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特開2023-127482試料分析装置、試料分析方法、医薬分析装置および医薬分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127482
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】試料分析装置、試料分析方法、医薬分析装置および医薬分析方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/10 20190101AFI20230906BHJP
【FI】
G16C20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031302
(22)【出願日】2022-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医薬品等規制調和・評価研究事業「多様な創薬モダリティに対応する人工知能等の情報処理技術を駆使した品質評価法の開発に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山本 栄一
(57)【要約】
【課題】反応モデルのパラメータの精度の高い推定を可能とする試料分析装置を提供することを課題とする。
【解決手段】試料分析装置1は、試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報(測定データMD)を取得する取得部21と、記憶装置16に保存された反応モデルMLを読み出し、被検物質を反応モデルMLによりモデル化し、被検物質の反応モデルMLに対して複数の物質の定量的な測定情報(測定データMD)を与えることで、反応モデルMLのパラメータを推定する推定部(22)と、推定部(22)により推定されたパラメータに基づいて、任意の時間における被検物質の定量的な推定情報、または、前記被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する算出部(23)とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を取得する取得部と、
記憶装置に保存された反応モデルを読み出し、前記被検物質を前記反応モデルによりモデル化し、前記被検物質の前記反応モデルに対して前記複数の物質の前記定量的な測定情報を与えることで、前記反応モデルのパラメータを推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記パラメータに基づいて、任意の時間における前記被検物質の定量的な推定情報、または、前記被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する算出部と、
を備える、試料分析装置。
【請求項2】
前記算出部により前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報、または、前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出することにより、前記複数の物質を選別する、請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記複数の物質は、前記反応モデルでモデル化したときの前記パラメータが近似する一群の物質、転化率が近似する一群の物質、互いの物質の前記定量的な測定情報の時間変化がアフィン変換によって変換可能である一群の物質、前記複数の物質に含まれる一の物質の前記定量的な測定情報が、前記複数の物質に含まれる他の物質の前記定量的な測定情報を変数とした関数で表現可能である一群の物質、酸化反応で生成される一群の物質、および、加水分解反応で生成される一群の物質からなる群から選ばれる一群の物質である、請求項2に記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記記憶装置には複数の反応モデルが記憶される、請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記定量的な推定情報は、前記被検物質の任意の時間における定量的な値、信頼区間または分位点を含む、請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項6】
前記時間に関する情報は、前記被検物質の前記定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間の値、信頼区間または分位点を含む、請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項7】
試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を取得する工程と、
記憶装置に保存された反応モデルを読み出す工程と、
前記被検物質を前記反応モデルによりモデル化し、前記被検物質の前記反応モデルに対して前記複数の物質の前記定量的な測定情報を与えることで、前記反応モデルのパラメータを推定する工程と、
推定された前記パラメータに基づいて、任意の時間における前記被検物質の定量的な推定情報、または、前記被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する工程と、
を含む、試料分析方法。
【請求項8】
前記算出する工程により前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報、または、前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出することにより、前記複数の物質を選別する工程を含む、請求項7に記載の試料分析方法。
【請求項9】
前記複数の物質は、前記反応モデルでモデル化したときの前記パラメータが近似する一群の物質、転化率が近似する一群の物質、互いの物質の前記定量的な測定情報の時間変化がアフィン変換によって変換可能である一群の物質、前記複数の物質に含まれる一の物質
の前記定量的な測定情報が、前記複数の物質に含まれる他の物質の前記定量的な測定情報を変数とした関数で表現可能である一群の物質、酸化反応で生成される一群の物質、および、加水分解反応で生成される一群の物質からなる群から選ばれる一群の物質である、請求項8に記載の試料分析方法。
【請求項10】
請求項1に記載の試料分析装置において、前記試料は製剤または原薬を含み、前記被検物質は前記製剤または前記原薬中に存在する有効成分または不純物を含む、医薬分析装置。
【請求項11】
請求項7に記載の試料分析方法において、前記試料は製剤または原薬を含み、前記被検物質は前記製剤または前記原薬中に存在する有効成分または不純物を含む、医薬分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる被検物質を分析する試料分析装置および方法、並びに、製剤等に含まれる有効成分、不純物等を分析する医薬分析装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬の経時的変化を評価するために安定性試験が行われる。この試験により、医薬の有効成分が基準値の範囲内にあること、または、不純物が基準値以下であることを担保できる期間(有効期間)が算出される。一般には、恒温恒湿槽などで一定期間保存した医薬に対して液体クロマトグラフィーにより有効成分や不純物の同定、定量を行い、この結果に基づいて、有効期間が算出される。
【0003】
安定性試験を実施するためには、医薬の長期保管が必要である。この期間を短縮するために、反応モデル関数を利用して有効期間の予測を行う方法(時間軸方向の外挿)、あるいは、アレニウスの式を利用して、高温(高湿)条件での分解量から低温(低湿)条件下での有効期間を予測する方法(温度軸方向の外挿)が行われている。時間軸方向の外挿としては、例えば、下記非特許文献1に、温度軸方向の外挿としては、例えば、下記非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「新有効成分含有医薬品の安定性試験データの評価」日本製薬工業協会、医薬出版センター発行、平成17年3月
【非特許文献2】「ASAPprime(医薬品安定性迅速評価ソフトウェア)WEBページ」、FreeThink社、[2021年5月24日検索]、<URL:https://www.ms-scientific.com/products/lifescience/asapprime>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反応モデルを利用して医薬の有効期間を予測するためには、ある期間保存した医薬の測定データが必要である。取得する測定データのデータ点数が少ない場合、反応モデルのパラメータの推定について高い精度が得られないことがある。また、微量な不純物の測定データは、S/N比が悪い場合もあるため、やはり反応モデルのパラメータの推定について高い精度が得られないことがある。反応モデルのパラメータの推定精度が低下すると、医薬の有効期間の予測について高い精度が得られない。
【0006】
本発明の目的は、反応モデルのパラメータの精度の高い推定を可能とする試料分析装置および方法並びに医薬分析装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う試料分析装置は、試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を取得する取得部と、記憶装置に保存された反応モデルを読み出し、被検物質を反応モデルによりモデル化し、被検物質の反応モデルに対して複数の物質の定量的な測定情報を与えることで、反応モデルMLのパラメータを推定する推定部と、推定部により推定されたパラメータに基づいて、任意の時間における被検物質の定量的な推定情報を算出する算出部とを備える。
【0008】
本発明の他の局面に従う試料分析装置は、試料中に存在する被検物質を含む複数の物質
の定量的な測定情報を取得する取得部と、記憶装置に保存された反応モデルを読み出し、被検物質を反応モデルによりモデル化し、被検物質の反応モデルに対して複数の物質の定量的な測定情報を与えることで、反応モデルのパラメータを推定する推定部と、推定部により推定されたパラメータに基づいて、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する算出部とを備える。
【0009】
本発明は、また、試料分析方法、医薬分析装置および医薬分析方法に向けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応モデルのパラメータの精度の高い推定を可能とする試料分析装置および方法並びに医薬分析装置および方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係る試料分析装置の構成図である。
図2】本実施の形態に係る試料分析装置の機能ブロック図である。
図3】時間軸方向の外挿を示す図である。
図4】反応モデルの例を示す図である。
図5】温度軸方向の外挿を示す図である。
図6】実施の形態に係る同時推定方法を示すフローチャートである。
図7】試料に含まれる複数の不純物のプロファイルを示す図である。
図8】転化率からピーク面積への変換を示す図である。
図9】シミュレーションデータを示す図である。
図10】シミュレーションデータを示す図である。
図11】シミュレーションデータを示す図である。
図12】シミュレーションデータに基づく推定結果を示す図である。
図13】実施の形態の変形例に係る同時推定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る試料分析装置および方法並びに医薬分析装置および方法について説明する。
【0013】
(1)試料分析装置の構成
図1は、実施の形態に係る試料分析装置1の構成図である。本実施の形態の試料分析装置1は、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフまたは質量分析装置などにおいて得られた試料の測定データMDを取得する。測定データMDは、試料中の存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を有している。具体的には、測定データMDは、試料中に存在する被検物質を含む複数の物質のピーク面積、ピーク面積比等に関するデータを有している。本実施の形態においては、特に、試料として医薬(製剤または原薬)を用いる場合を例に説明する。具体的には、本実施の形態においては、測定データMDは、医薬に含まれる複数の物質のピーク面積に関するデータや、有効成分のピーク面積に対する不純物のピーク面積の比に関するデータ等である。測定データMDは、複数の時刻点について複数の物質の定量的な測定情報を有している。
【0014】
本実施の形態の試料分析装置1は、パーソナルコンピュータにより構成されている。試料分析装置1は、図1に示すように、CPU(Central Processing Unit)11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13、操作部14、ディスプレイ15、記憶装置16、通信インタフェース(I/F)17、デバイスインタフェース(I/F)18を備える。
【0015】
CPU11は、試料分析装置1の全体制御を行う。RAM12は、CPU11がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。ROM13には、各種データ、プログラムなどが記憶される。操作部14は、ユーザによる入力操作を受け付ける。操作部14は、キーボードおよびマウスなどを含む。ディスプレイ15は、分析結果などの情報を表示する。記憶装置16は、ハードディスクなどの記憶媒体である。記憶装置16には、プログラムP1、測定データMDおよび反応モデルML(反応モデル関数を定義したデータ)が記憶される。
【0016】
プログラムP1は、選択された反応モデルにより被検物質をモデル化し、反応モデルに対して複数の物質の定量的な測定情報を与えることで、反応モデルのパラメータを推定する。また、プログラムP1は、推定されたパラメータに基づいて、任意の時間における被検物質の定量的な推定情報を算出する。また、プログラムP1は、推定されたパラメータに基づいて、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する。
【0017】
通信インタフェース17は、他のコンピュータとの間で有線または無線による通信を行うインタフェースである。デバイスインタフェース18は、CD、DVD、半導体メモリなどの記憶媒体19にアクセスするインタフェースである。
【0018】
(2)試料分析装置の機能構成
図2は、試料分析装置1の機能構成を示すブロック図である。図2において、制御部20は、CPU11がRAM12をワークエリアとして使用しつつ、プログラムP1を実行することにより実現される機能部である。制御部20は、取得部21、推定部22、算出部23および出力部24を備える。つまり、取得部21、推定部22,算出部23および出力部24は、プログラムP1の実行により実現される機能部である。言い換えると、各機能部21~24は、CPU11が備える機能部とも言える。
【0019】
取得部21は、測定データMDを入力する。取得部21は、例えば、通信インタフェース17を介して他のコンピュータや分析装置などから測定データMDを入力する。あるいは、取得部21は、デバイスインタフェース18を介して、記憶媒体19に保存された測定データMDを入力する。
【0020】
推定部22は、被検物質を反応モデルによりモデル化し、反応モデルに対して複数の物質の測定データMDを与えることで、反応モデルのパラメータを推定する。
【0021】
算出部23は、推定部22により推定されたパラメータに基づいて、任意の時間における被検物質の定量的な推定情報を算出する。定量的な推定情報とは、被検物質の任意の時間における定量的な値、信頼区間または分位点を含む。算出部23は、また、推定部22により推定されたパラメータに基づいて、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する。時間に関する情報とは、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間、信頼区間または分位点を含む。
【0022】
出力部24は、被検物質の定量的な推定情報をディスプレイ15に表示させる。出力部24は、また、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報をディスプレイ15に表示させる。
【0023】
プログラムP1は、記憶装置16に保存されている場合を例として説明する。他の実施の形態として、プログラムP1は、記憶媒体19に保存されて提供されてもよい。CPU11は、デバイスインタフェース18を介して記憶媒体19にアクセスし、記憶媒体19に保存されたプログラムP1を、記憶装置16またはROM13に保存するようにしても
よい。あるいは、CPU11は、デバイスインタフェース18を介して記憶媒体19にアクセスし、記憶媒体19に保存されたプログラムP1を実行するようにしてもよい。
【0024】
(3)測定データに基づく予測
(3-1)時間軸方向の外挿
本実施の形態の試料分析装置1による分析方法を説明する前に、本実施の形態の分析方法を実施する上で基本となる測定データMDに基づく時間軸方向の外挿について説明する。図3は、時間軸方向の外挿を示す図である。図3において、横軸は日数(時間)、縦軸は主成分のピーク面積に対する不純物のピーク面積の比である。医薬を例とする場合、縦軸は有効成分のピーク面積に対する不純物のピーク面積の比である。
【0025】
図3において、プロットされた点は測定データMDである。測定データMDは、複数の日数において取得されたピーク面積比のデータである。図3の例では、測定データMDは、1日目から400日付近までに取得されたデータである。この取得された測定データMDに対して回帰を実行することにより、図に示すモデルM1が当て嵌められる。モデルM1を当て嵌めることにより、400日程度までの測定データMDから、600日、800日といった将来の日数におけるピーク面積比が推定される。このようにモデルM1を当て嵌めることにより、ピーク面積比の時間軸方向の外挿が行われる。同様に、モデルM1を当て嵌めることにより、ピーク面積比の時間軸方向の内挿も可能である。
【0026】
図4は、反応モデルの例を示す図である。図4において、各反応モデルは、微分形式(differential form)および積分形式(integral form)の2つの形式で表現されている。図において、αは転化率(conversion rate)であり、反応の進行度合いを示す0~1の値である。kは、反応速度定数である。測定データMDにいずれかの反応モデルを適応させ、回帰によってkなどのパラメータを推定することで、時間軸方向への外挿(および内挿)が可能となる。なお、微分形式を用いて回帰する場合は、dα/dt=kf(α)と変形して微分方程式を解く必要があるが、積分形式よりもモデル式を一般化し易いという特徴がある。
【0027】
具体的な例として、例えば、酸化マンガンと炭酸ナトリウムとの反応が図4に示す表のD4モデルに従うこと、カドニウム錯体の分解がF0モデルに従うこと、多孔質シリコンの熱酸化やシリカ表面からの2-フェニルエチルアミン(PEA)の脱離はF1モデルに従うこと等が実験等により知られている。また、空気中で自然に起こる自動酸化は加速度的に速度が増加するパターンが多いことが知られており、これらは加速度的な反応をモデル化したPower lawモデル(Pn系統)やAvramiモデル(An系統)等を用いてモデリングすることが考えられる。自動酸化される薬物の例としては、アスコルビン酸、リボフラビンなどのビタミン類が挙げられる。なお、Power lawモデルは、図4の表のP2~P4モデル、Avramiモデルは、A2~A4モデルに相当する。
【0028】
(3-2)温度方向の外挿
続いて、本実施の形態の分析方法を実施する上で基本となる測定データMDに基づく温度軸方向の外挿について説明する。図5は、温度軸方向の外挿を示す図である。図5において、横軸は日数、縦軸は主成分のピーク面積に対する不純物のピーク面積の比である。医薬を例とする場合、縦軸は有効成分のピーク面積に対する不純物のピーク面積の比である。
【0029】
図3と同様、図5においても、プロットされた点は測定データMDであり、複数の日数において取得されたピーク面積比のデータである。図5において、黒丸の点は高温条件下(過酷条件下)で取得された測定データMDであり、黒三角の点は低温条件下(通常保管条件下)で取得された測定データMDである。図5の例では、高温および低温いずれの条
件の測定データMDも、1日目から60日付近までに取得されたデータである。そして、後述するアレニウスの式を利用することで、高温条件下で取得された測定データMDから低温条件下のデータを予測することができる。これにより、低温条件下(通常保管条件下)で100日、200日、1年、2年といった将来の日数におけるピーク面積比が推定される。このようにして、ピーク面積比の温度軸方向の外挿が行われる。温度軸方向の外挿について説明したが、湿度軸方向の外挿についても同様の方法で行われる。
【0030】
(3-3)外挿の具体的処理
時間軸・温度軸・湿度軸方向の外挿について具体的な処理内容について説明する。まず、転化率α(t)の医薬に含まれる物質(有効成分または不純物)に何らかの反応モデルを適用させる。そして、その医薬を期間t保存することにより得られた測定データMDを
反応モデルに与えて、反応速度定数kを推定する。これにより、測定データMDについて時間軸方向の外挿が可能となる。例えは、回帰分析により、測定データMDに精度よくフィッティングするパラメータの値を求めることにより推定が行われる。あるいは、ベイズ推定を用いることにより、パラメータの分布を求めることで推定が行われる。図4に示す反応モデルF1~F3を一般化した反応モデルf(α)=(1-α)^nのように、反応モデルに別のパラメータが含まれる場合は、それらパラメータも推定の対象となる。
【0031】
時間軸方向に加えて温度軸・湿度軸の外挿を考慮する場合は、修正アレニウスの式(数式1)を用いる。
【0032】
【数1】
【0033】
数式1において、Tは絶対温度、Hは相対湿度、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数(≒8.314J/(K・mol))、Bは湿度に関するパラメータを表す。数式1は温度や湿度が反応速度定数kに与える影響を表したものであり、これを図4に示したf(α)=(1/k)・(dα/dt)またはg(α)=ktに代入すると、数式2、数式3が得られる。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
そして、数式2または数式3に図4で示すような反応モデルの何れかを適用させる。そして、転化率α(t,T,H)の医薬を温度T、湿度Hで期間t保存することにより得られた測定データMDを、数式2または数式3で示される反応モデルに与えて、A,E,Bおよび反応モデルに含まれるパラメータを推定する。これにより、測定データMDについて時間軸方向・温度軸方向・湿度軸方向の外挿が可能となる。一般に高温・高湿なほど反応は速くなるため、高温高湿条件下での安定性試験を行うことで、同じ期間でより高い転化率の測定データを入手することができる。これにより、短期間で反応モデルの概形を掴
みやすいというメリットがある。
【0037】
数式1で示した修正アレニウスの式の代わりに数式4で示す通常のアレニウスの式を用いることで、時間軸方向・温度軸方向の外挿を行ってもよい。
【0038】
【数4】
【0039】
また、初期転化率α=α(0,T,H)はあらかじめ設定しておいても良いし、初期転化率αを推定パラメータとして扱っても良い。
【0040】
(3-4)ピーク面積から転化率への変換
次に、ピーク面積から転化率への変換について説明する。上述した推定処理では測定データMDは転化率α(t,T,H)として利用したが、実際に得られる測定データMDは、液体クロマトグラフィーを通して得られた物質のピーク面積β(t,T,H)であることが多い。有効成分などの「減少」する物質については、物質がなくなれば反応が終了したと見なせる。すなわち、t=0のピーク面積をβ(温度、湿度によらない)とすれば、数式5により、ピーク面積から転化率への変換が可能である。
【0041】
【数5】
【0042】
不純物などの「増加」する物質を予測する場合はさらに工夫が必要である。物質が増加する場合は、反応が終了したと見なせるピーク面積の値が不明であるため、ピーク面積から転化率への変換ができない。そこで、t=∞でのピーク面積を推定パラメータβとして反応モデルに追加する。推定パラメータβを用いることにより、ピーク面積と転化率との関係は数式6で表される。
【0043】
【数6】
【0044】
ここでは、温度、湿度によってβは変化しないものとする。数式5または数式6を、数式2または数式3のいずれかに代入することにより、ピーク面積を入力とする推定モデルを構築することができる。
【0045】
例えば、g(α)が数式7で表され、反応モデルが図4で示すD1モデル、すなわち数式8で表されるとする。これにより、数式6~8を用いて、β(t,T,H)は数式9で表される。数式9で示されるように、パラメータA,E,Bが推定されることにより、任意の時間におけるピーク面積が推定可能となる。
【0046】
【数7】
【0047】
【数8】
【0048】
【数9】
【0049】
(4)類似物質を利用した推定方法
次に、実施の形態に係る類似物質を利用した推定方法について図6のフローチャートを参照しつつ説明する。図6のフローチャートは、図1に示したCPU11により実行される処理である。つまり、これらの処理は、CPU11がRAM12などのハードウェア資源を利用しつつプログラムP1を動作させることにより、図2に示す各機能部21~24によって実行される処理である。
【0050】
ステップS11において、取得部21は、試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を取得する。具体的には、取得部21は、医薬に含まれる物質(有効成分または不純物)に関する測定データMDを取得する。ここでは、取得部21は、医薬に含まれる複数の不純物に関する測定データMDを取得する場合を例に説明する。
【0051】
図7は、医薬に含まれる複数の不純物J1~J5のプロファイルを示す図である。図7において、横軸は時間、縦軸はピーク面積を示す。図に示すように、複数の不純物のうち、不純物J1,J4,J5は、類似の反応機序を有している。したがって、不純物J1,J4,J5は、同様の分解/生成プロファイルを持つと考えられる。本明細書において、これら同様の分解/生成プロファイルを持つ物質を「類似物質」と呼ぶ。本発明においては、これら「類似物質」を活用することで、「類似物質」に含まれる特定の被検物質の反応モデルのパラメータを推定する。
【0052】
物質X1,X2,・・・,XNが「類似物質」としての性質を有することは、「物質X1,X2,・・・,XNが共通の転化率を持ち、転化率からピーク面積へ変換するための係数(定数倍)のみが物質Xi間で異なる」と言い換えることができる。この性質は、さらに、「t=∞でのピーク面積のみが物質Xi間で異なり、転化率を決定するパラメータ(修正アレニウスの式のパラメータA,E,Bや一般化反応モデルのパラメータnなど)は全て共通の値もしくは共通の分布である」と言い換えることができる。図8は、物質X11,X12が「類似物質」である場合の例を示す。図に示すように、物質X11,X12のプロファイルは、共通の転化率α1を有しており、定数β (1)とβ (2)によって変換可能である。
【0053】
物質Xiの各時刻、温度、湿度における転化率を数式10で表し、物質Xiの各時刻、温度、湿度におけるピーク面積を数式11で表す。
【0054】
【数10】
【0055】
【数11】
【0056】
物質Xiのt=∞でのピーク面積をβ (i)(i=1,2,・・・,N)とすると、転化率とピーク面積との関係は数式12で与えられる。図8を用いて説明したように、定数β (i)は転化率の変換パラメータと呼ぶことができる。
【0057】
【数12】
【0058】
複数の物質Xiは、類似物質であるので、反応モデルは複数の物質Xiで共通であり、数式13または数式14で表される。
【0059】
【数13】
【0060】
【数14】
【0061】
このように、複数の物質Xiを共通の反応モデルによりモデル化することにより、各物質Xiの測定データMDを類似物質間で共通に利用可能となる。つまり、従来のように被検物質の測定データMDのみを推定に利用する場合と比較して、類似物質の測定データMDも推定に利用することができる。なお、βの代わりにβ (i)(i=1,2,・・・,N)を導入するため、推定パラメータの数は(N-1)個増加することになる。また、ベイズ推定を用いてこのモデルの各推定パラメータの事後分布を求める場合、β (1)とβ (2)もそれぞれ事後分布を持つため、物質X11とX12の事後分布が特定の値を用いてただちに変換可能であるとは限らない。
【0062】
次に、ステップS12において、推定部22は、記憶装置16に保存された反応モデルMLを読み出す。図1および図2に示すように、記憶装置16には、複数の反応モデルMLが記憶されている。例えば、記憶装置16には、図4に示す、D1モデル、D2モデルなどの反応モデルMLが記憶されている。推定部22は、記憶装置16に保存されている反応モデルMLの中から、被検物質に適用させる反応モデルMLを選択して読み出す。本実施の形態においては、被検物質を含む複数の物質を類似物質として利用するので、これら類似物質に共通に適用させる反応モデルMLが選択して読み出される。
【0063】
続いて、ステップS13において、推定部22は、ステップS11において読み出された反応モデルMLにより被検物質をモデル化する。そして、推定部22は、被検物質の反応モデルMLに対して類似物質である複数の物質の測定データMD(定量的な測定情報)を与えることで、反応モデルMLのパラメータおよび変換パラメータを推定する。このように、類似物質の定量的な測定情報を、類似物質に共通の情報として活用する本実施の形態に係る推定方法を同時推定方法と呼ぶことにする。ここでは、主成分(有効成分)のピーク面積に対する複数の物質(複数の不純物)のピーク面積の比を、被検物質の反応モデルMLに与えることで、反応モデルMLのパラメータを推定する。パラメータの推定は、ここではベイズ推定を用いる場合を例に説明するが、最小二乗法など他の回帰分析手法が用いられてもよい。
【0064】
次に、ステップS14において、算出部23が、推定部22により推定された反応モデルのパラメータに基づいて、任意の時間における被検物質の定量的な推定情報を算出する。例えば、算出部23は、被検物質の任意の時間におけるピーク面積、ピーク面積比等を算出する。あるいは、算出部23は、被検物質の任意の時間におけるピーク面積またはピーク面積比の信頼区間または分位点を算出する。例えば、算出部23は、医薬に含まれる有効成分に対する不純物の1年後、2年後、3年後などのピーク面積比、ピーク面積比の信頼区間または分位点を算出する。算出された被検物質の定量的な推定情報は出力部24によってディスプレイ15に表示されてもよい。
【0065】
(5)ピーク面積から転化率への変換の変形例
上記の実施の形態においては、ピーク面積から転化率への変換は「定数倍のみ」である場合を例に説明した。変形例として、ピーク面積から転化率への変換は「定数倍+定数加算」または「定数加算」であってもよい。
【0066】
例えば、「定数倍+定数加算」の場合にはパラメータs(i)を加えて、数式15を用
いてピーク面積と転化率との変換を行えば良い。ただし、この場合、単一物質の推定と比べて推定パラメータが2(N-1)個増加する。
【0067】
【数15】
【0068】
あるいは、数式16を用いることで、有効成分等の「減少」する物質を、不純物等の「増加」する物質の同時推定の対象に含めることもできる。
【0069】
【数16】
【0070】
βは0などの定数を置いても良いし、物質が全て無くなる前に反応が終了する可能性を鑑みて推定パラメータとして扱っても良い。従って、この推定は不純物同士のデータに限らず、複数の有効成分のデータや、有効成分と不純物を組み合わせたデータを用いて同時推定することが可能である。ここでは、β(t,T,H)の値をピーク面積としているが、有効成分のピークに対するピーク面積比など、被験物質の定量的な値が得られる場合
でも同様である。
【0071】
(6)類似物質
上述したように、物質X1,X2,・・・,XNが「類似物質」としての性質を有することは、「物質X1,X2,・・・,XNが共通の転化率を持ち、転化率からピーク面積へ変換するための係数(定数倍、定数加算、定数倍+定数加算、等)のみが物質Xi間で異なる」と言い換えることができる。つまり、複数の物質が「類似物質」として利用できるのは、複数の物質が、転化率が近似する場合である。転化率が近似するか否かは、過去の実験データ等に基づいて判断することができる。あるいは、複数の物質は、互いの物質の定量的な測定情報の時間変化がアフィン変換によって変換可能であると言い換えることができる。また、複数の物質が「類似物質」として利用できるのは、複数の物質が、それらを同一の反応モデルでモデル化したときのパラメータが近似する場合である。つまり、各物質を同一の反応モデルでモデル化したとき、回帰により推定されるパラメータが近似する場合である。さらには、複数の物質が「類似物質」として利用できるのは、複数の物質に含まれる一の物質の定量的な測定情報が、複数の物質に含まれる他の物質の定量的な測定情報を変数とした関数で表現可能であると言い換えることができる。
【0072】
複数の物質が「類似物質」として利用できる例としては、複数の物質が酸化反応で生成される一群の物質である場合を挙げることができる。複数の物質が「類似物質」として利用できる別の例としては、複数の物質が加水分解反応で生成される一群の物質である場合を挙げることができる。
【0073】
本実施の形態の同時推定方法は、例えば、製剤または原薬の分析に利用することができる。このとき、製剤または原薬に含まれる複数の物質(有効成分または不純物)を類似物質として利用することで、反応モデルのパラメータの精度の高い推定が可能となる。製剤または原薬に含まれる複数の不純物を類似物質としてまとめる方法としては、例えば、転化率の曲線が相似形であるか否かを判断する方法、転化率の曲線の相関度を判断する方法等が挙げられる。また、不純物の酸化条件、酸性条件、加水条件等、条件により分類した上で実験を行い、転化率の相関度等を判断してもよい。なお、反応過程で焦げた物質、潮解した物質等は、別の反応機序を持つ物質として類似物質には含まないようにすることが好ましい。
【0074】
(7)シミュレーション結果
次に、本発明の同時推定を実施したシミュレーション結果を示す。図9は、シミュレーションデータを示す図である。このシミュレーションデータは、25℃、60%RH(Relative Humidity)の条件下におけるシロドシン製剤の不純物を模したデータである。具体的には、有効成分のピークに対する5つの不純物J11~J15のピーク面積比を示すシミュレーションデータである。このとき、不純物同士は共通の転化率を持ち、「定数倍+定数加算」により変換可能な関係を持つものとしてシミュレーションされている。
【0075】
図10は、図9で示すシミュレーションに対してガウシアンノイズを加えることで、シロドシン製剤の不純物について実際の測定データを模したシミュレーションデータSDを示す。図10も、図9と同様、有効成分のピークに対する5つの不純物J11~J15のピーク面積比を示す。図10では、各不純物について、11点の時刻で、温度と湿度の6つの組み合わせ条件で測定されたデータをシミュレーションしている。温度と湿度の条件は、60℃・50%RH、80℃・10%RHなどの6つの組み合わせがシミュレーションされている。図11は、図10に示すシミュレーションデータSDの中で、60℃・50%RHの単一条件についてのデータを抽出した図である。単一の不純物のデータを用いて推定を行う場合には、同様に、11点の時刻で、温度と湿度の6つの組み合わせ条件を
利用した場合であっても、66点のデータしか利用できない。これに対して、本発明における類似物質を用いた同時推定方法では、5つの不純物を類似物質として活用とすることで、5倍の330点のデータを利用することができる。
【0076】
図12は、図10で示すシミュレーションデータSDを用いて、本実施の形態に係る同時推定方法により得られたシミュレーション結果を示す図である。図12は各不純物の25℃,60%RHにおける時間変化を予測したものである。図12において、TRはシミュレーションデータSDの真のピーク面積比を示す。RE1は、類似物質としてシミュレーションデータSDに含まれる5つの不純物のデータを用い、ベイズ推定により類似物質に含まれる各不純物のピーク面積比を推定した結果を示す。RE1は、各不純物のピーク面積比の95%信頼区間を示す。また、CE1は、各不純物のピーク面積比の中央値を示す。
【0077】
これに対して、RE2は、シミュレーションデータSDに含まれる単一の不純物のデータを用い、ベイズ推定により各不純物のピーク面積比を推定した結果を示す。RE2は、各不純物のピーク面積比の95%信頼区間を示す。また、CE2は、各不純物のピーク面積比の中央値を示す。このように、ほとんどの不純物、時刻において本実施の形態における類似物質を活用した同時推定モデルが従来の推定モデルに比べて、より精度の高い信頼区間が得られていることが分かる。
【0078】
(8)変形例
上述した第1の実施の形態においては、算出部23は、推定部22において推定されたパラメータに基づいて、任意の時間における被検物質の定量的な推定情報を算出した。本実施の形態の変形例では、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報が算出される。
【0079】
図13は、変形例に係るフローチャートである。ステップS21,S22およびS23は、図6で説明したステップS11,S12およびS13と同様である。ステップS21において、取得部21は、医薬に含まれる物質の測定データMDを取得する。ステップS22において、推定部22は、記憶装置16から反応モデルMLを読み出す。ステップS23において、推定部22は、被検物質の反応モデルMLに対して複数の物質の定量的な測定情報を与えることで、反応モデルMLのパラメータおよび変換パラメータを推定する。
【0080】
ステップS24において、算出部23は、推定部22において推定されたパラメータに基づいて、被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する。例えば、算出部23は、不純物のピーク面積比が所定の閾値となるまでの日数(時間)を算出する。あるいは、算出部23は、不純物のピーク面積比が所定の閾値となるまでの日数(時間)の信頼区間または分位点を算出する。これにより、医薬の不純物のピーク面積比の許容値が定められている場合、医薬の有効保存期間の信頼区間または分位点を提示することが可能である。
【0081】
(9)その他の変形例
以上説明した各実施の形態においては、試料分析装置1が医薬分析装置である場合を例に説明した。本実施の形態の試料分析装置1は、医薬以外にも様々な試料における被検物質の定量的な推定情報を取得するために利用可能である。図4で示した反応モデルのリストは一例である。本実施の形態における分析方法が適用される反応モデルは特に限定されることはない。
【0082】
上述した試料分析装置1は、複数の物質(有効成分または不純物等)を類似物質として
利用することで、反応モデルのパラメータの精度の高い推定が可能となる。このような本実施の形態の特徴を利用して、試料分析装置1は、複数の物質のそれぞれについて定量的な推定情報を算出することができる。そして、複数の物質のそれぞれについて算出された定量的な推定情報に基づいて、複数の物質を自動で選別するようにしてもよい。あるいは、試料分析装置1は、複数の物質のそれぞれについて定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間を算出することができる。そして、複数の物質のそれぞれについて算出された時間に基づいて、複数の物質を自動で選別するようにしてもよい。
【0083】
(10)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0084】
(第1項)
一態様に係る試料分析装置は、
試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を取得する取得部と、
記憶装置に保存された反応モデルを読み出し、前記被検物質を前記反応モデルによりモデル化し、前記被検物質の前記反応モデルに対して前記複数の物質の前記定量的な測定情報を与えることで、前記反応モデルのパラメータを推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記パラメータに基づいて、任意の時間における前記被検物質の定量的な推定情報、または、前記被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する算出部と、
を備える。
【0085】
反応モデルのパラメータの精度の高い推定が可能である。
【0086】
(第2項)
第1項に記載の試料分析装置において、
前記算出部により前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報、または、前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出することにより、前記複数の物質を選別してもよい。
【0087】
精度の高い推定に基づいて物質の選別が可能である。
【0088】
(第3項)
第2項に記載の試料分析装置において、
前記複数の物質は、前記反応モデルでモデル化したときの前記パラメータが近似する一群の物質、転化率が近似する一群の物質、互いの物質の前記定量的な測定情報の時間変化がアフィン変換によって変換可能である一群の物質、前記複数の物質に含まれる一の物質の前記定量的な測定情報が、前記複数の物質に含まれる他の物質の前記定量的な測定情報を変数とした関数で表現可能である一群の物質、酸化反応で生成される一群の物質、および、加水分解反応で生成される一群の物質からなる群から選ばれる一群の物質であってもよい。
【0089】
共通する特徴を有する物質間で、定量的な測定情報を活用することができる。
【0090】
(第4項)
第1項に記載の試料分析装置において、
前記記憶装置には複数の反応モデルが記憶されてもよい。
【0091】
複数の反応モデルの中から被検物質に適用させる適切な反応モデルを選択可能である。
【0092】
(第5項)
第1項に記載の試料分析装置において、
前記定量的な推定情報は、前記被検物質の任意の時間における定量的な値、信頼区間または分位点を含んでもよい。
【0093】
ユーザに対して、任意の時間における試料の定量的な推定情報を与えることができる。
【0094】
(第6項)
第1項に記載の試料分析装置において、
前記時間に関する情報は、前記被検物質の前記定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間の値、信頼区間または分位点を含んでもよい。
【0095】
ユーザに対して、試料の有効期間等の情報を与えることができる。
【0096】
(第7項)
他の態様に係る試料分析方法は、
試料中に存在する被検物質を含む複数の物質の定量的な測定情報を取得する工程と、
記憶装置に保存された反応モデルを読み出す工程と、
前記被検物質を前記反応モデルによりモデル化し、前記被検物質の前記反応モデルに対して前記複数の物質の前記定量的な測定情報を与えることで、前記反応モデルのパラメータを推定する工程と、
推定された前記パラメータに基づいて、任意の時間における前記被検物質の定量的な推定情報、または、前記被検物質の定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出する工程と、
を含む。
【0097】
反応モデルのパラメータの精度の高い推定が可能である。
【0098】
(第8項)
第7項に記載の試料分析方法において、
前記算出する工程により前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報、または、前記複数の物質のそれぞれについての定量的な推定情報が所定の閾値に到達するまでの時間に関する情報を算出することにより、前記複数の物質を選別する工程を含んでもよい。
【0099】
精度の高い推定に基づいて物質の選別が可能である。
【0100】
(第9項)
第8項に記載の試料分析方法において、
前記複数の物質は、前記反応モデルでモデル化したときの前記パラメータが近似する一群の物質、転化率が近似する一群の物質、互いの物質の前記定量的な測定情報の時間変化がアフィン変換によって変換可能である一群の物質、前記複数の物質に含まれる一の物質の前記定量的な測定情報が、前記複数の物質に含まれる他の物質の前記定量的な測定情報を変数とした関数で表現可能である一群の物質、酸化反応で生成される一群の物質、および、加水分解反応で生成される一群の物質からなる群から選ばれる一群の物質であってもよい。
【0101】
共通する特徴を有する物質間で、定量的な測定情報を活用することができる。
【0102】
(第10項)
他の態様に係る医薬分析装置は、
第1項に記載の試料分析装置において、前記試料は製剤または原薬を含み、前記被検物質は前記製剤または前記原薬中に存在する有効成分または不純物を含んでもよい。
【0103】
医薬の分析において、反応モデルのパラメータの精度の高い推定が可能である。
【0104】
(第11項)
他の態様に係る医薬分析方法は、
第7項に記載の試料分析方法において、前記試料は製剤または原薬を含み、前記被検物質は前記製剤または前記原薬中に存在する有効成分または不純物を含んでもよい。
【0105】
医薬の分析において、反応モデルのパラメータの精度の高い推定が可能である。
【符号の説明】
【0106】
1…試料分析装置、11…CPU、12…RAM、13…ROM、14…操作部、15…ディスプレイ、16…記憶装置、21…取得部、22…推定部、23…算出部、24…出力部、P1…プログラム、MD…測定データ、ML…反応モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13