバック制御したりする、複雑な制御手段が必要であった。
【0006】
ところで、特許文献2には、住宅建物の基礎型枠にコンクリートを打設し、この基礎型枠を、PTC線状ヒータを内蔵した電熱養生シートで覆い、この電熱養生シートを加熱制御してコンクリートを所定温度で養生させる基礎コンクリートの養生方法が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献2には、この電熱養生シートをトンネルの覆工コンクリートの加温に使用することについてまでは記載及び示唆がない。しかも、この電熱養生シートは、塩化ビニル系樹脂などからなる二枚のシート材間にPTC線状ヒータを内蔵しているため、シート材とPTC線状ヒータとの間に熱伝導性の低い空気が介在しうる。また、電熱養生シートは基礎型枠に被せるだけなので、電熱養生シートと基礎型枠との間にも熱伝導性の低い空気が介在しうる。このため、PTC線状ヒータの熱は基礎型枠に効率的に伝わらない。よって、仮に、この電熱養生シートをトンネルの覆工コンクリートの加温に使用しても、同様に、効率よく加温することはできない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、複雑な制御手段を用いなくても、覆工コンクリートを適切な温度に効率よく加温できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]覆工コンクリートの加温方法
トンネルの内壁に打設された覆工コンクリートを加温する加温方法において、
覆工コンクリートの内周面を成型する金属製の型枠を、該型枠の内周面に当接しているPTCヒーターにより加温することを特徴とする覆工コンクリートの加温方法。
【0010】
ここで、PTCヒーターの背後を保温材で保温することが好ましい。
【0011】
保温材は発泡スチロール樹脂からなるものが好ましい。加工しやすい、保温性が高い、軽量である等の理由による。
【0012】
保温材を介してPTCヒーターを型枠の内周面に押圧することが好ましい。該押圧によりPTCヒーターと型枠の内周面との間に空気層が介在しなくなり、PTCヒーターの熱が型枠にムラなく伝熱され、コンクリートの養生温度が安定的に保たれるからである。
【0013】
[2]覆工コンクリートの加温装置
トンネルの内壁に打設された覆工コンクリートを加温する加温装置において、
覆工コンクリートの内周面を成型する金属製の型枠と、該型枠の内周面に当接しているPTCヒーターとを含み構成されたことを特徴とする覆工コンクリートの加温装置。
【0014】
ここで、PTCヒーターの背後を保温する保温材を含むことが好ましい。
【0015】
保温材は発泡スチロール樹脂からなるものが好ましい。加工しやすい、保温性が高い、軽量である等の理由による。
【0016】
保温材を介してPTCヒーターを型枠の内周面に押圧する押圧機構を含むことが好ましい。該押圧によりPTCヒーターと型枠の内周面との間に空気層が介在しなくなり、PTCヒーターの熱が型枠にムラなく伝熱され、コンクリートの養生温度が安定的に保たれるからである。
【0017】
また、型枠の内周面に複数の補強凸部が突設され、2つの補強凸部の間にPTCヒーターと保温材が配設され、補強凸部にねじを螺合させることにより保温材を介してPTCヒーターを型枠の内周面に押圧する押圧機構を含むことが好ましい。
【0018】
この押圧機構としては、ねじに押されて保温材の背面を押す剛体部材を含み、剛体部材は保温材の背面を押したときに変形しないものであり、剛体部材は保温材と別体であるか又は一体化されてものを例示できる。
【0019】
保温材は、型枠の内周面を向く面に溝が形成された板状体であり、
PTCヒーターは、線状であり、溝に収容されており、溝の開口から現れた部位が型枠の内周面に当接している態様を例示できる。
【0020】
[作用]
PTCヒーターは、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有するPTC素子を用いた電熱ヒーターである。PTC素子は、通電すると、最初は低温であるために抵抗値が小さいので大電流が流れ、素子温度が急激に上昇する。そして、素子温度がキューリー温度を超えると抵抗値が増大するために電流量が減少し、その結果、発熱量は減少する。そのため、PTCヒーターは、所定温度以上に温度が上がることなく、一定温度で安定して熱平衡状態を保つという、自己温度制御機能を有している。従って、温度制御や過熱防止のためのセンサーや回路を必要としない。
そして、金属製の型枠を、該型枠の内周面に当接しているPTCヒーターにより加温することにより、PTCヒーターの熱が金属製の型枠に効率よく伝わり、型枠の加温を介して覆工コンクリートを加温することができるとともに、上述した自己温度制御機能により、特許文献1のような複雑な制御手段を別途設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複雑な制御手段を用いなくても、覆工コンクリートを適切な温度に効率よく加温できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は実施例の覆工コンクリートの加温装置を示す部分分解斜視図である。
【
図2】
図2は同加温装置の(a)は部分斜視図、(b)はIIb-IIb断面図、(c)はIIc-IIc断面図である。
【
図4】
図4は同加温装置を下から見た底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.PTCヒーター
PTCヒーターとしては、特に限定されないが、複数のPTC素子を一方向に並設した線状のもの、複数のPTC素子を分散配置した面状のもの等を例示できる。PTCヒーターは、型枠への配設のしやすさから、線状のものが好ましい。
PTC素子としては、特に限定されないが、チタン酸バリウム、炭化珪素等からなるものを例示できる。
【0024】
2.保温材
保温材としては、特に限定されないが、発泡樹脂、発泡ゴム、グラスウール、ロックウール、珪酸カルシウム、パーライト等からなるものを例示でき、前述のとおり発泡スチロール樹脂からなるものが好ましい。
保温材は、型枠への配設のしやすさから、板状(高さに比して幅が同等又は小さい棒状のものも含む。)に成形されたものが好ましい。
【0025】
3.押圧機構
押圧機構としては、特に限定されないが、前述のねじを用いた押圧機構がシンプルな構造であることから好ましい。前述の剛性部材としては、特に限定されないが、板状、棒状、アングル状等をなすものを例示できる。
押圧機構として、その他にも、バネを用いた押圧機構構等を例示できる。
【実施例0026】
以下、本発明の実施例を
図1~
図4を参照して説明する。なお、実施例の各部の構造、形状、数等は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0027】
図3に示すように、トンネルの内壁には吹付工法により吹付コンクリートSが施工されている。
トンネルの床面には床レール(図示略)が敷設され、床レールには自走するセントル台車(図示略)が設置され、セントル台車には支柱等により後述する型枠10が支持されている。
吹付コンクリートSと型枠10との間には打設空間が形成され、打設空間には覆工コンクリートCが打設される。
【0028】
覆工コンクリートCは、セントル台車が坑口から逐次移動し、その移動に伴って形成された打設空間ごとに生コンクリートを充填することから、坑口から逐次打設されている。従って、打設空間の坑口側は既設の覆工コンクリートCの端面で塞がれ、切羽側は妻型枠(図示略)で塞がれる。
【0029】
本実施例の覆工コンクリートCの加温装置は、このトンネルの内壁に打設された覆工コンクリートCを加温するものであって、
図1及び
図2に示すように、覆工コンクリートCの内周面を成型する金属製(鋼製)の型枠10と、該型枠10の内周面に当接しているPTCヒーター1と、PTCヒーター1の背後を保温する保温材2と、保温材2を介してPTCヒーター1を型枠10の内周面に押圧する押圧機構4とを含み構成されている。
【0030】
型枠10は、坑長方向に例えば1000~2000mmの長さをなすアーチ型の型枠要素11を、坑長方向に所定の複数個接続して構成されている。
型枠要素11は、打設空間を形成する部分円筒面状の表面部12と、表面部12の坑口側端と切羽側端から折曲してトンネル内側へ延びる扇面状の一対の側面部13と、表面部12の内周面に突設された複数の補強凸部14とを含み構成されている。補強凸部14は坑長方向に延びる型鋼である。型枠要素11は、トンネルの内壁の周方向に複数に分割形成されたものが接続されてなり、
図3には内壁の天頂部に対応する部位のみを実線で示しているが、2点鎖線で示すように内壁の横部に対応する部位までを含んでいる。
【0031】
PTCヒーター1としては、例えば、積水化成品工業株式会社の商品名「テクヒーター」(T9シリーズ)が使用されている。これは、平行に配置した2本の導電線間にチタン酸バリウム系の複数のPTC素子を接続し、それらの回りを樹脂被覆で覆ってなる、断面が幅18.5mm×高さ7.5mmの偏平な線状ヒーターであり、可撓性を有している。ヒーター両端にはコネクターが設けられている。
【0032】
保温材2としては、例えば発泡スチロール樹脂製の板状体が使用されている。これは、例えば、長さ700~1700mm、高さ100~150mm、幅100~250mmであり、型枠10の内周面を向く面に溝3が形成されている。その溝3にPTCヒーター1が収容された状態で、PTCヒーター1と保温材2はそれらの長さ方向が坑長方向となるように2つの補強凸部14の間に配設され、溝3の開口から現れたPTCヒーター1の部位が型枠10の表面部12の内周面に当接している。
【0033】
押圧機構4は、補強凸部14に植設された雌ねじ5に対して螺合する雄ねじ6と、2つの補強凸部14に跨って保温材2の下面に当てられ、雄ねじ6に押されて保温材2の背面を押す剛体部材7とから構成されている。剛体部材7には、保温材2の背面を押したときに変形しない例えば長方形の合板が用いられ、その四隅部を雄ねじ6が貫通している。雄ねじ6の締め付け加減により、PTCヒーター1の押圧力を調整できる。該押圧によりPTCヒーター1と型枠10の内周面との間に空気層が介在しなくなり、PTCヒーター1の熱が型枠10にムラなく伝熱され、コンクリートの養生温度が安定的に保たれる。なお、
図3及び
図4に示すように、1つの剛体部材7で、1つの保温材2を押圧してもよいし、複数の保温材2を押圧してもよい。
【0034】
以上のように構成された加温装置を用いて覆工コンクリートCを加温する方法について、打設方法と共に説明する。
(1)予め地上で、型枠10にPTCヒーター1、保温材2及び押圧機構4を上記のとおりセットし、PTCヒーター1に通電用の配線をしておく。
(2)この型枠10をセントルに支持させ、型枠10の内周面に当接しているPTCヒーター1に通電して、型枠10を所定温度に加温する。
(3)この加温状態で、支保コンクリートと型枠10との間の打設空間に覆工コンクリートCを打設する。
(4)打設後も所定時間は、型枠10を残置し、PTCヒーター1による加温を脱型まで継続する。
【0035】
以上に詳述した実施例の加温装置及び加温方法によれば、次の作用効果が得られる。
(ア)金属製の型枠10を、該型枠10の内周面に当接しているPTCヒーター1により加温することにより、PTCヒーター1の熱が金属製の型枠10に効率よく伝わり、型枠10の加温を介して覆工コンクリートCを加温することができるとともに、上述した自己温度制御機能により、特許文献1のような複雑な制御手段を別途設ける必要がない。また、PTCヒーター1は過熱しないことから、エネルギー消費に無駄がない。
【0036】
(イ)PTCヒーター1の背後を保温材2により保温するので、PTCヒーター1の熱が、背後に逃げず、型枠10により効率よく伝わる。
(ウ)PTCヒーター1の背後を保温材2と剛体部材7で保護するので、PTCヒーター1が損傷しにくい。
【0037】
(エ)押圧機構4は、PTCヒーター1を型枠10の内周面に押圧する機能を有しているので、PTCヒーター1の熱が型枠10により効率よく伝わる。
(オ)押圧機構4は、補強凸部14に取着されることから、取着のための部材を別途設ける必要がない。
【0038】
(カ)覆工コンクリートCを打設当初から脱型まで加温することにより、養生温度のムラを抑制し、内部温度と表面温度の差を少なくして、若齢時コンクリートの強度増進を計り、温度応力や初期強度不足によるひび割れや表面剥離を防止することができる。
【0039】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
押圧機構(4)は、ねじ(6)に押されて保温材(2)の背面を押す剛体部材(7)を含み、剛体部材(7)は保温材(2)の背面を押したときに変形しないものであり、剛体部材(7)は保温材(2)と別体であるか又は一体化されている請求項3又は4記載の覆工コンクリートの加温装置。