(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127468
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】改質ポリエステル組成物およびそれよりなる繊維並びに繊維構造体
(51)【国際特許分類】
D01F 6/84 20060101AFI20230906BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20230906BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20230906BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230906BHJP
C08G 63/688 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
D01F6/84 305B
D01F6/84 305C
C08L67/02
C08K5/42
C08K5/09
C08G63/688
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031282
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 周文
(72)【発明者】
【氏名】梅田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】米田 泰之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF141
4J002EF097
4J002EV256
4J002GK01
4J029AA03
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD01
4J029AE02
4J029BA03
4J029CB05B
4J029CB06A
4J029CH02
4J029DB02
4J029HA01
4J029HB03A
4J029JB131
4J029JC373
4J029JC633
4J029JF321
4J029KE02
4J029KE06
4J029KE15
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE05
4L035EE07
4L035EE20
4L035GG08
4L035HH01
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、細繊度でありながらカチオン染料に染色可能で、繊維素材として高い強度を有する改質ポリエステル組成物とそれよりなる繊維および繊維構造体を提供することにある。
【解決手段】本発明は、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであり、全ジカルボン酸成分中に所定量の金属スルホネート基含有イソフタル酸を含有する共重合ポリエステルであって、該共重合ポリエステルの全質量を基準として、下記一般式(I)
RSO3X (I)
(上記式(I)中、Rは炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数7~40のアリール基、Xはアルカリ金属などを示す。)
で示される有機イオン性化合物を所定量含有する改質ポリエステル組成物それよりなる繊維および繊維構造体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであり、全ジカルボン酸成分中に1.0~5.0モル%の金属スルホネート基含有イソフタル酸を含有する共重合ポリエステルであって、該共重合ポリエステルの全質量を基準として、下記一般式(I)で示される有機イオン性化合物を0.5~5.0質量%を含有することを特徴とする改質ポリエステル組成物。
RSO3X (I)
(上記式(I)中、Rは炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数7~40のアリール基、Xはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩のいずれかまたは複数含む陽イオンを示す。)
【請求項2】
上記式(I)において、Xがテトラアルキルホスホニウムイオンである有機塩化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載の改質ポリエステル組成物。
【請求項3】
改質ポリエステル組成物の全質量を基準として、安息香酸および/または安息香酸誘導体を100~1500ppm含有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の改質ポリエステル組成物。
【請求項4】
該改質ポリエステル組成物の極限粘度が0.50~1.30dl/gの範囲内である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の改質ポリエステル組成物。
【請求項5】
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の改質ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の改質ポリエステル組成物からなるポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項6に記載のポリエステル繊維からなるポリエステル繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染料に染色可能な改質ポリエステル組成物およびそれよりなる繊維並びに繊維構造体に関し、更に詳しくは、強度等の物理的性質が格段に改善された繊維の製造を可能とする改質ポリエステル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂は多くの優れた特性を有しているため、繊維やフィルムとして広く用いられている。しかし、PETなどの汎用のポリエステルは一般的には分散染料で染色されるが、発色性や染色堅牢度に課題がある。そのため、ポリエステル主鎖中に5-ナトリウムスルホイソフタル酸のようなスルホン酸金属塩を有するイソフタル酸成分を共重合することによってカチオン染料での染色を可能とする方法は公知である(特許文献1など)。
【0003】
しかし、この方法で得られる樹脂は、該成分の共重合によってポリマーの溶融粘度が著しく増大するため、PET繊維で一般的な極限粘度に調整しようとすると重縮合工程での撹拌負荷を増大させ溶融紡糸における紡糸操業性を著しく悪化させるため用途の制約となっていた。
【0004】
このようなカチオン染料可染性ポリエステルの欠点を解消する為、イオン結合性分子間力の小さいスルホン酸ホスホニウム塩を有するイソフタル酸成分を共重合した組成物に関する提案がされている(特許文献2、特許文献3)。この方法によれば、ポリマーの増粘作用が抑制される為、得られる繊維の強度や、カチオン染料で染色した際の鮮明性が改良される。しかしながら、この方法での効果は限定的であり、衣料繊維として一般的な使用を考えた場合、強度も鮮明性も十分であるとは言えない。
【0005】
一方、アルキルベンゼンスルホン酸の金属塩のような、該共重合ポリエステルとは非反応性の有機スルホン酸金属塩を配合した組成物に関する提案もなされている(特許文献4)。このような組成物から高強力のカチオン染料可染性ポリエステルが得られることも示されている。しかしながら、この方法によって得られる組成物は、有機スルホン酸金属塩の配合量が増加すると色調が悪化し、それよりなる繊維も、繊維の強度等の物理的性質とカチオン染料で染色した際の濃染性、鮮明発色性とが二律背反な関係にあり、両者を同時満足させることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-261754号公報
【特許文献2】特開平1-162822号公報
【特許文献3】特開2006-36953号公報
【特許文献4】特開平4-264126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、細繊度でありながらカチオン染料に染色可能で、繊維素材として高い強度を有する改質ポリエステル組成物とそれよりなる繊維および繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであり、全ジカルボン酸成分中に1.0~5.0モル%の金属スルホネート基含有イソフタル酸を含有する共重合ポリエステルに、該共重合ポリエステルの全質量を基準として、下記一般式(I)で示される有機イオン性化合物を0.5~5.0質量%を含有させる改質ポリエステル組成物とすることによって、上記課題を解決した。
RSO3X(I)
(上記式(I)中、Rは炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数7~40のアリール基、Xはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩のいずれかまたは複数含む陽イオンを示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極限粘度が高く、十分な強度をもち、かつ、カチオン染料で染色後の鮮明性に優れた繊維用改質ポリエステル組成物が得られる。本発明を用いることにより、従来技術では強度等の物性が不足し、展開が困難であった異型断面繊維や極細繊維、仮撚加工糸の物性や色調を改善し、特にスポーツ衣料向け布帛に要求される強度、鮮明性、耐光堅牢性に優れた布帛を得ることができる。また、婦人用インナー衣料用の布帛、高密度織物、ワイピングクロス、吸水性タオル等の素材などの広い分野で有効に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明方法を実施する仮撚加工装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<共重合ポリエステル>
本発明の改質ポリエステル組成物においては、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであり、特にエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートからなる群の少なくとも1種からなるアルキレンテレフタレートであることが好ましく、最もエチレンテレフタレートが好適である。
【0012】
共重合成分としては、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が全ジカルボン酸成分を基準として1.0~5.0モル%共重合されていることが必要である。該共重合量が1.0モル%未満であると繊維のカチオン染料染色後での染色鮮明性に劣り、一方、共重合量が5.0モル%を超えるとカチオン染料による鮮明性はほぼ飽和する上に、加水分解しやすくなり、強度等の物性が劣るようになる。なお、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分の金属成分は、アルカリ金属から選ばれ、中でもNa,K,Liが好ましく選択される。
【0013】
<式(I)で示される有機イオン性化合物>
肝要であるのは、下記一般式(I)で示される有機イオン性化合物を該共重合ポリエステルの全質量を基準として0.5~5.0質量%を含有する改質ポリエステル組成物とすることである。
RSO3X (I)
(上記式(I)中、Rは炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数7~40のアリール基、Xはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩のいずれかまたは複数含む陽イオンを示す。)
【0014】
上記式(I)において、Rがアルキル基のときは、アルキル基は直鎖状であってもまたは分岐した側鎖を有していてもよい。
上記式(I)において、XはNa,K,Li等のアルカリ金属またはMg,Ca等のアルカリ土類金属、または第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩のいずれかまたは複数からなる陽イオンを示す。アルカリ金属の中ではLi,Na,Kが好ましい。かかる有機イオン性化合物は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。
【0015】
好ましい具体例としてはステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0016】
上記式(I)において、Xを第4級ホスホニウム塩、特にスルホン酸第4級ホスホニウムイオンとすることは特に好ましく、1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0017】
かかる有機イオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100質量部に対して0.5~5.0質量%の範囲であることが必要であり、0.7~3.0質量%がより好ましい。該有機イオン性化合物の配合量が0.5質量%未満では溶融粘度低下の効果が小さく、5.0質量%を越えると、重合工程や紡糸工程において、発泡が収まらず、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性低下や、溶融紡糸で糸切れを起こし易くなり、工程調子が不安定となる。
【0018】
特に、減粘効果の高さから、上記式(I)において、Xを第4級ホスホニウム塩とすることは、効果が大きく、中でもテトラアルキルホスホニウムイオンが好ましく、テトラブチルホスホニウムイオンがより好ましい。また、上記式(I)の有機イオン性化合物として、アルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が好ましく、中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が更に好ましい。
【0019】
<安息香酸および/または安息香酸誘導体>
本発明の改質ポリエステル組成物には、更に、安息香酸および/または安息香酸誘導体を該改質ポリエステル組成物の全質量を基準として100~1500ppm含有することが好ましく、500~1000ppm含有することが特に好ましい。該含有量が100ppm未満であるとポリマーの増粘作用が十分に抑制されず、一方、1000ppmを超えると末端封鎖作用により、該改質ポリエステル組成物が十分な極限粘度が得られず、強度等の物性が劣るようになる。
【0020】
安息香酸誘導体としては、パラヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、炭化水素基含有ヒドロキシ安息香酸等が例示される。その炭化水素基の具体例としては炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~40のアリール基若しくはアルキルアリール基であり、アルキル基のときは直鎖状であっても分枝した側鎖を有していてもよいが、安息香酸がより大きな効果が奏される点で好ましい。上記安息香酸および/または安息香酸誘導体 は1種のみを単独で用いてもよく、あるいはその2種以上を併用してもよい。特に上記式(I)中において、Xに金属イオンを用いた場合は色相改善に効果がある。
【0021】
<極限粘度(IV)>
本発明の改質ポリエステル組成物の極限粘度(IV)は0.50~1.30dl/gであることが好ましい。極限粘度が0.50dl/g未満であると、強度等の繊維物性が劣るようになる。また、極限粘度が1.30dl/g超は、重縮合槽での撹拌や、重合装置や紡糸装置から吐出できないほど溶融粘度が高くなる不具合がある。極限粘度の好ましい範囲は、0.50~1.10dl/g、更に好ましい範囲は0.55~0.90dl/gである。これらは、主たる繰り返し単位であるアルキレンテレフタレートの種類や金属スルホネート基含有イソフタル酸の共重合比率にも左右される。
【0022】
<改質ポリエステル組成物の製造方法>
本発明の改質ポリエステル組成物の製造方法を、具体的に説明する。
本発明の改質ポリエステル組成物は、テレフタル酸などのジカルボン酸成分とエチレングリコールなどのアルキレングリコール成分とのエステル交換反応を行う。全ジカルボン酸成分のうち、1.0~5.0モル%は金属スルホネート基含有イソフタル酸成分である。エステル交換反応後、全質量を基準として、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムイオンなどの有機イオン性化合物を0.5~2.5質量%、また、安息香酸または安息香酸誘導体を100~1500ppm添加して、重縮合触媒の存在下で真空に近い超低圧下で重縮合を進行させることで改質ポリエステル組成物を製造することができる。なお、該改質ポリエステル組成物を繊維等の成型物とするために、従来知られているペレタイザーを用いてチップ(ペレット)の形態とすることが多いが、溶融ポリマーを紡糸装置などの成型設備に直結して行う連重直紡などの成型方法を用いることもある。
【0023】
本発明の改質ポリエステル組成物の製造法において、用いられる金属スルホネート基含有イソフタル酸成分は、例えば、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジエチル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸グリコール、5-リチウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸ジメチル、5-リチウムスルホイソフタル酸ジエチル、5-リチウムスルホイソフタル酸グリコール等が挙げられる。これらの中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルが好ましい。
【0024】
本発明の改質ポリエステル組成物の製造法において、用いられるエステル交換触媒は公知の触媒を用いることができる。例えば、カルシウム、マグネシウム、マンガン、チタンの酸化物や酢酸塩などが好ましく使用される。なお、テレフタル酸、金属スルホネート基含有イソフタル酸とエチレングリコールを出発原料とする直重法の場合は、触媒は添加しないこともある。
【0025】
ただし、安息香酸および/または安息香酸誘導体を添加する場合の添加時期は、エステル交換反応前に添加すると、末端封鎖効果により、ジカルボン酸とグリコールのエステル交換反応によるビスヒドロキシアルキルテレフタレート(BHAT)の生成が十分に進行しなくなるため、エステル交換反応の後が好ましい。具体的には、ポリエステルの重縮合反応開始前、重縮合反応途中、または重縮合反応終了時であってまだ溶融状態にある時点、粉粒状態、または成形段階等において、上記の安息香酸類を添加混合すればよい。添加に際しては1回の操作で添加しても、または2回以上に分割添加してもよい。また、重縮合反応終了前に添加するときは、安息香酸類をグリコール等の溶媒に溶解または分散させて添加することもできる。
【0026】
本発明の改質ポリエステル組成物の製造法において、熱安定剤としてリン化合物を添加してもよい。リン化合物は、例えば、正リン酸;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリオクチルホスフェートなどの5価のリン化合物;亜リン酸;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなど3価のリン化合物が挙げられる。これらの中でも、正リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートが特に好ましい。
【0027】
本発明の改質ポリエステル組成物の製造法において、重縮合触媒を添加してもよい。重縮合触媒は、例えば、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物等が挙げられる。
本発明の改質ポリエステル組成物の製造法において、該改質ポリエステル組成物の本質的な性質を変えない範囲で、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤等を添加することができる
【0028】
また本発明で得られた改質ポリエステル組成物のカラー値は透明または白色であることが好ましい。チップカラーの測定方法としては、色差計を用いることによって、L、a、b値を算定する方法が用いられる。L値は値が大きくなるほど白度の良好なことを示し、b値は+側に大なるほど黄味の強いことを示す。ここでチップカラーはL値40以上であることが好ましい。さらに好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上であることが好ましい。またb値は25以下であることが好ましく、さらに好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下であることが好ましい。
【0029】
<繊維の製造方法>
続いて、前述の改質ポリエステル組成物を用いた繊維の製造方法について詳述する。
延伸糸には、未延伸糸(UDY)を紡糸して一旦巻き取る工程、別装置の延伸機で延伸する工程の2ステップで得られるFOYと、紡糸工程と延伸工程が連結した装置を用いて1ステップで行うSDY(直延糸)があるが、紡糸後延伸するという技術要素については共通である。
【0030】
まず、紡糸工程の概略を説明する。得られた改質ポリエステル組成物からなるチップの水分を極力除去して加水分解を抑制するため、従来のポリエステル繊維の製造で知られているようなチップ乾燥装置を用いてチップの水分率を0.01質量%以下に除湿した後、エクストルーダーや銀板メルターなどの溶融押出機を通して溶融したポリマーを、目標のフィラメント数と同一のノズルが穿孔された紡糸口金から吐出し、口金下で冷却風を吹き付け、冷却固化させながら、100~5000m/分の紡糸速度となるようにゴテッドローラーで引き取り、ワインダーにてボビンに巻き取って未延伸糸(UDY)を得る。
【0031】
なお、後述の仮撚加工糸とするための部分配向糸(POY)を得る際には、紡糸速度が1500~5000m/分以上、好ましくは2000~4000m/分となるような高速紡糸にてマルチフィラメントPOYを得る。このとき、POYの複屈折率(Δn)を0.01~0.06の範囲内に調整する必要がある。Δnが0.01未満では、後述する延伸仮撚加工において糸条が脆化して糸切れが多発し、延伸仮撚加工が困難となる。一方、Δnが0.06を超えると、毛羽(単糸破断)の多発や結晶化の進行によって、仮撚加工の際に張力が高くなりすぎ、仮撚加工糸の糸斑が大きくなり、得られた仮撚加工糸の強度等の物性も低くなるため、好ましくない。
【0032】
UDYは、従来知られているフィラメント延伸機に供給され、延伸と熱固定を行い、加工糸や織機、ニッターの通過性を良好にする油剤を付与され、ワインダーを用いて紙管に巻き取られてFOYとしての延伸糸を得る。また、SDYの場合は、UDY工程における紡糸速度で回転・引き取りするゴテッドローラーから更に高速で回転するゴテッドローラーに供して所定の倍率に延伸し、その後、インラインで熱固定を行い、油剤を付与して、ワインダーを用いて紙管に巻き取り、SDYとしての延伸糸を得る。
【0033】
仮撚加工糸(DTY)は、前述のPOYを従来知られている仮撚加工機に給して仮撚加工を行い、紙管に巻き取る工程により得られる。
【0034】
図1は、仮撚加工の具体例を示す仮撚加工機の簡略化した側面図である。
図1中の1は改質ポリエステル組成物フィラメントからなる未延伸原糸(POY)のパッケージ、2は仮撚加工機のフィードローラ、3は交絡用空気噴射ノズル(インターレースノズル)、4は第1デリベリローラ、5は第1ヒータ、6は冷却プレート、7は仮撚付与装置、8は第2デリベリローラ、9は第3デリベリローラ、10は給油装置であり、11は仮撚加工糸を巻き取ったパッケージである。
【0035】
図1において、パッケージ1から引き出された未延伸原糸は、フィードローラ2と第1デリベリローラ4と間で交絡用空気噴射ノズル(インターレースノズル)3によって所定の交絡が付与される。交絡付与時には糸条に0.5~2%の弛緩を与えるのが好ましい。引き続き、第1デリベリローラ4と第2デリベリローラ8との間で、仮撚付与装置7によって仮撚りが加えられつつ所定倍率に延伸され、その撚りは仮撚付与装置7の上流側に設けた設定温度150~250℃の第1ヒータ5で熱セットされる。その後、冷却プレート6で冷却された加工糸は、第2デリベリローラ8で引き取られ、さらに第3デリベリローラ9を経て給油装置10で油剤が付与され、仮撚加工糸パッケージ11として巻き取られる。
【0036】
この際、フィードローラ2と第1デリベリローラとの周速比は、上記弛緩率が実現するよう、1:1~1:0.95とするのが好適であり、第1デリベリローラ4と第2デリベリローラ8の周速比は、POYの複屈折率(Δn)に応じて加工後の糸の強伸度が所望の範囲となる延伸倍率、例えば1.2~1.8倍の延伸倍率、となるように設定される。なお必要に応じ第2デリベリローラ8と第3デリベリローラ9との間に第2ヒータを設置して仮撚加工後にさらに熱セットを行うようにしてもよい。
【0037】
かくして得られた改質ポリエステル組成物からなる繊維または仮撚加工糸は、従来のカチオン染料で染色可能なポリエステル繊維に比べて、同等の鮮明性を有しながら、分子量がPET並に大きくすることができることによる高い強度を有する、優れたものとなる。
【0038】
また得られた改質ポリエステル組成物からなる延伸糸または仮撚り加工糸は任意の布帛とし、分光光度計などを用いて、その繊維のカラーを測定することができる。L値は値が大きくなるほど白度の良好なことを示し、b値は+側に大なるほど黄味の強いことを示す。ここでチップカラーはL値40以上であることが好ましい。さらに好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上であることが好ましい。またb値は10以下であることが好ましく、さらに好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下であることが好ましい。
【0039】
これを用いて製造される織編物などの布帛を繊維構造体においても、PET並の引っ張り強度、引き裂き強度を有しながら、鮮明性に優れたカチオン染色布帛などの繊維構造体を得ることができる。
【実施例0040】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0041】
(1)ポリエステルの極限粘度(IV)
試料をフェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に溶解させ、ウベローデ粘度菅を装着した自動粘度測定装置(サン電子工業(株)製ALC-6C)を用いて、20℃における極限粘度を測定した。
【0042】
(2)ポリエステルチップの色調
試料を日本電色工業(株)製のハンター型色差計にて測色し、L、a、b値を算定した。L値は値が大きくなるほど白度の良好なことを示し、b値は+側に大なるほど黄味の強いことを示す。
【0043】
(3)繊度
JISL1013:2010 8.3.1 A法に従い、繊度の測定を行った。
【0044】
(4)破断強度、破断伸度
JISL1013:2010 8.5.1 に従い、破断強度、破断伸度の測定を行った。
【0045】
(5)捲縮率(Tc)
ポリエステル仮撚加工糸のサンプルを、0.044cN/dtexの張力下に、カセ枠に巻き取り、太さ約3300dtexのカセ(綛)を作成した。このカセの一端に、0.00177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次に、カセから0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後、このカセから0.00177cN/dtexの荷重を除去し、24時間無荷重下自由な状態で自然乾燥し、このカセに再び0.00177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さS1(cm)を測定した。次にこのカセから0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さS2を測定し、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値を算出した。
捲縮率(%)=[(S1-S2)/S0]×100
【0046】
(6)カチオン染色後の編地色調
得られた改質ポリエステル組成物からなる延伸糸および仮撚加工糸を用いて、編密度が50コース/2.54cmかつ45ウエール/2.54cmの単層丸編地を作製し、常法により精練、プリセットした後、浴比1:400でASTRAZON BLUE BG200 0.025%owfを用いて、芒硝3g/l、酢酸0.3g/lを含む染浴中にて98℃で60分間染色し、その後常法に従ってソーピングして青色布を得た。得られた編地を3枚に重ね合わせ、マクベス分光光度計(CE3100)を用いて、編地サンプルの反射率測定から測色し、L値、a値、b値を算定した。
【0047】
[実施例1]
<改質ポリエステル組成物の製造>
精留塔を備えた反応槽に、テレフタル酸ジメチル100質量%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル(以下SIPと省略する)4.23質量%(ジカルボン酸成分中2.5モル%)、エチレングリコール66質量%を供給し、エステル交換反応触媒として、得られるポリエステル中に、酢酸カルシウム・水和物220ppm、テトラブトキシチタン21ppmを含有するよう添加した。その後、反応槽の温度を140℃から240℃まで昇温させながら、メタノールを溜去してエステル交換反応を行った。この時のエステル反応率は95%だった。次に、得られるポリエステル中に、安息香酸1000ppm、トリメチルホスフェート54ppm含有するよう添加し、フィルターでろ過しながら重縮合反応槽へ移液した。
【0048】
重縮合反応槽へ移液された低重合体に、得られるポリエステル中に、式(I)で表される有機イオン性化合物としてドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(以下DBSPと省略する)が改質ポリエステル組成物の全質量に対して1.0質量%含有するように添加した。添加終了後、常圧から0.1kPaになるまで120分かけて減圧を行い、240℃から285℃まで昇温を行い、0.1kPa以下の高真空を維持して重縮合反応を行い、溶融状の改質ポリエステル組成物をペレタイザーにてチップ状(ペレット形状楕円柱で断面楕円長径3±1mm、短径2±1mm、高さ3±1mmである)にして、表1に記載の改質ポリエステル組成物チップを得た。
【0049】
<延伸糸の製造>
改質ポリエステル組成物チップを常法(160℃×6時間)に従って熱風乾燥後、溶融押出機に供給して得た290℃の溶融ポリマーとして、孔径0.25mmの円形吐出孔を36個穿設した紡糸口金から吐出し、紡糸速度1000m/分で引き取り、140dtex/36フィラメントの未延伸糸を得た。得られた紡出糸の極限粘度は0.55dl/gであった。この未延伸糸を引続いて、80℃で延伸前予熱し、延伸倍率3.50、非接触式ヒータで温度200℃で熱固定し、巻取速度600m/分の速度で延伸した。得られた延伸糸の糸物性は表2に記載の通りとなった。
【0050】
<仮撚加工糸の製造>
改質ポリエステル組成物を用いて、常法(160℃×6時間)に従って熱風乾燥後、溶融押出機に供給して得た290℃の溶融ポリマーとして、孔径0.25mmの円形吐出孔を36個穿設した紡糸口金から吐出し、紡糸速度2700m/分で引き取って、90dtex/36フィラメントのPOYを得た。得られた紡出糸の極限粘度は0.55dl/gであった。得られたPOYを
図1に示す工程で、交絡処理および延伸仮撚加工を行なった。この工程では、延伸倍率1.60、非接触式ヒータ温度200℃とし、仮撚付与装置として外接式摩擦仮撚装置を用い、600m/分で延伸仮撚加工した。得られた仮撚加工糸の糸物性は表3に記載の通りとなった。
【0051】
[実施例2~5、比較例1~6]
SIP、安息香酸とドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムの共重合量、添加量を表1に記載の通りに変更した他は実施例1と同様の工程で改質ポリエステル組成物を製造した。得られた改質ポリエステル組成物チップの物性を表1に示す。また実施例1と同様の方法で延伸糸および仮撚加工糸を得た。得られた糸物性は表2、3に記載の通りとなった。
【0052】
[比較例7]
SIPの代わりに3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ-n-ブチルホスホニウム塩(SIPP)を用い、表1に記載の通りに変更した他は実施例1と同様の工程で改質ポリエステル組成物を製造した。得られた改質ポリエステル組成物チップの物性を表1に示す。また実施例1と同様の方法で延伸糸および仮撚加工糸を得た。得られた糸物性は表2、3に記載の通りとなった。
【0053】
【0054】
【0055】
本発明の改質ポリエステル組成物によれば、カチオン染料で染色した際に改善された鮮明性が得られると共に強度等の物性を維持することができるという従来例を見ない効果が奏される。従って、本発明の改質ポリエステル組成物は特に繊維になした場合に有用である。とりわけ、従来鮮明なカチオン染色が困難であり、その上強度等の物性が得られ難かった異形断面繊維や1.1dtex以下の細繊度の繊維に本発明の改質ポリエステル組成物を用いると特に大きな効果が得られる。本発明の改質ポリエステル組成物から得られる繊維はナイロンを凌駕する色彩の鮮明発色性と強度と柔らかさとを合わせ持つため、スキーウエア、ウインドブレーカーまたは水着等のスポーツ用途の衣料において特に有用に使用することができる。