(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127484
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】塩基部修飾ヌクレオシドを含む新規アンチセンス核酸
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230906BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230906BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20230906BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K48/00
A61K31/712
C07H21/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031307
(22)【出願日】2022-03-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】清尾 康志
(72)【発明者】
【氏名】正木 慶昭
(72)【発明者】
【氏名】金川 峻幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 彩
【テーマコード(参考)】
4C057
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C057CC03
4C057DD03
4C057MM01
4C057MM09
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA06
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086EA18
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、標的核酸に対する選択性を向上させたアンチセンス分子及び該アンチセンス分子を含むアンチセンス核酸を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、塩基部がグアニンであって、グアニンのアミノ基に芳香族性置換基が導入されたアンチセンス分子及び該分子を含むアンチセンス核酸が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチセンス核酸に導入するための、下記の式:
【化1】
〔式中、
R
1は、水素原子、又は隣接する核酸との結合点であり;
R
2は、水素原子、又は構造:
【化2】
(式中、
【化3】
は、隣接する核酸との結合点、又はOHであり;及び
Xは、S又はOである)
であり;
R
3は、水素、水酸基、又は置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
4は、カルバモイル基、又は置換若しくは未置換の芳香族基である〕
で表されるアンチセンス分子。
【請求項2】
R4が、カルバモイル基である、請求項1に記載のアンチセンス分子。
【請求項3】
R4が、2-ピリジル、ピラジン-2-イル、ピリミジンー2-イル、ピリミジンー4―イル、及びピリミジンー5―イルからなる群から選択される芳香族基である、請求項1に記載のアンチセンス分子。
【請求項4】
XがSである、請求項1~3のいずれか1項に記載のアンチセンス分子。
【請求項5】
5~15塩基のデオキシリボ核酸からなるギャップ領域、ならびに該ギャップ領域の5’及び3’末端に各々、2~10個の2’-修飾又は2’,4’-修飾された核酸からなるウイング領域を有する架橋型のアンチセンス核酸であって、前記ギャップ領域において、請求項1~4のいずれか1項に記載のアンチセンス分子が1個又は複数個が挿入され、及び/又は天然の塩基を有する核酸がそれにより置換されている、上記アンチセンス核酸。
【請求項6】
2’,4’-修飾された核酸が、下記:
【化4】
R
5は、各々独立して、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアラルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、置換又は未置換のアルキニル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群から選択され;
R
6は、水素原子、又は構造:
【化5】
(式中、
【化6】
は、隣接する核酸との結合点、又はOHであり;及び
Yは、S又はOである)
であり;
R
7は、水素原子、又は隣接する核酸との結合点であり;及び
Bは、保護基又は修飾基を有していてもよい核酸塩基の残基を表す]
からなる群から選択される、請求項5に記載のアンチセンス核酸。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のアンチセンス核酸を含む、標的核酸に対する選択性を向上させたアンチセンス核酸治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸に対する選択性を向上させた、塩基部修飾ヌクレオチドを含む新規アンチセンス分子、及び該アンチセンス分子を含むアンチセンス核酸に関する。より具体的は、塩基部がグアニンであって、グアニンのアミノ基に芳香族性置換基が導入されたアンチセンス分子及び該分子を含むアンチセンス核酸が提供される。
【背景技術】
【0002】
低分子医薬や抗体医薬に替わる新規医薬品として、標的RNAに結合しその働きを制御するアンチセンス核酸が注目されている。アンチセンス核酸を用いる核酸医薬品の開発においては、アンチセンス核酸の生体内安定性と標的選択性をそれぞれ調節することが必要である(非特許文献1)。これまでにも様々な疾患に対するアンチセンス核酸が開発されているが、なお克服すべき問題としてアンチセンス核酸が細胞内に存在する数千の標的外RNAに部分的に結合してその働きを阻害する現象(オフターゲット効果)あることが知られている。特に核酸塩基のうちグアニンはオフターゲット-target効果の原因となり得ると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Khvorova, A.; Watts, J. K. Nat. Biotechnol. 2017, 35 (3), 238-248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、アンチセンス核酸を核酸医薬品として使用するためには、アンチセンス核酸の生体内安定性と標的選択性を調節する必要がある。本発明は、アンチセンス核酸の生体内安定性と標的選択性を向上させ、オフターゲット効果を抑制した新規アンチセンス核酸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、上記のようなアンチセンス核酸を提供することを目的として研究を行った結果、アンチセンス核酸の配列に、グアニンにカルバモイル基や2-ピリジル基を加えた塩基部修飾ヌクレオシドを導入することにより、オフターゲット効果を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]アンチセンス核酸に導入するための、下記の式:
【0007】
【0008】
〔式中、
R1は、水素原子、又は隣接する核酸との結合点であり;
R2は、水素原子、又は構造:
【0009】
【0010】
(式中、
【0011】
【0012】
は、隣接する核酸との結合点、又はOHであり;及び
Xは、S又はOである)
であり;
R3は、水素、水酸基、又は置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R4は、カルバモイル基、又は置換若しくは未置換の芳香族基である〕
で表されるアンチセンス分子。
【0013】
[2]R4が、カルバモイル基である、[1]に記載のアンチセンス分子。
[3]R4が、2-ピリジル、ピラジン-2-イル、ピリミジンー2-イル、ピリミジンー4―イル、及びピリミジンー5―イルからなる群から選択される芳香族基である、[1]に記載のアンチセンス分子。
[4]XがSである、[1]~[3]のいずれか1つに記載のアンチセンス分子。
[5]5~15塩基のデオキシリボ核酸からなるギャップ領域、ならびに該ギャップ領域の5’及び3’末端に各々、2~10個の2’-修飾又は2’,4’-修飾された核酸からなるウイング領域を有する架橋型のアンチセンス核酸であって、前記ギャップ領域において、[1]~[4]のいずれか1つに記載のアンチセンス分子が1個又は複数個が挿入され、及び/又は天然の塩基を有する核酸がそれにより置換されている、上記アンチセンス核酸。
[6]2’,4’-修飾された核酸が、下記:
【0014】
【0015】
R5は、各々独立して、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアラルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、置換又は未置換のアルキニル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群から選択され;
R6は、水素原子、又は構造:
【0016】
【0017】
(式中、
【0018】
【0019】
は、隣接する核酸との結合点、又はOHであり;及び
Yは、S又はOである)
であり;
R7は、水素原子、又は隣接する核酸との結合点であり;及び
Bは、保護基又は修飾基を有していてもよい核酸塩基の残基を表す]
からなる群から選択される、[5]に記載のアンチセンス核酸。
【0020】
[7][5]又は[6]に記載のアンチセンス核酸を含む、標的核酸に対する選択性を向上させたアンチセンス核酸治療薬。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、標的核酸(特に、RNA)に対する選択性を向上させた新規アンチセンス分子、及び該アンチセンス分子を含むアンチセンス核酸を提供することにより、主作用である核酸(特に、RNA)切断能を維持しつつ、副作用である非標的核酸(特に、RNA)の切断(オフターゲット効果)を阻害又は軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】各修飾塩基の導入によるアンチセンス活性の変化を示す。
【
図2】各アンチセンス核酸の二重鎖融解温度(Tm)の測定結果を示す。横軸のC、U、A、Gはそれぞれ相補鎖RNAのNの塩基を表している。
【
図3】各アンチセンス核酸のRNaseH切断活性のゲルシフトアッセイ結果を示す。Ladder:100nM 5’-FAM-r(agcauuggcagcu)-3’、100nM 5’-FAM-r(agcauuggcag)-3’、100nM 5’-FAM-r(agcauuggc)-3’;r=RNA。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、標的核酸に対する選択性を向上させた、塩基部修飾ヌクレオチドを含む新規アンチセンス分子、及び該アンチセンス分子を含むアンチセンス核酸に関する。
【0024】
核酸医薬品の開発においては、アンチセンス核酸の生体内安定性と標的選択性をそれぞれ調節することが必要である。標的選択性が低い核酸を生体内に導入されると、アンチセンス核酸が非標的RNAと結合することによる副作用(本明細書では「オフターゲット効果」ともいう)が生じてしまう恐れがある。アンチセンス核酸が非標的RNAと結合する仕組みとして、ミスマッチ塩基対の形成が考えられる。核酸はワトソンクリック型やフーグスティーン型の塩基対を形成するほか、完全に相補的でない配列とも塩基対を形成することが知られており、Wobble塩基対であるG-U、G-A、G-Gミスマッチ塩基対がその例である。そこで、アンチセンスの標的選択性を高めるため、ミスマッチ塩基対の形成を選択的に阻害できるような、ミスマッチ塩基識別能の高い化学修飾を核酸に導入することが効果的な戦略として考えられる。
【0025】
ミスマッチ塩基識別能の向上を目指した化学修飾の例として、2-N-アセチル-3-デアザグアニン(a2c3G)が報告されている。a2c3Gは、下記に示すようなopen-closedの構造をとり、塩基対形成を阻害するclosed型の方が安定して存在する。
【0026】
【0027】
一方で、カルボニル基の酸素と3位の水素が分子内水素結合を形成することにより、+2.3kcal/molでopen型の構造になることができ、open型になることによって塩基対を形成する。この際、a2c3G-C塩基対とa2c3G-Uミスマッチ塩基対を形成するためのエネルギー差を算出した結果、G-C塩基対とG-Uミスマッチ塩基対を形成するためのエネルギー差よりも1.6kcal大きくなることが示された。したがって、a2c3Gはミスマッチ塩基対の識別能を向上させることが示唆され、これはa2c3Gを導入したオリゴヌクレオチドと相補鎖RNAとの二重鎖融解温度(Tm)測定の結果とも一致した(Seio, K.; Sasami, T.; Ohkubo, A.; Ando, K.; Sekine, M. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 1026-1027)。
【0028】
さらに、a2c3Gと同様にopen-closed型の構造をとることで塩基対形成するような化学修飾核酸として、2-N-カルバモイルデオキシグアノシン(Gcm)が合成された(Sasami, T.; Odawara, Y.; Ohkubo, A.; Sekine, M.; Seio, K. Tetrahedron Lett. 2007, 48 (30), 5325-5329)。下記にその構造を示す。
【0029】
【0030】
Gcmは塩基対形成を阻害するclosed型の構造の方がやや安定であると示され、これはa2c3Gの特徴と一致していた。本発明者らは、Gcmをオリゴデオキシヌクレオチドや2’-OMe修飾配列に導入し、二重鎖安定性(Tm)を評価した。その結果、Gcmは非修飾のグアニンと比べて、ミスマッチ塩基対を含む相補鎖DNAとのTmをより不安定化させることを明らかにした。さらに、2’-OMe修飾のRNAにGcmを導入した配列においても、ミスマッチ塩基対を含む相補鎖DNAや相補鎖RNAとのTm測定をおこなった結果、Gcmによってミスマッチ塩基対の識別能が向上することが報告されている(佐々見武志 博士論文 東京工業大学 2008)。したがって、カルバモイル基による修飾はミスマッチ塩基対の識別能を高めることにより、アンチセンスの標的選択性を向上させると考えられる。
【0031】
本研究では、a2c3GやGcmと同様にopen-closed型の構造をとることで塩基対形成する化学修飾核酸として、2-N-(ピリジン-2-イル)-グアニン(GPy)に着目した。下記にその構造変化を示す。
【0032】
【0033】
Gpyはオリゴデオキシヌクレオチドに導入した場合、相補鎖DNA二重鎖との結合親和性(Tm)と塩基識別能を予想外に低下させていた(Inde, T.; Masaki, Y.; Maruyama, A.; Ito, Y.; Makio, N.; Miyatake, Y.; Tomori, T.; Sekine, M.; Seio, K. Org. Biomol. Chem. 2017, 15, 8371-8383)。GPyがミスマッチ塩基対の形成を安定化した要因として、ピリジル基が持つ芳香族環によるスタッキング相互作用が指摘されていた(Inde,T、前掲)が、これは配列依存的な相互作用である可能性もあり、アンチセンス核酸に導入し、相補鎖RNAを標的にした場合には塩基識別能が向上する可能性もある。そこで、後述する実施例1に示されるように、Gpyをアンチセンス核酸に導入した場合の特性を評価するため、LNAギャップマー型のアンチセンス核酸にGPyを導入し、その特性評価をおこなった。さらに、比較対象としてGcmを導入したアンチセンス核酸や、Gを欠損させたアンチセンス核酸についても初めて特性評価をおこなった。
【0034】
GcmおよびGPyの合成をそれぞれスキーム1及び2に示す。
【0035】
【0036】
Gcmの合成では、まず2’-デオキシグアノシン(化合物2-1)の3’,5’水酸基を、TBSClを用いてTBS基で保護することにより化合物2-2を得る。TMSClを用いて6位のカルボニル基を保護した後に、クロロギ酸フェニルでアシル化して得られたフェノキシカルボニル中間体(化合物2-3)を、つづけて28%アンモニア水と反応させることにより化合物2-4を得る。その後、グアニン6位のカルボニル基をジフェニルカルバモイル(DPC)基で保護して化合物2-5を得る。そして、トリエチルアミン三フッ化水素を用いて3’水酸基と5’水酸基の脱保護をおこなうことで化合物2-6を収率45%で得る。最後に、定法にしたがい5’位のDMTr化と3’位のホスフィチル化をおこなうことによって化合物2-7を収率46%、化合物2-8を収率17%で得る。
【0037】
【0038】
GPyの合成では、まず3’,5’位をTBS保護したグアノシン(化合物2-2)に、パラジウム試薬、塩基、ホスフィンリガンドとして酢酸パラジウム、Cs2CO3、(±)-BINAPを用いることで、2-クロロピリジンとのBuchwald-Hartwig反応をおこない、化合物2-9を収率41%で得る。そして、トリエチルアミン三フッ化水素を用いて3’水酸基と5’水酸基の脱保護をおこなうことで化合物2-10を収率85%で得る。最後に、定法にしたがい5’位のDMTr化と3’位のホスフィチル化をおこなうことによって化合物2-11を収率68%、化合物2-12を収率83%で得る。
【0039】
上記では、本発明によるアンチセンス核酸に使用され得るアンチセンス分子として、典型例として、2-N-(ピリジン-2-イル)-グアニン(GPy)又は2-N-カルバモイルデオキシグアノシン(Gcm)を有する核酸について説明したが、本発明は、これらのアンチセンス分子に限定されず、下記の通り、一般式(I)で表されるアンチセンス分子を提供することができる。本明細書では、「アンチセンス分子」とは、一般式(I)で表される分子を指し、例えば、GPy又はGcmを有する核酸分子が該当する。また、「アンチセンス核酸」とは、その構造に上記アンチセンス分子を含む核酸を指す。
【0040】
(1)アンチセンス分子
本発明によれば、アンチセンス核酸(以下、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」、「ASO」と称することもある)に使用される核酸分子が提供され、下記の式:
【0041】
【0042】
〔式中、
R
1は、水素原子、又は隣接する核酸との結合点であり;
R
2は、水素原子、又は構造:
【化13】
(式中、
【化14】
は、隣接する核酸との結合点、又はOHであり;及び
Xは、S又はOである)
であり;
R
3は、水素、水酸基、又は置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
4は、カルバモイル基、又は置換若しくは未置換の芳香族基である〕
で表すことができる。
【0043】
「アルキル基」とは、直鎖、分枝鎖又は環状の1価の脂肪族飽和炭化水素基を指し、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましは炭素数1~4のアルキル基、さらにより好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、メトキシエチル基、アルキルカルバモイルエチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0044】
「カルバモイル基」とは、一般的には-C(=O)NH2で表される基であるが、本明細書で使用する場合、「カルバモイル基」には、限定されないが、-C(=O)NH2、及び窒素上に炭素数1~6の直鎖または分岐鎖または環状のアルキル基を有するもの、例えば、カルバモイル基(、N-メチルカルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基、N-ピロリジルカルボニル基、N-ピペリジルカルボニル基、N-モルホリニルカルボニル基などが含まれる。
【0045】
本明細書で使用する場合、「芳香族基」とは、芳香族化合物から一個の水素原子を除いた単環式環状構造又は縮合二環式環状構造を有する一価の基を意味する。単環式芳香族基は、環に5~10個、好ましくは5~7個、更に好ましくは5~6個の炭素原子を有する。二環式芳香族基は、環に8~12個、好ましくは9又は10個の炭素原子を有する。芳香族基は未置換型であってもよく、又は置換基で置換された置換型であってもよい。二環式芳香族基には、構造内の環の1つが芳香族である環構造が含まれる。好ましい二環式芳香族基は、構造内の環が2つとも芳香族である環構造である。
【0046】
より具体的には、「芳香族基」としては、限定されないが、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ピリジン-2-イル基、ピリジン-3-イル基、ピリジン-4-イル基、ピリミジン-2-イル基、ピリミジン-4-イル基、ピリミジン-5-イル基、ピラジン-2-イル基、ピリダジン-3-イル基、ピリダジン-4-イル基、フラン-2-イル基、フラン-3-イル基、チオフェン-2-イル基、チオフェン-3-イル基、ピロール-1-イル基、ピロール-2-イル基、ピロール-3-イル基、ピラゾール-1-イル基、ピラゾール-3-イル基、ピラゾール-4-イル基、ピラゾール-5-イル基、イミダゾール-1-イル基、イミダゾール-2-イル基、イミダゾール-4-イル基、イミダゾール-5-イル基などである。
【0047】
「芳香族基」に適用可能な置換基としては、限定されないが、アミノ基、ハロゲン基、アシル基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルボキシ基、アシルオキシ基などが例示される。
【0048】
(2)アンチセンス核酸
本発明のアンチセンス核酸は、デオキシリボ核酸からなるギャップ領域、ならびに該ギャップ領域の5’及び3’末端に各々、2~10個の2’-修飾又は2’,4’-修飾された核酸からなるウイング領域を有する架橋型のアンチセンス核酸であって、該ギャップ領域に本発明の上記アンチセンス分子を有することを特徴とする。
【0049】
より具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、標的とする核酸の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるギャップ領域(「DNA」からなる領域であって、各核酸同士を連結する結合様式は限定されないが、ホスホロチオエート結合又はホスホジエステル結合であり得、好ましくはホスホロチオエート結合である)(長さは任意であり得、好ましくは5~15塩基)と、そのギャップ領域の両端にそれぞれ位置するウイング領域とからなる構造を有する従来のアンチセンス核酸に対して、該ギャップ領域において、該ギャップ領域において、本発明の上記アンチセンス分子が1個又は複数個が挿入され、及び/又は天然の塩基を有する核酸がそれにより置換されている。
【0050】
本発明のアンチセンス核酸を構成するウイング領域は、2’-修飾又は2’,4’-修飾された核酸を含む又はそれからなる(例えば、W. Brad Wan and Punit P. Seth, J. Med. Chem. 2016, 59, 9645-9667を参照されたい)。ウイング領域に含まれる2’,4’-修飾された核酸は好ましくは2~10個である。また、各核酸同士を連結する結合様式もまた限定されないが、ホスホロチオエート結合又はホスホジエステル結合であり得、好ましくはホスホロチオエート結合である。なお、「ホスホロチオエート結合」は、天然の核酸間結合であるホスホジエステル結合のリン酸基の酸素原子の1つを硫黄原子に置換しホスホロチオエート化(PS化)したものである。
【0051】
本発明によれば、2’,4’-修飾された核酸は、限定されないが、下記の構造式:
【0052】
【0053】
[式中、
R5は、各々独立して、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアラルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、置換又は未置換のアルキニル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群から選択され;
R6は、H、又は構造:
【0054】
【0055】
(式中、
【0056】
【0057】
は、隣接する核酸との結合点、又はOHであり;及び
Yは、S又はOである)
であり;
R7は、H、又は隣接する核酸との結合点であり;並びに
Bは、保護基又は修飾基を有していてもよい核酸塩基の残基を表す]
を有するものであってもよい。上記、Bは保護基又は修飾基を有していてもよい核酸塩基の残基を表す。核酸塩基としては、例えば、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、チミン、5-メチルシトシンなどの天然型核酸塩基の他、2-チオウラシル、2-チオチミン、2-チオシトシン、2-チオ-5-メチルシトシン、2,4-ジアミノプリン、6-チオグアニン、ウラシル-5-イル、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、3-デアザグアニン、3-デアザアデニンなどの非天然型核酸塩基、を挙げることができる。核酸塩基上に導入される保護基又は修飾基としては、アミノ基が1つ又は2つのアシル基で保護されるか、アミジン型保護基でもよい。ケト基の酸素原子が水酸基に互変異性化し、シアノエチル基、2-(4-ニトロフェニル)エチル基、2-ニトロベンジル基、アシルオキシメチル基などのアルキル基や、ジフェニルカルバモイル基などのアシル基などで保護されてもよい。ウラシル塩基及びチミン塩基にあっては、N3位がアルキル基、アシル基で保護されてもよい。また、上記天然型核酸塩基及び非天然型核酸塩基の炭素原子上にアミノ基、ハロゲン基、アシル基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルボキシ基、アシルオキシ基など、あるいはそれらに蛍光性官能基、ビオチニル基、アミノ基、スピンラベルなどの置換基が含まれていてもよい。
【0058】
公知の通り、天然核酸(DNAやRNA)の糖部分は4つの炭素原子と1つの酸素原子とからなる5員環を有し、その糖部分はN型とS型の2種類のコンホメーションを取る。前述のASOの標的となるmRNAは主に糖鎖がN型でA型のらせん構造をとっているため、RNAに対する親和性を高めるという観点から、ASOの糖鎖もN型をとることが重要になる。このコンセプトのもとに開発されたのがLNA(Locked Nucleic Acid;2’-O,4’-C-メチレン-架橋化核酸(2’,4’-BNA/LNA))の修飾核酸である。例えば、LNAにおいては、2’位の酸素と4’位の炭素とをメチレン基によって架橋することにより、そのコンホメーションはN型に固定され、コンホメーション間のゆらぎは生じない。そのため、LNAを数ユニット組み込んで合成されたオリゴヌクレオチドは、従来の天然の核酸で合成されたオリゴヌクレオチドに比べて、RNAに対する結合力や配列特異性が極めて高く、かつ、優れた耐熱性とヌクレアーゼ耐性とを示す。他の人工核酸もかかる特性を有していることから、本発明において利用可能である。本発明によれば、2’,4’-修飾された核酸は、LNAであることが好ましい。なお、本発明のアンチセンス核酸は、固相合成の周知技術を通して簡便にかつルーチンに製造することができる。
【0059】
(2)アンチ核酸治療薬
本発明のアンチセンス核酸は、標的核酸(DNA又はRNA、好ましくはRNA)に対して選択性が向上しており、さらに、アンチセンス核酸として活性化が維持されたものである。本発明によれば、一般的に使用されるアンチセンス核酸と同様に治療薬(医薬、製剤、又は医薬組成物)として提供することができる。本発明のアンチセンス核酸を治療薬として使用する場合、遺伝子疾患の種類は特に限定されない。アンチセンス核酸に組み込まれるギャップ領域を構成する「デオキシリボ核酸」は、生体内に存在するノンコーディングRNA(マイクロRNA、リボソームRNA、tRNA等)、mRNA、一本鎖DNA等を標的とすることができるため、これらの全配列又は一部配列を「標的核酸」として、標的核酸の塩基配列に完全に又は十分に相補的な塩基配列からなる一本鎖核酸を含むアンチセンス核酸を標的核酸に対応した遺伝子疾患を治療及び/又は予防するための治療薬として用いることができる。また、デオキシリボ核酸の長さは、一般的に、10塩基程度が適切であるが、5~15塩基の範囲であれば特に限定されない。好ましくは8~10塩基、より好ましくは10塩基である。
【0060】
本明細書において、「(標的核酸の塩基配列に対して)十分に相補的な塩基配列からなる(一本鎖核酸)」とは、標的核酸の塩基配列の50%以上100%未満、好ましくは60%以上100%未満、より好ましくは70%以上100%未満、さらに好ましくは80%以上100%未満、さらにより好ましくは90%以上100%未満の塩基と対合し得る塩基配列からなるものであり得る。より具体的には、標的核酸の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる核酸鎖において、例えば、1又は2~4の塩基を他の塩基に置換した結果、その置換した位置におけるヌクレオチド残基が対合できなくなった場合(この場合、他の塩基に置換した位置を「ミスマッチ部位」という);標的核酸の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる核酸鎖において、例えば、1又は2~4の塩基を欠失した結果、その欠失した位置におけるヌクレオチド残基が対合できなくなった場合等を挙げることができる。
【0061】
本発明のアンチセンス核酸を医薬組成物として使用する場合、有効成分としてのアンチセンス核酸の他、医薬として許容される担体、希釈剤、又は賦形剤等を含めることができる。用語「医薬として許容される」とは、患者に投与したとき、生理学的に忍容性であり、かつ一般的に急性胃蠕動等のアレルギー性反応又は類似の有害な反応を生じさせない分子実体及び組成物を指す。用語「担体」は、化合物とともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。かかる医薬用担体は、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、植物、又は合成起源の油を含む油及び水等の不活性液体であってよい。水又は生理食塩水、並びに水性デキストロース及びグリセロール水溶液は、担体として、特に注射液として使用されることが好ましい。
【0062】
本発明のより具体的な実施形態では、医薬として許容される希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、及び/又は担体とともに治療有効量のアンチセンス核酸を含む医薬組成物が提供される。かかる組成物は、様々な緩衝物(例えば、Tris-HCl、酢酸塩、リン酸塩)、pH及びイオン強度の希釈剤、洗剤及び可溶化剤(例えば、Tween80、ポリソルベート80)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール)、及びバルク物質(例えば、ラクトース、マンニトール)等の添加剤を含む。また、医薬組成物は、液体形態で調製されてもよく、凍結乾燥形態等の乾燥粉末であってもよい。
【0063】
本発明に従って提供される医薬組成物は、限定されないが、注入、経口、肺、又は鼻経路によって投与されることが好ましい。さらには、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、又は皮下投与経路によって送達されることがより好ましい。
【0064】
(4)キット
本発明は、遺伝子疾患を有する患者を治療及び/又は予防するためのキットであって、好適な容器に包装されている少なくとも1つのアンチセンス核酸と、その使用説明書とを含むキットを提供する。
【0065】
キットの内容物は、凍結乾燥されていてもよく、また、キットは、凍結乾燥されている成分を再構成するための好適な溶媒をさらに含んでいてもよい。キットの個々の成分は、別々の容器に包装され、かかる容器とともに、医薬品又は生物学的製品の製造、使用、又は販売を規制する政府機関によって定められている形態の通知であって、ヒトへの投与についての製造、使用、又は販売を規制する機関による認可を反映している通知を添付してもよい。
【0066】
キットの成分が1つ以上の液体溶液で提供される場合、前記液体溶液は、水溶液、例えば無菌水溶液であってよい。インビボで使用する場合、発現構築物を医薬として許容される注射用組成物に製剤化してもよい。この場合、容器手段は、単体で吸入器、注射器、ピペット、点眼器、又は他の同様の装置であってよく、これらから、動物の罹患領域に製剤を適用したり、動物に注射したり、更にはキットの他の成分に適用し、それと混合したりすることができる。
【0067】
また、キットの成分は、乾燥形態又は凍結乾燥形態で提供されてもよい。試薬又は成分が乾燥形態として提供されるとき、一般的に、好適な溶媒の添加によって再構成が行われる。また、溶媒は、別の容器手段で提供されてもよいことが想到される。容器の数又は種類にかかわらず、本発明のキットは、動物の体内に最終的な複雑な組成物を注射/投与又は配置するのを補助するための機器を含むか、又はこれらと共に包装されてもよい。かかる機器は、吸入器、注射器、ピペット、ピンセット、計量スプーン、点眼器、又は任意の医学的に認められている送達ビヒクルであってもよい。
【0068】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、本実施例で使用した試薬、合成及び精製装置、核酸オリゴマー、測定機器、培養細胞等については、実施例の最後にまとめて記載した。
【実施例0069】
実施例1:2-N-(ピリジン-2-イル)-グアニン(G
Py
)および2-N-カルバモイルデオキシグアノシン(G
cm
)を導入したオリゴデオキシヌクレオチドの合成
スキーム1および2に従って合成されたホスホロアミダイトユニットを用いて、表1に示すような16塩基のLNAギャップマー型のアンチセンス核酸を合成した。このアンチセンス核酸の標的遺伝子はhuman malat-1(以下、hMALAT)である。3’末端から8塩基目のdGにGPyとGcmを導入したアンチセンス核酸、または3’末端から8塩基目のdGが欠損したアンチセンス核酸(deletion)をそれぞれ合成した。ここで下線部はLNAを示し、dで示した部分はDNAである。また配列中Cで示した塩基はDNAの場合もLNAの場合も5-メチルシトシンである。PSはインターヌクレオチド結合がすべてホスホロチオエートであることを示している。
【0070】
【0071】
dGおよびdeletionはDNA自動合成機を用いて、ホスホロアミダイト法に従い固相合成をおこなった。また、GpyおよびGcmは自動合成機とマニュアル合成を併用し、ホスホロアミダイト法に従って固相合成をおこなった。まず、3’末端から修飾核酸(GPy、Gcm)の手前の塩基まで5’-d(ATAA)TGT-3’(配列番号5)の保護体を、自動合成機を用いて固相担体上に合成した。次に、GpyまたはGcmをそれぞれマニュアル合成によってアンチセンス核酸に導入した(5’-d(XATAA)TGT-3’(配列番号6);X=GPy、Gcm)。マニュアル合成では、アルゴン風船をつけた三方コックで密封したガラスフィルター(以下、固相筒)に自動合成機で合成したオリゴヌクレオチドが担持された固相担体を移し、脱DMTr反応、カップリング反応、硫化の順で反応させ、乾燥させたのちに固相筒の中身を自動合成機用の空カラムに移した。そして、再び自動合成機を用いて目的のアンチセンス核酸をそれぞれ最後の5’末端まで合成した(5’-CATd(ATGCAXATAA)TGT-3’(配列番号7);X=Gpy、Gcm)。
【0072】
その後、28%アンモニア水を用いて固相担体から各アンチセンス核酸を切り出し、55℃で12時間または16時間という条件で塩基部(A、G、C)の脱保護を行った。その後、逆相カートリッジカラムSep-Pakを用いて、DNA鎖の簡易精製および5’末端DMTr基の脱保護を行い、逆相HPLCでの精製を行った。合成したアンチセンス核酸はMALDI-TOF-MSによって質量分析を行い、目的物が合成できたことをそれぞれ確認した。
【0073】
実施例2:アンチセンス活性
実施例1で合成した各オリゴデオキシヌクレオチドについて、アンチセンス活性を測定した。ピリジル基は立体障壁により塩基対の結合を阻害することでミスマッチ塩基対の識別能が向上すると期待される一方で、標的遺伝子との結合を阻害してしまう可能性もあるため、アンチセンス活性の低下が危惧される。しかし、アンチセンス活性を維持することができれば、塩基部へのピリジル基修飾はアンチセンス核酸の開発においてより有用な選択肢となり得る。
【0074】
Hela細胞を96ウェルプレートに播種し(20,000細胞/100μL/ウェル)、コンフルエンシーが60%以上になるまで培養した。次に、それぞれのウェルに、リポフェクタミン2000(Invitrogen社)とともにアンチセンス核酸を添加し、24時間培養することでトランスフェクションをおこなった。アンチセンス核酸は各ウェルにそれぞれ0.01/0.1/1.0/2.5nMとなるように添加した。そして、トランスフェクションの後、各ウェルの細胞をホモジナイズし、RNA抽出を行った。最後に、RNAの変性、ゲノムDNA除去、逆転写反応をおこなった後に、リアルタイムPCRを行うことで、アンチセンス核酸の標的遺伝子であるhMALATとハウスキーピング遺伝子の一種であるGAPDHのCt値をそれぞれ測定した。そして、Ct値からアンチセンス活性を評価する指標としてhMALATの発現量(%)を算出した。以上の手順にしたがい、各条件で3サンプルずつ測定をおこなった。その結果を
図1に示す。また、ネガティブコントロール(NC)の#3、ポジティブコントロール(PC)の#19を比較対象として用いた。#3はhRlucを標的とした配列で5’-
CATd(ATGCAGATAA)
TGT-3’(配列番号1)、#19はhuman malat-1を標的としたdGと同様の配列5’-
TCGd(GAATCATAGT)
AGT-3’(配列番号8)である。
【0075】
GPyの1nMにおけるhMALATの発現量は55%にまで減少しており、2.5nMでは25%にまで低減するほどのアンチセンス活性がみられた。2.5nMでの活性の大きさはdG(23%)やポジティブコントロール(30%)に匹敵する。したがって、塩基部へのピリジル基による修飾(GPy)はアンチセンス活性を維持することができるといえる。Gcmの1nMにおけるhMALATの発現量は47%にまで減少し、この活性はGPyよりも高いものであった。Gcmの2.5nMでは35%にまで発現量が減少しており、これはGPyの活性には劣る結果であったが、PC(#19)の30%という発現量の低下に匹敵する結果であるため、充分な活性があるといえる。したがって、塩基部へのカルバモイル基による修飾(Gcm)もアンチセンス活性を維持することができるといえる。deletionはいずれの濃度においても100%以上であったため、0.01~2.5nMではアンチセンス活性を持たないことが示唆された。
【0076】
さらに、hMALATの発現量の結果を用いてIC50を算出した(表2)。IC50とはhMALATの発現量が50%となるとときのアンチセンス核酸の濃度を示す値であり、アンチセンス活性の大きさの指標となる。hMALAT発現量が50%となる前後のアンチセンス核酸の濃度の対数の値を取り、グラフ上で直線を引くことでIC50を求めた。deletionに関しては、発現量が50%以下になる濃度がなかったため、IC50は求められなかった。
【0077】
【0078】
IC50の結果より、dG(IC50=0.55nM)は最もアンチセンス活性が大きく、それに次いでGcm(IC50=0.91nM)、GPy(IC50=1.18nM)の順でアンチセンス活性が大きかった。IC50を比較した結果、deletionを除くいずれのアンチセンス核酸も1.2nM以下であることから、ピリジル基およびカルバモイル基の導入はアンチセンス活性の高さに小さな影響しか及ぼさず、その活性を維持することができるといえる。
【0079】
実施例3:二重鎖融解温度測定
Gcmはopen-closed型の構造をとることによって、ミスマッチ塩基対の識別能を高めることが知られている(Sasami, T.、前掲)。そこで、Gcmと同様のopen-closed型の構造を持つGPyも、ミスマッチ塩基対の識別能を向上させると期待される。これは核酸医薬品の開発において、アンチセンス核酸が非標的遺伝子に結合する可能性を減らし、オフターゲット効果や副作用を抑制するために必要な性質である。
【0080】
そこで、実施例1で合成した各アンチセンス核酸について、標的配列(Perfectmatch;PM)またはミスマッチ塩基を含む配列(Mismatch;MM)をもつ相補鎖RNAとの二重鎖融解温度(Tm)を測定することで、それぞれの化学修飾が二重鎖安定性およびミスマッチ塩基対識別能に与える影響を評価した。
【0081】
本実験では、下記に示すように、Xの位置にdG、Gpy、Gcmを、Nの位置にC、U、A、Gを導入し、それ以外は相補的な配列となるような16種類の二重鎖を用意した。
【0082】
二重鎖融解温度(Tm)測定に用いたアンチセンス核酸(上)とRNA(下)
5’-CATd(ATGCAXATAA)TGT-3’(X=dG、GPy、Gcm、deletion)(配列番号9)
5’-r(GUAUACGUNUAUUACA)-5’(N=C、U、A、G)(配列番号10)
【0083】
ここで、N=Cの二重鎖はX-Nがマッチ塩基対(G-C、GPy-C、Gcm-C)を形成しており、N=U、A、Gの二重鎖はミスマッチ塩基対(G-U、G-A、G-Gなど)を形成する。また、アンチセンス核酸に含まれるCは5-メチルシトシンを表し、RNA中のCはシトシンを表している。dで示した部分はDNAであり、rで示した部分はRNAである。また、下線部はLNAを表す。
【0084】
まず、各二重鎖が2.0μMになるようにリン酸バッファー(10mMリン酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、0.1mM EDTA、pH7.0)へと溶解し、95℃で3分間加熱した後に室温で1時間静置した。次に、紫外可視光光度計(島津製作所)を用いて15℃から+0.5℃/分で95℃まで上昇させたのち、95℃から-0.5℃/分で15℃まで下降させることで、その際のUV吸収値の変化から二重鎖融解温度(T
m)を求めた。そして、以上の手順にしたがって3回のT
m測定をおこなった。その平均値を
図2に示す。
【0085】
さらに、各化学修飾がPMの二重鎖安定性に与える影響を評価するために、PM(N=C)における、dGと各アンチセンス核酸(GPy、Gcm、deletion)とのTm値の差(ΔTm
*)を算出した。その結果を表3に示す。すなわちXをGpy、Gcm、deletion ΔTm
*=Tm(X-C)-Tm(dG-C)である。したがって、ΔTm
*がマイナスの値である場合は、dGよりも二重鎖が不安定化したといえる。
【0086】
【0087】
PM(N=C)のTmを比較するとGcm(52.0℃)>dG(51.3℃)>GPy(46.8℃)>deletion(30.5℃)となっている。表3からも分かるように、GPyのTmはdGと比べて-4.5℃と低下しており、ピリジル基はPMの二重鎖構造をやや不安定化する。この結果は先行研究(-2.4℃の不安定化)とも一致していた(Inde, T、前掲)。しかし、アンチセンス活性が最適化されるTmの至適範囲は約10℃であることが知られており(Papargyri, N.; Pontoppidan, M.; Andersen, M. R.; Koch, T.; Hagedorn, P. H. Mol Ther Nucleic Acids. 2019, 19, 706-717)、ピリジル基による二重鎖構造の不安定化はアンチセンス活性に大きな影響を及ぼさないと期待される。これは、ピリジル基がアンチセンス活性に小さな影響しか及ぼさなかったという結果とも一致している。
【0088】
一方で、表3からも分かるように、GcmのTm(52.0℃)はdGのTm(51.3℃)と比べて+0.7℃と向上しており、カルバモイル基の導入はPMの二重鎖構造をやや安定化する。この結果は、カルバモイル基がアンチセンス活性に小さな影響しか及ぼさないという結果を裏付ける。
【0089】
次に、各化学修飾がMMの二重鎖安定性に与える影響、すなわちミスマッチ塩基対の識別能を評価するために、PM(N=C)とMM(N=U、A、G)とのTmの差(ΔTm
**)をそれぞれのアンチセンス核酸ごとに算出した。その結果を表4に示す。すなわちXをdG、GPy、Gcm、deletion、Nを相補鎖RNA上の塩基とするとΔTm
**=(Tm(X-N)-Tm(X-C)である。したがって、ΔTm
**がマイナスの値である場合は、PMに比べてMMの二重鎖が不安定化したといえる。
【0090】
【0091】
そして、ΔTm
**のマイナスの度合いが大きいほど、PMに比べてMMの二重鎖が大きく不安定化したことを示しており、ミスマッチ塩基対の識別能が高いといえる。また、表4におけるC、U、A、Gはそれぞれ相補鎖RNAのNの塩基を表している。太字の数字は各アンチセンス核酸におけるΔTm
**の最大値、すなわち各アンチセンス核酸において最も安定なMM二重鎖のΔTm
**値を示している。これは、ミスマッチ塩基識別能を比較する指標になると考えられるため、dG(ΔTm
**=-11.8℃)>Gcm(ΔTm
**=-10.1℃>>GPy(ΔTm
**=-3.5℃)>>deletion(ΔTm
**=7.6℃)の順で塩基識別能が高いといえる。これより、GPyはミスマッチ塩基対識別能がdGよりも低いことが明らかになった。一方で、Gcmはミスマッチ塩基識別能がdGと同程度であることが明らかになった。
【0092】
さらに、各化学修飾がミスマッチ塩基対の識別能に与える影響を詳しく評価するために、dGと各アンチセンス核酸(GPy、Gcm、deletion)とのΔTm
**の差(ΔΔTm)を算出した。その結果を表5に示す。ΔΔTm=(Gpy、Gcm、deletionのΔTm
**値)-(dGのΔTm
**値)である。したがって、ΔΔTmがマイナスの値である場合は、dGに比べてミスマッチ塩基対の識別能が向上したといえる
【0093】
【0094】
ΔΔTmがプラスの値である場合は、dGに比べてミスマッチ塩基対の識別能が低下したといえる。そして、ΔΔTmのプラスの値が大きいほど、ミスマッチ塩基対の識別能が大きく低下していることを示す。また、C、U、A、Gは相補鎖RNAのNの塩基を示す。
【0095】
表5から分かるように、GpyのΔΔTm
**は全ての相補鎖RNAにおいてプラスの値(9.0、9.0、7.6)であり、ピリジル基による修飾がミスマッチ塩基対識別能を低下させるといえる。GpyがGcmと同様のopen-closed型構造をとるにも関わらず、ピリジル基修飾によって塩基識別能が低下する、という結果は予想と反する。しかし、この結果はピリジル基を導入したDNA二重鎖のTm測定結果(Inde, T.、前掲)と一致している。ピリジル基による修飾がミスマッチ塩基対との二重鎖を安定化させた要因としては、芳香族環と相補鎖側塩基との非特異的なスタッキング相互作用などが考えられる。
【0096】
一方で、GcmのΔΔTm
**は-0.4℃(N=U)、-0.1℃(N=A)、1.7℃(N=G)であり、カルバモイル基による修飾がミスマッチ塩基識別能をやや向上させる、または維持させるといえる。この結果に対し先行研究では、GcmをDNA二重鎖に導入した場合のΔΔTmが-3.6℃になっており、2’-OMe修飾に導入した場合には-4.2℃になったと報告されている(Papargyri, N.、前掲)。したがって、先行研究では、カルバモイル基の導入によって、本実験よりもミスマッチ塩基識別能が向上していたといえる。この少しの結果の不一致は、塩基配列の違いやLNAおよび2-OMe修飾(Papargyri, N.、前掲)の有無によって生じた、二重鎖安定性の違いがもたらしたものだと考えられる。先行研究と比較して、PMにおけるTmに1.2℃(52.0℃と50.8℃(Papargyri, N.、前掲))の差があることからも、塩基配列の違いや各化学修飾の有無によって二重鎖安定性に違いが生じたといえる。そして、この二重鎖安定性の違いがΔTm
**やΔΔTmに影響が与えたのだと考えられる。
【0097】
また、表5から分かるように、G-Gミスマッチ塩基対配列におけるGcmのΔΔTm
**は+1.7℃であり、G-Uミスマッチ(ΔΔTm
**=-0.4℃)やG-Aミスマッチ(ΔΔTm
**=-0.1℃)よりもミスマッチ塩基対識別能がdGに対してやや低下していた。したがって、カルバモイル基を導入した修飾核酸はG-Gミスマッチ塩基対を最も識別しづらいといえる。これはG-Gミスマッチ塩基対を形成するための水素結合がカルバモイル基と離れており(下記参照)、その水素結合を形成するためのエネルギーにカルバモイル基が関与しないためだと考えられる。
【0098】
【0099】
本実施例験において、deletionを除くアンチセンス核酸のTm値は、約40~50℃Cの範囲で算出されており、生体内に比べると高い温度での塩基対識別能を評価しているといえる。
【0100】
実施例4:RNaseHによる切断活性評価
実施例1で合成した各アンチセンス核酸および5’末端に蛍光標識(FAM)がついた相補鎖RNA(3’-ACAUUAUYUGCAUAUG-5’(配列番号11);Y=C/U)を用いて、RNaseHによる切断活性を評価した。Yはアンチセンス核酸に含まれる修飾核酸と塩基対を形成する位置である。
【0101】
まず、各アンチセンス核酸と相補鎖RNAを60℃で2分間加熱した後に37℃で30分静置することでアニーリングをおこなった。次に、アニーリングさせた各サンプルにRNaseHを添加し、37℃で反応を開始した。そして、反応開始から5分後にサンプリングし、ローディングバッファー(10M尿素、50mMエチレンジアミン四酢酸・2Na、0.1wt%ブロモフェノールブルー)を加え-30℃で保存することにより反応を停止させた。各アンチセンス核酸とRNAは終濃度がそれぞれ200nMで、RNaseHは0.5mU/μLとなるように調製した。最後に、各サンプルをラダーとともにゲルシフトアッセイに供することで解析を行った。このゲルシフトアッセイ結果を
図3に示す。Ladderは9、11、13merのRNAを混合し、それぞれ100nMとなるように調製した。左から2番目のレーンはコントロールであり、アンチセンス核酸を加えずに反応をおこなったサンプルである。コントロールのRNAの終濃度は100nMとなるように調製した。また、左に示したa、b、c、d、e、fはLadderの鎖長から想定される二重鎖の切断箇所である。そして、想定される二重鎖の切断箇所は
図4に示した。ASOはアンチセンス核酸を示しており、丸が一つ一つの核酸を示している。ASOの核酸を示す丸のうち、修飾核酸の導入位置はGと示した。点線で囲んだ部分は、二重鎖の中でRNaseHが認識すると考えられる6塩基を示す。また、a、b、c、d、e、fで示した6パターンの位置は、RNaseHが相補鎖RNAの切断を引き起こすと想定される切断箇所である。
【0102】
図3でみられるように、Perfectmatch(PM)において、dGではeの位置での切断が最も多くみられた。一方で、G
PyやG
cmではeでの切断が抑制されており、aやbでの切断が多くみられた。
図4でみられるように、eは修飾塩基(G
Py、G
cm)の導入位置に近い切断箇所であるため、修飾塩基のかさ高さによりRNaseHによる切断が起こりづらくなっている可能性が考えられる。そして、この結果より、ピリジル基およびカルバモイル基の導入によって、アンチセンス核酸の切断箇所が減少することが明らかになった。これにより、アンチセンス核酸の標的RNAに対する選択性が向上する可能性があると考えられる。
【0103】
Mistmatch(MM)においては、dGにおいてPMでみられたeの位置での切断が抑制されており、aやbでの切断が増加していた。eの切断箇所はミスマッチ塩基対と近いため、ミスマッチ塩基対による立体構造の変化によりRNaseHによる切断が起こりづらくなったと考えられる。
【0104】
次に、ゲルシフトアッセイの結果から、完全長RNAの存在比(%)についてimageJを用いて算出した。その結果を表6に示す。
【0105】
【0106】
PMにおいて、G
Pyでは反応時間5分における完全長RNAの存在比が19.3%になっており、これはdG(19.0%)と同等である。さらに、G
cmも22.2%となっており、G
Pyにはやや劣るがdG(19.0%)とほぼ同等であるといえる。したがって、ピリジル基およびカルバモイル基を導入したアンチセンス核酸はRNaseH切断活性の高さを維持できるといえる。この結果は、G
PyやG
cmがdGと同等のアンチセンス活性を維持したという結果を裏付ける。また、deletionに関して、完全長RNAの存在比が17.9%になっており、dGと同等の切断活性を持つことが明らかになった。しかし、
図1に示すようにdeletionはdGに比べてアンチセンス活性がはるかに小さかった。したがって、deletionは一旦二重鎖を形成すれば効率よく標的RNAを切断できる一方、二重鎖安定性(T
m)が低いため細胞中でなおアンチセンス活性は低下したと考えられる。
【0107】
次に、各アンチセンス核酸のミスマッチ塩基対の識別能を評価するため、PMとMMとの間における完全長RNA存在比(%)の差を算出した(表7)。差の値が大きいほど、ミスマッチ塩基対の存在下(MM)で完全長RNAの存在比がPMに比べて増加したことを示しており、ミスマッチ塩基対の識別能が高いといえる。
【0108】
【0109】
Gpyでは、完全長RNA存在比の差が10.9であり、dG(-1.7)やGcm(-0.7)よりも大きかった。さらに表6からも分かるように、MMにおいてGPyではRNaseHにより切断されずに残った完全長RNAが最も多かった。したがって、GPyにおけるRNaseH切断活性はミスマッチ塩基対の影響を最も強く受け、RNaseHによる切断に関してはピリジル基による修飾がミスマッチ塩基対識別能を向上させたと考えられる。しかし、この結果は、二重鎖安定性(Tm)の評価においてピリジル基がミスマッチ塩基対識別能を低減させたという結果とは一致しない。これは、ピリジル基によるかさ高さが、ミスマッチ塩基対を含む二重鎖の不安定化よりも、その二重鎖を形成した後のRNaseHの結合や切断の抑制に大きな影響を与える可能性を示唆している。
【0110】
実施例1~4では、芳香族環を持つピリジル基修飾されたグアニン(GPy)を導入することによるアンチセンス活性およびミスマッチ塩基対の識別能への影響に着目し、アンチセンス活性、二重鎖安定性およびRNaseH切断活性の評価をおこなった。また、比較としてミスマッチ塩基対の識別能が高まったと報告されている(Sasami, T.;佐々見武志、前掲)。カルバモイル基で修飾されたグアニン(Gcm)を導入したアンチセンス核酸および、Gを1塩基欠損したアンチセンス核酸(deletion)についても同様の評価をおこない、ピリジル基による修飾がアンチセンス核酸の特性に与える影響を結論づけた(表8)。
【0111】
【0112】
合成した各アンチセンス核酸の活性をリアルタイムPCRで評価した結果、GPyやGcmはdGやポジティブコントロールに匹敵するほど標的遺伝子human malat-1の発現を抑制した。したがって、ピリジル基およびカルバモイル基による修飾核酸はアンチセンス活性にほとんど影響を与えず、高い活性を維持できることが示唆された。この結果は、アンチセンス核酸の開発におけるピリジル基やカルバモイル基の有用性を示している。次に、二重鎖安定性の評価をおこなった結果、GPyはdGと比べてTmを1修飾あたり-4.5℃低下させることが明らかになった。また、GPyはミスマッチ塩基対を含む二重鎖を不安定化させたが、その不安定化の度合いはdGやGcmの方が大きかった。したがって、ピリジル基による修飾はミスマッチ塩基識別能を低下させることが明らかになった。これは先行研究(Inde, T.、前掲)とも一致しており、GPyがdGやGcmよりもミスマッチ塩基対の形成を安定化した要因として、ピリジル基が持つ芳香族環による相補鎖とのスタッキング相互作用が考えられる。最後に、RNaseHによる切断活性および切断位置選択性の評価をおこなった。GPyやGcmでは、dGと同等の切断活性を維持したまま、修飾塩基に近い箇所での切断を抑制しており、切断箇所の選択性が向上した。したがって、ピリジル基やカルバモイル基の導入はアンチセンス核酸の配列選択性を高めるために有効な方法であると期待される。また、ミスマッチ塩基対を含む二重鎖において、GPyが最も大きくRNaseH切断活性を低下させたことから、ピリジル基による修飾がミスマッチ塩基対識別能を向上させるといえる。したがって、ピリジル基によるかさ高さは、ミスマッチ塩基対を含む二重鎖の不安定化よりも、その二重鎖を形成した後RNaseHによる切断の阻害に大きな影響を与えている可能性が示唆された。
【0113】
実施例において使用した試薬及び装置等
(1)DNA自動合成機
ジーンデザイン社の自動オリゴヌクレオチド合成装置nS-II8を使用した。各天然型デオキシホスホロアミダイトユニット(dTホスホロアミダイト、dGibuホスホロアミダイト、dABzホスホロアミダイト)、合成に用いる固相担体、活性化剤、酸化剤、キャップA溶液(5%脱水酢酸・テトラヒドロフラン溶液)、キャップB溶液(10% 1-メチルイミダゾールテトラヒドロフラン・ピリジン溶液)、硫化剤はGlen Research社より購入した。5-Me-dCBzホスホロアミダイトはLink technologies社より購入した。また、各LNAホスホロアミダイトユニット(LNA-Tホスホロアミダイト、LNA-ABzホスホロアミダイト、LNA-Gdmfホスホロアミダイト、LNA-5-Me-CBzホスホロアミダイト)はHongene Biotech社より購入した。アセトニトリル(超脱水)およびデブロッキング溶液(3w/v%トリクロロ酢酸・ジクロロメタン溶液)、硫化剤を調製するための[(N、N-ジメチルアミノメチリデン)アミノ]-3H-1、2、4-ジチアゾリン-3-チオン(DDTT)は富士フイルム和光純薬株式会社より購入した。
【0114】
本研究において用いた各修飾ホスホロアミダイトユニット、各LNAホスホロアミダイトユニットは脱水ピリジン、脱水トルエン、脱水ジクロロメタンで十分に共沸操作を行なった後、脱水アセトニトリルに0.1Mまたは0.15Mになるよう溶解した。また、LNA-5-メチル-CBzは脱水アセトニトリル/脱水ジクロロメタン(1:1、v/v)に0.1Mになるよう溶解し、DNA自動合成機に適用した。活性化剤には0.25M 5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール・アセトニトリル溶液を用いた。硫化剤には0.05M Sulfurizing Reagent II・ピリジン/アセトニトリル溶液、または、アルゴンバックの中でDDTTを脱水ピリジン/脱水アセトニトリル(3:2、v/v)によく溶かした溶液を使用した。酸化剤には0.02Mヨウ素溶液(0.02Mヨウ素、テトラヒドロフラン/水/ピリジン中)を用いた。カップリング時間は各修飾核酸および各LNAホスホロアミダイトユニットでは12分で、天然型のDNAでは6分でおこない、全て2回ずつカップリング反応をおこなった。硫化時間は5分間を2回繰り返し、1塩基あたり合計10分ずつおこなった。さらに、全ての合成が終了した後に5分間の硫化を4回繰り返して合計20分間おこなった。合成したアンチセンス核酸は、28%アンモニア水を用いて55℃で12時間または16時間処理することで固相からの切り出しと塩基部の脱保護をおこなった。その後、遠心エバポレーターを用いてアンモニアを除去し、Sep-Pak(Waters)を用いて簡易精製をおこなった後に、逆相HPLCを用いて精製と純度の確認をおこなった。
【0115】
(2)DNA/RNAオリゴマー、LNAギャップマー
各DNA/RNAオリゴマーおよびLNAギャップマーはユーロフィンジェノミクス株式会社、IDT株式会社、ジーンデザイン社、北海道システム・サイエンス株式会社からそれぞれ購入した。以下の表に各オリゴの配列と購入先をまとめた。
NはLNAを示しており、Cは全て5-メチルシトシンを示している。また、dはDNAを示している。
【表9】
【0116】
(3)オリゴマーの吸光係数
Integrated DNA TechnologiesのOligoAnalyzer(https://sg.idtdna.com/analyzer/applications/oligoanalyzer/)にて計算した。また、修飾ヌクレオシドの吸光係数(260nm)は、未修飾のヌクレオシドと等しいと仮定した。
【0117】
(4)UV吸収スペクトル
Nano Drop ND-1000で測定した。
【0118】
(5)逆相カラムカートリッジによる精製
BIO-MINI UV MONITOR AC-5200 L(ATTO)とPharamaciaのLKB Pump P-1を接続して吸光度を測定した。それらにSep-Pak C18 Plus Cartridge(Waters)を接続し、オリゴマーの精製をおこなった。洗浄は10%アセトニトリル水溶液、溶出は20%アセトニトリル水溶液で行った。
【0119】
(6)逆相HPLCによる分析と分取精製
分析では、JASSO Photo Diode Aray Detector(MD4015)、Inert Pump(PU4080i)、Column Oven(CO4060、Interface Box(LCNETII/ADC)、Inert Autosampler(AS-4050i)を接続し、逆相カラムにはXBridge(商標)Sheild RP18(4.6×150mm)を用いた。カラム温度65℃において流速1ml/分、溶出溶媒として8mMトリエチルアミン、0.1M 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールの混合溶液にメタノールを加え濃度勾配をかけて流した。メタノールの比率として、0分min、5%から40分、45%または65%と線形に濃度勾配をかけ、流速1mL/分で分析をおこなった。
【0120】
分取では、JASSO UV/Vis Detector(UV4070)、Inert Pump(PU-2086)、Column Oven(CO4060)、Interface Box(LCNETII/ADC)を接続し、逆相カラムにはXBridge(商標)BEH Sheild C18(10×250mm)を用いた。カラム温度65℃において流速3ml/分、溶出溶媒として8mMトリエチルアミン、0.1M 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールの混合溶液にメタノールを加え濃度勾配をかけて流した。メタノールの比率として、0分、5%から40分または60分、45%と線形に濃度勾配をかけ、流速3mL/分で主生成物ピークを分取した。
【0121】
(7)細胞および培養液
ヒト子宮頸がん由来HeLa細胞(JCRB9004)はJCRB細胞バンクより購入した。培養液DMEMはナカライテスク株式会社、Opti-MEMはInvitrogenより購入した。DMEM培地(1.0g/Lグルコース)に、必要に応じて非動化したFBS(フナコシ株式会社)を10%(v/v)と、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を100ユニットおよび100μg/mLとなるように加えて使用した。
【0122】
(8)継代培養
細胞株の培養は5%CO2の存在下、37℃のインキュベーターでおこなった。培養には55cm2の組織培養用ディッシュ(IWAKI)または96ウェルプレート(IWAKI)またはIsoPlate-96TC(PerkinElmer)を用いた。Confluency60%に増やす場合はHela細胞の倍化時間を26時間と考え、confluency100%が細胞8.8×104cell/mlと仮定した。凍結保管していたHeLa細胞を37℃で8割方解凍し、そこから必要量の細胞をDMEM(10%FBS、P/S+)培地に懸濁し、組織培養用ディッシュまたは96穴プレートに捲種した必要な細胞数となるまで培養した。
本発明のアンチセンス分子及び該アンチセンス核酸は、その活性を維持しながら、オフターゲット効果を抑制することができるため、実用性の高いアンチセンス核酸医薬の開発に大きく貢献するものである。
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。