(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127446
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】PC鋼材保護シース
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20230906BHJP
E04C 5/10 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
E04G21/12 104D
E04C5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031247
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤代 勝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 公生
(72)【発明者】
【氏名】一宮 利通
(72)【発明者】
【氏名】中西 正継
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 一治
(72)【発明者】
【氏名】阪井 光尚
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA31
2E164DA12
(57)【要約】
【課題】コンクリートのかぶり厚を確保する。
【解決手段】PC鋼材保護シース1に、内部にPC鋼材が挿入され、グラウトが注入される筒状のシース本体2と、グラウトが注入されるときの、シース本体2の円周方向頂部となる位置に開口された排気短管挿通用孔部5と、一端が排気短管挿通用孔部5に接続され、シース本体2の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びて他端が排気用グラウトホース56に接続される排気短管10とを設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にPC鋼材が挿入され、グラウトが注入される筒状のシース本体と、
上記グラウトが注入されるときの、上記シース本体の円周方向頂部となる位置に開口された短管挿通用孔部と、
一端が上記短管挿通用孔部に接続され、上記シース本体の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びて他端がグラウト注入用又は排気用のグラウトホースに接続される短管とを備える
ことを特徴とするPC鋼材保護シース。
【請求項2】
上記短管が、上記シース本体に外側から嵌め込み可能な外筒体に一体に設けられている
ことを特徴とする、請求項1に記載のPC鋼材保護シース。
【請求項3】
上記外筒体が、円周方向の少なくとも一部が開放された樹脂製環状体よりなり、頂部側の開口にエルボ型配管の一端側が固着されている
ことを特徴とする、請求項2に記載のPC鋼材保護シース。
【請求項4】
上記外筒体の内周面と、上記シース本体の外周面との間に、膨潤性不織布シールが貼り付けられてシールされている
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載のPC鋼材保護シース。
【請求項5】
上記短管が、エルボ型配管の一端側を中間位置で切断したものよりなる
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載のPC鋼材保護シース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート(以下、PCともいう)の施工時に使用するPC鋼材を保護するPC鋼材保護シースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予めコンクリートに圧縮応力を作用させることによって、コンクリートにできるだけひび割れ等を発生させない施工法が知られている。コンクリートにプレストレスを導入するにはPC鋼材と呼ばれる高強度のケーブル等を用いる。PC鋼材を引っ張って張力を与えた後にコンクリートに固定すると、引っ張られたPC鋼材が元に戻ろうとしてコンクリートに圧縮力が加えられる。プレストレスの導入方法としては、コンクリート打設前にテンションを加えるプレテンション方式と、打設後にテンションを加えるポストテンション方式とが知られている。
【0003】
そして、PC鋼材が直接コンクリートに触れないように、樹脂素材の保護シースでPC鋼材を保護し、シース内にはモルタルなどの硬化剤(グラウト)を充填することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1のものでは、円筒状のシースに対し、充填材注入口及び充満確認口を取り付けた外筒を嵌め、外筒の両端をシール材でシールしている。充填材注入口は下方に延び、充満確認口は上方に延びている。
【0005】
また、円筒状のシースに締め付けバンドで排気口部材を固定したケーブル保護用シースが知られている(例えば、特許文献2参照)。この排気口部材は、比較的薄肉で且つ平面から見て方形ブロック状の取付け部と、その取付け部の一側面から突出し、且つ、ホース接続部である筒状のソケットと、同じく取付け部の底面より突出した環状突出部とから構成され、これらの全体が、ゴム、又は、弾性を有し、且つ、締め付けバンドの締め付けに耐えるような耐圧性を備えた合成樹脂で一体に成形されている。そして、この環状突出部の先端からソケットの先端にかけて、取付け部内でL字形に屈曲した排気通路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-78946号(特に第3図)
【特許文献2】特開2001-207591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような排気口付きPC鋼材保護シースでは、コンクリートのかぶり厚を確保するために、排気口部材の上部への突出量をなるべく小さくしなければならない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コンクリートのかぶり厚を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、短管の設ける位置及び方向に工夫を加えた。
【0010】
具体的には、第1の発明のPC鋼材保護シースは、
内部にPC鋼材が挿入され、グラウトが注入される筒状のシース本体と、
上記グラウトが注入されるときの、上記シース本体の円周方向頂部となる位置に開口された短管挿通用孔部と、
一端が上記短管挿通用孔部に接続され、上記シース本体の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びて他端がグラウト注入用又は排気用のグラウトホースに接続される短管とを備える。
【0011】
上記の構成によると、一端がシース本体の円周方向頂部に設けた短管挿通用孔部に接続された、シース本体の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びる短管の他端をグラウト注入用又は排気用のグラウトホースに接続できるので、排気用グラウトホースがシース本体と重なりにくく、その取り回しが容易であり、短管の高さも抑えやすいので、コンクリートのかぶり厚を確保しやすい。ここで、「鉛直上向きでない方向に延びる短管」とは、鉛直上向きに延びてコンクリートのかぶり厚さが薄くならない程度の方向に短管が延びるという意味で、短管が水平方向や下向きの場合を含む。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
上記短管は、上記シース本体に外側から嵌め込み可能な外筒体に一体に設けられている。
【0013】
上記の構成によると、短管が外筒体に一体に設けられているので、外筒体をシース本体の所定位置に嵌め込むだけで短管の取付が可能である。
【0014】
第3の発明では、第2の発明において、
上記外筒体は、円周方向の少なくとも一部が開放された樹脂製環状体よりなり、頂部側の開口にエルボ型配管の一端側が固着されている。
【0015】
上記の構成によると、簡単且つ安価な構成の短管を有するPC鋼材保護シースが得られる。ここで、固着とは、接着、溶着、ねじ込み等を含む意味である。
【0016】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、
上記外筒体の内周面と、上記シース本体の外周面との間には、膨潤性不織布シールが貼り付けられてシールされている。
【0017】
上記の構成によると、膨潤性不織布シールが、コンクリート打設時の水分等により膨らんで、外筒体と、外面に凹凸のあるシース本体との間の隙間をシールする役割を果たす。
【0018】
第5の発明では、第1から第4のいずれか1つの発明において、
上記短管は、エルボ型配管の一端側を中間位置で切断したものよりなる。
【0019】
上記の構成によると、エルボ型配管だと入手性がよくて安価であり、加工もしやすい。また、短管のうち垂直に延びる部分が少ないので、高さが抑えられ、コンクリートのかぶり厚を確保しやすい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、シース本体の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びて他端がグラウト注入用又は排気用のグラウトホースに接続される短管を設けたことにより、コンクリートのかぶり厚を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】コンクリート打設時の、本発明の実施形態に係るPC鋼材保護シースを含む、
図2のI-I線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るPC鋼材保護シースを一部切断して示す正面図である。
【
図3】シース本体の外周に対する膨潤性不織布シールの貼付位置を示す正面図である。
【
図4】その他の実施形態に係るPC鋼材保護シースを示し、(a)が排気短管をシース本体に対して水平に接続した場合、(b)が排気短管をシース本体に対して斜め上向きに接続した場合、(c)が排気短管をシース本体に対して斜め下向きに接続した場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係るPC鋼材保護シース1は、例えば、高密度ポリエチレン樹脂のブロー成形品よりなる円筒状のシース本体2を備えている。シース本体2には、凸条3と凹溝4とが長さ方向ほぼ全体に交互に螺旋状に形成されている。このようにほぼ全体に螺旋状の凹凸を形成することで、コンクリートとの付着力が増すようになっている。見やすくするために詳細は図示省略するが、シース本体2の内部には、PC鋼材が挿入され、グラウトが注入されるようになっている。
【0024】
本実施形態のPC鋼材保護シース1のシース本体2における長手方向の所定の位置には、凸条3及び凹溝4を跨ぐように短管挿通用孔部としての排気短管挿通用孔部5が開口されている。具体的には、この排気短管挿通用孔部5は、グラウトが注入されるときの、シース本体2の円周方向頂部となる位置に開口されている。
【0025】
短管としての排気短管10は、一端が排気短管挿通用孔部5に接続され、シース本体2の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びて他端10aが排気用グラウトホース56の基端56aに接続される。具体的には、平面視で排気短管10は、シース本体2の軸方向にほぼ垂直に延びているが、必ずしも垂直でなくてもよく、例えば、シース本体2の軸方向に対して45°の傾斜を持って延びていてもよい。この排気短管10は、シース本体2に外側から嵌め込み可能な外筒体11に一体に設けられている。外筒体11は、円周方向の少なくとも一部が開放された樹脂製環状体よりなり、頂部側の開口にエルボ型配管の一端側が接着されている。排気短管10は、本実施形態では水平方向に延びているが、鉛直上向きでなければ、斜め上向きや斜め下向きに延びてもよい。排気用グラウトホース56の先端(図示せず)の接続先は特に限定されない。
【0026】
各寸法は特に限定されないが、例えば図示した例では、呼び径45mmのシース本体2に対し、VU40の塩ビ管よりなる外筒体11が用いられる。外筒体11の長手方向の長さは任意であるが、例えば、90mmであり、下側に軸方向に連続する切れ目11aが入れられている。
【0027】
排気短管10は、例えば内径18mmのエルボ型配管が用いられ、そのほぼ中央で斜めに切断されて一端側が形成されている。この排気短管10の切断部外周に合わせた開口を外筒体11に設け、この開口に排気短管10の切断部を接着、溶着、ねじ込む等により、排気短管10が固着される。もちろん、排気短管10は、外筒体11に射出成形などにより一体成形されてもよいが、上下方向の高さはできるだけ低いのが望ましい。
【0028】
排気短管10は、例えば、エルボ型配管の一端側を中間位置で切断したものよりなる。エルボ型配管だと入手性がよくて安価であり、加工もしやすい。また、排気短管10のうち垂直に延びる部分が少ないので、高さが抑えられ、後述するコンクリートの打設時にコンクリートのかぶり厚を確保しやすい。
【0029】
次いで、このように成形されたPC鋼材保護シース1の使用方法の一例について
図1及び
図2を用いて説明する。
【0030】
まず、準備工程において、PC鋼材保護シース1の製造工場において、シース本体2の所定位置(例えば、コンクリート打設時に内部の空気を抜きやすい位置)にエルボ型配管の外径に合わせて排気短管挿通用孔部5を穿孔する。
図3に示すように、この排気短管挿通用孔部5の周囲に例えば軸方向に70mmの範囲で膨潤性不織布シール12を貼り付けておく。この膨潤性不織布シール12は、コンクリート打設時の水分等により膨らんで、内面に凹凸のない外筒体11と、外面に凹凸のあるシース本体2との間の隙間をシールする役割を果たす。
【0031】
次いで、外筒体11に排気短管10が一体となったものをシース本体2の一端側から挿入し、排気短管挿通用孔部5の位置まで移動させ、排気短管10のエルボ型配管と位置合わせする。このとき、外筒体11の下側に軸方向に延びる切れ目11aが形成されているので、外径を拡げながら移動させることができて有利である。これで、排気短管10の取付が完了する。この排気短管10が所定位置に取り付けられたPC鋼材保護シース1をプレキャストコンクリートの製造工場へ輸送する。
【0032】
本実施形態では、排気短管10が外筒体11に一体に設けられているので、外筒体11をシース本体2の所定位置に嵌め込むだけで排気短管10の取り付けが可能である。また、簡単且つ安価な構成の排気短管10を有するPC鋼材保護シース1が得られる。
【0033】
次いで、プレキャストコンクリートの製造工場で、シース本体2を、型枠54内に配設された鉄筋に鉄線、バンドなどにより固定する。このとき、排気短管10が鉛直方向上側に来るようにする。
【0034】
次いで、排気短管10のホース接続部10aに中間排気用の排気用グラウトホース56の先端を内嵌めにより接続する。このように、一端がシース本体2の円周方向頂部に設けた排気短管挿通用孔部5に接続された排気短管10の他端(ホース接続部10a)を排気用グラウトホース56の基端56aに接続できるので、排気用グラウトホース56の取り回しが容易であり、排気短管10の高さも抑えやすいので、コンクリート53のかぶり厚を確保しやすい。
【0035】
次いで、配管後の型枠54内にコンクリート53を打設し、硬化させる。PC鋼材保護シース1には、シース本体2の略全体に連続して凹凸形状が螺旋状に設けられているので、フラットな外表面のものに比べてコンクリート53の付着力が増す。
【0036】
次いで、PC鋼材保護シース1内にPC鋼材を挿通して張力を与え、その両端を型枠54にナット等によって固定する。また、ナットにも端部排気用の排気用グラウトホースを接続しておく。さらにナットには、注入用グラウトホースも接続しておくとよい。
【0037】
次いで、注入用グラウトホースを利用して、PC鋼材保護シース1内にグラウトを注入し、硬化させる。グラウトを流し込むときに、内部の空気が排気用グラウトホース56から確実に排出される。また、シース本体2の螺旋状の凹凸形状に沿ってグラウトが流入するので、フラットな管壁のものに比べて、グラウトをシース本体2の全体に充填しやすい。
【0038】
このように製造されたプレキャストコンクリートが建設現場等に運ばれて使用される。これにより、現場作業を極力減らすことができる。
【0039】
したがって、シース本体2の軸方向に平行でない方向で且つ鉛直上向きでない方向に延びて他端10aが排気用グラウトホース56に接続される排気短管10を設けたことにより、コンクリートのかぶり厚を確保することができる。
【0040】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0041】
すなわち、上記実施形態では、外筒体11を設けているが、この外筒体11はなくてもよい。具体的には、
図4(a)~(c)に示すように、外筒体11を設けずに、シース本体102,202,302の排気短管挿通用孔部105,205,305にそれぞれ排気短管110,210,310を直接、接着、溶着、ねじ込み等により接線方向に接続して固着する。この場合、
図4(a)に示すように、排気短管110をシース本体110に対して水平に接続してもよいし、
図4(b)に示すように、排気短管210をシース本体210に対して斜め上向きに接続してもよいし、
図4(c)に示すように、排気短管110をシース本体110に対して斜め下向きに接続してもよい。接線方向に取り付けることにより、極力コンクリートのかぶり厚さを大きくできる。
【0042】
また、上記実施形態では、予めシース本体2の適切な位置に排気短管挿通用孔部5を設けて排気短管10を固定しているが、配筋時又は配筋後に排気短管挿通用孔部5を設けてもよい。この排気短管挿通用孔部開口工程において、シース本体2の長手方向任意の位置の上側に排気短管挿通用孔部5を形成する。そうすると、排気短管挿通用孔部5は、作業しやすく、空気が排気されやすい任意の場所に容易に形成できるというメリットがある。前もって排気短管10を固定していない場合には、運搬時に排気短管10に力が加わって損傷する恐れがない。
【0043】
上記実施形態では、短管は、排気用の排気短管10として使用されているが、注入用グラウトホースに接続してもよい。
【0044】
上記実施形態では、コンクリート打設前にPC鋼材保護シース1に張力を加えるプレテンション方式について説明したが、ポストテンション方式によるプレストレストコンクリートであってもよい。その場合には、現場での施工になる。
【0045】
また、グラウトの充填方法は特に制限されず、公知の工法を用いればよい。
【0046】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0047】
1 PC鋼材保護シース
2 シース本体
3 凸条
4 凹溝
5 排気短管挿通用孔部(短管挿通用孔部)
10 排気短管(短管)
10a ホース接続部(他端)
11 外筒体
11a 切れ目
12 膨潤性不織布シール
53 コンクリート
54 型枠
56 排気用グラウトホース
56a 基端
56b 先端